【解決手段】通勤用、観光用、イベント用その他の各種用途に応じて、客室2内における可搬物1を複数の固定位置に配置転換可能に形成された鉄道車両10である。可搬物には、客室の床面側に当該可搬物の位置を固定する上部固定機構3を備え、客室の床面21には、上部固定機構と連結可能に形成され、かつ可搬物の複数の固定位置に対応して配置された下部固定機構4を備えている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示されたシート変換機構100には、以下のような問題があった。すなわち、上記シート変換機構100は、車両の側面に基端部が回転可能に取り付けられ、先端部が前記脚台フレーム102に回転可能に取り付けられた第1のリンク105と、車両の側面に基端部が回転可能に取り付けられ、先端部が前記脚台フレーム102に回転可能に取り付けられた第2のリンク106と、前記脚台フレーム102と、車両側面107とから構成されるリンク機構108を介して、ロングシート位置とクロスシート位置の転換を行うものであるので、ロングシート位置及びクロスシート位置以外の位置への配置転換ができず、シート(腰掛)におけるレイアウトの自由度が少なかった。
【0006】
一方、観光用又はイベント用等に使用する客室内には、腰掛の他にテーブル等を持ち込むことがあるが、従来の通勤用の鉄道車両では、客室内における腰掛やテーブル等の可搬物を自由に配置できるレイアウトの自由度も少なく、可搬物の固定手段が必要であった。したがって、観光用又はイベント用等として専用の車両を用意するか、その都度必要な改造工事を行わざるを得なかった。
【0007】
本発明は、かかる問題を解決するためになされたものであり、通勤用、観光用、イベント用その他の各種用途に応じて、客室内における可搬物を簡単に配置転換できる鉄道車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明に係る鉄道車両は、以下の構成を備えている。
(1)通勤用、観光用、イベント用その他の各種用途に応じて、客室内における可搬物を複数の固定位置に配置転換可能に形成された鉄道車両であって、
前記可搬物には、客室の床面側に当該可搬物の位置を固定する上部固定機構を備え、前記客室の床面には、前記上部固定機構と連結可能に形成され、かつ前記可搬物の複数の固定位置に対応して配置された下部固定機構を備えていることを特徴とする。ここで、「可搬物」とは、腰掛、テーブル、台、物置棚、車いす固定具、2輪車固定具、その他の客室内に持ち込み可能な物を意味する。
【0009】
本発明においては、可搬物には、客室の床面側に当該可搬物の位置を固定する上部固定機構を備え、客室の床面には、上部固定機構と連結可能に形成され、かつ可搬物の複数の固定位置に対応して配置された下部固定機構を備えているので、通勤用、観光用、イベント用その他の各種用途に応じて、客室内における可搬物の固定位置を複数の位置に簡単に転換することができる。すなわち、上部固定機構と連結可能に形成された下部固定機構を、通勤用、観光用、イベント用その他の各種用途に応じて、客室の床面における複数の位置へ予め設置しておくことができる。そして、予め設置した下部固定機構の中から、用途に応じて配置する可搬物の上部固定機構に対応した下部固定機構を選択して、上部固定機構と下部固定機構とを互いに連結するだけでよい。また、上部固定機構は可搬物の床面側に備え、下部固定機構は客室の床面に備えているので、選択した下部固定機構に近接して上部固定機構を配置することによって、両者を簡単に連結することができる。さらに、下部固定機構は、客室の床面に備えているので、使用しないときには床面から突出させない等の処理も容易である。
【0010】
よって、本発明によれば、通勤用、観光用、イベント用その他の用途に応じて、客室内における可搬物を簡単に配置転換できる鉄道車両を提供することができる。
【0011】
(2)(1)に記載された鉄道車両において、
前記下部固定機構は、前記可搬物の複数の固定位置に対応して前記客室の床面を構成する床板に形成された位置固定孔に軸部が上下動可能に挿入された連結ピンであって、前記軸部の上端部には、前記連結ピンの下降位置にて前記床板と面一状に当接する上鍔部が形成され、前記軸部の下端部には、前記連結ピンの上昇位置にて前記上鍔部が前記床板より上方へ突出した状態で前記床板と当接する下鍔部が形成されていること、
前記上部固定機構は、上昇位置における前記連結ピンの前記上鍔部と前記床板との隙間に挿入され前記軸部を両側から挟み込む一対の挟持板を有することを特徴とする。
【0012】
本発明においては、下部固定機構は、可搬物の複数の固定位置に対応して客室の床面を構成する床板に形成された位置固定孔に軸部が上下動可能に挿入された連結ピンであって、軸部の上端部には、連結ピンの下降位置にて床板と面一状に当接する上鍔部が形成され、軸部の下端部には、連結ピンの上昇位置にて上鍔部が床板より上方へ突出した状態で床板と当接する下鍔部が形成され、また、上部固定機構は、上昇位置における連結ピンの上鍔部と床板との隙間に挿入され軸部を両側から挟み込む一対の挟持板を有するので、可搬物の固定位置に対応して客室の床板に形成された位置固定孔に挿入させた下部固定機構の連結ピンを上昇位置に移動させた状態で、上部固定機構の挟持板によって連結ピンの軸部を挟持して、上部固定機構と下部固定機構とを簡単に連結させることができる。
【0013】
また、挟持板によって連結ピンの軸部を挟持した状態では、連結ピンの下鍔部が床板と当接して連結ピンの上昇を規制し、連結ピンの上鍔部が挟持板の上昇を規制しているので、車両走行中に緊急ブレーキ等が作動して可搬物に慣性力が働いても、上部固定機構と下部固定機構との連結状態を、安定して保持させることができる。
【0014】
さらに、下部固定機構は、床板に形成された位置固定孔に軸部が上下動可能に挿入された連結ピンであって、軸部の上端部には、連結ピンの下降位置にて床板と面一状に当接する上鍔部が形成され、軸部の下端部には、連結ピンの上昇位置にて上鍔部が床板より上方へ突出した状態で床板と当接する下鍔部が形成されているので、連結ピンをコンパクトに形成することができる。そのため、通勤用、観光用、イベント用その他の各種用途に応じて、客室の床面における必要な位置へ下部固定機構をより一層簡単に設置できる。
【0015】
(3)(2)に記載された鉄道車両において、
前記連結ピンは、上端部と下端部に対向する磁極を有する磁石体であって、 前記床板には、前記連結ピンが磁気吸着する鋼板部材が敷設され、当該鋼板部材に前記位置固定孔が形成されていることを特徴とする。
【0016】
本発明においては、連結ピンは、上端部と下端部に対向する磁極を有する磁石体であって、床板には、連結ピンが磁気吸着する鋼板部材が敷設され、当該鋼板部材に位置固定孔が形成されているので、連結ピンを下部固定機構として使用する場合には、床板の鋼板部材に上鍔部が磁気吸着された連結ピンの上端部に引き上げ用磁石を接触させると、連結ピンの上鍔部の鋼板部材に対する磁気吸引力が消滅又は減少し、引き上げ用磁石と共に連結ピンを簡単に上昇位置まで持ち上げることができる。また、連結ピンの上昇位置では、連結ピンの下鍔部が鋼板部材に磁気吸着されるので、引き上げ用磁石を離間させても、連結ピンは上昇位置に保持される。そのため、連結ピンを上昇位置に持ち上げた状態で、上部固定機構の挟持板によって連結ピンの軸部を挟持して、上部固定機構と下部固定機構とを簡単に連結させることができる。
【0017】
また、連結ピンを下部固定機構として使用しない場合には、連結ピンの上鍔部が床板の鋼板部材と磁気吸着した状態を保持しているので、車両走行時における異音の発生を簡単に回避できる。また、連結ピンの上鍔部が床板の鋼板部材と磁気吸着して、鋼板部材に形成された位置固定孔を塞ぐことによって、車外からの埃等の侵入を規制できる。
【0018】
(4)(3)に記載された鉄道車両において、
前記可搬物の床面側には、当該可搬物の下端から出没可能に形成され、固定位置に配置された状態で前記鋼板部材と磁気吸着可能に形成された第2の磁石体を、前記上部固定機構とは異なる位置に備えていることを特徴とする。
【0019】
本発明においては、可搬物の床面側には、当該可搬物の下端から出没可能に形成され、固定位置に配置された状態で鋼板部材と磁気吸着可能に形成された第2の磁石体を、上部固定機構とは異なる位置に備えているので、上部固定機構と下部固定機構との連結状態において、第2の磁石体が床板の鋼板部材と磁気吸着することによって、可搬物のガタつきやビビリ音を抑制させることができる。
【0020】
(5)(1)乃至(4)のいずれか1つに記載された鉄道車両において、
前記可搬物の床面側には、当該可搬物の下端から出没可能に形成されたキャスタを、前記上部固定機構とは異なる位置に備えていることを特徴とする。
【0021】
本発明においては、可搬物の床面側には、当該可搬物の下端から出没可能に形成されたキャスタを、上部固定機構とは異なる位置に備えているので、可搬物が重い場合にはキャスタを可搬物の下端から突出させて、簡単に可搬物の移動を行うことができる。また、キャスタは、可搬物の下端から出没可能に形成されているので、可搬物を固定位置に配置した状態では、キャスタを可搬物の下端に収納することができ、可搬物の自重による負荷をキャスタを介して床板に掛けなくて済む。
【0022】
(6)(1)に記載された鉄道車両において、
前記上部固定機構は、上下方向に延設され上下動可能に形成されたピン軸部と、当該ピン軸部の下端部に水平方向に対向して突出し前記ピン軸部とともに軸中心に回動可能に形成された一対の係止板と、を有する係止ピンであること、
前記下部固定機構は、前記可搬物の複数の固定位置に対応して前記客室の床面に形成されたピン挿通孔と、当該ピン挿通孔を開閉可能に形成された開閉蓋と、前記床面を構成する床板に固定され係止位置に回動した前記係止板と上下方向に対向し当該係止板の上方への移動を規制する固定金具と、を有すること、
前記係止ピンは、前記開閉蓋が開放位置に移動し、かつ前記係止板の突出方向が前記開閉蓋の開閉方向と直交する方向に回動した時、前記ピン挿通孔に挿通可能に形成されていることを特徴とする。
【0023】
本発明においては、上部固定機構は、上下方向に延設され上下動可能に形成されたピン軸部と、当該ピン軸部の下端部に水平方向に対向して突出しピン軸部とともに軸中心に回動可能に形成された一対の係止板と、を有する係止ピンであり、また、下部固定機構は、可搬物の複数の固定位置に対応して客室の床面に形成されたピン挿通孔と、当該ピン挿通孔を開閉可能に形成された開閉蓋と、床面を構成する床板に固定され係止位置に回動した係止板と対面し当該係止板の上方への移動を規制する固定金具と、を有する。また、係止ピンは、開閉蓋が開放位置に移動し、かつ係止板の突出方向が開閉蓋の開閉方向と直交する方向に回動した時、ピン挿通孔に挿通可能に形成されているので、下部固定機構の開閉蓋を開放位置に移動してから、上部固定機構の係止ピンにおけるピン軸部の下端部と係止板とを、係止板の突出方向が開閉蓋の開閉方向と直交する方向に回動した状態で、ピン挿通孔に挿通させた後、係止ピンのピン軸部を軸中心に、例えば90度回動させることによって、係止位置に回動した係止板を床板に固定された固定金具に対向させ係止板の上方への移動を規制することができる。そのため、上部固定機構と下部固定機構とを簡単に連結させることができる。
【0024】
また、係止位置に回動した係止板と固定金具とが上下方向に対向した状態では、床板に固定された固定金具が係止板と共に係止ピンの上方への移動を規制しているので、車両走行中に緊急ブレーキ等が作動して可搬物に慣性力が働いても、上部固定機構と下部固定機構との連結状態を、安定して保持させることができる。
【0025】
さらに、下部固定機構は、床板に形成されたピン挿通孔と、当該ピン挿通孔を開閉可能に形成された開閉蓋とを有するので、下部固定機構として使用しない場合には、ピン挿通孔を開閉蓋によって遮蔽することができる。したがって、通勤用、観光用、イベント用その他の各種用途に応じて、客室の床面における必要な位置へ下部固定機構を遮蔽しつつ設置できる。また、ピン挿通孔を開閉蓋によって遮蔽することによって、車外からの埃等の侵入を規制できる。
【0026】
(7)(6)に記載された鉄道車両において、
前記開閉蓋は、係止位置に回動した前記係止板と係合可能に形成され、前記固定金具は、前記開閉蓋の上方への変位を規制可能に形成されていることを特徴とする。
【0027】
本発明においては、開閉蓋は、係止位置に回動した係止板と係合可能に形成され、固定金具は、開閉蓋の上方への変位を規制可能に形成されているので、車両走行中に緊急ブレーキ等が作動して可搬物に慣性力が働いても、係止板と開閉蓋とが係合した状態を固定金具によってより確実に保持し、上部固定機構と下部固定機構との連結状態を、より一層安定して保持させることができる。
【0028】
(8)(6)又は(7)に記載された鉄道車両において、
前記床板には、磁気吸着可能な鋼板部材が敷設され、前記可搬物の床面側には、当該可搬物の下端から出没可能に形成され、固定位置に配置された状態で前記鋼板部材と磁気吸着可能に形成された第2の磁石体を、前記上部固定機構とは異なる位置に備えていることを特徴とする。
【0029】
本発明においては、床板には、磁気吸着可能な鋼板部材が敷設され、可搬物の床面側には、当該可搬物の下端から出没可能に形成され、固定位置に配置された状態で鋼板部材と磁気吸着可能に形成された第2の磁石体を、上部固定機構とは異なる位置に備えているので、上部固定機構と下部固定機構との連結状態において、第2の磁石体が床板の鋼板部材と磁気吸着することによって、可搬物のガタつきやビビリ音を抑制させることができる。
【0030】
(9)(6)乃至(8)のいずれか1つに記載された鉄道車両において、
前記可搬物の床面側には、当該可搬物の下端から出没可能に形成されたキャスタを、前記上部固定機構とは異なる位置に備えていることを特徴とする。
【0031】
本発明においては、可搬物の床面側には、当該可搬物の下端から出没可能に形成されたキャスタを、上部固定機構とは異なる位置に備えているので、可搬物が重い場合にはキャスタを可搬物の下端から突出させて、簡単に可搬物の移動を行うことができる。また、キャスタは、可搬物の下端から出没可能に形成されているので、可搬物を固定位置に配置した状態では、キャスタを可搬物の下端に収納することができ、可搬物の自重による負荷をキャスタを介して床板に掛けなくて済む。
【0032】
(10)(1)乃至(9)のいずれか1つに記載された鉄道車両において、
前記可搬物には、前記客室内での当該可搬物の位置を検出する位置センサと、隣接する他の可搬物との衝突を回避する衝突回避センサと、前記上部固定機構と前記下部固定機構との連結又は連結解除の動作を行う駆動装置と、前記客室内における前記可搬物の自走を行う自走装置と、前記位置センサと前記衝突回避センサと前記駆動装置と前記自走装置とにそれぞれ接続された第1通信手段とを備え、
前記鉄道車両には、前記第1通信手段と送受信可能に形成された第2通信手段と、前記可搬物の前記客室内における配置パターンと当該配置パターンから一つを選択して、配置転換の起動・停止の選択指令とを入力する入力装置と、当該入力装置から予め入力された前記配置パターンと前記選択指令とを記憶する記憶装置と、前記位置センサと前記衝突回避センサと前記記憶装置とからの各信号情報に基づいて、前記駆動装置と前記自走装置とを制御する制御情報を演算する演算装置と、前記演算装置が演算した制御情報を第2通信手段に出力する出力装置と、を有する制御装置を備え、
前記入力装置に前記選択指令を入力すると、前記演算装置が必要な制御情報を演算し、当該制御情報を前記出力装置と前記第2通信手段とを経由して前記第1通信手段に送信し、前記第1通信手段から必要な制御情報を受けた前記自走装置が前記可搬物を前記配置パターンに対応する固定位置に移動させた後、前記第1通信手段から必要な制御情報を受けた前記駆動装置が前記上部固定機構と前記下部固定機構とを作動させて、前記上部固定機構と前記下部固定機構とを連結又は連結解除させることを特徴とする。
【0033】
本発明においては、可搬物には、客室内での当該可搬物の位置を検出する位置センサと、隣接する他の可搬物との衝突を回避する衝突回避センサと、上部固定機構と下部固定機構との連結又は連結解除の動作を行う駆動装置と、客室内における可搬物の自走を行う自走装置と、位置センサと衝突回避センサと駆動装置と自走装置とにそれぞれ接続された第1通信手段とを備えている。また、鉄道車両には、第1通信手段と送受信可能に形成された第2通信手段と、可搬物の客室内における配置パターンと当該配置パターンから一つを選択して、配置転換の起動・停止の選択指令とを入力する入力装置と、当該入力装置から予め入力された可搬物の客室内における配置パターンと選択指令とを記憶する記憶装置と、位置センサと衝突回避センサと記憶装置とからの各信号情報に基づいて、駆動装置と自走装置とを制御する制御情報を演算する演算装置と、演算装置が演算した制御情報を第2通信手段に出力する出力装置とを有する制御装置を備えている。そして、入力装置に選択指令を入力すると、演算装置が必要な制御情報を演算し、当該制御情報を出力装置と第2通信手段とを経由して第1通信手段に送信し、第1通信手段から必要な制御情報を受けた自走装置が可搬物を選択した配置パターンに対応する固定位置に移動させた後、第1通信手段から必要な制御情報を受けた駆動装置が上部固定機構と下部固定機構とを作動させて上部固定機構と下部固定機構とを連結又は連結解除させるので、客室内における可搬物の配置パターンに応じて、可搬物の移動及び上部固定機構と下部固定機構との連結動作又は連結解除動作を自動的に行うことができる。そのため、可搬物の移動、上部固定機構と下部固定機構との連結又は連結解除に伴う省人化が可能となり、頻繁な配置転換も容易となる。例えば、同じ客室において、朝の時間帯では通勤用の配置パターンにした通勤車両として利用し、昼の時間帯ではイートインコーナの配置パターンにした食堂車両として利用し、さらに夕方の時間帯では再度通勤用の配置パターンにした通勤車両として利用することもできる。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、通勤用、観光用、イベント用その他の各種用途に応じて、客室内における可搬物を簡単に配置転換できる鉄道車両を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0036】
次に、本実施形態に係る鉄道車両について、図面を参照しながら詳細に説明する。具体的には、本実施形態に係る鉄道車両の腰掛(可搬物)の配置例を簡単に説明した上で、本鉄道車両における腰掛(可搬物)の固定機構及びその補助機構を説明する。また、本鉄道車両において、腰掛(可搬物)の配置転換を自動化する場合の自動化制御機構を説明する。
【0037】
<本鉄道車両の腰掛(可搬物の例)の配置例>
まず、本実施形態に係る鉄道車両の腰掛(可搬物の例)の配置例について、
図1〜
図5を用いて説明する。
図1に、本発明の実施形態に係る鉄道車両において、腰掛(可搬物)を窓際でロングシート状態に配置した例の概略斜視図を示す。
図2に、
図1に示す腰掛を客室内方に配置転換し、窓際に長テーブルを配置した例の概略斜視図を示す。
図3に、
図2に示す腰掛をさらに中央寄りに配置し、窓寄りに通路を確保した例の概略斜視図を示す。
図4に、
図1に示す腰掛をクロスシート状態に配置した例の概略斜視図を示す。
図5に、
図1に示すロングシート状態の腰掛のレール方向前後にクロスシート状態の腰掛を追加配置し、かつ各腰掛の中央部にお立ち台を追加配置した例の概略斜視図を示す。
【0038】
図1〜
図5に示すように、本実施形態に係る鉄道車両10(10A、10B、10C、10D、10E)は、通勤用、観光用、イベント用その他の各種用途に応じて、客室2内における可搬物1を複数の固定位置に配置転換可能に形成された鉄道車両である。可搬物1には、腰掛、テーブル、台、物置棚、車いす固定具、2輪車固定具、その他の客室内に持ち込み可能な物が該当する。
【0039】
例えば、
図1に示す鉄道車両10Aでは、腰掛1a(可搬物1)を客室2内において窓際でロングシート状態に配置することができる。この配置パターンは、客室2内に収容できる乗車定員が最大となり、駅停車時の乗降時間も短縮できるので、混雑することを想定した通勤用途に最適な形態である。なお、配置した腰掛(可搬物)1aの床面への固定構造は、後述する。
【0040】
本鉄道車両10では、
図1に示す鉄道車両10Aの配置パターンを基本の形態とするが、例えば、
図2〜
図5に示すような各種の派生の形態に配置転換することができる。すなわち、
図2に示す鉄道車両10Bのように、腰掛1bを客室内方に配置転換し、客室中央に通路を設けると共に、窓際に長テーブル1bbを配置しても良い。この配置パターンでは、乗客は、窓際の長テーブル1bbに向けて着座できるので、窓からの景色をゆっくり観賞したり、長テーブル1bbに飲食物を置いてイートイン等を楽しむことができる。したがって、本鉄道車両10Bの配置パターンは、観光用途又は喫食用途等に適している。
【0041】
また、
図3に示す鉄道車両10Cのように、腰掛1cを客室中央側へ寄せて、客室中央で背ずり同士を当接又は近接させてロングシート状態に配置し、窓寄りに通路を確保しても良い。この配置パターンでは、窓寄りの通路から直接展望を楽しむことができ、車窓の展望を重視した派生形態と言える。なお、車窓からの展望に飽きたときには、客室中央の腰掛1cでゆっくり休憩することもできる。したがって、本鉄道車両10Cの配置パターンは、景色の良い観光地をめぐる観光用途等に適している。
【0042】
また、
図4に示す鉄道車両10Dのように、腰掛1dを2人掛け又は3人掛けとしてクロスシート状態に配置し、客室中央に通路を確保しても良い。この配置パターンでは、腰掛1dを対面配置として小グループでの会話を楽しむことができ、会話を重視した派生形態と言える。なお、会話しながら、車窓からの展望も楽しむこともできる。したがって、本鉄道車両10Dの配置パターンは、小グループで観光地をめぐる旅行用途等に適している。
【0043】
また、
図5に示す鉄道車両10Eのように、窓際に配置したロングシート状態の腰掛1aのレール方向前後にクロスシート状態の腰掛1eを追加配置し、かつ各腰掛1a、1eの中央部にお立ち台1eeを追加配置しても良い。この配置パターンは、多くの参加者が見込める各種イベントや団体旅行を行うときの派生形態と言える。なお、必要な飲食テーブル等を配置しても良い。したがって、本鉄道車両10Eの配置パターンは、各種イベント用途又は団体旅行用途等に適している。
【0044】
以上、説明したように、本実施形態に係る鉄道車両10(10A、10B、10C、10D、10E)は、通勤用、観光用、イベント用その他の各種用途に応じて、客室2内における可搬物1を複数の固定位置に配置転換することができるが、
図1〜
図5に示した例以外にも配置転換できることは言うまでもない。
【0045】
<可搬物の固定機構及びその補助機構>
次に、本実施形態に係る鉄道車両における可搬物(例えば、腰掛)の固定機構(上部固定機構と下部固定機構)及びその補助機構について、
図6〜
図10を用いて説明する。
図6に、
図1〜
図5に示す腰掛の固定構造を表す模式的断面図を示す。
図6(A)に、腰掛の連結固定状態の断面図を示し、
図6(B)に、腰掛の連結解除状態の断面図を示す。
図7に、
図6に示す下部固定機構の第1実施例の断面図を示す。
図7(A)に、連結ピンが下降位置にある状態の断面図を示し、
図7(B)に、連結ピンが上昇位置にある状態の断面図を示し、
図7(C)に、連結ピンの平面図を示す。
図8に、
図6に示す上部固定機構の第1実施例の断面図を示す。
図8(A)に、挟持板の開き位置にある状態の断面図を示し、
図8(B)に、挟持板の閉じ位置にある状態の断面図を示す。
図9に、
図7に示す下部固定機構の第1実施例と
図8に示す上部固定機構の第1実施例の連結、連結解除を表す断面図を示す。
図9(A)に、連結解除状態の断面図を示し、
図9(B)に、連結状態の断面図を示す。
図10に、
図6に示す上部固定機構と下部固定機構の第2実施例の断面図を示す。
図10(A)に、係止ピンが上昇位置にある状態の断面図を示し、
図10(B)に、係止ピンがピン挿通孔に挿通された状態の断面図を示し、
図10(C)に、係止ピンの係止板が開閉蓋と係合した状態の断面図を示す。
【0046】
本実施形態に係る鉄道車両10(10A、10B、10C、10D、10E)において、
図6に示すように、腰掛(可搬物)1には、客室2の床面21側に当該腰掛(可搬物)1の位置を固定する上部固定機構3を備え、客室2の床面21には、上部固定機構3と連結可能に形成され、かつ腰掛(可搬物)1の複数の固定位置に対応して配置された下部固定機構4を備えている。なお、上部固定機構3と下部固定機構4の具体例は、
図7〜
図10に示す第1実施例と第2実施例において説明する。
【0047】
また、客室2の床面21を構成する床板22には、磁気吸着可能な鋼板部材22Kが敷設され、腰掛(可搬物)1の床面側には、当該腰掛(可搬物)1の下端11から出没可能に形成され、固定位置に配置された状態で鋼板部材22Kと磁気吸着可能に形成された第2の磁石体5を、上部固定機構3とは異なる位置に備えていることが好ましい。この場合には、
図6(A)に示すように、上部固定機構3と下部固定機構4との連結状態において、第2の磁石体5が床板22の鋼板部材22Kと磁気吸着することによって、腰掛(可搬物)1のガタつきやビビリ音を抑制させることができる。第2の磁石体5は、固定機構(上部固定機構3と下部固定機構4)の補助機構として機能する。
【0048】
なお、第2の磁石体5は、外部に表出する磁気を入り切り又は増減できるものであれば、電磁石から成るものでも、永久磁石から成るものでも良い。例えば、電磁石の場合には、コイル電流を切ることによって、簡単に可搬物1を移動させることもできる。また、永久磁石の場合には、ケース内に磁石片を上下動可能に装着し、磁石片を上昇させて外部から表出する磁気を減少させることによって、簡単に可搬物1を移動させることができる。
【0049】
また、腰掛(可搬物)1の床面側には、当該腰掛(可搬物)1の下端11から出没可能に形成されたキャスタ6を、上部固定機構3とは異なる位置に備えていることが好ましい。この場合には、
図6(B)に示すように、腰掛(可搬物)1が重い場合にも、キャスタ6を腰掛(可搬物)1の下端11から突出させて、簡単に腰掛(可搬物)1の移動を行うことができる。また、キャスタ6は、腰掛(可搬物)1の下端11から出没可能に形成されているので、
図6(A)に示すように、腰掛(可搬物)1を固定位置に配置した状態では、キャスタ6を腰掛(可搬物)1の下端11に収納することができ、腰掛(可搬物)1の自重による負荷をキャスタ6を介して床板22に掛けなくて済む。キャスタ6は、腰掛(可搬物)1の搬送用の補助機構として機能する。ここでは、腰掛(可搬物)1には、上部固定機構3と第2の磁石体5とキャスタ6と連結され、それらの各動作を操作する操作レバー34が装着されている。
【0050】
次に、上部固定機構3と下部固定機構4における第1実施例について説明する。すなわち、
図7に示すように、第1実施例に係る下部固定機構4は、腰掛(可搬物)1の複数の固定位置に対応して客室2の床板22に形成された位置固定孔221に軸部41が上下動可能に挿入された連結ピン4Pであって、軸部41の上端部42には、連結ピン4Pの下降位置(
図7(A)を参照)にて床板22と面一状に当接する上鍔部42Hが形成されている。また、軸部41の下端部43には、連結ピン4Pの上昇位置(
図7(B)を参照)にて上鍔部42Hが床板22より上方へ突出した状態で床板22と当接する下鍔部43Hが形成されている。ここでは、連結ピン4Pの軸部41は、上下方向に起立する円柱形状に形成され、上鍔部42Hと下鍔部43Hは、軸部41より外径が大きい円環状鍔部として形成されている(
図7(C)を参照)。なお、客室2の床面21には、床板22を支持する床詰め物23を備え、床詰め物23は、下降位置の連結ピン4Pを収容可能に形成されている。
【0051】
また、
図8、
図9に示すように、第1実施例に係る上部固定機構3は、上昇位置における連結ピン4Pの上鍔部42Hと床板22との隙間に挿入され軸部41を両側から挟み込む一対の挟持板3K(31K、32K)を有する。挟持板3K(31K、32K)は、一端が軸ピン33Kを中心に水平方向へ回動可能に形成され、閉じ合わせ側の長辺が軸部41の外周に沿って半円弧形状に形成された略矩形の板状体である。一対の挟持板3K(31K、32K)は、解放位置(
図8(A)を参照)では、連結ピン4Pの上鍔部42Hが干渉しない位置まで開き、閉塞位置(
図8(B)を参照)では、連結ピン4Pの軸部41と当接する位置まで閉じる。
【0052】
そして、
図9に示すように、腰掛(可搬物)1の固定位置に対応して客室2の床板22に形成された位置固定孔221に挿入させた下部固定機構4の連結ピン4Pを上昇位置に移動させた状態で、上部固定機構3の挟持板3Kによって連結ピン4Pの軸部41を挟持して、上部固定機構3と下部固定機構4とを連結させる。ここで、
図9(B)に示すように、挟持板3Kによって連結ピン4Pの軸部41を挟持した状態では、連結ピン4Pの下鍔部43Hが床板22と当接して連結ピン4Pの上昇を規制し、連結ピン4Pの上鍔部42Hが挟持板3Kの上昇を規制している。その結果、本鉄道車両10において、車両走行中に緊急ブレーキ等が作動して腰掛(可搬物)1に慣性力が働いても、上部固定機構3と下部固定機構4との連結状態を、安定して保持させることができる。
【0053】
また、
図9(A)に示すように、下部固定機構4は、床板22に形成された位置固定孔221に軸部41が上下動可能に挿入された連結ピン4Pであって、軸部41の上端部42には、連結ピン4Pの下降位置にて床板22と面一状に当接する上鍔部42Hが形成されている。また、軸部41の下端部43には、連結ピン4Pの上昇位置にて上鍔部42Hが床板22より上方へ突出した状態で床板22と当接する下鍔部43Hが形成されている。その結果、連結ピン4Pを円環状の鍔部を有するボビン状に形成して、コンパクトに形成することができる。そのため、通勤用、観光用、イベント用その他の各種用途に応じて、客室2の床面21における必要な位置へ下部固定機構4をより一層簡単に設置できる。
【0054】
なお、
図7、
図9に示すように、連結ピン4Pは、上端部42と下端部43に対向する磁極(N極、S極)を有する磁石体4PJであって、床板22には、連結ピン4Pが磁気吸着する鋼板部材22Kが敷設され、当該鋼板部材22Kに位置固定孔221が形成されていることが好ましい。磁石体4PJは、例えば、硬質磁性材料で形成された永久磁石から成り、連結ピン4Pの上端部42は、N極に磁化され、下端部43は、S極に磁化されている。また、鋼板部材22Kの上面には、クッション用床材22Sが積層され、クッション用床材22Sと上鍔部42Hとの間で、上鍔部42Hの外縁に沿ってリング状枠体22Rが固定されている。リング状枠体22Rの厚さは、クッション用床材22S及び上鍔部42Hと略同一に形成されている。なお、鋼板部材22Kは、磁気が残留する硬質磁性材料でも、磁気が残留しない軟質磁性材料でも良い。
【0055】
また、腰掛(可搬物)1には、連結ピン4Pの軸部41の上端部42と当接する位置に、上下動可能な引き上げ用磁石体43Jを備えていることが好ましい。引き上げ用磁石体43Jは、例えば、上記永久磁石から成り、上下方向に対向する磁極が形成され、その下端部431は、連結ピン4Pの上端部42の磁極(N極)と反対磁極(S極)に磁化されている。
【0056】
この場合、連結ピン4Pを下部固定機構4として使用するときは、腰掛(可搬物)1の固定位置において、引き上げ用磁石体43Jを下降させて、床板22の鋼板部材22Kに上鍔部42Hが磁気吸着された連結ピン4Pの上端部42に、引き上げ用磁石体43Jの下端部431を接触させる。引き上げ用磁石体43Jの下端部431が連結ピン4Pの上端部42に接触すると、連結ピン4Pの上鍔部42Hの鋼板部材22Kに対する磁気吸引力が消滅又は減少するので、引き上げ用磁石体43Jと共に連結ピン4Pを簡単に上昇位置まで持ち上げることができる。また、連結ピン4Pの上昇位置では、連結ピン4Pの下鍔部43Hが鋼板部材22Kに磁気吸着されるので、引き上げ用磁石体43Jを離間させても、連結ピン4Pは上昇位置に保持される。そのため、連結ピン4Pを上昇位置に持ち上げた状態で、上部固定機構3の挟持板3Kによって連結ピン4Pの軸部41を挟持して、上部固定機構3と下部固定機構4とを簡単に連結させることができる。
【0057】
次に、第2実施例に係る上部固定機構3Bと下部固定機構4Bについて説明する。すなわち、
図10に示すように、第2実施例に係る上部固定機構3Bは、上下方向に延設され上下動可能に形成されたピン軸部33と、当該ピン軸部33の下端部331に水平方向に対向して突出しピン軸部33とともに軸中心に回動可能に形成された一対の係止板332と、を有する係止ピン3Pである。係止板332は、ピン軸部33に対して左右対称に突出している。例えば、係止ピン3Pに連結された操作レバー34を、腰掛(可搬物)1に設けられたZ状の案内溝35に沿って作動させることによって、係止ピン3Pを上下動、又は回動させることができる。
【0058】
また、第2実施例に係る下部固定機構4Bは、腰掛(可搬物)1の複数の固定位置に対応して客室2の床面21に形成されたピン挿通孔4Sと、当該ピン挿通孔4Sを開閉可能に形成された開閉蓋4Kと、床面21を構成する床板22に固定され係止位置に回動した係止板332と対面し当該係止板332の上方への移動を規制する固定金具4Gと、を有する。ここでは、ピン挿通孔4Sは、固定金具4Gに形成されている。また、開閉蓋4Kは、床板22と平行に開閉する一対の開閉板41K、42Kを備えている。開閉蓋4Kの開閉板41K、42Kは、図示しないバネ部材によって、常に閉じ方向へ付勢されている。なお、床板22には、第1実施例と同様に、鋼板部材22Kが敷設され、鋼板部材22Kの上面には、クッション用床材22Sが積層されている。また、客室2の床面21には、床板22を支持する床詰め物23を備えている。また、係止ピン3Pの下端部331にカム面を形成し、また、開閉蓋4Kの開閉板41K、42Kにカム当接面を形成しても良い。その場合、係止ピン3Pの下降動作に連動して、カム面とカム当接面とを当接させ、開閉蓋4Kを開放位置に移動させることもできる。
【0059】
また、係止ピン3Pは、開閉蓋4Kが開放位置に移動し、かつ係止板332の突出方向が開閉蓋4Kの開閉方向と直交する方向に回動した時、ピン挿通孔4Sに挿通可能に形成されている。したがって、下部固定機構4Bの開閉蓋4Kを開放位置に移動してから、上部固定機構3Bの係止ピン3Pにおけるピン軸部33の下端部331と係止板332とを、係止板332の突出方向が開閉蓋4Kの開閉方向と直交する方向に回動した状態で、ピン挿通孔4Sに挿通させた後、係止ピン3Pのピン軸部33を軸中心に、例えば90度回動させることによって、係止位置に回動した係止板332を床板22に固定された固定金具4Gに対向させ係止板332の上方への移動を規制することができる。そのため、上部固定機構3Bと下部固定機構4Bとを簡単に連結させることができる。
【0060】
また、係止位置に回動した係止板332と固定金具4Gとが上下方向に対向した状態では、床板22に固定された固定金具4Gが係止板332と共に係止ピン3Pの上方への移動を規制しているので、車両走行中に緊急ブレーキ等が作動して腰掛(可搬物)1に慣性力が働いても、上部固定機構3Bと下部固定機構4Bとの連結状態を、安定して保持させることができる。
【0061】
さらに、下部固定機構4Bは、床板22に形成されたピン挿通孔4Sと、当該ピン挿通孔4Sを開閉可能に形成された開閉蓋4Kとを有するので、下部固定機構4Bとして使用しない場合には、ピン挿通孔4Sを開閉蓋4Kによって遮蔽させることができる。したがって、通勤用、観光用、イベント用その他の各種用途に応じて、客室2の床面21における必要な位置へ下部固定機構4Bをより簡単に設置できる。また、ピン挿通孔4Sを開閉蓋4Kによって遮蔽することによって、車外からの埃等の侵入を規制できる。
【0062】
また、
図10に示すように、開閉蓋4Kは、係止位置に回動した係止板332と係合可能に形成され、固定金具4Gは、開閉蓋4Kの上方への変位を規制可能に形成されている。そのため、車両走行中に緊急ブレーキ等が作動して腰掛(可搬物)1に慣性力が働いても、係止板332と開閉蓋4Kとが係合した状態を固定金具4Gによってより確実に保持せることができる。ここでは、固定金具4Gは、クッション用床材22Sの上面と床詰め物23の下面とを上下方向から挟持する略H型断面構造に形成されている。なお、開閉蓋4Kは、固定金具4Gの上方に配置され、固定金具4Gが係止位置に回動した係止板332と係合可能に形成されても良い。
【0063】
<自動化制御機構>
次に、本実施形態に係る鉄道車両10において、上述した腰掛(可搬物)1の配置転換を手動で行うことも可能であるが、自動化する場合における自動化制御機構9を、
図11を用いて説明する。
図11に、
図6に示す腰掛(可搬物)の配置転換を自動化する自動化制御機構のブロック図を示す。
【0064】
図11に示すように、自動化制御機構9の一方の構成要素として、腰掛(可搬物)1には、客室2内での当該腰掛(可搬物)1の位置を検出する位置センサ71と、隣接する他の可搬物との衝突を回避する衝突回避センサ72と、上部固定機構3、3Bと下部固定機構4、4Bの連結又は連結解除の動作を行う駆動装置73と、客室2内における腰掛(可搬物)1の自走を行う自走装置74と、位置センサ71と衝突回避センサ72と駆動装置73と自走装置74とにそれぞれ接続された第1通信手段75とを備えている。
【0065】
なお、位置センサ71は、例えば、腰掛(可搬物)1の客室2内における相対位置を検出可能な光センサ、又は、腰掛(可搬物)1の絶対位置を検出可能なGPS(Global Positioning System)受信機等が該当する。また、衝突回避センサ72は、腰掛(可搬物)1の外縁部に設置した光センサ又は超音波センサ等が該当する。また、腰掛(可搬物)1に引き上げ用磁石43Jや第2の磁石体5、キャスタ6を備えている場合には、駆動装置73が引き上げ用磁石43や固定用電磁石体5、キャスタ6を作動させる。また、自走装置74は、走行方向を変更可能な自走車輪を備え、当該自走車輪を作動させる。
【0066】
また、自動化制御機構9の他方の構成要素として、本鉄道車両10には、第1通信手段75と送受信可能に形成された第2通信手段85と、腰掛(可搬物)1の客室2内における配置パターンと当該配置パターンから一つを選択して、配置転換の起動・停止の選択指令とを入力する入力装置81と、当該入力装置81から予め入力された腰掛(可搬物)1の客室2内における配置パターンと選択指令とを記憶する記憶装置82と、位置センサ71と衝突回避センサ72と記憶装置82とからの各信号情報に基づいて、駆動装置73と自走装置74とを制御する制御情報を演算する演算装置83と、演算装置83が演算した制御情報を第2通信手段85に出力する出力装置84とを有する制御装置8を備えている。
【0067】
なお、腰掛(可搬物)1の客室2内における配置パターンには、例えば、
図1〜
図5に示す鉄道車両10(10A、10B、10C、10D、10E)における腰掛1a、1b、1c、1d、1e、テーブル1bb、お立ち台1ee等の客室2内における配置パターンが該当する。各配置パターンに関する位置信号情報が記憶装置82に記憶されている。
【0068】
そして、入力装置81に配置パターンの選択指令を入力すると、演算装置83が必要な制御情報を演算し、当該制御情報を出力装置84から第2通信手段85に出力する。また、第2通信手段85に出力した制御情報は、第2通信手段85から第1通信手段75に送信し、第1通信手段75から必要な制御情報を受けた自走装置74が腰掛(可搬物)1を選択された配置パターンに対応する固定位置に移動させた後、第1通信手段75から必要な制御情報を受けた駆動装置73が上部固定機構3、3Bと下部固定機構4、4B等を作動させて上部固定機構3、3Bと下部固定機構4、4B等とを連結又は連結解除させる。
【0069】
したがって、本自動化制御機構9によれば、客室2内における腰掛(可搬物)1の配置パターンに応じて、腰掛(可搬物)1の移動及び連結動作又は連結解除動作を自動的に行うことができる。その結果、腰掛(可搬物)1の移動、連結又は連結解除に伴う省人化が可能となり、頻繁な配置転換も容易となる。例えば、同じ客室2において、朝の時間帯では通勤用の配置パターン(
図1を参照)にした通勤車両として利用し、昼の時間帯ではイートインコーナの配置パターン(
図2を参照)にした食堂車両として利用し、さらに夕方の時間帯では再度通勤用の配置パターン(
図1を参照)にした通勤車両として利用することもできる。
【0070】
<作用効果>
以上、詳細に説明した本実施形態に係る鉄道車両10(10A、10B、10C、10D、10E)によれば、可搬物(腰掛、テーブル、台、物置棚、車いす固定具、2輪車固定具、その他の客室内に持ち込み可能な物)1には、客室2の床面21側に当該可搬物1の位置を固定する上部固定機構3、3Bを備え、客室2の床面21には、上部固定機構3、3Bと連結可能に形成され、かつ可搬物1の複数の固定位置に対応して配置された下部固定機構4、4Bを備えているので、通勤用、観光用、イベント用その他の各種用途に応じて、客室2内における可搬物1の固定位置を複数の位置に簡単に転換することができる。すなわち、上部固定機構3、3Bと連結可能に形成された下部固定機構4、4Bを、通勤用、観光用、イベント用その他の各種用途に応じて、客室2の床面21における複数の位置へ予め設置しておくことができる。そして、予め設置した下部固定機構4、4Bの中から、用途に応じて配置する可搬物1の上部固定機構3、3Bに対応した下部固定機構4、4Bを選択して、上部固定機構3、3Bと下部固定機構4、4Bとを互いに連結するだけでよい。また、上部固定機構3、3Bは可搬物(腰掛等)1の床面21側に備え、下部固定機構4、4Bは客室2の床面21に備えているので、選択した下部固定機構4、4Bに近接して上部固定機構3、3Bを配置することによって、両者を簡単に連結することができる。さらに、下部固定機構4、4Bは、客室2の床面21に備えているので、使用しないときには床面21から突出させない等の処理も容易である。
【0071】
よって、本実施形態によれば、通勤用、観光用、イベント用その他の用途に応じて、客室2内における可搬物1を簡単に配置転換できる鉄道車両10(10A、10B、10C、10D、10E)を提供することができる。
【0072】
また、本実施形態によれば、下部固定機構4は、可搬物1の複数の固定位置に対応して客室2の床面21を構成する床板22に形成された位置固定孔221に軸部41が上下動可能に挿入された連結ピン4Pであって、軸部41の上端部42には、連結ピン4Pの下降位置にて床板22と面一状に当接する上鍔部42Hが形成され、軸部41の下端部43には、連結ピン4Pの上昇位置にて上鍔部42Hが床板22より上方へ突出した状態で床板22と当接する下鍔部43Hが形成され、また、上部固定機構3は、上昇位置における連結ピン4Pの上鍔部42Hと床板22との隙間に挿入され軸部41を両側から挟み込む一対の挟持板3K(31K、32K)を有するので、可搬物1の固定位置に対応して客室2の床板22に形成された位置固定孔221に挿入させた下部固定機構4の連結ピン4Pを上昇位置に移動させた状態で、上部固定機構3の挟持板3Kによって連結ピン4Pの軸部41を挟持して、上部固定機構3と下部固定機構4とを簡単に連結させることができる。
【0073】
また、挟持板3Kによって連結ピン4Pの軸部41を挟持した状態では、連結ピン4Pの下鍔部43Hが床板22と当接して連結ピン4Pの上昇を規制し、連結ピン4Pの上鍔部42が挟持板3Kの上昇を規制しているので、車両走行中に緊急ブレーキ等が作動して可搬物1に慣性力が働いても、上部固定機構3と下部固定機構4との連結状態を、安定して保持させることができる。
【0074】
さらに、下部固定機構4は、床板22に形成された位置固定孔221に軸部41が上下動可能に挿入された連結ピン4Pであって、軸部41の上端部42には、連結ピン4Pの下降位置にて床板22と面一状に当接する上鍔部42Hが形成され、軸部41の下端部43には、連結ピン4Pの上昇位置にて上鍔部42Hが床板22より上方へ突出した状態で床板22と当接する下鍔部43Hが形成されているので、連結ピン4Pをコンパクトに形成することができる。そのため、通勤用、観光用、イベント用その他の各種用途に応じて、客室2の床面21における必要な位置へ下部固定機構4をより一層簡単に設置できる。
【0075】
また、本実施形態によれば、連結ピン4Pは、上端部42と下端部43に対向する磁極(N、S)を有する磁石体4PJであって、床板22には、連結ピン4Pが磁気吸着する鋼板部材22Kが敷設され、当該鋼板部材22Kに位置固定孔221が形成されているので、連結ピン4P(4PJ)を下部固定機構4として使用する場合には、床板22の鋼板部材22Kに上鍔部42Hが磁気吸着された連結ピン4P(4PJ)の上端部42に引き上げ用磁石体43Jを接触させると、連結ピン4P(4PJ)の上鍔部42の鋼板部材22Kに対する磁気吸引力が消滅又は減少し、引き上げ用磁石体43Jと共に連結ピン4P(4PJ)を簡単に上昇位置まで持ち上げることができる。また、連結ピン4P(4PJ)の上昇位置では、連結ピン4P(4PJ)の下鍔部43Hが鋼板部材22Kに磁気吸着されるので、引き上げ用磁石体43Jを離間させても、連結ピン4P(4PJ)は上昇位置に保持される。そのため、連結ピン4P(4PJ)を上昇位置に持ち上げた状態で、上部固定機構3の挟持板3Kによって連結ピン4P(4PJ)の軸部41を挟持して、上部固定機構3と下部固定機構4とを簡単に連結させることができる。
【0076】
また、連結ピン4P(4PJ)を下部固定機構4として使用しない場合には、連結ピン4P(4PJ)の上鍔部42Hが床板22の鋼板部材22Kと磁気吸着した状態を保持しているので、車両走行時における異音の発生を簡単に回避できる。また、連結ピン4P(4PJ)の上鍔部42Hが床板22の鋼板部材22Kと磁気吸着して、鋼板部材22Kに形成された位置固定孔221を塞ぐことによって、車外からの埃等の侵入を規制できる。
【0077】
また、本実施形態によれば、可搬物1の床面側には、当該可搬物1の下端11から出没可能に形成され、固定位置に配置された状態で鋼板部材22Kと磁気吸着する第2の磁石体5を、上部固定機構3とは異なる位置に備えているので、上部固定機構3と下部固定機構4との連結状態において、第2の磁石体5が床板22の鋼板部材22Kと磁気吸着することによって、可搬物1のガタつきやビビリ音を抑制させることができる。
【0078】
また、本実施形態によれば、可搬物1の床面側には、当該可搬物1の下端11から出没可能に形成されたキャスタ6を、上部固定機構3とは異なる位置に備えているので、可搬物1が重い場合にはキャスタ6を可搬物1の下端11から突出させて、簡単に可搬物1の移動を行うことができる。また、キャスタ6は、可搬物1の下端11から出没可能に形成されているので、可搬物1を固定位置に配置した状態では、キャスタ6を可搬物1の下端11に収納することができ、可搬物1の自重による負荷を床板22に掛けなくて済む。
【0079】
また、本実施形態によれば、上部固定機構3Bは、上下方向に延設され上下動可能に形成されたピン軸部33と、当該ピン軸部33の下端部331に水平方向に対向して突出しピン軸部33とともに軸中心に回動可能に形成された一対の係止板332と、を有する係止ピン3Pであり、また、下部固定機構4Bは、可搬物1の複数の固定位置に対応して客室2の床面21に形成されたピン挿通孔4Sと、当該ピン挿通孔4Sを開閉可能に形成された開閉蓋4Kと、床面21を構成する床板22に固定され係止位置に回動した係止板332と対面し当該係止板332の上方への移動を規制する固定金具4Gと、を有する。また、係止ピン3Pは、開閉蓋4Kが開放位置に移動し、かつ係止板332の突出方向が開閉蓋4Kの開閉方向と直交する方向に回動した時、ピン挿通孔4Sに挿通可能に形成されているので、下部固定機構4Bの開閉蓋4Kを開放位置に移動してから、上部固定機構3Bの係止ピン3Pにおけるピン軸部33の下端部331と係止板332とを、係止板332の突出方向が開閉蓋4Kの開閉方向と直交する方向に回動した状態で、ピン挿通孔4Sに挿通させた後、係止ピン3Pのピン軸部33を軸中心に、例えば90度回動させることによって、係止位置に回動した係止板332を床板22に固定された固定金具4Gに対向させ係止板332の上方への移動を規制することができる。そのため、上部固定機構3Bと下部固定機構4Bとを簡単に連結させることができる。
【0080】
また、係止位置に回動した係止板332と固定金具4Gとが上下方向に対向した状態では、床板22に固定された固定金具4Gが係止板332と共に係止ピン3Pの上方への移動を規制しているので、車両走行中に緊急ブレーキ等が作動して可搬物1に慣性力が働いても、上部固定機構3Bと下部固定機構4Bとの連結状態を、安定して保持させることができる。
【0081】
さらに、下部固定機構4Bは、床板22に形成されたピン挿通孔4Sと、当該ピン挿通孔4Sを開閉可能に形成された開閉蓋4Kとを有するので、下部固定機構4Bとして使用しない場合には、ピン挿通孔4Sを開閉蓋4Kによって遮蔽することができる。したがって、通勤用、観光用、イベント用その他の各種用途に応じて、客室2の床面21における必要な位置へ下部固定機構4Bのピン挿通孔4Sを遮蔽しつつ設置できる。また、ピン挿通孔4Sを開閉蓋4Kによって遮蔽することによって、車外からの埃等の侵入を規制できる。
【0082】
また、本実施形態によれば、下部固定機構4Bには、床板22に固定され開閉蓋4Kの上方への変位を規制する固定金具4Gを有し、当該固定金具4Gにピン挿通孔4Sが形成されているので、車両走行中に緊急ブレーキ等が作動して可搬物1に慣性力が働いても、係止ピン3Pの係止板332と開閉蓋4Kとが係合した状態を固定金具4Gによってより確実に保持し、上部固定機構3Bと下部固定機構4Bとの連結状態を、より一層安定して保持させることができる。
【0083】
また、本実施形態によれば、床板22には、磁気吸着可能な鋼板部材22Kが敷設され、可搬物1の床面側には、当該可搬物1の下端11から出没可能に形成され、固定位置に配置された状態で鋼板部材22Kと磁気吸着可能に形成された第2の磁石体5を、上部固定機構3Bとは異なる位置に備えているので、上部固定機構3Bと下部固定機構4Bとの連結状態において、第2の磁石体5が床板22の鋼板部材22Kと磁気吸着することによって、可搬物1のガタつきやビビリ音を抑制させることができる。
【0084】
また、本実施形態によれば、可搬物1の床面側には、当該可搬物1の下端11から出没可能に形成されたキャスタ6を、上部固定機構3Bとは異なる位置に備えているので、可搬物1が重い場合にはキャスタ6を可搬物1の下端11から突出させて、簡単に可搬物1の移動を行うことができる。また、キャスタ6は、可搬物1の下端11から出没可能に形成されているので、可搬物1を固定位置に配置した状態では、キャスタ6を可搬物1の下端11に収納することができ、可搬物1の自重による負荷をキャスタ6を介して床板22に掛けなくて済む。
【0085】
また、本実施形態によれば、可搬物1には、客室2内での当該可搬物1の位置を検出する位置センサ71と、隣接する他の可搬物1との衝突を回避する衝突回避センサ72と、上部固定機構3、3Bの連結又は連結解除の動作を行う駆動装置73と、客室2内における可搬物1の自走を行う自走装置74と、位置センサ71と衝突回避センサ72と駆動装置73と自走装置74とにそれぞれ接続された第1通信手段75とを備えている。また、鉄道車両10には、第1通信手段75と送受信可能に形成された第2通信手段85と、可搬物1の客室2内における配置パターンと当該配置パターンから一つを選択して、配置転換の起動・停止の選択指令とを入力する入力装置81と、当該入力装置81から予め入力された可搬物1の客室2内における配置パターンと選択指令とを記憶する記憶装置82と、位置センサ71と衝突回避センサ72と記憶装置82とからの各信号情報に基づいて、駆動装置73と自走装置74とを制御する制御情報を演算する演算装置83と、演算装置83が演算した制御情報を第2通信手段85に出力する出力装置84と、を有する制御装置8を備えている。
【0086】
そして、入力装置81に選択指令を入力すると、演算装置83が必要な制御情報を演算し、当該制御情報を出力装置84と第2通信手段85とを経由して第1通信手段75に送信し、第1通信手段75から必要な制御情報を受けた自走装置74が可搬物1を選択した配置パターンに対応する固定位置に移動させた後、第1通信手段75から必要な制御情報を受けた駆動装置73が上部固定機構3、3Bを作動させて上部固定機構3、3Bと下部固定機構4、4Bとを連結又は連結解除させるので、客室2内における可搬物1の配置パターンに応じて、可搬物1の移動及び上部固定機構3、3Bと下部固定機構4、4Bとの連結動作又は連結解除動作を自動的に行うことができる。そのため、可搬物1の移動、連結又は連結解除に伴う省人化が可能となり、頻繁な配置転換も容易となる。例えば、同じ客室2において、朝の時間帯では通勤用の配置パターンにした通勤車両として利用し、昼の時間帯ではイートインコーナの配置パターンにした食堂車両として利用し、さらに夕方の時間帯では再度通勤用の配置パターンにした通勤車両として利用することもできる。
【0087】
<変形例>
以上、本実施形態に係る鉄道車両10を詳細に説明したが、本発明はこれに限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能である。例えば、本実施形態では、可搬物1の一例として腰掛を用いて、腰掛(可搬物)1には、客室2の床面21側に当該腰掛(可搬物)1の位置を固定する上部固定機構3を備え、客室2の床面21には、上部固定機構3と連結可能に形成され、かつ腰掛(可搬物)1の複数の固定位置に対応して配置された下部固定機構4を備えていることを説明した。しかし、必ずしも、可搬物1は腰掛に限る必要はなく、例えば、テーブル、台、物置棚、車いす固定具、2輪車固定具、その他の客室内に持ち込み可能な物でも良い。