【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記の問題を解決すべく、本発明は、純度が高い異種特異性抗体およびその製造方法を提供する。
【0011】
一例は、抗体の第1CH3ドメインおよび第2CH3ドメインを含む二量体において、前記第1CH3ドメインと第2CH3ドメインとの間のアミノ酸−アミノ酸結合を形成するアミノ酸対の中から選択された1つ以上のアミノ酸対が、次の1つ以上の変異によって変異された変異CH3ドメインまたは前記変異CH3ドメインを含む変異Fc領域を含む二量体を提供する:
(1)CH3ドメイン間の1つ以上のアミノ酸対のうちいずれか1つのアミノ酸は正電荷を有するアミノ酸に置換され、他の1つのアミノ酸は負電荷を有するアミノ酸に置換された変異;
(2)CH3ドメイン間の1つ以上のアミノ酸対のアミノ酸が互いに交換された変異;および
(3)CH3ドメイン間の1つ以上のアミノ酸対のうちいずれか1つのアミノ酸は大きさの大きい疎水性アミノ酸に置換され、他の1つのアミノ酸は大きさの小さい疎水性アミノ酸に置換された変異。
【0012】
前記第1CH3ドメインと第2CH3ドメインは、互いに同一または異なる種類の抗体(免疫グロブリン)に由来するものであってもよい。
【0013】
他の例は、前記変異CH3ドメインまたはこれを含む変異Fc領域を暗号化する核酸分子、前記核酸分子を含む組換えベクター、および前記組換えベクターを含む組換え細胞を提供する。
【0014】
本明細書に使用されたものであって、「1つ以上のアミノ酸対のうちいずれか1つのアミノ酸..他の1つのアミノ酸..」は、1つ以上のアミノ酸対のそれぞれのアミノ酸対をなす2つのアミノ酸のうちいずれか1つと他の1つのアミノ酸を指し示すために使用される(以下、同一である)。
【0015】
他の例は、第1CH3ドメインまたはこれを含む第1Fc領域、および第2CH3ドメインまたはこれを含む第2Fc領域を含み、
前記第1CH3ドメインと第2CH3ドメインとの間のアミノ酸−アミノ酸結合を形成するアミノ酸対の中から選択された1つ以上のアミノ酸対が、次の1つ以上の変異によって変異された変異CH3ドメインまたは前記変異CH3ドメインを含む変異Fc領域を含む、互いに異なる2種の標的を標的化する二重特異性タンパク質を提供する:
(1)CH3ドメイン間の1つ以上のアミノ酸対のそれぞれのアミノ酸対をなす2つのアミノ酸のうちいずれか1つのアミノ酸は正電荷を有するアミノ酸に置換され、他の1つのアミノ酸は負電荷を有するアミノ酸に置換された変異;
(2)CH3ドメイン間の1つ以上のアミノ酸対のそれぞれのアミノ酸対をなす2つのアミノ酸が互いに交換された変異;および
(3)CH3ドメイン間の1つ以上のアミノ酸対のそれぞれのアミノ酸対をなす2つのアミノ酸のうちいずれか1つのアミノ酸は大きさの大きいアミノ酸に置換され、他の1つのアミノ酸は大きさの小さいアミノ酸に置換された変異。
【0016】
前記段階(1)の互いに異なる電荷を有するアミノ酸に置換されるアミノ酸対は、疎水性相互作用をするアミノ酸対および/または疎水性相互作用をしないアミノ酸対であってもよいし、一例において、アミノ酸対をなす2つのアミノ酸のうち少なくとも1つ以上が、疎水性アミノ酸でないアミノ酸(例えば、親水性アミノ酸)であってもよい。前記段階(1)の互いに異なる電荷を有するアミノ酸に置換させる段階により静電的相互作用が導入され、Fc領域間の異種二量体形成率を増進させるのに寄与できる。
【0017】
本明細書に使用されたものであって、異種二量体(heterodimer)は、互いに異なる2つのタンパク質が結合したことを意味するもので、例えば、互いに異なる標的を標的化する2つのタンパク質が結合して形成された二重特異性タンパク質(例えば、二重特異性抗体)などを意味することができる。
【0018】
前記段階(2)のアミノ酸交換(スワッピング)は、Fc領域またはCH3ドメインでアミノ酸−アミノ酸結合を形成するすべてのアミノ酸対で行われ、例えば、静電的相互作用、疎水性相互作用、およびアミノ酸の大きさの差による相互作用以外の相互作用によって結合したすべてのアミノ酸対の中から選択された1つ以上のアミノ酸対であってもよい。このように互いに相互作用(例えば、結合)するそれぞれのアミノ酸対をなす2つのアミノ酸残基(つまり、相互作用するアミノ酸対において、第1CH3ドメイン中の1つのアミノ酸残基および第2CH3ドメイン中の1つのアミノ酸残基)を互いに交換すると、同種由来のCH3ドメイン間に(つまり、第1CH3ドメイン間、または第2CH3ドメイン間)は、前記アミノ酸相互作用するパートナー位置に同一のアミノ酸が存在するので、これらの間の結合を困難にすることによって、同種間の二量体形成率を低くし、異種二量体形成率を増進させるのに寄与できる(例えば、S364とK370アミノ酸対の場合、第1CH3ドメインにS364K変異、第2CH3ドメインにK370S変異が導入された場合、第1CH3では残基364と370がすべてリシン(K)であり、第2CH3ドメインでは残基364と370がすべてセリン(S)であることから、同一CH3ドメイン間には相互作用が起こり得ないので同種二量体は形成されず、異種CH3ドメイン間にのみ相互作用が起こるので異種二量体のみ形成される)。
【0019】
前記段階(3)の大きさが相異なるアミノ酸に置換する段階は、大きさの大きいアミノ酸と大きさの小さいアミノ酸との間の構造的交換適合性を増進させることによって(つまり、大きさの大きいアミノ酸が大きさの小さいアミノ酸によって生成された余分な空間に挟まれることによって結合効率が増加する)、異種二量体形成率を増進させるのに寄与できる。特に、互いに相互作用するアミノ酸対の一方のアミノ酸は大きさの大きい疎水性アミノ酸に、残りの一方のアミノ酸は大きさの小さい疎水性アミノ酸に突然変異化することによって、大きさの大きいアミノ酸同士または大きさの小さいアミノ酸同士の結合がよく行われないようにして同種二量体形成率を最小化させる一方(両側chainに大きさの大きいアミノ酸が存在する場合、アミノ酸の大きさのために2つのchain間の距離が遠くなって二量体形成(dimerization)が妨げられ、両側chainともに大きさの小さいアミノ酸が存在すると、2つのアミノ酸間の距離が遠くなって相互作用確率が低くなり、相互作用自体が困難になる)、一方のCH3ドメインまたはFcの大きさの大きい疎水性アミノ酸と他方のCH3ドメインまたはFcの大きさの小さい疎水性アミノ酸は、突然変異前と比較して近い距離で疎水性相互作用を行えるため、異種二量体が形成されやすい条件になる。したがって、前記大きさの相異なるアミノ酸に置換する段階において、置換される大きさの大きいアミノ酸および大きさの小さいアミノ酸はいずれも、疎水性アミノ酸の中から選択されたものであってもよい。例えば、前記大きさの大きいアミノ酸は、疎水性アミノ酸であるトリプトファンおよびフェニルアラニンからなる群より選択された1種以上であってもよい。また、前記大きさの小さいアミノ酸は、疎水性アミノ酸であるアラニン、グリシン、およびバリンからなる群より選択された1種以上であってもよい。
【0020】
前記変異Fc領域または変異CH3ドメインを含む二重特異性タンパク質は、互いに異なる2種の標的を標的化(例えば、特異的に認識および/または結合)するすべての形態のタンパク質の中から選択される。標的化のために、前記変異Fc領域または変異CH3ドメインを含む二重特異性タンパク質は、互いに異なる2種の標的を標的化(特異な認識および/または結合)可能な標的化ドメイン(例えば、第1標的を標的化する第1標的化ドメインおよび第2標的を標的化する第2標的化ドメイン)を含むことができ、前記それぞれの標的化ドメインはそれぞれ、変異Fc領域または変異CH3ドメインに共有的または非共有的に直接または間接(例えば、リンカーなどを介して)連結(融合)されたものであってもよい。例えば、前記変異Fc領域または変異CH3ドメインを含む二重特異性タンパク質は、互いに異なる2種の標的を同時に標的化する、二重特異性抗体、二重特異性抗体の抗原結合断片(例えば、(scFv−Fc)2など)、二重特異性抗体類似体(例えば、ナノボディ(nanobody)、ペプチボディ(peptibody)、ペプチド(peptide)、アプチド(aptide)など)、標的特異的結合ポリペプチドと変異Fc領域または変異CH3ドメインの融合タンパク質などからなる群より選択された1種以上であってもよい。
【0021】
前記標的特異的結合ポリペプチドは、標的生体物質(生体に存在するタンパク質、核酸などを含むすべての化合物)に特異的に結合するすべてのポリペプチドの中から選択され、例えば、抗原結合部位(例えば、重鎖および/または軽鎖のCDRまたは可変領域)、scFv(sing chain Fv)、膜タンパク質(例えば、各種受容体など)、膜タンパク質のエクトドメイン(ectodomain)、リガンド(例えば、各種成長因子、サイトカインなど)などからなる群より選択された1種以上のポリペプチドであってもよい。一例において、前記標的特異的結合ポリペプチドと変異Fc領域または変異CH3ドメインの融合タンパク質は、膜タンパク質と変異Fc領域または変異CH3ドメインの融合タンパク質、膜タンパク質のエクトドメインと変異Fc領域または変異CH3ドメインの融合タンパク質、リガンドと変異Fc領域または変異CH3ドメインの融合タンパク質、scFvと変異Fc領域または変異CH3ドメインの融合タンパク質などからなる群より選択された1種以上であってもよい。
【0022】
前記変異Fc領域または変異CH3ドメインを含む二重特異性タンパク質が抗体、抗体の抗原結合断片、または抗体類似体の場合、前記標的化ドメインは、抗原結合部位(例えば、重鎖および/または軽鎖のCDRまたは可変領域)であってもよく、先に説明した融合タンパク質の場合、前記標的特異的結合ポリペプチドは、膜タンパク質(例えば、各種受容体)、膜タンパク質のエクトドメイン、リガンド(例えば、各種成長因子、サイトカインなど)、抗原結合部位(例えば、重鎖および/または軽鎖のCDRまたは可変領域)などからなる群より選択された1種以上であってもよい。
【0023】
前記互いに異なる2種の標的は、互いに異なる2種の生体物質(例えば、タンパク質)または同一の生体物質(例えば、タンパク質)内の互いに異なる領域を意味することができる。前記変異Fc領域または変異CH3ドメインを含む二重特異性タンパク質は、非変異(野生型)Fc領域またはCH3ドメインを含む場合と比較して、増加した異種二量体(heterodimer)形成率、減少した同種二量体(homodimer)形成率、および/または安定性を有することを特徴とする。
【0024】
他の例は、第1エピトープを認識する抗体の重鎖由来の第1CH1ドメインおよび軽鎖由来の第1CL(軽鎖不変領域)ドメイン、および第2エピトープを認識する抗体由来の第2CH1ドメインおよび軽鎖由来の第2CLドメインを含み、次の変異の1つ以上を含む変異CH1ドメインおよび変異CLドメインを含む二重特異性抗体またはその抗原結合断片を提供する:
第1CH1ドメインおよび第1CLドメイン間のアミノ酸−アミノ酸結合を形成するアミノ酸対の中から選択された1つ以上の第1アミノ酸対のそれぞれのアミノ酸対をなす2つのアミノ酸のうちいずれか1つのアミノ酸は正電荷を有するアミノ酸に置換され、他の1つのアミノ酸は、負電荷を有するアミノ酸に置換;および
第2CH1ドメインおよび第2CLドメイン間のアミノ酸−アミノ酸結合を形成するアミノ酸対の中から選択された1つ以上の第2アミノ酸対のそれぞれのアミノ酸対をなす2つのアミノ酸のうちいずれか1つのアミノ酸は正電荷を有するアミノ酸に置換され、他の1つのアミノ酸は負電荷を有するアミノ酸に置換。
【0025】
前記第1エピトープと第2エピトープは、互いに異なるタンパク質(抗原)であるか、同一のタンパク質(抗原)の互いに異なる(互いに区分される)部位に存在するものであってもよい。
【0026】
一例において、前記二重特異性抗体またはその抗原結合断片は、前記第1CH1ドメインと第2CH1ドメインは、互いに異なる電荷を有するアミノ酸に置換され、前記第1CLドメインは、前記第1CH1ドメインと相異なる電荷を有するアミノ酸に置換され、前記第2CLドメインは、前記第2CH1ドメインと相異なる電荷を有するアミノ酸に置換されたものであってもよい。
【0027】
例えば、前記二重特異性抗体またはその抗原結合断片は、
第1CH1ドメインおよび第1CLドメイン間のアミノ酸−アミノ酸結合を形成するアミノ酸対の中から選択された1つ以上の第1アミノ酸対のうち第1CH1ドメインに位置するアミノ酸は正電荷を有するアミノ酸に置換され、
前記第1アミノ酸対のうち第1CLドメインに位置するアミノ酸は、前記第1CH1ドメインに置換されたアミノ酸と相異なる電荷を有する、つまり、負電荷を有するアミノ酸に置換され、
第2CH1ドメインおよび第2CLドメイン間のアミノ酸−アミノ酸結合を形成するアミノ酸対の中から選択された1つ以上の第2アミノ酸対のうち第2CH1ドメインに位置するアミノ酸は、前記第1CH1ドメインに置換されたアミノ酸と相異なる電荷を有する、つまり、負電荷を有するアミノ酸に置換され、
前記第2アミノ酸対のうち第2CLドメインに位置するアミノ酸は、前記第2CH1ドメインに置換されたアミノ酸と相異なる電荷を有する、つまり、正電荷を有するアミノ酸に置換されたものであってもよい。
【0028】
前記変異CH1ドメインおよび変異CLドメインを含む二重特異性抗体またはその抗原結合断片において、前記置換される第1アミノ酸対と第2アミノ酸対は、互いに同一または異なっていてもよいし、前記第1アミノ酸対と第2アミノ酸対に置換される正電荷を有するアミノ酸と負電荷を有するアミノ酸は、互いに同一または異なっていてもよい。前記変異CH1ドメインおよび変異CLドメインを含む二重特異性抗体の抗原結合断片は、例えば、F(ab’)2断片であってもよい。前記変異CH1ドメインおよび変異CLドメインを含む二重特異性抗体またはその抗原結合断片は、非変異(野生型)CH1ドメインおよびCLドメインを含む場合と比較して、増加した同一のエピトープを標的化する重鎖(または重鎖可変領域−CH1)−軽鎖間の二量体形成率および/または安定性を有することを特徴とする。
【0029】
前記変異CH1ドメインおよび変異CLドメインを含む二重特異性抗体は、CH3ドメインまたはFc領域であって、第1エピトープを認識する抗体由来の第1CH3ドメインと第2エピトープを認識する抗体由来の第2CH3ドメインが、次の1つ以上の変異によって変異された、変異CH3ドメインまたは前記変異CH3ドメインを含む変異Fc領域を含むものであってもよい:
(1)CH3ドメイン間の1つ以上のアミノ酸対のうちいずれか1つのアミノ酸は正電荷を有するアミノ酸に置換され、他の1つのアミノ酸は負電荷を有するアミノ酸に置換された変異;
(2)CH3ドメイン間の1つ以上のアミノ酸対のアミノ酸が互いに交換された変異;および
(3)CH3ドメイン間の1つ以上のアミノ酸対のうちいずれか1つのアミノ酸は大きさの大きいアミノ酸(例えば、トリプトファン、フェニルアラニンなどといった大きさの大きい疎水性アミノ酸)に置換され、他の1つのアミノ酸は大きさの小さいアミノ酸(例えば、アラニン、グリシン、バリンなどといった大きさの小さい疎水性アミノ酸)に置換された変異。
【0030】
前記変異CH1ドメイン、変異CLドメイン、および変異Fc領域または変異CH3ドメインを含む二重特異性タンパク質または二重特異性抗体は、非変異CH1ドメイン、CLドメイン、およびFc領域またはCH3ドメインを含む二重特異性タンパク質または抗体と比較して、増加した異種二量体(heterodimer)形成率、増加した同一のエピトープを標的化する重鎖(または重鎖可変領域−CH1)−軽鎖間の二量体形成率、および/または安定性を有するものであってもよい。
【0031】
他の例は、次の1つ以上の段階を含み、第1CH3ドメインと第2CH3ドメインとの間のアミノ酸−アミノ酸結合を形成するアミノ酸対の中から選択された1つ以上のアミノ酸対に、次の1つ以上の変異を導入させる段階を含む、変異CH3ドメインまたは前記変異CH3ドメインを含む変異Fc領域を含む、互いに異なる標的を標的化する二重特異性タンパク質の製造方法または互いに異なる標的を標的化する二重特異性タンパク質の異種二量体形成を増加させる方法を提供する:
(1)第1CH3ドメインと第2CH3ドメインとの間のアミノ酸−アミノ酸結合を形成するアミノ酸対の中から選択された1つ以上のアミノ酸対のそれぞれのアミノ酸対をなす2つのアミノ酸のうちいずれか1つのアミノ酸は正電荷を有するアミノ酸に、他の1つのアミノ酸は負電荷を有するアミノ酸に置換;
(2)第1CH3ドメインと第2CH3ドメインとの間のアミノ酸−アミノ酸結合を形成するアミノ酸対の中から選択された1つ以上のアミノ酸対のそれぞれのアミノ酸対をなす2つのアミノ酸を互いに交換;および
(3)第1CH3ドメインと第2CH3ドメインとの間のアミノ酸−アミノ酸結合を形成するアミノ酸対の中から選択された1つ以上のアミノ酸対のそれぞれのアミノ酸対をなす2つのアミノ酸のうちいずれか1つのアミノ酸は大きさの大きいアミノ酸(例えば、トリプトファン、フェニルアラニンなどといった大きさの大きい疎水性アミノ酸)に、他の1つのアミノ酸は大きさの小さいアミノ酸(例えば、アラニン、グリシン、バリンなどといった大きさの大きい疎水性アミノ酸)に置換。
【0032】
他の例は、次のCH1ドメインおよびCLドメインの変異段階を含む、二重特異性抗体またはその抗原結合断片の製造方法または同一のエピトープを標的化する重鎖(または重鎖可変領域−CH1)−軽鎖間の二量体形成率を増加させる方法を提供する:
第1エピトープを認識する抗体の重鎖由来の第1CH1ドメインおよび第1CLドメイン間のアミノ酸−アミノ酸結合を形成するアミノ酸対の中から選択された1つ以上の第1アミノ酸対のそれぞれのアミノ酸対をなす2つのアミノ酸のうちいずれか1つのアミノ酸は正電荷を有するアミノ酸に置換され、他の1つのアミノ酸は負電荷を有するアミノ酸に置換;および
第2エピトープを認識する抗体の重鎖由来の第2CH1ドメインおよび第2CLドメイン間のアミノ酸−アミノ酸結合を形成するアミノ酸対の中から選択された1つ以上の第2アミノ酸対のそれぞれのアミノ酸対をなす2つのアミノ酸のうちいずれか1つのアミノ酸は正電荷を有するアミノ酸に置換され、他の1つのアミノ酸は負電荷を有するアミノ酸に置換。
【0033】
前記二重特異性抗体またはその抗原結合断片の製造方法または同一のエピトープを標的化する重鎖(または重鎖可変領域−CH1)−軽鎖間の二量体形成を増加させる方法は、前記CH1ドメインおよびCLドメインの変異段階に加えて、次の1つ以上のCH3ドメインの変異段階を追加的に含んでもよい:
(1)第1エピトープを認識する抗体の重鎖由来の第1CH3ドメインと第2エピトープを認識する抗体の重鎖由来の第2CH3ドメインとの間のアミノ酸−アミノ酸結合を形成するアミノ酸対の中から選択された1つ以上のアミノ酸対のそれぞれのアミノ酸対をなす2つのアミノ酸のうちいずれか1つのアミノ酸は正電荷を有するアミノ酸に、他の1つのアミノ酸は負電荷を有するアミノ酸に置換;
(2)第1CH3ドメインと第2CH3ドメインとの間のアミノ酸−アミノ酸結合を形成するアミノ酸対の中から選択された1つ以上のアミノ酸対のそれぞれのアミノ酸対をなす2つのアミノ酸を互いに交換;および
(3)第1CH3ドメインと第2CH3ドメインとの間のアミノ酸−アミノ酸結合を形成するアミノ酸対の中から選択された1つ以上のアミノ酸対のそれぞれのアミノ酸対をなす2つのアミノ酸のうちいずれか1つのアミノ酸は大きさの大きいアミノ酸(例えば、トリプトファン、フェニルアラニンなどといった大きさの大きい疎水性アミノ酸)に、他の1つのアミノ酸は大きさの小さいアミノ酸(例えば、アラニン、グリシン、バリンなどといった大きさの小さい疎水性アミノ酸)に置換。
【0034】
他の例は、次の1つ以上の段階を含み、第1CH3ドメインと第2CH3ドメインとの間のアミノ酸−アミノ酸結合を形成するアミノ酸対の中から選択された1つ以上のアミノ酸対に、次の1つ以上の変異を導入させる段階を含む、二重特異性抗体またはその抗原結合断片の製造方法または互いに異なる標的を標的化する二重特異性抗体または抗原結合断片の異種二量体形成を増加させる方法を提供する:
(1)第1エピトープを認識する重鎖由来の第1CH3ドメインと第2エピトープを認識する重鎖由来の第2CH3ドメインとの間のアミノ酸−アミノ酸結合を形成するアミノ酸対の中から選択された1つ以上のアミノ酸対のうちいずれか1つのアミノ酸は正電荷を有するアミノ酸に、他の1つのアミノ酸は負電荷を有するアミノ酸に置換;
(2)第1CH3ドメインと第2CH3ドメインとの間のアミノ酸−アミノ酸結合を形成するアミノ酸対の中から選択された1つ以上のアミノ酸対のアミノ酸を互いに交換;および
(3)第1CH3ドメインと第2CH3ドメインとの間のアミノ酸−アミノ酸結合を形成するアミノ酸対の中から選択された1つ以上のアミノ酸対のうちいずれか1つのアミノ酸は大きさの大きいアミノ酸(例えば、トリプトファン、フェニルアラニンなどといった大きさの大きい疎水性アミノ酸)に、他の1つのアミノ酸は大きさの小さいアミノ酸(例えば、アラニン、グリシン、バリンなどといった大きさの小さい疎水性アミノ酸)に置換。
【0035】
前記二重特異性抗体または抗原結合断片の製造方法は、次のCH1ドメインおよびCLドメインの変異段階を追加的に含んでもよい:
第1エピトープを認識する抗体の重鎖由来の第1CH1ドメインおよび第1CLドメイン間のアミノ酸−アミノ酸結合を形成するアミノ酸対の中から選択された1つ以上の第1アミノ酸対のうちいずれか1つのアミノ酸は正電荷を有するアミノ酸に置換され、他の1つのアミノ酸は負電荷を有するアミノ酸に置換;および
第2エピトープを認識する抗体の重鎖由来の第2CH1ドメインおよび第2CLドメイン間のアミノ酸−アミノ酸結合を形成するアミノ酸対の中から選択された1つ以上の第2アミノ酸対のうちいずれか1つのアミノ酸は正電荷を有するアミノ酸に置換され、他の1つのアミノ酸は負電荷を有するアミノ酸に置換。
【0036】
前記二重特異性抗体またはその抗原結合断片の製造方法は、互いに異なるエピトープを認識する抗体由来のCH3ドメインまたはFc領域間の異種二量体(heterodimer)形成を増加させ、同時に、同一のエピトープを認識する抗体由来のCH1ドメイン(重鎖)とCLドメイン(軽鎖)との間の二量体形成を増加させることができる。
【課題を解決するための手段】
【0037】
以下、本発明をより詳細に説明する。
【0038】
本発明は、抗体のFc保存(不変)領域および/またはFab保存(不変)領域を含む相異なる標的を標的化する二重特異性タンパク質またはその製造方法において、
互いに異なる標的化ドメインと連結(融合)されたFc保存領域(CH3ドメイン)にアミノ酸変異を導入させることによって、互いに異なる標的化ドメインと連結されたFc保存領域間の結合率を高めて異種二量体形成率を増加させ、同一の標的化ドメインと連結されたFc間に結合した同種二量体形成率を減少させたり;および/または
互いに異なる標的化ドメインと連結されたFab保存領域にアミノ酸変異を導入させることによって、同一の標的化ドメインと連結されたFab保存領域間の結合力を高めて同一の標的化ドメインおよびこれと連結されたFab保存領域間の二量体形成率を増加させ、
互いに異なる標的化ドメインを有する二重特異性タンパク質の生成率を増進させる技術を提供する。
【0039】
本明細書に記載の抗体(重鎖および軽鎖)、CH1ドメイン、CLドメイン、Fc領域、およびCH3ドメインにおけるアミノ酸位置はすべて、Euナンバリングシステム[「Kabat et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th Ed.Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,MD.(1991)」]に記載のEU−インデックス]によりナンバリングされて表記され、配列リスト内の配列の位置を示す数字とは異なる。
【0040】
前記抗体は、全種類の哺乳類または鳥類に由来する全種類の免疫グロブリン(immunoglobulin)の中から選択された1種以上であってもよい。例えば、本明細書で使用された抗体は、IgG(例えば、IgGタイプ1(IgG1)、IgGタイプ2(IgG2)、IgGタイプ3(IgG3)、およびIgGタイプ4(IgG4))、IgA(例えば、IgAタイプ1(IgA1)およびIgAタイプ2(IgA2))、IgD、IgE、およびIgMからなる群より選択された1種以上であってもよい。前記抗体は、ヒト、サルなどを含む霊長類、マウス、ラットなどを含む齧歯類などのような哺乳類由来の免疫グロブリン、例えば、ヒト由来の免疫グロブリンであってもよい。一例において、前記抗体は、ヒトIgG1(constant region;タンパク質:GenBank Accession No.AAC82527.1、遺伝子:GenBank Accession No.J00228.1)、ヒトIgG2(constant region;タンパク質:GenBank Accession No.AAB59393.1、遺伝子:GenBank Accession No.J00230.1)、ヒトIgG3(constant region;タンパク質:GenBank Accession No.P01860、遺伝子:GenBank Accession No.X03604.1)、ヒトIgG4(constant region;タンパク質:GenBank Accession No.AAB59394.1、遺伝子:GenBank Accession No.K01316.1)、ヒトIgA1(constant region;タンパク質:GenBank Accession No.AAT74070.1、遺伝子:GenBank Accession No.AY647978.1)、ヒトIgA2(constant region;タンパク質:GenBank Accession No.AAB59396.1、遺伝子:GenBank Accession No.J00221.1)、ヒトIgD(constant region;タンパク質:GenBank Accession No.AAA52771.1、AAA52770.1)、ヒトIgE(constant region;タンパク質:GenBank Accession No.AAB59395.1、遺伝子:GenBank Accession No.J00222.1)、およびヒトIgM(constant region;タンパク質:GenBank Accession No.CAB37838.1、遺伝子:GenBank Accession No.X57086.1)の中から選択された1種以上であってもよい。一例において、前記抗体は、例えば、ヒト由来の、IgG1、IgG2、IgG3、およびIgG4からなる群より選択された1種以上であってもよいが、これに制限されるわけではない。突然変異が導入される第1CH3ドメインと第2CH3ドメイン、第1CH1ドメインと第1CLドメイン、および第2CH1ドメインと第2CLドメインは、それぞれ独立して同一または異なる免疫グロブリンタイプから選択されたものであってもよい。
【0041】
ヒトIgG1重鎖不変領域(配列番号33)とヒトIgA1重鎖不変領域(配列番号34)の配列整列結果を示す
図33A、およびヒト免疫グロブリン軽鎖のカッパ不変領域(配列番号35)とラムダ不変領域(配列番号36)の配列整列結果を示す
図33Bに示されるように、重鎖不変領域および軽鎖不変領域のアミノ酸配列は、亜型間の保存度が非常に高い。
【0042】
また、免疫グロブリンは、それに由来する種(species)および亜型(subtype)間の配列保存度が非常に高い。例えば、ヒトとマウスとラットのIgG亜型間の重鎖不変領域の配列整列(sequence alignment)結果を示す
図33C(CH1ドメインの配列整列結果)および
図33D(CH3ドメインの配列整列結果)に示されるように、免疫グロブリンの重鎖不変領域のアミノ酸配列は、種間の保存度が非常に高い。
【0043】
したがって、本明細書で提供されるCH1ドメインおよびCH3ドメインのアミノ酸位置はヒトIgG1を基準として、CLドメインはヒトカッパ不変領域を基準として記載され、前記ヒトIgG1およびヒトカッパ不変領域を基準として記載されたアミノ酸位置は、通常の配列整列手段(例えば、https://blast.ncbi.nlm.nih.gov/Blast.cgi)により他の亜型の免疫グロブリンおよびヒト以外の種の免疫グロブリンにおける対応するアミノ酸位置が明確に分かる(表1参照)。
【0044】
また、本明細書で提供されるCH1ドメイン、CLドメイン、およびCH3ドメインのアミノ酸位置は、Euナンバリングシステムによって表現され、その詳細な事項は、「http://www.imgt.org/IMGTScientificChart/Numbering/Hu_IGHGnber.html(重鎖不変領域)」、「http://www.imgt.org/IMGTScientificChart/Numbering/Hu_IGLCnber.html(軽鎖ラムダ領域)」および「http://www.imgt.org/IMGTScientificChart/Numbering/Hu_IGKCnber.html(軽鎖カッパ領域)」により確認できる。
【0045】
前記Euナンバリングによれば、ヒトIgG1を基準として、
(1)CH1ドメイン(配列番号1)は、1番目のアミノ酸(Ala)を118番目の位置にして一連番号でナンバリングされ(つまり、配列番号1のCH1ドメインの108個のアミノ酸は、IgG1の118番目から215番目までの位置に相当する);
(2)CH3ドメイン(配列番号15)は、1番目のアミノ酸(Lys)を340番目の位置にして一連番号でナンバリングされる(つまり、配列番号15のCH3ドメインの108個アミノ酸は、IgG1の340番目から447番目までの位置に相当する(以上、http://www.imgt.org/IMGTScientificChart/Numbering/Hu_IGHGnber.html参照)。
【0046】
本明細書におけるCH1およびCH3ドメインのアミノ酸位置およびこれに相当するアミノ酸種類は、ヒトIgG1を基準として記載する。
【0047】
また、Euナンバリングによれば、
ヒトカッパ不変領域(タンパク質:GenBank Accession No.AAA58989.1遺伝子:GenBank Accession No.J00241.1)のCLドメイン(配列番号10)は、1番目のアミノ酸(Val)を110番目の位置にして一連番号でナンバリングされ(つまり、配列番号10のCLドメインの105個のアミノ酸は、110番目から214番目までの位置に相当する;http://www.imgt.org/IMGTScientificChart/Numbering/Hu_IGKCnber.html参照);
ヒトラムダ不変領域(配列番号11(Lambda1)、配列番号12(Lambda2)、配列番号13(Lambda3)、および配列番号14(Lambda7))では、1番目のアミノ酸(Lys)を110番目の位置にして一連番号でナンバリングされる(ただし、ラムダ不変領域の場合、一連番号から169、201および202番目が脱落する;つまり、配列番号11または配列番号12のCLドメインの103個のアミノ酸は、110番目から168番目、170番目から200番目、および203番目から215番目までの位置に相当する;http://www.imgt.org/IMGTScientificChart/Numbering/Hu_IGLCnber.html参照)。本明細書におけるCLドメインのアミノ酸位置およびこれに相当するアミノ酸種類は、ヒトカッパ不変領域を基準として記載する。
【0048】
前記Fab保存領域は、IgG(IgG1、IgG2、IgG3およびIgG4)、IgA(IgA1およびIgA2)、IgD、IgE、およびIgMのFab断片の重鎖不変領域(つまり、CH1ドメイン)から選択されたいずれか1つである重鎖Fabの重鎖不変領域保存領域および免疫グロブリンの軽鎖のカッパタイプおよびラムダタイプ(例えば、ラムダタイプ1、ラムダタイプ2、ラムダタイプ3、およびラムダタイプ7)からなる群より選択されたいずれか1つの軽鎖不変領域(つまり、CLドメイン)を含むことができる。
【0049】
例えば、前記Fab断片の重鎖不変領域(CH1ドメイン)として使用可能なIgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、IgA2、IgD、IgE、およびIgMのCH1ドメインはそれぞれ順次に、配列番号1(Euナンバリングで118番目から215番目までに相当する)、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、および配列番号9のアミノ酸配列を含むものであってもよい。また、前記軽鎖不変領域(CLドメイン)として使用可能な、カッパタイプ、ラムダタイプ1、ラムダタイプ2、ラムダタイプ3、およびラムダタイプ7のCLドメインであってもよいし、これらCLドメインはそれぞれ順次に、配列番号10(Euナンバリングで110番目から214番目までに相当する)、配列番号11、配列番号12、配列番号13、および配列番号14のアミノ酸配列を含むものであってもよい。一例において、前記Fab保存領域は、IgGタイプ1のCH1ドメイン(配列番号1)およびカッパタイプの軽鎖不変領域(CLドメイン)(配列番号10)を含むことができる。同一の標的を標的化する分子間の二量体形成率を増加させるために、CH1ドメインで負電荷を有するアミノ酸または正電荷を有するアミノ酸に置換されるアミノ酸は、Euナンバリングシステムにより、IgGタイプ1(配列番号1)の145番目の位置のロイシン、147番目の位置のリシン、170番目の位置のフェニルアラニン、171番目の位置のプロリン、183番目の位置のセリン、および185番目の位置のバリンからなる群より選択された1つ以上、例えば、1つ、2つ以上(例えば、2つ)、3つ以上(例えば、3つ)、または4つ以上(例えば、4つ)であってもよい。他の例において、CH1ドメインで負電荷を有するアミノ酸または正電荷を有するアミノ酸に置換されるアミノ酸は、IgGの他のサブタイプ(IgG2、IgG3、およびIgG4)、IgA1、IgA2、IgD、IgE、およびIgMのCH1ドメイン(順次に、配列番号2〜9)における配列番号1の145番目の位置のロイシン、147番目の位置のリシン、170番目の位置のフェニルアラニン、171番目の位置のプロリン、183番目の位置のセリン、および185番目の位置のバリンに対応する位置のアミノ酸からなる群より選択された1つ以上であってもよい。
【0050】
本明細書に使用された「対応する位置のアミノ酸」は、配列番号1のアミノ酸配列と対象アミノ酸配列(例えば、配列番号2〜9)との通常の配列整列(sequence alignment)によって難なく決定される(以下、同一である)。
【0051】
前記正電荷を有するアミノ酸(正電荷に荷電するアミノ酸)は、塩基性アミノ酸の中から選択され、例えば、リシンまたはアルギニンであってもよい。したがって、CH1ドメインに正電荷を有するアミノ酸が導入される場合、配列番号1の145番目の位置のロイシン、147番目の位置のリシン、170番目の位置のフェニルアラニン、171番目の位置のプロリン、183番目の位置のセリン、および185番目の位置のバリン、およびこれらに対応する位置の配列番号2〜9のアミノ酸からなる群より選択された1つ以上、例えば、1つ、2つ以上(例えば、2つ)、3つ以上(例えば、3つ)、または4つ以上(例えば、4つ)がそれぞれ独立して塩基性アミノ酸、例えば、リシンまたはアルギニンに置換されていてもよい。
【0052】
例えば、CH1ドメインは、正電荷を有するアミノ酸を導入するために、次の1つ以上、例えば、1つ、2つ以上(例えば、2つ)、3つ以上(例えば、3つ)、または4つ以上(例えば、4つ)の突然変異を含むことができる(配列番号1基準;配列番号2〜9における対応する位置のアミノ酸にも適用される):
145番目の位置のロイシンをリシンまたはアルギニンに置換(例えば、リシンに置換);
183番目の位置のセリンをリシンまたはアルギニンに置換(例えば、リシンに置換);
147番目の位置のリシンをアルギニンに置換;
170番目の位置のフェニルアラニンをリシンまたはアルギニンに置換(例えば、リシンに置換);
171番目の位置のプロリンをリシンまたはアルギニンに置換(例えば、リシンに置換);および
185番目の位置のバリンをリシンまたはアルギニンに置換(例えば、アルギニンに置換)。
【0053】
前記負電荷を有するアミノ酸は、酸性アミノ酸の中から選択され、例えば、アスパラギン酸またはグルタミン酸であってもよい。したがって、CH1ドメインに負電荷を有するアミノ酸が導入される場合、配列番号1の145番目の位置のロイシン、147番目の位置のリシン、170番目の位置のフェニルアラニン、171番目の位置のプロリン、183番目の位置のセリン、および185番目の位置のバリン、およびこれらに対応する位置の配列番号2〜9のアミノ酸からなる群より選択された1つ以上、例えば、1つ、2つ以上(例えば、2つ)、3つ以上(例えば、3つ)、または4つ以上(例えば、4つ)が、それぞれ独立して酸性アミノ酸、例えば、アスパラギン酸またはグルタミン酸に置換されていてもよい。例えば、CH1ドメインは、負電荷を有するアミノ酸を導入するために、次の1つ以上、例えば、1つ、2つ以上(例えば、2つ)、3つ以上(例えば、3つ)、または4つ以上(例えば、4つ)の突然変異を含むことができる(配列番号1基準;配列番号2〜9における対応する位置のアミノ酸にも適用される):
145番目の位置のロイシンをアスパラギン酸またはグルタミン酸に置換(例えば、グルタミン酸に置換);
147番目の位置のリシンをアスパラギン酸またはグルタミン酸に置換(例えば、アスパラギン酸に置換);
183番目の位置のセリンをアスパラギン酸またはグルタミン酸に置換(例えば、グルタミン酸に置換);
185番目の位置のバリンをアスパラギン酸またはグルタミン酸に置換(例えば、アスパラギン酸に置換);
170番目の位置のフェニルアラニンをアスパラギン酸またはグルタミン酸に置換(例えば、アスパラギン酸に置換);および
171番目の位置のプロリンをアスパラギン酸またはグルタミン酸に置換(例えば、アスパラギン酸に置換)。
【0054】
同一の標的を標的化する分子間の二量体形成率を増加させるために、軽鎖不変領域(CLドメイン)で負電荷を有するアミノ酸または正電荷を有するアミノ酸に置換されるアミノ酸は、カッパタイプ(配列番号10)の131番目の位置のセリン、133番目の位置のバリン、135番目の位置のロイシン、162番目の位置のセリン、および180番目の位置のトレオニンからなる群より選択された1つ以上、例えば、1つ、2つ以上(例えば、2つ)、3つ以上(例えば、3つ)、または4つ以上(例えば、4つ)であってもよい。他の例において、CLドメインで負電荷を有するアミノ酸または正電荷を有するアミノ酸に置換されるアミノ酸は、ラムダタイプ(ラムダタイプ1、ラムダタイプ2、ラムダタイプ3、およびラムダタイプ7)のCLドメイン(順次に、配列番号11〜14)における配列番号10の131番目の位置のセリン、133番目の位置のバリン、135番目の位置のロイシン、162番目の位置のセリン、および180番目の位置のトレオニンに対応する位置のアミノ酸からなる群より選択された1つ以上であってもよい。
【0055】
前記正電荷を有するアミノ酸(正電荷に荷電するアミノ酸)は、塩基性アミノ酸の中から選択され、例えば、リシンまたはアルギニンであってもよい。したがって、CLドメインに正電荷を有するアミノ酸が導入される場合、配列番号10の131番目の位置のセリン、133番目の位置のバリン、135番目の位置のロイシン、162番目の位置のセリン、および180番目の位置のトレオニン、およびこれらに対応する位置の配列番号11〜14のアミノ酸からなる群より選択された1つ以上、例えば、1つ、2つ以上(例えば、2つ)、3つ以上(例えば、3つ)、または4つ以上(例えば、4つ)が、それぞれ独立して塩基性アミノ酸、例えば、リシンまたはアルギニンに置換されていてもよい。
【0056】
例えば、CLドメインは、正電荷を有するアミノ酸を導入するために、次の1つ以上、例えば、1つ、2つ以上(例えば、2つ)、3つ以上(例えば、3つ)、または4つ以上(例えば、4つ)の突然変異を含むことができる(配列番号10基準;配列番号11〜14における対応する位置のアミノ酸にも適用される):
131番目の位置のセリンをリシンまたはアルギニンに置換(例えば、リシンに置換);
133番目の位置のバリンをリシンまたはアルギニンに置換(例えば、リシンに置換);
135番目の位置のロイシンをリシンまたはアルギニンに置換(例えば、アルギニンに置換);
162番目の位置のセリンをリシンまたはアルギニンに置換(例えば、リシンに置換);および
180番目の位置のトレオニンをリシンまたはアルギニンに置換(例えば、アルギニンに置換)。
【0057】
同型二量体形成率をより高めるために、前記変異CH1ドメインおよび/または変異CLドメインは、2つ以上の変異を同時に含むことができる。
【0058】
例えば、CH1ドメインの147番目の位置のリシンと185番目の位置のバリンが正電荷を有するアミノ酸または負電荷を有するアミノ酸に置換されていてもよい。例えば、第1CH1ドメインと第2CH1ドメインのうちいずれか1つのCH1ドメインの147番目の位置のリシンと185番目の位置のバリンが正電荷を有するアミノ酸(例えば、リシンまたはアルギニン)に置換され、他のCH1ドメインの147番目の位置のリシンと185番目の位置のバリンは負電荷を有するアミノ酸(グルタミン酸またはアスパラギン酸)に置換されていてもよい。また、CLドメインの135番目の位置のロイシンと180番目の位置のトレオニンが正電荷を有するアミノ酸または負電荷を有するアミノ酸に置換されていてもよい。例えば、第1CLドメインと第2CLドメインのうちいずれか1つのCLドメインの135番目の位置のロイシンと180番目の位置のトレオニンが正電荷を有するアミノ酸(例えば、リシンまたはアルギニン)に置換され、他のCLドメインの135番目の位置のロイシンと180番目の位置のトレオニンは負電荷を有するアミノ酸(グルタミン酸またはアスパラギン酸)に置換されていてもよい。
【0059】
他の例において、CH1ドメインの170番目の位置のフェニルアラニンと171番目の位置のプロリンが正電荷を有するアミノ酸または負電荷を有するアミノ酸に置換されていてもよい。例えば、第1CH1ドメインと第2CH1ドメインのうちいずれか1つのCH1ドメインの170番目の位置のフェニルアラニンと171番目の位置のプロリンが正電荷を有するアミノ酸(例えば、リシンまたはアルギニン)に置換され、他のCH1ドメインの170番目の位置のフェニルアラニンと171番目の位置のプロリンは負電荷を有するアミノ酸(グルタミン酸またはアスパラギン酸)に置換されていてもよい。また、CLドメインの135番目の位置のロイシンと162番目の位置のセリンが正電荷を有するアミノ酸または負電荷を有するアミノ酸に置換されていてもよい。例えば、第1CLドメインと第2CLドメインのうちいずれか1つのCLドメインの135番目の位置のロイシンと162番目の位置のセリンが正電荷を有するアミノ酸(例えば、リシンまたはアルギニン)に置換され、他のCLドメインの135番目の位置のロイシンと162番目の位置のセリンは負電荷を有するアミノ酸(グルタミン酸またはアスパラギン酸)に置換されていてもよい。
【0060】
前記負電荷を有するアミノ酸は、酸性アミノ酸の中から選択され、例えば、アスパラギン酸またはグルタミン酸であってもよい。したがって、CLドメインに負電荷を有するアミノ酸が導入される場合、配列番号10の131番目の位置のセリン、133番目の位置のバリン、135番目の位置のロイシン、162番目の位置のセリン、および180番目の位置のトレオニン、およびこれらに対応する位置の配列番号11〜14のアミノ酸からなる群より選択された1つ以上、例えば、1つ、2つ以上(例えば、2つ)、3つ以上(例えば、3つ)、または4つ以上(例えば、4つ)が、それぞれ独立して酸性アミノ酸、例えば、アスパラギン酸またはグルタミン酸に置換されていてもよい。例えば、CLドメインは、正電荷を有するアミノ酸を導入するために、次の1つ以上、例えば、1つ、2つ以上(例えば、2つ)、3つ以上(例えば、3つ)、または4つ以上(例えば、4つ)の突然変異を含むことができる(配列番号10基準;配列番号11〜14における対応する位置のアミノ酸にも適用される):
131番目の位置のセリンをアスパラギン酸またはグルタミン酸に置換(例えば、グルタミン酸に置換);
133番目の位置のバリンをアスパラギン酸またはグルタミン酸に置換(例えば、グルタミン酸に置換);
135番目の位置のロイシンをアスパラギン酸またはグルタミン酸に置換(例えば、アスパラギン酸に置換);
162番目の位置のセリンをアスパラギン酸またはグルタミン酸に置換(例えば、アスパラギン酸に置換);および
180番目の位置のトレオニンをアスパラギン酸またはグルタミン酸に置換(例えば、アスパラギン酸に置換)。
【0061】
一例において、前記のようにCH1ドメインとCLドメインとの間のアミノ酸対をなす2つのアミノ酸を互いに異なる電荷を有するアミノ酸に置換する突然変異が導入されるCH1ドメインとCLドメインとの間のアミノ酸対は、配列番号1(CH1ドメイン)および配列番号10(CLドメイン)のアミノ酸配列を基準として、CH1ドメインの145番目の位置のロイシンとCLドメインの131番目の位置のセリンとの対、CH1ドメインの145番目の位置のロイシンとCLドメインの133番目の位置のバリンとの対、CH1ドメインの147番目の位置のリシンとCLドメインの180番目の位置のトレオニンとの対、CH1ドメインの183番目の位置のセリンとCLドメインの133番目の位置のバリンとの対、CH1ドメインの185番目の位置のバリンとCLドメインの135番目の位置のロイシンとの対、CH1ドメインの170番目の位置のフェニルアラニンとCLドメインの135番目の位置のロイシンとの対、およびCH1ドメインの171番目の位置のプロリンとCLドメインの162番目の位置のセリンとの対からなる群より選択された1つ以上、例えば、1つ、2つ以上(例えば、2つ)、3つ以上(例えば、3つ)、または4つ以上(例えば、4つ)であってもよい。例えば、前記突然変異が導入されるCH1ドメインとCLドメインとの間のアミノ酸対は、配列番号1(CH1ドメイン)および配列番号10(CLドメイン)のアミノ酸配列を基準として、CH1ドメインの145番目の位置のロイシンとCLドメインの131番目の位置のセリンとの対、CH1ドメインの145番目の位置のロイシンとCLドメインの133番目の位置のバリンとの対、CH1ドメインの147番目の位置のリシンとCLドメインの180番目の位置のトレオニンとの対、CH1ドメインの183番目の位置のセリンとCLドメインの133番目の位置のバリンとの対、およびCH1ドメインの185番目の位置のバリンとCLドメインの135番目の位置のロイシンとの対からなる群より選択されたいずれか1つまたは2つ以上(例えば、2つ)であってもよい。
【0062】
前記突然変異が導入される第1CH1ドメインと第1CLドメインとの間のアミノ酸対と、第2CH1ドメインと第2CLドメインとの間のアミノ酸対は、互いに同一または異なっていてもよい。
【0063】
一例において、第1CH1ドメインに正電荷を有するアミノ酸が導入された場合(第1CLドメインには負電荷を有するアミノ酸が導入される)、第2CH1ドメインには負電荷を有するアミノ酸が導入(第2CLドメインには正電荷を有するアミノ酸が導入される)される。
【0064】
異種二量体形成率を増加させるために、重鎖のFc領域、具体的には、Fc領域中のCH3ドメインに、次からなる群より選択された1つ以上、例えば、1つ、2つ、または3つの突然変異を導入することができる:
(1)CH3ドメイン間の1つ以上のアミノ酸対(2つのアミノ酸のうち1つ以上は疎水性アミノ酸でない)のうちいずれか1つのアミノ酸は正電荷を有するアミノ酸に置換され、他の1つのアミノ酸は負電荷を有するアミノ酸に置換された変異(以下、「静電的相互作用導入変異」);
(2)CH3ドメイン間の1つ以上のアミノ酸対のアミノ酸が互いに交換された変異(以下、「スワッピング変異」);および
(3)CH3ドメイン間の1つ以上のアミノ酸対のうちいずれか1つのアミノ酸は大きさの大きいアミノ酸(例えば、トリプトファン、フェニルアラニンなどといった大きさの大きい疎水性アミノ酸)に置換され、他の1つのアミノ酸は大きさの小さいアミノ酸(例えば、アラニン、グリシン、バリンなどといった大きさの小さい疎水性アミノ酸)に置換された変異(以下、「サイズ変異」)。
【0065】
このように変異が導入されるCH3ドメインは、ヒトIgG1のCH3ドメイン(配列番号15;Euナンバリングにより、340番目から447番目までに相当する)、ヒトIgG2のCH3ドメイン(配列番号16)、ヒトIgG3のCH3ドメイン(配列番号17)、ヒトIgG4のCH3ドメイン(配列番号18)、ヒトIgA1のCH3ドメイン(配列番号19)、ヒトIgA2のCH3ドメイン(配列番号20)、ヒトIgDのCH3ドメイン(配列番号21)、ヒトIgEのCH3ドメイン(配列番号22)、およびヒトIgMのCH3ドメイン(配列番号23)からなるグループより選択されるものであってもよい。
【0066】
前記変異が導入される第1CH3ドメインと第2CH3ドメインは、それぞれ独立してIgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、IgA2、IgD、IgE、およびIgMからなる群より選択された、互いに同一または異なる免疫グロブリンタイプに由来するものであってもよい。一例において、前記第1CH3ドメインと第2CH3ドメインはいずれも、配列番号15のアミノ酸配列を有するヒトIgG1のCH3ドメインであってもよいが、これに制限されるわけではない。
【0067】
以下に記載される第1CH3ドメインと第2CH3ドメインとの間のアミノ酸対は、配列番号15のヒトIgG1のCH3ドメインを基準として記載されたものであり、これに対応する位置のIgG2、IgG3、IgG4、IgA1、IgA2、IgD、IgE、およびIgMのCH3ドメイン(順次に、配列番号16〜23)間のアミノ酸対にも適用される。
【0068】
前記記載の変異が導入される第1CH3ドメインと第2CH3ドメインとの間のアミノ酸対は、下記の表1に提示されたCH3ドメイン間のアミノ酸対、およびこれに対応する位置のIgG2、IgG3、IgG4、IgA1、IgA2、IgE、およびIgMのCH3ドメイン(順次に、配列番号16〜23)間のアミノ酸対からなる群より選択された1つ以上、例えば、1つ、2つ以上(例えば、2つ)、3つ以上(例えば、3つ)、または4つ以上(例えば、4つ)であってもよい。
【0069】
【表1】
より具体的には、
(1)静電的相互作用導入変異(表2および
図2にてCharge(J)で表示);
(2)スワッピング変異(表2および
図2にてSwap(O)で表示);および
(3)サイズ変異(表2および
図2にてSize(B)で表示)
のうちいずれか1つ以上が導入される第1CH3ドメインと第2CH3ドメインとの間のアミノ酸対は、下記の表2および
図2に提示されたIgG1のCH3ドメイン(配列番号15)間のアミノ酸対、およびこれに対応する位置のIgG2、IgG3、IgG4、IgA1、IgA2、IgD、IgE、およびIgMのCH3ドメイン(順次に、配列番号16〜23)間のアミノ酸対からなる群より選択された1つ以上、例えば、1つ、2つ以上(例えば、2つ)、3つ以上(例えば、3つ)、または4つ以上(例えば、4つ)であってもよい:
【表2】
前記表2に記載の変異位置は、IgG1を基準として表示されたが、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、IgA2、IgD、IgE、およびIgMのCH3ドメインのこれに対応する位置にも適用される)
本明細書に使用されたものであって、例えば、「Q347」は、配列番号15のヒトIgG1のCH3ドメインの347番目のアミノ酸位置のグルタミンを意味し、これは、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、IgA2、IgD、IgE、およびIgMのCH3ドメイン(順次に、配列番号16〜23)におけるこれに対応する位置のアミノ酸残基にも適用される(以下、同一である)。
【0070】
以下に記載されるCH3ドメインに変異が導入されるアミノ酸対は、配列番号15を基準としてナンバリングして表示され、別途の反対の記載がない限り、IgG1の表示された位置のアミノ酸だけでなく、他のタイプの免疫グロブリン(IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、IgA2、IgD、IgE、またはIgM)のCH3ドメインのこれに対応する位置のアミノ酸にも適用されると解釈される。
【0071】
前記静電的相互作用導入変異は、Fc領域またはCH3ドメイン間の1つ以上のアミノ酸対(2つのアミノ酸のうち1つ以上は疎水性アミノ酸でない)のうちいずれか1つのアミノ酸は正電荷を有するアミノ酸に置換、他の1つのアミノ酸は負電荷を有するアミノ酸に置換によって、疎水性相互作用をしない部分に静電的相互作用を導入して静電的相互作用による結合力の増加に寄与する。
【0072】
前記疎水性アミノ酸は、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、メチオニン、プロリン、フェニルアラニン、およびトリプトファンからなるグループより選択されるものであってもよい。
【0073】
前記負電荷を有するアミノ酸は、酸性アミノ酸の中から選択され、例えば、アスパラギン酸またはグルタミン酸であってもよい。前記正電荷を有するアミノ酸は、塩基性アミノ酸の中から選択され、例えば、リシンまたはアルギニンであってもよい。
【0074】
前記静電的相互作用導入変異が適用できる第1CH3ドメインと第2CH3との間のアミノ酸対は、前記表2のアミノ酸対番号1〜39の中から選択された1つ以上、例えば、1つ、2つ以上(例えば、2つ)、3つ以上(例えば、3つ)、または4つ以上(例えば、4つ)であってもよいし、例えば、364番目の位置のセリンと368番目の位置のロイシン、394番目の位置のトレオニンと394番目の位置のトレオニン、357番目の位置のグルタミン酸と370番目の位置のリシン、357番目の位置のグルタミン酸と349番目の位置のチロシン、366番目の位置のトレオニンと407番目の位置のチロシン、および394番目の位置のトレオニンと397番目の位置のバリンからなる群より選択された1つ以上、例えば、1つ、2つ以上(例えば、2つ)、3つ以上(例えば、3つ)、または4つ以上(例えば、4つ)であってもよい。
【0075】
つまり、前記CH3ドメインの静電的相互作用導入変異は、前記表2のアミノ酸対番号1〜39の中から選択された1つ以上、例えば、1つ、2つ以上(例えば、2つ)、3つ以上(例えば、3つ)、または4つ以上(例えば、4つ)のアミノ酸対のそれぞれのアミノ酸対のうちいずれか1つのアミノ酸を正電荷を有するアミノ酸に、他の1つのアミノ酸を負電荷を有するアミノ酸に置換を含むことができ、例えば、364番目の位置のセリンと368番目の位置のロイシン、394番目の位置のトレオニンと394番目の位置のトレオニン、357番目の位置のグルタミン酸と370番目の位置のリシン、357番目の位置のグルタミン酸と349番目の位置のチロシン、366番目の位置のトレオニンと407番目の位置のチロシン、および394番目の位置のトレオニンと397番目の位置のバリンからなる群より選択された1つ以上、例えば、1つ、2つ以上(例えば、2つ)、3つ以上(例えば、3つ)、または4つ以上(例えば、4つ)のアミノ酸対のそれぞれのアミノ酸対のうちいずれか1つのアミノ酸を正電荷を有するアミノ酸に、他の1つのアミノ酸を負電荷を有するアミノ酸に置換を含むことができる。
【0076】
例えば、前記CH3ドメインの静電的相互作用導入変異は、次の1つ以上、例えば、1つ、2つ以上(例えば、2つ)、3つ以上(例えば、3つ)、または4つ以上(例えば、4つ)の変異を含むことができる:
364番目の位置のセリンを正電荷を有するアミノ酸に、368番目の位置のロイシンを負電荷を有するアミノ酸に置換;
394番目の位置のトレオニンを正電荷を有するアミノ酸に、394番目の位置のトレオニンを負電荷を有するアミノ酸に置換;
357番目の位置のグルタミン酸を正電荷を有するアミノ酸に、370番目の位置のリシンを負電荷を有するアミノ酸に置換;
357番目の位置のグルタミン酸を正電荷を有するアミノ酸に、349番目の位置のチロシンを負電荷を有するアミノ酸に置換;
366番目の位置のトレオニンを正電荷を有するアミノ酸に、407番目の位置のチロシンを負電荷を有するアミノ酸に置換;
394番目の位置のトレオニンを正電荷を有するアミノ酸に、397番目の位置のバリンを負電荷を有するアミノ酸に置換;および
349番目の位置のチロシンを正電荷を有するアミノ酸に、357番目の位置のグルタミン酸を負電荷を有するアミノ酸に置換。
【0077】
このようなCH3ドメインの静電的相互作用導入によって、異種二量体形成率が60%以上、65%以上、70%以上、73%以上、75%以上、78%以上、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、または100%であってもよい。
【0078】
前記スワッピング変異は、アミノ酸対をなす2つのアミノ酸を互いに対等交換した(相互交換した)変異を意味する。
【0079】
前記CH3ドメインのスワッピング変異が適用できる第1CH3ドメインと第2CH3との間のアミノ酸対は、表2および
図2に示されているように、
347番目の位置のグルタミンと360番目の位置のリシン、357番目の位置の
グルタミン酸と349番目の位置のチロシン、
354位のセリンと349位のチロシン、357番目の位置のグルタミン酸と370番目の位置のリシン、360番目の位置のリシンと349番目の位置のチロシン、364番目の位置のセリンと368番目の位置のロイシン、364番目の位置のセリンと370番目の位置のリシン、368番目のロイシンと409番目のリシン、390番目の位置のアスパラギンと400番目の位置のセリン、394番目の位置のトレオニンと397番目の位置のバリン、398番目の位置のロイシンと392番目の位置のリシン、405番目の位置のフェニルアラニンと409番目の位置のリシン、407番目の位置のチロシンと366番目の位置のトレオニン、および411番目の位置のトレオニンと370番目の位置のリシンからなる群より選択された1つ以上、例えば、1つ、2つ以上(例えば、2つ)、3つ以上(例えば、3つ)、または4つ以上(例えば、4つ)であってもよいし、例えば、364番目の位置のセリンと370番目の位置のリシン、407番目の位置のチロシンと366番目の位置のトレオニン、357番目の位置のグルタミン酸と370番目の位置のリシン、405番目の位置のフェニルアラニンと409番目の位置のリシン、および357番目の位置の
グルタミン酸と349番目の位置のチロシンからなる群より選択された1つ以上、例えば、1つ、2つ以上(例えば、2つ)、3つ以上(例えば、3つ)、または4つ以上(例えば、4つ)であってもよい。
【0080】
つまり、前記CH3ドメインのスワッピング変異は、
347番目の位置のグルタミンと360番目の位置のリシン、357番目の位置の
グルタミン酸と349番目の位置のチロシン、
354位のセリンと349位のチロシン、357番目の位置のグルタミン酸と370番目の位置のリシン、360番目の位置のリシンと349番目の位置のチロシン、364番目の位置のセリンと368番目の位置のロイシン、364番目の位置のセリンと370番目の位置のリシン、368番目のロイシンと409番目のリシン、390番目の位置のアスパラギンと400番目の位置のセリン、394番目の位置のトレオニンと397番目の位置のバリン、398番目の位置のロイシンと392番目の位置のリシン、405番目の位置のフェニルアラニンと409番目の位置のリシン、407番目の位置のチロシンと366番目の位置のトレオニン、および411番目の位置のトレオニンと370番目の位置のリシンからなる群より選択された1つ以上、例えば、1つ、2つ以上(例えば、2つ)、3つ以上(例えば、3つ)、または4つ以上(例えば、4つ)のアミノ酸対のそれぞれのアミノ酸対をなす2つのアミノ酸を互いに対等交換して置換(交換)されたものを含むことができ、例えば、364番目の位置のセリンと370番目の位置のリシン、407番目の位置のチロシンと366番目の位置のトレオニン、357番目の位置のグルタミン酸と370番目の位置のリシン、405番目の位置のフェニルアラニンと409番目の位置のリシン、および357番目の位置の
グルタミン酸と349番目の位置のチロシンからなる群より選択された1つ以上、例えば、1つ、2つ以上(例えば、2つ)、3つ以上(例えば、3つ)、または4つ以上(例えば、4つ)のアミノ酸対のそれぞれのアミノ酸対をなす2つのアミノ酸を互いに対等交換して置換(交換)されたものを含むことができる。
【0081】
例えば、前記CH3ドメインのスワッピング変異は、次の1つ以上、例えば、1つ、2つ以上(例えば、2つ)、3つ以上(例えば、3つ)、または4つ以上(例えば、4つ)の変異を含むことができる:
364番目の位置のセリンをリシンに、370番目の位置のリシンをセリンに置換;
405番目の位置のフェニルアラニンをリシンに、409番目の位置のリシンをフェニルアラニンに置換;
407番目の位置のチロシンをトレオニンに、366番目の位置のトレオニンをチロシンに置換;
357番目の位置のグルタミン酸をリシンに、370番目の位置のリシンをグルタミン酸に置換;および
357番目の位置の
グルタミン酸をチロシンに、349番目の位置のチロシンをセリンに置換。
【0082】
このようなCH3ドメインのスワッピング変異により、異種二量体形成率が60%以上、65%以上、70%以上、73%以上、75%以上、78%以上、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、または100%であってもよい。
【0083】
前記サイズ変異は、CH3ドメイン間の1つ以上のアミノ酸対のうちいずれか1つのアミノ酸は、大きさの大きい疎水性アミノ酸(例えば、トリプトファン、フェニルアラニンなどといった大きさの大きい疎水性アミノ酸)に置換され、他の1つのアミノ酸は大きさの小さい疎水性アミノ酸(例えば、アラニン、グリシン、バリンなどといった大きさの小さい疎水性アミノ酸)に置換された変異を意味するもので、大きいアミノ酸が小さいアミノ酸によって形成された空間に挟み合わされるので、ヘテロ二量体の形成に寄与できる。
【0084】
前記大きいアミノ酸は、環状残基を含むものであってもよいし、トリプトファンおよびフェニルアラニンからなる群より選択されたものであってもよく、例えば、トリプトファンであってもよい。前記小さいアミノ酸は、アラニン、グリシン、およびバリンからなる群より選択された1種以上であってもよく、例えば、アラニンであってもよい。
【0085】
前記サイズ変異が適用できる第1CH3ドメインと第2CH3との間のアミノ酸対は、前記表2のアミノ酸対番号1〜40の中から選択された1つ以上、例えば、1つ、2つ以上(例えば、2つ)、3つ以上(例えば、3つ)、または4つ以上(例えば、4つ)であってもよく、例えば、409番目の位置のリシンと407番目の位置のチロシン、409番目の位置のリシンと405番目の位置のフェニルアラニン、またはこれらの組み合わせであってもよい。
【0086】
つまり、前記サイズ変異は、前記表2のアミノ酸対番号1〜40の中から選択された1つ以上、例えば、1つ、2つ以上(例えば、2つ)、3つ以上(例えば、3つ)、または4つ以上(例えば、4つ)のアミノ酸対のそれぞれのアミノ酸対のうちいずれか1つのアミノ酸を大きさの大きい疎水性アミノ酸(例えば、トリプトファン、フェニルアラニンなどといった大きさの大きい疎水性アミノ酸)、例えば、トリプトファンに置換、他の1つのアミノ酸を大きさの小さい疎水性アミノ酸(例えば、アラニン、グリシン、バリンなどといった大きさの小さい疎水性アミノ酸)、例えば、アラニンに置換を含むことができ、例えば、409番目の位置のリシンと407番目の位置のチロシン、409番目の位置のリシンと405番目の位置のフェニルアラニン、またはこれらすべてのうちそれぞれのアミノ酸対のうちいずれか1つのアミノ酸を大きさの大きい疎水性アミノ酸、例えば、フェニルアラニンまたはトリプトファンに置換、他の1つのアミノ酸を大きさの小さい疎水性アミノ酸、例えばアラニン、グリシン、またはバリンに置換を含むことができる。
【0087】
例えば、前記CH3ドメインのサイズ変異は、次の1つ以上の変異を含むことができる:
409番目の位置のリシンをトリプトファンに、407番目の位置のチロシンをアラニンに置換;および
409番目の位置のリシンをトリプトファンに、405番目の位置のフェニルアラニンをアラニンに置換。
【0088】
前記変異CH3ドメインは、先に説明した3つの変異、つまり、静電的相互作用導入変異、スワッピング変異、およびサイズ変異のうち1つ以上、例えば、1つまたは2つの変異をすべて含むことができる。
【0089】
前記のような変異CH3ドメインにおいて、二量体の形成に最も有利な効果を奏するように、364番目の位置のセリンと368番目の位置のロイシンのうちいずれか1つは正電荷を有するアミノ酸に、他の1つは負電荷を有するアミノ酸に置換(静電的相互作用導入変異)、364番目の位置のセリンと370番目の位置のリシンの交換(スワッピング変異)、および405番目の位置のフェニルアラニンと409番目の位置のリシンの交換(スワッピング変異)からなる群より選択された1つ以上、例えば、1つ、2つ、または3つの変異を含むことができる。
【0090】
例えば、変異CH3ドメインは、次の変異のうち1つ以上、例えば、1つ、2つ、または3つの変異を含むものであってもよい:
(a)364番目の位置のセリンを正電荷を有するアミノ酸に、368番目の位置のロイシンを負電荷を有するアミノ酸に置換;
(b)364番目の位置のセリンをリシンに、370番目の位置のリシンをセリンに置換;および
(c)405番目の位置のフェニルアラニンをリシンに、409番目の位置のリシンをフェニルアラニンに置換。
【0091】
単量体生成率を低くし、二量体形成率をより増加させるために、前記選択された3つの変異((a)−(c))導入後、追加のアミノ酸変異が導入されてもよい。このように追加のアミノ酸変異が導入できるアミノ酸は、364番目の位置のセリン、405番目の位置のフェニルアラニン、および/または409番目の位置のリシンであってもよいし、例えば、静電的相互作用導入変異が起こるアミノ酸対である364番目の位置のセリンと368番目の位置のロイシンとのアミノ酸対において、368番目の位置のロイシンを負電荷を有するアミノ酸(アスパラギン酸またはグルタミン酸、例えば、アスパラギン酸)に置換する場合、364番目の位置のセリンは正電荷を有するアミノ酸(リシンまたはアルギニン)に置換されたり(S364KまたはS364R;静電的相互作用導入変異)、アスパラギンに置換(S364N)されていてもよい。また、スワッピング変異が起こるアミノ酸対である370番目の位置のリシンと364番目の位置のセリンとのアミノ酸対において、370番目の位置のリシンをセリンに、364番目の位置のセリンはリシンに置換されたり(S364K;スワッピング変異)、アルギニンまたはアスパラギンに置換(S364RまたはS364N)されていてもよい。
【0092】
また、スワッピング変異が起こるアミノ酸対である409番目の位置のリシンと405番目の位置のフェニルアラニンとのアミノ酸対において、409番目の位置のリシンをフェニルアラニンに置換されたり(スワッピング変異)、トリプトファンに置換されていてもよく、405番目の位置のフェニルアラニンはリシンに置換されたり(F405K;スワッピング変異)、アルギニン、グルタミン、またはアスパラギンに置換(F405R、F405Q、またはF405N)されていてもよい。
【0093】
一例において、変異CH3ドメインは、次から選択された1つ以上の変異を含むものであってもよい:
364番目の位置のセリンのリシンへの置換と368番目の位置のロイシンのアスパラギン酸への置換;
364番目の位置のセリンのリシンへの置換と370番目の位置のリシンのセリンへの置換;
405番目の位置のフェニルアラニンのリシンへの置換と409番目の位置のリシンのフェニルアラニンへの置換;
405番目の位置のフェニルアラニンのアルギニンへの置換と409番目の位置のリシンのフェニルアラニンへの置換;
405番目の位置のフェニルアラニンのリシンへの置換と409番目の位置のリシンのトリプトファンへの置換;および
405番目の位置のフェニルアラニンのアルギニンへの置換と409番目の位置のリシンのトリプトファンへの置換。
【0094】
一例において、変異CH3ドメインは、次から選択された二重変異を含むものであってもよい:
第1CH3ドメインの364番目の位置のセリンのリシンへの置換と第2CH3ドメインの368番目の位置のロイシンのアスパラギン酸への置換、および第1CH3ドメインの409番目の位置のリシンのフェニルアラニンへの置換と第2CH3ドメインの405番目の位置のフェニルアラニンのリシンへの置換;
第1CH3ドメインの364番目の位置のセリンのリシンへの置換と第2CH3ドメインの368番目の位置のロイシンのアスパラギン酸への置換、および第1CH3ドメインの409番目の位置のリシンのフェニルアラニンへの置換と第2CH3ドメインの405番目の位置のフェニルアラニンのアルギニンへの置換;
第1CH3ドメインの364番目の位置のセリンのリシンへの置換と第2CH3ドメインの370番目の位置のリシンのセリンへの置換、および第1CH3ドメインの409番目の位置のリシンのフェニルアラニンへの置換と第2CH3ドメインの405番目の位置のフェニルアラニンのリシンへの置換;
第1CH3ドメインの364番目の位置のセリンのリシンへの置換と第2CH3ドメインの370番目の位置のリシンのセリンへの置換、および第1CH3ドメインの409番目の位置のリシンのフェニルアラニンへの置換と第2CH3ドメインの405番目の位置のフェニルアラニンのアルギニンへの置換;
第1CH3ドメインの364番目の位置のセリンのリシンへの置換と第2CH3ドメインの368番目の位置のロイシンのアスパラギン酸への置換、および第1CH3ドメインの409番目の位置のリシンのトリプトファンへの置換と第2CH3ドメインの405番目の位置のフェニルアラニンのリシンへの置換;
第1CH3ドメインの364番目の位置のセリンのリシンへの置換と第2CH3ドメインの368番目の位置のロイシンのアスパラギン酸への置換、および第1CH3ドメインの409番目の位置のリシンのトリプトファンへの置換と第2CH3ドメインの405番目の位置のフェニルアラニンのアルギニンへの置換;
第1CH3ドメインの364番目の位置のセリンのリシンへの置換と第2CH3ドメインの370番目の位置のリシンのセリンへの置換、および第1CH3ドメインの409番目の位置のリシンのトリプトファンへの置換と第2CH3ドメインの405番目の位置のフェニルアラニンのリシンへの置換;または
第1CH3ドメインの364番目の位置のセリンのリシンへの置換と第2CH3ドメインの370番目の位置のリシンのセリンへの置換、および第1CH3ドメインの409番目の位置のリシンのトリプトファンへの置換と第2CH3ドメインの405番目の位置のフェニルアラニンのアルギニンへの置換。
【0095】
前記のようにCH3ドメインが二重変異を含む場合の異種二量体形成率は、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上または96%以上であってもよい。
【0096】
他の例は、配列番号27の重鎖可変領域および配列番号31の軽鎖可変領域を含む抗−インフルエンザB抗体またはその抗原結合断片を提供する。他の例は、配列番号29の重鎖可変領域および配列番号31の軽鎖可変領域を含む抗−インフルエンザA抗体またはその抗原結合断片を提供する。
【0097】
他の例は、配列番号27の重鎖可変領域および配列番号31の軽鎖可変領域を含む抗−インフルエンザB抗体、および配列番号29の重鎖可変領域および配列番号31の軽鎖可変領域を含む抗−インフルエンザA抗体を含む、抗−インフルエンザA/抗−インフルエンザBの二重特異性抗体またはその抗原結合断片を提供する。前記抗−インフルエンザA/抗−インフルエンザBの二重特異性抗体は、先に説明した(1)変異CH3ドメイン(つまり、先に説明したCH3−CH3の突然変異対導入);(2)変異CH1ドメインおよび変異CLドメイン(つまり、先に説明したCH1−CLの突然変異対導入);または(2)変異CH3ドメインと変異CH1ドメインおよび変異CLドメインをすべて含むものであってもよい。
【0098】
本発明による二重特異性タンパク質または二重特異性抗体は、タンパク質の小単位間で関連付けられ調和の取れた境界突然変異(Correlated and Harmonious Interfacial Mutation between Protein Subunits;以下、Chimpsという)により生成された異種特異性物質である。
【0099】
用語「抗体」は、4つともがジスルフィド結合によって相互連結された一対の低分子量軽鎖(L)および一対の重鎖(H)の二対のポリペプチド鎖からなる、構造上関連する糖タンパク質のクラスを示す。抗体の構造は特徴がよく決定されている(例えば、文献[Fundamental Immunology Ch.7(Paul,W.,2
nd ed.Raven Press,N.Y.(1989)]参照)。簡単に説明すれば、それぞれの重鎖は、概して重鎖可変領域(本願でVHと略称する)および重鎖不変領域からなる。重鎖不変領域は、概して3つのドメイン、つまり、CH1、CH2、およびCH3からなる。重鎖は、いわゆる「ヒンジ領域」でジスルフィド結合により相互連結される。それぞれの軽鎖は、概して軽鎖可変領域(本願でVLと略称する)および軽鎖不変領域からなる。軽鎖不変領域は、概して1つのドメインCLからなる。一般に、前記不変領域内におけるアミノ酸残基のナンバリングは、文献[Kabat et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th Ed.Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,MD.(1991)]に記載のEU−インデックスにより行われる。VHおよびVL領域は、相補性決定領域(CDR)とも呼ばれる超可変領域(または配列が超可変性であり/であったり構造的に規定されたループを形成きる超可変領域)に追加的に細分され、これら領域には、フレームワーク領域(FR)と呼ばれる、より保存された領域が散在している。それぞれのVHおよびVLは、概して3つのCDRおよび4つのFRからなり、これらは、アミノ−末端からカルボキシ−末端へと次の順に配列されている:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4(また、文献[Chothia and Lesk J.Mol.Biol.196,901−917(1987)]参照)。
【0100】
本明細書において、用語「Fab、またはFab−arm」は、1つの重鎖−軽鎖対を意味する。
【0101】
本明細書において、用語「Fc領域」は、CH2ドメインおよびCH3ドメインを含む抗体領域を意味し、場合によって、ヒンジ領域を追加的に含んでもよい。
【0102】
用語「二重特異性抗体」は、少なくとも2つの相異なるエピトープ、一般に、非−重複エピトープに対して特異性を有する抗体を意味する。
【0103】
用語「全長抗体」は、本願で使用される時、イソ型の抗体で通常発見されるすべての重鎖および軽鎖の不変および可変ドメインを含有する抗体を意味する。一例において、全長抗体は、2つの全長重鎖と2つの全長軽鎖とを含む。本願で使用されるように、「イソ型」は、重鎖不変領域の遺伝子によってコーディングされる抗体クラス(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgD、IgA、IgE、またはIgM)を意味する。
【0104】
用語「抗原結合断片」は、抗体の可変ドメインを含む抗体の一部を意味するもので、Fab、F(ab’)2、scFv、(scFv)2、scFv−Fc、(scFv−Fc)などから選択されるが、これらに制限されるわけではない。
【0105】
用語「エピトープ」は、抗体に特異的に結合できるタンパク質決定子を意味する。エピトープは、アミノ酸または糖側鎖のような分子の表面の群から一般的になり、一般に特異的な3次元構造特性だけでなく、特異的な電荷特性を有する。
【0106】
二重特異性抗体は、互いに異なる2つの抗原または1つの抗原のうちの区分される(非重複する)互いに異なる2つのエピトープを認識および/または結合する抗体を総称する。一例において、前記二重特異性抗体は、腫瘍細胞抗原に対する1つの抗原結合部位および細胞毒性開始分子に対する他の抗原結合部位を含むものであってもよいし、例えば、二重特異性抗体は、抗−FcγRI/抗−CD15、抗−p185HER2/FcγRIII(CD16)抗−CD3/抗−悪性B−細胞(1D10)、抗−CD3/抗−p185HER2、抗−CD3/抗−p97、抗−CD3/抗−腎臓細胞癌、抗−CD3/抗−OVCAR−3、抗−CD3/L−D1(抗−大腸癌)、抗−CD3/抗−メラニン細胞刺激ホルモン類似体、抗−EGF受容体/抗−CD3、抗−CD3/抗−CAMA1、抗−CD3/抗−CD19、抗−CD3/MoV18、抗−中性細胞付着分子(NCAM)/抗−CD3、抗−フォレート結合タンパク質(FBP)/抗−CD3、抗−汎癌腫関連抗原(AMOC−31)/抗−CD3などからなる群より選択されたものであってもよいが、これらに制限されるわけではない。他の例において、腫瘍抗原に特異的に結合する1つの抗原結合部位および毒素に結合する1つの抗原結合部位を有する二重特異性抗体は、例えば、抗−サポリン/抗−Id−1、抗−CD22/抗−サポリン、抗−CD7/抗−サポリン、抗−CD38/抗−サポリン、抗−CEA/抗−リシンA鎖、抗−インターフェロン−α(IFN−α)/抗−ハイブリードマイディオタイプ、抗−CEA/抗−ビンカアルカロイドなどからなる群より選択されたものであってもよいが、これに制限されるわけではない。さらに他の例において、二重特異性抗体は、抗−CD30/抗−アルカラインホスファターゼ(マイトマイシンホスフェート前駆薬物をマイトマイシンアルコールに転換を触媒する)のように、転換酵素活性化前駆薬物用に使用されるものの中から選択されたものであってもよいが、これに制限されるわけではない。さらに他の例において、二重特異性抗体は、抗−フィブリン/抗−組織プラスミノゲン活性因子(tPA)、抗−フィブリン/抗−ウロキナーゼ類型プラスミノゲン活性因子(uPA)のように、フィブリン分解製剤として使用可能なものの中から選択されるが、これに制限されるわけではない。さらに他の例において、二重特異性抗体は、抗−低密度脂タンパク質(LDL)/抗−Fc受容体(例えば、FcγRI、FcγRIIまたはFcγRIII)などのような細胞表面受容体に免疫複合体を標的化させるものの中から選択されるが、これに制限されるわけではない。さらに他の例において、二重特異性抗体は、抗−インフルエンザA/抗−インフルエンザB、抗−CD3/抗−単純性ヘルペスウイルス(HSV)、抗−T−細胞受容体:CD3複合体/抗−インフルエンザ、抗−FcγR/抗−HIVなどのような感染性疾患(例えば、ウイルス性感染疾患)の治療に使用されるものの中から選択されるが、これに制限されるわけではない。さらに他の例において、二重特異性抗体は、試験管内または生体内腫瘍検出用二重特異性抗体であってもよいし、例えば、抗−CEA/抗−EOTUBE、抗−CEA/抗−DPTA、抗−p185HER2/抗−ハプテンなどからなる群より選択されたものであってもよいが、これに制限されるわけではない。さらに他の例において、二重特異性抗体は、抗−ウサギIgG/抗−フェリチン、抗−ワサビダイコンフェロキシダーゼ(HRP)/抗−ホルモン、抗−ソマトスタチン/抗−サブスタンスP、抗−HRP/抗−FITC、抗−CEA/抗−β−ガラクトシダーゼなどのように、診断手段に使用可能なものであってもよい。さらに他の例において、二重特異性抗体は、CD30と結合する第1抗原結合部位およびerbB2と結合する第2抗原結合部位を含むもの;CD30と結合する第1抗原結合部位およびシュードモナス外毒素(PE)と結合する第2抗原結合部位を含むもの;CD30と結合する第1抗原結合部位およびストレプタビジンと結合する第2抗原結合部位を含むものであってもよいが、これに制限されるわけではない。
【0107】
他の例において、二重特異性タンパク質は、前記標的化ドメインとして、各種膜タンパク質、例えば、各種受容体(例えば、受容体チロシンキナーゼ(RTKs)など)、前記受容体のエクトドメイン(細胞外ドメイン)、各種リガンド(例えば、各種成長因子、サイトカインなど)などからなる群より選択された1種以上の標的特異的結合ポリペプチドを含むことができる。例えば、前記受容体は、腫瘍壊死因子受容体(tumor necrosis factor receptor;TNFR)(例えば、TNFR1、TNFR2など)、上皮細胞成長因子受容体(例えば、Her1(epidermal growth factor receptor;EGFR)、Her2(human epidermal growth factor receptor2)、Her3(human epidermal growth factor receptor3))、アンジオポエチンレセプタ(angiopoietin receptor)(例えば、Tie1、Tie2など)、形質転換成長因子受容体(transforming growth factor receptor)(例えば、TGFbR1、TGFbR2、TGFbR3、TGFaR1など)、骨形成タンパク質受容体(Bone Morphogenetic Protein Receptor;例えば、BMPR1b)、インターロイキン受容体(例えば、IL−12R−b1(interleukin 12receptor subunit beta1)、IL−4Ra、IL−12A、IL−4、IL−1R1L、IL−17RA、IL−17A、IL−12R−b2、IL−13Ra1、IL−12B、IL−13、IL1RAP、IL−17RC、IL−17Fなど)、インテグリン(例えば、ITGA4(integrin alpha4)、ITGA2B(integrin subunit alpha2b)、ITGB1、ITGB3など)、インターフェロン受容体(例えば、IFNAR1(interferon−alpha/beta receptor1)、IFNAR2、IFNGRなど)、Fas(tumor necrosis factor receptor superfamily member6;TNFRSF6)、VEGF受容体(例えば、Flt1(fms related tyrosine kinase1)など)、肝細胞成長因子受容体(例えば、Metなど)、IFNGR(Interferon gamma receptor)などからなる群より選択された1種以上であってもよいが、これに制限されるわけではない。前記リガンドは、腫瘍壊死因子(tumor necrosis factor;TNF)、上皮細胞成長因子(EGF)、血管内皮細胞成長因子(VEGF−A、VEGF−B、VEGF−C、VEGF−Dなど)、アンジオポエチン(例えば、Ang1、Ang2など)、形質転換成長因子(transforming growth factor;TGF)、肝細胞成長因子(HGF)、骨形成タンパク質(bone morphogenetic protein)(例えば、BMP2、BMP7など)、インターロイキン、インターフェロンなどからなる群より選択された1種以上であってもよいが、これに制限されるわけではない。
【0108】
本願で使用される用語「宿主細胞」は、発現ベクター、例えば、本発明の抗体をコーディングする発現ベクターが導入された細胞を指し示すように意図される。組換え宿主細胞は、例えば、トランスフェクトーマ(transfectoma)、例えば、CHO細胞、HEK293細胞、NS/0細胞、およびリンパ構成細胞を含む。
【0109】
本発明の抗体のCLドメイン、CH1ドメイン、Fc部位(例えば、CH3ドメイン)は、IgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4亜型、IgA、IgE、IgDまたはIgMのような任意の抗体から得ることができる。前記抗体は、ヒト、サルなどの霊長類、またはマウス、ラットなどの齧歯類などのような哺乳類由来のものであってもよい。哺乳類由来の抗体は、特に、不変部位において、各種間の高い配列相同性および構造相同性を示すので、本明細書で説明されたCLドメイン、CH1ドメイン、およびCH3ドメインに関する説明は、哺乳類由来の抗体に一般に適用可能である。一具体例において、前記CLドメイン、CH1ドメイン、およびCH3ドメインは、IgG(例えば、IgG1)に由来するものであってもよいが、これに制限されるわけではない。言及したように、本発明で記述された抗体のFc部位は、2つの同一でない重鎖(例えば、可変ドメインの配列において相異なる)を含むが、前記2つの同一でない重鎖のうち少なくとも1つは、前記同一でない重鎖の安定した異種二量体を形成する確率を高め、同一の重鎖の安定した同種二量体を形成する確率を低くするために、アミノ酸変異を含む。
【0110】
本明細書で提供される二重特異性タンパク質、二重特異性抗体およびその抗原結合断片は、通常のすべての手段によって製造され、例えば、化学的合成または組換え的な方法によって生産される。前記タンパク質、抗体および断片は、自然に得られないもの(non−naturally occurring)であってもよい。
【0111】
本発明において、Fcの異種二重化のために突然変異化位置を
図2に示した。静電的相互作用導入変異の場合は、39個の位置を対象とし、スワッピングのためには14個の位置を対象とし、サイズ変異は40個の位置を対象とした。
図2では、アミノ酸は、通常の方法により英大文字で表し、前記不変領域内におけるアミノ酸残基のナンバリングは、文献[Kabat et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th Ed.Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,MD.(1991)]に記載のEU−インデックスにより示した。
【0112】
他の例は、先に説明した二重特異性タンパク質または二重特異性抗体、および任意に、薬学的に許容可能な担体を含む薬学組成物を提供する。他の例は、先に説明した二重特異性タンパク質または二重特異性抗体を薬学組成物の製造に使用する用途を提供する。他の例は、先に説明した二重特異性タンパク質または二重特異性抗体を含有する薬学組成物の製造方法を提供する。
【0113】
抗体およびこれを含む組成物(例、薬学組成物)を診断および治療適用に使用可能であり、かかるものとして治療または診断キットに含まれる。
【0114】
本明細書で使用される「薬学的に許容可能な担体」は、生理的に両立する任意およびすべての溶媒、分散媒、コーティング物、抗菌、抗真菌剤、等張剤、吸収遅延剤、その他薬物の製造に通常使用される担体、賦形剤、添加剤などからなる群より選択された1種以上であってもよい。好ましくは、前記担体は、静脈内、筋肉内、皮下、非経口、脊髄または表皮投与に好適な担体であってもよい(例、注射または注入により)。
【0115】
本発明の組成物は、当分野で公知の多様な方法により投与される。熟練者に理解されるように、投与経路および/または様相は、所望の結果に応じて変化する。本発明の化合物を特定の投与方法で投与するために、前記化合物をその不活性化を防止する物質でコーティングしたり共に投与することが必要でありうる。例えば、前記化合物を好適な担体、例えば、リポソームや希釈剤内で対象体に投与される。薬学的許容希釈剤は、食塩水および水性緩衝液を含む。薬学担体は、滅菌水性液や分散液、および滅菌注射液や分散液の臨時的な製造物用滅菌粉末を含む。そのような薬学的活性物質用培地と製剤の使用は、当該分野に公知である。
【0116】
用語「非経口投与」および「非経口投与される」は、本発明で使用されるように、腸管および局所外の投与方式を指し示すもので通常注射によるもので、静脈内、筋肉内、動脈内、髄膜内、関節腔内、眼内、心臓内、皮内、腹腔内、経器官内、皮下、角皮下、関節内、関節腔下、クモ膜下、脊髄内、硬膜外および胸骨内注射と注入を含む。
【0117】
このような組成物はまた、保存剤、湿潤剤、エマルジョン剤、および分散剤のような補助剤を含む。微生物存在の防止は、前記滅菌過程によって、およびパラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸などのような多様な抗菌および抗真菌剤を含むことによって行われる。糖、塩化ナトリウムなどのような等張剤を前記組成物に含ませることが好ましい。また、注射用薬学形態を長期間吸収させることは、アルミニウムモノステアレートとゼラチンのような吸収を遅延させる製剤を含むことによって行われる。選択された投与経路と関係なく、本発明の化合物は、適切な水和形態および/または本発明の薬学組成物で使用できるが、当該分野における熟練者に公知の通常の方法で薬学許容投薬形態に製剤化される。
【0118】
本発明の薬学組成物において、活性成分の実際の投薬水準は、特定患者の所望の治療的反応を達成するのに効果的な量、組成および投与様相を患者に毒性的でないように得るために変化可能である。選択された投与水準は、使用される本発明の特定組成物の活性、投与経過、投与時間、使用される特定の化合物の排出速度、治療期間、使用される特定の組成物と組み合わせ使用される他の薬物、化合物および/または物質、治療される患者の年齢、性別、体重、状態、一般的健康および前の医学履歴、および医学分野に公知の他の要素を含む多様な躍動学的要素にかかっている。
【0119】
前記投与対象患者は、ヒト、サルなどの霊長類、マウス、ラットなどの齧歯類などのような哺乳類、およびこれらから分離された細胞、組織、体液(例えば、血液など)およびこれらの培養物から選択されたものであってもよい。