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特開2021-130797コンクリート接着用の二液混合型接着剤およびコンクリート補強方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-130797(P2021-130797A)
(43)【公開日】2021年9月9日
(54)【発明の名称】コンクリート接着用の二液混合型接着剤およびコンクリート補強方法
(51)【国際特許分類】
   C09J 163/00 20060101AFI20210813BHJP
   C08G 59/50 20060101ALI20210813BHJP
   E04G 23/02 20060101ALI20210813BHJP
【FI】
   C09J163/00
   C08G59/50
   E04G23/02 D
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2020-28157(P2020-28157)
(22)【出願日】2020年2月21日
(11)【特許番号】特許第6816319号(P6816319)
(45)【特許公報発行日】2021年1月20日
(71)【出願人】
【識別番号】591063453
【氏名又は名称】日進化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】特許業務法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】深田 成史
【テーマコード(参考)】
2E176
4J036
4J040
【Fターム(参考)】
2E176AA01
2E176BB29
4J036AD08
4J036AF01
4J036AH00
4J036DA05
4J036DB06
4J036DC03
4J036DC05
4J036DC06
4J036DC09
4J036DC10
4J036DC14
4J036DC18
4J036DC26
4J036FA01
4J036FA11
4J036FB09
4J036FB12
4J036FB13
4J036JA06
4J040EC061
4J040HC04
4J040HC05
4J040JA01
4J040JA13
4J040JB02
4J040KA16
4J040LA07
4J040MA06
4J040MB05
4J040NA12
(57)【要約】
【課題】特性の良好なコンクリート接着用の二液混合型接着剤を提供する。
【解決手段】エポキシ樹脂を含む主剤と、ジアミン系化合物とポリアミン系化合物とを含む硬化剤と、からなるコンクリート接着用の二液混合型接着剤において、ジアミン系化合物として、メタキシレンジアミン誘導体およびポリオキシプロピレンジアミンを含み、ポリアミン系化合物として、脂肪族ポリアミンまたは脂環式ポリアミンを含み、硬化剤中に、イソホロンジアミンを含有しない。かかる二液混合型接着剤を用いることにより、既設コンクリートと増厚コンクリートとの付着強度を向上させ、また、打設に鉄筋を用いた場合において鉄筋の防せい性を向上させ、良好なコンクリート補強を行うことができる。また、硬化剤として、毒劇物であるイソホロンジアミンを用いることなく、既設コンクリートと増厚コンクリートとの付着強度を高めることができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
主剤と硬化剤とを有し、
前記主剤は、エポキシ樹脂を含み、
前記硬化剤は、ジアミン系化合物と、ポリアミン系化合物とを含み、
前記ジアミン系化合物として、メタキシレンジアミン誘導体およびポリオキシプロピレンジアミンを含み、
前記ポリアミン系化合物として、脂肪族ポリアミンまたは脂環式ポリアミンを含み、
前記硬化剤中に、イソホロンジアミンを含まない、コンクリート接着用の二液混合型接着剤。
【請求項2】
請求項1記載のコンクリート接着用の二液混合型接着剤において、
前記メタキシレンジアミン誘導体は、メタキシレンジアミンのフェノールホルマリン反応物である、コンクリート接着用の二液混合型接着剤。
【請求項3】
請求項1記載のコンクリート接着用の二液混合型接着剤において、
前記メタキシレンジアミン誘導体の含有量は、硬化剤の全量に対し、20質量%以上30質量%以下である、コンクリート接着用の二液混合型接着剤。
【請求項4】
請求項3記載のコンクリート接着用の二液混合型接着剤において、
主剤と硬化剤との配合割合は、重量比において、10:1〜10:3である、コンクリート接着用の二液混合型接着剤。
【請求項5】
(a)主剤と硬化剤とを混合することにより接着剤を調整する工程、
(b)前記接着剤を第1コンクリート上に塗布する工程、
(c)前記第1コンクリート上に第2コンクリートを形成する工程、を有し、
前記主剤は、エポキシ樹脂を含み、
前記硬化剤は、ジアミン系化合物と、ポリアミン系化合物とを含み、
前記ジアミン系化合物として、メタキシレンジアミン誘導体およびポリオキシプロピレンジアミンを含み、
前記ポリアミン系化合物として、脂肪族ポリアミンまたは脂環式ポリアミンを含み、
前記硬化剤中に、イソホロンジアミンを含まない、コンクリート補強方法。
【請求項6】
請求項5記載のコンクリート補強方法において、
前記(a)工程と前記(b)工程の間に、前記第1コンクリート上に、鉄筋を載置する工程を有する、コンクリート補強方法。
【請求項7】
請求項5記載のコンクリート補強方法において、
前記メタキシレンジアミン誘導体は、メタキシレンジアミンのフェノールホルマリン反応物である、コンクリート補強方法。
【請求項8】
請求項5記載のコンクリート補強方法において、
前記メタキシレンジアミン誘導体の含有量は、硬化剤の全量に対し、20質量%以上30質量%以下である、コンクリート補強方法。
【請求項9】
請求項5記載のコンクリート補強方法において、
主剤と硬化剤との配合割合は重量比において、10:1〜10:3である、コンクリート補強方法。
【請求項10】
請求項5記載のコンクリート補強方法において、
前記第1コンクリートの表面温度は、10℃以上30℃以下である、コンクリート補強方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート接着用の二液混合型接着剤およびコンクリート補強方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
コンクリート橋は、優れた耐久性を有し、高速道路や河川用の橋として用いられてきた。しかしながら、例えば、高度経済成長期に建設された高速道路や河川用の橋においては、当時の最高水準の技術により形成されたとは言え、その劣化を補う必要性が生じている。また、災害対策のために、コンクリート橋を高強度に補強することが求められている。
【0003】
このような、コンクリート橋の補強方法としては、床版増厚工法と呼ばれるものがある。床版増厚工法においては、コンクリート橋の床版を切削し、その上に、新しいコンクリートを打設し、新旧のコンクリートを一体化させることによってコンクリート床版を補強する。
【0004】
例えば、特許文献1には、鋼床版の表面に樹脂接着剤を塗布する塗布工程と、前記樹脂接着剤が塗布された前記鋼床版の表面に、表面乾燥飽水状態以下である砂を散布する散布工程と、前記砂が散布された前記鋼床版の表面にコンクリートを打設する打設工程とを備えるコンクリートの施工方法が開示されている。そして、このようなコンクリートの施工方法により、鋼床版とコンクリートとの接着強度を十分に向上させることが容易にできると開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017−115526号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者は、床版増厚工法に用いる接着剤についての研究開発に従事しており、コンクリート接着用の二液混合型接着剤およびこれを用いたコンクリート補強方法を検討している。
【0007】
その研究開発過程において、二液混合型接着剤において、毒劇物を低減しつつ、接着強度(補強強度)を高めることができる接着剤の開発、それを用いたコンクリート補強方法の開発の必要性に直面した。
【0008】
本発明の目的は、毒劇物を低減しつつ、接着強度(補強強度)を高めることができる二液混合型接着剤を提供することにある。
【0009】
また、用いる毒劇物を低減しつつ、接着強度(補強強度)を高めることができるコンクリート補強方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願において開示される発明のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、次のとおりである。
【0011】
[1]本願において開示されるコンクリート接着用の二液混合型接着剤は、主剤と硬化剤とを有し、前記主剤は、エポキシ樹脂を含み、前記硬化剤は、ジアミン系化合物と、ポリアミン系化合物とを含む。そして、前記ジアミン系化合物として、メタキシレンジアミン誘導体およびポリオキシプロピレンジアミンを含み、前記ポリアミン系化合物として、脂肪族ポリアミンまたは脂環式ポリアミンを含み、前記硬化剤中に、イソホロンジアミンを含まない。
【0012】
[2]本願において開示されるコンクリート補強方法は、(a)主剤と硬化剤とを混合することにより接着剤を調整する工程、(b)前記接着剤を第1コンクリートに塗布する工程、(c)前記第1コンクリート上に第2コンクリートを増厚する工程、を有する。前記主剤は、エポキシ樹脂を含み、前記硬化剤は、ジアミン系化合物と、ポリアミン系化合物を含む。そして、前記ジアミン系化合物として、メタキシレンジアミン誘導体およびポリオキシプロピレンジアミンを含み、前記ポリアミン系化合物として、脂肪族ポリアミンまたは脂環式ポリアミンを含み、前記硬化剤中に、イソホロンジアミンを含まない。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、二液混合型接着剤において、毒劇物を低減しつつ、接着強度(補強強度)を高めることができる。また、コンクリート補強方法において、用いる毒劇物を低減しつつ、接着強度(補強強度)を高めることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(実施の形態1)
以下に図面を参照しながら本実施の形態を説明する。なお、以下の説明においてA〜Bは、A以上B以下を示すものとする。
【0015】
本実施の形態の接着剤は、コンクリート接着用の二液混合型接着剤であり、主剤(第1液)と、硬化剤(第2液)とを有する。ここで、本明細書において、二液混合型接着剤とは、主剤と硬化剤とを混合する前の状態および混合した後の状態の双方を含むものとする。
【0016】
(主剤)
主剤としては、エポキシ樹脂を用いることができる。エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型液状エポキシ樹脂、ビスフェノールF型液状エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型液状エポキシ樹脂、ノボラック型液状エポキシ樹脂、脂肪族型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂などを用いることができる。中でも、ビスフェノールA型液状エポキシ樹脂とビスフェノールF型液状エポキシ樹脂の混合物を用いることが好ましい。
【0017】
ビスフェノールA型液状エポキシ樹脂にビスフェノールF型液状エポキシ樹脂を添加することにより、粘度を低下させることができ、希釈剤の使用量を少なくすることができる。
【0018】
エポキシ樹脂の割合は、主剤と硬化剤とを混合した混合後接着剤の全量に対し、30〜50質量%程度とすることが好ましい。具体的に、主剤と硬化剤とを混合した混合後の接着剤の全量に対し、ビスフェノールA型液状エポキシ樹脂は、20〜30質量%程度、ビスフェノールF型液状エポキシ樹脂は、10〜20質量%程度とすることが好ましい。
【0019】
主剤として、希釈剤を添加してもよい。希釈剤は、前述したように、粘度を調節するために用いられる。希釈剤としては、モノまたはジグリシジルエーテル系の反応性希釈剤を用いることが好ましい。このような反応性希釈剤としては、1,6−ヘキサンジオールモノまたはジグリシジルエーテル、アルキルグリシジルエーテルなどを用いることができる。中でも、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテルは二官能タイプの希釈剤であり、単官能タイプに比べ樹脂の性能低下を抑制することができる。また、低毒性、低揮発性であり、希釈剤として用いて好ましい。希釈剤の割合は、主剤の全量に対し、5〜15質量%程度とすることが好ましい。
【0020】
主剤として、充填剤を添加してもよい。充填剤は、例えば、接着層の強度や耐久性を向上させるために用いられる。充填剤としては、例えば、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、シリカ、クレー、タルクなどを用いることができる。中でも、炭酸カルシウムは、白色度が高く体質顔料として優秀であるだけでなく、粒度調整された物は硬化物物性の低下を抑制することが確認できたため、充填剤として用いて好適である。充填剤の割合は、主剤の全量に対し、40〜60質量%程度とすることが好ましい。なお、充填剤を樹脂中に多く(20%以上)配合する場合、沈降や凝集を懸念する必要がある。今回は特に凝集対策に粒子同士が電気的に反発するように、炭酸カルシウム粒子に特殊処理を施した物を使用している。特殊処理としては、脂肪酸処理などを施すことができる。脂肪酸処理の中でも、ステアリン酸(C18)処理、パルチミン酸(C16)処理、ラウリン酸(C12)処理など飽和脂肪酸処理を施すことが好ましい。
【0021】
主剤として、その他の添加剤を添加してもよい。その他の添加剤としては、例えば、カップリング剤、消泡剤、増粘材、顔料などを挙げることができる。カップリング剤としては、施工面の表面改質機能を有するものを用いることが好ましく、例えば、シランカップリング剤、特に末端がエポキシドとなっているγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランはエポキシ樹脂接着剤の付着性に関し有効である。消泡剤は炭化水素油脂であり、多くは常温で無色無臭透明である。増粘剤としてはヒュームドシリカが有効である。ヒュームドシリカは親水型、疎水型に分けられる。親水型ではシラノール(R−Si−OH)の水酸基がエポキシ樹脂中の水酸基と水素結合を形成し、系の増粘に有用である。疎水型で構造中にシロキサン結合(−Si−O−Si)の繰り返し基を含む物は、増粘の効果が高い。その他の添加剤の割合は、主剤の全量に対し、1質量%未満とすることが好ましい。
【0022】
(硬化剤)
硬化剤としては、アミン系化合物を用いることができる。ここで、本実施の形態においては、硬化剤として、ジアミン系化合物とポリアミン系化合物の混合物を用いる。本明細書において、ポリアミン系化合物とは、アミノ基を3つ以上含む化合物を言う。
【0023】
ジアミン系化合物としては、メタキシレンジアミン誘導体およびポリオキシプロピレンジアミンを用いることが好ましい。
【0024】
メタキシレンジアミン誘導体としては、例えば、フェノールホルマリン反応物、即ちマンニッヒ反応生成物などを用いることができる。中でも、メタキシレンジアミンのフェノールホルマリン反応物は、マンニッヒ塩基により低温硬化性、対薬品性を発現するため用いて好適である。
【0025】
メタキシレンジアミンのフェノールホルマリン反応物は、以下の(化1)のように示すことができる。
【0026】
【化1】
【0027】
なお、R1−NH−R2は、例えば、メタキシレンジアミンであり、R3CH=Oは、例えば、ホルムアルデヒドであり、カッコ内の化合物は、例えば、フェノールである。また、上記(化1)において、各種添加剤との補助反応が生じる場合がある。また、フェノールの付加の場合には、補助反応としてベッティ反応が生じ得る。
【0028】
メタキシレンジアミン誘導体の割合は、硬化剤の全量に対し、20〜30質量%程度とすることが好ましい。ポリオキシプロピレンジアミンの割合は、硬化剤の全量に対し、20〜30質量%程度とすることが好ましい。
【0029】
また、ポリアミン系化合物としては、脂肪族ポリアミンまたは脂環式ポリアミンを用いることが好ましい。ポリアミン系化合物の割合は、硬化剤の全量に対し、20〜30質量%程度とすることが好ましい。ポリアミン系化合物としては、変性物であってもよい。
【0030】
エポキシ〜アミン硬化物で高付着及び安定性、高機械強度を得るには、従来はメタキシレンジアミンやイソホロンジアミンなどの安価で高性能な化合物が広く使用されていた。特に、前述の2化合物は優秀であり、硬化物改質の有効な手立てであった。だが、広く使用される故に毒性・危険性も広く知られ、毒劇物としての指定を受ける様になった。
【0031】
なお、メタキシレンジアミンのフェノールホルマリン反応物は毒劇物指定を受けていない。
【0032】
このように、メタキシレンジアミン誘導体およびポリオキシプロピレンジアミンを用いることで、毒劇物であるイソホロンジアミンを用いることなく、接着強度を高めることができる。
【0033】
硬化剤として、硬化促進剤を添加してもよい。硬化促進剤としては、フェノール系化合物、第3級アミンなどを用いることができる。フェノール系化合物としては、例えば、p−tert−ブチルフェノール、などを用いることができる。従来から用いられるフェノール、クレゾールなども安価で硬化促進効果が高いが、毒劇物であり、樹脂設計の安全上の思想からこれらを排除している。第3級アミンとしては、例えば、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、3−(アミノメチル)ベンジルアミンなどを用いることができる。硬化促進剤の割合は、硬化剤の全量に対し、10〜25質量%程度とすることが好ましい。
【0034】
主剤として、希釈剤を添加してもよい。希釈剤としては、主剤に用いられる希釈剤と同様の物を用いることができる。
【0035】
硬化剤として、その他の添加剤を添加してもよい。その他の添加剤としては、例えば、染料などを挙げることができる。染料としては、例えば、アゾ系染料を用いることができる。その他の添加剤の割合は、主剤の全量に対し、0.5質量%未満とすることが好ましい。染料を配合して接着剤を着色する理由は、次の通りである。白色が標準である下地コンクリートに接着剤を塗布した際に、塗布量の均一性を管理するには、着色された接着剤の濃淡を目視で確認することが簡単であり、有効である。無色透明や白色では、接着剤塗布の均一性(濃淡)を目視で管理することは困難である。
【0036】
主剤と硬化剤との配合割合は重量比において、10:1〜10:3とすることが好ましい。
【0037】
(コンクリート補強方法)
次いで、上記主剤と硬化剤を混合した接着剤(二液混合型接着剤)を用いたコンクリート補強方法について説明する。
【0038】
st1)上記主剤と硬化剤を上記配合割合で混合し、接着剤を調整する。
【0039】
st2)上記接着剤を、既設コンクリートに塗布する。塗布方法としては、例えば、スプレー塗布法を用いることができる。なお、既設コンクリートの表面の脆い層を予め剥離した後、接着剤を塗布してもよい。
【0040】
st3)次いで、増厚コンクリートを打設する。増厚コンクリートの打設は、接着剤の硬化前に行う。例えば、接着剤を塗布後、90分以内(春秋型・下地温度20℃)に増厚コンクリートを打設することが好ましい。
【0041】
なお、既設コンクリート上に、格子状の鉄筋を載置した後、増厚コンクリートを打設してもよい。
【0042】
(実施例1)
表1に示す成分の主剤および硬化剤を用いて、増厚コンクリートを打設した。具体的には、表1に示す主剤と硬化剤を10:2の重量比で混合し、30cm×30cmで厚さ10cmのコンクリート材上にハケを用いて塗布した直後に増厚コンクリートを厚さ5cmで打設し、室温(23℃)で3日間放置し、試料とした。
【0043】
コンクリート材と増厚コンクリートの界面の付着強度を試験した。試験としては、構造物施工管理要領(東・中・西日本高速道路株式会社規格)の試験法434−2010に準拠した試験を行った。試験の結果、コンクリート材(既設コンクリートに対応)と増厚コンクリートの界面の付着強度が2.0N/mm2以上であった。これにより、付着強度が1.0N/mm2以上である基準を満たすことが判明した。
【0044】
【表1】
【0045】
(実施例2)
表1に示す成分の主剤および硬化剤を混合した接着剤の防錆試験を行った。具体的には、表1に示す主剤と硬化剤を10:2の重量比で混合し接着剤とした。試験としては、構造物施工管理要領(東・中・西日本高速道路株式会社規格)における鉄筋防錆の性能照査基準に定められた試験方法(一般社団法人日本建築学会鉄筋コンクリート補修用防せい材の品質基準(案))に準拠した試験を行った。
【0046】
処理部と未処理部において防せい率はそれぞれ50%以上、−10%以上であり、基準値を満たすことが判明した。
【0047】
このように、本実施の形態の接着剤を用いて増厚コンクリートを打設することにより、既設コンクリートと増厚コンクリートとの付着強度を向上させ、また、打設に鉄筋を用いた場合において鉄筋の防せい性を向上させ、良好なコンクリート補強を行うことができることが判明した。
【0048】
また、表1に示す接着剤は、毒劇物であるイソホロンジアミンを含んでいない。イソホロンジアミンの含有量は、硬化剤の全量に対し、1質量%未満である。また、イソホロンジアミンの含有量は、主剤と硬化剤とを混合した混合後接着剤の全量に対し、1質量%未満である。
【0049】
また、表1に示す接着剤は、フェノールホルマリン反応の残渣としてメタキシレンジアミンを含んでいるものの、その含有量は、硬化剤の全量に対し、8質量%未満であり、主剤と硬化剤とを混合した混合後の接着剤の全量に対し、8質量%未満である。このように含まれるメタキシレンジアミンは許容範囲である。なお、許容範囲内であれば、添加物としてのメタキシレンジアミンを含んでいてもよい。メタキシレンジアミンの含有量は、主剤と硬化剤とを混合した混合後接着剤の全量に対し、8質量%未満、より好ましくは6質量%未満、さらに好ましくは1質量%未満である。
【0050】
(実施の形態2)
本実施の形態においては、本発明者らが検討したイソホロンジアミンの代替品の検討結果について詳細に説明する。
【0051】
硬化剤を設計するにあたり、主成分として表2の化合物を考えた。MXDA(メタキシリレンジアミン:閾値<8%)、IPDA(イソホロンジアミン:閾値<6%)は毒劇物ではあるが、MXDA(メタキシリレンジアミン)は8%まで、IPDA(イソホロンジアミン)は6%までの含有であれば許容され、また、過去の実績が非常に良好であるので、検討の対象とした。
【0052】
また、芳香族アミンはフェニルジアミン類が剛直で優秀な硬化物を形成するが、フェニルジアミン類はそれだけで毒劇物で無いものの、発癌性の疑われる物質であり、設計思想から逸脱する。また、芳香族アミンは固形であることが多く、溶融して他アミンと混合して用いるが、硬化剤の粘度目標(23℃)が主剤よりも低く、多用はできないので主成分からは除外した。主剤は配合粘度目標(23℃)が存在したので、配合は硬化剤よりも先に仮配合(表1の主剤:成分・含有量参照)が決定していた。この主剤に合わせて硬化剤配合を検討した。
【0053】
【表2】
【0054】
表2はアミン硬化剤の中で常温反応する物の内、過去近似用途及び他用途などで実績の有る物を挙げている。
【0055】
上記表2に示す成分を用い硬化剤を調整し、実施例1と同様にして、増厚コンクリートを打設した。具体的には、表1に示す主剤と表2に示す成分を用いた硬化剤を10:2の重量比で混合し、30cm×30cmで厚さ10cmのコンクリート材上にハケを用いて塗布した直後に増厚コンクリートを厚さ5cmで打設し、室温(23℃)で数日間放置(養生)し、試料とした。
【0056】
試料(主剤-硬化剤の反応硬化物)の試験方法としては日本土木学会のアンカー用樹脂の規格(JSCE541)を参考に、性状目標としては東日本高速道路(株)・中日本高速道路(株)・西日本高速道路(株)の構造物施工管理要領 表3−10−1 注入工法のエポキシ樹脂規格値(例)を参考とした。表3に、試験項目、試験方法、試験条件、規格を示す。
【0057】
【表3】
【0058】
また、以下に示す実施例A〜Cおよび比較例A,Bについて、表3に示す各種試験およびNEXCO試験方法434の試験を行った。結果を、表4および表5に示す。
【0059】
(比較例A)
表1に示す硬化剤のうち、メタキシレンジアミン誘導体を脂環式アミン(ノルボルナンジアミン:NBDA)に代えて、実施例1と同様に増厚コンクリートを打設し、表5に示す試験を行った。脂環式アミン(ノルボルナンジアミン:NBDA)を用いた試料においては、480万回の繰返し引張負荷において破断し、その後の付着強度の試験を行うことができなかった。脂環式アミン(ノルボルナンジアミン:NBDA)を用いた試料は硬く、剛直であるが靭性が不十分であるため、上記結果となったと推測する。
【0060】
(比較例B)
表1に示す硬化剤のうち、メタキシレンジアミン誘導体を変性ポリアミン(アミンアダクト型、アミン−エポキシアダクト)に代えて、実施例1と同様に増厚コンクリートを打設し、表5に示す試験を行った。変性ポリアミン(アミンアダクト型、アミン−エポキシアダクト)を用いた試料においては、480万回の繰返し引張負荷においては変状無しであったものの、その後の付着強度の試験結果が0.6N/mmとなり、目標値である1.0N/mmを下回った。アミンアダクト型の変性ポリアミンは柔軟であり、衝撃吸収能力は高いがコンクリートとコンクリートを付着させる接着剤としては柔らかすぎるようであった。また、湿潤面への接着は不良だった。
【0061】
(実施例A)
上記比較例A、Bに対し、表1に示す硬化剤のように、メタキシレンジアミン誘導体を硬化剤の全量に対し20〜30質量%用い、実施例1と同様に増厚コンクリートを打設し、表5に示す試験を行った場合には、480万回の繰返し引張負荷においては変状無しであり、かつ、その後の付着強度の試験結果が2.0N/mmであり、目標値である1.0N/mmを充分上回った。
【0062】
(実施例B)
また、メタキシレンジアミン誘導体を硬化剤の全量に対し15質量%用い、実施例1と同様に増厚コンクリートを打設し、表5に示す試験を行った場合には、480万回の繰返し引張負荷においては変状無しであり、かつ、その後の付着強度の試験結果が1.2N/mmであり、目標値である1.0N/mmを上回ったものの、実施例Aの場合より480万回の繰返し引張負荷後の付着強度が低下した。また、複数の試料を用いて480万回の繰返し引張負荷後の付着強度を行ったところ、ばらつきが大きく、平均値では、目標値である1.0N/mmをクリアするものの、中には、目標値である1.0N/mmを僅かに下回るものが確認された。
【0063】
(実施例C)
また、メタキシレンジアミン誘導体を硬化剤の全量に対し35質量%用い、実施例1と同様に増厚コンクリートを打設し、表5に示す試験を行った場合には、480万回の繰返し引張負荷においては変状無しであり、かつ、その後の付着強度の試験結果が1.9N/mmであり、目標値である1.0N/mmを充分上回った。但し、本試料は硬い傾向があったため、衝撃強度を試験したところ、実施例Aのものと比べて衝撃強度が低いことが判明した。このように、本試料においては、硬いが故に靭性が不安定となる傾向が確認された。
【0064】
【表4】
【0065】
【表5】
【0066】
(他の比較例)
上記比較例A,Bにおいては、表2のうちNBDA、アミン−エポキシアダクトを用いた場合について詳述したが、他の材料(MXDA、IPDAを除く)を用いた場合においても、充分な特性が得られず、実施例Aより良好なものは得られなかった。また、MXDA、IPDAを用いた場合には、特性は良好となるものの、それぞれの含有量を硬化剤の全量に対し、8質量%未満、6質量%未満とすることはできなかった。
【0067】
(まとめ)
このように、上記実施例の硬化剤によれば、毒劇物であるイソホロンジアミンやメタキシレンジアミンを極力少なくすることができ、接着強度を高めることができる。また、メタキシレンジアミン誘導体の硬化剤の全量に対する含有量を15〜35質量%、より好ましくは、20〜30質量%とすることで、その特性をさらに向上させることができる。
【0068】
(実施の形態3)
例えば、表1に示す主剤および硬化剤は、各季節(春、夏、秋、冬)に適用可能である。季節によって主剤および硬化剤の粘度や反応速度が変化するため、例えば、季節により、硬化促進剤の添加量を調整することにより、反応速度を最適化してもよい。
【0069】
例えば、表1に示す硬化促進剤であるp−tert−ブチルフェノール(10〜20%)について、春秋型の硬化剤としては、その含有量を3〜7%に、夏型の硬化剤としては、その含有量を0〜2%に、冬型の硬化剤としては、その含有量を14〜20%にしてもよい。
【0070】
また、2,4,6トリスジメチルアミンを硬化促進剤として使用しても良い。
【0071】
なお、硬化促進剤は硬化物の最終的な主要構造に大きく影響しないため、上記の様に季節により添加量(含有量)を調整しても、硬化物の最終性能は季節型の種類に左右されない。
【0072】
また、春秋型の二液混合型接着剤においては、好適な使用温度は、10〜30℃程度であり、夏型においては、既設コンクリートの表面温度が40℃以上になっても適用可能であり、好適な使用温度は、25〜45℃程度である。また、冬型においては、既設コンクリートの表面温度は10℃以下になっても適用可能であり、好適な使用温度は、5〜20℃程度である。
【0073】
(実施の形態4)
例えば、表1においては、主剤および硬化剤よりなる二液混合型接着剤について説明したが、主剤、硬化剤および希釈剤の三液を用いてもよい。
【0074】
希釈剤としては、アルコール類、具体的には、エタノール類を用いることができる。アルコール類は、エポキシ樹脂との相溶性が低いが、硬化剤との相溶性が良く、希釈剤として用いることができる。このような希釈剤は、低毒性であり、例えば、トルエンやキシレンなどの有機溶媒を用いる場合より有用である。
【0075】
例えば、冬において、主剤や硬化剤の粘度が高くなる場合において、希釈剤を用いることにより、接着剤の低粘度化を図ることができ、低粘度化による施工性の改善及び機械施工(吹付)の改善を図ることができる。
【0076】
以上、本発明者によってなされた発明をその実施の形態および実施例に基づき具体的に説明したが、本発明は上記実施の形態および実施例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。