【解決手段】被着材界面の液体3の量を制御する接着と剥離の方法において、被着材の少なくとも1つが複数の細孔4を有し、その細孔4を通して被着材界面に液体3を供給して被着材間に接着力を生じさせる接着工程と、その細孔4を通して被着材界面の液体3を吸い戻してまたは被着材界面の液体3をさらに増加させて剥離させる剥離工程とからなる接着と剥離のサイクルを繰り返すことを特徴とする。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
図1は、接着と剥離の繰り返し工程の方法を説明する図である。細孔を有する被着材を使用して被着材界面の液体の量を制御し、接着力を変化させる方法を示す。
【0016】
図1(A)は、一方の被着材(多孔体被着材)1が貫通した直行細孔を有し、もう一方が平板の平板被着材2であることを示す。
図1(A)の上側が多孔体被着材1であり、複数の細孔4が穿孔されている。
図1(A)の下側が平板被着材2であり、本発明では平滑のガラス板などである。
図1(A)では被着材間には液体は供給されていない。
図1(B)は、多孔体被着材1の細孔4を通して多孔体被着材1および平板被着材2の界面に液体3を浸み出させ、被着材間に接着力を生じさせる図を示す。
図2(B)の細孔4には、液体3が供給されている。この接着力を生じさせる操作を接着工程とする。
【0017】
図1(C)は、多孔体被着材1の細孔4を通して被着材間の液体3を吸い戻し、被着材界面の濡れを消失させることによって被着材を剥離した図を示す。このとき、多孔体被着材1と平板被着材2の界面には接着に寄与する液体3が存在しないか、ほとんど残っていない状態である。この液体3を吸い戻す操作を第1の剥離工程とする。
図1(D)は、多孔体被着材1の細孔4を通して被着材間の液体3の量を増大させ、界面の接着力を低下させることによって被着材を剥離した図を示す。被着材間の液体3の量を増加させて接着力を弱める操作を第2の剥離工程とする。
【0018】
これらの操作において、
図1(B)と
図1(C)の操作を交互に繰り返す方法、あるいは
図1(B)と
図1(D)の操作を交互に繰り返す方法により、接着と剥離のサイクルを繰り返すことができる。
すなわち、本発明の接着と剥離の繰り返し方法は、2つ以上の被着材の少なくとも1つが細孔を有し、この細孔を通して被着材界面の液体の量を変化させて接着力を変化させるものである。
【0019】
図2は、平板の界面が液体で濡れた状態を平板の水平方向から見た図である。図中θは平板表面での液体の接触角、図中hは液体の膜厚を示す。
一般的に、毛管内を濡らす液体の吸引力は、ラプラスの式で示される(文献3:近澤他、界面化学(丸善出版))。平板の界面に存在する液体の吸引力を接着力とし、ラプラスの式を液体の表面張力γ、被着材界面の液体の接触角θ、被着材界面の液体の膜厚hで表すと式(1)となる。
ΔP=2γCosθ/h ・・・・(1)
【0020】
ここで、ΔPは液体による平板間の接着力である。
式(1)は、平板間の接着力が界面に存在する液体の膜厚hに依存し、膜厚hが薄い程強い接着力が得られることと示している。
【0021】
すなわち、液体3を被着材の界面に展開して膜厚hに対応した接着力を発現させる接着工程と、被着材の界面に展開した液体を吸い戻して、または界面の液体の膜厚hを増加させて接着力を低下させる剥離工程により接着と剥離の方法を実施することができる。
【0022】
多孔体被着材1の細孔4の構造は、細孔4を通して接着面に液体3を浸み出すことができるものであれば良い。例えば、多孔体被着材1に貫通孔を開け、貫通孔を通して液体3を多孔体被着材1に供給し、接着面に浸み出させる。液体3にもとづく接着力は、被着材界面の膜厚hが薄いほど高くなることから、微量の液体3を接着面に均一に浸み出させる必要がある。
【0023】
また、接着面の細孔4の数が少ないと、接着面全面に液体3を拡げることが困難となることから、接着面に複数の細孔4を有することが好ましい。細孔4のサイズは限定されるものではないが、液体3の供給量を微調整し、被着材界面の液体の薄い層で接着力を生じさせるためには平均で1mm以下である必要があり、平均で50μm以下であることが好ましい。多孔体被着材1に複数の細孔4を設けることが困難な場合は接着面に溝を掘って流路とし、流路に沿って接着面に液体を拡げることもできる。
【0024】
さらに、細孔4を有する多孔体被着材1の材質は、目的とする細孔4が形成されていればどのようなものでも良いが、もう一方の平板被着材2と密着できることが好ましい。この点から、もう一方の平板被着材2の表面に対応して変形できる、柔軟性のある多孔体被着材1とすることが好ましい。
式(1)で示される様に、被着材の表面は、液体3の接触角θが小さく濡れ性が高いことが望ましい。液体3に水や水溶液を用いる場合は、例えば被着材表面にアナターゼ型酸化チタンの膜を形成し、紫外線を照射して超親水性表面にすると強い接着力が得られる(文献4:R.Wang他,Nature 388,431(1997))。
【0025】
被着材の界面に展開する液体3は、多孔体被着材1の細孔4を通して浸み出しあるいは吸い戻しができればどのようなものを用いてもよいが、式(1)で示される様に、表面張力γの高い液体を用いることが好ましい。この点では、水が優れた特性を有する。
水を弾きやすい固体に対して接着力を得るためには、水に界面活性剤などを添加して式(1)の接触角θを小さくする操作や、その固体を良く濡らす水以外の液体を利用することが好ましい。
【0026】
被着材を液体3で接着させる力は、被着材を液体で静止させる力ともいえるため、接着力は液体の流動性や粘性にも大きく依存する。このため、被着材の細孔の中で流動性を示す範囲で流動性や粘性を制御することも好ましい。
【0027】
また、多孔体被着材1に形成された細孔4への液体3の供給は、どのようなものを用いても構わないが、膜厚を高精度に制御し、可能な限り薄くする必要がある。液体3の供給ラインに気体が存在すると、気体体積の変動によって供給量の高度な制御が困難となることから、液体の供給ラインから気体を完全に除去することが好ましい。多孔体被着材1と平板被着材2の界面の平滑性や密着性が優れている場合は、細孔4内の液体の吸引を利用して接着力を上げることもできる。このとき、界面の過剰な液体3を細孔4に吸い戻す効果も得られる。
【0028】
ここで、送液と吸液の動作を繰り返す液体3の供給および吸引のための装置(液体供給装置)は、シリンジ(注射筒)を利用し、プランジャー(可動式の押子)の往復動作で液体の送液および吸液を行い、プランジャーの移動は、機械制御で高度に行う。
【0029】
この液体供給装置は、容積の異なる複数のシリンジ、例えば大容量のシリンジと小容量のシリンジを用いて、多孔体被着材1の接着面付近までの液体3の供給は大容量シリンジを用いて高速に行い、その後の接着面への液体3の浸み出しおよび剥離の操作は小容量シリンジを用いて高精度で行うことが好ましい。送液量と精度は用いる被着材のサイズに依存するが、例えば、容量が5mLと0.25mLの2つのシリンジを用いて、最小送液量1μLで操作する。
【0030】
図3は、液体供給装置を使用した接着と剥離の一連の操作を説明する図である。
図3(A)は、多孔体被着材1を下側、平板被着材2を上側に配置し、多孔体被着材1の下側に液体供給装置10を配置している。液体供給ライン5には大容量シリンジ6と小容量シリンジ7が接続され、それぞれのシリンジ内の液量を変化させるプランジャー8とプランジャー9は、高精度で往復移動させることができる。
図3(A)において、液体3は液体供給ライン5の一部および大容量シリンジ6と小容量シリンジ7を満たしている。
なお、
図3(B)〜(F)は、
図3(A)と液体3の供給個所が異なるだけで、構成は同じである。
【0031】
図3(B)は、大容量シリンジ6のプランジャー8を押し出して液体供給ライン5に液体3を供給し、多孔体被着材1の表面付近まで液体3を満たした状態を示している。
次の
図3(C)は、小容量シリンジ7のプランジャー9を押し出して液体供給ライン5に液体3を微量供給し、多孔体被着材1の表面に液体を浸み出させた状態を示している。
次の
図3(D)は、多孔体被着材1を上に押し上げ平板被着材2と接触させ、相対する被着材が接着して静止した状態を示している。この
図3(B)〜(D)の操作は接着工程となる。
また、接着工程は、多孔体被着材1を平板被着材2に接触させた後、多孔体被着材1から液体3を浸み出させてもよい。この場合、
図3(B)の状態から、
図3(D)に示すように多孔体被着材1を押し上げて平板被着材2と接触させ、
図3(C)の液体3を界面に浸み出させた状態となる。
【0032】
図3(E)は、プランジャー9を引き戻して被着材界面の液体3を吸い戻した状態を示している。この操作によって被着材界面の接着力を低下させ、相対する被着材が剥離される。
図3(F)は、プランジャー9を更に引き戻して多孔体被着材1中の液体3を液体供給ライン5に吸い戻した状態を示している。この
図3(E)および(F)の操作は第1の剥離行程となる。
図3(F)は、
図3(B)と同じ状態であり、再度接着工程に移行する場合、
図3(C)から始まる接着と剥離の操作を、多孔体被着材1を移動させて平板被着材2の別の場所で行うこともできる。
【0033】
本発明によれば、多孔体被着材1の細孔4を通して被着材界面の液体3の量を増大させることによって接着力を下げることもできる。この場合の一連の操作は、
図3において
図3(E)を
図3(E’)に置き換えたものとなる。よって、
図3(E’)および(F)の操作は第2の剥離工程となる。
さらに、多孔体被着材1の細孔4から被着材界面に液体3を供給後、液体3の流動性を下げることによって接着力を増大させることもできる。特に、流動性の無い状態にすると強固な接着を得ることができる。
【0034】
ただし、被着材を剥離させる際は、多孔体被着材1の細孔4を利用して接着力を下げる必要がある。この様な操作はどの様な方法を用いても構わないが、温度を上げて液体3を界面に供給後、温度を下げて流動性を下げ、剥離の際には再び温度を上げて界面の液体を細孔4から吸い戻す方法や、多孔体被着材1に設けた別の細孔から別の液体を界面に供給して接着力を変化させる方法などがある。
例えば、一方の細孔から粘性の高い水系の液体を被着材界面に展開して接着し、剥離の際にもう一方の細孔から水を供給し、被着材界面の液体の膜厚を上げると同時に流動性を上げる方法がある。
【0035】
図4は、被着材界面に液体を供給し平板被着材を載置後、被着材を水平方向にスライドさせて被着材界面の液体量を減少させる操作を説明する図である。
図4(A)は、
図3(A)に示す多孔体被着材1、平板被着材2、液体供給装置10等と同じ構成であり、また同じ動作状態であるため、説明は省略する。
図4(B)は、大容量シリンジ6のプランジャー8および小容量シリンジ7のプランジャー9を押し出して液体3を多孔体被着材1に供給し、多孔体被着材1を平板被着材2に接触させて静止した状態である。
図3(D)と比較して、液体量が増加している。
【0036】
図4(C)は、多孔体被着材1および平板被着材2を水平方向に相互にスライドさせて停止した状態である。このとき、被着材間の液体3の一部はスライドした平板被着材2に付着しているため被着材間の液体3は減少し、
図3(D)で示す接着状態と同じ液体量となっている。
接着後の剥離工程は、
図3(E)または
図3(E’)に示した状態と同じでなるため、図およびその説明は省略する。
【0037】
以下、本発明に関する接着力の制御の例を示して具体的に説明するが、本発明はこれらに何ら制限されるものではない。
また、実施例1〜4で使用する液体3は純水である。
【0038】
〔比較例1〕
図5は、多孔体被着材1を下側、平板被着材2を上側に載置後、平板被着材2を引き上げたときの多孔体被着材1に生じる上向きの荷重の時間変化を測定した図である。
縦軸は荷重であり、横軸は時間である。多孔体被着材1の荷重がゼロ目盛りとなるように調整している。測定前は、多孔体被着材1に平板被着材2やその固定具などの荷重がかかっているため、荷重がマイナスの値となっている。平板被着材2を上側に引っ張るにつれて、多孔体被着材1にかかる荷重が減少していることを示す。
比較例1で使用した多孔体被着材1は、表面を鏡面研磨した孔径0.3mm、孔間隔0.6mmのステンレス製パンチングメタル多孔体であり、外形寸法は1cm×1cm角で厚さ0.5mmである。下記の実施例1および2で使用する多孔体被着材1も同じである。
【0039】
多孔体被着材1の被着材を下側、これよりも面積の大きい平板被着材2を上側にして大気中で接着させた後、平板被着材2を上に引っ張った際に多孔体被着材1に生じた荷重の時間変化を測定した。
平板被着材2が離れた後の安定した荷重の値とその前に見られるピーク荷重の値との差が接着力に相当する。
【0040】
図5に示すように、計測開始時の、平板被着材2とその固定具などの荷重がかかっているときにはマイナスの値となるが、平板被着材2を引き上げていくと荷重が減少し、多孔体被着材1と平板被着材2が離れると荷重がゼロとなる。すなわち、多孔体被着材1の荷重のみとなる。
しかし、ゼロになる前に僅かに正の荷重、つまり上向きに引っ張られる力を示したことから、多孔体被着材1と平板被着材2の間に僅かな接着力が生じていたことがわかる。この比較例1では約4g/cm
2の接着力となった。
【0041】
〔実施例1〕
図6は、多孔体被着材1と平板被着材2の表面に液体3を供給し平板被着材2を載置後、過剰な液体3を吸い戻して平板被着材2を引き上げたときの多孔体被着材1に生じた上向きの荷重の時間変化を測定した図である。縦軸は荷重であり、横軸は時間である。
図5と同様に多孔体被着材1の荷重がゼロ目盛りとなるよう調整している。
多孔体被着材1を下側、平板被着材2を上側にして隙間を空けて配置し、液体供給装置10の大容量シリンジ6および小容量シリンジ7の液体3を多孔体被着材1の背面に送り出し、液体3を多孔体被着材1の表面に浸み出させてから平板被着材2を接着させた。その後小容量シリンジ7を戻して多孔体被着材1と平板被着材2の界面の過剰な液体3を吸い戻した後に、平板被着材2を引き上げた際に多孔体被着材1に生じた上向きの荷重の時間変化を測定した。
【0042】
液体供給装置10を多孔体被着材1の下側に装着し、0.18mLの送液操作を行って多孔体被着材1の細孔4から液体3を浸み出させた。多孔体被着材1と平板被着材2を載置させた後、0.09mLの吸液操作を行って過剰な液体3を吸い戻した。
なお、この実施例1の送液量と吸液量は液体供給装置10の設定値であり、被着材界面の液体3の量の増減ではない。平板被着材2を上に引っ張った際に多孔体被着材1に生じた荷重の時間変化を測定した。
平板被着材2が離れた後の安定した荷重の値とその前に見られるピーク荷重の値との差が接着力に相当する。この実施例1では約17g/cm
2の接着力となった。
【0043】
〔実施例2〕
図7は、多孔体被着材1の表面に多くの液体3を浸み出させて、平板被着材2を引き上げた際に多孔体被着材1に生じた上向きの荷重の時間変化を測定した図である。
図7に示す縦軸も荷重であり、横軸も時間である。
図5と同様に多孔体被着材1の荷重がゼロ目盛りとなるよう調整している。
多孔体被着材1の表面に液体3を浸み出させる際、より多くの液体3を多孔体被着材1の表面に浸み出させて平板被着材2を載置させた後、平板被着材2を引き上げた際に多孔体被着材1に生じた上向きの荷重の時間変化を測定した。
【0044】
実施例1と同様に、液体供給装置10を多孔体被着材1の背面に装着し、0.27mLの送液操作を行って多孔体被着材1の細孔4から液体を浸み出させた。その上側から平板被着材2を載置させた後、平板被着材2を上に引っ張った。このときに多孔体被着材1に生じた荷重の時間変化を測定した。
被着材が離れた後の安定した荷重との前に明確なピークが現れず、被着材間に接着力がほとんど生じなかった。
【0045】
〔実施例3〕
図8は、孔径25μm、孔間隔31μmの円形細孔の微細な配列をもつ1cm×1cm角で厚さ1mmのガラス製の多孔体被着材1の表面に液体3を供給し平板被着材2を載置後、過剰な液体3を吸い戻して平板被着材2を引き上げたときの多孔体被着材1に生じた上向きの荷重の時間変化を測定した図である。縦軸は荷重であり、横軸は時間である。
図5と同様に多孔体被着材1の荷重がゼロ目盛りとなるよう調整している。
【0046】
多孔体被着材1を下側、平板被着材2を上側にして隙間を空けて配置し、液体供給装置10の大容量シリンジ6および小容量シリンジ7の液体3を多孔体被着材1の背面に送り出し、液体3を多孔体被着材1の表面に浸み出させてから平板被着材2を接着させた。その後小容量シリンジ7を戻して多孔体被着材1と平板被着材2の界面の過剰な液体3を吸い戻した後に、平板被着材2を引き上げた際に多孔体被着材1に生じた上向きの荷重の時間変化を測定した。
【0047】
液体供給装置10を多孔体被着材1の下側に装着し、0.10mLの送液操作を行って多孔体被着材1の細孔4から液体を浸み出させた。多孔体被着材1と平板被着材2を載置させた後、0.05mLの吸液操作を行って過剰な液体3を吸い戻した。
なお、この実施例3でも送液量と吸液量は液体供給装置10の設定値であり、被着材界面の液体3の量の増減ではない。平板被着材2を上に引っ張った際に多孔体被着材1被着材に生じた荷重の時間変化を測定した。
【0048】
平板被着材2が離れた後の安定した荷重の値とその前に見られるピーク荷重の値との差が接着力に相当する。この実施例3では約41g/cm
2の接着力となった。
なお、実施例1と比較して接着力が大きくなっているのは、ガラス製の多孔体被着材1は、ステンレス製の多孔体被着材1と比較して平面が平滑であり接触面積が大きいこと、細孔4が小さくなって液体3を高精度に制御できること、膜厚hの均一性の向上などによるためである。また、実施例1および2と比較して、横軸の時間が異なるのは、平板被着材2を引っ張る糸の伸びが異なっているためである。
【0049】
[実施例4]
図9は、ガラス板の表面に液体を供給し平板被着材を載置後、ガラス板を水平方向にスライドさせたときに平板被着材の反対方向にかかる引張力をガラス板-平板被着材間にかかる接着力として測定した図である。
この実施例4では、多孔体被着材1ではなく、平板ガラス板(幅4.5cm,長さ15cm)の表面に噴霧器で液体3を平均膜厚で約40μm供給し,直径3cmの円形平板被着材を載置後、平板ガラス板を水平方向に1cm/sの速度でスライドさせたときに、円形平板被着材の反対方向にかかる引張力を平板ガラス板−円形平板被着材間にかかる接着力として測定した。
縦軸は引張力であり、横軸はスライド距離である。スライド速度が1cm/sであるため、横軸全体の時間は10sである。
【0050】
水平方向のスライドによって被着材間の液体量が減少するにつれて引張力が増加し、平板被着材の単位面積あたりで最大約110g/cm
2の接着力が生じたことが確認できた。
図9では、引張力が最大のほぼ一定となった時点でスライド操作を停止しているが、そのままスライドすると引張力は急激に低下する。
【0051】
上記実施例1は、
図3に示す(C)および(D)の多孔体被着材1に平板被着材2を載置した状態で、平板被着材2を引っ張り上げるときの荷重を測定したものである。相対する多孔体被着材1と平板被着材2が静止した状態であれば、この接着力で下側の多孔体被着材1が軽量なものであれば保持できることになる。
【0052】
また、実施例2は、
図3に示す(D)の液体3をさらに増加させた状態(
図3(E’))で、平板被着材2を引っ張り上げるときの荷重を測定したものである。この操作により接着力は弱められるので、多孔体被着材1は、剥離することになる。
さらに、剥離後、多孔体被着材1を平板被着材2の別の場所に移動させて、実施例1の操作が実施されると、接着工程と剥離工程からまた次の接着工程と繰り返すことが可能となる。
【0053】
また、実施例3は、多孔体被着材1の細孔4の穴径を変えて、
図3に示す(C)および(D)の多孔体被着材1に平板被着材2を載置した状態で、平板被着材2を引っ張り上げるときの荷重を測定したものである。
なお、多孔体被着材1の細孔4は、上述したように被着材界面の液体の薄い層で接着力を生じさせるためには平均で1mm以下である必要があり、平均で50μm以下であることが好ましい。また、直行細孔を有するガラス製の多孔体被着材1であれば製造方法の限界である6μm程度が下限となるが、他の材料ではあれば10nmの下限も可能となる。実施例1および実施例3の穴径である0.3mmから25μmの範囲であれば、液体3の量を制御することにより接着力を得ることが確認できた。
【0054】
実施例4は、実施例1〜3に使用した多孔体被着材1を使用していないが、平板ガラス板に液体を供給し、もう一枚の平板ガラス板を載置後、ガラス板を相互に水平方向にスライドさせることよって、引張力が増加し、単位面積あたりの接着力が増加することを測定したものである。
この実施例4は、多孔体被着材1以外から液体量を制御して供給することを想定したものである。ただ、その場合でも接着力を弱める剥離工程としては、多孔体被着材1を使用し、液体量を制御し接着力を弱める。
【0055】
この多孔体被着材1以外から液体3を供給することについて、どのような手法を用いても構わないが、被着材の表面に少量の液体3を効率良く展開させる点から、噴霧器を用いることが好ましい。接着と剥離を繰り返す場合には、一方の被着材に少量の液体3を噴霧してもう一方の被着材を載置し,被着材を水平にスライドさせて強い接着力を得る。その後、多孔体被着材1の細孔から被着材界面に液体を供給し、被着材間の接着力を弱めて被着材を剥離させる。この操作を繰り返すことによって接着と剥離を繰り返すことを想定している。
【0056】
なお、
図3(E)および(E’)の操作は、多孔体被着材1が下降する状態であり、実施例の平板被着材2を引っ張り上げるのとは逆であるが、荷重の測定に対してはどちらが移動しても同じである。
また、比較例1は、液体3が
図3の(A)または(B)の状態で、平板被着材2を多孔体被着材1に載置して平板被着材2を上に引っ張ったときの荷重を測定したものである。
図3(B)に示す状態の計測であれば、液体3を吸い戻した状態の第1の剥離工程に相当する。