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特開2021-130826バイオポリウレタン樹脂及び印刷インキ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-130826(P2021-130826A)
(43)【公開日】2021年9月9日
(54)【発明の名称】バイオポリウレタン樹脂及び印刷インキ
(51)【国際特許分類】
   C08G 18/66 20060101AFI20210813BHJP
   C08G 18/75 20060101ALI20210813BHJP
   C09D 11/102 20140101ALI20210813BHJP
【FI】
   C08G18/66 048
   C08G18/75 010
   C09D11/102ZBP
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2021-85845(P2021-85845)
(22)【出願日】2021年5月21日
(62)【分割の表示】特願2019-514530(P2019-514530)の分割
【原出願日】2018年4月24日
(31)【優先権主張番号】特願2017-87370(P2017-87370)
(32)【優先日】2017年4月26日
(33)【優先権主張国】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002820
【氏名又は名称】大日精化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098707
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 利英子
(74)【代理人】
【識別番号】100135987
【弁理士】
【氏名又は名称】菅野 重慶
(74)【代理人】
【識別番号】100168033
【弁理士】
【氏名又は名称】竹山 圭太
(74)【代理人】
【識別番号】100161377
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 薫
(72)【発明者】
【氏名】美細津 岩雄
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 浩正
(72)【発明者】
【氏名】梅津 基昭
(72)【発明者】
【氏名】後藤 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】夏井 智之
【テーマコード(参考)】
4J034
4J039
【Fターム(参考)】
4J034BA08
4J034CA02
4J034CA04
4J034CA13
4J034CA15
4J034CB03
4J034CB04
4J034CB07
4J034CB08
4J034CC03
4J034CC08
4J034CC12
4J034CC26
4J034CC45
4J034CC52
4J034CC61
4J034CC62
4J034CC65
4J034DA01
4J034DB04
4J034DB05
4J034DB07
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4J034DC35
4J034DC43
4J034DC50
4J034DF01
4J034DF02
4J034DF12
4J034DF16
4J034DF20
4J034DF21
4J034DF22
4J034DG03
4J034DG04
4J034DG06
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4J034DP19
4J034HA01
4J034HA07
4J034HB05
4J034HB06
4J034HB12
4J034HC03
4J034HC09
4J034HC12
4J034HC22
4J034HC35
4J034HC46
4J034HC52
4J034HC61
4J034HC64
4J034HC67
4J034HC71
4J034HC73
4J034JA02
4J034JA30
4J034JA32
4J034JA42
4J034QA03
4J034QA05
4J034QB12
4J034QB14
4J034QC05
4J034RA07
4J039AE04
4J039EA48
4J039FA02
4J039GA03
(57)【要約】
【課題】
特にバイオマスプラスチック基材に対し優れた接着性能を示し、高濃度で含有した顔料の分散性に優れる、印刷インキ用バインダーに有用な、高いバイオマス度のポリウレタン樹脂、これを用いた印刷インキの提供。
【解決手段】
バイオポリオール(A)とイソシアネート(B)とを反応させてなり、(A)は、植物由来成分を含む、ジオール成分(a)とジカルボン酸成分(b)との重合物のバイオポリエステルポリオールで、(a)が、植物由来の、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,10−デカンジオール及びダイマージオールから選ばれる1種以上を含み、(b)が、植物由来のコハク酸と他のジカルボン酸とを含み、植物由来のコハク酸/他のカルボン酸=98/2〜5/95であり、バイオポリウレタン樹脂100質量%に対し、植物由来成分の含有量が35%以上のバイオポリウレタン樹脂及び印刷インキ。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオポリオール成分(A)と、イソシアネート成分(B)とを反応させてなるバイオポリウレタン樹脂であって、
前記バイオポリオール成分(A)は、植物由来の成分を含むジオール成分(a)と、植物由来の成分を含むジカルボン酸成分(b)とを原料に含んでなる、多官能アルコール成分と多官能カルボン酸成分との重合物のバイオポリエステルポリオールであり、
前記ジオール成分(a)が、植物由来の、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,10−デカンジオール及びダイマージオールからなる群から選ばれる少なくとも1種を含み、
前記ジカルボン酸成分(b)が、植物由来のコハク酸又はセバシン酸を含み、
さらに、前記反応成分にポリアミン成分(C)を含む、構造中にウレタンウレア結合を有し、その末端に活性アミノ基を有し、
バイオポリウレタン樹脂100質量%に対して、植物由来成分の含有量が35質量%以上であることを特徴とするバイオポリウレタン樹脂。
【請求項2】
前記末端の活性アミノ基の濃度が、バイオポリウレタン樹脂固形分1g当たりの当量が、15〜100μeq/gである請求項1に記載のバイオポリウレタン樹脂。
【請求項3】
前記イソシアネート成分(B)が、イソホロンジイソシアネートを含む請求項1又は2に記載のバイオポリウレタン樹脂。
【請求項4】
前記ポリアミン成分(C)が、イソホロンジアミンを含む請求項3に記載のバイオポリウレタン樹脂。
【請求項5】
前記ジオール成分(a)が、全ジオール成分(a)100モル中、植物由来の1,3−プロパンジオールを50モル以上含む請求項1〜3のいずれか1項に記載のバイオポリウレタン樹脂。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のバイオポリウレタン樹脂を用いてなることを特徴とする印刷インキ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオマスを原料とする、バイオポリウレタン樹脂、ポリウレタン樹脂溶液及び印刷インキに関する。詳しくは、有機溶剤型の印刷インキ用バインダーとして好適に利用できる、バイオマス度の高いバイオポリウレタン樹脂、液状のバイオポリウレタン樹脂を提供する技術に関する。その好ましい形態として、樹脂溶液を構成する有機溶剤に、臭気や安全性といった環境問題対応の観点から、エステル系溶剤やアルコール溶剤を主体としたものを使用することで、所謂、ノントルエン溶剤系或いはノントルエンノンMEK(メチルエチルケトン)溶剤系であって、しかも、接着性能、顔料分散性、印刷適性に優れる、バイオマス度の高い印刷インキの提供を可能にできる技術に関する。本発明では、イソシアネート化合物とヒドロキシ化合物との反応で得られる、ウレタン結合の繰り返しを有するポリウレタンだけでなく、イソシアネート化合物とアミン化合物との反応で得られる、ウレア結合を有する樹脂を含めて、「ポリウレタン樹脂」と呼んでいる。
【背景技術】
【0002】
近年、枯渇性資源でない産業資源として、化石資源を除く生物由来資源の(バイオマス)が注目されている。特に植物は、太陽光をエネルギーとした光合成により大気中のCOを吸収して成長するので、植物由来原料を製品化した製品(バイオマスプラスチックや、合成繊維、印刷インキ等)は、植物の成長過程における光合成によるCOの吸収量と、植物の焼却によるCOの排出量が相殺され、大気中のCOの増減に影響を与えないと考えられ(カーボンニュートラル)、その開発が期待されている。植物由来原料を使用した製品の中でも、後述するバイオマスマーク認定商品は、安全で、循環型社会の形成に貢献し、地球温暖化防止に役立つという背景から、その開発と利用が望まれている。
【0003】
また、ポリウレタン樹脂は、基本的には、高分子量ポリオール成分、有機ポリイソシアネート成分、必要に応じて、ポリアミン鎖伸長剤成分を反応させて得られるものであるが、これらの各成分の種類、組み合わせを変化させることによって、種々の性能(物性)を有するポリウレタン樹脂の提供が可能である。特に、末端に活性アミノ基を含有するポリエステル系ポリウレタン樹脂溶液を印刷インキ用バインダーとして用いた印刷インキは、各種プラスチック基材に対する優れた接着性能と顔料分散性の点で有用である。
【0004】
しかし、ポリウレタン樹脂をバインダーに使用した印刷インキは、石油資源からの原材料調達、素材製造、使用、最終的にゴミとして焼却されるライフサイクルが大半であり、この点から、エコロジーを考慮した改善が求められている。これに対し、今までのエコロジーを考慮した印刷インキは、接着性、顔料分散性、印刷適性といった従来からの機能性に加えて、生物由来資源の量を示す「バイオマス度」において、十分なものではなかった。
【0005】
昨今、植物由来のバイオマスフィルムとして従来より多用されてきたポリ乳酸フィルムに加えて、食品包装等に代表される軟包装用途に適用可能な、植物由来の原料を利用した、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ナイロン(NY)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)フィルム等の、バイオマスプラスチックフィルムが市販され始めている。また、これらのバイオマスプラスチック基材を含むプラスチック基材に形成されるインキ層においてもバイオマス化の要望があり、加えて、トルエンや、メチルエチルケトン(以下、MEKと略記)溶剤を使用しない、ノントルエン溶剤系或いはノントルエンノンMEK溶剤系の印刷インキ用のバインダーが求められている。そして、植物由来原料を含有したポリウレタン樹脂をバインダーに使用した場合や、さらには、ノントルエン溶剤系或いはノントルエンノンMEK溶剤系のバインダーを使用した場合においても、従来の石油由来のポリウレタン樹脂バインダーを使用した場合と同様に、高接着強度で、顔料分散性に優れ、印刷適性に優れた印刷インキとなることが要望されている。
【0006】
上記した現状に対し、製造原料に植物由来成分を用いた印刷インキ用バインダーとしては、例えば、植物由来のダイマー酸からなるポリエステルポリオールを用いたポリウレタン樹脂が知られている(特許文献1)。また、植物由来のダイマー酸からなるポリエステルの使用量を減らしたポリウレタン樹脂を印刷インキ用バインダーとして使用することで、版詰まり性等の印刷適性を改善した印刷インキ(特許文献2)も知られている。
【0007】
一方、先に述べたように、地球規模でバイオマスの利用が検討されており、機能性やバイオマス度に優れたポリウレタン樹脂を顔料分散用バインダーに使用した印刷インキの開発が待望されており、実現できれば、極めて有用である。近年における上記した技術動向から、印刷インキ固形分中においてバイオマス度10質量%以上の場合、環境製品としての安全・安心性等の他要件を満たせば、日本有機資源協会から「バイオマスマーク」認定を受けられる背景がある(非特許文献1)。そのためには、バインダー原料となるポリウレタン樹脂において、35質量%以上、より好適には40質量%以上の高いバイオマス度を実現した、工業的に利用できる有用な技術開発が待望される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平2−189375号公報
【特許文献2】特開2003−41175号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】日本有機資源協会HP、「バイオマスマーク:認定審査要綱改定のお知らせと諸規定」、インターネット<URL:http://www.jora.jp/txt/katsudo/bm/biomassmark01.html>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記した特許文献1に記載の樹脂を顔料分散用バインダーとして使用したインキは、包装用プラスチックフィルムの印刷用として接着力及び耐ボイル性に優れているが、含トルエン溶剤系で環境負荷が大きいと共に印刷適性に劣るため、さらなる改良が求められる。特許文献2に記載の技術は、バイオマスを目的としていないため、インキとしてのバイオマス度は十分ではなかった。
【0011】
前述した事情から、バイオマス度が10質量%以上である、接着性能、顔料分散性、印刷適性等の実用性能に優れ、しかも、ノントルエン溶剤系或いはノントルエンノンMEK溶剤系の高性能印刷インキであれば、さらに環境面を重視した工業材料分野において非常に有用となる。印刷インキの場合、白色インキに代表されるように、顔料が非常に高濃度に配合されている。この高濃度に配合された顔料による色調の要求変化に対応した上で、印刷インキの固形分中のバイオマス成分を安定的に10質量%以上とするには、実用的には、使用するポリエステル系ウレタン樹脂バインダー中のバイオマス度を、35質量%以上、さらには、40質量%以上にする必要がある。しかし、本発明者らの検討によれば、特許文献1に記載されているダイマー酸変性ポリエステルポリオールを使用して、印刷インキ用ウレタン樹脂バインダーのバイオマス度を35質量%以上にした場合は、最終的な印刷インキの接着性能は得られても、顔料分散性や印刷適性が劣り、実用性に欠けるといった状況があった。また、前記したように、旧来技術の樹脂バインダーは、含トルエン溶剤系であるため、臭気、安全性といった環境問題対応の観点から、トルエン系溶剤を非含有とした、所謂ノントルエン溶剤系或いはノントルエンノンMEK溶剤系の、バイオマス度の高い印刷インキ用のバインダー材料が求められる。
【0012】
従って、本発明の目的は、各種プラスチック基材、特に、バイオマスプラスチック基材に対して優れた接着性能を示し、しかも、高濃度で含有した顔料の分散性に優れるなどの、印刷適正を有する印刷インキ用バインダーに有用な、高度にバイオマスを含有するポリウレタン樹脂を提供することにある。また、本発明の目的は、バイオポリウレタン樹脂を印刷インキ用バインダーとして用いることで、「バイオマスマーク」認定基準であるバイオマス度が10質量%以上である、カーボンニュートラルの考えからの環境保全面の要求分野において非常に有用な印刷インキを提供することにある。さらに、上記ポリウレタン樹脂を用いることで、ノントルエン溶剤系又はノントルエンノンMEK溶剤系の印刷インキの提供を可能にすることにある。また、本発明の別の目的は、印刷インキに適用した場合に、印刷装置で先に使用していた印刷インキとの相溶性に優れ、印刷作業の過程で生じる印刷インキを変更する場合に問題となる、印刷装置内の洗浄にかかる負荷を低減できる、印刷インキ用バインダーとしてより有用なバイオポリウレタン樹脂を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題は、下記の構成の本発明によって達成される。
[1]バイオポリオール成分(A)と、イソシアネート成分(B)とを反応させてなるバイオポリウレタン樹脂であって、前記バイオポリオール成分(A)は、植物由来の成分を含むジオール成分(a)と、植物由来の成分を含むジカルボン酸成分(b)とを原料に含んでなる、多官能アルコール成分と多官能カルボン酸成分との重合物のバイオポリエステルポリオールであり、前記ジオール成分(a)が、植物由来の、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,10−デカンジオール及びダイマージオールからなる群から選ばれる少なくとも1種を含み、前記カルボン酸成分(b)が、植物由来のコハク酸と、他のジカルボン酸とを含み、そのモル比が、植物由来のコハク酸/他のカルボン酸98/2〜5/95であり、バイオポリウレタン樹脂100質量%に対して、植物由来成分の含有量が35質量%以上であることを特徴とするバイオポリウレタン樹脂。
【0014】
上記した本発明のバイオポリウレタン樹脂の好ましい形態としては、下記のものが挙げられる。なお、本発明でいう活性アミノ基とは、活性水素を有する一級又は二級アミノ基のことである。
[2]前記他のジカルボン酸が、植物由来の、セバシン酸又はダイマー酸の少なくともいずれかである上記[1]に記載のバイオポリウレタン樹脂。
[3]さらに、反応成分としてポリアミン成分(C)を含む、構造中にウレタンウレア結合を有する上記[1]又は[2]に記載のバイオポリウレタン樹脂。
[4]その末端に活性アミノ基を有し、前記末端の活性アミノ基の濃度が、バイオポリウレタン樹脂固形分1g当たり、15〜100μg当量である上記[3]に記載のバイオポリウレタン樹脂。
[5]さらに、有機溶剤を含有し、該有機溶剤に前記バイオポリウレタン樹脂が溶解してなり、前記有機溶剤が、トルエンを含まないか、或いは、トルエン及びMEKをいずれも含まない溶液状の上記[1]〜[4]のいずれかに記載のバイオポリウレタン樹脂。
【0015】
上記の課題は、下記の別の構成の本発明によって達成される。
[6]ポリエステルポリオールと、有機ジイソシアネートとポリアミンとが重合してなる、構造中にウレタンウレア結合を有し、末端に活性アミノ基を有するポリエステル系ポリウレタン樹脂と、有機溶剤とを含んでなる、ポリエステル系ポリウレタン樹脂溶液であって、前記ポリエステルポリオールは、植物由来成分を合成原料に含んでなる、多官能カルボン酸成分と多官能アルコール成分との重合物であり、前記多官能カルボン酸成分が、ダイマー酸及びコハク酸を、植物由来のコハク酸/ダイマー酸のモル比が98/2〜5/95となる範囲で含み、且つ、前記多官能アルコール成分が、1,3−プロパンジオールを含み、前記末端に活性アミノ基を有するポリエステル系ポリウレタン樹脂の固形分中に占める植物由来成分の割合が35質量%以上であることを特徴とするバイオポリウレタン樹脂溶液。
【0016】
本発明のバイオポリウレタン樹脂溶液の好ましい形態としては、下記のものが挙げられる。
[7]前記コハク酸の一部又は全部が植物由来成分であって、前記ダイマー酸の一部又は全部が植物由来成分、及び/又は、前記1,3−プロパンジオールの一部又は全部が植物由来成分、である上記[6]に記載のバイオポリウレタン樹脂溶液。
[8]前記末端に活性アミノ基を有するポリエステル系ポリウレタン樹脂中における前記末端の活性アミノ基の濃度が、前記ポリエステル系ポリウレタン樹脂固形分1g当たり、15〜100μg当量である上記[6]又は上記[7]に記載のバイオポリウレタン樹脂溶液。
[9]前記有機溶剤が、トルエンを含まないか、或いは、トルエン及びMEKをいずれも含まない上記[6]〜[8]のいずれか1項に記載のバイオポリウレタン樹脂溶液。
[10]前記有機溶剤が、酢酸エチルとイソプロピルアルコールとの混合溶媒であるか、又は、酢酸エチルとイソプロピルアルコールとMEKとの混合溶媒である上記[6]〜[8]のいずれかに記載のバイオポリウレタン樹脂溶液。
【0017】
本発明は、別の実施形態として、[11]顔料と印刷インキ用バインダーとを含有してなる印刷インキにおいて、前記印刷インキ用バインダーとして、インキ固形分中に占める植物由来成分の割合が10質量%以上となる量で、上記[5]の溶液状のバイオポリウレタン樹脂、或いは、上記[6]〜[10]のいずれかのポリウレタン樹脂溶液を含有してなることを特徴とする印刷インキを提供する。
【0018】
本発明の印刷インキの好ましい形態としては、下記のものが挙げられる。
[12]グラビア印刷、フレキソ印刷、スクリーン印刷、オフセット印刷又はインクジェット印刷のいずれかに用いられる上記[11]に記載の印刷インキ。
[13]フィルム包装、紙包装、建材又は化粧紙のいずれかへの印刷に用いられる上記[11]又は[12]に記載の印刷インキ。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、各種プラスチック基材、特にバイオマスプラスチック基材に対して優れた接着性能を示し、しかも、高濃度で含有した顔料の分散性に優れる、印刷インキ用バインダーに利用可能な、バイオマス度が35質量%以上、さらには、40質量%以上である高度に植物由来成分(バイオマス)を含有するバイオポリウレタン樹脂が提供される。また、本発明によれば、この高度にバイオマスを含有するポリウレタン樹脂を印刷インキ用バインダーとして用いることで、「バイオマスマーク」認定基準であるバイオマス度が10質量%以上で、且つ、高濃度の顔料を分散してなる、接着性能、顔料分散性、印刷適性等の実用性能に優れた、カーボンニュートラルの考えからの環境保全面の要求分野において非常に有用な印刷インキの提供が可能になる。さらに、本発明の好ましい形態によれば、上記バイオポリウレタン樹脂を用いることで、トルエン系溶剤非含有の、所謂、ノントルエン溶剤系又はノントルエンノンMEK溶剤系の印刷インキが提供される。
【0020】
本発明によって提供される、バイオマス度が高いバイオポリウレタン樹脂をバインダーに適用してなる印刷インキは、インキ固形分中に植物由来成分を10質量%以上で含むにもかかわらず、接着性能、顔料分散性、印刷適性等の実用性能に優れており、昨今、開発が活発化し実用化されてきた、植物由来のバイオマスポリエステル(ポリ乳酸、バイオマスPET、ポリブチレンサクシネート、ポリヒドロキシブチレート、ポリトリメチレンテレフタレート他)、バイオマスナイロン、バイオマスポリエチレン、バイオマスポリプロピレン等の、各種バイオマスプラスチックフィルムや、植物由来の紙の印刷に適用できる。また、バイオマス接着剤を用いて、上記したような各種バイオマスプラスチックフィルム、植物由来の紙、植物由来の繊維布、金属箔とラミネートすることで、金属部分を除いての積層体全層に亘るバイオ素材化が可能となり、カーボンニュートラルの環境保全の観点から、食品包装や、医薬品用包材PTP(Press Through Package)シート、家電部品、衣料等、各種の工業材料分野において有用な、バイオマス印刷ラミネート加工製品とすることが可能になる。先述したように、バイオマス度10質量%以上の印刷インキは、他の要件を満たせば、日本有機資源協会から「バイオマスマーク」認定を受けられる。これに対し、本発明によって提供される印刷インキは、バイオマス度が10質量%以上であり、その対象となり得るので、地球環境保護の観点からも有用なものであり、その活用が望まれる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
次に、発明を実施するための好ましい形態を挙げて、本発明をさらに詳しく説明する。
<ポリウレタン樹脂>
本発明のポリウレタン樹脂は、バイオポリオール成分(A)とジイソシアネート等のイソシアネート成分(B)と、必要に応じて使用するポリアミン成分(C)とを反応させてなる、バイオポリウレタン樹脂からなり、樹脂の固形分中に占める植物由来成分の含有量が35質量%以上、さらには、40質量%以上と、高度にバイオマス成分を含有してなることを特徴とする。本発明のポリウレタン樹脂を構成するバイオポリオール成分(A)は、必須の原料成分に、植物由来の成分を含むジオール成分(a)と、植物由来の成分を含むジカルボン酸成分(b)とを含んでなる、多官能アルコール成分と、多官能カルボン酸成分との重合物のバイオポリエステルポリオールであり、前記ジオール成分(a)は、植物由来の、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,10−デカンジオール及びダイマージオールから選ばれる少なくとも1種を含み、さらに、前記ジカルボン酸成分(b)が、植物由来のコハク酸と、他のジカルボン酸とを含み、そのモル比が、植物由来のコハク酸/他のジカルボン酸98/2〜5/95であることを特徴とする。上記他のジカルボン酸の好適なものとしては、例えば、植物由来の、セバシン酸やダイマー酸が挙げられる。
【0022】
反応成分に、ポリアミン成分(C)を使用した構成の場合は、末端に活性アミノ基を有する構造のバイオポリウレタン樹脂とすることが好ましい。この場合は、その構造中にウレタンウレア結合を有するバイオポリウレタン樹脂となる。末端に活性アミノ基を有するポリウレタン樹脂は、具体的には、例えば、上記で規定したバイオポリエステルポリオールとジイソシアネートとを反応させ末端イソシアネートプレポリマーを生成した後、生成したプレポリマーのイソシアネート基に対して過剰量のジアミン等のポリアミンにて鎖伸長反応することで容易に得られる。印刷インキ用バインダーとしては、有機溶剤に溶解した形態で提供される。上記における活性アミノ基とは、活性水素を有するアミノ基、すなわち、1級及び2級アミノ基を意味する。
【0023】
本発明の実施形態の一つである、樹脂のその構造中にウレタンウレア結合を有するバイオポリウレタン樹脂溶液は、ポリエステルポリオールと、有機ジイソシアネートと、ポリアミンとが重合してなる末端に活性アミノ基を有するポリエステル系ポリウレタン樹脂と、有機溶剤とを含んでなり、且つ、前記末端に活性アミノ基を有するポリエステル系ポリウレタン樹脂の固形分中に占める植物由来成分の割合が、35質量%以上、さらには40質量%以上と、高度にバイオマスを含有したものであることを特徴とする。さらに、本発明のバイオポリウレタン樹脂溶液を構成する前記ポリエステルポリオールが、植物由来成分を合成原料に含んでなる、多官能カルボン酸成分と多官能アルコール成分との重合物であり、前記多官能カルボン酸成分が、ダイマー酸及びコハク酸を、コハク酸/ダイマー酸のモル比が98/2〜5/95となる範囲で含み、且つ、前記多官能アルコール成分が、1,3−プロパンジオールを含むことを特徴とする。以下に、本発明のポリウレタン樹脂を構成する各成分についてさらに詳しく説明する。
【0024】
[バイオポリオール成分(A)]
本発明のポリウレタン樹脂を合成するための必須の材料のバイオポリオール成分(A)であるバイオポリエステルポリオールは、多官能カルボン酸成分と多官能アルコール成分との重合物である。本発明では、バイオポリウレタン樹脂100質量%に対して、植物由来成分の含有割合が、35質量%以上、より好適には40質量%以上であることを要するため、本発明で規定したように、本発明を構成するバイオポリエステルポリオールは、多官能カルボン酸成分と多官能アルコール成分も植物由来成分を含むものを使用する必要がある。
【0025】
本発明では、バイオポリウレタン樹脂の固形分中に占める植物由来成分の割合が、上記した高いバイオマス度を実現したものであることを目的としているため、本発明で規定する植物由来成分を多く含んでなるバイオポリエステルポリオールと共に、現状、市販入手可能な、植物由来成分からなるポリカーボネートジオールや、植物由来成分からなるポリオキシテトラメチレングリコール等の高分子ジオールも、最終的に得られるポリウレタン樹脂の性能に支障のない範囲で併用することも可能である。
【0026】
本発明を構成するバイオポリエステルポリオールの数平均分子量としては、500以上、6000以下であることが好ましい。500未満では、得られるポリウレタン樹脂の溶剤への再溶解性が乏しくなるため、印刷インキのバインダー樹脂に適用した場合に、特に高速印刷適性が得られ難くなるおそれがある。一方、数平均分子量が6000を超えると、得られるポリウレタン樹脂の耐熱性が乏しくなり、印刷インキのバインダー樹脂に適用した場合に、印刷インキに要求される、巻取り時の耐ブロッキング性が得られ難くなるおそれがある。以下、本発明を構成するバイオポリエステルポリオールを得る際に必要となる原料成分について詳述する。
【0027】
(植物由来のジオール成分(a))
上記したバイオポリエステルポリオールの合成に用いる多官能アルコール成分であるジオール成分(a)としては、植物由来の成分である、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,10−デカンジオール及びダイマージオールからなる群から選ばれる1種以上を用いる。これらの中でも、植物由来の、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール及び1,4−ブタンジオールが好ましく、特に、1,2−プロパンジオールや、1,3−プロパンジオールが好ましい。これらは単独でも、2種類以上を併用してもよい。本発明を構成するポリエステルポリオールの合成原料に、植物由来の1,2−プロパンジオールや1,3−プロパンジオールを用いる場合には、上記したような植物由来の多官能アルコール成分中における、これらの含有量を、10モル%以上とすることが好ましく、さらには50モル%以上とすることが好ましい。すなわち、このように構成することで、最終的に得られるポリウレタン樹脂をバインダーに適用してインキ化すると、顔料分散性、印刷適性、フィルム基材への接着性のバランスが良好となることがわかった。
【0028】
さらに、本発明者らの検討によれば、構成するバイオポリエステルポリオールの合成に、植物由来の、1,2−プロパンジオールや1,3−プロパンジオールを用いてなるバイオポリウレタン樹脂を印刷インキのバインダーに適用すると、印刷装置で、先に使用していた印刷インキとの相溶性に優れるという効果が得られる。そして、この従来の石油系の印刷インキに対する相溶性に優れるという新たな効果によって、本発明の印刷インキは、印刷作業の過程で生じる、印刷インキを変更する場合に問題となる、印刷装置内の洗浄及びインキの置換にかかる作業上の負荷を低減できるという従来にない効果を実現できるものになる。この効果は、作業上の労力の低減のみならず、さらに、洗浄及びインキの置換に要する資材の低減をもたらし、工業上、極めて有用である。
【0029】
本発明でジオール成分(a)として用いる上記に列挙した植物由来のジオール成分は、それぞれ下記のようにして得られたものが市販されている。なお、本発明では、植物由来の成分を、「植物由来の」と明記するか、或いは、成分名の頭にバイオを付すことで、石油由来の通常の成分と区別して表現している。バイオエチレングリコールは、糖蜜等から得られるグルコースを発酵して得られるバイオエタノールから、エチレンを経由して合成される。バイオ1,2−プロパンジオールは、天然油脂由来のグリセリン(バイオディーゼルの副生物等)から合成される。バイオ1,3−プロパンジオールは、グルコースから発酵法により、グリセリン、3−ヒドロキシプロピルアルデヒドを経由して合成される。バイオ1,4−ブタンジオールは、グルコースから発酵法によって得られるバイオコハク酸を還元することで製造される。バイオ1,10−デカンジオールは、トウゴマの種子から抽出されるひまし油から得られるセバシン酸を還元することで得られる。ダイマージオールは、オレイン酸やリノール酸等の炭素数18の不飽和脂肪酸を二量化して得られる炭素数36のジカルボン酸であるダイマー酸を、還元して得られる。勿論、上記の製法に限定されず、植物原料から得られたジオール成分を適宜に利用できる。
【0030】
(ジカルボン酸成分(b))
本発明では、バイオポリエステルポリオールの合成に用いる多官能カルボン酸成分であるジカルボン酸成分(b)として、少なくとも植物由来のコハク酸を用いる。本発明で必須とするバイオコハク酸以外の植物由来のジカルボン酸成分としては、例えば、グルタル酸、セバシン酸、ダイマー酸等が挙げられる。これらのバイオジカルボン酸は、前述したように植物原料から得ることができる。また、前記したように、本発明では、ジカルボン酸成分(b)として、少なくとも植物由来のコハク酸を用いることを必須とし、さらに、他のジカルボン酸と併用して、植物由来のコハク酸と、他のジカルボン酸とのモル比が、バイオコハク酸/他のジカルボン酸=98/2〜5/95となるように構成する。他のカルボン酸としては、本発明で規定するよりも、より高いバイオマス度を実現可能にするためには、上記に列挙したような植物由来のジカルボン酸を用いることが好ましい。しかし、本発明で目的とする、35質量%以上、さらには、40質量%以上の高いバイオマス度が実現できればよく、石油由来のジカルボン酸成分を含んでもよい。石油由来のジカルボン酸成分を使用して本発明のバイオポリウレタン樹脂を構成した場合は、現状では、石油系の材料に比較し、植物由来の材料コストが高いため、材料コストの低減が可能になる。
【0031】
本発明のバイオポリウレタン樹脂は、上記したように、原料であるバイオポリエステルポリオールの合成に用いるジカルボン酸成分(b)が、植物由来のコハク酸を含み、且つ、植物由来のコハク酸/他のカルボン酸のモル比が、98/2〜5/95となるように構成されてなることを要する。本発明者らの検討によれば、例えば、下記に挙げるような、種類の異なる2種のジカルボン酸成分を、上記したモル比で組み合わせることが好ましい。具体的には、植物由来のコハク酸と石油由来のアジピン酸の組合せ、植物由来のコハク酸と植物由来のダイマー酸の組合せ、植物由来のコハク酸と植物由来のセバシン酸の組合せなどが挙げられる。
【0032】
本発明者らの検討によれば、バイオコハク酸/ダイマー酸等の他のジカルボン酸のモル比が5/95の要件を満たさない、例えば、ダイマー酸等の他のジカルボン酸が95モル%を超え且つバイオコハク酸が5モル%未満の組合せで合成した場合は、他のジカルボン酸として石油由来の成分を用いた場合に、本発明が目的とする高いバイオマス度のポリウレタン樹脂を得ることが難しくなる。また、バイオコハク酸/ダイマー酸のモル比が98/2を満たさない、例えば、ダイマー酸等の他のジカルボン酸を使用せず、バイオコハク酸が100モル%で合成した場合は、得られるポリエステルポリオールの結晶性が強くなるため、目的とするポリウレタン樹脂を溶液にした場合に、凝集析出し易い方向となる。このため、得られたバイオポリウレタン樹脂を顔料分散バインダーとして印刷インキ化し、これをグラビア印刷等に利用すると、グラビア版輪転中での版上のインキの乾燥、再溶解化工程における再溶解性が乏しくなり、印刷インキの液安定性に劣り、不均一凝集化方向になり易く、印刷適性が劣る結果となる。本発明においてより好ましいバイオコハク酸/他のジカルボン酸モル比は、98/2〜10/90となる範囲である。
【0033】
なお、本発明者らの検討によれば、他のジカルボン酸成分として植物由来成分からなるダイマー酸を用いる場合、下記の点に留意する必要があることがわかった。バイオダイマー酸は、不純物としてモノマーと共にトリマーを含んでいる。そして、トリマー成分を多く含むダイマー酸からなるポリエステルポリオールを用い、ポリウレタン樹脂を得ると、三次元架橋ゲル化等の、樹脂溶液の不安定化の要因に繋がる。そのため、バイオダイマー酸を使用する場合には、純度が95質量%以上のものを使用するように留意するとよい。
【0034】
前記したように、本発明では、バイオポリエステルポリオールの合成に用いる多官能カルボン酸に、植物由来のコハク酸を含むことを必須とし、35質量%以上、さらには、40質量%以上の高いバイオマス度を実現したポリウレタン樹脂を得る目的から、できるだけ植物由来の成分を用いることが好ましい。本発明で用いる、植物由来の多官能カルボン酸成分の具体的なものとしては、例えば、植物由来のリノール酸及びオレイン酸を原料として作られる二量体であるバイオダイマー酸や、トウモロコシ由来のグルコース等の原料から作られるバイオコハク酸や、トウゴマの種子から抽出されるひまし油から得られるバイオセバシン酸や、植物由来のグルタル酸等が挙げられる。しかし、本発明は、これらの植物由来の成分に限定されるものではない。本発明の所期の目的に合致し、その性能に支障のない範囲で、後述する石油由来の多官能カルボン酸であるアジピン酸等の併用も可能である。本発明で重要なことは、本発明で使用するポリエステルポリオールを合成するための多官能カルボン酸成分が、バイオコハク酸と、他のジカルボン酸成分を、本発明で規定するモル比で含み、且つ、最終的に得られるポリウレタン樹脂中の植物由来成分の占める割合が35質量%以上、さらには、40質量%以上となるように構成したことにある。
【0035】
本発明者らの検討によれば、本発明を構成するバイオポリエステルポリオールの合成原料に、バイオダイマー酸及びバイオコハク酸を用いる場合には、上記したような植物由来の多官能カルボン酸成分中における、バイオダイマー酸及びバイオコハク酸の合計含有量を、30モル%以上とすることが好ましく、さらには40モル%以上とすることが好ましい。すなわち、このように構成することで、最終的に得られるポリウレタン樹脂溶液をバインダーに適用してインキ化すると、顔料分散性、印刷適性、フィルム基材への接着性のバランスが良好となることがわかった。
【0036】
本発明のポリウレタン樹脂は、上記で説明した、多官能アルコール成分である植物由来の成分を含むジオール成分(a)と、多官能カルボン酸成分である植物由来の成分を含むジカルボン酸成分(b)との重合物であるバイオポリエステルポリオールをバイオポリオール成分(A)とし、後述する、イソシアネート成分(B)と、必要に応じて用いるポリアミン成分(C)とを重合してなる、ポリエステル系ポリウレタン樹脂であり、樹脂中に占める植物由来成分の割合(バイオマス度)が、35質量%以上、さらには、40質量%以上となるように構成されたものである。以下、上記のバイオポリエステルポリオールのことを、バイオポリオール成分(A)と呼ぶ。このため、原料である、多官能カルボン酸成分及び多官能アルコール成分の多くを植物由来のものとすることが望ましい。本発明者らの検討によれば、例えば、ジカルボン酸成分(b)として必須のバイオコハク酸は勿論、併用する他のジカルボン酸類についても、できるだけ植物由来のものを用い、ジオール成分(a)として選択される、植物由来の成分から選ばれる多官能アルコール成分の使用比率を高めた構成とすることで、得られるポリウレタン樹脂をバインダーに適用して印刷インキ化した場合に、印刷インキにおける、顔料分散性、印刷適性、フィルム基材への接着性のバランスが、良好となることがわかった。また、より詳細な検討によれば、上記のようにして得られる印刷インキは、印刷装置で先に使用していた従来の印刷インキとの相溶性に優れ、印刷作業の過程で生じる印刷インキを変更する場合に問題となる、印刷装置内の洗浄にかかる負荷を低減できる、工業上、有用な印刷インキとなる。
【0037】
(石油由来原料)
先に述べたように、本発明が目的とする「バイオマスマーク」認定基準を満足する印刷インキを得るには、本発明で規定するように、インキのバインダーに用いるポリウレタン樹脂中に占める植物由来成分の割合が、35質量%以上、さらには、40質量%以上になるようにする必要がある。このため、本発明を構成するバイオポリオール成分(A)の原料成分には、前記したような植物由来の成分を高い使用割合で含むようにする必要が生じる。しかし、前記したように、バイオポリオール成分(A)の原料成分には、本発明で規定する具体的な成分を含めて、本発明の所期の目的に支障のない範囲で、下記に挙げるような石油由来の原料を併用することができる。
【0038】
本発明で使用し得る石油由来の多官能アルコールとしては、例えば、1分子中に2個以上、好ましくは2〜8個の水酸基を有する化合物が挙げられる。具体的には、例えば、石油由来成分に由来する、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、ジプロピレングリコール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−ブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、トリメチロールプロパン、グリセリン、1,9−ノナンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール等を本発明の所期の目的に支障ない範囲で併用できる。これらは、単独でも2種以上を併用してもよい。
【0039】
本発明で使用し得る石油由来の多官能カルボン酸としては、例えば、コハク酸、アジピン酸、ドデカン二酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、フタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸等が挙げられ、本発明の所期の目的に支障ない範囲で、併用することも可能である。
【0040】
また、本発明のバイオポリウレタン樹脂では、本発明で規定する最終的に得られる樹脂のバイオマス度を達成できれば、先に説明したようなバイオポリオール成分(A)に加え、石油由来のポリエステルポリオールや、石油由来のポリエーテルポリオール等も、本発明の所期の目的に支障ない範囲で併用することも可能である。具体的には、例えば、石油由来の、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシテトラメチレングリコール、ポリカプロラクトンジオール、ポリメチルバレロラクトンジオール、ポリカーボネートジオール、ポリブタジエンジオール等を適宜に使用することができる。
【0041】
前記したように、本発明では、最終的に、ノントルエン溶剤系、或いは、ノントルエンノンMEK溶剤系の高性能印刷インキの提供を可能にできる、バイオマス度の高いバインダー材料を開発することを目指している。ここで、従来のノントルエン溶剤系や、ノントルエンノンMEK系のインキ用のビヒクルとして一般に有用であるとされているポリウレタン樹脂用のポリエステルポリオールとしては、石油由来の成分である、2−メチル−1,3−プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール等のアジペートポリエステルが知られている。したがって、特に、これらのアジペートポリエステルを利用し、これらと、本発明で規定するバイオポリオール成分(A)とを用いて共重合化してなる構成の本発明のバイオポリウレタン樹脂は、ノントルエン溶剤系や、ノントルエンノンMEK系の印刷インキを実現にするとした本発明の目的の達成に加え、バイオ成分原料が一般に高価格であるという実用上の問題を考慮し、コスト面の観点からバイオマス度を調整することが可能になるバイオマス印刷インキのビヒクルとして、有用である。
【0042】
上記のような石油由来の成分を利用する場合、本発明で規定するバイオポリオール成分(A)の原料に、多官能カルボン酸成分として、植物由来成分からなるコハク酸に、植物由来成分からなるダイマー酸を併用し、多官能アルコール成分として、植物由来成分からなる1,2−プロパンジオール又は1,3プロパンジオールを用いることで、最終的に得られるポリウレタン樹脂に導入される植物由来成分の割合が、35%以上、より好ましくは40%以上になるように原料組成を調整することが必要になる。このように構成することで、得られたポリウレタン樹脂を用いて顔料分散インキを調製した場合に、目的とするバイオマス度を達成し、印刷特性に優れたバイオマスインキ製品となる。すなわち、上記のように構成したポリウレタン樹脂溶液をビヒクルとした印刷インキは、「バイオマスマーク」認定基準を満たし、しかも、インキ中における顔料の分散安定性、印刷適性、フィルム基材への接着性のバランスが良好な、ノントルエン溶剤系或いはノントルエンノンMEK溶剤系の高性能印刷インキとなる。
【0043】
(その他の成分:低分子ジオール)
本発明のポリエステル系のバイオポリウレタン樹脂は、上記で説明したバイオポリオール成分(A)と、有機ジイソシアネート等のイソシアネート成分(B)と、必要に応じて使用するポリアミン成分(C)とを重合してなる。本発明者らの検討によれば、上記で説明した原料成分からなるバイオポリオール成分(A)と共に、該成分(A)の水酸基価の調整、及び、それに伴っての最終的に得られるポリウレタン樹脂の物性調整を目的として、植物由来又は石油由来の低分子ジオールを用いることもできる。この際に用いる低分子ジオールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、ジプロピレングリコール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−ブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、トリメチロールプロパン、グリセリン、1,9−ノナンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール等が挙げられる。
【0044】
[イソシアネート成分(B)]
本発明を構成するイソシアネート成分(B)には、公知のジイソシアネートから誘導された化合物を用いることができる。具体的には、ヘキサメチレンジイソシアネート、ブタン−1,4−ジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、m−テトラメチルキシリレンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネートが挙げられる。また、イソホロンジイソシアネート、シクロヘキサン−1,4−ジイソシアネート、リジンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネート、1,3−ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソプロピリデンジシクロヘキシル−4,4’−ジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネート等の脂環族ジイソシアネートが挙げられる。さらに、1,5−ナフチレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルジメチルメタンジイソシアネート、4,4’−ジベンジルジイソシアネート、ジアルキルジフェニルメタンジイソシアネート、テトラアルキルジフェニルメタンジイソシアネート、1,3−フェニレンジイソシアネート、1,4−フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネートが挙げられる。
【0045】
その他、上記したポリイソシアネートの、ビューレット変性体、アロファネート変性体、イソシアヌレート変性体、カルボジイミド変性体等の変性体;上記したポリイソシアネートとポリオールとを反応させて得られるアダクト体等も使用することができる。上記に挙げた中では、反応性・物性等の総合的な観点から、イソホロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートが好ましい。これらは、単独で或いは2種以上で使用することができる。
【0046】
また、本発明のバイオポリウレタン樹脂は、本発明で規定する高度のバイオマス度を達成するために、イソシアネート成分(B)として、上記の他、植物由来のジイソシアネートを用いることも好ましい形態である。植物由来のジイソシアネートは、植物由来の二価カルボン酸を酸アミド化、還元することで末端アミノ基に変換し、さらに、ホスゲンと反応させ、該アミノ基をイソシアネート基に変換することにより得られる。植物由来のジイソシアネートとしては、ダイマー酸ジイソシアネート(DDI)、オクタメチレンジイソシアネート、デカメチレンジイソシアネート等が挙げられる。また、植物由来のアミノ酸を原料として、そのアミノ基をイソシアネート基に変換することによっても植物由来のイソシアネート化合物を得ることができる。例えば、リシンジイソシアネート(LDI)は、リシンのカルボキシル基をメチルエステル化した後、アミノ基をイソシアネート基に変換することにより得られる。また、1,5−ペンタメチレンジイソシアネートはリシンのカルボキシル基を脱炭酸した後、アミノ基をイソシアネート基に変換することにより得られる。
【0047】
[ポリアミン成分(C)]
本発明を構成する、必要に応じて反応に用いられるポリアミンとしては特に限定されないが、下記に挙げるようなジアミンを用いることが好ましい。ジアミンとしては、従来公知の脂肪族、脂環族及び芳香族ジアミンを使用することができる。例えば、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ブチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、トリメチルヘキサメチレンジアミン、イソホロンジアミン、シクロヘキシルジアミン、ピペラジン、2−メチルピペラジン、フェニレンジアミン、トリレンジアミン、キシレンジアミン、1,3−シクロヘキシルジアミン、4,4’−ジアミノジシクロヘキシルアミン、m−キシリレンジアミン、2−ヒドロキシエチルエチレンジアミン、2−ヒドロキシエチルプロピレンジアミン、ジ−2−ヒドロキシエチルプロピレンジアミン、ジ−2−ヒドロキシプロピルエチレンジアミン、ポリオキシアルキレンジアミン及びその水添物等のジアミン又はその混合物等が挙げられる。本発明で規定するバイオポリウレタン樹脂の高度のバイオマス度を達成するために、その他、セルロース由来の1,5−ペンタンジアミン、植物系油脂由来の1,10−デカンジアミン、ダイマージアミン等の植物由来成分からなるジアミンも、本発明の所期の目的に支障のない範囲で用いることができる。
【0048】
また、必要に応じて、上記したポリアミンに、反応停止剤としてのモノアミン類を併用することもできる。モノアミン類としては、例えば、モノ−n−ブチルアミンやジ−n−ブチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミンが挙げられる。
【0049】
上記に挙げたようなポリアミン成分(C)を反応成分に用いた場合得られる、構造中にウレタンウレア結合を有するポリウレタン樹脂は、その末端に活性アミノ基を有するものであることがより好ましい。この場合の、末端の活性アミノ基の濃度調整は、前記に例示したような有機ジイソシアネート由来の末端イソシアネート基を有するウレタンプレポリマーと、鎖伸長剤として機能するポリアミン、好ましくはジアミン類と、反応停止剤として機能するモノアミン類との配合比で決定される。前記したように、本発明において「活性アミノ基」とは、活性水素を有する一級又は二級アミノ基のことである。本発明者らの検討によれば、樹脂を印刷インキのバインダーに適用した場合を考慮すると、この活性アミノ基濃度は、樹脂固形分1g当たり15〜100μg当量であることが好ましい。すなわち、活性アミノ基濃度が、樹脂固形分1g当たり15μg当量未満であると、処理ポリプロピレンやポリエステルフィルム等からなる記録媒体に印刷した場合に、これらに対する接着性が乏しくなるので好ましくない。一方、活性アミノ基濃度が100μg当量を超えた場合は、イソシアネート硬化剤を配合して二液インキの形態とした際に、使用時での配合液のポットライフが短くなり、可使時間に問題がでるので好ましくない。
【0050】
[有機溶剤]
本発明のバイオポリウレタン樹脂は、例えば、印刷インキのバインダーとして用いる場合に、さらに、有機溶剤を含有した溶液状のものにすることが好ましい。すなわち、有機溶剤は、樹脂の合成の際や、濃度調整のための希釈に用いられる。溶液状とする場合、使用した有機溶剤に、本発明のバイオポリウレタン樹脂が良好に溶解され、かつ、前記有機溶剤が、トルエンを含まないか、或いは、トルエン及びMEKをいずれも含まない態様とすることが好ましい。使用する有機溶剤としては、本発明のバイオポリウレタン樹脂を溶解するものであればよく、公知の有機溶剤をいずれも使用することができる。また、臭気、安全性といった環境問題対応の観点から、トルエンを含まないか、或いは、トルエンとMEKを含まない形態とすることが望まれる。ノントルエン系とする場合には、例えば、エステル系溶剤/アルコール系溶剤/ケトン系溶剤の混合溶剤が好適に用いられ、また、ノントルエンノンMEK系とする場合には、エステル系溶剤/アルコール系溶剤の混合溶剤が好適に用いられる。
【0051】
エステル系溶剤としては、例えば、酢酸エチル、酢酸n−プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸n−ブチル、酢酸イソブチル等が挙げられる。本発明において特に好適な溶剤は、酢酸エチルである。
【0052】
アルコール系溶剤としては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、ターシャリーブチルアルコール等が挙げられる。本発明において特に好適な溶剤は、イソプロピルアルコールである。
【0053】
ケトン系溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、ジイソブチルケトン等が挙げられる。特に好適な溶剤は、MEKである。高速印刷適性を重視する場合、MEKを使用することで有利となる。一方、有害大気汚染物質(HAPS)規制に代表される大気汚染物質を考慮した、ノントルエンノンMEK系の印刷インキを目的の組成物とする場合には、トルエン及びMEKを用いずに製造する。
【0054】
また、本発明のバイオポリウレタン樹脂を溶液状とする場合に、有機溶剤として、植物由来の有機溶剤を、例えば、印刷インキのバインダーに使用した場合に、印刷インキの性能に影響のない範囲で含有させることができる。例えば、バイオポリウレタン樹脂の合成の際に使用する有機溶剤として、その一部に植物由来のもの(例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル、乳酸ブチル、エチルアルコール)を用いれば、樹脂の構成成分だけでなく、溶剤成分についてもCO排出量の削減に配慮した素材となる。
【0055】
[ポリウレタン樹脂溶液]
先に挙げたポリアミン成分(C)を含む原料を反応成分に用いることで、本発明の、高度のバイオマス度を達成した、構造中にウレタンウレア結合を有し、末端に活性アミノ基を有するポリエステル系ポリウレタン樹脂とできる。前記したように、この場合のより好ましい形態としては、活性アミノ基の濃度が、樹脂固形分1g当たり15〜100μg当量である、末端に活性アミノ基を有するポリエステル系ポリウレタン樹脂の、エステル系溶剤及びアルコール系溶剤及び/又はケトン系溶剤からなる樹脂溶液とすることが挙げられる。このように構成することで、顔料分散に適した、樹脂固形分中に植物由来成分の占める割合が、35質量%以上、さらには40質量%以上と高度のバイオマス度を示す、植物由来成分を有するポリウレタン樹脂溶液になる。このような構成の本発明のポリウレタン樹脂溶液を、顔料分散用ワニスとしてインキ用途に使用した場合、高度のバイオマス度、顔料の分散安定性、印刷する基材フィルムへの密着性、印刷適性等に優れる印刷インキを実現することが可能になる。
【0056】
[ポリウレタン樹脂溶液の製造方法]
植物由来原料を用いて合成される、末端に活性アミノ基を有する本発明のポリウレタン樹脂溶液は、下記のようにして製造できる。例えば、先に説明した原料からなるバイオポリオール成分(A)と、必要に応じて使用される、石油由来ポリオールや短鎖のジオールなどその他の資材と、これらの資材に対して過剰に反応させて得た(B)成分の有機ジイソシアネートとからなる両末端イソシアネートウレタンプレポリマーを、過剰のポリアミン成分(C)(特には、ジアミン)溶液中(以下、ジアミン溶液と呼ぶ場合がある)に投入し、撹拌混合することで、鎖伸長反応して得られる。上記ジアミン溶液には、前記した有機溶剤を用いればよい。なお、ポリウレタン樹脂末端の活性アミノ基の濃度調整等が必要な場合、停止剤としてのモノアミンを上記ジアミン溶液中に配合して使用することが好ましい。また、上記した両末端イソシアネートウレタンプレポリマーの製造時に、必要に応じて金属触媒又はアミン塩からなる反応触媒を使用することができる。
【0057】
<印刷インキ>
本発明の印刷インキは、顔料と印刷インキ用バインダーとを含有してなり、本発明のポリウレタン樹脂溶液を、インキ固形分中に占める植物由来成分の割合が10質量%以上となる量で、印刷インキ用バインダーとして使用したことを特徴とする。具体的には、上記のようにして得られる本発明のポリウレタン樹脂溶液と、顔料と、希釈のための有機溶剤とを、公知の各種分散機を用いて分散することで、植物由来成分を有する高度のバイオマス度を達成した印刷インキが得られる。希釈のための有機溶剤には、前記したように、エステル系溶剤及びアルコール系溶剤及び/又はケトン系溶剤、より好適には、トルエンを含まないか、或いは、トルエンとMEKを含まないものを用いることが好ましい。また、本発明の印刷インキには、必要により、顔料分散剤、ブロッキング防止剤、消泡剤、レベリング剤、シラン系やチタネート系等のカップリング剤、可塑剤、水、乾燥制御のための遅乾性溶剤、有機酸等の粘度安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤等を添加することもできる。
【0058】
さらに、上記印刷インキには、硝化綿、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン、塩ビ酢ビ共重合樹脂、マレイン酸樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、繊維素系樹脂等を併用することもできる。
【0059】
上記のようにして調製される本発明の印刷インキは、種々の印刷方法に適用可能である。具体的には、グラビア印刷、フレキソ印刷、スクリーン印刷、オフセット印刷又はインクジェット印刷のいずれかに用いられる。特に、グラビア印刷に好適である。
【0060】
さらに、上記した構成の本発明の印刷インキは、種々の基材に適用可能であり、例えば、植物由来の材料からなる各種バイオマスプラスチックフィルムや、植物由来の紙等にも良好な印刷ができる。特に、食品包装向けの、フィルム包装、紙包装、建材又は化粧紙等種々の用途に広く用いることができる。
【実施例】
【0061】
次に、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。なお、文中「部」又は「%」とあるのは特に断りのない限り、質量基準である。
【0062】
[ポリウレタン樹脂溶液の調製]
(実施例1)
まず、下記のようにしてポリエステルポリオールを調製した。多官能カルボン酸成分(以下、ジカルボン酸成分と呼ぶ)として、植物由来成分からなるダイマー酸(ダイマー純度98%)/植物由来成分からなるコハク酸=90/10(モル比)を用い、多官能アルコール成分(以下、ジオール成分と呼ぶ)として、植物由来成分からなる1,3−プロパンジオールを用いた。そして、これらの成分を、目的の分子量となる適宜な量で用いて重合して、表1−1に示した、水酸基価が37.3mgKOH/g、酸価が0.3mgKOH/g、数平均分子量が3000である、100%植物由来成分からなるポリエステルジオールPE(1)を得た。
【0063】
次に、反応容器に、上記で得たポリエステルジオールPE(1)を500部と、有機ジイソシアネートであるイソホロンジイソシアネート(以下、IPDIと略記)66.4部を仕込み、窒素気流下、100℃で5時間反応させて、表2−1に示したように、NCO基含有率1.87%のウレタンプレポリマーを得た。得られたウレタンプレポリマーを希釈用有機溶剤である酢酸エチル188.8部に溶解して、不揮発分75%のウレタンプレポリマー溶液(1)とした。
【0064】
次いで、ポリアミンであるイソホロンジアミン(以下、IPDAと略記)23.6部と、酢酸エチル981.4部と、イソプロピルアルコール(以下、IPAと略記)206.5部の混合物(ジアミン溶液)を配合し、撹拌しながら、先に得たウレタンプレポリマー溶液(1)を755.2部滴下して、40℃で1時間反応した。その結果、不揮発分(固形分)30%、粘度1150mPa・s(25℃)の、末端のアミノ基濃度が樹脂固形分1g当たり42.8μg当量で、樹脂固形分中に植物由来成分を84.7%有する本実施例のポリウレタン樹脂溶液PU1を得た。表2−1に、上記で得たポリウレタン樹脂溶液PU1の配合及び性状を示した。
【0065】
(実施例2)
基本的には実施例1と同様にして、ポリウレタン樹脂溶液を調製した。ジカルボン酸成分として、植物由来成分からなるダイマー酸(ダイマー純度98%)/植物由来成分からなるコハク酸=60/40(モル比)を用い、ジオール成分として、植物由来成分からなる1,3−プロパンジオールを用いた。そして、これらの成分を、適宜な量を用いて重合し、表1−1に示した、水酸基価が56.0mgKOH/g、酸価が0.3mgKOH/g、数平均分子量が2000の、100%植物由来成分からなるポリエステルジオールPE(2)を得た。
【0066】
次に、反応容器に、上記で得たポリエステルジオールPE(2)500部と、IPDIを88.6部仕込み、窒素気流下、100℃で5時間反応させて、表2−1に示したように、NCO基含有率2.03%のウレタンプレポリマーを得た。得られたウレタンプレポリマーを、酢酸エチル196.2部に溶解して、不揮発分75%のウレタンプレポリマー溶液(2)とした。
【0067】
次いで、IPDAを26.6部、酢酸エチルを1024.0部、IPAを215.3部の混合物を配合し、撹拌しながら、上記で得たウレタンプレポリマー溶液(2)を784.9部滴下して、40℃で1時間反応した。その結果、不揮発分30%、粘度1020mPa・s(25℃)の、末端のアミノ基濃度が樹脂固形分1g当たり46.2μg当量で、樹脂固形分中に植物由来成分を81.3%有する本実施例のポリウレタン樹脂溶液PU2を得た。表2−1に、上記で得たポリウレタン樹脂溶液PU2の配合及び性状を示した。
【0068】
(実施例3)
基本的には実施例1と同様にして、ポリウレタン樹脂溶液を調製した。ジカルボン酸成分として、植物由来成分からなるダイマー酸(ダイマー純度98%)/植物由来成分からなるコハク酸=2/98(モル比)を用い、ジオール成分として、植物由来成分からなる1,3−プロパンジオールを用いた。そして、これらの成分を、適宜な量を用いて重合し、表1−1に示した、水酸基価が37.3mgKOH/g、酸価が0.3mgKOH/g、数平均分子量が3000の、植物由来成分を100%有するポリエステルジオールPE(3)を得た。
【0069】
次に、反応容器に、上記で得たポリエステルジオールPE(3)を500部と、IPDIを59.0部仕込み、窒素気流下、100℃で5時間反応させて、表2−1に示したように、NCO基含有率1.42%のウレタンプレポリマーを得た。得られたウレタンプレポリマーを、酢酸エチル186.4部に溶解して、不揮発分75%のウレタンプレポリマー溶液(3)とした。
【0070】
次いで、IPDAを18.2部、酢酸エチルを958.5部、IPAを202.0部の混合物を配合し、撹拌しながら、上記で得たウレタンプレポリマー溶液(3)を745.4部滴下して、40℃で1時間反応した。その結果、不揮発分30%、粘度1100mPa・s(25℃)、末端のアミノ基濃度が樹脂固形分1g当たり42.7μg当量で、樹脂固形分中に植物由来成分を86.6%有する本実施例のポリウレタン樹脂溶液PU3を得た。表2−1に、上記で得たポリウレタン樹脂溶液PU3の配合及び性状を示した。
【0071】
(実施例4)
まず、下記のようにしてポリエステルポリオールを調製した。ジカルボン酸成分として、石油由来のアジピン酸と、ジオール成分として、石油由来のネオペンチルグリコール/1,4−ブタンジオール=70/30(モル比)を用いた。そして、これらの成分を、適宜な量を用いて重合し、表1−1に示した、水酸基価が37.3mgKOH/g、酸価が0.3mgKOH/g、数平均分子量が3000の、100%石油由来成分からなるポリエステルジオールPE(4)を得た。
【0072】
次に、反応容器に、上記で得たポリエステルジオールPE(4)を250部と、実施例2で得た100%植物由来成分からなるポリエステルジオールPE(2)を250部と、IPDIを73.8部仕込み、窒素気流下、100℃で5時間反応させて、表2−1に示したように、NCO基含有率1.73%のウレタンプレポリマーを得た。得られたウレタンプレポリマーを、酢酸エチル191.3部に溶解して、不揮発分75%のウレタンプレポリマー溶液(4)とした。
【0073】
次いで、IPDAを22.4部、酢酸エチル504.3部、IPAを208.7部、MEKを486.9部の混合物を配合し、撹拌しながら、先に得たウレタンプレポリマー溶液(4)を765.1部滴下して、40℃で1時間反応した。その結果、不揮発分30%、粘度1050mPa・s(25℃)、末端のアミノ基濃度が、樹脂固形分1g当たり43.7μg当量で、樹脂固形分中に植物由来成分を41.9%有する本実施例のポリウレタン樹脂溶液PU4を得た。表2−1に、上記で得たポリウレタン樹脂溶液PU4の配合及び性状を示した。
【0074】
(実施例5)
まず、下記のようにしてポリエステルポリオールを調製した。ジカルボン酸成分として、植物由来成分からなるダイマー酸(ダイマー純度98%)/植物由来成分からなるコハク酸/石油系由来成分からなるアジピン酸=10/30/60(モル比)「注記:他のジカルボン酸/植物由来のコハク酸=70/30、ダイマー酸/植物由来のコハク酸=10/30=25/75(モル比)」と、ジオール成分として、植物由来成分からなる1,3−プロパンジオール/石油系由来成分からなるネオペンチルグリコール=30/70(モル比)を用いた。そして、これらの成分を、適宜な量を用いて重合し、表1−1に示した、水酸基価が30.2mgKOH/g、酸価が0.3mgKOH/g、数平均分子量が3710の、植物由来成分を41.2%有するポリエステルジオールPE(5)を得た。
【0075】
次に、反応容器に、上記で得られたポリエステルジオールPE(5)を500部と、IPDIを47.8部仕込み、窒素気流下、100℃で5時間反応させて、表2−1に示したように、NCO基含有率1.18%のウレタンプレポリマーを得た。得られたウレタンプレポリマーを希釈用有機溶剤である酢酸エチル182.0部に溶解して、不揮発分75%のウレタンプレポリマー溶液(5)とした。
【0076】
次いで、IPDAを14.7部、酢酸エチル933.6部、IPAを197.0部の混合物を配合し、撹拌しながら、上記で得たウレタンプレポリマー溶液(5)を730.4部滴下して、40℃で1時間反応した。その結果、不揮発分30%、粘度1200mPa・s(25℃)、末端のアミノ基濃度が、樹脂固形分1g当たり40.9μg当量で、樹脂固形分中に植物由来成分を36.6%有する本実施例のポリウレタン樹脂溶液PU5を得た。表2−1に、上記で得たポリウレタン樹脂溶液PU5の配合及び性状を示した。
【0077】
(実施例6〜13)
それぞれ表1−2に示した合成原料を用い、実施例1と同様にして、ポリエステルポリオールPE(6)〜PE(12)をそれぞれ調製した。表1−2に、調製したポリエステルジオールPE(6)〜PE(12)の、水酸基価、酸価、数平均分子量及び植物由来成分比率をそれぞれ示した。
【0078】
次に、反応容器に、上記でそれぞれ得たポリエステルジオールPE(6)〜PE(12)と、IPDIを表2−2の配合で、実施例1と同様に反応させて、ウレタンプレポリマーをそれぞれ得た。表2−1に、各ウレタンプレポリマーのNCO%を示した。そして、上記で得たそれぞれのウレタンプレポリマーを所定量の酢酸エチルに溶解して、不揮発分75%のウレタンプレポリマー溶液(6)〜(13)とした。
【0079】
次いで、表2−2に示した質量比でIPDA、酢酸エチル、IPAの混合物を配合し、撹拌しながら、上記で得たウレタンプレポリマー溶液の全量を滴下して、40℃で1時間反応した。その結果、本実施例のポリウレタン樹脂溶液PU6〜PU13をそれぞれ得た。表2−2に、上記で得た各ポリウレタン樹脂溶液PU6〜PU13の配合及び性状をまとめて示した。なお、表2−2に示したように、ポリウレタン樹脂溶液PU13は、ポリウレタン樹脂溶液PU6と同様に、原料にポリエステルジオールPE(6)を用いているが、ポリウレタン樹脂溶液PU6の製造の場合と、IPDIの量と、IPDAの使用量を変化させたことで、アミノ基当量が大きく異なるものになっている。
【0080】
【0081】
【0082】
表1−1及び表1−2中の略号は下記の通りである。
NPG:ネオペンチルグリコール
EG:エチレングリコール
1,4−BD:1,4−ブタンジオール
1,2−PD:1,2−プロパンジオール
1,3−PD:1,3−プロパンジオール
【0083】
【0084】
【0085】
表2−1及び表2−2中の略号は下記の通りである。
IPDI:イソホロンジイソシアネート
IPDA:イソホロンジアミン
IPA:イソプロピルアルコール
MEK:メチルエチルケトン
【0086】
(比較例1)
ポリエステルポリオールの重合において、本発明で必須とする植物由来成分からなるコハク酸を原料に使用しなかったこと以外は、実施例1と同様にして、本比較例のポリウレタン樹脂溶液を調製した。まず、ジカルボン酸成分として、植物由来成分からなるダイマー酸(ダイマー純度98%)のみを用い、ジオール成分として、植物由来成分からなる1,3−プロパンジオールを用いた。そして、これらの成分を、適宜な量を用いて重合し、表3に示した、水酸基価が37.3mgKOH/g、酸価が0.3mgKOH/g、数平均分子量が3000の、100%植物由来成分からなるポリエステルジオールPE(13)を得た。
【0087】
次に、反応容器に、上記で得たポリエステルジオールPE(13)を500部と、IPDIを66.4部仕込み、窒素気流下、100℃で5時間反応させて、表4に示したように、NCO基含有率1.87%のウレタンプレポリマーを得た。得られたウレタンプレポリマーを、酢酸エチル188.8部に溶解して、不揮発分75%のウレタンプレポリマー比較溶液(C1)とした。
【0088】
次いで、IPDAを23.8部、酢酸エチルを981.9部、IPAを206.6部の混合物を配合し、撹拌しながら、上記で得たウレタンプレポリマー比較溶液(C1)を755.2部滴下して、40℃で1時間反応した。その結果、不揮発分30%、粘度1090mPa・s(25℃)、末端のアミノ基濃度が、樹脂固形分1g当たり47.1μg当量で、樹脂固形分中に植物由来成分を84.7%有する、本比較例のポリウレタン樹脂溶液PU−C1を得た。表4に、上記で得たポリウレタン樹脂溶液PU−C1の配合及び性状を示した。
【0089】
(比較例2)
ポリエステルポリオールの重合において、ジカルボン酸成分として、ダイマー酸等のその他のジカルボン酸を使用せずに、植物由来成分からなるコハク酸をのみを使用してコハク酸100%としたこと以外は、実施例1と同様にして、本比較例のポリウレタン樹脂溶液を調製した。まず、ジカルボン酸成分として、植物由来成分からなるコハク酸のみを用い、ジオール成分として植物由来成分からなる1,3−プロパンジオールを用いた。そして、これらの成分を、適宜な量を用いて重合し、表3に示した、水酸基価が37.3mgKOH/g、酸価が0.3mgKOH/g、数平均分子量が3000の、100%植物由来成分からなるポリエステルジオールPE(14)を得た。
【0090】
次に、反応容器に、上記で得たポリエステルジオールPE(14)を500部と、IPDIを62.7部仕込み、窒素気流下、100℃で5時間反応させて、表4に示したように、NCO基含有率1.65%のウレタンプレポリマーを得た。得られたウレタンプレポリマーを、酢酸エチル187.6部に溶解して、不揮発分75%のウレタンプレポリマー比較溶液(C2)とした。
【0091】
次いで、IPDAを20.9部、酢酸エチルを969.9部、IPAを204.3部の混合物を配合し、撹拌しながら、上記で得たウレタンプレポリマー比較溶液(C2)を750.3部滴下して、40℃で1時間反応した。その結果、不揮発分30%、粘度1180mPa・s(25℃)、末端のアミノ基濃度が、樹脂固形分1g当たり41.7μg当量で、樹脂固形分中に植物由来成分を85.7%有する、本比較例のポリウレタン樹脂溶液PU−C2を得た。表4に、上記で得たポリウレタン樹脂溶液PU−C2の配合及び性状を示した。
【0092】
(比較例3)
反応容器に、実施例2で使用した100%植物由来成分からなるポリエステルジオールPE(2)を180部と、実施例4で使用した100%石油由来成分からなるポリエステルジオールPE(4)を320部と、IPDIを59.0部仕込み、窒素気流下、100℃で5時間反応させて、表4に示したように、NCO基含有率1.42%のウレタンプレポリマーを得た。得られたウレタンプレポリマーを、酢酸エチル186.4部に溶解して、石油由来成分が多く用いられている不揮発分75%のウレタンプレポリマー比較溶液(C3)を得た。
【0093】
次いで、IPDAを18.2部、酢酸エチルを958.5部、IPAを202.0部の混合物を配合し、撹拌しながら、上記で得たウレタンプレポリマー比較溶液(C3)を745.4部滴下して、40℃で1時間反応した。その結果、不揮発分30%、粘度1100mPa・s(25℃)、末端のアミノ基濃度が、樹脂固形分1g当たり42.7μg当量で、樹脂固形分中に植物由来成分を31.2%有する、本比較例のバイオマス度が低いポリウレタン樹脂溶液PU−C3を得た。表4に、上記で得たポリウレタン樹脂溶液PU−C3の配合及び性状を示した。
【0094】
(比較例4)
ポリエステルポリオールの調製において、本発明で必須とするコハク酸と、ジオール成分として、本発明で規定する1,3−プロパンジオール等の成分を使用しなかったこと以外は、基本的には実施例と同様にして、本比較例のポリウレタン樹脂溶液を調製した。なお、本比較例の樹脂は、前記した特許文献1の製造例9に記載された樹脂に該当する。
【0095】
まず、ジカルボン酸成分として、植物由来成分からなるダイマー酸(ダイマー純度98%)のみと、ジオール成分として、石油由来成分からなる1,6−ヘキサンジオールとを用い、これらの成分を、適宜な量を用いて重合し、表3に示した、重水酸基価が57.0mgKOH/g、酸価が0.4mgKOH/g、数平均分子量が2000で、植物由来成分を81.1%有するポリエステルジオールPE(15)を得た。そして、反応容器に、得られたポリエステルジオールPE(15)を500部と、IPDIを111.0部仕込み、窒素気流下、100℃で5時間反応させて、表4に示したように、NCO基含有率3.36%のウレタンプレポリマーを得た。得られたウレタンプレポリマーを、酢酸エチル203.7部に溶解して、不揮発分75%のウレタンプレポリマー比較溶液(C4)を得た。
【0096】
次いで、IPDAを38.8部、酢酸エチルを1100.6部、IPAを230.2部の混合物を配合し、撹拌しながら、上記で得たウレタンプレポリマー比較溶液(C4)を814.7部滴下して、40℃で1時間反応した。その結果、不揮発分30%、粘度1020mPa・s(25℃)、末端のアミノ基濃度が、樹脂固形分1g当たり42.5μg当量で、樹脂固形分中に植物由来成分を61.6%有する、本比較例のポリウレタン樹脂溶液PU−C4を得た。表4に、上記で得たポリウレタン樹脂溶液PU−C4の配合及び性状を示した。
【0097】
(比較例5〜8)
実施例1と同様にして、表3に示したジカルボン酸成分とジオール成分とを、適宜な量を用いて重合し、表3に示した水酸基価、酸価、数平均分子量及び植物由来成分比率の、100%石油由来成分からなるポリエステルジオールPE(16)と、100%植物由来成分からなるポリエステルジオールPE(17)をそれぞれ調製した。
【0098】
次に、反応容器に、先に実施例6及び実施例13で使用したポリエステルジオールPE(6)、上記で得たポリエステルジオールPE(16)及びポリエステルジオールPE(17)をそれぞれに用い、IPDIを表4の配合で実施例と同様に反応させて、表4に示したNCO%のウレタンプレポリマーをそれぞれ得た。得られた各ウレタンプレポリマーを所定量の酢酸エチルに溶解して、不揮発分75%のウレタンプレポリマー比較溶液(C5)〜(C8)を得た。
【0099】
次いで、表4に示した質量比で、IPDA、酢酸エチル、IPAの混合物を配合し、撹拌しながら上記で得た各ウレタンプレポリマー溶液の全量を滴下して、40℃で1時間反応した。その結果、比較例5〜8のポリウレタン樹脂溶液PU−C5〜PU−C8をそれぞれ得た。表4に、上記で得たポリウレタン樹脂溶液PU−C5〜PU−C8の配合及び性状を示した。
【0100】
【0101】
表3中の略号は下記の通りである。
NPG:ネオペンチルグリコール
1,6−HD:1,6−ヘキサンジオール
1,3−PD:1,3−プロパンジオール
【0102】
【0103】
表4中の略号は下記の通りである。
IPDI:イソホロンジイソシアネート
IPDA:イソホロンジアミン
IPA:イソプロピルアルコール
【0104】
<評価>
実施例及び比較例の各ポリウレタン樹脂溶液の性能評価は、以下のようにして、各樹脂溶液をそれぞれに配合した印刷インキを調製し、得られた印刷インキを用いて行った。
【0105】
[印刷インキの調製:実施例1−I〜13−I及び比較例1−I〜8−I]
実施例1〜13及び比較例1〜8のポリウレタン樹脂溶液を、それぞれ40部を用い、下記のようにして、実施例及び比較例の印刷インキをそれぞれ調製した。具体的には、顔料として酸化チタン白を30部、ポリウレタン樹脂溶液を40部、酢酸n−プロピル15部及びイソプロピルアルコール15部からなる組成の混合物を、ペイントシェーカーで1時間混練して、白インキを調製した。さらに、得られた白インキを、希釈用の酢酸エチル/IPAの混合溶剤(質量比50/50)で、#3ザーンカップ18秒に粘度調整して、実施例1−I〜13−I及び比較例1−I〜8−Iの印刷インキをそれぞれ得た。なお、実施例1〜13及び比較例1〜8のポリウレタン樹脂溶液を用いて調製した各印刷インキは、それぞれの、実施例又は比較例の番号に−Iを付けた形で表記した。
【0106】
(印刷インキの評価方法及び評価基準)
上記で調製した実施例1−I〜13−I、比較例1−I〜8−Iの各印刷インキを用いて、下記の試験方法及び基準でそれぞれ評価し、その結果を表5にまとめて示した。
【0107】
(1)バイオマス成分量
実施例及び比較例の各印刷インキの固形分中における、バイオマスウレタン樹脂中のバイオマス成分の含有量(質量%)を算出して求め、以下の基準にて評価した。
(評価基準)
○:バイオマス成分含量が10%以上である。
×:バイオマス成分含量が10%未満である。
【0108】
(2)相溶性
石油由来の標準的な印刷インキとの相溶性を評価するため、下記のようにして標準的なインキを評価用に調製した。まず、反応容器に、石油由来成分を100%有するポリエステルジオールPE(4)を500部と、IPDIを66.4部仕込み、窒素気流下、100℃で5時間反応させて、NCO基含有率1.87%のウレタンプレポリマーを得た。次に、得られたウレタンプレポリマーを希釈用有機溶剤である酢酸エチル188.8部に溶解して、不揮発分75%のウレタンプレポリマー溶液とした。次いで、IPDAを23.6部と、酢酸エチルを981.4部、IPAを206.5部の混合物(ジアミン溶液)を配合し、撹拌しながら、上記で得たウレタンプレポリマー溶液を755.2部滴下して、40℃で1時間反応した。その結果、不揮発分30%、粘度1150mPa・s(25℃)の、末端のアミノ基濃度が樹脂固形分1g当たり42.8μg当量で、樹脂固形分中に植物由来成分を有しないポリウレタン樹脂溶液を得た。
【0109】
そして、得られたポリウレタン樹脂溶液を40部、酸化チタン白を30部、酢酸n−プロピルを15部及びIPAを15部からなる組成の混合物を、ペイントシェーカーで1時間混練して、白インキを調製した。さらに、得られた白インキを、希釈用の酢酸エチル/イソプロピルアルコールの混合溶剤(質量比50/50)で、#3ザーンカップ18秒に粘度調整して、相溶性評価用の標準印刷インキ(100%石油由来)を得た。
【0110】
上記で調製した相溶性評価用の標準印刷インキを100部カップにとり、実施例のインキ1−I〜13−I及び比較例のインキ1−I〜8−Iをそれぞれ100部カップにとって、標準印刷インキに注ぎ込み、その際の状態を目視観察して、標準的な印刷インキとの相溶性を下記の基準で評価した。
【0111】
(評価基準)
◎:混合しただけで均一になった。
○:混合しただけでは不均一だが撹拌すれば均一になった。
×:撹拌しても均一にならなかった。
【0112】
(3)顔料分散性
実施例及び比較例の各印刷インキをそれぞれ、黒帯付きの白い展色紙に少量垂らし、垂らしたインキを金属へらを用いて展色し、顔料分散の均一さと発色性を目視にて観察し、以下の規準で評価した。
【0113】
(評価基準)
○:顔料分散が均一で、発色も良好である。
△:顔料分散がやや不均一で、発色がやや不良である。
×:顔料分散が不均一で、発色が明らかに劣る。
【0114】
(4)印刷適性
実施例及び比較例の各印刷インキをそれぞれ、版深35μmのグラビア版を装着したグラビア印刷機にセットし、ドクター刃を版に当てながら、25℃環境下、30分間輪転させた前後での1回印刷物における発色の変化を、目視にて観察し、以下の規準で評価した。印刷物の基材は、コロナ放電処理した厚さ12μmの2軸延伸バイオマスPETとした。
【0115】
(評価基準)
○:グラビア印刷機30分間輪転前後での印刷の発色に、差がなかった。
△:グラビア印刷機30分間輪転後での印刷の発色が、輪転開始時と比較し、やや劣る。
×:グラビア印刷機30分間輪転後での印刷の発色が、輪転開始時と比較し、明らかに劣る。
【0116】
(5)接着性(テープ密着性試験)
実施例及び比較例の各印刷インキをそれぞれ、版深35μmのグラビア版を装着したグラビア印刷機にセットし、コロナ放電処理した厚さ12μmの2軸延伸バイオマスPETフィルム基材に対して、各2回重ね印刷し、50℃で乾燥して、評価用の白印刷フィルムをそれぞれ得た。
【0117】
そして、得られた白印刷フィルムの1日放置後のインキの密着性を、セロファンテープ(ニチバン製、セロテープ(登録商標)、24mm)を用いて行う、テープ密着性試験により評価した。具体的には、各白印刷フィルムの印刷面に、上記セロファンテープを貼り付け、角度90度で一気に引き剥がした時の印刷面の状態を目視にて観察し、印刷面に残ったインキの残存率で印刷インキの接着性の良否を判定した。上記テープ密着性試験において、印刷インキの残存率が90%以上であれば、十分に実用性がある。
【0118】