【課題】本発明は、地震計等、複数の振動センサのセンサフュージョンを行うための実用レベルの手法を提供することを課題とし、一例においては高感度換振器と低感度加速度換振器のセンサフュージョンにより高感度換振器のダイナミックレンジを拡大することを目指す。
【解決手段】低感度加速度換振器からの加速度記録と、高感度換振器の速度記録、或いは変位記録、加速度記録とをカルマンフィルタに取り込み、制御入力ありの線形カルマンフィルタ問題として推定、演算を行うことにより、高感度換振器に関する状態推定を行う。高感度換振器は実機であるが、記録が飽和する場合であっても低感度加速度換振器のセンサ値を用いることにより状態推定が可能である。これにより高感度換振器のダイナミックレンジが拡大される。
振動センサに関する状態ベクトルであって外部入力に応じて時間変化する状態ベクトルを離散的な時刻に応じて推定するとともに、該状態ベクトルに関する共分散行列を離散的な時刻に応じて演算する、推定装置であって、
前記外部入力として振動に関する物理量の外部測定器により測定された測定値を取得する、測定値取得部と、
前記振動センサのセンサ値を取得する、センサ値取得部と、
前回の推定により得られた状態ベクトル推定値と、前回の演算により得られた事後共分散行列と、該前回の推定及び該前回の演算に対応する時刻に対応する前記測定値と、システムノイズの共分散行列とを格納する、データ格納部と、
前記前回の推定により得られた状態ベクトル推定値と、前記前回の推定及び前記前回の演算に対応する時刻に対応する前記測定値とを用いて、状態ベクトル事前推定値を演算する、状態ベクトル事前推定値演算部と、
前記前回の演算により得られた事後共分散行列と、前記システムノイズの共分散行列とを用いて、事前共分散行列を演算する、事前共分散行列演算部と、
前記事前共分散行列を用いてカルマンゲインを演算する、カルマンゲイン演算部と、
前記状態ベクトル事前推定値と、前記カルマンゲインと、前記センサ値とを用いて、今回の推定における状態ベクトル推定値を演算する、状態ベクトル推定値演算部と、
前記事前共分散行列と、前記カルマンゲインとを用いて、今回の演算における事後共分散行列を演算する、事後共分散行列演算部と
を備えた、推定装置。
前記外部測定器は演算により加速度変換できるもので、前記振動センサのダイナミックレンジの上限を超えるダイナミックレンジを有し、前記測定値取得部は加速度の測定値を取得する、請求項2に記載の振動センサシステム。
前記振動センサは振り子を備え、変位、速度、加速度のうち1以上の値を測定し、前記センサ値取得部は、該変位、該速度、該加速度のうち1以上の値を取得する、請求項2又は3に記載の振動センサシステム。
前記カルマンゲイン演算部は、カルマンゲイン調整項を用いた演算によりカルマンゲインを調整し、該カルマンゲインの調整は、前記振動センサの変位、速度、加速度のうち1以上の値が所定値よりも大きい場合には、該1以上の値が所定値よりも小さい場合に比べて該カルマンゲイン調整項を大きくすることでカルマンゲインを小さくすることにより行われる、請求項4に記載の振動センサシステム。
振動センサに関する状態ベクトルであって外部入力に応じて時間変化する状態ベクトルを離散的な時刻に応じて推定するとともに、該状態ベクトルに関する共分散行列を離散的な時刻に応じて演算する、推定装置により実行される方法であって、
前記外部入力として振動に関する物理量の外部測定器により測定された測定値を取得するステップと、
前記振動センサのセンサ値を取得するステップと、
前回の推定により得られた状態ベクトル推定値と、前回の推定及び前回の演算に対応する時刻に対応する測定値とを用いて、状態ベクトル事前推定値を演算するステップと、
前回の演算により得られた事後共分散行列と、システムノイズの共分散行列とを用いて、事前共分散行列を演算するステップと、
前記事前共分散行列を用いてカルマンゲインを演算するステップと、
前記状態ベクトル事前推定値と、前記カルマンゲインと、前記センサ値とを用いて、今回の推定における状態ベクトル推定値を演算するステップと、
前記事前共分散行列と、前記カルマンゲインとを用いて、今回の演算における事後共分散行列を演算するステップと
を含む、方法。
振動センサに関する状態ベクトルであって外部入力に応じて時間変化する状態ベクトルを離散的な時刻に応じて推定するとともに、該状態ベクトルに関する共分散行列を離散的な時刻に応じて演算する方法を、コンピュータに実行させるためのプログラムであって、
前記外部入力として振動に関する物理量の外部測定器により測定された測定値を取得するステップと、
前記振動センサのセンサ値を取得するステップと、
前回の推定により得られた状態ベクトル推定値と、前回の推定及び前回の演算に対応する時刻に対応する測定値とを用いて、状態ベクトル事前推定値を演算するステップと、
前回の演算により得られた事後共分散行列と、システムノイズの共分散行列とを用いて、事前共分散行列を演算するステップと、
前記事前共分散行列を用いてカルマンゲインを演算するステップと、
前記状態ベクトル事前推定値と、前記カルマンゲインと、前記センサ値とを用いて、今回の推定における状態ベクトル推定値を演算するステップと、
前記事前共分散行列と、前記カルマンゲインとを用いて、今回の演算における事後共分散行列を演算するステップと
をコンピュータに実行させるための、プログラム。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態を説明する。ただし本発明が以下に説明する具体的態様に限定されるわけではなく、本発明の請求の範囲内で適宜変更可能であることに留意する。
【0018】
以下の実施形態においては、高感度換振器(高感度振動センサ)と、高感度換振器のダイナミックレンジの上限を超えるダイナミックレンジを有する低感度加速度換振器(低感度振動センサ。「外部測定器」の一例。)のセンサフュージョンにより高感度換振器のダイナミックレンジを拡大する一つの方法を提案する。最初に、広帯域速度計(VBB)と強震計のセンサフュージョンを具体例として展開するが、この方法は、三種類の高感度地震計(変位計、速度計及び加速度計)と強震計の統合にも適用可能である。
【0019】
センサフュージョンの概念
提案するセンサフュージョンのフローの一例を
図1に概念的に示す。この例は、観測された強震計の加速度記録と並行観測された高感度換振器からの記録をフュージョン(融合)してダイナミックレンジの拡大を図るものである。このために、高感度換振器と等価な仮想センサ(模擬的センサ)を、ソフトウェアを用いて構築することができる(後述のとおり、仮想センサではなく実際の高感度換振器を用いてセンサフュージョンを行うこともできるし、仮想センサと実際のセンサを組み合わせて使い分けてもよい。)。この仮想センサは、全状態帰還型(full−state−feedback,略してFSF)センサ(非特許文献4)と呼ばれるものである。このFSFセンサは、高感度換振器と等価であるから、これを状態空間で表現し、入力に観測された加速度を確定された信号として与え、出力に観測された高感度換振器からの記録に正規性雑音を加えて宛がうことが可能となる。ここにおいて「状態」とは、FSFセンサ内部での振り子運動の状態である。よって、高感度換振器の出力、すなわちFSFセンサの出力がカルマンフィルタを用いて得られた振り子の状態から推定されることとなる。仮想センサとしてのFSFセンサは実機ではないので、電源電圧の制限から逃れられる。このため推定されるFSFセンサの出力は、実観測された高感度換振器からの記録がクリップしても(所定値を超えて飽和しても)、加速度計が正常動作していれば、高感度換振器の実記録に加える観測雑音(観測ノイズ)を大きくしてカルマンゲインを小さくすることで、クリップしない状態で出力される。また、観測雑音を小さくしてカルマンゲインを大きくすれば実観測された波形がカルマンフィルタから忠実に出力される。以降において、「高感度換振器」というときには、実機としての高感度換振器を指す。
【0020】
仮想センサ(ソフトウェアセンサ)を用いたセンサフュージョンの構成
図2は、カルマンフィルタを用いたセンサフュージョンの構成を示すブロック線図である。説明を簡潔にするべく、ここではFSFセンサが模擬的な速度計であるとするが、後述のとおりFSFセンサは模擬的な変位計、或いは加速度計であってもよいし、またFSFセンサが模擬的な変位計と速度計の両方として動作することにより、低感度換振器(加速度計)と変位計及び速度計とを融合させるなど、多数の振動センサによりセンサフュージョンを行うこともできる。
【0021】
図2のブロック線図中、
【数1】
は低感度加速度計の加速度記録(単位はm(メートル)/s
2(秒の二乗)とする。以下においても同様。)とし、y
m(n)は正規性雑音を加えた高感度地震計の記録とする。具体的に、
図2の例ではm=2とし、高感度速度計からの速度記録であるとするが(単位はm(メートル)/s(秒)とする。以下においても同様。)、m=3のときは高感度加速度計からの加速度記録であるし(単位はm(メートル)/s
2(秒の二乗)とする。以下においても同様。)、m=1のときのy
1(n)は高感度変位計からの変位記録である(単位はm(メートル)とする。以下においても同様。)。ここでnは整数であり離散時刻を表す。標本化時間をΔTとすれば、離散時刻nに対応する実際の時刻はnΔT(単位はsとする。以下においても同様。)となり、この時刻nΔTで本来は表記すべきであるが、簡略化のためにΔTを省略する。また
図2中、Σは、そこに向かう信号値を足し合わせて、そこから出る方向に出力することを示す(以下においても同様。なおマイナスの符号が付いている場合には、その信号値は足されるのではなく引かれる。)。zは、離散時刻をnからn+1まで推移させる時間推移演算子であり、z
-1は、その逆の演算(離散時刻をn+1からnまで推移させる)をする演算子である。
【数2】
は状態ベクトルを観測データに変換する演算子であり(観測対象に応じた行列又はベクトルで表現される)、離散時刻nにおける状態(状態ベクトル)を
【数3】
とし(列ベクトル)、離散時刻nにおける状態ベクトルのカルマンフィルタによる推定値を
【数4】
とすると(列ベクトル)、以下の観測方程式
【数5】
により、観測量の推定値が与えられる。
【数6】
は3次の単位行列である。
【数7】
は状態ベクトルの推移を規定する遷移行列であり、
【数8】
は入力信号を選択する列ベクトルであり、それぞれ、モデルに応じて具体的にその値が定められる。
【数9】
はカルマンゲインであり、この例においてはベクトル(列ベクトル)として後述のとおりフィルタリングステップ内で決定される。
【0022】
図2に示すとおり、カルマンフィルタには、低感度加速度計の加速度記録
【数10】
と、高感度速度計の記録
【数11】
に観測雑音r(n)を加えた記録y
m(n)が入力される。観測雑音r(n)は正規性ノイズであり、その平均値E[r(n)]が0であるとし、その分散E[r
2(n)]をR(n)とする(Eは統計的平均を表す。以下においても同様。)。R(n)は、外部から(振動センサシステムの使用者等により)設定される量であり、R(n)を調整することによりカルマンゲインの大きさを調整できる。
【0023】
図2に示すセンサフュージョンにおいては、
【数12】
を外部からの制御入力とみなし、y
m(n)を観測値とし、これらを用いて線形カルマンフィルタの予測ステップとフィルタリングステップとを実行することにより、FSFセンサに関する状態が推定される。高感度換振器により実際に観測された観測値に正規性ノイズを加えたy
m(n)を、
図2中のy
m(n)として(
図2ではm=2としているが、上述のとおりmは任意。)入力してカルマンフィルタによる推定を行う。
図2中のカルマンフィルタによる状態推定は、
【数13】
【数14】
により記述される線形システムに対して行われる。ここで、
【数15】
【数16】
である。
なお、
【数17】
は正規性のシステム雑音(平均がゼロベクトルの列ベクトル)であり、
【数18】
は、
【数19】
の転置行列として与えられる行ベクトルである。本明細書において、[*]’は、行列(又はベクトル)[*]の転置行列(transposed matrix)又は転置行列として与えられるベクトルであるとする。「’」記号により転置を表す。また、(式4)で表される
【数20】
は、システム雑音の共分散行列である。
【0024】
振動センサシステムの具体的構成
次に、本発明によるセンサフュージョンを行うための振動センサシステムの具体的構成を説明する。
図3は、本発明の一実施形態に係る振動センサシステムの構成を示すブロック図である。振動センサシステム1は、推定装置2と、外部測定器3と、振動センサ4とを備え、推定装置2は、疑似的センサのパラメータを持つカルマンフィルタ演算部200を備える。
【0025】
推定装置2は、上述のカルマンフィルタによる推定を行うための装置であり、測定値取得部201、データ格納部202、センサ値取得部203を備える。またカルマンフィルタ演算部200は測定帯域内で振動センサと等価な疑似的センサを用いてカルマンフィルタを動作させる装置であり、状態ベクトル事前推定値演算部204、事前共分散行列演算部205、カルマンゲイン演算部206、状態ベクトル推定値演算部207、事後共分散行列演算部208を備える。これらの各種機能部は、状態推定プログラムを実行するためのコンピュータにより実現されてもよい。そのような例としての、推定装置の装置構成例を
図4のブロック図に示す。ただし、推定装置2をコンピュータにより実現することは必須ではなく、例えばASIC(application specific integrated circuit、特定用途向け集積回路)、FPGA(field−programmable gate array)等の集積回路を用いて推定装置2を構成してもよいし、各種演算回路や記憶回路等を組み合わせて推定装置2の各種機能部を構成してもよい。
【0026】
図4に示す推定装置2は、中央処理装置(CPU: Central Processing Unit)、一時記憶メモリ(RAM:Random access memory)を備えた処理部209と、ハードディスクドライブ、SSD(Solid State Drive)等の記憶デバイスを用いて構成される記憶部210と、USB(Universal Serial Bus)規格等に従ってデータを入出力するためのデータ入出力機器、ディスプレイ装置、キーボード、マウス等を備えた入出力部211とを備える。記憶部210には、状態推定プログラム、OS(Operating system:オペレーティングシステム)等の各種プログラム、及び、状態推定プログラム用データ、その他の各種データが記憶されており、RAMに適宜プログラム、データを読み込みつつ、CPUが状態推定プログラム等のプログラムを実行することにより、測定値取得部201、データ格納部202、センサ値取得部203、状態ベクトル事前推定値演算部204、事前共分散行列演算部205、カルマンゲイン演算部206、状態ベクトル推定値演算部207、事後共分散行列演算部208が実現される。
【0027】
具体的に、まず測定値取得部201は、外部測定器3(低感度換振器としての加速度計)から加速度値を取得する機能部であり、状態推定プログラム、各種プログラムを実行するCPUによって制御される入出力部211のデータ入出力機器により実現される。データ格納部202は、状態推定プログラム、各種プログラムを実行するCPUによって制御される記憶部210によって実現され、後述のとおり、繰り返し行われる推定に関し、前回の推定により得られた状態ベクトル推定値と、前回の演算により得られた事後共分散行列と、前回の推定及び前回の演算に対応する時刻に対応する測定値と、システムノイズの共分散行列とを格納する。センサ値取得部203は、振動センサ4のセンサ値を取得する機能部であり、状態推定プログラム、各種プログラムを実行するCPUによって制御される入出力部211のデータ入出力機器により実現される。状態ベクトル事前推定値演算部204は、状態推定プログラム(特に状態ベクトル事前推定値演算モジュール)、各種プログラムを実行するCPUによって実現される機能部であり、状態ベクトル事前推定値の演算を行う。事前共分散行列演算部205は、状態推定プログラム(特に事前共分散行列演算モジュール)、各種プログラムを実行するCPUによって実現される機能部であり、事前共分散行列の演算を行う。カルマンゲイン演算部206は、状態推定プログラム(特にカルマンゲイン演算モジュール)、各種プログラムを実行するCPUによって実現される機能部であり、カルマンゲインの演算を行う。状態ベクトル推定値演算部207は、状態推定プログラム(特に状態ベクトル推定値演算モジュール)、各種プログラムを実行するCPUによって実現される機能部であり、状態ベクトル推定値の演算を行う。事後共分散行列演算部208は、状態推定プログラム(特に事後共分散行列演算モジュール)、各種プログラムを実行するCPUによって実現される機能部であり、事後共分散行列の演算を行う。
【0028】
外部測定器3は、ここにおいては低感度換振器としての加速度計(演算により加速度変換できるもので、高感度換振器のダイナミックレンジの上限を超えるダイナミックレンジを有する。)であり、例えばMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)型の加速度センサを用いて構成される。外部測定器3は、命令信号の外部からの入力、加速度の測定記録の外部への出力等をするための入出力機器も備えている。
【0029】
(第1の実施形態)
高感度速度計のモデル
次に、本発明の第1の実施形態として、高感度速度計のモデルを用いる振動センサシステムの実施形態を具体的に説明する。
図5は、振動センサ4(高感度速度計としてのVBB型地震計)の一例を示す図である。
【0030】
FSFセンサは古典的なPID制御(Proportional−Integral−Differential Controller)理論を用いて設計される負帰還型地震計と同様に組み立てられ、
図5に示すVBB型地震計の動作を模擬する。
図5の振動センサは、サーボコイルに接続された振り子4001(振り子とサーボコイルの具体的な接続は、例えば
図10を参照。なお、検定コイル、駆動用コイルは
図10紙面内では断面として示されており、実際は輪状の形状を有している。マグネットも
図10紙面内では断面として示されており、実際は内部が部分的にくりぬかれた円柱のような形状を有している。)、減衰要素4002(具体例としては空気抵抗によるダンパーであり実体はない)、剛性要素4003(具体例としては振り子を支えるバネ)、3枚の電気容量板(極板)を備える変位検出器4004を備え、これらは容器4005に収納されている。
図5に示すとおり、振り子4001は、変位検出器4004に含まれる3枚の容量板のうち、中央の容量板に接続されている。また振動センサ4は、振り子の変位−電圧変換増幅器A
D(便宜上、増幅器A
Dの変換係数をA
D[V/m]で表す。),微分器G
S(便宜上、微分器G
Sの係数をG
Sで表す。微分器G
Sの作用は、数式では
【数21】
で表される。),インピーダンス要素R
I(抵抗R
I[Ω]で表す。),インピーダンス要素R
D(抵抗R
D[Ω]で表す。),インピーダンス要素R
V(抵抗R
V[Ω]で表す。)を備え、また積分記号
【数22】
で表される積分器(T(s)は時定数とする。積分器の作用は、数式では
【数23】
で表される。)を備える。なお、
図5中では明示していないが、振り子4001が接続されるサーボコイルのまわりには磁石が配置されており(
図10を参照。)サーボコイルは磁界の中で運動する。
【0031】
振動センサ4が設置されている地面等が振動した場合に対応して、振動センサ4に入力変位w(t)が与えられると(単位はmとする。本明細書において、単位について明記しない量はMKSA単位系で表される量であるとする。)、振り子4001が振動する(格納容器4005内の振り子の、容器に対する相対変位をx(t)(単位はmとする。)とする)。振り子4001の変位により、変位検出器4004に含まれる3枚の容量板のそれぞれの間隔が変化する。具体的に、静止状態において、上の容量板と中央の容量板の間隔と、中央の容量板と下の容量板の間隔とが、それぞれd[m]であったとすると、
図6中に示す方向で振り子4001がxだけ変位することにより、振り子4001に接続された中央の容量板も同様に変位する。これにより、上の容量板と中央の容量板の間隔はd−xとなり、中央の容量板と下の容量板の間隔はd+xとなる。したがって、上の容量板と中央の容量板の間の電気容量と、中央の容量板と下の容量板との間の電気容量がそれぞれ変化し、振り子4001の変位xが電気回路A
Dによって変位に比例した電圧として検出される。この電圧に対して上述の回路要素により微積分等を行い、サーボコイルに電流i(t)を流し、振り子4001が静止するように制御する。すなわち、磁石(
図10参照。)による磁界中のサーボコイルに電流i(t)が流れる(フィードバック)ことにより力が発生し、この力により振り子が静止するように制御される。具体的には、入力変位w(t)に対して、
【数24】
を復元加速度として発生させ(G[N/A]はサーボコイルのモータジェネレータ定数(motor generator constant)であり、m[kg]は振り子4001の質量である。)、復元加速度
【数25】
を実現する(wの上に「・・」を付しているのは、時間による2回の微分を意味する。上に「・」を付す場合には時間による1回の微分を意味する。時間変化するw以外の量についても、適宜同様に時間微分を表記する。)。この制御に要した電流から、加速度、速度、変位がセンサ値として得られる。具体的には、微分器G
Sの出力端から振り子4001の加速度出力が得られ、変位−電圧変換増幅器A
Dの出力端から振り子4001の速度出力が得られ、積分器の出力端から振り子4001の変位出力が得られる。
【0032】
次に、仮想センサであるFSFセンサによって
図5に示すVBB型地震計の動作を模擬するためのモデルを、非特許文献4にならって説明する。まず、仕様として、機構部の振り子系のパラメータとFSFセンサの設計目標を以下のように与える。
[機構部の振り子系]
振り子の質量=m[kg],減衰定数=h[無次元量],固有円振動数=ω
0[rad]、サーボコイルのモータジェネレータ定数=G[N/A]
[FSFセンサの特性]
速度出力感度S
V[V/(m/s)],低域遮断円振動数=ω
C[rad],及び、
【数26】
【0033】
上記仕様に基づき、FSFセンサは4段階のステップで実現される。まずステップ1では、フィードバックゲインベクトル(列ベクトル)
【数27】
を下記のとおり決定する。ここでは、発振防止用の高域遮断円振動数ω
3を制御パラメータとして試みに与えて計算する。通常、安全側に見て10
3[Hz]程度とする。
[ステップ1:フィードバックゲインベクトル]
【数28】
【数29】
【0034】
次に、ステップ2では、加速度及び変位信号の感度、S
A及びS
Dを決定する。このとき、積分器の時定数Tと微分器の係数G
Sが制御パラメータとして与えられる。逆に、S
A及びS
Dを与えて、A
D,T,G
Sを求めても問題はない。
[ステップ2:感度(Sensitivity)]
【数30】
【0035】
最後に、ステップ3で、
図5のフィードバックインピーダンスR
V,R
D,R
Iを決定する。
[ステップ3:フィードバックインピーダンス]
【数31】
【0036】
ステップ4は確認作業であり、得られたFSFセンサの伝達関数の計算である。ここで、H
A(s),H
V(s),H
D(s)が加速度、速度、及び、変位入力に対する、FSFセンサの加速度、速度、及び、変位出力に関する伝達関数となる。これらの伝達関数の極構造は、共通の特性方程式Δ(s)=0から求められる。
[ステップ4:伝達関数(Transfer function)]
【数32】
【0037】
上記ステップで構築されたFSFセンサのブロック線図(block diagram)は、状態ベクトル:
【数33】
を用いれば、
図7に示すとおりとなる。
図7において、FSFセンサの出力端子D,V,Aでは、
【数34】
が出力として得られる(この時点では観測ノイズを導入していないことに留意する。)。また、復元加速度
【数35】
は、状態フィードバックゲイン
【数36】
を用いれば、
【数37】
(内積演算)となる(これが全状態帰還の意味である。)。その詳細は、
図8に示すとおりである。
図8は
図7の復元加速度b(t)と状態ベクトルx(t)の部分のみを抜き出した図であり、式18を視覚化したものである。
【0038】
図7及び
図8のブロック線図を数式表現、すなわち状態空間表現すれば、以下の式のとおりとなる。
【数38】
【数39】
【0039】
観測ベクトルにおいて速度出力のみの観測をするとすれば、(式20)は次式となる。
【数40】
【0040】
FSFセンサの設計例として、VBB型を対象とすると以下のようになる。まず振り子の質量をm=0.09[kg],固有振動数をf
0=1.5[Hz],減衰定数を0.4,モータジェネレータ定数G=56[N/A]とする換振器要素を考える。次に、VBBの特性として、S
V=750[V/(m/s)]及び、
【数41】
とする。この条件で、f
3=1.062[kHz]を与えると、フィードバックゲインが
【数42】
となり、
【数43】
が得られる。更に、
【数44】
とすれば、加速度出力の感度
【数45】
と、変位出力の感度
【数46】
が得られる。設計されたFSFセンサの加速度入力に対する加速度、速度及び変位出力の周波数応答特性は、
図9に示すとおりとなる。これは、標準的なVBBの特性である。VBBの実機と同様に変位(D)端からの出力は加速度入力に対して直流感度を有する特性となる。図中のゲイン特性のdB表示では、
【数47】
を0[dB]としている。
【0041】
以上説明した高感度速度計のモデルをまとめれば、以下のとおりである。
状態ベクトルを
【数48】
としたとき、
【数49】
【数50】
ここで、
【数51】
は観測ノイズを含まない量である。
【0042】
(式28)〜(式30)は連続時間系の表現であるが、標本化時間ΔTをパラメータとして離散系に変換すると、
【数52】
で
【数53】
の条件下で次式となる。
【数54】
ここで
【数55】
及び
【数56】
【数57】
【0043】
(式33)〜(式36)の線形モデルに対して(システムノイズも観測ノイズもこの段階では導入していない。システムのブロック線図は
図6を参照。)、(式2)を用いて既に説明したシステムノイズ
【数58】
を導入する(平均0、共分散行列Q(n)の正規性雑音とする。)。さらに、
【数59】
に観測ノイズr(n)を加えた量を、以下のとおり新たにy
2(n)と定義する。
【数60】
観測ノイズr(n)は、平均0,分散R(n)の正規性雑音であるとする。上記(式37)が、観測ノイズがある場合の高感度速度計の信号モデルである。
【0044】
以上から、
図2のセンサフュージョンの構成は、システムノイズ、観測ノイズを含む以下の線形システム
【数61】
により記述される。
【0045】
このモデルにおいて、(式38)を
【数62】
と記述したとき、
【数63】
であるから、
VBBがクリップしない範囲では、
【数64】
が充分な精度で得られているとすると、
【数65】
となるため、
【数66】
となる。VBBがクリップする範囲では、
【数67】
ならば
【数68】
となるが、
【数69】
ではなく、
【数70】
を意味する。VBBで観測された信号は、このような性質の観測雑音r(n)によってモデル化される。(式38)では、更に解釈を拡大して、r(n)を平均零、分散R(n)の時変正規性雑音としてモデル化している。
【0046】
カルマンフィルタによる状態推定
(式38)のシステムに、制御入力がある場合の線形カルマンフィルタを適用可能である。この場合のカルマンフィルタの予測ステップ、フィルタリングステップは、以下のとおりである。
【数71】
【0047】
(式47)中、
【数72】
は、状態ベクトル
【数73】
の事前状態推定値であり、
【数74】
は、状態ベクトル
【数75】
に関する共分散行列(誤差共分散行列)
【数76】
の事前値である、事前共分散行列(事前誤差共分散行列)である。
【数77】
は、離散時刻n−1における状態ベクトル
【数78】
の推定値であり、
【数79】
は、離散時刻n−1における共分散行列
【数80】
の、カルマンフィルタにより演算される値であり、事後共分散行列である。
【数81】
は、離散時刻nにおける状態ベクトル
【数82】
の推定値であり、
【数83】
は、離散時刻nにおける共分散行列
【数84】
のカルマンフィルタにより演算される値であり、事後共分散行列である。また、
【数85】
は単位行列(現在の実施形態においては3行3列の行列)である。
【0048】
以上のとおり、システムノイズと観測ノイズとを導入することにより、カルマンフィルタを用いたセンサフュージョン(FSFセンサ、或いは高感度換振器の振り子の状態推定)が可能となる。
【0049】
振動センサシステムの動作フロー
次に振動センサシステム1の全体的な動作フローを設計時と運用時とに分けて説明する。
【0050】
設計時
図11は、振動センサシステムの設計時の動作フローを示すフローチャートである。ステップS1101において、推定装置2の処理部209は、記憶部210に記憶された疑似的センサ作成プログラムを実行することにより、上記(式6)〜(式36)を用いて説明した、高感度換振器と等価特性を有する(全)状態帰還型換振器のパラメータ計算を行い模擬的センサを作成する。これにより、(式33)〜(式36)で記述される状態帰還型換振器の離散化モデルが生成される(ステップS1102)。このモデルにおいて用いられる各種パラメータ等のデータは、推定装置2によるカルマンフィルタを用いた処理において用いられるので、各種パラメータ等のデータは推定装置2の記憶部210に記憶される(
図4参照)。
【0051】
引き続き、推定装置2の入出力部211は、外部測定器3から低感度換振器離散信号(加速度記録)を、そして振動センサ4から高感度換振器離散信号(速度記録。)を、それぞれ時々刻々と取得し(ステップS1103)、これら取得した記録のデータを記憶部210に記憶させる。模擬的センサ(処理部209)は、(式37)に記述されるとおり、高感度換振器離散信号に観測雑音モデルからの観測信号を加え(ステップS1104)、またシステムノイズも含む(式38)の線形システムを生成する。以降、模擬的センサは、外部測定器3からの加速度記録を時々刻々と取得し、システムノイズ、観測ノイズをそれぞれの雑音モデル(予め定義されて記憶部210に記憶されているものとする。後述のとおり、雑音モデルは事後的に調整可能。)から時々刻々と生成し、離散的な各々の時刻nについて、(式38)のモデルに従い高感度速度記録y
2(n)を生成し続ける。なお、(式38)中の状態ベクトル
【数86】
における、n=0での初期値は、予め与えられて記憶部210内の状態推定プログラム用データとして記憶されているものとする(システムノイズ等、その他に初期値が必要な変数についても同様。)。
【0052】
次に、推定装置2の処理部209は、取得したそれら記録データと、記憶部210に記憶された各種データを用いて状態推定プログラムを実行することにより、(式47)に従い、外生入力を持つカルマンフィルタによる高感度換振器の振り子運動推定を行い、状態ベクトル
【数87】
の推定値
【数88】
の演算と、推定誤差の事後共分散行列
【数89】
の、カルマンフィルタによる値
【数90】
の演算とを、時々刻々と行う(ステップS1105)。なお、(式47)中のカルマンゲインにおける、
【数91】
は、観測ノイズの分散であり、外部から設定可能な量(「カルマンゲイン調整項」)である(一例においては、使用者が入出力部211を介して入力し、状態推定プログラムを実行する処理部209によって、記憶部210に状態推定プログラム用データとして記憶される。)。状態推定プログラムを実行する処理部209は、振動センサ4から入力される速度記録の示す速度が所定値(一例においては、使用者が入出力部211を介して入力し、状態推定プログラムを実行する処理部209によって、記憶部210に状態推定プログラム用データとして記憶される。)よりも大きい場合には(高感度速度計の速度記録が飽和している場合など)、所定値よりも小さい場合に比べてカルマンゲイン調整項を大きくすることで、カルマンゲインを小さくすることができる。
【0053】
状態推定プログラムを実行する処理部209による、上記カルマンフィルタによる推定により、カルマンフィルタから推定された、高感度換振器の振り子運動から計算される状態帰還型換振器の出力が得られる(S1106)。この出力は、高感度(振動センサ4)及び低感度(外部測定器3)の融合信号であり(S1107)、推定された状態ベクトルの各成分を入出力部211のディスプレイ装置によって表示することにより、使用者は推定された振り子の状態を知ることができる。
【0054】
さらに設計時においては、状態推定プログラムを実行する処理部209が、外部測定器3、振動センサ4からの信号により示される加速度、速度等の記録値と、カルマンフィルタを用いて推定された状態ベクトルから演算される加速度、速度等の値との比較判定を行う(ステップS1108)。一例においては、ある離散時刻において、外部測定器3、振動センサ4からの信号により示される記録値と、カルマンフィルタを用いて推定された状態ベクトルから演算される値との間の差異が所定値を超える場合、状態推定プログラムを実行する処理部209は、記録値と演算値との一致性が低いと判断し(ステップS1108の条件分岐における「NO」)、観測ノイズの分散の大きさを変更するなどして観測雑音モデルの調整を行う(ステップS1109)。調整後の観測雑音モデルからの観測雑音を用いて、ステップS1104〜ステップS1108までの処理が再度行われる。ステップS1108において一致性が高いと判断されるまで、これらの処理が繰り返される。ステップS1108において一致性が高いと判断されると(一例においては、外部測定器3、振動センサ4からの信号により示される記録値と、カルマンフィルタを用いて推定された状態ベクトルから演算される値との間の差異が所定値を超えない場合。ステップS1108の条件分岐における「YES」)、設計は終了する。
【0055】
運用時
図11を用いて説明した設計処理により、(式38)の線形システム、(式47)のカルマンフィルタが、各種演算パラメータや雑音モデルを含めて決定される。運用時には、これらを用いて、振動センサ4に関する状態ベクトルの推定が離散的な時刻について時々刻々と行われる(n=1,2,…とインクリメントしながら推定を繰り返す。)。運用時のフローチャートは
図12に示すとおりである。ステップS1201,S1202,S1203,S1204,S1205は、それぞれ、設計時のステップS1103,S1104,S1105,S1106,S1107と同様であってよい。
【0056】
カルマンフィルタによる演算の詳細
図11のフローチャート中のステップS1105,
図12のフローチャート中のステップS1203において行われるカルマンフィルタによる演算の詳細なフローを、
図13のフローチャートに示す。
【0057】
まず、状態ベクトル事前推定値演算部204は、記憶部210から、前回の状態ベクトル推定値データ、前回の事後共分散行列データ、前回の測定値データ、演算パラメータの読み出しを行う(ステップS1301)。読み出したデータは処理部209のRAMに一時記憶される(RAMへの各種データの一時記憶は、以降の記載、そしてこれまでの記載において適宜省略する。記憶部からの各種データの読み出しも適宜記載を省略する。)。初回の推定時、すなわち(式47)においてn=1として処理を行う場合、前回の状態ベクトル推定値データ、前回の事後共分散行列データ、前回の測定値データ(n=0におけるそれぞれのデータ)とは、それぞれ事前に使用者が入出力部211を介して記憶部210に記憶させる、外部から与えられたそれぞれの初期値データである。
【0058】
引き続き、状態ベクトル事前推定値演算部204は、(式47)中、予測ステップの式
【数92】
に従い、状態ベクトルの事前推定値
【数93】
を演算し(ステップS1302)、処理部209のRAMに一時記憶する。
【0059】
次に、事前共分散行列演算部205は、(式47)中、予測ステップの式
【数94】
に従い、事前共分散行列
【数95】
を演算し(ステップS1303)、処理部209のRAMに一時記憶する。
【0060】
次に、カルマンゲイン演算部206は、(式47)中、フィルタリングステップの式
【数96】
に従い、カルマンゲインを演算し(ステップS1304)、処理部209のRAMに一時記憶する。ここで、カルマンゲイン演算部206は、カルマンゲイン調整項
【数97】
を用いた演算によりカルマンゲインを調整する。具体的に、
図11のフロー中のステップS1103、又は
図12のフロー中のステップS1201で取得した高感度換振器離散信号の値(v(n))が所定値よりも大きい場合には、その値が所定値よりも小さい場合に比べてカルマンゲイン調整項を大きくすることでカルマンゲインを小さくすることにより、カルマンゲインを調整する。振動センサ4からのセンサ値が、速度記録以外に変位記録、加速度記録である場合も、同様にカルマンゲイン演算部206により、各々の所定値と当該センサ値との比較結果に応じてカルマンゲイン調整項を介してカルマンゲインが調整される(振動センサ4からのセンサ値としての振り子の変位、速度、加速度のうち1以上の値が所定値よりも大きい場合には、1以上の値が所定値よりも小さい場合に比べてカルマンゲイン調整項を大きくする)。
【0061】
次に、状態ベクトル推定値演算部207が、(式47)中、フィルタリングステップの式
【数98】
に従い、状態ベクトル推定値
【数99】
を演算し(ステップS1305)、処理部209のRAMに一時記憶する。
【0062】
次に、事後共分散行列演算部208が、(式47)中、フィルタリングステップの式
【数100】
に従い、事後共分散行列
【数101】
を演算し(ステップS1306)、処理部209のRAMに一時記憶する。
【0063】
次に、ステップS1307において、状態ベクトル推定値演算部207は、ステップS1305で推定された状態ベクトル推定値を記憶部210に記憶し(離散時刻nにおける、この状態ベクトル推定値は、離散時刻n+1のカルマンフィルタ処理において、「前回の状態ベクトル推定値データ」として用いられる。)、また、事後共分散行列演算部208は、ステップS1306で演算した事後共分散行列を記憶部210に記憶する(離散時刻nにおける、この事後共分散行列は、離散時刻n+1のカルマンフィルタ処理において、「前回の事後共分散行列データ」として用いられる。)。その他、状態推定プログラムを実行する処理部209は、外部測定器3から取得した測定値(離散時刻nにおける、この測定値は、離散時刻n+1のカルマンフィルタ処理において、「前回の測定値データ」として用いられる。)等、種々のデータを記憶部210に記憶させる。ステップS1301〜S1307の処理は、ステップS1103,ステップ1201のデータ信号取得とともに時々刻々と繰り返され(データ取得を先にまとめて行い、その後にカルマンフィルタ処理をまとめて行ってもよいし、ある離散時刻についてデータ取得をした直後にその離散時刻についてカルマンフィルタ処理を行い、離散時刻に1を加えてから(インクリメント)、次の離散時刻についてデータ取得を行い、カルマンフィルタ処理を行うという流れで、データ取得とカルマンフィルタ処理とを同期させてもよい。)、低感度換振器離散信号と高感度換振器離散信号とが取得されなくなるか、或いは離散時刻が所定の終了値に達する等、所定の終了条件が満たされると、カルマンフィルタによる処理は終了する。
【0064】
図13で示されるフローのカルマンフィルタ処理を含め、
図12で示される運用時のフローに従う処理が時々刻々と繰り返されることにより、時々刻々と変化する、振動センサ4に関する状態ベクトル(振り子の状態ベクトル)が推定される。状態ベクトル推定値は、状態推定プログラムを実行する処理部209により、入出力部211のディスプレイ装置に表示される等し、これにより使用者は状態ベクトル推定値を確認することができる。
【0065】
(第2の実施形態)
高感度変位計のモデル
次に、本発明の第2の実施形態として、振動センサ4として高感度変位計を用いる場合の実施形態を説明する。ただし、第1の実施形態と同様の部分については説明を省略する。
【0066】
図14は、振動センサ(高感度変位計としてのVBB型地震計)の一例を示す図である。
図15は、高感度変位計と強震計のカルマンフィルタを用いたセンサフュージョンの構成を示すブロック線図である。高感度変位計は、
図5の速度計と同じ構成で実現される。
【0067】
図14の振動センサにおいて、変位信号は
図14の#1の位置から取り出せるが、#2の位置のように測定帯域外で減衰特性を有する外部積分器を通して得るのが一般的である。測定帯域内での連続時間系状態空間表現は、
図16に示すとおりとなるが、変位信号
【数102】
とともに、速度信号
【数103】
も同時に出力されるため、これらを併せて利用することが可能である。
【0068】
このとき、状態空間表示は、振動センサ4に関する振り子の状態ベクトルを
【数104】
とすると、
【数105】
【数106】
となる。この時間連続系の表現は、標本化時間ΔTをパラメータとして離散系に変換すると、
【数107】
で
【数108】
の条件下で次式となる:
【数109】
【数110】
【0069】
したがって、平均ベクトルがゼロベクトル(2次元の列ベクトル)、共分散行列が
【数111】
の正規性雑音
【数112】
を考えると、高感度変位計の信号モデルは、
【数113】
となり、以下のカルマンフィルタ
【数114】
によるセンサフュージョンが可能となる。振動センサシステム1の装置構成、設計時、運用時の動作フローは、システムノイズ
【数115】
を第1の実施形態と同様に導入した上で、線形システムの式として
【数116】
を用い、カルマンフィルタの式として(式62)の式を用いる以外は、第1の実施形態と同様に実現できる。
【0070】
(第3の実施形態)
高感度加速度計のモデル
次に、本発明の第3の実施形態として、振動センサ4として高感度加速度計を用いる場合の実施形態を説明する。ただし、第1の実施形態と同様の部分については説明を省略する。
【0071】
図17は、振動センサ(高感度加速度計)の一例を示す図である。
図18は、高感度加速度計と強震計のカルマンフィルタを用いたセンサフュージョンの構成を示すブロック線図である。高感度加速度計は、
図5の速度計と同じ構成でも実現可能である。
【0072】
図5のVBB型加速度計の場合、加速度信号は
図7のA端子から
【数117】
として出力される。高感度速度計の
【数118】
を、
【数119】
で置き換えれば、センサフュージョンが行える。しかしながら、
図5の構成の地震計は周波数0での感度も零となり、常用される力平衡型の負帰還型加速度計と比較して不利となる。そこで、ここでは、高感度加速度計として、
図17に示す通常の負帰還型加速度計を扱うことにする。
図17の加速度計に対する連続時間系の状態空間表示は
図19となる。
【0073】
図19の状態空間表示は、振動センサ4に関する振り子の状態ベクトルを
【数120】
としたとき、
【数121】
【数122】
となる。この時間連続系の表現は、標本化時間ΔTをパラメータとして離散系に変換すると、
【数123】
で
【数124】
の条件下で次式となる:
【数125】
【数126】
【0074】
したがって、平均0、分散が
【数127】
の正規性雑音
【数128】
を考えると、高感度加速度計の信号モデルは、
【数129】
となり、
図18に示すカルマンフィルタ
【数130】
によるセンサフュージョンが可能となる。振動センサシステム1の装置構成、設計時、運用時の動作フローは、システムノイズ
【数131】
を第1の実施形態と同様に導入した上で、線形システムの式として
【数132】
を用い、カルマンフィルタの式として(式72)の式を用いる以外は、第1の実施形態と同様に実現できる。