【解決手段】無線ヒートマップ作成方法の第1工程では、エリア内での無線通信のために設置されたアクセスポイントから発信される電波に関して、エリア内における複数の測定地点のそれぞれについて電波強度を測定する。第2工程では、測定されたそれぞれの電波強度に基づいて、エリア内における空間伝搬係数マップを作成する。第3工程では、第2工程の後にアクセスポイントから発信される電波に関して、第1工程よりも少ない数の測定地点について電波強度を測定する。第4工程では、第2工程において作成された空間伝搬係数マップ、及び第3工程において測定された電波強度に基づいて、第2工程の後にアクセスポイントから発信される電波に関して、エリア内における電波強度のヒートマップを作成する。
エリア内での無線通信のために設置された電波発信源から発信される電波に関して、前記エリア内における複数の測定地点のそれぞれについて電波強度を測定する第1工程と、
前記第1工程において測定された前記複数の測定地点のそれぞれにおける電波強度に基づいて、前記エリアを対象とした空間伝搬係数の分布を示す空間伝搬係数マップを作成する第2工程と、
前記第2工程の後に前記電波発信源から発信される電波に関して、前記第1工程よりも少ない数の測定地点について電波強度を測定する第3工程と、
前記第2工程において作成された前記空間伝搬係数マップ、及び前記第3工程において測定された電波強度に基づいて、前記第2工程の後に前記電波発信源から発信される電波に関して、前記エリア内における電波強度の分布マップを作成する第4工程と、
を含むことを特徴とする無線分布マップ作成方法。
【発明を実施するための形態】
【0027】
次に、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【0028】
図1に示す無線ヒートマップ作成システム(無線分布マップ作成システム)1は、後述のマップ作成方法により、電波強度のヒートマップ(無線分布マップ)を作成することができる。以下では、電波強度のヒートマップを、単にヒートマップと呼ぶことがある。
【0029】
ヒートマップは、アクセスポイント(電波発信源)3が設置されるエリア2を対象として作成される。ヒートマップは、温度分布を可視化したものであるヒートマップに準え、エリア2における、アクセスポイント3が送信する電波の強度分布を可視化したものである。
【0030】
エリア2としては、例えば、無線機器が使用される工場の内部空間が想定される。本実施形態において、アクセスポイント3は、エリア2内の地点P0に設置される。エリア2には、
図1に示す壁又はパーティション等の様々な構造物5が配置されている。従って、アクセスポイント3が送信する電波に関し、エリア2内での電波強度は場所に応じて複雑に変化する。エリア2の用途、形状、アクセスポイント3の位置等は特に限定されない。
【0031】
アクセスポイント3は、IEEE802.11に規定するインフラストラクチャモードでのアクセスポイントとして機能する。アクセスポイント3は、
図2に示すように、AP通信部31を備える。ここで、APは、アクセスポイントの略称である。
【0032】
アクセスポイント3には、公知のコンピュータが内蔵されている。このコンピュータは、CPU、ROM、RAM等を備える。ROM及びRAMには、無線通信を実現するためのプログラム等が記憶されている。上記のハードウェアとソフトウェアの協働により、当該コンピュータを、AP通信部31等として動作させることができる。
【0033】
AP通信部31は、各種の通信機器(例えば、測定装置4)と無線により通信することができる。この無線通信は、公知の規格に準拠して行われる。
【0034】
アクセスポイント3の状態は、使用に応じて変化し得る。この変化としては、例えば、アクセスポイント3が電波を送信するのに用いるアンテナが、事故等の何らかの理由で変形することを挙げることができる。また、アクセスポイント3において例えば電気信号を増幅する部品の性能が、時間の経過又は環境により変化することも、アクセスポイント3の状態の変化と捉えることができる。本発明では、アクセスポイント3が物理的に完全に置き換えられる場合(例えば、故障により別のアクセスポイントに交換される場合)も、アクセスポイント3の状態の変化に含まれる。
【0035】
無線ヒートマップ作成システム1は、測定装置4と、マップ作成装置10と、を備える。
【0036】
測定装置4は、無線通信部41と、測定部42と、有線通信部43と、を備える。
【0037】
測定装置4は、公知のコンピュータとして構成されている。このコンピュータは、CPU、ROM、RAM、HDD等を備える。上記のハードウェアとソフトウェアの協働により、当該コンピュータを、無線通信部41、測定部42及び有線通信部43として動作させることができる。
【0038】
無線通信部41は、アクセスポイント3が備えるAP通信部31との間で、無線通信を行うことができる。無線通信部41は、電波強度を測定するために、アクセスポイント3から送信される電波を取得する。(この工程では、アクセスポイント3との間で実質的なデータの送受信を行わない。)例えば、所謂モニターモードとされた状態において、アクセスポイント3から送信される無線LAN上のパケットを監視する。測定装置4は、かかる監視により取得されたパケットを解析することにより、電波強度を測定することができる。
【0039】
測定部42は、例えば、公知の電界強度測定装置として構成される。測定部42は、測定装置4とアクセスポイント3とが無線通信を行った場合に、アクセスポイント3から受信する電波について、実際の電波強度を測定することができる。
【0040】
有線通信部43は、マップ作成装置10と、適宜の通信方式による有線通信を行う。この有線通信により、測定装置4は、測定部42が測定した電波強度を、マップ作成装置10に送信することができる。なお、測定部42が測定した電波強度等の情報を測定装置4に記憶しておき、事後的に、当該情報を位置情報等とともにマップ作成装置10に(例えば作業者のマニュアル操作により)入力することもできる。
【0041】
マップ作成装置10は、前述のヒートマップを作成するために用いられるコンピュータである。マップ作成装置10は、測定装置4とともに、可搬型のキャリッジに取り付けられている。
【0042】
図2に示すように、マップ作成装置10は、有線通信部11と、記憶部12と、制御部13と、表示部14と、入力部15と、を備える。
【0043】
マップ作成装置10は、図示しないCPU、ROM、RAM、HDD等を有する公知のコンピュータとして構成される。HDD等には、本発明の無線分布マップ作成方法を実現するための各種のプログラムが記憶されている。このハードウェアとソフトウェアの協働により、コンピュータを有線通信部11、記憶部12、制御部13、表示部14及び入力部15として動作させることができる。
【0044】
有線通信部11は、測定装置4が備える有線通信部43と接続される。この有線通信部11により、マップ作成装置10は測定装置4と有線通信を行うことができる。マップ作成装置10は、この有線通信により、測定装置4が測定した電波強度を取得する。
【0045】
記憶部12は、ROM、RAM及びHDD等から構成されている。記憶部12は、上述のプログラム、及び、ヒートマップを作成するための各種パラメータ等を記憶する。
【0046】
具体的には、記憶部12は、アクセスポイント3が設置されている位置(エリア2内における相対位置)を記憶する。加えて、記憶部12は、適宜の地点にある測定装置4が電波強度を測定した場合に、得られた電波強度を、測定地点の位置と関連付けて記憶する。アクセスポイント3及び測定地点の位置は、例えば、エリア2における適宜の位置を原点として定められた平面直交座標系で表現することができる。エリア2の形状が概ね矩形であるとき、この直交座標系は、各座標軸が矩形の辺に沿うように定められることが好ましい。アクセスポイント3及び測定地点の位置は、例えば、作業者が入力部15を操作することによりマップ作成装置10に入力することができる。
【0047】
制御部13は、第1マップ作成部(空間伝搬係数マップ作成部)17と、第2マップ作成部(分布マップ作成部)18と、を有する。
【0048】
第1マップ作成部17は、エリア2に関する空間伝搬係数の分布を示す空間伝搬係数マップを作成する。第1マップ作成部17が行う処理の詳細及び空間伝搬係数マップの詳細については後述する。
【0049】
第2マップ作成部18は、エリア2に関する電波強度のヒートマップを作成する。第2マップ作成部18が行う処理の詳細及びヒートマップについては後述する。
【0050】
第1マップ作成部17が作成した空間伝搬係数マップ、及び、第2マップ作成部18が作成したヒートマップは、記憶部12に記憶される。
【0051】
表示部14は、公知のドットマトリクス型のディスプレイとして構成される。制御部13は、作成されたヒートマップを、入力部15の適宜の操作に応じて表示部14に表示させることができる。作業者の指示により、制御部13は、空間伝搬係数マップを表示部14に表示させることもできる。
【0052】
入力部15は、マップ作成装置10に対して作業者が何らかの指示を行うために操作される。入力部15は、例えば、キーボード、マウス、タッチパネル等により構成される。
【0053】
このような構成において、アクセスポイント3が適宜の地点P0に設置された状態で、エリア2のヒートマップが、本発明の無線ヒートマップ作成方法(無線分布マップ作成方法)により作成される。
【0054】
無線ヒートマップ作成方法は、少なくとも第1工程、第2工程、第3工程及び第4工程を含む。
図3のフローチャートにおいて、ステップS101が第1工程に対応し、ステップS102が第2工程に対応し、ステップS104が第3工程に対応し、ステップS105が第4工程に対応する。以下では、
図3から
図8までを参照しつつ、これらの4つの工程について詳細に説明する。
【0055】
まず、地点P0に設置されたアクセスポイント3から発信される電波に関して、エリア2内で適宜に定められた複数の測定地点P1〜P7のそれぞれにおける実際の電波強度が、測定装置4によって測定される(
図3のステップS101:第1工程)。測定地点P1〜P7の位置は、
図4に示されている。なお、測定地点の数及び位置は任意に選択可能である。
【0056】
具体的に説明すると、測定装置4及びマップ作成装置10が、作業者によって、最初の地点P1に運ばれる。地点P1で測定装置4が電波強度を測定すると、その測定結果が、マップ作成装置10によって記憶部12に記憶される。このとき、測定結果である電波強度は、地点P1の位置を示す情報と関連付けられて、記憶部12に記憶される。地点P1の位置(座標)は、適宜の方法で予め測定され、マップ作成装置10に入力される。
【0057】
次に、測定装置4及びマップ作成装置10が、作業者によって次の地点P2に運ばれ、上述の作業が同様に行われる。残りの地点P3〜P7についても、電波強度が順次測定される。
【0058】
次に、前述の第1工程において測定された複数の測定地点P1〜P7のそれぞれにおける実際の電波強度に基づいて、空間伝搬係数マップがマップ作成装置10により作成される(
図3のステップS102:第2工程)。空間伝搬係数マップは、エリア2における空間伝搬係数の分布を示すものであり、本実施形態では2次元マップとして構成される。
【0059】
この工程では、記憶部12に記憶された各測定地点P1〜P7における電波強度に基づいて、空間伝搬係数が計算により求められる。この計算においては、公知のフリスの伝達公式が用いられる。
【0060】
以下、詳細に説明する。フリスの伝達公式によれば、下記の数式(1)が成り立つ。
【数1】
【0061】
ここで、P
Tは、アクセスポイント3における送信電力である。G
Tは、アクセスポイント3における送信利得である。G
Rは、測定装置4における受信利得である。λは波長である。Dは距離である。P
Rは、受信電力であり、電波強度に相当する。
【0062】
数式(1)において、(λ/4πD)
2は、自由空間伝搬損失の逆数である。自由空間伝搬損失とは、障害物がない理想的な空間を仮定した場合に、当該空間を電波が伝搬するときに発生する損失をいう。自由空間伝搬損失をL
Bで表すと、数式(2)を導くことができる。
【数2】
【0063】
また、対数関数を用いてL
B=1/(λ/4πD)
2の式を表現すると、数式(3)が得られる。数式(3)以降において、L
Bの単位はデシベルである。
【数3】
【0064】
以上に示した数式は、電波が障害物のない真空中を球状に拡散しながら広がっていく理想的な状況を前提としている。しかし、現実の通信環境では、障害物及び/又は反射物等が存在する。この状況に対応するため、簡易な近似式として、係数nを導入した数式(4)が数式(3)の代わりに用いられる。
【数4】
【0065】
ここで、係数nは無次元数であり、空間伝搬係数と呼ばれる。n=2.0の場合、障害物等がない理想空間となる通信環境が想定される。n<2.0の場合、電波が反射しながら伝達していく通信環境が想定され、N>2.0の場合、電波が障害物に吸収されて減衰しながら伝搬していく通信環境が想定される。
【0066】
数式(4)を変形することにより、数式(5)が得られる。
【数5】
【0067】
数式(2)において、アクセスポイント3の送信電力P
T及び送信利得G
Tは既知であり、測定装置4の受信利得G
Rも既知である。従って、数式(2)をL
B=・・・となるように変形して、送信電力P
T、送信利得G
T、及び受信利得G
Rを代入し、電波強度P
Rとして前述の測定値を代入することで、伝搬損失L
Bの値を求めることができる。
【0068】
数式(5)において、波長λは既知である。また、距離Dは、電波強度の測定地点及びアクセスポイント3の位置から求めることができる。従って、数式(5)に対し、波長λ及び距離Dを代入し、上述の伝搬損失L
Bの値を代入することで、空間伝搬係数nを求めることができる。
【0069】
第1マップ作成部17は、測定地点P1〜P7のそれぞれの空間伝搬係数を算出する。これにより、エリア2において離散的に定められた複数の地点P1〜P7における空間伝搬係数を得ることができる。そして、第1マップ作成部17は、エリア2の代表地点における空間伝搬係数に基づいて、エリア2全体の空間伝搬係数マップ61を作成する。
【0070】
本実施形態において、空間伝搬係数マップ61は、以下のアルゴリズムによって作成される。先ず、第1マップ作成部17は、複数の測定地点P1〜P7のうち、アクセスポイント3の位置(地点P0)からの距離が最大である測定地点を求める。
図4の例では、条件を満たす地点は測定地点P7である。第1マップ作成部17は、初期化処理として、空間伝搬係数マップの全領域に対し、当該測定地点P7における空間伝搬係数の値を割り当てる。これにより、測定地点P7は割当て済となる。
【0071】
次に、第1マップ作成部17は、アクセスポイント3の位置を基準とした4つの象限のうち、前述の測定地点P7以外の測定地点(測定地点P1〜P6)が含まれる象限があるか否かを調べる。4つの象限とは、アクセスポイント3の位置(地点P0)を原点とする平面直交座標系を考えたときに、2つの座標軸で区切られる4つの領域を意味する。従って、4つの象限は、アクセスポイント3を中心として十字に区切った各領域に相当する。
【0072】
図4の例において、測定地点P1,P3,P5,P7は、アクセスポイント3から見て左上の象限に含まれている。一方、測定地点P2,P4,P6は、アクセスポイント3から見て左下の象限に含まれている。アクセスポイントから見て右上の象限及び右下の象限には、測定地点が含まれていない。
【0073】
測定地点P7が含まれる象限とは別の象限に他の測定地点が含まれている場合、第1マップ作成部17は、当該象限のそれぞれにおいて、アクセスポイント3の位置(地点P0)からの距離が最大である測定地点を求める。
図4の例では、アクセスポイント3から見て左下の象限において、条件を満たす地点は測定地点P6である。従って、第1マップ作成部17は、空間伝搬係数マップの当該象限に相当する領域の全部に対し、測定地点P6における空間伝搬係数の値を、過去の値に上書きするように割り当てる。これにより、測定地点P6は割当て済となる。
【0074】
次に、第1マップ作成部17は、象限を問わず、割当て済になっていない測定地点のうち、アクセスポイント3の位置(地点P0)からの距離が最も大きい測定地点を求める。
図4の例では、そのような地点は測定地点P5である。第1マップ作成部17は、空間伝搬係数マップのうち、アクセスポイント3の位置と、測定地点P5と、を対角線とする矩形の領域に対し、当該測定地点P5における空間伝搬係数の値を、過去の値に上書きするように割り当てる。アクセスポイント3の位置と、測定地点P5と、を対角線とする矩形の領域は、アクセスポイント3の位置と、測定地点P5と、の間の領域と考えることもできる。これにより、測定地点P5は割当て済となる。
【0075】
同様に、第1マップ作成部17は、未割当ての測定地点のうち、アクセスポイント3の位置(地点P0)からの距離が最も大きい測定地点を求める。
図4の例では、そのような地点は測定地点P4である。第1マップ作成部17は、空間伝搬係数マップのうち、アクセスポイント3の位置と、測定地点P4と、を対角線とする矩形の領域に対し、当該測定地点P4における空間伝搬係数の値を、過去の値に上書きするように割り当てる。これにより、測定地点P4は割当て済となる。
【0076】
このように、第1マップ作成部17は、アクセスポイント3の位置(地点P0)からの距離が最も大きい、未割当ての測定地点と、アクセスポイント3と、を対角線とする矩形の領域に、当該測定地点の空間伝搬係数の値を上書き的に割り当てた後、当該測定地点を割当て済とする処理を行う。この処理は、全ての測定地点P1〜P7が割当て済となるまで反復される。これにより、
図5に示すような空間伝搬係数マップ61を得ることができる。
図5では、空間伝搬係数マップ61における空間伝搬係数nの値の大小が、ハッチングの広狭で表現されている。
【0077】
第2工程で得られた空間伝搬係数マップ61は、記憶部12に記憶される。この空間伝搬係数マップ61を参照することで、エリア2の任意の地点における空間伝搬係数nの値を得ることができる。
【0078】
次に、第2マップ作成部18は、ヒートマップ62を作成する(
図3のステップS103)。具体的に説明すると、第2マップ作成部18は、エリア2の任意の地点に着目して、当該地点の空間伝搬係数nを、空間伝搬係数マップ61に基づいて求める。第2マップ作成部18は、得られた空間伝搬係数nを前述の数式(4)に代入することで、当該地点での伝搬損失L
Bを求める。第2マップ作成部18は、この伝搬損失L
Bを数式(2)に適用することで、当該地点での電波強度P
Rを得る。着目する地点をエリア2内で少しずつ移動させながら上記の計算を反復することで、電波強度P
Rのヒートマップ62を
図6に示すように得ることができる。
【0079】
図面による表現の都合上、
図6のヒートマップ62では、電波強度P
Rが強い領域は黒に近い色で、弱い領域は白に近い色で表現されている。しかし、ヒートマップ62の表現手法は様々であり、例えば、サーモグラフィのように、電波強度P
Rが強い順に、赤色、黄色、緑色、水色、青色、黒色と滑らかに変化するように表現することができる。
【0080】
アクセスポイント3の状態に変化がない限りは、電波強度の分布は、第2マップ作成部18が作成した
図6のヒートマップ62に従うはずである。しかしながら、上述のとおり、アクセスポイント3に故障が発生して交換する等、アクセスポイント3の状態に変化が生じる可能性がある。この場合、電波強度の分布が当初のヒートマップ62と異なってしまう。
【0081】
これを考慮して、本実施形態では、以下の作業によってヒートマップを更新することができる。
【0082】
まず、アクセスポイント3から発信される電波に関して、エリア2内で適宜に定められた測定地点P8における実際の電波強度が、測定装置4によって測定される(
図3のステップS104:第3工程)。測定地点P8の位置は、
図7に示されている。最初にヒートマップ62を作成する場合とは異なり、ヒートマップを更新する場合は、1つの地点P8だけで電波強度を測定すれば足りる。
【0083】
図7と
図4とを比較すれば分かるように、この測定地点P8は、当初の測定地点P1〜P7のうち1つ(測定地点P2)と一致している。これにより、測定地点の変更の影響を受けなくなるので、更新後のヒートマップの精度を高めることができる。ただし、ヒートマップの更新のための測定地点P8は、当初の測定地点P1〜P7の何れとも異なっていても良い。
【0084】
アクセスポイント3が送信する電波に関し、測定地点P8における電波強度の測定は、測定装置4を用いて、測定地点P1〜P7における測定と全く同様に行われる。測定装置4により得られた電波強度は、測定地点P8の位置と関連付けた形で、マップ作成装置10の記憶部12に記憶される。
【0085】
次に、前述の工程で作成された空間伝搬係数マップと、測定地点P8で測定された電波強度と、に基づいて、エリア2内における電波強度のヒートマップ62xが作成される(ステップS105:第4工程)。
【0086】
具体的に説明すると、第2マップ作成部18は、測定地点P8の位置に対応する空間伝搬係数nを、作成済の空間伝搬係数マップ61を参照して得る。次に、第2マップ作成部18は、仮に、エリア2の全体にわたって空間伝搬係数nが2.0であったならば、状態変化後のアクセスポイント3による電波強度分布がどのようになるかを計算する。以下、この仮定的な分布を理想電波強度分布と呼ぶことがある。
【0087】
理想電波強度分布の計算は、以下のようにして行うことができる。即ち、測定地点P8における空間伝搬係数nの値を数式(4)に代入することで、伝搬損失L
Bを求める。数式(4)において、波長λは既知であり、距離Dには、アクセスポイント3と測定地点P8との間の距離が代入される。
【0088】
次に、数式(2)をG
T=・・・となるように変形した式において、電波強度P
Rとして、測定地点P8での電波強度の測定値を代入し、伝搬損失L
Bとして、数式(4)で求めた伝搬損失L
Bを代入する。受信利得G
R、及び送信電力P
Tは既知である。以上により、送信利得G
Tの値を求めることができる。求められた送信利得G
Tの値は、アクセスポイント3の状態の変化により送信利得G
Tの値が変動したと仮定した場合に、変動後の当該送信利得G
Tの値を意味している。
【0089】
理想電波強度分布は、新しい送信利得G
Tの値を数式(1)に適用することで、距離Dの関数として得られる。数式(1)において、波長λ、受信利得G
R、及び送信電力P
Tは既知である。従って、新しい送信利得G
Tの値を求めることは、理想電波強度分布を求めることと実質的に同じである。
【0090】
続いて、第2マップ作成部18は、ヒートマップを更新する。具体的に説明すると、第2マップ作成部18は、エリア2の任意の地点に着目して、当該地点の空間伝搬係数nを、空間伝搬係数マップ61に基づいて求める。第2マップ作成部18は、得られた空間伝搬係数nと、アクセスポイント3と当該地点との間の距離Dと、を前述の数式(4)に代入することで、当該地点での伝搬損失L
Bを求める。第2マップ作成部18は、この伝搬損失L
Bを数式(2)に適用することで、当該地点での電波強度P
Rを得る。着目する地点をエリア2内で少しずつ移動させながら上記の計算を反復することで、
図8に示すような電波強度P
Rの分布(言い換えれば、更新後のヒートマップ62x)を得ることができる。
【0091】
得られたヒートマップ62xは、前述の理想電波強度分布に対して、空間伝搬係数マップ61が示す空間伝搬係数の分布に基づいて伝搬損失を適用した結果に相当する。
【0092】
このように、エリア2に関して空間伝搬係数マップ61を1度準備すれば、アクセスポイント3の状態の変化があった場合、エリア2内での実際の電波強度を複数の地点で測定しなくても、1つの地点での測定のみで、新たなヒートマップ62xを作成することができる。
【0093】
図3のフローチャートに示すように、ステップS104及びステップS105の処理は、必要に応じて何回でも繰り返すことができる。ヒートマップ62xの更新(再作成)は、アクセスポイント3の状態の変化が疑われるときに行っても良いし、単純に定期的に行っても良い。
【0094】
電波強度を測定する作業は、アクセスポイント3から送信された電波の取得を伴う。従って、工場の設備がアクセスポイント3の無線通信を利用している場合は、ヒートマップ62,62xを作成するために、エリア2における工場の設備の稼動が妨げられる可能性が高い。この点、本実施形態によれば、2回目以降のヒートマップ62xの作成(ヒートマップの更新)にあたっては、電波強度の測定作業を短時間で完了させることができる。従って、工場の設備の稼動を長期間停止させることなく、電波強度のヒートマップ62xの可視化による監視を継続的に行うことができる。
【0095】
以上に説明したように、本実施形態の無線ヒートマップ作成方法は、第1工程と、第2工程と、第3工程と、第4工程と、を含む。第1工程では、エリア2内での無線通信のために設置されたアクセスポイント3から発信される電波に関して、エリア2内における複数の測定地点P1〜P7のそれぞれについて電波強度P
Rを測定する。第2工程では、第1工程において測定された複数の測定地点P1〜P7のそれぞれにおける電波強度P
Rに基づいて、エリア2を対象とした空間伝搬係数nの分布を示す空間伝搬係数マップ61を作成する。第3工程では、第2工程の後にアクセスポイント3から発信される電波に関して、第1工程よりも少ない数の測定地点P8について電波強度P
Rを測定する。第4工程では、第2工程において作成された空間伝搬係数マップ61、及び第3工程において測定された電波強度P
Rに基づいて、第2工程の後にアクセスポイント3から発信される電波に関して、エリア2内における電波強度P
Rのヒートマップ62xを作成する。
【0096】
これにより、対象となるエリア2内の複数の測定地点P1〜P7で電波強度を1回測定しておけば、それ以降は、より少ない地点(本実施形態では、1つの地点P8)における電波強度を測定するだけで、空間伝搬係数マップ61を用いて、エリア2内における電波強度のヒートマップ62xを計算により得ることができる。従って、ヒートマップ62xを得るための手間を大幅に削減することができる。
【0097】
本実施形態の無線ヒートマップ作成方法において、第3工程における1つの地点P8は、第1工程における複数の測定地点P1〜P7の何れか(地点P2)と位置が同じである。
【0098】
これにより、同一地点での電波強度の変化に基づいて、ヒートマップを更新することができる。従って、新しいヒートマップ62xの精度を高めることができる。
【0099】
本実施形態の無線ヒートマップ作成方法において、第2工程では、空間伝搬係数マップの中で、複数の測定地点P1〜P7のうち少なくとも何れか(
図4の例では、測定地点P1〜P5)と、アクセスポイント3の位置(地点P0)との間の領域に対し、当該測定地点P1〜P5に対応する空間伝搬係数の値が割り当てられる。
【0100】
これにより、傾向を概ね良好に反映した空間伝搬係数マップ61を容易に作成することができる。
【0101】
本実施形態の無線ヒートマップ作成方法において、第4工程では、第3工程で電波強度P
Rが測定された測定地点P8での空間伝搬係数nを、空間伝搬係数マップ61に基づいて求める。第4工程では、第3工程における電波強度P
Rの測定値と、第3工程における測定地点P8での空間伝搬係数nと、に基づいて、エリア2内の全体が自由空間であると仮定した場合の電波強度分布である理想電波強度分布を求める。第4工程では、理想電波強度分布に対し、空間伝搬係数マップ61が示す空間伝搬係数nの分布に基づいて伝搬損失L
Bを適用することにより、エリア2内における電波強度P
Rのヒートマップ62xを作成する。
【0102】
これにより、電波強度のヒートマップ62xを適切に作成することができる。
【0103】
また、本実施形態の無線ヒートマップ作成システム1は、マップ作成装置10を備える。マップ作成装置10は、エリア2内での無線通信のために設置されたアクセスポイント3から発信される電波に関して、電波強度のヒートマップ62xを作成する。マップ作成装置10は、第1マップ作成部17と、第2マップ作成部18と、を備える。第1マップ作成部17は、アクセスポイント3から発信される電波に関して、エリア2内における複数の測定地点P1〜P7のそれぞれについて測定された電波強度P
Rに基づいて、エリア2を対象とした空間伝搬件数の分布を示す空間伝搬係数マップ61を作成する。第2マップ作成部18は、空間伝搬係数マップ61が作成された後にアクセスポイント3から発信される電波に関して、空間伝搬係数マップ61が作成されたときの測定地点P1〜P7の数よりも少ない数の測定地点P2について測定された電波強度P
Rに基づいて、エリア2内における電波強度P
Rのヒートマップ62xを、空間伝搬係数マップ61を用いて作成する。
【0104】
これにより、電波強度を測定する手間を軽減しながら、新しいヒートマップ62xを容易に得ることができる。
【0105】
以上に本発明の好適な実施の形態及び変形例を説明したが、上記の構成は例えば以下のように変更することができる。
【0106】
上記の実施形態では、1つのエリア2に対して1つのアクセスポイント3が使用されるが、1つのエリア2に対して複数のアクセスポイント3が使用されても良い。この場合、それぞれのアクセスポイント3毎に、前述の第1工程、第2工程、第3工程及び第4工程が行われる。なお、複数の電波発信源、無線チャンネル、周波数帯について、前述の第1工程、第2工程、第3工程及び第4工程を一度の測定で行うものであっても良い。
【0107】
アクセスポイント3が無線通信で使用する周波数帯は、単一であっても複数であっても良い。ただし、前述の数式(1)で示すように、電波強度は、波長が大きくなるに従って減衰しにくくなるので、電波強度の分布の傾向は周波数帯に応じて大きく異なる。従って、アクセスポイント3が複数の周波数帯を使用する場合、周波数帯毎に前述の4つの工程を行い、別々の空間伝搬係数マップ61及びヒートマップ62,62xを作成するのが適切である。例えば、アクセスポイントが2.4GHz帯の周波数、及び5GHz帯の周波数の何れかを選択的に無線通信で使用できるものである場合、2.4GHz帯、5GHz帯それぞれについて前述の4つの工程を行い、別々の空間伝搬係数マップ61及びヒートマップ62,62xを作成する。この場合、2.4GHz帯、5GHz帯それぞれに対応する空間伝搬係数マップ61及びヒートマップ62,62xを作成すれば良く、必ずしもそれぞれの周波数帯に含まれる各チャンネルについて個別の空間伝搬係数マップ61及びヒートマップ62,62xを作成しなくとも良い。
【0108】
空間伝搬係数マップを作成する場合に、空間伝搬係数の値をマップのどの領域に割り当てるかは、上述の例に限定されない。例えば、多数の地点で電波強度を測定できる場合は、各測定地点を中心とする所定の範囲内の領域(例えば、半径数メートル程度の円の領域)に対して、当該測定地点に対応する空間伝搬係数を割り当てることができる。この場合、空間伝搬係数マップを簡単な処理で作成することができる。
【0109】
マップ作成装置10を固定的に設置し、測定装置4だけが複数の測定地点の間を移動するように変更しても良い。測定装置4とマップ作成装置10との間の情報の通信を、有線の代わりに無線で行っても良い。
【0110】
マップ作成装置10は、測定装置4と同一のハードウェアから構成されても良い。
【0111】
マップ作成装置10は、アクセスポイント3と有線通信可能に構成されても良い。この場合、測定装置4が測定した電波強度及び測定位置は、測定装置4からアクセスポイント3に送信され、アクセスポイント3はマップ作成装置10に情報を転送する。
【0112】
図3のステップS104において、電波強度の測定地点の数を2つ以上としても良い。この場合、それぞれの測定地点での電波強度から、アクセスポイント3の状態の変化を加味した新しい送信利得G
Tの値が得られる。複数の新しい送信利得G
Tから平均値を計算し、この平均値を数式(2)に代入することで、精度の高いヒートマップ62xを得ることができる。
【0113】
図3のステップS103で示すヒートマップ62の作成処理は、省略されても良い。
【0114】
ヒートマップ62x等の無線分布マップは、表示部14に出力することに代えて、マップ作成装置10から他の装置へ通信により出力しても良い。
【0115】
ヒートマップ62,62xは、2次元における色分け表示で出力されるのに限定されず、例えば等高線による表示としたり、3次元グラフによる表示としたりすることができる。
【0116】
上述の教示を考慮すれば、本発明が多くの変更形態及び変形形態をとり得ることは明らかである。従って、本発明が、添付の特許請求の範囲内において、本明細書に記載された以外の方法で実施され得ることを理解されたい。