さらに、前記脂肪酸除去工程を経て得られた油脂組成物に対して、不飽和脂肪酸を混合し、1,3位特異性リパーゼを用いてエステル交換し、第2エステル交換反応物を得る第2反応工程、及び、第2反応工程を経て得られたエステル交換反応物について、再度の前記脂肪酸除去工程を行う、請求項1〜4の何れかに記載のβ位パルミチン酸含有油脂の製造方法。
【背景技術】
【0002】
ヒト母乳には、β位にパルミチン酸が結合したトリグリセリドが豊富に含まれる。このようなトリグリセリドは、消化吸収性が良好であることから、育児用粉乳の原料油脂として用いられている。
【0003】
特許文献1には、パーム由来の油脂を含む油脂原料を5〜60質量%及び、オレイン酸の含有量が70〜80質量%のオレイン酸含有脂肪酸を40〜95質量%、を含む配合油脂を調整する配合工程、並びに、前記配合油脂を、α−位に特異的に作用するリパーゼで反応させるリパーゼ反応工程を備える、β−位にパルミチン酸を有する油脂の製造方法が記載されている。
同文献に記載の発明は、オレイン酸の含有量が70〜80質量%の脂肪酸を使用した場合に、部分グリセリドの発生を抑制することを課題としている。
【0004】
特許文献2には、構成脂肪酸としてパルミチン酸を含有する原料油脂と不飽和脂肪酸及び/又は不飽和脂肪酸低級アルキルエステルとを含有する混合物を、1,3位選択性を有するリパーゼを用いてエステル交換することにより、トリグリセリドの構成脂肪酸に含まれるパルミチン酸の全量に占めるトリグリセリドの2位に結合するパルミチン酸の含有量が50質量%以上である油脂を得る、当該油脂の製造方法であって、以下の工程、
(a)トリグリセリドの2位に結合する脂肪酸全量に占めるパルミチン酸の含有量が30〜100質量%である原料油脂と、炭素数18以上の不飽和脂肪酸の含有量が70質量%以上である、脂肪酸または脂肪酸低級アルキルエステルとを、
前記原料油脂のトリグリセリドの1,3位に結合する脂肪酸全量に占めるパルミチン酸の含有量が、1,3位選択的エステル交換後に、エステル交換前の0.15〜0.65倍となる割合で含有する、混合物を得る工程、
(b)混合物を、1,3位選択性リパーゼを使用してエステル交換反応し、反応率が70%以上であるエステル交換反応物を得る工程、
を含む、前記油脂の製造方法が記載されている。
同文献に記載の発明は、製造される油脂において、β位にパルミチン酸を有するトリグリセリドの濃度を効率的に高めることを課題としている。
【0005】
特許文献3には、原料油脂と原料脂肪酸又はその低級アルコールエステルを混合した原料混合物を1,3位特異酵素エステル交換する油脂組成物の製造方法において、原料油脂の2位パルミチン酸含量が60〜90重量%であり、原料脂肪酸又はその低級アルコールエステルを構成する脂肪酸がXであり、原料混合物及び1,3位特異酵素エステル交換反応液の曇り点が39.5℃以下であることを特徴とするXPXトリグリセリドを含む油脂組成物の製造方法。
ただしX:不飽和脂肪酸又は炭素数10以下の飽和脂肪酸
XPX:2位にパルミチン酸、1,3位にXが結合したトリグリセリド
が記載されている。
同文献に記載の発明は、エステル交換反応の温度が低くても油脂結晶析出が起こらず、β位にパルミチン酸を有するトリグリセリドを含む油脂を効率的に製造することを課題としている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、β位にパルミチン酸を有するトリグリセリドを含む油脂(本発明において、「β位パルミチン酸含有油脂」という。)を効率的に製造するための新規な方法を提供することを課題とする。
特に、本発明は、β位にパルミチン酸を有するトリグリセリドの濃度を効率よく高めるための新規な方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決する本発明は、
PPPとPPOの総計が50質量%以上である原料油脂と、不飽和脂肪酸を混合し、1,3位特異性リパーゼを用いてエステル交換をし、第1エステル交換反応物を得る第1反応工程、及び
得られた第1エステル交換反応物から脂肪酸を除去する、脂肪酸除去工程
を含む、β位パルミチン酸含有油脂の製造方法である。
本発明において、トリグリセリドの構成脂肪酸は、1位、2位、3位の順に、XXX(Xには脂肪酸の略称)と表す。ここで、Pはパルミチン酸、Oはオレイン酸の略称である。
したがって、β位にパルミチン酸を有するトリグリセリドは、XPXと表す。
本発明の製造方法によれば、β位にパルミチン酸を有するトリグリセリドの含有量を効率的に高めることができる。
特に、第1反応工程において用いる不飽和脂肪酸の量を低減することができる。
【0009】
本発明の好ましい形態では、前記原料油脂は、PPPを1としたときのPPOの質量比が0.1以上であることを特徴とする。
これにより、β位にパルミチン酸を有するトリグリセリドの含有量を効率的に高めることができる。
【0010】
本発明の好ましい形態では、前記原料油脂は、パームステアリンのエステル交換油から高融点部を分別して得る。
これにより、β位にパルミチン酸を有するトリグリセリドの含有量を効率的に高めることができる。
【0011】
本発明の好ましい形態では、前記原料油脂と不飽和脂肪酸の混合質量比が、1:1〜1:3である。
これにより、β位にパルミチン酸を有するトリグリセリドの含有量を効率的に高めることができる。
【0012】
本発明の好ましい形態では、さらに、前記脂肪酸除去工程を経て得られた油脂組成物に対して、不飽和脂肪酸を混合し、1,3位特異性リパーゼを用いてエステル交換し、第2エステル交換反応物を得る第2反応工程、及び、第2反応工程を経て得られたエステル交換反応物について、再度の前記脂肪酸除去工程を行う。
これにより、β位にパルミチン酸を有するトリグリセリドの含有量を効率的に高めることができる。
【0013】
本発明の好ましい形態では、前記第2反応工程における反応温度が、前記第1反応工程における反応温度より5℃以上低い。
これにより、反応工程におけるランダム化を抑制し、β位にパルミチン酸を有するトリグリセリドの含有量を効率的に高めることができる。
【0014】
本発明は、また、以下のβパルミチン酸含有油脂の製造方法にも関する。
パルミチン酸を構成脂肪酸として含む油脂と不飽和脂肪酸を混合し、1,3位特異性リパーゼを用いてエステル交換をし、第1エステル交換反応物を得る第1反応工程、及び
得られたエステル交換反応物から脂肪酸を除去する、脂肪酸除去工程
を含む、βパルミチン酸含有油脂の製造方法であって、
前記脂肪酸除去工程を経て得られた油脂組成物に対して、不飽和脂肪酸を混合し、1,3位特異性リパーゼを用いてエステル交換し、第2エステル交換反応物を得る第2反応工程、及び、第2反応工程を経て得られたエステル交換反応物について、再度の前記脂肪酸除去工程を行い、かつ、
前記第2反応工程における反応温度が、前記第1反応工程における反応温度より5℃以上低い、β位パルミチン酸含有油脂の製造方法である。
本発明によれば、β位にパルミチン酸を有するトリグリセリドの含有量を効率的に高めることができる。
特に、反応工程におけるランダム化を抑制し、β位にパルミチン酸を有するトリグリセリドの含有量を効率的に高めることができる。
【0015】
本発明は、育児粉乳用油脂組成物の製造方法にも関する。
本発明は、前述の本発明のβ位パルミチン酸含有油脂の製造方法によりβ位パルミチン酸含有油脂を得る工程、
第1の成分として製造したβ位パルミチン酸含有油脂、第2の成分としてラウリン系油脂、並びに第3の成分として液体油を混合して、油脂組成物を得ることを含む、育児粉乳用油脂組成物の製造方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、β位にパルミチン酸を有するトリグリセリドの含有量を効率的に高めることができる。本発明によれば、特に反応工程において用いる不飽和脂肪酸の量を低減することができるため、原料に対する目的物の収率の面で利点がある。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好ましい実施形態について説明するが、本発明の技術的範囲は以下の実施形態に限定されないことは言うまでもない。
【0018】
<1.原料油脂>
本発明の製造方法は、特定の原料油脂と不飽和脂肪酸とを混合し、1,3位特異性リパーゼを用いてエステル交換反応を行うことを特徴とする。
前記の原料油脂は、パーム油、大豆油、菜種油、コーン油、綿実油、落花生油、ひまわり油、こめ油、ベニバナ油、サフラワー油、オリーブ油、ゴマ油、ヤシ油、パーム核油等の植物油脂、及び、牛脂、豚脂等の動物脂を加工することで得ることができる。
その中でも、パルミチン酸を多く含み、安定的に入手可能なパーム油を加工することで得ることが好ましい。
なお、特定の原料油脂とは、PPP及びPPOがそれぞれ後述する所定の含有量含まれるものを指す。
【0019】
前記の原料油脂は、少なくとも一種のパームステアリンを含む油脂をランダムエステル交換したエステル交換油の高融点部を分別することで得ることができる。パーム由来の油脂をランダムエステル交換することにより、トリグリセリドのα位に多く結合しているパルミチン酸が、α位とβ位へランダムに配列されるため、後述するリパーゼ処理によりβ位へのパルミチン酸結合比率をより効率的に高めることができる。
また、前記の原料油脂は、異なる二種以上のパームステアリンやパーム油、パーム中融点等のパーム分別油、パーム関連油脂以外の油脂を配合した油脂のランダムエステル交換油を、適宜分別することにより得てもよい。
【0020】
ランダムエステル交換は、ナトリウムメチラート等のアルカリ触媒を用いる方法や、リパーゼ製剤等の酵素触媒を用いる方法等、通常用いられる方法により行うことができる。
【0021】
本発明において、パームステアリンのエステル交換油を分別することで原料油脂を得る場合には、以下の形態とすることが好ましい。
ここで、パームステアリンのエステル交換油は、10質量%以上含むことが好ましく、20質量%以上含むことがより好ましく、25質量%以上含むことがより好ましく、30質量%以上含むことがより好ましく、35質量%以上含むことがより好ましく、40質量%以上含むことがさらに好ましい。
次に、得られたパームステアリンのエステル交換油を分別し、高融点部を得る。
パームステアリンのエステル交換油の分別方法は、特に制限されないが、乾式分別法により高融点部のパームステアリンを分離することが好ましい。
これにより、特定の原料油脂を効率よく得ることができる。
【0022】
本発明の製造方法は、前述の乾式分別法により得られる原料油脂におけるPPPとPPOの総計が50質量%以上であることが好ましく、55質量%以上であることがより好ましく、60質量%以上であることがさらに好ましい。
原料油脂におけるPPPとPPOの総計が上記となるようにあらかじめ処理することで、β位にパルミチン酸を有するトリグリセリドの含有量を効率的に高めることができる。
【0023】
また、本発明の製造方法は、前述の乾式分別法により得られる原料油脂のPPPが70質量%以下となるように処理することが好ましく、60質量%以下となるように処理することが特に好ましい。
原料油脂のPPPの割合は、実用性の観点からは、50質量%以上が目安となる。
原料油脂のPPP含有量が上記となるようにあらかじめ処理することで、β位にパルミチン酸を有するトリグリセリドの含有量を効率的に高めることができる。
【0024】
また、本発明の製造方法は、前述の乾式分別法により得られる原料油脂のPPOが2質量%以上であることが好ましく、3質量%以上であることがより好ましく、4質量%以上であることがさらに好ましい。
原料油脂におけるPPOの含有量が上記となるようにあらかじめ処理することで、β位にパルミチン酸を有するトリグリセリドの含有量を効率的に高めることができる。
【0025】
また、本発明の製造方法は、前述の乾式分別法により得られる原料油脂におけるPPPとPPOとの質量比は、PPPを1としたときに、PPOが0.1以上であることが好ましく、PPOが0.12以上であることがより好ましく、0.13以上であることがさらに好ましい。 原料油脂におけるPPPに対するPPOの質量比が上記となるようにあらかじめ処理することで、β位にパルミチン酸を有するトリグリセリドの含有量を効率的に高めることができる。
また、前記質量比は、実用性の観点からは、PPPを1としたときPPOが0.2以下を目安とすることができる。
【0026】
<2.反応工程>
本発明の製造方法は、前述の特定の原料油脂と不飽和脂肪酸を混合し、1,3位特異性リパーゼを用いてエステル交換をし、第1エステル交換反応物を得る第1反応工程を含む。
【0027】
不飽和脂肪酸としては、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、DHA、EPA等を例示することができる。その中でも、β位にパルミチン酸を有するトリグリセリドの含有量を効率的に高めるため、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸を使用することが好ましく、特にオレイン酸が好ましい。
【0028】
オレイン酸を多く含む不飽和脂肪酸の原料としては、ハイオレイックサフラワー油、ハイオレイック菜種油、オリーブ油、パーム油、パーム核油等の高オレイン酸量油脂由来の不飽和脂肪酸を使用することが好ましい。
【0029】
また、不飽和脂肪酸としてオレイン酸を使用する場合のオレイン酸含量は特に制限されないが、70質量%以上であることが好ましく、75質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることがさらに好ましい。
オレイン酸含量を上記とすることで、β位にパルミチン酸を有するトリグリセリドの含有量を効率的に高めることができる。
【0030】
本発明の製造方法は、第1反応工程において、原料油脂と不飽和脂肪酸の混合質量比が、1:1〜1:3であることが好ましく、1:1.2〜1:2.8であることがより好ましく、1:1.5〜1:2.5であることがさらに好ましい。
原料油脂と不飽和脂肪酸の混合質量比を上記とすることで、β位にパルミチン酸を有するトリグリセリドの含有量を効率的に高めることができる。また、本発明の製造方法は、前述の原料油脂に対する不飽和脂肪酸の混合量が少なくても、β位パルミチン酸結合比を高くすることができる。
【0031】
また、1,3位特異性リパーゼを用いたエステル交換反応には、アルカリゲネス属、ジオトリウム属、クロモバクテリウム属、リゾプス属、アスペルギルス属、ペニシリウム属、キャンディダ属、シュードモナス属、ムコール属、ジオトリクム属などの微生物由来のリパーゼを使用することが好ましい。
【0032】
このようなリパーゼは、市販のものを使用することができる。例えば、アマノA(天野製薬社製)、リポザイム(ノボザイムズ社製)などを例示することができる。なお、前記のリパーゼの使用形態は特に制限されないが、効率の観点から、常法により担体に固定化して用いることが好ましい。
【0033】
酵素反応の温度は、十分な反応速度を確保しつつ酵素活性を長く維持する観点や異性体トリグリセリドの生成をできるだけ抑制する観点から、30〜70℃であることが好ましく、40〜70℃であることがより好ましく、45〜65℃であることがさらに好ましい。
また、酵素反応の時間は、十分なエステル交換反応率が達成できる時間であれば特に制限されないが、好ましくは2〜48時間である。
【0034】
また、本発明の製造方法は、第2反応工程として、後述する脂肪酸除去工程を経て得られた油脂組成物に対して、不飽和脂肪酸を混合し、1,3位特異性リパーゼを用いてエステル交換し、第2反応工程を経て得られたエステル交換反応物について、再度の脂肪酸除去工程を行うことが好ましい。
このように、第2反応工程及び再度の脂肪酸除去工程を経ることで、β位にパルミチン酸を有するトリグリセリドの含有量をより効率的に高めることができる。
【0035】
本発明は、第2反応工程における反応温度が、第1反応工程における反応温度より5℃以上低いことが好ましく、10℃以上低いことが特に好ましい。
これにより、第2反応工程におけるランダム化を抑制し、β位にパルミチン酸を有するトリグリセリドの含有量をより効率的に高めることができる。なお、第1及び第2反応工程における反応温度自体は、前述した酵素反応の温度の好ましい範囲の中から、好ましい温度差となるように適宜設定することができる。
【0036】
第2反応工程における、前記の油脂組成物と不飽和脂肪酸の混合質量比は、1:1〜1:3であることが好ましく、1:1.2〜1:2.8であることがより好ましく、1:1.5〜1:2.5であることがさらに好ましい。
前記の油脂組成物と不飽和脂肪酸の混合質量比を上記とすることで、β位にパルミチン酸を有するトリグリセリドの含有量を効率的に高めることができる。また、本発明の製造方法は、前記の油脂組成物に対する不飽和脂肪酸の混合量が少なくても、β位パルミチン酸結合比を高くすることができる。
【0037】
なお、第2反応工程においては、β位にパルミチン酸を有するトリグリセリドの収率の観点からは、油脂組成物に対する不飽和脂肪酸の混合質量を、第1反応工程におけるものよりも小さくすることが好ましい。一方、β位パルミチン酸の結合比の観点からは、油脂組成物に対する不飽和脂肪酸の混合質量を、第1反応工程におけるものよりも大きくすることが好ましい。
【0038】
<3.脂肪酸除去工程>
本発明の製造方法は、第1及び第2反応工程により得られた各エステル交換反応物から脂肪酸を除去する脂肪酸除去工程を含むものである。脂肪酸除去工程は、第1反応工程後のものと、第2反応工程後のものとで、脂肪酸を除去する対象となるエステル交換反応物が異なる以外にその内容ないし方法に相違はない。
【0039】
原料油脂と不飽和脂肪酸とをリパーゼ処理によりエステル交換すると、得られた油脂組成物中に遊離脂肪酸が含まれるため、食用に供するという観点から、この遊離脂肪酸を除去することが好ましい。除去方法としては、蒸留が特に好ましい。
【0040】
蒸留の方法としては、薄膜蒸留や分子蒸留、水蒸気蒸留等が挙げられ、その工程を1回または2回以上行うことが好ましい。
【0041】
本発明の製造方法においては、さらに第2反応工程と同様の第3、第4の反応工程を含んでいてもよい。この場合においても、第3反応工程の後に、脂肪酸除去工程をさらに含む。
第3以降の反応工程においても、反応温度が、第1反応工程における反応温度より5℃以上低いことが好ましく、10℃以上低いことが特に好ましい。
また、第3以降の反応工程においては、β位にパルミチン酸を有するトリグリセリドの収率の観点からは、油脂組成物に対する不飽和脂肪酸の混合質量を、前の反応工程におけるものよりも小さくすることが好ましい。一方、β位パルミチン酸の結合比の観点からは、油脂組成物に対する不飽和脂肪酸の混合質量を、前の反応工程におけるものよりも大きくすることが好ましい。また、第3以降の反応工程においては、反応温度を前の反応工程の反応温度以下とすることが好ましい。
【0042】
<4.育児粉乳用油脂組成物の製造方法>
本発明は、育児粉乳用油脂組成物の製造方法にも関する。本発明の育児粉乳用油脂組成物は、前述の本発明の製造方法により製造されたβ位パルミチン酸含有油脂を第1の成分とするものである。したがって、本発明におけるβ位パルミチン酸含有油脂を得る工程の説明としては、前述の内容が妥当する。
【0043】
育児粉乳用油脂組成物における第2の成分は、ラウリン系油脂から選択される油脂を用いることが好ましい。その中でも、パーム核油、パーム核オレインが好ましく、パーム核オレインが特に好ましい。
ここで、第2の成分は、第1の成分であるβ位パルミチン酸含有油脂以外のものである。
【0044】
また、育児粉乳用油脂組成物における第3の成分は、液体油を用いることが好ましい。このような液体油の種類は特に制限されないが、大豆油、菜種油、コーン油、綿実油、落花生油、ひまわり油、こめ油、ベニバナ油、サフラワー油、オリーブ油、ゴマ油などの植物油脂から選ばれる1種又は2種以上を用いることが好ましい。その中でも、大豆油及び菜種油を組み合わせて用いることが特に好ましい。
ここで、第3の成分は、第1の成分であるβ位パルミチン酸含有油脂、及び第2の成分であるラウリン系油脂以外のものである。
【0045】
前述した第1〜第3成分の配合は、公知の方法により適宜行うことができる。なお、各成分の配合量も特に制限されないが、育児粉乳用の油脂組成物としての栄養価やそのバランスの観点から、第1の成分であるβ位パルミチン酸含有油脂を、好ましくは10〜50重量部、より好ましくは15〜45重量部、さらに好ましくは20〜40重量部配合する。
【実施例】
【0046】
以下に実施例を用いて、より詳細に本発明について説明する。本実施例において、%(パーセント)による表記は、特に断らない限り質量を基準としたものである。
【0047】
[1.油脂組成物1の調製]
後述する実施例において、本発明の特定の原料油脂として使用する油脂組成物1を調製した。まず、パームステアリン100重量部を用いて、0.102重量部のナトリウムメチラートを触媒とし、90℃で15分間、ランダムエステル交換反応を行った。その後、得られたエステル交換油を70℃に加熱して完全に溶解し、46℃で攪拌しながら24時間晶析した。そして、3.0MPaでフィルタープレスし、晶析後のエステル交換油を液状部と固体部に分けた。得られた固体部に1重量部の白土を加えて脱色を行い、油脂組成物1(パームステアリンエステル交換油分別高融点部)を得た。油脂組成物1の油脂組成を表1に示す。
【0048】
【表1】
【0049】
[2.実施例1の調製]
40重量部の油脂組成物1と60重量部の原料脂肪酸とを混合し、1,3位特異性リパーゼを用いたエステル交換反応の原料配合油とした。エステル交換反応前に、原料配合油の水分を300ppm以下となるように調節した。その後、原料配合油を60℃に温度調節し、5質量%のリパーゼ(RM−IM、ノボザイムズ社製)を添加し、9時間攪拌しながら1,3位特異性リパーゼを用いたエステル交換反応を行った。
当該反応後に得られたエステル交換反応物を、蒸留によってトリグリセリド画分と脂肪酸画分とに分離した。
なお、原料脂肪酸の脂肪酸の構成は以下のとおりである(全ての実施例等について同じ)。
<原料脂肪酸>
パルミチン酸:1.1%、ステアリン酸:2.5%、オレイン酸:90%、リノール酸:3.5%
【0050】
[3.実施例2の調製]
実施例1と同様の方法で1,3位特異性リパーゼを用いたエステル交換反応を行った(第1反応)。その後、第1反応により得られたエステル交換反応物から得たトリグリセリド画分30重量部と、原料脂肪酸70重量部とを混合して原料配合油とした。そして、原料配合油について、水分を300ppm以下となるように調節した後、50℃に温度調節し、5質量%のリパーゼを添加し、18時間攪拌しながら1,3位特異性リパーゼを用いたエステル交換反応を行った(第2反応)。第2反応により得られたエステル交換反応物を、蒸留によってトリグリセリド画分と脂肪酸画分とに分離した。
【0051】
[4.実施例3〜5の調製]
30重量部の油脂組成物1と70重量部の原料脂肪酸とを混合した以外は、実施例1と同様の方法で、1,3位特異性リパーゼを用いたエステル交換反応を行った(第1反応)。その後、第1反応により得られたエステル交換反応物から得たトリグリセリド画分30重量部と原料脂肪酸70重量部とを混合して原料配合油とした。そして、原料混合油について、水分を300ppm以下となるように調節した後、表2に示す異なる温度条件の下で、16〜18時間攪拌しながら1,3位特異性リパーゼを用いたエステル交換反応を行った(第2反応)。第2反応により得られたエステル交換反応物を、蒸留によってトリグリセリド画分と脂肪酸画分とに分離した。
【0052】
[5.トリグリセリド画分の分析]
以下の方法により、実施例1〜5のトリグリセリド画分について、トリグリセリド中の総パルミチン酸量及びβ位結合パルミチン酸組成を分析した。また、トリグリセリド画分中のOPO量についても分析した。
【0053】
・トリグリセリド中の総パルミチン酸量の分析
基準油脂分析法(2.2.4.3−2013、トランス脂肪酸含量(キャピラリーガスクロマトグラフ法))に基づいて測定した。ガスクロマトグラフィー装置は、島津製作所(株)製、GC−2010型を使用した。カラムはSUPELCO製、SP−2560を使用した。
・トリグリセリド中のβ位結合脂肪酸組成の分析
β位に結合した脂肪酸組成の分析は、基準油脂分析法(2.4.5−2016、トリアシルグリセリン2位脂肪酸組成(酵素エステル交換法))に基づいて測定した。ガスクロマトグラフィー装置は、島津製作所(株)製、GC−2010型を使用した。カラムはSUPELCO製、SP−2560を使用した。
・トリグリセリド中のOPOの分析
液体クロマトグラフィー質量分析法を用い、トリグリセリド中のOPO量を分析した。液体クロマトグラフィー質量分析装置は、液体クロマトグラフィー部についてAgilent 1260 Infinity バイナリ LCシステム、及び質量分析部についてAgilent 6130 Single Quadrupole LC/MSシステムを使用した。カラムはインタクト製、Cadenza CD−C18を使用した。
【0054】
前述の分析結果に基づき、パルミチン酸のβ位への結合比率を以下の計算式により算出した。
β位パルミチン酸結合比(%)=
(β位に結合したパルミチン酸含量/全体におけるパルミチン酸含量×3)×100
【0055】
表2に示すとおり、本発明の製造方法によれば、所定の分別方法により得られた原料油脂を用い、かつ、所定の温度条件下で第1及び第2の反応工程を経ることで、従来技術に比してβ位パルミチン酸の結合比率が高い油脂の製造が可能であることが分かった。
【0056】
【表2】
【0057】
[6.育児粉乳用油脂組成物の製造]
実施例1〜5で得られたトリグリセリド画分35重量部、パーム核オレイン30重量部、大豆油20重量部、菜種油15重量部を常法により配合し、育児粉乳用油脂組成物を得た。