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特開2021-13265プラズマ加工装置用直流パルス電源装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-13265(P2021-13265A)
(43)【公開日】2021年2月4日
(54)【発明の名称】プラズマ加工装置用直流パルス電源装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 9/04 20060101AFI20210108BHJP
【FI】
   H02M9/04 Z
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2019-127065(P2019-127065)
(22)【出願日】2019年7月8日
(11)【特許番号】特許第6613411号(P6613411)
(45)【特許公報発行日】2019年12月4日
(71)【出願人】
【識別番号】392026888
【氏名又は名称】京都電機器株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】特許業務法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤吉 敏一
(72)【発明者】
【氏名】伏谷 周一
(72)【発明者】
【氏名】木村 智
(72)【発明者】
【氏名】小西 庸平
(72)【発明者】
【氏名】竹内 晃
【テーマコード(参考)】
5H790
【Fターム(参考)】
5H790BA08
5H790BB11
5H790CC01
5H790CC08
5H790DD06
5H790EA01
5H790EA16
5H790EB01
(57)【要約】      (修正有)
【課題】限流抵抗での電力損失を抑えるとともに、良好な波形形状のパルス電圧を容量性負荷回路に印加する直流パルス電源装置を提供する。
【解決手段】直流パルス電源装置は、パルス電圧の底部及び頂部の電圧を定める基本電圧生成部1と、パルス電圧の立ち上げ及び立ち下げ時に、インダクタンス素子200及び出力コンデンサ18を含むLC共振回路に共振電流を供給する又は吸い込む共振駆動部2と、PFN回路によりパルス電圧の立ち上がり及び立ち下がり特性を改善するパルス整形部3と、を含む。出力コンデンサ18の接続点(ノードN1)の電圧が共振電流によって電圧V1付近にまで上昇したタイミングでスイッチング部13をオンし、直流電圧源10からの電圧を印加し始める。それにより、限流用抵抗17に流れる電流を抑えることができる。また、パルス整形部3を通すことでパルス波形形状を改善し、容量性負荷回路4に印加することができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマ加工用のプラズマを形成する電極を含む容量性負荷回路に、2以上の電圧レベルに変化する直流パルス電圧を印加するプラズマ加工装置用直流パルス電源装置であって、
a)前記容量性負荷回路を含む複数の容量性素子と複数のインダクタンス素子とがラダー状に接続されて成るパルス整形部と、
b)直流パルス電圧の最も高い電圧レベルに対応する第1直流電圧を生成する直流電圧源を含み、前記パルス整形部を通して前記容量性負荷回路に電力を供給するための電力供給部と、該電力供給部による出力電圧及び/又は接地電位を切り替える複数のスイッチング部と、前記パルス整形部の入力端と接地端との間に接続される出力コンデンサと、該複数のスイッチング部の少なくとも一つが導通されて前記電力供給部から前記容量性負荷回路に電力が供給されるときの電流の経路及び該複数のスイッチング部の少なくとも他の一つが導通されて前記出力コンデンサの蓄積エネルギによる電流が流れる経路に設けられた限流抵抗と、を含み、前記複数のスイッチング部により切り替えられた電圧を前記パルス整形部の入力端に入力する基本電圧生成部と、
c)前記パルス整形部の入力端に一端が接続された共振用インダクタンス素子と、第1スイッチング部及び第2スイッチング部が直列に接続され、該第1スイッチング部と該第2スイッチング部との間に前記共振用インダクタンス素子の他端が接続されている直列回路部と、該直列回路部の高電圧側端部に前記第1直流電圧よりも低い第2直流電圧を印加する共振用第1直流電圧源と、前記直列回路部の低電圧側端部に前記第2直流電圧よりも低い所定の第3直流電圧を印加する共振用第2直流電圧源と、を含む共振駆動部と、
d)前記基本電圧生成部の複数のスイッチング部、並びに、前記共振駆動部の第1及び第2スイッチング部のオン・オフ動作を制御するものであって、直流パルス電圧の立ち上げ時には、前記共振駆動部の第1スイッチング部をオンさせて前記共振用インダクタンス素子と前記出力コンデンサ及び/又は前記パルス整形部の容量とのLC共振により前記パルス整形部の入力端の電圧を増加させたあと、前記基本電圧生成部の所定のスイッチング部をオンして前記電力供給部からの第1直流電圧を前記パルス整形部の入力端に印加し、直流パルス電圧の立ち下げ時には、前記基本電圧生成部からの電圧の印加を停止し前記共振駆動部の第2スイッチング部をオンさせて前記共振用インダクタンス素子と前記出力コンデンサ及び/又は前記パルス整形部の容量とのLC共振により前記パルス整形部の入力端の電圧を減少させたあと、前記基本電圧生成部の所定のスイッチング部をオンして立ち下げ後の電位を前記パルス整形部の入力端に与えるように、前記各スイッチング部の動作をそれぞれ制御する制御部と、
を備えることを特徴とするプラズマ加工装置用直流パルス電源装置。
【請求項2】
請求項1に記載のプラズマ加工装置用直流パルス電源装置であって、
前記限流抵抗は、前記複数のスイッチング部の切り替えによって電圧が出力される電圧出力端と前記パルス整形部の入力端との間に接続されてなることを特徴とするプラズマ加工装置用直流パルス電源装置。
【請求項3】
請求項1に記載のプラズマ加工装置用直流パルス電源装置であって、
前記限流抵抗は、直列に接続された前記複数のスイッチング部のうちの低電圧側のスイッチング部における低電圧側端部と接地部位との間に接続され、前記電力供給部は、該直列に接続された複数のスイッチング部の両端に電力を供給するものであることを特徴とするプラズマ加工装置用直流パルス電源装置。
【請求項4】
請求項3に記載のプラズマ加工装置用直流パルス電源装置であって、
前記直列回路部において、第1スイッチング部と第2スイッチング部との間に二つの順方向接続であるダイオードが直列に接続され、該二つのダイオードの間に前記共振用インダクタンス素子の他端が接続され、
前記限流抵抗のスイッチング部側の端部から、前記第1スイッチング部と前記ダイオードとの接続端への間に、順方向接続であるダイオードが設けられ、
前記第2スイッチング部と前記ダイオードとの接続端から、前記基本電圧生成部における直列に接続された複数のスイッチング部の高電圧側端部への間に、順方向接続であるダイオードが設けられてなることを特徴とするプラズマ加工装置用直流パルス電源装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のプラズマ加工装置用直流パルス電源装置であって、
前記制御部は、前記共振用インダクタンス素子に流れる電流値を検出する検出部を含み、該検出部による検出結果に基づいて、前記基本電圧生成部でスイッチング部を切り替えるタイミングを決めることを特徴とするプラズマ加工装置用直流パルス電源装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のプラズマ加工装置用直流パルス電源装置であって、
前記第2直流電圧は前記第1直流電圧の1/2よりも高く設定され、前記第3直流電圧は前記第1直流電圧の1/2よりも低く設定されることを特徴とするプラズマ加工装置用直流パルス電源装置。
【請求項7】
請求項6に記載のプラズマ加工装置用直流パルス電源装置であって、
前記共振用第1直流電圧源及び前記共振用第2直流電圧源はそれぞれ、前記容量性負荷回路中の負荷抵抗に流れる負荷電流に応じて、前記第1直流電圧の1/2と前記第2直流電圧との電圧差、及び前記第1直流電圧の1/2と前記第2直流電圧との電圧差、を決定することを特徴とするプラズマ加工装置用直流パルス電源装置。
【請求項8】
請求項7に記載のプラズマ加工装置用直流パルス電源装置であって、
前記共振用第1直流電圧源及び前記共振用第2直流電圧源はそれぞれ、出力電圧の調整が可能な昇圧コンバータ、降圧コンバータ、又は昇降圧コンバータを含むことを特徴とするプラズマ加工装置用直流パルス電源装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマエッチング装置などの各種のプラズマ加工装置に用いられる直流パルス電源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、半導体プロセスを始めとする様々な分野において、プラズマを利用して対象物を加工するプラズマ装置が用いられている。
図14は、プラズマエッチング装置を駆動する従来の電源装置の一例の概略構成を示す図である。このプラズマエッチング装置は、高周波プラズマにパルス状の直流電力を加えることで処理対象物を加工するものである。
【0003】
図14において、プラズマエッチング装置は、真空排気された減圧雰囲気の下で放電ガスや反応ガスが導入されるチャンバ(図示せず)内に二つの電極が配置された、ごく簡略化されたモデルで示されている。この例では、上側の電極がカソード電極721であり、所定のガスに電力を供給して放電プラズマ723を生成するための電極である。一方、下側の電極は、カソード電極721との間に均一な電場を形成するように該カソード電極721と対向して設置されている対向電極722である。ここでは、対向電極722はチャンバと共に、電気的に接地されている。処理対象物は、カソード電極721又は対向電極722のいずれか一方に固定される。互いに所定距離だけ離して配置されているカソード電極721と対向電極722との間にはキャパシタが形成され、このキャパシタの容量は、その電極721、722の間に生成される放電プラズマ723のプラズマ抵抗と合成され、容量性負荷回路72となる。
【0004】
高周波電源80は、図示しない結合コンデンサやインピーダンス整合回路を介してカソード電極721に高周波電力を供給するものである。一方、直流パルス電源60は、カソード電極721に負極性の直流パルス電圧を与えるものである。直流パルス電源60と高周波電源80はカソード電極721に対して並列に接続されているため、高周波電源80による高周波電圧が直流パルス電源60に印加されないように、カソード電極721と直流パルス電源60との間には、リアクトル711とコンデンサ712とを含むローパスフィルタ71が挿設されている。
【0005】
よく知られているように、高周波電源80により放電プラズマ723を励起するとき、電子電流とイオン電流とがほぼ均等な状態となるように負のセルフバイアス電圧が電極721、722間に生起される。このときのセルフバイアス電圧を高周波電源80に直列に挿入される直流電圧源から印加されるものとみなし、図中には、直流電圧源81を等価的に示している。この直流電圧源81によって、容量性負荷回路72及びローパスフィルタ71は所定のセルフバイアス電圧に充電されるとみなせる。容量性負荷回路72に充電されるセルフバイアス電圧によって、放電プラズマ723は高いイオン加速エネルギを処理対象物に照射することができる。
【0006】
上述したような容量性負荷回路72に直流パルス電圧を印加するための従来の一般的な直流パルス電源60は、図14中に概略的に示すように、直流電源部61と相補的にオン・オフ動作する二つのスイッチング素子62、63を含む構成である(特許文献1など参照)。即ち、二つのスイッチング素子62、63が相補的にオン・オフ動作すると、直流電源の出力電圧−V0(一般には数百〜千V以上)と接地電位(0V)とが交互に直流パルス電源60の出力端に現れ、波高値がV0である負極性の直流パルス電圧が生成される。また、特許文献1には、直流パルス電圧を容量性負荷回路に印加するだけでなく、スイッチング素子と共振回路とを用い、容量性負荷回路に蓄積されたエネルギを電源装置側に回生する構成も開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2018−107904号公報
【特許文献2】特開2001−27888号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
図14中にも記載したように、上記のような直流パルス電源では一般に、電源投入時等に過大な電流(突入電流)がスイッチング素子に流れて該素子が破壊に至るのを防止するために、該電源の出力端と容量性負荷回路72のカソード側との間に数Ωから数十Ω程度の限流抵抗64が設けられる。しかしながら、限流抵抗を設けると、定常動作時において直流パルス電圧の電圧値が変化する毎に、該限流抵抗の抵抗値と直流パルス電圧の波高値とに依存するピーク電流が発生する。直流パルス電圧の周波数が高いほどピーク電流の発生頻度が高くなり、限流抵抗に流れる電流の実効値が増加する。限流抵抗では電力損失によって熱が生じるが、電流の実効値が増加すると発熱量はかなり大きいものとなる。そのため、通常、かなりサイズや重量が大きな抵抗が限流抵抗として必要になる。それによって、電源装置の効率が悪化する、サイズが大きくなる、重量が重くなる、さらにはコストが高くなる、といった問題があった。
【0009】
また、特にプラズマエッチングを始めとするプラズマ加工の分野では、加工精度を高めることが強く要請されており、そのためには直流パルス電源からプラズマエッチング装置に印加する直流パルス電圧の立ち上がり及び立ち下がりの特性を改善する必要がある。
【0010】
本発明はこうした課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、限流抵抗における電力損失を低減するとともに、直流パルス電圧の立ち上がり及び立ち下がりの特性を改善することができるプラズマ加工装置用直流パルス電源装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願発明者は、大きなピーク電流を発生させることなく直流パルス電圧の立ち上げ及び立ち下げを行う一つの技術として、特許文献2等に開示されている共振方式の電源装置に着目した。この電源装置は、プラズマディスプレイの駆動に用いられるものであり、インダクタンス素子と容量性負荷とのLC共振を利用してパルス電圧を滑らかに立ち上げ又は立ち下げる。しかしながら、こうした従来の共振方式の電源装置では、パルス電圧の立ち上がり及び立ち下がりの速度が遅く、プラズマ加工装置用としては適さない。そこで、本発明者は、従来の共振方式の利点を活かしつつ、その欠点を補うように新たな構成を導入することにより本発明をなすに至った。
【0012】
上記課題を解決するためになされた本発明は、プラズマ加工用のプラズマを形成する電極を含む容量性負荷回路に、2以上の電圧レベルに変化する直流パルス電圧を印加するプラズマ加工装置用直流パルス電源装置であって、
a)前記容量性負荷回路を含む複数の容量性素子と複数のインダクタンス素子とがラダー状に接続されて成るパルス整形部と、
b)直流パルス電圧の最も高い電圧レベルに対応する第1直流電圧を生成する直流電圧源を含み、前記パルス整形部を通して前記容量性負荷回路に電力を供給するための電力供給部と、該電力供給部による出力電圧及び/又は接地電位を切り替える複数のスイッチング部と、前記パルス整形部の入力端と接地端との間に接続される出力コンデンサと、該複数のスイッチング部の少なくとも一つが導通されて前記電力供給部から前記容量性負荷回路に電力が供給されるときの電流の経路及び該複数のスイッチング部の少なくとも他の一つが導通されて前記出力コンデンサの蓄積エネルギによる電流が流れる経路に設けられた限流抵抗と、を含み、前記複数のスイッチング部により切り替えられた電圧を前記パルス整形部の入力端に入力する基本電圧生成部と、
c)前記パルス整形部の入力端に一端が接続された共振用インダクタンス素子と、第1スイッチング部及び第2スイッチング部が直列に接続され、該第1スイッチング部と該第2スイッチング部との間に前記共振用インダクタンス素子の他端が接続されている直列回路部と、該直列回路部の高電圧側端部に前記第1直流電圧よりも低い第2直流電圧を印加する共振用第1直流電圧源と、前記直列回路部の低電圧側端部に前記第2直流電圧よりも低い所定の第3直流電圧を印加する共振用第2直流電圧源と、を含む共振駆動部と、
d)前記基本電圧生成部の複数のスイッチング部、並びに、前記共振駆動部の第1及び第2スイッチング部のオン・オフ動作を制御するものであって、直流パルス電圧の立ち上げ時には、前記共振駆動部の第1スイッチング部をオンさせて前記共振用インダクタンス素子と前記出力コンデンサ及び/又は前記パルス整形部の容量とのLC共振により前記パルス整形部の入力端の電圧を増加させたあと、前記基本電圧生成部の所定のスイッチング部をオンして前記電力供給部からの第1直流電圧を前記パルス整形部の入力端に印加し、直流パルス電圧の立ち下げ時には、前記基本電圧生成部からの電圧の印加を停止し前記共振駆動部の第2スイッチング部をオンさせて前記共振用インダクタンス素子と前記出力コンデンサ及び/又は前記パルス整形部の容量とのLC共振により前記パルス整形部の入力端の電圧を減少させたあと、前記基本電圧生成部の所定のスイッチング部をオンして立ち下げ後の電位を前記パルス整形部の入力端に与えるように、前記各スイッチング部の動作をそれぞれ制御する制御部と、
を備えることを特徴としている。
【0013】
本発明の第1の態様のプラズマ加工装置用直流パルス電源装置において、前記限流抵抗は、前記複数のスイッチング部の切り替えによって電圧が出力される電圧出力端と前記パルス整形部の入力端との間に接続されてなる。
【0014】
また本発明の第1の態様のプラズマ加工装置用直流パルス電源装置において、前記限流抵抗は、直列に接続された前記複数のスイッチング部のうちの低電圧側のスイッチング部における低電圧側端部と接地部位との間に接続され、前記電力供給部は、該直列に接続された複数のスイッチング部の両端に電力を供給するものである。
【0015】
上記第1の態様と第2の態様とで相違する主な点は限流抵抗の挿入位置であり、第2の態様では、第1の態様において設けられている限流抵抗は短絡され、複数のスイッチング部のうちの低電圧側のスイッチング部と接地部位との間に限流抵抗が設けられ、その複数のスイッチング部の両端、つまりは限流抵抗を含まない直列回路の両端に、電力供給部による電力が供給される。それ以外の基本的な構成は第1の態様と第2の態様とで同じである。
【0016】
本発明では、容量性負荷回路側から直流パルス電源装置側への高周波電圧の侵入を防止するために直流パルス電源装置の出力段(又はプラズマ加工装置の電圧入力段)に設けられるLCフィルタの構成要素を、上記パルス整形部に含まれる容量性素子及びインダクタンス素子の一部として利用することができる。また、直流パルス電源装置とプラズマ加工装置とを接続する同軸ケーブル線などの配線における寄生インダクタンス、寄生容量なども、パルス整形部に含まれる容量性素子及びインダクタンス素子の一部として用いることができる。
【0017】
本発明の典型的な一形態では、直流パルス電圧は接地電位(0V)と接地電位ではない所定の電位との二つの電圧レベルを有する矩形波電圧である。また本発明の他の形態では、直流パルス電圧はいずれも接地電位ではない所定の二つの電位の二つの電圧レベルを有する矩形波電圧である。また本発明のさらに他の形態では、直流パルス電圧は、接地電位を含む又は含まない所定の三以上の電圧レベルを有する多段矩形波電圧である。
【0018】
いま、容量性負荷回路に印加される直流パルス電圧が接地電位と所定の電位V1との二つの電圧レベルの矩形波電圧である場合を考える。この場合、基本電圧生成部は一つの直流電圧源と、二つのスイッチング部を含む。直流パルス電圧を電位0から電位V1まで立ち上げる際には、基本電圧生成部からパルス整形部の入力端に電圧は印加されず、共振駆動部において第1スイッチング部がオンされることでLC共振による共振電流が出力コンデンサに供給され該出力コンデンサを充電する。これにより、パルス整形部の入力端の電圧は立ち上がる。共振電流により電圧が十分に立ち上がったあとに、基本電圧生成部でスイッチング部の切替動作が行われ、直流電圧源による出力電圧がパルス整形部の入力端に印加され、該入力端の電位は所定の電位V1を維持する。
【0019】
一方、直流パルス電圧を電位V1から0まで立ち下げる際には、基本電圧生成部からパルス整形部の入力端への電圧印加は停止され、共振駆動部において第2スイッチング部がオンされることでLC共振による共振電流が共振用インダクタンス素子を先とは逆方向に流れ、例えば共振用第2直流電圧源に含まれるコンデンサを充電する。即ち、その直前まで出力コンデンサに蓄積されていた電荷がコンデンサに移送される。これにより、パルス整形部の入力端の電位は0付近まで低下し、電圧が十分に立ち下がったあと、基本電圧生成部で他方のスイッチング部がオンすることでパルス整形部の入力端の電位は0に固定される。
【0020】
このように、本発明に係る直流パルス電源装置では、直流パルス電圧の立ち上がり及び立ち下がりにおいて基本電圧生成部における限流抵抗に殆ど又は全く電流が流れない。そのため、限流抵抗に流れる電流の実効値は小さく、該抵抗での電力損失による発熱を抑えることができる。
【0021】
また、パルス整形部の入力端での電圧の上昇及び下降の速度は共振電流の共振波長の制約を受ける。そのため、パルス整形部の入力端における電圧変化は緩慢であるものの、パルスフォーミングネットワーク(PFN)であるパルス整形部は、パルス波形の立ち上がり及び立ち下がりの特性を改善する。これにより、容量性負荷回路、即ちプラズマ加工装置のプラズマ生成用電極には、立ち上がり及び立ち下がりが急峻である良好な波形形状の直流パルス電圧が印加される。
【0022】
また、第2の態様では、限流抵抗が低電圧側に配置されるため、限流抵抗の空間的、沿面との間、及び、接地部位との間の容量に配慮する必要がない。そのため、部品や回路の配置や構造上の制約を緩和することができるという付随的な効果がある。
【0023】
また第2の態様では、前記共振駆動部の直列回路部において、第1スイッチング部と第2スイッチング部との間に二つの順方向接続であるダイオードが直列に接続され、該二つのダイオードの間に前記共振用インダクタンス素子の他端が接続され、前記限流抵抗のスイッチング部側の端部から、前記第1スイッチング部と前記ダイオードとの接続端への間に、順方向接続であるダイオードが設けられ、前記第2スイッチング部と前記ダイオードとの接続端から、前記基本電圧生成部における直列に接続された複数のスイッチング部の高電圧側端部への間に、順方向接続であるダイオードが設けられてなる構成とするとよい。
【0024】
この構成において、共振駆動部の直列回路部に含まれるダイオードは共振動作における逆電流を阻止する作用を有するが、転流時に蓄積電荷によるリカバリ電流を生じる。このリカバリ電流により共振用インダクタンス素子に発生するエネルギのために、該ダイオードやスイッチング部に高電圧のサージ電圧が印加されるおそれがある。これに対し、共振駆動部の直列回路部と前記基本電圧生成部との間に設けられた二つのダイオードはフリーホイールダイオードとして機能し、共振用インダクタンス素子に流れたリカバリ電流を流し続ける。それにより、逆電流阻止用のダイオードやスイッチング部に高電圧のサージが印加されることを防止し、サージ吸収用のスナバ回路を付設する必要がなくなる。
【0025】
また本発明に係る直流パルス電源装置において、直流パルス電圧の立ち上がり及び立ち下がりの際に限流抵抗に流れる電流をできるだけ少なくするには、共振電流による出力コンデンサの充電電圧が基本電圧生成部においてスイッチング部を切り替えることで出力する電圧と等しいとき、及び、共振電流により放電される出力コンデンサの充電電圧が0と等しいときに、基本電圧生成部におけるスイッチング部の切り替え動作を行うことが好ましい。
【0026】
そこで本発明に係る直流パルス電源装置において、前記制御部は、共振用インダクタンス素子に流れる電流値を検出する検出部を含み、該検出部による検出結果に基づいて、前記基本電圧生成部でスイッチング部を切り替えるタイミングを決める構成とするとよい。
【0027】
一般的には、LC共振の半サイクルの間に共振電流が略正弦波の半波形状を呈したあとの0時点で、出力コンデンサの充電電圧は最高値に到達する。したがって、基本電圧生成部における第1直流電圧に対して共振駆動部における第2直流電圧及び第3直流電圧をそれぞれ適宜に定めた状態では、共振電流が略正弦波の半波形状に変化したあとの0時点で基本電圧生成部におけるスイッチング部を切り替えるようにするとよい。即ち、共振電流により出力コンデンサの充電電圧が第1直流電圧に達する又は最も近くなったときに、基本電圧生成部からの電圧印加に切り替えるとよい。これにより、限流抵抗に流れる電流をより一層少なくすることができ、その発熱を抑えることができる。
【0028】
上述したように共振駆動部のスイッチング部がオン・オフ動作するのに伴ってLC共振が生じ共振電流が流れるが、容量性負荷回路のプラズマ抵抗による電力消費のために共振エネルギは減衰する。その共振エネルギが減衰した分だけ、充電時における出力コンデンサの最大充電電圧は下がるし、逆に放電時においては出力コンデンサの充電電圧は下がり切らなくなる。
【0029】
そこで本発明に係る直流パルス電源装置では、前記第2直流電圧は前記第1直流電圧の1/2よりも高く設定され、前記第3直流電圧は前記第1直流電圧の1/2よりも低く設定される構成とするとよい。
【0030】
第2直流電圧と第1直流電圧の1/2との電圧差、及び、第3直流電圧と第1直流電圧の1/2との電圧差、をそれぞれ負荷抵抗の大きさに応じて適宜に定めることで、上述した共振エネルギの減衰による電圧の不足分を補償することができる。それにより、基本電圧生成部からの電圧印加に移行する際、及びその逆の移行の際における、限流抵抗に流れる電流を一層少なくすることができる。
【0031】
即ち、本発明に係る直流パルス電源装置では、前記共振用第1直流電圧源及び前記共振用第2直流電圧源はそれぞれ、前記容量性負荷回路中の負荷抵抗に流れる負荷電流に応じて、前記第1直流電圧の1/2と前記第2直流電圧との電圧差、及び前記第1直流電圧の1/2と前記第3直流電圧との電圧差、を決定する構成とするとよい。
【0032】
プラズマエッチング装置等のプラズマ加工装置では、負荷抵抗の大きさはプラズマ生成条件などによって異なるため、負荷電流を検出する電流検出部を設け、検出された負荷電流に応じて電圧差を決定することで、負荷抵抗の大きさに拘わらず限流抵抗に流れる電流を少なくすることができる。
【0033】
また、上述したように第2直流電圧及び第3直流電圧を負荷電流に応じて変化させるために、本発明に係る直流パルス電源装置において、前記共振用第1直流電圧源及び前記共振用第2直流電圧源はそれぞれ、出力電圧の調整が可能な昇圧コンバータ、降圧コンバータ、又は昇降圧コンバータを含む構成とするとよい。
【発明の効果】
【0034】
本発明に係る直流パルス電源装置によれば、限流抵抗での電力損失を減少させ、その発熱を軽減することができる。それにより、限流抵抗として使用する抵抗のサイズ、重量を小さくすることができ、また低コストの抵抗を使用することができる。その結果、電源装置自体のサイズや重量を小さくし、装置コストを低減することもできる。また、本発明に係る直流パルス電源装置によれば、限流抵抗での電力損失を減少させながら、立ち上がり及び立ち下がりの急峻な、良好な波形形状の直流パルス電圧をプラズマ加工装置の容量性負荷回路に供給することができる。それにより、プラズマ加工装置においてプラズマを用いた加工や処理の精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】本発明の第1の実施形態である直流パルス電源装置の概略構成図。
図2】第1の実施形態である直流パルス電源装置のより詳細な構成図。
図3】第1の実施形態である直流パルス電源装置の要部の動作波形図。
図4】第1の実施形態である直流パルス電源装置の電圧変化及び電流変化のシミュレーション結果を示す図。
図5】本発明の第2の実施形態である直流パルス電源装置の概略構成図。
図6】第2の実施形態である直流パルス電源装置において負荷に印加される直流パルス電圧の波形の一例を示す図。
図7】本発明の第3の実施形態である直流パルス電源装置の概略構成図。
図8】第3の実施形態である直流パルス電源装置において負荷に印加される直流パルス電圧の波形の一例を示す図。
図9】第1の実施形態の変形例である直流パルス電源装置の構成図。
図10】第1の実施形態の変形例である直流パルス電源装置の構成図。
図11】第1の実施形態の変形例である直流パルス電源装置の構成図。
図12図11に示した変形例にさらに改良を加えた直流パルス電源装置の詳細な構成図。
図13図12に示した直流パルス電源装置の要部の動作波形図。
図14】従来のプラズマ装置用電源装置の一例の概略構成図。
【発明を実施するための形態】
【0036】
[第1の実施形態]
本発明の第1の実施形態であるプラズマ加工装置用直流パルス電源装置について、添付図面を参照して説明する。
図1は第1の実施形態である直流パルス電源装置の基本的な回路構成図、図2は第1の実施形態である直流パルス電源装置のより詳細な構成図である。図3は、第1の実施形態である直流パルス電源装置の要部の動作波形図である。
【0037】
第1の実施形態の直流パルス電源装置は、プラズマエッチング装置においてプラズマ生成用の電極を含む容量性負荷回路4に直流パルス電圧を印加するものである。ここでは、容量性負荷回路4をキャパシタ40と抵抗41との並列回路で簡易的に示している。一般的に、プラズマエッチング装置ではプラズマ生成用電極に負極性の直流パルス電圧が印加されることが多いが、ここでは、説明の便宜上、プラズマ生成用電極を含む容量性負荷回路4に正極性の直流パルス電圧を印加するものとして説明する。
この直流パルス電源装置は、基本電圧生成部1と、共振駆動部2と、パルス整形部3と、制御部5と、を含む。
【0038】
基本電圧生成部1は、容量性負荷回路4に印加する直流パルス電圧の二つの電圧レベル、つまりはパルス頂部側の電圧及びパルス底部側の電圧を決めるものである。図1図2に示すように、基本電圧生成部1は、第1直流電圧源10、第3ダイオード11、電圧源コンデンサ12、第1スイッチング部13、第1ダイオード14、第2スイッチング部15、第2ダイオード16、限流抵抗17、及び出力コンデンサ18を含む。
【0039】
第1直流電圧源10は正極性の直流電圧(電圧値:V1)を出力するものであり、順方向接続である第3ダイオード11を介して電圧源コンデンサ12、及び、第1スイッチング部13と第2スイッチング部15との直列回路の一端に接続されている。該直列回路の他端は接地されている。第1ダイオード14は第1スイッチング部13に、第2ダイオード16は第2スイッチング部15に、それぞれ逆並列に接続されている。また、限流抵抗17は、第1スイッチング部13と第2スイッチング部15との接続点と、後述する共振用インダクタンス素子200と出力コンデンサ18とが接続されるノードN1と、の間に接続されている。
【0040】
図1に示すように、共振駆動部2は、共振用第1直流電圧源20、共振用第1スイッチング部21、第4ダイオード22、第5ダイオード23、第6ダイオード24、共振用第2スイッチング部25、第7ダイオード26、電圧源コンデンサ27、第8ダイオード28、共振用第2直流電圧源29、及び共振用インダクタンス素子200、を含む。共振用第1直流電圧源20は正極性の直流電圧を出力するものであり、この共振用第1直流電圧源20の出力端の間に、共振用第1スイッチング部21、第5ダイオード23、第6ダイオード24、及び共振用第2スイッチング部25が順に直列に接続された直列回路が接続されている。第5ダイオード23及び第6ダイオード24は、共振用インダクタンス素子200に共振電流の半波をそれぞれ個別に流すための逆方向阻止用のダイオードである。
【0041】
第4ダイオード22は共振用第1スイッチング部21に、第7ダイオード26は共振用第2スイッチング部25に、それぞれ逆並列に接続されている。共振用第2直流電圧源29は正極性の直流電圧(電圧値:V3)を出力するものであり、順方向接続である第8ダイオード28を介して電圧源コンデンサ27、及び、共振用第1直流電圧源20と共振用第2スイッチング部25との接続点であるノードN2とに接続されている。また、二つのダイオード23、24の接続点であるノードN3と上記ノードN1との間に共振用インダクタンス素子200が接続されている。なお、図2では、共振用第1直流電圧源20、共振用第2直流電圧源29などの構成をより具体的に記載してあるが、これについては後述する。
【0042】
パルス整形部3は、例えば三つのインダクタンス素子30、32、34と二つのコンデンサ31、33とを含み、容量性負荷回路4に含まれるキャパシタ40と相まって、LC集中分布回路であるパルスフォーミングネットワーク(PFN=Pulse Forming Network)回路となっている。
【0043】
プラズマエッチング装置と直流パルス電源装置とを接続した実際のシステムにおいて、パルス整形部3に含まれるインダクタンス素子30、32、34及びコンデンサ31、33は、必ずしも直流パルス電源装置の筐体内に存在する構成要素でなくてもよい。具体的には、一般に、プラズマエッチング装置と直流パルス電源装置との間は同軸ケーブル線で接続され、同軸ケーブル線は比較的大きなインダクタンス成分及び容量成分を有する。また上述したように、プラズマエッチング装置には、プラズマ生成用電極に印加される高周波電圧が直流パルス電源装置側に印加されるのを回避するために、インダクタンス素子及びコンデンサを含むフィルタが備えられている。こうした、同軸ケーブル線やフィルタにおけるインダクタンス成分、キャパシタンス成分を、上記インダクタンス素子30、32、34及びコンデンサ31、33に用いることができる。もちろん、インダクタンスやキャパシタンスを調整するために、同軸ケーブル線やフィルタのほかに、インダクタンス素子やコンデンサを適宜追加しても構わない。
【0044】
なお、図1図2では、インダクタンス素子30は同軸ケーブル線のインダクタンス成分、インダクタンス素子32、34及びコンデンサ33は高周波電圧阻止用のフィルタのインダクタンス成分及びキャパシタンス成分、コンデンサ31は同軸ケーブル線のキャパシタンス成分と高周波電圧阻止用フィルタのキャパシタンス成分とを加算したもの、を想定している。
【0045】
各スイッチング部13、15、21、25は電力用MOSFETなどの半導体スイッチング素子から成り、制御部5からそれぞれ入力される制御信号G1、G2、G3、G4によりそのオン・オフ動作が制御される。制御部5は、例えばCPU、ROM、RAM、タイマなどから成るマイコン(マイクロコンピュータ)を含み、予め与えられたプログラムに従った処理を実行することで、上記各制御信号を生成して出力する。また、制御部5に付設されている電流検出部51は、共振用インダクタンス素子200に流れる電流を検出し、その検出信号を制御部5に入力する。
【0046】
図2では、図1中の直流電圧源10、20、29の構成をより具体的に示している。図2において図1中と同じ符号を付した構成要素は同じものを示している。
図1における第1直流電圧源10は図2では出力電圧が共に(1/2)V1=V4である二つの直流電圧源10A、10Bが直列に接続された構成であり、第1スイッチング部13には二つの直流電圧源10A、10Bの出力電圧が加算された電圧値がV1である直流電圧が印加される。一方、直流電圧源10Bの出力電圧(電圧値:V4)は、インダクタンス素子212、ダイオード204、205、スイッチング部203、及びコンデンサ202を含む昇圧コンバータと、直列接続された二つのスイッチング部207、209、ダイオード208、210、インダクタンス素子211、及びコンデンサ206を含む双方向昇降圧コンバータとに入力される。
【0047】
即ち、図1中の共振用第2直流電圧源29は図2では直流電圧源10Bと双方向昇降圧コンバータとの組み合わせで構成されている。また、図1中の共振用第1直流電圧源20の出力電圧と共振用第2直流電圧源29の出力電圧とが加算された、共振用第1スイッチング部21の一端に印加される電圧V2は、図2では直流電圧源10Bと昇圧コンバータとの組み合わせにより生成される。上記双方向昇降圧コンバータは、直流電圧源10B側から共振用第2スイッチング部25側の方向へ電圧を変換する際には降圧コンバータとして機能する。昇圧コンバータ及び双方向昇降圧コンバータは、制御部5から供給される、それぞれ一又は二つのスイッチング部をオン・オフさせる制御信号のデューティ比によって、電圧値がV4である電圧を昇圧した、電圧値がV2である電圧、及び、電圧値がV4である電圧を降圧した、電圧値がV3である電圧を出力する。即ち、昇圧コンバータでの昇圧分をVaとするとV2=V4+Vaであり、双方向昇降圧コンバータを降圧コンバータとして機能させたときの降圧分をVbとするとV3=V4−Vbである。
【0048】
図3に示す動作波形図を参照しつつ、本実施形態の装置の動作を説明する。
t0時刻以前には、制御信号G2のみがHレベルで第2スイッチング部15がオン状態、制御信号G1、G3、G4がLレベルで他のスイッチング部13、21、25はオフ状態である。このとき、ノードN1は限流抵抗17及びオン状態である第2スイッチング部15を介して接地されており、容量性負荷回路4に印加される電圧は0である。また、共振駆動部2のノードN2は第2直流電圧源29及び電圧源コンデンサ27によりほぼ電圧V3に固定されている。
【0049】
t0時点で制御信号G3がHレベルに変化し、制御信号G2はLレベルに変化する。これにより、第2スイッチング部15はオフし、代わりに共振用第1スイッチング部21がオンする。すると、共振用第1直流電圧源20の出力電圧と共振用第2直流電圧源29の出力電圧とが加算された電圧V2が、インダクタンス素子200を介して、出力コンデンサ18、パルス整形部3及び容量性負荷回路4に印加される。ノードN3から見た負荷はLC共振回路となっているため、t0〜t1(t1は第1スイッチング部13がオンするタイミング)の間のα1期間、インダクタンス素子200を経て容量性負荷回路4には略正弦波の半波形状の共振電流Lo(i)が流れる(図3(e)参照)。この共振電流が出力コンデンサ18を充電するため、該出力コンデンサ18の両端電圧Co(v)はLo(v)+V2と変化する。
【0050】
いま仮にVa=0でV2=V4=(1/2)V1であり、容量性負荷回路4の抵抗41が無視できるとすると、共振半周期の期間α1中に出力コンデンサ18の両端電圧は0から変化してV1まで到達する。但し実際には、容量性負荷回路4に含まれる抵抗41での電力消費のために共振エネルギは減少する。そのため、V2=(1/2)V1であるとすると、出力コンデンサ18の充電電圧Co(v)は図3(f)中に破線で示すように変化し、共振半周期の期間α1終了時点でも電圧V1まで上昇し得ない。そこで本実施形態の装置では、V2=(1/2)V1とするのではなく、V2を(1/2)V1よりもVaだけ増崇することで共振エネルギの減少分を補償し、充電電圧Co(v)がほぼV1まで到達するようにしている。
【0051】
制御部5は、電流検出部51により検出される電流Lo(i)の変化に基づいて、α1期間の終了時点であるt1のタイミングを判断する。時刻t1において、出力コンデンサ18の充電電圧Co(v)の電圧値はV1に達している筈であり、このときに制御信号G1をHレベルに変化させる。すると、第1スイッチング部13はターンオンし、第1直流電圧源10(10A)の出力及び電圧源コンデンサ12の高電圧側端子が限流抵抗17を介してノードN1に接続され、ノードN1に電圧値V1の電圧が印加される。
【0052】
第1スイッチング部13がターンオンしたときに、出力コンデンサ18の充電電圧Co(v)の電圧値がV1よりも低いと、第1スイッチング部13を通じて、図3(g)中に破線で示すように大きく急峻な充電電流Rd(i)が流れるため、限流抵抗17に大きな電力損失が発生する。また逆に、出力コンデンサ18の充電電圧Co(v)の電圧値がV1よりも高い場合には、限流抵抗17を介し、第1スイッチング部13のボディダイオードを通じて電圧源コンデンサ12に電源回生電流が流れる。そのため、この場合にも限流抵抗17に電力損失が発生する。こうしたことから、α1の期間終了のタイミングの検出及び適切なVaの設定は、限流抵抗17での電力損失を抑えるうえで特に重要である。
【0053】
制御部5は、制御信号G1をHレベルに変化させてから所定時間経過後に制御信号G3をLレベルに変化させ、共振用第1スイッチング部21をターンオフさせる。第5ダイオード23の阻止作用により、共振電流Lo(i)はto〜t2の期間の中の共振半波α1の期間にのみ流れる。したがって、共振用第1スイッチング部21のオン期間β1を終了させるタイミングは、時刻t1以降で時刻t2までの間の任意の時点でよい。第1スイッチング部13がオンしている状態では、容量性負荷回路4に印加される直流パルス電圧の電圧レベルはV1に固定される。このとき、電圧源コンデンサ12(又は第1直流電圧源10)から第1スイッチング部13、限流抵抗17、インダクタンス素子30、32、34を経て容量性負荷回路4を通り、グラウンドを経て電圧源コンデンサ12(又は第1直流電圧源10)へと戻る電流経路が形成される。したがって、限流抵抗17に流れる電流Rd(i)は容量性負荷回路4の抵抗41に流れる負荷電流Rp(i)とほぼ等しくなる(図3(g)参照)。この負荷電流Rp(i)は僅かであるので、限流抵抗17に流れる電流Rd(i)も僅かであり、発熱は殆ど問題とならない。
【0054】
そのあと、時刻t2において制御部5は制御信号G1をLレベルに変化させ、制御信号G4をHレベルに変化させる。すると、第1スイッチング部13はターンオフし共振用第2スイッチング部25はターンオンする。これにより、共振用第2直流電圧源29の出力電圧(電圧値:V2)がノードN3に印加され、共振用インダクタンス素子200、出力コンデンサ18、パルス整形部3、容量性負荷回路4を含む共振回路から共振用第2直流電圧源29側へ向かって、つまりは共振用インダクタンス素子200を上記α1期間中とは全く逆方向に共振電流Lo(i)が流れる。この共振電流Lo(i)は、図3(e)に示すように共振の半サイクルであるα2の期間中にのみ流れる。共振電流は第6ダイオード24、共振用第2スイッチング部25を通して、共振用第2直流電圧源29に対応する電圧源コンデンサ27に充電される。
【0055】
α2の期間中に共振電流が流れることにより出力コンデンサ18の充電電圧Co(v)はV3−Lo(v)になる。いま仮にVb=0でV3=V4=(1/2)V1であり、容量性負荷回路4の抵抗41が無視できるとすると、共振半周期の期間α2中に出力コンデンサ18の両端電圧はV1から変化して0まで到達する。但し、上述したように、実際には容量性負荷回路4に含まれる抵抗41での電力消費のために共振エネルギは減少する。そのため、V3=(1/2)V1であるとすると、出力コンデンサ18の充電電圧Co(v)は図3(f)中に破線で示すように変化し、共振半周期の期間α2終了時点でも0まで低下しない。そこで本実施形態の装置では、V3=(1/2)V1とするのではなく、V3を(1/2)V1よりもVbだけ低減することで電力消費による共振エネルギの減少分を補償し、充電電圧Co(v)がほぼ0まで下がるようにしている。
【0056】
制御部5は、電流検出部51により検出される電流Lo(i)の変化に基づいて、α2期間の終了時点であるt3のタイミングを判断する。時刻t3において、出力コンデンサ18の充電電圧Co(v)の電圧値は0付近にまで下がっている筈であり、このときに制御信号G2をHレベルに変化させる。すると、第2スイッチング部15はターンオンし、ノードN1が接地され、該ノードN1の電圧は接地電位になる。
【0057】
このとき、出力コンデンサ18の充電電圧Co(v)の電圧値が0よりも高いと、第2スイッチング部15を通じて、図3(g)中に破線で示すように大きく急峻な充電電流Rd(i)が流れるため、限流抵抗17に大きな電力損失が発生する。また逆に、出力コンデンサ18の充電電圧Co(v)の電圧値が0よりも低いと、限流抵抗17を介し、第2スイッチング部15のボディダイオードを通じて共振回路に短絡電流が流れる。そのため、この場合にも限流抵抗17に電力損失が発生する。こうしたことから、α2の期間終了のタイミングの検出及び適切なVbの設定は、パルス電圧の立ち下がり時に限流抵抗17での電力損失を抑えるうえで特に重要である。
【0058】
制御部5は、制御信号G2をHレベルに変化させてから所定時間経過後に制御信号G4をLレベルに変化させ、共振用第2スイッチング部25をターンオフさせる。第6ダイオード24の阻止作用により、共振電流Lo(i)はt2〜t0の期間の中の共振半波α2の期間にのみ流れる。したがって、共振用第2スイッチング部25のオン期間β2を終了させるタイミングは、時刻t3以降で時刻t0までの間の任意の時点でよい。第2スイッチング部15がオンしている状態では、容量性負荷回路4に印加される直流パルス電圧の電圧レベルは0に固定され、限流抵抗17には殆ど電流が流れない。
【0059】
なお、図1に示した構成では、上述したように共振電流によって電圧源コンデンサ27を充電することで、共振エネルギをコンデンサ27に回生して蓄積する。こうしたエネルギ回生により、共振用第2直流電圧源29から供給する電力を節約することができ、電源の効率を改善することができる。また、図2に示したように、共振用第2直流電圧源29として双方向昇降圧コンバータを使用した構成では、第2スイッチング部25がオンしたときに該スイッチング部25に流れる共振電流によってコンデンサ206が充電されるが、双方向昇降圧コンバータが電圧制御を行うことでコンデンサ206の充電電圧を昇圧しコンデンサ27を充電する。即ち、この場合には、コンデンサ206に蓄積された電圧値V3からの上昇分に相当するエネルギをコンデンサ27に回生して蓄積する。こうしたエネルギ回生により、直流電圧源10Bから供給する電力を節約することができる。
【0060】
なお、負荷抵抗41での共振エネルギの損失を補償するための電圧の増崇分Va及び電圧の減少分Vbの最適値は、抵抗41の値によって変わる。この抵抗41の値はプラズマの生成条件等に依存するし、プラズマの状態にも依存する。そこで、好ましくは、制御部5は、直流パルス電圧の高電圧レベルの電圧値V1と、第1直流電圧源10(10A及び10B)から出力される電流(負荷電流)の平均値と、第1スイッチング部13を駆動する制御信号G1のデューティ比とに基づいて、抵抗41の値を推測し、その推測値に基づいてVa、Vbの値を決め、V2、V3を設定するとよい。電流の平均値は例えばインダクタンス素子19に流れる電流を検出すればよい。また、電圧値V1は実際の検出値を用いてもよいが、第1直流電圧源10における設定値(目標値)でもよい。
【0061】
上述のようにして本実施形態の装置では、限流抵抗17に流れる電流を少なくして無駄な電力損失を抑えることができる。それにより、限流抵抗17での発熱量が減り、小形で安価な抵抗を用いることができる。
【0062】
本実施形態の装置では、ノードN1における直流パルス電圧の立ち上がり及び立ち下がりの速度は共振電流の共振波長に依存するが、共振波長を短くすることで高速化を図ることは共振定数の制約から難しい。それに対し本実施形態の装置では、PFN回路であるパルス整形部3により、直流パルス電圧の立ち上がり及び立ち下がりを改善し、良好な波形形状の直流パルス電圧を容量性負荷回路4に印加している。
【0063】
図2に示した回路構成においてパルス整形部3のパルス整形の効果を確認するための回路シミュレーションの結果を説明する。回路シミュレーションにおける要部の回路定数は次の通りである。
・限流抵抗17の抵抗値:2Ω
・共振用インダクタンス素子200のインダクタンス:2uH
・出力コンデンサ18のキャパシタンス:1200pF
・パルス整形部3の各インダクタンス素子30、32、34のインダクタンス:0.9uH
・パルス整形部3のコンデンサ31のキャパシタンス:800pF(300pF+500pF)
・パルス整形部3のコンデンサ33のキャパシタンス:500pF
・容量性負荷回路4のキャパシタンス:350pF
・容量性負荷回路4の抵抗:500Ω
・直流パルス電圧の生成サイクル:400kHz
【0064】
上記回路定数は或る程度最適化した結果であるものの、必ずしも最良の状態であるとは限らない。図4(a)は、パルス整形部3の出力電圧線路上の出力コンデンサ18の接続点の電位Co(v)、コンデンサ31の接続点の電位Cn+Cf2(v)、コンデンサ33の接続点の電位Cf1(v)、及び、容量性負荷回路4の接続点の電位Rp(v)の変化をシミュレーションした結果である。図4(b)は、共振用インダクタンス素子200に流れる電流Lo(i)、インダクタンス素子30に流れる電流Ln(i)、インダクタンス素子32に流れる電流Lf2(i)、及びインダクタンス素子34に流れる電流Lf1(i)の変化をシミュレーションした結果である。図4から、直流パルス電圧波形の立ち上がり及び立ち下がりの特性が確実に改善されていることが分かる。
このように本実施形態の装置では、容量性負荷回路4に対して立ち上がり及び立ち下がりが急峻である直流パルス電圧を印加することができる。
【0065】
[第1の実施形態の変形例]
上記第1の実施形態の装置において、共振駆動部2において共振用第1スイッチング部21、共振用第2スイッチング部25を含む直列回路の両端に電圧V2、V3を印加するための電源部の構成は様々に変形が可能である。
図9に示す例では、電圧値V1の電圧を生成する第1直流電圧源10の出力電圧を降圧コンバータにより降圧して電圧値V2(=(1/2)V1+Va)の電圧を生成するとともに、同じ出力電圧を双方向昇降圧コンバータにより降圧して電圧値V3(=(1/2)V1−Vb)の電圧を生成している。
また、図10に示す例では、直流電圧源29の電圧値がV4(=(1/2)V1)である出力電圧を昇圧コンバータにより昇圧して電圧値V2(=(1/2)V1+Va)の電圧を生成するとともに、同じ出力電圧を双方向昇降圧コンバータにより降圧して電圧値V3(=(1/2)V1−Vb)の電圧を生成している。
【0066】
このように、共振用第1スイッチング部21、共振用第2スイッチング部25を含む直列回路の両端に上記電圧V2、V3をそれぞれ印加するとともに、共振エネルギを電源側に回生できる構成であれば、直流電圧源、昇圧コンバータ、降圧コンバータ、双方向昇降圧コンバータの組み合わせは適宜に決めることができる。
【0067】
また、上記第1の実施形態の装置では、第1スイッチング部13と第2スイッチング部15との接続点とノードN1との間に限流抵抗17が接続されていたが、この限流抵抗17の挿入位置を変更することも可能である。図11は、限流抵抗17の挿入位置を変更した変形例の概略構成図である。
【0068】
この例では、第1スイッチング部13と第2スイッチング部15との接続点とノードN1とを直結する一方、第2スイッチング部15の一端と接地電位との間に限流抵抗17を挿入している。さらにまた、電力供給用のコンデンサである電圧源コンデンサ12の低電圧側の端子を接地電位ではなく、第2スイッチング部15と限流抵抗17との接続点に接続している。この構成では、第1スイッチング部13がオン状態、第2スイッチング部14がオフ状態であるとき、電圧源コンデンサ12から第1スイッチング部13、インダクタンス素子30、32、34を経て容量性負荷回路4を通り、グラウンドを経て、限流抵抗17を通り電圧源コンデンサ12へと戻る電流経路が形成される。また第1直流電圧源10による電圧源コンデンサ12の充電時には、電圧源コンデンサ12を経て限流抵抗17、グラウンドを通り第1直流電圧源10へと戻る電流経路が形成される。さらにまた、第1スイッチング部13がオフ状態、第2スイッチング部14がオン状態であって、ノードN1の電位(出力コンデンサ18の充電電圧)が0Vより高い場合には、出力コンデンサ18による放電電流が第2スイッチング部14、グラウンドを通り出力コンデンサ18に戻る電流経路が形成される。即ち、図11に示す構成では、上記電流経路はいずれも限流抵抗17を含む。
【0069】
この変形例では、限流抵抗17を低電圧側(接地電位側)に配置しているため、該限流抵抗17の空間的、沿面との間、及び、接地部位との間の容量に配慮する必要がなくなる。そのため、部品や回路の配置や構造上の制約を緩和することができる。また上述したように、第1直流電圧源10から供給されて電圧源コンデンサ12を充電する電流と、電圧源コンデンサ12からの放電により第1スイッチング部13を経てパルス整形部3の入力端に流れ込み、容量性負荷回路4を経て帰還して来る電流とが同時に限流抵抗17に流れることになる。そのため、そうした電流の少なくとも一部は相殺されるので、限流抵抗17に流れる電流を減らして限流抵抗17での電力損失を低減することができるという利点もある。
【0070】
さらに、限流抵抗17を低電圧側に配置した構成をさらに改良した変形例とすることもできる。図12はこの改良を加えた直流パルス電源装置の詳細な構成図である。図13は、図12に示した直流パルス電源装置の要部の動作波形図である。なお、図12では図2と同様に、図11中の直流電圧源10、共振用第1直流電圧源20、共振用第2直流電圧源29などの構成をより具体的に記載してあり、その一部の構成は図2に記載のものとも相違するものの、これらについての基本的な動作は既に述べたものと同じであるので説明を省略する。
【0071】
一般に、ダイオードの特性として、順方向に通電を行っている状態から急に逆バイアス電圧を印加したときに、蓄積電荷によりリカバリ電流が生じ、通常状態に戻るまでにリカバリ期間が必要であることがよく知られている。この現象が生じることは、図11図12等の記載の共振駆動部2における逆方向阻止用ダイオード23、24でも同様である。図13(e)に示すように、時刻t0から共振電流の半波が終了した時刻t1において共振用インダクタンス素子200の両端に印加される電圧の極性が反転すると、ダイオード23により逆方向への電流が阻止されて 共振電流Lo(i)は本来0になる筈である。しかしながら、実際には、ダイオード23には逆方向にリカバリ電流が流れてしまう。また、t3時点においては同様にダイオード24によるリカバリ電流が流れる。リカバリ電流の大きさはダイオードの特性に依存するが、ダイオードの選定のみでその発生を抑えることは難しい。
【0072】
図11に示した構成の場合、このリカバリ電流によって共振用インダクタンス素子200に発生するエネルギのために、リカバリ期間経過後に逆回復したダイオード23、24と相補的にオフ動作しているスイッチング部21、25とに高電圧サージが加わる可能性がある。即ち、時刻t1ではダイオード23及びスイッチング部25に、時刻t3ではダイオード24及びスイッチング部21に高電圧サージが印加される可能性がある。これは高電圧サージ吸収用のスナバ回路を設けることで回避することができるものの、スナバ回路の損失による電源効率の低下、回路設置スペース確保のため機器の大型化等の問題が生じる。
【0073】
これに対し、図12に示した装置では、スイッチング部15と限流抵抗17との接続点から、スイッチング部21とダイオード23との接続点への間、及び、スイッチング部25とダイオード24との接続点から、スイッチング部13の高電圧側端部への間に、それぞれ順方向接続のダイオード220、221をフリーホイールダイオードとして設けている。これらフリーホイールダイオードは、上述したように共振用インダクタンス素子200の両端に印加される電圧の極性が反転したときに、その共振用インダクタンス素子200にその反転の直後と同じ方向に電流を流し続けるようにするためのものである。
【0074】
即ち、時刻t0でスイッチング部21がターンオンすると、コンデンサ202→スイッチング部21→ダイオード23→共振用インダクタンス素子200→ノードN1→グラウンド、の経路で、時刻t1まで半波の共振電流が流れる。時刻t1においてダイオード23にリカバリ電流が逆方向に流れたあと該ダイオード23が逆回復すると、リカバリ電流は共振用インダクタンス素子200→ダイオード24→ダイオード221→スイッチング部13を通して共振用インダクタンス素子200に還流する。同時に、電圧源コンデンサ12→スイッチング部13→ノードN1→負荷抵抗41→グラウンド→限流抵抗17の経路でプラズマ負荷電流が流れる。
【0075】
時刻t2でスイッチング部13がターンオフしスイッチング部25がターンオンすると、ノードN1→共振用インダクタンス素子200→ダイオード24→スイッチング部25→コンデンサ206→グラウンドの経路で時刻t3まで半波の共振電流が流れる。時刻t3においてダイオード24にリカバリ電流が逆方向に流れたあと該ダイオード24が逆回復すると、リカバリ電流は共振用インダクタンス素子200→スイッチング部14→ダイオード220→ダイオード23を通して共振用インダクタンス素子200に還流する。同時に、ノードN1→スイッチング部15→限流抵抗17→グラウンドの経路でノードN1は接地電位に固定される。このように、共振用インダクタンス素子200の電流は流れ続け、高電圧サージが発生することはない。また、時刻t1及びt3においてターンオンするスイッチング部13、15のオン動作が制御上の都合により遅れ、過渡的に共振電流が流れる経路が開ループとなった場合であっても、時刻t1ではスイッチング部15の寄生ダイオード、時刻t3ではスイッチング部13の寄生ダイオードを介し高電圧サージのエネルギは電圧源コンデンサ12にクランプされる。そのため、高電圧サージは発生しない。
【0076】
なお、上記のようなフリーホイールダイオードの付加によってリカバリ電流に起因する高電圧サージを回避するのは、限流抵抗17を図11図12に示したような低電圧側に挿入する構成が好ましい。例えば図1図2に示した構成のように、限流抵抗17を2つのスイッチング部13、15の接続点とノードN1との間に挿入した場合、上述したフリーホイールダイオードを経た環流の電流経路に限流抵抗17が含まれてしまう。即ち、フリーホイール電流が限流抵抗に流れることになり大きな電力損失が生じるので、この場合にはフリーホイールダイオードの使用はあまり適切ではない。
【0077】
[第2の実施形態]
上記第1の実施形態の装置は、容量性負荷回路4に電圧レベルが0とV1(例えば1500V)の二つである直流パルス電圧を印加するものであるが、0Vを含まない二つの電圧レベルの直流パルス電圧を生成する構成に変更することが可能である。図5は、可変2電圧レベルの直流パルス電圧を生成する、第2の実施形態の直流パルス電源装置の概略構成図である。
【0078】
この装置では、基本電圧生成部1における第2スイッチング部15と接地端との間に、第2直流電圧源100を挿入している。例えば、第1直流電圧源10の出力電圧の電圧値V1は1500V、第2直流電圧源100の出力電圧の電圧値V5は400Vである。この場合、共振駆動部2における直列回路の両端に印加される電圧の電圧値V2、V3は、{(1500−400)/2}+400=950Vを中心として、V2=950+Va、V3=950−Vbとすればよい。装置の動作は第1の実施形態の装置と同様であり、図6に示すように、パルス底部の電圧が400V、パルス頂部の電圧が1500Vである矩形波の直流パルス電圧を容量性負荷回路4に印加することができる。
【0079】
[第3の実施形態]
上記第1、第2の実施形態の装置は、電圧レベルが二つである直流パルス電圧を生成するものであるが、さらに多段の、例えば三つの電圧レベルの直流パルス電圧を生成する構成に変更することも可能である。図7は、可変3電圧レベルの直流パルス電圧を生成する、第3の実施形態の直流パルス電源装置の概略構成図である。
【0080】
この装置では、基本電圧生成部1において、第1スイッチング部13と限流抵抗17との接続点と、接地端との間に、スイッチング部と直流電圧源とを直列に接続した直列回路が二つ並列に接続されている。三つの直流電圧源10、101、103の出力電圧の電圧値は全て異なり、例えば第1直流電圧源10の出力電圧の電圧値V1は1500V、第2直流電圧源101の出力電圧の電圧値V5は800V、第3直流電圧源103の出力電圧の電圧値V6は400Vである。また、電圧レベルの数が増加し電圧変化のパターンが増えるのに合わせて共振駆動部2における共振電流の経路(二つのスイッチング部と二つのダイオードの直列回路)を二つ並列に設けている。
【0081】
この場合、共振駆動部2における二つの直列回路の両端に印加される電圧の電圧値V7、V8、V9、V10は、
V7=(1/2)(V1+V6)+Va
V8=V1−{(1/2)(V1−V5)+Vb}=(1/2)(V1+V5)−Vb
V9={(1/2)(V5+V6)}+Va
V10=V1−{(1/2)(V5−V6)+Vb}
であり、V7=950+Va、V8=1150−Vb、V9=600+Va、V10=1300−Vb、とすればよい。
【0082】
上記第1、第2の実施形態の装置における動作を拡張し、各スイッチング部のオン・オフ動作を適宜に制御することで、例えば図8に示すような、パルス底部の電圧が400V、パルス頂部の電圧が1500V、パルス中間部の電圧が800Vである、多段レベルの直流パルス電圧を容量性負荷回路4に印加することができる。もちろん、各スイッチング部のオン・オフ動作の制御を変更することで、電圧レベルの変化の順番を、例えば400V→800V→1500V→400V等と変えることもできる。
【0083】
もちろん、制御は複雑になるものの、電圧レベルの数をさらに増やした直流パルス電圧を生成する構成とすることもできる。
【0084】
なお、上記各実施形態及び変形例は本発明の一例であり、本発明の趣旨の範囲で適宜修正、変更、追加を行っても本願特許請求の範囲に包含されることは明らかである。
【符号の説明】
【0085】
1…基本電圧生成部
10、10A、10B、100、101、103、20、29…直流電圧源
11、14、16、204、208、22、23、24、26、28、220、221…ダイオード
12、18、27、202、206、31、33…コンデンサ
13、15、21、25、203、207…スイッチング部
17…限流抵抗
19、200、211、212、30、32、34…インダクタンス素子
2…共振駆動部
3…パルス整形部
4…容量性負荷回路
40…キャパシタ
41…抵抗
5…制御部
51…電流検出部
図1
図2
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