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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-133384(P2021-133384A)
(43)【公開日】2021年9月13日
(54)【発明の名称】溶接装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/10 20060101AFI20210816BHJP
【FI】
   B23K9/10 B
   B23K9/10 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2020-29951(P2020-29951)
(22)【出願日】2020年2月26日
(71)【出願人】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(72)【発明者】
【氏名】永山 伸一朗
(72)【発明者】
【氏名】永見 一敏
(72)【発明者】
【氏名】田中 和裕
【テーマコード(参考)】
4E082
【Fターム(参考)】
4E082AA11
4E082BA02
4E082CA02
4E082EA04
4E082EC20
4E082EF04
4E082GA02
(57)【要約】      (修正有)
【課題】放置された溶接ホルダーに作業者が誤って接触し、溶接棒と母材が接触しても、無負荷電圧が溶接棒に印加されず、感電の危険のない溶接装置を提供する。
【解決手段】交流アーク溶接機PSと、休止中に前記交流アーク溶接機PSの出力を安全電圧に低減する電撃防止装置ESと、前記交流アーク溶接機PSから溶接棒2に給電する溶接ホルダー1と、前記溶接ホルダー1が握られている握力を検出するセンサGRと、前記センサGRの検出値Prが所定値以上であることを判定する握力判定機4と、閉路することにより前記交流アーク溶接機PSの出力を前記溶接ホルダー1に出力するか、開路することにより前記交流アーク溶接機PSの出力を前記溶接ホルダー1に出力しないかを切り替える開閉部5を備えており、前記握力判定機4は、前記センサGRの検出値Prが第一の所定値を超えた場合、前記開閉部5を閉路する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流アーク溶接機と、
休止中に前記交流アーク溶接機の出力を安全電圧に低減する電撃防止装置と、
前記交流アーク溶接機から溶接棒に給電する溶接ホルダーと、
前記溶接ホルダーが握られている握力を検出するセンサと、
前記センサの検出値が所定値以上であることを判定する握力判定機と、
閉路することにより前記交流アーク溶接機の出力を前記溶接ホルダーに出力するか、開路することにより前記交流アーク溶接機の出力を前記溶接ホルダーに出力しないかを切り替える開閉部を備えており、
前記握力判定機は、前記センサの検出値が第一の所定値を超えた場合、前記開閉部を閉路すること、
を特徴とする溶接装置。
【請求項2】
前記握力判定機は、前記センサの検出値が前記第一の所定値より大きい第二の所定値を超えた場合、前記開閉部を開路し、開路した状態を保持し続けること、
を特徴とする請求項1に記載の溶接装置。
【請求項3】
前記センサの検出値を前記握力判定機に無線送信する送信機と、
前記送信機から送信されてくる前記センサの検出値を受信する受信機を備えており、
前記握力判定機は、前記受信機からの信号により前記開閉部を開閉すること、
を特徴とする請求項1及び2に記載の溶接装置。
【請求項4】
前記溶接ホルダーは、溶接電流により発生する磁界によって振動する磁性体を動力源として発電を行う磁界発電機を備えており、
前記センサ及び前記送信機は、前記磁界発電機から電力の供給を受けること、
を特徴とする請求項3に記載の溶接装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、交流アーク溶接機と電撃防止装置を組み合わせて使用する溶接装置の感電防止に関するものである。
【背景技術】
【0002】
交流アーク溶接機では無負荷電圧が高いため、溶接作業休止中は出力電圧を所定の低電圧(以下、安全電圧と言う)に抑制する電撃防止装置を設け、作業者が溶接棒に触っても感電しないようにしている。しかし、溶接休止中であっても誤って溶接棒が母材に接触した場合には、電撃防止装置は溶接が開始されたと判断し、溶接棒に無負荷電圧を印加するため、作業者が感電してしまう恐れがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3886812号公報
【特許文献2】特開2019−022366号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、溶接作業者が溶接棒の交換時、誤って溶接棒を母材に接触させ、溶接棒に無負荷電圧が印加されるのを防止するため、所定時間内に所定回数以上溶接棒が母材に接触した場合のみ、無負荷電圧を溶接棒に印加する発明がなされている。
【0005】
しかし、溶接現場では、溶接ホルダーに溶接棒を取り付けたまま母材上に放置されることがある。その場合、放置された溶接ホルダーに作業者が誤って接触し、所定時間内に所定回数以上の溶接棒と母材の接触が発生した場合は、無負荷電圧が印加された溶接棒に作業者が触れて感電する課題がある。
【0006】
本発明は、放置された溶接ホルダーに作業者が誤って接触し、溶接棒と母材が接触しても、無負荷電圧が溶接棒に印加されず、感電の危険のない溶接装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決するために、請求項1の発明は、
交流アーク溶接機と、
休止中に前記交流アーク溶接機の出力を安全電圧に低減する電撃防止装置と、
前記交流アーク溶接機から溶接棒に給電する溶接ホルダーと、
前記溶接ホルダーが握られている握力を検出するセンサと、
前記センサの検出値が所定値以上であることを判定する握力判定機と、
閉路することにより前記交流アーク溶接機の出力を前記溶接ホルダーに出力するか、開路することにより前記交流アーク溶接機の出力を前記溶接ホルダーに出力しないかを切り替える開閉部を備えており、
前記握力判定機は、前記センサの検出値が第一の所定値を超えた場合、前記開閉部を閉路すること、
を特徴とする溶接装置である。
【0008】
請求項2の発明は、
前記握力判定機は、前記センサの検出値が前記第一の所定値より大きい第二の所定値を超えた場合、前記開閉部を開路し、開路した状態を保持し続けること、
を特徴とする請求項1に記載の溶接装置である。
【0009】
請求項3の発明は、
前記センサの検出値を前記握力判定機に無線送信する送信機と、
前記送信機から送信されてくる前記センサの検出値を受信する受信機を備えており、
前記握力判定機は、前記受信機からの信号により前記開閉部を開閉すること、
を特徴とする請求項1及び2に記載の溶接装置である。
【0010】
請求項4の発明は、
前記溶接ホルダーは、溶接電流により発生する磁界によって振動する磁性体を動力源として発電を行う磁界発電機を備えており、
前記センサ及び前記送信機は、前記磁界発電機から電力の供給を受けること、
を特徴とする請求項3に記載の溶接装置である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、作業者が溶接ホルダーを握っていない場合は、開閉部が開路して交流アーク溶接機の入力端子U−V間に交流電源が印加されないため、母材上に放置された溶接ホルダーに取り付けられた溶接棒が母材に接触しても、溶接棒に無負荷電圧が印加されず、作業者が感電する恐れがない。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施の形態1に係る溶接装置の接続図及び各機能のブロック図である。
図2】本発明の実施の形態1における溶接開始時のタイミングチャートである。
図3】本発明の実施の形態1における溶接作業していない時に誤って溶接棒が母材に接触した時のタイミングチャートである。
図4】本発明の実施の形態1における遅動時間中に作業者が溶接棒に触った時のタイミングチャートである。
図5】本発明の実施の形態2に係る溶接装置の接続図及び各機能のブロック図である。
図6】本発明の実施の形態3に係る溶接装置の接続図及び各機能のブロック図である。
図7】本発明の実施の形態4に係る交流アーク溶接機の二次側を開閉する方式の電撃防止装置に本発明を適用した場合の溶接装置の接続図及び各機能のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0014】
〔実施の形態1〕
図1は、本発明の実施の形態1に係る溶接装置の接続図及び各機能のブロック図である。以下、同図を参照して各ブロックについて説明する。交流アーク溶接機PSは、被覆アーク溶接を行う溶接電源である。電撃防止装置ESは、交流アーク溶接機PSと組み合わせて使用され、溶接休止中は溶接ホルダー1及び溶接棒2に印加される電圧を安全電圧のAC25Vに低減するための装置である。
【0015】
交流電源ACは、単相の交流電源で50Hz又は60Hzの商用周波数であり、例えばAC200Vの交流電源が使用される。スイッチSWを閉路することにより、溶接装置に交流電源ACが印加される。
【0016】
溶接ホルダー1は、変流器CTを介して、交流アーク溶接機PSの出力端子vに接続されている。溶接ホルダー1は、溶接棒2を保持して被覆アーク溶接を行うためのものである。母材3は、母材ケーブル6を介して、交流アーク溶接機PSの出力端子uに接続されている。
【0017】
溶接ホルダー1の握り部には、溶接作業者が溶接ホルダー1の握り部を握っている力(以下、握力と言う)を検出するセンサGRが内蔵されており、握力に応じた握力信号Prを握力判定機4に出力する。ケーブル7は、センサGRと握力判定機4を接続するケーブルであり、握力判定機4からセンサGRに制御電源Vcを供給し、センサGRから握力判定機4へは、握力信号Prを伝達する。
【0018】
握力判定機4は、センサGRから伝達された握力信号Prに応じて次の処理を行い、開閉部5を開閉する開閉信号Stを開閉部5に出力する。
1)握力信号Prが第一の所定値未満の場合は、開閉信号StとしてLow(開路)を出力する。
2)握力信号Prが第一の所定値以上の場合は、開閉信号StとしてHigh(閉路)を出力する。
3)握力信号Prが第一の所定値より大きい第二の所定値を超えた場合は、開閉信号StをLow(開路)にし、Low(開路)の状態を保持する。
【0019】
開閉部5は、電磁接触器のような開閉できる部品であり、握力判定機4からの開閉信号Stにより、次のとおり開路又は閉路する。
1)開閉信号StがLow(開路)の時、開路する。
2)開閉信号StがHigh(閉路)の時、閉路する。
【0020】
電撃防止装置ESは、以下の動作を行う。
1)溶接休止中は主接点MS1aが開路し、交流アーク溶接機PSの入力端子U−V間に交流電源ACを印加せず、交流アーク溶接機PSの出力端子u−v間に無負荷電圧が出力されないようにする。その代り、補助接点MS1bが閉路しており、補助変圧器TRの二次巻線電圧Vsを出力端子u−v間に印加し、交流アーク溶接機PSの出力端子u−v間の電圧は、安全電圧のAC25Vに低減されている。
2)溶接作業を開始するため、溶接棒2の先端を母材3に接触させると、補助変圧器TRの二次巻線から補助接点MS1b、出力端子v、変流器CT、溶接ホルダー1、溶接棒2、母材3及び出力端子uを介して溶接電流Iwが流れる。この溶接電流Iwを変流器CTが検出し、電撃防止装置ESは主接点MS1aを閉路に切り替え、補助接点MS1bを開路に切り替える。すると、交流アーク溶接機PSの入力端子U−V間に交流電源ACが印加され、交流アーク溶接機PSの出力端子u−v間に無負荷電圧が出力され、溶接作業が開始される。
3)溶接中は、溶接電流Iwを変流器CTが検出することにより、電撃防止装置ESは、主接点MS1aが閉路、補助接点MS1bが開路の状態を保持する。
4)溶接終了時は、溶接棒2の先端を母材3から引き離すように溶接ホルダー1を持ち上げることで、溶接棒2と母材3間に発生していたアークは消弧し、溶接電流Iwも零になる。そのため、変流器CTの出力も零となり、電撃防止装置ESは、主接点MS1aを閉路から開路、補助接点MS1bを開路から閉路に切り替えようとするが、切り替えまでに1秒程度の遅れ時間を持たせている。溶接終了時のこの遅れ時間の間、交流アーク溶接機PSの出力端子u−v間に無負荷電圧を印加することにより、アークの再発生を容易にし、作業性を向上させる、いわゆる遅動時間Tdを持たせている。この遅動時間Td後、電撃防止装置ESは、主接点MS1aを閉路から開路、補助接点MS1bを開路から閉路に切り替え、溶接休止中の状態に戻る。
【0021】
「実施の形態1」
図2は、本発明の実施の形態1における溶接開始時の動作を示すタイミングチャートである。同図(a)はセンサGRの握力信号Prを示し、同図(b)は握力判定機4からの開閉信号Stを示し、同図(c)は開閉部5の開閉状態を示し、同図(d)は溶接棒2と母材3間の電圧Vwを示し、同図(e)は溶接電流Iwを示し、同図(f)は電撃防止装置ESの主接点MS1aの開閉状態を示し、同図(g)は電撃防止装置ESの補助接点MS1bの開閉状態を示す。以下、同図を参照して溶接開始時の動作を説明する。
【0022】
〔時刻t0〜t4の溶接開開始時の動作〕
t0〜t1:時刻t0からt1の間は、溶接ホルダー1は母材3上又は所定の場所に置かれて放置されている状態であるため、同図(a)に示すとおりセンサGRの握力信号Prは零である。握力判定機4は握力信号Prが第一の所定値未満であると判定し、同図(b)に示すとおり開閉信号StをLow(開路)とし、開閉部5は開路した状態である。そのため、交流アーク溶接機PSの入力端子U−V間に交流電源ACが印加されず、交流アーク溶接機PSの出力端子u−v間には、電撃防止装置ESの補助変圧器TRから二次巻線電圧Vsが印加され、同図(d)示すとおり溶接棒2と母材3間の電圧VwはAC25Vである。
【0023】
t1:時刻t1において、溶接作業者が溶接を開始するため溶接ホルダー1を握って、溶接棒2の先端を溶接開始場所に移動させる。そのため、同図(a)に示すとおりセンサGRの握力信号Prは第一の所定値以上になり、同図(b)に示すとおり開閉信号StもLow(開路)からHigh(閉路)に切り替わる。ここで、第一の所定値とは、パワーケーブルを含めた溶接ホルダー1及び溶接棒2の重量の合計を保持できる程度の握力でよく、1kgf程度に設定される。開閉信号StがHigh(閉路)に切り替わったため、開閉部5も開路から閉路に切り替わる。しかし、まだ溶接棒2の先端は母材3に接触しておらず、休止中の状態であるので、同図(f)に示すとおり電撃防止装置ESの主接点MS1aは開路したまであり、交流アーク溶接機PSの入力端子U−V間に交流電源ACが印加されることはなく、同図(d)示すとおり溶接棒2と母材3間の電圧VwはAC25Vのままである。
【0024】
t2〜t3:時刻t2において、溶接作業者が溶接を開始するため溶接棒2の先端を母材3に接触させる。すると、補助変圧器TRの二次巻線から補助接点MS1b、出力端子v、変流器CT、溶接ホルダー1、溶接棒2、母材3及び出力端子uを介して、同図(e)に示すとおり溶接電流Iwが流れる。この溶接電流Iwを変流器CTが検出し、電撃防止装置ESは、主接点MS1aを開路から閉路に切り替え、補助接点MS1bを閉路から開路に切り替えようとする。実際には時刻t3において、同図(f)に示すとおり主接点MS1aは開路から閉路、同図(g)に示すとおり補助接点MS1bは閉路から開路に切り替わる。開閉部5及び主接点MS1aが共に閉路したため、交流アーク溶接機PSの入力端子U−V間に交流電源ACが印加され、交流アーク溶接機PSの入力端子u−v間には無負荷電圧が出力され、同図(e)に示すとおり溶接棒2に大きな短絡電流である溶接電流Iwが流れる。
【0025】
t4:時刻t4において、溶接棒2に流れる大きな短絡電流により溶接棒2の先端が溶融し、溶接棒2と母材3の間にアークが発生し、溶接が開始される。
【0026】
図3は、本発明の実施の形態1における溶接作業していない時に誤って溶接棒2が母材3に接触し、電撃防止装置ESが始動した時のタイミングチャートである。同図(a)はセンサGRの握力信号Prを示し、同図(b)は握力判定機4からの開閉信号Stを示し、同図(c)は開閉部5の開閉状態を示し、同図(d)は溶接棒2と母材3間の電圧Vwを示し、同図(e)は溶接電流Iwを示し、同図(f)は電撃防止装置ESの主接点MS1aの開閉状態を示し、同図(g)は電撃防止装置ESの補助接点MS1bの開閉状態を示す。以下、同図を参照して休止中に誤って溶接棒2が母材3に接触した時の動作を説明する。
【0027】
〔時刻t0〜t30の溶接作業していない時に溶接棒が母材に接触した時の動作〕
t0〜t10:時刻t0からt10の間は、溶接作業しておらず溶接ホルダー1は母材3上に置かれて放置されている状態であるため、同図(a)に示すとおりセンサGRの握力信号Prは零である。握力判定機4は握力信号Prが第一の所定未満であると判定し、同図(b)に示すとおり握力判定機4からの開閉信号StもLow(開路)であり、同図(c)に示すとおり開閉部5は開路した状態である。そのため、交流アーク溶接機PSの入力端子U−V間に交流電源ACが印加されず、交流アーク溶接機PSの出力端子u−v間に電撃防止装置ESの補助変圧器TRの二次巻線電圧Vsが印加されているため、同図(d)示すとおり溶接棒2と母材3間の電圧VwはAC25Vである。
【0028】
t10〜t20:時刻t10において、母材3上に放置された溶接ホルダー1に作業者が誤って接触し、溶接棒2が母材3に一瞬接触した時点である。すると、補助変圧器TRの二次巻線から補助接点MS1b、出力端子v、変流器CT、溶接ホルダー1、溶接棒2、母材3及び出力端子uを介して、同図(e)に示すとおり溶接電流Iwが流れる。この溶接電流Iwを変流器CTが検出し、主接点MS1aを開路から閉路に切り替え、補助接点MS1bを閉路から開路に切り替えようとする。実際には時刻t20において、同図(f)に示すとおり主接点MS1aは開路から閉路に、同図(g)に示すとおり補助接点MS1bを閉路から開路に切り替わる。しかし、溶接ホルダー1は、母材3上に放置されたままであるので、同図(a)に示すとおりセンサGRの握力信号Prは零であり、同図(b)に示すとおり開閉信号StもLow(開路)のままである。したがって、同図(c)に示すとおり開閉部5は開路のままであるので、交流アーク溶接機PSの入力端子U−V間に交流電源ACが印加されることはなく、交流アーク溶接機PSの出力端子u−v間に無負荷電圧が出力されることはない。時刻t20において、電撃防止装置ESの補助接点MS1bが開路に切り替ったため、出力端子u−v間に印加されていた補助変圧器TRの二次巻線電圧Vsも遮断され、同図(d)示すとおり溶接棒2と母材3間の電圧Vwは零となり、同図(e)に示すとおり出力端子vから溶接棒2に流れていた溶接電流Iwも零になる。
【0029】
t30:電撃防止装置ESが始動した時刻t20から遅動時間Tdが経過した時点t30において、電撃防止装置ESは休止に戻るため、同図(f)に示すとおり電撃防止装置ESの主接点MS1aは、閉路から開路に切り替わる。また、補助接点MS1bは、同図(g)に示すとおり開路から閉路に切り替わり、同図(d)に示すとおり溶接棒2と母材3間の電圧Vwは安全電圧のAC25Vとなる。
【0030】
本発明の実施の形態1においては、母材3上放置された溶接ホルダー1の接触により、誤って溶接棒2が母材3に接触しても、溶接ホルダー1を作業者が握っていないため、開閉部5が閉路することはなく、溶接棒2に交流アーク溶接機PSの無負荷電圧が印加されることはないため、作業者が感電する恐れはない。
【0031】
図4は、本発明の実施の形態1における遅動時間Tdの期間中に作業者が溶接棒2に触った時のタイミングチャートである。同図(a)はセンサGRの握力信号Prを示し、同図(b)は握力判定機4からの開閉信号Stを示し、同図(c)は開閉部5の開閉状態を示し、同図(d)は溶接棒2と母材3間の電圧Vwを示し、同図(e)は溶接電流Iwを示し、同図(f)は電撃防止装置ESの主接点MS1aの開閉状態を示し、同図(g)は電撃防止装置ESの補助接点MS1bの開閉状態を示す。以下、同図を参照して遅動時間Tdの期間中に作業者が溶接棒2に触った時の動作を説明する。
【0032】
〔時刻t0〜t300の遅動時間中に作業者が溶接棒に触った時の動作〕
t0:時刻t0において、溶接作業者は溶接ホルダー1を引き上げ、溶接棒2の先端に発生していたアークを消弧するため、同図(e)に示すとおり溶接電流Iwは零になり、同図(d)に示すとおり溶接棒2と母材3間の電圧Vwは、交流アーク溶接機PSの無負荷電圧AC80Vが出力される。
【0033】
t100:時刻t100において、誤って溶接棒2が溶接作業者に接触し、溶接作業者にAC80Vがかかってしまう。驚いた溶接作業者は、溶接ホルダー1を力強く握ってしまうため、同図(a)に示すとおり握力信号Prは、第二の所定値を超えた値となる。第二の所定値とは、第一の所定値1kgfより大きく、驚いた時に人間が物を掴む力であり20kgf程度に設定される。握力判定機4は、握力信号Prが第二の所定値を超えたため、同図(b)に示すとおり開閉信号StをHigh(閉路)からLow(開路)に切り替え、同図(c)に示すとおり開閉部5も閉路から開路に切り替わる。開閉部5が開路したため、交流アーク溶接機PSの入力端子U−V間に印加されていた交流電源ACが遮断され、交流アーク溶接機PSの出力端子u−v間の電圧は零となり、同図(d)に示すとおり溶接棒2と母材3間の電圧Vwも零になる。なお、握力信号Prが第二の所定の値を超えたため、時刻t100以降も握力判定機4は開閉信号StをLow(開路)に維持し、開閉部5は開路の状態を維持するため、同図(d)に示すとおり溶接棒2と母材3間の電圧Vwも零を維持する。
【0034】
t200:溶接棒2と母材3間の電圧Vwが零になったため、時刻t200において、感電から解放された溶接作業者は、溶接ホルダー1から手を放し、同図(a)に示すとおり握力信号Prは、零になる。
【0035】
t300:時刻t0にてアークを消弧した時点から遅動時間Tdが経過した時刻t300にておいて、電撃防止装置ESは同図(f)に示すとおり主接点MS1aを閉路から開路に切り替え、同図(g)に示すとおり補助接点MS1bを開路から閉路に切り替え、溶接休止状態にもどる。そのため、同図(c)に示すとおり溶接棒2と母材3間の電圧Vwは安全電圧AC25Vが印加され、感電の恐れのない状態にもどる。
【0036】
本発明の実施の形態1においては、溶接作業者が溶接作業中、溶接棒に接触した場合でも、ただちに溶接棒2と母材3間の電圧Vwを零にして、感電状態から解放することができ、その後も感電の恐れのない零ボルト又は安全電圧に保つことができる。
【0037】
「実施の形態2」
図5に示す本発明の実施の形態2においては、溶接ホルダー1にセンサGRが検出した握力信号Prを送信する送信機8及びセンサGRと送信機8に制御電源Vcを供給するためのバッテリーBATを内蔵している。また、送信機8の送信した握力信号Prを受信する受信機9を備えており、握力判定機4は受信機9の受信した握力信号Prにより、本発明の実施の形態1と同様に開閉部5の開閉制御を行う。動作は、実施の形態1に同じであるので、その動作についての説明は省略する。
【0038】
本発明の実施の形態2においては、溶接ホルダー1と握力判定機4を接続するケーブル7を不要にすることができるので、交流アーク溶接機PSの設置場所から遠く離れて溶接作業をする場合、ケーブル7の断線や運搬を気にすることなく溶接作業を行うことができる長所がある。
【0039】
「実施の形態3」
特許文献2では、交流が流れる導線の周囲に形成される交流磁場によって永久磁石が振動し、その振動によって圧電部材に電圧を発生させる磁界発電装置の発明がなされている。本発明の実施の形態3においては、本発明の実施の形態2に加えて溶接ホルダー1にこの磁界発電機10を組み込んだものである。
【0040】
図6に示す本発明の実施の形態3においては、溶接ホルダー1にセンサGRの検出した握力信号Prを送信する送信機8及びセンサGRと送信機8に制御電源Vcを供給するためのバッテリーBAT及び磁界発電機10を内蔵している。また、送信機8の送信した握力信号Prを受信する受信機9を備えており、握力判定機4は受信機9の受信した握力信号Prにより、本発明の実施の形態1と同様に開閉部5の開閉制御を行う。動作は、実施の形態1に同じであるので、追加されているバッテリーBAT及び磁界発電機10についてのみ動作を説明する。
【0041】
溶接ホルダー1に溶接電流Iwが流れていない溶接休止中は、磁界発電機10の発電量は零であるため、センサGR及び送信機8にはバッテリーBAT及びダイオード12を介して制御電源Vcが供給されている。溶接が開始され溶接ホルダー1に溶接電流Iwが流れると、磁界発電機10が発電を行うため、磁界発電機10の発電電圧はダイオード11を介してセンサGR及び送信機8に供給される。ダイオード11及び12の絶対値回路により、バッテリーBATの電圧又は磁界発電機10の発電電圧の高い電圧の方が優先されてセンサGR及び送信機8に供給される回路構成になっており、磁界発電機10の発電電圧をバッテリーBATの電圧よりも高く設定しておくことにより、溶接ホルダー1に溶接電流Iwが流れている期間、バッテリーBATの消費を抑制することができる。
【0042】
本発明の実施の形態3においては、バッテリーBAT交換の頻度を低減でき、保守性を向上することができる。
【0043】
「実施の形態4」
実施の形態1から3では、交流アーク溶接機PSの一次側を開閉する方式の電撃防止装置ESについて説明を行ってきたが、図7に示すとおり交流アーク溶接機PSの二次側を開閉する方式の電撃防止装置ESでも適用可能である。図7の実施の形態4における溶接作業していない時に誤って溶接棒が母材に接触した時の説明を行う。なお、動作は実施の形態1と同じであり、実施の形態1と同じ図3のタイミングチャートを用いて動作を説明する。
〔時刻t0〜t30の溶接作業していない時に溶接棒が母材に接触した時の動作〕
t0〜t10:時刻t0からt10の間は、溶接ホルダー1は母材3上に置かれて放置されている状態であるため、同図(a)に示すとおりセンサGRの握力信号Prは零である。握力判定機4は握力信号Prが第一の所定値未満であると判定し、同図(b)に示すとおり握力判定機4からの開閉信号StもLow(開路)であり、同図(c)に示すとおり開閉部5は開路した状態である。そのため、交流アーク溶接機PSの出力端子u−v間の無負荷電圧は溶接棒2と母材3間に印加されず、電撃防止装置ESの補助変圧器TRの二次巻線電圧Vsが溶接棒2と母材3間に印加されているため、同図(d)示すとおり溶接棒2と母材3間の電圧VwはAC25Vである。
【0044】
t10〜t20:時刻t10において、母材3上に放置された溶接ホルダー1に作業者が誤って接触し、溶接棒2が母材3に一瞬接触した時点である。すると、補助変圧器TRの二次巻線から補助接点MS1b、変流器CT、溶接ホルダー1、溶接棒2及び母材3を介して、同図(e)に示すとおり溶接電流Iwが流れる。この溶接電流Iwを変流器CTが検出し、主接点MS1aを開路から閉路に切り替え、補助接点MS1bを閉路から開路に切り替えようとする。実際には時刻t20において、同図(f)に示すとおり主接点MS1aは開路から閉路に、同図(g)に示すとおり補助接点MS1bを閉路から開路に切り替わる。しかし、溶接ホルダー1は、母材3上に放置されたままであるので、同図(a)に示すとおりセンサGRの握力信号Prは零であり、同図(b)に示すとおり開閉信号StもLow(開路)のままである。したがって、同図(c)に示すとおり開閉部5は開路のままであるので、同図(d)に示すとおり溶接棒2と母材3間の電圧Vwは零となる。また、電撃防止装置ESの補助接点MS1bが開路に切り替わるため、同図(e)に示すとおり溶接棒2に流れていた溶接電流Iwも零になる。
【0045】
t30:電撃防止装置ESが始動した時刻t20から遅動時間Tdが経過した時点t30において、電撃防止装置ESは休止に戻るため、同図(f)に示すとおり電撃防止装置ESの主接点MS1aは、閉路から開路に切り替わる。また、補助接点MS1bは、同図(g)に示すとおり開路から閉路に切り替わり、同図(d)に示すとおり溶接棒2と母材3間の電圧Vwは安全電圧のAC25Vとなる。
【符号の説明】
【0046】
1 溶接ホルダー
2 溶接棒
3 母材
4 握力判定機
5 開閉部
6 母材ケーブル
7 ケーブル
8 送信機
9 受信機
10 磁界発電機
11、12 ダイオード
AC 交流電源
BAT バッテリー
CT 変流器
ES 電撃防止装置
GR センサ
TR 補助変圧器
MS1a 主接点
MS1b 補助接点
Iw 溶接電流
Vw 溶接棒と母材間電圧
Vs 補助変圧器の二次巻線電圧
Vc 制御電源
PS 交流アーク溶接機
Pr 握力信号
U,V 入力端子
u,v 出力端子
SW スイッチ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7