【課題】 ハイサイクル成形時においても射出ノズルからの洟垂れ現象を防止することができ、かつ熱安定性の悪い樹脂を適切に可塑化し成形することが可能な射出装置および射出制御方法を提供する。
【解決手段】 本発明の射出装置10は成形材料を貯留し前方に射出ノズル33を備えた射出シリンダ30と、射出シリンダ30内で後退移動する射出プランジャ31と、射出プランジャ31を後退移動させる射出プランジャ駆動装置50,150と、射出制御装置60,160を備え、射出制御装置60,160は、射出シリンダ30内に供給された成形材料を計量する可塑化計量工程において、射出プランジャ駆動装置50,150により射出プランジャ31を後退させて計量を行うことを特徴とする。
前記射出装置は、さらに前記射出プランジャの位置を検出する位置検出装置を備え、前記射出制御装置は、n−1回目の射出サイクルの可塑化計量工程において前記位置検出装置により計測した前記射出プランジャの計量時間からn回目の射出サイクルの可塑化計量工程における前記射出プランジャの後退速度を算出し、前記後退速度で前記射出プランジャを後退させて計量を行うことを特徴とする請求項1記載の射出装置。ただし、nは3以上の整数とする。
前記射出制御装置は、n回目の射出サイクルの可塑化計量工程において、予め設定された計量終了位置から前記射出ノズル側へ一定幅分移動した位置まで前記後退速度で前記射出プランジャを後退させることを特徴とする請求項2記載の射出装置。
n回目の射出サイクルの可塑化計量工程において、前記射出プランジャが予め設定された計量終了位置から前記射出ノズル側へ一定幅分移動した位置に達するまで前記後退速度で前記射出プランジャを後退させることを特徴とする請求項4記載の射出制御方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般的に、可塑化計量工程においては、射出シリンダ内を流れる溶融樹脂に空気が巻き込まれるのを防ぐため、射出プランジャに対して正の背圧を設定するかもしくは背圧を0に設定している。正の背圧を設定すると、可塑化計量工程において射出シリンダ内の圧力が上昇し、それに伴い射出シリンダ内の温度が上昇する。このような射出シリンダ内の温度の上昇は、熱安定性の悪い樹脂を射出成形の材料として使用した場合、樹脂を分解させてしまうという問題が生じていた。また、射出プランジャの背圧を0に設定している場合であっても、成形サイクルを繰り返すうちに、射出プランジャの後方で射出シリンダと射出プランジャの間の隙間に固化した樹脂が残留し、その樹脂が抵抗となって射出プランジャの後方への移動を妨げてしまう。その結果、射出シリンダ内の圧力および温度が変動して、溶融樹脂に悪影響を及ぼしてしまう。
【0007】
さらにハイサイクル成形においては射出プランジャでの可塑化計量中に冷却工程が完了し、型開工程へと切り替わる。射出プランジャに対して正の背圧または背圧が0に設定されている状態で計量し、その計量中に金型を開くと、大気圧と比較して射出シリンダ内の圧力が高いため、射出ノズルから溶融樹脂が流れ出てしまい(洟垂れ現象)、この流れ出た溶融樹脂は次サイクルで金型が挟み込み、金型本体を傷つけてダメージを与えてしまうという問題があった。
【0008】
また、上述で説明した洟垂れ現象を防止するために、可塑化計量工程が終了した後、射出工程を開始する前に射出プランジャをわずかに後退させる、いわゆるサックバック工程が行う場合がある。しかしながら、このサックバック工程は射出シリンダ内を負圧とするため、射出ノズルから空気が入り込み、気泡となって溶融樹脂内に混在してしまう。
【0009】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであり、ハイサイクル成形時においても射出ノズルからの洟垂れ現象を防止することができ、かつ熱安定性の悪い樹脂を適切に可塑化し成形することが可能な射出装置および射出制御方法を提供することを目的とする。
また本発明はサックバック工程を省略しても洟垂れ現象を防止することが可能な射出装置および射出制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明者はかかる課題を鋭意検討した結果、可塑化計量工程において射出プランジャを能動的に後退させることおよび射出プランジャが後退した場合の射出プランジャの停止位置に対して創意工夫を凝らすことにより、ハイサイクル成形時においても射出ノズルからの洟垂れ現象を防止することが可能な射出装置を発明した。
【0011】
本発明の射出装置は、成形材料を貯留し前方に射出ノズルを備えた射出シリンダと、前記射出シリンダ内で後退移動する射出プランジャと、前記射出プランジャを後退移動させる射出プランジャ駆動装置と、射出制御装置を備え、前記射出制御装置は、前記射出シリンダ内に供給された前記成形材料を計量する可塑化計量工程において、前記射出プランジャ駆動装置により前記射出プランジャを後退させて計量を行うことを特徴とする。
【0012】
ここで「射出プランジャの後退移動」とは、射出プランジャが射出シリンダの中心からみて射出ノズルとは反対の方向へ移動することを示す。
本発明によれば、可塑化計量工程において射出プランジャを射出プランジャ駆動装置によって能動的に後退させることにより射出シリンダ内の圧力の上昇を防ぎ、その結果、射出シリンダ内の温度の上昇を抑えることができるため、熱安定性の悪い樹脂が高温で分解してしまう等の課題を解消することができる。また、射出シリンダ内が負圧となるため、ハイサイクル成形時であっても洟垂れ現象を防ぐことが可能で、洟垂れ現象を防ぐために実施していたサックバック工程を省略することができる。
【0013】
本発明の射出装置は、さらに前記射出プランジャの位置を検出する位置検出装置を備え、射出制御装置がn−1回目の射出サイクルの可塑化計量工程において前記位置検出装置により計測した計量時間からn回目の射出サイクルの可塑化計量工程における前記射出プランジャの後退速度を算出し、前記後退速度で前記射出プランジャを後退させて計量を行うことを特徴とする。
さらに本発明の射出制御方法は、前方に射出ノズルを有する射出シリンダ内に供給された成形材料を射出プランジャが後退しながら計量する可塑化計量工程を有する射出制御方法であって、n−1回目の射出サイクルの可塑化計量工程において計測した計量時間からn回目の射出サイクルの可塑化計量工程における前記射出プランジャの後退速度を算出し、前記後退速度で前記射出プランジャを後退させてn回目の射出サイクルの計量を行うことを特徴とする。
【0014】
射出サイクルの可塑化計量工程において、射出プランジャの後退速度を決定するのは大変難しい問題である。射出プランジャの後退速度が速すぎると射出室内の樹脂密度が低くなって成形品不良が発生し、一方、射出プランジャの後退速度が遅すぎると射出室内の樹脂密度が過多となって洟垂れ現象が発生する。
本発明によれば、射出プランジャの位置を検出する位置検出装置を備え、n−1回目の射出サイクルの可塑化計量工程において計測した計量時間と射出プランジャの計量終了位置とからn回目の射出サイクルの可塑化計量工程における射出プランジャの後退速度を算出しているため、適切な後退速度で射出プランジャを駆動することが可能となり、成形不良や洟垂れ現象を防止することが可能となる。
【0015】
本発明の射出装置は、n回目の射出サイクルの可塑化計量工程において、予め設定された計量終了位置から前記射出ノズル側へ一定幅分移動した位置まで前記後退速度で前記射出プランジャを後退させることを特徴とする。
さらに本発明の射出制御方法は、n回目の射出サイクルの可塑化計量工程において、前記射出プランジャが前記計量終了位置から前記射出ノズル側へ一定幅分移動した位置まで前記後退速度で前記射出プランジャを後退させることを特徴とする。
【0016】
本発明によれば、前回の射出サイクルの計量終了位置から射出ノズル側手前の位置で射出プランジャが一旦停止し、成形材料の計量工程の最後は溶融樹脂の押し出す力(樹脂圧)をモニタリングして射出プランジャを後退させる。そのため、射出シリンダ内の樹脂密度の安定性向上を図ることが可能となる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の射出装置および射出制御方法は、可塑化計量時に能動的に射出プランジャを後退させること、さらに射出プランジャの後退速度に工夫を施すことで、ハイサイクル成形時においても射出ノズルからの洟垂れ現象を防止してサックバック工程を省略することができ、かつ熱安定性の悪い樹脂でも適切に成形することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について、成形材料が熱可塑性樹脂材料である場合を一例にして、図面を用いて説明する。
図1は本発明の一実施形態に係る射出成形機1を示す概略構成図であり、
図2は上記実施形態の射出プランジャ駆動装置50の構造(油圧式)を示す概略図である。本発明の射出成形機1は、成形材料を可塑化する可塑化ユニット2と、可塑化ユニット2から供給された可塑化された成形材料を金型4のキャビティ空間41内に射出する射出ユニット3と、可塑化ユニット2と射出ユニット3とを連通する連通部材5と、金型4が取り付けられて当該金型4を開閉するとともに締め付ける型締装置(図示しない)とを備えている。なお可塑化ユニット2、射出ユニット3及び連通部材5とで射出装置10が構成される。射出成形機1は、図示しない機台上に、射出装置10及び型締装置が配置され、各々制御部(図示しない)によって駆動制御される。なお本実施形態においては、成形材料として熱可塑性樹脂材料を用いるものとして以下説明するが、成形材料には、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、金属、又はこれらの複合材料等を使用してもよいし、特に限定されるものではない。
【0020】
可塑化ユニット2は、
図1に示すように、可塑化シリンダ20と、可塑化シリンダ20内の可塑化スクリュ(スクリュ)21と、可塑化スクリュ21を回転させる回転駆動装置22を備える。またホッパ7が、可塑化シリンダ20の後端側から樹脂材料を供給するために設けられる。ホッパ7の材料排出口と可塑化シリンダ20の材料供給口は、ホッパ取付部材2aの内孔で連通されている。可塑化ユニット2の可塑化シリンダ20内は、射出ユニット3の射出室35と連通部材5の連通路5aを介して連通している。
また可塑化シリンダ20、射出シリンダ30、ノズルシリンダ32、連通部材5、射出ノズル33などの外周には、バンドヒータ等の加熱器39(以下、単にヒータという)が設けられる。
図1は、便宜上、可塑化シリンダ20にヒータ39が巻かれた状態を示しているが、射出シリンダ30、ノズルシリンダ32、連通部材5、射出ノズル33にも巻かれる。
回転駆動装置22により可塑化スクリュ21が可塑化シリンダ20内で回転すると、ホッパ7から供給された樹脂材料がヒータ39から加えられる熱と剪断熱により溶融される。
【0021】
射出ユニット3は、射出シリンダ30と、射出シリンダ30の射出シリンダ孔30a内の射出プランジャ(プランジャ)31と、射出プランジャ31を後退させる射出プランジャ駆動装置50と、射出シリンダ30の前端にノズルシリンダ32を介して取り付けられる射出ノズル33とを有する。ノズルシリンダ32の射出シリンダ30側端面には、射出プランジャ31の先端面31aと略等しい形状の前壁32bが形成されている。その前壁32bと射出シリンダ30の射出シリンダ孔30aと射出プランジャ31の先端面31aとで囲まれた空間として射出室35が形成される。そして、射出室35には、連通部材5の連通路5aを介して可塑化シリンダ20内と連通する連通路32aや射出ノズル33の先端にまで連通する射出孔33aが開口している。
また射出ユニット3は、射出プランジャ31を進退させる射出プランジャ駆動装置50と、射出プランジャ31の位置を検出する位置検出装置61と、射出シリンダ30内の成形材料の圧力を検出するための圧力検出装置62と、射出プランジャ駆動装置50を制御する射出制御装置60を備える。
【0022】
図2に示す射出ユニット3の射出プランジャ駆動装置50は、射出プランジャ31を油圧式で駆動する場合の構成の一例を示している。
射出プランジャ駆動装置50は、射出プランジャ31を後退させるための装置であり、カップリング36によって射出プランジャ31と射出プランジャ駆動装置50の駆動ロッドが連結されている。
射出プランジャ駆動装置50は、ピストン51aとシリンダ51bから成る油圧シリンダ51と、サーボ弁52と、油圧供給源53と、オイルタンク59とを有する。油圧供給源53は、油圧ポンプ54と、油圧ポンプ54を駆動するポンプモータ55と、油圧ポンプ54の吸入側に接続したフィルタ56と、油圧ポンプ54の吐出し側に接続して、その吐出方向の流れのみを許容する逆止弁57、そして、その逆止弁57の吐出側に接続したアキュムレータ58等を有する。射出プランジャ31を油圧シリンダ51で駆動する射出プランジャ駆動装置50では、油圧供給源53として油圧ポンプ54の他にアキュムレータ58を備えて、そのアキュムレータ58に高圧多量に蓄圧した作動油を一気に油圧シリンダ51に供給することで、高速で射出プランジャ31を駆動させるとともに、アキュムレータ58と油圧シリンダ51の間にサーボ弁52を配置して、サーボ弁52の駆動を制御することで油圧シリンダ51への作動油の供給量および供給方向を調整して、射出プランジャ31を高応答および高精密に駆動させることができる。
【0023】
サーボ弁52は、A、B、P及びTポートを有する4ポートサーボ弁52であって、Aポートが油圧シリンダ51の後油室51d(ピストンヘッド側油室)に接続され、Bポートが前油室51c(ピストンロッド側油室)に接続され、Pポートがアキュムレータ58に接続され、Tポートがオイルタンク59に接続されている。図示省略するが、4ポートサーボ弁52は、円筒形のスリーブにA、B、PおよびTポートが形成されており、その内部に軸方向に変位するスプールを収容してあって、スプールの位置を移動させることで、ポート同士の接続を切り換え、各ポートの開口の開度(以下、スプール開度と称する)を可変して流量を調整し、そして、各ポートの開口を閉鎖してポートを遮断するようになっている。スプール開度は、射出制御装置60から出力されて4ポートサーボ弁52の指令値入力部52aに入力される指令信号(以下、指令値Qrと称する)となる電圧値と正比例するように制御される。なお、射出装置10の構成によっては、スプール開度が電圧値ではなく電流値と正比例するように制御されることもある。
【0024】
例えば、
図2に示す4ポートサーボ弁では、指令値Qrとなる電圧値がゼロのときにスプールが中立位置、つまりは、全てのポートが遮断される状態で、その電圧値が正の値のときにAポートにPポートが接続されて油圧シリンダ51の後油室51dに油圧供給源53から作動油が供給されるとともにBポートにTポートが接続されて油圧シリンダ51の前油室51cの作動油がオイルタンク59に戻される状態で、その電圧値が負の値のときにBポートにTポートが接続されて油圧シリンダ51の前油室51cに油圧供給源53から作動油が供給されるとともにAポートにTポートが接続されて油圧シリンダ51の後油室51dの作動油がオイルタンク59に戻される状態となる。指令値Qrとなる電圧値をゼロから負の方向に小さくするほど、すなわち、負の電圧値の絶対値が大きいほど、油圧供給源53から油圧シリンダ51の前油室51cに流れる単位時間当たりの作動油の流量が大きくなるようにスプール開度が大きくなり、射出プランジャ31の後退速度Vが大きくなる。なお、本実施の態様のように、必ずしも電圧値がゼロであるとは限らず、電圧値の正負のどちらか側にある場合もある。また、電圧値の正負に対するスプールが移動する方向が、本実施の態様とは逆の場合もある。
【0025】
射出制御装置60は、射出ユニット3全体の制御を行うための装置であり、出力側が4ポートサーボ弁52の指令値入力部52aに接続されていて、入力側に油圧シリンダ51の後油室51dの圧力、すなわち、溶融樹脂が射出プランジャ31に与える圧力Pの実測値を検出するための圧力検出装置62が接続されている。また、射出制御装置60の入力側には、位置検出装置61が接続されている。
射出制御装置60は、駆動部66、演算部63、記憶部64、タイマ65、入力部68、表示部67を有する。
【0026】
駆動部66は、演算部63によって演算された値によって指令値入力部52aに指令値Qrを送り、射出プランジャ31を後退および停止するとともに、射出プランジャ31の後退速度を変更する。
【0027】
演算部63は、次の射出サイクルにおける可塑化計量工程の射出プランジャ31の停止位置や後退速度を演算する。
【0028】
記憶部64は、射出成形を行うための各種設定値を格納している。例えば計量開始位置S
S、計量終了位置S
E、射出ストロークD、射出プランジャ31を計量終了位置S
Eよりも手前で停止させるための停止幅W(射出プランジャ31の停止位置Eと計量終了位置S
Eの間の距離)、樹脂圧基準値P
1を格納している。
【0029】
タイマ65は時間を計測するものであり、タイマ65を使用して計量時間の計測を行う。
【0030】
入力部68は、例えばキーボード、表示部の表示面に重ねて設けられるタッチパネル等の入力装置であり、表示部67は、例えば、液晶ディスプレイ等の表示デバイスにより構成され、設定画面等を表示するものである。
【0031】
位置検出装置61は、射出プランジャ31の位置の実測値を検出するセンサであり、リニアエンコーダ等の各種の位置検出センサが採用できる。
【0032】
圧力検出装置62は、射出プランジャ31にかかる成形材料の圧力(樹脂圧)を検出するためのセンサであり、射出プランジャ31とピストンロッドの間に挟んだロードセル、射出プランジャ31の先端に取り付けた圧力センサ等の金型内のキャビティ空間の一部に取り付けた圧力センサ等でも良い。
【0033】
図3に示す射出ユニット3の射出プランジャ駆動装置150は、射出プランジャ31を電動式で駆動する場合の構成の一例を示している。上述の射出プランジャ駆動装置50は油圧式で駆動する場合の一例を示したが、射出プランジャ駆動装置150は電動で駆動することも可能であるため、以下説明を行う。
射出プランジャ駆動装置150は、モータ154と、このモータ154の駆動により回転するボールねじ151と、このボールねじ151と螺合するボールねじ用のナット152と、このナット152に連結された中空状のジョイント153とを備える。ボールねじ151、ナット152、ジョイント153等は射出シリンダ30のケーシング内に収納されている。
射出プランジャ31の端部はジョイント153に連結されている。
【0034】
モータ154は、ACサーボモータが採用される。モータ154の回転軸は、ボールねじ151と接続され、モータ154の駆動により、ボールねじ151が回転する。射出制御装置160の指令によりモータ154の回転速度を変更することで、ボールねじ151の回転速度が変更され、ジョイント153を介してナット152に接続された射出プランジャ31の移動速度(後退速度)を変更することができる。
モータ154には、位置検出装置161であるエンコーダが配設されており、射出プランジャ31の位置の実測値を検出する。
【0035】
ボールねじ151は、ナット152を螺合するとともに、後端にはモータ154が接続され、前端はジョイント153の中空内部に侵入している。モータ154によりボールねじ151が回転することで、ナット152およびこのナット152に接続されたジョイント153が後退し、ボールねじ151の端部がジョイント153の内部に侵入する。
ボールねじ151は、ベアリング等により射出シリンダ30のケーシングに回転可能に軸支されている。
ボールねじ151の後端周辺にはロードセル等の圧力検出装置162が設けられ、溶融樹脂から射出プランジャ31がうける圧力を検出する。
【0036】
射出制御装置160は、射出ユニット3全体の制御を行うための装置であり、駆動部166、演算部63、記憶部64、タイマ65、入力部68、表示部67を有する。
駆動部166は、演算部163によって演算された値によってモータ154を駆動および停止することにより射出プランジャ31を後退および停止するとともに、モータ154の回転速度を変更して、射出プランジャ31の後退速度を変更する。
演算部63、記憶部64、タイマ65、入力部68、表示部67は、油圧式の場合と同様であるため、説明を省略する。
【0037】
(可塑化計量工程の流れ)
次に射出装置10における可塑化計量工程の流れを以下説明を行う。ここでは、射出プランジャ駆動装置150を電動で駆動した場合を想定して以下の説明を行う。
【0038】
(1回目の射出サイクルの可塑化計量工程の流れ)
図4は、本実施形態の1回目の射出サイクルにおける可塑化計量工程の流れを示すフロー図である。
まず射出プランジャ31を計量開始位置S
Sまで後退させる(計量前サックバック工程:S1−1)。
次に、計量が開始され、樹脂材料が可塑化スクリュ21の回転による剪断発熱とヒータ39による加熱によって可塑化溶融されながら、可塑化スクリュ21の回転によって連通路5a、32aを通して射出室35内に向けて押し出される。(S1−2)
射出室35内を流れる樹脂は計量開始位置S
Sまで到達し、射出プランジャ31を押し出す。このとき、射出制御装置160は圧力検出装置162により射出プランジャ31にかかる樹脂圧をモニタリングし、樹脂圧を受けるたびに射出プランジャ31を少しずつ後退させる制御を行い、射出プランジャ31は計量終了位置S
Eで停止する(S1−3)。
S1−1からS1−3までの可塑化計量工程が終わると、射出プランジャ31を前進させて、射出シリンダ30内の溶融樹脂を射出ノズル33から金型4内のキャビティ空間41に向かって射出して充填する(射出工程:G)。
【0039】
(2回目の射出サイクルの可塑化計量工程の流れ)
図5は、本実施形態の2回目の射出サイクルにおける可塑化計量工程の流れを示すフロー図であり、
図7は、上記実施形態の射出プランジャ31の停止位置Eを示す模式図である。
射出制御装置160は、最初に計量前サックバックを行うように設定されている場合は(S2−1)、射出プランジャ31を計量開始位置S
Sまで後退させる(計量前サックバック工程:S2−2)。
【0040】
次に計量が開始され、溶融樹脂が可塑化スクリュ21の回転によって連通路5a、32aを通して射出室35内に向けて押し出される(S2−3)。
射出室35内を流れる樹脂は射出プランジャ31の先端面に接触し、射出プランジャ31を押し出す。射出制御装置160は圧力検出装置162により射出プランジャ31にかかる樹脂圧をモニタリングし(S2−4)、樹脂圧を受けるたびに射出プランジャ31を少しずつ後退させる制御を行う(S2−5)。
射出制御装置160は、射出プランジャ31が計量終了位置S
Eまで到達したことを位置検出装置161により検知した場合、射出プランジャ31を停止し、計量開始から計量終了までにかかった計量時間T
2を記憶する(S2−6)。
S2−1からS2−6までの可塑化計量工程が終わると、射出プランジャ31を前進させて、射出シリンダ30内の溶融樹脂を射出ノズル33から金型4内のキャビティ空間41に向かって射出して充填する(射出工程:G)。
【0041】
(3回目以降の射出サイクルの可塑化計量工程の流れ)
図6は、本実施形態の3回目以降の射出サイクルにおける可塑化計量工程の流れを示すフロー図である。
射出制御装置160はまず、記憶されている計量時間T
2から、射出プランジャ31の後退速度V
3を演算する(数1)。ここで、Dは射出ストロークである。
また射出制御装置160は、停止幅Wおよび計量終了位置S
Eを読み出し、計量終了位置S
Eから停止幅W分手前となる射出プランジャ31の停止位置Eを求める(数2)。
【0044】
そして、計量を開始し、溶融樹脂を可塑化スクリュ21の回転によって連通路5a、32aを通して射出室35内に向けて押し出す(S3−1)。
射出制御装置160は、圧力検出装置162により射出プランジャ31にかかる樹脂圧をモニタリング(S3−2)しながら、射出プランジャ駆動装置150により射出プランジャ31を後退速度V
3で移動させる(S3−3)。
このとき射出制御装置160は、圧力検出装置162により樹脂圧基準値P
1以上の樹脂圧をうけたか否かをモニタリングし(S3−4)、P
1以上の樹脂圧を受けていた場合は、(数2)で演算した後退速度V
3に対してm%(mは増加率)増加させた後退速度を新たな後退速度V
3とする(S3−5)。
射出制御装置160は(S3−2)から(S3−5)まで、射出プランジャ31が停止位置Eに到達したことを位置検出装置161により検知するまで繰り返される。
射出制御装置160は、射出プランジャ31が停止位置Eに到達すると、今度は圧力検出装置162により射出プランジャ31にかかる樹脂圧をモニタリングし、樹脂圧を受けるたびに射出プランジャ31を少しずつ後退させる制御を行う(S3−6)。
通常は射出室35内を流れる樹脂の速度は後退速度V
3よりも遅いため、射出プランジャ31は停止位置Eで樹脂圧を受けるまで一旦停止する状態となる。
そして射出制御装置160は、射出プランジャ31が計量終了位置S
Eまで到達したことを位置検出装置161により検知した場合、射出プランジャ31を停止し、計量開始から計量終了までにかかった計量時間T
3を記憶する(S3−7)。
S3−1からS3−7までの可塑化計量工程が終わると、射出プランジャ31を前進させて、射出シリンダ30内の溶融樹脂を射出ノズル33から金型4内のキャビティ空間41に向かって射出して充填する(射出工程:G)。
【0045】
S3−1からS3−7の工程は、4回目以降の射出サイクルでも繰り返し行われる。
具体的には、n回目の射出サイクルである可塑化計量工程を行う場合、射出制御装置160はまずn−1回目の射出サイクルの可塑化計量工程において計測した計量時間T
n−1から、n回目の射出サイクルの射出プランジャ31の後退速度V
nを演算する(数3)。ここでnは3以上の整数とする。
【0047】
そして、溶融樹脂を可塑化スクリュ21の回転によって連通路5a、32aを通して射出室35内に向けて押し出すとともに、射出制御装置160は、射出プランジャ駆動装置150により射出プランジャ31を後退速度V
nで移動させる。射出プランジャ31が停止位置Eに到達したことを位置検出装置161により検知した場合、その後射出プランジャ31が樹脂圧を受けるまで射出プランジャ31を一旦停止させる。その他の動作は、(S3−1)から(S3−7)と同様であるため、説明を省略する。
【0048】
n回目の射出サイクルの可塑化計量工程において、後退速度V
nをn−1回目の射出サイクルで計測した値を使用して算出し、さらに射出プランジャ31を計量終了位置S
Eの手前で停止させる理由として以下が挙げられる。
n回目の射出サイクルの可塑化計量工程において、射出プランジャ31を射出プランジャ駆動装置50により後退速度V
nで移動させると、可塑化ユニット2から供給された溶融樹脂が射出室35内を進む流速よりも射出プランジャ31の後退速度のほうが速くなり、射出室35内の樹脂密度が低い状態となってしまう。この状態のまま射出を行うと、ショートショットと呼ばれる成形品の一部が欠け不完全な形状となる成形不良が発生する。一方、射出プランジャ31の後退速度を遅く設定すると、今度は射出室35内の樹脂密度が過多となって、射出ノズル33から溶融樹脂が流れ出てしまう洟垂れ現象が発生する。
【0049】
よって、n回目の射出サイクルの可塑化計量工程における射出プランジャ31の停止位置Eを計量終了位置S
Eから停止幅W分手前とすること、さらに、前回の射出サイクルの情報から後退速度V
nを算出し、算出した後退速度V
nが遅い場合はリアルタイムに後退速度V
nをm%増加することで、射出シリンダ30内の樹脂密度の安定性を向上することができる。
【0050】
上記の射出装置10における可塑化計量工程の流れは、射出プランジャ駆動装置150を電動で駆動した場合を想定して説明を行ったが、射出プランジャ駆動装置50を油圧式で駆動する場合は、停止位置Eからの射出プランジャ31の動きは異なり、以下のようになる。
具体的には、電動式の場合は射出プランジャ31が停止位置Eに到達したことを位置検出装置により検知した場合は、樹脂圧をモニタリングし、少しずつ射出プランジャ31の後退制御を行ったが、油圧式の場合は射出プランジャ31の駆動を解除し、樹脂圧のみで射出プランジャ31を後退させる。
【0051】
本明細書においては、計量終了位置S
Eや射出ストロークDは格納された固定値を使用したが、計量終了位置S
Eや射出ストロークDが逆止補正等により射出サイクルごとに異なる場合は、射出サイクルごとに変更された計量終了位置S
Eや射出ストロークDを使用する。
【0052】
本実施形態においては、射出プランジャ駆動装置50,150は、油圧式および電動式を採用したが、空圧式を使用してもよい。
また本実施形態においては、スクリュプリプラ方式の射出成形機に関して説明を行ったが、インラインスクリュ式の射出装置にも適用可能である。具体的には、本実施形態の可塑化計量工程における射出プランジャ31の制御方法に関しては、インラインスクリュの制御に対しても適用可能である。
【0053】
本発明の射出成形機は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。
前記射出制御装置は、n回目の射出サイクルの可塑化計量工程において、予め設定された計量終了位置から前記射出ノズル側へ一定幅分移動した位置まで前記後退速度で前記射出プランジャを後退させることを特徴とする請求項1記載の射出装置。
n回目の射出サイクルの可塑化計量工程において、前記射出プランジャが予め設定された計量終了位置から前記射出ノズル側へ一定幅分移動した位置に達するまで前記後退速度で前記射出プランジャを後退させることを特徴とする請求項3記載の射出制御方法。