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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-133744(P2021-133744A)
(43)【公開日】2021年9月13日
(54)【発明の名称】舵角決定装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 6/00 20060101AFI20210816BHJP
   B62D 113/00 20060101ALN20210816BHJP
【FI】
   B62D6/00
   B62D113:00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2020-29868(P2020-29868)
(22)【出願日】2020年2月25日
(71)【出願人】
【識別番号】000237592
【氏名又は名称】株式会社デンソーテン
(72)【発明者】
【氏名】萩原 正俊
【テーマコード(参考)】
3D232
【Fターム(参考)】
3D232CC02
3D232DA03
3D232DA24
3D232DA33
3D232DA48
3D232DA82
3D232DC08
3D232DC09
3D232DE06
3D232EA01
3D232EB04
(57)【要約】
【課題】車両の安定性が失われることを防ぐことができる舵角決定装置を提供することを課題とする。
【解決手段】舵角決定装置10において、摩擦係数取得部11は、車両が走行する路面の摩擦係数25を取得する。舵角決定部12は、車両のステアリングホイール3の回転量3Aを取得する。舵角決定部12は、摩擦係数取得部11により取得された摩擦係数25が小さくなるにつれて、取得した操作量3Aに対応する舵角αを小さくする。転舵装置は、舵角決定部12により決定された舵角αに基づいて、車両の操舵輪を転舵する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両が走行する路面の摩擦係数を取得する摩擦係数取得部と、
前記車両の操舵輪を操作する操作部の操作量を取得し、前記摩擦係数取得部により取得された摩擦係数が小さくなるにつれて取得した操作量に対応する前記操舵輪の舵角を小さくする舵角決定部と、を備える舵角決定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の舵角決定装置であって、
前記摩擦係数取得部は、
前記車両が前記車両の前後方向にスリップしているか否かを判断するスリップ判断部と、
前記車両が前記前後方向にスリップしていると前記スリップ判断部により判断された場合、前記車両の駆動力に基づいて前記摩擦係数を推定する摩擦係数推定部と、を含む舵角決定装置。
【請求項3】
請求項2に記載の舵角決定部であって、
前記車両がスリップしている状態を脱したと前記スリップ判断部により判断された場合、前記摩擦係数推定部は、前記車両がスリップしている状態を脱したと判断された時刻からの時間の経過とともに、前記推定された摩擦係数を徐々に大きくする、舵角決定装置。
【請求項4】
請求項3に記載の舵角決定装置であって、
前記スリップ判断部は、前記車両の実際の速度と前記車両の駆動力に基づいて推定された推定速度とを比較した結果に基づいて、前記車両が前記前後方向にスリップしているか否かを判断する、舵角決定装置。
【請求項5】
請求項1に記載の舵角決定装置であって、さらに、
前記摩擦係数取得部は、
前記車両の横方向の加速度及び車両の旋回方向の角速度の少なくとも一方に基づいて、前記車両が横滑りしているか否かを判断するスリップ判断部、を含み、
前記車両が、横滑りしていると前記スリップ判断部により判断され、かつ、前記操作量が、前記車両が横滑りしている方向と反対方向に操作されたことを示す場合、前記舵角決定部は、前記取得された摩擦係数により決定される角度の絶対値よりも大きい絶対値を有し、かつ、前記操作量により示される方向に応じた舵角を決定する、舵角決定装置。
【請求項6】
車両が走行する路面の摩擦係数を取得するステップと、
前記車両の操舵輪を操作する操作部の操作量を取得し、前記取得された摩擦係数が小さくなるにつれて取得した操作量に対応する前記操舵輪の舵角を小さくするステップと、を備える舵角決定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の操舵輪の舵角を決定する舵角決定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両のステアリングホイールと、車両の操舵輪とが機械的に切り離されたステアバイワイヤの開発が進められている。ステアバイワイヤでは、ステアリングホイールの操作量に対する操舵輪の舵角の変化量の比である操舵比が予め設定されている。
【0003】
特許文献1は、車両が道路を走行しているか否かに基づいて操舵比を変化させる車両用制御装置を開示している。この車両用制御装置は、車両が駐車場を走行している時の操舵比を、車両が道路を走行している時の操舵比よりも大きくする。
【0004】
ステアリングホイールの最大操作量が±90度である場合、ステアバイワイヤにおける操舵比は、操舵輪の舵角が90度以下となるように設定される。つまり、運転者がステアリングホイールを最大操作量まで回転させたとしても、操舵輪の舵角は最大舵角に到達にしない。操舵輪の舵角が、ステアリングホイールの操作量の僅かな変化に過敏に反応することを防ぐことができるため、ステアバイワイヤの車両の安定性を向上させることができる。
【0005】
ステアバイワイヤの車両が摩擦係数の低い道路を走行している場合、ステアリングホイールの操作量に基づいて決定される操舵輪の舵角が、過剰となることがある。操舵輪の舵角が過剰である場合、ステアバイワイヤの車両の安定性が失われる虞がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−24230号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記問題点に鑑み、本発明は、車両の安定性が失われることを防ぐことができる舵角決定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、第1の発明は、舵角決定装置であって、摩擦係数取得部と、舵角決定部とを備える。摩擦係数取得部は、車両が走行する路面の摩擦係数を取得する。舵角決定部は、車両の操舵輪を操作する操作部の操作量を取得し、摩擦係数取得部により取得された摩擦係数が小さくなるにつれて取得した操作量に対応する操舵輪の舵角を小さくする。
【0009】
第1の発明によれば、車両が摩擦係数の比較的小さい路面を走行する時に、車両が操作量の変化に過敏に反応することを防ぐことができる。従って、第1の発明は、車両の安定性が失われることを防ぐことができる。
【0010】
第2の発明は、第1の発明であって、摩擦係数取得部は、スリップ判断部と、摩擦係数推定部とを含む。スリップ判断部は、車両が前後方向にスリップしているか否かを判断する。摩擦係数推定部は、車両が前後方向にスリップしているとスリップ判断部により判断された場合、車両の駆動力に基づいて摩擦係数を推定する。
【0011】
第2の発明によれば、車両が前後方向にスリップしている時に摩擦係数が推定される。車両が前後方向にスリップする場合、車両が摩擦係数の低い路面を走行していると考えられる。第2の発明は、車両がスリップしている時に推定された摩擦係数に基づいて舵角を決定するため、車両の安定性が失われることをさらに効果的に防ぐことができる。
【0012】
第3の発明は、第2の発明であって、車両がスリップしている状態を脱したとスリップ判断部により判断された場合、摩擦係数推定部は、車両がスリップしている状態を脱したと判断された時刻からの時間の経過とともに、推定された摩擦係数を徐々に大きくする。
【0013】
第3の発明は、車両がスリップ状態を脱した場合、路面の摩擦係数に関係なく摩擦係数を徐々に大きくする。車両がスリップ状態を脱した時に、舵角が急激に変化することが抑制される。つまり、第3の発明は、車両がスリップ状態を脱した場合に、車両の挙動が急激に変化することを防ぐことができる。
【0014】
第4の発明は、第3の発明であって、スリップ判断部は、車両の実際の速度と車両の駆動力に基づいて推定された推定速度とを比較した結果に基づいて、車両が前後方向にスリップしているか否かを判断する。
【0015】
第4の発明によれば、車両がスリップしているか否かを簡易に判断することができる。
【0016】
第5の発明は、第1の発明であって、摩擦係数取得部は、スリップ判断部を含む。スリップ判断部は、車両の横方向の加速度及び車両の旋回方向の角速度の少なくとも一方に基づいて、車両が横滑りしているか否かを判断する。車両が、横滑りしているとスリップ判断部により判断され、かつ、操作量が、車両が横滑りしている方向と反対方向に操作されたことを示す場合、舵角決定部は、取得された摩擦係数により決定される角度の絶対値よりも大きい絶対値を有し、かつ、操作量により示される方向に応じた舵角を決定する。
【0017】
第5の発明によれば、運転者による車両の横滑りを防ぐためのカウンター操作に応じて舵角を変更することができる。従って、運転者は、車両が横滑りをした場合に車両を速やかに安定させることができる。
【0018】
第6の発明は、舵角決定方法であって、a)ステップと、b)ステップと、c)ステップとを備える。a)ステップは、車両が走行する路面の摩擦係数を取得する。b)ステップは、車両の操舵輪を操作する操作部の操作量を取得する。c)ステップは、取得された摩擦係数が小さくなるにつれて取得した操作量に対応する操舵輪の舵角を小さくする。
【0019】
第6の発明は、第1の発明に用いられる。
【発明の効果】
【0020】
本発明は、車両の安定性が失われることを防ぐ舵角決定装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の実施の形態に係る転舵システムの構成を示す機能ブロック図である。
図2図1に示す舵角決定装置の構成を示す機能ブロック図である。
図3図2に示す摩擦係数取得部の構成を示す機能ブロック図である。
図4図1に示すステアリングホイールの回転量と舵角との関係の一例を示すグラフである。
図5図1に示す車両の挙動の変化の一例を示す図である。
図6図1に示す舵角決定装置により決定される舵角の時間変化の一例を示すグラフである。
図7図1に示す舵角決定装置10の動作を示すフローチャートである。
図8図7に示す摩擦係数取得処理のフローチャートである。
図9図7に示す横滑り判断処理のフローチャートである。
図10図7に示す舵角決定処理のフローチャートである。
図11】CPUバス構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照し、本発明の実施の形態を詳しく説明する。図中同一又は相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0023】
[1.車両Vの構成]
図1は、本発明の実施の形態に係る転舵システム100の構成を示す機能ブロック図である。図1を参照して、転舵システム100は、車両Vに搭載され、車両Vの操舵輪である左前輪1FLと右前輪1FRとを転舵する。転舵システム100は、ステアリングホイール3が操舵輪と機械的に切り離されたステアバイワイヤである。以下の説明において、左前輪1FL及び右前輪1FRを総称する場合、「操舵輪」と記載する。
【0024】
車両Vの方向を定義する。車両Vの前方向は、車両Vの直進進行方向であって、運転席からステアリングホイール3に向かう方向である。車両Vの後方向は、車両Vの前方向の反対方向である。車両Vの横方向は、車両Vの直進進行方向及び車両Vの鉛直線に垂直な方向である。車両Vの左方向は、車両Vの横方向のうち、前方向を向く運転者の右から左に向かう方向である。車両Vの右方向は、車両Vの左方向の反対方向である。
【0025】
図1に示す車両Vにおいて、転舵システム100に関連する構成以外の構成の表示を省略している。
【0026】
車両Vは、車体1と、左前輪1FLと、右前輪1FRと、左後輪1RLと、右後輪1RRと、車軸2F及び2Rとを備える。
【0027】
左前輪1FLは、車体1の左前方に配置される。右前輪1FRは、車体1の右前方に配置される。左前輪1FL及び右前輪1FRは、車軸2Fを回転軸として回転する。車軸2Fは、車両Vのドライブシャフトであり、図示しないモータの出力を左前輪1FL及び右前輪1FRに伝える。
【0028】
操舵輪の旋回方向は、車両Vの上から見て、右回り(時計回り)の方向が正であり、左回り(反時計回り)の方向が負である。後述する舵角αも同様である。
【0029】
左後輪1RLは、車体1の左後方に配置される。右後輪1RRは、車体1の右後方に配置される。左後輪1RL及び右後輪1RRは、車軸2Rを回転軸として回転する。
【0030】
転舵システム100は、ステアリングホイール3と、回転角センサ4と、ヨーレートセンサ5と、速度センサ7と、トルクセンサ8と、転舵装置9と、舵角決定装置10とを備える。
【0031】
ステアリングホイール3は、操舵輪の舵角を変更するための操作部であり、車両Vの運転者により操作される。ステアリングホイール3の回転方向は、運転席に座った運転者から見て、右回りが正であり、左回りが負である。
【0032】
本実施の形態において、ステアリングホイール3が車両Vの直進を示す場合におけるステアリングホイール3の回転位置を「基準位置」と記載する。ステアリングホイール3の回転方向は、ステアリングホイール3が運転者から見て基準位置よりも右に回転しているか左に回転しているかで特定される。ステアリングホイール3の最大回転量は、右回り及び左回りの各々において、90度である。
【0033】
回転角センサ4は、ステアリングホイール3の回転量3Aを検出し、その検出した回転量3Aを舵角決定装置10に出力する。回転量3Aは、ステアリングホイール3の操作量である。
【0034】
ヨーレートセンサ5は、車両Vのヨーレート5Aを検出し、その検出したヨーレート5Aを舵角決定装置10に出力する。速度センサ7は、左前輪1FLの単位時間あたりの回転量を、車両Vのスピード7Aとして舵角決定装置10に出力する。トルクセンサ8は、車両Vのドライブシャフトである車軸2Fのトルク8Aを検出し、その検出したトルク8Aを舵角決定装置10に出力する。
【0035】
転舵装置9は、舵角決定装置10から舵角αを受け、その受けた舵角αに基づいて操舵輪を転舵する。
【0036】
舵角決定装置10は、回転量3Aを回転角センサ4から受け、ヨーレート5Aをヨーレートセンサ5から受ける。舵角決定装置10は、スピード7Aを速度センサ7から受け、トルク8Aをトルクセンサ8から受ける。舵角決定装置10は、その受けた回転量3A、ヨーレート5A、スピード7A及びトルク8Aに基づいて、舵角αを決定する。
【0037】
舵角決定装置10は、車両Vが摩擦係数の比較的低い路面を走行する場合、摩擦係数に応じて舵角αを小さくする。摩擦係数の比較的低い路面は、例えば、積雪路、凍結路、砂利道、グレーチング等の金属面である。なお、本実施の形態において、摩擦係数は、動摩擦係数である。
【0038】
[2.舵角決定装置10の構成]
図2は、図1に示す舵角決定装置10の構成を示す機能ブロック図である。図2を参照して、舵角決定装置10は、摩擦係数取得部11と、舵角決定部12とを備える。
【0039】
摩擦係数取得部11は、スピード7Aを速度センサ7から受け、トルク8Aをトルクセンサ8から受ける。摩擦係数取得部11は、その受けたスピード7A及びトルク8Aに基づいて、車両Vが走行する路面の摩擦係数25を取得する。
【0040】
舵角決定部12は、回転量3Aを回転角センサ4から受ける。舵角決定部12は、その受けた回転量3Aと、摩擦係数25とに基づいて、舵角αを決定する。具体的には、舵角決定部12は、受けた摩擦係数25が小さくなるにつれて、回転量3Aに対応付けられている舵角αを小さくする。
【0041】
これにより、舵角決定装置10は、車両Vが摩擦係数の比較的小さい路面を走行する時に、車両Vが回転量3Aの変化に応じて過敏に反応することを防ぐことができる。舵角決定装置10は、車両Vの安定性が失われることを防ぐことができる。
【0042】
摩擦係数取得部11は、ヨーレート5Aをヨーレートセンサ5から受け、その受けたヨーレート5Aに基づいて、車両Vが横滑りしているか否かを判断する。摩擦係数取得部11は、車両Vが横滑りしているか否かを示す横滑り判断結果23を舵角決定部12に出力する。横滑り判断結果23は、車両Vが横滑りしていることを示す場合、車両Vの横滑りの方向を示す情報を含む。
【0043】
舵角決定部12は、横滑り判断結果23を摩擦係数取得部11から受ける。受けた横滑り判断結果23が、車両Vが横滑りしていることを示す場合、舵角決定部12は、回転量3Aと、横滑り判断結果23に含まれる横滑りの方向とに基づいて、舵角αを決定する。具体的には、回転量3Aが、車両Vが横滑りしている方向と反対の方向にステアリングホイール3が操作されたことを示す場合、舵角αの絶対値は、ステアリングホイール3が横滑り方向へ操作された場合に決定される舵角αの絶対値よりも大きい。
【0044】
車両Vが横滑りした場合、車両Vの運転者が、車両Vの挙動を安定させるために、ステアリングホイール3を横滑りの方向と反対の方向に操作することがある。この操作は、「カウンター操作」と呼ばれる。運転者がカウンター操作をした場合、舵角決定装置10は、摩擦係数によって決定される角度よりも大きい角度を舵角αに決定する。これにより、舵角決定装置10は、車両Vが横滑りをしている時に、車両Vの挙動を速やかに安定させることができる。
【0045】
図3は、図2に示す摩擦係数取得部11の構成を示す機能ブロック図である。図3を参照して、摩擦係数取得部11は、速度推定部111と、スリップ判断部112と、摩擦係数推定部113とを含む。
【0046】
速度推定部111は、スピード7Aを速度センサ7から受け、トルク8Aをトルクセンサ8から受ける。速度推定部111は、推定基準時刻に受けたスピード7Aと、現在時刻におけるトルク8Aとに基づいて、現在時刻における車両Vのスピードを推定する。推定基準時刻は、現在時刻の直前にスピードを推定した時刻である。以下の説明において、速度推定部111により推定されるスピードを、「推定スピード21」と記載する。
【0047】
スリップ判断部112は、スピード7Aを速度センサ7から受け、推定スピード21を速度推定部111から受ける。スリップ判断部112は、その受けたスピード7Aを推定スピード21と比較し、その比較結果に基づいて車両Vが前後方向にスリップしているか否かを判断する。スリップ判断部112は、車両Vが前後方向にスリップしているか否かを示すスリップ判断結果22を生成する。
【0048】
摩擦係数推定部113は、トルク8Aをトルクセンサ8から受け、スリップ判断結果22をスリップ判断部112から受ける。受けたスリップ判断結果22が、車両Vがスリップしていることを示す場合、摩擦係数推定部113は、その受けたトルク8Aから車両Vの駆動力を算出し、その算出した駆動力に基づいて摩擦係数25を推定する。摩擦係数推定部113は、推定した摩擦係数25を舵角決定部12に出力する。
【0049】
車両Vが前後方向にスリップする場合、車両が摩擦係数の低い路面を走行していると考えられる。舵角決定装置10は、車両Vが前後方向にスリップしている場合、摩擦係数25を推定し、推定した摩擦係数25に基づいて舵角αを決定する。これにより、舵角決定装置10は、車両の安定性が失われることをさらに効果的に防ぐことができる。
【0050】
また、スリップ判断部112は、ヨーレート5Aをヨーレートセンサ5から受ける。スリップ判断部112は、その受けたヨーレート5Aに基づいて、車両Vが横滑りしているか否かを判断する。スリップ判断部112は、その判断結果を示す横滑り判断結果23を生成する。横滑り判断結果23は、上述のように、舵角決定部12により用いられる。
【0051】
[3.摩擦係数と舵角との関係]
図4は、図1に示す舵角決定装置10により決定される舵角αと回転量3Aとの関係を示すグラフである。図4に示す基準角度線60と、最大角度線61と、変更角度線62及び63との各々は、車両Vのスピードが40km/hである場合における、回転量3Aと舵角αとの関係を示す。基準角度線60の傾きは、変更角度線62及び63の各々の傾きよりも大きく、最大角度線61の傾きよりも小さい。
【0052】
基準角度線60と、最大角度線61と、変更角度線62及び63との各々を総称する場合、、単に「角度線」と記載する。図4に示す角度線の他に、車両Vのスピードに応じた角度線が、舵角決定部12に設定されている。舵角決定部12は、車両Vのスピードに対応する角度線を用いて、舵角αを決定する。
【0053】
以下、車両Vが40km/hのスピードで移動する場合を例にして、舵角決定装置10の動作を説明する。車両Vが、前後方向にスリップすることなく、かつ、横滑りをしない状態で走行することを、「通常走行」と記載する場合がある。
【0054】
スリップ判断部112が、車両が通常走行していると判断した場合、舵角決定部12は、基準角度線60を選択する。基準角度線60は、車両Vが通常走行している場合における回転量3Aと舵角αとの関係を示す。舵角決定部12は、回転量3Aに対応する舵角αを、選択した基準角度線60に基づいて決定する。
【0055】
スリップ判断部112が、車両Vが前後方向スリップしていると判断した場合、摩擦係数25が推定される。舵角決定部12は、変更角度線62及び63のうち、推定された摩擦係数25に対応する変更角度線を選択する。舵角決定部12は、回転量3Aに対応する舵角αを、選択した変更角度線に基づいて決定する。
【0056】
例えば、推定された摩擦係数が0.7である場合、舵角決定部12は、変更角度線62を選択する。推定された摩擦係数が0.4である場合、舵角決定部12は、変更角度線63を選択する。変更角度線63の傾きは、変更角度線62の傾きよりも小さい。すなわち、摩擦係数25が小さくなるにつれて、舵角決定部12は、回転量3Aに対応する舵角αを小さくする。なお、摩擦係数が1以上である場合、舵角決定部12は、基準角度線60を選択する。
【0057】
スリップ判断部112が、車両Vが横滑りしていると判断した場合、舵角決定部12は、ステアリングホイール3の回転方向に応じて、選択する角度線を変更する。運転者がカウンター操作をした場合、舵角決定部12は、最大角度線61を選択する。最大角度線61の傾きは、基準角度線61の傾きよりも大きい。従って、運転者がカウンター操作をした場合に決定される舵角αの絶対値は、運転者がカウンター操作をしていない場合に決定される舵角αの絶対値よりも大きい。運転者がカウンター操作をしていない場合、舵角決定部12は、摩擦係数25に対応する角度線を選択する。
【0058】
図4は、2つの摩擦係数に対応する2つの変更角度線を示しているが、これに限られない。変更角度線は、1つであってもよいし、3つ以上であってもよい。また、変更角度線は、摩擦係数の範囲に応じて設定されてもよい。例えば、摩擦係数25が0.5以上1未満である場合、舵角決定部12は変更角度線62を選択する。摩擦係数が0より大きく0.5未満の場合に、舵角決定部12は変更角度線63を選択する。
【0059】
[4.舵角αの変化]
[4.1.車両Vの挙動の一例]
図5は、図1に示す車両Vの挙動の一例を示す図である。図5を参照して、車両Vは、通常走行している。この場合、舵角αは、基準角度線60に基づいて決定される。
【0060】
スリップ判断部112は、時刻t1において、車両Vが前後方向にスリップしていると判断する。摩擦係数推定部113は、スリップ判断部112の判断に応じて、時刻t1における摩擦係数25を推定する。舵角決定部12は、推定された摩擦係数25に対応する変更角度線を選択し、選択した変更角度線を用いて舵角αを決定する。
【0061】
時刻t3において、スリップ判断部112は、車両Vが前後方向のスリップに加えて右に横滑りしていると判断する。舵角決定部12は、最大角度線61と、時刻t3に推定された摩擦係数25に対応する角度線とを選択する。時刻t3において、回転量3Aがステアリングホイール3の右回転を示す。つまり、運転者は、時刻t3においてカウンター操作をしていない。舵角決定部12は、推定された摩擦係数25に対応する角度線に基づいて、回転量3Aに対応する舵角αを決定する。
【0062】
前後方向のスリップ及び右方向への横滑りが、時刻t3から時刻t4にかけて継続している。車両Vの運転者は、時刻t4において、ステアリングホイール3を左方向に回す。つまり、運転者は、時刻t4において、カウンター操作をする。舵角決定部12は、最大角度線61に基づいて、回転量3Aに対応する舵角αを決定する。
【0063】
運転者が、車両Vの横滑り中にカウンター操作をした場合、舵角αは、摩擦係数25に関係なく、最大角度線61に基づいて決定される。最大角度線61の傾きが基準角度線60の傾きより大きいため、舵角αは、車両Vがスリップしていない場合よりも運転者がカウンター操作をした場合の方が大きくなる。転舵装置9は、運転者によるカウンター操作に応じて、操舵輪を速やかに左方向に転舵する。この結果、車両Vが横滑りをしている場合に、車両Vの挙動を安定させることができる。
【0064】
[4.2.舵角αの時間変化の一例]
図6は、舵角決定装置10により決定される舵角αの時間変化の一例を示すグラフである。図6に示す時刻t0、t1、t3及びt4は、図5に示す時刻t0、t1、t3及びt4に対応する。
【0065】
車両Vが直進している場合、舵角α及び回転量3Aの各々はゼロである。舵角α及び回転量3Aの各々は、右に回転している場合、正である。舵角α及び回転量3Aの各々は、左に回転している場合、負である。
【0066】
図6に示す実線30は、舵角αの時間変化を示す。一点鎖線35は、回転量3Aの時間変化を示す。実線31Lは、ステアリングホイール3を左に90度回した場合における舵角αの時間変化を示す。実線31Rは、ステアリングホイール3を右に90度回した場合における舵角αの時間変化を示す。つまり、実線31L及び31Rは、車両Vが40km/hで走行する場合における最大舵角の時間変化であり、図6に示す期間における舵角αの実際の変化を示すものではない。
【0067】
(時刻t0)
時刻t0よりも前の期間において、車両Vは、通常走行している。この場合、舵角αの絶対値の最大値は、図4に示すように、35度である。舵角決定装置10は、基準角度線60に基づいて舵角αを決定する。
【0068】
時刻t0より前の期間において、運転者は、ステアリングホイール3を回していない。回転量3Aがゼロであるため、舵角αもゼロである。図6において、一点鎖線35を明瞭に示すために、回転量3Aがゼロである場合における一点鎖線35の位置を時間軸からずらしている。
【0069】
(時刻t1)
時刻t0から時刻t1まで、車両Vは、通常走行を続ける。車両Vは、時刻t1において、前後方向にスリップを開始する。スリップ判断部112は、時刻t1において、車両Vが前後方向にスリップしていると判断する。以下、車両が前後方向にスリップしているか否かを判断する摩擦係数取得部11の動作の一例を説明する。
【0070】
速度推定部111が、現在時刻(時刻t1)における推定スピード21を算出する。具体的には、速度推定部111は、下記式(1)を加速度aについて解くことにより、現在時刻における加速度aを算出する。
【0071】
M・a=Fd−Fa−Ft ・・・(1)
【0072】
式(1)において、Mは車両Vの質量、aは車両Vの前後方向の加速度である。加速度aの正方向は、車両Vの前方向である。Fdは車両Vの駆動力、Faは車両Vの空気抵抗、Ftは車両Vの駆動輪の転がり抵抗である。質量M及び転がり抵抗Ftは、定数であってもよいし、乗車人数等に応じて変化してもよい。空気抵抗Faは、定数であってもよいし、車両Vのスピード7Aに応じて変化してもよい。駆動力Faは、現在時刻におけるトルク8Aを駆動輪の半径で除算することにより得られる。
【0073】
速度推定部111は、基準時刻におけるスピード7Aと、式(1)から得られた加速度aとを下記式(2)に代入して、現在時刻における推定スピード21を算出する。
【0074】
Ve=Vo+a・T ・・・(2)
【0075】
式(2)において、Veが、現在時刻における推定スピード21である。Voは、推定基準時刻におけるスピード7Aである。Tは、現在時刻から推定基準時刻までの時間の長さである。
【0076】
スリップ判断部112は、現在時刻における推定スピード21と、現在時刻におけるスピード7Aとの差分絶対値を予め設定されたスリップ基準値と比較する。差分絶対値がスリップ基準値以下である場合、スリップ判断部112は、車両Vが前後方向にスリップしていないと判断する。差分絶対値がスリップ基準値よりも大きい場合、スリップ判断部112は、車両Vが前後方向にスリップしていると判断する。推定スピード21が速度センサ7により検出されたスピード7Aと大きくずれているためである。このように、スリップ判断部112は、車両Vがスリップしているか否かを簡易に判断することができる。
【0077】
時刻t1において、スピード7Aと推定スピード21との差分絶対値は、スリップ基準値よりも大きくなる。スリップ判断部112は、車両Vが前後方向にスリップしていると判断する。
【0078】
摩擦係数推定部113は、時刻t1におけるスリップ判断部112の判断に応じて、摩擦係数25を推定する。摩擦係数25は、式(3)をμについて解くことにより算出される。
【0079】
M・g・μ=Fd ・・・(3)
【0080】
式(3)において、gは重力加速度、μは摩擦係数25である。この結果、摩擦係数25が、図6に示す時刻t1において、1から0.7に変化する。摩擦係数推定部113は、推定した摩擦係数25を舵角決定部12に出力する。
【0081】
舵角決定部12は、図4に示す角度線の中から、時刻t1に推定された摩擦係数25に対応する変更角度線62を選択する。舵角決定部12は、選択した変更角度線62を用いて、回転量3Aに対応する舵角αを決定する。時刻t1において、回転量3Aが右に20度回転していることを示しているため、舵角αは、0度から10度に変化する。
【0082】
(時刻t2)
時刻t1から時刻t2にかけて、車両Vは前後方向にスリップを続ける。摩擦係数推定部113は、摩擦係数25の推定を繰り返す。時刻t2において、摩擦係数25は、0.7から0.3に減少する。回転量3Aは、時刻t1から時刻t2にかけて変化しない。
【0083】
舵角決定部12は、摩擦係数25の減少に伴って、舵角αの決定に用いる角度線を、変更角度線62から変更角度線63に変更する。舵角決定部12は、変更角度線63に基づいて、回転量3Aに対応する舵角αを決定する。この結果、回転量3Aが変化しないにもかかわらず、舵角αは、10度よりも小さくなる。
【0084】
つまり、摩擦係数25が低下した場合、舵角決定部12は、回転量3Aに基づいて決定される舵角αを減少させる。車両Vが摩擦係数の比較的小さい路面を走行する場合に、舵角決定装置10は、車両Vが運転者によるステアリングホイール3の操作に過敏に反応することを防ぐことができる。
【0085】
(時刻t3)
時刻2から時刻t3にかけて、車両Vは前後方向にスリップを続ける。時刻t3において、車両Vは、前後方向のスリップだけでなく、右に横滑りする。スリップ判断部112は、ヨーレートセンサ5から受けるヨーレート5Aに基づいて、車両Vが時刻t3において右に横滑りしていると判断する。
【0086】
舵角決定部12は、スリップ判断部112による横滑りの判断に応じて、最大角度線61と、変更角度線63とを選択する。変更角度線63は、ステアリングホイール3が右に回転した場合に用いられる。右方向における舵角αの最大値は、時刻t3において変化しない。最大角度線61は、ステアリングホイール3が左に回転した場合に用いられる。左方向における舵角αの最大値は、時刻t3において、−15度から−45度に変化する。
【0087】
舵角決定部12は、変更角度線63を用いて、舵角αを決定する。回転量3Aが時刻t3の前後で変化しないため、舵角αは時刻t3において変化しない。
【0088】
(時刻t4)
時刻3から時刻t4にかけて、車両Vは、前後方向のスリップと、右方向への横滑りを続ける。運転者は、時刻t4において、車両Vの強度を安定させるために、カウンター操作を行う。つまり、運転者は、車両Vの横滑り方向と反対の左方向にステアリングホイール3を回す。回転量3Aは、20度から−90度に変化する。
【0089】
舵角決定部12は、回転量3Aが基準位置から左に回転したため、最大角度線61に基づいて舵角αを決定する。回転量3Aが−90度であるため、舵角αは、−45度に決定される。転舵装置9は、時刻t4により決定された舵角αに基づいて、操舵輪を左に転舵する。転舵の結果、車両Vの右方向への横滑りが抑制される。
【0090】
(時刻t5)
時刻t4から時刻t5にかけて、車両Vは、前後方向のスリップと、右方向への横滑りを続ける。運転者は、カウンター操作を続ける。
【0091】
運転者によるカウンター操作の結果、右方向への横滑りが時刻t5において解消される。車両Vの前後方向のスリップは継続する。舵角決定部12は、右方向への横滑りの解消に伴って、最大角度線61の選択を解除する。変更角度線63は、引き続き選択される。車両Vの前後方向のスリップが続いているためである。
【0092】
図6に示す例では、運転者は、時刻t5において、ステアリングホイール3を基準位置に戻す。舵角決定部12が、舵角αを0度に決定するため、車両Vは、時刻t5から直進を開始する。なお、運転者が、時刻t5よりも後の期間にカウンター操作を続けた場合、舵角αは、変更角度線63に基づいて決定される。
【0093】
(時刻t6〜時刻t8)
時刻6において、車両Vの前後方向のスリップが解消される。車両Vは、時刻t6から通常走行を開始する。摩擦係数25は、時刻t6から時刻t7までの期間において、0.4のままである。
【0094】
通常走行が時刻t7から時刻t8に継続するため、摩擦係数取得部11は、摩擦係数25を時間の経過とともに徐々に増加させる。摩擦係数25は、時刻t8において、上限の1に達する。舵角決定部12は、時刻t7から時刻t8までの期間における摩擦係数25の増加に応じて、舵角αの決定に用いる角度線を変更する。時刻t8よりも後の期間において、基準角度線60が、舵角αの決定に用いられる。
【0095】
図6に示す例では、摩擦係数25が時刻t2から時刻t7にかけて一定である例を示しているが、これに限られない。摩擦係数25が時刻t2から時刻t7にかけて変化した場合、舵角決定部25は、変化した摩擦係数に対応する変更角度線を選択すればよい。
【0096】
[4.3.舵角決定装置10の動作]
図7は、図1に示す舵角決定装置10の動作を示すフローチャートである。舵角決定装置10は、車両Vのイグニッションスイッチがオンである場合、図7に示す処理を一定の時間間隔で繰り返し実行する。
【0097】
図7を参照して、摩擦係数取得部11が、車両Vが走行する路面の摩擦係数25を取得する(ステップS1)。ステップS1の詳細については後述する。
【0098】
摩擦係数取得部11は、ヨーレートセンサ5から受けるヨーレート5Aに基づいて、車両Vが横滑りしているか否かを判断する(ステップS2)。ステップS2の詳細については、後述する。
【0099】
舵角決定部12は、ステップS1で取得された摩擦係数25及びステップS2の判断結果に基づいて、舵角αを決定する(ステップS3)。転舵装置9は、ステップS3で決定された舵角αに基づいて操舵輪を転舵する。ステップS3の詳細については、後述する。
【0100】
[4.4.摩擦係数取得(ステップS1)]
図8は、図7に示す摩擦係数取得処理(ステップS1)のフローチャートである。図8を参照して、速度推定部111が、現在時刻における車両Vのスピードを推定する(ステップS11)。ステップS11の結果、推定スピード21が生成される。推定スピード21の計算の詳細は説明済みであるため、ここではその説明を省略する。
【0101】
スリップ判断部112は、ステップS11で生成された推定スピード21と現在時刻におけるスピード7Aとに基づいて、車両Vが前後方向にスリップしているか否かを判断すする(ステップS12)。具体的には、スリップ判断部112は、推定スピード21とスピード7Aとの差分絶対値を算出し、その算出した差分絶対値を予め設定されたスリップ基準値と比較する。
【0102】
算出した差分絶対値がスリップ基準値よりも大きい場合、スリップ判断部112は、車両Vが前後方向にスリップしていると判断する(ステップS12においてYes)。この場合、摩擦係数推定部113が、現在時刻における摩擦係数25を推定する(ステップS13)。摩擦係数25の推定方法については説明済みであるため、ここではその説明を省略する。
【0103】
ステップS13の後に、摩擦係数推定部113は、通常走行の継続時間をゼロに設定する(ステップS14)。通常走行の継続時間は、前後方向のスリップが解消した後に、摩擦係数25を徐々に増加させるために用いられる。車両Vは、前後方向にスリップしているため、通常走行をしていない。従って、通常走行の継続時間は、ゼロに設定される。その後、摩擦係数取得部11は、図8に示す処理を終了する。
【0104】
ステップS12の説明に戻る。算出した差分絶対値がスリップ基準値以下である場合、スリップ判断部112は、車両Vが前後方向にスリップしていないと判断する(ステップS12においてNo)。この場合、摩擦係数推定部113は、通常走行の継続時間がゼロであるか否かを判断する(ステップS15)。
【0105】
通常走行の継続時間がゼロである場合(ステップS15においてYes)、摩擦係数推定部113は、車両Vが前後方向のスリップから通常走行に復帰した直後であると判断する。摩擦係数推定部113は、通常走行の継続時間の計測を開始する(ステップS16)。その後、摩擦係数推定部113は、ステップS17に進む。通常走行の継続時間がゼロより大きい場合(ステップS15においてNo)、摩擦係数推定部113は、ステップS17に進む。通常走行の継続時間の計測中であるためである。
【0106】
摩擦係数推定部113は、通常走行の継続時間を予め設定された調整基準時間と比較する(ステップS17)。
【0107】
通常走行の継続時間が調整基準時間以下である場合(ステップS17においてYes)、摩擦係数推定部113は、摩擦係数25を増加させることなく、図8に示す処理を終了する。図6に示す例において、時刻t6から時刻t7までの期間が、通常走行の継続時間が基準時間以下である期間に相当する。
【0108】
通常走行の継続時間が調整基準時間よりも長い場合(ステップS17においてYes)、摩擦係数推定部113は、摩擦係数25を増加させる(ステップS18)。具体的には、予め設定された加算値を摩擦係数25に加算する。ステップS18は、図6に示す時刻t7から時刻t8にかけて実行される。ステップS18の結果、摩擦係数25が最大値である1を超えた場合、摩擦係数25は、1に設定される。その後、摩擦係数取得部11は、図8に示す処理を狩猟する。
【0109】
舵角αが、車両Vの前後方向のスリップが解消された直後に基準角度線60を用いて決定された場合、舵角αが急激に変化する虞がある。そこで、前後方向のスリップが解消された場合、摩擦係数推定部113は、調整基準時間を経過するまで摩擦係数25を維持する。その後、摩擦係数推定部113は、摩擦係数25を徐々に増加させる。これにより、舵角αが車両Vの前後方向のスリップが解消された直後に急激に変化することがないため、車両の挙動を安定させることができる。
【0110】
[4.5.横滑り判断(ステップS2)]
横滑り判断処理(ステップS2)において、スリップ判断部112は、左横滑りフラグ及び右横滑りフラグを用いる。左横滑りフラグ及び右横滑りフラグは、横滑り判断結果23に含まれる。
【0111】
右横滑りフラグは、車両Vが右方向に横滑りしているか否かを示す情報である。左横滑りフラグは、車両Vが左方向に横滑りしているか否かを示す情報である。右横滑りフラグ及び左横滑りフラグは、車両Vのイグニッションスイッチがオンされた時に、オフに初期化される。
【0112】
図9は、図7に示す横滑り判断処理(ステップS2)のフローチャートである。図9を参照して、スリップ判断部112は、ヨーレートセンサ5から受けたヨーレート5Aに基づいて、車両Vが右方向に横滑りしているか否かを判断する(ステップ21)。具体的には、スリップ判断部112は、ヨーレート5Aを予め設定された右横滑り基準値と比較する。ヨーレート5Aの符号は、舵角αの符号と同様に、右方向が正である。
【0113】
ヨーレート5Aが右横滑り基準値より大きい場合、スリップ判断部112は、車両Vが右方向に横滑りしていると判断する(ステップS21においてYes)。この場合、スリップ判断部112は、右横滑りフラグをオンに設定し(ステップS22)、左横滑りフラグをオフに設定する(ステップS23)。
【0114】
ヨーレート5Aが右横滑り基準値以下である場合、スリップ判断部112は、車両Vが右方向に横滑りしていないと判断する(ステップS21においてNo)。この場合、スリップ判断部112は、ステップS24に進む。
【0115】
スリップ判断部112は、ヨーレートセンサ5から受けたヨーレート5Aに基づいて、車両Vが左方向に横滑りしているか否かを判断する(ステップ24)。具体的には、スリップ判断部112は、ヨーレート5Aを予め設定された左横滑り基準値と比較する。
【0116】
ヨーレート5Aが左横滑り基準値より大きい場合、スリップ判断部112は、車両Vが左方向に横滑りしていると判断する(ステップS24においてYes)。この場合、スリップ判断部112は、右横滑りフラグをオフに設定し(ステップS25)、左横滑りフラグをオンに設定する(ステップS26)。
【0117】
ヨーレート5Aが左横滑り基準値以下である場合、スリップ判断部112は、車両Vが左方向に横滑りしていないと判断する(ステップS24においてNo)。この場合、スリップ判断部112は、ステップS27に進む。
【0118】
スリップ判断部112は、横滑りが解消されているか否かを判断する(ステップS12)。具体的には、スリップ判断部112は、下記の2つの条件が満たされている場合、横滑りが解消されていると判断する。
【0119】
第1の条件は、ヨーレート5Aの絶対値が予め設定された姿勢安定閾値以下であることである。第2の条件は、回転量3Aが予め設定された直進範囲内であることである。回転量3Aが直進範囲内である場合、回転量3Aは、ステアリングホイール3が車両Vの直進を指示していることを示す。
【0120】
第1の条件及び第2の条件の両者が満たされる場合、スリップ判断部112は、横滑りが解消されたと判断する(ステップS27においてYes)。スリップ判断部112は、右横滑りフラグをオフに設定し(ステップS28)、左横滑りフラグをオフに設定する(ステップS29)。その後、スリップ判断部112は、図9に示す処理を終了する。
【0121】
第1の条件及び第2の条件の少なくとも一方が満たされない場合、スリップ判断部112は、横滑りが解消されていないと判断する(ステップS27においてYes)。この場合、スリップ判断部112は、右横滑りフラグ及び左横滑りフラグの両者を変更することなく、図9に示す処理を終了する。
【0122】
なお、車両Vが通常走行をしている場合であっても、ステップS27が実行される。車両Vが通常走行中であり、かつ、第1の条件及び第2の条件が満たされる場合、車両Vが直進していると考えられる。この場合、左横滑りフラグ及び右横滑りフラグはオフにされる(ステップS28及びS29)。
【0123】
車両Vが通常走行をしているにも関わらず、第1の条件及び第2の条件の少なくとも一方が満たされないケースがある(ステップS27においてNo)。このケースは、車両Vが旋回中である場合、第1の条件及び第2の条件の少なくとも一方が満たされないと考えらえられる。この場合、左横滑りフラグ及び右横滑りフラグは変更されないため、これら2つのフラグのオフが継続される。
【0124】
[4.6.舵角決定(ステップS3)]
図10は、図7に示す舵角決定処理(ステップS3)のフローチャートである。図10を参照して、舵角決定部12は、右横滑りフラグがオンであるか否かを判断する(ステップS301)。
【0125】
右横滑りフラグがオンである場合(ステップS301においてYes)、車両Vが右横滑りをしている。この場合、舵角決定部12は、ステアリングホイール3が左回転しているか否かを判断する(ステップS302)。
【0126】
ステアリングホイール3が左回転している場合(ステップS302においてYes)、運転者は、右横滑りに対するカウンター操作を行っている。この場合、舵角決定部12は、最大角度線61を用いて舵角αを決定する(ステップS303)。具体的には、舵角決定部12は、最大角度線61において回転量3Aに対応する角度を特定する。舵角決定部12は、特定した角度の符号をマイナスに設定することにより、舵角αを決定する。
【0127】
ステアリングホイール3が左回転していない場合(ステップS302においてNo)、運転者は、右横滑りに対するカウンター操作を行っていない。この場合、舵角決定部12は、ステップS1で取得された摩擦係数25に対応する変更角度線を選択する(ステップS304)。舵角決定部12は、選択した変更角度線に対応する角度に基づいて舵角αを決定する(ステップS305)。具体的には、舵角決定部12は、選択した変更角度線において回転量3Aに対応する角度を特定し、特定した角度を舵角αに決定する。
【0128】
右横滑りフラグがオフである場合(ステップS301においてNo)、舵角決定部12は、左横滑りフラグがオンであるか否かを判断する(ステップS306)。
【0129】
左横滑りフラグがオンである場合(ステップS306においてYes)、車両Vが左横滑りをしている。この場合、舵角決定部12は、ステアリングホイール3が右回転しているか否かを判断する(ステップS307)。
【0130】
ステアリングホイール3が右回転している場合(ステップS307においてYes)、運転者は、左横滑りに対するカウンター操作を行っている。この場合、舵角決定部12は、最大角度線61を用いて舵角αを決定する(ステップS308)。具体的には、舵角決定部12は、最大角度線61において回転量3Aに対応する角度を特定する。舵角決定部12は、特定した角度を舵角αとして決定する。
【0131】
ステアリングホイール3が右回転していない場合(ステップS302においてNo)、運転者は、左横滑りに対するカウンター操作を行っていない。この場合、舵角決定部12は、ステップS1で取得された摩擦係数25に対応する変更角度線を選択する(ステップS309)。舵角決定部12は、選択した変更角度線に対応する角度に基づいて舵角αを決定する(ステップS310)。具体的には、舵角決定部12は、選択した変更角度線において回転量3Aに対応する角度を特定する。舵角決定部12は、特定した角度の符号をマイナスに設定することにより、舵角αを決定する。
【0132】
ステップS306の説明に戻る。右横滑りフラグがオフである場合(ステップS306においてNo)、舵角決定部12は、車両Vが横滑りをしていないと判断する。この場合、舵角決定部12は、下記の2つの条件の少なくとも一方が満たされているか否かを判断する(ステップS311)。第1の条件は、車両Vが前後方向にスリップしていることである。第2の条件は、推定された摩擦係数が1より小さいことである。
【0133】
車両Vが前後方向にスリップしている場合、又は、摩擦係数が1より小さい場合(ステップS311においてYes)、舵角決定部12は、ステップS1で取得された摩擦係数25に対応する変更角度線を選択する(ステップS312)。舵角決定部12は、選択した変更角度線を用いて舵角αを決定する(ステップS313)。具体的には、舵角決定部12は、選択した変更角度線において回転量3Aに対応する角度を特定する。舵角決定部12は、回転量3Aの符号と同じ符号を、特定した角度に設定することにより舵角αを生成する。
【0134】
なお、図6に示す時刻t7から時刻t8までの期間において、車両Vが前後方向にスリップしておらず、かつ、摩擦係数が1より小さい。摩擦係数は、この期間において徐々に増加している。この期間においては、舵角αは、摩擦係数に対応する変更舵角線に基づいて決定される。時刻t7から時刻t8までの期間において、舵角αは、摩擦係数の増加に伴って徐々に増加する。これにより、舵角αが、前後方向のスリップが解消された時点で、基準角度線60に基づいて決定されることがない。舵角αが、前後方向のスリップが解消された時点で急激に変化することを防ぐことができるため、舵角決定装置10は、車両Vの挙動を安定させることができる。
【0135】
車両Vが前後方向にスリップしていない場合、又は、摩擦係数が1以上である場合(ステップS311においてNo)、舵角決定部12は、基準角度線60を用いて舵角αを決定する(ステップS314)。ステップS314は、基準角度線60を用いる点を除き、ステップS313と同様であるため、その説明を省略する。
【0136】
[5.変形例]
上記実施の形態において、車両Vが横滑りしているか否かをスリップ判断部112が判断する例を説明したが、これに限られない。スリップ判断部112は、車両Vが横滑りしているか否かを判断しなくてもよい。この場合、図10に示す舵角決定処理(ステップS3)において、ステップS301〜S310を実行しなくてもよい。
【0137】
上記実施の形態において、舵角線が直線である例を説明したが、これに限られない。図4に示す舵角線が互いに交わらなければよい。上記の条件において、一のスピードにおいて、最大舵角線61は、基準舵角線60より大きく、変更舵角線が基準舵角線60より小さければよい。
【0138】
また、一のスピードに対応する複数の変更舵角線が設定される場合、これら複数の変更舵角線の各々は、互いに交差しない。摩擦係数が小さくなるにつれて、変更舵角線が小さくなればよい。
【0139】
上記実施の形態において、摩擦係数推定部113は、車両Vが前後方向にスリップしていると判断された場合に摩擦係数25を推定する例を説明したが、これに限られない。摩擦係数推定部25は、車両Vが前後方向にスリップしているか否かに関係なく、摩擦係数25を推定してもよい。この場合、舵角決定部10は、推定した摩擦係数が所定値以上である場合に、基準舵角線を使用すればよい。
【0140】
上記実施の形態において、ヨーレート5Aが、車両Vが横滑りしているか否かの判断に用いられる例を説明したが、これに限られない。舵角決定装置10は、車両Vに搭載された3軸加速度センサを用いてもよい。3軸加速度センサは、前後方向及び横方向の加速度を検出できるように配置されることが望ましい。スリップ判断部112は、3軸加速度センサから取得される横方向の加速度に基づいて、車両Vが横滑りしているか否かを判断する。また、速度推定部111は、3軸加速度センサから取得される前後方向の加速度を用いて、車両Vの速度を推定してもよい。
【0141】
上記実施の形態において、舵角決定装置10が、速度センサ7からスピード7Aを取得する例を説明したが、これに限られない。例えば、舵角決定装置10は、車両Vに搭載されたカメラにより撮影された画像の時間変化に基づいて、スピード7Aを取得してもよい。つまり、舵角決定装置10は、スピード7Aを取得できれば、その取得方法は特に限定されない。
【0142】
上記実施の形態において、車両Vが電気自動車である場合、舵角決定装置10は、トルク8Aに代えて、モータのトルクを用いてもよい。
【0143】
上記実施の形態において、摩擦係数推定部113が、トルク8Aを用いて摩擦係数25を推定する例を説明したが、これに限られない。摩擦係数取得部11が、路面の摩擦係数を取得することができれば、その取得方法は特に限定されない。
【0144】
また、上記実施の形態において、舵角決定装置10は、LSI(Large Scale Integration)などの半導体装置により個別に1チップ化されてもよいし、一部又は全部を含むように1チップ化されてもよい。ここでは、LSIとしたが、集積度の違いにより、IC(Integrated Circuit)、システムLSI、スーパーLSI、ウルトラLSIと呼称されることもある。
【0145】
集積回路化の手法はLSIに限るものではなく、専用回路又は汎用プロセサで実現してもよい。LSI製造後に、プログラムすることが可能なFPGA(Field Programmable Gate Array)や、LSI内部の回路セルの接続や設定を再構成可能なリコンフィギュラブル・プロセッサを利用してもよい。
【0146】
また、舵角決定装置10により実行される処理の一部または全部は、プログラムにより実現されてもよい。そして、上記各実施の形態の各機能ブロックの処理の一部または全部は、コンピュータにおいて、中央演算装置(CPU)により行われる。また、それぞれの処理を行うためのプログラムは、ハードディスク、ROMなどの不揮発性記憶装置に格納されており、ROMにおいて、あるいはRAMに読み出されて実行される。
【0147】
また、上記実施の形態の各処理をハードウェアにより実現してもよいし、ソフトウェア(OS(オペレーティングシステム)、ミドルウェア、あるいは、所定のライブラリとともに実現される場合を含む。)により実現してもよい。さらに、ソフトウェアおよびハードウェアの混在処理により実現しても良い。
【0148】
例えば、舵角決定装置10を、ソフトウェアにより実現する場合、図18に示したハードウェア構成(例えば、CPU、ROM、RAM、入力部、出力部等をバスBusにより接続したハードウェア構成)を用いて、各機能部をソフトウェア処理により実現するようにしてもよい。
【0149】
また、上記実施の形態における処理方法の実行順序は、上記実施の形態の記載に制限されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で実行順序を入れ替えてもよい。
【0150】
前述した方法をコンピュータに実行させるコンピュータプログラム及びそのプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体は、本発明の範囲に含まれる。ここで、コンピュータ読み取り可能な記録媒体としては、例えば、フレキシブルディスク、ハードディスク、CD−ROM、MO、DVD、DVD−ROM、DVD−RAM、大容量DVD、次世代DVD、半導体メモリを挙げることができる。
【0151】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上述した実施の形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。よって、本発明は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変形して実施することが可能である。
【符号の説明】
【0152】
10 舵角決定装置
11 摩擦係数取得部
12 舵角決定部
111 速度推定部
112 スリップ判断部
113 摩擦係数推定部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11