【解決手段】本発明の一態様は、車体2に生じる振動を抑えるために当該車体2と台車3との間に設けられた制振用ダンパ5を有し、制振用ダンパ5は、シリンダ10を備えるセミアクティブダンパと、シリンダ10へ作動油を供給するポンプ31と、ポンプ31を駆動させるモータ32と、を備える鉄道車両1の制振装置8において、シリンダ10に対して必要な作動油の供給量が所定量よりも少ない特定条件下であるときに、モータ32の回転数を特定条件下でないときよりも低く制御する制振コントローラ6を有する。
車体に生じる振動を抑えるために当該車体と台車との間に設けられた制振用ダンパを有し、前記制振用ダンパは、シリンダを備えるセミアクティブダンパと、前記シリンダへ流体を供給するポンプと、前記ポンプを駆動させるモータと、を備える鉄道車両の制振装置において、
前記シリンダに対して必要な前記流体の供給量が所定量よりも少ない特定条件下であるときに、前記モータの回転数を前記特定条件下でないときよりも低く制御する制御部を有すること、
を特徴とする鉄道車両の制振装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示されるような鉄道車両の制振装置においては、従来より、装置構成を簡略化するために、油圧ポンプを駆動させるためのモータの回転数を一定として、シリンダの伸縮速度を一定にすることにより、出来るだけ複雑な制御を行わないようにしている。そして、モータの回転数は、常に必要最大の回転数として一定とされている。
【0005】
しかしながら、このようにモータの回転数を常に必要最大の回転数として一定にすると、シリンダの伸縮速度が小さくてよい場合でも、シリンダに必要以上の作動油を供給してしまい、シリンダの伸縮速度が必要以上に大きくなってしまう。そうすると、必要なシリンダの伸縮速度に対応させた最適な量の作動油をシリンダに供給する場合に比べて、制振性能が低下して(制振機能を損なって)、乗心地が悪化するおそれがある。また、モータの回転数を必要最大の回転数に一定にしてモータを駆動させるため、油圧ポンプやモータにかかる負荷が大きくなり、油圧ポンプやモータの寿命が短くなるおそれもある。
【0006】
そこで、本発明は上記した問題点を解決するためになされたものであり、制振性能の向上を図るとともに、ポンプやモータなどの構成部品の寿命の延伸を図ることができる鉄道車両の制振装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するためになされた本発明の一形態は、車体に生じる振動を抑えるために当該車体と台車との間に設けられた制振用ダンパを有し、前記制振用ダンパは、シリンダを備えるセミアクティブダンパと、前記シリンダへ流体を供給するポンプと、前記ポンプを駆動させるモータと、を備える鉄道車両の制振装置において、前記シリンダに対して必要な前記流体の供給量が所定量よりも少ない特定条件下であるときに、前記モータの回転数を前記特定条件下でないときよりも低く制御する制御部を有すること、を特徴とする。
【0008】
この態様によれば、特定条件下において、モータの回転数を低くして、シリンダの伸縮速度を小さくできる。そして、このようにして、必要なシリンダの伸縮速度に対応させて、最適な量の作動油をシリンダに供給することができる。そのため、シリンダに必要以上の作動油が供給されないので、シリンダの伸縮速度が必要以上に大きくなってしまうことを防ぐことができる。したがって、制振性能が向上して、乗り心地が向上する。また、モータの駆動時におけるポンプやモータにかかる負荷を抑制できるので、ポンプやモータの寿命が長くなる。ゆえに、制振性能の向上を図るとともに、ポンプやモータなどの構成部品の寿命の延伸を図ることができる。
【0009】
上記の態様においては、前記特定条件下には、前記鉄道車両が特定区間を走行する条件下と、前記制振用ダンパが設けられる鉄道車両が特定号車となる条件下と、前記車体の左右速度が規定値以下である条件下と、制御指令変化が規定値以下である条件下のうちの少なくとも1つが含まれること、が好ましい。
【0010】
この態様によれば、各条件下に対して乗り心地の良さを確保しながら、ポンプやモータなどの構成部品の寿命の延伸を図ることができる。
【0011】
上記の態様においては、前記制振用ダンパは1つの前記台車につき2つ搭載されており、前記制御部は、前記特定条件下であるときに、2つの前記制振用ダンパの各々の前記モータの回転数を別回転数とすること、が好ましい。
【0012】
この態様によれば、1つの台車に搭載される2つの制振用ダンパにおけるモータの回転数を、各々、必要なシリンダの伸縮速度に対応させた最適な回転数にすることができる。そのため、制振性能のさらなる向上を図ることができるとともに、ポンプやモータなどの構成部品の寿命のさらなる延伸を図ることができる。
【0013】
上記の態様においては、前記制御部は、前記特定条件下でないときに前記モータの回転数を必要最大の回転数に制御し、前記特定条件下であるときに前記モータの回転数を前記必要最大の回転数よりも低い回転数に制御すること、が好ましい。
【0014】
この態様によれば、制振性能の向上を図るとともに、ポンプやモータなどの構成部品の寿命の延伸を図ることができ、さらに、特定条件下でないときにおいてセミアクティブダンパのシリンダの伸縮速度を最大にする必要がある場合に対応できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る鉄道車両の制振装置によれば、制振性能の向上を図るとともに、ポンプやモータなどの構成部品の寿命の延伸を図ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。なお、まず、制振用ダンパの全体的な説明をした上で、制振用ダンパに備わるモータの回転数の制御に関して説明する。
【0018】
本実施形態において、
図1に示すように、鉄道車両1は、前後2台の台車3に空気バネ4を介して車体2が載せられ、車体2の横揺れを防止するための制振装置8が設けられている。制振装置8には、車体2と台車3との間に制振用ダンパ5が連結され、車体2の横揺れに応じて制振用ダンパ5の制振荷重を変化させ、制振度合いの調節を可能にしている。
【0019】
制振用ダンパ5は、シリンダ10(
図2参照)の作動油を制御する比例リリーフ弁等を備えた油圧回路によって構成され、制振装置8には、その比例リリーフ弁等の作動を制御する制振コントローラ6(本発明の「制御部」の一例)が設けられている。また、鉄道車両1には、車体2の左右方向の振動を検出する加速度センサ7が設けられ、それに制振コントローラ6が接続されている。
【0020】
図2に示すように、シリンダ10は、ピストン15がヘッド側室13とロッド側室14とにシリンダチューブ11内を仕切り、そのピストン15には、ヘッド側室13からロッド側室14の方向にのみ作動油が流れるようにチェック弁16を備えた連通路が形成されている。ヘッド側室13の断面積はピストンロッド12の断面積の2倍に設定され、伸縮のいずれの場合においても、シリンダチューブ11から吐出される作動油の量が同じになるように構成されている。
【0021】
シリンダ10には、ヘッド側室13にチェック弁25を介してオイルタンク18が接続されている。一方、ロッド側室14には流路41が接続され、その流路41から流路42が分岐し、そこに第1比例リリーフ弁21が設けられている。第1比例リリーフ弁21の二次側には、流路42から分岐した流路43がオイルタンク18へ接続されている。流路43には、パッシブ用の低圧リリーフ弁22と第2比例リリーフ弁23が直列に設けられている。
【0022】
第1比例リリーフ弁21及び第2比例リリーフ弁23は、ノーマルオープンタイプの電磁比例リリーフ弁であり、
図1に示す制振コントローラ6からの荷重制御信号に従い、リリーフ圧を調整したオンロード制御が行われ、通常の全開状態でアンロード制御を可能にしたものである。制振用ダンパ5には更に、各弁による作動油の流れが遮断したフェイル時においてもオイルを還流させることができるようにするため、ロッド側室14とオイルタンク18との間に、オリフィス26とリリーフ弁27とが設けられている。
【0023】
シリンダ10のヘッド側室13に接続された流路44は、低圧リリーフ弁22と第2比例リリーフ弁23との間で流路43に接続され、その流路44には第1比例リリーフ弁21を設けた流路42が接続され、ロッド側室14側に連通している。流路42,44には、それぞれ開閉弁28,29が設けられている。開閉弁28,29は、両方向への作動油の流れを可能とする開弁状態と、一方向の流れのみを遮断する閉弁状態とが切り替えられるものである。ただし、閉弁状態での作動油の遮断方向について、開閉弁28はロッド側室14からヘッド側室13の流れを遮断する方向、開閉弁29はヘッド側室13からロッド側室14の流れを遮断する方向になるように構成されている。
【0024】
制振用ダンパ5は、このように第1比例リリーフ弁21や第2比例リリーフ弁23などを備えた流路41,42,43,44によってセミアクティブ回路部が構成されている。そして、更に制振用ダンパ5には、モータ32によって駆動するポンプ31が接続され、シリンダ10へ積極的に作動油を供給するフルアクティブ回路部が構成されている。フルアクティブ回路部は、ポンプ31が接続された流路45と、第3比例リリーフ弁33が接続された戻り流路46によって構成されている。
【0025】
ポンプ31は、流路45によってオイルタンク18に接続され、そのオイルタンク18の作動油をシリンダ10側へ供給するようにしたものであり、チェック弁34を介して流路41,42に接続されている。ポンプ31の二次側では戻り流路46が分岐し、オイルタンク18に接続されている。第3比例リリーフ弁33は、ノーマルオープンタイプの電磁比例リリーフ弁であり、フルアクティブ作動時の制振荷重を調整するためのものである。制振コントローラ6からの荷重制御信号に従いリリーフ圧が調整される。
【0026】
次に、
図3及び
図4は、制振用ダンパ5の制振時における作動油の流れを示した回路図である。図面上、セミアクティブ作動における作動油の流れを太線で示し、ポンプ31から送られるフルアクティブ作動における作動油の流れを破線で示している。また、セミアクティブ作動の制振用ダンパ5は、シリンダ10が伸び又は縮みの際に制振荷重を発生させるオンロード(以下、それぞれを「伸びオンロード」又は「縮みオンロード」とする)と、逆の縮み方向や伸び方向に抵抗を与えないようにするアンロード(以下、それぞれを「縮みアンロード」又は「伸びアンロード」とする)とが切り替えられる。例えば、伸びオンロードは、
図1に示す車体2が右側に揺れるのを抑えるため、シリンダ10が伸びに対して制振荷重を発生させる。
【0027】
制振用ダンパ5は、
図1に示す加速度センサ7からの検出信号に基づき、制振コントローラ6が車体横方向の揺れを判断し、第1比例リリーフ弁21及び第2比例リリーフ弁23の制御が行われる。また、制振時には両方向に作動油が流れるように開閉弁28,29が切り替えられる。そこで、
図3の伸びオンロードの場合には、制振コントローラ6により第1比例リリーフ弁21及び第3比例リリーフ弁33のリリーフ圧が設定され、第2比例リリーフ弁23が全開状態に切り替えられる。
【0028】
図3(a)に示す伸びオンロード時には、シリンダ10の伸長によりロッド側室14内の作動油が流路41へ押し出され、流路42の第1比例リリーフ弁21及び開閉弁28を通り、流路44を流れてヘッド側室13へと戻る。このときは、第1比例リリーフ弁21のリリーフ圧によって制振荷重が発生する。
【0029】
一方、この伸びオンロード時に、軌道狂いなどにより台車3が車体2と同方向に振れる場合がある。このとき、台車3の振れが速いと、シリンダ10が収縮してヘッド側室13内の圧力が高くなる。ヘッド側室13内の作動油は、
図3(b)に示すように流路44に押し出され、開閉弁29を通って流路43へと流れ、更に全開状態の第2比例リリーフ弁23を通ってオイルタンク18へと流れる。こうして制振用ダンパ5は縮みアンロードに切り替わり、台車3の振れによって車体2の揺れが大きくなることを防止している。
【0030】
次に、
図4の縮みオンロードの場合、制振用ダンパ5は、
図1に示す車体2が左側に揺れてシリンダ10が収縮し、その収縮作動に対して制振荷重を発生させる。このとき、第2比例リリーフ弁23のリリーフ圧が設定され、第1比例リリーフ弁21は全開状態に切り替えられる。制振用ダンパ5は、シリンダ10が収縮することにより、
図4(a)に示すように、ヘッド側室13内の作動油が流路44へ押し出され、負圧になったロッド側室14へチェック弁16を介して一部が流れる。
【0031】
このとき第1比例リリーフ弁21が全開状態であるため、流路41,42,44が等圧になっている。流路44へ押し出された作動油は開閉弁29を通り、第2比例リリーフ弁23を介してオイルタンク18へと流れる。従って、第2比例リリーフ弁23のリリーフ圧によって制振荷重が発生する。
【0032】
一方、こうした縮みオンロード時に、軌道狂いなどにより台車3が車体2と同方向に振れた場合、台車3の方が速いと、シリンダ10が伸びてロッド側室14内の圧力が高くなる。ロッド側室14内の作動油は、
図4(b)に示すように流路41に押し出され、全開状態の第1比例リリーフ弁21を通り、開閉弁28を通ってヘッド側室13へ流れる。また、容積の大きいヘッド側室13には、負圧によってオイルタンク18からの作動油も流れ込む。従って、この時には制振用ダンパ5が伸びアンロードに切り替わり、台車3の振れによって車体2の揺れが大きくなることを防止している。
【0033】
ところで、制振用ダンパ5は、こうしたセミアクティブ作動によって制振を実行している場合に、ポンプ31から作動油がシリンダ10側へ送り出されている。従って、制振用ダンパ5では、前述したようにセミアクティブダンパとして機能するが、更にポンプ31から送り出される作動油によって能動的な制振が行われる。すなわち、制振用ダンパ5は、フルアクティブアクチュエータであり、シリンダ10とセミアクティブ回路部などを備えるセミアクティブダンパと、ポンプ31と、モータ32などを備える。なお、本実施形態ではポンプ31を常時駆動して油圧回路に作動油を流すことが可能である。これは、制振に対する応答性を良くし、それによってポンプ31やモータ32の小型化を図るためである。そして、ポンプ31の常時駆動を可能にするため、本実施形態では、第3比例リリーフ弁33を有する戻り流路46を設けた構成となっている。
【0034】
仮に、この戻り流路46が存在しないとすると、ポンプ31から供給され続ける作動油によってヘッド側室13やロッド側室14内の圧力が過剰に高くなり、却って制振機能を損なうことになる。例えば、
図3(a)に示す伸びオンロードの場合、ヘッド側室13側に過剰な圧力が作用することになり車体2の揺れを大きくしてしまうからである。こうした課題を解消するには、セミアクティブダンパとしてシリンダ10が受ける荷重方向を検出し、ポンプ31の回転数をその都度制御することが考えられる。しかし、それにはシリンダ10の伸縮速度を測定する必要が生じ、そのための構成が複雑になって制振用ダンパ5のコストを上げてしまうことになる。
【0035】
また、モータ32をその都度制御する構成では、ポンプ31やモータ32の応答性が良くない点にも問題がある。すなわち、制振応答が高ければ、車体2の揺れを初期段階で防止するため、制振荷重も小さくすることができ、それに応じてポンプ31やモータ32を小型化することができる。しかし、シリンダ10の伸縮状態を検出しながら作動油の供給を制御したのでは、制振応答が遅れる分だけ必要な制振荷重が大きくなり、それに比例してポンプ31やモータ32を大型にしなければならない。それでも小型のものを使用すれば、ポンプ31やモータ32が最大トルクで使用される頻度が高くなり、次に制振用ダンパ5について耐久性が問題になる。
【0036】
そこで、本実施形態では、こうした様々な問題を考慮し、ポンプ31の二次側に第3比例リリーフ弁33を設けた戻り流路46をオイルタンク18に接続し、常にポンプ31からシリンダ10側へ作動油を供給できるようにした。そのため、制振用ダンパ5では、必要に応じて作動油がシリンダ10へ送り込まれ、シリンダ10に対し車体2の揺れに対応した応答性の良い制振が行われる。その一方で過剰な圧力を与えないように圧力調整が行われる。そして、応答性が良いことから、制振荷重が大きくなる前に車体2の揺れを抑えるため、ポンプ31及びモータ32を小型のもので構成することが可能となる。
【0037】
続いて、フルアクティブ回路部を含めた制振用ダンパ5の制振について、
図3及び
図4を参照して説明する。先ず、前述した
図3(a)に示す伸びオンロードの場合、制振開始後の初期段階でシリンダ10の伸縮速度が遅ければ、第1比例リリーフ弁21の設定圧に達するのに時間を要する。そうした場合でも、ポンプ31からの作動油が流路41側へ送り出され、流路41及びロッド側室14内の圧力が設定圧に高められることにより、短時間で第1比例リリーフ弁21による制振荷重を発生させ、車体2に対する制振状態とすることができる。なお、ポンプ31から第1比例リリーフ弁21を通った作動油は、流路42の開閉弁28を通り、流路44からヘッド側室13へ送られる。
【0038】
第3比例リリーフ弁33は、フルアクティブ作動時の制振荷重に設定されており、流路41の流体圧がその設定圧に達すると、ポンプ31からの作動油は第3比例リリーフ弁33側へ流れが切り替わり、戻り流路46を流れてオイルタンク18へ送り込まれる。その間、ロッド側室14から送り出された作動油は、前述したように流路41,42,44を通ってヘッド側室13へ流れ、第1比例リリーフ弁21によって制振荷重を発生させた伸びオンロードが実行される。
【0039】
図3(a)の伸びオンロード時に、
図3(b)の縮みアンロードに切り替わった場合には、ポンプ31からの作動油は負圧になったシリンダ10のロッド側室14へ流れ込む。これにより、縮みアンロード時にでもロッド側室14側の圧力を高め、シリンダ10の伸び方向(図面左側)に対する制振荷重を発生させて車体2の制振が可能になる。そして、ロッド側室14内の圧力が高くなれば、ポンプ31からの作動油は流路42から流路44,43を通ってオイルタンク18へと送られる。更に圧力が高まった場合には、第3比例リリーフ弁33が開き、ポンプ31による作動油の流れは戻り流路46に切り替わる。
【0040】
次に、
図4(a)に示す縮みオンロードの場合、ポンプ31からの作動油は負圧になったロッド側室14へ流れる。その後、第1比例リリーフ弁21の設定圧が低いため、作動油の流れが流路42へ切り替わり、流路44,43を通ってオイルタンク18へ流れる。更に太線で示す流れの圧力が高くなることで第3比例リリーフ弁33が開き、ポンプ31からの作動油は戻り流路46に流れ、オイルタンク18へと送られる。その間、ヘッド側室13から送り出された作動油は、前述したように流路44,43を通ってオイルタンク18へ流れ、第2比例リリーフ弁23によって制振荷重を発生させた縮みオンロードが実行される。
【0041】
縮みオンロードに切り替わった際、制振開始後の初期段階でシリンダ10の伸縮速度が遅ければ、流路41,42側の圧力が低くヘッド側室13からの作動油が第2比例リリーフ弁23の設定圧に達しないため、制振荷重を発生させるのに時間を要する。この点、ポンプ31から作動油が供給され、流路41,42及び流路44を第2比例リリーフ弁23の設定圧にすることにより、短時間で制振荷重を発生させて車体2に対する制振が可能となる。
【0042】
図4(a)の縮みオンロード時に、
図4(b)の伸びアンロードに切り替わった場合には、ポンプ31からの作動油は負圧になったヘッド側室13へ流れ込む。これにより、伸びアンロード時にでもヘッド側室13側の圧力を高め、シリンダ10の縮み方向(図面右側)に対する制振荷重を発生させ、車体2の制振が可能になる。そして、ヘッド側室13内の圧力が高くなれば、第3比例リリーフ弁33が開き、ポンプ31からの作動油は戻り流路46からオイルタンク18へ流れ、また、流路44へ流れた作動油は、ヘッド側室13の流れが制限された後は、流路43の第2比例リリーフ弁23を通ってオイルタンク18へ流れる。
【0043】
このような制振用ダンパ5によれば、伸び又は縮みオンロードの際に生じるアンロードへの切り替えを、第1及び第2比例リリーフ弁21,23などによるセミアクティブ回路部の簡易な構成によって可能とすることができた。更に、フルアクティブ回路部では、第3比例リリーフ弁33を設けることで、ポンプ31やモータ32に小型のものを使用することを可能にした。そのため、部品点数を少なくしたり構成部品を小型化することによって制振用ダンパ5をコンパクトにして設置スペースを小さくすることを可能にし、また、コストの低下やメンテナンス作業の軽減も可能になった。
【0044】
次に、ポンプ31を駆動させるためのモータ32の回転数の制御に関して説明する。本実施形態においては、モータ32の回転数を一定にしてシリンダ10(アクチュエータ)の伸縮速度を一定にするのではなく、特定条件下において、モータ32の回転数を変化させてシリンダ10の伸縮速度を変化させる。具体的には、制振コントローラ6は、特定条件下であるときに、モータ32の回転数を特定条件下でないときよりも低く制御して、シリンダ10の伸縮速度を特定条件下でないときよりも小さく制御する。なお、モータ32は、例えば、サーボモータである。
【0045】
ここで、「特定条件下であるとき」とは、要求されるシリンダ10の伸縮速度が小さく、シリンダ10に対して単位時間当たりに必要な作動油の供給量が所定量未満である(所定量よりも少ない)ときである。一方、「特定条件下でないとき」とは、要求されるシリンダ10の伸縮速度が大きく、シリンダ10に対して単位時間当たりに必要な作動油の供給量が所定量以上であるときである。
【0046】
また、特定条件下としては、例えば、鉄道車両1が特定区間を走行する条件下や、制振用ダンパ5が設けられる鉄道車両1が特定号車となる条件下や、車体2の左右速度が規定値以下である条件下や、制御指令変化が規定値以下である条件下のうちの少なくとも1つが考えられる。なお、「特定区間」や「特定号車」とは、例えば、過去の試験結果において、要求されるシリンダ10の伸縮速度が所定速度よりも小さいため、シリンダ10に対して単位時間当たりに必要な作動油の供給量が所定量よりも少ないとの結果が得られた区間や号車である。また、「車体2の左右速度」とは、車体2が
図1の左右方向に揺れる速度である。また、「制御指令変化」とは、シリンダ10が発生すべき減衰力(例えば、シリンダ10が伸縮すべき量)に応じた制御指令値の変化量である。
【0047】
そして、このようにして、特定条件下において、モータ32の回転数を変化させることにより、シリンダ10の伸縮速度を最適な速度に制御することができる。例えば、制振コントローラ6は、特定条件下でないときにモータ32の回転数を必要最大の回転数に制御する一方で、特定条件下であるときにモータ32の回転数を必要最大の回転数よりも低い回転数に制御する。なお、「必要最大の回転数」とは、例えば、ポンプ31から吐出される作動油の流量を最大にしてシリンダ10の伸縮速度(ダンパの伸縮速度)を最大にするときのモータ32の単位時間当たりの回転数である。
【0048】
これにより、ポンプ31から吐出されてシリンダ10に供給される作動油の流量は、特定条件下でないときに最大値に制御される一方で、特定条件下であるときに最大値よりも低い値に制御される。そして、これにより、
図5に示すように、シリンダ10の伸縮速度は、特定条件下でないときに最大値maxに制御される一方で、特定条件下であるときに最大値maxよりも低い値に制御される。
【0049】
また、制振コントローラ6は、特定条件下であるときに、1つの台車3に搭載される2つの制振用ダンパ5について、各々の制振用ダンパ5のモータ32の回転数を別の回転数に制御してもよい。これにより、各々の制振用ダンパ5について、要求されるシリンダ10の伸縮速度の速度に応じて、モータ32の回転数を適切な回転数に設定することができる。そのため、制振性能のさらなる向上を図ることができるとともに、ポンプ31やモータ32などの制振用ダンパ5の構成部品の寿命のさらなる延伸を図ることができる。
【0050】
また、モータ32の制御をトルク制御とすることで、必要なトルク(シリンダ10の荷重)が発生した時点でモータ32の回転が停止するため、必要以上にシリンダ10に作動油を供給しないようにできる。なお、モータ32の制御をトルク制御とする際には、第1比例リリーフ弁21や第2比例リリーフ弁23なども制御する。
【0051】
以上のように本実施形態の鉄道車両1の制振装置8は、車体2に生じる振動を抑えるために当該車体2と台車3との間に設けられた制振用ダンパ5を有する。この制振用ダンパ5は、シリンダ10を備えるセミアクティブダンパと、シリンダ10へ作動油を供給するポンプ31と、ポンプ31を駆動させるモータ32と、を備える。そして、制振コントローラ6は、シリンダ10に対して必要な作動油の供給量が所定量よりも少ない特定条件下であるときに、モータ32の回転数を特定条件下でないときよりも低く制御する。
【0052】
これにより、特定条件下において、モータ32の回転数を低くして、ポンプ31によりシリンダ10に供給される単位時間当たりの作動油の流量を少なくすることにより、シリンダ10の伸縮速度を小さく制御できる。そして、このようにして、必要なシリンダ10の伸縮速度に対応させて、最適な量の作動油をシリンダ10に供給することができる。そのため、シリンダ10に必要以上の作動油が供給されないので、シリンダ10の伸縮速度が必要以上に大きくなってしまうことを防ぐことができる。したがって、車体2に生じる振動を効果的に減衰できるので、制振性能が向上して、乗り心地が向上する。また、モータ32の駆動時におけるポンプ31やモータ32にかかる負荷を抑制できるので、ポンプ31やモータ32の寿命が長くなる。ゆえに、制振性能の向上を図るとともに、ポンプ31やモータ32などの制振用ダンパ5の構成部品の寿命の延伸を図ることができる。また、消費電力を抑えることができる。
【0053】
また、特定条件下には、鉄道車両1が特定区間を走行する条件下と、制振用ダンパ5が設けられる鉄道車両1が特定号車となる条件下と、車体2の左右速度が規定値以下である条件下と、制御指令変化が規定値以下である条件下のうちの少なくとも1つが含まれる。これにより、各条件下に対して乗り心地の良さを確保しながら、ポンプ31やモータ32などの制振用ダンパ5の構成部品の寿命の延伸を図ることができる。
【0054】
また、制振用ダンパ5は1つの台車3につき2つ搭載されており、制振コントローラ6は、特定条件下であるときに、2つの制振用ダンパ5の各々のモータ32の回転数を別回転数としてもよい。これにより、1つの台車3に搭載される2つの制振用ダンパ5におけるモータ32の回転数を、各々、必要なシリンダ10の伸縮速度に対応させた最適な回転数にすることができる。そのため、制振性能のさらなる向上を図ることができるとともに、ポンプ31やモータ32などの構成部品の寿命のさらなる延伸を図ることができる。
【0055】
また、制振コントローラ6は、特定条件下でないときにモータ32の回転数を必要最大の回転数に制御し、特定条件下であるときにモータ32の回転数を必要最大の回転数よりも低い回転数に制御する。これにより、制振性能の向上を図るとともに、ポンプ31やモータ32などの構成部品の寿命の延伸を図ることができ、さらに、特定条件下でないときにおいてポンプ31によるシリンダ10への作動油の供給量を最大にしてセミアクティブダンパのシリンダ10の伸縮速度を最大にする必要がある場合に対して対応できる。
【0056】
なお、上記した実施の形態は単なる例示にすぎず、本発明を何ら限定するものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変形が可能であることはもちろんである。