特開2021-134141(P2021-134141A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ エヌ・イーケムキャット株式会社の特許一覧

特開2021-134141不均一系貴金属触媒を用いた芳香族化合物の製造方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-134141(P2021-134141A)
(43)【公開日】2021年9月13日
(54)【発明の名称】不均一系貴金属触媒を用いた芳香族化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 67/317 20060101AFI20210816BHJP
   C07C 69/753 20060101ALI20210816BHJP
   C07D 209/08 20060101ALI20210816BHJP
   C07D 209/88 20060101ALI20210816BHJP
   C07D 307/82 20060101ALI20210816BHJP
   C07D 307/91 20060101ALI20210816BHJP
   C07D 333/62 20060101ALI20210816BHJP
   C07D 333/76 20060101ALI20210816BHJP
   C07D 333/24 20060101ALI20210816BHJP
   C07D 487/04 20060101ALI20210816BHJP
   B01J 23/44 20060101ALI20210816BHJP
   B01J 23/42 20060101ALI20210816BHJP
   B01J 23/46 20060101ALI20210816BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20210816BHJP
【FI】
   C07C67/317
   C07C69/753 Z
   C07D209/08
   C07D209/88
   C07D307/82
   C07D307/91
   C07D333/62
   C07D333/76
   C07D333/24
   C07D487/04 137
   B01J23/44 Z
   B01J23/42 Z
   B01J23/46 301Z
   B01J23/46 311Z
   B01J23/46 Z
   C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2020-28526(P2020-28526)
(22)【出願日】2020年2月21日
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】000228198
【氏名又は名称】エヌ・イーケムキャット株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000590
【氏名又は名称】特許業務法人 小野国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐治木 弘尚
(72)【発明者】
【氏名】澤間 善成
(72)【発明者】
【氏名】山本 裕太
【テーマコード(参考)】
4C023
4C037
4C050
4C204
4G169
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4C023EA15
4C037QA02
4C037SA02
4C050AA01
4C050AA08
4C050BB04
4C050CC04
4C050DD10
4C050EE02
4C050FF01
4C050GG03
4C050HH01
4C204AB01
4C204BB01
4C204BB04
4C204CB03
4C204CB25
4C204DB01
4C204EB01
4C204FB03
4C204FB08
4C204FB10
4C204GB21
4G169AA03
4G169BA08A
4G169BA08B
4G169BC70A
4G169BC70B
4G169BC71A
4G169BC71B
4G169BC72A
4G169BC72B
4G169BC74A
4G169BC74B
4G169BC75A
4G169BC75B
4G169CB07
4G169CB66
4G169DA06
4H006AA02
4H006AC12
4H006BA23
4H006BA25
4H006BA26
4H006BB11
4H006BE30
4H006BJ50
4H039CA41
4H039CC10
(57)【要約】
【課題】製造コストが低い脱水素反応によるインドール等の芳香族化合物の合成技術、かつ、環境負荷が小さなグリーンな技術を提供する。
【解決手段】シクロヘキサジエン類またはシクロヘキセン類を、溶媒と分子状酸素の存在下、ルテニウム、イリジウム、パラジウム、白金およびロジウムからなる群から選ばれる貴金属の1種または2種以上を炭素担体に担持した不均一系貴金属触媒を用いて脱水素反応することを特徴とする芳香族化合物の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シクロヘキサジエン類またはシクロヘキセン類を、溶媒と分子状酸素の存在下、ルテニウム、イリジウム、パラジウム、白金およびロジウムからなる群から選ばれる貴金属の1種または2種以上を炭素担体に担持した不均一系貴金属触媒を用いて脱水素反応することを特徴とする芳香族化合物の製造方法。
【請求項2】
溶媒が、水、トルエン、ジオキサンおよびt−ブチルアルコールからなる群から選ばれる溶媒の1種または2種以上である請求項1記載の芳香族化合物の製造方法。
【請求項3】
脱水素反応を50〜150℃で行う請求項1または2に記載の芳香族化合物の製造方法。
【請求項4】
シクロヘキサジエン類またはシクロヘキセン類が、複素環を有するものである請求項1〜3の何れかに記載の芳香族化合物の製造方法。
【請求項5】
反応容器中で、共役ジエンとジエノフィルをディールス・アルダー反応で付加重合させてシクロヘキサジエン類またはシクロヘキセン類を得て、次いで、同一反応容器中でシクロヘキサジエン類またはシクロヘキセン類を溶媒と分子状酸素の存在下、ルテニウム、イリジウム、パラジウム、白金およびロジウムからなる群から選ばれる貴金属の1種または2種以上を炭素担体に担持した不均一系貴金属触媒を用いて脱水素反応することを特徴とする芳香族化合物の製造方法。
【請求項6】
溶媒が、水、トルエン、ジオキサンおよびt−ブチルアルコールからなる群から選ばれる溶媒の1種または2種以上である請求項5記載の芳香族化合物の製造方法。
【請求項7】
脱水素反応を50〜150℃で行う請求項5または6に記載の芳香族化合物の製造方法。
【請求項8】
シクロヘキサジエン類またはシクロヘキセン類が、複素環を有するものである請求項5〜7の何れかに記載の芳香族化合物の製造方法。
【請求項9】
下記化学式の何れかで表される芳香族化合物。
【化1】
【化2】
【化3】
【化4】
【化5】
【化6】
【化7】
【化8】
【化9】
【化10】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シクロヘキサジエン類またはシクロヘキセン類を原料とする不均一系貴金属触媒を用いた芳香族化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インドール等の芳香族化合物は、香料や抗菌剤などの医薬品やその合成中間体として知られている。
【0003】
このようなインドールの合成手法には様々な手法が提案されている。その中の一つとしては、ジヒドロインドール誘導体を、触媒としての二酸化マンガンと、酸化剤としての2,3−ジクロロ−5,6−ジシアノ−1,4−ベンゾキノン(DDQともいう)を化学量論以上使用して脱水素反応するものがある(非特許文献1〜3)。
【0004】
しかしながら、このような手法では酸化剤として危険なDDQを化学量論を超えて大量に使用する必要があり、安全性のみならず環境負荷も高いものであった。
【0005】
上記の他、酸化剤としてDDQを使用しない手法としては、酸化剤として酸素ガスを、触媒として[Ru(phd)](PFのようなRu錯体触媒を使用し、メタノールやアセトニトリル溶媒中でジヒドロインドール誘導体を脱水素反応してインドールを合成する手法があった(非特許文献4)。
【0006】
しかしながら、この手法では触媒として均一系触媒である錯体を使用することから反応後に触媒を分離する必要があり、産業用途としては高コストな手法であるといえる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】U.Pindur et al., Tetrahedron, 1992 , 17, 3515-3526
【非特許文献2】C.Bailly et al., Bioorganic & Medicinal Chemistry, 2001, 9, 1533-1541
【非特許文献3】W.E.Noland et al., Journal of Heterocyclic Chemistry, 2009, 46, 1154-1176
【非特許文献4】S.S.Stahl et al., Organic Letters, 2019, 21, 1176-1181
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このような背景から、製造コストが低い脱水素によるインドール等の芳香族化合物の合成技術、かつ、環境負荷が小さなグリーンな技術が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、回収・再利用可能な不均一系触媒の中でも特定の貴金属を炭素担体に担持した不均一系貴金属触媒を用いることにより、シクロヘキサジエン類またはシクロヘキセン類を溶媒と分子状酸素の存在下で脱水素反応が効率よく進行し、芳香族化合物が収率よく得られることを見出した。
【0010】
また、本発明者らは、上記反応の原料となるシクロヘキサジエン類またはシクロヘキセン類を合成するのと同一の反応容器中で、続けて脱水素反応も行えることを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
すなわち、本発明は、シクロヘキサジエン類またはシクロヘキセン類を、溶媒と分子状酸素の存在下、ルテニウム、イリジウム、パラジウム、白金およびロジウムからなる群から選ばれる貴金属の1種または2種以上を炭素担体に担持した不均一系貴金属触媒を用いて脱水素反応することを特徴とする芳香族化合物の製造方法である。
【0012】
また、本発明は、反応容器中で、共役ジエンとジエノフィルをディールス・アルダー反応で付加重合させてシクロヘキサジエン類またはシクロヘキセン類を得て、次いで、同一反応容器中でシクロヘキサジエン類またはシクロヘキセン類を溶媒と分子状酸素の存在下、ルテニウム、イリジウム、パラジウム、白金およびロジウムからなる群から選ばれる貴金属の1種または2種以上を炭素担体に担持した不均一系貴金属触媒を用いて脱水素反応することを特徴とする芳香族化合物の製造方法である。
【0013】
更に、本発明は、下記化学式の何れかで表される芳香族化合物である。
【化1】
【化2】
【化3】
【化4】
【化5】
【化6】
【化7】
【化8】
【化9】
【化10】
【発明の効果】
【0014】
本発明の芳香族化合物の製造方法は、シクロヘキサジエン類またはシクロヘキセン類の芳香化反応が温和な条件でも選択性や収率がよく進行する。
【0015】
また、本発明の芳香族化合物の製造方法は、上記反応の原料となるシクロヘキサジエン類またはシクロヘキセン類を合成するのと同一の反応容器中で、続けて脱水素反応も行えるため、産業上有利である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の芳香族化合物の製造方法(以下、「本発明方法」という)は、シクロヘキサジエン類またはシクロヘキセン類を、溶媒と分子状酸素の存在下、ルテニウム、イリジウム、パラジウム、白金およびロジウムからなる群から選ばれる貴金属を炭素担体に担持した不均一系貴金属触媒を用いて脱水素するものである。
【0017】
(基質)
本発明方法で用いる基質はシクロヘキサジエン類またはシクロヘキセン類であって、脱水素反応により芳香族化合物となるものであれば特に限定されない。このようなシクロヘキサジエン類またはシクロヘキセン類としては、例えば、脱水素反応によりカルバゾール、インドール等になる窒素原子を含むシクロヘキサジエン類や窒素原子を含むシクロヘキセン類、脱水素反応によりベンゾフラン等になる酸素原子を含むシクロヘキサジエン類や酸素原子を含むシクロヘキセン類、脱水素反応によりベンゾチオフェン等になる硫黄原子を含むシクロヘキサジエン類や硫黄原子を含むシクロヘキセン類などの複素環を有するもの等が挙げられる。本発明方法においては、複素環を有するシクロヘキサジエン類またはシクロヘキセン類、好ましくは複素環を有し、それがシクロヘキサジエン構造またはシクロヘキセン構造と隣接するシクロヘキサジエン類またはシクロヘキセン類を基質として用いることにより、香料や抗菌剤などの医薬品やその合成中間体として知られているインドールやその誘導体を合成できるため好ましい。これらの基質の中でも収率等の点から、複素環を有するシクロヘキサジエン類が好ましく、複素環を有し、それがシクロヘキサジエン構造と隣接するシクロヘキサジエン類がより好ましい。
【0018】
(溶媒)
本発明方法で用いる溶媒は、特に限定されないが、例えば、水、トルエン、ジオキサン、t−ブチルアルコール、ジメチルホルムアミド等が挙げられる。これらの溶媒の中でも水、トルエン、ジオキサン、t−ブチルアルコールが収率の点から好ましく、さらにトルエン、ジオキサンが好ましい。これら溶媒は1種または2種以上を用いることができる。
【0019】
(分子状酸素)
本発明方法で用いる分子状酸素は、分子状の酸素が含まれる気体であればよく、例えば、酸素や空気、アルゴン等と酸素との混合気体等が挙げられる。これらは、例えば、雰囲気を置換したり、気体を入れたバルーンをつける等して系内に供給することができる。また、本発明方法における分子状酸素の存在量は特に限定されず、例えば、基質に対して必要な酸素量を1とした場合に0.1〜10000であればよく好ましくは1以上であればよい。
【0020】
(不均一系貴金属触媒)
本発明方法で用いる不均一系貴金属触媒は、ルテニウム、イリジウム、パラジウム、白金およびロジウムからなる群から選ばれる貴金属の1種または2種以上を炭素担体に担持したものである。炭素担体としては、特に限定されないが、例えば、活性炭、カーボンナノチューブ、グラファイト、グラフェン等が挙げられる。これら炭素担体の中でも比表面積値が大きく、担持する貴金属の分散性を向上することができるため活性炭が好ましい。また、貴金属の中でもルテニウム、イリジウム、パラジウム、白金の1種または2種以上が好ましく、ルテニウム、イリジウム、白金の1種または2種以上は収率が高くなるため好ましく、ルテニウムおよび/またはイリジウムは収率がより高くなるため好ましく、ルテニウムは収率が特に高くなるため好ましい。これら不均一系貴金属触媒は、公知の方法に従って調製することができる。
【0021】
上記した不均一系貴金属触媒の中でも貴金属を活性炭に担持させたものが好ましく、(a)貴金属を活性炭に対し金属換算で1〜20wt%、好ましくは5〜15wt%含有する。
なお、貴金属量が少なすぎると反応性が低下することがあり、多すぎても使用量にみあった活性が得られないことがある。また、貴金属量が多すぎると触媒上の貴金属同士が凝集してしまうことがあり、その場合貴金属粒子全体の表面積が低下して活性も低下してしまうことがある。
【0022】
(b)活性炭の比表面積値(BET値)が500〜2,000m/g、好ましくは800〜1,500m/gである。
なお、活性炭の比表面積値が小さすぎると貴金属の分散性が低下してしまい反応性が低下してしまうことがある。また、比表面積値が大きすぎても、本発明方法では反応性が低下することがある。
【0023】
上記した不均一系貴金属触媒の中でもルテニウムを活性炭に担持させたものが好ましく、特に下記(a)および(b)の性質を有するものがより好ましい。
(a)ルテニウムを活性炭に対しルテニウム金属換算で1〜20wt%、好ましくは5〜15wt%含有する。
なお、ルテニウム量が少なすぎると反応性が低下することがあり、多すぎても使用量にみあった活性が得られないことがある。また、ルテニウム量が多すぎると触媒上のルテニウム同士が凝集してしまうことがあり、その場合ルテニウム粒子全体の表面積が低下して活性も低下してしまうことがある。
【0024】
(b)活性炭の比表面積値(BET値)が500〜2,000m/g、好ましくは800〜1,500m/gである。
なお、活性炭の比表面積値が小さすぎるとルテニウムの分散性が低下してしまい反応性が低下してしまうことがある。また、比表面積値が大きすぎても、本発明方法では反応性が低下することがある。
【0025】
上記した性質を有する活性炭にルテニウムを担持させた不均一系貴金属触媒としては、公知の方法に従って調製してもよいし、例えば、5%Ruカーボン粉末(含水品)[Aタイプ](ルテニウム含量;5wt%、比表面積値;900m/g)、[Kタイプ](ルテニウム含量;5wt%、比表面積値;1100m/g)、[Rタイプ](ルテニウム含量;5wt%、比表面積値;1200m/g)、[Bタイプ](ルテニウム含量;5wt%、比表面積値900m/g)(いずれもエヌ・イー ケムキャット(株)製)等の市販品を利用することもできる。
【0026】
これらの不均一系貴金属触媒は本発明方法を行っている間、系内に存在していればよいが、例えば、基質に対して、1〜50mol%、好ましくは3〜20mol%である。なお、このような不均一系貴金属触媒は、反応後の触媒の分離、分離した触媒の再使用が容易である。
【0027】
(脱水素反応)
本発明方法において、脱水素反応は、シクロヘキサジエン類またはシクロヘキセン類を、溶媒と分子状酸素の存在下、不均一系貴金属触媒を用いて行われる。反応条件は特に限定されず、例えば、反応温度、反応時間、雰囲気等の条件を適宜制御して行えばよい。
【0028】
(反応温度)
本発明方法の反応温度は、脱水素反応が進行するのであれば特に限定されないが、40〜200℃が好ましく、特に50〜150℃が好ましい。
【0029】
(反応時間)
本発明方法の反応時間は、特に限定されないが、例えば、1〜48時間、好ましくは6〜26時間である。また、反応の際には撹拌をすることが好ましい。
【0030】
(雰囲気)
本発明方法での反応雰囲気は、不均一系貴金属触媒による脱水素反応が進行するものであれば特に限定されないが、例えば、アルゴンや窒素等の不活性雰囲気で行われることが好ましく、特にアルゴンが好ましい。
【0031】
(反応容器)
本発明方法で用いる容器は、特に限定されず、試験管、フラスコ、バッチ式反応器等、反応のスケールにあわせたものを用いればよい。
【0032】
以上説明した本発明方法により、シクロヘキサジエン類またはシクロヘキセン類が脱水素され、芳香族化合物が得られる。脱水素反応した後は、冷却、ろ過等をし、更に、常法に従って精製等を行ってもよい。なお、芳香族化合物が得られたかどうかはNMR等公知の方法で確認することができる。
【0033】
また、本発明方法を終了した後は、ろ過、遠心分離等で不均一系貴金属触媒を回収し、再利用することができる。
【0034】
更に、本発明方法を行う前に、反応容器中でまず、公知の方法に従ってディールス・アルダー(Diels-Alder)反応を行い、共役ジエンとジエノフィル(アルケンまたはアルキン)を付加重合させてシクロヘキサジエン類またはシクロヘキセン類を得て、次いで、同一反応容器中で、本発明方法を行うこともできる。これにより1ポット(1pot)での芳香族化合物の製造が可能となる。
【0035】
本発明方法における好ましいシクロヘキサジエン類またはシクロヘキセン類と、それを脱水素反応して得られる芳香族化合物の例は以下の表1に記載の通りである。なお、これらの芳香族化合物は、何れも複素環を有し、それがシクロヘキサジエン構造と隣接するシクロヘキサジエン類またはシクロヘキセン構造と隣接するシクロヘキセン類である。これらの中でも特にシクロヘキサジエン類と、それを脱水素反応して得られる芳香族化合物が好ましい。
【0036】
【表1】
※上記化学式において、RとR〜Rはそれぞれ独立して水素、メトキシ基、アセチル基、ニトロ基、ニトリル基、ハロゲン基、フェニル基、ベンジル基または炭素数1〜20のカルボン酸誘導体、炭素数1〜20のアルキル基またはアルカン基で縮環や上記置換基があってもよい群から選ばれる基である。
【実施例】
【0037】
以下、本発明を実施例を挙げて詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。なお、以下の実施例において、1H及び13C NMRはJEOL JNM ECA-500 (1H NMR, 500 MHz; 13C NMR, 125 MHz)またはJEOL JNM ECZ-400 (1H NMR, 400 MHz; 13C NMR, 100 MHz)で測定した。NMRの化学シフト値はCDCl3中の微量未標識体の吸収(1H NMR: δ = 0.00; 13C NMR: δ = 77.0)を内部標準として、ppm単位で表示した。高分解能マススペクトルは Shimazu hybrid IT-TOF mass spectrometer で測定した。
【0038】
実 施 例 1
貴金属種の検討:
以下の式で示される脱水素反応を行った。まず、N−ベンジル−6,7−ジヒドロインドール−4,5−ジカルボン酸ジメチル(65mg、0.2mmol)と各10%触媒10mol%に蒸留水(1mL)を加え、アルゴン雰囲気下、100℃で24時間攪拌した。反応液を室温まで放冷し、メンブランフィルター(Millipore, Millex-LH:0.20mm)でろ過した。フィルター中の触媒を酢酸エチル(10mL×3)で洗浄し、ろ液と合わせてから蒸留水(20mL)を加え、分液抽出した。水層をさらに酢酸エチル(10mL×2)で抽出し、有機層を合わせて無水硫酸ナトリウムで乾燥、ろ過した。得られたろ液を減圧濃縮し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製した収率を表2に示す。
【0039】
【化11】
【0040】
【表2】
【0041】
この結果により、ルテニウム、イリジウム、パラジウム、白金またはロジウムを炭素担体に担持した不均一系貴金属触媒を用いることにより、シクロヘキサジエン類の脱水素反応が行われ、1の芳香族化合物が収率よく得られることが分かった。
【0042】
実 施 例 2
1−Pot反応:
以下の式で示される脱水素反応を1−Potで行った。まず、N−ベンジル−2−ビニルピロール(1a:37mg、0.2mmol)のトルエン(1mL)溶液にアセチレンジカルボン酸ジメチル(2a:30μL、0.24mmol)を加えてアルゴン雰囲気下120℃で24時間撹拌して、シクロヘキサジエン類を含む反応液を得た。次に、この反応液を室温まで放冷し、10%Ruカーボン粉末(乾燥品)Kタイプ(エヌ・イー ケムキャット社製)20mg(10mol%)を加えてから酸素雰囲気下110℃で24時間さらに攪拌した。反応液を室温まで放冷し、酢酸エチル(50mL)を用いてメンブランフィルター(Millipore, Millex-LH、0.20mm)でろ過した。得られたろ液を減圧濃縮し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製したところ、4a(46.5mg、72%)が得られた。
【0043】
【化12】
【0044】
この結果により、本発明方法は1−Potで行えることが分かった。
【0045】
実 施 例 3
基質多様性の検討:
以下の式で示される脱水素反応を実施例2と同様にして1−Potで行った。また、この脱水素反応における基質、反応条件、生成物等は表3に示した。
【0046】
【化13】
【0047】
【表3-1】
【表3-2】
【表3-3】
【表3-4】
【表3-5】
【0048】
この結果から、種々の共役ジエンとアルキンをディールス・アルダー反応で付加重合させてシクロヘキサジエン類またはシクロヘキセン類を得て、更にシクロヘキサジエン類またはシクロヘキセン類を脱水素して芳香族化合物が得られることが分かった。
【0049】
実 施 例 4
触媒の繰り返し使用:
以下の式で示される脱水素反応を行った。まず、N−ベンジル−6,7−ジヒドロインドール−4,5−ジカルボン酸ジメチル(3a:65mg、0.2mmol)と10%Ruカーボン粉末(乾燥品)Kタイプ(エヌ・イー ケムキャット社製)20mg、10mol%に蒸留水(1mL)を加え、アルゴン雰囲気下、100℃で24時間攪拌した。反応液を室温まで放冷し、メンブランフィルター(Millipore, Millex-LH、0.20mm)でろ過した。フィルター中の触媒を酢酸エチル(10mL×3)で洗浄し、ろ液と合わせてから蒸留水(20mL)を加え、分液抽出した。水層をさらに酢酸エチル(10mL ×2)で抽出し、有機層を合わせて無水硫酸ナトリウムで乾燥、ろ過した。ろ液を減圧留去し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製したところ、4a(56.1mg、 87%)が得られた。使用した触媒をろ紙上でメタノール(10mL×5)と蒸留水(10mL×5)で交互に洗浄し、24時間減圧乾燥して回収し、再度利用した結果を表4に示す。
【0050】
【化14】
【0051】
【表4】
【0052】
本発明方法で用いられる不均一系貴金属触媒は、繰り返し使用できることが分かった。なお、2回目と3回目の転化率や収率が下がっているのは、触媒自体の賦活処理や還元処理を行っていないためであり、それらの処理を行えば1回目と同等の添加率や収率となると考えられる。
【0053】
実 施 例 5
芳香化反応:
以下の式で示される脱水素反応を実施例1と同様にして行った。また、この脱水素反応における基質、反応条件、生成物等は表5に示した。
【0054】
【化15】
【0055】
【表5】
【0056】
この結果から、種々の複素環を有するシクロヘキサジエン類またはシクロヘキセン類からインドールの合成が可能なことが分かった。
【0057】
実 施 例 6
ピロロカルバゾールジオン誘導体の1−Pot合成:
以下の式で示される脱水素反応を1−Potで行った。まず、N−ベンジル−3−ビニルインドール(1a:46mg、0.2mmol)のトルエン(1mL)溶液に、アセチレンジカルボン酸ジメチル(2a:30μL、0.24mmol)を加えてアルゴン雰囲気下150℃で24時間撹拌した。反応液を室温まで放冷し、10%Ruカーボン粉末(乾燥品)Kタイプ (エヌ・イー ケムキャット社製)20mg、(10mol%)を加えてから酸素雰囲気下110℃で48時間攪拌した。反応液を室温まで放冷し、トルエンを減圧留去してN,N−ジメチルエチレンジアミン(1.5mL)とDMF(1.5mL)を加えて150℃でさらに24時間攪拌した。反応液を室温まで放冷し、減圧濃縮した。残渣をエーテル(50mL)でメンブランフィルター(Millipore, Millex-LH、0.20mm)を用いてろ過した。ろ液を分液抽出し、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥後ろ過した。ろ液を減圧濃縮し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製したところ2−[2−(ジメチルアミノ)エチル]−10−ベンジル−1,2,3,10−テトラヒドロピロロ[3,4−a]カルバゾール−1,3−ジオン(1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ 8.34 (d, J = 8.0 Hz, 1H), 8.11 (d, J = 8.0 Hz, 1H), 7.70 (d, J = 8.0 Hz, 1H), 7.49-7.45 (m, 1H), 7.35-7.28 (m, 2H) 7.25-7.17 (m, 3H), 7.08 (d, J = 6.4 Hz, 2H), 6.30 (s, 2H), 3.79 (t, J = 6.8 Hz, 2H), 2.59 (t, J = 6.8 Hz, 2H), 2.28 (s, 6H); 13C NMR (100 MHz, CDCl3): δ 169.0, 168.3, 142.4, 137.8, 136.7, 130.9, 130.2, 128.6, 128.1, 127.2, 126.3, 125.3, 122.5, 120.8, 120.7, 113.9, 113.3, 110.6, 57.1, 50.0, 45.5, 35.9; HRMS: m/z [M+H]+ Calcd for C25H24N3O2 398.1863; Found 398.1869.47mg、0.118mmol、59%)が1−Potで得られた。
【0058】
【化16】
【0059】
実 施 例 7
2-[2-(ジメチルアミノ)エチル]-6-ベンジル-1,2,3,6-テトラヒドロピロロ[3,4-e]インドール-1,3-ジオンの1−Pot合成:
実施例6において、基質をN−ベンジル−3−ビニルインドールにかえてN−ベンジル−2−ビニルピロールとした以外は同様に反応を行ったところ、2-[2-(ジメチルアミノ)エチル]-6-ベンジル-1,2,3,6-テトラヒドロピロロ[3,4-e]インドール-1,3-ジオン(1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ 7.59 (d, J = 8.0 Hz, 1H), 7.49 (d, J = 8.0 Hz, 1H), 7.39 (d, J = 3.2 Hz, 1H), 7.33-7.29 (m, 3H), 7.09 (dd, J = 7.2, 1.6 Hz, 1H) , 7.05 (d, J = 3.2 Hz, 1H), 5.39 (s, 2H), 3.81 (t, J = 7.2 Hz, 2H), 2.61 (t, J = 7.2 Hz, 2H), 2.30 (s, 6H); 13C NMR (100 MHz, CDCl3): δ 169.9, 169.5, 140.6, 136.2, 133.7, 129.0, 128.1, 126.6, 125.0, 124.3, 123.9, 116.0, 114.2, 101.2, 57.4, 50.6, 45.5, 35.7; HRMS: m/z [M+H]+ Calcd for C21H22N3O2 348.1707; Found 348.1706.)が1−Potで得られ、その収率は64%となった。
【0060】
【化17】
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明方法は、香料や抗菌剤などの医薬品やその合成中間体として知られているインドール等の芳香族化合物を製造するのに利用できる。