【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、産学共創プラットフォーム共同研究推進プログラム委託事業、「超スマート社会実現のカギを握る革新的半導体技術を基盤としたエネルギーイノベーションの創出に関する国立大学法人京都大学による研究開発」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
【解決手段】 磁気共鳴部材1は、結晶構造を有し、結晶格子における欠陥および不純物の配列方向に応じて異なる周波数のマイクロ波で電子スピン量子操作の可能な部材である。磁場伝達部4は、互いに異なる複数の測定位置で被測定磁場を感受し、その複数の測定位置で感受した被測定磁場に対応する印加磁場を上述の結晶格子における欠陥および不純物の複数の配列方向に沿ってそれぞれ磁気共鳴部材1に印加する。測定制御部21は、高周波電源12を制御し、検出装置(照射装置5および受光装置6)により検出された、上述の複数の測定位置に対応する物理的事象の検出値を特定する。演算部22は、その検出値に基づいて上述の複数の測定位置での被測定磁場を演算する。
前記測定制御部は、(a)所定測定シーケンスで前記高周波電源を制御して、前記複数の測定位置のうちの1つに対応する前記物理的事象の検出値を特定し、(b)前記複数の測定位置と同数の前記測定シーケンスを順番に実行して、前記複数の測定位置に対応する前記物理的事象の検出値を特定することを特徴とする請求項1記載の磁場測定装置。
前記測定制御部は、前記測定シーケンスにおいて、前記高周波電源の電流の周波数を、前記測定位置に対応する周波数とすることを特徴とする請求項2記載の磁場測定装置。
前記磁場伝達部は、1次側コイルおよび2次側コイルを備えたフラックストランスフォーマーであり、前記1次側コイルで互いに異なる複数の測定位置で被測定磁場を感受し、前記2次側コイルで前記印加磁場を前記結晶格子における欠陥および不純物の複数の配列方向に対応する互いに異なる方向から前記磁気共鳴部材に印加することを特徴とする請求項1から請求項3のうちのいずれか1項記載の磁場測定装置。
磁場伝達部で、(a)互いに異なる複数の測定位置で被測定磁場を感受し、(b)前記複数の測定位置で感受した前記被測定磁場に対応する印加磁場を、結晶構造を有し結晶格子における欠陥および不純物の配列方向に応じて異なる周波数のマイクロ波で電子スピン量子操作の可能な磁気共鳴部材に、前記結晶格子における欠陥および不純物の複数の配列方向に対応する互いに異なる方向から印加するステップと、
前記磁気共鳴部材から前記印加磁場に対応する物理的事象を検出し、前記複数の測定位置に対応する前記物理的事象の検出値を特定するステップと、
前記検出値に基づいて前記複数の測定位置での前記被測定磁場を演算するステップと、
を備えることを特徴とする磁場測定方法。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
【0016】
図1は、本発明の実施の形態に係る磁場測定装置の構成を示す図である。
図1に示す磁場測定装置は、磁気センサ部10と、演算処理装置11と、高周波電源12とを備える。
【0017】
磁気センサ部10は、所定の位置(例えば、検査対象物体の表面上または表面上方)において、被測定磁場(例えば強度、向きなど)を検出する。なお、被測定磁場は、単一周波数の交流磁場でもよいし、複数の周波数成分を有する所定周期の交流磁場でもよい。
【0018】
この実施の形態では、磁気センサ部10は、磁気共鳴部材1、高周波磁場発生器2、静磁場発生部3、および磁場伝達部4を備える。
【0019】
磁気共鳴部材1は、結晶構造を有し、結晶格子における欠陥および不純物の配列方向に応じて異なる周波数のマイクロ波で(ラビ振動に基づく)電子スピン量子操作の可能な部材である。
【0020】
この実施の形態では、磁気共鳴部材1は、複数(つまり、アンサンブル)の特定カラーセンタを有する光検出磁気共鳴部材である。この特定カラーセンタは、ゼーマン分裂可能なエネルギー準位を有し、かつ、ゼーマン分裂時のエネルギー準位のシフト幅が互いに異なる複数の向き(つまり、上述の配列方向)を取り得る。
【0021】
ここでは、磁気共鳴部材1は、単一種別の特定カラーセンサとして複数のNV(Nitrogen Vacancy)センタを含むダイヤモンドなどの板材であって、支持部材1aに固定されている。NVセンタの場合、基底状態がms=0,+1,−1の三重項状態であり、ms=+1の準位およびms=−1の準位がゼーマン分裂する。また、後述するように、ダイヤモンド結晶格子上での原子(ここでは窒素)および空孔の位置関係によって、NVセンタは、ゼーマン分裂時のエネルギー準位のシフト幅が互いに異なる4つの向き(欠陥および不純物の配列方向)を取り得る。磁気共鳴部材1は、この4つの向きのうちの複数(2つ、3つ、および4つのうちのいずれか)の向きのNVセンタを含んでいる。
【0022】
高周波磁場発生器2は、後述のマイクロ波を磁気共鳴部材1に印加する。ここでは、高周波電源12は、そのマイクロ波の電流を生成して高周波磁場発生器2に導通させる。高周波磁場発生器2は例えばコイルや、LC共振装置や、スリットアンテナや、棒状アンテナなどの一種であるか、それらの複数の装置を組み合わせたものである。
【0023】
また、静磁場発生部3は、磁気共鳴部材1内の複数の特定カラーセンタ(ここでは、複数のNVセンタ)のエネルギー準位をゼーマン分裂させる静磁場(直流磁場)を印加する。静磁場発生部3としては、永久磁石、コイル(つまり、電磁石)などが使用される。静磁場発生部3としてはコイルが使用される場合、直流電源が設けられ、そのコイルに電気的に接続され、そのコイルに直流電流を供給し、これにより、静磁場が発生する。
【0024】
上述の複数の特定カラーセンタは、互いに異なる複数の向きを有し、この基準磁場によって、その複数の特定カラーセンタのエネルギー準位は、それぞれ、その複数の向きに対応した互いに異なるシフト幅でゼーマン分裂する。
【0025】
図2は、
図1における磁気共鳴部材1のNVセンタの複数の向きについて説明する図である。
図3は、NVセンタの複数の向きに対応するNVセンタのゼーマン分裂後の蛍光強度の周波数特性(マイクロ波周波数に対する蛍光強度の特性)について説明する図である。
【0026】
図2に示すように、ダイヤモンド結晶において、欠陥(空孔)(V)および不純物としての窒素(N)によってカラーセンタ(つまり、NVセンタ)が形成される。ダイヤモンド結晶内の欠陥(空孔)(V)に対して、隣接する窒素(N)の取り得る位置(つまり空孔と窒素との対の配列方向)は4種類あり、それらの位置(つまり、4つの配列方向)のそれぞれに対応するゼーマン分裂後のサブ準位(つまり、基底からのエネルギー準位)が互いに異なる。したがって、
図3に示すように、マイクロ波の周波数に対する静磁場によるゼーマン分裂後の蛍光強度の特性において、それぞれの向きiに対応して、互いに異なるディップ周波数対(fi+,fi−)が現れる。このように、静磁場Boに起因して、上述の4つの向き(配列方向)iに対応して、4つのディップ周波数対(fi+,fi−)がそれぞれ個別的に現れる。
【0027】
図4は、
図1における磁場伝達部4によって磁気共鳴部材1に印加される磁場の方向を説明する図である。
【0028】
磁場伝達部4は、互いに異なる複数の測定位置で被測定磁場を感受し、その複数の測定位置で感受した被測定磁場に対応する印加磁場(磁場伝達部4によって測定位置から伝達された磁場)を、結晶格子における欠陥および不純物の複数の配列方向に対応する互いに異なる方向から、それぞれ磁気共鳴部材1に印加する。
【0029】
例えば
図4に示す場合、4つの測定位置で感受した被測定磁場に対応する印加磁場Bt1,Bt2,Bt3,Bt4が、結晶格子における欠陥および不純物の複数の配列方向に対応する互いに異なる方向(第1軸、第2軸、第3軸、および第4軸の方向)から、それぞれ磁気共鳴部材1に印加される。
【0030】
また、静磁場Boが、第1軸、第2軸、第3軸および第4軸のそれぞれに対して異なる角度を有する方向に沿って、磁気共鳴部材1に印加される。これにより、静磁場Boが第1軸、第2軸、第3軸及び第4軸に沿って不均等に(すなわち、方向が異なり、強度も異なるように)分解される。このとき、静磁場Boは第1軸、第2軸、第3軸および第4軸のそれぞれの成分Bo1,Bo2,Bo3,Bo4に分解され、各軸に沿って、その軸の成分の静磁場Bo1,Bo2,Bo3,Bo4が磁気共鳴部材1に印加される。このとき、|Bo1|<|Bo2|<|Bo3|<|Bo4|の関係が成り立つ。
【0031】
また、
図4では、静磁場発生部3が1つの部材として描いているが、この限りではない。つまり、静磁場発生部3は複数の部材により構成されてもよい。例えば、後述のように、4つの軸のそれぞれに沿ってコイルあるいは磁石が配置されてもよい。その場合、その4つコイルあるいは磁石で異なる大きさの磁場を発生させれば、上述のように、4つの軸に沿って異なる方向、異なる大きさの静磁場を形成できる。
【0032】
また、
図4に示すように、磁場伝達部4は4つの軸(4チャンネル)を同時に利用してもよいが、そのうちの一部、例えば、3つの軸(3チャンネル)、或いは2つの軸(2チャンネル)を同時に利用してもよい。
【0033】
また、具体的には、磁場伝達部4における被測定磁場を感受する複数の感受部位が複数の測定位置に配置され、磁場伝達部4は、その感受部位で被測定磁場を感受する。また、対応する配列方向に沿って磁気共鳴部材1に向けて印加磁場が印加されるように、磁場伝達部4における複数の印加部位が配置され固定されている。
【0034】
図5は、実施の形態1における磁場伝達部4の構成を示す回路図である。
【0035】
この実施の形態では、磁場伝達部4は、例えば
図5に示すような、測定位置と同数のフラックストランスフォーマー4−1〜4−n(ここでは、n=2,3,または4)を備える。各フラックストランスフォーマー4−i(i=1,・・・,n)は、1次側コイル41−iと、2次側コイル42−iと、1次側コイル41−iおよび2次側コイル42−iを電気的に接続するケーブル43−iとを備える。また、必要に応じて、フラックストランスフォーマー4−iは、被測定磁場が高周波である場合に反射などを抑制するマッチング部44−iを備える。1次コイル41−1〜41−3は、上述の感受部位であり、2次コイル42−1〜42−3は、上述の印加部位である。1次側コイル41−iの巻数は、1〜数ターンであり、2次側コイル42−iの巻数は、1次側コイル41−iの巻数より多い。この実施の形態では、測定位置で感受された被測定磁場が1次側コイル41−iで電気信号に変換され、その電気信号がケーブル43−iを介して2次側コイル42−iを導通することで、印加磁場に変換される。ケーブル43−iは同軸ケーブル、リッツ線などである。
【0036】
上述の4つの配列方向iのうちの複数の配列方向(NVセンタの場合、2つ、3つ、または4つの配列方向)のそれぞれに対して、その複数の配列方向と同数の測定位置の磁場に対応する印加磁場が印加され、配列方向に固有な周波数(ディップ周波数)のマイクロ波によって、1つの磁気センサ部10で、その複数の測定位置の磁場(強度、あるいは強度と向き)が測定される。したがって、高周波電源12は、上述のマイクロ波の周波数を、磁気共鳴部材1の種類および配列方向に応じた周波数(つまり、配列方向に対応するディップ周波数)に設定し、その周波数でマイクロ波の電流を生成する。
【0037】
このように、磁場伝達部4は、1次側コイル41−1〜41−nで互いに異なる複数の測定位置で被測定磁場を感受し、2次側コイル42−1〜42−nで印加磁場を、結晶格子における欠陥および不純物の複数の配列方向に対応する互いに異なる方向から、それぞれ磁気共鳴部材1に印加する。
【0038】
なお、この実施の形態では、
図4に示すように、静磁場Boiは、複数の配列方向のうち、測定対象となっている配列方向に沿って、印加磁場Bti(i=1,2,3)とともに磁気共鳴部材1に印加される。また、静磁場Boiは、例えば、2次側コイル42−iと同じ軸において別のコイルで印加されてもよい。その場合、構造が簡素になる利点がある。
【0039】
図6は、
図1に示す磁場測定装置における静磁場Bo印加時の、蛍光強度変化の増強について説明する図である。例えば
図4に示すように配列方向に沿って静磁場Boが印加される場合、例えば
図6に示すように、その配列方向に対応するディップ周波数での蛍光強度変化が増強され、感度が高くなる。
【0040】
なお、同様な複数の向きiを有する他のカラーセンタを、NVセンタの代わりに上述の特定カラーセンタとして使用することができる。
【0041】
また、この実施の形態では、磁気センサ部10は、磁気共鳴部材1から、上述の印加磁場に対応する物理的事象(ここでは蛍光)を検出する検出装置として、照射装置5および受光装置6を備える。照射装置5は、光検出磁気共鳴部材としての磁気共鳴部材1に光(所定波長の励起光と所定波長の測定光)を照射する。受光装置6は、測定光の照射時において磁気共鳴部材1から発せられる蛍光を検出する。
図7は、
図1に示す磁場測定装置の光学系の一例を示す図である。磁気共鳴部材1として光検出磁気共鳴部材が使用される場合、例えば
図7に示すような光学系が使用される。この光学系では、支持部材1aが、1対の複合放物面型集光器(CPC)を備える。この1対のCPCにおいて、2つのCPCの大口径端面が互いに接合しており、一方のCPCの小口径端面から入射する光(つまり、カラーセンタの発する蛍光)が、他方のCPCの小口径端面から出射する。磁気共鳴部材1のカラーセンタで発生する蛍光は、このように支持部材1aを通過して受光装置6に入射する。また、照射装置5からの励起光および測定光は、支持部材1aを通過して、磁気共鳴部材1に照射される。なお、例えば
図7に示すように、磁気共鳴部材1の周囲に反射部材1bを配置し、励起光および測定光を反射部材1bで反射させて特定の光路で、所定回数だけ、励起光および測定光を磁気共鳴部材1に通過させるようにしてもよい。
【0042】
なお、この物理的事象は、ここでは光学的に検出されるが、電気特性の変化(磁気共鳴部材1の抵抗値の変化など)であってもよく、電気的に検出されてもよい。
【0043】
図1に戻り、演算処理装置11は、例えばコンピュータを備え、プログラムをコンピュータで実行して、各種処理部として動作する。この実施の形態では、演算処理装置11は、検出された光学的あるいは電気的な信号データを図示せぬ記憶装置(メモリーなど)に保存し、測定制御部21および演算部22として制御および演算動作を行う。
【0044】
測定制御部21は、高周波電源12を制御し、上述の検出装置(ここでは、照射装置5および受光装置6)により検出された、上述の複数の測定位置に対応する物理的事象(ここでは蛍光の強度)の検出値を特定する。
【0045】
この実施の形態では、測定制御部21は、ODMRに基づき、所定の測定シーケンスに従って高周波電源12および照射装置5を制御し、受光装置6により検出された蛍光の検出光量を特定する。例えば、照射装置5は、レーザーダイオードなどを光源として備え、受光装置6は、フォトダイオードなどを受光素子として備え、測定制御部21は、受光素子の出力信号に対して増幅などを行って得られる受光装置6の出力信号に基づいて、上述の検出光量を特定する。
【0046】
演算部22は、測定制御部21によって得られ、記憶装置に保存されていた検出値に基づいて上述の複数の測定位置での被測定磁場を演算する
【0047】
また、この実施の形態では、測定制御部21は、(a)所定測定シーケンスで高周波電源12および照射装置5を制御して、上述の複数の測定位置のうちの1つに対応する物理的事象の検出値を特定し、(b)上述の複数の測定位置と同数の測定シーケンスを順番に実行して、上述の複数の測定位置に対応する物理的事象の検出値を特定する。その際、測定制御部21は、高周波電源12のマイクロ波周波数(高周波磁場発生器2に導通させる電流の周波数)を、その測定位置に対応する周波数(つまり、その測定位置に対応する印加磁場が印加される配列方向に対応するディップ周波数)に設定する。
【0048】
この実施の形態では、この測定シーケンスは、被測定磁場の周波数などに従って設定される。例えば、被測定磁場が直流磁場、比較的低速で単調増加する磁場、または比較的低速で単調減衰する磁場である場合には、この測定シーケンスには、ラムゼイパルスシーケンスが適用され、被測定磁場が比較的高周波数の交流磁場である場合には、この測定シーケンスには、スピンエコーパルスシーケンス(ハーンエコーシーケンスなど)が適用される。ただし、測定シーケンスは、これに限定されるものではない。
【0049】
例えば、被測定磁場が比較的低周波数の交流磁場である場合、被測定磁場の1周期において、複数回、ラムゼイパルスシーケンス(つまり、直流磁場の測定シーケンス)で、磁場測定を行い、それらの磁場測定の結果に基づいて、被測定磁場(強度、波形など)を特定するようにしてもよい。
【0050】
図8は、
図1に示す磁場測定装置において、ラムゼイパルスシーケンスに従って実行される磁場測定について説明するタイミングチャートである。
図9は、
図1に示す磁場測定装置において、スピンエコーパルスシーケンスに従って実行される磁場測定について説明するタイミングチャートである。
【0051】
例えば、NVセンタの3つの配列方向に対応する3つの測定位置(感受部位)で磁場測定を行う場合、例えば
図8または
図9に示すように時分割で(あるいは所定の時間間隔で)繰り返し、対応する3つの測定シーケンスSQ1,SQ2,SQ3が実行される。
図8および
図9に示すように、測定シーケンスSQiでは、配列方向iに対応したマイクロ波周波数が設定される。
【0052】
なお、
図9に示すように、所定周期(
図9では1周期)おきに(
図9における波形の斜線部について)、被測定磁場の測定が行われる。なお、第1π/2パルスとπパルスとの時間間隔およびπパルスと第2π/2パルスとの時間間隔を短くして光学的操作を含めて、1つの測定シーケンスSQiが被測定磁場の1周期以内に完了するようにして、連続する周期で順番に被測定磁場の測定が行われるようにしてもよい。
【0053】
この実施の形態では、磁気センサ部10が走査され、上述の複数の測定位置を移動させつつ、走査経路上の複数位置で磁場測定が行われる。
【0054】
図10は、
図1に示す磁気センサ部10の走査について説明する斜視図である。測定制御部21は、図示せぬスライダーなどといった駆動装置を制御し、検査対象物体100の表面の2次元方向(X方向およびY方向)において、例えば
図10に示すように、平面状の測定領域111上で、磁気センサ部10における磁場伝達部4の1次側(被測定磁場を感受する感受部位、ここでは、1次コイル41−1〜41−3)を走査させて各フラックストランスフォーマー4−iの1次側コイル41−iの測定位置(Xi,Yi)を移動させ、走査経路上の所定の複数の位置において、磁気センサ部10を使用した磁場測定を実行する。なお、磁気センサ部10の走査経路のパターンは、
図10に示すものに限定されるものではない。
【0055】
なお、磁気センサ部10を走査せずに、固定された上述の複数の測定位置で磁場測定を行うようにしてもよい。
【0056】
また、磁気センサ部10における磁気共鳴部材1の周辺には磁気シールドが設けられ、検査対象物体100側の磁界(例えば検査対象物体100に印加される磁界)が磁気共鳴部材1に直接印加されないようになっている。
【0057】
次に、実施の形態1に係る磁場測定装置の動作について説明する。
【0058】
検査対象物体100などの複数の測定位置に磁場伝達部4の複数の感受部位が配置されるように、磁気センサ部10が配置される。
【0059】
次に、測定制御部21は、複数の測定位置について、例えば
図8または
図9に示すように、順番に、高周波磁場発生器2で印加されるマイクロ波の周波数および静磁場の印加方向を測定位置に対応させて設定し、上述の測定シーケンスSQiを実行し、磁気共鳴部材1の物理的事象の検出値(ここでは蛍光強度)を磁気センサ部10から取得し、演算部22は、その検出値に基づいて、その複数の測定位置の磁場(強度、向きなど)を特定する。
【0060】
これにより、1つの磁気センサ部10(つまり、1つの磁気共鳴部材1)によって、複数の測定位置の磁場が測定される。
【0061】
そして、磁気センサ部10を走査する場合には、測定制御部21は、所定の走査経路パターンに沿って磁気センサ部10を移動させて、走査経路上の次の複数の測定位置に、感受部位を配置し、同様に、上述の測定シーケンスSQiを実行し、磁気共鳴部材1の物理的事象の検出値(ここでは蛍光強度)を磁気センサ部10から取得し、演算部22は、その検出値に基づいて、その複数の測定位置の磁場(強度、向きなど)を特定する。
【0062】
一方、磁気センサ部10を走査しない場合には、必要に応じて、次の測定タイミングで、測定制御部21は、同じ複数の測定位置で、同様に、上述の測定シーケンスSQiを実行し、磁気共鳴部材1の物理的事象の検出値(ここでは蛍光強度)を磁気センサ部10から取得し、演算部22は、その検出値に基づいて、その複数の測定位置の磁場(強度、向きなど)を特定する。
【0063】
以上のように、上記実施の形態1によれば、磁気共鳴部材1は、結晶構造を有し、結晶格子における欠陥および不純物の配列方向に応じて異なる周波数のマイクロ波で電子スピン量子操作の可能な部材である。高周波磁場発生器2は、磁気共鳴部材1にマイクロ波の磁場を印加する。高周波電源12は、高周波磁場発生器2にそのマイクロ波の電流を導通させる。磁場伝達部4は、互いに異なる複数の測定位置で被測定磁場を感受し、その複数の測定位置で感受した被測定磁場に対応する印加磁場を上述の結晶格子における欠陥および不純物の複数の配列方向に沿ってそれぞれ磁気共鳴部材1に印加する。検出装置(照射装置5および受光装置6)は、磁気共鳴部材1から、印加磁場に対応する物理的事象を検出する。測定制御部21は、高周波電源12を制御し、検出装置により検出された、上述の複数の測定位置に対応する物理的事象の検出値を特定する。演算部22は、その検出値に基づいて上述の複数の測定位置での被測定磁場を演算する。
【0064】
これにより、1つの磁気センサ部10(つまり、1つの磁気共鳴部材1)で複数の測定位置の磁場測定がまとめて行われることで、1つの磁気センサ部10が多チャンネル化される。ひいては、比較的低コストな、かつ/または測定時間の短い磁場測定装置および磁場測定方法が得られる。つまり、磁気センサ部10が走査される場合には、複数の測定位置の磁場を一括して測定できるため、走査距離が短くなり、測定時間が短くなる。磁気センサ部10が走査されず固定されている場合には、複数の測定位置の磁場を一括して測定できるため、磁気センサ部10の数が少なくて済み、比較的低コストで磁場測定が実現される。
【0066】
図11は、実施の形態2に係る磁場測定装置における磁場伝達部4の2次側コイル42−1〜42−3の配置例について説明する斜視図である。実施の形態2では、NVセンタの4つの配列方向のうち、3つの配列方向が使用される。
【0067】
実施の形態2では、例えば
図11に示すように、1つの配列方向について、磁気共鳴部材1を挟むように2つの2次側コイル42−iが配置され、その2つの2次側コイル42−iによってその配列方向に沿って印加磁場が磁気共鳴部材1に印加される。例えば
図11に示すように、3対の2次側コイル42−iが、配列方向に沿うようにして非磁性の支持部材61に固定されており、支持部材61は、基板62などに固定されている。基板62には、高周波電源12などが実装されており、高周波磁場発生器2などが固定されている。なお、
図11において、支持部材1aは上半分のみ描かれている。また、静磁場Boiの発生源(図示省略)としては、別途の磁石、磁性装置またはコイルなどが挙げられ、その設置場所は磁気共鳴部材1の上方、または上下双方とされる。
【0068】
なお、実施の形態2に係る磁場測定装置のその他の構成および動作については実施の形態1と同様であるので、その説明を省略する。
【0070】
図12は、実施の形態3に係る磁場測定装置における磁場伝達部4の2次側コイル42−1〜42−4の配置例について説明する斜視図である。実施の形態3では、NVセンタの4つの配列方向のうち、4つ(すべて)の配列方向が使用される。
【0071】
実施の形態3では、さらに4軸目についてのフラックストランスフォーマーが設けられており、実施の形態2と同様に、4対の2次側コイル42−1〜42−4が、支持部材61に固定されて、磁気共鳴部材1におけるNVセンタの4つの配列方向に沿って配置されている。なお、2次側コイル42−4は、4軸目についてのフラックストランスフォーマーの2次側コイルである。また、
図12において、支持部材1aは上半分のみ描かれている。また、静磁場Boiの発生源(図示省略)としては、別途の磁石、磁性装置またはコイル(例えばヘルムホルツコイル)などが挙げられ、その設置場所は磁気共鳴部材1の4対の2次側コイル42−1〜42−4の同軸方向の外側とされる。
【0072】
なお、実施の形態3に係る磁場測定装置のその他の構成および動作については実施の形態1または実施の形態2と同様であるので、その説明を省略する。
【0074】
図13は、実施の形態4に係る磁場測定装置における磁場伝達部4の2次側コイル42−1〜42−3の配置例(
図4の例)について説明する斜視図である。実施の形態4では、各配列方向iにつき、1対(2つ)の2次側コイル41−iが使用され、磁性体コア81−iが設けられている。また、
図13に示すように、2次側コイル41−iは、磁性体コア81−iの端部に(つまり、ギャップに隣接して)配置される。磁性体コア81−iは、1つのギャップを有するC形コアであって、2次側コイル41−i(具体的には、2次側コイル41−iの券回されたボビン)に挿通し、2次側コイル41−iの発生する印加磁場の磁路を形成する。そのギャップには、磁気共鳴部材1が配置され、2次側コイル41−iの発生する印加磁場が、磁性体コア81−iを介して、対応する配列方向に沿って磁気共鳴部材1に印加される。また、静磁場Boiの発生源(図示省略)としては、別途の磁石、磁性装置またはコイルなどが挙げられ、その設置場所は磁気共鳴部材1の上方、または上下双方とされる。
【0075】
なお、実施の形態4に係る磁場測定装置のその他の構成および動作については実施の形態1〜3のいずれかと同様であるので、その説明を省略する。
【0077】
図14は、実施の形態5に係る磁場測定装置における磁場伝達部4の2次側コイル42−1〜42−3の配置例について説明する斜視図である。実施の形態5では、各配列方向iにつき、1つの2次側コイル41−iが使用され、磁性体コア81−iが設けられている。そして、実施の形態4と同様に、磁性体コア81−iは、1つのギャップを有するC形コアであって、2次側コイル41−i(具体的には、2次側コイル41−iの券回されたボビン)に挿通し、2次側コイル41−iの発生する印加磁場の磁路を形成する。そのギャップには、磁気共鳴部材1が配置され、2次側コイル41−iの発生する印加磁場が、磁性体コア81−iを介して、対応する配列方向に沿って磁気共鳴部材1に印加される。
【0078】
なお、実施の形態5に係る磁場測定装置のその他の構成および動作については実施の形態1〜4のいずれかと同様であるので、その説明を省略する。
【0080】
実施の形態6に係る磁場測定装置では、磁場伝達部4において、フラックストランスフォーマー4−iの代わりに、磁路部材(磁性体コア)が使用される。実施の形態6では、その磁路部材は、複数の測定位置から磁気共鳴部材1への複数の磁路を形成する。そして、その磁路部材の一端が感受部位となり、他端が印加部位となる。
【0081】
なお、実施の形態6に係る磁場測定装置のその他の構成および動作については実施の形態1〜5のいずれかと同様であるので、その説明を省略する。
【0083】
実施の形態7に係る磁場測定装置では、複数の測定位置(例えば2か所)のそれぞれにおいて、X軸方向とY軸方向の磁場を感受するように2つの感受部位を異なる向き(例えばX軸方向とY軸方向)で配置し、それらの測定結果をベクトル合成することで、その複数の測定位置での磁場の強度および向きの両方を特定する。
【0084】
なお、実施の形態7に係る磁場測定装置のその他の構成および動作については実施の形態1〜6のいずれかと同様であるので、その説明を省略する。
【0085】
なお、上述の実施の形態1〜7に対する様々な変更および修正については、当業者には明らかである。そのような変更および修正は、その主題の趣旨および範囲から離れることなく、かつ、意図された利点を弱めることなく行われてもよい。つまり、そのような変更および修正が請求の範囲に含まれることを意図している。
【0086】
例えば、上記実施の形態1〜7では、一例として、交流磁場としての被測定磁場の波形を正弦波と仮定しているが(
図9)、その代わりに、被測定交流磁場の波形は他の波形(三角波、のこぎり波、矩形波、複数の波形を合成したものなど)であってもよい。
【0087】
さらに、上記実施の形態1〜7において、上述の複数の測定位置(つまり、感受部位の配列)は、直線的に配置されていなくてもよい。また、上記実施の形態において、上述の複数の測定位置(つまり、感受部位の配列)は、1平面上に配列されなくてもよく、立体的に配列されていてもよい。また、上記実施の形態において、上述の複数の測定位置(つまり、感受部位の配列)は、曲線上または曲面上に沿って配列されていてもよい。