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特開2021-136126複合材料、リチウム硫黄電池用の正極、リチウム硫黄電池、及び複合材料の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-136126(P2021-136126A)
(43)【公開日】2021年9月13日
(54)【発明の名称】複合材料、リチウム硫黄電池用の正極、リチウム硫黄電池、及び複合材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/13 20100101AFI20210816BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20210816BHJP
【FI】
   H01M4/13
   H01M4/62 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
【全頁数】28
(21)【出願番号】特願2020-30830(P2020-30830)
(22)【出願日】2020年2月26日
(71)【出願人】
【識別番号】399030060
【氏名又は名称】学校法人 関西大学
(71)【出願人】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】石川 正司
(72)【発明者】
【氏名】殿納屋 剛
(72)【発明者】
【氏名】松井 由紀子
(72)【発明者】
【氏名】日名子 英範
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA07
5H050AA08
5H050AA19
5H050BA16
5H050CA01
5H050CB02
5H050CB05
5H050CB12
5H050DA09
5H050DA10
5H050EA08
5H050EA12
5H050GA10
5H050HA00
5H050HA01
5H050HA07
(57)【要約】
【課題】リチウム硫黄電池において、硫黄質量当たりの放電容量が大きく、かつ優れたサイクル特性が実現できる、リチウム硫黄電池の正極用の複合材料を提供する。
【解決手段】リチウム硫黄電池の正極用の複合材料であって、
多孔質炭素材料、硫黄、及び金属酸化物を含み、
前記多孔質炭素材料は、窒素含有量が0.3質量%以上であり、窒素吸脱着法のBET法で得られる比表面積が1000m2/g以上であり、急冷固相密度関数法(QSDFT)により得られる細孔容積が0.45cm3/g以上である、
複合材料。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム硫黄電池の正極用の複合材料であって、
多孔質炭素材料、硫黄、及び金属酸化物を含み、
前記多孔質炭素材料は、窒素含有量が0.3質量%以上であり、窒素吸脱着法のBET法で得られる比表面積が1000m2/g以上であり、急冷固相密度関数法(QSDFT)により得られる細孔容積が0.45cm3/g以上である、
複合材料。
【請求項2】
前記金属酸化物が、Mn及びTiからなる群より選択される1種類以上の酸化物である、請求項1に記載の複合材料。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の複合材料を含有するリチウム硫黄電池用の正極。
【請求項4】
請求項3に記載の正極を具備するリチウム硫黄電池。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の複合材料の製造方法であって、
窒素含有量が0.3質量%以上、窒素吸脱着法のBET法で得られる比表面積が1000m2/g以上、かつ急冷固相密度関数法(QSDFT)により得られる細孔容積が0.45cm3/g以上である多孔質炭素材料と、硫黄と、金属酸化物と、を、混合する工程と、
前記硫黄を融解し、前記多孔質炭素材料に充填する工程と、
を、有する、
複合材料の製造方法。
【請求項6】
窒素含有炭素材料を賦活することにより前記多孔質炭素材料を得る賦活工程を有し、
前記賦活工程において、
下記(I)式:
窒素含有量の減少率(質量%)=((B−A)/B)×100 (I)
(式(I)において、Aは前記多孔質炭素材料中のXPSで測定される窒素含有量(質量%)であり、Bは前記窒素含有炭素材料中のXPSで測定される窒素含有量(質量%)である。)
で定義される窒素含有量の減少率が、30〜99質量%である、
請求項5に記載の複合材料の製造方法。
【請求項7】
前記窒素含有炭素材料中の窒素含有量が2〜45質量%である、請求項6に記載の複合材料の製造方法。
【請求項8】
前記賦活が薬品賦活である、請求項6又は7に記載の複合材料の製造方法。
【請求項9】
前記金属酸化物が、Mn及びTiからなる群より選択される1種類以上の酸化物である、請求項5乃至8のいずれか一項に記載の複合材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合材料、リチウム硫黄電池用の正極、リチウム硫黄電池、及び複合材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、非水電解質としてリチウム塩の有機電解液を用いており、軽量でエネルギー密度が高く、携帯電話又はノートパソコンの電源として利用されており、今後はハイブリッド車に代表される電動自動車等の移動体用の電源としての利用も期待されている。
そのため、近年では、容量密度がより高く、しかも低コストである電池に対する要求がますます高まっている。
【0003】
一般に、リチウムイオン二次電池の正極活物質としては、Co、Ni、Mn、Fe等とLiとを含む金属酸化物が用いられているが、近年、これらの正極活物質に代えて、理論的な容量密度が極めて高く、しかも低コストである硫黄を正極活物質に用いるリチウム硫黄電池の開発が行われている。
【0004】
リチウム硫黄電池は、硫黄系化合物を正極活物質として用い、リチウムのようなアルカリ金属又はリチウムイオン等の金属イオンの挿入脱離が起こる物質、例えばシリコンを負極活物質として用いる二次電池である。
硫黄の酸化還元反応は可逆的であり、反応電子数が多いことから、1672mAh/gという金属酸化物正極の約10倍の高い理論容量を持っている。
【0005】
しかしながら、リチウムと硫黄から成る正極活物質には、下記の問題点が存在する。
まず、リチウムと硫黄から成る正極活物質は、電気伝導性に乏しいため、表面に近い部分のみでしか電子の授受を行えず、電気化学的酸化還元反応に関与する硫黄の利用率が低くなるため、電池容量が低くなってしまうという問題点を有している。
また、充放電中の反応によって、式;Li2x(式中、xは4〜8)で表されるリチウムポリスルフィドが電解液へ溶出してしまい、正極上に存在する硫黄を損失してしまう原因となり、これに伴い、リチウム硫黄電池の容量が低下する、という問題点を有している。かかるリチウム硫黄電池の容量低下を防ぐためには、Li2xの溶出を止めることが望ましい。
【0006】
上述した問題点を解決する技術として、導電性材料である炭素材料と硫黄とを複合化する技術が提案されている。
炭素材料と硫黄を複合化した複合体を得、これを正極の活物質とする技術としては、例えば、粒子径75μm以下の硫黄及び/又は硫黄化合物の粒子、並びに、中空構造を有する所定の炭素微粒子を原料とし、これらをメカノフュージョンにより複合化して形成された、硫黄及び/又は硫黄化合物の粒子を核とし、かつその表面に炭素微粒子層を有する構成の複合体を得、これを正極の活物質として用いる技術が開示されている(特許文献1、2参照)。
【0007】
また、チオ硫酸ナトリウムを水に溶解させ、これに無水酢酸を添加して水溶液とし、さらにカーボンブラックを添加して混合し、水溶液のままメカノケミカル法で混合し、遠心分離及び濾過を行い、上澄みを除去し、濾残をカーボンブラック−硫黄ナノ粒子複合体として得、当該複合体を、リチウム硫黄電池の正極の活物質として用いる技術が開示されている(特許文献3参照)。
かかる技術は、強力なずり応力及び遠心力を加えることで反応させて、炭素材料と硫黄を複合化し、複合体を得る技術である。
【0008】
一方、本発明者らは、硫黄と活性炭を155℃で5時間加熱することによって、炭素材料へ硫黄を融解拡散させることにより、硫黄を31%含む活性炭から成る複合体を作製する技術を見出している(非特許文献1参照)。
【0009】
さらに本発明者らは、窒素含有炭素材料を薬品賦活して、窒素含有の多孔質炭素材料を炭素材料として用い、得られた炭素材料へ硫黄を融解拡散させることにより、硫黄と複合化する技術を見出している(特許文献4参照)。
【0010】
前記特許文献4に開示されている技術において、窒素含有の多孔質炭素材料を用いて得られた「炭素材料と硫黄との複合体」は、硫黄の担持量が54〜62質量%と大きく、これをリチウム硫黄電池の正極活物質として用いた場合、硫黄質量当たりの容量、及び硫黄と炭素材料を含む複合体当たりの容量が大きく、かつサイクル特性に優れている、という利点を有している。
【0011】
一方、MnO2を中空カーボンナノファイバーに充填した複合体を、正極材料として用いる技術が開示されている(非特許文献2参照)。当該技術においては、MnO2を中空カーボンナノファイバーに充填した複合体に、融解した硫黄を充填することにより硫黄と複合化をさせている。非特許文献2中には、MnO2をLi2x(式中、xは4〜8)と化学結合させることにより、Li2xの溶出を抑制してサイクル特性を向上させる、との記載がなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2006−92881号公報
【特許文献2】特開2006−92883号公報
【特許文献3】特開2012−204332号公報
【特許文献4】特開2018−39685号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Progress in Natural Science: Materials International, 25, 612−621(2015)
【非特許文献2】Angew. Chem. Int. Ed., 54, 12886−12890(2015)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、特許文献1及び2に記載の、メカノフュージョンにより複合化して形成した硫黄及び/又は硫黄化合物の粒子を核とし、表面に炭素微粒子層を有する構成の複合体を正極の活物質として用いたリチウム硫黄電池は、硫黄のほとんどが、炭素材料の外表面に堆積するか、又は遊離の硫黄として存在するために、未だ従来技術の問題点を十分に解決できておらず、硫黄の利用率が低く、硫黄質量当たりの容量が小さい、という問題点を有しており、さらには硫黄がLi2xとして溶出するためにサイクル特性が著しく低いという問題点を有している。
【0015】
また、特許文献3に記載されている技術は、硫黄質量当たりの容量が小さく、また、硫黄含有量が22.9質量%と低いため、硫黄と炭素材料を含む複合体の質量当たりの容量が小さい、という問題点を有している。また、特許文献3に記載されている技術によって得られた複合体を正極の活物質として含むリチウム硫黄電池のサイクル特性も実用上不十分である、という問題点を有している(特許文献3の図10参照)。
【0016】
さらに非特許文献1に記載されている複合体を正極活物質として用いたリチウム硫黄電池は、硫黄質量当たりの容量は比較的大きいが、硫黄含有量が31質量%であるため、硫黄と炭素材料を含む複合体の質量当たりの容量が低いという問題点を有している。
【0017】
さらにまた、特許文献4に記載されている技術により得られる複合体は、特許文献1〜3や非特許文献1に記載されている技術により得られる複合体に比べて、硫黄の担持量が大きく、これをリチウム硫黄電池の正極活物質として用いた場合、硫黄質量当たりの容量、及び硫黄と炭素材料を含む複合体当たりの容量が大きい。しかしながら、サイクル特性は不十分である、という問題点を有している。
【0018】
一方、非特許文献2に記載されている技術により得られる複合体は、中空カーボンナノファイバーを活物質に用いているが、一方において、リチウムイオン二次電池は前述のように携帯電話、ノートパソコン、電動自動車等の移動体用の電源として利用されるため、電池の体積当たりの放電容量が重視される。カーボンナノファイバーは、かさ密度が非常に低いために体積当たりの放電容量が著しく低くなり、電池の活物質としては実用的でない。特に中空カーボンナノファイバーを用いた場合には、より一層、体積当たりの放電容量が低くなる、という問題点を有している。
また、非特許文献2に記載されている技術により得られる複合体は、製造方法が複雑である、という問題点も有している。具体的には、まず平均直径約35nm均一なMnO2ナノワイヤを製造し、ついでシリカをコーティングし、その後、レゾルシノールホルムアルデヒド(RF)樹脂でコーティングした後に、窒素雰囲気で焼成する。次に、NaOH水溶液でシリカを除去することにより、MnO2を中空カーボンナノファイバーに充填した複合体を製造し、得られた複合体に融解した硫黄を充填して複合化をさせている。
【0019】
そこで本発明においては、上述した従来技術の問題点に鑑み、中空カーボンナノファイバーを活物質として用いずに、硫黄質量当たりの放電容量が大きく、優れたサイクル特性を有するリチウム硫黄電池の正極用の複合材料、当該複合材料を用いた正極、及び当該正極を用いたリチウム硫黄電池、及び簡易な複合材料の製造方法、を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を行った結果、特定の窒素含有量を有し、かつ特定の構造を有する多孔質炭素材料、硫黄及び金属酸化物を含む複合材料をリチウム硫黄電池用の正極の活物質に用いることにより、上述した従来技術の問題点を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、下記のとおりである。
【0021】
〔1〕
リチウム硫黄電池の正極用の複合材料であって、
多孔質炭素材料、硫黄、及び金属酸化物を含み、
前記多孔質炭素材料は、窒素含有量が0.3質量%以上であり、窒素吸脱着法のBET法で得られる比表面積が1000m2/g以上であり、急冷固相密度関数法(QSDFT)により得られる細孔容積が0.45cm3/g以上である、
複合材料。
〔2〕
前記金属酸化物が、Mn及びTiからなる群より選択される1種類以上の酸化物である、前記〔1〕に記載の複合材料。
〔3〕
前記〔1〕又は〔2〕に記載の複合材料を含有するリチウム硫黄電池用の正極。
〔4〕
前記〔3〕に記載の正極を具備するリチウム硫黄電池。
〔5〕
前記〔1〕又は〔2〕に記載の複合材料の製造方法であって、
窒素含有量が0.3質量%以上、窒素吸脱着法のBET法で得られる比表面積が1000m2/g以上、かつ急冷固相密度関数法(QSDFT)により得られる細孔容積が0.45cm3/g以上である多孔質炭素材料と、硫黄と、金属酸化物と、を、混合する工程と、
前記硫黄を融解し、前記多孔質炭素材料に充填する工程と、
を、有する、
複合材料の製造方法。
〔6〕
窒素含有炭素材料を賦活することにより前記多孔質炭素材料を得る賦活工程を有し、
前記賦活工程において、
下記(I)式:
窒素含有量の減少率(質量%)=((B−A)/B)×100 (I)
(式(I)において、Aは前記多孔質炭素材料中のXPSで測定される窒素含有量(質量%)であり、Bは前記窒素含有炭素材料中のXPSで測定される窒素含有量(質量%)である。)
で定義される窒素含有量の減少率が、30〜99質量%である、
前記〔5〕に記載の複合材料の製造方法。
〔7〕
前記窒素含有炭素材料中の窒素含有量が2〜45質量%である、前記〔6〕に記載の複合材料の製造方法。
〔8〕
前記賦活が薬品賦活である、前記〔6〕又は〔7〕に記載の複合材料の製造方法。
〔9〕
前記金属酸化物が、Mn及びTiからなる群より選択される1種類以上の酸化物である、前記〔5〕乃至〔8〕のいずれか一に記載の複合材料の製造方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、リチウム硫黄電池において、硫黄質量当たりの放電容量が大きく、かつ優れたサイクル特性が実現できる、リチウム硫黄電池の正極用の複合材料、リチウム硫黄電池用の正極、リチウム硫黄電池、及びリチウム硫黄電池の正極に用いる複合材料の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】多孔質炭素材料のレーザーラマンスペクトル図から、ピークからの高さ(H1、H2)、最小値Mからの高さ(L)を算出する方法についての説明図である。
図2】実施例1の多孔質炭素材料と硫黄及び金属酸化物から構成される複合材料、比較例1の多孔質炭素材料と硫黄から構成される複合体、及び硫黄のみ、の硫黄含有量を測定したときの熱重量分析(TG)のグラフである。
図3】実施例、比較例で用いた多孔質炭素材料のレーザーラマンスペクトル図である。
図4】実施例1、比較例1の1サイクル目と80サイクル目の充放電曲線である。
図5】実施例1、比較例1の放電容量のサイクル特性を示すグラフである。
図6】実施例2、比較例2の放電容量のサイクル特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について詳細に説明する。
本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明はその実施の形態のみに限定されるものではない。すなわち、本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0025】
〔複合材料〕
本実施形態の複合材料は、リチウム硫黄電池の正極用の複合材料であり、多孔質炭素材料、硫黄、及び金属酸化物を含む。
前記多孔質炭素材料は、窒素含有量が0.3質量%以上であり、窒素吸脱着法のBET法で得られる比表面積が1000m2/g以上であり、急冷固相密度関数法(QSDFT)により得られる細孔容積が0.45cm3/g以上である。
上述した構成を有することにより、リチウム硫黄電池において、硫黄質量当たりの放電容量が大きく、かつ優れたサイクル特性が実現できる。
【0026】
(多孔質炭素材料)
本実施形態の複合材料に用いる多孔質炭素材料は、窒素含有量が0.3質量%以上、窒素吸脱着法のBET法で得られる比表面積が1000m2/g以上、かつ急冷固相密度関数法(QSDFT)により得られる細孔容積が0.45cm3/g以上である。
多孔質炭素材料が、上述の構成を有していることにより、当該多孔質炭素材料と硫黄及び金属酸化物とを含む複合材料を正極に用いたリチウム硫黄電池は、硫黄質量当たりの放電容量が大きく、かつ優れたサイクル特性が実現できる。
【0027】
<多孔質炭素材料の製造方法>
本実施形態の複合材料に含まれる多孔質炭素材料の好ましい製造方法としては、窒素含有炭素材料を製造する工程、及び前記窒素含有炭素材料を賦活、例えば薬品賦活する工程を有する製造方法が挙げられる。
前記賦活、例えば薬品賦活後に、不活性ガス中で熱処理する工程を含んでもよい。
前記窒素含有炭素材料とは、CuKα線をX線源として得られるX線回折図(XRD)において、回折角(2θ)のピーク位置について、(002)面に由来する22.5〜26.8°の位置にメインピークを有する材料であることが好ましく、また43.0〜46.0°の位置、通常は44.0〜45.5°の位置に弱いピークが観察されるものであることが好ましい。
多孔質炭素材料の製造方法で用いる窒素含有炭素材料は、炭素及び窒素以外に、酸素・水素等の他の原子も含んでもよい。
【0028】
本発明者らは、窒素含有炭素材料を賦活、例えば薬品賦活することによって、窒素含有量が0.3質量%以上、窒素吸脱着法のBET法で得られる比表面積が1000m2/g以上、かつ急冷固相密度関数法(QSDFT)により得られる細孔容積が0.45cm3/g以上である多孔質炭素材料が得られること、当該多孔質炭素材料と硫黄及び金属酸化物を含む本実施形態の複合材料をリチウム硫黄電池用の正極に用いることで、リチウム硫黄電池において、硫黄質量当たりの放電容量が大きく、かつ優れたサイクル特性、及び簡易な複合材料の製造、が実現できることを見出した。
この理由は定かではないが、以下のように推測される。ただし、この推測により本発明は何ら限定されない。
【0029】
窒素含有炭素材料に対して賦活、例えば薬品賦活、及び熱処理を行うことによって細孔を形成すると、窒素部分が優先して除去されるため、ミクロ孔が優先して形成される。
生成したミクロ孔への硫黄の固定化による溶出抑制並びに電子授受が可能な硫黄の量が増えること、残留した窒素官能基への硫黄の固定化、金属酸化物へLi2x(式中、xは4〜8)が化学的結合することによる充放電プロセス中のLi2x(式中、xは4〜8)溶出の抑制、これらが複合的に機能した結果、本実施形態の複合材料をリチウム硫黄電池用の正極の活物質として用いた場合に優れた効果を発現していると考えられる。
本明細書において、「細孔容積」の「細孔」とは、急冷固相密度関数法(QSDFT)により一義的に定まり、当該方法により得られる細孔分布図において、細孔径が2nm以下の細孔をミクロ孔といい、細孔径が2nm超50nm以下の細孔をメソ孔といい、細孔径が50nm超の細孔をマクロ孔というものとする。
【0030】
なお、窒素含有炭素材料に対する賦活、例えば薬品賦活を実施することによって、下記式(I)で定義される窒素含有量の減少率は、30〜99質量%となることが好ましい。
窒素含有量の減少率(質量%)=((B−A)/B)×100 (I)
(式(I)において、Aは前記多孔質炭素材料中のXPSで測定される窒素含有量(質量%)であり、Bは前記窒素含有炭素材料中のXPSで測定される窒素含有量(質量%)である。)
【0031】
[窒素含有炭素材料、及び窒素含有炭素材料の製造方法]
多孔質炭素材料の製造方法で用いる窒素含有炭素材料とは、窒素を含む炭素材料である。
窒素含有炭素材料は、例えば、低分子の窒素含有有機化合物を原料として重合させ、得られたポリマーを炭化処理して製造する方法、低分子の窒素含有有機化合物を原料として化学気相蒸着(CVD)させて製造する方法、ポリマーに低分子の窒素含有有機化合物を含浸又は反応させた後に炭化処理して製造する方法、窒素を含む天然物を炭化処理して製造する方法、炭化物にアンモニア処理、アンモ酸化処理等の後処理を行うことによって製造する方法等によって製造することができる。
具体的には、ピロール、アセトニトリル、2,3,6,7−テトラシアノ−1,4,5,8−テトラアザナフタレン等の窒素含有有機化合物を化学気相蒸着させる方法、メラミン樹脂、尿素樹脂、アニリン樹脂、ポリアクリロニトリル、アズルミン酸、メレム(melem)重合体、ポリピロール、ポリイミド等、又はこれらを他のポリマーと混合して得られた前駆体を炭化させる方法、豆類等を炭化させる方法、活性炭等の炭素材料にアンモニアガスと酸素含有ガスを反応させる方法、等によって窒素含有炭素材料を製造することができる。
上記のように各種有機化合物を原料として熱履歴を与える場合、600℃以上の熱履歴を与えることが好ましい。
【0032】
窒素含有炭素材料としては、窒素含有量の多い窒素含有炭素材料であることが好ましい。
窒素含有炭素材料中の窒素含有量は、CHN分析によって測定される。
本実施形態においては、窒素含有炭素材料の窒素含有量は、2〜45質量%であることが好ましい。
窒素含有量の下限値は、3質量%以上がより好ましく、5質量%以上がさらに好ましく、10質量%以上がさらにより好ましい。
窒素含有量の上限値は、40質量%以下がより好ましく、35質量%以下がさらに好ましく、30質量%以下がさらにより好ましい。
窒素含有量が2質量%以上の窒素含有炭素材料を用いると、ミクロ孔が発達し易い。窒素含有量が45質量%以下の窒素含有炭素材料は炭素構造が発達し易い。
【0033】
窒素含有炭素材料の窒素含有量は、原料として用いるポリマーの窒素含有量を適宜選択する方法により制御することができる。
例えば、窒素含有量の多い窒素含有炭素材料の製造する方法としては、窒素含有量の多いポリマーを炭化する方法を例示できる。
具体的には、アズルミン酸、メレム重合体、ポリアクリロニトリルを炭化して製造された窒素含有炭素材料等が挙げられ、好ましくはアズルミン酸を炭化して製造された窒素含有炭素材料である。
アズルミン酸とは青酸又は青酸オリゴマーを重合して得られるポリマーである。青酸オリゴマーとは青酸の2量体以上である。
ポリマーの炭化処理の条件は、例えば回転炉、トンネル炉、管状炉、ボックス炉、流動焼成炉等を用い、不活性ガス雰囲気下で加熱処理を施すことである。加熱処理の温度は、特に限定されないが、好ましくは600〜1200℃、より好ましくは700〜1000℃、さらに好ましくは750〜900℃である。
上記不活性ガスとしては、以下のガスに限定されないが、例えば、窒素、アルゴン、ヘリウム、ネオン等の不活性ガスが挙げられる。また、不活性ガス雰囲気が減圧下、つまり大気圧よりも低い圧力環境であってもよい。これらの中では、不活性ガスとして窒素ガスを用いることが好ましい。不活性ガス雰囲気は、不活性ガスが静止していても流通していてもよいが、流通しているのが好ましい。その不活性ガス中の酸素濃度は、5%以下が好ましく、1%以下がより好ましく、1000ppm以下が特に好ましい。
炭化処理の時間としては、好ましくは10秒間〜100時間、より好ましくは5分間〜10時間、さらに好ましくは15分間〜5時間、さらにより好ましくは30分間〜2時間である。
また、炭化処理の際の圧力は、不活性ガスを用いる場合、好ましくは0.01〜5MPa、より好ましくは0.05〜1MPa、さらに好ましくは0.08〜0.3MPa、さらにより好ましくは0.09〜0.15MPaである。
【0034】
[窒素含有炭素材料を賦活する工程]
次に、窒素含有炭素材料を賦活する工程について説明する。
賦活とは、窒素含有炭素材料を多孔質化するための処理である。
窒素含有炭素材料の賦活工程においては、特に薬品賦活が、比表面積が大きく、ミクロ孔率が高く、細孔容積が大きい多孔質炭素材料を得易い、という観点から好ましい。
薬品賦活工程は、窒素含有炭素材料を薬品と混合して加熱処理することにより行われる。
薬品賦活に用いる薬品とは、25℃、大気圧において固体である薬品、及びその水和物、水溶液を指す。
薬品としては、以下に限定されるものではないが、例えば、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等のアルカリ金属水酸化物;炭酸カリウム、炭酸ナトリウム等のアルカリ金属炭酸塩;硫酸カリウム、硫酸ナトリウム等のアルカリ金属の硫酸塩;塩化亜鉛、塩化カルシウム、硫化カリウム、燐酸等であり、その水溶液又は水和物を挙げることができる。
これらの1種類を単独で用いてもよく、又は2種類以上を混合して使用してもよい。
【0035】
薬品賦活は、比表面積と細孔容積を所望の範囲に制御する観点から、好ましくは、アルカリ金属を含む薬品を用いたアルカリ賦活であり、具体的には水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム等による賦活である。
【0036】
薬品賦活工程における、窒素含有炭素材料に対する薬品の使用量は、特に限定されないが、薬品/窒素含有炭素材料(質量比)は0.1〜10が好ましい。
薬品/窒素含有炭素材料(質量比)の下限値は、0.3以上がより好ましく、0.5以上がさらに好ましい。
また、薬品/窒素含有炭素材料(質量比)の上限値は、5以下がより好ましく、3以下が特に好ましい。
薬品/窒素含有炭素材料(質量比)が0.1以上であると細孔の発達が十分に行われ、10以下であると過賦活を防止でき細孔壁の破壊を抑制できる。
【0037】
薬品賦活の雰囲気は、不活性ガス雰囲気が好ましい。不活性ガスとしては、例えば、窒素、アルゴン、ヘリウム、ネオン等のガスが挙げられる。
薬品賦活処理は、特に限定されるものではないが、例えば、500〜1100℃、より好ましくは600℃〜1000℃、さらに好ましくは700℃〜900℃の温度で行われる。
薬品賦活処理の温度が500℃以上であると、賦活の進行が十分なものとなり、1100℃以下であると、賦活の過度の進行を抑制でき、また賦活装置の腐食の発生を防止することができる。
薬品賦活処理の時間は、特に限定されるものではないが、10分〜50時間が好ましく、より好ましくは30分〜10時間、特に好ましくは1〜5時間である。
薬品賦活処理の圧力は、通常、常圧であるが、加圧下又は減圧下で行うことも可能である。
【0038】
賦活炉としては、回転炉、トンネル炉、管状炉、ボックス炉、流動焼成炉等を用いることができる。
【0039】
薬品賦活終了後は、賦活した窒素含有炭素材料を水洗して、薬品賦活に用いた金属成分等を洗浄し、塩酸、硫酸、硝酸等で中和して、再度水洗して酸を洗浄する洗浄工程を設けることが好ましい。
洗浄工程を行った後に、洗浄された生成物を濾過等の固液分離処理を行い、乾燥処理を行う。
【0040】
前記薬品賦活後に、不活性ガス中で熱処理してもよい。
前記不活性ガスとしては、以下に限定されないが、例えば、窒素、アルゴン、ヘリウム、ネオン等の不活性ガスが挙げられる。
また、不活性ガス雰囲気が減圧下、つまり大気圧よりも低い圧力環境であってもよい。これらの中では、不活性ガスとして窒素ガスを用いることが好ましい。
不活性ガス雰囲気は、不活性ガスが静止していても流通していてもよいが、流通していることが好ましい。
その不活性ガス中の酸素濃度は、5%以下が好ましく、1%以下がより好ましく、1000ppm以下がさらに好ましい。
【0041】
前記熱処理の温度は、比表面積と細孔容積を所望の範囲に制御する観点から、900℃以上であることが好ましい。より好ましくは1000℃以上であり、さらに好ましくは1100℃以上であり、さらにより好ましくは1200℃以上であり、よりさらに好ましくは1300℃以上である。また1800℃以下が好ましく、1600℃以下がより好ましい。
【0042】
熱処理の時間としては、好ましくは10秒間〜100時間、より好ましくは5分間〜10時間、さらに好ましくは15分間〜5時間、さらにより好ましくは30分間〜2時間である。
また、熱処理の際の圧力は、不活性ガスを用いる場合、好ましくは0.01〜5MPa、より好ましくは0.05〜1MPa、さらに好ましくは0.08〜0.3MPa、さらにより好ましくは0.09〜0.15MPaである。
熱処理は、上述した賦活炉で行うことができる。
【0043】
賦活工程、例えば薬品賦活工程における下記式(I)で定義される窒素含有量の減少率は、好ましくは30〜99質量%である。
窒素含有量の減少率(質量%)=((B−A)/B)×100 (I)
(式(I)式において、Aは前記多孔質炭素材料中のXPSで測定される窒素含有量(質量%)であり、かつBは前記窒素含有炭素材料中のXPSで測定される窒素含有量(質量%)である。)
窒素含有量の減少率の下限値は、75質量%以上がより好ましく、80質量%以上であることがさらに好ましい。
上限は98質量%以下がより好ましく、95質量%以下がさらに好ましい。
窒素含有量の減少率が30質量%以上であればミクロ孔が発達するので好ましい。
窒素を残留させるという観点、および比表面積と細孔容積を所望範囲とする観点から窒素含有量の減少率は99質量%以下が好ましい。
前記式(I)で定義される窒素含有量の減少率は、窒素含有炭素材料の選択、窒素含有炭素材料に対する賦活工程での条件の選択により、上記数値範囲に制御することができる。
【0044】
<多孔質炭素材料の形態>
本実施形態の複合材料に用いる多孔質炭素材料は、粉砕法によって製造される。
粉砕は窒素含有有機化合物、窒素含有炭素材料、多孔質炭素材料のいずれの製造工程においても実施してもよい。
多孔質炭素材料の平均粒子径は、SEM(走査型電子顕微鏡)で観察して0.1〜100μmが好ましく、0.5〜20μmがより好ましく、1〜5μmがさらに好ましい。アスペクト比は5以下が好ましく、2以下がより好ましく、さらに好ましくは1.5以下である。
【0045】
<多孔質炭素材料の物性>
本実施形態の複合材料に用いる多孔質炭素材料は、窒素含有量が0.3質量%以上、窒素吸脱着法のBET法で得られる比表面積が1000m2/g以上、かつ急冷固相密度関数法(QSDFT)により得られる細孔容積が0.45cm3/g以上である。
本実施形態の複合材料に用いる多孔質炭素材料の窒素含有量は、X線光電子分光分析(XPS)によって下記の条件で測定される。
[測定条件]
X線源:Mg管球(Mg−Kα線)、管電圧:12kV、エミッション電流:50mA、分析面積:Φ600μm、取り込み領域:N1s、C1s、O1s Pass−Energy:10eV
【0046】
本実施形態の複合材料に用いる多孔質炭素材料中の窒素含有量は、後述する観点から0.3質量%以上とし、0.5質量%以上であることが好ましく、0.8質量%以上であることがより好ましく、1質量%以上であることがさらに好ましい。また、後述する窒素含有量は6質量%以下であることが好ましく、4質量%以下であることがより好ましく、3質量%以下であることがさらに好ましい。
【0047】
本実施形態の複合材料に用いる多孔質炭素材料は、窒素含有炭素材料の賦活工程、例えば薬品賦活工程中に、窒素含有炭素材料から窒素原子を抜いて、窒素原子を特定の割合で残すことにより形成することができる。
窒素原子は、その不対電子効果によって、炭素原子と比較して、硫黄原子との親和性に優れるため、賦活工程、例えば薬品賦活工程後に得られた多孔質炭素材料中の窒素含有量が0.3質量%以上であると、多孔質炭素材料と硫黄との複合体を形成するときに、硫黄を細孔中に効果的に担持することができると考えられる。
また窒素含有量が6質量%以下であると、前述のように、多くの窒素原子が抜けたことにより生成した細孔を有する多孔質炭素材料が得られると考えられる。そのためリチウム硫黄電池用の正極の活物質として好適であると考えられる。
【0048】
本実施形態の複合材料に用いる多孔質炭素材料の酸素含有量は、好ましくは2〜20質量%であり、より好ましくは5〜15質量%であり、さらに好ましくは9〜13質量%である。
【0049】
本実施形態の多孔質炭素材料の比表面積は、1000m2/g以上であり、1100m2/g以上が好ましく、1300m2/g以上がより好ましく、1500m2/g以上がさらに好ましい。また比表面積は、3000m2/g以下が好ましく、2500m2/g以下がより好ましい。
硫黄質量当たりの放電容量を大きく、更には優れたサイクル特性を実現する観点から前記の範囲が好ましい。
多孔質炭素材料の比表面積は、窒素含有炭素材料の薬品賦活条件、及び不活性ガス中での熱処理条件を調整することにより、上記数値範囲に制御することができる。
【0050】
窒素吸脱着法の急冷固相密度関数法(QSDFT)により得られる細孔容積は、0.45cm3/g以上であり、0.5cm3/g以上が好ましく、0.6cm3/g以上がより好ましく、0.7cm3/g以上がさらに好ましく、0.8cm3/g以上がさらにより好ましい。
また細孔容積は、2cm3/g以下が好ましく、1.5cm3/g以下がより好ましい。
多孔質炭素材料と硫黄及び金属酸化物から構成される本実施形態の複合材料を正極の活物質として用いるリチウム硫黄電池について、細孔容積が0.45cm3/g以上である多孔質炭素材料は、多くの硫黄を含有できるため、硫黄と炭素材料の合計の質量当たりの放電容量が大きくなる。そのため正極重量当たりの放電容量が大きくなる。
多孔質炭素材料の細孔容積は、窒素含有炭素材料の賦活条件、及び不活性ガス中での熱処理条件を調整することにより、上記数値範囲に制御することができる。
【0051】
また、本実施形態の複合材料に用いる多孔質炭素材料は、窒素吸脱着法の急冷固相密度関数法(QSDFT)により得られる細孔分布図において、細孔径0.7〜3nmの細孔容積が0.40cm3/g以上であることが好ましく、0.60cm3/g以上であることがより好ましく、0.70cm3/g以上であることがさらに好ましい。
また、上記細孔分布図において、細孔径0.7〜2nmの細孔容積が0.35cm3/g以上であることが好ましく、0.50cm3/g以上であることがより好ましく、0.60cm3/g以上であることがさらに好ましい。
【0052】
図1は、本実施形態の多孔質炭素材料のレーザーラマンスペクトル図であり、かかるスペクトルからH1、H2、Lを算出する方法についての説明図である。
本実施形態の複合材料に用いる多孔質炭素材料は、図1に示す多孔質炭素材料のレーザーラマンスペクトル図に示すように、波数800〜1900cm-1のレーザーラマンスペクトルにおいて、1250〜1385cm-1の間にピークP1と、1550〜1620cm-1の間にピークP2という少なくとも2つの主要なピークを有し、前記P1とP2の間の最小点Mのベースラインからの高さLと、P1のベースラインからの高さH1の比(L/H1)が、硫黄質量当たりの放電容量を一層大きく、更には一層優れたサイクル特性を実現する観点から、0.40〜0.65であることが好ましい。
【0053】
本実施形態では、レーザーラマンスペクトルは、以下の条件で測定される。
[測定条件]
LD励起固体レーザー λ:532nm 47mW測定条件 532nm 照射2.34mW 露光時間10秒 積算10回 グレーテング600G/mm
【0054】
図1中、P1、P2は、レーザーラマンスペクトル図におけるラマンシフトが1200〜1700cm-1の間の主要な2つのピークである。P1は1250〜1385cm-1の間のピークであり、P2は1550〜1620cm-1の間のピークである。
【0055】
(L/H1)は、より好ましくは0.50〜0.60であり、さらに好ましくは0.55〜0.58である。
(L/H2)は、硫黄質量当たりの放電容量を一層大きく、更には一層優れたサイクル特性を実現する観点から、好ましくは0.40〜0.65であり、より好ましくは0.50〜0.60であり、さらに好ましくは0.55〜0.59である。
【0056】
ピークP1の半値幅としては、30〜130cm-1が好ましく、50〜120cm-1がより好ましく、さらに好ましくは100〜110cm-1である。
ピークP2の半値幅としては、20〜90cm-1が好ましく、40〜80cm-1がより好ましく、さらに好ましくは65〜70cm-1である。
【0057】
なお、図1は、本実施形態の多孔質炭素材料から得られるレーザーラマンスペクトル図を何ら限定するものではない。
図1中、B1は、800〜1250cm-1の最小の強度値であり、B2は1700〜1900cm-1の間の最小の強度値である。
本実施形態で用いるレーザーラマンスペクトル図におけるベースラインは、B1、B2を結んだ直線である。
次に、図1に示すC1、C2は、それぞれ、ピークP1及びP2からラマンシフト軸(横軸)に下ろした垂線とベースラインの交点である。
Dは、ピークP1及びP2との間における最小の強度値Mからラマンシフト軸(横軸)に下ろした垂線とベースラインの交点であり、高さLは、前記Mからラマンシフト軸に下ろした垂線とベースラインの交点までの長さである。具体的には、図1に例示するレーザーラマンスペクトル図では線分MDの長さである。
一方、高さH1は、P1からラマンシフト軸に下ろした垂線とベースラインの交点までの長さである。図1に例示するレーザーラマンスペクトル図では、線分P1C1の長さが高さH1に相当する。
高さH2は、P2からラマンシフト軸に下ろした垂線とベースラインの交点までの長さである。図1に例示するレーザーラマンスペクトル図では線分P2C2の長さが高さH2に相当する。
【0058】
(金属酸化物)
本実施形態の複合材料は、上述した多孔質炭素材料、硫黄及び金属酸化物を含む。
金属酸化物の金属成分は、Mn、Ti、V、Fe、Co、Ni、Zn、Mg、Al、Ca、Zr、Nb、Mo、Ag、Ba、Ta、W、La、Ceが好ましく、より好ましくは、Mn、Tiであり、さらに好ましくはMnである。
Mnの酸化物としてはMnO2が好ましい。Tiの酸化物としてはTiO2が好ましい。前記の金属酸化物は優れたサイクル特性が実現できる観点から好ましい。
前記の金属酸化物が優れたサイクル特性を実現できる理由は定かでではないが、前記の金属酸化物がLi2x(式中、xは4〜8)で表されるリチウムポリスルフィドを吸着する効果があり、この現象がサイクル特性の向上に寄与しているとも考えられる。
本実施形態の複合材料において、多孔質炭素材料と金属酸化物の質量比率は、サイクル特性を向上させる観点から、多孔質炭素材料1質量部に対して、金属酸化物は0.05質量部以上が好ましく、0.1質量部以上がより好ましく、0.3質量部以上がさらに好ましい。また、複合材料あたりの放電容量を向上させる観点から、多孔質炭素材料1質量部に対して、金属酸化物は3質量部以下が好ましく、1質量部以下がより好ましく、0.7質量部以下がさらに好ましい。
【0059】
(硫黄)
本実施形態の複合材料は硫黄を含有する。
当該硫黄としては、硫黄が含まれている単体、化合物であれば特に限定されないが、例えば単体の硫黄(S)、化合物の硫化リチウム(Li2S)等が挙げることができる。好ましくは単体の硫黄(S)である。本明細書に於いては単体の硫黄(S)を硫黄と表記する。
【0060】
〔複合材料の製造方法〕
本実施形態の複合材料の製造方法は、多孔質炭素材料と硫黄及び金属酸化物の原料を混合する工程を含む。
なお、本実施形態の複合材料の製造工程においては、その他の添加剤が、本発明の効果を妨げない範囲において含有されていてもよい。
混合する方法について説明する。
乾式雰囲気において多孔質炭素材料と硫黄及び金属酸化物を混合する方法、溶媒存在下の湿式雰囲気で多孔質炭素材料と硫黄及び金属酸化物を混合し溶媒を除去する方法、多孔質炭素材料と金属酸化物のプレカーサーを溶媒存在下で混合したのちに、金属酸化物のプレカーサーを金属酸化物に変換し、溶媒を除去し、硫黄を添加して混合する方法等を例示することができる。
乾式又は湿式雰囲気での多孔質炭素材料と硫黄及び金属酸化物を混合する方法としては、多孔質炭素材料と硫黄及び金属酸化物を混合器に入れ、混合器中で混合する方法を例示できる。混合器としては乳鉢やボールミル等を例示できる。
金属酸化物のプレカーサーを金属酸化物に変換する方法としては、水や有機溶媒等の溶媒に金属酸化物のプレカーサーを溶解させて多孔質炭素材料と混合、溶媒を除去したのちに、不活性ガス雰囲気中で焼成する方法や、水溶性の過酸化物を水に溶解させて多孔質炭素材料と混合、水溶性過酸化物を多孔質炭素材料等によって還元析出させ酸化物に変換、副生の塩を水洗等によって除去、必要に応じて更に不活性ガス雰囲気中において焼成する方法を例示することができる。水溶性の過酸化物としてはKMnO4等を例示できる。
【0061】
前記不活性ガスとしては、以下に限定されないが、例えば、窒素、アルゴン、ヘリウム、ネオン等の不活性ガスが挙げられる。これらの中では、不活性ガスとして窒素ガスを用いることが好ましい。
不活性ガス中での処理は、例えば回転炉、トンネル炉、管状炉、ボックス炉、流動焼成炉等を用い、不活性ガス雰囲気下で加熱処理を施すことによって行われる。加熱処理の温度は、特に限定されないが、好ましくは300〜1000℃、より好ましくは400〜800℃、さらに好ましくは500〜700℃である。
加熱処理の時間としては、好ましくは10秒間〜100時間、より好ましくは5分間〜10時間、さらに好ましくは15分間〜5時間、さらにより好ましくは30分間〜2時間である。
また、加熱処理の際の圧力は、不活性ガスを用いる場合、好ましくは0.01〜5MPa、より好ましくは0.05〜1MPa、さらに好ましくは0.08〜0.3MPa、さらにより好ましくは0.09〜0.15MPaである。
【0062】
前記複合材料の製造方法は、硫黄を融解し多孔質炭素材料に充填する工程を含む。
多孔質炭素材料と硫黄及び金属酸化物の原料を混合する工程の後に、硫黄の融点以上に加熱して硫黄を融解させて毛細管現象によって多孔質炭素材料の細孔内へ硫黄を含浸させる。融解した硫黄に多孔質炭素材料と金属酸化物が同時に晒される工程を経由することが好ましい。
加熱温度は、硫黄の融点である107℃以上であればよいが、好ましくは130℃以上であり、より好ましくは150℃以上である。また、加熱温度は、好ましくは200℃以下であり、より好ましくは180℃以下であり、さらに好ましくは170℃以下である。
硫黄の揮発を抑制する観点から、細孔内への硫黄の含浸は密閉容器中で行うことが好ましい。反応時間は0.1〜100時間が好ましく、より好ましくは0.5〜20時間であり、さらに好ましくは1〜10時間である。
雰囲気は空気でもよいし、窒素、アルゴン、ヘリウム、ネオン等の不活性ガスでもよい。
【0063】
次いで、細孔に充填されなかった硫黄を除去するために、硫黄の含浸処理をした多孔質炭素材料を加熱する。加熱温度は250℃以上が好ましく、270℃以上がより好ましく、290℃以上がさらに好ましい。
加熱温度は500℃以下が好ましく、400℃以下が好ましく、330℃以下がさらに好ましい。
加熱時間は0.5時間以上が好ましく、1時間以上がより好ましく、2時間以上がさらに好ましい。
容器は密閉容器でも開放容器でもよい。密閉容器の場合は、容器の上部は加熱部よりも温度が低いことが好ましい。雰囲気は空気でもよいし、窒素、アルゴン、ヘリウム、ネオン等の不活性ガスでもよいが、操作の容易さという観点から空気が好ましい。
【0064】
複合材料と硫黄を混合するときの質量比率は、多孔質炭素材料の細孔に硫黄を不足なく充填するという観点から、多孔質炭素材料1質量部に対して、硫黄は0.3質量部以上が好ましく、0.9質量部以上がより好ましく、1.1質量部以上がさらに好ましい。質量比率については、多孔質炭素材料の細孔に充填されず表面に残留した硫黄は、蒸発させて除去するが、蒸発物を少なくし蒸発に必要なエネルギーを削減するという観点から、多孔質炭素材料1質量部に対して、硫黄は20質量部以下が好ましく、8質量部以下がより好ましく、5質量部以下がさらに好ましい。
【0065】
多孔質炭素材料と硫黄及び金属酸化物を含む本実施形態の複合材料の硫黄含有量は、40〜70質量%が好ましい。
硫黄含有量の下限値は、複合材料当たりの放電容量を一層大きくする観点から40質量%以上が好ましく、より好ましくは43質量%以上であり、さらに好ましくは45質量%以上である。
硫黄含有量の上限値は多孔質炭素材料の製造の観点から70質量%以下であり、67質量%以下がより好ましく、65質量%以下がさらに好ましい。
ここで硫黄含有量とは、下記式:
硫黄含有量=(硫黄の質量)/(多孔質炭素材料と硫黄及び金属酸化物を含む複合材料の質量)×100
により算出される値である。
【0066】
本実施形態の複合材料中の硫黄の含有量は、多孔質炭素材料の微細孔に取り込まれた硫黄は蒸発し難く、微細孔外の硫黄は蒸発し易いことを利用して、サンプルを以下の方法で調製し、熱重量分析(TG)により測定することができる。
多孔質炭素材料と硫黄を混合した後、密閉容器中で、155℃で5時間保持し、硫黄を融解させ、毛細管現象によって多孔質炭素材料の細孔内へ充填させる。その後、そのまま300℃まで昇温し、2時間保持し、多孔質炭素材料の表面に残留した硫黄を蒸発させて除去し、室温まで空冷し、容器を開放して多孔質炭素材料と硫黄及び金属酸化物から構成される複合材料を取り出しサンプルとする。
続いて、熱重量分析(TG)を用いて、多孔質炭素材料と硫黄及び金属酸化物から構成される複合材料中の硫黄含有量を測定する。具体的には、島津製作所社製、DTG−60AHを用い、セルに試料を10mg入れ、測定ガスAr、流量50ml/min、開始温度30℃、昇温速度5℃/min.、及び上限温度600℃の条件下で測定を行う。
【0067】
便宜上、後述する実施例中の実施例1で製造した多孔質炭素材料と硫黄及び金属酸化物から構成される複合材料について、上記条件下に測定して得た熱重量分析(TG)のグラフである図2を用いて、硫黄含有量の算出方法を説明する。
図2に示す熱重量分析(TG)のグラフにおいて、昇温とともに質量が減少していくが、これは、細孔に充填した硫黄の昇華に対応している。300℃〜500℃の領域に、グラフの接線の傾きが不連続に変化する点が出現する。これは、この時点で多孔質炭素材料と金属酸化物のみが残った状態となっていることに対応している。
初期値の質量%を100、グラフの接線の傾きが不連続に変化する点の質量%がXであるとすると、複合材料の硫黄含有量Yは、初期値(100)から多孔質炭素材料と金属酸化物の合計値の割合を引いた値であるため、Y=100−X、と定義される。
実施例1ではX=52であり、Y=48であるため、硫黄含有量Yは48質量%である。
【0068】
参考として本測定方法では、硫黄のみをTG測定にかけると、図2のように、300℃までに硫黄は昇華して硫黄は残留しないことがわかる。X=0であり、Y=100であり、硫黄含有量Yは100質量%である。
本実施形態の多孔質炭素材料と硫黄及び金属酸化物を含む複合材料は、CuKα線をX線源として得られるX線回折図(XRD)において、硫黄に特徴的なピークを実質的に有さないことが好ましい。
硫黄の特徴的なピークは、23.0°±0.3°の位置に強いピーク(P2)を有し、その他に、15.3°±0.3°、25.8°±0.3°、26.7°±0.3°、及び27.7°±0.3°の位置にピークを有する。
【0069】
〔リチウム硫黄電池用の正極〕
本実施形態のリチウム硫黄電池用の正極は、以上のようにして得られた多孔質炭素材料と金属酸化物と硫黄を含む複合材料を含有する。
本実施形態のリチウム硫黄電池用の正極は、本実施形態の複合材料と、必要に応じて、結着材と、導電助剤と、集電体とを備える。
複合材料は、活物質として機能するが、本実施形態のリチウム硫黄電池の正極は、多孔質炭素材料と金属酸化物と硫黄から構成される複合材料以外の活物質を含んでもよい。
【0070】
本実施形態の正極に用いられる結着材としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン、エチレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体、ポリフッ化ビニル、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン系フッ素ゴム、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム、ビニリデンフルオライド−ペンタフルオロプロピレン系フッ素ゴム、ビニリデンフルオライド−ペンタフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム、ビニリデンフルオライド−パーフルオロメチルビニルエーテル−テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム、ビニリデンフルオライド−クロロトリフルオロエチレン系フッ素ゴムなどのビニリデンフルオライド系フッ素ゴム、テトラフルオロエチレン−プロピレン系フッ素ゴム、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル系フッ素ゴム、熱可塑性フッ素ゴム、ポリエチレン、ポリプロピレン、スチレンブタジエンゴム(SBR)、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体、水系バインダー、ポリアクリロニトリル等が挙げられる。
なお、これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
結着材の含有割合は、活物質に対して1〜20質量%であることが好ましく、2〜10質量%であることがより好ましい。結着材の含有割合が1質量%以上であると正極の強度が十分になり、結着材の含有割合が20質量%以下であると電気抵抗の増大又は容量の低下を更に抑制できる。
【0071】
本実施形態の正極に用いられる導電助剤としては、以下に限定されるものではないが、例えば、カーボンブラック、アセチレンブラック、及びカーボンナノチューブが挙げられる。
なお、これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。導電助剤の含有割合は、活物質に対して1〜20質量%であることが好ましく、2〜10質量%であることがより好ましい。
【0072】
本実施形態の正極に用いられる集電体としては、電極の電気的接続を可能にするものであれば特に限定されず、その材質として、アルミニウム、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、ニオブ、タンタル、及びこれらの金属を含む合金等が挙げられる。これらの中で、アルミニウム、チタン、タンタル、及びこれらの金属を含む合金から成る群より選ばれるものが好ましく、特にアルミニウムが好ましい。これらの金属又は合金を、箔状、穴開け箔状、メッシュ状等にしたものを正極の集電体として用いることができる。
【0073】
次に、本実施形態のリチウム硫黄電池用の正極の製造方法を説明する。
本実施形態のリチウム硫黄電池用の正極の製造方法は、活物質として多孔質炭素材料と金属酸化物と硫黄を含む本実施形態の複合材料を用いる以外は、公知の方法であれば特に限定されない。
例えば、多孔質炭素材料と金属酸化物と硫黄を含む複合材料に、結着材、導電助材及び溶媒を加えてスラリーとし、そのスラリーを集電体に塗布や充填し、乾燥した後にプレスして高密度化することにより、リチウム硫黄電池用の正極を製造する方法が挙げられる。
集電体に積層する正極層の厚みは、20〜400μm程度が好ましい。正極層の厚みが20μm以上であると、電池全体に対する活物質量の割合が多くなり、エネルギー密度も多くなる傾向があるため好ましい。一方で、正極層の厚みが400μm以下であると、電極内部の抵抗が小さくなり、出力密度が上がる傾向があるため好ましい。
【0074】
本実施形態のリチウム硫黄電池の正極の製造に用いる溶媒は、水系、非水系のいずれでもよい。
非水系の溶媒としては、以下に限定されるものではないが、例えば、N−メチルピロリドン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチル等が挙げられる。
上記スラリーは、撹拌機、加圧ニーダー、ボールミル及びスーパーサンドミル等の分散装置により混練して調製される。
また、上記スラリーに、粘度を調整するための増粘剤を添加してもよい。増粘剤としては、以下に限定されるものではないが、例えば、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、エチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸(塩)、酸化スターチ、リン酸化スターチ及びカゼインが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0075】
〔リチウム硫黄電池〕
以下、本実施形態のリチウム硫黄電池用の正極を備えるリチウム硫黄電池について説明する。
なお、本実施形態のリチウム硫黄電池に用いられ得る材料、リチウム硫黄電池の製造方法等は、下記の具体例に限定されるものではない。
本実施形態のリチウム硫黄電池は、正極として、本実施形態のリチウム硫黄電池用の正極を備え、その他の構成については特に限定されず、リチウム硫黄電池用の正極以外は公知のものであってもよい。
例えば、本実施形態のリチウム硫黄電池は、セパレータと、そのセパレータを介して対向して配置された本実施形態のリチウム硫黄電池用の正極と、負極と、それらに接触した電解液と外装体とを備える。
本実施形態のリチウム硫黄電池は、上述のように配置された負極及び正極を含む電極体と、当該電極体を収納する外装体とを有し、外装体内の空間に電解液を注入し、シールすることにより得ることができる。
【0076】
負極は、正極と同様にして、集電体上に負極活物質を含有する負極層を形成することにより、製造することができる。
負極の集電体としては、電極の電気的接続を可能にするものであれば特に限定されず、その材質としては、以下に限定されるものではないが、例えば、銅、アルミニウム、ニッケル、チタン及びステンレスが挙げられる。これらの内、薄膜に加工し易いという観点及びコストの観点から、銅が好ましい。集電体の形状としては、例えば、箔状、穴開け箔状及びメッシュ状が挙げられる。また、集電体として、多孔性材料、例えばポーラスメタル(発泡メタル)及びカーボンペーパー等も用いることができる。
負極活物質としては、リチウムを含む材料であればよく、金属リチウム又はリチウム合金の他に、リチウム酸化物、リチウム複合酸化物、リチウム硫化物、リチウム複合硫化物などが挙げられる。リチウム合金としては、例えば、アルミニウム又はシリコン、スズ、マグネシウム、インジウム、カルシウム等とリチウムとの合金が挙げられる。負極活物質は、金属リチウム、又はシリコンとリチウムとの合金であることが好ましい。
負極としては、金属リチウム又はリチウム合金そのものでもよいし、例えば、負極活物質とグラファイト、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等の導電材と結着材とを混合し、適当な溶剤を加えてペースト状の負極材としたものを、集電体の表面に塗布乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成してもよい。
【0077】
電解液は、リチウム含有電解質を非水溶媒に溶解して調製することができる。
リチウム含有電解質としては、例えば、LiPF6、LiClO4、LiBF4、LiAsF6、LiCF(CF35、LiCF2(CF34、LiCF3(CF33、LiCF4(CF32、LiCF5(CF3)、LiCF3(C253、LiCF3SO3、LiN(CF3SO22、LiN(C25SO22、LiN(C25CO)2、LiI、LiAlCl4、LiBC48、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)が挙げられる。
これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。中でも、LiPF6、LiFSI、LiTFSIが好ましく、LiTFSIがより好ましい。
さらに、これらのリチウム塩濃度は、好ましくは0.1〜3.0mol/L、より好ましくは0.5〜2.0mol/Lである。
【0078】
前記非水溶媒としては、例えば、カーボネート類、エーテル類、ケトン類、ラクトン類、ニトリル類、アミン類、アミド類、硫黄化合物、ハロゲン化炭化水素類、エステル類、ニトロ化合物、リン酸エステル系化合物、スルホラン系炭化水素類、及びイオン性液体から適宜選択することができる。
特に、エチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、プロピレンカーボネート(PC)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)等のカーボネート類;ジメトキシエタン(DME)、トリグライム(G3)及びテトラグライム(G4)等のエーテル類;ジオキソラン(DOL)、テトラヒドロフラン等の環状エーテル;1,1,2,2−テトラフルオロ−3−(1,1,2,2−テトラフルオロエトキシ)−プロパン(HFE)、及びそれらの混合物が好適である。より好ましくはカーボネート類を含む溶媒であり、さらに好ましくは(FEC)と(HFE)との混合物である。
【0079】
セパレータは、通常のリチウム硫黄電池に用いられるものであれば、材質又は形状は特に制限されない。このセパレータは、正極と負極とが物理的に接触しないように分離するものであり、イオン透過性が高いものであることが好ましい。
セパレータとしては、例えば、合成樹脂微多孔膜、織布、不織布等が挙げられ、合成樹脂微多孔膜が好ましい。合成樹脂微多孔膜の材質としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン等のポリオレフィン;さらにはポリアミド、セルロースアセテート、ニトロセルロース、ポリスルホン、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデンが挙げられる。
これらの中ではポリエチレン及びポリプロピレンが好ましい。なお、作製するリチウム硫黄電池の正極と負極とを直接接触させない構造にした場合は、セパレータを用いる必要はない。
【0080】
本実施形態のリチウム硫黄電池の電極体の構造は、特に限定されないが、通常、正極及び負極と、必要に応じて設けられるセパレータとを、扁平渦巻状に巻回して巻回式極板群としたり、これらを平板状として積層して積層式極板群としたりすることによって、これら極板群を外装体中に封入した構造とすることが一般的である。
【0081】
外装体としては、金属缶、ラミネートフィルム等を使用できる。
金属缶としては、アルミニウム製のものが好ましい。この場合は、例えば、当該金属缶を負極端子とし、絶縁体を挟んで当該金属缶にかしめられた金属蓋を正極端子とする。電極タブによって電極体と端子とを電気的に接続する。
また、前記ラミネートフィルムとしては、金属箔と樹脂フィルムとを積層したフィルムが好ましく、外層樹脂フィルム/金属箔/内層樹脂フィルムから成る3層構成のものが例示される。外層樹脂フィルムは接触等により金属箔が損傷を受けることを防止するためのものであり、ナイロン又はポリエステル等の樹脂が好適に使用できる。
金属箔は水分及びガスの透過を防ぐためのものであり、銅、アルミニウム、ステンレス等の箔が好適に使用できる。また、内層樹脂フィルムは、内部に収納する電解液から金属箔を保護するとともに、ヒートシール時に溶融封口させるためのものであり、ポリオレフィン、酸変成ポリオレフィン等が好適に使用できる。
ラミネートフィルム外装体を使用する場合は、電極端子の端部を外装体の外部空間に引き出した状態でラミネートフィルムの周縁部をシールする。シール方法はヒートシールが好ましい。
【0082】
本実施形態のリチウム硫黄電池は、ペーパー型電池、ボタン型電池、コイン型電池、積層型電池、円筒型電池等の形態を有するものとすることができる。
【実施例】
【0083】
以下、具体的な実施例及び比較例を挙げて、本実施形態を更に詳細に説明するが、これらは例示的なものであり、本実施形態は、以下の実施例及び比較例により何ら限定されるものではない。
したがって、当業者は以下に示す実施例に様々な変更を加えて本発明を実施することができ、かかる変更は本発明に包含される。
【0084】
〔分析方法〕
(CHN分析法)
窒素含有炭素材料を測定用試料とした。
ジェイサイエンスラボ社製の元素分析装置(商品名「MICRO CORDER JM10」)を用い、2500μgの試料を試料台に充填してCHN分析を行った。
試料炉の温度を950℃、燃焼炉(酸化銅触媒)の温度を850℃、還元炉(銀粒+酸化銅のゾーン、還元銅のゾーンと酸化銅のゾーンとから成る)の温度を550℃に設定した。
また、酸素流量を15mL/分、He流量を150mL/分に設定した。
検出器として熱伝導度検出器(TCD)を用いた。
アンチピリン(Antipyrine)を用いてマニュアルに記載の方法でキャリブレーションを行った。
酸素元素の含有量(質量%)は、100質量%から炭素元素、窒素元素、水素元素の含有量(質量%)を差し引くことによって算出した。
【0085】
(比表面積・細孔容積の測定法)
多孔質炭素材料を測定用試料とした。
Quantachrome社のAUTOSORB iQを用い、BET法により比表面積を、急冷固相密度関数法(QSDFT)により細孔分布及び細孔容積を測定した。
具体的には、試料を100℃で3時間真空脱気して、測定した。
液体窒素温度で窒素の吸着等温線を測定し、比表面積、細孔容積、及び細孔分布の測定を行った。
【0086】
(X線光電子分光分析(XPS)の測定法)
窒素含有炭素材料、及び多孔質炭素材料を測定用試料とした。
JEOL社製JPS−9010MCを用い、粉末用セルに充填して下記の条件で測定した。
X線源:Mg管球(Mg−Kα線)、管電圧:12kV、エミッション電流:50mA、分析面積:Φ600μm、取り込み領域:N1s、C1s、O1s Pass−Energy:10eVとした。
得られたスペクトルは、C1sのピーク位置でエネルギー補正を行った。
炭素元素、窒素元素、酸素元素の含有量(質量%)の合計を100質量%とした。
【0087】
(レーザーラマンスペクトルの測定法)
多孔質炭素材料を測定用試料とした。
Tokyo Instruments Inc.社製の3D顕微レーザーラマン分光装置 Nanofinder30を用い、粉末用セルに充填して下記の条件で測定した。
LD励起固体レーザー λ:532nm 47mW測定条件 532nm、照射2.34mW、露光時間10秒、積算10回、グレーテング600G/mmとした。
1250〜1385cm-1の間のピークをP1とする。
1550〜1620cm-1の間のピークをP2とする。
P1とP2の間の、最小点Mのベースラインからの高さをLとする。
P1のベースラインからの高さをH1とする。
P2のベースラインからの高さをH2とする。
【0088】
(SEMの測定方法)
多孔質炭素材料、複合材料を測定対象とした。
走査型顕微鏡(日立製 SU−1500、Hitachi High−Tech Solutions)を用いた。
アルミ製の試料台に導電性カーボンテープを用い、各粉末試料を貼り付け、チャンバー内に取り付けた。
チャンバー内を真空にした後、Working distanceを15mm、加速電圧15kVで試料を観察した。多孔質炭素材料の平均粒子径、アスペクト比の測定を行った。複合材料の観察においてMnO2の凝集は見られなかった。
【0089】
(硫黄含有量の測定方法)
多孔質炭素材料と硫黄及び金属酸化物から構成される複合材料、及び多孔質炭素材料と硫黄から構成される複合体中の硫黄の含有量の測定を、熱重量分析(TG)を用いて以下の方法で行った。
島津製作所社製、DTG−60AHを用い、セルに試料を10mg入れ、測定ガスAr、流量50mL/min、開始温度30℃、昇温速度5℃/min.、及び上限温度600℃の条件下で測定を行った。
得られた熱重量分析(TG)から硫黄含有量の算出方法を、図2中の〔実施例1〕を用いて説明する。
熱重量分析(TG)のグラフにおいて、昇温とともに質量が減少していくが、これは、細孔に充填した硫黄の昇華に対応している。300℃〜500℃の領域に、グラフの接線の傾きが不連続に変化する点が出現する。これは、この時点で多孔質炭素材料と金属酸化物のみが残った状態となっていることに対応している。
初期値の質量%を100、グラフの接線の傾きが不連続に変化する点の質量%がXであるとすると、硫黄含有量Yは、初期値(100)から多孔質炭素材料と金属酸化物の合計値の割合を引いた値であるため、Y=100−X、と定義される。
実施例1ではX=52であり、Y=48であり、硫黄含有量Yは48質量%である。
実施例2、比較例1、2においても同様の方法で、硫黄含有量の算出を行った。
【0090】
〔リチウム硫黄電池の作製〕
(リチウム硫黄電池の正極の作製)
カルボキシメチルセルロース(CMC)(分散材)を純水に溶解させて2質量%溶液を調製した。
これにアセチレンブラック(導電助剤)を添加し、次いで、活物質(後述する実施例1〜2で製造した多孔質炭素材料と硫黄及び金属酸化物から構成される複合材料、比較例1〜2で製造した多孔質炭素材料と硫黄との複合体)、スチレンブタジエンゴム(SBR)(結着材)を添加し、正極スラリーを調製した。
活物質と導電助剤と分散材と結着材との質量比は、活物質:導電助剤:分散材:結着材=84:10:3:3になるようにした。
得られた正極スラリーを、Al集電箔に活物質量として約2.0mg/cm2となるように充填した。
その後、大気圧下で40℃のオーブンで1時間乾燥した。
乾燥後、乾燥物をロールプレスに通して加圧成形し、ポンチにてΦ12mmのサイズに打ち抜き、真空下50度のオーブンで乾燥させて、リチウム硫黄電池用の正極を得た。正極層の厚みは約75μmであった。
【0091】
(リチウム硫黄電池用の負極の作製)
露点−40℃以下の大気雰囲気中において、厚さ200μmのLi箔を、Φ13mmのポンチにて打ち抜き、リチウム硫黄電池用の負極とした。
【0092】
(リチウム硫黄電池の作製)
露点−40℃以下の大気雰囲気中において以下の手順でリチウム硫黄電池を作製した。
上記項目(リチウム硫黄電池の正極の作製)により作製した正極、上記項目(リチウム硫黄電池用の負極の作製)により作製した負極、リチウム含有電解質としてビス(トリフルオロスルホニル)イミド(LiTFSI)、非水溶媒としてテトラグライム(G4)/1,1,2,2−テトラフルオロ−3−(1,1,2,2−テトラフルオロエトキシ)−プロパン(HFE)の混合溶媒を用いた。
電解液の調製に関しては、G4:HFEを8:40の物質量で混合し、LiTFSIをG4とHFEの混合溶媒に溶かして、1.0mol/Lになるようにして電解液を調製した。
セパレータとしてポリプロピレン系微多孔膜を用いた。
セルとして2極式フラットセルを用い、そのセル内に、正極とセパレータと負極とを順に積層するように収容し、さらに電解液を注入し、リチウム硫黄電池を作製した。
【0093】
〔充放電試験〕
活物質(正極)を作用極とし、定電流充放電試験を行った。
充電時のモードは、C.C.法(C.C.はconstant currentの略称である。)とし、放電時はC.C.モードとした。
設定電流密度は167.2mA/gとした(電流密度1672mA/gを1Cと定義する。以下、167.2mA/gを0.1Cと示す。)。
カットオフ電圧については、下限を1.0V、上限を3.0Vとした。
なお、充放電試験は25℃の環境にて行った。
充電容量、及び放電容量は、硫黄の質量当たりで定義した。
なお、サイクル効率は下記式によって算出した。
サイクル効率(%)=((充電容量(mAh/g−sulfur))/(放電容量(mAh/g−sulfur)))×100
【0094】
〔窒素含有炭素材料の製造例〕
(アズルミン酸の製造)
水350gに青酸150gを溶解させた水溶液を容器中で調製し、この水溶液を攪拌しながら、25%アンモニア水溶液120gを10分かけて添加し、得られた混合液を35℃に加熱した。すると、青酸の重合が始まり黒褐色の重合物が析出し始め、温度は徐々に上昇し45℃となった。
重合が始まってから2時間後、30質量%青酸水溶液を200g/時間の速度で添加し始め、4時間かけて800g添加した。
青酸水溶液の添加中は容器を冷却して反応温度が50℃を維持するように制御した。この温度で重合反応液を100時間攪拌した。
得られた黒色沈殿物をろ過によって分離した。このときの沈殿物の収率は、用いた青酸の全量に対して96質量%であった。分離後の沈殿物を水洗した後、乾燥器にて120℃で4時間乾燥させて、アズルミン酸を得た。
得られたアズルミン酸について、ジェイサイエンスラボ社製の元素分析装置(商品名「MICRO CORDER JM10」)を用い、2500μgのアズルミン酸試料を試料台に充填してCHN分析を行った。
試料炉の温度を950℃、燃焼炉(酸化銅触媒)の温度を850℃、還元炉(銀粒+酸化銅のゾーン、還元銅のゾーンと酸化銅のゾーンとから成る)の温度を550℃に設定した。また、酸素流量を15mL/分、He流量を150mL/分に設定した。検出器として熱伝導度検出器(TCD)を用いた。
アンチピリン(Antipyrine)を用いてマニュアルに記載の方法でキャリブレーションを行った。
その結果、上記のようにして得られたアズルミン酸の組成は、炭素元素40.0質量%、窒素元素29.8質量%、水素元素4.1質量%であった。
ここで、上述の乾燥条件では吸着水が残存するため、差分は主に吸着水中の酸素元素と水素元素とに由来するものと考えられる。
【0095】
〔窒素含有炭素材料の製造〕
上述のようにして得られたアズルミン酸6.7gを内径25mmの石英管に充填し、大気圧下、500Ncc/min.の窒素気流中で1時間20分かけて800℃まで昇温し、800℃で1時間ホールドして炭化処理をして、続いて遊星ボールミルにて粉砕して、窒素含有炭素材料を得た。
<CHN分析法>
窒素含有炭素材料のCHN分析結果を下記表1に示す。
<XPS分析法>
窒素含有炭素材料のXPS分析結果を下記表1に示す。
【0096】
〔多孔質炭素材料の製造〕
上述した〔窒素含有炭素材料の製造〕で得られた窒素含有炭素材料2gを、水酸化カリウム4gと純水の混合溶液20mLに加え、沈殿を防ぐために撹拌させながら、100℃で水を除去した。
その後、石英ボートに試料を移し、横型管状炉の石英管に入れ、アルゴンガスを流量500Ncc/minで流し、5分間放置することでガス交換を行った。交換後、15分かけて150℃まで昇温し、150℃で1時間加熱処理することで、内容物を乾燥させた。
その後、800℃まで1時間かけて昇温し、1時間加熱処理を行い、その後に降温して内容物を回収した。
内容物を0.3Lの水で水洗し、さらに1mol/Lの塩酸水溶液0.5Lで水洗し、その後、水で炉液がほぼ中性になるまで水洗し、濾過で回収し、乾燥させて多孔質炭素材料を得た。
本操作を反復して多孔質炭素材料を量産した。平均粒子径はSEMで観察して、5〜10μm程度、アスペクト比は概ね1.5以下であった。
<XPS分析>
多孔質炭素材料のXPS分析結果を下記表2に示す。
窒素含有量の減少率は85質量%(=((14.59−2.19)/14.59)×100)であった。
<比表面積・細孔容積の測定>
多孔質炭素材料の比表面積、及び細孔容積の測定結果を下記表2に示す。
<ラマン分析>
多孔質炭素材料のラマン分析結果を図3、解析結果を表2に示す。
【0097】
〔実施例1〕
<多孔質炭素材料と硫黄とMnO2から構成される複合材料の製造>
上述のようにして製造した多孔質炭素材料0.43gを用いて多孔質炭素材料、硫黄、MnO2(富士フイルム和光純薬株式会社、酸化マンガン(IV), 99.5%)を、質量比で、多孔質炭素材料:硫黄:MnO2=40:60:20にて乳鉢で10分混合し、内径20mm、高さ60mmの密閉容器に入れ、155℃で5時間保持し、硫黄を融解させ、毛細管現象にてアルカリ賦活活性炭の細孔内へ充填、その後、そのまま300℃まで昇温し2時間保持し残留硫黄を蒸発させて除去した。
室温まで空冷し、容器を開放して多孔質炭素材料と硫黄とMnO2から構成される複合材料を得た。
複合化の工程は全て大気下で行った。
<硫黄含有量の測定>
得られた多孔質炭素材料と硫黄とMnO2から構成される複合材料の硫黄含有量を熱重量分析(TG)で測定した。測定結果を図2及び表3に示す。
<リチウム硫黄電池の作製>
〔リチウム硫黄電池の作製〕に従って、リチウム硫黄電池を作製した。
<充放電試験>
上述の〔充放電試験〕を0.1Cで実施した。1サイクル目と80サイクル目の充放電曲線を図4に示す。サイクル特性の評価結果を図5に示す。
【0098】
〔比較例1〕
<多孔質炭素材料と硫黄から構成される複合体の製造>
MnO2を添加しなかった以外は、前記〔実施例1〕と同様に多孔質炭素材料と硫黄から構成される複合体を得た。
<硫黄含有量の測定>
得られた多孔質炭素材料と硫黄との複合体の硫黄含有量を熱重量分析(TG)で測定した。測定結果を図2及び表3に示す。
<リチウム硫黄電池の作製>
〔リチウム硫黄電池の作製〕に従って、リチウム硫黄電池を作製した。
<充放電試験>
上述の〔充放電試験〕を0.1Cで実施した。1サイクル目と80サイクル目の充放電曲線を図4に示す。サイクル特性の評価結果を図5に示す。
【0099】
〔実施例2〕
<多孔質炭素材料と硫黄とMnO2から構成される複合材料の製造方法>
80ccのタングステンカーバイド容器に多孔質炭素材料1.8gと直径5mmのジルコニアボール約90個(約36g)を添加し、遊星ボールミル(FRITSCH社製Classic LineP−5)を用い、大気雰囲気下、400rpmにて4時間粉砕処理をして、粉砕処理をした多孔質炭素材料を得た。平均粒子径はSEMで観察して、1〜3μm程度、アスペクト比は概ね1.5以下であった。この工程で得られた多孔質炭素材料から0.43gを取り出した。この工程で得られた多孔質炭素材料を用いた以外は、前記〔実施例1〕と同様にして多孔質炭素材料と硫黄とMnO2から構成される複合材料を得た。
<硫黄含有量の測定>
この工程で得られた多孔質炭素材料と硫黄とMnO2から構成される複合材料の硫黄含有量を熱重量分析(TG)で測定した。測定結果を表3に示す。
<リチウム硫黄電池の作製>
〔リチウム硫黄電池の作製〕に従って、リチウム硫黄電池を作製した。
<充放電試験>
上述の〔充放電試験〕を0.1Cで実施した。サイクル特性の評価結果を図6に示す。
【0100】
〔比較例2〕
<多孔質炭素材料と硫黄から構成される複合体の製造方法>
MnO2を添加しなかった以外は、前記〔実施例2〕と同様にして多孔質炭素材料と硫黄から構成される複合体を得た。
<硫黄含有量の測定>
得られた多孔質炭素材料と硫黄との複合体の硫黄含有量を熱重量分析(TG)で測定した。測定結果を表3に示す。
<リチウム硫黄電池の作製>
〔リチウム硫黄電池の作製〕の(リチウム硫黄電池の正極の作製)において、「水系バインダー(結着材)を純水に溶解させて」に代えて、「有機系バインダー(結着剤)をジメチルホルムアミドに溶解させて」とした以外は、前記〔比較例1〕と同様にして、リチウム硫黄電池を作製した。
<充放電試験>
上述の〔充放電試験〕を0.1Cで実施した。サイクル特性の評価結果を図6に示す。
【0101】
【表1】
【0102】
【表2】
【0103】
【表3】
【0104】
図5から、実施例1の多孔質炭素材料と硫黄及び金属酸化物から構成される複合材料は、リチウム硫黄電池の正極として使用した場合、比較例1の多孔質炭素材料と硫黄から構成される複合体よりも、リチウム硫黄電池において、サイクルを繰り返した時の硫黄質量当たりの放電容量が大きく、かつ優れたサイクル特性が実現できることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明の多孔質炭素材料と硫黄及び金属酸化物から構成される複合材料はリチウム硫黄電池の正極の活物質として、産業上の利用可能性がある。
また、本発明の多孔質炭素材料と硫黄及び金属酸化物から構成される複合材料の製造方法は、リチウム硫黄電池の正極の活物質に用いる複合材料の簡易な製造方法として、産業上の利用可能性がある。
図1
図2
図3
図4
図5
図6