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特開2021-136192リチウムリッチアンチペロブスカイト化合物、リチウムイオン二次電池用固体電解質およびリチウムイオン固体二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-136192(P2021-136192A)
(43)【公開日】2021年9月13日
(54)【発明の名称】リチウムリッチアンチペロブスカイト化合物、リチウムイオン二次電池用固体電解質およびリチウムイオン固体二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0562 20100101AFI20210816BHJP
   H01B 1/06 20060101ALI20210816BHJP
   H01B 1/08 20060101ALI20210816BHJP
   C01B 19/00 20060101ALI20210816BHJP
   C01B 17/64 20060101ALI20210816BHJP
   C01B 11/00 20060101ALI20210816BHJP
【FI】
   H01M10/0562
   H01B1/06 A
   H01B1/08
   C01B19/00 C
   C01B19/00 M
   C01B17/64 Z
   C01B11/00
   C01B19/00 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2020-33117(P2020-33117)
(22)【出願日】2020年2月28日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (1)2019年11月21日公開 Chemistry of Materials、2020,Vol.32,P.85−96 https://pubs.acs.org/doi/pdf/10.1021/acs.chemmater.9b02311 (2)2019年11月21日公開 国立研究開発法人物質・材料研究機構プレスリリース 「複雑な固体材料界面の電子・イオン状態の高精度シミュレーション手法を開発」 https://www.nims.go.jp/news/press/2019/11/201911210.html https://www.nims.go.jp/news/press/2019/11/lecian000003ed2gatt/2019112101.pdf
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業「材料シミュレーションとインフォマティクスを用いたデータ駆動型リチウムイオン導電性セラミックスの探索」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】ハレム ランディ
(72)【発明者】
【氏名】館山 佳尚
(72)【発明者】
【氏名】高田 和典
【テーマコード(参考)】
5G301
5H029
【Fターム(参考)】
5G301CA02
5G301CA07
5G301CA08
5G301CA16
5G301CA24
5G301CA30
5G301CD01
5H029AJ02
5H029AJ06
5H029AK01
5H029AK03
5H029AL06
5H029AL12
5H029AM12
5H029HJ02
(57)【要約】
【課題】 本発明の課題は、イオン伝導性、充放電安定性および熱力学安定性に優れる固体電解質用リチウム化合物を提供することである。
【解決手段】 下記式Li24SeBrCl、Li24BrCl、Li24Cl、Li32TeCl、Li24SeCl、Li24Se、Li32BrCl、Li24BrCl、Li32Br12、Li24SeClで表されるリチウムリッチアンチペロブスカイト構造の化合物を1以上有する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記フォーミュラ1から10で表されるリチウムリッチアンチペロブスカイト構造の化合物を1以上有するリチウムイオン二次電池用の化合物。
[フォーミュラ1]
Li24SeBrCl
[フォーミュラ2]
Li24BrCl
[フォーミュラ3]
Li24Cl
[フォーミュラ4]
Li32TeCl
[フォーミュラ5]
Li24SeCl
[フォーミュラ6]
Li24Se
[フォーミュラ7]
Li32BrCl
[フォーミュラ8]
Li24BrCl
[フォーミュラ9]
Li32Br12
[フォーミュラ10]
Li24SeCl
【請求項2】
前記フォーミュラ4、前記フォーミュラ5、前記フォーミュラ7、前記フォーミュラ8および前記フォーミュラ10からなる群より選ばれる1で表されるリチウムリッチアンチペロブスカイト構造を有する、請求項1記載の化合物。
【請求項3】
前記フォーミュラ1で表されるリチウムリッチアンチペロブスカイト構造を有する、請求項1記載の化合物。
【請求項4】
前記フォーミュラ6で表されるリチウムリッチアンチペロブスカイト構造を有する、請求項1記載の化合物。
【請求項5】
前記フォーミュラ7で表されるリチウムリッチアンチペロブスカイト構造を有する、請求項1記載の化合物。
【請求項6】
下記フォーミュラ1から10で表されるリチウムリッチアンチペロブスカイト構造の化合物を1以上含有する、リチウムイオン二次電池用固体電解質。
[フォーミュラ1]
Li24SeBrCl
[フォーミュラ2]
Li24BrCl
[フォーミュラ3]
Li24Cl
[フォーミュラ4]
Li32TeCl
[フォーミュラ5]
Li24SeCl
[フォーミュラ6]
Li24Se
[フォーミュラ7]
Li32BrCl
[フォーミュラ8]
Li24BrCl
[フォーミュラ9]
Li32Br12
[フォーミュラ10]
Li24SeCl
【請求項7】
前記フォーミュラ4、前記フォーミュラ5、前記フォーミュラ7、前記フォーミュラ8および前記フォーミュラ10からなる群より選ばれる1で表されるリチウムリッチアンチペロブスカイト構造の化合物を1以上含有する、請求項6記載のリチウムイオン二次電池用固体電解質。
【請求項8】
前記フォーミュラ1で表されるリチウムリッチアンチペロブスカイト構造の化合物を含有する、請求項6記載のリチウムイオン二次電池用固体電解質。
【請求項9】
前記フォーミュラ6で表されるリチウムリッチアンチペロブスカイト構造の化合物を含有する、請求項6記載のリチウムイオン二次電池用固体電解質。
【請求項10】
前記フォーミュラ7で表されるリチウムリッチアンチペロブスカイト構造の化合物を含有する、請求項6記載のリチウムイオン二次電池用固体電解質。
【請求項11】
請求項6から10の何れか1記載のリチウムイオン二次電池用固体電解質を有する、リチウムイオン固体二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムリッチアンチペロブスカイト化合物、リチウムイオン二次電池用固体電解質およびリチウムイオン固体二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、ハイブリッドやEV自動車用、スマートフォンをはじめとする携帯端末用、PC等の電源用、太陽光発電蓄電用などのバッテリーとして、パーソナル用途から産業用途まで幅広い分野で用いられ、かつその市場は急激に広がっている。
【0003】
リチウムイオン二次電池は、このように広い分野で使われているが、電気容量や充放電特性のさらなる改善が求められている。さらに、現在のリチウムイオン二次電池は、電解質として液体が主に用いられており、取り扱いや液漏れの懸念その対策などに課題を抱えており、固体電解質のリチウム二次電池が強く求められている。
そこでは、リチウムイオン二次電池の固体電解質としては、高いイオン電導度(非特許文献1)、優れた充放電特性および熱や水分等に対する高い安定性が求められている。
【0004】
このような背景の下、リチウムイオン二次電池の固体電解質として様々な検討がなされている。例えば、その取り組みとして特許文献1を挙げることができ、そこでは、Li3−xClO1−xHal、Li3−y−x1−xHalCl(HalはF,Cl,BrまたはI、MはNa,K,RbまたはCsで、0<x<1、0<y<2)などが検討されている。しかしながら、イオン電導度や充放電安定性および熱力学的安定性は必ずしも要求を満たすものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2019−513687号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Braga et al.,J.Mater.Chem.,2014,2,5470−5480
【非特許文献2】A.P.Guerreiro et al.,Evolutionary Computation,2016,24(3)、521−544
【非特許文献3】R.Jalem et al.,Sci.Tech.Adv.Mater.,2018,19,231−242
【非特許文献4】R.Jalem et al.,Sci.Rep.,2018,8,5845
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、イオン伝導性、充放電安定性および水和性などの熱力学安定性に優れる固体電解質用化合物を提供することである。
更に、その化合物を用いて、イオン伝導性と充放電を含む安定性に優れたリチウム二次電池用固体電解質およびリチウム固体二次電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の構成を下記に示す。
(構成1)
下記フォーミュラ1から10で表されるリチウムリッチアンチペロブスカイト構造の化合物を1以上有するリチウムイオン二次電池用の化合物。
[フォーミュラ1]
Li24SeBrCl
[フォーミュラ2]
Li24BrCl
[フォーミュラ3]
Li24Cl
[フォーミュラ4]
Li32TeCl
[フォーミュラ5]
Li24SeCl
[フォーミュラ6]
Li24Se
[フォーミュラ7]
Li32BrCl
[フォーミュラ8]
Li24BrCl
[フォーミュラ9]
Li32Br12
[フォーミュラ10]
Li24SeCl
(構成2)
前記フォーミュラ4、前記フォーミュラ5、前記フォーミュラ7、前記フォーミュラ8および前記フォーミュラ10からなる群より選ばれる1で表されるリチウムリッチアンチペロブスカイト構造を有する、構成1記載の化合物。
(構成3)
前記フォーミュラ1で表されるリチウムリッチアンチペロブスカイト構造を有する、構成1記載の化合物。
(構成4)
前記フォーミュラ6で表されるリチウムリッチアンチペロブスカイト構造を有する、構成1記載の化合物。
(構成5)
前記フォーミュラ7で表されるリチウムリッチアンチペロブスカイト構造を有する、構成1記載の化合物。
(構成6)
下記フォーミュラ1から10で表されるリチウムリッチアンチペロブスカイト構造の化合物を1以上含有する、リチウムイオン二次電池用固体電解質。
[フォーミュラ1]
Li24SeBrCl
[フォーミュラ2]
Li24BrCl
[フォーミュラ3]
Li24Cl
[フォーミュラ4]
Li32TeCl
[フォーミュラ5]
Li24SeCl
[フォーミュラ6]
Li24Se
[フォーミュラ7]
Li32BrCl
[フォーミュラ8]
Li24BrCl
[フォーミュラ9]
Li32Br12
[フォーミュラ10]
Li24SeCl
(構成7)
前記フォーミュラ4、前記フォーミュラ5、前記フォーミュラ7、前記フォーミュラ8および前記フォーミュラ10からなる群より選ばれる1で表されるリチウムリッチアンチペロブスカイト構造の化合物を1以上含有する、構成6記載のリチウムイオン二次電池用固体電解質。
(構成8)
前記フォーミュラ1で表されるリチウムリッチアンチペロブスカイト構造の化合物を含有する、構成6記載のリチウムイオン二次電池用固体電解質。
(構成9)
前記フォーミュラ6で表されるリチウムリッチアンチペロブスカイト構造の化合物を含有する、構成6記載のリチウムイオン二次電池用固体電解質。
(構成10)
前記フォーミュラ7で表されるリチウムリッチアンチペロブスカイト構造の化合物を含有する、構成6記載のリチウムイオン二次電池用固体電解質。
(構成11)
構成6から10の何れか1記載のリチウムイオン二次電池用固体電解質を有する、リチウムイオン固体二次電池。
【発明の効果】
【0009】
本発明によりイオン伝導性、充放電安定性および水和性などの熱力学安定性に優れる固体電解質用化合物が提供される。
更に、イオン伝導性と充放電を含む安定性に優れたリチウム二次電池用固体電解質およびリチウム固体二次電池を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】アンチペロブスカイト化合物を示す構造図である。
図2】探索したアンチペロブスカイト化合物の基本構造を示す構造図である。
図3】材料探索過程を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。以下に記載する本発明の詳細な説明は、代表的な態様、実施形態、及び実施例に基づいてなされることがあるが、これらは例示であり、本発明はそのような態様、実施形態、及び実施例に限定されるものではない。
【0012】
(実施の形態1)
実施の形態1では、材料の探索方法の概要を述べる。
【0013】
図1は、基本的なアンチペロブスカイトを示す構造式で、1はZサイト、2はAサイト、3はXサイトであり、ZサイトにLi(リチウム)が入るものが本発明の対象のベースになっている。
本発明で探索したアンチペロブスカイト化合物の基本構造は、図2に示すように、基本的に図2(a)から図2(e)の5種類からなる。
最初に、図3に示すように、図2(a)から図2(e)の5種類の何れかをホスト構造とし、AサイトをO(酸素)、S(イオウ)、Se(セレン)、Te(テルル)、O−S、O−Se、O−Te、S−Se、S−Te、Se−Teの何れか、XサイトをF(フッ素)、Cl(塩素)、Br(臭素)、I(沃素)、F−Cl、F−Br、F−I、Cl−Br、Cl−I、Br−Iの何れかとし、その比率を0.0,0.25,0.5,0.75および1.0の5水準振ったコンパウンドを仮定し、さらに、安定な電子密度の観点からそれらの位置の最適化を密度関数理論(DFT)を使って実行し、フォーミュラ候補を抽出する。ここで、例えばO−Sとは、OとSを含むことを意味する。その比率は上記5水準の比率である。例えば比率が0.0の場合はOのみ、1.0の場合はSのみ、0.5の場合は、OとSが同数配置されることを意味する。
【0014】
その後、第1原理計算に基づいて、分解エネルギー(Decomposition Energy)を算出し、分解エネルギーが0.1eV以下のものに限り、次のステップに進む。ここで、この分解エネルギー0.1eVという基準は、材料合成の経験からくる経験値である。すなわち、分解エネルギーが0.1eVを超えると材料合成が難しいという経験に基づく。
【0015】
しかる後、水反応エネルギー(HO Reaction energy)、Liイオン伝導率(Li ionic conductivity)、バンドギャップ(Band gap)およびこれらの項目を反映させたスコアを、例えば実施例1に記載の方法で求め、スコア上位のもの、およびスコア上位のものの中から水反応エネルギー、Liイオン伝導率、バンドギャップの何れかに特に優れたものを抽出する。
【0016】
水反応エネルギーが高いものは、水に対する安定性、熱力学的安定性が高いものとなり、Liイオン伝導率が高いものは内部抵抗の低減、電流特性の改善に寄与し、バンドギャップが高いものは充放電安定性に優れる。
したがって、抽出されたアンチペロブスカイトのフォーミュラは、イオン伝導性と充放電を含む安定性に優れたリチウム二次電池用固体電解質に好適なものとなる。
【0017】
(実施の形態2)
実施の形態2では、実施の形態1で選ばれたフォーミュラを用いたリチウムイオン固体二次電池について述べる。
リチウムイオン固体二次電池は、正極、負極および固体電解質を主要構成物とするが、そのうちの固体電解質に実施の形態1で選ばれたフォーミュラを用いる。ここで、正極としては、LiCoO、LiFePOなどを挙げることができ、負極としては、C(炭素)、Li金属、LiSiなどを挙げることができる。
実施の形態1で選ばれたフォーミュラを固体電解質に用いることにより、イオン伝導性と充放電を含む安定性に優れ、かつ固体電池であるが故の取り扱いの容易さ、安全性、液漏れフリーといった特徴を兼ね備えたリチウムイオン固体二次電池を供給することが可能になる。
特に、固体電解質としてLi24SeBrClを用いた場合はイオン伝導性に優れて内部抵抗が低く、出力電流の高いリチウムイオン固体二次電池を供給することが可能になり、固体電解質としてLi32BrClを用いた場合は充放電特性の安定性に優れたリチウムイオン固体二次電池を供給することが可能になり、固体電解質としてLi24Seを用いた場合は水に対して安定な熱力学的安定性に優れたリチウムイオン固体二次電池を供給することが可能になる。
【0018】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、上記実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0019】
以下、実施例を用いて本発明をさらに詳細に説明する。
【0020】
(実施例1)
実施例1では、下記シミュレーションを実施して、Liイオン伝導率、水和エネルギーおよびバンドギャップエネルギーの3つの視点から好適な材料を探索した結果を示す。この3要素は、リチウムイオン固体二次電池を高性能化する上で特に重要な要素である。
【0021】
1.密度汎関数理論(DFT)設定
イオン-電子相互作用のプロジェクター増強波(PAW)形式を用い、交換相関エネルギーの関数としては、Perdew、BurkeおよびErnzerhof(PBE)によってパラメーター化された一般化勾配近似(GGA)を使用した。
Li擬ポテンシャルとしては、原子価状態としてセミコアの状態を、他の原子タイプには標準の擬ポテンシャルを使用した。
ここで、運動エネルギーのカットオフは520eVに設定した。
メッシュとしては、Monkhorst−Packグリッドスキームで、少なくとも1000のkポイントメッシュを割り当てた。
すべての計算はスピン偏極条件下で行ない、最適化収束は、エネルギーで1meV/原子未満、残留力で0.001eV/nm未満に設定した。
【0022】
2.無機結晶構造データ
無機結晶構造データとしては、無機結晶構造データベース(ICSD)の結晶構造データを使用した。
【0023】
3.イオン置換スキーム
イオン置換スキームは、特別なサイト濃度比(0,0.25,0.33,0.5,0.67,0.75,1.0)での結晶対称グループとサブグループの関係に基づいてシミュレーションした。
【0024】
4.熱力学計算
(4−1)
熱力学に基づいて、特定の温度(T)および圧力(P)でのギブス自由エネルギー(G)を、G(T,P,NLi,N、N)=H(T,P,NLi,N、N)+PV(T,P,NNLi,N、N)−TS(T,P,NLi,N、N)の式を使用して計算した。
ここで、Hはエンタルピー、Vは体積、Sはエントロピーである。PVおよびTSの項は無視できるとして、0Kの凝縮相ではゼロに設定した。
(4−2)
予測された化合物とそれらの競合するフェーズに対して、凸包アプローチ(Convex hull approach)を使用して基底状態フェーズを決定した。
(4−3)
化学ポテンシャルに関しては、以下に示すように元素の標準状態に基づいて使用される参照化学ポテンシャルを使用した。すなわち、ここでは、Li金属からの(μNa)、1/2OガスからのO(μ)、S固体からのS(μ)、1/2BrガスからのBr(μBr)、1/2ClガスからのCl(μCl)、1/2FガスからのF(μ)、1/2IガスからのI(μ)、Se金属からのSe(μSe)、Te金属からのTe(μTe)を用いた。
(4−4)
水との化学的安定性は、次に示すLiOH形成に基づいて計算した:Li+HO=LiHX+LiOH。ここで、a、bおよびcはスーパーセルモデルの原子数である。
【0025】
5.イオン伝導率の計算
イオン伝導率は、ターゲット温度T=400Kでの分子動力学計算(MD)から推定した。ここで、MDによるLi軌道サンプリングには、少なくとも100原子のスーパーセルモデルを用いた。
詳細には、MD実行のステップサイズを1fsとしNPTアンサンブル条件下での50ps(50000MDステップ)MD軌跡サンプリングの前に、NPTアンサンブル条件下で10ps(10000MDステップ)の平衡化を実行した。
T=400KでのLi拡散率は、時間アンサンブル平均二乗平均変位(MSD)プロットの勾配から次式のようにして決定した。
MSD=<[r(t+τ)−r(t)]
ここで、r(t)は時刻tにおける原子の位置(ベクトル)であり、τは2つの位置r(t+τ)とr(t)の間の遅延時間である。
Naの拡散係数(D)は、Einstein−Smoluchowski方程式に基づいて計算した。すなわち、下記式(1)を用いて計算した。ここで、dは拡散プロセスにおける格子次元数である。
【0026】
【数1】
【0027】
T=400Kでのイオン伝導率(σ)は、ネルンスト-アインシュタインの関係、すなわちσ=(zeD)/(kT)に基づいて求めた。ここで、zは電荷キャリア密度、eは素電荷、kはボルツマン定数である。
【0028】
6.多目的ベイズ最適化(MOBO)アルゴリズム
Liイオン伝導率、バンドギャップエネルギー(DFT電子バンドギャップエネルギー)を使用した電気化学ウィンドウ、およびリチウムイオン電池の化学的安定性の指標である水和エネルギーという3つのバッテリーに重要な特性を、重みの差がない同じ比率で同時に最適化した。この方法は、非参考文献2,3に記載の方法に準じている。
MOBOアルゴリズムは、ガウス(GP)過程モデルによって解を求めるものであるが、ここでは、3つの目的関数(f:Liイオン伝導率、f:DFT電子バンドギャップエネルギーを使用した電気化学ウィンドウ、f:水に対する化学的安定性)に対してそれを適用した。
なお、GPモデルには、各化合物の6つの一般的な材料特性のヒストグラムから定義された下記6つのサブカーネル(k)を持つ加算構造がある。k:化合物の元素の電気陰性度、k:原子対座標のボロノイテセレーションからの実際の値サブセット(カチオン−カチオン、カチオン−アニオン、およびアニオン−アニオンのペア)、k:原子対座標サブセット(カチオンーカチオン、カチオン−アニオン、およびアニオン−アニオンのペア)の部分的な動径分布関数、および積カーネルk=k×k、k=k×k、およびk=k×k。この取り扱いに関しては非特許文献4に準じている。
なお、全てのMOBOステップでMOBOパラメーターの更新を行い、また、全てのMOBOステップでバッチサンプリングサイズは10化合物とした。MOBOステップは、収束性をみて7ステップとした。
また、取得関数は、各MOBOステップでGP予測からのハイパーボリュームに基づいた上限信頼限界(GP−UCB)に基づいて定式化した。
【0029】
上記シミュレーションは、総数10500のリチウムリッチアンチペロブスカイトについて行った。そして、0.1eV以下という分解エネルギー基準によって約1000に対象物を絞り、さらに最適化によってその中から200に絞った。その上で、スコアが上位のもので、かつ反応エネルギー、イオン伝導率、バンドギャップの値に配慮して、性能が優れるものを選び出した。
【0030】
その結果、選び出した上位のアンチペロブスカイト化合物のフォーミュラを表1に示す。また、表1には併せて、リチウム二次電池用の固体電解質として知られているLi24Brに関して、実施例1記載の方法を適用して、分解エネルギー、水反応エネルギー、イオン伝導率、バンドギャップおよびスコアを求めた結果も掲載している。
【0031】
【表1】
【0032】
表1の番号1から10に記載のLi24SeBrCl、Li24BrCl、Li24Cl、Li32TeCl、Li24SeCl、Li24Se、Li32BrCl、Li24BrCl、Li32Br12およびLi24SeClは、水反応エネルギー、イオン伝導率、バンドギャップが高いレベルにあり、その中でも番号4,5,7,8および10に記載のLi32TeCl、Li24SeCl、Li32BrCl、Li24BrClおよびLi24SeClは水反応エネルギー、イオン伝導率、バンドギャップが特に高いレベルにあった。
【0033】
Li24SeBrClは、イオン伝導率が0.7823S/cmであり、比較例であるLi24Brの0.0086S/cmの約90倍という高いイオン伝導率を示した。
Li24Seは、水反応エネルギーが約38KJ/molで水に対して安定性が特に高いという特徴を示す。一方、比較例であるLi24Brは、水に対して反応が進行する約−39KJ/molという負の値になっている。
Li32BrClは、バンドギャップが4.5431eVと比較例であるLi24Brの4.1935eVより約8%高い値であって、このことは二次電池としたときに充放電安定性が高いことを意味している。
【0034】
したがって、表1にリストアップされたLi24SeBrCl、Li24BrCl、Li24Cl、Li32TeCl、Li24SeCl、Li24Se、Li32BrCl、Li24BrCl、Li32Br12およびLi24SeClは、Li固体二次電池の電解質として高い性能を有し、特にLi32TeCl、Li24SeCl、Li32BrCl、Li24BrClおよびLi24SeClは、Li固体二次電池の電解質として特に高い性能を有していた。また、Li24SeBrClはイオン伝導率、Li24Seは水安定性、およびLi32BrClは充放電安定性に優れた特性を有していた。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明により、電流特性に優れ、充放電や水分等に対する安定性が高く、かつ液漏れの心配がない取り扱い容易な二次電池用固体電解質用化合物および固体電解質を提供することが可能になる。また、電解質としてその化合物を用いた固体二次電池は、電流特性が優れ、充放電や水分等に対する安定性が高く、かつ液漏れの心配がない取り扱い容易なものとなる。
ハイブリッドおよび電気自動車、高機能住宅、スマートフォンなどの携帯端末などスマート社会では大電流対応で安定性が高くかつ取り扱いの容易な二次電池が強く求められているので、本発明は、パーソナル用途を含めた産業や社会の発展に寄与するものと考える。
【符号の説明】
【0036】
1:Zサイト(Li)
2:Aサイト
3:Xサイト
図1
図2
図3