【実施例】
【0019】
以下、実施例を用いて本発明をさらに詳細に説明する。
【0020】
(実施例1)
実施例1では、下記シミュレーションを実施して、Liイオン伝導率、水和エネルギーおよびバンドギャップエネルギーの3つの視点から好適な材料を探索した結果を示す。この3要素は、リチウムイオン固体二次電池を高性能化する上で特に重要な要素である。
【0021】
1.密度汎関数理論(DFT)設定
イオン-電子相互作用のプロジェクター増強波(PAW)形式を用い、交換相関エネルギーの関数としては、Perdew、BurkeおよびErnzerhof(PBE)によってパラメーター化された一般化勾配近似(GGA)を使用した。
Li擬ポテンシャルとしては、原子価状態としてセミコアの状態を、他の原子タイプには標準の擬ポテンシャルを使用した。
ここで、運動エネルギーのカットオフは520eVに設定した。
メッシュとしては、Monkhorst−Packグリッドスキームで、少なくとも1000のkポイントメッシュを割り当てた。
すべての計算はスピン偏極条件下で行ない、最適化収束は、エネルギーで1meV/原子未満、残留力で0.001eV/nm未満に設定した。
【0022】
2.無機結晶構造データ
無機結晶構造データとしては、無機結晶構造データベース(ICSD)の結晶構造データを使用した。
【0023】
3.イオン置換スキーム
イオン置換スキームは、特別なサイト濃度比(0,0.25,0.33,0.5,0.67,0.75,1.0)での結晶対称グループとサブグループの関係に基づいてシミュレーションした。
【0024】
4.熱力学計算
(4−1)
熱力学に基づいて、特定の温度(T)および圧力(P)でのギブス自由エネルギー(G)を、G(T,P,N
Li,N
x、N
z)=H(T,P,N
Li,N
x、N
z)+PV(T,P,NN
Li,N
x、N
z)−TS(T,P,N
Li,N
x、N
z)の式を使用して計算した。
ここで、Hはエンタルピー、Vは体積、Sはエントロピーである。PVおよびTSの項は無視できるとして、0Kの凝縮相ではゼロに設定した。
(4−2)
予測された化合物とそれらの競合するフェーズに対して、凸包アプローチ(Convex hull approach)を使用して基底状態フェーズを決定した。
(4−3)
化学ポテンシャルに関しては、以下に示すように元素の標準状態に基づいて使用される参照化学ポテンシャルを使用した。すなわち、ここでは、Li金属からの(μ
Na0)、1/2O
2ガスからのO(μ
00)、S固体からのS(μ
S0)、1/2Br
2ガスからのBr(μ
Br0)、1/2Cl
2ガスからのCl(μ
Cl0)、1/2F
2ガスからのF(μ
F0)、1/2I
2ガスからのI(μ
I0)、Se金属からのSe(μ
Se0)、Te金属からのTe(μ
Te0)を用いた。
(4−4)
水との化学的安定性は、次に示すLiOH形成に基づいて計算した:Li
aX
bZ
c+H
2O=Li
aHX
bZ
c+LiOH。ここで、a、bおよびcはスーパーセルモデルの原子数である。
【0025】
5.イオン伝導率の計算
イオン伝導率は、ターゲット温度T=400Kでの分子動力学計算(MD)から推定した。ここで、MDによるLi軌道サンプリングには、少なくとも100原子のスーパーセルモデルを用いた。
詳細には、MD実行のステップサイズを1fsとしNPTアンサンブル条件下での50ps(50000MDステップ)MD軌跡サンプリングの前に、NPTアンサンブル条件下で10ps(10000MDステップ)の平衡化を実行した。
T=400KでのLi拡散率は、時間アンサンブル平均二乗平均変位(MSD)プロットの勾配から次式のようにして決定した。
MSD=<[r
v(t+τ)−r
v(t)]
2>
ここで、r
v(t)は時刻tにおける原子の位置(ベクトル)であり、τは2つの位置r
v(t+τ)とr
v(t)の間の遅延時間である。
Naの拡散係数(D)は、Einstein−Smoluchowski方程式に基づいて計算した。すなわち、下記式(1)を用いて計算した。ここで、dは拡散プロセスにおける格子次元数である。
【0026】
【数1】
【0027】
T=400Kでのイオン伝導率(σ)は、ネルンスト-アインシュタインの関係、すなわちσ=(ze
2D)/(kT)に基づいて求めた。ここで、zは電荷キャリア密度、eは素電荷、kはボルツマン定数である。
【0028】
6.多目的ベイズ最適化(MOBO)アルゴリズム
Liイオン伝導率、バンドギャップエネルギー(DFT電子バンドギャップエネルギー)を使用した電気化学ウィンドウ、およびリチウムイオン電池の化学的安定性の指標である水和エネルギーという3つのバッテリーに重要な特性を、重みの差がない同じ比率で同時に最適化した。この方法は、非参考文献2,3に記載の方法に準じている。
MOBOアルゴリズムは、ガウス(GP)過程モデルによって解を求めるものであるが、ここでは、3つの目的関数(f
1:Liイオン伝導率、f
2:DFT電子バンドギャップエネルギーを使用した電気化学ウィンドウ、f
3:水に対する化学的安定性)に対してそれを適用した。
なお、GPモデルには、各化合物の6つの一般的な材料特性のヒストグラムから定義された下記6つのサブカーネル(k)を持つ加算構造がある。k
1:化合物の元素の電気陰性度、k
2:原子対座標のボロノイテセレーションからの実際の値サブセット(カチオン−カチオン、カチオン−アニオン、およびアニオン−アニオンのペア)、k
3:原子対座標サブセット(カチオンーカチオン、カチオン−アニオン、およびアニオン−アニオンのペア)の部分的な動径分布関数、および積カーネルk
4=k
1×k
2、k
5=k
1×k
3、およびk
6=k
2×k
3。この取り扱いに関しては非特許文献4に準じている。
なお、全てのMOBOステップでMOBOパラメーターの更新を行い、また、全てのMOBOステップでバッチサンプリングサイズは10化合物とした。MOBOステップは、収束性をみて7ステップとした。
また、取得関数は、各MOBOステップでGP予測からのハイパーボリュームに基づいた上限信頼限界(GP−UCB)に基づいて定式化した。
【0029】
上記シミュレーションは、総数10500のリチウムリッチアンチペロブスカイトについて行った。そして、0.1eV以下という分解エネルギー基準によって約1000に対象物を絞り、さらに最適化によってその中から200に絞った。その上で、スコアが上位のもので、かつ反応エネルギー、イオン伝導率、バンドギャップの値に配慮して、性能が優れるものを選び出した。
【0030】
その結果、選び出した上位のアンチペロブスカイト化合物のフォーミュラを表1に示す。また、表1には併せて、リチウム二次電池用の固体電解質として知られているLi
24O
8Br
8に関して、実施例1記載の方法を適用して、分解エネルギー、水反応エネルギー、イオン伝導率、バンドギャップおよびスコアを求めた結果も掲載している。
【0031】
【表1】
【0032】
表1の番号1から10に記載のLi
24Se
2Br
6Cl
2O
6、Li
24S
6Br
4Cl
4O
2、Li
24I
2Cl
6O
8、Li
32Te
8I
8Cl
8、Li
24Se
6I
6Cl
2O
2、Li
24Se
4I
8O
4、Li
32Br
8Cl
8O
8、Li
24Br
2Cl
6O
8、Li
32I
4Br
12O
8およびLi
24Se
6S
2I
6Cl
2は、水反応エネルギー、イオン伝導率、バンドギャップが高いレベルにあり、その中でも番号4,5,7,8および10に記載のLi
32Te
8I
8Cl
8、Li
24Se
6I
6Cl
2O
2、Li
32Br
8Cl
8O
8、Li
24Br
2Cl
6O
8およびLi
24Se
6S
2I
6Cl
2は水反応エネルギー、イオン伝導率、バンドギャップが特に高いレベルにあった。
【0033】
Li
24Se
2Br
6Cl
2O
6は、イオン伝導率が0.7823S/cmであり、比較例であるLi
24O
8Br
8の0.0086S/cmの約90倍という高いイオン伝導率を示した。
Li
24Se
4I
8O
4は、水反応エネルギーが約38KJ/molで水に対して安定性が特に高いという特徴を示す。一方、比較例であるLi
24O
8Br
8は、水に対して反応が進行する約−39KJ/molという負の値になっている。
Li
32Br
8Cl
8O
8は、バンドギャップが4.5431eVと比較例であるLi
24O
8Br
8の4.1935eVより約8%高い値であって、このことは二次電池としたときに充放電安定性が高いことを意味している。
【0034】
したがって、表1にリストアップされたLi
24Se
2Br
6Cl
2O
6、Li
24S
6Br
4Cl
4O
2、Li
24I
2Cl
6O
8、Li
32Te
8I
8Cl
8、Li
24Se
6I
6Cl
2O
2、Li
24Se
4I
8O
4、Li
32Br
8Cl
8O
8、Li
24Br
2Cl
6O
8、Li
32I
4Br
12O
8およびLi
24Se
6S
2I
6Cl
2は、Li固体二次電池の電解質として高い性能を有し、特にLi
32Te
8I
8Cl
8、Li
24Se
6I
6Cl
2O
2、Li
32Br
8Cl
8O
8、Li
24Br
2Cl
6O
8およびLi
24Se
6S
2I
6Cl
2は、Li固体二次電池の電解質として特に高い性能を有していた。また、Li
24Se
2Br
6Cl
2O
6はイオン伝導率、Li
24Se
4I
8O
4は水安定性、およびLi
32Br
8Cl
8O
8は充放電安定性に優れた特性を有していた。