【実施例】
【0019】
以下では実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、この実施例はあくまで本発明の理解を助けるためここに挙げたものであり、本発明をこれに限定するものではない。
【0020】
(実施例1)
実施例1では、第1の試料の貼り合わせ部材であるhBNを第2の試料の被貼り合わせ部材であるグラフェンに貼り合わせた例について説明する。
【0021】
装置としては、
図3に示す装置を用いた。この装置の主要構成は
図1に示す通りで、温度調整手段12と載置基体13を具備し、試料11を載置する載置台(ステージ)14と、載置台14を移動させる位置移動手段15と、貼り合わせ用ハンドリングチップ(スタンプ)18を具備するアーム17と、アーム17を移動させる位置移動手段19と、貼り合わせ用ハンドリングチップ18およびアーム17を介して試料11を画像観察する画像観察手段20と、画像観察手段20から画像情報をインプットして位置移動手段15および位置移動手段19を用いて載置台14およびアーム17の相対位置を変えて試料の貼り合わせや引き離しの制御や温度調整手段12による温度制御を行うための制御手段21を有する。
【0022】
載置台14は、θ回転とXYZ移動機構(位置移動手段15)を備えており、高さは0.2μmのステップ分解能の電動モーター(ZカプラーおよびフォーカスコントローラーMSS−FC、中央精密工業、日本)で制御できるようになっている。載置台14の温度は、温度調整手段12により室温から150℃まで所望の値に調整できるようになっている。
アーム17としては、スライドガラスを用い、スライドガラスを固定するためのマイクロマニピュレーター(Thorlab Inc.、米国)を載置台14の近くに配置した。このマニュピュレータは位置移動手段19としても機能させることができるが、本実施例では半固定として、試料11の移動は主に位置移動手段15によって行った。
スライドガラスの先には貼り合わせ用ハンドリングチップ18を貼り付けた。このため、画像観察手段20を用いて試料11を観察するときは、アーム17であるスライドガラスを介さずに貼り合わせ用ハンドリングチップ18のみを介して観察できるようにした。
画像観察手段20は、2種類の対物レンズを有する5×および20×の顕微鏡とし、観察光にはハロゲンランプを用いた。レンズのNAは各々0.15および0.45である。
【0023】
貼り合わせ用ハンドリングチップ18であるスタンプ(粘弾性ポリマースタンプ)は、
図2に示すように、ゲルフィルムポリマーシートをスライドガラスの一部に貼り付けた透明基板51、PDMS膜53およびPPC膜54からなる。
【0024】
貼り合わせ用ハンドリングチップ18の製造工程を下記に示す。
最初に、約25mm×15mの寸法のスライドガラス(第1のスライドガラス)を準備した。
次に、PDMSベースのゲルフィルムポリマーシート(Gel+Film WF−55−X4−A,Gel−Pak、米国)を1〜1.5mmの正方形に切断し、第1のスライドガラスの中央に貼り付けた。
その後、透明基板51上にPDMS:Agent混合物(質量比で9:1)で3000rpmで1分間スピンコートし、70℃で5時間焼き付けた。
【0025】
次に、PDMS膜53の表面をO
2流量20sccm、120WのRF出力、10Pa圧力で10分間、反応性イオンエッチング(RIE)によりO
2プラズマで処理した。
別途PDMS膜に同様のO
2プラズマで処理した試料を作製し、AFM(Atomic Force Microscope)で1μm×1μmの範囲で観察したところ、表面粗さはRMSで約19nmであった。また、O
2プラズマ未処理の状態では約0.62nmであった。このO
2プラズマで処理を施しておくと、貼り合わせ試料のハンドリングに問題は発生しなかったが、O
2プラズマ未処理で貼り合わせ用ハンドリングチップ18を作製した場合は、貼り合わせ工程中にPDMS膜53と次に述べるPPC膜54の間で剥離が発生することがあり、この剥離があった場合は、hBNとグラフェンとの貼り合わせ面に気泡が発生した。
【0026】
最後に、PDMS膜53上にPPCをスピンコート(1500rpmで11分間)し、ホットプレート上で110℃5分間のベークを行った。
上記方法によって製造された貼り合わせ用ハンドリングチップ18は、
図3(b)に示すように、スタンプ表面の中央に突起が形成されており、傾斜角θは約15〜19°であった。これは、気泡が発生しない貼り合わせ(転写)に不可欠であった。
【0027】
アーム17は第2のスライドガラス(46mm×25mm)からなり、貼り合わせ用ハンドリングチップ18は粘着テープで第2のスライドガラスに貼り付けられた。
位置移動手段19としてはマニピュレーターを用いたが、貼り合わせ用ハンドリングチップ18は、そのPPC膜表面の突出部側が下を向くようにしてマニピュレーターに取り付けられた。
【0028】
次に、hBN/グラフェンヘテロ構造の貼り合わせプロセス(転写プロセス)について説明する。
最初に、hBNのフレークを機械的剥離法により厚さ90nmのSiO
2膜が形成されたSi基板に貼り付け、載置台14(ステージ)に設置した(
図5(i))。スタンプ(貼り合わせ用ハンドリングチップ)18をターゲットのhBNフレークに配置する前に、スタンプが清浄なSiO
2表面と接触するようにすることで、スタンプが試料と最初に接触する位置を確認した(
図5(ii))。
その後、スタンプをSi基板から持ち上げ、スタンプ18の表面傾斜角が15〜19°の領域がhBNフレークのエッジ部に来るように位置移動手段15および19を使ってスタンプ18と載置台14の相対位置を移動させた(
図4(a))。フレークのサイズに応じて、接触領域の長さは500〜1000μmの範囲であった。
次に、hBNフレークが接触領域で完全に覆われるまで、室温(約25℃)で載置台14を持ち上げた(
図4(b)、
図5(iii))。
その後、ピックアッププロセスの制御性を高めるため、載置台14を温度調整手段12を用いて加熱した。その加熱条件は、最初の3分間を55℃、その後の2分間を40℃とした(
図4(c))。
しかる後、接触領域の滑らかな収縮を可能にするように、載置台14をゆっくりと下げた。接触領域の急激な収縮は、hBNフレークを損傷する可能性があるため、避けることが肝要である。以上の工程で、hBNフレークはスタンプ18の表面傾斜角が15〜19°の傾斜領域で拾い上げられた(
図4(d)、
図5(iv))。
【0029】
次に、キッシュグラファイトから機械的剥離法によって調製されたグラフェンフレークを準備した。そして、グラフェンを含む基板を載置台14に貼り付けた後、110℃で加熱してフレーク表面の汚染の拡散を促進した(
図4(e)、
図5(v))。これは、最終ヘテロ構造のグラフェンへの汚染を最小限に抑えるためである。ここで、光学画像のコントラストを調整するか、光学顕微鏡の暗視野モードを使用すると、グラフェン表面の汚染(テープ残留物など)が見える。
その後、位置移動手段15および19を使って、hBNフレークとグラフェンフレーク
が重なる位置になるようにした後、載置台14をゆっくり(約25μm/30s:0.83μm/s)と持ち上げた(
図4(f)、
図4(g)、
図5(vi)、
図5(vii))。ここで、高温、フレーク間の接触角および遅い接触速度は、気泡の形成を避けるための重要である。十分に可動性の界面汚染を抑えるには高温が必要で、接触角(傾斜)によって界面汚染の放出性が上がって界面汚染の放出効率が上がる。
また、スタンプ18の中心近傍(そこは表面傾斜角が15〜19°の傾斜領域)によるコンフォーマル接触により、載置台14の傾斜などの複雑な過程なしでhBNフレークとグラフェンフレークの接触を簡便に行うことができる。その時の接触角は、フレークのサイズとフレークが拾われた位置に応じて変わるが、θ=15〜19°であった。
【0030】
hBNフレークとグラフェンフレークの5分間の接触後、サンプルステージを徐々に下げて、接触面積を滑らかに収縮させた(
図4(h))。その結果、hBNフレークは、気泡なしでグラフェンフレーク上に移された。
図5(viii)に例示されているように、本方法によって製造されたhBN/グラフェンスタック上に気泡は確認されなかった。
【0031】
本プロセス全体を通して、hBNフレークおよびグラフェンフレークのコンフォーマル接触には、接触速度が一方向に一定であることが重要である。すなわち、接触時には、載置台14とマニピュレーター(位置移動手段19)をxy方向に移動してはならず、載置台14移動のz方向の移動速度は一定でなければならない。
また、0.83μm/sというような遅い接触速度も気泡の形成の抑制に重要である。
【0032】
実施例1に記載した貼り合わせ装置や方法を使用することにより、デバイスの製造に十分な大きさの気泡のない大きな領域を得ることができ、実際、気泡発生が認められない約10000μm
2領域の貼り合わせを行うことができた。さらに、実施例1記載の方法は、他の方法より簡便で、歩留まりの高い貼り合わせ方法になっている。実際、50サンプルに対して約90%の気泡のないヘテロ構造の製造歩留まりが得られている。
【0033】
(比較例1)
比較例1は、表面傾斜が約0°から10±1°とし、接触速度を約25μm/sとしたときの貼り合わせの例で、その結果を
図6に示す。ここで、
図6(a)はスタンプ18とhBNフレークの接触、
図6(d)はグラフェンフレークとhBNフレークとの貼り合わせの様子を示した光学顕微鏡写真である。なお、グラフェンとhBNの間の密着性を高めるために、試料からスタンプ18が離れた後、基板を大気中130℃で15分間ベークした。
図6(d)に示されるように、比較例1では多数の気泡が発生した貼り合わせになった。
【0034】
(実施例2)
実施例2では、不要なフレークの除去について説明する。
一般に、機械的剥離を行うと、基板上に多くのフレークが堆積する。この場合、デバイスの製造には清浄な表面で所望の厚さ(層数)をもつフレークのみが用いられ、他のフレークは不要である。このような不必要なフレークを除去するために、半球状のスタンプを使用して、光学顕微鏡スケールで剥離プロセスを実施した。その剥離工程を
図7に、観察画像を
図8に示す。
実施例1と同様に、スタンプ18と、フレーク(hBNまたはグラフェン)の付いた基板をそれぞれマニピュレーターと載置台14に取り付けた(
図7(a)、
図8(i ))。
次に、PDMS膜53の粘度を高めるために、載置台14を80℃に設定して、マニュピュレーター(位置移動手段19)によりスタンプの中央が載置台14のごく近傍に来るようにした(
図7(b)、
図8(ii))。
その後、接触領域をフレーク上でxy方向に移動し(
図7(c)、
図8(iii))、スタンプ18を引き上げた結果、基板からフレークが剥離された(
図7(d)、
図8(iv))。
この剥離技術では、主に横方向の力がフレークを巻き上げて持ち上げるため、通常のピックアッププロセスではほとんど除去できない大きなフレークを剥離することもできるという特徴がある(
図7(d)、
図8(iv))。さらに、この剥離プロセスの後、フレークの下層が基板上に残っていることが時々観察された。清浄な主表面をもつ基板を用いれば、このフレーク下層はデバイス製造にも活用可能であった。
【0035】
(実施例3)
本発明の貼り合わせ方法は、フレークのみ同士への貼り合わせに限らず、電極や配線が形成されたフレークなどの被貼り合わせ物への気泡レスの貼り合わせも可能である。この例を実施例3で説明する。
図7にhBN/グラフェンヘテロ構造の光学画像を示す。Cr/Au電極はhBN転写の前に製造されているが、電極が形成されたフレークに対して気泡の発生なしに貼り合わせが行われていることがわかる。
この結果は、本発明の技術が、金属電極を備えたグラフェンデバイスにも有効であることを示している。したがって、本発明の技術は、例えば、トップゲートとその誘電体層の追加製造にも活用可能であることを示すものになっている。
【0036】
(実施例4)
実施例4では、バブルフリー転写技術によって作製されたグラフェン/hBNヘテロ構造に基づいて、hBN/グラフェン/hBNヘテロ構造デバイスの品質特性を調べた。
【0037】
作製された素子10は、
図9に示されるように、ドーパントがホウ素で、抵抗が0.02Ω・cm以下の高濃度ドープSi基板1上にバックゲートとして機能する厚さ90nmの酸化膜2(SiO
2)、厚さ22nmのhBN膜3、厚さ約0.68nmの二層グラフェン膜(BLG膜)4、厚さ38nmのhBN膜5およびCr(クロム)/Au(金)積層膜からなる電極6を有するグラフェン/hBNヘテロ構造ベースが形成されたホールバーデバイスである。
【0038】
素子10は、下記の工程によって作製した。
最初に、実施例1と同様の工程でBLG膜4にhBN膜5を
図1に示す装置を用いて貼り合わせ、載置台14の温度を40℃にして2分経った時点でアーム17を上昇させて貼り合わせ用ハンドリングチップ18にhBN膜5/BLG膜4積層膜を付着させたまま引き上げた。
次に、準備しておいた酸化膜2が形成された高濃度ドープSi基板1の上にhBN膜3を載置した後、載置台14に載せ、アーム17を下降させてhBN膜3とhBN膜5/BLG膜4積層膜を付着させ、載置台14の温度を110℃とした。
5分経った時点でアーム17を上昇させて酸化膜2が形成された高濃度ドープSi基板1の上に、hBN膜3、BLG膜4およびhBN膜5が順次積層された構造物を作製した。
【0039】
次に、ポリメチルメタクリレートをレジストマスクとして使用した電子ビーム(EB)リソグラフィーおよびO
2/CHF
3プラズマによるRIE(Reactive Ion Etching)を行って、hBN/BLG/hBNヘテロ構造をホールバージオメトリにパターン化した。
しかる後、EBリソグラフィとEB堆積プロセスを用いたリフトオフ法により、Cr/Auからなる接触電極を形成した。ここで、Crの厚さは5nm、Auの厚さは100nmとした。なお、CrはBLG膜4とのオーミックコンタクトおよび酸化膜2との密着性を担い、AuはCrの酸化を抑制して経時安定性を高めるとともに、低抵抗化が図られる。
最後に、サンプルをAr/H
2(3体積%)フォーミングガス中で350℃で1時間アニールした。
【0040】
以上の工程により作製された素子10は、長さが約15μmを超えるBLGチャネルを含むが、気泡は認められなかった。
【0041】
次に、作製された素子10の電気特性を評価した。
素子10の電気輸送特性を、
4Heクライオスタットで10nAのAC励起電流を使用した標準ロックイン技術を使用して、4端子構成で測定した。そこでは、超伝導マグネットを使用して、デバイスに垂直な磁場(磁束密度、B)を印加した。
図12は、温度が1.6Kのときの縦方向抵抗率(ρ
xx)のバックゲート電圧(Vg)依存性であるが、Vgが約0で最大値を示す。つまり、電荷中性点はほぼVg=0Vであった。
図12の挿入図は、温度T=10Kおよび磁束密度B=6Tでの、ホール伝導率(σ
xy)のVg依存性を示す。ホール伝導率σ
xyは、N,h,eをそれぞれ整数、プランク定数、電気素量とすると(4Ne
2)/hで表されるが、この特性曲線に平坦域が見られる。これは、BLGのランダウ量子化を意味する。
【0042】
次に、温度251.6Kでのホール測定から、電荷キャリア移動度を推定した。その結果、電子およびホールについては、それぞれ約50m
2V
−1s
−1および25m
2V
−1s
−1であった。さらに、平均自由行程Iは約2.5μmと推定された。ここで、平均自由行程Iは、(h/(2e
2))(1/(ρ
xx√(πn)))(nはキャリア密度)で計算した。また、残留キャリア密度は非参考文献4に基づき、5.0×10
10cm
−2と推定された。
【0043】
図13は、温度10Kでバックゲート電圧Vgと磁束密度Bを関数としたときの縦方向抵抗率ρ
xxのマッピングプロットである。この図から、量子ホール効果は、Bが6Tという小さい磁場条件で、BLGの各充填率(ν)に対応するプラトー領域を表す明確な線でプロットされており、素子10の品質が十分に高いことがわかる(例えば、非特許文献5参照)。