【解決手段】実施形態に係る駆動制御装置は、検出部と、駆動制御部とを備える。検出部は、駆動輪ごとに設けられたモータで駆動する車両において、駆動輪のスリップを検出する。駆動制御部は、検出部によってスリップが検出された駆動輪を駆動させるモータに対し、負トルクを印加する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照して、本願の開示する駆動制御装置および駆動制御方法の実施形態を詳細に説明する。なお、以下に示す実施形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0012】
なお、以下では、実施形態に係る車両がインホイールモータ(以下、「IWM」という)で駆動する車両Vであり、実施形態に係る駆動制御装置が、かかるIWMの動作を制御するインバータ30である場合を例に挙げて説明を行う。
【0013】
まず、実施形態に係る駆動制御方法の概要について、
図1Aおよび
図1Bを用いて説明する。
図1Aおよび
図1Bは、実施形態に係る駆動制御方法の概要説明図(その1)および(その2)である。なお、
図1Aは、比較例に係る駆動制御方法の概要を示すものとなっている。
【0014】
図1Aに示すように、比較例に係る駆動制御方法では、比較例に係る車両V’は、たとえばエンジン駆動車両あるいはモータ駆動車両であり、駆動源からトランスミッション(T/M)および差動装置(DEF)を介して連結されたタイヤWを駆動輪として駆動する。
【0015】
そして、かかる駆動系においてTRCを実現する場合、EBDを搭載する必要があった。EBDは、同図に示すように、スリップ検出時、自動的にスリップ輪のみブレーキBのブレーキ制御を行う。
【0016】
このため、比較例に係る駆動制御方法には、EBDレスによる低コスト化および軽量化を図りにくいという問題点があった。また、同図に示すように、比較例に係る駆動制御方法には、スリップ検出時、エンジンあるいはモータの出力を制限するため、グリップ輪の駆動力も低下させてしまうという問題点もあった。
【0017】
そこで、実施形態に係る駆動制御方法では、IWMで駆動する車両において、スリップ検出時に、スリップ輪のみ負トルク(制動トルク)を印加してスリップを解消することとした。
【0018】
また、そのうえで、実施形態に係る駆動制御方法では、スリップ検出時に、インバータ30が、制御方式を正弦波制御から矩形波制御に切り替えてIWMの動作を制御することとした。
【0019】
具体的には、
図1Bに示すように、実施形態に係る駆動制御方法では、各タイヤWに搭載されたIWM40で駆動する車両Vにおいて、車両制御装置10によって動作指令を指示される各インバータ30が、スリップ検出時、スリップ輪のみ負トルクを印加することとした(ステップS1)。これにより、IWM40の制御のみでEBDレスによるスリップの解消を実現でき、低コスト化および軽量化を図ることができる。
【0020】
ところで、減速機なしのIWM40は駆動トルクの変動がダイレクトに路面へ伝達されるため、インバータ30は通常、ドライバビリティを考慮して、同図に示すようにトルク変動の小さい正弦波制御方式を全回転域に対して採用している。ただし、かかる正弦波制御方式は、同図に示すように最大トルクが小さい、すなわち限界までトルクを出せないというデメリットがある。
【0021】
すると、たとえば高速域でスリップが発生した場合、IWM40の特性として高回転ではトルクが出せなくなることと、正弦波制御方式を採用していることで負トルクが不足し、スリップの解消に時間がかかってしまう。
【0022】
これに対し、同図に示すように、矩形波制御方式は、正弦波制御方式に比べてトルク変動が大きいというデメリットはあるが、最大トルクは大きいというメリットがある。しかも、スリップ発生時は路面にトルクが伝わっていないので、通常時ほどドライバビリティを考慮する必要がない。
【0023】
そこで、同図に示すように、実施形態に係る駆動制御方法ではさらに、スリップ検出時に、インバータ30が、制御方式を正弦波制御から矩形波制御に切り替えてIWM40の動作を制御することとした(ステップS2)。
【0024】
これにより、スリップの解消時間を短縮し、適正なスリップの抑制を実現することができる。なお、正弦波制御から矩形波制御への切り替えは、スリップ発生時の緊急的な措置であり、スリップが解消すれば、実施形態に係る駆動制御方法では、インバータ30が、矩形波制御から正弦波制御へ制御方式を元に戻す。これにより、スリップの非発生時におけるドライバビリティを確保することができる。
【0025】
以下、実施形態に係る駆動制御方法を適用した駆動制御システム1の構成例について、より具体的に説明する。
【0026】
図2Aは、実施形態に係る駆動制御システム1の構成例を示すブロック図である。また、
図2Bは、実施形態に係るインバータ30の構成例を示すブロック図である。なお、
図2Aおよび
図2Bでは、実施形態の特徴を説明するために必要な構成要素のみを表しており、一般的な構成要素についての記載を省略している。
【0027】
換言すれば、
図2Aおよび
図2Bに図示される各構成要素は機能概念的なものであり、必ずしも物理的に図示の如く構成されていることを要しない。例えば、各ブロックの分散・統合の具体的形態は図示のものに限られず、その全部または一部を、各種の負荷や使用状況などに応じて、任意の単位で機能的または物理的に分散・統合して構成することが可能である。
【0028】
また、
図2Aおよび
図2Bを用いた説明では、既に説明済みの構成要素については、説明を簡略するか、省略する場合がある。
【0029】
まず
図2Aに示すように、実施形態に係る駆動制御システム1は、車両制御装置10と、各種センサ20と、インバータ30と、IWM40とを含む。なお、ここでは、4輪車両に対応し、インバータ30と、IWM40とをそれぞれ4つずつ含む場合を例に挙げている。
【0030】
車両制御装置10は、ECU(Electronic Control Unit)であって、車両Vに搭載された速度センサや、アクセルセンサ、ブレーキセンサ、ステアリングセンサ、バッテリセンサ等を含む各種センサ20からのセンサ値に基づいて車両Vの状況を取得し、かかる状況に応じてたとえばIWM40ごとの動作指示を生成して、インバータ30のそれぞれへ出力する。動作指示には、車両制御装置10が取得した各種センサ20のセンサ値等が含まれる。
【0031】
インバータ30は、車両制御装置10からの動作指示に基づいてIWM40の動作を制御する。
図2Bに示すように、インバータ30は、記憶部31と、制御部32とを備える。記憶部31は、たとえば、RAM(Random Access Memory)、フラッシュメモリ(Flash Memory)等の半導体メモリ素子等によって実現され、
図2Bの例では、マップ情報31aを記憶する。
【0032】
マップ情報31aは、車速およびアクセル開度から要求される要求トルクが定義された要求トルクマップや、回転数および電池電圧から出力可能な最大トルクが定義された最大トルクマップ等を含む。
【0033】
制御部32は、コントローラ(controller)であり、たとえば、CPU(Central Processing Unit)やMPU(Micro Processing Unit)等によって、インバータ30内部の記憶デバイスに記憶されている各種プログラムがRAMを作業領域として実行されることにより実現される。また、制御部32は、たとえば、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やFPGA(Field Programmable Gate Array)等の集積回路により実現することができる。
【0034】
制御部32は、検出部32aと、算出部32bと、選択部32cと、駆動制御部32dとを有し、以下に説明する情報処理の機能や作用を実現または実行する。
【0035】
検出部32aは、IWM40の単位時間当たりの回転数変化量に基づいてスリップの有無を検出し、検出結果を算出部32bへ通知する。
【0036】
算出部32bは、車両制御装置10からの動作指示、検出部32aによる検出結果およびマップ情報31a等に基づいて、トルク要求値を算出する。
【0037】
具体的には、算出部32bは、スリップが検出された場合には、対応するタイヤWの所定時間前の回転数を目標回転数として設定する。そして、算出部32bは、式「FF項(制動トルク)+FB項(目標回転数,現在回転数)」に基づいてトルク要求値を算出する。
【0038】
また、算出部32bは、マップ情報31aに含まれる最大トルクマップに基づき、出力可能最大トルクを算出する。
【0039】
また、算出部32bは、スリップが検出されなかった場合には、マップ情報31aに含まれる要求トルクマップに基づき、トルク要求値を算出する。
【0040】
選択部32cは、算出部32bの算出結果に基づき、インバータ30の制御方式を選択する。具体的には、選択部32cは、スリップが検出された場合には、算出部32bによって算出されたトルク要求値と出力可能最大トルクとを比較し、出力可能最大トルクがトルク要求値よりも小さい、すなわちトルク不足であれば、矩形波制御方式を選択する。
【0041】
一方、出力可能最大トルクがトルク要求値よりも大きい、すなわちトルク不足でなければ、選択部32cは、正弦波制御方式を選択する。また、選択部32cは、スリップが検出されなかった場合には、正弦波制御方式を選択する。
【0042】
駆動制御部32dは、算出部32bによって算出されたトルク要求値に基づき、選択部32cによって選択された制御方式でIWM40の動作を制御する。
【0043】
ここで、
図3に制御方式を切り替えた場合の効果を示す。
図3は、制御方式を切り替えた場合の効果を示す図である。なお、同図の上段には、時間t1においてスリップが検出された場合に、スリップ輪に負トルクを印加するものの、制御方式は正弦波制御方式のままとした場合の回転数およびトルクの推移を示している。
【0044】
かかる上段のケースによれば、時間t1からスリップ輪へ負トルクが印加され、時間t2から時間t5にかけて負トルクの低下が見られたものの、時間t6にはスリップ輪の回転数が非スリップ輪(すなわち、グリップ輪)の回転数と同等にまで回復してスリップが解消されたことが分かる。
【0045】
ただし、ここでさらに、負トルクの低下が見られる区間に制御方式を切り替えれば、同図の下段のような改善が見込める。具体的には、同図の下段のケースでは、時間t1においてスリップが検出された場合に、スリップ輪に負トルクを印加するとともに、上段では負トルクの低下が見られた時間t2から制御方式を正弦波制御方式から矩形波制御方式へ切り替えている。
【0046】
すると、上段のケースでは、負トルクの低下が見られた時間t2から時間t5の区間が、下段のケースでは、時間t2から時間t3へ短縮し、負トルクの低下量も減少していることが分かる。そして、上段のケースでは、時間t1から時間t6までかかったスリップの解消が、下段のケースでは、時間t1から時間t4までに短縮していることが分かる。
【0047】
このように、スリップが検出された場合に、スリップ輪へ負トルクを印加するとともに、負トルクが低下する、すなわちトルクが不足する区間のインバータ30の制御方式を正弦波制御方式から矩形波制御方式へ切り替えることによって、IWM40の制御のみでEBDレスによるスリップの解消を実現できるとともに、スリップの解消時間を短縮し、適正なスリップの抑制を実現することができる。
【0048】
次に、実施形態に係るインバータ30が実行する処理手順について、
図4を用いて説明する。
図4は、実施形態に係るインバータ30が実行する処理手順を示すフローチャートである。
【0049】
図4に示すように、まず検出部32aがスリップを検出したか否かが判定される(ステップS101)。ここで、スリップを検出した場合(ステップS101,Yes)、算出部32bは、対応するタイヤWの所定時間前の回転数を目標回転数として設定する(ステップS102)。
【0050】
そして、算出部32bは、式「FF項(制動トルク)+FB項(目標回転数,現在回転数)」に基づいてスリップ時のトルク要求値を算出する(ステップS103)。また、算出部32bは、マップ情報31aに含まれる最大トルクマップに基づき、出力可能最大トルクを算出する(ステップS104)。
【0051】
そして、選択部32cが、トルク要求値と出力可能最大トルクとを比較し、トルク不足であるか否かを判定する(ステップS105)。
【0052】
ここで、トルク不足である、すなわち出力可能最大トルクがトルク要求値よりも小さい場合(ステップS105,Yes)、選択部32cは矩形波制御方式を選択し(ステップS106)、駆動制御部32dは、選択された矩形波制御方式でIWM40の動作を制御する。
【0053】
一方、トルク不足でない、すなわち、出力可能最大トルクがトルク要求値よりも大きい場合(ステップS105,No)、選択部32cは、正弦波制御方式を選択し(ステップS108)、駆動制御部32dは、トルク要求値に基づき、選択された正弦波制御方式でIWM40の動作を制御する。
【0054】
また、ステップS101でスリップを検出しなかった場合(ステップS101,No)、算出部32bは、マップ情報31aに含まれる要求トルクマップに基づき、トルク要求値を算出する(ステップS107)。そして、選択部32cは、正弦波制御方式を選択し(ステップS108)、駆動制御部32dは、トルク要求値に基づき、選択された正弦波制御方式でIWM40の動作を制御する。
【0055】
上述してきたように、実施形態に係るインバータ30(「駆動制御装置」の一例に相当)は、検出部32aと、駆動制御部32dとを備える。検出部32aは、IWM40(「駆動輪ごとに設けられたモータ」の一例に相当)で駆動する車両Vにおいて、駆動輪のスリップを検出する。駆動制御部32dは、検出部32aによってスリップが検出された駆動輪を駆動させるIWM40に対し、負トルクを印加する。
【0056】
したがって、実施形態に係るインバータ30によれば、車両Vにおいて、IWM40の制御のみによるスリップの解消を実現することができる。
【0057】
また、駆動制御部32dは、検出部32aによってスリップが検出された場合に、通常時の正弦波制御から矩形波制御へ制御方式を切り替える。
【0058】
したがって、実施形態に係るインバータ30によれば、スリップの解消時間を短縮し、適正なスリップの抑制を実現することができる。
【0059】
また、駆動制御部32dは、検出部32aによってスリップが検出された場合で、出力可能な最大トルクが要求されるトルク値に対して不足する場合に、矩形波制御へ制御方式を切り替える。
【0060】
したがって、実施形態に係るインバータ30によれば、スリップが検出され、かつ、トルクの不足する場合にのみ、緊急的な措置で制御方式を矩形波制御へ切り替えるので、スリップの抑制とドラバビリティの確保とを両立させることができる。
【0061】
また、駆動制御部32dは、検出部32aによってスリップが検出された駆動輪のスリップが解消した場合に、通常時の正弦波制御へ制御方式を戻す。
【0062】
したがって、実施形態に係るインバータ30によれば、スリップの非発生時におけるドライバビリティを確保することができる。
【0063】
また、実施形態に係るインバータ30は、IWM40に対し1対1で設けられる。
【0064】
したがって、実施形態に係るインバータ30によれば、IWM40に対し個別にスリップを解消させることができる。
【0065】
なお、上述した実施形態では、インバータ30を駆動制御装置の一例としたが、たとえば車両制御装置10を駆動制御装置の一例としてもよい。かかる場合、車両制御装置10はたとえば統括的に、IWM40それぞれのスリップを検出し、スリップが検出されたIWM40に対応するインバータ30の制御方式を選択して、かかる制御方式やトルク要求値までもインバータ30へ指示することとなる。
【0066】
さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。このため、本発明のより広範な態様は、以上のように表しかつ記述した特定の詳細および代表的な実施形態に限定されるものではない。したがって、添付の特許請求の範囲およびその均等物によって定義される総括的な発明の概念の精神または範囲から逸脱することなく、様々な変更が可能である。