【解決手段】被滅菌物が収容される滅菌槽と、滅菌槽内の気体を外部へ吸引排出する減圧手段と、滅菌槽内へ蒸気を供給する給蒸手段と、滅菌槽内の気体を外部へ排出する排気手段と、前記各手段を制御する制御手段とを備える。滅菌工程S2前の空気排除工程S1において、(a)滅菌槽内を減圧後に滅菌槽内に蒸気を供給して復圧する減復圧操作S12と、(b)滅菌槽内に蒸気を供給して滅菌槽内を設定圧力PHで設定保持時間保持した後、滅菌槽内から蒸気を排出する昇温保持操作S14と、を順に含んで実行する。前記設定圧力PHは、滅菌工程S2での滅菌温度の飽和蒸気圧力以上で設定される。
被滅菌物が収容される滅菌槽と、この滅菌槽内の気体を外部へ吸引排出して前記滅菌槽内を減圧する減圧手段と、前記滅菌槽内へ蒸気を供給する給蒸手段と、前記滅菌槽内の気体を外部へ排出する排気手段と、前記各手段を制御する制御手段とを備え、
前記制御手段は、滅菌工程前の空気排除工程において、(a)前記滅菌槽内を減圧後に前記滅菌槽内に蒸気を供給して復圧する減復圧操作と、(b)前記滅菌槽内に蒸気を供給して前記滅菌槽内を設定圧力で設定保持時間保持した後、前記滅菌槽内から蒸気を排出する昇温保持操作と、を順に含んで実行し、
前記設定圧力は、滅菌工程での滅菌温度の飽和蒸気圧力以上で設定される
ことを特徴とする蒸気滅菌装置。
【背景技術】
【0002】
蒸気滅菌装置では、滅菌工程前の空気排除工程において、滅菌槽内からの空気排出が図られると共に、滅菌槽内の被滅菌物の加熱が図られる。
【0003】
下記特許文献1に記載の発明では、真空ポンプなどの減圧手段を用いることなく(言い換えれば滅菌槽内を大気圧未満に減圧することなく)、空気排除工程が行われる。具体的には、滅菌槽内に蒸気を供給して滅菌槽内を加圧する操作と、滅菌槽外へ蒸気を排出して滅菌槽内を減圧する操作とを繰り返すことで、空気排除工程が行われる。あるいは、滅菌槽内に所定圧力まで蒸気を供給した後、その圧力を一定時間保持してから排出することで、空気排除工程が行われる。
【0004】
ところが、運転開始直後は、滅菌槽内の気体は空気であるため、減圧手段を用いて直接に空気を吸引排出するのが有効である。また、空気が残留した状態で滅菌槽内に蒸気を供給して加圧しても、被滅菌物を所望温度(槽内圧力における飽和蒸気温度)まで昇温できない。さらに、滅菌槽内を最初から蒸気で加圧して、100℃を超える蒸気で被滅菌物を加熱するのでは、被滅菌物との温度差が大きくなり、蒸気の凝縮水量が多くなる。滅菌槽内に所定圧力まで蒸気を供給して保持する場合には、なおさらである。すなわち、滅菌槽内に蒸気を供給(加圧)する際に、被滅菌物には蒸気が凝縮し、この凝縮水は、滅菌槽内から蒸気を排出(減圧)する際に、気化させることができるが、加圧後に減圧することなく加圧状態で保持したのでは、凝縮水を気化させることができず、凝縮水量が多くなる。凝縮水量が多いと、滅菌工程後の乾燥工程において、被滅菌物が十分に乾かないおそれもある。
【0005】
一方、下記特許文献2に記載の発明では、空気排除工程において、減圧手段により滅菌槽内を減圧後、給蒸手段により滅菌槽内に蒸気を供給する操作、を二回行い、二回目の蒸気供給は、大気圧を超える所定圧力までなされる。
【0006】
ところが、この所定圧力は、滅菌温度の飽和蒸気圧力以下で設定される。しかも、滅菌槽内に蒸気を供給して、所定圧力に到達次第、滅菌槽外へ蒸気を排出する。滅菌温度の飽和蒸気圧力よりも低い圧力までの加圧(言い換えれば滅菌温度よりも低い温度までの加熱)で止める場合、当然に被滅菌物は滅菌温度まで昇温されず、滅菌工程への移行時の凝縮水量が多くなる。つまり、滅菌工程への移行時、滅菌温度未満の被滅菌物を滅菌温度まで昇温する必要があるので、滅菌槽内を滅菌温度の飽和蒸気圧力まで昇圧した際に、被滅菌物への蒸気の凝縮が多くなる。仮に、滅菌工程前の空気排除工程において、滅菌槽内に蒸気を供給して滅菌温度の飽和蒸気圧力まで加圧するにしても、加圧後すぐに蒸気排出するのでは、やはり被滅菌物を十分に昇温することができず、その後の滅菌工程への移行時の凝縮水量が多くなる。
【0007】
特に、被滅菌物が内腔(中空部)を有する器材の場合、内腔内に凝縮水が発生すると、その凝縮水が内腔表面を覆い、凝縮水の昇温に熱が奪われることで、被滅菌物の昇温が遅れ、その後の滅菌に悪影響を与えるおそれがある。また、樹脂容器や滅菌コンテナ等にセットされた重量物の被滅菌物においては、容器表面に多量の凝縮水が生じるため、長時間の乾燥運転が必要となったり、乾燥工程を行っても水滴が残ったりするおそれもある。
【0008】
このように、従来は、滅菌槽内からの空気排除をいかに短時間で行うかを主目的にしており、空気排除工程の終了時の被滅菌物の温度と、滅菌工程での滅菌温度との温度差に着目して、空気排除工程から滅菌工程への移行時の凝縮水量の低減については、考慮されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明が解決しようとする課題は、滅菌工程前の空気排除工程において、滅菌槽内からの空気排除を効率的に図ると共に、被滅菌物の昇温を確実に図り、滅菌工程への移行時の凝縮水量を抑えることのできる蒸気滅菌装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、前記課題を解決するためになされたもので、請求項1に記載の発明は、被滅菌物が収容される滅菌槽と、この滅菌槽内の気体を外部へ吸引排出して前記滅菌槽内を減圧する減圧手段と、前記滅菌槽内へ蒸気を供給する給蒸手段と、前記滅菌槽内の気体を外部へ排出する排気手段と、前記各手段を制御する制御手段とを備え、前記制御手段は、滅菌工程前の空気排除工程において、(a)前記滅菌槽内を減圧後に前記滅菌槽内に蒸気を供給して復圧する減復圧操作と、(b)前記滅菌槽内に蒸気を供給して前記滅菌槽内を設定圧力で設定保持時間保持した後、前記滅菌槽内から蒸気を排出する昇温保持操作と、を順に含んで実行し、前記設定圧力は、滅菌工程での滅菌温度の飽和蒸気圧力以上で設定されることを特徴とする蒸気滅菌装置である。
【0012】
請求項1に記載の発明によれば、滅菌工程前の空気排除工程において、減復圧操作と昇温保持操作とを順に含んで実行する。減復圧操作では、滅菌槽内を減圧後に、滅菌槽内に蒸気を供給する。滅菌槽内を減圧することで、滅菌槽内からの空気排除を図ることができ、その後、滅菌槽内に蒸気を供給することで、被滅菌物の加熱を図ることができる。減圧下の滅菌槽内に蒸気を供給することで、100℃未満の蒸気により被滅菌物を加熱することができ、被滅菌物との温度差(ひいては凝縮水の発生)を抑えて、被滅菌物の昇温を図ることができる。また、減復圧操作において、滅菌槽内からの空気排除を図っておくことで、その後の昇温保持操作において、滅菌槽内の蒸気温度を所望に高めることができる。昇温保持操作では、滅菌槽内に蒸気を供給して滅菌槽内を設定圧力で設定保持時間保持した後、滅菌槽内から蒸気を排出する。この昇温保持操作での設定圧力は、滅菌工程での滅菌温度の飽和蒸気圧力以上で設定される。昇温保持操作により、被滅菌物の温度を滅菌温度付近またはそれ以上まで高めて、空気排除工程から滅菌工程への移行時の凝縮水の発生を抑えることができる。
【0013】
請求項2に記載の発明は、前記減復圧操作後で前記昇温保持操作前、補助昇温操作を実行し、この補助昇温操作では、前記滅菌槽内に蒸気を供給して前記滅菌槽内を所定圧力まで昇圧し、その後、前記滅菌槽内から蒸気を排出することを特徴とする請求項1に記載の蒸気滅菌装置である。
【0014】
請求項2に記載の発明によれば、減復圧操作後で昇温保持操作前、補助昇温操作を実行する。補助昇温操作では、滅菌槽内に蒸気を供給して滅菌槽内を所定圧力まで昇圧後、滅菌槽内から蒸気を排出する。被滅菌物の温度が比較的低い段階では、補助昇温操作にて所定圧力まで昇圧して排蒸することで、昇圧時に生じた蒸気の凝縮水は、排蒸時に自己蒸発(減圧に伴い気化)するため、被滅菌物(特に内腔内)から凝縮水を除去して、被滅菌物を効率よく昇温することができる。そして、その後の昇温保持操作にて、滅菌温度の飽和蒸気圧力以上に設定保持時間保持することで、被滅菌物の温度を滅菌温度付近またはそれ以上まで高めて、滅菌工程への移行時の凝縮水の発生を抑えることができる。
【0015】
請求項3に記載の発明は、前記補助昇温操作の所定圧力は、前記昇温保持操作の設定圧力とされることを特徴とする請求項2に記載の蒸気滅菌装置である。
【0016】
請求項3に記載の発明によれば、補助昇温操作での所定圧力は、その後の昇温保持操作での設定圧力とされる。つまり、補助昇温操作の所定圧力は、昇温保持操作の設定圧力と同様に、滅菌工程での滅菌温度の飽和蒸気圧力以上で設定される。被滅菌物の温度が比較的低い段階では、補助昇温操作にて設定圧力(所定圧力)まで昇圧して排蒸することで、昇圧時に生じた蒸気の凝縮水は、排蒸時に自己蒸発(減圧に伴い気化)するため、被滅菌物(特に内腔内)から凝縮水を除去して、被滅菌物を効率よく昇温することができる。そして、その後の昇温保持操作にて、滅菌温度の飽和蒸気圧力以上に設定保持時間保持することで、被滅菌物の温度を滅菌温度付近またはそれ以上まで高めて、滅菌工程への移行時の凝縮水の発生を抑えることができる。
【0017】
請求項4に記載の発明は、前記昇温保持操作を複数回実行し、先に実行される昇温保持操作の設定保持時間は、後に実行される昇温保持操作の設定保持時間よりも短く設定されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の蒸気滅菌装置である。
【0018】
請求項4に記載の発明によれば、昇温保持操作を複数回実行するが、先に実行される昇温保持操作の設定保持時間は、後に実行される昇温保持操作の設定保持時間よりも短く設定される。被滅菌物の温度が比較的低い段階では、昇温保持操作における設定圧力での保持を比較的短時間とすることで、凝縮水が発生しても排蒸時に自己蒸発させて、効率よく昇温を図ることができる。被滅菌物の昇温が進むと昇温保持操作における保持時間を延ばすことで、被滅菌物の温度を滅菌温度付近またはそれ以上まで高めて、滅菌工程への移行時の凝縮水の発生を抑えることができる。
【0019】
さらに、請求項5に記載の発明は、前記設定圧力は、滅菌工程での滅菌温度の飽和蒸気圧力と同一圧力で設定されることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の蒸気滅菌装置である。
【0020】
請求項5に記載の発明によれば、滅菌工程での滅菌温度の飽和蒸気圧力と同一圧力とすることで、空気排除工程(昇温保持操作や補助昇温操作)にて無駄に被滅菌物を加熱することが防止される。また、被滅菌物が滅菌温度や滅菌圧力に耐えるのであれば、それ以上に耐熱性や耐圧性を考慮する必要もなくなる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の蒸気滅菌装置によれば、滅菌工程前の空気排除工程において、滅菌槽内からの空気排除を効率的に図ると共に、被滅菌物の昇温を確実に図り、滅菌工程への移行時の凝縮水量を抑えることができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の具体的実施例を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施例の蒸気滅菌装置1を示す概略図であり、一部を断面にして示している。
【0024】
本実施例の蒸気滅菌装置1は、被滅菌物が収容される滅菌槽2と、この滅菌槽2内の気体を外部へ吸引排出して滅菌槽2内を減圧する減圧手段3と、減圧された滅菌槽2内へ外気を導入して滅菌槽2内を復圧する復圧手段4と、滅菌槽2内へ蒸気を供給する給蒸手段5と、滅菌槽2内から蒸気の凝縮水を排出するドレン排出手段6と、大気圧との差圧により滅菌槽2内の気体を外部へ排出する排気手段7と、前記各手段3〜7を制御する制御手段(図示省略)とを備える。
【0025】
被滅菌物は、特に問わないが、典型的には医療器具である。被滅菌物は、所望により、滅菌バッグ、不織布または滅菌コンテナなどに収容されている。被滅菌物は、滅菌槽2内の棚に載せられるか、台車に載せられて台車ごと滅菌槽2内に収容される。
【0026】
滅菌槽2は、内部空間の減圧および加圧に耐える中空容器であり、典型的には略矩形の箱状に形成される。滅菌槽2は、ドアで開閉可能とされる。ドアは、滅菌槽2の正面に設けられるが、滅菌槽2の正面および背面の双方に設けられてもよい。ドアを閉じることで、滅菌槽2の開口部を気密に閉じることができる。
【0027】
滅菌槽2内を外側から温めるために、本実施例では、滅菌槽2の外壁に蒸気ジャケット8が設けられる。具体的には、蒸気滅菌装置1は、内缶9と外缶10とを備え、内缶9にて滅菌槽2が構成され、内缶9と外缶10との隙間が蒸気ジャケット8とされる。蒸気ジャケット8には、ジャケット給蒸路(図示省略)を介して蒸気が供給され、その蒸気の凝縮水は、ジャケットドレン排出路(図示省略)を介して外部へ排出される。
【0028】
減圧手段3は、真空排気路11を介して、滅菌槽2内の気体を外部へ吸引排出する。滅菌槽2内からの真空排気路11には、真空弁12、水封式の真空ポンプ13および逆止弁14が順に設けられる。さらに、真空排気路11には、真空弁12と真空ポンプ13との間に、蒸気凝縮用の熱交換器が設けられてもよい。なお、図示しないが、水封式の真空ポンプ13には、封水給水弁を介して水が供給され、この封水給水弁は、真空ポンプ13の発停と連動して開閉される。真空弁12を開放すると共に真空ポンプ13を作動させることで、滅菌槽2内の気体を外部へ吸引排出して、滅菌槽2内を減圧することができる。
【0029】
復圧手段4は、減圧下の滅菌槽2内に、給気路15を介して外気を導入する。滅菌槽2内への給気路15には、エアフィルタ16、給気弁17および逆止弁18が順に設けられる。滅菌槽2内が減圧された状態で給気弁17を開放すると、差圧により外気を滅菌槽2内へ導入して、滅菌槽2内を復圧することができる。
【0030】
給蒸手段5は、給蒸路19を介して、滅菌槽2内へ蒸気を供給する。滅菌槽2内への給蒸路19には、給蒸弁20が設けられる。給蒸弁20を開放することで、蒸気供給源(図示省略)からの蒸気(本実施例では飽和蒸気)を滅菌槽2内へ供給することができる。給蒸弁20の開閉または開度を調整して、滅菌槽2内への蒸気供給の有無または量を変更することができる。
【0031】
ドレン排出手段6は、ドレン排出路21を介して、滅菌槽2内から蒸気の凝縮水を排出する。滅菌槽2内からのドレン排出路21には、スチームトラップ22および逆止弁23が順に設けられる。給蒸手段5により滅菌槽2内へ蒸気を供給中、蒸気の凝縮水はドレン排出手段6により滅菌槽2外へ排出される。
【0032】
排気手段7は、加圧下の滅菌槽2内から、排気路24を介して気体を導出する。滅菌槽2内からの排気路24には、排気弁25および逆止弁26が順に設けられる。滅菌槽2内が加圧された状態で排気弁25を開放すると、差圧により滅菌槽2内の気体を外部へ導出して、滅菌槽2内の圧力を下げることができる。なお、図示例では、排気路24は、上流側(滅菌槽2側)において、ドレン排出路21と共通管路とされている。
【0033】
滅菌槽2には、滅菌槽2内の圧力を検出する圧力センサ27と、滅菌槽2内の温度を検出する温度センサ28とが設けられる。圧力センサ27の設置位置は、特に問わないが、たとえば図示例のように、滅菌槽2の上方側部に設けられる。一方、温度センサ28は、滅菌に関する各種の規格に沿って、所定の位置に設けられる。図示例では、前記共通管路(ドレン排出路21と排気路24との共通管路)の内、滅菌槽2からの出口部に設けられる。
【0034】
制御手段は、前記各センサ27,28の検出信号や経過時間などに基づき、前記各手段3〜7を制御する制御器(図示省略)である。具体的には、真空弁12、真空ポンプ13、給気弁17、給蒸弁20、排気弁25の他、圧力センサ27および温度センサ28などは、制御器に接続される。そして、制御器は、以下に述べるように、所定の手順(プログラム)に従い、滅菌槽2内の被滅菌物の滅菌を図る。
【0035】
以下、本実施例の蒸気滅菌装置1の運転方法の具体例について説明する。
図2は、本実施例の蒸気滅菌装置1の運転方法の一例を示す図であり、滅菌槽2内の圧力Pと経過時間tとの関係を示している。なお、
図2において、圧力P0は大気圧を示している。また、以下の説明において、滅菌槽2内の圧力は、圧力センサ27により検出でき、滅菌槽2内の温度は、温度センサ28により検出できる。
【0036】
蒸気滅菌装置1は、典型的には、予熱工程(不図示)を実行した後、空気排除工程(前処理工程)S1、滅菌工程S2、排気工程S3および乾燥工程S4を順次に実行する。以下、各工程について説明する。なお、初期状態において、給気弁17および排気弁25は開けられている一方、これら以外の各弁12,20は閉じられており、真空ポンプ13は停止している。そして、予熱工程中またはその前後には、滅菌槽2内に被滅菌物が収容され、滅菌槽2のドアは気密に閉じられる。その際、給気弁17および排気弁25も閉じられる。
【0037】
予熱工程では、滅菌槽2内を加熱する。具体的には、蒸気ジャケット8内に蒸気を供給し、蒸気ジャケット8内を所定圧力(ジャケット用所定圧力)に維持することで、滅菌槽2内を所定温度に加熱して維持する。予熱工程の開始から所定時間経過後、空気排除工程S1を開始するが、予熱工程の内容は、少なくとも滅菌工程S2の終了まで、継続して実施される。
【0038】
空気排除工程S1では、滅菌槽2内から空気を排除すると共に、滅菌槽2内の被滅菌物を加熱する。この際、後述の減復圧操作S12と昇温保持操作S14とを順に含んで実行する。
図2の例では、パージ操作S11、減復圧操作S12、補助昇温操作S13、昇温保持操作S14および最終給蒸操作S15を順に実行する。
【0039】
パージ操作S11では、排気弁25を開けた状態で給蒸弁20を開けて、滅菌槽2内に蒸気を流通させる。給蒸路19からの蒸気は、滅菌槽2内に供給され、滅菌槽2内の気体(空気および蒸気)は、排気路24から排出される。排気弁25を開けておくことで、滅菌槽2内を実質的に加圧することなく、滅菌槽2内に蒸気を流通させて、被滅菌物の昇温と滅菌槽2内からの空気排除とを図ることができる。パージ操作S11の開始から所定時間経過後、給蒸弁20および排気弁25を閉じて、パージ操作S11を終了する。
【0040】
減復圧操作S12では、減圧手段3により滅菌槽2内を減圧(S12a)後、給蒸手段5により滅菌槽2内に蒸気を供給して所定圧(典型的には大気圧P0またはそれよりもやや低い圧力)まで復圧する(S12b)。具体的には、まずは、給蒸弁20を閉じた状態で、真空弁12を開けると共に真空ポンプ13を作動させて、滅菌槽2内を減圧目標圧力P1(たとえば−90kPa)まで減圧する(S12a)。滅菌槽2内が減圧目標圧力P1になると、真空弁12を閉じると共に真空ポンプ13を停止する。そして、給蒸弁20を開けて滅菌槽2内に蒸気を供給し、滅菌槽2内を復圧目標圧力P2まで復圧する(S12b)。復圧目標圧力P2は、大気圧P0でもよいが、本実施例では大気圧P0よりも少し低い圧力(たとえば−10kPa)とされる。このような減復圧操作S12は、繰り返して複数回行ってもよく、図示例では二回行っている。
【0041】
減復圧操作S12では、滅菌槽2内を減圧することで、滅菌槽2内からの空気排除を図ることができ、その後、滅菌槽2内に蒸気を供給することで、被滅菌物の加熱を図ることができる。滅菌槽2内を減圧することで、それ以前に生じていた凝縮水(たとえばパージ操作S11で生じた凝縮水)の気化を図ることができる。また、減圧下の滅菌槽2内に蒸気を供給することで、100℃未満の蒸気により被滅菌物を加熱することができ、被滅菌物との温度差(ひいては凝縮水の発生)を抑えて、被滅菌物の昇温を図ることができる。また、減復圧操作S12により滅菌槽2内からの空気排除を図ることで、その後の各種操作(特に昇温保持操作S14)では、滅菌槽2内を飽和蒸気環境下として、被滅菌物を所望温度(滅菌槽内圧力に応じた飽和蒸気温度)で加熱することができる。減復圧操作S12を繰り返し行う場合、滅菌槽2内に蒸気を供給して加圧する際に生じた凝縮水は、滅菌槽2内を再減圧する際に気化させることができ、凝縮水の残留を防止することができる。
【0042】
補助昇温操作S13では、給蒸手段5により滅菌槽2内に蒸気を供給して滅菌槽2内を所定圧力まで昇圧し(S13a)、その後、排気手段7により滅菌槽2内から蒸気を排出して滅菌槽内を減圧(大気圧P0またはそれよりも高い圧力まで除圧)する(S13b)。補助昇温操作S13の所定圧力は、大気圧を超える圧力であれば特に問わないが、典型的には、昇温保持操作S14の設定圧力PHと同じかそれ未満で設定される。図示例では、補助昇温操作S13の所定圧力は、昇温保持操作S14の設定圧力PHと同一圧力として設定される。つまり、昇温保持操作S14の設定圧力PHと同様に、滅菌工程S2での滅菌温度の飽和蒸気圧力で設定される。
【0043】
補助昇温操作S13について具体的に説明すると、まず、給蒸弁20を開けた状態(直前の減復圧操作S12の復圧S12bから継続して給蒸弁20を開けたまま)で、滅菌槽2内に蒸気を供給して、大気圧P0を超える所定圧力(ここでは設定圧力PH)まで滅菌槽2内を昇圧(S13a)後、給蒸弁20を閉じると共に排気弁25を開けて、滅菌槽2内から蒸気を排出する(S13b)。この際、好ましくは、滅菌槽2内の圧力が所定圧力に到達次第(つまり所定圧力まで昇圧後すぐに)、給蒸弁20を閉じる一方、排気弁25を開けて、滅菌槽2内から蒸気を排出するがよい。排気弁25を開けて、滅菌槽2内が規定圧力(図示例では後述の排気目標圧力PL)になると、排気弁25を閉じる。
【0044】
補助昇温操作S13における被滅菌物の温度は、当然ながら、その後に行われる昇温保持操作S14における被滅菌物の温度よりも低い。そのため、仮に両操作とも同一の設定圧力PHまで昇圧しても、補助昇温操作S13での給蒸時に生じる凝縮水量は、昇温保持操作S14での給蒸時に生じる凝縮水量よりも多くなる。そこで、本実施例では、被滅菌物の温度が比較的低い段階では、補助昇温操作S13にて設定圧力PHまで昇圧しても、すぐに排蒸することとした。これにより、昇圧時に生じた蒸気の凝縮水は、排蒸時に自己蒸発(減圧に伴い気化)するため、被滅菌物(特に内腔内)から凝縮水を除去することができ、その後の昇温保持操作S14により被滅菌物を効率よく昇温することができる。補助昇温操作S13の所定圧力が昇温保持操作S14の設定圧力と異なる場合でも、同様に、補助昇温操作S13にて所定圧力まで昇圧後にすぐに排蒸することで、凝縮水を除去して、その後の昇温保持操作S14により被滅菌物を効率よく昇温することができる。なお、補助昇温操作S13は、場合により、繰り返して複数回行ってもよい。
【0045】
昇温保持操作S14では、給蒸手段5により滅菌槽2内に蒸気を供給して滅菌槽2内を設定圧力PHまで昇圧し(S14a)、設定圧力PHで設定保持時間保持(S14b)した後、排気手段7により滅菌槽2内から蒸気を排出して滅菌槽2内を減圧(大気圧P0またはそれよりも高い圧力まで除圧)する(S14c)。具体的には、給蒸弁20を開けて滅菌槽2内に蒸気を供給して、滅菌槽2内を設定圧力PHまで昇圧(S14a)後、その設定圧力PHを設定保持時間保持する(S14b)。設定圧力PHにおける保持は、圧力センサ27の検出圧力に基づき、給蒸弁20の開閉を切り替えるか、給蒸弁20の開度を調整して行われる。設定圧力PHで設定保持時間保持した後、給蒸弁20を閉じる一方、排気弁25を開けて、滅菌槽2内から蒸気を排出する(S14c)。ここでは、滅菌槽2内が排気目標圧力PLに下がるまで、減圧する。排気目標圧力PLは、大気圧P0でもよいが、本実施例では大気圧P0よりも少し高い圧力(たとえば+20kPa)とされる。
【0046】
設定圧力PHは、本実施例では、滅菌工程S2での滅菌温度の飽和蒸気圧力で設定される。設定保持時間は、被滅菌物を滅菌温度付近(典型的には滅菌温度またはそれよりも所定温度低い温度)まで昇温可能な時間であり、滅菌工程S2での滅菌保持時間よりも短い時間で設定される。被滅菌物の種類や量などにもよるが、たとえば2〜3分程度に設定される。滅菌温度相当の飽和蒸気圧力で設定保持時間保持することで、被滅菌物を滅菌温度付近まで昇温することができる。そのため、滅菌工程S2への移行時の凝縮水の発生を抑えることができる。
【0047】
このような昇温保持操作S14は、繰り返して複数回行ってもよい。つまり、設定圧力PHまでの給蒸S14a、設定圧力PHでの設定保持時間の保持S14b、排気目標圧力PLまでの排蒸S14c、のセットを、複数回行ってもよい。この場合において、先に実行される昇温保持操作S14の設定保持時間は、後に実行される昇温保持操作S14の設定保持時間よりも短く設定されるのが好ましい。たとえば、昇温保持操作S14を二回繰り返す場合、第一回目の昇温保持操作S14の設定保持時間は、第二回目の昇温保持操作S14の設定保持時間よりも短く設定されるのがよい。そして、第一回目の設定保持時間を最短とした場合(つまり設定圧力PHまで昇圧後直ちに排蒸する場合)、その昇温保持操作S14は前述した補助昇温操作S13と同様の内容となる。
【0048】
補助昇温操作S13と昇温保持操作S14との関係と同様に、被滅菌物の温度が比較的低い段階では、昇温保持操作S14における設定圧力PHでの保持を比較的短時間とすることで、凝縮水が発生しても排蒸時に自己蒸発させて、効率よく昇温を図ることができる。被滅菌物の昇温が進むと昇温保持操作S14における保持時間を延ばすことで、被滅菌物の温度を滅菌温度付近まで高めて、滅菌工程S2への移行時の凝縮水の発生を抑えることができる。
【0049】
いずれにしても、空気排除工程S1では、最終的には、給蒸手段5による最終給蒸操作S15で、滅菌槽2内を滅菌温度および/または滅菌圧力(設定圧力PH)まで加圧する。そして、温度センサ28の検出温度が滅菌温度になるか、および/または、圧力センサ27の検出圧力が滅菌圧力になると、次工程へ移行する。
【0050】
滅菌工程S2では、滅菌槽2内の被滅菌物を蒸気で滅菌する。具体的には、温度センサ28の検出温度が滅菌温度(典型的には121℃または135℃)を維持するように、および/または、圧力センサ27の検出圧力が滅菌圧力(滅菌温度相当の飽和蒸気圧力)を維持するように、給蒸手段5を制御して、滅菌時間保持することで、滅菌槽2内の被滅菌物を滅菌する。その後、給蒸手段5による給蒸を停止して、次工程へ移行する。
【0051】
排気工程S3では、加圧下の滅菌槽2内から蒸気を排出して、滅菌槽2内の圧力を大気圧P0付近まで下げる。具体的には、排気弁25を開放して、滅菌槽2外へ蒸気を導出する。排気弁25の開放から設定排気時間経過するか、滅菌槽2内の圧力が設定排気圧力(大気圧P0またはそれよりも若干高い圧力)まで下がると、排気弁25を閉鎖して、次工程へ移行する。
【0052】
乾燥工程S4では、滅菌槽2内の被滅菌物を乾燥させる。典型的には、減圧手段3により滅菌槽2内を減圧して保持することで、被滅菌物を真空乾燥させる。あるいは、減圧手段3による減圧と、復圧手段4による復圧とを繰り返して、被滅菌物を真空乾燥させてもよい。
【0053】
本実施例の蒸気滅菌装置1によれば、滅菌工程S2前の空気排除工程S1において、減復圧操作S12や昇温保持操作S14などにより、滅菌槽2内からの空気排除を効率的に図ることができると共に、被滅菌物を滅菌温度またはその前後まで昇温することができる。滅菌工程S2前の空気排除工程S1において、滅菌温度付近にまで被滅菌物を昇温させておくことで、滅菌工程S2への移行時の凝縮水量を抑えることができる。
【0054】
特に、被滅菌物が内腔(中空部)を有する器材(たとえば合成樹脂製のパイプ状のもの)であっても、内腔内に生じた凝縮水は、空気排除工程S1の各操作の排蒸時に自己蒸発するため、内腔表面を昇温遅れなく滅菌温度まで昇温させることができる。また、被滅菌物が樹脂容器や滅菌コンテナ等にセットされた重量物であっても、滅菌工程S2への移行時に生じる凝縮水量を低減できるため、滅菌工程S2後の乾燥時間の低減が可能となる。
【0055】
本発明の蒸気滅菌装置1は、前記実施例の構成に限らず適宜変更可能である。特に、滅菌工程S2前の空気排除工程S1において、(a)滅菌槽2内を減圧後に滅菌槽2内に蒸気を供給して復圧する減復圧操作S12と、(b)滅菌槽2内に蒸気を供給して滅菌槽2内を設定圧力PHで設定保持時間保持した後、滅菌槽2内から蒸気を排出する昇温保持操作S14と、を順に含んで実行し、(c)前記設定圧力PHは、滅菌工程S2での滅菌温度の飽和蒸気圧力以上で設定されるのであれば、その他の構成は適宜に変更可能である。
【0056】
たとえば、前記実施例では、補助昇温操作S13や昇温保持操作S14の設定圧力PHは、滅菌工程S2での滅菌温度の飽和蒸気圧力と同一圧力で設定したが、被滅菌物の耐熱耐圧性が許せば、滅菌温度の飽和蒸気圧力を超える圧力で設定してもよい。
【0057】
また、前記実施例では、補助昇温操作S13の所定圧力は、昇温保持操作S14の設定圧力と同一圧力で設定したが、任意の圧力とすることができる。具体的には、滅菌工程S2での滅菌温度の飽和蒸気圧力以上の圧力と同一の圧力とする以外に、当該圧力を超える圧力、または当該圧力未満の圧力としてもよい。
【0058】
また、前記実施例では、空気排除工程S1において、パージ操作S11、減復圧操作S12、補助昇温操作S13および昇温保持操作S14などを順に実行したが、減復圧操作S12と昇温保持操作S14とを順に含むのであれば、その他は適宜に変更可能である。たとえば、パージ操作S11および/または補助昇温操作S13は、省略可能である。また、減復圧操作S12、補助昇温操作S13、昇温保持操作S14の各実行回数も、適宜増減可能である。
【0059】
さらに、前記実施例では、滅菌槽2内を外側から加熱するために、蒸気ジャケット8を用いたが、蒸気ジャケット8に代えて、滅菌槽2内の外側に伝熱管(たとえば蛇行させた蒸気管)を設置してもよい。あるいは、滅菌槽2の外壁に電気ヒータを設けて、滅菌槽2内の加熱を図ってもよい。