【解決手段】溶接ワイヤの送給速度Fwを切換周期Tcで揺動させる送給制御部と、パルス波形の溶接電流Iw及び溶接電圧Vwを出力し、出力を切換周期Tcで揺動幅だけ揺動させる出力制御部と、を備えたパルスアーク溶接装置において、切換周期Tcの1以上の整数倍に設定された補正周期Thごとの溶接電流Iwの平均値を検出する平均電流検出部をさらに備え、上記の送給制御部は、溶接電流Iwの平均値に基づいて送給速度Fwを補正する。さらに、上記の出力制御部は、送給速度Fwの補正に同期して出力の揺動幅を変化させる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0011】
[実施の形態1]
図1は、本発明の実施の形態1に係るパルスアーク溶接装置のブロック図である。以下、同図を参照して各ブロックについて説明する。
【0012】
電源主回路PMは、3相200V等の商用電源(図示は省略)を入力として、後述する電流誤差増幅信号Eiに従ってインバータ制御等の出力制御を行い、溶接電圧Vw及び溶接電流Iwを出力する。この電源主回路PMは、図示は省略するが、商用電源を整流する1次整流回路と、整流された直流を平滑するコンデンサと、平滑された直流を高周波交流に変換するインバータ回路と、高周波交流をアーク溶接に適した電圧値に降圧するインバータトランスと、降圧された高周波交流を整流する2次整流回路と、整流された直流を平滑するリアクトルと、上記の電流誤差増幅信号Eiに従ってPWM変調制御を行ないその結果に基づいてインバータ回路を駆動する駆動回路と、を備えている。
【0013】
溶接ワイヤ1は、送給モータWMに結合された送給ロール5の回転によって溶接トーチ4内を通って送給され、母材2との間にアーク3が発生する。溶接トーチ4内の給電チップ(図示は省略)と母材2との間には溶接電圧Vwが印加され、溶接電流Iwが通電する。
【0014】
電圧検出回路VDは、溶接電圧Vwを検出して、電圧検出信号Vdを出力する。電圧平均値算出回路VAVは、この電圧検出信号Vdの平均値を算出して、電圧平均値信号Vavを出力する。
【0015】
切換信号生成回路STCは、予め定めた低パルス期間LT中はLowレベルになり、予め定めた高パルス期間HT中はHighレベルになる切換信号Stcを出力する。
【0016】
補正周期生成回路STHは、上記の切換信号Stcを入力として、切換信号Stcの1以上の整数倍の補正周期ごとに短時間Highレベルとなる補正周期信号Sthを出力する。
【0017】
電圧設定回路VRは、上記の切換信号Stc、上記の補正周期信号Sth及び後述する平均電流誤差増幅信号Eiaを入力として、
補正周期信号Sthが短時間Highレベルとなるごとに、予め定めた低電圧初期値に平均電流誤差増幅信号Eiaを累積加算して低電圧設定値LVrを算出し、予め定めた高電圧初期値に平均電流誤差増幅信号Eiaを累積加算して高電圧設定値HVrを算出し、
切換信号StcがLowレベル(低パルス期間)のときは低電圧設定値LVrを電圧設定信号Vrとして出力し、切換信号StcがHighレベル(高パルス期間)のときは高電圧設定値HVrを電圧設定信号Vrとして出力する。
【0018】
電圧誤差増幅回路EVは、上記の電圧設定信号Vrと電圧平均値信号Vavとの誤差を増幅して、電圧誤差増幅信号Evを出力する。電圧/周波数変換回路VFは、この電圧誤差増幅信号Evの値に応じた周波数を有するパルス周期信号Tfを出力する。このパルス周期信号Tfは、パルス周期ごとに短時間だけHighレベルになるトリガ信号である。
【0019】
ピーク期間設定回路TPRは、上記の切換信号StcがLowレベル(低パルス期間)のときは予め定めた低ピーク期間設定値LTprをピーク期間設定信号Tprとして出力し、Highレベル(高パルス期間)のときは予め定めた高ピーク期間設定値HTprをピーク期間設定信号Tprとして出力する。
【0020】
ピーク期間タイマ回路TPは、上記のパルス周期信号TfがHighレベルになると上記のピーク期間設定信号Tprの値によって定まる期間だけHighレベルになるピーク期間信号Tpを出力する。このピーク期間信号TpがHighレベルのときがピーク期間となり、Lowレベルのときがベース期間となる。
【0021】
ベース電流設定回路IBRは、予め定めたベース電流設定信号Ibrを出力する。
【0022】
ピーク電流設定回路IPRは、上記の切換信号StcがLowレベル(低パルス期間)のときは予め定めた低ピーク電流設定値LIprをピーク電流設定信号Iprとして出力し、Highレベル(高パルス期間)のときは予め定めた高ピーク電流設定値HIprをピーク電流設定信号Iprとして出力する。
【0023】
電流設定制御回路IRCは、上記のピーク期間信号TpがLowレベルのときは上記のベース電流設定信号Ibrを電流設定制御信号Ircとして出力し、Highレベルのときは上記のピーク電流設定信号Iprを電流設定制御信号Ircとして出力する。
【0024】
電流検出回路IDは、溶接電流Iwを検出して、電流検出信号Idを出力する。電流誤差増幅回路EIは、上記の電流設定制御信号Ircと電流検出信号Idとの誤差を増幅して、電流誤差増幅信号Eiを出力する。この電流誤差増幅信号Eiに従って電源主回路PMの出力制御が行われることによって、低パルス電流群及び高パルス電流群が通電する。主回路PMは、溶接電圧Vwの平均値が電圧設定信号Vrの値と等しくなるようにパルス周期が変化して出力制御されるので、定電圧特性の電源となる。
【0025】
平均電流設定回路IARは、予め定めた平均電流設定信号Iarを出力する。
【0026】
平均電流検出回路IADは、上記の電流検出信号Id及び上記の補正周期信号Sthを入力として、補正周期信号Sthが短時間Highレベルとなる補正周期ごとの電流検出信号Idの平均値を検出して、平均電流検出信号Iadを出力する。
【0027】
平均電流誤差増幅回路EIAは、上記の平均電流検出信号Iad、上記の平均電流設定信号Iar及び上記の補正周期信号Sthを入力として、補正周期信号Sthが短時間Highレベルとなる補正周期ごとに両値の誤差を増幅して平均電流誤差増幅信号Eiaを出力する。
【0028】
送給速度設定回路FRは、上記の切換信号Stc、上記の補正周期信号Sth及び上記の平均電流誤差増幅信号Eiaを入力として、
補正周期信号Sthが短時間Highレベルとなるごとに、予め定めた低送給速度初期値に平均電流誤差増幅信号Eiaを累積加算して低送給速度設定値LFrを算出し、予め定めた高送給速度初期値に平均電流誤差増幅信号Eiaを累積加算して高送給速度設定値HFrを算出し、
切換信号StcがLowレベル(低パルス期間)のときは低送給速度設定値LFrを送給速度設定信号Frとして出力し、切換信号StcがHighレベル(高パルス期間)のときは高送給速度設定値HFrを送給速度設定信号Frとして出力する。
【0029】
送給制御回路FCは、上記の送給速度設定信号Frを入力として、溶接ワイヤ1を送給速度設定信号Frの値で送給するための送給制御信号Fcを上記の送給モータWMに出力する。
【0030】
図2は、
図1のパルスアーク溶接装置における各信号のタイミングチャートである。同図(A)は送給速度Fwの時間変化を示し、同図(B)は補正周期信号Sthの時間変化を示し、同図(C)は切換信号Stcの時間変化を示し、同図(D)は電圧設定信号Vrの時間変化を示し、同図(E)は溶接電流Iwの時間変化を示し、同図(F)は溶接電圧Vwの時間変化を示し、同図(G)はアーク長Laの時間変化を示す。同図は、溶接中のタイミングチャートである。以下、同図を参照して各信号の動作について説明する。
【0031】
上述したように、同図(B)に示す補正周期信号Sthが短時間Highレベルとなる補正周期Thは、同図(C)に示す切換信号Stcの切換周期Tcの1以上の整数倍に設定される。同図では、整数=1の場合を表示しているので、補正周期Th=切換周期Tcとなっている。
【0032】
(1)時刻t1〜t3の第n回目の補正周期Thの動作(nは1以上の整数)
時刻t1において、同図(B)に示すように、補正周期信号Sthは短時間Highレベルとなる。同時に、同図(C)に示すように、切換信号Stcは、時刻t1〜t2の予め定めた高パルス期間HT中はHighレベルとなり、時刻t2〜t3の予め定めた低パルス期間LT中はLowレベルとなる。この高パルス期間HTと低パルス期間LTとを合わせた期間が、切換周期Tcとなる。切換周波数=1/Tcである。切換周波数の設定範囲は0.5〜25Hz程度であるので、切換周期Tcの設定範囲は0.04〜2秒程度である。
【0033】
(11)時刻t1〜t2の高パルス期間HT中の動作
高パルス期間HT中は、同図(E)に示すように、高ピーク期間HTp中の高ピーク電流HIp及び高ベース期間HTb中のベース電流Ibから成る高パルス電流群が通電する。この高ピーク期間HTpと高ベース期間HTbとを合わせて高パルス周期HTfになる。高ピーク期間HTpは
図1の高ピーク期間設定値HTprによって定まり、高ピーク電流HIpは
図1の高ピーク電流設定値HIprによって定まり、高パルス周期HTfは
図1のパルス周期信号Tfによって定まる。そして、この高パルス電流群の通電に対応して、同図(F)に示すように、高ピーク期間HTp中は高ピーク電圧HVpが溶接ワイヤ・母材間に印加し、高ベース期間HTb中は高ベース電圧HVbが印加する。同図では、高パルス期間HT中に高パルス周期HTfが2周期含まれる場合を表示しているが、実際には2〜100周期程度が含まれる。例えば、高ピーク期間HTp=2.0ms、高ピーク電流HIp=550A、ベース電流Ib=50Aに設定される。
【0034】
(12)時刻t2〜t3の低パルス期間LT中の動作
低パルス期間LT中は、同図(E)に示すように、低ピーク期間LTp中の低ピーク電流LIp及び低ベース期間LTb中のベース電流Ibから成る低パルス電流群が通電する。この低ピーク期間LTpと低ベース期間LTbとを合わせて低パルス周期LTfになる。低ピーク期間LTpは
図1の低ピーク期間設定値LTprによって定まり、低ピーク電流LIpは
図1の低ピーク電流設定値LIprによって定まり、低パルス周期LTfは
図1のパルス周期信号Tfによって定まる。そして、この低パルス電流群の通電に対応して、同図(F)に示すように、低ピーク期間LTp中は低ピーク電圧LVpが溶接ワイヤ・母材間に印加し、低ベース期間LTb中は低ベース電圧LVbが印加する。同図では、低パルス期間LT中に低パルス周期LTfが2周期含まれる場合を表示しているが、実際には2〜100周期程度が含まれる。例えば、低ピーク期間LTp=1.2ms、低ピーク電流LIp=450Aに設定される。
【0035】
同図(A)に示すように、送給速度Fwは、高パルス期間HT中は
図1の予め定めた高送給速度設定値HFrの値となり、低パルス期間LT中は
図1の予め定めた低送給速度設定値LFrの値となる。 同図(D)に示すように、電圧設定信号Vrは、高パルス期間HT中は
図1の予め定めた高電圧設定値HVrとなり、低パルス期間LT中は
図1の予め定めた低電圧設定値LVrとなる。この電圧設定信号Vrの値によって溶接装置の出力が切換周期Tcで揺動される。アーク長Laは、送給速度Fw、電圧設定信号Vrの値及びパルス波形のパラメータによって定まる。同図(G)に示すように、アーク長Laは、高パルス期間HT中は高送給速度設定値HFr、高電圧設定値HVr、高ピーク期間HTp、高ピーク電流HIpによって定まる高アーク長HLaとなり、低パルス期間LT中は低送給速度設定値LFr、低電圧設定値LVr、低ピーク期間LTp、低ピーク電流LIpによって定まる低アーク長Laとなる。
【0036】
(2)時刻t3〜t5の第m+1回目の補正周期Thの動作
時刻t3において、同図(B)に示すように、補正周期信号Sthは短時間Highレベルとなり、第m+1回目の補正周期Thが開始される。これに応動して、
図1の平均電流検出回路IADによって前補正周期Th中の平均溶接電流値が算出されて平均電流検出信号Iadとして出力される。そして、
図1の平均電流誤差増幅回路EIAによって目標値となる平均電流設定信号Iarと平均電流検出信号Iadとの平均電流誤差増幅信号Eiaが出力される。この平均電流誤差増幅信号Eiaに基づいて、
図1の送給速度設定回路FRによって平均溶接電流値が平均電流設定信号Iarの値と等しくなるように高送給速度設定値HFr及び低送給速度設定値LFrが補正される。同図ではIar>Iadの場合であるので、時刻t3において、同図(A)に示すように、送給速度Fwの高送給速度及び低送給速度が共に加速される。Iar<Iadの場合は、両値は減速される。さらに、この平均電流誤差増幅信号Eiaに基づいて、
図1の電圧設定回路VRによって高電圧設定値HVr及び低電圧設定値LVrが補正されて、溶接装置の出力の揺動幅が補正される。送給速度Fwが加速されたときは揺動幅が大きくなるように補正され、減速されたときは揺動幅が小さくなるように補正される。この結果、時刻t3において、同図(D)に示すように、電圧設定信号Vrの高電圧設定値HVr及び低電圧設定値LVrが補正される。これに伴い、同図(G)に示すように、高アーク長HLa及び低アーク長LLaが適正値へと変化する。
【0037】
時刻t3〜t4の高パルス期間HT及び時刻t4〜t5の低パルス期間LT中の動作は、上記と同様であるので、説明は繰り返さない。
【0038】
補正周期Thには、1周期以上の切換周期Tcが含まれる。補正周期Thの設定範囲は、切換周期Tcの1〜5周期分程度である。
【0039】
上述した実施の形態1によれば、切換周期の1以上の整数倍に設定された補正周期ごとの溶接電流の平均値を検出する平均電流検出部を備え、送給制御部は、溶接電流の平均値に基づいて送給速度を補正する。送給速度の補正を行う補正周期は、アーク長を揺動させる切換周期の1以上の整数倍に設定されるので、平均溶接電流を正確に検出することができる。そして、平均溶接電流値が目標値と等しくなるように送給速度を補正する。これにより、本実施の形態では、給電チップ・母材間距離が溶接中に変化しても、母材への入熱形態を適正状態に補正することができる。このために、本実施の形態では、アーク長を周期的に揺動させて溶接するパルスアーク溶接方法において、給電チップ・母材間距離が変化しても美麗なウロコ状のビード外観を形成することができる。
【0040】
さらに、本実施の形態によれば、出力制御部は、送給速度の補正に同期して出力の揺動幅を変化させることが望ましい。このようにすると、送給速度の補正に対応して電圧設定値等の出力の揺動幅が適正化されるので、母材への入熱形態を適正化することができる。この結果、本実施の形態では、ウロコ状のビード外観をさらに美麗にすることができる。