(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-137828(P2021-137828A)
(43)【公開日】2021年9月16日
(54)【発明の名称】アーク溶接装置
(51)【国際特許分類】
B23K 9/095 20060101AFI20210820BHJP
【FI】
B23K9/095 501B
B23K9/095 510Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2020-35543(P2020-35543)
(22)【出願日】2020年3月3日
(71)【出願人】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(72)【発明者】
【氏名】馬塲 勇人
(57)【要約】
【課題】厚鋼板を半自動溶接するときに、母材への入熱量を容易にかつ厳密に管理することができるアーク溶接装置を提供すること。
【解決手段】溶接電流Iw及び溶接電圧Vwを出力する溶接電源PSと、溶接ワイヤ1を送給するワイヤ送給機WMと、溶接電流Iw及び溶接電圧Vwを溶接ワイヤ1に供給して溶接ワイヤ1と母材2との間でアーク3を発生させる溶接トーチ4と、を備えたアーク溶接装置において、溶接トーチ4の移動速度Stを検出する移動速度検出部STと、溶接電流の平均値Iadを検出する平均溶接電流検出部IADと、溶接電圧の平均値Vadを検出する平均溶接電圧検出部VADと、移動速度St、溶接電流の平均値Iad及び溶接電圧の平均値Vadを入力として算出周期ごとに入熱量Hdを算出する入熱量算出部HDと、算出された入熱量Hdに基づいて報知する報知部DPと、をさらに備えている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接電流及び溶接電圧を出力する溶接電源と、
溶接ワイヤを送給するワイヤ送給機と、
前記溶接電流及び前記溶接電圧を前記溶接ワイヤに供給して前記溶接ワイヤと母材との間でアークを発生させる溶接トーチと、
を備えたアーク溶接装置において、
前記溶接トーチの移動速度を検出する移動速度検出部と、
前記溶接電流の平均値を検出する平均溶接電流検出部と、
前記溶接電圧の平均値を検出する平均溶接電圧検出部と、
前記移動速度、前記溶接電流の平均値及び前記溶接電圧の平均値を入力として算出周期ごとに入熱量を算出する入熱量算出部と、
前記算出された入熱量に基づいて報知する報知部と、
を備えたことを特徴とするアーク溶接装置。
【請求項2】
前記ワイヤ送給機は、前記算出された入熱量が基準入熱量を超過しないように前記溶接ワイヤの送給速度を制御することにより前記溶接電流の平均値を変化させる、
ことを特徴とする請求項1に記載のアーク溶接装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、厚鋼板用のアーク溶接装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鋼板をアーク溶接する場合、溶接部の機械的特性を健全にするために、入熱量が基準入熱量以下になるように施工することが要求される(例えば、特許文献1、2参照)。
【0003】
入熱量の管理は、溶接ロボット、自動走行台車等を用いる自動機溶接においては、溶接速度及び給電チップ・母材間距離が一定に保持されるために容易である。
【0004】
しかしながら、溶接作業者が溶接トーチを手動で操作する半自動溶接においては、溶接速度及び給電チップ・母材間距離が変動するために、入熱量の管理は容易ではない。そのために、一般的には,溶接線の長さを溶接時間で除した平均の溶接速度及び溶接電流の設定値を用いて、近似的に入熱量を管理している。この方法では、厳密で確実な入熱量の管理はできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019−5770号公報
【特許文献2】特開2000−233276号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明では、厚鋼板を半自動溶接するときに、母材への入熱量を容易にかつ厳密に管理することができるアーク溶接装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決するために、請求項1の発明は、
溶接電流及び溶接電圧を出力する溶接電源と、
溶接ワイヤを送給するワイヤ送給機と、
前記溶接電流及び前記溶接電圧を前記溶接ワイヤに供給して前記溶接ワイヤと母材との間でアークを発生させる溶接トーチと、
を備えたアーク溶接装置において、
前記溶接トーチの移動速度を検出する移動速度検出部と、
前記溶接電流の平均値を検出する平均溶接電流検出部と、
前記溶接電圧の平均値を検出する平均溶接電圧検出部と、
前記移動速度、前記溶接電流の平均値及び前記溶接電圧の平均値を入力として算出周期ごとに入熱量を算出する入熱量算出部と、
前記算出された入熱量に基づいて報知する報知部と、
を備えたことを特徴とするアーク溶接装置である。
【0008】
請求項2の発明は、
前記ワイヤ送給機は、前記算出された入熱量が基準入熱量を超過しないように前記溶接ワイヤの送給速度を制御することにより前記溶接電流の平均値を変化させる、
ことを特徴とする請求項1に記載のアーク溶接装置である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、厚鋼板を半自動溶接するときに、母材への入熱量を容易にかつ厳密に管理することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施の形態1に係るアーク溶接装置のブロック図である。
【
図2】本発明の実施の形態2に係るアーク溶接装置のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0012】
[実施の形態1]
まず、溶接作業者が溶接トーチを手動で操作して溶接するときの、溶接トーチの移動速度を検出する方法について説明する。溶接トーチには3軸加速度センサが設けられている。この加速度センサからの加速度信号から移動速度を算出する方法について、以下に説明する。x軸、y軸及びz軸からの加速度信号をそれぞれDx、Dy及びDzとする。これらの加速度信号を下式のように積分すると、各軸方向の速度Sx、Sy及びSzが算出される。
Sx=∫Dx・dt
Sy=∫Dy・dt
Sz=∫Dz・dt
これらの積分は、アークが点弧(溶接電流が通電)された時点から溶接が終了するまでの期間行われる。
【0013】
算出された各軸方向の速度Sx、Sy及びSzを下式のようにして合成して、溶接トーチの移動速度Stを算出する。
St=(Sx
2+Sy
2+Sz
2)
1/2 (1)式
したがって、この(1)式を使用すれば、各軸の加速度信号Dx〜Dzを入力として、溶接トーチの移動速度Stを算出することができる。ここで、移動速度Stの単位は、cm/minに換算されているものとする。
【0014】
溶接トーチの移動速度Stを検出する方法として、溶接トーチにカメラを設け、このカメラからの画像データを公知の3次元SLAM(Simultaneous localization and mapping)技術に基づいて行っても良い。
【0015】
図1は、本発明の実施の形態1に係るアーク溶接装置のブロック図である。以下、同図を参照して各ブロックについて説明する。
【0016】
溶接電源PSは、溶接電流Iw及び溶接電圧Vwを出力し、送給速度設定信号Frを出力する。
【0017】
ワイヤ送給機WMは、送給モータを備えており、上記の送給速度設定信号Frを入力として、溶接ワイヤ1を溶接トーチ4内を通して母材2に送給速度設定信号Frの値で送給する。
【0018】
溶接トーチ4は、溶接ワイヤ1を母材2に導くと共に、給電チップ(図示は省略)を介して溶接ワイヤ1に上記の溶接電流Iw及び溶接電圧Vwを供給する。
【0019】
母材2は開先が設けられた厚鋼板である。溶接ワイヤ1と母材2との間にはアーク3が発生する。
【0020】
移動速度検出回路STは、3軸加速度センサを備えており、上述した(1)式に基づいて検出された移動速度検出信号Stを出力する。移動速度検出回路STは、溶接トーチ4に装着されている。
【0021】
平均溶接電流検出回路IADは、予め定めた算出周期Tcごとに上記の溶接電流Iwの平均値を検出して平均溶接電流検出信号Iadを出力する。
【0022】
平均溶接電圧検出回路VADは、上記の算出周期Tcごとに上記の溶接電圧Vwの平均値を検出して平均溶接電圧検出信号Vadを出力する。
【0023】
入熱量算出回路HDは、上記の移動速度検出信号St[cm/min]、上記の平均溶接電流検出信号Iad及び上記の平均溶接電圧検出信号Vadを入力として、上記の算出周期Tcごとに入熱量算出信号Hd=(Iad×Vad×60)/Stを算出して出力する。
【0024】
報知回路DPは、液晶ディスプレイ等であり、上記の入熱量算出信号Hdの値を表示すると共に、入熱量算出信号Hdの値が基準値を超過しているときは警報を発する。警報は、警報表示、警報音等で行う。
【0025】
上記の算出周期Tcは、例えば1秒〜10秒程度に設定される。上記の平均溶接電流検出回路IAD、上記の平均溶接電圧検出回路VAD、上記の入熱量算出回路HD及び上記の報知回路DPは、溶接トーチ4に装着しても良いし、溶接電源PSに内蔵しても良い。
【0026】
上述した実施の形態1に係るアーク溶接装置によれば、溶接トーチの移動速度を検出する移動速度検出部と、溶接電流の平均値を検出する平均溶接電流検出部と、溶接電圧の平均値を検出する平均溶接電圧検出部と、移動速度、溶接電流の平均値及び溶接電圧の平均値を入力として算出周期ごとに入熱量を算出する入熱量算出部と、算出された入熱量に基づいて報知する報知部と、を備えている。このために、本実施の形態では、溶接トーチの移動速度、平均溶接電流及び平均溶接電圧が検出され、算出周期ごとに実際の入熱量が刻々と算出されて、溶接作業者に報知される。溶接作業者は、この報知を受けて、溶接トーチの移動速度、給電チップ・母材間距離等を調整することができる。この結果、本実施の形態では、厚鋼板を半自動溶接するときに、母材への入熱量を容易にかつ厳密に管理することができる。
【0027】
[実施の形態2]
実施の形態2に係るアーク溶接装置では、ワイヤ送給機は算出された入熱量が基準入熱量を超過しないように溶接ワイヤの送給速度を制御することにより溶接電流の平均値を変化させる。
【0028】
図2は、本発明の実施の形態2に係るアーク溶接装置のブロック図である。同図において、上述した
図1と同一のブロックには同一符号を付して、それらの説明は繰り返さない。同図は、
図1に入熱量超過判別回路HAを追加し、
図1の溶接電源PSを溶接電源PS2に置換したものである。以下、同図を参照してこれらのブロックについて説明する。
【0029】
入熱量超過判別回路HAは、上記の入熱量算出信号Hdを入力として、入熱量算出信号Hdの値が予め定めた基準入熱量を超過したときはHighレベルとなる入熱量超過判別信号Haを出力する。
【0030】
溶接電源PS2は、上記の入熱量超過判別信号Haを入力として、溶接電流Iw及び溶接電圧Vwを出力すると共に、入熱量超過判別信号HaがHighレベルに変化すると予め定めた設定値から所定値だけ小さくした送給速度設定信号Frを出力する。
【0031】
これにより、ワイヤ送給機WMは、算出された入熱量が基準入熱量を超過しないように溶接ワイヤの送給速度を制御することにより溶接電流の平均値を変化させる。上記の基準入熱量は、溶接部の機械的特性が健全となるように各種規格によってさだめられた値に設定される。例えば、3万J/cm、4万J/cmに設定される。
【0032】
上述した実施の形態2によれば、入熱量が基準入熱量を超過しないように、送給速度が自動的に制御される。このために、本実施の形態では、入熱量の管理をより簡便に行うことができる。
【符号の説明】
【0033】
1 溶接ワイヤ
2 母材
3 アーク
4 溶接トーチ
DP 報知回路
Fr 送給速度設定信号
HA 入熱量超過判別回路
Ha 入熱量超過判別信号
HD 入熱量算出回路
Hd 入熱量算出信号
IAD 平均溶接電流検出回路
Iad 平均溶接電流検出信号
Iw 溶接電流
PS、PS2 溶接電源
ST 移動速度検出回路
St 移動速度(検出信号)
Tc 算出周期
VAD 平均溶接電圧検出回路
Vad 平均溶接電圧検出信号
Vw 溶接電圧
WM ワイヤ送給機