【解決手段】本実施形態の紙バリア積層体100は、紙基材と、セルロースナノファイバーを含有するバリア層と、を備える紙バリア積層体であって、前記紙バリア積層体の両面には、樹脂層を備え、前記バリア層の塗工量が0.3g/m
前記紙基材の前記バリア層が形成される面の以下の方法によって測定される平滑性が5.0μm以下であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の紙バリア積層体。
平滑性の測定:JIS P8151「紙及び板紙−表面粗さ及び平滑度試験方法(エア・リーク法)−プリント・サーフ試験機法」に準拠し、クランプ圧を1000kPaとしソフトバッキングを用いて測定した。
前記バリア層における前記セルロースナノファイバーと前記水溶性高分子との質量比(セルロースナノファイバー/水溶性高分子)が5/95〜99/1であることを特徴とする請求項3または請求項4に記載の紙バリア積層体。
前記バリア層において、前記紙基材側とその反対側とで、前記セルロースナノファイバーと前記水溶性高分子との質量比(セルロースナノファイバー/水溶性高分子)が異なることを特徴とする請求項3から請求項5のいずれか1項に記載の紙バリア積層体。
前記バリア層が前記紙基材側から、主成分として前記水溶性高分子を含有する層、前記セルロースナノファイバーと前記水溶性高分子とを含有する層、をこの順に積層してなることを特徴とする請求項3から請求項7のいずれか1項に記載の紙バリア積層体。
前記バリア層が前記紙基材側から、前記セルロースナノファイバーと前記水溶性高分子とを含有する層、主成分として前記水溶性高分子を含有する層、をこの順に積層してなることを特徴とする請求項3から請求項8のいずれか1項に記載の紙バリア積層体。
前記水溶性高分子がポリビニルアルコール及びカルボキシメチルセルロースの少なくとも一方であることを特徴とする請求項3から請求項9のいずれか1項に記載の紙バリア積層体。
前記セルロースナノファイバーは、セルロース質量あたり0.1mmol/g以上3.5mmol/g以下の範囲内のカルボキシ基を有することを特徴とする請求項1から請求項11のいずれか1項に記載の紙バリア積層体。
前記セルロースナノファイバーは、OH基の一部がカルボキシメチル基に置換されており、その置換度が0.1以上0.5以下の範囲内であることを特徴とする請求項1から請求項12のいずれか1項に記載の紙バリア積層体。
【発明を実施するための形態】
【0012】
「紙バリア積層体」
本発明の実施形態に係る紙バリア積層体の構成について、
図1および
図2を参照して説明する。
図1は、本実施形態の紙バリア積層体100の構成の一例を模式的に示す断面図である。
図1に示す紙バリア積層体100は、紙基材10と、紙基材10上に形成されたバリア層20とを備えている。
図2は、本実施形態の紙バリア積層体100の構成の他の例を模式的に示す断面図である。
図2には、セルロースナノファイバーと水溶性高分子とを含む層21と、水溶性高分子のみを含む層22の2層からなるバリア層20が示されている。なお、「主成分として水溶性高分子を含有する層」とは、
図2において「水溶性高分子のみを含む層22」を指す。また、上述の「主成分」とは、水溶性高分子を75質量%以上含有していることを意味する。
【0013】
紙基材10の材料となる紙は、特に限定されず、紙バリア積層体100の用途に応じて適宜選択することができる。例えば、通常の上質紙、各種コート紙、裏打ち紙、含浸紙、ボール紙やアート紙、コート紙、クラフト紙、コートボール、アイボリー紙、カード紙、カップ原紙等を例示することができる。
また、紙基材10において、バリア層20を形成する面10aの平滑性は、5.0μm以下であることが好ましい。バリア層20を形成する面10aの平滑性が5.0μm以下であることで、後述するような少ないバリア層20の塗工量であっても平滑なバリア層20を形成することができる。そして、それによって高いガスバリア性が発現される。
【0014】
紙基材10の平滑性を5.0μm以下に制御する方法としては、特に限定されず公知の方法を用いることができる。例えば、使用するパルプ繊維、抄紙工程におけるカレンダー処理条件によって制御してもよい。
また、紙基材10の平滑性は、JIS P8151「紙及び板紙−表面粗さ及び平滑度試験方法(エア・リーク法)−プリント・サーフ試験機法」に準拠し、クランプ圧を1000kPaとしソフトバッキングを用いて測定した。ここで、JIS P8151は、プリント・サーフ(Print-surf)試験機による表面粗さの測定法を規定する。
【0015】
バリア層20は、紙基材10の一方の面10a上に形成されている。なお、バリア層20は、紙基材10の両面(一方の面10a及び他方の面10b)に形成されてもよい。
バリア層20は、セルロースナノファイバー(CNF)と水溶性高分子とを含有し、層としてガスバリア性を発揮するように構成されていてもよいし、水溶性高分子を含有することなく、セルロースナノファイバー(CNF)のみを含有し、層としてガスバリア性を発揮するように構成されていてもよい。セルロースナノファイバー以外に水溶性高分子を含有することでバリア層20の柔軟性が向上し、耐屈曲性が高くなる。
【0016】
バリア層20の塗工量は、0.3g/m
2以上3.0g/m
2以下の範囲内であることが好ましく、0.5g/m
2以上2.8g/m
2以下の範囲内にあることがより好ましく、0.8g/m
2以上2.5g/m
2以下の範囲内にあることが特に好ましい。バリア層20の塗工量が0.3g/m
2以上3.0g/m
2以下の範囲内であることにより、採算性を良好に保ちつつガスバリア性の発現が可能である。
【0017】
本実施形態の紙バリア積層体100は、その両面に押出ラミネーションによって、後述する樹脂層30を形成したあと、折り曲げ処理を実施し、折り曲げ処理前の酸素透過度(A)と折り曲げ処理後の酸素透過度(B)の比B/Aが3.0以下であることが好ましい。酸素透過度の比B/Aが3.0以下であることで耐屈曲性が高くなる。
上述の押出ラミネーションは、低密度ポリエチレン(LDPE)を樹脂材料として、紙バリア積層体100の両面に実施される。折り曲げ処理は、JISK5600−5−1に準拠し、紙バリア積層体100をバリア層20が形成された面を外側にして直径8mmのマンドレルに2秒間巻きつけた後、もとに戻して完了となる。酸素透過度の測定は、温度30℃、湿度40%RHの環境下にて実施する。
【0018】
また、本実施形態の紙バリア積層体100は、その両面に押出ラミネーションによって樹脂層30を形成した際の酸素透過度が20cc/m
2・day以下であることが好ましく、10cc/m
2・day以下であることがより好ましい。酸素透過度が20cc/m
2・day以下、より好ましくは10cc/m
2・day以下であることが、高い酸素バリア性を示している。
上述の押出ラミネーションは、低密度ポリエチレン(LDPE)を樹脂材料として、紙バリア積層体100の両面に実施される。酸素透過度の測定は、温度30℃、湿度40%RHの環境下にて実施する。
なお、本実施形態の紙バリア積層体100は、押出ラミネーションによって、バリア層20の紙基材10とは反対側の面にのみ樹脂層30が形成してもよいし、紙基材10の他方の面10bにのみ樹脂層30を形成してもよい。
【0019】
前述したCNFは、天然セルロースを微細化して得られるセルロースの微細繊維である。
CNFの平均径の測定方法には、原子間力顕微鏡(AFM)や走査型電子顕微鏡(SEM)等の装置を用いて形状観察を行い、任意の数のサンプルの繊維径を測定してその平均をとる方法や、粒度分布計等の装置を用いてセルロース繊維を含む塗液の粒径測定の結果から計測する方法があるが、本実施形態における平均繊維径は、いずれの方法で測定されてもよい。
バリア層20のバリア材として用いられるCNFの平均繊維径は、例えば2nm以上1000nm以下の範囲内であることが好ましい。この場合、バリア層20を空隙が十分に小さい緻密な膜として形成することができる。すなわち、ガスバリア性に優れたバリア層20を形成することができる。
【0020】
ガスバリア性は、バリア層20がガス(気体)の透過を遮ることにより発揮される。ガスバリア性の発現には、バリア層20において、遮蔽の対象となるガスの分子が透過できない程度に十分に緻密であり、複数の空隙が連通していないことが重要である。CNFは高い剛直性を有し、かつ分子内に多数存在する水酸基やカルボキシ基の水素結合効果により繊維同士が強固に結びつくため、緻密な膜を形成することができる。また、CNFは、結晶性が高く分子の動きが小さいため、高いガスバリア性を発揮しやすいと考えられる。
【0021】
バリア層20に用いるCNFとしては、アニオン変性CNFを好適に用いることができる。CNFはセルロース繊維に機械的な解繊処理を行うことで得られる。解繊処理の前にアニオン変性を行うことでCNF繊維間に静電反発がうまれるため、解繊処理がより低いエネルギーで行うことができ、効率的にCNFが得られる。また、アニオン変性されることでCNFの繊維径をより微細化できることから優れたガスバリア性を有する緻密な膜を形成するのに好適である。
CNFのアニオン変性基としては、カルボシキル基、カルボキシメチル基、リン酸エステル基などが例示できる。カルボキシ基、カルボキシメチル基が高いガスバリア性を得るために好ましい。
【0022】
セルロース分子中にカルボキシ基を導入する方法としては、公知の手法の中から適宜用いることができるが、例えば、TEMPO(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシラジカル)触媒を使用し、pHを調整しながら次亜塩素酸ナトリウム等の酸化剤、臭化ナトリウム等の臭化物を用いて酸化する方法が挙げられる。
上記方法によれば、セルロースミクロフィブリル表面のグルコース単位のC6位の水酸基が選択的にカルボキシ化される。この方法で得られたTEMPO酸化セルロースでは、繊維相互の静電反発が高まり分散しやすくなるため、水中で軽微な解繊処理を施すことによってセルロースナノファイバーの分散液を得ることができる。TEMPO酸化セルロースは、原料セルロースの高い結晶性を維持したまま、ナノファイバー化することが可能であり、バリア材として好適である。
【0023】
セルロース分子中に導入されるカルボキシ基量は、セルロース質量を基準としたときに、0.1mmol/g以上3.5mmol/g以下の範囲内にあることが好ましく、1.0mmol/g以上1.8mmol/g以下の範囲内にあることがより好ましい。カルボキシ基の量は、セルロースの電導度滴定法により測定することができる。
カルボキシ基が0.1mmol/g未満であると、分散性が低下してバリア層20がガスバリア性を十分に発揮しにくい場合がある。また、カルボキシ基が3.5mmol/gを超えると、セルロースの結晶性が低下し、高湿度下における酸素バリア性や、耐水性が低下してしまう場合がある。
すなわち、カルボキシ基量が0.1mmol/g以上3.5mmol/g以下の範囲内にあると、カルボキシ基の静電反発効果により、分散安定性が増し、紙基材10上にバリア層20を均一に形成しやすくなる。その結果として、均一に形成されたバリア層は、ガスバリア性を十分発揮しやすく、高湿度下における酸素バリア性や、耐水性の低下も好適に抑制されるため、好ましい。
【0024】
セルロース分子中にカルボキシメチル基を導入する方法としては、公知の手法の中から適宜用いることができるが、例えば、セルロース原料を出発原料にし、3〜20質量倍の低級アルコール、具体的にはメタノール、エタノール、N−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、N−ブタノール、イソブタノール、第3級ブタノール等の単独、または2種以上の混合物と水の混合媒体を溶媒として使用する。混合媒体における低級アルコールの混合割合は、60〜95質量%である。出発原料のグルコース残基当たり0.5〜20倍モルの水酸化アルカリ金属、具体的には水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムをマーセル化剤として使用し、出発原料、溶媒、およびマーセル化剤を混合し、反応温度を0〜70℃、好ましくは10〜60℃、かつ反応時間を15分〜8時間、好ましくは30分〜7時間としてマーセル化処理を行う。その後、モノクロロ酢酸またはモノクロロ酢酸ナトリウム(カルボキシメチル化剤)をグルコース残基当たり0.05〜10.0倍モル添加し、反応温度30〜90℃、好ましくは40〜80℃、かつ反応時間30分〜10時間、好ましくは1時間〜4時間としてエーテル化反応を行うことにより、カルボキシメチル基を導入したセルロースを得ることができる。
【0025】
セルロース分子中に導入されるカルボキシメチル基の置換度は、0.1以上0.5以下の範囲内であることが好ましい。置換度が0.1以上0.5以下の範囲内にあることにより、適度な繊維径になるとともに、カルボキシメチル基の静電反発効果により、分散安定性が増し、紙基材10上にバリア層20を均一に形成しやすくなる。その結果として、均一に形成されたバリア層は、ガスバリア性を十分発揮しやすく、高湿度下における酸素バリア性や、耐水性の低下も好適に抑制されるため、好ましい。
【0026】
水溶性高分子としては、特に限定されないが、例えばポリビニルアルコール、エチレンビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース等が好ましく、重合度や官能基の量も限定されない。柔軟性付与の観点から、ポリビニルアルコール及びカルボキシメチルセルロースの少なくとも一方が特に好ましい。
また、水溶性高分子を添加することで、バリア層20を形成する際に使用する塗液の粘度を低下することができ、効率的にバリア層20を形成できる。高いガスバリア性を維持する観点からは、ポリビニルアルコールが特に好ましい。
【0027】
バリア層20は、紙基材10側とその反対側でCNFと水溶性高分子との質量比が異なっていてもよい。例えば、紙基材10側からその反対側にかけて徐々にCNFの質量比が大きくなっていてもよい。
さらには、バリア層20は、
図2に示すように、2つ以上の層が積層されていてもよく、主成分として水溶性高分子を含有する層22と、CNFと水溶性高分子とを含有する層21とが積層されていることが好ましい。主成分として水溶性高分子を含有する層22があることで、CNFと水溶性高分子とを含有する層21にクラックが入ってもバリア性を維持しやすくなる。なお、主成分として水溶性高分子を含有する層22は、水溶性高分子のみを含有する層であってもよい。
【0028】
また、バリア層20は、上記構成とは逆に、紙基材10側からその反対側にかけて徐々にCNFの質量比が小さくなっていてもよい。さらに、バリア層20は、紙基材10側から、CNFと水溶性高分子とを含有する層21、主成分として水溶性高分子を含有する層22、をこの順に備えていてもよい。
バリア層20におけるCNFと水溶性高分子との質量比は5/95以上99/1以下の範囲内であることが好ましく、5/95以上99/1以下の範囲内であることがより好ましく、10/90以上90/10以下の範囲内であることが特に好ましい。質量比がこの範囲にあることにより、高い生産性、高い酸素バリア性および耐屈曲性を備えることが可能となる。
【0029】
バリア層20の形成は紙基材10上にバリア層20の材料を含有する塗液をコーティングすることによって得ることができる。バリア層20の材料であるCNFや水溶性高分子は水を主成分とする媒体に溶融または分散可能であり容易に塗液化できる。
バリア層を形成するための塗液であるバリア層形成用塗液の塗布方法としては、公知の各種方法を用いることができる。具体的には、グラビアコーター、ディップコーター、リバースコーター、ワイヤーバーコーター、ダイコーター等を用いることができる。ウェット成膜方法を用いることにより、紙基材10の表面に均一に水系コーティング液の塗膜を形成することができる。媒体としては水が好ましいが、乾燥効率向上や塗工性改善のためアルコールをはじめとした溶剤を適宜添加することもできる。
【0030】
本実施形態の紙バリア積層体100は、カップ状、ボトル状、箱状等の所望の形状に成形した各種紙容器の材料として用いることができる。
図3に、本実施形態の紙容器の一例として、紙バリア積層体100で形成したカップ状の紙バリア容器200を示す。本実施形態の紙バリア容器200は、略円形の底部材201と、底部材201に接合されて側面を形成する胴材202とを有している。
【0031】
紙バリア容器200を作製する際は、まず、シート状の紙バリア積層体100の両面にヒートシール可能な熱可塑性樹脂層30を形成してから、抜き型により打ち抜いて底部材201および胴材202を形成する。次に、底部材201と胴材202とを公知のカップ成形機によって接合しつつカップ状に成形する。さらに、別途作製した蓋材203を剥離可能な態様で胴材202の上部開口に接合して密閉すると、紙バリア容器200が完成する。底部材201と胴材202とをヒートシールで容易に接合することができるため、紙バリア容器200を容易に形成することができる。
【0032】
本実施形態の紙バリア容器200において蓋材203は必須でなく、必要なければ設けられなくてもよい。また、蓋材203は、必ずしも本実施形態の紙バリア積層体100で形成されなくてもよく、一部または全部が他のバリア性シート材料を用いて形成されてもよい。同様に、本実施形態の紙バリア容器200においては、少なくとも一部に本実施形態の紙バリア積層体100が用いられていれば、底部材201や胴材202の一部または全部が他のバリア性シート材料を用いて形成されてもよい。
また、紙バリア容器200を形成する際、バリア層20の配置に特に制限はない。すなわち、バリア層20が紙基材10よりも紙バリア容器200の内面側に配されてもよいし、バリア層20が紙基材10よりも外面側に配されてもよい。
【0033】
〔実施例〕
(第1実施例)
本実施形態の紙バリア積層体100および紙バリア容器200について、実施例および比較例を用いてさらに説明する。ただし、本発明の技術的範囲は、これら実施例の具体的内容により何ら限定されるものではない。
まず、バリア層20を形成するための水系コーティング液の作製手順について説明する。
【0034】
[水系コーティング液1−1の作製]
針葉樹クラフトパルプ30gを水600gに浸漬し、ミキサーにて分散させた。
分散後のパルプスラリーに、予め水200g中に溶解させたTEMPOを0.3g、NaBrを3g添加し、更に水で希釈し全体を1400mLとした。
系内を20℃に保ち、セルロース1gに対し10mmolになるよう次亜塩素酸ナトリウム水溶液を計りとり滴下した。
次亜塩素酸ナトリウム水溶液の滴下開始後、pHは低下を始めるが、0.5N水酸化ナトリウム水溶液を随時滴下することにより、系のpHを10に保った。
4時間後、0.5N水酸化ナトリウム水溶液の滴下量が2.8mmol/gになったところでエタノールを30g添加し、反応を停止させた。
反応系に0.5N塩酸を添加し、pH2まで低下させた。酸化パルプをろ過し、0.01N塩酸または水で繰返し洗浄した後、酸化パルプを得た。
自動滴定装置(東亜ディーケーケー、AUT−701)を用いて0.1N水酸化ナトリウム水溶液により酸化パルプの電導度滴定を行ったところ、算出されたカルボキシ基の量は1.6mmol/gであった。
得られた酸化パルプを水で希釈し、0.5N水酸化ナトリウム水溶液を用いてpH9に調整して酸化パルプ1%懸濁液を得た。この懸濁液を2時間高速撹拌機で分散処理することで、CNFをバリア材として含む分散液としての水系コーティング液1−1を得た。
【0035】
[水系コーティング液1−2の作製]
撹拌機に、針葉樹由来漂白済み未叩解クラフトパルプ(白色度85%)を乾燥質量で200g、水酸化ナトリウムを乾燥質量で111g加え、パルプ固形分が20%(w/v)になるように水を加えた。
その後、30℃で30分間撹拌した後にモノクロロ酢酸ナトリウムを216g(有効成分換算)添加した。30分間撹拌した後に、70℃まで昇温し1時間撹拌した。
その後、反応物を取り出して中和、洗浄して、グルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度0.25のカルボキシメチル化したパルプを得た。
その後、カルボキシメチル化したパルプを水で固形分1%とし、これを、高速回転ミキサーを用いて約60分間撹拌し、CNFをバリア材として含む分散液としての水系コーティング液1−2を得た。
【0036】
[水系コーティング液1−3の作製]
市販のポリビニルアルコール(PVA)(分子量10万、けん化度98%)の固形分4%水溶液を準備して、水系コーティング液1−3とした。
[水系コーティング液1−4の作製]
市販のカルボキシメチルセルロース(CMC)(商品名:F10LC、日本製紙社製)の固形分4%水溶液を準備して、水系コーティング液1−4とした。
[水系コーティング液1−5の作製]
上述の水系コーティング液1−1に、セルロースとPVAとの質量比が1:1となるように水系コーティング液1−3を混合した。さらに、マグネチックスターラーで3時間撹拌することにより、PVA添加セルロース微細繊維分散液としての水系コーティング液1−5を得た。
【0037】
[水系コーティング液1−6の作製]
上述の水系コーティング液1−2に、セルロースとPVAとの質量比が1:1となるように水系コーティング液1−3を混合した。さらに、マグネチックスターラーで3時間撹拌することにより、PVA添加セルロース微細繊維分散液としての水系コーティング液1−6を得た。
[水系コーティング液1−7の作製]
上述の水系コーティング液1−2に、セルロースとPVAとの質量比が25:75となるように水系コーティング液1−3を混合した。さらに、マグネチックスターラーで3時間撹拌することにより、PVA添加セルロース微細繊維分散液としての水系コーティング液1−7を得た。
【0038】
[水系コーティング液1−8の作製]
上述の水系コーティング液1−2に、セルロースとCMCとの質量比が1:1となるように水系コーティング液1−4を混合した。さらに、マグネチックスターラーで3時間撹拌することにより、CMC添加セルロース微細繊維分散液としての水系コーティング液1−8を得た。
[水系コーティング液1−1、1−2の評価]
CNFを含む水系コーティング液1−1および1−2を0.01%濃度まで希釈し、マイカ上に塗布して繊維形態をAFMにて観察した。そして、1本ずつ存在している任意の繊維10点の幅の平均を求め、これを平均繊維径とした。上記方法により算出した水系コーティング液1−1におけるCNFの平均繊維径は4nmであった。また水系コーティング液1−2におけるCNFの平均繊維径は6nmであった。
【0039】
続いて、各実施例および比較例における紙バリア積層体100および紙バリア容器200の作製手順を示す。
[実施例1−1]
坪量260g/m
2の非コートカップ原紙を紙基材10とした。紙基材10の一方の面10aに、バーコーターにて乾燥塗工量が1.6g/m
2となるように水系コーティング液1−3を塗布し、120℃のオーブンで5分間乾燥した。さらに、バーコーターにて乾燥塗工量が0.6g/m
2となるように水系コーティング液1−6を塗布し、120℃のオーブンで5分間乾燥した。これにより、紙基材10の一方の面10aにバリア層20を形成し紙バリア積層体100を得た。
【0040】
[折り曲げ処理]
次に、紙バリア積層体100のバリア面にコロナ処理を施した後、LDPE樹脂(日本ポリエチレン(株)製 ノバテックLD LC520)を、押し出しラミネーションにより供給して樹脂層30を形成した。さらに、紙基材10の他方の面10bにコロナ処理を施した後、同一のLDPE樹脂を、押し出しラミネーションにより紙基材10上に供給して、他方の面10b上にも樹脂層30を形成した。バリア層20側の樹脂層30の厚みは30μmとし、バリア層20と反対側の樹脂層30の厚みは20μmとした。なお、コロナ処理は層間の密着性を上げるために行う処理である。こうして、
図4に示す、樹脂層30を備えた紙バリア積層体101を作製した。
押出ラミネーションを行った実施例1−1の紙バリア積層体101をJISK5600−5−1に準拠して折り曲げ処理を実施した。具体的には、25℃、50%RHの環境下にて、紙バリア積層体101をバリア層20が形成された面を外側になるように直径8mmのマンドレルに2秒間巻きつけた後、もとに戻した。折り曲げる方向は紙の抄紙方向に直交するようにした。
【0041】
[酸素透過度(等圧法)(cc/m
2・day)]
酸素透過度測定装置MOCON(OX−TRAN2/21、モダンコントロール社製)を用いて、30℃、40%RH(相対湿度)の雰囲気下で、折り曲げ処理前後の紙バリア積層体101について酸素透過度を測定した。折り曲げ前後での酸素透過度はそれぞれ、以下であった。
折り曲げ前(A):3.8cc/m
2・day
折り曲げ後(B):4.1cc/m
2・day
B/A:1.1
[採算性]
バリア層20の塗工量から採算性を評価した。評価基準は以下の通りである。
○:2.7g/m
2以下
△:2.7g/m
2超3.0g/m
2以下
×:3.0g/m
2超
なお、採算性の観点から、「○」及び「△」を合格とした。
【0042】
[実施例1−2〜1−18、比較例1−1〜1−2]
表1に示した水系コーティング液および乾燥塗工量にした以外は実施例1−1と同様の手順で、実施例1−2〜1−18、比較例1−1〜1−2の紙バリア積層体101を作製し、酸素透過度を測定した。また、実施例1−2〜1−18、比較例1−1〜1−2の紙バリア積層体101についても採算性を評価した。
なお、実施例1−10〜1−18は、紙基材10の他方の面10b上に樹脂層30を形成しなかった以外は、実施例1−1〜1−9と同様にして紙バリア積層体101を作製した。
図5は、押出ラミネーションを行った実施例1−10〜1−19の紙バリア積層体101の構成を示す。
【0044】
表1に示すように、バリア層20に水溶性高分子を含まない比較例1−1〜1−2では、折り曲げ処理前後の酸素透過度の比であるB/Aの値が3.0以上であり、折り曲げによってバリア性が著しく劣化している。また、比較例1−2については、採算性も低い。
一方、バリア層20に水溶性高分子が添加された実施例1−1〜1−18では、折り曲げ処理前後の酸素透過度の比B/Aの値がいずれも3.0以下であり、折り曲げによるバリア層20の劣化が抑制されている。したがって、本実施例の紙バリア積層体100(樹脂層30を備えた紙バリア積層体101)は、薄膜のバリア層20であっても十分にカップ成型などの加工に適した紙バリア積層体である。さらに、実施例1−1〜1−18の紙バリア積層体101は、採算性の観点からも良好な紙バリア積層体である。
【0045】
(第2実施例)
本実施形態の紙バリア積層体100および紙バリア容器200について、実施例および比較例を用いてさらに説明する。ただし、本発明の技術的範囲は、これら実施例の具体的内容により何ら限定されるものではない。
まず、バリア層20を形成するための水系コーティング液の作製手順について説明する。
【0046】
[水系コーティング液2−1の作製]
針葉樹クラフトパルプ30gを水600gに浸漬し、ミキサーにて分散させた。
分散後のパルプスラリーに、予め水200g中に溶解させたTEMPOを0.3g、NaBrを3g添加し、更に水で希釈し全体を1400mLとした。
系内を20℃に保ち、セルロース1gに対し10mmolになるよう次亜塩素酸ナトリウム水溶液を計りとり滴下した。
次亜塩素酸ナトリウム水溶液の滴下開始後、pHは低下を始めるが、0.5N水酸化ナトリウム水溶液を随時滴下することにより、系のpHを10に保った。
4時間後、0.5N水酸化ナトリウム水溶液の滴下量が2.8mmol/gになったところでエタノールを30g添加し、反応を停止させた。
反応系に0.5N塩酸を添加し、pH2まで低下させた。酸化パルプをろ過し、0.01N塩酸または水で繰返し洗浄した後、酸化パルプを得た。
自動滴定装置(東亜ディーケーケー、AUT−701)を用いて0.1N水酸化ナトリウム水溶液により酸化パルプの電導度滴定を行ったところ、算出されたカルボキシ基の量は1.6mmol/gであった。
得られた酸化パルプを水で希釈し、0.5N水酸化ナトリウム水溶液を用いてpH9に調整して酸化パルプ1%懸濁液を得た。この懸濁液を2時間高速撹拌機で分散処理することで、CNFをバリア材として含む分散液としての水系コーティング液2−1を得た。
【0047】
[水系コーティング液2−2の作製]
撹拌機に、針葉樹由来漂白済み未叩解クラフトパルプ(白色度85%)を乾燥質量で200g、水酸化ナトリウムを乾燥質量で111g加え、パルプ固形分が20%(w/v)になるように水を加えた。
その後、30℃で30分間撹拌した後にモノクロロ酢酸ナトリウムを216g(有効成分換算)添加した。30分間撹拌した後に、70℃まで昇温し1時間撹拌した。
その後、反応物を取り出して中和、洗浄して、グルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度0.25のカルボキシメチル化したパルプを得た。
その後、カルボキシメチル化したパルプを水で固形分1%とし、これを、高速回転ミキサーを用いて約60分間撹拌し、CNFをバリア材として含む分散液としての水系コーティング液2−2を得た。
【0048】
[水系コーティング液2−3の作製]
市販のポリビニルアルコール(PVA)(分子量10万、けん化度98%)の固形分4%水溶液を準備して、水系コーティング液2−3とした。
[水系コーティング液2−4の作製]
上述の水系コーティング液2−1に、セルロースとPVAとの質量比が1:1となるように水系コーティング液2−3を混合した。さらに、マグネチックスターラーで3時間撹拌することにより、PVA添加セルロース微細繊維分散液としての水系コーティング液2−4を得た。
[水系コーティング液2−5の作製]
上述の水系コーティング液2−2に、セルロースとPVAとの質量比が1:1となるように水系コーティング液2−3を混合した。さらに、マグネチックスターラーで3時間撹拌することにより、PVA添加セルロース微細繊維分散液としての水系コーティング液2−5を得た。
【0049】
[水系コーティング液2−1、2−2の評価]
CNFを含む水系コーティング液2−1および2−2を0.01%濃度まで希釈し、マイカ上に塗布して繊維形態をAFMにて観察した。そして、1本ずつ存在している任意の繊維10点の幅の平均を求め、これを平均繊維径とした。上記方法により算出した水系コーティング液2−1におけるCNFの平均繊維径は4nmであった。また水系コーティング液2−2におけるCNFの平均繊維径は6nmであった。
【0050】
続いて、各実施例および比較例における紙バリア積層体100および紙バリア容器200の作製手順を示す。
[実施例2−1]
坪量260g/m
2の非コートカップ原紙を紙基材10とした。紙基材10の平滑性は3.8μmであった。紙基材10の一方の面10aに、バーコーターにて乾燥塗工量が1.5g/m
2となるように水系コーティング液2−5を塗布し、120℃のオーブンで5分間乾燥した。これにより、紙基材10の一方の面10aにバリア層20を形成し紙バリア積層体100を得た。
【0051】
[酸素透過度(等圧法)(cc/m
2・day)]
次に、紙バリア積層体100のバリア面にコロナ処理を施した後、LDPE樹脂(日本ポリエチレン(株)製 ノバテックLD LC520)を、押し出しラミネーションにより供給して樹脂層30を形成した。さらに、紙基材10の他方の面10bにコロナ処理を施した後、同一のLDPE樹脂を、押し出しラミネーションにより紙基材10上に供給して、他方の面10b上にも樹脂層30を形成した。バリア層20側の樹脂層30の厚みは30μmとし、バリア層20と反対側の樹脂層30の厚みは20μmとした。なお、コロナ処理は層間の密着性を上げるために行う処理である。こうして、
図6に示す、樹脂層30を備えた紙バリア積層体101を作製した。
押出ラミネーションを行った実施例2−1の紙バリア積層体101を、酸素透過度測定装置MOCON(OX−TRAN2/21、モダンコントロール社製)を用いて、30℃、40%RH(相対湿度)の雰囲気下で、酸素透過度を測定した。その結果、酸素透過度は4.1cc/m
2・dayであった。
【0052】
[採算性]
第1実施例と同様にして、バリア層20の塗工量から採算性を評価した。評価基準は以下の通りである。
○:2.7g/m
2以下
△:2.7g/m
2超3.0g/m
2以下
×:3.0g/m
2超
なお、採算性の観点から、「○」及び「△」を合格とした。
【0053】
[実施例2−2]
水系コーティング液2−4を用いた以外は実施例2−1と同様の手順で、紙バリア積層体100を作製し、酸素透過度を測定した。酸素透過度は3.3cc/m
2・dayであった。
[実施例2−3]
紙基材10を坪量260g/m
2、平滑性5.7μmの紙容器用板紙を用いた以外は実施例2−1と同様の手順で、紙バリア積層体100を作製し、酸素透過度を測定した。酸素透過度は15.0cc/m
2・dayであった。
[実施例2−4]
紙基材10の他方の面10b上に樹脂層30を形成しなかった以外は実施例2−1と同様の手順で、紙バリア積層体101を作製し、酸素透過度を測定した。酸素透過度は4.1cc/m
2・dayであった。
図7は、押出ラミネーションを行った実施例2−4の紙バリア積層体101の構成を示す。
【0054】
[実施例2−5]
紙基材10の他方の面10b上に樹脂層30を形成しなかった以外は実施例2−2と同様の手順で、紙バリア積層体101を作製し、酸素透過度を測定した。酸素透過度は3.3cc/m
2・dayであった。
図7は、押出ラミネーションを行った実施例2−5の紙バリア積層体101の構成を示す。
[実施例2−6]
紙基材10の他方の面10b上に樹脂層30を形成しなかった以外は実施例2−3と同様の手順で、紙バリア積層体101を作製し、酸素透過度を測定した。酸素透過度は15.0cc/m
2・dayであった。
図7は、押出ラミネーションを行った実施例2−6の紙バリア積層体101の構成を示す。
【0055】
[比較例2−1]
バリア層20の塗工量を0.2g/m
2とした以外は実施例2−1と同様の手順で、紙バリア積層体101を作製し、酸素透過度を測定した。酸素透過度は280.0cc/m
2・dayであった。
[比較例2−2]
バリア層20の塗工量を3.1g/m
2とした以外は実施例2−1と同様の手順で、紙バリア積層体101を作製し、酸素透過度を測定した。酸素透過度は3.0cc/m
2・dayであった。
【0057】
表2に示すように、紙基材10の平滑性が5.0μmよりも大きい実施例2−3および2−6では、酸素透過度が10cc/m
2・dayよりも大きく、使用上問題はないがバリア性が低い傾向がある。
一方、紙基材10の平滑性が5.0μm以下の実施例2−1〜2−2では、酸素透過度が10cc/m
2・day以下であり、バリア性が高い。バリア層20が薄膜であっても紙基材10の表面が平滑であるためバリア層20の欠陥が少なく、バリア性が高くなっている。
また、実施例2−1〜2−6の紙バリア積層体101は、採算性の観点からも良好な紙バリア積層体である。
なお、比較例2−1の紙バリア積層体101は、バリア層20の塗工量が0.3g/m
2以下であるため、酸素透過度が著しく高い。また、比較例2−2の紙バリア積層体101は、酸素透過度は良好であるが、採算性の観点から好ましくない。
【0058】
以上、本発明の一実施形態および実施例について説明したが、本発明の技術範囲は上記実施形態等の内容に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において各構成要素に種々の変更を加えたり、削除したりすることが可能である。
また、本発明のバリア積層体には、上述した各層に加えて、所望の意匠効果や情報等を付与する印刷層や、帯電防止層等が必要に応じて設けられてもよい。