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特開2021-138654急性Tリンパ芽球性白血病若しくはリンパ腫、又は急性骨髄性白血病治療用医薬組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-138654(P2021-138654A)
(43)【公開日】2021年9月16日
(54)【発明の名称】急性Tリンパ芽球性白血病若しくはリンパ腫、又は急性骨髄性白血病治療用医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/40 20060101AFI20210820BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20210820BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20210820BHJP
   A61K 31/4439 20060101ALI20210820BHJP
【FI】
   A61K31/40
   A61P35/00
   A61P35/02
   A61K31/4439
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2020-37889(P2020-37889)
(22)【出願日】2020年3月5日
(71)【出願人】
【識別番号】504133110
【氏名又は名称】国立大学法人電気通信大学
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100119530
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 和幸
(72)【発明者】
【氏名】牧 昌次郎
(72)【発明者】
【氏名】吉田 千紘
(72)【発明者】
【氏名】東 智也
(72)【発明者】
【氏名】北田 昇雄
(72)【発明者】
【氏名】原 孝彦
(72)【発明者】
【氏名】武智 あづさ
(72)【発明者】
【氏名】中田 千尋
【テーマコード(参考)】
4C086
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC05
4C086BC17
4C086GA07
4C086GA08
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZB26
4C086ZB27
(57)【要約】
【課題】酸化及び代謝され難く、活性及び選択性に優れた、急性Tリンパ芽球性白血病若しくはリンパ腫、又は急性骨髄性白血病治療用医薬組成物を提供する。
【解決手段】下記一般式(I):

[式中、Xは、炭素又は窒素であり、Rは、水素又はハロゲン元素であり、Rは、−COOR、−CH=CR−COOR又は−NRであり、Rは、それぞれ独立して水素又は置換基を有していてもよい炭化水素基であり、nは1、2又は3であり、mは、1、2又は3である]で表わされる化合物を含むことを特徴とする、急性Tリンパ芽球性白血病若しくはリンパ腫、又は急性骨髄性白血病治療用医薬組成物である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I):
【化1】
[式中、Xは、炭素又は窒素であり、Rは、水素又はハロゲン元素であり、Rは、−COOR、−CH=CR−COOR又は−NRであり、Rは、それぞれ独立して水素又は置換基を有していてもよい炭化水素基であり、nは1、2又は3であり、mは、1、2又は3である]で表わされる化合物を含むことを特徴とする、急性Tリンパ芽球性白血病若しくはリンパ腫、又は急性骨髄性白血病治療用医薬組成物。
【請求項2】
前記Rが、それぞれ独立して水素又は炭素数1〜4のアルキル基である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記nが、1又は2である、請求項1又は2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記mが、1又は2である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
上記一般式(I)で表わされる化合物が、下記構造式(II)、(III)、(IV)、(V)、(VI)、(VII)又は(VIII):
【化2】
で表わされる化合物である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
下記一般式(I):
【化3】
[式中、Xは、炭素又は窒素であり、Rは、水素又はハロゲン元素であり、Rは、−COOR、−CH=CR−COOR又は−NRであり、Rは、それぞれ独立して水素又は置換基を有していてもよい炭化水素基であり、nは1、2又は3であり、mは、1、2又は3である]で表わされる化合物を含むことを特徴とする、急性Tリンパ芽球性白血病若しくはリンパ腫、又は急性骨髄性白血病治療用キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、急性Tリンパ芽球性白血病若しくはリンパ腫、又は急性骨髄性白血病治療用医薬組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
骨髄内腔に存在する造血幹細胞は、リンパ球系前駆細胞を経てT細胞やB細胞を、また、骨髄球系前駆細胞を経て赤血球やマクロファージ等をそれぞれ作り出しているが、このうち、リンパ球系前駆細胞がT細胞へと分化する途上でがん化してしまうのがT−ALLという病気である(非特許文献1)。ALL(急性リンパ芽球性白血病:Acute Lymphoblastic Leukemia:ALL)のうち、約25%がT−ALL(T細胞系統のALL)、残りの約75%がBリンパ芽球性のB−ALL(B細胞系統のALL)である。T−ALLの国内発症頻度は、約10万人に1人と稀ではあるが、子供に多いがんで、再発率が高く、予後不良の難病である。ALLの治療法としては、抗がん剤を用いた化学療法が一般的で、B−ALLでは、Ph+細胞のBCR−ABL遺伝子を標的としたイマチニブ、CD20+細胞を標的としたリツキシマブという分子標的薬が開発されている。最近、CD19+細胞を標的としたCAR−T製剤キムリアも認可され、著しく治療成績が向上している。しかしながら、T−ALL患者に対しては、既存の抗がん剤だけであり、再発した場合には治療する方法がない。したがって、T−ALL特異的な治療薬の開発が世界的に求められている。また、T細胞由来のリンパ芽球性リンパ腫(T-Lymphoblastic Lymphoma:T−LBL)に対しても、様々な候補薬の開発が進められている、未だ実用化には至っていない。
【0003】
一方、AML(急性骨髄性白血病)は、マクロファージ・顆粒球系、赤芽球系、あるいは巨核球系の造血前駆細胞が様々な変異によって無限増殖能を獲得して発症する、成人に多い難治性の急性白血病である(非特許文献2)。赤芽球系M6クラスと巨核球系M7クラスのAMLの発症頻度は、10万人に1人以下であるが、顆粒球系M2クラスのAML患者は、T−ALLの5倍以上いる。AMLの治療法としては、アザシチジン等の抗がん剤、分化誘導療法、造血幹細胞移植が臨床現場で採用されているが、原因となる遺伝子異常が多岐にわたることから成功率は高くない(非特許文献3)。最近、FLT3受容体に対する阻害剤がAML治療薬として認可されたが、この阻害剤も一部のAML患者にしか効かない。このような状況を打開するために、AMLに対しても新しい治療薬の開発が必要な状況にある。
【0004】
このような状況下、本発明者らは、天然化合物の大規模スクリーニングによって、ヒトT−ALL細胞株CCRF−CEMの増殖を抑制するが、ヒトBリンフォーマ細胞株Rajiの増殖には影響を与えない化合物として、下記の構造式:
【化1】
で表されるAuxarconjugatin B(非特許文献4)とRumbrin(非特許文献5)を同定した。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Cleveland SM, Smith S, Tripathi R, et al. Lmo2 induces hematopoietic stem cell-like features in T-cell progenitor cells prior to leukemia. Stem cells. 31: 882-894, 2013.
【非特許文献2】Estey E, Dohner H. Acute myeloid leukaemia. Lancet. 368: 1894-1907, 2006.
【非特許文献3】Cornelissen JJ, Blaise D. Hematopoietic stem cell transplantation for patients with AML in first complete remission. Blood. 127: 62-70, 2016.
【非特許文献4】Fang Z, Liao PC, Yang YL, et al. Synthesis and biological evaluation of polyenylpyrrole derivatives as anticancer agents acting through caspases-dependent apoptosis. J. Med. Chem. 53: 7967-7978, 2010.
【非特許文献5】Clark BR, O'Connor S, Fox D, Leroy J, Murphy CD. Production of anticancer polyenes through precursor-directed biosynthesis. Org. Biomol. Chem. 9: 6306-6311, 2011.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記のAuxarconjugatin B及びRumbrinは、構造が複雑であり、工業的に合成することは困難である。また、前記天然化合物は、細菌やカビに由来するが、細菌やカビから前記天然化合物を抽出、単離、精製することも、コストの観点から困難である。
【0007】
そこで、本発明者らは、上記のAuxarconjugatin BとRumbrinとが、共通の化学構造を有することに着目し、これら天然化合物と類似した増殖抑制活性を有する類縁化合物の有機合成を試み、下記構造式(a)、(b)、(c)又は(d):
【化2】
で表される4種の低分子化合物が、優れたT−ALL/AML選択的な細胞死滅活性を有することを見出した。
【0008】
しかしながら、上記の合成化合物は、in vitroでは優れた活性を示したものの、本発明者らが、更に検討を進めたところ、動物体内での薬効が弱いことが分かった。これらの活性化合物に共通する4個以上のC=C結合が連なる部位は、体内で容易に酸化や異性化され、上記の合成化合物は、体内で代謝され易いものと予想される。実際、構造式(a)の化合物をマウスに静脈注射し、継時的に採血して質量分析を行ったところ、投与5分後の血清サンプルからは、構造式(a)の化合物様の化合物ピークが検出されたが、それ以降の血清サンプルからは、全く検出されなかった。従って、薬剤の体内血中濃度を維持するためには、更なる構造改変が必要な状況にある。
また、上記の合成化合物は、合成ステップが多い、シス−トランスの異例化率が低い等の合成上の観点の課題も有していた。
【0009】
そこで、本発明は、上記従来技術の問題を解決し、酸化及び代謝され難く、活性及び選択性に優れた、急性Tリンパ芽球性白血病若しくはリンパ腫、又は急性骨髄性白血病治療用医薬組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決する本発明の要旨構成は、以下の通りである。
【0011】
本発明の急性Tリンパ芽球性白血病若しくはリンパ腫、又は急性骨髄性白血病治療用医薬組成物は、下記一般式(I):
【化3】
[式中、Xは、炭素又は窒素であり、Rは、水素又はハロゲン元素であり、Rは、−COOR、−CH=CR−COOR又は−NRであり、Rは、それぞれ独立して水素又は置換基を有していてもよい炭化水素基であり、nは1、2又は3であり、mは、1、2又は3である]で表わされる化合物を含むことを特徴とする。
かかる本発明の医薬組成物は、酸化及び代謝され難い上、急性Tリンパ芽球性白血病若しくはリンパ腫、又は急性骨髄性白血病に対する活性及び選択性に優れる。
【0012】
本発明の医薬組成物の好適例においては、前記Rが、それぞれ独立して水素又は炭素数1〜4のアルキル基である。この場合、一般式(I)の化合物の合成が容易であり、また、更に酸化及び代謝され難くなる。
【0013】
本発明の医薬組成物の他の好適例においては、前記nが、1又は2である。この場合、一般式(I)の化合物の合成が容易であり、また、更に酸化及び代謝され難くなる。
【0014】
本発明の医薬組成物の他の好適例においては、前記mが、1又は2である。この場合、一般式(I)の化合物の合成が容易である。
【0015】
本発明の医薬組成物の他の好適例においては、上記一般式(I)で表わされる化合物が、下記構造式(II)、(III)、(IV)、(V)、(VI)、(VII)又は(VIII):
【化4】
で表わされる化合物である。これら構造式(II)、(III)、(IV)、(V)、(VI)、(VII)又は(VIII)の化合物は、合成が容易であり、また、酸化及び代謝され難く、更に、急性Tリンパ芽球性白血病若しくはリンパ腫、又は急性骨髄性白血病に対する活性及び選択性に優れる。
【0016】
また、本発明の他の態様によれば、下記一般式(I):
【化5】
[式中、Xは、炭素又は窒素であり、Rは、水素又はハロゲン元素であり、Rは、−COOR、−CH=CR−COOR又は−NRであり、Rは、それぞれ独立して水素又は置換基を有していてもよい炭化水素基であり、nは1、2又は3であり、mは、1、2又は3である]で表わされる化合物を含むことを特徴とする、急性Tリンパ芽球性白血病若しくはリンパ腫、又は急性骨髄性白血病治療用キットが提供される。
かかる本発明のキットは、酸化及び代謝され難く、急性Tリンパ芽球性白血病若しくはリンパ腫、又は急性骨髄性白血病に対する活性及び選択性に優れる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、酸化及び代謝され難く、活性及び選択性に優れた、急性Tリンパ芽球性白血病若しくはリンパ腫、又は急性骨髄性白血病治療用医薬組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】構造式(II)の化合物の、ヒトT−ALL細胞株CCRF−CEM、Bリンフォーマ細胞株Rajiの増殖抑制活性を示す図、並びに、ヒトAML又はCML由来細胞株の、構造式(II)の化合物感受性を示す図である。図1(a)は、ヒトT−ALL細胞株CCRF−CEM、Bリンフォーマ細胞株Rajiを、様々な濃度の構造式(II)の化合物を添加した培地でそれぞれ72時間培養したときの生存率を示し、図1(b)は、ヒトAML(M6クラス)由来細胞株TF−1を、様々な濃度の構造式(II)の化合物を添加した培地でそれぞれ72時間培養したときの生存率を示し、図1(c)は、ヒトAML(M5クラス)由来細胞株THP1を、様々な濃度の構造式(II)の化合物を添加した培地でそれぞれ72時間培養したときの生存率を示し、図1(d)は、ヒトCML(慢性骨髄性白血病)由来細胞株K562を、様々な濃度の構造式(II)の化合物を添加した培地でそれぞれ72時間培養したときの生存率を示す。
図2】構造式(III)の化合物の、ヒトT−ALL細胞株CCRF−CEM、Bリンフォーマ細胞株Rajiの増殖抑制活性を示す図、並びに、ヒトAML又はCML由来細胞株の、構造式(III)の化合物感受性を示す図である。図2(a)は、ヒトT−ALL細胞株CCRF−CEM、Bリンフォーマ細胞株Rajiを、様々な濃度の構造式(III)の化合物を添加した培地でそれぞれ72時間培養したときの生存率を示し、図2(b)は、ヒトAML(M6クラス)由来細胞株TF−1を、様々な濃度の構造式(III)の化合物を添加した培地でそれぞれ72時間培養したときの生存率を示し、図2(c)は、ヒトAML(M5クラス)由来細胞株THP1を、様々な濃度の構造式(III)の化合物を添加した培地でそれぞれ72時間培養したときの生存率を示し、図2(d)は、ヒトCML由来細胞株K562を、様々な濃度の構造式(III)の化合物を添加した培地でそれぞれ72時間培養したときの生存率を示す。
図3】構造式(IV)の化合物の、ヒトT−ALL細胞株CCRF−CEM、Bリンフォーマ細胞株Rajiの増殖抑制活性を示す図、並びに、ヒトAML又はCML由来細胞株の、構造式(IV)の化合物感受性を示す図である。図3(a)は、ヒトT−ALL細胞株CCRF−CEM、Bリンフォーマ細胞株Rajiを、様々な濃度の構造式(IV)の化合物を添加した培地でそれぞれ72時間培養したときの生存率を示し、図3(b)は、ヒトAML(M6クラス)由来細胞株TF−1を、様々な濃度の構造式(IV)の化合物を添加した培地でそれぞれ72時間培養したときの生存率を示し、図3(c)は、ヒトAML(M5クラス)由来細胞株THP1を、様々な濃度の構造式(IV)の化合物を添加した培地でそれぞれ72時間培養したときの生存率を示し、図3(d)は、ヒトCML由来細胞株K562を、様々な濃度の構造式(IV)の化合物を添加した培地でそれぞれ72時間培養したときの生存率を示す。
図4】構造式(V)の化合物の、ヒトT−ALL細胞株CCRF−CEM、Bリンフォーマ細胞株Rajiの増殖抑制活性を示す図、並びに、ヒトAML又はCML由来細胞株の、構造式(V)の化合物感受性を示す図である。図4(a)は、ヒトT−ALL細胞株CCRF−CEM、Bリンフォーマ細胞株Rajiを、様々な濃度の構造式(V)の化合物を添加した培地でそれぞれ72時間培養したときの生存率を示し、図4(b)は、ヒトAML(M6クラス)由来細胞株TF−1を、様々な濃度の構造式(V)の化合物を添加した培地でそれぞれ72時間培養したときの生存率を示し、図4(c)は、ヒトAML(M5クラス)由来細胞株THP1を、様々な濃度の構造式(V)の化合物を添加した培地でそれぞれ72時間培養したときの生存率を示し、図4(d)は、ヒトCML由来細胞株K562を、様々な濃度の構造式(V)の化合物を添加した培地でそれぞれ72時間培養したときの生存率を示す。
図5】構造式(VI)の化合物の、ヒトT−ALL細胞株CCRF−CEM、Bリンフォーマ細胞株Rajiの増殖抑制活性を示す図、並びに、ヒトAML又はCML由来細胞株の、構造式(VI)の化合物感受性を示す図である。図5(a)は、ヒトT−ALL細胞株CCRF−CEM、Bリンフォーマ細胞株Rajiを、様々な濃度の構造式(VI)の化合物を添加した培地でそれぞれ72時間培養したときの生存率を示し、図5(b)は、ヒトAML(M6クラス)由来細胞株TF−1を、様々な濃度の構造式(VI)の化合物を添加した培地でそれぞれ72時間培養したときの生存率を示し、図5(c)は、ヒトAML(M5クラス)由来細胞株THP1を、様々な濃度の構造式(VI)の化合物を添加した培地でそれぞれ72時間培養したときの生存率を示し、図5(d)は、ヒトCML由来細胞株K562を、様々な濃度の構造式(VI)の化合物を添加した培地でそれぞれ72時間培養したときの生存率を示す。
図6】構造式(VII)の化合物の、ヒトT−ALL細胞株CCRF−CEM、Bリンフォーマ細胞株Rajiの増殖抑制活性を示す図、並びに、ヒトAML又はCML由来細胞株の、構造式(VII)の化合物感受性を示す図である。図6(a)は、ヒトT−ALL細胞株CCRF−CEM、Bリンフォーマ細胞株Rajiを、様々な濃度の構造式(VII)の化合物を添加した培地でそれぞれ72時間培養したときの生存率を示し、図6(b)は、ヒトAML(M6クラス)由来細胞株TF−1を、様々な濃度の構造式(VII)の化合物を添加した培地でそれぞれ72時間培養したときの生存率を示し、図6(c)は、ヒトAML(M5クラス)由来細胞株THP1を、様々な濃度の構造式(VII)の化合物を添加した培地でそれぞれ72時間培養したときの生存率を示し、図6(d)は、ヒトCML由来細胞株K562を、様々な濃度の構造式(VII)の化合物を添加した培地でそれぞれ72時間培養したときの生存率を示す。
図7】構造式(VIII)の化合物の、ヒトT−ALL細胞株CCRF−CEM、Bリンフォーマ細胞株Rajiの増殖抑制活性を示す図、並びに、ヒトAML又はCML由来細胞株の、構造式(VIII)の化合物感受性を示す図である。図7(a)は、ヒトT−ALL細胞株CCRF−CEM、Bリンフォーマ細胞株Rajiを、様々な濃度の構造式(VIII)の化合物を添加した培地でそれぞれ72時間培養したときの生存率を示し、図7(b)は、ヒトAML(M6クラス)由来細胞株TF−1を、様々な濃度の構造式(VIII)の化合物を添加した培地でそれぞれ72時間培養したときの生存率を示し、図7(c)は、ヒトAML(M5クラス)由来細胞株THP1を、様々な濃度の構造式(VIII)の化合物を添加した培地でそれぞれ72時間培養したときの生存率を示し、図7(d)は、ヒトCML由来細胞株K562を、様々な濃度の構造式(VIII)の化合物を添加した培地でそれぞれ72時間培養したときの生存率を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明の急性Tリンパ芽球性白血病若しくはリンパ腫、又は急性骨髄性白血病治療用の医薬組成物及びキットを、その実施形態に基づき、詳細に例示説明する。
【0020】
<医薬組成物>
本発明の急性Tリンパ芽球性白血病若しくはリンパ腫、又は急性骨髄性白血病治療用医薬組成物は、下記一般式(I):
【化6】
で表わされる化合物を含むことを特徴とする。
一般式(I)で表わされる化合物は、Auxarconjugatin B及びRumbrinと類似の構造を有し、急性Tリンパ芽球性白血病若しくはリンパ腫、又は急性骨髄性白血病に対する活性及び選択性に優れる。
また、一般式(I)で表わされる化合物は、4個以上のC=C結合が連なる部位に芳香環が導入された構造、又は、4個以上のC=C結合が連なる部位の一部が芳香環で置換された構造を有し、4個以上のC=C結合が連なる部位を有さないため、体内で、酸化され難く、また、代謝され難く、標的まで届き易い。そのため、一般式(I)で表わされる化合物を有効成分として含む本発明の医薬組成物は、急性Tリンパ芽球性白血病若しくはリンパ腫、又は急性骨髄性白血病の治療に有用である。
更に、一般式(I)で表わされる化合物は、上記構造式(a)、(b)、(c)又は(d)で表される化合物に比べて、合成ステップが少なく、シス−トランスの異例化率が高い等の合成上の利点も有する。
【0021】
上記一般式(I)中、Xは、炭素又は窒素であり、Xが炭素の場合は、ベンゼン環を形成し、Xが窒素の場合は、ピリジン環を形成する。なお、Xが複数存在する場合(即ち、mが2又は3の場合)、各Xは、同一でも、異なってもよい。
【0022】
上記一般式(I)中、Rは、水素又はハロゲン元素である。ピロール環に対するRの結合部位は、任意であり、特に限定されない。ここで、ハロゲン元素としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等が挙げられる。これらの中でも、塩素が好ましい。なお、Rが水素又は塩素である化合物は、合成が容易である。
【0023】
上記一般式(I)中、Rは、−COOR、−CH=CR−COOR又は−NRであり、ここで、Rは、それぞれ独立して水素又は置換基を有していてもよい炭化水素基(即ち、置換又は非置換の炭化水素基)である。芳香環(ベンゼン環、ピリジン環)に対する、Rの結合部位は、任意であり、特に限定されない。
前記炭化水素基は、飽和でも不飽和でもよく、また、環式でも非環式でもよい。炭化水素基としては、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数2〜10のアルケニル基、炭素数2〜10のアルキニル基、炭素数4〜10のアルカジエニル基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数7〜20のアラルキル基、炭素数3〜10のシクロアルキル基、炭素数3〜10のシクロアルケニル基等が挙げられる。
【0024】
炭素数1〜10のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、各種ペンチル基、各種ヘキシル基等が挙げられる。
炭素数2〜10のアルケニル基としては、ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、2−メチル−1−プロペニル基、2−メチルアリル基等が挙げられる。
炭素数2〜10のアルキニル基としては、エチニル基、プロピニル基、ブチニル基等が挙げられる。
炭素数4〜10のアルカジエニル基としては、1,3−ブタジエニル基、ペンタジエニル基、ヘキサジエニル基等が挙げられる。
炭素数6〜20のアリール基としては、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、インデニル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、2,3−キシリル基、2,5−キシリル基、o−クメニル基、m−クメニル基、p−クメニル基等が挙げられる。
炭素数7〜20のアラルキル基としては、ベンジル基、フェネチル基、1−ナフチルメチル基、2−ナフチルメチル基、1−フェニルエチル基、フェニルプロピル基等が挙げられる。
炭素数3〜10のシクロアルキル基としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
炭素数3〜10のシクロアルケニル基としては、シクロプロペニル基、シクロブテニル基、シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基等が挙げられる。
【0025】
また、前記炭化水素基の置換基としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲン元素、アルコキシ基、ニトロ基、シアノ基、ヒドロキシル基、チオール基、アシル基、カルボキシル基、アミノ基、アルコキシカルボニル基等が挙げられる。なお、前記炭化水素基は、置換基を有しても、有しなくてもよく、また、置換基を有する場合において、置換基の数は、1つても、複数でもよい。
【0026】
前記Rは、それぞれ独立して水素又は炭素数1〜4のアルキル基であることが好ましい。Rは、それぞれ独立して水素又は炭素数1〜4のアルキル基である場合、一般式(I)の化合物の合成が容易であり、また、酸化及び代謝され難く、急性Tリンパ芽球性白血病若しくはリンパ腫、又は急性骨髄性白血病に対する活性及び選択性が向上する。
【0027】
上記一般式(I)中、nは、ビニレン単位(−CH=CH−)の繰り返し数を示し、1、2又は3であり、1又は2であることが好ましい。nが1又は2である場合、一般式(I)で表わされる化合物が、更に酸化及び代謝され難くなり、また、合成も容易である。
【0028】
上記一般式(I)中、mは、芳香環(ベンゼン環、ピリジン環)の繰り返し数を示し、1、2又は3であり、1又は2であることが好ましい。mが1又は2である場合、一般式(I)で表わされる化合物の合成が容易になる。該芳香環に対する、前記ビニレン単位の結合部位は、任意であり、特に限定されない。また、芳香環を複数有し(即ち、mが2又は3)、芳香環の1つ以上がピリジン環である場合、ピリジン環に対する芳香環の結合部位も、任意であり、特に限定されない。
【0029】
上記一般式(I)で表わされる化合物としては、下記構造式(II)、(III)、(IV)、(V)、(VI)、(VII)又は(VIII):
【化7】
で表わされる化合物が好ましく、構造式(III)の化合物が特に好ましい。構造式(II)、(III)、(IV)、(V)、(VI)、(VII)又は(VIII)の化合物は、合成が容易であり、また、酸化及び代謝され難く、更に、急性Tリンパ芽球性白血病若しくはリンパ腫、又は急性骨髄性白血病に対する活性及び選択性に優れる。また、構造式(III)の化合物は、T−ALL/AML選択的な増殖抑制活性の点で、特に優れる。
【0030】
上記一般式(I)で表わされる化合物は、任意の方法で合成することができる。
例えば、まず、p−ブロモトルエンを出発物質とし、NBS(N−ブロモスクシンイミド)によってブロモ化して、ジブロモ体を合成し、次に、ジブロモ体をトリフェニルホスフィンと反応させることによりリンイリド体を得る。一方、ピロール−2−カルボキシアルデヒドをもう一方の出発物質とし、二炭酸ジ−tert−ブチルによってBoc体を合成し、該Boc体と、前記リンイリド体において、Wittig反応を行い、更に、得られる生成物にHeck試薬を用いることにより、一般式(I)で表わされる化合物を合成することができる。
【0031】
また、例えば、4−クロロピリジンN−オキサイドを出発物質とし、硫酸銅五水和物を用いて混合水溶液を作製し、高圧水銀ランプによる光照射で光反応を行い、ホルミル体を得る。得られるホルミル体を、二炭酸ジ−tert−ブチルによってBoc体を合成する。次に、Boc体において、Wittig反応を行い、得られる生成物にHeck試薬を用いることにより、一般式(I)で表わされる化合物を合成することもできる。
【0032】
また、例えば、ピロール−2−カルボキシアルデヒドを出発物質とし、Wittig反応によりニトリル化して、ニトリル体を合成し、次に、ニトリル体を、DIBAL還元することによりホルミル体を得る。得られるホルミル体を、二炭酸ジ−tert−ブチルによってBoc体を合成する。次に、Boc体において、Wittig反応を行い、得られる生成物にHeck試薬を用いることにより、一般式(I)で表わされる化合物を合成することもできる。
【0033】
また、例えば、2−ブロモ−5−メチルピリジンを出発物質とし、NBS(N−ブロモスクシンイミド)によってブロモ化して、ジブロモ体を合成し、次に、ジブロモ体をトリフェニルホスフィンと反応させることによりリンイリド体を得る。一方、ピロール−2−カルボキシアルデヒドをもう一方の出発物質とし、二炭酸ジ−tert−ブチルによってBoc体を合成し、該Boc体と、前記リンイリド体において、Wittig反応を行い、得られる生成物に鈴木カップリング試薬を用いることにより、一般式(I)で表わされる化合物を合成することもできる。
【0034】
また、例えば、4−シアノベンジルブロマイドを出発物質とし、トリフェニルホスフィンと反応させることによりリンイリド体を得る。一方、ピロール−2−カルボキシアルデヒドをもう一方の出発物質とし、二炭酸ジ−tert−ブチルによってBoc体を合成し、該Boc体と、前記リンイリド体において、Wittig反応を行い、得られる生成物に、更にWittig試薬を用いることにより、一般式(I)で表わされる化合物を合成することもできる。
【0035】
本発明の医薬組成物は、経口投与及び非経口投与のいずれの剤形でもよい。これらの剤形は、常法に従って製剤化することができる。本発明の医薬組成物は、上記一般式(I)の化合物の他、医薬的に許容される担体、添加剤等を含むことができる。
【0036】
前記担体及び添加剤としては、水、酢酸、医薬的に許容される有機溶剤、コラーゲン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウム、アルギン酸ナトリウム、水溶性デキストラン、カルボキシメチルスターチナトリウム、ペクチン、メチルセルロース、エチルセルロース、キサンタンガム、アラビアゴム、カゼイン、寒天、ポリエチレングリコール、ジグリセリン、グリセリン、プロピレングリコール、ワセリン、パラフィン、ステアリルアルコール、ステアリン酸、ヒト血清アルブミン、マンニトール、ソルビトール、ラクトース、医薬添加剤として許容される界面活性剤等が挙げられる。
前記添加剤は、本発明の医薬組成物の剤形に応じて、1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0037】
前記剤形としては、経口投与の場合は、錠剤、カプセル剤、細粒剤、粉末剤、顆粒剤、液剤、シロップ剤等が挙げられる。また、非経口投与の場合、剤形としては、注射剤、噴霧剤、塗布剤、外用剤等が挙げられる。ここで、注射剤形の場合、例えば、点滴等の静脈内注射、皮下注射、腹腔内注射等により、全身又は局所的に投与することができる。例えば、注射用製剤の場合、本発明の医薬組成物を溶剤(例えば、生理食塩水、緩衝液、ブドウ糖溶液等)に溶解し、更に適切な添加剤(ヒト血清アルブミン、ポリエチレングリコール、マンノース修飾デンドリマー、シクロデキストリン結合体等)を加えたものを使用することができる。また、使用前に溶解する剤形とするために、凍結乾燥したものであってもよい。凍結乾燥用賦形剤としては、例えば、マンニトール、ブドウ糖等の糖アルコールや糖類を使用することができる。
【0038】
本発明の医薬組成物又は上記一般式(I)化合物の投与量は、対象者の年齢、性別、症状、投与経路、投与回数、剤形等に応じて適宜選択できる。該投与量は、例えば、成人(60kg)の場合、1日当り通常0.006〜600mg、好ましくは0.06〜60mg、より好ましくは0.6〜6mgである。投与方法は、患者の年齢、症状により選択することが好ましい。また、投与は、数日間隔で、1日当り1回投与するか、或いは1日当り2〜4回に分けて投与することが好ましい。
【0039】
本発明の医薬組成物は、抗がん剤として用いることができる。対象になるがんの種類は、急性Tリンパ芽球性白血病(T−ALL)、Tリンパ芽球性リンパ腫(T−LBL)、又は急性骨髄性白血病(AML)である。
【0040】
<キット>
本発明の急性Tリンパ芽球性白血病若しくはリンパ腫、又は急性骨髄性白血病治療用キットは、上述した、上記一般式(I)で表わされる化合物を含むことを特徴とする。
本発明のキットは、上記一般式(I)で表わされる化合物を含むため、酸化及び代謝され難く、また、急性Tリンパ芽球性白血病若しくはリンパ腫、又は急性骨髄性白血病に対する活性及び選択性に優れる。
【0041】
本発明のキットは、上記一般式(I)で表わされる化合物に加えて、医薬的に許容される担体や添加剤、試薬類、補助剤、専用容器、その他の必要なアクセサリー、取扱説明書等を含むことができる。本発明のキットは、癌治療用キットや、研究試薬キットとしても使用することができる。
【実施例】
【0042】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0043】
<細胞培養とin vitro増殖抑制アッセイ>
ヒト白血病由来細胞株(CCRF−CEM、Raji、TF−1、THP1、K562)の培養は、10% fetal bovine serum(Biosera)、Penicillin-Streptomycin(Sigma)、50μMの2−メルカプトエタノール(Sigma)を含むRPMI-1640 Medium(Nacalai)を用いて、37℃−5% COの条件下で行った。なお、TF−1細胞の培養には、上記の培地にhuman GM-CSF(5 ng/mL, Peprotech)を添加した。
増殖抑制アッセイでは、まず、細胞を96 well plateに3,000 cells/wellになるように入れ、それぞれの化合物を段階希釈して添加した。3日間培養した後、Cell Counting Kit-8(Dojin)を添加し4時間培養し、TriStar LB941(Berthold)を用いて450nmの吸光度を測定することで、生存細胞数を比較定量した。
【0044】
<本発明に従う化合物の合成>
(1)機器分析、測定装置
・1H核磁気共鳴スペクトル(1H-NMR)
日本電子社製 ECA 500(500 MHz)を用いて測定し、「1H-NMR(測定周波数、測定溶媒) ケミカルシフト値(水素の数、多重度、スピン結合定数)」と記載した。ケミカルシフト値(δ)は、テトラメチルシラン(δ = 0)を内部基準とし、ppmで表記した。多重度は、s(単一線)、d(二重線)、t(三重線)、q(四重線)、m(多重線あるいは複雑に重なったシグナル)で表示し、幅広いシグナルについてはbrsと付記した。スピン結合定数(J)はHzで記載した。
【0045】
・13C核磁気共鳴スペクトル(13C-NMR)
日本電子社製ECA 500(125 MHz)を用いて測定し、「13C-NMR(測定周波数、測定溶媒) ケミカルシフト値(水素の数、多重度、スピン結合定数)」と記載した。ケミカルシフト値(δ)は、テトラメチルシラン(δ = 0)を内部基準とし、ppmで表記した。多重度は、s(単一線)、d(二重線)、t(三重線)、q(四重線)、m(多重線あるいは複雑に重なったシグナル)で表示した。
【0046】
・質量スペクトル(MS):エレクトロンスプレーイオン法(ESI)
日本電子社製JMS-T100LC型TOF質量分析計AccuTOFを用い、エレクトロンスプレーイオン化法(ESI)により測定した。なお、装置の設定は、脱溶媒ガス250℃、オリフィス1電圧80℃、ニードル電圧2000 V、リングレンズ電圧10 V、オリフィス1電圧85 V、オリフィス2電圧5 Vとした。サンプル送液は、インフュージョン法で行い、流速30 mL/minとした。「ESI-MS (M + 付加イオン) m/z 質量数」と記載した。
【0047】
(2)クロマトグラフィー
・分析用薄層クロマトグラフィー(TLC)
E. Merck社製のTLCプレート、シリカゲル60F254(Art. 5715)厚さ0.25 mmを用いた。TLC上の化合物の検出は、UV照射(254 nmあるいは365 nm)および発色剤に浸した後に加熱して発色させることによって行なった。発色剤としてはp−アニスアルデヒド(9.3 mL)と酢酸(3.8 mL)をエタノール(340 mL)に溶解し、濃硫酸(12.5 mL)を添加したものを用いた。
【0048】
・シリカゲルカラムクロマトグラフィー
関東化学株式会社製のシリカゲル60N(球状、中性、63-210μm)を用いて行い、「使用したシリカゲルの重さ、展開溶媒」と記載した。
【0049】
(3)基本操作
反応後の抽出溶液の乾燥は、飽和食塩水にて洗浄後、無水硫酸ナトリウムを加えることで行った。溶液の減圧濃縮は、アスピレーターの減圧下(20〜30 mmHg)、ロータリーエバポレーターを用いて行った。痕跡量の溶媒の除去は、液体窒素浴で冷却したトラップを装着させた真空ポンプ(約1 mmHg)を用いて行った。溶媒の混合比は、すべて体積比で表した。
【0050】
(4)溶媒
・蒸留水
アドバンテック東洋株式会社製GS-200型蒸留水製造装置を用いて、蒸留、及びイオン交換処理したものを使用した。
【0051】
・トルエン、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ジクロロメタン、テトラヒドロフラン、N,N−ジメチルホルムアミド、アセトニトリル
関東化学株式会社製の有機合成用脱水溶媒、あるいは特級溶媒を、モレキュラーシーブス(4A)を用いて乾燥させて使用した。
【0052】
・NMR測定用溶媒
以下に示すものをそのまま用いた。
CDCl3 : ISOTEC Inc.製 99.7 ATOM%D、0.03% TMS
【0053】
(構造式(II)の化合物、構造式(V)の化合物、及び構造式(VII)の化合物の合成)
構造式(II)の化合物、構造式(V)の化合物、及び構造式(VII)の化合物の合成経路は、以下の通りである。
【化8】
【0054】
市販のp−ブロモトルエン(1)(1400 mg, 8.19 mmol)と、N−ブロモスクシンイミド(1806 mg, 10.03 mmol)と、過酸化ベンゾイル(286.0 mg, 1.22 mmol)を四塩化炭素(25 mL)に溶解させた。この混合溶液をアルゴン雰囲気下において85℃で16時間加熱還流した。反応混合物をカラムクロマトグラフィー[シリカゲル 30.0g ; ヘキサン]で精製すると、ジブロモ体(2)(1781 mg, 7.13 mmol, 87%)が得られた。
【0055】
ジブロモ体(2)(4 g, 16 mmol)、トリフェニルホスフィン(6.29 g, 24 mmol)をo−キシレン(25 mL)に溶解させた。この溶液を150℃で2時間加熱還流した。反応混合物を氷冷し、再結晶を行ない、その後、この結晶をトルエン(5 mL)で洗浄し、リンイリド体(3)(7.93 g, 15.4 mmol, 96%)が得られた。
【0056】
ピロール−2−カルボキシアルデヒド(4)(475 mg, 5 mmol)を塩化メチレン(15 mL)に溶解させ、二炭酸ジ−tert−ブチル(3.3 mL, 10 mmol)とトリエチルアミン(2.4 mL, 17.5 mmol)を加え、5時間撹拌した。その後、この反応混合物を酢酸エチルで抽出し、濃縮した。濃縮後の残渣をカラムクロマトグラフィー[シリカゲル 25.4 g ; ヘキサン]で精製すると、Boc体(5)(120.1 mg, 4.6 mmol, 92%)が得られた。
【0057】
リンイリド体(3)(1.08 mg, 2.31 mmol)をTHF(モレキュラーシーブス5Aで簡易脱水)(15 mL)に溶解した。この溶液にNaH(121.6 mg, 3.04 mmol)を溶解させ、0℃まで冷却し、Boc体(5)(300 g, 1.54 mmol)を溶解させ、25時間撹拌した。その後中和し、酢酸エチルで抽出、濃縮を行った。濃縮後の残渣をカラムクロマトグラフィー[シリカゲル 87.2 g ; H:E = (10 : 1)]で精製すると、ブロモ体(6)(59.9 mg, 0.24 mmol, 16%)が得られた。
【0058】
−構造式(II)の化合物の合成−
ブロモ体(6)(200 mg, 0.806 mmol)をアセトニトリル(7 mL)に溶解させ、この溶液に酢酸パラジウム(1.8 mg, 0.008 mmol)、トリフェニルホスフィン(4.2 mg, 0.016 mmol)、トリエチルアミン(139μL, 1.01 mmol)、市販のHeck反応試薬エチルアクリレート(105μL, 0.967 mmol)を加え、90℃で5時間半加熱還流した。この反応混合物を自動分取クロマトグラフィー(Smart Flash EPCLC AI-580S, Silica Gel 30μm 60Å, ヘキサン:酢酸エチル = 7 : 1 → 2 : 1)で精製すると、目的とする構造式(II)の化合物(18.4 mg, 0.069 mmol, 19%)が得られた。生成物の同定結果は、以下の通りである。
【0059】
1H-NMR (500 MHz, CHLOROFORM-D) δ 8.37 (s, 1H), 7.66 (d, J = 16.0 Hz,1H), 7.48 (d, J = 8.0 Hz, 2H), 7.42 (d, J = 8.0 Hz, 2H), 7.03 (d, J = 16.6 Hz, 1H), 6.84 (m, 1H), 6.64 (d, J = 16.6 Hz, 1H), 6.41(comp., 2H), 6.26 (dd, J = 2.3, 5.8 Hz, 1H), 2.54 (q, J = 6.9 Hz, 2H), 1.34 (t, J = 6.9 Hz, 3H)
13C-NMR (500 MHz, CHLOROFORM-D) δ 167.29 (1C), 144.26 (1C), 139.74 (1C), 133.00 (1C), 130.67 (1C), 128.62 (2C), 126.24 (2C), 122.42 (1C), 120.34 (1C), 119.83 (1C), 117.43 (1C), 110.38 (1C), 110.12 (1C), 60.58 (1C), 14.44 (1C)
ESI-MS [M+H]+ ; m/z 268.11
p-ESI-HRMS : 12C191H1614N116O2の計算値 290.11810 ; 実測値 290.11317 (M+H+)
【0060】
−構造式(V)の化合物の合成−
ブロモ体(6)(50.0 mg, 0.20 mmol)をトルエン(1 mL)に溶解させ、この溶液にPd(PPh(11.6 mg, 0.01 mmol)、2M 炭酸ナトリウム水溶液(1 mL)、鈴木カップリング試薬((OH)BPhCOOEt、36.3 mg, 0.22 mmol)を加え、110℃で2時間加熱還流した。この反応混合物を自動分取クロマトグラフィー(Smart Flash EPCLC AI-580S, Silica Gel 30μm 60Å, ヘキサン:酢酸エチル = 24 : 1 → 4 : 1)で精製すると、目的とする構造式(V)の化合物(12.6 mg, 0.040 mmol, 20%)が得られた。生成物の同定結果は、以下の通りである。
【0061】
1H-NMR (500 MHz, CHLOROFORM-D) δ 8.39 (s, 1H), 8.13-8.10 (m, 2H), 7.69-7.66 (m, 2H), 7.61-7.59 (m, 2H), 7.52-7.47 (m, 2H), 7.04 (d, J = 16.1 Hz, 1H), 6.85-6.83 (m, 1H), 6.70 (d, J = 16.1 Hz, 1H), 6.40-6.39 (m, 1H), 6.28-6.26 (m, 1H), 4.40 (q, J = 7.45 Hz, 2H), 1.41 (t, J = 7.45 Hz, 3H)
ESI-MS [M+Na]+; m/z 340.11
p-ESI-HRMS : 12C211H1914N123Na116O2の計算値 340.13135 ; 実測値 340.13530 (M+Na+)
【0062】
−構造式(VII)の化合物の合成−
ブロモ体(6)(50.0 mg, 0.20 mmol)をトルエン(1 mL)に溶解させ、この溶液にPd(PPh(11.6 mg, 0.01 mmol)、2M 炭酸ナトリウム水溶液(1 mL)、鈴木カップリング試薬((OH)BPhNMe、36.3 mg, 0.22 mmol)を加え、110℃で3時間加熱還流した。この反応混合物を自動分取クロマトグラフィー(Smart Flash EPCLC AI-580S, Silica Gel 30μm 60Å, ヘキサン:酢酸エチル = 24 : 1 → 4 : 1)で精製し、目的とする構造式(VII)の化合物(12.6 mg, 0.040 mmol, 20%)が得られた。生成物の同定結果は、以下の通りである。
【0063】
1H-NMR (500 MHz, CHLOROFORM-D) δ 8.37 (br, 1H), 7.54-7.52 (Comp., 4H), 7.46-7.44 (Comp., 2H), 6.98 (d, J = 16.6 Hz, 1H), 6.82-6.80 (Comp., 1H), 6.35 (m, 1H), 6.26-6.25 (m, 1H), 3.00 (s, 6H)
ESI-MS [M+Na]+ ; m/z 311.24
p-ESI-HRMS : 12C201H2014N223Na1の計算値 311.15242 ; 実測値311.15080 (M+Na+)
【0064】
(構造式(III)の化合物の合成)
構造式(III)の化合物の合成経路は、以下の通りである。
【化9】
【0065】
4−クロロピリジン N−オキサイド(10)(30 mg, 0.230 mmol)と硫酸銅五水和物(600 mg)を蒸留水(25 mL)に溶解し、この混合溶液を110 W水銀ランプに24時間照射させた。この反応混合溶液を、クロロホルムにて500 mLで6回抽出し、濃縮を行った。濃縮後の残渣をカラムクロマトグラフィー[シリカゲル 87.2 g ; C:M= (10 : 1)]で精製すると、ホルミル体(11)(13.8 mg, 0.110 mmol, 48 %)が得られた。
【0066】
ホルミル体(11)(1.09 g, 8.42 mmol)を塩化メチレン(10 mL)に溶解させ、二炭酸ジ−tert−ブチル(3.63 g, 16.9 mmol)とトリエチルアミン(4.09 ml, 29.5 mmol)を加え、24時間撹拌した。その後、この反応混合物をクロロホルムにて300 mLで3回抽出し、濃縮した。濃縮後の残渣をカラムクロマトグラフィー[シリカゲル 32.3 g ; ヘキサン]で精製すると、Boc体(12)(2.22 g, 9.96 mmol, 115%)が得られた。
【0067】
市販の(4−ブロモベンジル)トリフェニルホスホニウムブロマイド(4.01 g, 7.84 mmol)をCHCl(アルミナで中和後、モレキュラーシーブス4Aで簡易脱水)(30 mL)に溶解した。この溶液にNaH(22 g, 0.56 mmol)を溶解させ、0℃まで冷却し、Boc体(12)(1.20 g, 5.23 mmol)を溶解させ、20時間撹拌した。その後、EtOH 10 mLで中和し、1M NaOH10 mLを滴下し、21時間攪拌した。その後、酢酸エチルで抽出、濃縮を行った。濃縮後の残渣を自動分取クロマトグラフィー(Smart Flash EPCLC AI-580S, Silica Gel 30μm 60Å, ヘキサン:酢酸エチル = 7 : 1 → 2 : 1)で精製すると、ブロモ体(13)(352.9 mg, 1.24 mmol, 30%)が得られた。
【0068】
ブロモ体(13)(302 mg, 1.2 mmol)をアセトニトリル(15 mL)に溶解させ、この溶液に酢酸パラジウム(2.37 mg, 0.012 mmol)、トリフェニルホスフィン(5.56 mg, 0.0232 mmol)、トリエチルアミン(183μL, 1.45mmol)、Heck反応試薬(138μL, 1.4mmol)を加え、90℃で14時間加熱還流した。この反応混合物を自動分取クロマトグラフィー(Smart Flash EPCLC AI-580S, Silica Gel 30μm 60Å, ヘキサン:酢酸エチル = 7 : 1 → 2 : 1)で精製すると、目的とする構造式(III)の化合物(33.0 mg, 0.11 mmol, 22%)が得られた。生成物の同定結果は、以下の通りである。
【0069】
1H-NMR (500 MHz, CHLOROFORM-D) δ 8.30 (s, 1H), 7.66 (d, J = 16.0 Hz,1H), 7.50-7.49 (m, 2H), 7.46-7.45 (m, 2H), 7.09 (d, J = 16.6 Hz, 1H), 6.76-6.75 (m, 1H), 6.66 (d, J = 16.6 Hz, 1H), 6.42 (d, J = 15.5 Hz, 1H), 6.22-6.21 (m, 1H), 4.26 (q, J = 6.9 Hz, 2H), 1.33 (t, J = 6.9 Hz, 3H)
13C-NMR (500 MHz, CHLOROFORM-D) δ 167.19 (1C), 144.12 (1C), 139.28 (1C), 133.43 (1C), 128.63 (1C), 126.47 (2C), 126.18 (2C), 123.20 (1C), 119.04 (1C), 117.73 (1C), 116.87 (1C), 114.01 (1C), 110.68 (1C), 60.59 (1C), 14.44 (1C)
ESI-MS [M+Na]+ ; m/z 324.05, ESI-MS [M+H]+ ;m/z 302.07
p-ESI-HRMS : 12C171H1735Cl114N116O2の計算値 302.09478 ; 実測値 302.09740 (M+H+)
【0070】
(構造式(IV)の化合物の合成)
構造式(IV)の化合物の合成経路は、以下の通りである。
【化10】
【0071】
市販のピロール−2−カルボキシアルデヒド(4)(97.1 mg, 1 mmol)、(トリフェニルホスホラニリデン)アセトニトリル(621 mg, 2 mmol)をトルエン(モレキュラーシーブス4Aで簡易脱水)(5 mL)に溶解させた。この溶液を110℃で1時間加熱還流した。反応混合物をカラムクロマトグラフィー[シリカゲル 30.0 g ; ヘキサン:酢酸エチル (2 : 1)]で精製するとニトリル体(15)(120.1 mg, 1.0 mmol, 100%)が得られた。
【0072】
ニトリル体(15)(118 mg, 1 mmol)を脱水テトラヒドロフラン(14 mL)に溶解し、アルゴン雰囲気下とした。この溶液を氷浴し、1.0 M 水素化ジイソブチルアルミニウム−トルエン溶液(3 mL)を滴下し、そのまま30分間撹拌した。その後この反応混合物に十分量のアセトン、水を加え過剰の還元剤を分解した。さらにこの混合溶液に飽和酒石酸カリウムナトリウム水溶液と酢酸エチルを十分量加え、一晩攪拌した。その後、酢酸エチルで抽出した。有機層を合わせ、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧濃縮した。その後カラムクロマトグラフィー[シリカゲル 30.0 g ; ヘキサン:酢酸エチル (2 : 1)]で精製するとこれにより、ホルミル体(16)(121 mg, 0.98 mmol, 98%)が得られた。
【0073】
ホルミル体(16)(615 mg, 5.00 mmol)を塩化メチレン(15 mL)に溶解させ、二炭酸ジ−tert−ブチル(2.18 g, 10.1 mmol)とトリエチルアミン(4.43 ml, 17.5 mmol)を加え、24時間撹拌した。その後、この反応混合物をクロロホルムにて300 mLで3回抽出し、濃縮した。濃縮後の残渣をカラムクロマトグラフィー[シリカゲル 32.3 g ; ヘキサン]で精製するとBoc体(17)(1.12 g, 4.85 mmol, 97%)が得られた。
【0074】
市販の(4−ブロモベンジル)トリフェニルホスホニウムブロマイド(1.55 g, 3.05 mmol)をCHCl(アルミナで中和後、モレキュラーシーブス4Aで簡易脱水)(20 mL)に溶解した。この溶液にNaH(161.6 mg, 4.07 mmol)を溶解させ、0℃まで冷却し、Boc体(17)(500 mg, 2.02 mmol)を溶解させ、16時間撹拌した。その後、EtOH 10 mLで中和し、1M NaOH 2 mLを加え、21時間攪拌した。その後、酢酸エチルで抽出、濃縮を行った。濃縮後の残渣を自動分取クロマトグラフィー(Smart Flash EPCLC AI-580S, Silica Gel 30μm 60Å, ヘキサン:酢酸エチル = 100 : 0 → 81 : 19)で精製すると、ブロモ体(18)(352.9 mg, 1.28 mmol, 63%)が得られた。
【0075】
ブロモ体(18)(500 mg, 1.82 mmol)をアセトニトリル(15 mL)に溶解させ、この溶液に酢酸パラジウム(4.08 mg, 0.018 mmol)、トリフェニルホスフィン(9.55 mg, 0.036 mmol)、トリエチルアミン(314μL, 2.28 mmol)、Heck反応試薬(238μL, 2.18 mmol)を加え、90℃で24時間加熱還流した。この反応混合物を自動分取クロマトグラフィー(Smart Flash EPCLC AI-580S, Silica Gel 30μm 60Å, ヘキサン:酢酸エチル = 7 : 1 → 2 : 1)で精製すると、目的とする構造式(IV)の化合物(38.2 mg, 0.13 mmol, %)が得られた(原料回収130.7 mg, 0.47 mmol)。生成物の同定結果は、以下の通りである。
【0076】
1H-NMR (500 MHz, CHLOROFORM-D) δ 8.28 (s, 1H), 7.65 (d, J = 16.05 Hz,1H), 7.47-7.44 (m, 2H), 7.40-7.39 (m, 2H), 6.94 (dd, J = 15.5, 9.15 Hz, 1H), 6.82-6.91 (m, 1H), 6.60-6.50 (Comp., 3H), 6.41 (d, J = 16.0 Hz, 1H), 6.33 (m , 1H), 6.25-6.23 (m, 1H), 4.27 (q, J = 7.45 Hz, 2H), 1.34 (t, J = 6.9 Hz, 3H)
ESI-MS [M+H]+ ; m/z 294.12, [M+Na]+ ;m/z 316.09
p-ESI-HRMS : 12C191H1914N123Na116O2の計算値 316.13135 ; 実測値 316.12994 (M+Na+)
【0077】
(構造式(VI)の化合物の合成)
構造式(VI)の化合物の合成経路は、以下の通りである。
【化11】
【0078】
市販の2−ブロモ−5−メチルピリジン(20)(2.01 g, 12.0 mmol)と、N−ブロモスクシンイミド(2.09 g, 11.6 mmol)と、過酸化ベンゾイル(422 mg, 1.80 mmol)を四塩化炭素(30 mL)に溶解させた。この混合溶液をアルゴン雰囲気下において85℃で24時間加熱還流した。反応混合物を自動分取クロマトグラフィー(Smart Flash EPCLC AI-580S, Silica Gel 30μm 60Å, ヘキサン:酢酸エチル = 21 : 4 → 63 : 37)で精製するとジブロモ体(21)(1847 mg, 7.37 mmol, 63%)が得られた。
【0079】
ブロモ体(21)(100 mg, 0.40 mmol)、トリフェニルホスフィン(156.8 g, 0.60 mmol)をo−キシレン(10 mL)に溶解させた。この溶液を150℃で2時間加熱還流した。反応混合物を氷冷し、再結晶を行ない、その後、この結晶をトルエン(5 mL)で洗浄し、リンイリド体(22)粗生成物(118 g)が得られた。
【0080】
一方、「構造式(II)の化合物、構造式(V)の化合物、及び構造式(VII)の化合物の合成」の項に記載の方法で、ピロール−2−カルボキシアルデヒド(4)から、Boc体(5)を合成した。
【0081】
リンイリド体(22)(2.91 g, 6.75 mmol)を塩化メチレン(モレキュラーシーブス5Aで簡易脱水)(30 mL)に溶解した。この溶液にNaH(360 mg, 9.11 mmol)を溶解させ、0℃まで冷却し、Boc体(5)(880 mg, 4.50 mmol)を溶解させ、24時間撹拌した。その後、EtOH 10 mLで中和し、1M NaOH10 mLを滴下し、21時間攪拌した。そして酢酸エチルで抽出、濃縮を行った。濃縮後の残渣を自動分取クロマトグラフィー(Smart Flash EPCLC AI-580S, Silica Gel 30μm 60Å, ヘキサン:酢酸エチル = 19 : 1 → 37 : 13)で精製すると、ブロモ体(23)(218.3 mg, 0.88 mmol, 19%)が得られた。
【0082】
ブロモ体(23)(50.0 mg, 0.20 mmol)をトルエン(1 mL)に溶解させ、この溶液にPd(PPh(11.6 mg, 0.01 mmol)、2M 炭酸ナトリウム水溶液(1 mL)、鈴木カップリング試薬(36.3 mg, 0.22 mmol)を加え、110℃で2時間加熱還流した。この反応混合物を自動分取クロマトグラフィー(Smart Flash EPCLC AI-580S, Silica Gel 30μm 60Å, ヘキサン:酢酸エチル =23 : 2 → 71 : 29)で精製すると、目的とする構造式(VI)の化合物(4.2 mg, 0.0013 mmol, 11%)が得られた(原料回収 19.8 mg 0.79mmol回収)。生成物の同定結果は、以下の通りである。
【0083】
1H-NMR (500 MHz, CHLOROFORM-D) δ 8.72 (d, J = 2.3 Hz, 1H), 8.62 (s, 1H), 8.15-8.12 (m, 2H), 8.09-8.07 (m, 2H), 7.84 (dd, J = 2.3, 8.1 Hz, 1H), 7.76 (d, J = 8.6 Hz, 1H), 7.09 (d, J = 16.6 Hz, 1H), 6.87-6.86 (m, 1H), 6.67 (d, J = 16.7 Hz, 1H), 6.44 (m, 1H), 6.29-6.27 (m, 1H)4.41 (q, J = 6.9 Hz, 2H), 1.42 (t, J = 7.5 Hz, 3H)
ESI-MS [M+Na]+; m/z, 341.12, ESI-MS [M+H]+ ;m/z 319.13
p-ESI-HRMS : 12C201H1814N223Na116O2の計算値 341.13 ; 実測値 341.13 (M+H+)
【0084】
(構造式(VIII)の化合物の合成)
構造式(VIII)の化合物の合成経路は、以下の通りである。
【化12】
【0085】
市販の4−シアノベンジルブロマイド(25)(4.66 g)、トリフェニルホスフィン(6.72 g, 25.6 mmol)をo−キシレン(30 mL)に溶解させた。この溶液を150℃で1時間加熱還流した。反応混合物を氷冷し、再結晶を行ない、その後この結晶をトルエン(5 mL)で洗浄し、リンイリド体(26)粗生成物(5.10 g)が得られた。
【0086】
一方、「構造式(II)の化合物、構造式(V)の化合物、及び構造式(VII)の化合物の合成」の項に記載の方法で、ピロール−2−カルボキシアルデヒド(4)から、Boc体(5)を合成した。
【0087】
リンイリド体(26)(4.11 g, 8.93 mmol)を塩化メチレン(モレキュラーシーブス5Aで簡易脱水)(30 mL)に溶解した。この溶液にNaH(464.1 mg, 11.6 mmol)を溶解させ、0℃まで冷却し、Boc体(5)(1.22 g, 5.80 mmol)を溶解させ、18時間撹拌した。その後、EtOH 20 mLで中和し、1M NaOH 2 mLを滴下し、21時間攪拌した。そして酢酸エチルで抽出、濃縮を行った。濃縮後の残渣を自動分取クロマトグラフィー(Smart Flash EPCLC AI-580S, Silica Gel 30μm 60Å, ヘキサン:酢酸エチル = 83 : 17 → 31 : 19)で精製すると、ニトリル体(27)(113.1 mg, 0.51 mmol, 9.1%)が得られた。
【0088】
ニトリル体(27)(86.2 mg, 0.39 mmol)を脱水トルエン(5 mL)に溶解し、アルゴン雰囲気下とした。この溶液を氷浴し、1.0 M 水素化ジイソブチルアルミニウム−トルエン溶液(1.1 mL)を滴下し、そのまま2時間撹拌した。その後、この反応混合物に十分量のアセトン、水を加え過剰の還元剤を分解した。さらにこの混合溶液に飽和酒石酸カリウムナトリウム水溶液と酢酸エチルを十分量加え、一晩攪拌した。その後、酢酸エチルで抽出した。有機層を合わせ、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧濃縮した。その後カラムクロマトグラフィー[シリカゲル 58.4 g ; ヘキサン:酢酸エチル (3 : 1)]で精製することにより、ホルミル体(28)(86.0 mg, 0.38 mmol, 97.4%)が得られた。
【0089】
ホルミル体(28)(30.0 mg, 0.13 mmol)、(カルベトキシエチリデン)トリフェニルホスホラン(156.6 mg, 0.39 mmol)をトルエン(モレキュラーシーブス4Aで簡易脱水)(7 mL)に溶解させた。この溶液を110℃で26時間加熱還流した。反応混合物を自動分取クロマトグラフィー(Smart Flash EPCLC AI-580S, Silica Gel 30μm 60Å, ヘキサン:酢酸エチル = 23 : 2 → 71 : 29)で精製すると、目的とする構造式(VIII)の化合物(10.8 mg, 0.038 mmol, 25.6%)が得られた。生成物の同定結果は、以下の通りである。
【0090】
1H-NMR (500 MHz, CHLOROFORM-D) δ 8.38 (br, 1H), 7.66 (s, 1H), 7.44 (d, J= 8.6 Hz, 2H), 7.39 (d, J= 8.6 Hz, 2H), 7.03 (d, J= 16.6 Hz, 1H), 6.85-6.84 (m, 1H), 6.66 (d, J= 16.6 Hz, 1H), 6.39 (m, 1H), 6.27-6.26 (m, 1H), 4.28 (d, J= 7.5 Hz, 2H), 2.16-2.16 (m, 1H), 1.35 (d, J= 7.4 Hz, 3H)
13C-NMR (500 MHz, CHLOROFORM-D) δ 168.88 (1C), 138.40 (1C), 137.71 (1C), 134.60 (1C), 130.75 (1C), 130.36 (2C), 128.08 (1C), 125.78 (2C), 122.64 (1C), 119.85 (1C), 119.60 (1C), 110.32 (1C), 109.83 (1C), 60.96 (1C), 14.45 (1C), 14.36 (1C)
ESI-MS [M+H]+ ; m/z 282.14070
p-ESI-HRMS : 12C181H2014N116O2の計算値 282.14940 ; 実測値 282.14492 (M+H+)
【0091】
<結果と考察>
上記のようにして、ポリエン部分の異性化と酸化を防ぐ目的で、C=C結合の中央に各種の6員環を挿入した7種類の化合物を合成した。これらの化合物に対して、CCRF−CEM(T−ALL由来)、Raji(Bリンフォーマ由来)、TF−1(AML−M6由来)、THP1(AML−M5由来)、K562[ヒト慢性骨髄性白血病(chronic myeloid leukemia:CML)由来]細胞株を用いて、in vitro増殖抑制活性を測定した。結果を図1図7に示す。
【0092】
図1図7から、構造式(II)、(III)、(IV)、(V)、(VI)、(VII)又は(VIII)で表される化合物は、低濃度でLhx2感受性のヒトT−ALL細胞株CCRF−CEMの増殖を阻害し、同一濃度ではLhx2抵抗性のヒトBリンフォーマ細胞株Rajiの増殖に影響を与えないとの基準を満たしており、天然化合物であるAuxarconjugatin B及びRumbrinと同様の傾向を有することが分かる。
【0093】
より詳細には、構造式(II)の化合物は、CCRF−CEMとTF−1の増殖を低濃度で抑制した。IC50値は、CCRF−CEMに対しては1.5μMであり、TF−1に対しては0.74μMであった(図1)。また、構造式(II)の化合物は、Raji、THP1、K562の増殖も2.4〜6.7μMのIC50値で抑制した。
【0094】
構造式(III)の化合物は、構造式(II)の化合物のピロール部分を塩素化した化合物であり、構造式(a)の化合物のC=C結合間にベンゼン環を挿入した構造を有している。構造式(III)の化合物は、CCRF−CEMとTF−1に対するIC50値がそれぞれ2.0μMと0.36μMであり、構造式(II)の化合物とほぼ同程度であった(図2)。
【0095】
構造式(IV)の化合物は、構造式(II)の化合物のピロール部分側のC=C結合を1個増やした化合物である。構造式(IV)の化合物は、Raji以外の白血病細胞株の増殖を1μM以下の低濃度で抑制し、特に、CCRF−CEM、TF−1、THP1に対するIC50値が、それぞれ0.13μM、0.074μM、0.30μMと良好であった(図3)。
【0096】
構造式(V)の化合物は、構造式(II)の化合物のC=C結合間にベンゼン環をもう1個挿入した化合物である。構造式(V)の化合物は、CCRF−CEM、TF−1、K562に対するIC50値がそれぞれ0.77μM、0.35μM、4.9μMであり、目標基準を満たしていた(図4)。
【0097】
構造式(VI)の化合物は、構造式(V)の化合物のベンゼン環の一方をピリジン環に置き換えた化合物である。構造式(VI)の化合物は、CCRF−CEMとTF−1に対するIC50値がそれぞれ0.56μMと0.71μMであり、THP1とK562の増殖も3.2〜8.0μMのIC50値で抑制した(図5)。
【0098】
構造式(VII)の化合物は、構造式(II)の化合物のエステル末端をアミノ基と置換した化合物である。構造式(VII)の化合物は、CCRF−CEMとTF−1に対するIC50値がそれぞれ1.4μM、0.16μMであり、目標基準を満たしていた(図6)。
【0099】
構造式(VIII)の化合物は、構造式(II)の化合物のエステル末端にメチル基を導入した化合物である。構造式(VIII)の化合物は、CCRF−CEMとTF−1の増殖を、それぞれ0.95μMと0.46μMのIC50値で抑制した(図7)。
【0100】
以上のin vitro実験結果から判断すると、T−ALL/AML選択的な増殖抑制活性という点からは、構造式(III)の化合物が最も優れていた。構造式(III)の化合物は、構造式(a)の化合物より体内安定性が高いものと考えられ、T−ALL、及びM5/M6タイプのAMLに対する治療薬として有望である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7