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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-139046(P2021-139046A)
(43)【公開日】2021年9月16日
(54)【発明の名称】包装用板金製品
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20210820BHJP
   C22C 38/54 20060101ALI20210820BHJP
   C21D 9/48 20060101ALI20210820BHJP
   C21D 1/06 20060101ALI20210820BHJP
   C21D 1/76 20060101ALI20210820BHJP
   C23C 8/26 20060101ALI20210820BHJP
【FI】
   C22C38/00 301T
   C22C38/54
   C21D9/48 M
   C21D1/06 A
   C21D1/76 M
   C23C8/26
【審査請求】有
【請求項の数】15
【出願形態】OL
【外国語出願】
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2021-33202(P2021-33202)
(22)【出願日】2021年3月3日
(31)【優先権主張番号】10 2020 106 164.1
(32)【優先日】2020年3月6日
(33)【優先権主張国】DE
(31)【優先権主張番号】10 2020 126 437.2
(32)【優先日】2020年10月8日
(33)【優先権主張国】DE
(71)【出願人】
【識別番号】513213841
【氏名又は名称】ティッセンクルップ ラッセルシュタイン ゲー エム ベー ハー
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】特許業務法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】バークハード カウプ
(72)【発明者】
【氏名】ルイーザ−マリエ ハイネ
(72)【発明者】
【氏名】ブレイス マシコット
【テーマコード(参考)】
4K028
4K037
【Fターム(参考)】
4K028AA02
4K028AB01
4K037EA01
4K037EA02
4K037EA04
4K037EA05
4K037EA11
4K037EA13
4K037EA15
4K037EA17
4K037EA18
4K037EA19
4K037EA20
4K037EA23
4K037EA25
4K037EA27
4K037EA31
4K037FA02
4K037FA03
4K037FC03
4K037FC04
4K037FE01
4K037FE02
4K037FE03
4K037FG00
4K037FH01
4K037FJ02
4K037FJ04
4K037FJ05
4K037FM01
4K037FM02
4K037GA03
4K037GA07
4K037HA01
(57)【要約】      (修正有)
【課題】高い二軸強度を有し、多軸変形中に良好な変形挙動を示す包装用板金製品を提供する。
【解決手段】0.6mm未満の厚みを有する冷間圧延鋼板から作製される包装用板金製品であって、重量%で:C:0.001〜0.06%、Si:<0.03%、Mn:0.17〜0.5%、P:<0.03%、S:0.001〜0.03%、Al:0.001〜0.1%、N:0.002〜0.12%、任意でCr、Ni、Cu、Ti、B、Nb、Mo、Sn、残部鉄及び不可避的不純物を有し、バルジ試験の二軸変形において、300MPa超の下降伏強度、及び10%超の対応する破断伸びを有し、リューダース伸びと(塑性)伸び上限との間の塑性領域では、関数σ=b・εにより表すことができる二軸応力−ひずみ線図σ(ε)を有し、厚み方向の強化は、n≧0.353−5.1・SbeL/10MPaのひずみ硬化指数により特徴付けられる包装用板金製品である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.6mm未満の厚みを有する冷間圧延鋼板から作製された包装用板金製品であって、重量%で下記の組成:
C:0.001〜0.06%、
Si:<0.03%、好ましくは0.002〜0.03%、
Mn:0.17〜0.5%、
P:<0.03%、好ましくは0.005〜0.03%、
S:0.001〜0.03%、
Al:0.001〜0.1%、
N:0.002〜0.12%、好ましくは0.004〜0.07%、
任意でCr:<0.1%、好ましくは0.01〜0.1%、
任意でNi:<0.1%、好ましくは0.01〜0.05%、
任意でCu:<0.1%、好ましくは0.002〜0.05%、
任意でTi:<0.01%、
任意でB:<0.005%、
任意でNb:<0.01%、
任意でMo:<0.02%、
任意でSn:<0.03%、
残部鉄及び不可避的不純物、
を有し、
バルジ試験の二軸変形において、前記包装用板金製品は、300MPa超の下降伏強度(SbeL)、及び10%超の対応する破断伸び(Ab)を有し、リューダース伸び(Ab)と(塑性)伸び上限ε最大=0.5・Ab・(SbeL/Sb)との間の塑性領域において、関数σ=b・εにより表すことができる二軸応力−ひずみ線図σ(ε)を有し、
σは真二軸応力(MPa)であり、
εは厚み方向の真伸び量(%)であり、
SbeLは下降伏強度であり、
Sbは絶対強度であり、
Abはリューダース伸びであり、
bは比例定数であり、
nはひずみ硬化指数であり、
前記包装用板金製品の厚み方向の強化は、
n≧0.353−5.1・SbeL/10MPa
のひずみ硬化指数により特徴付けられる、
包装用板金製品。
【請求項2】
少なくとも0.002%、好ましくは0.004%超の重量割合の窒素が、非結合状態で、鋼の格子間に取り込まれていることを特徴とする、請求項1に記載の包装用板金製品。
【請求項3】
前記包装用板金製品は、
鋼スラブを熱間圧延することにより、好ましくは2mm〜4mmの範囲の厚みを有するホットストリップにすることと、
Ar1温度より低い巻き取り温度で、特に500℃〜750℃の範囲の巻き取り温度で、前記ホットストリップを巻き取ることと、
少なくとも80%の圧延率で、前記ホットストリップを冷間圧延することにより、冷間圧延鋼ストリップにすることと、
少なくとも550℃の温度で、窒素ドナーの存在下で、焼きなまし炉内で、特に連続焼きなまし炉内で、前記冷間圧延鋼ストリップの窒素含有率を増加させ、少なくとも630℃の焼きなまし温度で、焼きなまし炉内で、前記冷間圧延鋼ストリップを再結晶焼きなましすることと、
再結晶−焼きなまし鋼ストリップを、室温に冷却することと、
0.2%〜45%の最終圧延率で、再結晶処理された鋼ストリップを再圧延することと、
によって得られる、請求項1又は2に記載の包装用板金製品。
【請求項4】
前記スラブの熱間圧延中の最終的な圧延温度は、Ar3温度よりも高く、特に800℃〜920℃の範囲であることを特徴とする、請求項3に記載の包装用板金製品。
【請求項5】
前記焼きなまし炉内における前記鋼ストリップの滞在時間は、10秒〜400秒の間であることを特徴とする、請求項3又は4に記載の包装用板金製品。
【請求項6】
前記最終圧延率は、20%以下、特に1〜18%の範囲であることを特徴とする、請求項3〜5のいずれか一項に記載の包装用板金製品。
【請求項7】
前記窒素ドナーは、前記焼きなまし炉内で前記温度において少なくとも部分的に原子状窒素に解離する、請求項3〜6のいずれか一項に記載の包装用板金製品。
【請求項8】
前記窒素ドナーはアンモニアガスである、請求項3〜7のいずれか一項に記載の包装用板金製品。
【請求項9】
前記ホットストリップは、0.001wt%〜0.016wt%の範囲、好ましくは0.001wt%〜0.008wt%の初期窒素割合Nを有し、前記焼きなましにおける前記平鋼製品中の窒素の重量割合は、前記窒素ドナーの存在下で、ΔN≧0.002wt%増加されることを特徴とする、請求項3〜8のいずれか一項に記載の包装用板金製品。
【請求項10】
前記冷間圧延鋼板の少なくとも一方の表面に表面コーティング、特に電解によって設けられたスズ及び/又はクロム/クロム酸化物コーティング、及び/又は有機コーティング、特にニス若しくはポリマーフィルムの形態の有機コーティングを含むことを特徴とする、請求項1〜9のいずれか一項に記載の包装用板金製品。
【請求項11】
前記包装用板金製品の特性は、前記包装用板金製品の時効後に、特に200℃〜210℃の範囲の時効温度で、20〜30分にわたる熱処理により人工時効の後に、又は保管後に、及び/又はニスを塗った後に乾かすことにより得られる、請求項1〜10のいずれか一項に記載の包装用板金製品。
【請求項12】
前記包装用板金製品の厚み(d)及び前記ホットストリップの厚み(D)から得られる全冷間圧延率GKWG[冷間圧延率の合計]=1−d/Dが、少なくとも0.90である、請求項3〜11のいずれか一項に記載の包装用板金製品。
【請求項13】
0.10mm〜0.50mmの範囲、好ましくは0.12mm〜0.35mmの厚み(d)を有する、一回又は二回圧延された薄板である、請求項1〜12のいずれか一項に記載の包装用板金製品。
【請求項14】
缶本体を製造するために、請求項1〜13のいずれか一項に記載の包装用板金製品の使用。
【請求項15】
0.6mm未満の厚みを有する冷間圧延鋼板から作製される包装用板金製品の製造及び特徴付けの方法であって、前記包装用板金製品は、少なくとも80%の圧延率で、ホットストリップを一回又は二回冷間圧延することにより製造され、前記ホットストリップは重量%で下記の組成:
C:0.001〜0.06%、
Si:<0.03%、好ましくは0.002〜0.03%、
Mn:0.17〜0.5%、
P:<0.03%、好ましくは0.005〜0.03%、
S:0.001〜0.03%、
Al:0.001〜0.1%、
N:<0.016%、好ましくは0.001〜0.008%、
任意でCr:<0.1%、好ましくは0.01〜0.08%、
任意でNi:<0.1%、好ましくは0.01〜0.05%、
任意でCu:<0.1%、好ましくは0.002〜0.05%、
任意でTi:<0.01%、
任意でB:<0.005%、
任意でNb:<0.01%、
任意でMo:<0.02%、
任意でSn:<0.03%、
残部鉄及び不可避的不純物、
を有し、
前記冷間圧延鋼ストリップは、少なくとも550℃の温度で、窒素ドナーの存在下で、焼きなまし炉内で、特に連続焼きなまし炉内で、重量%でΔN≧0.002%の窒素含有率となるように窒化され、少なくとも630℃の焼きなまし温度で再結晶焼きなましされ、その後、室温に冷却され、0.2%〜45%の最終圧延率で最終的に冷間圧延され、その後、変形能の特徴付けのために、塑性領域で、バルジ試験の二軸変形が加えられ、前記包装用板金製品は、300MPa超の下降伏強度(SbeL)及び10%超の対応する破断伸び(Ab)を示し、リューダース伸び(Ab)と(塑性)伸び上限ε最大=0.5・Ab・(SbeL/Sb)との間の領域において、関数σ=b・εにより表すことができる二軸応力−ひずみ線図σ(ε)を示し、
σは真二軸応力(MPa)であり、
εは厚み方向の真伸び量(%)であり、
SbeLは下降伏強度であり、
Sbは絶対強度であり、
Abはリューダース伸びであり、
bは比例定数であり、
nは、
n≧0.353−5.1・SbeL/10MPa
を満たすひずみ硬化指数である、
方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、0.6mm未満の厚みを有する冷間圧延鋼板から作製される包装用板金製品に関する。
【背景技術】
【0002】
包装用板金製品は、飲料缶、食品缶、又はエアゾール缶等の包装材を製造するために使用される、0.6mmまでの厚みを有する冷間圧延鋼板である。包装用板金製品は、包装材を製造する際に、深絞り加工やしごき加工等の強い変形を加えられるため、一方では、高い変形性を有していなくてはならない。他方では、包装材の重量を低減するために、高い強度の可能な限り薄い鋼板が、包装用板金製品として使用される。このような包装用板金製品は、熱間圧延鋼板を一回又は二回冷間圧延する工程により、所望の最終の厚みにされる。全冷間圧延率(冷間圧延による厚みの減少率)は、一般的に、少なくとも80%であり、この場合、熱間圧延鋼板(ホットストリップ)は、厚みを低減させるために、一回又は二回冷間圧延される。一回圧延鋼板(SR)は、冷間圧延後、変形性を回復させるために、再結晶焼きなましされ、その後、任意で、5%未満の制限された最終圧延率で、再圧延又は冷間仕上げが施される。二回圧延鋼板(DR)では、再結晶焼きなまし後に、鋼板をしばしば0.3mm未満の所望の最終的な厚みにするために、5〜45%の間の最終圧延率で、二回目の冷間圧延工程が行われる。
【0003】
全冷間圧延率、すなわち、所望の最終の厚みにする一回又は二回の冷間圧延による熱間圧延鋼の厚みの減少率は、技術的及び材料特有の理由により限定されるため、冷間圧延鋼板の最終的な厚みを可能な限り薄くするために、熱間圧延鋼板(ホットストリップ)の厚みを限定することが要求される。しかし、ホットストリップの厚みを限定することは、一方では、経済的理由により、他方では、ホットストリップに材料欠陥が生じるため、不利である。普通の厚みを有するホットストリップを一回又は二回冷間圧延することにより、0.6mm未満、好ましくは0.5mm未満、特に0.35mm未満の可能な限り薄い最終的な厚みを有する鋼板を製造可能にするためには、全冷間圧延率が85%超である必要がある。しかし、所定の組成を有する鋼板の全冷間圧延率は、技術的理由及び包装材の製造に必要な鋼板の変形挙動の両方のため、任意に高い値に増加させることはできない。例えば、全冷間圧延率が高すぎると、冷間圧延鋼板が耳割れを起こす傾向が高くなる。所定の鋼組成を有する鋼板は、全冷間圧延率に依存して耳割れの傾向を有しており、それは、最適な冷間圧延率の冷間圧延鋼板から形成されるカップの上端の最小耳高さを示す。
【0004】
また、耳割れの傾向が可能な限り小さくなる冷間圧延鋼板の最適な全冷間圧延率(全冷間圧延率の最適値)は、鋼の組成に依存する。炭素と窒素の含有率が比較的低い鋼では、全冷間圧延率の最適値が高くなる。しかし、炭素と窒素は鋼の強度の増加に寄与するため、炭素と窒素の含有率が非常に低い鋼は、中程度の強度しか示さない。しかし、中程度の強度しか有していない鋼からは、十分な最終的な安定性を有する、限定された厚みの包装材を製造できない。
【発明の概要】
【0005】
これを出発点として、本発明の課題は、可能な限り薄い厚みで十分に高い二軸強度を有し、同時に包装材を製造するための多軸変形中に、良好な変形挙動を示す冷間圧延鋼板を提供することである。冷間圧延鋼板は、普通ではない厚み範囲のホットストリップがその製造のために使用することができるように、可能な限り高い全冷間圧延率で、熱間圧延鋼板(ホットストリップ)を、再結晶焼きなまし後に冷間仕上げにより一回冷間圧延することによって、又は、再結晶焼きなまし後に、二回目の冷間圧延工程により、二回冷間圧延することによって、0.6mm未満の所望の薄い最終厚み、0.10mm〜0.50mmの範囲の好ましい最終厚みに製造される。包装用板金製品としての本発明の冷間圧延鋼板は、包装材を製造する際の深絞り加工やしごき加工等の多軸変形工程における高い要求を満たさなくてはならず、そのような工程では、包装用板金製品は、材料の破損なく且つ製造される三次元の包装材本体の強度を損なうことなく、特に多軸変形及び厚み方向の薄肉化に耐えなくてはならない。
【0006】
これらの課題は、請求項1に記載の包装用板金製品により解決される。本発明の包装用板金製品の好ましい特徴及び特性、並びにその製造方法は、従属請求項から明らかである。本発明による包装用板金製品を特徴付ける方法は、請求項15に規定される。
【0007】
本発明は、下記を考慮することから始まる。
【0008】
包装用板金製品から包装材を製造するための変形方法、例えば、飲料缶の製造のための深絞り加工やしごき加工では、元の厚みが局所的に0.6mm未満の包装用板金の大きな薄肉化と共に、包装用板金(冷間圧延鋼板)の多軸変形が生じる。例えば、飲料缶の深絞り加工及びしごき加工中に、包装用板金の厚みは、変形用のダイによって包装用板金を変形させることにより、缶本体の中央部分において、元の厚みの約30%にまで低減される。この際に生じる材料の応力は、一軸引張試験の応力−ひずみ線図により決定される引張強度及び破断伸びのような機械的性質によって、不適当にのみ特徴付けられる。このため、一軸引張試験により決定された特徴に基づき、包装用板金製品の機械的性質を最適化することは、好ましくない。
【0009】
したがって、材料特性を最適化するために、包装用板金製品の機械的性質及び特に変形挙動の特徴は、多軸引張試験によってより特徴付けることができるという事実から、本発明は出発する。本発明による包装用板金製品の機械的性質及び変形能は、したがって、光学測定システムを用いた、(EN ISO 16808に準じる)DIN EN ISO 16808規格により規定される液圧カッピング試験(下記ではバルジ試験とも記載する)により有利に記録される。DIN EN ISO 16808規格の液圧カッピング試験では、二軸応力−ひずみ曲線が、鋼板の試験片で、光学測定システムによって決定され、純粋な伸長形態の真二軸応力を、厚みの減少を考慮して、変形の程度(厚み方向の真伸び量ε)により記録される。この目的のために、鋼板の試験片は、特に円形のブランクであり、端部をダイと留め具との間に固定し、その後、鋼板にクラックが生じるまで突出するように、固定した鋼板に対して液圧を掛ける。液圧カッピング試験中、液体の圧力が測定され、光学測定器具により、板の変形の変化が記録される。板の変形の記録に基づき、変形した板の、局所的な曲率、表面の変形の程度、及び厚みを記録することができる。液体の圧力、変形した板の厚み、及び曲率半径から、(真)二軸応力と厚み方向の真伸びを算出することができる。これらのデータから、二軸応力−ひずみ曲線(二軸の応力の流れ曲線)を決定する。バルジ試験から得られる二軸応力−ひずみ曲線の曲線形状は、一軸引張試験(例えば、DIN EN ISO 6892−1規格に規定される)と比較すると、類似した曲線形状を有している。しかし、バルジ試験の液圧カッピング試験では、弾性領域を超えると、同じ材料において、変形の値がより高く、特に伸び値がより高く、さらにより顕著な冷間硬化が達成される。
【0010】
同じ試験片において、一軸引張試験とバルジ試験の応力−ひずみ曲線の曲線形状が類似していることから、例えば、絶対強度、下降伏強度及び上降伏強度、破断伸び、並びにリューダース伸び等の一軸引張試験により通常決定される機械的特徴は、液圧カッピング試験(バルジ試験)の二軸応力−ひずみ曲線に適宜割り当てることができると想定される。表1は、一軸引張試験及びバルジ試験による液圧カッピング試験から得られた機械的特徴を割り当てたものを示している。図1に、時効鋼板の試験片のバルジ試験から決定された二軸応力−ひずみ曲線の例が示されている。図1では、真二軸応力σ[MPa]が、厚み方向の真伸び量|ε|[%]に対してプロットされ、記録された機械的特徴が、表1に従い示され、プロットされている。バルジ試験の二軸引張試験では、厚みの減少により、厚み方向の真伸びは負になる。よって、(真)伸びεは、常に板の厚み方向の負の伸び量と理解され、その場合、厚みの減少は真伸びを記録していると考えられる。図1の挿入部分に、弾性及び塑性変形の領域が拡大表示されている。
【0011】
表1に示されている鋼板の試験片の機械的特徴は、図1の例に示されているように、二軸応力−ひずみ線図において、下記のように決定される。
【0012】
応力−ひずみ線図の曲線は、横座標において連続する3つの特徴的な領域を示す。
【0013】
(1)応力対伸びの直線的な傾きを示す弾性領域
上降伏強度SbeHは、応力における最初の明確な低下が生じる前の、この直線の極大であると説明される。
【0014】
(2)塑性領域への遷移又は塑性領域の開始を示す、応力が伸びに対してほぼ一定である不連続な曲線形状
この不連続な領域内の最も低い応力は、下降伏強度SbeLに対応し、遷移現象は考慮されない。不連続な領域(2)の最後、つまり再び連続的に上昇する曲線形状を示す領域(3)である次の領域への遷移部分において、リューダース伸びAbが決定される。この目的のために、弾性領域の初期の線に平行な線が引かれ、横座標との交点においてリューダース伸びが読み取られる。したがって、材料の弾性回復は考慮されない。
【0015】
(3)応力が伸びに対して破断点に至るまで連続的に上昇する、均一な冷間硬化の塑性領域
一方では、曲線形状の最後で、破断時の最大応力を表す絶対強度Sbが決定される。他方では、破断伸びAbが読み取られ、その方法はリューダース伸びの決定に類似している。つまり、弾性領域の初期の線に平行な線が引かれ、横座標との交点において破断伸びが読み取られる。したがって、ここでも材料の弾性回復は考慮されない。
【0016】
図2に、図1の応力−ひずみ曲線の塑性領域のうちリューダース伸びAbと(塑性)伸び上限ε最大=0.5・Ab・(SbeL/Sb)との間の領域が示されている。Abは破断伸びであり、SbeLは下降伏強度であり、Sbは絶対強度である。図2に示されている応力−ひずみ曲線の塑性領域は、関数σ=b・εにより表すことができ、σは真二軸応力(MPa)、εは厚み方向の真伸び量(%)、bは比例定数、nはひずみ硬化指数(加工硬化係数)である。図2の例では、応力−ひずみ曲線の弾性−塑性領域は、リューダース伸びAbと(塑性)伸び上限ε最大との間において、関数σ=b・ε(b=402MPa、n=0.132)により表されている。図2の応力−ひずみ線図において、近似曲線が引かれている。
【0017】
このような予備的考慮から始め、本発明は、
0.6mm未満の厚みを有する冷間圧延鋼板から作製される包装用板金製品であって、重量%で下記の組成:
C:0.001〜0.06%、
Si:<0.03%、好ましくは0.002〜0.03%、
Mn:0.17〜0.5%、
P:<0.03%、好ましくは0.005〜0.03%、
S:0.001〜0.03%、
Al:0.001〜0.1%、
N:0.002〜0.12%、好ましくは0.004〜0.07%、
任意でCr:<0.1%、好ましくは0.01〜0.08%、
任意でNi:<0.1%、好ましくは0.01〜0.05%、
任意でCu:<0.1%、好ましくは0.002〜0.05%、
任意でTi:<0.01%、
任意でB:<0.005%、
任意でNb:<0.01%、
任意でMo:<0.02%、
任意でSn:<0.03%、
残部鉄及び不可避的不純物、
を有し、
バルジ試験の二軸変形において、包装用板金製品は、300MPa超の下降伏強度(SbeL)、及び10%超の対応する破断伸び(Ab)を有し、リューダース伸び(Ab)と(塑性)伸び上限ε最大=0.5・Ab・(SbeL/Sb)との間の塑性領域では、関数σ=b・εにより表すことができる二軸応力−ひずみ線図σ(ε)を有し、
σは真二軸応力(MPa)であり、
εは厚み方向の真伸び量(%)であり、
SbeLは下降伏強度であり、
Sbは絶対強度であり、
Abはリューダース伸びであり、
Abは破断伸びであり、
bは比例定数であり、
nはひずみ硬化指数であり、
包装用板金製品の厚み方向の強化は、
n≧0.353−5.1・SbeL/10MPa
のひずみ硬化指数により特徴付けられる。
【0018】
バルジ試験により決定される二軸応力−ひずみ曲線の対応する特性を有する包装用板金製品は、2mm〜4mmの好ましい厚みを有するホットストリップを一回又は二回冷間圧延して、0.6mm未満の最終的な厚みに鋼板の厚みを低減することにより製造することができる。このような包装用板金製品は、一方では、包装材の製造のための十分に高い二軸強度により特徴付けられ、他方では、十分に高い多軸変形能を有しているため、厚み方向に材料をかなり薄肉化しても、クラックを生じることなく、多軸変形下での要求の厳しい深絞り加工による包装材の製造を可能にすることができる。高い二軸強度及び高い多軸変形能により、製造される包装材の安定性を妥協するおそれなく、より薄い包装用板金製品を、包装材の製造に使用することができる。より薄い包装用板金製品を使用することにより、それらから製造される包装材の重量を低減することができる。
【0019】
二軸応力−ひずみ曲線を記録することによりバルジ試験の液圧カッピング試験によって決定することができる、本発明による包装用板金製品のこれらの有利な機械的性質は、一方では、0.001〜0.06wt%の範囲の低い炭素含有率を有する冷間圧延鋼板の組成により、他方では、0.002〜0.12wt%の高い窒素含有率により達成することができる。窒素は、窒化ガス雰囲気、特にアンモニア雰囲気の焼きなまし炉内で、冷間圧延鋼板の窒素含有率を増加させることにより、好ましくは、及び少なくとも本質的に、冷間圧延鋼板に取り込まれる。焼きなまし炉内で鋼板の窒素含有率を増加させることにより、導入された窒素を鋼板の断面にわたって、鋼の(フェライト)格子間に非常に均一に取り込む(侵入する)ことができる。これにより、熱間圧延鋼板(ホットストリップ)の良い特性を維持し、高い全冷間圧延率の最適値及び高い固溶体硬化を保つことができる。特に、ホットストリップ内の窒素含有率を低く、特に0.016wt%未満に保つことができる。これにより、溶融鋼からスラブを製造するときに、スラブにクラックやポアが生じることなく、スラブを熱間圧延することにより製造されるホットストリップの強度が高くなりすぎず、それ故、通常の圧延装置により、80%超の全冷間圧延率(一回又は二回の冷間圧延による圧延率の合計)で、冷間圧延することができる。
【0020】
焼きなまし炉内で冷間圧延鋼板の窒素含有率を増加させる間に取り込まれる窒素は、鋼板の表面に硬くてもろい窒化物層を形成することなく、鋼板の厚みにわたって均一に分布するように導入することができる。これは、特に、ストリップの形状の鋼板(すなわち、冷間圧延鋼ストリップ)を、好ましくは200m/分超の所定のストリップ速度で、連続焼きなまし炉内を通過させ、一方で、窒化ガス、特にアンモニアガスを導入して、焼きなまし炉内に窒素含有ガス雰囲気を作り、他方で、窒化ガス、特にアンモニアガスをノズルにより鋼ストリップの少なくとも片面又は両面に均一にスプレーすることで、冷間圧延鋼板の窒素含有率を増加させることにより、達成することができる。
【0021】
冷間圧延鋼板の全窒素含有率を最大にするために、ホットストリップは、好ましくは、すでに0.001wt%〜0.016wt%の範囲の初期窒素割合Nを有しており、そうすることにより、冷間ストリップの窒素含有率を増加させることで生じる固溶体硬化が最大になる。ホットストリップの初期窒素含有率は、焼きなまし炉内で窒素含有率を増加させる際に、少なくとも0.002wt%増加させることが好ましい。ホットストリップ内の初期窒素割合Nと、焼きなまし炉内で冷間圧延鋼ストリップの窒素含有率を増加させる際に取り込まれる窒素割合ΔNとからなる、全窒素含有率は、焼きなまし炉内の窒素ドナー(窒素供与体)の存在下での冷間圧延鋼ストリップの焼きなまし中に、焼きなまし温度において解離した窒素ドナーの原子状窒素の冷間圧延鋼板内への拡散によって調整され、これにより、窒素割合がΔN増加する。焼きなまし炉内で窒素含有率を増加させる際に取り込まれる窒素割合ΔNは、少なくとも0.002wt%であることが好ましい。
【0022】
冷間圧延鋼板内の遊離窒素の全重量割合は、ホットストリップ内の遊離窒素含有率N遊離(ホットストリップ)と、連続焼きなまし炉内で窒素含有率を増加させることにより加えられる窒素ΔNの合計:
遊離=N遊離(ホットストリップ)+ΔN
から得られる。
【0023】
連続焼きなまし炉内で窒素含有率を増加させる際に窒素割合ΔNが少なくとも本質的に格子間に取り込まれると想定される。冷間圧延鋼板内の遊離窒素の重量割合の上限は、鋼のフェライト格子内の窒素の固溶限により決定され、約0.1wt%である。
【0024】
焼きなまし炉内で冷間圧延鋼板の窒素含有率を増加させるために使用される窒素ドナーは、焼きなまし炉内の窒素含有ガス雰囲気、特にアンモニア含有雰囲気、又は冷間圧延鋼板を焼きなまし炉内で加熱する前に、冷間圧延鋼板の表面に適用される窒素を含む液体であり得る。窒素ドナーは、焼きなまし炉内で解離により原子状窒素が利用可能になり、鋼板内に拡散できるように形成されなくてはならない。特に、窒素ドナーは、アンモニアガスであり得る。これを焼きなまし炉内で原子状窒素に解離させるために、冷間圧延鋼板の窒素含有率を増加させる際の焼きなまし炉内の温度は、400℃超に設定されることが好ましい。
【0025】
連続焼きなまし炉内で冷間圧延鋼板の窒素含有率を増加させることは、再結晶焼きなまし前、再結晶焼きなまし中、又は再結晶焼きなまし後に行うことができる。例えば、連続焼きなまし炉の上流の第1ゾーンにおいて、窒素ドナーの存在下で、再結晶温度より低い第1の温度で、連続焼きなまし炉内の窒素含有率を増加させ、その後、自由再結晶焼きなましのために、連続焼きなまし炉の下流の第2ゾーンにおいて、再結晶温度より高い第2の温度で、鋼板を加熱することが可能である。このような窒素含有率の増加と再結晶焼きなましの順序は、逆にすることもできる。窒素含有率を増加させるのに最適な温度は、再結晶焼きなましの温度よりも低いため、上記のように窒素含有率の増加と再結晶焼きなましとを連続焼きなまし炉内の異なるゾーンで別々に行うことは、対応する工程に最適な温度を設定できるという利点がある。しかし、経済的な理由から、窒素含有率の増加と鋼板の焼きなましを連続焼きなまし炉内で同時に行う場合は、窒素ドナーの存在下で、再結晶温度より高い温度で行うことが好ましい。
【0026】
焼きなまし炉内で冷間圧延鋼板の窒素含有率を増加させることによって、窒素が、鋼板のフェライト格子内に本質的に非結合状態で、すなわち、鋼板のフェライト格子内に溶解状態で、鋼板に導入されることが達成される、なぜなら、焼きなまし炉内で窒素含有率を増加させる際に導入される窒素は、アルミニウムやクロムのような強い窒化物形成物質と結合せず、窒化物にならないからである。したがって、鋼内で溶解している非結合窒素が固溶体硬化により強度の増加に寄与するため、高い強度が達成される。0.003%超、好ましくは少なくとも0.01%の重量割合の窒素が、鋼の格子間に非結合状態で取り込まれることが好ましい。したがって、焼きなまし炉内で窒素含有率を増加させることにより冷間圧延鋼板内に導入される窒素は、固溶体硬化、よって包装用板金製品の強度パラメータの増加に(ほぼ)完全に寄与することができるため、二軸変形下での液圧カッピング試験(バルジ試験)において、300MPa超の下降伏強度SbeLを達成することができる。
【0027】
鋼板の窒素含有率を増加させることにより生じる固溶体硬化は、取り込まれる窒素が鋼の格子(特にフェライト格子)間に非結合状態で導入される場合に、最も効率的であるため、窒素が窒素化合物の状態で結合されることを防ぐために、鋼の合金組成が有する、Al、Ti、B、Cr、Mo及び/又はNbのような(強い)窒化物形成物質は可能な限り少ないほうが都合がよい。したがって、鋼の合金組成は、下記の窒化物形成合金成分の重量割合について、下記の上限を有することが好ましい。
Al:<0.1%、好ましくは0.05%未満、
Ti:<0.01%、好ましくは0.002%未満、
B:<0.005%、好ましくは0.001%未満、
Nb:<0.01%、好ましくは0.002%未満、
Cr:<0.1%、好ましくは0.08%未満、
Mo:<0.001%。
【0028】
窒化物形成物質の全重量割合は、0.1%未満であることが好ましい。これにより、特に0.003%超の非結合窒素の重量割合を保証することができる。
【0029】
本発明による包装用板金製品を本発明によらない比較例の試験片と比較することにより、本発明による包装用板金製品について、焼きなまし炉内で冷間圧延鋼板の窒素含有率を増加させることにより、より高い値のひずみ硬化指数nを達成することができることも示された。ひずみ硬化指数nは、包装用板金製品の厚み方向の冷間硬化の尺度である。したがって、本発明による包装用板金製品は、本発明によらない比較例の試験片に対して、焼きなまし炉内で窒素含有率を増加させることにより生じるより高い窒素の割合に起因して、リューダース伸びAbと(塑性)伸び上限ε最大=0.5・Ab・(SbeL/Sb)との間の塑性領域において増加する冷間硬化により特徴付けられる。
【0030】
バルジ試験により二軸応力−ひずみ曲線を決定することにより確かめることができる、本発明による包装用板金製品の機械的性質は、材料を(人工又は自然)時効させた後に達成される。自然時効は、材料を長期間保管すること、又はニスを塗った後に乾燥することを含むニス塗りによって、生じさせることができる。しかし、200〜210℃の時効温度で、20〜30分の処理時間にわたり、包装用板金製品を熱処理することにより、人工時効を行い、材料を特徴付けることもできる。
【0031】
本発明による包装用板金製品を製造するために、最初に、スラブが、下記の重量割合の合金成分からなる組成を有する鋼から鋳造される。
C:0.001〜0.06%、
Si:<0.03%、好ましくは0.002〜0.03%、
Mn:0.17〜0.5%、
P:<0.03%、好ましくは0.005〜0.03%、
S:0.001〜0.03%、
Al:0.001〜0.1%、
N:<0.016%、好ましくは0.001〜0.010%、
任意にCr:<0.1%、好ましくは0.01〜0.08%、
任意にNi:<0.1%、好ましくは0.01〜0.05%、
任意にCu:<0.1%、好ましくは0.002〜0.05%、
任意にTi:<0.01%、
任意にB:<0.005%、
任意にNb:<0.01%、
任意にMo:<0.02%、
任意にSn:<0.03%、
残部鉄及び不可避的不純物。
【0032】
スラブは熱間圧延されて、ホットストリップになる。スラブの熱間圧延中の最終的な圧延温度は、鋼のAr3温度より高く、特に800〜920℃の範囲であることが好ましい。ホットストリップは、2mm〜4mmの範囲の厚みを有することが好ましい。経済的及び品質上の理由により、好ましくは2mm超のホットストリップの最大厚みが求められる。しかし、冷間圧延鋼板の最終的な厚みを達成するために、全冷間圧延率をもはや技術的に達成不可能な値まで上げることなく、ホットストリップを通常の圧延スタンドで冷間圧延する場合、ホットストリップの厚みをより高くする必要がある。したがって、ホットストリップの厚みは、4mmを超えてはならない。2〜4mmの範囲のホットストリップの厚みにより、一方では、熱間圧延中の過度に高い圧延率に起因したホットストリップの欠陥が生じることが防止され、好ましい最終的な圧延温度が維持され、他方では、通常の圧延スタンドによりホットストリップを一回又は二回冷間圧延することにより、80〜98%の範囲の高い全冷間圧延率で、最終鋼板を製造することが可能になる。
【0033】
ホットストリップは、Ar1温度より低い巻き取り温度、特に500〜750℃の範囲の巻き取り温度で、ロール(コイル)に巻き取られることが好ましい。その後、ホットストリップの巻き取られたコイルは、自然冷却によって室温に冷却されることが好ましく、便宜上、酸洗いによりスケール除去される。その後、ホットストリップの(一回目の)冷間圧延が、少なくとも80%の圧延率(冷間圧延率)で行われ、冷間圧延鋼ストリップができる。その後、冷間圧延鋼ストリップは、焼きなまし炉内に導入される。焼きなまし炉は、連続焼きなまし炉であることが好ましく、その中を、冷間圧延鋼ストリップが、好ましくは200m/分の所定のストリップ速度で通過する。一方では、再結晶焼きなましが焼きなまし炉内で行われ、他方では、窒素含有率の増加が行われ、窒素含有率の増加と再結晶焼きなましの両方が、焼きなまし炉の同じセクションで同時に、又は特に連続焼きなまし炉の別のセクションで順番に行われ得る。再結晶焼きなましは、少なくとも630℃の鋼ストリップの焼きなまし温度で行われる。窒化ガス雰囲気が焼きなまし炉内に導入され、窒素ドナーの存在下で、焼きなまし炉内で、鋼ストリップの窒素含有率の増加が行われる。鋼ストリップの厚みにわたる導入された窒素の均一な分布を達成するために、窒化ガス、特にアンモニアガスである窒素ドナーが、最初、ノズルにより、鋼ストリップの少なくとも片面、好ましくは両面にスプレーされることが好ましい。
【0034】
焼きなまし炉内での鋼ストリップの滞在時間は、10秒〜400秒の間であることが好ましく、連続焼きなまし炉の使用中に、鋼ストリップが連続焼きなまし炉を通過するストリップ速度により設定され得る。この焼きなまし時間は、一方では、鋼板を完全に再結晶化させるために、他方では、焼きなまし炉内で窒素含有率を増加させる際に、鋼ストリップに導入される窒素の分布を鋼ストリップの厚みにわたって可能な限り均一にするために、十分な時間である。
【0035】
好ましくはアンモニアガスである、焼きなまし炉に導入される窒素ドナーが少なくとも部分的に原子状窒素に解離する温度が、窒化ガス雰囲気を維持するために、焼きなまし炉又は鋼ストリップの窒素含有率の増加が生じる焼きなまし炉の領域に設定される。これにより、原子状態の窒素を可能な限りたくさん、最も速く、最も均一に、鋼格子間に拡散させることを確実にし、これにより、鋼ストリップ内の非結合窒素を均一に分布させ、固溶体硬化を高めることができる。
【0036】
窒素含有率を増加させ、再結晶焼きなましを行った後、鋼ストリップは室温に冷却される。冷却は、放熱により消極的に、又は冷却ガスや冷却水等の冷却流体により積極的に起こる。鋼ストリップを室温に冷却した後、0.2%〜45%の最終圧延率で、鋼ストリップの冷間仕上げ又は再圧延が行われる。最終圧延率は、20%未満、特に1〜18%の範囲であることが好ましい。
【0037】
仕上げ又は再圧延後の全冷間圧延率[GKWG(冷間圧延率の合計)]=1−d/D(dは包装用板金製品の厚み、Dはホットストリップの厚み)は、少なくとも80%、特に少なくとも85%以上であることが好ましい。特に好ましくは、全冷間圧延率が、鋼の組成に依存する全冷間圧延率の最適値に達し、全冷間圧延率の最適値の±5%の公差内にあることが好ましい。全冷間圧延率の最適値は、カッピング試験の板状試験片上に形成される耳部の幾何学的形態と相関関係があり、耳部の高さの最小値及び6つの耳部の数により特徴付けられる。本発明による包装用板金製品の好ましい最終的な厚みは、0.10mm〜0.50mmの範囲、特に0.12mm〜0.35mmの厚み範囲にある。
【0038】
窒素ドナーの存在下で、(連続)焼きなまし炉内での焼きなまし中に、鋼板の窒素含有率を増加させることによる固溶体硬化によって強度が増加するため、本発明による包装用板金製品は、冷間硬化によりさらに強度を増加させるために、高い最終圧延率での仕上げが必要とされない。よって、最終圧延率は、最大20%、好ましくは1〜18%の範囲に制限され得ることが好ましく、これにより、高い最終圧延率で2回目の冷間圧延を行うことによる材料特性の等方性の低下を避けることができる。
【0039】
二回目の冷間圧延又は冷間仕上げの後、耐食性を向上させるために、例えば、スズ若しくはクロム/クロム酸化物コーティングの電析によって、及び/又はニスの塗布によって、又は熱可塑性物質製のポリマーフィルム、特にPET等のポリエステル若しくはPPやPE等のポリオレフィンフィルムから作製されたフィルムを積層することによって、平鋼製品の表面にコーティングを施してもよい。
【0040】
低い炭素含有率にも関わらず、本発明による包装用板金製品は、高い基本強度により特徴付けられる。この高い基本強度は、特に焼きなまし炉内で鋼板の窒素含有率を増加させる際に非結合窒素を導入することで生じる固溶体硬化により達成される。本発明による包装用板金製品は、包装材の製造の際の多軸塑性変形中に、より高い冷間硬化が生じ、これは十分な部品安全性を保証可能にする要求の非常に厳しい変形(例えば、DWI法と呼ばれるしごき加工)において特に有利である。本発明による包装用板金製品の強度は、鋼板又は鋼板から製造される最終的な製品(包装材)の自然時効又は人工時効によって、さらに高めることができる。
【0041】
液圧カッピング試験(バルジ試験)により得られた、本発明による包装用板金製品の有利な材料特性及び追加の特徴、並びに本発明による包装用板金製品の製造方法及び特徴付けが、対応する表や図を参照しながら、下記に記載の例を読むことにより、明らかになる。記載例は、本発明を説明し、本発明によらない比較例に対して、本発明による包装用板金製品が有する有利な材料特性を提示するだけのものであり、後に規定される特許請求項により決定される本発明の範囲を制限するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0042】
図1】時効鋼板試験片のバルジ試験から決定される二軸応力−ひずみ曲線σ(ε)の例であり、表1による記録された機械的性質が入れられ、挿入部に弾性−塑性変形の領域が拡大表示されている。
図2図1の二軸応力−ひずみ曲線のうちのリューダース伸び(Ab)より上の塑性領域の詳細図であり、関数σ=b・εに対応する近似がされている。
図3】本発明による鋼板試験片と本発明によらない鋼板試験片のバルジ試験から決定される二軸応力−ひずみ曲線であり、各曲線はホットストリップの同等の組成と、異なる窒素含有率と、同じ最終圧延率を有しており、図3aは、低い炭素含有率(C<0.03wt%)における、本発明による鋼板試験片と、本発明によらない鋼板試験片の応力−ひずみ曲線を示しており、図3bは、より高い炭素含有率(C>0.03wt%)における、本発明による鋼板試験片と、本発明によらない鋼板試験片の応力−ひずみ曲線を示している。
図4】本発明による鋼板試験片と、本発明によらない鋼板試験片の二軸応力−ひずみ曲線から決定される、下降伏強度(SbeL(MPa))の傾向を、最終圧延率(NWG[再圧延率]%)の関数として示しており、図4aは、炭素含有率が低い(C<0.03wt%)試験片の値を示しており、図4bは、炭素含有率がより高い(C>0.03wt%)試験片の値を示している。
図5】本発明による鋼板試験片と、本発明によらない鋼板試験片の二軸応力−ひずみ曲線から決定される、破断伸び(Ab(MPa))の傾向を、最終圧延率(NWG%)の関数として示しており、図5aは、炭素含有率が低い(C<0.03wt%)試験片の値を示しており、図5bは、炭素含有率がより高い(C>0.03wt%)試験片の値を示している。
図6】本発明による鋼板試験片と、本発明によらない鋼板試験片の二軸応力−ひずみ曲線σ=b・εの塑性領域から決定される、ひずみ硬化指数nの傾向を、最終圧延率(NWG%)の関数として示しており、図6aは、炭素含有率が低い(C<0.03wt%)試験片の値を示しており、図6bは、炭素含有率がより高い(C>0.03wt%)試験片の値を示している。
図7】本発明による鋼板試験片と、本発明によらない鋼板試験片の図6の二軸応力−ひずみ曲線σ=b・εの弾性−塑性領域から決定される、ひずみ硬化指数の傾向を、図4の下降伏強度(SbeL(MPa))の関数として示している。
【発明を実施するための形態】
【0043】
本発明による包装用板金製品の製造のために、スラブが、溶融鋼から鋳造され、熱間圧延されてホットストリップになる。本発明による包装用板金製品が製造され得る鋼の成分が、下記に詳細に説明される。データのパーセントは、鋼の成分の重量割合を示す。
【0044】
鋼の組成
【0045】
・炭素C:最小0.001%、最大0.06%
炭素は、硬度及び強度を増加させる効果がある。したがって、鋼は少なくとも0.001wt%の炭素を含む。炭素含有率の低い鋼は、全冷間圧延率の最適値がより高くなる。このため、炭素含有率が低く、2〜4mmの範囲の普通のホットストリップの厚みを有するホットストリップからは、冷間圧延により、同等の耳割れの傾向を有する、より薄い鋼板を製造することができる。最初の冷間圧延、及び任意で行う二回目の冷間圧延工程(再圧延、又は冷間仕上げ)中の鋼板の圧延性能を保証し、同時に耳割れ傾向を確実に低くし、破断伸びを低減させないために、炭素含有率は0.06%を超えてはならない。炭素は、鋼のフェライト格子内における溶解度が低く、大部分はセメンタイトの状態で存在するため、炭素含有率を下げることにより、帯状の鋼板の製造及び加工中に、明らかな異方性が生じることを防ぐこともできる。さらに、炭素含有率を上げるにつれ、表面の品質が低下し、包晶点に近づくにつれ、スラブにクラックが生じる危険性が高まる。
【0046】
・マンガンMn:最小0.17%、最大0.5%
マンガンも、硬度及び強度を増加させる効果がある。また、マンガンは、鋼の溶接性と耐摩耗性を向上させる。さらに、マンガンを加えることにより、硫黄が結合し、より有害性の低いMnSになるため、熱間圧延中の赤熱脆性の傾向が低減する。また、マンガンによって結晶粒微細化が起こり、鉄の格子内での窒素の溶解性が増し、スラブ表面への炭素の拡散を防ぐことができる。したがって、マンガン含有率は、少なくとも0.17wt%であることが好ましい。より高い強度を達成するためには、マンガン含有率は、0.2wt%超、特に0.30wt%以上であることが好ましい。しかし、マンガン含有率が高すぎると、鋼の耐食性が犠牲になり、食品への適合性がもはや保証できなくなる。また、マンガン含有率が高すぎると、ホットストリップの強度が高くなりすぎ、ホットストリップを経済的に冷間圧延することができなくなる。したがって、マンガン含有率の上限は0.5wt%である。
【0047】
・リンP:0.03%未満
リンは、鋼中の望ましくない残留元素である。リン含有率が高いと、特に鋼の脆化が起こることにより、鋼板の変形能の低下が引き起こされる。このため、リン含有率の上限は0.03wt%である。
【0048】
・硫黄S:0.001%超、最大0.03%
硫黄は望ましくない残留要素であり、伸縮性及び耐食性の低下を引き起こす。したがって、鋼に含まれる硫黄は、0.03wt%を超えてはならない。一方では、脱硫のために、要求の厳しい、コストの掛かる手段を用いる必要があるため、硫黄含有率を0.001wt%未満にすることは、経済的な観点から、もはや許容できない。したがって、硫黄含有率は、0.001wt%〜0.03wt%の範囲、特に0.005wt%〜0.01wt%の間である。
【0049】
・アルミニウムAl:0.001%超、0.1%未満
アルミニウムは、製鋼をキリング(脱酸)するための脱酸剤として必要である。また、アルミニウムは、耐スケール性と変形能を増加させる。したがって、アルミニウム含有率は0.001wt%超である。しかし、アルミニウムは窒素と共に窒化アルミニウムを形成し、遊離窒素の割合を低減させるため、本発明による鋼板にとって不利になる。また、アルミニウム濃度が高すぎると、アルミニウムクラスターの形成により表面欠陥が生じ得る。よって、アルミニウムは、0.1wt%を最大濃度として使用される。
【0050】
・ケイ素Si:0.03%未満
ケイ素は、鋼の耐スケール性を増加させ、且つ固溶体硬化剤である。製鋼において、ケイ素は脱酸剤として働く。鋼に対するケイ素のさらなる良い効果は、引張強度と降伏強度を増加させることである。したがって、ケイ素含有率は、0.002wt%以上であることが好ましい。しかし、ケイ素含有率が高すぎると、特に0.03wt%を超えると、鋼の耐食性が低下するおそれがあり、特に電解コーティングによる表面処理を妨げるおそれがある。
【0051】
・任意で窒素N:0.007%未満、好ましくは0.001%超
窒素は、本発明による鋼板を製造するための鋼が作られる溶融鋼中の任意の成分である。窒素は、固溶体硬化剤として、硬度及び強度を増加させる効果がある。しかし、溶融鋼中の窒素含有率が高すぎると、その溶融鋼から製造されるホットストリップの冷間圧延が難しくなるおそれがある。また、熱間変形性は窒素濃度が0.007wt%以上で低下するため、溶融鋼中の窒素含有率が高いと、ホットストリップに欠陥が生じる危険性が高まる。本発明による包装用板金製品の製造において、焼きなまし炉内で冷間圧延鋼板の窒素含有率を増加させることにより、鋼板の窒素含有率を増加させることが提案されている。このため、溶融鋼中への窒素の導入は、完全に省くこともできる。しかし、固溶体硬化を高めるために、溶融鋼が最初から0.001wt%超の窒素含有率を含んでいることが好ましい。
【0052】
焼きなまし炉内で窒素含有率を増加させる前に、鋼板中に初期窒素含有率Nを導入するために、例えば、窒素ガスの吹き込み、及び/又はカルシウムシアナミドや窒化マンガン等の固体窒素化合物の添加により、適切な量の窒素が溶融鋼に添加され得る。
【0053】
・任意で、窒化物形成物質、特にニオブ、チタン、ホウ素、モリブデン、クロム
アルミニウム、チタン、ニオブ、ホウ素、モリブデン、及びクロム等の窒化物形成元素は、窒化物を形成することにより遊離窒素の割合を低下させるため、本発明による鋼板の鋼にとって不利である。また、これらの元素は、高価であるため、製造コストを上昇させる。一方では、ニオブ、チタン、ホウ素の元素は、マイクロ合金成分として、靭性を低下させることなく、結晶粒微細化により強度を増加させる効果がある。よって、上記の窒化物形成物質は、ある限定された範囲内では、溶融鋼の合金成分として、有利に添加し得る。よって、鋼は重量%で下記の窒化物形成合金成分を(任意で)含み得る。
チタンTi:好ましくは0.0005%超だが、コストの理由により0.01%未満、
ホウ素B:好ましくは0.0005%超だが、コストの理由により0.005%未満、及び/又は、
ニオブNb:好ましくは0.001%超だが、コストの理由により0.01%未満、及び/又は、
クロムCr:溶融鋼の製造においてスクラップの使用を可能にし、スラブの表面への炭素の拡散を妨げるために、好ましくは0.01%超だが、炭化物及び窒化物を避けるために、最大0.1%、及び/又は、
モリブデンMo:再結晶温度の過剰な上昇を避けるために、0.02%未満。
【0054】
窒化物の形成による非結合遊離窒素の割合N遊離の低下を避けるために、溶融鋼中における上記の窒化物形成物質の重量割合の合計は、0.1%未満であることが好ましい。
【0055】
さらなる任意の成分
残部鉄(Fe)と不可避的不純物に加え、溶融鋼は、さらに下記のような任意の成分を含み得る。
任意で銅Cu:溶融鋼の製造においてスクラップの使用を可能にするために、0.002%超だが、食品への適合性を保証するために、0.1%未満、
任意でニッケルNi:溶融鋼の製造においてスクラップの使用を可能にするため、及び靭性を向上させるために、0.01%超だが、食品への適合性を保証するために、0.1%未満、
任意でスズSn:好ましくは0.03%未満。
【0056】
製造方法
本発明による包装用板金製品を製造するために、最初に、押し出し成型され、冷却後にスラブに分割される溶融鋼が、記載された鋼組成で製造される。その後、スラブは、1100℃超、特に1200℃の予熱温度に加熱され、熱間圧延され、2〜4mmの範囲の厚みを有するホットストリップが製造される。
【0057】
熱間圧延中の最終的な圧延温度は、オーステナイト系を維持するために、Ar3温度より高いことが好ましく、特に800〜920℃の間である。
【0058】
ホットストリップは、便宜上、所定の一定の巻き取り温度(コイリング温度HT)で、コイルに巻き取られる。巻き取り温度は、フェライト領域内であることを維持するために、Ar1より低いことが好ましく、AlNの析出を避けるために、500〜750℃の範囲、特に640℃未満であることが好ましい。経済的理由により、巻き取り温度は、500℃超でなくてはならない。巻き取り後、ホットストリップのコイルは、自然冷却によって冷却される。ホットストリップの表面への鉄窒化物の形成は、熱間圧延の完了後から巻き取りまで、より高い冷却速度で、ホットストリップを積極的に冷却することにより避けることができる。
【0059】
0.6mm未満の厚み範囲(薄板の厚み)の、好ましくは0.35mm未満の最終的な厚みを有する薄い鋼板の形態の包装用鋼を製造するために、ホットストリップは、まず酸洗いされ、その後、冷間圧延され、少なくとも80%、好ましくは85〜98%の範囲の厚み減少率(冷間圧延率)が便宜上達成される。鋼の冷間圧延中に破壊された結晶構造を回復させるために、冷間圧延鋼ストリップは、焼きなまし炉内で再結晶焼きなましされる。これは、例えば、少なくとも200m/分のストリップ速度で、冷間圧延鋼ストリップの形態の鋼板を、連続焼きなまし炉内を通過させることにより行われ、その際、鋼ストリップは、鋼の再結晶温度よりも高い温度に加熱される。その後、再結晶焼きなまし前、又は好ましくは再結晶焼きなましと同時に、窒素ドナーの存在下で、焼きなまし炉内で鋼板を加熱することにより、冷間圧延鋼板の窒素含有率を増加させる。好ましくは再結晶焼きなましと同時に、特に窒素含有ガスの形態の窒素ドナーを焼きなまし炉に導入し、鋼板を鋼の再結晶温度よりも高い焼きなまし温度に加熱し、その焼きなまし温度で、好ましくは10〜150秒の焼きなまし時間(保持時間)の間、鋼板を保持することにより、窒素含有率を増加させる。焼きなまし温度は、630℃より高く、特に640〜750℃の範囲であることが好ましい。窒素ドナーは、焼きなまし炉内の上記温度において窒素ドナーが解離することにより原子状窒素が形成され、鋼板内に拡散可能であるように選択される。アンモニアは、この目的に適した窒素ドナーとして示される。焼きなまし中に鋼板の表面が酸化することを避けるために、焼きなまし炉内に保護ガス雰囲気が便宜上使用される。焼きなまし炉内の雰囲気は、フォーミングガス又は窒素ガス(Nガス)等、窒素ドナーとして作用する窒素含有ガスと保護ガスとの混合物からなることが好ましく、供給中の保護ガスの体積割合は、95%〜99.98%の間であることが好ましく、供給されるガスの残りの体積割合は、窒素含有ガス、特にアンモニアガス(NHガス)から形成される。0.02〜2vol%のアンモニア平衡濃度が、焼きなまし炉内で窒素含有率の増加中に維持されることが好ましく、同時にアンモニアガスがノズルにより鋼板の表面にスプレーされる。これにより、鋼板の表面に硬くてもろい窒化物層が形成されることが防止され、これにより、高濃度の窒素が鋼板の内部に拡散し、鋼の(フェライト)格子間に均一に取り込まれることを確実にする。窒素含有率を増加させることにより、初期窒素濃度NからΔN≧0.002wt%の増加が好ましくは発生する。焼きなまし炉内で窒素含有率を増加させることにより製造される再結晶化及び窒化された鋼板内の全窒素の重量割合は、0.002〜0.12%の間、特に0.004〜0.07%の間であることが好ましい。
【0060】
実施例
本発明の実施例、及び比較例について、下記に説明する。本発明の実施例と比較例の鋼板は、表2に記載の合金組成を有する溶融鋼から、熱間圧延及びそれに続く冷間圧延により製造された。その後、冷間圧延鋼板は、連続焼きなまし炉内で再結晶焼きなましされ、その際、鋼板は、630℃以上の焼きなまし温度で、10〜120秒の範囲の所定の焼きなまし時間の間、保持された。
【0061】
表2において「本発明による」と表示されている本発明による鋼板は、焼きなまし炉内での再結晶焼きなましの前又は間に、焼きなまし炉内に0.02%から好ましくは2vol%のアンモニアの平衡濃度を有するアンモニア雰囲気を設定し、同時にアンモニアガスをノズルにより鋼板の表面に向けることにより窒化された。窒素含有率は、本発明による鋼板におけるホットストリップの初期窒素含有率Nから、より高い窒素含有率Nになった。本発明による鋼板について、初期窒素含有率Nと、焼きなまし炉内で窒素含有率を増加させた後に達成された窒素含有率N=N+ΔNの両方が、表2に示されている。ΔNは、焼きなまし炉内で窒素含有率を増加させる際に鋼板に導入された窒素含有率である。
【0062】
表2において「本発明によらない」と表示されている本発明によらない鋼板の再結晶焼きなまし中、窒素ドナーを含まない(すなわち、窒化成分を含まない)不活性ガス雰囲気が焼きなまし炉内に存在しており、本発明によらない鋼板は、焼きなまし炉内で窒素処理されず、窒素の重量割合は、焼きなまし炉内での熱処理の前後で同じである(すなわち、N=N)。
【0063】
焼きなまし炉内での熱処理の後、本発明による実施例の鋼板と、表2において「本発明によらない」と表示されている本発明によらない鋼板(焼きなまし炉内で窒化されない)の両方が、二回目の冷間圧延工程で圧延された又は仕上げられた。
【0064】
続いて、すなわち、二回目の冷間圧延(再圧延又は仕上げ)の後、鋼板の人工時効が、試験片を200℃に20分間加熱することにより達成された。表3に、このように人工時効された、本発明による鋼板の試験片と、本発明によらない実際の例の機械的性質が示されている。
厚みは再圧延鋼板の最終的な厚み(mm)、
NWGは二回目の冷間圧延中の最終圧延率(%)、
SbeHは上降伏強度(MPa)、
SbeLは下降伏強度(MPa)、
Sbは絶対強度(MPa)、
Abは破断伸び(%)、
Abはリューダース伸び(%)、
bは比例定数(MPa)であり、nはひずみ硬化指数である。ひずみ硬化指数は、バルジ試験で決定される二軸応力−ひずみ曲線のうちのリューダース伸び(Ab)より上の塑性領域の表示σ(ε)から、関数σ=b・εによって得られ、σはバルジ試験により決定される(真)二軸応力(MPa)であり、εは厚み方向の真伸び量(%)である(厚み方向の真伸びは、バルジ試験の二軸引張試験の厚み低減に起因して負であるため、伸びεは常に板の厚み方向の負の伸び量を意味すると理解される)。
【0065】
上降伏強度(SbeH(MPa))、下降伏強度(SbeL(MPa))、絶対強度(SbMPa)、破断伸び(Ab(%))、及びリューダース伸び(Ab(%))等の試験片の機械的性質は、図1の例で説明したように、二軸応力−ひずみ線図から決定された。
【0066】
図3に二軸応力−ひずみ曲線が示されており、これは本発明による鋼板の試験片と本発明によらない鋼板の試験片に対するバルジ試験から決定された。図3aは、炭素含有率が低い(C<0.03%)試験片を示し、図3bは、炭素含有率がより高い(C>0.03%)試験片を示している。本発明による試験片と本発明によらない試験片は、同一の組成と、同じ最終圧延率(NWG)を有して、対比されている。本発明による試験片の二軸応力−ひずみ曲線と、本発明によらない試験片の二軸応力−ひずみ曲線の比較から、リューダース伸びより上の塑性領域(ε>Ab)における二軸応力は、本発明によらない試験片よりも、本発明による試験片のほうが常に大きいことが明らかである。これは、バルジ試験において、本発明による試験片のほうが冷間硬化が高いことを示している。本発明による試験片と本発明によらない試験片との間の冷間硬化の差は、鋼の組成の炭素濃度がより高いとき(C>0.03%)に特に大きい(図3bを参照)。
【0067】
鋼板の試験片の硬化を示すさらなる尺度は、バルジ試験により決定された(二軸)下降伏強度SbeLである。これは、とりわけ最終圧延率(NWG)に依存する。本発明による試験片と本発明によらない試験片の硬化を図で示すために、図4にバルジ試験から決定された下降伏強度SbeLが最終圧延率NWG(%)の関数として示されている。ここで、図4aは、炭素含有率が低い(C<0.03%)鋼板の試験片を示し、図4bは、炭素含有率がより高い(C>0.03%)試験片を示している。
【0068】
図4に示されている本発明による試験片と本発明によらない試験片との比較から、本発明による試験片は、本発明によらない試験片に対して、同じ最終圧延率(NWG)において、より高い下降伏強度(SbeL)を有していることが明らかである。
【0069】
図5に、本発明による試験片と本発明によらない試験片のバルジ試験から得られた破断伸び(Ab(%))の傾向が、最終圧延率(NWG(%))の関数として示されている。図5aは、炭素含有率がより低い(C<0.03%)試験片を示し、図5bは、炭素含有率がより高い(C>0.03%)試験片を示している。図5a及び図5bの本発明による試験片と本発明によらない試験片の破断伸びの比較から、本発明による試験片の破断伸びは、同じ最終圧延率(NWG)において、より高いことが推定され得る。
【0070】
比例定数bとひずみ硬化指数nは、リューダース伸びAbと(塑性)伸び上限ε最大=0.5・Ab・(SbeL/Sb)との間の塑性領域における、本発明による試験片と本発明によらない試験片のバルジ試験により決定される二軸応力−ひずみ曲線から、近似関数σ=b・εにより決定された。ここで、Abは破断伸びであり、SbeLは下降伏強度であり、Sbは絶対強度である。表3に、試験された試験片の比例定数bとひずみ硬化指数nについて決定された値が示されている。ひずみ硬化指数nは、バルジ試験の鋼板試験片の冷間硬化の尺度を表している。ひずみ硬化指数nも最終圧延率(NWG)に依存するため、図6には、バルジ試験から決定される、本発明による試験片と本発明によらない試験片のひずみ硬化指数nが、最終圧延率(NWG%)の関数として示されている。図6aは、炭素含有率が低い(C<0.03%)試験片を示し、図6bは、炭素含有率がより高い(C>0.03%)試験片を示している。本発明による試験片と本発明によらない試験片との比較から、本発明による試験片のひずみ硬化指数nは、同じ最終圧延率(NWG)において、本発明によらない試験片よりも高いことが推定され得る。
【0071】
バルジ試験により決定されるひずみ硬化指数nを下降伏強度SbeLの関数として表すことにより、最終圧延率に依存しないバルジ試験の鋼板試験片の冷間硬化の定量化を達成することができる。よって、図7は、バルジ試験により決定されるひずみ硬化指数nを、下降伏強度SbeLの関数として示している。図7から、同じ下降伏強度SbeLにおいて、本発明による試験片のひずみ硬化指数nが、本発明によらない試験片よりも高いことが推定され得る。SbeL>300MPaの下降伏強度、及びAb>10%の最も低い破断伸びについて、本発明による試験片と本発明によらない試験片との境界画定が、下降伏強度SbeL(MPa)の関数として、ひずみ硬化指数nの傾向により以下に示され得る。
n≧0.353−5.1・SbeL/10MPa
【0072】
上記の数式を満たす本発明による試験片は、本発明によらない試験片との比較において、より高い降伏強度とより高い冷間硬化により特徴付けられるため、本発明によらない試験片との比較において、例えば、包装用板金製品から三次元の缶本体の製造を行う際に起こる多軸変形に、より適している。本発明による試験片は、特に、時効後(すなわち、試験片の自然時効又は人工時効後)の、より高い冷間硬化により特徴付けられる。本発明による試験片のより高い冷間硬化は、焼きなまし炉内で試験片の窒素含有率を増加させる際の非結合窒素の取り込み、及びその結果の固溶体硬化により達成され得る。
【0073】

【0074】

【0075】

【0076】

【0077】

図1
図2
図3a
図3b
図4a
図4b
図5a
図5b
図6a
図6b
図7
【外国語明細書】
2021139046000001.pdf