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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-139047(P2021-139047A)
(43)【公開日】2021年9月16日
(54)【発明の名称】包装材料用の冷間圧延平鋼製品
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20210820BHJP
   C21D 9/48 20060101ALI20210820BHJP
   C22C 38/54 20060101ALI20210820BHJP
   C21D 1/76 20060101ALI20210820BHJP
   C21D 1/06 20060101ALI20210820BHJP
   C23C 8/26 20060101ALI20210820BHJP
【FI】
   C22C38/00 301T
   C21D9/48 M
   C22C38/54
   C21D1/76 M
   C21D1/06 A
   C23C8/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
【外国語出願】
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2021-33204(P2021-33204)
(22)【出願日】2021年3月3日
(31)【優先権主張番号】10 2020 106 164.1
(32)【優先日】2020年3月6日
(33)【優先権主張国】DE
(71)【出願人】
【識別番号】513213841
【氏名又は名称】ティッセンクルップ ラッセルシュタイン ゲー エム ベー ハー
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】特許業務法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】バークハード カウプ
(72)【発明者】
【氏名】ブレイス マシコット
(72)【発明者】
【氏名】ルイーザ−マリエ ハイネ
【テーマコード(参考)】
4K028
4K037
【Fターム(参考)】
4K028AA02
4K028AB01
4K037EA01
4K037EA02
4K037EA05
4K037EA11
4K037EA13
4K037EA15
4K037EA17
4K037EA18
4K037EA19
4K037EA20
4K037EA23
4K037EA25
4K037EA27
4K037EA31
4K037EB08
4K037FA02
4K037FA03
4K037FC03
4K037FC04
4K037FC07
4K037FE01
4K037FE02
4K037FE03
4K037FG00
4K037FH01
4K037FJ02
4K037FJ04
4K037FJ05
4K037FM01
4K037FM02
4K037GA03
4K037HA01
4K037JA07
(57)【要約】      (修正有)
【課題】等方性の材料特性を有する包装材料用の高強度平鋼製品を提供する。
【解決手段】0.6mm未満の厚さを有する包装材料用の冷間圧延平鋼製品であって、重量%で以下の組成、C:0.02〜0.1%、Si:<0.03%、Mn:0.17〜0.5%、P:<0.03%、S:0.001〜0.03%、Al:0.002〜0.1%、N:0.014〜0.12%、好ましくは0.07%未満、任意でCr、Ni、Cu、Ti、B、Nb、Mo、Sn、残部鉄および不可避的不純物を有し、時効状態で、最小450MPaの0.5%オフセットでの降伏強度、最小5%の破断伸び、および圧延方向に対する角度(α)の関数として、破断伸びと0.5%オフセットでの降伏強度との積によって定義される変形エネルギW(α)であって、圧延方向の変形エネルギW(0°)の60%以上であり且つ140%以下である変形エネルギW(α)を有する冷間圧延平鋼製品である。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧延方向(0°)に沿って鋼から冷間圧延され、0.6mm未満の厚さを有する包装材料用の冷間圧延平鋼製品であって、重量パーセントで以下の組成、
C:0.02〜0.1%、
Si:<0.03%、
Mn:0.17〜0.5%、
P:<0.03%、
S:0.001〜0.03%、
Al:0.002〜0.1%、
N:0.014〜0.12%、好ましくは0.07%未満、
任意でCr:<0.1%、好ましくは0.01〜0.08%、
任意でNi:<0.1%、好ましくは0.01〜0.05%、
任意でCu:<0.1%、好ましくは0.002〜0.05%、
任意でTi:<0.01%、
任意でB:<0.005%、
任意でNb:<0.01%、
任意でMo:<0.02%、
任意でSn:<0.03%、
残部鉄および不可避的不純物、
を有し、
時効状態の前記平鋼製品が、最小450MPaの0.5%オフセットでの降伏強度(Rp0.5)、最小5%の破断伸び(A)、および圧延方向(0°)に対する角度(α)の関数として、破断伸び(A)と0.5%オフセットでの降伏強度(Rp0.5)との積によって定義される変形エネルギW(α)であって、圧延方向の変形エネルギW(0°)の60%以上であり且つ140%以下である変形エネルギW(α)を有する、
冷間圧延平鋼製品。
【請求項2】
前記窒素の最小0.01%の重量パーセントは、非結合状態で前記鋼の格子間に取り入れられていることを特徴とする、請求項1に記載の平鋼製品。
【請求項3】
前記圧延方向(0°)に対する角度(α)の関数としての前記0.5%オフセットでの降伏強度(Rp0.5)は、前記圧延方向の前記0.5%オフセットでの降伏強度Rp0.5(0°)の90%以上であり且つ110%以下であることを特徴とする、請求項1または2に記載の平鋼製品。
【請求項4】
前記圧延方向(0°)に対する角度(α)の関数としての破断伸びA(α)は、前記圧延方向の破断伸びA(0°)の60%以上であり且つ140%以上であることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の平鋼製品。
【請求項5】
前記圧延方向(0°)に対する角度(α)の関数としての変形エネルギW(α)は、前記圧延方向の変形エネルギW(0°)の最小70%であり且つ最大130%であることを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の平鋼製品。
【請求項6】
前記鋼構造の結晶粒は、3.0〜6.0μmの平均繊維長を有することを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載の平鋼製品。
【請求項7】
前記鋼構造の結晶粒は、平均水平繊維長(S_H)および平均垂直繊維長(S_V)ならびに結晶粒伸び(S)を有し、前記結晶粒伸び(S)は、前記平均垂直繊維長(S_V)に対する前記平均水平繊維長(S_H)の比として定義され、前記圧延方向(0°)の方向依存性結晶粒伸び(S)は、前記平鋼製品の長手断面において最小1.4の値を有し、前記平鋼板の平面断面において最小1.1の値を有することを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載の平鋼製品。
【請求項8】
前記圧延方向を横断する方向(90°)の前記結晶粒伸び(S)は、最小1.2の値を有することを特徴とする、請求項7に記載の平鋼製品。
【請求項9】
前記平鋼製品は、
前記鋼のスラブを熱間圧延して熱間圧延ストリップを形成し、
前記熱間圧延ストリップを500℃〜750℃の巻き取り温度で巻き取り、
前記熱間圧延ストリップを最小80%の圧延率で冷間圧延して冷間圧延鋼ストリップを形成し、
最低温度550℃で、窒素ドナーの存在下で、前記冷間圧延鋼ストリップを焼きなまし炉内、特に連続焼きなまし炉内において窒化し、630℃の最低焼きなまし温度で焼きなまし炉内において前記冷間圧延鋼ストリップを再結晶−焼きなましし、
前記再結晶−焼きなましした平鋼製品を室温に冷却し、
前記再結晶した鋼ストリップを0.2%〜45%の調質圧延率で調質圧延する、
ことによって製造され、
前記平鋼製品の性質は、前記調質圧延鋼ストリップを時効した後に得られる、請求項1から8のいずれか一項に記載の平鋼製品。
【請求項10】
前記スラブの熱間圧延中の最終圧延温度は、Ar3温度よりも高いことを特徴とする、請求項9に記載の平鋼製品。
【請求項11】
前記焼きなまし炉内での前記平鋼製品の滞在時間は、10秒〜400秒の範囲であることを特徴とする、請求項9または10に記載の平鋼製品。
【請求項12】
前記調質圧延率は、18%以下であることを特徴とする、請求項9から11のいずれか一項に記載の平鋼製品。
【請求項13】
前記焼きなまし炉内の温度で前記窒素ドナーは、少なくとも部分的に原子状窒素に解離している、請求項9から12のいずれか一項に記載の平鋼製品。
【請求項14】
関与する前記窒素ドナーは、アンモニアガスである、請求項9から13のいずれか一項に記載の平鋼製品。
【請求項15】
前記熱間圧延ストリップは、0.001重量%〜0.016重量%の範囲の初期窒素含有率Nを有し、焼きなまし中に前記平鋼製品の窒素の重量含有率は、前記窒素ドナーの存在により、ΔN≧0.002重量%増加することを特徴とする、請求項9から14のいずれか一項に記載の平鋼製品。
【請求項16】
前記平鋼製品は、表面コーティング、特に電解によって設けられたスズまたはクロム/クロム酸化物コーティング、および/または特にニスまたはポリマーシートの形態の有機コーティングを有することを特徴とする、請求項1から15のいずれか一項に記載の平鋼製品。
【請求項17】
前記平鋼製品の時効状態は、長期間の保管および/または塗料の塗布およびその後の乾燥によって自然に、または前記平鋼製品を200℃〜210℃の範囲の温度に20分間加熱することによって人工的に達成される、請求項1から16のいずれか一項に記載の平鋼製品。
【請求項18】
缶のプルタブ蓋の製造、またはエアゾール缶もしくはエアゾール缶の構成要素の製造における請求項1から17のいずれか一項に記載の平鋼製品の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、包装材料用の冷間圧延平鋼製品に関する。
【背景技術】
【0002】
資源効率とコスト削減の観点から、包装材料(以下、包装用鋼ともいう)の製造に使用する平鋼製品(鋼板およびストリップ鋼)の厚さを薄くする取り組みが進行中である。冷間圧延された包装用鋼の厚さは、通常、ブラックプレートの範囲、すなわち、0.1〜0.6mmの間である。しかしながら、厚みを薄くすると材料の剛性の低下も伴うため、例えば、深絞りまたはしごき加工などの包装材料の製造中の成形作業における冷間加工性を確保するために必要とされる要件を材料が満たすことができるように、包装用鋼の強度を高める必要がある。しかしながら、同時に、冷間加工プロセスにおける鋼板の成形性を維持する必要がある。したがって、550MPaを超える降伏強度を有し、同時に良好な成形特性、例えば最小5%の破断伸びおよび/または(DIN規格EN ISO20482において標準化されているエリクセン(Erichsen)によるカッピング試験にしたがって測定された最小5mmの、エリクセンカッピングインデックス(Erichsen cupping index)としても示されるDIN規格50101による)エリクセンインデックス(Erichsen index)を有する高強度鋼板が大いに必要とされている。
【0003】
例えば、ひずみ硬化、固溶硬化(合金元素として炭素、窒素、リン、マンガンおよび/またはシリコンを添加することによる)、析出硬化、鋼の多相構造の形成を引き起こすことによる強度の増加、または結晶粒界硬化など、鋼板の強度を高める多くの方法が存在する。しかしながら、これらの対策の多くは、望ましくない付随する影響を伴う。
【0004】
ひずみ硬化が増加すると、冷間圧延鋼板の製造中に長さおよび幅の差の増加が発生し、その結果、異方性の増加が発生すると同時に、延性が不均衡に低下する。
【0005】
固溶硬化中に、外来原子(例えば、N、C、P、Mn、Si)が鋼のホスト格子の置換サイトまたは格子間サイトに取り入れられる(侵入する)。潜在的な合金元素の多くは、負の付随する影響を有し(したがって、例えば、Pは鋼に有害であり、MnおよびSiは表面品質を損なう)、これは、強度を高める目的でこれらの合金元素を添加しても、望ましい結果につながらない理由である。
【0006】
鋼が炭素と合金化されている場合、鋼の強度は、炭素含有率とともに増加するが、同時に、鋼板の加工中に、鋼のフェライト格子への溶解度が低いために炭素が主にセメンタイトの形態で存在するため、縞状形態で顕著な異方性が発生する。さらにまた、炭素含有率が増加すると、表面品質が低下し、包晶点に近付くにつれてスラブにクラックが形成されるリスクが高まる。したがって、炭素含有率は、スラブ内のクラックの形成とその結果生じる点酸化(クラックへの酸素の拡散)を効果的に防ぐことができるため、最大0.1重量%まで低減される必要がある。
【0007】
従来技術では、包装材料として使用するための鋼板およびそれらの製造方法が知られており、500MPaを超える強度を達成するために、固溶硬化に十分な量の炭素および窒素が溶鋼に添加される。例えば、特許文献1は、0.02重量%〜0.10重量%の炭素含有率を有し、0.012重量%〜0.0250重量%の窒素含有率を有し、500MPaを超える極限引張強度を有し、遊離窒素の重量パーセント、すなわち鋼の格子間に取り込まれた重量パーセントが最低0.0100%である、缶製造用の高強度鋼板を開示している。鋼の強度の増加は、固溶硬化および時効硬化中の遊離窒素に決定的に起因することが見出された。しかしながら、窒素の格子間取り込みによって得られる強度の増加は、一方では、窒化物、特にAlNへの窒素の部分的固定、および他方では、0.025%を超える窒素含有率では、熱間圧延中のスラブ内のクラック形成のリスクが著しく増加という事実によって制限される。
【0008】
例えば、合金元素TiまたはNbを添加することによる析出硬化では、問題は、高温のために、熱間圧延中に既に析出物が形成されるということである。したがって、これらの析出物は、冷間圧延、焼きなまし、および必要に応じて調質圧延またはドレッシングなどの後続の全ての製造工程に関与し、セメンタイトに匹敵し、特に析出が粒界で優先的に発生する場合、顕著な異方性を示す。さらにまた、析出剤であるTiおよびNbは、再結晶温度の上昇に寄与する。
【0009】
鋼の合金成分に関する規範的な要件により、鋼に多相構造を形成させることによって包装用鋼の強度を高めることは、最初から非常に制限されている。したがって、自動車産業で使用されているような従来の多相鋼は、包装用鋼に使用できない、なぜなら、包装用鋼規格(DIN規格EN10202)に定められた基準要件により、マンガンシリコンなどの合金成分が最大重量パーセントまでしか使用できないためである。特殊な冷却技術により包装用鋼に多相構造を形成させることは可能であるが、結果として生じる微細構造状態は、かなりの不安定性を特徴とし、ほとんどの場合、強度の増加は、成形性の低下と密接に関連している。多相構造が主に合金元素の炭素に基づいている場合、追加のリスクは、セメンタイトの異方性が多相構造に移行し、その結果、さらに強化されるということである。
【0010】
結晶粒界硬化では、低いリール温度(熱間圧延後の巻き取り温度)、冷間圧延中の高度の変形、および連続焼きなましを使用した冷間圧延鋼板の焼きなましによって技術的に実現できる微細結晶粒構造を形成させることにより、変化しない成形性を維持しながら鋼の強度を高めることができる。さらに、マイクロ合金を使用し、ホットストリップの析出特性に影響を与えることにより、微細結晶粒構造を形成させることが可能である。しかしながら、この目的に必要な合金元素は高価であり、再結晶に必要な焼きなまし温度を上昇させる。さらにまた、ホットストリップのベース強度が増加するため、冷間圧延性が低下し、鋼板の表面に欠陥が生じやすくなる。
【0011】
結果として、成形性を維持しながら鋼板の強度を増加させる上述した可能性は、特に等方性に関して、すなわち、材料特性の方向依存性に関して問題を引き起こす。飲料や食品缶などの包装材料は、例えば、ほとんどの場合(回転)対称のアイテムであるため、包装材料の製造に使用される鋼板は、深絞りおよびしごき加工を使用して円筒形の缶本体または円筒缶の底もしくは蓋に形成される、丸型ブランクの形態で(すなわち、平面円筒形シート金属ブランクの形態で)頻繁に入手可能である。最終製品の対称性のため、板金(平鋼)の材料特性は、可能な限り等方性である必要がある。すなわち、包装金属の特性は、金属面の全ての方向で可能な限り均一である必要がある。製造プロセスの性質によりストリップ鋼の形態で入手可能な冷間圧延鋼板の場合、これは非常に複雑な要件である、なぜなら、熱間圧延および冷間圧延の圧延方向により、製造プロセスの性質による材料特性は、常に圧延方向に依存するからである。したがって、冷間圧延鋼板は、製造プロセスの性質上、常に顕著な異方性を有する。この異方性は、非常に薄い金属シートの厚さを実現するために必要である冷間圧延中の高変形に決定的に起因する。包装材料の製造では、冷間圧延鋼板は、常に圧延方向に関係なく加工されるため、例えば、丸型ブランクの円周全体で強度や成形性が均一でないなどのために、成形作業中に困難が頻繁に生じる。
【0012】
したがって、平鋼製品の板金の平面内で可能な限り最も等方性の特性を特徴とする冷間圧延平鋼製品の形態の包装用鋼が大いに必要とされている。平鋼製品の厚さの継続的な減少とそれに必要な強度の増加の状況下では、これは、達成するのが困難な矛盾した目標である。さらにまた、平鋼製品の等方性に加えて、包装用鋼が満たすべき他の要件、特に成形作業の柔軟性と包装材料の形状、スクラップの削減、およびそれに必要な包装材料の可能な限り最も均一で均質な特性の実現に関して、包装材料の製造において考慮される必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】US2011/0076177A1
【発明の概要】
【0014】
したがって、本発明によって解決されるべき1つの問題は、板金面で可能な限り等方性の材料特性を有する包装材料の製造に使用するための高強度平鋼製品を利用可能にすることであり、高強度平鋼製品から、優れた等方性と最も多様な形状を有する平鋼製品包装材料を、可能な限り少ないスクラップによって様々な成形加工で製造することができる。
【0015】
包装用鋼は、時効状態、すなわち比較的長い保管期間の後、適切な場合は塗装と乾燥後に、完成した包装材料に加工されるため、比較的長い保管時間後に生じるおよび/または塗装とその後の乾燥の後に生じる材料の時効による効果を考慮して材料を最適化する必要がある。したがって、包装用鋼の技術的パラメータは、材料が人工時効された後に決定され、これは、DIN規格EN10202にしたがって、試験片を20分間200℃に加熱することによって実行することができる。鋼板の(自然または人工)時効中、特に強度と成形性が影響を受けるため、材料特性を最適化する際には、時効による効果を考慮する必要がある。
【0016】
上述した理由により、冷間圧延鋼板の強度および成形性に関する材料特性の改善は、材料特性に関する等方性を犠牲にして行われる。鋼板に等方性を付与するために、冷間圧延鋼板の製造に様々な冶金およびプロセスエンジニアリング技術を使用することができる。例えば、冷間圧延鋼板の等方性を具体的に改善するための1つのオプションは、合金化剤としてのホウ素の添加である。しかしながら、ホウ素は、鋼の加工性と最終製品(鋼板)に悪影響を及ぼす。合金化剤としてホウ素を添加した後、冷間圧延後に鋼板を再結晶化するために必要な焼きなまし温度が上昇し、材料の溶接性が低下し、時効可能性(すなわち、鋼板の時効中の強度の増加)が低下する。
【0017】
したがって、本発明によって解決されるべき別の問題は、一方では、包装用鋼が深絞りおよびしごき加工に十分な適切な成形性を維持しながら可能な限り高い強度を有し、他方では、材料の時効状態での強度および成形性に関して、材料特性の可能な限り高い等方性を有する、費用効果が高く生産可能な包装用鋼およびその製造方法を利用可能にすることである。
【0018】
本発明によれば、前述の問題は、請求項1に記載の特徴を備えた平鋼製品によって解決される。この文脈において、平鋼製品は、ブラックプレートの範囲の厚さ、特に0.1〜0.6mmの厚さの範囲を有するスラブまたはストリップ形状の鋼板を指すことを意図している。
【0019】
本発明は、鋼の格子間に取り込まれた合金成分による固溶硬化が、強度、成形性、および等方性を同時に改善することを可能にし、炭素および窒素の炭化物および窒化物への固定が少なくとも大幅に技術的に抑制されることができる場合、炭素および窒素による固溶硬化が特に効果的であるという発見に基づいている。炭化物および窒化物の形成は、異方性特性の形成を促進するであろう。
【0020】
本発明に基づく別の発見は、包装用鋼の製造ルートの最後に、窒素ドナー(窒素供与体)の存在下において焼きなまし炉内で冷間圧延平鋼製品を窒化することによる窒素の取り込みが、窒素による効果的な固溶硬化を実現すること、および包装材料の製造における平鋼製品のさらなる加工に関連する、材料特性、特に降伏強度と破断伸びに関する等方性を改善することの双方に特に適しているということである。その理由は、溶鋼に窒素を導入することによって窒素含有率を増やすのとは対照的に、焼きなまし炉での窒化は、本質的に、窒素を窒化物に固定せずに格子間への窒素の取り込みをもたらすことが見出されたからである。
【0021】
驚くべきことに、焼きなまし炉(特に再結晶焼きなまし前または再結晶焼きなまし中の連続焼きなまし炉)での窒化サイクル中に、冷間圧延平鋼製品内の格子間に取り込まれる窒素が、材料特性に関する成形性および等方性に対する良好な影響を与えることが見出された。明らかに、鋼の(フェライト)格子間への窒素の均一な分布のために、格子間への窒素の取り込みは、平鋼製品の機械的性質に関して非常に優れた等方性をもたらす。
【0022】
これは、炭素と比較して、格子間への窒素の取り込みが包晶点の位置をかなり高い合金含有率にシフトするという事実によってさらに強化され、これは、鋼格子の格子間サイトにおける大量の窒素の取り込みが、格子間への炭素の取り込みよりも、表面品質およびスラブ内のクラック形成のリスクに関して、それほど重要ではないことを意味する。スラブのクラック形成を防ぐために、本発明の平鋼製品中の炭素の重量パーセントは、0.10%に制限される。他方では、窒素の取り込みに関して、窒素含有率は、鋼のフェライト格子への窒素の固溶限および製造プロセスの経済的実行可能性によってのみ制限される。したがって、フェライト格子への約0.1重量%の窒素の固溶限、およびAl、Ti、Nbおよび/またはBなどの強力な窒化物形成元素の存在下での窒化物への窒素の部分的固定を考慮すると、鋼の窒素含有率は、最大0.120重量%に制限される。プロセス工学の観点から、本発明による窒化平鋼製品の窒素含有率は、好ましくは最大0.070重量%に制限される。なぜなら、この量を超える(連続)焼きなまし炉における冷間圧延平鋼製品の窒化は、それが少なくとも現在まだ経済的に実行可能ではないほど高度な技術的複雑さを必要とするためである。したがって、技術的および経済的理由から、窒素の重量含有率は、最も好ましくは、0.050%以下である。
【0023】
これに関連して、窒化後、特に冷間圧延が圧延方向に沿って通過する結果として、圧延方向および圧延方向に対して横断方向に生じる材料特性が変化するのを防ぐために、製造プロセス中のできるだけ遅くに、平鋼製品に窒素を添加することが特に有用である。本発明による平鋼製品は、例えば、(一次)冷間圧延工程の後で、連続焼きなまし炉での焼きなましプロセスの前または焼きなましプロセス中に窒化され得る。
【0024】
窒化は、(一次)冷間圧延工程の後にのみ行われるため、窒素は、材料特性に関して大きな異方性をもたらす熱間圧延および(一次)冷間圧延の処理工程の一部ではない。再結晶焼きなまし中または再結晶焼きなまし後の鉄格子(フェライト格子)への窒素の格子間取り込みは、本発明による包装用鋼の均質性をさらに高める。より具体的には、調質圧延中に、材料特性の方向依存性を増加させるであろう窒化物析出のリスクが回避される。
【0025】
2回圧延される冷間圧延鋼板の場合、固溶硬化の結果として、格子間に取り込まれた窒素によって鋼のベース強度が高くなるため、二回目の冷間圧延での調質圧延率を下げることができ、それによって生じる異方性を最小化することができる。したがって、二回目の冷間圧延中の調質圧延率は、優先的には18%以下に制限され得る。
【0026】
したがって、本発明は、圧延方向(0°)に沿って鋼から冷間圧延され、0.6mm未満の厚さを有する包装材料用の(1回または2回)冷間圧延平鋼製品であって、重量パーセントで以下の組成、
C:0.02〜0.1%、
Si:0.03%未満、
Mn:0.17〜0.5%、
P:0.03%未満、
S:0.001〜0.03%、
Al:0.002〜0.1%、
N:0.014〜0.12%、好ましくは0.07%未満、
任意でCr:0.1%未満、好ましくは0.01〜0.08%、
任意でNi:0.1%未満、好ましくは0.01〜0.05%、
任意でCu:0.1%未満、好ましくは0.002〜0.05%、
任意でTi:0.01%未満、
任意でB:0.005%未満、
任意でNb:0.01%未満、
任意でMo:0.02%未満、
任意でSn:0.03%未満、
残部鉄および不可避的不純物、
を含み、
時効状態の平鋼製品は、最小450MPaの0.5%オフセットでの降伏強度(Rp0.5)、最小5%の破断伸び(A)、および圧延方向(0°)に対する角度(α)の関数として、破断伸び(A)と0.5%オフセットでの降伏強度(Rp0.5)との積によって定義される変形エネルギW(α)を有し、変形エネルギW(α)は、圧延方向の変形エネルギW(0°)の60%以上で且つ140%以下である。
【0027】
平鋼製品に含まれる窒素のうち、好ましくは最小0.010%の重量パーセントが非結合状態で鋼の格子間に取り入れられている。
【0028】
本発明による平鋼製品は、圧延方向(0°)における、最小450MPaの0.5%オフセットでの高い降伏強度(Rp0.5)、および最小5%の良好な破断伸び(A)を特徴とし、また、角度αだけずらした平鋼製品の平面における変形エネルギW(α)の均一で無視できる方向依存性を特徴とする。(ロールが圧延方向に沿って通過するため、方向に依存し続ける)変形エネルギW(α)は、冷間圧延鋼板が深絞りおよびしごきプロセスによる包装材料の製造に使用することができるかどうかを評価するための適切な尺度である、なぜなら、破断伸び(A)および0.5%オフセットでの降伏強度(Rp0.5)の積から計算された変形エネルギWは、鋼板の強度とその成形性の両方の尺度であるからである。以下にさらに説明する理由により、0.5%オフセットでの降伏強度(Rp0.5)は、時効した平鋼製品の強度を評価するための適切な尺度であることが証明された。
【0029】
本発明による平鋼製品において、圧延方向(0°)に対する角度(α)に依存する5%オフセットでの降伏強度(Rp0.5)は、上限値と下限値との間の範囲にあり、下限値は、圧延方向(0°)の0.5%オフセットでの降伏強度(Rp0.5)の最小90%であり、上限値は、最大110%であり、圧延方向の0.5%オフセットでの降伏強度(Rp0.5)は、最小450MPaである。
【0030】
本発明による平鋼製品において、圧延方向(0°)に対する角度(α)に依存する破断伸びA(α)も、上限値と下限値との間の範囲にあり、下限値は、圧延方向の破断伸びA(0°)の最小60%であり、上限値は、破断伸びA(0°)の最大140%であり、圧延方向の破断伸び(A)は、最小5%である。
【0031】
したがって、圧延方向(0°)に対する角度(α)に依存する変形エネルギW(α)は、好ましくは、圧延方向の変形エネルギW(0°)の最小70%から最大130%の間の範囲にある。
【0032】
完全な再結晶化を確実にするために、好ましくは630℃(平鋼製品の温度)よりも高い焼きなまし温度での、焼きなまし炉内における窒化サイクル中に、冷間圧延平鋼製品に窒素が拡散するため、拡散した窒素は、均一に分布し、鋼の格子に取り入れられる。格子間に取り入れられた窒素の均一な分布は、窒化処理によって影響される窒化平鋼製品の機械的性質に関して、特に破断伸びおよび降伏強度に関して、ならびに、その結果、深絞り用途の品質基準として関連する、0.5%オフセットでの降伏強度(Rp0.5)と破断伸び(A)との積である変形エネルギに関して、高い等方性をもたらす。焼きなまし炉で取り込まれた窒素の可能な限り高い均一な分布は、焼きなまし炉内での平鋼製品のより長い滞在時間、特に再結晶焼きなまし中のより長い焼きなまし時間で観察される。焼きなまし炉内での平鋼製品の滞在時間は、好ましくは10秒よりも長く、より好ましくは30秒よりも長く、特に100秒〜250秒の範囲である。400秒よりも長い滞在時間では、典型的なスループット経路長にわたる連続焼きなまし炉を通るストリップ形状の平鋼製品のスループット速度は、経済的理由から、もはやプロセスの効率を実証することができないほど非常に低くなければならず、これは、400秒を超える焼きなまし時間がバッチ焼きなましプロセスにおいてのみ設定することができる理由である。
【0033】
冷間圧延サイクル後に窒化することによって本発明による平鋼製品において達成される、0.5%オフセットでの降伏強度(Rp0.5)、破断伸び(A)および変形エネルギ(W)など、冷間加工サイクルに関連する材料特性に関する等方性は、(一回または二回の)冷間圧延に起因する、避けることができない鋼の結晶粒の伸長にもかかわらず、達成することができる。本発明による平鋼製品において、鋼構造の結晶粒は、典型的には、3.0〜6.0μmの平均繊維長を有し、また、例えば、圧延方向(0°)において、方向依存性結晶粒伸び(S)は、平鋼製品の長手断面において最小1.4であり、平鋼製品の平面断面において最小1.1である。したがって、本発明による平鋼製品では、製造プロセスに固有の結晶粒伸びにもかかわらず、降伏強度、破断伸び、および結果として生じる金属面の変形エネルギに関して等方性特性を達成することが可能である。
【0034】
鋼構造の結晶粒の結晶粒伸び(S)は、平均垂直繊維長(S_V)に対する平均水平繊維長(S_H)の比として定義される。圧延方向を横断する方向(α=90°)において、角度αに依存する平鋼製品の結晶粒伸び(S)は、通常は最小1.2である。
【0035】
平鋼製品を窒化することによって生じる固溶硬化は、添加された窒素が鋼の格子間サイト(特にフェライト格子)に取り入れられる場合に最も効果的であるため、窒素が窒化物の形態で結合するのを防ぐために、鋼の合金組成が、Al、Ti、B、および/またはNbなどの強力な窒化物形成元素を可能な限り少ない量で含む場合、有用である。したがって、鋼の合金組成は、好ましくは、これらの強力な窒化合金成分の重量パーセント含有率について、以下の上限値を有する:
Al:<0.1%、好ましくは0.05%未満、
Ti:<0.01%、好ましくは0.002%未満、
B:<0.005%、好ましくは0.001%未満、
Nb:<0.01%、好ましくは0.002%未満。
【0036】
窒化物形成元素の総重量含有率は、好ましくは0.1%未満である。これは、特に、遊離窒素の重量含有率が0.01%を超えることを保証する。
【0037】
熱間圧延ストリップ中の遊離窒素の重量含有率N遊離(熱間圧延ストリップ)は、上記の閾値内で鋼に含まれている可能性がある窒化物形成元素Al、Ti、B、およびNbが、完全に窒素と固定され窒化物を形成するという仮定に基づくと、式1によって表すことができる:
遊離(熱間圧延ストリップ)=1/2(N−Ti/3.4−B/0.8−Nb/6.6−Al係数+|N−Ti/3.4−B/0.8−Nb/6.6−Al係数|) (式1)、
ここで、Nは、溶鋼中の窒素の重量含有率であり、Al係数は、リール温度HT(熱間圧延ストリップの巻き取り温度)とアルミニウム含有率Al(重量%)との関数として以下のように定義される:
HT<640℃の場合:Al係数=0、
750≧HT≧640℃の場合:Al係数=N−N×(−0.682HT+536)/100=N×(1−(−0.682HT+536)/100)
そして、加数である
|N−Ti/3.4−B/0.8−Nb/6.6−Al係数|
は、差「N−Ti/3.4−B/0.8−Nb/6.6−Al係数」の合計として定義される。式1において、この合計加数は、最大で、熱間圧延ストリップ(すなわち、溶鋼)中に実際に存在する全窒素のみが、熱間圧延ストリップ(すなわち、溶鋼)中に存在する窒化物形成元素によって固定され得ることを考慮に入れている。
【0038】
冷間圧延平鋼製品の遊離窒素の総重量含有率は、熱間圧延ストリップ(上記の式1によるN遊離(熱間圧延ストリップ))の遊離窒素含有率と連続焼きなまし炉で窒化することによって添加された窒素ΔNとの合計から得られる:
遊離=N遊離(熱間圧延ストリップ)+ΔN (式2)
【0039】
これは、連続焼きなまし炉での窒化工程中に導入される窒素含有率ΔNの少なくとも大部分が、格子間サイトに取り入れられるという仮定に基づいている。冷間圧延平鋼製品中の遊離窒素の重量含有率の上限値は、鋼のフェライト格子中の窒素の固溶限によって決定され、約0.1重量%である。
【0040】
冷間圧延平鋼製品(N遊離)中の遊離窒素の総重量含有率は、好ましくは0.01%超である。冷間圧延平鋼製品に可能な限り高い割合の非結合窒素を導入するために、好ましくは、窒素の総重量含有率の大部分は、連続焼きなまし炉内における窒化によって導入され、ΔNの重量含有率は、好ましくは、最小0.002重量%であり、最も好ましくは、0.008重量%よりも高い。
【0041】
本発明による平鋼製品は、まず、上記の溶鋼から製造されたスラブから、>Ar3の好ましい最終圧延温度で、特に800℃〜900℃の間で熱間圧延することにより、熱間圧延ストリップが製造され、熱間圧延ストリップは、<Ar1の巻き取り温度(リール温度HT)、特に500℃〜750℃の範囲の温度で巻き上げられ、冷却後、最小80%の圧延率で冷間圧延されて平鋼製品(ストリップ鋼)を形成し、その後、焼きなまし炉内、特に連続焼きなまし炉内で、最低630℃の焼きなまし温度で、窒素ドナーの存在下で、少なくとも断続的に、再結晶焼きなましされ、その後、室温に冷却され、最後に0.2%〜45%の調質圧延率で、調質圧延またはドレッシングされる、製造プロセスによって得られる。等方性が調質圧延サイクルによって悪影響を受けないことを保証するために、調質圧延率は、好ましくは18%未満である。
【0042】
連続焼きなまし炉内での平鋼製品の窒化は、再結晶焼きなましの前、再結晶焼きなまし中、または再結晶焼きなまし後に行うことができる。例えば、連続焼きなまし炉の第1の上流ゾーンにおいて、窒素ドナーの存在下で、再結晶温度よりも低い第1の温度で、連続焼きなまし炉内における窒化工程を実行し、その後、連続焼きなまし炉の第2の下流ゾーンにおいて、再結晶焼きなましのために、再結晶温度よりも高い第2の温度で平鋼製品を加熱することが可能である。窒化および再結晶焼きなましの順序を逆にすることもできる。窒化サイクルを再結晶焼きなましサイクルから分離し、連続焼きなまし炉の異なるゾーンでそれらを実行することは、各手順に最適な温度を設定できるという利点を有しており、窒化工程の最適温度は再結晶焼きなましサイクルの最適温度よりも低い。しかしながら、経済的理由から、窒素ドナーの存在下で再結晶温度を超える温度で連続焼きなまし炉において平鋼製品の窒化と焼きなましとを同時に行うことが好ましい。
【0043】
このようにして製造された平鋼製品の特性は、調質圧延ストリップ鋼が時効された後に進化し、時効は、200℃に20分間加熱することによって人工的に達成されるか、または平鋼製品にニスをコーティングしてからニスを乾燥することによって達成される。
【0044】
熱間圧延ストリップは、冷間圧延平鋼製品の総窒素含有率および冷間圧延ストリップを窒化することによって引き起こされる固溶硬化を最大化するために、好ましくは、0.001重量%〜0.016重量%の範囲の初期窒素含有率Nを既に有する。スラブの鋳造中および熱間圧延中にスラブにクラックが形成されるのを防ぎ、熱間圧延ストリップの強度が、通常使用される冷間圧延設備によってもはや冷間圧延されることができない程度に増加していないことを保証するため、熱間圧延ストリップを製造するための溶鋼中の窒素の重量含有率は、0.016%を超えてはならない。初期窒素含有率Nと焼きなまし炉内での窒化中に取り込まれた窒素含有率ΔNとの合計からなる本発明による平鋼製品の総窒素含有率は、焼きなまし炉内に窒素ドナーが存在することにより、冷間圧延平鋼製品の焼きなまし中に設定され、焼きなまし温度で、窒素ドナーの解離した原子状窒素は、冷間圧延平鋼製品に拡散し、それによって窒素含有率がΔN増加する。焼きなまし炉内での窒化中に導入される窒素含有率ΔNは、好ましくは最小0.002重量%であり、これは、溶鋼中の初期窒素含有率Nが0.014重量%よりも低い場合、平鋼製品の総窒素含有率を0.014重量%超に増加させる。冷間圧延平鋼製品は、最も好ましくは、連続焼きなまし炉内において、0.020重量%を超える窒素含有率まで窒化される。連続焼きなまし炉内の平鋼製品窒化物の総窒素含有率は、(少なくとも理論的には)鋼の(フェライト)格子における窒素の固溶限である約0.1%までの範囲とすることができる。
【0045】
関与する窒素ドナーは、例えば、焼きなまし炉内の窒素含有ガス雰囲気、特にアンモニア含有雰囲気、製品が焼きなまし炉内で加熱される前に冷間圧延平鋼製品の表面に適用される窒素含有液体とすることができる。使用される窒素ドナーは、窒素を平鋼製品内に拡散させるために、焼きなまし炉内で、窒素ドナーが解離し、それによって原子状窒素が利用可能となるようなタイプのものでなければならない。関与する窒素ドナーは、特に、アンモニアガスとすることができる。このアンモニアガスが焼きなまし炉内で解離して原子状窒素を形成することを確実にするために、冷間圧延平鋼製品の窒化中、焼きなまし炉は、好ましくは400℃を超える炉温度に設定される。
【0046】
窒素ドナーの存在下で、(連続)焼きなまし炉内での焼きなまし中に平鋼製品を窒化することによる固溶硬化に起因する強度の増加により、高い調質圧延率で本発明による平鋼製品の調質圧延を行い、ひずみ硬化させて強度をさらに高める必要はない。したがって、調質圧延率は、好ましくは最大18%に制限することができ、それにより、高い調質圧延率での二回目の冷間圧延サイクルによって生じる材料特性の等方性の劣化を防ぐことが可能になる。
【0047】
二回目の冷間圧延またはドレッシングサイクルの後、耐食性を改善するために、例えば、スズまたはクロム/クロム酸化物コーティングを電析によって、および/またはニスを表面に塗装することによって、または熱可塑性材料から作製されたポリマーシート、特にPETなどのポリエステルもしくはPPやPEなどのポリオレフィンから作製されたシートを表面に積層することによって、コーティングを平鋼製品の表面に設けることができる。
【0048】
本発明による鋼板の優れた等方性機械的性質は、缶(いわゆる「イージーオープンエンド」、EOE)用のプルタブ蓋またはエアゾール缶またはエアゾール缶の構成要素(例えば、エアゾール缶の底部もしくは蓋など)を製造することを可能にし、例えば、プルタブ蓋またはエアゾール蓋またはエアゾール缶およびその構成要素はその表面全体にわたって等方性を有する。本発明による鋼板の等方性特性は、関連する製品がそれらの全周にわたって実質的に均一な機械的性質を有するため、特に円形または楕円形のプルタブ蓋およびエアゾール缶の円形底部に対して利点を提供する。本発明による鋼板の等方性機械的性質はまた、成形された板金部品の周囲にわたって均一な機械的性質が同様に達成され、成形工程中に板金の厚さが薄くなる材料の薄化領域が生成されないため、例えば、二部分型缶用の缶本体を製造するために、丸い鋼板部品(円形ブランク)が形成される深絞り用途に利点を提供する。
【0049】
本発明による平鋼製品のこれらのおよび他の特性、特徴、および利点は、添付の図面および表を参照して以下にさらに説明される実施例から得られる。図面は、以下を示している。
【図面の簡単な説明】
【0050】
図1】本発明による平鋼製品の引張試験において得られた概略的な応力−ひずみ線図の例である。
図2】引張試験において試験した平鋼製品の平面における破断伸び(A)の角度依存性の円グラフであり、図2aは試験片1〜13の結果を示し、図2bは試験片14〜26の結果を示す。
図3】引張試験において試験した平鋼製品の平面における0.5%オフセットでの降伏強度(Rp0.5)の角度依存性の円グラフであり、図3aは試験片1〜13の結果を示し、図3bは試験片14〜26の結果を示す。
図4】引張試験において試験した平鋼製品の平面における変形エネルギW=A・Rp0.5の角度依存性の円グラフであり、図4aは試験片1〜13の結果を示し、図4bは試験片14〜26の結果を示す。
図5】試験した平鋼製品の結晶粒構造を特定するための試験の概略図である。
図6】破断伸びに関して、等方性に対し、冷間圧延平鋼製品を時効した場合の影響を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0051】
本発明による平鋼製品を製造するために、スラブは、溶鋼から鋳造されて熱間圧延され、熱間圧延ストリップを形成する。溶鋼の合金組成は、好ましくは、(例えば、規格ASTM A623−11「錫ミル製品の標準仕様」または「欧州規格EN10202」において定義されるような)包装用鋼の規格によって指定された閾値によってガイドされる。以下に、本発明による平鋼製品を製造することができる鋼の成分について詳細に説明する。
【0052】
鋼の組成
【0053】
・炭素C:最小0.02%、最大0.1%、好ましくは0.085%未満。
炭素は、硬度および強度を高める効果を有する。したがって、鋼は、最低0.02重量%の炭素を含む。一次冷間圧延工程で、また適切な場合は二次冷間圧延工程(調質圧延またはドレッシング)において平鋼製品の圧延性を確保し、破断伸びを低下させないために、炭素含有率は高すぎないようにする必要がある。さらにまた、炭素含有率が増加すると、炭素は鋼のフェライト格子への溶解度が低いために、炭素が主にセメンタイトの形態で存在するため、平鋼製品の製造および加工中に縞状の形態で顕著な異方性が形成される。さらに、炭素含有率が増加すると、表面品質が低下し、包晶点に近付くにつれてスラブにクラックが形成されるリスクが高まる。したがって、炭素含有率は、スラブ内のクラックの形成とその結果生じる点酸化(クラックへの酸素の拡散)を効果的に防ぐため、最大0.1重量%に制限する必要がある。
【0054】
・マンガンMn:最小0.17%、最大0.5%。
マンガンも、硬度および強度を高める効果を有する。さらに、マンガンは、鋼の溶接性および耐摩耗性を向上させる。さらに、マンガンの添加により、硫黄が結合し、より有害性の低いMnSになるため、熱間圧延中の赤熱脆性の傾向が低下する。さらにまた、マンガンは、結晶粒微細化を引き起こし、マンガンは、鉄格子への窒素の溶解度を高め、スラブ表面への炭素の拡散を防ぐことができる。したがって、最小0.17重量%のマンガン含有率が好ましい。高強度を達成するために、0.2重量%超、特に0.30重量%以上のマンガン含有率が好ましい。しかしながら、マンガン含有率が高すぎると、鋼の耐食性が低下し、食品グレードの品質が保証されなくなる。さらにまた、マンガン含有率が高すぎると、熱間圧延ストリップの強度が高くなりすぎて、熱間圧延ストリップをもはや冷間圧延することができなくなる。したがって、マンガン含有率の上限値は、0.5重量%である。
【0055】
・リンP:0.03%未満
リンは、鋼の望ましくない残留元素である。特に、リン含有率が多いと鋼が脆化するため、平鋼製品の成形性に悪影響を及ぼす。そのため、リン含有率の上限値は0.03重量%である。
【0056】
・硫黄S:0.001%超、最大0.03%
硫黄は、延性および耐食性に悪影響を与える望ましくない残留元素である。したがって、0.03重量%を超える硫黄が鋼に存在してはならい。しかしながら、一方では、鋼を脱硫するために取らなければならない措置は、技術的に複雑で費用がかかるため、経済的理由から、硫黄含有率を0.001重量%未満にすることは、もはや許容できない。したがって、硫黄含有率は、0.001重量%から0.03重量%の範囲であり、最も好ましくは、0.005重量%から0.01重量%の範囲である。
【0057】
・アルミニウムAl:0.002%超、0.1%未満
アルミニウムは、鉄鋼をキリング(脱酸)するための脱酸剤として鉄鋼の生産に必要である。アルミニウムはまた、耐スケール性および成形性を向上させる。したがって、アルミニウム含有率は、0.002重量%よりも高い。しかしながら、アルミニウムは、窒素と共に、本発明による平鋼製品において望ましくない窒化アルミニウムを形成する。窒化アルミニウムの形成が望ましくない理由は、遊離窒素の含有率を減少させるからである。さらにまた、アルミニウム濃度が高すぎると、アルミニウムクラスタの形態で表面欠陥が発生する可能性がある。したがって、アルミニウムは、最大0.1重量%の濃度で使用されることができる。
【0058】
・シリコンSi:0.03%未満
シリコンは、鋼の耐スケール性を高め、且つ析出硬化剤である。鉄鋼の製造では、Siは、脱酸剤として機能する。鋼に対するSiの別の良い効果は、引張強度および降伏応力を増加させるということである。したがって、0.003重量%以上のシリコン含有率が好ましい。しかしながら、シリコン含有率が過度に高く、より具体的には0.03重量%を超えると、鋼の耐食性が低下し、特に電解コーティングによる表面処理が妨げられる可能性がある。
【0059】
・任意で窒素N:0.016%未満、好ましくは0.001%超
窒素は、溶鋼中の任意の成分であり、溶鋼から本発明による平鋼製品用の鋼が製造される。析出硬化剤としての窒素は、硬度および強度を向上させる効果を有するが、溶鋼中の窒素含有率が0.016重量%を超える過度に高い窒素含有率では、溶鋼から製造された熱間圧延ストリップを冷間圧延することがより困難になる。さらに、0.016重量%以上の窒素濃度では熱間成形性が低下するため、溶鋼中の窒素含有率が高いと、熱間圧延ストリップに欠陥が生じるリスクが高まる。本発明によれば、焼きなまし炉において冷間圧延平鋼製品を窒化することにより、平鋼製品の窒素含有率を増加させることが意図されている。したがって、溶鋼への窒素の導入は、完全に省略することができる。しかしながら、固溶硬化によって高強度を達成するために、0.001重量%超、最も好ましくは0.010重量%以上の初期窒素含有率が既に溶鋼中に存在することが好ましい。
【0060】
焼きなまし炉内での窒化の前に初期窒素含有率Nを平鋼製品に導入するために、例えば、窒素ガスを吹き込むことによって、および/またはカルシウム窒素(カルシウムシアナミド)や窒化マンガンなどの固体窒素化合物を添加することによって、適切な量の窒素を溶鋼に添加することができる。
【0061】
・任意で、窒化物形成元素、特にニオブ、チタン、ホウ素、モリブデン、クロム
本発明による平鋼製品の鋼において、アルミニウム、チタン、ニオブ、ホウ素、モリブデン、およびクロムなどの窒化物形成元素は、それらが窒化物を形成することにより遊離窒素の割合を減少させるため、望ましくない。さらに、これらの元素は、高価であるため、製造コストを増加させる。しかしながら、一方では、例えば、ニオブ、チタン、およびホウ素などの元素は、マイクロ合金成分として、靭性を低下させることなく、結晶粒微細化によって強度を増加させる。したがって、合金成分として上記の窒化物形成元素をある限定された量で溶鋼に添加することは、有用であり得る。したがって、鋼は、重量%で以下の窒化物形成合金成分を(任意に)含むことができる:
チタンTi:好ましくは0.002%超であるが、コスト上の理由から0.01%未満、
ホウ素B:好ましくは0.001%超であるが、コスト上の理由から0.005%未満、および/または、
ニオブNb:好ましくは0.001%超であるが、コスト上の理由から0.01%未満、および/または、
クロムCr:溶鋼の製造においてスクラップの使用を可能にし、スラブ表面での炭素の拡散を妨げるために好ましくは0.01%超であるが、炭化物および窒化物の形成を防ぐために最大0.08%、および/または、
モリブデンMo:再結晶温度の過度の上昇を防ぐために0.02%未満。
【0062】
窒化物の形成の結果としての遊離非結合窒素N遊離の割合の減少を回避するために、溶鋼中の上記の窒化物形成元素の総重量含有率は、好ましくは0.1%未満である。
【0063】
その他の任意の成分
残部鉄(Fe)および不可避的不純物に加えて、溶鋼はまた、例えば、以下のような他の任意の成分を含むことができる。
任意で銅Cu:溶鋼の製造においてスクラップの使用を可能にするために0.002%超であるが、食品グレードの品質を確保するために0.1%未満、
任意でニッケルNi:溶鋼の製造においてスクラップの使用を可能にし、且つ靭性を向上させるために0.01%超であるが、食品グレードの品質を確保するために0.1%未満、
任意でスズSn:好ましくは0.03%未満。
【0064】
平鋼製品の製造方法:
上記の鋼の組成を使用して、溶鋼が製造され、これは、最初に連続鋳造され、冷却された後、スラブに分割される。次に、スラブは、1100℃よりも高い予熱温度、特に1200℃に再加熱され、熱間圧延されて、厚さが1〜4mmの範囲の熱間圧延ストリップが製造される。
【0065】
熱間圧延中の最終圧延温度は、オーステナイトを維持するために、好ましくはAr3温度よりも高く、特に800℃〜900℃の範囲である。
【0066】
熱間圧延されたストリップは、所定の、好ましくは一定の巻き取り温度(リール温度、HT)でコイルを形成するように巻き取られる。巻き取り温度は、フェライト系の範囲を維持するために、好ましくはAr1よりも低く、好ましくは500℃〜750℃の範囲であり、最も好ましくは、AlNの析出を防ぐために640℃未満である。経済的な理由から、巻き取り温度は、500℃よりも高くする必要がある。熱間圧延ストリップの表面での窒化鉄の形成は、熱間圧延サイクルの終わりから巻き取りまで、熱間圧延ストリップをより高い冷却速度で冷却することによって防ぐことができる。
【0067】
0.6mm未満の厚さ範囲(ブラックプレートの厚さ)、好ましくは0.4mm未満の厚さの薄い平鋼製品の形態の包装用鋼を製造するために、熱間圧延ストリップは、最小で80%、好ましくは85%〜98%の範囲の厚み減少率(冷間圧延中の減少の程度または変形の程度)となるように冷間圧延される。冷間圧延中に破壊された鋼の結晶構造を回復するために、冷間圧延鋼ストリップは、その後、焼きなまし炉において再結晶焼きなましされる。これは、例えば、冷間圧延鋼ストリップの形態の平鋼製品を、鋼ストリップが鋼の再結晶温度を超える温度に加熱される連続焼きなまし炉に通すことによって達成される。再結晶焼きなましの前に、または好ましくは再結晶焼きなましと同時に、冷間圧延平鋼製品は、窒素ドナーの存在下で、焼きなまし炉内で平鋼製品を加熱することによって窒化される。窒化は、窒素ドナーを、特に窒素含有ガス形態で、好ましくはアンモニア(NH)形態で焼きなまし炉内に導入し、鋼の再結晶温度を超える焼きなまし温度に平鋼製品を加熱し、好ましくは10〜150秒の焼きなまし時間(保持時間)の間、焼きなまし温度に平鋼製品を維持することにより、焼きなまし炉内での再結晶焼きなましと同時に実施される。焼きなまし温度は、好ましくは630℃よりも高く、特に650℃〜750℃の範囲である。窒素ドナーは、焼きなまし炉内の温度で、窒素ドナーが解離して、平鋼製品内に拡散可能となる原子状窒素を形成することが確実になるように選択される。アンモニアは、この目的に適していることが証明されている。焼きなまし中の平鋼製品の表面の酸化を防ぐために、焼きなまし炉では、保護ガス雰囲気が有利に使用される。焼きなまし炉内の雰囲気は、好ましくは、窒素ドナーとして作用する窒素含有ガスと、HNxなどの保護ガスとの混合物からなり、保護ガスの体積含有率は、好ましくは90%〜99.5%の範囲であり、ガス雰囲気の体積含有率の残りは、窒素含有ガス、特にアンモニアガス(NHガス)によって形成される。
【0068】
実施例:
本発明の実施例および比較例を以下に説明する。平鋼製品(ストリップ鋼)は、表1に記載されている合金組成の溶鋼から熱間圧延とそれに続く冷間圧延によって製造された。
【0069】
続いて、冷間圧延平鋼製品は、640℃の焼きなまし温度で45秒の焼きなまし時間にわたって平鋼製品を維持することにより、連続焼きなまし炉で再結晶焼きなましされた。
【0070】
表1の熱処理された鋼板のプロセスおよび材料パラメータを表2に示す。
N(窒化後)は、焼きなまし炉で窒化した後の窒素含有率である。
Dは、鋼板の厚さ(mm)である。
NWGは、二次冷間圧延中の調質圧延率(%)を表す。
NH3は、焼きなまし炉内のアンモニア含有率(体積%)である。
Rp0.5は、圧延方向の0.5%オフセットでの降伏強度(MPa)である。
Aは、圧延方向の破断伸び(%)である。
Rmは、圧延方向の引張強度(MPa)である。
【0071】
本発明による実施例(表1および表2の例1〜3、10〜12、15、16、18、19、21〜23、25および26)において、アンモニアは、連続焼きなまし炉内にアンモニアとHNx保護ガスとからなるガス雰囲気が存在するように、平鋼製品の熱処理中に連続焼きなまし炉内に導入された。表2では、ガス雰囲気中のアンモニアの体積含有率は、NH3(体積%)として示されている。比較例(表1および表2の例4〜9、13、14、17、20、および24)では、100%HNx保護ガス雰囲気が焼きなまし中の連続焼きなまし炉内に存在していた。表2において、連続焼きなまし炉のアンモニア含有ガス雰囲気中で窒化することによって本発明による試験片で得られた総窒素含有率は、N(窒化後)[重量%]として示されている。総窒素含有率Nは、試験片の表面に、窒化中に形成された表面窒化鉄層を除去した後、DIN規格EN ISO14284(特にサブパラグラフ4.4.1)にしたがって決定された。
【0072】
窒素の総重量含有率は、溶鋼中の初期窒素含有率(N、表1を参照)と、連続焼きなまし炉での窒化によって取り込まれた窒素含有率ΔNとからなり、総窒素含有率N遊離のかなりの部分が非結合状態で得られ、残りは窒化物として結合状態で得られる。式(1)を参照されたい。式(1)を使用して、鋼に含まれる窒化物形成元素の重量含有率に基づいて、遊離窒素N遊離の重量含有率を推定することができる。
【0073】
連続焼きなまし炉で熱処理した後、冷間圧延および再結晶焼きなましした平鋼製品は調質圧延またはドレッシングに供された。二回目の冷間圧延またはドレッシングの調質圧延率(NWG)および調質圧延平鋼製品の厚さを表2に示す。最後に、試験片を200℃に20分間加熱することにより、平鋼製品を時効した。
【0074】
図6は、比較例5の破断伸びの角度依存性に対する時効の影響を示しており、時効されていない状態と時効された状態とを比較しており、時効された状態は、人工時効と自然時効とをさらに比較している。これは、時効後にのみ有意な異方性が発生することを示している。しかしながら、包装用鋼の実際の加工では、時効は事実上避けられないため、時効状態で等方性が決定され最適化されることが特に重要であり、これが本発明の目的である。
【0075】
実施例1〜26の時効された試験片について、引張試験および構造の検査を実施した。より具体的には、引張試験では、0.5%オフセットでの降伏強度(Rp0.5、DIN規格EN ISO6892−1にしたがって測定)と破断伸び(A)が決定され、構造の検査では、平均結晶粒度および結晶粒伸びが決定された。図1に、引張試験による応力−ひずみ線図の例を示している。
【0076】
時効平鋼製品の応力−ひずみ線図は、不連続なパターンを有する。原則として、上降伏強度限または下降伏強度は、強度、場合によっては引張強度を特徴付ける基準値として使用される。引張試験で測定される上降伏強度は、測定条件、使用する試験機、およびその向きに大きく依存する。さらに、特定の試験機では、値の広がりが特に大きい。冷間加工プロセスの場合、下降伏強度は、平鋼製品の成形性を判定するための関連パラメータである。しかしながら、リューダース領域に続いて材料がひずみ硬化しない場合、下降伏強度を決定することは困難または不可能である。さらに、この場合、引張強度は定義されない。したがって、下降伏強度の代わりに、0.5%オフセットでの降伏強度(Rp0.5)の尺度として使用されるプラトー高さが計算される(図1)、なぜならこの値は最終的に決定することができるからである。時効されていない平鋼製品を特徴付けるために頻繁に決定されるパラメータである0.2%オフセットでの降伏強度(Rp0.2)は、上降伏強度に近すぎてひずみがまだ安定していない領域にあるため、時効された試験片では信頼することができない。これらの理由から、ここでは、0.5%オフセットでの降伏強度(Rp0.5)が、サンプルの強度に関連する尺度として決定される。さらに、引張試験では、試験片の破断伸び(A)が決定された。板金の平面における、降伏強度(Rp0.5)および破断伸び(A)に関する異方性/等方性を判定するために、0.5%オフセットでの降伏強度(Rp0.5)および破断伸び(A)の測定は、圧延方向(0°)に沿って、および圧延方向に対して10°〜170°の角度範囲で10°刻みで平鋼製品の平面で実行された。圧延方向(0°)に対して角度αでの破断伸びA(α)の決定された依存性を図2の円グラフに示し、図2aは、試験片1〜13の結果を示し、図2bは、試験片14〜26の結果を示している。圧延方向(0°)に対して角度αにおける0.5%オフセットでの降伏強度Rp0.5(α)の決定された依存性を図3の円形グラフに示し、図3aは、試験片1〜13の結果を示し、図3bは、試験片14〜26の結果を示している。
【0077】
圧延方向に対して角度αにおける、0.5%オフセットでの降伏強度(Rp0.5)と破断伸び(A)の依存性について決定された測定値から、破断伸びA(α)と0.5%オフセットでの降伏強度Rp0.5(α)との積として定義されたパラメータである変形エネルギW(α)が計算された。それによって、圧延方向(0°)に対する角度αの関数として決定された変形エネルギW(α)の結果が図4に円グラフで示されており、図4aは、例1〜13の試験片の結果を示し、図4bは、例14〜26の試験片の結果を示している。
【0078】
図2図4が示すように、比較例(例4〜9、13、14、17、20および24)(連続焼きなまし炉で窒化されなかった)と比較して、本発明による試験片は、0.5%オフセットでの降伏強度(Rp0.5)、破断伸び(A)、およびそれらの積として得られる変形エネルギW(α)に関して、改善された等方性を有する。図2に示すように、本発明による試験片は、板金の平面において、圧延方向の破断伸びA(0°)が60%〜140%の範囲内である、破断伸びA(α)を有する。図3は、本発明による試験片が、圧延方向(0°)に対する角度αに依存する0.5%オフセットでの降伏強度(Rp0.5)であって、板金の平面において圧延方向の降伏強度Rp0.5(0°)が90%〜110%の範囲内である、0.5%オフセットでの降伏強度(Rp0.5)を有することを示している。図4が示すように、本発明による試験片は、板金の平面において、圧延方向(0°)に対する角度αに依存する変形エネルギW(α)であって、圧延方向の変形エネルギW(0°)が60%〜140%範囲内である、変形エネルギW(α)を有する。対照的に、図2図4が示すように、比較例は、破断伸び(A)、0.5%オフセットでの降伏強度(Rp0.5)、および変形エネルギに関してかなりの異方性を有する。
【0079】
平鋼製品の結晶粒構造を判定するために、試験片のマイクロセクションを、圧延方向に沿った平面、圧延方向に対して横断方向の横断面、および鋼板の平面で準備した。断面を図5に示す。マイクロセクションを使用して、結晶粒度および結晶粒伸びが試験片の断面の顕微鏡写真検査によって決定された。これらの微細構造写真では、グリッド線と粒界との間に発生する交点の数がカウントされる。平均結晶粒度は、線形切片セグメントの平均値(平均繊維長)から得られる。図5では、方向x(水平、圧延方向に沿った方向)およびy(垂直、平鋼製品の厚さ方向)を使用して、鋼構造の結晶粒の結晶粒伸びまたは繊維長伸びが説明されている。結晶粒のx方向では、水平繊維長S_Hが決定される。それに垂直なy方向では、垂直繊維長S_Vが決定される。これは、圧延方向に沿って取得された、および圧延方向に対して横断する方向で取得された両方のマイクロセクションで行われる。繊維長を決定するとき、全ての結晶粒が個別に測定されるのではなく、代わりに均一なグリッドパターンが構造の顕微鏡写真上に配置され、グリッドの長さと交点の数によって繊維長が決定され、これは、結晶粒度の代わりに使用することができる。平均水平および垂直繊維長は、微細構造の全ての取得領域の分析の平均値に対応する。結晶粒伸びSは、S=S_H/S_VまたはS=x/yとして定義される。
【0080】
結晶粒度(比較写真を使用して、ASTM E112およびDIN規格EN ISO643にしたがって決定)および結晶粒伸びS(線形切片法によって決定)、および試験片の平均繊維長が表3に記載されている。全ての試験片は、3.3〜5.4μmの範囲の平均繊維長を有する。平鋼製品の長手断面では、圧延方向(0°)での方向依存結晶粒伸び(S)は、最小1.4であり、平鋼製品の平面断面では最小1.1である。圧延方向を横断する方向(90°)の結晶粒伸び(S)は、最小1.2の値を有する。この点に関して、本発明による試験片と比較試験片との間に有意差は見られなかった。
【0081】
これは、本発明による試験片の高い強度は、結晶粒微細化によって実現されるのではなく、連続焼きなまし炉での窒化によって生じる固溶硬化によって決定的に達成されるという結論につながる。さらにまた、本発明による試験片の機械的性質に関して改善された等方性は、(冷間圧延によって引き起こされる)構造内の異方性にもかかわらず達成されることができることを示している。本発明による試験片にも存在する構造の異方性は、比較例の試験片の結晶粒伸びに匹敵する、本発明による試験片の結晶粒伸びSに起因する。したがって、連続焼きなまし炉で窒化することによって生じる固溶硬化は、強度(引張強度Rm)の増加をもたらすだけでなく、破断伸びA、0.5%オフセットでの降伏強度Rp0.5、およびそれらから得られる変形エネルギW=A・Rp0.5などの機械的パラメータの均一性の改善をもたらす。
【0082】
【0083】
【0084】
図1
図2a
図2b
図3a
図3b
図4a
図4b
図5
図6
【外国語明細書】
2021139047000001.pdf