【実施例1】
【0017】
実施例1に係るメカニカルシールにつき、
図1から
図6を参照して説明する。尚、本実施例においては、メカニカルシールを構成する一対の密封環の外径側を被密封流体側(高圧側)、内径側を漏れ側としての大気側(低圧側)として説明する。
【0018】
図1に示される一般産業機械用のメカニカルシール1は、摺動面の外径側から内径側に向かって漏れようとする被密封流体を密封するインサイド形のものである。尚、メカニカルシール1は、摺動面の内径側から外径側に向かって漏れようとする被密封流体を密封するアウトサイド形のものであってもよい。
【0019】
メカニカルシール1は、回転軸3にベローズ4A,4B及びリテーナ5A,5Bを介して回転軸3と共に回転可能な状態で設けられた回転密封環10A,10B(すなわち、一方の密封環)と、被取付機器のハウジング2に非回転状態かつ軸方向移動不能な状態で設けられた静止密封環20A,20B(すなわち、他方の密封環)と、から主に構成されている。
【0020】
回転密封環10Aの摺動面10aと回転密封環10Bの摺動面10a’、及び静止密封環20Aの摺動面20aと静止密封環20Bの摺動面20a’とは、それぞれ軸方向反対方向を向いており、リテーナ5A,5Bとの間には回転密封環10A,10Bを静止密封環20A,20Bに向けてそれぞれ軸方向に付勢する付勢手段としてのコイルスプリング6が配置されている。
【0021】
尚、本実施例のメカニカルシール1は、回転密封環10A及び静止密封環20Aと、回転密封環10B及び静止密封環20Bが反対方向を向く、いわゆるダブル形メカニカルシールを例示するが、これに限られず、タンデム形やシングル形のメカニカルシールであってもよい。
【0022】
静止密封環20A,20B及び回転密封環10A,10Bは、代表的にはSiC(硬質材料)同士またはSiC(硬質材料)とカーボン(軟質材料)の組み合わせで形成されるが、これに限らず、摺動材料はメカニカルシール用摺動材料として使用されているものであれば適用可能である。尚、SiCとしては、ボロン、アルミニウム、カーボン等を焼結助剤とした焼結体をはじめ、成分、組成の異なる2種類以上の相からなる材料、例えば、黒鉛粒子の分散したSiC、SiCとSiからなる反応焼結SiC、SiC−TiC、SiC−TiN等があり、カーボンとしては、炭素質と黒鉛質の混合したカーボンをはじめ、樹脂成形カーボン、焼結カーボン等が利用できる。また、上記摺動材料以外では、金属材料、樹脂材料、表面改質材料(コーティング材料)、複合材料等も適用可能である。
【0023】
次に、回転密封環10Aと回転軸3との取付態様について説明する。尚、回転密封環10A,10Bの回転軸3への取付態様はほぼ同一であるため、
図1の紙面左側の回転密封環10Aの取付態様について説明し、紙面右側の回転密封環10Bの取付態様の説明を省略する。
【0024】
回転密封環10Aを回転軸3に取付ける際の手順は、先ず、ベローズ4A及びリテーナ5Aを組み立てた後、回転密封環10Aを軸方向から圧入し、その後、一体化された回転密封環10A、ベローズ4A及びリテーナ5Aを回転軸3に取付ける。
【0025】
先ず、ベローズ4Aの形状について説明する。
図2に示されるように、弾性部材としてのベローズ4Aは、ゴム材により形成され弾性変形可能に構成されており特に軸方向に伸縮可能となっている。
【0026】
ベローズ4Aは、筒状の基部41と、基部41における回転密封環10A側の端部から外径方向に延びる環状の第1延設部42と、第1延設部42の外径端から基部41とは軸反対方向に延びる筒状の第2延設部43と、を備えている。
【0027】
第2延設部43は、その軸方向の中央部位43aが、軸方向両端の第1端部位43b及び第2端部位43cよりも内径側に膨出している。具体的には、中央部位43aの内径は、後述する回転密封環10Aの外周面10cの外径よりも短い(
図4参照)。
【0028】
また、第1端部位43bの内径は回転密封環10Aの外周面10cの外径よりも長い(
図4参照)。また第2端部位43cの内径は回転密封環10Aの外周面10cの外径よりも短いが、同じまたは長くてもよい。
【0029】
中央部位43aは、軸方向に延びる平坦面43gと、平坦面43gから第1端部位43bに向けて傾斜する正面弾性傾斜面43dと、平坦面43gから第2端部位43cに向けて傾斜する背面弾性傾斜面43eと、を有している。すなわち、中央部位43aは、径方向端面視において台形形状を成している。
【0030】
また、中央部位43aの軸方向寸法L1は、後述する回転密封環10Aの外周面10cの軸方向寸法L3(
図4参照)よりも長く、かつ平坦面43gの軸方向寸法L2は、回転密封環10Aの外周面10cの軸方向寸法L3とほぼ同じ長さとなっている。
【0031】
また、第2端部位43cの内径側には、中央部位43aと第1延設部42とにより環状の凹部43fが形成されている。
【0032】
次いで、ベローズ4A及びリテーナ5Aが組み立てられた状態を説明する。
図3に示されるように、リテーナ5Aは、金属板から構成される筒状体であり、ベローズ4Aの基部41の外径側に配置される筒状の基片部51と、基片部51における回転密封環10A側端から外径方向に延びる環状の底部52と、底部52の外径端から基片部51とは軸方向反対側に延びる環状の筒部53と、を備えている。
【0033】
この筒部53は、ベローズ4Aの第2延設部43よりも軸方向の長さが長く、組付け状態において筒部53は、ベローズ4Aの第2延設部43よりも軸方向に突出している。
【0034】
ベローズ4Aは、基部41の外周面に締結バンド7が仮止めされている。また、締結バンド7には軸方向に貫通し外径側に開口する凹部7aが周方向に複数設けられており、リテーナ5Aの基片部51から軸方向に突出する複数の突片51aが各凹部7aに挿入されている。
【0035】
ベローズ4Aの第1延設部42は、リテーナ5Aにおける底部52の内面52aに沿って配置されており、ベローズ4Aの第2延設部43は、リテーナ5Aにおける筒部53の内径面53aに沿って配置されている。
【0036】
次いで、回転密封環10Aがベローズ4A及びリテーナ5Aの内側に軸方向から圧入される状態を説明する。
【0037】
図4に示されるように、回転密封環10Aは、摺動面10aと、摺動面10aの外径端部から回転密封環10Aの背面側(すなわち、摺動面10aや静止密封環20Aとは軸方向反対側)かつ外径方向に向かって傾斜して延びる第1傾斜面10bと、第1傾斜面10bの外径端部から軸方向背面側に向けてリテーナ5Aの筒部53と平行に延びる外周面10cと、外周面10cから回転密封環10Aの背面側かつ内径方向に向かって傾斜して延びる第2傾斜面10eと、第2傾斜面10eに直交して内径方向に延びる背面10dと、背面10dから正面側かつ内径側に延びる第3傾斜面10hを備えている。
【0038】
尚、図示しないが、この回転密封環10Aは、該回転密封環10Aの摺動面10a側に配置され回転密封環10Aに当接する一の治具と、リテーナ5Aの底部52に当接する他の治具と、を互いに軸方向に近付けることにより、ベローズ4A及びリテーナ5Aの内側に圧入されるようになっている。
【0039】
図4に示されるように、回転密封環10Aをベローズ4A及びリテーナ5Aの内側に軸方向から圧入するときには、先ず、回転密封環10Aの第2傾斜面10eがベローズ4Aの中央部位43a’の正面弾性傾斜面43d’に接触する。
【0040】
これによれば、回転密封環10Aをベローズ4A及びリテーナ5Aの内側に軸方向から圧入するとき、回転密封環10Aがベローズ4Aの中央部位43a’の正面弾性傾斜面43d’に引っ掛かることが抑制され、回転密封環10Aをベローズ4A及びリテーナ5Aの内側に軸方向から圧入しやすい。
【0041】
次いで、
図5に示されるように、
図4の状態よりもさらに回転密封環10Aが圧入されると、ベローズ4Aの中央部位43a’’が回転密封環10Aの外周面10cとリテーナ5Aの筒部53との間で径方向に押し潰される。このとき、中央部位43a’’の軸方向両側には空間が形成されているので、中央部位43a’’は軸方向に延び、正面弾性傾斜面43d’’及び背面弾性傾斜面43e’’が軸方向に両端側に逃げるように変形される。そのため、回転密封環10Aをベローズ4A及びリテーナ5Aの内側に軸方向から圧入しやすい。
【0042】
また、回転密封環10Aがベローズ4Aを介してリテーナ5Aに圧入されたときには、背面弾性傾斜面43e’’(すなわち、中央部位43a’’の第2端部位43c’’側の一部)が第2端部位43c’’側かつ内径側に向けて膨出されるように変形されるので、ベローズ4Aと回転密封環10Aとの密着性を確保できる。
【0043】
図6に示されるように、
図5の状態よりもさらに回転密封環10Aが圧入されると、正面弾性傾斜面43d’’’が第1端部位43b’’’側かつ内径側にさらに膨出されるとともに、背面弾性傾斜面43e’’’が第2端部位43c’’’側かつ内径側にさらに膨出される。
【0044】
そして、回転密封環10Aの背面10dはベローズ4Aの第1延設部42に当接し、リテーナ5Aの底部52により回転密封環10Aの背面側への移動が規制される。また、リテーナ5Aの筒部53の内径側にベローズ4Aの第2延設部43を介して回転密封環10Aが保持される。
【0045】
以下、
図1及び
図6に示される回転密封環10Aがベローズ4A及びリテーナ5Aの内側に圧入された状態について説明する。ベローズ4Aの第2延設部43におけるリテーナ5Aの筒部53と回転密封環10Aの外周面10cとの間に配置されている部位を第1部位P1、ベローズ4Aの第2延設部43における回転密封環10Aの第1傾斜面10bに圧接されている部分を第2部位P2、ベローズ4Aの第2延設部43における回転密封環10Aの第2傾斜面10eに圧接されている部分を第3部位P3、ベローズ4Aの第1延設部42における回転密封環10Aの背面10dとリテーナ5Aの底部52との間に配置される部分を第4部位P4とを称する。
【0046】
回転密封環10Aがベローズ4A及びリテーナ5Aの内側に圧入された状態にあっては、第1部位P1がリテーナ5Aの筒部53と回転密封環10Aの外周面10cとの間で圧接され、リテーナ5Aの筒部53と回転密封環10Aの外周面10cとの間が密封されている。
【0047】
また、第2部位P2が回転密封環10Aにおける背面10dとリテーナ5Aの底部52の内面52aとの間で狭圧され、回転密封環10Aとリテーナ5Aの底部52との間も密封されている。
【0048】
また、中央部位43a(
図2参照)がリテーナ5Aの筒部53と回転密封環10Aの外周面10cとの間で圧接されることにより、正面径方向膨出部位としての第2部位P2及び背面径方向膨出部位としての第3部位P3が第1部位P1よりも内径側に膨出するように構成されている。
【0049】
また、第2部位P2は、第1傾斜面10bに対して圧接される当接面43hと、当接面43h、すなわち第1傾斜面10bに対して交差する正面弾性傾斜面43d’’’と、により径断面視で三角形状を成している。
【0050】
また、第2延設部43の第1部位P1よりも正面側かつ第2部位P2よりも外径側の第1中実部位43jは、第2部位P2と筒部53との間で圧縮応力がかかった状態となっており、第1中実部位43jは第2部位P2を第1傾斜面10bに圧接させる方向の力(
図4において第1傾斜面10bに直交する矢印で模式的に示している。)を付与している。
【0051】
第3部位P3は、中央部位43aの背面弾性傾斜面43e’’’と第2端部位43c’’’とが凹部43fの大部分を埋めるように内径側に膨出されて構成されている。尚、第3部位P3は凹部43fのすべてを埋めるように構成されていてもよい。
【0052】
また、第2延設部43の第1部位P1よりも背面側かつ第3部位P3よりも外径側の第2中実部位43kは、第3部位P3と筒部53との間で圧縮応力がかかった状態となっており、第2中実部位43kは、第3部位P3を第2傾斜面10eに圧接させる方向の力(
図4において第2傾斜面10eに直交する矢印で模式的に示している。)を付与している。
【0053】
上述のように、第2部位P2は、第1傾斜面10bに対して圧接されている。また、第3部位P3は、第2傾斜面10eに対して圧接されている。第2部位P2及び第3部位P3の弾性力は主に内径方向に作用するが、第2部位P2及び第3部位P3の弾性力の一部は、第1傾斜面10b及び第2傾斜面10eに圧接されることで軸方向に作用している。
【0054】
すなわち、回転密封環10Aには、第1部位P1の弾性力が内径方向に向けて作用し、第2部位P2の弾性力の一部が軸方向に向けて作用し、第3部位P3の弾性力の一部及び第4部位P4の弾性力が軸方向に向けて作用しており、回転密封環10Aは、ベローズ4Aの第2部位P2と第3部位P3及び第4部位P4とにより軸方向に狭持されている。
【0055】
また、回転密封環10Aの第3傾斜面10hは第4部位P4から軸方向に離間している。これによれば、回転密封環10Aの背面10dのみが第4部位P4に圧接されるので、回転密封環10Aが受ける第4部位P4からの押圧力を集中させることができ、第2部位P2と第4部位P4とで軸方向に良好に狭持することができる。
【0056】
このように、回転密封環10Aがベローズ4A及びリテーナ5Aの内側に圧入された状態にあっては、回転密封環10Aとリテーナ5Aとの相対回転、及び軸方向の相対移動が規制された状態となっている。
【0057】
図1に戻って、一体化された回転密封環10A、ベローズ4A及びリテーナ5Aには、回転軸3が挿通され、ベローズ4Aの基部41の外周面から締結バンド7が締め付けられることにより回転密封環10A、ベローズ4A及びリテーナ5Aが回転軸3に対して固定される。このとき、ベローズ4Aが締結バンド7と回転軸3との間で狭圧されることから、回転軸3とベローズ4Aとの間が密封されている。
【0058】
また、締結バンド7の各凹部7aには、リテーナ5Aの基片部51から軸方向に突出する複数の突片51aが挿入されているので、回転軸3に対するリテーナ5Aの軸方向の移動が許容されているとともに、回転軸3に対するリテーナ5Aの相対回転が規制された状態、すなわちリテーナ5Aが回転軸3とともに共に回転可能な状態で取付けられている。
【0059】
また、リテーナ5A,5B間にはコイルスプリング6が配置され、回転密封環10A,10Bが静止密封環20A,20Bに向けてそれぞれ付勢されるので摺動面10a,10a’と摺動面20a,20a’とがそれぞれ密接摺動するようになっている。
【0060】
以上説明したように、リテーナ5Aの筒部53に回転密封環10Aがベローズ4Aの第2延設部43を挟んだ状態で圧入されることにより、回転密封環10Aの外周面10cとリテーナ5Aの筒部53との間でベローズ4Aの第2延設部43の第1部位P1が径方向に圧縮されるとともに、第1部位P1の軸方向両側に配置される第2部位P2及び第3部位P3が内径側に膨出され、回転密封環10Aが第2部位P2及び第3部位P3により軸方向に狭持されるので、回転密封環10Aがリテーナ5Aに対する回転や軸方向への離脱が防止された状態で保持される。
【0061】
このように、回転密封環10Aがベローズ4Aを介してリテーナ5Aの筒部53に圧入されることで、回転密封環10Aをリテーナ5Aに対する回転や軸方向への離脱が防止された状態で保持させることができるので、回転密封環10Aとリテーナ5Aとの相対回転や軸方向への相対移動が規制する加工等が必要なくメカニカルシール1の構造を簡素にできるとともに、かしめる作業を要しないので組立作業を簡便に行うことができる。
【0062】
また、回転密封環10Aは、その摺動面10aと該回転密封環10Aの外周面10cとに連なる第1傾斜面10bを有しており、第1傾斜面10bにベローズ4Aの第2部位P2が接触しているので、回転密封環10Aに対して第2部位P2の弾性力の一部を軸方向に伝えることができる。
【0063】
さらに、回転密封環10A側に膨出したベローズ4Aの第2部位P2が第1傾斜面10bに対して隙間なく接触しやすいので、回転密封環10Aとベローズ4Aとの間に作用する摩擦力が大きくなり、リテーナ5Aから回転密封環10Aが離脱することを確実に防止できる。また、回転密封環10Aが静止密封環20A側に移動したときに、該回転密封環10Aにおける外周面10cと第1傾斜面10bとで構成される角部10f(
図6参照)により第2部位P2が損傷することを抑制できる。
【0064】
また、リテーナ5Aの筒部53は、回転密封環10Aの角部10fよりも軸方向に延びているので、筒部53に回転密封環10Aを圧入したときに、筒部53の第2部位P2が外径側(すなわち、回転密封環10Aとは径方向反対側)に膨出することが防止される。すなわち、第2部位P2を回転密封環10A側に膨出するように誘導することができるとともに、ベローズ4Aの第2部位P2から回転密封環10Aの第1傾斜面10bに確実に応力が作用する。
【0065】
また、回転密封環10Aは、外周面10cから背面10dに向けて内径方向に傾斜する第2傾斜面10eを有しており、該第2傾斜面10eに第3部位P3が接触していることから第3部位P3の弾性力の一部を軸方向に向けて回転密封環10Aの軸方向に伝えることができるとともに、ベローズ4Aの第3部位P3から回転密封環10Aの第2傾斜面10eに確実に応力が作用する。すなわち、第2部位P2の弾性力と第3部位P3の弾性力とで回転密封環10Aを確実に軸方向に狭持することができる。
【0066】
さらに、回転密封環10Aは、第2傾斜面10eにより背面側に先細りしていることから、ベローズ4A及びリテーナ5Aの内側に回転密封環10Aを圧入しやすい。
【0067】
また、リテーナ5Aは、回転密封環10Aにおける軸方向の移動を規制する底部52を有しており、回転密封環10Aがリテーナ5Aに圧入されたときに、底部52により位置決めされるようになっている。回転密封環10Aが底部52により位置決めされた状態にあっては、ベローズ4Aの第1部位P1〜第4部位P4が回転密封環10Aを覆うように配置され、第2部位P2及び第3部位P3により確実に狭持されることから、組立作業を簡便に且つ確実に行うことができる。
【0068】
また、ベローズ4Aの第1延設部42及び第2延設部43はリテーナ5Aの底部52及び筒部53との間を全周に亘って密封しているとともに、ベローズ4Aの基部41は、リテーナ5Aの基片部51と回転軸3との間を全周に亘って密封している。これによれば、ベローズ4Aがリテーナ5Aと回転密封環10Aとの間を密封する機能を有するので、リテーナ5Aと回転密封環10Aとの間、リテーナ5Aと回転軸3との間を密封するシール部材を別途用意する必要がなく、メカニカルシール1の構造を簡素にできる。
【0069】
また、軸方向に伸縮が許容されたベローズ4Aを用いて、リテーナ5Aと回転密封環10Aとの間、ベローズ4Aと回転軸3との間を密封しているので、コイルスプリング6の付勢力を回転密封環10Aに伝えやすい。
【0070】
また、ベローズ4Aの第1端部位43b及び第2端部位43cは中央部位43aよりも径寸法が小さいことから、回転密封環10Aがベローズ4A及びリテーナ5Aの内側に軸方向から圧入されるときには、中央部位43aが径方向に押潰されるとともに軸方向に延び、その一部を軸方向両端(すなわち、第1端部位43b及び第2端部位43c側)に逃がすように変形させることができるため、回転密封環10Aのリテーナ5Aへの圧入を簡便に行うことができる。
【0071】
また、中央部位43aの軸方向寸法L1は、回転密封環10Aの外周面10cの軸方向寸法L3よりも長いので、ベローズ4Aを介在させてリテーナ5Aに回転密封環10Aを軸方向から圧入することで、中央部位43aの軸方向両端の第2部位P2及び第3部位P3を内径方向に膨出させ、これら第2部位P2及び第3部位P3によって回転密封環10Aを軸方向両側から狭持することができる。
【0072】
また、第2延設部43の中央部位43aの正面側には、第1端部位43bに連なって傾斜する正面弾性傾斜面43dが形成されているので、回転密封環10Aをリテーナ5Aにベローズ4Aを介して圧入時に回転密封環10Aがベローズ4Aの第2延設部43に引っ掛かることが抑制され、回転密封環10Aをリテーナ5Aに圧入しやすい。
【0073】
また、第2延設部43の中央部位43aの背面側には、第2端部位43cに連なって傾斜する背面弾性傾斜面43eが形成されており、回転密封環10Aをリテーナ5Aにベローズ4Aを介して圧入時には、中央部位43aの背面側の部位が第2端部位43c側かつ内径側に膨出されるように変形可能であるため、ベローズ4Aと回転密封環10Aとが圧接された状態が維持され、密着性を確保できる。
【0074】
尚、本実施例では、回転密封環10Aを回転軸3に取付ける際の手順の一例として、回転密封環10A、ベローズ4A及びリテーナ5Aを一体化した後、回転軸3に取付ける形態を例示したが、これに限られず、例えば、回転密封環10Aを回転軸3に挿通した状態で回転軸3にベローズ4A及びリテーナ5Aを取付け、その後、回転密封環10Aを回転軸3上で動かしてベローズ4A及びリテーナ5Aの内側に軸方向から圧入してもよい。
【0075】
また、ベローズ4Aとリテーナ5Aとが予め一体化されていてもよい。例えば、リテーナ5Aにおける底部52の内面52aと、リテーナ5Aにおける筒部53の内径面53aとにベローズ4Aの第1延設部42及び第2延設部43が予め固着されていてもよい。さらに、ベローズ4Aの第2延設部43にリテーナ5Aの筒部53がインサート成型されて構成されたものであってもよい。
【0076】
また、本実施例では、リテーナ5Aの筒部53の内側に回転密封環10Aが圧入される形態を例示したが、これに限られず、筒部53の外側に回転密封環10Aが弾性部材を挟んだ状態で圧入されていてもよい。すなわち、筒部53は一方の密封環を径方向から保持できるものであればよい。
【0077】
また、本実施例では、回転密封環10Aが第1傾斜面10bを有し、該第1傾斜面10bにベローズ4Aの第2部位P2が圧接して抜け止めされる形態を例示したが、これに限られず、例えば、回転密封環の外径側に環状の凹部を軸方向に2つ設け、該凹部に弾性部材の第2部位及び第3部位が圧入されることで回転密封環が軸方向に狭持された状態で保持されていてもよい。
【実施例2】
【0078】
次に、実施例2に係るメカニカルシールおよびそれに用いられる弾性部材につき、
図7を参照して説明する。尚、前記実施例に示される構成部分と同一構成部分に付いては同一符号を付して重複する構成の説明を省略する。
【0079】
図7に示されるように、本変形例のメカニカルシール100は、回転軸3の外周面にスリーブ8が密封状に取付けられている。このスリーブ8には、軸方向に貫通し外径側に開口する凹部8aが周方向に複数設けられており、リテーナ50Aの基片部510から軸方向に突出する複数の突片部510aが各凹部8aに挿入されている。また、スリーブ8における正面側には、各凹部8aに連通する環状溝8bが形成されている。
【0080】
また、環状溝8bには、弾性変形可能な環状の二次シール9が配置されており、リテーナ50Aの基片部510とスリーブ8との間が密封されている。すなわち、二次シール9及びスリーブ8によりリテーナ50Aと回転軸3との間が密封されている。また、二次シール9が弾性変形することによりリテーナ50Aが回転軸3に対して軸方向に移動することが許容されている。
【0081】
リテーナ50Aの筒部530の内径面530aには、環状の弾性部材40が固着されており、弾性部材40の一部は、回転密封環10Aの外周面10cと筒部530の内径面530aとの間で密封状に狭圧されている。尚、以下、回転密封環10Aの外周面10cと筒部530の内径面530aとの間で径方向に狭圧される弾性部材40の一部を第1部位P10と称する。
【0082】
また、第1部位P10がリテーナ50Aの筒部530と回転密封環10Aの外周面10cとの間で径方向に圧接されることにより、弾性部材40が軸方向に延び、弾性部材40における回転密封環10Aの外周面10cよりも正面側に配置される部分、すなわち第2部位P20が内径側に膨出するように圧縮変形されているとともに、弾性部材40における回転密封環10Aの外周面10cよりも背面側に配置される部分、すなわち第3部位P30が内径側に膨出するように圧縮変形されている。また、弾性部材40の背面側の端部は底部520に接触しているので、リテーナ50Aに弾性部材40を介して回転密封環10Aが圧入されたときには、第3部位P30が内径側に膨出するように誘導される。
【0083】
この第2部位P20は、回転密封環10Aの第1傾斜面10bに圧接されており、第3部位P30は回転密封環10Aの第2傾斜面10eに圧接されている。すなわち、回転密封環10Aは、第2部位P20の弾性力と第3部位P30の弾性力とにより軸方向に狭持されている。
【0084】
また、回転密封環10Aは、その背面10dがリテーナ50Aの底部520の内面520aに接触して背面側への移動が規制されている。
【0085】
このように、リテーナ50Aと回転密封環10Aとの間、リテーナ50Aと回転軸3との間が密封されていれば、ベローズ4Aを用いず、弾性部材40及びリテーナ50Aを用いて回転密封環10Aを保持してもよい。尚、弾性部材40がリテーナ50Aの底部520まで延びていなくてもよいが、弾性部材40がリテーナ50Aの底部520まで延びていることにより第2部位P20と第3部位P30とを内径方向へ膨出するように誘導できるため、より好ましい。
【0086】
以上、本発明の実施例を図面により説明してきたが、具体的な構成はこれら実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれる。
【0087】
例えば、前記実施例では、回転密封環10Aがリテーナ5Aにより回転軸3に対して相対回転不能および軸方向の移動が許容された状態で取付けられる形態を例示したが、これに限られず、静止密封環20Aがリテーナによりハウジング2に対して相対回転不能および軸方向の移動が許容された状態で取付けられ、リテーナとハウジング2との間に付勢手段が設けられている形態に適用されてもよい。
【0088】
また、前記実施例では、軸方向への付勢力が小さいベローズ4Aを用いる形態を例示したが、これに限られず、軸方向への付勢力が大きいベローズを用いてもよい。すなわち、ベローズを付勢手段としてもよい。この場合、コイルスプリング6を省略することができる。
【0089】
また、前記実施例では、回転密封環10Aの摺動面10aと外周面10cとの間に連なって第1傾斜面10bが形成されていたが、これに限られず、例えば、第1傾斜面と摺動面の間に他の面、例えば軸方向に延びる面があっても良い。
【0090】
また、前記実施例では、回転密封環10Aの背面10dと外周面10cとの間に連なって第2傾斜面10eが形成されていたが、これに限られず、例えば、第2傾斜面と背面の間に他の面、例えば軸方向に延びる面があっても良い。