【実施例】
【0032】
以下、実施例により本開示を詳細に説明するが、本開示はこれらに限定されるものではない。
【0033】
[実施例1]
アルゴン雰囲気下にて、Li(FSA)とNCCH
2CH
2CN(SN)とをモル比が1:2(Li(FSA):NCCH
2CH
2CN)の条件で混合した。次に、オイルバスを用いて[Li(FSA)(SN)
2]
nの融点以上の温度で混合物を加熱した。その後、混合物を室温まで放冷することにより、分子結晶である[Li(FSA)(SN)
2]
n(Li−Li間の最近接距離5.03Å)を含む固体電解質を作製した。
【0034】
(イオン伝導度の測定)
実施例1にて得られた固体電解質を円盤状に加圧成型した測定用試料を用い、密閉式セル中において金電極を用いた交流インピーダンス法によりイオン伝導度を測定した。また、イオン伝導度の測定は、測定用試料を分子結晶の融点以下の温度域で昇温しながら測定した。結果を
図1に示す。
また、実施例1についてアレニウスプロットからイオン伝導性に関する活性化エネルギーを求めると32.0kJ/molであった。
【0035】
(示差走査熱量測定)
実施例1にて得られた固体電解質について示差走査熱量測定(DSC)を行った。具体的には、示差走査熱量計(島津製作所社製、DSC−60)を用い、毎分10℃の昇温速度で測定を行った。結果を
図7に示す。
図7に示すように、52℃にて大きな吸熱ピークが観察され、この吸熱ピークは分子結晶に由来するピークであることが分かった。−76℃にて観察された吸熱ピークは、分子結晶にひびが入ったことによると推測される。
【0036】
(輸率の測定)
実施例1にて得られた固体電解質を用い、以下のようにしてリチウムイオン輸率を測定した。
・コイン型セルの作製
得られた電解質を、アルゴンガスで充填したグローブボックス内にて粉砕した後、油圧プレスを用いて、円盤状(13φ)に加圧成型した。その後、ポンチを用いて円状に切り抜いたリチウム箔で試料を挟んだ後、密閉式セル内に試料を導入することにより、セルを作製した。
・電解質のインピーダンス測定(直流分極前)
作製したコイン型セルを恒温槽内において40℃で24時間保持した後、インピーダンスアナライザーVMP3(Biologic社製)を用いて、40℃で1Hz〜1MHzまでのインピーダンス測定を行った。
・電解質の直流分極測定
インピーダンスアナライザーVMP3(Biologic社製)を用いて、40℃において25mVで3000秒間直流分極測定を行った。
・電解質のインピーダンス測定(直流分極後)
直流分極後、インピーダンスアナライザーVMP3(Biologic社製)を用いて、40℃で1Hz〜1MHzまでのインピーダンス測定を行った。
各測定結果を用いて下記式に代入することで輸率を求めた。
式:{分極後電流値I
s[A]×(印加電圧V(V)−分極前電流値I
0[A]×分極前インピーダンス(Ω
0))}/{分極前電流値I
0[A]×(印加電圧V(V)−分極後電流値I
s[A]×分極後インピーダンス(Ω
s))}から、リチウムイオン輸率t
Li+[-]を算出した。
結果を
図9に示す。
【0037】
(電位窓の測定)
実施例1にて得られた固体電解質を用い、以下のようにしてリニアスイープボルタンメトリー(LSV)により電位窓を測定した。
正極としてチタン板、実施例1にて得られた固体電解質、及び対極として金属リチウムをこの順に二極式密閉セルに導入した。次に、VMP3(Biologic社製)を用いて電位掃引速度0.1mVs
−1及び40℃の条件で電極電位を連続的に変化させ、流れる電流値を測定することで電流−電圧曲線を得た。
結果を
図11に示す。
【0038】
[実施例2]
アルゴン雰囲気下にて、Li(TFSA)とNCCH
2CH
2CNとをモル比が2:3(Li(TFSA):NCCH
2CH
2CN)の条件で混合した。次に、オイルバスを用いて[Li
2(TFSA)
2(SN)
3]
nの融点以上の温度で混合物を加熱した。その後、混合物を室温まで放冷することにより、分子結晶である[Li
2(TFSA)
2(SN)
3]
n(Li−Li間の最近接距離5.27Å)を含む固体電解質を作製した。
実施例1と同様にして固体電解質のイオン伝導度を測定し、固体電解質についてDSCを行った。さらに、実施例1と同様にして固体電解質の輸率及び固体電解質の電位窓の測定結果である。結果を
図1、
図7、
図10及び
図12に示す。
また、実施例2についてアレニウスプロットからイオン伝導性に関する活性化エネルギーを求めると46.0kJ/molであった。
【0039】
[実施例3]
アルゴン雰囲気下にて、Li(SCN)とNCCH
2CH
2CNとをモル比が2:3(Li(SCN):NCCH
2CH
2CN)の条件で混合した。次に、オイルバスを用いて[Li
2(SCN)
2(SN)
3]
nの融点以上の温度で混合物を加熱した。その後、混合物を室温まで放冷することにより、分子結晶である[Li
2(SCN)
2(SN)
3]
n(Li−Li間の最近接距離5.28Å)を含む固体電解質を作製した。
実施例1と同様にして固体電解質のイオン伝導度を測定し、固体電解質についてDSCを行った。結果を
図2、
図3及び
図8に示す。
また、実施例3についてアレニウスプロットからイオン伝導性に関する活性化エネルギーを求めると46.5kJ/molであった。
【0040】
[比較例1]
アルゴン雰囲気下にて、Li(TFSA)とN,N,N’,N’−テトラメチル−1,3−プロパンジアミン(TMPDA)とを等モルで混合した。次に、オイルバスを用いて[Li(TFSA)(TMPDA)]
nの融点以上の温度で混合物を加熱した。その後、混合物を室温まで放冷することにより、分子結晶である[Li(TFSA)(TMPDA)]
n(Li−Li間の最近接距離6.65Å)を含む固体電解質を作製した。
実施例1と同様にして固体電解質のイオン伝導度を測定した。結果を
図3に示す。
また、比較例1についてアレニウスプロットからイオン伝導性に関する活性化エネルギーを求めると73.0kJ/molであった。
【0041】
[比較例2]
比較例1と同様にして分子結晶である[Li(OTf)(TMEDA)」
n(TMEDAは、(CH
3)
2NCH
2CH
2N(CH
3)
2を表す。Li−Li間の最近接距離6.89Å)を含む固体電解質を作製した。
実施例1と同様にして固体電解質のイオン伝導度を測定した。結果を
図3に示す。
また、比較例1についてアレニウスプロットからイオン伝導性に関する活性化エネルギーを求めると68.3kJ/molであった。
【0042】
[比較例3]
比較例1と同様にして分子結晶である[Li(TFSA)(TMEDA)]
n(Li−Li間の最近接距離6.65Å)を含む固体電解質を作製した。
実施例1と同様にして固体電解質のイオン伝導度を測定した。結果を
図4に示す。
【0043】
[比較例4]
比較例1と同様にして分子結晶である[Li(CPFSA)(TMEDA)]
n(Li−Li間の最近接距離7.51Å)を含む固体電解質を作製した。
実施例1と同様にして固体電解質のイオン伝導度を測定した。結果を
図5に示す。
【0044】
[比較例5]
比較例1と同様にして分子結晶である[Li(NFBSA)(C
6H
4(OCH
3)
2)]
n(Li−Li間の最近接距離6.00Å超と推測される。)を含む固体電解質を作製した。
実施例1と同様にして固体電解質のイオン伝導度を測定した。結果を
図6に示す。
【0045】
図1〜
図6に示すように、実施例1〜実施例3の固体電解質は、比較例1〜比較例5の固体電解質と比較してイオン伝導性に優れていた。さらに、イオン伝導性に関する活性化エネルギーを比較すると、実施例1〜実施例3の方が比較例1及び比較例2よりも低い値を示しており、これは、実施例1〜実施例3にてリチウムイオンに働く相互作用が低減されていることを示している。また、
図1に示すように、実施例1の固体電解質は、−30℃という低温条件において約10
−5S cm
−1という高いイオン伝導性を有していた。
また、実施例3の分子結晶は、フッ素原子を含んでいない。実施例3にて分子結晶の作製に用いたチオシアネートは、フッ素原子を含むフッ素化合物に比べて環境への負荷が低く、低コストであるといった利点をもつ。
図9及び
図10に示すように、実施例1及び実施例2ではリチウムイオンの輸率がともに0.9以上と高い値が得られた。これにより、実施例1及び実施例2の分子結晶中にて選択的なリチウムイオンホッピングが進行していることが推測される。実施例1及び実施例2にてリチウムイオンの輸率が高い値を示した理由は、アニオンが伝導パスの構成要素となることでアニオン伝導が抑制され、結果としてリチウムイオンが選択的に拡散しているため、と推測される。
図11及び
図12に示すように、実施例1では4V程度の電位窓を有し、実施例2では5.5V程度のより広い電位窓を有することを確認した。この理由は、スクシノニトリルが還元に対して比較的安定であり、さらに、FSAに比べてTFSAの方が電気化学的に安定であるため、と推測される。