特開2021-141861(P2021-141861A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特開2021-141861抗原に対する親和力が向上した抗体のスクリーニング方法および製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-141861(P2021-141861A)
(43)【公開日】2021年9月24日
(54)【発明の名称】抗原に対する親和力が向上した抗体のスクリーニング方法および製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12P 21/08 20060101AFI20210827BHJP
   C07K 16/44 20060101ALI20210827BHJP
【FI】
   C12P21/08
   C07K16/44ZNA
【審査請求】未請求
【請求項の数】21
【出願形態】OL
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2020-43675(P2020-43675)
(22)【出願日】2020年3月13日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (1) 日本薬学会第139年会、演題名「高親和力変異scFvの創製におけるアレイ型選択 (2) 日本薬学会第139年会、演題名「低off−rate 指向アレイ型選択法による高親和力変異抗体の効率的単離」、開催日 平成31年3月23日 (3) https://kobeyakka.repo.nii.ac.jp/?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_detail&item_id=110&item_no=1&page_id=25&block_id=46、掲載日 平成31年4月18日 (4)http://www.euromedlab2019barcelona.org/2019/loadpage/abstracts/abstracts、掲載日 平成31年4月18日 (5) 23th IFCC−EFLM European congress of clinical chemistry and laboratory medicine、開催日 令和1年5月20日 (6) 2019年度「卒業研究III」発表会、研究テーマ「H鎖可変部N末端枠組み領域へのアミノ酸挿入によるscFv高親和力変異体創製の試み」、開催日 令和1年6月15日 (7) 2019年度「卒業研究III」発表会、研究テーマ「H鎖可変部N末端枠組み領域を変異標的とするscFv高親和力変異体創製の試み」、開催日 令和1年6月15日 (8) http://conference.wdc−jp.com/jsac/nenkai/68/program/index.html、掲載日 令和1年8月28日 (9) 日本分析化学会第68年会、開催日 令和1年9月13日 (10)第69回日本薬学会関西支部総会・大会、http://shibu−pharm−kansai.hcom.co.jp/69youshi.pdf、開催日 令和1年10月12日 (11)https://confit.atlas.jp/guide/event/pharm140/subject/3P44−104−30/advanced?eventCode=pharm140、掲載日 令和2年3月5日
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】000252300
【氏名又は名称】富士フイルム和光純薬株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】517363366
【氏名又は名称】学校法人神戸薬科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【弁理士】
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】小林 典裕
【テーマコード(参考)】
4B064
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG26
4B064AG27
4B064CA02
4B064CA19
4B064CC24
4H045AA10
4H045AA11
4H045AA20
4H045BA10
4H045CA40
4H045DA75
4H045DA76
4H045EA50
4H045FA74
(57)【要約】
【課題】既知の抗体のH鎖可変部のフレームワーク領域1のアミノ酸置換またはアミノ酸挿入により、元の抗体より抗原に対する親和力が向上した抗体をスクリーニングする方法を提供すること。
【解決手段】元の抗体より抗原に対する親和力が向上した抗体をスクリーニングする方法であって、(1−1)元の抗体におけるKabat法で定義されるH鎖可変部(Vドメイン)のフレームワーク領域1の1番目〜3番目、5番目〜7番目、9番目および10番目のアミノ酸から選ばれる少なくとも1つのアミノ酸を置換して改変抗体を作製する工程、または(1−2)元の抗体におけるKabat法で定義されるH鎖可変部(Vドメイン)のフレームワーク領域1の4番目と5番目のアミノ酸の間、5番目と6番目のアミノ酸の間、6番目と7番目のアミノ酸の間および7番目と8番目のアミノ酸の間から選択される1か所以上の位置に、合計1個以上6個以下のアミノ酸を挿入して改変抗体を作製する工程、(2)改変抗体の抗原に対する親和力を測定する工程、ならびに(3)工程(2)で測定した改変抗体の抗原に対する親和力と元の抗体の抗原に対する親和力を比較して、抗原に対する親和力が向上した改変抗体を選択する工程を含む、スクリーニング方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
元の抗体より抗原に対する親和力が向上した抗体をスクリーニングする方法であって、
(1−1)元の抗体におけるKabat法で定義されるH鎖可変部(Vドメイン)のフレームワーク領域1の1番目〜3番目、5番目〜7番目、9番目および10番目のアミノ酸から選ばれる少なくとも1つのアミノ酸を置換して改変抗体を作製する工程、または
(1−2)元の抗体におけるKabat法で定義されるH鎖可変部(Vドメイン)のフレームワーク領域1の4番目と5番目のアミノ酸の間、5番目と6番目のアミノ酸の間、6番目と7番目のアミノ酸の間および7番目と8番目のアミノ酸の間から選択される1か所以上の位置に、合計1個以上6個以下のアミノ酸を挿入して改変抗体を作製する工程、
(2)前記改変抗体の抗原に対する親和力を測定する工程、ならびに
(3)前記工程(2)で測定した改変抗体の抗原に対する親和力と元の抗体の抗原に対する親和力を比較して、抗原に対する親和力が向上した改変抗体を選択する工程
を含む、スクリーニング方法。
【請求項2】
前記工程(1−1)で作製された改変抗体におけるKabat法で定義されるH鎖可変部(Vドメイン)のフレームワーク領域1の1番目のアミノ酸がグルタミン(Q)またはグルタミン酸(E)であり、2番目のアミノ酸がバリン(V)またはイソロイシン(I)であり、3番目のアミノ酸がグルタミン(Q)またはリシン(K)であり、4番目のアミノ酸がロイシン(L)であり、5番目のアミノ酸がグルタミン(Q)、リシン(K)、イソロイシン(I)、ロイシン(L)、グルタミン酸(E)またはバリン(V)であり、6番目のアミノ酸がグルタミン(Q)またはグルタミン酸(E)であり、7番目のアミノ酸がプロリン(P)またはセリン(S)であり、8番目のアミノ酸がグリシン(G)であり、9番目のアミノ酸がアラニン(A)、グリシン(G)、アルギニン(R)またはプロリン(P)であり、10番目のアミノ酸がグルタミン酸(E)またはグリシン(G)である、請求項1に記載のスクリーニング方法。
【請求項3】
前記抗原がハプテンである、請求項1または2に記載のスクリーニング方法。
【請求項4】
前記元の抗体におけるH鎖可変部(Vドメイン)が、Kabatのマウス抗体H鎖可変部(Vドメイン)のサブグループII(A)、II(B)またはIII(D)に属する、請求項1〜3のいずれか1項に記載のスクリーニング方法。
【請求項5】
前記(1−1)の改変抗体を作製する工程を含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載のスクリーニング方法。
【請求項6】
前記(1−2)の改変抗体を作製する工程を含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載のスクリーニング方法。
【請求項7】
元の抗体より抗原に対する親和力が向上した抗体を製造する方法であって、
(a1)元の抗体におけるKabat法で定義されるH鎖可変部(Vドメイン)のフレームワーク領域1の1番目〜3番目、5番目〜7番目、9番目および10番目のアミノ酸から選ばれる少なくとも1つのアミノ酸を置換して改変抗体を作製する工程、または
(a2)元の抗体におけるKabat法で定義されるH鎖可変部(Vドメイン)のフレームワーク領域1の4番目と5番目のアミノ酸の間、5番目と6番目のアミノ酸の間、6番目と7番目のアミノ酸の間および7番目と8番目のアミノ酸の間から選択される1か所以上の位置に、合計1個以上6個以下のアミノ酸を挿入して改変抗体を作製する工程、
(b)前記改変抗体の抗原に対する親和力を測定する工程、ならびに
(c)前記工程(b)で測定した改変抗体の抗原に対する親和力と元の抗体の抗原に対する親和力を比較して、抗原に対する親和力が向上した改変抗体を選択する工程
を含む、製造方法。
【請求項8】
前記工程(a1)で作製された改変抗体におけるKabat法で定義されるH鎖可変部(Vドメイン)のフレームワーク領域1の1番目のアミノ酸がグルタミン(Q)またはグルタミン酸(E)であり、2番目のアミノ酸がバリン(V)またはイソロイシン(I)であり、3番目のアミノ酸がグルタミン(Q)またはリシン(K)であり、4番目のアミノ酸がロイシン(L)であり、5番目のアミノ酸がグルタミン(Q)、リシン(K)、イソロイシン(I)、ロイシン(L)、グルタミン酸(E)またはバリン(V)であり、6番目のアミノ酸がグルタミン(Q)またはグルタミン酸(E)であり、7番目のアミノ酸がプロリン(P)またはセリン(S)であり、8番目のアミノ酸がグリシン(G)であり、9番目のアミノ酸がアラニン(A)、グリシン(G)、アルギニン(R)またはプロリン(P)であり、10番目のアミノ酸がグルタミン酸(E)またはグリシン(G)である、請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
前記抗原がハプテンである、請求項7または8に記載の製造方法。
【請求項10】
前記元の抗体におけるH鎖可変部(Vドメイン)が、Kabatのマウス抗体H鎖可変部(Vドメイン)のサブグループII(A)、II(B)またはIII(D)に属する、請求項7〜9のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項11】
前記(a1)の改変抗体を作製する工程を含む、請求項7〜10のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項12】
前記(a2)の改変抗体を作製する工程を含む、請求項7〜10のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項13】
抗体の抗原に対する親和力を向上させる方法であって、親和力を向上させようとする元の抗体におけるKabat法で定義されるH鎖可変部(Vドメイン)のフレームワーク領域1の1番目〜3番目、5番目〜7番目、9番目および10番目から選ばれる少なくとも1つのアミノ酸を置換して改変抗体を作製すること、または、親和力を向上させようとする元の抗体におけるKabat法で定義されるH鎖可変部(Vドメイン)のフレームワーク領域1の4番目と5番目のアミノ酸の間、5番目と6番目のアミノ酸の間、6番目と7番目のアミノ酸の間もしくは7番目と8番目のアミノ酸の間から選択される1か所以上の位置に、合計1個以上6個以下のアミノ酸を挿入して改変抗体を作製することを含む方法。
【請求項14】
前記改変抗体におけるKabat法で定義されるH鎖可変部(Vドメイン)のフレームワーク領域1の1番目のアミノ酸がグルタミン(Q)またはグルタミン酸(E)であり、2番目のアミノ酸がバリン(V)またはイソロイシン(I)であり、3番目のアミノ酸がグルタミン(Q)またはリシン(K)であり、4番目のアミノ酸がロイシン(L)であり、5番目のアミノ酸がグルタミン(Q)、リシン(K)、イソロイシン(I)、ロイシン(L)、グルタミン酸(E)またはバリン(V)であり、6番目のアミノ酸がグルタミン(Q)またはグルタミン酸(E)であり、7番目のアミノ酸がプロリン(P)またはセリン(S)であり、8番目のアミノ酸がグリシン(G)であり、9番目のアミノ酸がアラニン(A)、グリシン(G)、アルギニン(R)またはプロリン(P)であり、10番目のアミノ酸がグルタミン酸(E)またはグリシン(G)である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記抗原がハプテンである、請求項13または14に記載の方法。
【請求項16】
前記元の抗体におけるH鎖可変部(Vドメイン)が、Kabatのマウス抗体H鎖可変部(Vドメイン)のサブグループII(A)、II(B)またはIII(D)に属する、請求項13〜15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
親和力を向上させようとする元の抗体におけるKabat法で定義されるH鎖可変部(Vドメイン)のフレームワーク領域1の1番目〜3番目、5番目〜7番目、9番目および10番目から選ばれる少なくとも1つのアミノ酸を置換して改変抗体を作製することを含む方法である、請求項13〜16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
親和力を向上させようとする元の抗体におけるKabat法で定義されるH鎖可変部(Vドメイン)のフレームワーク領域1の4番目と5番目のアミノ酸の間、5番目と6番目のアミノ酸の間、6番目と7番目のアミノ酸の間もしくは7番目と8番目のアミノ酸の間から選択される1か所以上の位置に、合計1個以上6個以下のアミノ酸を挿入して改変抗体を作製することを含む方法である、請求項13〜16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
配列番号1〜16のいずれか1つで示されるアミノ酸配列からなるH鎖可変部(Vドメイン)および配列番号17で示されるアミノ酸配列からなるL鎖可変部(Vドメイン)を有し、コルチゾールに対する親和力が向上した抗コルチゾール抗体。
【請求項20】
コルチゾールに対する結合定数Kaが5×10−1以上である請求項19に記載の抗コルチゾール抗体。
【請求項21】
低分子抗体である請求項19または20に記載の抗体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗原に対する親和力が向上した抗体のスクリーニング方法、抗原に対する親和力が向上した抗体の製造方法、抗体の抗原に対する親和力を向上させる方法およびコルチゾールに対する親和力が向上した抗コルチゾール抗体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
抗体は、医療分野において癌や自己免疫疾患の治療薬として使用されている。一方、抗体は、診断・分析試薬としても不可欠である。抗体を用いる微量測定法は「免疫測定法(イムノアッセイ)」と称され、生体試料のような複雑な組成のマトリックスに含まれる極微量の標的分子を定量するうえで不可欠の方法論である。免疫測定法の感度に影響する因子として、用いる抗体の標的抗原に対する結合親和力が極めて重要である。一般に、結合定数(Ka)が大きいほど、換言すれば解離定数Kd(=1/Ka)が小さいほど高感度な測定が可能になる。
【0003】
従来、抗体のアミノ酸配列に変異を導入することにより、抗体の機能を改変する技術が知られている。例えば、特許文献1には、抗体の相補性決定領域(CDR)のアミノ酸配列に変異を導入して、抗原に対する親和性を低下させる方法が記載されている。また、特許文献2には、抗体のH鎖可変部および/またはL鎖可変領部のアミノ酸配列に変異を導入して、親抗体より安定性および/または可溶性が改善された抗体を提供する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2013-518131
【特許文献2】特開2017-186338
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、既知の抗体のH鎖可変部のフレームワーク領域1のアミノ酸置換またはアミノ酸挿入により、元の抗体より抗原に対する親和力が向上した抗体をスクリーニングする方法および製造する方法を提供することを課題とする。さらに本発明は、抗体の抗原に対する親和力を向上させる方法および抗原に対する親和力が向上した抗体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記の課題を解決するために以下の各発明を包含する。
[1]元の抗体より抗原に対する親和力が向上した抗体をスクリーニングする方法であって、
(1−1)元の抗体におけるKabat法で定義されるH鎖可変部(Vドメイン)のフレームワーク領域1の1番目〜3番目、5番目〜7番目、9番目および10番目のアミノ酸から選ばれる少なくとも1つのアミノ酸を置換して改変抗体を作製する工程、または
(1−2)元の抗体におけるKabat法で定義されるH鎖可変部(Vドメイン)のフレームワーク領域1の4番目と5番目のアミノ酸の間、5番目と6番目のアミノ酸の間、6番目と7番目のアミノ酸の間および7番目と8番目のアミノ酸の間から選択される1か所以上の位置に、合計1個以上6個以下のアミノ酸を挿入して改変抗体を作製する工程、
(2)前記改変抗体の抗原に対する親和力を測定する工程、ならびに
(3)前記工程(2)で測定した改変抗体の抗原に対する親和力と元の抗体の抗原に対する親和力を比較して、抗原に対する親和力が向上した改変抗体を選択する工程
を含む、スクリーニング方法。
[2]前記工程(1−1)で作製された改変抗体におけるKabat法で定義されるH鎖可変部(Vドメイン)のフレームワーク領域1の1番目のアミノ酸がグルタミン(Q)またはグルタミン酸(E)であり、2番目のアミノ酸がバリン(V)またはイソロイシン(I)であり、3番目のアミノ酸がグルタミン(Q)またはリシン(K)であり、4番目のアミノ酸がロイシン(L)であり、5番目のアミノ酸がグルタミン(Q)、リシン(K)、イソロイシン(I)、ロイシン(L)、グルタミン酸(E)またはバリン(V)であり、6番目のアミノ酸がグルタミン(Q)またはグルタミン酸(E)であり、7番目のアミノ酸がプロリン(P)またはセリン(S)であり、8番目のアミノ酸がグリシン(G)であり、9番目のアミノ酸がアラニン(A)、グリシン(G)、アルギニン(R)またはプロリン(P)であり、10番目のアミノ酸がグルタミン酸(E)またはグリシン(G)である、前記[1]に記載のスクリーニング方法。
[3]前記抗原がハプテンである、前記[1]または[2]に記載のスクリーニング方法。
[4]前記元の抗体におけるH鎖可変部(Vドメイン)が、Kabatのマウス抗体H鎖可変部(Vドメイン)のサブグループII(A)、II(B)またはIII(D)に属する、前記[1]〜[3]のいずれか1項に記載のスクリーニング方法。
[5]前記(1−1)の改変抗体を作製する工程を含む、前記[1]〜[4]のいずれかに記載のスクリーニング方法。
[6]前記(1−2)の改変抗体を作製する工程を含む、前記[1]〜[4]のいずれかに記載のスクリーニング方法。
[7]元の抗体より抗原に対する親和力が向上した抗体を製造する方法であって、
(a1)元の抗体におけるKabat法で定義されるH鎖可変部(Vドメイン)のフレームワーク領域1の1番目〜3番目、5番目〜7番目、9番目および10番目のアミノ酸から選ばれる少なくとも1つのアミノ酸を置換して改変抗体を作製する工程、または
(a2)元の抗体におけるKabat法で定義されるH鎖可変部(Vドメイン)のフレームワーク領域1の4番目と5番目のアミノ酸の間、5番目と6番目のアミノ酸の間、6番目と7番目のアミノ酸の間および7番目と8番目のアミノ酸の間から選択される1か所以上の位置に、合計1個以上6個以下のアミノ酸を挿入して改変抗体を作製する工程、
(b)前記改変抗体の抗原に対する親和力を測定する工程、ならびに
(c)前記工程(b)で測定した改変抗体の抗原に対する親和力と元の抗体の抗原に対する親和力を比較して、抗原に対する親和力が向上した改変抗体を選択する工程
を含む、製造方法。
[8]前記工程(a1)で作製された改変抗体におけるKabat法で定義されるH鎖可変部(Vドメイン)のフレームワーク領域1の1番目のアミノ酸がグルタミン(Q)またはグルタミン酸(E)であり、2番目のアミノ酸がバリン(V)またはイソロイシン(I)であり、3番目のアミノ酸がグルタミン(Q)またはリシン(K)であり、4番目のアミノ酸がロイシン(L)であり、5番目のアミノ酸がグルタミン(Q)、リシン(K)、イソロイシン(I)、ロイシン(L)、グルタミン酸(E)またはバリン(V)であり、6番目のアミノ酸がグルタミン(Q)またはグルタミン酸(E)であり、7番目のアミノ酸がプロリン(P)またはセリン(S)であり、8番目のアミノ酸がグリシン(G)であり、9番目のアミノ酸がアラニン(A)、グリシン(G)、アルギニン(R)またはプロリン(P)であり、10番目のアミノ酸がグルタミン酸(E)またはグリシン(G)である、前記[7]に記載の製造方法。
[9]前記抗原がハプテンである、前記[7]または[8]に記載の製造方法。
[10]前記元の抗体におけるH鎖可変部(Vドメイン)が、Kabatのマウス抗体H鎖可変部(Vドメイン)のサブグループII(A)、II(B)またはIII(D)に属する、前記[7]〜[9]のいずれかに記載の製造方法。
[11]前記(a1)の改変抗体を作製する工程を含む、前記[7]〜[10]のいずれかに記載の製造方法。
[12]前記(a2)の改変抗体を作製する工程を含む、前記[7]〜[10]のいずれかに記載の製造方法。
[13]抗体の抗原に対する親和力を向上させる方法であって、親和力を向上させようとする元の抗体におけるKabat法で定義されるH鎖可変部(Vドメイン)のフレームワーク領域1の1番目〜3番目、5番目〜7番目、9番目および10番目から選ばれる少なくとも1つのアミノ酸を置換して改変抗体を作製すること、または、親和力を向上させようとする元の抗体におけるKabat法で定義されるH鎖可変部(Vドメイン)のフレームワーク領域1の4番目と5番目のアミノ酸の間、5番目と6番目のアミノ酸の間、6番目と7番目のアミノ酸の間もしくは7番目と8番目のアミノ酸の間から選択される1か所以上の位置に、合計1個以上6個以下のアミノ酸を挿入して改変抗体を作製することを含む方法。
[14]前記改変抗体におけるKabat法で定義されるH鎖可変部(Vドメイン)のフレームワーク領域1の1番目のアミノ酸がグルタミン(Q)またはグルタミン酸(E)であり、2番目のアミノ酸がバリン(V)またはイソロイシン(I)であり、3番目のアミノ酸がグルタミン(Q)またはリシン(K)であり、4番目のアミノ酸がロイシン(L)であり、5番目のアミノ酸がグルタミン(Q)、リシン(K)、イソロイシン(I)、ロイシン(L)、グルタミン酸(E)またはバリン(V)であり、6番目のアミノ酸がグルタミン(Q)またはグルタミン酸(E)であり、7番目のアミノ酸がプロリン(P)またはセリン(S)であり、8番目のアミノ酸がグリシン(G)であり、9番目のアミノ酸がアラニン(A)、グリシン(G)、アルギニン(R)またはプロリン(P)であり、10番目のアミノ酸がグルタミン酸(E)またはグリシン(G)である、前記[13]に記載の方法。
[15]前記抗原がハプテンである、前記[13]または[14]に記載の方法。
[16]前記元の抗体におけるH鎖可変部(Vドメイン)が、Kabatのマウス抗体H鎖可変部(Vドメイン)のサブグループII(A)、II(B)またはIII(D)に属する、前記[13]〜[15]のいずれかに記載の方法。
[17]親和力を向上させようとする元の抗体におけるKabat法で定義されるH鎖可変部(Vドメイン)のフレームワーク領域1の1番目〜3番目、5番目〜7番目、9番目および10番目から選ばれる少なくとも1つのアミノ酸を置換して改変抗体を作製することを含む方法である、前記[13]〜[16]のいずれかに記載の方法。
[18]親和力を向上させようとする元の抗体におけるKabat法で定義されるH鎖可変部(Vドメイン)のフレームワーク領域1の4番目と5番目のアミノ酸の間、5番目と6番目のアミノ酸の間、6番目と7番目のアミノ酸の間もしくは7番目と8番目のアミノ酸の間から選択される1か所以上の位置に、合計1個以上6個以下のアミノ酸を挿入して改変抗体を作製することを含む方法である、前記[13]〜[16]のいずれかに記載の方法。
[19]配列番号1〜16のいずれか1つで示されるアミノ酸配列からなるH鎖可変部(Vドメイン)および配列番号17で示されるアミノ酸配列からなるL鎖可変部(Vドメイン)を有し、コルチゾールに対する親和力が向上した抗コルチゾール抗体。
[20]コルチゾールに対する結合定数Kaが5×10−1以上である前記[19]に記載の抗コルチゾール抗体。
[21]低分子抗体である前記[19]または[20]に記載の抗体。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、既知の抗体のH鎖可変部のフレームワーク領域1のアミノ酸置換またはアミノ酸挿入により、元の抗体より抗原に対する親和力が向上した抗体をスクリーニングする方法および製造する方法を提供することができる。また、本発明により、抗体の抗原に対する親和力を向上させる方法および抗原に対する親和力が向上した抗コルチゾール抗体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明者らが樹立したモノクローナル抗コルチゾール抗体(Ab#3)に基づいて作成した一本鎖抗体(single-chain Fv fragment; scFv)の一次構造(アミノ酸配列)を示す図である。
図2】Kabatらの報告(Kabat EA et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest (1991))に基づく、マウス抗体のH鎖可変部(VHドメイン)のサブグループと、マウス抗体のH鎖可変部のフレームワーク領域1(FR1)の1〜15番のアミノ酸について、各サブグループの典型的な配列を示す図である。
図3】コルチゾールに対する結合定数(Ka)が野生型scFvに比べ10倍以上大きい16種の改良型変異scFvの一次構造(アミノ酸配列)と結合定数(Ka)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
〔スクリーニング方法、製造方法〕
本発明は、元の抗体より抗原に対する親和力が向上した抗体のスクリーニング方法を提供する。本発明のスクリーニング方法は、以下の工程を含むものであればよい。
(1−1)元の抗体におけるKabat法で定義されるH鎖可変部(Vドメイン)のフレームワーク領域1の1番目〜3番目、5番目〜7番目、9番目および10番目のアミノ酸から選ばれる少なくとも1つのアミノ酸を置換して変異体を作製する工程、または
(1−2)元の抗体におけるKabat法で定義されるH鎖可変部(Vドメイン)のフレームワーク領域1の4番目と5番目のアミノ酸の間、5番目と6番目のアミノ酸の間、6番目と7番目のアミノ酸の間および7番目と8番目のアミノ酸の間から選択される1か所以上の位置に、合計1個以上6個以下のアミノ酸を挿入して変異体を作製する工程、
(2)前記変異体の抗原に対する親和力を測定する工程、ならびに
(3)前記工程(2)で測定した変異体の抗原に対する親和力と元の抗体の抗原に対する親和力を比較して、抗原に対する親和力が向上した変異体を選択する工程。
【0010】
本発明は、元の抗体より抗原に対する親和力が向上した抗体の製造方法を提供する。本発明のスクリーニング方法は、以下の工程を含むものであればよい。
(a1)元の抗体におけるKabat法で定義されるH鎖可変部(Vドメイン)のフレームワーク領域1の1番目〜3番目、5番目〜7番目、9番目および10番目のアミノ酸から選ばれる少なくとも1つのアミノ酸を置換して改変抗体を作製する工程、または
(a2)元の抗体におけるKabat法で定義されるH鎖可変部(Vドメイン)のフレームワーク1の4番目と5番目のアミノ酸の間、5番目と6番目のアミノ酸の間、6番目と7番目のアミノ酸の間および7番目と8番目のアミノ酸の間から選択される1か所以上の位置に、合計1個以上6個以下のアミノ酸を挿入して改変抗体を作製する工程、
(b)前記工程a1または工程a2で得られた抗体の抗原に対する親和力を測定する工程、ならびに
(c)前記工程bで測定した親和力と元の抗体の抗原に対する親和力を比較して、抗原に対する親和力が向上した抗体を選択する工程
【0011】
本明細書において、「Kabat法で定義される」とは、抗体の可変部のアミノ酸残基の番号付けが、Kabatらによるナンバリング・スキーム(Kabat EA et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest; U. S. Department of Health and Human Services, National Institutes of Health, U. S. Government Printing Office: Washington, DC, (1991))に従うことをいう。
【0012】
元の抗体は、少なくとも、VHドメインのフレームワーク領域1(FR1)のアミノ酸配列を確認可能な抗体であればどのような抗体でもよく、天然の抗体であっても人工的に作出された抗体であってもよい。人工的に作出された抗体としては、例えば、天然の抗体のアミノ酸配列に変異(アミノ酸残基の置換、付加または削除)を導入した抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体などが挙げられる。元の抗体は、いずれの動物の抗体であってもよく、哺乳動物の抗体であってもよい。哺乳動物としては、例えばヒト、マウス、ウサギ、ラット、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ラクダ、ウシ、ウマなどが挙げられ、ヒト、マウスが好ましい。本発明のスクリーニング方法および本発明の製造方法によって得られる抗体は、元の抗体と同じ動物の抗体である。
【0013】
元の抗体は、そのアミノ酸配列が公知であるか、その遺伝子の塩基配列が公知であるかまたは該アミノ酸配列を確認可能な抗体であるか、該塩基配列を確認可能な抗体であってもよい。例えば、公知のデータベースに、抗体遺伝子の塩基配列やアミノ酸配列が開示されている抗体であってもよく、該抗体を産生するハイブリドーマが入手可能な抗体であってもよい。そのようなデータベースとしては、例えばNational Center for Biotechnology Information(NCBI)により提供されるGeneBankなどが挙げられる。元の抗体を産生するハイブリドーマが入手可能である場合、公知の方法により該ハイブリドーマから抗体遺伝子を取得し、その塩基配列をシーケンシングすることにより抗体遺伝子の塩基配列を得ることができる。
【0014】
元の抗体は、H鎖可変部(VHドメイン)が、Kabatのマウス抗体H鎖可変部(VHドメイン)のサブグループの何れであってもよく、サブグループII(A)、II(B)またはIII(D)に属するものが好ましい(Kabat EA et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest; U. S. Department of Health and Human Services, National Institutes of Health, U. S. Government Printing Office: Washington, DC, (1991))。Kabatの該サブグループは、VHドメインのフレームワーク領域の配列類似性に基づくものであり、マウス抗体のVHドメインのフレームワーク領域1(H鎖N末端アミノ酸を1番とするとき1〜30番のアミノ酸からなる)の1〜15番のアミノ酸について、各サブグループの典型的な配列(最も出現頻度が高いアミノ酸を選択して並べた配列)は図2に示されている。
【0015】
元の抗体はいずれの抗原を認識する抗体であってもよく、ハプテンを認識する抗体が好ましい。ハプテンは、分子量1万以下の低分子のうち、単独ではヒトまたは動物に対して抗体産生を惹起させるのは困難であるが、タンパク質等の高分子物質と結合することにより抗体産生を惹起しうる物質を意味する。ハプテンとしては、例えば、テストステロン、エストラジオール、エストリオール、コルチゾール等のステロイドホルモン、ガストリン、バソプレシン、アンジオテンシン等の小ペプチドホルモン、モノニトロフェニル基、ジニトロフェニル基、トリニトロフェニル基、フルオレセイン基などを有する化合物(例えば2,4-ジニトロフェノール(DNP))、ジゴキシン、各種低分子合成薬剤等が挙げられる。また、元の抗体は二重特異性抗体であってもよい。
【0016】
本発明のスクリーニング方法の工程(1−1)および本発明の製造方法の工程(a1)はいずれも、元の抗体におけるKabat法で定義されるH鎖可変部(VHドメイン)のフレームワーク領域1の1番目〜3番目、5番目〜7番目、9番目および10番目のアミノ酸から選ばれる少なくとも1つのアミノ酸を置換して改変抗体を作製する工程である。
【0017】
本発明のスクリーニング方法の工程(1−2)および本発明の製造方法の工程(a2)はいずれも、元の抗体におけるKabat法で定義されるH鎖可変部(VHドメイン)のフレームワーク領域1の4番目と5番目のアミノ酸の間、5番目と6番目のアミノ酸の間、6番目と7番目のアミノ酸の間および7番目と8番目のアミノ酸の間から選択される1か所以上の位置に、合計1個以上6個以下のアミノ酸を挿入して改変抗体する工程である。
【0018】
本発明のスクリーニング方法の工程(1−1)および本発明の製造方法の工程(a1)、並びに本発明のスクリーニング方法の工程(1−2)および本発明の製造方法の工程(a2)は、いずれも前記した如き部位の改変(元の抗体におけるKabat法で定義されるH鎖可変部(VHドメイン)のフレームワーク領域1の1番目〜3番目、5番目〜7番目、9番目および10番目のアミノ酸から選ばれる少なくとも1つのアミノ酸を置換、或いは元の抗体におけるKabat法で定義されるH鎖可変部(VHドメイン)のフレームワーク領域1の4番目と5番目のアミノ酸の間、5番目と6番目のアミノ酸の間、6番目と7番目のアミノ酸の間および7番目と8番目のアミノ酸の間から選択される1か所以上の位置に、合計1個以上6個以下のアミノ酸を挿入)以外に変異(アミノ酸残基の置換、付加または削除)を導入して改変を行ってもよいが、前記した如き部位のみを改変するのが好ましい。
【0019】
アミノ酸置換、アミノ酸挿入等のアミノ酸配列の改変は、公知の遺伝子組換え技術や分子生物学的技術を用いて行うことができる。例えば、公知の部位特異的変異誘導法を用いることができる。例えば、元の抗体を産生するハイブリドーマから抽出したRNAを用いて、逆転写反応およびRACE(Rapid Amplification of cDNA ends)法により、L鎖およびH鎖をそれぞれコードするポリヌクレオチドを合成する。VHドメインのフレームワーク領域1にアミノ酸置換またはアミノ酸挿入を行うためには、H鎖をコードするポリヌクレオチドを鋳型として目的の変異を導入するためのプライマーを用いてPCRを行うことで、目的の変異が導入された改変H鎖ポリヌクレオチドを取得することができる。得られた改変H鎖ポリヌクレオチドを、元の抗体のL鎖をコードするポリヌクレオチドと共に、あるいは両者を連結した後に適切な発現ベクターに組み込むことにより、目的の改変抗体をコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクターが得られる。このような、本発明の製造方法で製造される抗体(目的の改変抗体)をコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクターも、本発明に含まれる。
【0020】
L鎖をコードするポリヌクレオチドおよびH鎖をコードするポリヌクレオチドは、1つの発現ベクターに組み込まれてもよいし、2つの発現ベクターに別個に組み込まれてもよい。発現ベクターの種類は特に限定されず、哺乳動物細胞用発現ベクターであってもよいし、大腸菌用発現ベクターであってもよい。得られた発現ベクターを適当な宿主細胞(例えば、哺乳動物細胞または大腸菌)にトランスフェクションすることにより、改変抗体を得ることができる。
【0021】
本発明のスクリーニング方法の工程(2)および本発明の製造方法の工程(b)はいずれも、得られた改変抗体の抗原に対する親和力を測定する工程である。抗体の抗原に対する親和力の測定方法は特に限定されず、公知の方法から適宜選択して用いることができる。例えば、Scatchard解析、表面プラズモン共鳴、Bio-layer interferometry、蛍光消光法、平衡透析法、ELISA等を用いることができる。また、コロニーアレイプロファイリング(colony-array profiling: CAP)法を用いることもできる。
【0022】
本発明のスクリーニング方法の工程(3)および本発明の製造方法の工程(c)はいずれも、改変抗体の抗原に対する親和力の測定値と元の抗体の抗原に対する親和力を比較して、抗原に対する親和力が向上した改変抗体を選択する工程である。比較対象の元の抗体の抗原に対する親和力を、改変抗体の親和力を測定した方法と同じ方法で測定し、得られた両者の測定値を比較すればよい。また、測定値に基づいて結合定数(Ka)を算出し、結合定数を比較してもよい。
【0023】
改変抗体の抗原に対する親和力が元の抗体の抗原に対する親和力より向上している程度は特に限定されず、目的に応じて親和力向上の程度を設定すればよい。例えば、改変抗体の抗原に対する親和力が元の抗体の抗原に対する親和力より2倍以上、3倍以上、4倍以上、5倍以上、6倍以上、7倍以上、8倍以上、9倍以上、10倍以上、15倍以上または20倍以上向上している改変抗体を選択してもよい。
【0024】
本発明のスクリーニング方法の工程(1−1)または本発明の製造方法の工程(a1)により得られる改変抗体におけるKabat法で定義されるVHドメインのフレームワーク領域1(FR1)の1番目から10番目のアミノ酸は、それぞれ以下のアミノ酸から選択されるものであってもよい。
1番目:グルタミン(Q)またはグルタミン酸(E)
2番目:バリン(V)またはイソロイシン(I)
3番目:グルタミン(Q)またはリシン(K)
4番目:ロイシン(L)
5番目:グルタミン(Q)、リシン(K)、イソロイシン(I)、ロイシン(L)、グルタミン酸(E)またはバリン(V)
6番目:グルタミン(Q)またはグルタミン酸(E)
7番目:プロリン(P)またはセリン(S)
8番目:グリシン(G)
9番目:アラニン(A)、グリシン(G)、アルギニン(R)またはプロリン(P)
10番目:グルタミン酸(E)またはグリシン(G)
【0025】
本発明のスクリーニング方法の工程(1−2)または本発明の製造方法の工程(a2)により得られる改変抗体は、元の抗体におけるKabat法で定義されるH鎖可変部(VHドメイン)のフレームワーク1の4番目と5番目のアミノ酸の間、5番目と6番目のアミノ酸の間、6番目と7番目のアミノ酸の間および7番目と8番目のアミノ酸の間から選択される1か所以上の位置に、合計1個以上6個以下のアミノ酸が挿入されているものであればよい。挿入位置は5番目と6番目のアミノ酸の間、6番目と7番目のアミノ酸の間および7番目と8番目のアミノ酸の間から選択されてもよく、5番目と6番目のアミノ酸の間および6番目と7番目のアミノ酸の間から選択されてもよく、6番目と7番目のアミノ酸の間および7番目と8番目のアミノ酸の間から選択されてもよく、6番目と7番目のアミノ酸の間であってもよい。
【0026】
挿入されるアミノ酸は特に限定されず、任意のアミノ酸を挿入することができる。1か所に挿入されるアミノ酸数は、5個以下であってもよく、4個以下であってもよく、3個以下であってもよく、2個以下であってもよく、1個であってもよい。また、2個以上のアミノ酸を挿入する場合、同じアミノ酸であっても異なるアミノ酸であってもよい。挿入されるアミノ酸としては、例えば、アスパラギン酸(D)、プロリン(P)、アラニン(A)−グリシン(G)−フェニルアラニン(F)、アルギニン(R)、グルタミン(Q)−グリシン(G)、ヒスチジン(H)、グルタミン(Q)−アスパラギン(N)−ロイシン(L)、ロイシン(L)−ロイシン(L)−ロイシン(L)、グルタミン(Q)等が挙げられる。
【0027】
元の抗体および改変抗体のクラスは、IgG、IgA、IgM、IgD、IgEのいずれであってもよいが、好ましくはIgGである。IgGのサブクラスは特に限定されず、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4のいずれであってもよい。
【0028】
元の抗体は、全長抗体であってもよく低分子抗体であってもよい。低分子抗体は、全長抗体の一部が欠損しているが、標的となる抗原に対する結合活性を有する抗体断片を含む。抗体断片は、H鎖可変部(VHドメイン)およびL鎖可変部(VLドメイン)のいずれか、または両方を含んでいることが好ましい。低分子抗体としては、例えば、Fab、Fab’、F(ab’)2、Fv、scFv(single chain Fv)、ダイアボディー(Diabody)、sc(Fv)2(single chain (Fv)2)、Fv-claspなどを挙げることができる。これらの低分子抗体の多量体(例えば、ダイマー、トリマー、テトラマー、ポリマー)も、本発明の低分子抗体に含まれる。
【0029】
低分子抗体は、抗体を酵素で処理して抗体断片を生成させることによって得ることができる。抗体断片を生成する酵素として、例えばパパイン、ペプシン、プラスミン等が挙げられる。あるいは、これら抗体断片をコードする遺伝子が挿入された発現ベクターが導入された適切な宿主細胞を培養して発現した抗体断片を、その培養液から単離および精製して取得することができる。
【0030】
〔抗体の抗原に対する親和力を向上させる方法〕
本発明は、抗体の抗原に対する親和力を向上させる方法を提供する。本発明の親和力向上方法は、親和力を向上させようとする元の抗体におけるKabat法で定義されるH鎖可変部(VHドメイン)のフレームワーク領域1の1番目〜3番目、5番目〜7番目、9番目および10番目から選ばれる少なくとも1つのアミノ酸を置換して改変抗体を作製すること、または、親和力を向上させようとする元の抗体におけるKabat法で定義されるH鎖可変部(VHドメイン)のフレームワーク領域1の4番目と5番目のアミノ酸の間、5番目と6番目のアミノ酸の間、6番目と7番目のアミノ酸の間もしくは7番目と8番目のアミノ酸の間から選択される1か所以上の位置に、合計1個以上6個以下のアミノ酸を挿入して改変抗体を作製することを含むものであればよい。
【0031】
本発明の親和力向上方法によって得られる改変抗体および元の抗体については、上記本発明のスクリーニング方法および本発明の製造方法の説明において説明したものと同じである。本発明の親和力向上方法により、元の抗体の抗原に対する親和力より2倍以上、3倍以上、4倍以上、5倍以上、6倍以上、7倍以上、8倍以上、9倍以上、10倍以上、15倍以上、20倍以上、25倍以上、30倍以上向上している改変抗体を得ることが可能である。
【0032】
〔コルチゾールに対する親和力が向上した抗コルチゾール抗体〕
本発明は、抗原であるコルチゾールに対する親和力が向上した抗コルチゾール抗体を提供する。本発明の抗コルチゾール抗体は、配列番号1〜16のいずれか1つで示されるアミノ酸配列からなるH鎖可変部(VHドメイン)および配列番号17で示されるアミノ酸配列からなるL鎖可変部(VLドメイン)を有する抗体である。
【0033】
元の抗体は、本発明者らが以前に樹立したモノクローナル抗コルチゾール抗体(Ab#3)(Oyama H et al., Anal. Chem., 87, 12387-12395 (2015))であり、配列番号17で示されるアミノ酸配列からなるL鎖可変部(Vドメイン)と配列番号18で示されるアミノ酸配列からなるH鎖可変部(VHドメイン)を有する。
【0034】
本発明の抗コルチゾール抗体は、コルチゾールに対する結合定数Kaが5×109M-1以上でああり、元の抗体のコルチゾールに対する結合定数Kaより15倍以上親和力が向上している。
【0035】
本発明の抗コルチゾール抗体は、全長抗体であってもよく低分子抗体であってもよいが、低分子抗体であることが好ましい。本発明の抗コルチゾール抗体は、scFv(single chain Fv)であってもよい。
【実施例】
【0036】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0037】
〔実施例1:高親和力を有する改良型抗コルチゾール変異scFvの作製〕
1−1 野生型抗コルチゾールscFvの作製
(1)モノクローナル抗コルチゾール抗体(Ab#3)の可変部遺伝子のクローニングとscFv遺伝子の構築
本発明者らが以前に樹立したモノクローナル抗コルチゾール抗体(Ab#3)(Oyama H et al., Anal. Chem., 87, 12387-12395 (2015))を産生するハイブリドーマから総RNAを抽出し、Superscript IITM reverse transcriptaseを用いて逆転写反応を行いcDNAを合成した。得られたcDNAを鋳型としてrapid amplification of cDNA 5’-ends(5’-RACE)を行い、VH遺伝子およびVL遺伝子を含むDNA断片を得た。これらDNA断片をpBluescript IIプラスミドのXmaI−SalIサイトヘサブクローニングし、VH遺伝子およびVL遺伝子の塩基配列を常法により決定した。得られた塩基配列情報に基づいて、scFvの構築に必要となる制限酵素認識配列を付加したVH遺伝子断片(VH’ 断片)およびVL遺伝子断片(VL’ 断片)をPCRで作製した。PCRにはEx Taq DNAポリメラーゼを使用し、制限酵素認識配列を付加するためのPCRプライマーは以下のものを使用した。
VH’ 断片用
CS#3VH-Rev:5’-CTCGCGGCCCAGCCGGCCATGGCCCAGGTCCAACTGCAGCAGCCTG-3’(配列番号19)
CS#3VH-For:5’-TGAACCGCCTCCACCGCTCGAGACTGCAGAGACAGTGACCAGAGTC-3’(配列番号20)
VL’ 断片用
CS#3VL-Rev:5’-GGATCCGGCGGTGGCGGGTCGACGGACATTGTGCTGACACAGTCTC-3’(配列番号21)
CS#3VL-For:5’-GGGCTCAACTTTCTTTGCGGCCGCAGCCCGTTTTATTTCCAGCTTG-3’(配列番号22)
【0038】
得られたVH’ 断片を制限酵素NcoIおよびXhoIで、VL’ 断片を制限酵素SalIおよびNotIでそれぞれ消化し、scFv発現用プラスミドベクターに順次導入し、ベクター内にscFv遺伝子(5’-VH-linker-VL-FLAG-3’)を構築した。VH遺伝子およびVL遺伝子を連結するリンカー配列は、VVSGGGGSGGGGSGGGGST(配列番号23)の19アミノ酸をコードしている。またscFvの3’末端には、発現するscFvの精製と検出を容易にするため、FLAGタグの塩基配列が付加されている。
【0039】
(2)可溶型scFvタンパク質の産生と精製
構築したscFv発現用プラスミドベクターを大腸菌XL1-Blue細胞に電気穿孔法により導入した。形質転換菌をアガープレート上に塗布して37℃で一晩培養し、出現したコロニーがscFv遺伝子を保持していることを、scFv遺伝子に特異的なコロニーPCRおよびscFv遺伝子塩基配列の解析により確認した。この形質転換菌を、アンピシリンとグルコースを含む2×YT培地に加え、600 nmにおける吸光度が0.8に達するまで37℃で振とう培養した。培養液を遠心分離し、沈殿をisopropyl β-D-1-thiogalactopyranoside(IPTG)を含むタンパク質発現誘導培地に懸濁し、25℃で一晩振とう培養した。培養液を遠心分離し、沈殿を浸透圧ショック用緩衝液(スクロースおよびエチレンジアミン四酢酸を含むトリス緩衝液)で懸濁した後、氷上で1時間インキュベートした。インキュベート後の菌懸濁液を遠心分離し、上清のペリプラズム抽出液(scFvタンパク質を含む)を回収し、-20℃で保存した。この一部を抗FLAG-M2抗体固定化アガロースゲルを充填したアフィニティーカラムに供し、緩衝液で洗浄後、0.10 mol/L グリシン塩酸緩衝液(pH 3.5)で可溶型scFvを溶出した。この画分を4℃で一晩透析した後、遠心式限外濾過膜を用いて濃縮した。この抗コルチゾールscFvの一次構造(アミノ酸配列)を図1に示した。
【0040】
1−2 「FR1ランダム化」変異scFv遺伝子ライブラリーの構築
(1)マウス抗体VHドメイン各サブグループのFR1の一次構造の比較
抗体分子のうち、抗原との相互作用に直接関わるのは上述のVHおよびVLドメインであり、その結合特異性と親和力はこれらドメインの立体構造と連関する。いずれのドメインも、ループ構造を形成し抗原と接触する相補性決定部(complementarity-determining region; CDR)と、β-シート構造を形成しCDRループを支える土台となる枠組み配列(framework region; FR)が交互に現れるモザイク様構造をとる。すなわち、そのN末端から、FR1-CDR1-FR2-CDR2-FR3-CDR3-FR4 の順に連なっている。CDRのアミノ酸配列は抗原特異性を異にする抗体分子間で大きく異なり莫大な多様性を示すが、FRの多様性はCDRに比べると小さい。このため、VHおよびVLドメインはFRの配列の類似性により、サブグループに分類されている。すなわち、マウス抗体のVHドメインはIA、IB、IIA、IIB、IIC、IIIA、IIIB、IIIC、IIID、VA、VBの11グループに、L鎖のうちκタイプ(マウス抗体の約95%がκタイプである)の可変部(Vκ)は、I、II、III、IV、V、VI、VII の7グループに分類されている(Kabat EA et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest; U. S. Department of Health and Human Services, National Institutes of Health, U. S. Government Printing Office: Washington, DC, (1991))。VHドメインのFR1は、H鎖N末端アミノ酸を1番とするとき1〜30番のアミノ酸からなるが、そのうち1〜15番のアミノ酸について、各サブグループの典型的な配列(最も出現頻度が高いアミノ酸を選択して並べた配列)を図2に示した。N末端の1〜10番目に着目すると、2、4、8番目のアミノ酸はいずれのサブグループでもそれぞれV、L、Gであり、高度に保存されていることがわかる。これに対して、1番目と6番目はEまたはQ、3番目はQまたはKであり、サブグループの違いに応じた変動がある。5番目はさらに変化が激しく、Q、K、V、E、またはLのいずれかであり、各サブグループを特徴づける部位となっている。
【0041】
本発明者らは、予備検討において、サブグループ間で変動するVHドメインのFR1内の1〜10番の位置について、本来のアミノ酸を異なるサブグループにおける頻出アミノ酸に置換したところ、scFvの抗原結合親和力が顕著に高いscFv変異体が出現することに気付いた。そこで、上記1−1で作製した野生型抗コルチゾールscFvのVHドメインのFR1内の1〜10番の位置について、本来のアミノ酸を異なるサブグループの頻出アミノ酸に置換した変異scFvを作製し、抗原結合親和力が向上した変異scFvを見出すことを試みた。
【0042】
(2)抗コルチゾールscFvの「FR1ランダム化」変異体ライブラリーの構築
上記1−1で作製した野生型抗コルチゾールscFvのVHドメインの1、2、3、5、6、7、9および10番目のアミノ酸について、表1に示すアミノ酸のいずれかが出現する変異体ライブラリーを構築した。2番目のアミノ酸については、頻度は小さいながらVに加えIが出現することを考慮した。理論上は2×2×2×6×2×2×4×2=1,536通りの1〜10番のアミノ酸配列を持つ変異体が含まれることになる。
【0043】
【表1】
【0044】
上記1−1で構築したscFv発現用プラスミドベクターを鋳型とし、縮重プライマーVH-FR1-1〜10mut(5’-ATTGTTATTACTCGCGGCCCAACCGGCCATGGCCSAGRTCMAACTGVWASAGYCTGGGSSTGRACTTGTGAAGCCTGGGGCTTCAGTGAAA-3’、配列番号24)と上記プライマーCS#3VL-Forを用い、複製酵素としてKOD Fx DNA ポリメラーゼを用いてPCRを行い、VHの1〜10番のアミノ酸のコドンとして縮重コドン(SAG RTC MAA CTG VWA SAG YCT GGG SST GRA:配列番号25)を有する変異scFv遺伝子群を作製した。得られた変異scFv遺伝子群を制限酵素NcoIおよびNotI で消化し、scFvファージ提示用ベクターに導入した。得られた組換えプラスミドを大腸菌TG1株に電気穿孔法により導入した。形質転換菌をアガープレート上に塗布して37℃で一晩培養し、出現したコロニーの一部を後述のコロニーアレイプロファイリング(colony-array profiling: CAP)法に供して、コルチゾールに対する結合親和力が向上した変異scFvを産生する大腸菌クローンを探索した。なお、核酸塩基の一文字表記を表2に示す。
【0045】
【表2】
【0046】
1−3 「FR1伸長」変異scFv遺伝子ライブラリーの構築
(1)「FR1伸長」変異scFv遺伝子について
本発明者らは、予備検討において、VHドメインのFR1内の6番目のアミノ酸と7番目のアミノ酸の間に1つのアミノ酸が挿入されたscFv変異体は抗原結合親和力が顕著に高いことを見出した。そこで、上記1−1で作製した野生型抗コルチゾールscFvのVHドメインのFR1内の6番目のアミノ酸と7番目のアミノ酸の間に1〜6個のアミノ酸を挿入した変異体ライブラリーを構築することにした。アミノ酸の挿入はNNS縮重コドンの挿入により行い、挿入されたアミノ酸として20種のタンパク質構成アミノ酸のすべてがランダムに出現し得るようにした。したがって、1個、2個、3個、4個、5個または6個のアミノ酸を挿入した変異体ライブラリーは、理論上、それぞれ20種、202=400種、203=8,000種、204=160,000種、205=3,200,000種、206=64,000,000種の変異体を含み得ることになる。
【0047】
(2)抗コルチゾールscFvの「FR1伸長」変異scFv遺伝子ライブラリーの構築
上記1−1で構築したscFv発現用プラスミドベクターを鋳型とし、伸長用プライマー(5’-ATTGTTATTACTCGCGGCCCAACCGGCCATGGCCCAGGTCCAACTGCAGCAG(NNS)nCCTGGGGCTGAACTTGTGAAGC-3’; n=1、2、3、4、5、6、配列番号26〜31)および上記プライマーCS#3VL-Forを用い、複製酵素としてKOD Fx DNAポリメラーゼを用いてPCRを行った。得られた6種の変異scFv遺伝子群を、n=1、2、3の遺伝子群の混合物、n=4、5の遺伝子群の混合物、n=6の遺伝子群に分けて、それぞれ制限酵素NcoIおよびNotIで消化し、scFvファージ提示用ベクターに導入した。得られた組換えプラスミドを大腸菌TG1株に電気穿孔法により導入した。形質転換菌をアガープレート上に塗布して37℃で一晩培養し、出現したコロニーの一部を後述のコロニーアレイプロファイリング(colony-array profiling: CAP)法に供して、コルチゾールに対する結合親和力の向上した変異scFvを産生する大腸菌クローンを探索した。
【0048】
1−4 ファージディスプレイを利用した抗コルチゾールscFv高親和力変異体の探索
(1)コロニーアレイプロファイリング(colony-array profiling: CAP)法
上記1−2および1−3で作製した変異scFv遺伝子を導入した形質転換菌をアガープレートに播種し、クローン化されたコロニーを形成させた。あらかじめコルチゾール基がアルブミン結合体としてコーティングされた96ウェルマイクロプレートのマイクロウェル(KM13ヘルパーファージを含む2×YT培地が分注されている)に、形質転換菌のコロニーを1つずつ移植し、25℃で45時間振とう培養し、各ウェルにおいて単一の形質転換菌から「モノクローナルscFv提示ファージ」を産生させた。ファージ粒子上に提示されているscFvがコルチゾールに対して十分な親和力を示す場合、これらファージはコルチゾール基が結合しているマイクロウェルに捕捉される。そこで、プレートを洗浄後、新規に作製した抗ファージscFv(Kiguchi Y et al., Biol. Pharm. Bull., 41, 1062-1070 (2018))と海洋性カイアシ類(Gaussia princeps)由来ルシフェラーゼ(GLuc)の融合タンパク質を反応させ、GLucの基質であるセレンテラジンを加え、生じる発光の強度を計測した。
【0049】
上記1−2で作製した「FR1ランダム化」ライブラリーおよび1−3で作製した「FR1伸長」ライブラリーのそれぞれについて、約5,000個の形質転換菌に由来するモノクローナルscFv提示ファージの発光強度を比較し、上位40種を更なる評価に供した。
【0050】
(2)CAP法に用いるコルチゾール基固定化マイクロプレートの作製
コルチゾール3-(O-carboxymethyl)oximeを常法によりN-hydroxysuccinimide esterに変換した。そのピリジン溶液をウシ血清アルブミンのリン酸緩衝溶液と混和して、室温で1時間、更に4℃で一晩撹拌した。これを透析し、アセトンの添加によるタンパク質沈殿反応に付して未反応のステロイド等を除去し、コルチゾール−アルブミン結合体(平均結合モル比12)を得た。本結合体を含む0.10 mol/L炭酸緩衝液(pH 8.6)を、発光ELISA用白色96ウェルマイクロプレートに分注し(100μL/ウェル)、室温で一晩放置した。溶液を除去してリン酸緩衝生理食塩水(phosphate-buffered saline; PBS)で3回洗浄した後、ブロックエース溶液(300μL/ウェル)を加えて37℃で2時間放置した。溶液を除去した後、0.050(v/v)% Tween 20を含むPBS(T-PBS)で3回洗浄し、コルチゾール基固定化マイクロプレートを得た。
【0051】
(3)CAP法による高親和力変異scFv提示ファージクローンの探索と回収
上記(2)で作製したコルチゾール基固定化マイクロプレートのウェルに、アンピシリン(100 μg/mL)、カナマイシン(5.0μg/mL)およびKM13(5×108 pfu/mL)を含む2×YT培地を分注した(200μL/ウェル)。上記1−2および1−3で作製した変異scFv遺伝子を導入した形質転換菌のアガープレート上のコロニーを滅菌した爪楊枝を用いてマイクロプレートのウェルの培地中に懸濁させ、25℃で45時間振とう培養した。培地を除去し、T-PBSで3回洗浄した後、2.0%スキムミルクを含むPBSで500倍に希釈した抗ファージscFv-GLuc結合体を加え(100μL/ウェル)、37℃で30分インキュベートした。同様に洗浄後、セレンテラジン(5.0μmol/L)を含むPBSを加え(100μL/ウェル)、直後に300〜700 nmにおける発光強度を測定した。発光強度が大きく、高親和力のscFv提示ファージの産生が期待できるウェルを選択し、残存する溶液を除いた後、ウェルに結合したファージを解離させるために0.10 mol/L グリシン塩酸緩衝液(pH 2.2, 100μL)を加えて室温で10分振とうした。ウェル内の溶液をマイクロチューブに回収し、2.0 mol/L Trisを加えて中和した後、その一部を対数増殖期の大腸菌TG1に加え、37 ℃で30分インキュベーションした。その一部を2×YT培地で段階希釈し(10〜1,000倍希釈)、アンピシリンとグルコースを含む2×YTアガープレートに塗布して37℃で一晩培養した。得られるコロニーをscFv遺伝子に特異的なコロニーPCRに付して、scFv遺伝子を保持する大腸菌を特定した。
【0052】
(4)可溶型変異scFvの調製
上記(3)で特定したscFv遺伝子を保持する大腸菌を培養してプラスミドを抽出し、このプラスミドを鋳型としてPCR を行い、scFv遺伝子を増幅した。増幅したscFv遺伝子を可溶型scFv発現用プラスミドにサブクローニングし、大腸菌XL1Blueに導入した。得られた形質転換菌を上記1−1(2)と同じ手順で処理して、可溶型変異scFvタンパク質をペリプラズム抽出液として回収し、-20℃で保存した。
【0053】
1−5 改良型抗コルチゾール変異scFvの一次構造と親和力の解析
(1)コルチゾールに対して高い親和力を示す変異scFvの選抜
1−4で作製した可溶型変異scFv、および1−1で作製した野生型scFvを用いてコルチゾールの競合ELISAを行い、標準曲線の50%置換値の比較によりコルチゾールに対する親和力向上の程度を推定した(一般に、50%置換値が小さいほどそのscFvは親和力が高い)。有望な変異scFvについては、Scatchard法(Scatchard G., Ann. N. Y. Acad. Sci., 51, 660-972 (1949))により結合定数(Ka)を算出した。その結果、野生型scFvに比べ10倍以上大きいKaを示す改良型変異scFvを、1−2で作製した「FR1ランダム化」ライブラリーから7種、1−3で作製した「FR1伸長」ライブラリーから9種、それぞれ特定した。特定した16種の改良型変異scFvの一次構造と結合定数(Ka)を図3に示した。
【0054】
(2)コルチゾールの競合ELISA
上記1−4(2)に記載のコルチゾール基固定化マイクロプレートを作製した。0.10%ゼラチンを含むPBS(G-PBS)で適切に希釈したペリプラズム抽出液(可溶型変異scFvを含む)(100μL/ウェル)および各種濃度のコルチゾール標準品を含むG-PBS溶液(50μL/ウェル)を加えて混合し、4℃で2時間インキュベートした。同様に洗浄後、G-PBSで5,000倍に希釈したペルオキシダーゼ標識抗FLAG抗体(100μL/ウェル)を加えて37℃で30分インキュベートした。溶液を除去し、ウェルを洗浄した後、各ウェルに0.04% o-フェニレンジアミン塩酸塩および0.018% 過酸化水素を含む基質溶液を分注し(100μL/ウェル)、十分な発色が認められるまで(10〜30分)室温で放置した後、1.0 mol/L 硫酸水溶液を添加して(100μL/ウェル)混合し、酵素反応を停止させた。マイクロプレートリーダーを用いて各ウェルの490 nmの吸光度を測定し、GraphPad Prism version 3.0aを用いてデータ処理を行い、コルチゾールの標準曲線を作成し、50%置換値を求めた。
【0055】
(3)Scatchard法によるscFvのコルチゾールに対する結合定数の算出
ガラス試験管(12×75 mm)に、G-PBSで各種濃度に希釈したコルチゾールの標準液(100μL)、[1,2,6,7-3H (N)]-コルチゾール(1.5×104 dpm; 500μL)、および可溶型scFv (ペリプラズム抽出液) を添加して撹拌後、4℃で一晩インキュベートした。反応液を氷上で10分間インキュベートし、これにデキストラン炭末懸濁液(0.4%の活性炭末を0.010%のデキストランを含むG-PBSで懸濁した液)(500μL)を添加して撹拌後、氷上で更に20分間インキュベートした。この懸濁液を遠心分離し(2000 rpm, 10分, 4℃)、上清をクリアゾルII(10 mL)と混和し、放射能を液体シンチレーションカウンターで測定した。得られた放射能(dpm)と添加したコルチゾール量(pmol)からScatchardプロットを行い、可溶型scFvのコルチゾールに対する結合定数Kaを算出した。
【0056】
なお本発明は上述した各実施形態および実施例に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
図1
図2
図3
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]