前記アミン化合物がジメチルアミン-エピクロロヒドリンコポリマー、モノエタノールアミン、エチレンジアミン、及びポリエチレンイミンからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項5に記載のエッチング処理液。
前記安定剤がグルコン酸、酒石酸、リンゴ酸、クエン酸、サリチル酸、サリチル酸誘導体、フタル酸、γ−レソルシル酸及びそれらの塩から選択される少なくとも1種である、請求項7〜9のいずれかに記載のエッチング処理液。
アルカリエッチング及びスマット除去処理を行うアルミニウム材処理方法におけるアルカリエッチングに使用するための、請求項1〜10のいずれかに記載のエッチング処理液。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、アルミニウム材の撥水性を向上させる技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は上記課題に鑑みて鋭意研究を進めた結果、アルカリ及び亜鉛イオン源を含有する処理液によりアルミニウム材をエッチング処理することにより、撥水性を向上させることができること見出した。本発明者は、この知見に基づいてさらに研究を進めた結果、本発明を完成させた。即ち、本発明は、下記の態様を包含する。
【0007】
項1. アルカリ及び亜鉛イオン源を含有する、アルミニウム材の撥水性を向上させるためのエッチング処理液。
【0008】
項2. 前記アルカリがアルカリ金属水酸化物である、項1に記載のエッチング処理液。
【0009】
項3. さらに金属塩を含有する、項1又は2に記載のエッチング処理液。
【0010】
項4. 前記金属塩が鉄塩、銅塩、ニッケル塩、及び銀塩からなる群より選択される少なくとも1種である、項3に記載のエッチング処理液。
【0011】
項5. さらにアミン化合物を含有する、項1〜4のいずれかに記載のエッチング処理液。
【0012】
項6. 前記アミン化合物がジメチルアミン-エピクロロヒドリンコポリマー、モノエタノールアミン、エチレンジアミン、及びポリエチレンイミンからなる群より選択される少なくとも1種である、項5に記載のエッチング処理液。
【0013】
項7. さらに安定剤を含有する、項1〜6のいずれかに記載のエッチング処理液。
【0014】
項8. 前記安定剤がカルボン酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種である、項7に記載のエッチング処理液。
【0015】
項9. 前記安定剤がヒドロキシカルボン酸、芳香族カルボン酸、及びそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種である、項7又は8に記載のエッチング処理液。
【0016】
項10. 前記安定剤がグルコン酸、酒石酸、リンゴ酸、クエン酸、サリチル酸、サリチル酸誘導体、フタル酸、γ−レソルシル酸及びそれらの塩から選択される少なくとも1種である、項7〜9のいずれかに記載のエッチング処理液。
【0017】
項11. アルカリエッチング及びスマット除去処理を行うアルミニウム材処理方法におけるアルカリエッチングに使用するための、項1〜10のいずれかに記載のエッチング処理液。
【0018】
項12. アルカリ、亜鉛イオン源、金属塩、及びアミン化合物を含有する、アルミニウム材のエッチング処理液。
【0019】
項13. (工程1)項1〜12のいずれかに記載のエッチング処理液でアルミニウム材を処理する工程
を含む、アルミニウム材の撥水性を向上させる方法。
【0020】
項14. さらに、
(工程2)前記工程1後、アルミニウム材をスマット除去処理する工程
を含む、項13に記載の方法。
【0021】
項15. 前記工程1及び前記工程2のサイクルを複数回行う、項14に記載の方法。
【0022】
項16. さらに、
(工程3)前記工程2後又は前記サイクル終了後、アルミニウム材を陽極酸化処理する工程
を含む、項14又は15に記載の方法。
【0023】
項17. さらに、
(工程4)前記工程3後、アルミニウム材を封孔処理する工程
を含む、項16に記載の方法。
【0024】
項18. さらに、
(工程5)前記工程2後、前記サイクル終了後、前記工程3後、又は前記工程4後、アルミニウム材を防錆処理する工程
を含む、項14〜17のいずれかに記載の方法。
【0025】
項19. (工程1)項1〜12のいずれかに記載のエッチング処理液でアルミニウム材を処理する工程
を含む、撥水性が向上したアルミニウム材を製造する方法。
【0026】
項20. 項19に記載の方法で得られる、撥水性が向上したアルミニウム材。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、アルミニウム材の撥水性を向上させるためのエッチング処理液、アルミニウム材の撥水性を向上させる方法、撥水性が向上したアルミニウム材を製造する方法、撥水性が向上したアルミニウム材等を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本明細書中において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
【0029】
本発明は、その一態様において、アルカリ及び亜鉛イオン源を含有する、アルミニウム材の撥水性を向上させるためのエッチング処理液(本明細書において、「本発明のエッチング処理液」と示すこともある。)、及びこれを用いてアルミニウム材の撥水性を向上させる技術に関する。以下に、これらについて説明する。
【0030】
アルカリとしては、特に制限されないが、例えばナトリウム、カリウム、リチウム等のアルカリ金属の水酸化物及び炭酸塩(例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等); マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム等のアルカリ土類金属の水酸化物(例えば水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム等)等が挙げられる。これらの中でも、好ましくはアルカリ金属の水酸化物が挙げられ、より好ましくは水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが挙げられ、さらに好ましくは水酸化ナトリウムが挙げられる。
【0031】
アルカリは、1種単独であってもよいし、2種以上の組み合わせであってもよい。
【0032】
本発明のエッチング処理液におけるアルカリの濃度は、アルミニウム材のエッチングが可能な程度の濃度である限り、特に制限されない。該濃度は、例えば20〜1000g/L、好ましくは100〜700g/L、より好ましくは150〜450g/Lである。
【0033】
亜鉛イオン源としては、特に制限されず、水中で亜鉛イオンを電離可能なものを広く使用することができる。亜鉛イオン源としては、例えば酸化亜鉛、酢酸亜鉛、硝酸亜鉛、ホウ酸亜鉛、塩化亜鉛、塩化亜鉛アンモニウム、ケイフッ化亜鉛、青化亜鉛、硫酸亜鉛、臭化亜鉛、塩基性炭酸亜鉛、硫化亜鉛等が挙げられる。これらの中でも、好ましくは酸化亜鉛、酢酸亜鉛、硝酸亜鉛、硫酸亜鉛等が挙げられ、より好ましくは酸化亜鉛が挙げられる。
【0034】
亜鉛イオン源は、1種単独であってもよいし、2種以上の組み合わせであってもよい。
【0035】
本発明のエッチング処理液における亜鉛イオン源の濃度は、特に制限されない。該濃度は、例えば1〜500g/L、好ましくは5〜300g/L、より好ましくは10〜200g/L、さらに好ましくは20〜100g/Lである。また、該濃度は、例えば0.01〜6.2mol/L、好ましくは0.06〜3.7mol/L、より好ましくは0.12〜2.5mol/L、さらに好ましくは0.24〜1.3mol/Lである。
【0036】
本発明のエッチング処理液は、撥水性の観点から、さらに金属塩を含有することが好ましい。
【0037】
金属塩としては、特に制限されないが、例えば亜鉛以外の遷移金属、例えば鉄、銅、ニッケル、銀、コバルト、マンガン、スズ等の金属の塩が挙げられる。これらの中でも、鉄、銅、ニッケル、銀等の塩が好ましい。塩の種類は特に制限されず、例えば硝酸塩、硫酸塩、塩酸塩等の強酸との塩; 酢酸塩等の弱酸との塩等が挙げられる。これらの中でも、強酸との塩が好ましく、硝酸塩、硫酸塩等がより好ましい。具体的な金属塩として、好ましくは硫酸鉄(II)、硫酸鉄(III)、硝酸鉄(II)、硝酸鉄(III)、硫酸ニッケル、硝酸ニッケル、硫酸銅、硝酸銅、硫酸銀、硝酸銀等が挙げられる。
【0038】
金属塩は、1種単独であってもよいし、2種以上の組み合わせであってもよい。
【0039】
本発明のエッチング処理液が金属塩を含有する場合、その濃度は、特に制限されない。該濃度は、例えば0.1〜100g/L、好ましくは0.5〜50g/L、より好ましくは1〜20g/Lである。また、該濃度は、例えば0.0002〜0.25mol/L、好ましくは0.0012〜0.13mol/L、より好ましくは0.002〜0.05mol/Lである。
【0040】
本発明のエッチング処理液は、撥水性の観点から、さらにアミン化合物を含有することが好ましい。
【0041】
アミン化合物としては、特に制限されないが、例えば脂肪族アミン、芳香族アミン、複素環式アミン、アミン誘導体、これらを構成単位とする重合体等が挙げられる。
【0042】
脂肪族アミンとしては、例えばメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、エチレンジアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ポリエチレンイミン、N,N−ジイソプロピルエチルアミン、テトラメチルエチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、スペルミジン、スペルミン、アマンタジン等が挙げられる。
【0043】
芳香族アミンとしては、例えばアニリン、フェネチルアミン、トルイジン、カテコールアミン、1,8−ビス(ジメチルアミノ)ナフタレン(プロトンスポンジ)等が挙げられる。
【0044】
複素環式アミンとしては、例えばピロリジン、ピペリジン、ピペラジン、モルホリン、キヌクリジン、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、ピロール、ピラゾール、イミダゾール、ピリジン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、オキサゾール、チアゾール、4−ジメチルアミノピリジン等が挙げられる。
【0045】
アミン誘導体としては、例えばエーテルアミン、アミノ酸等が挙げられる。
【0046】
上記アミン化合物を構成単位とする重合体としては、上記アミン化合物同士又は他の構成単位との重合体である限り、特に制限されない。重合体としては、好適には、脂肪族アミン(好ましくは(モノ、ジ、又はトリ)アルキルアミン、より好ましくはジアルキルアミン、さらに好ましくはジメチルアミン)と他の反応性モノマー(例えばエポキシ基、ハロゲン化アルキル基等の反応性基を有するモノマー、好ましくはエピクロロヒドリン)との共重合体等が挙げられる。該共重合体として、好ましくはジメチルアミン−エピクロロヒドリンコポリマーが挙げられる。
【0047】
アミン化合物として、好ましくは脂肪族アミン、脂肪族アミンを構成単位とする重合体等が挙げられ、特に好ましくはジメチルアミン−エピクロロヒドリンコポリマー、モノエタノールアミン、エチレンジアミン、ポリエチレンイミン等が挙げられる。
【0048】
アミン化合物は、1種単独であってもよいし、2種以上の組み合わせであってもよい。本発明の一態様においては、アルミニウム材表面の部位によるエッチング程度の差を抑制する観点から、アミン化合物は、アミン化合物(特に脂肪族アミン)を構成単位とする重合体単独、または該重合体と他のアミン化合物(特に脂肪族アミン)との組合せであることが好ましい。特に、ジメチルアミン-エピクロロヒドリンコポリマーと、モノエタノールアミン、エチレンジアミン、及びポリエチレンイミンからなる群より選択される少なくとも1種との組合せであることが好ましい。
【0049】
本発明のエッチング処理液がアミン化合物を含有する場合、その濃度は、特に制限されない。該濃度は、例えば1mg〜10g/L、好ましくは10〜1000mg/L、より好ましくは20〜200mg/Lである。
【0050】
本発明のエッチング処理液は、撥水性の観点、及び浴安定性(特に、金属塩をさらに含有する場合の浴安定性)の観点から、さらに安定剤を含有することが好ましい。
【0051】
安定剤は、金属塩と錯体を形成するものである限り、特に制限されない。安定剤として、具体的には、カルボン酸、その塩等が挙げられる。
【0052】
カルボン酸としては、好適には、ヒドロキシカルボン酸、芳香族カルボン酸等が挙げられる。
【0053】
ヒドロキシカルボン酸としては、脂肪族骨格を有するものである限り特に制限されず、例えばグルコン酸、クエン酸、乳酸、グリコール酸、リンゴ酸、酒石酸、グルクロン酸、グルカル酸、ラクトビオン酸、N−アセチルノイラミン酸、N−グライコリルノイラミン酸、O−アセチルノイラミン酸、デアミノノイラミン酸等が挙げられる。これらの中でも、好ましくはグルコン酸、酒石酸、リンゴ酸、クエン酸等が挙げられる。
【0054】
芳香族カルボン酸としては、芳香族骨格を有するものである限り特に制限されず、例えばサリチル酸、サリチル酸誘導体(例えば、ベンゼン骨格上にアルキル基が置換してなる誘導体)、フタル酸、γ−レソルシル酸、安息香酸、マンデル酸、3−ヒドロキシ安息香酸、4−ヒドロキシ安息香酸、没食子酸、ケイ皮酸等が挙げられる。芳香族カルボン酸は、好ましくは、一般式(1):
【0056】
[式中:R
1はヒドロキシ基又はカルボキシ基を示す。R
2はヒドロキシ基又はアルキル基を示す。]
で表される化合物である。
【0057】
R
2で示されるアルキル基には、直鎖状及び分岐鎖状のいずれのものも包含される。該アルキル基の炭素数は、特に制限されず、例えば1〜6である。該炭素数は、好ましくは1〜4、より好ましくは1〜2、さらに好ましくは1である。該アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、sec−ブチル基等が挙げられる。
【0058】
一般式(1)で表される化合物として、好ましくはサリチル酸、3−メチルサリチル酸、フタル酸、γ−レソルシル酸等が挙げられる。
【0059】
カルボン酸としては、上記以外にも、酢酸、しゅう酸、マロン酸、ピロリン酸、トリリン酸、縮合リン酸等の他のカルボン酸を使用することもできる。
【0060】
安定剤は、1種単独であってもよいし、2種以上の組み合わせであってもよい。
【0061】
本発明のエッチング処理液が安定剤を含有する場合、その濃度は、特に制限されない。該濃度は、例えば1〜200g/L、好ましくは2.5〜100g/L、より好ましくは5〜50g/Lである。
【0062】
本発明のエッチング処理液には、本発明の効果が著しく阻害されない限りにおいて、上記以外の他の成分が含まれていてもよい。他の成分としては、例えば増粘剤、染料等が挙げられる。
【0063】
他の成分の含有量は、本発明のエッチング処理液100質量%に対して、例えば0〜5質量%、好ましくは0〜3質量%、より好ましくは0〜1質量%、さらに好ましくは0〜0.5質量%、よりさらに好ましくは0質量%である。
【0064】
本発明のエッチング処理液のpHは、アルカリ性であり、例えば10以上、好ましくは11以上、より好ましくは12以上、さらに好ましくは13以上である。
【0065】
本発明のエッチング処理液は、溶媒として水を用いて、各成分を適宜混合することにより製造することができる。溶媒としては水のみならず、本発明の効果が著しく阻害されない限りにおいて、水に加えて他の溶媒を追加してもよい。
【0066】
アルカリ、亜鉛イオン源、金属塩、及びアミン化合物を含有する(好ましくはさらに安定剤を含有する)エッチング処理液は、アルミニウム材の撥水性を向上させるために、特に優れている。本発明は、その一態様において、アルカリ、亜鉛イオン源、金属塩、及びアミン化合物を含有する(好ましくはさらに安定剤を含有する)、アルミニウム材のエッチング処理液、に関する。
【0067】
本発明のエッチング処理液は、アルミニウム材の撥水性を向上させるために用いることができる。好ましくは、本発明のエッチング処理液は、アルカリエッチング及びスマット除去処理を行うアルミニウム材処理方法におけるアルカリエッチングに使用するために用いることができる。アルカリエッチング処理は後述の工程1に従って行われる処理であり、スマット除去処理は後述の工程2に従って行われる処理である。また、好ましくは、本発明のエッチング処理液は、後述の本発明の方法に使用するために用いることができる。
【0068】
本発明の好ましい一態様によれば、高撥水、さらには超撥水のアルミニウム材を得ることが可能である。具体的には、本発明の好ましい一態様によれば、表面接触角が、例えば120°以上、125°以上、130°以上、135°以上、140°以上、145°以上、150°以上、又は155°以上のアルミニウム材を得ることが可能である。
【0069】
アルミニウム材表面の接触角は、次のようにして測定することができる。「協和界面科学株式会社製:自動接触角計DM−301」又はその同等品を用いて、試験片の接触角測定を実施した。測定針は「針32G」を用い、試験片に水滴を1μl滴下した際の接触角を測定することができる。
【0070】
アルミニウム材としては、処理対象となる表面部分がアルミニウム又はアルミニウム合金によって形成されている物品であれば特に制限されない。例えば、アルミニウム又はアルミニウム合金を材質とする各種の物品のほか、鋼板等の各種の基材上にアルミニウムめっき又はアルミニウム合金めっき皮膜を形成した物品、溶融アルミニウムめっき処理を施した物品、鋳物、ダイキャスト等を使用することができる。アルミニウム合金としては特に限定されず、アルミニウムを主要金属成分とする各種合金を用いることができる。例えば、A1000系の準アルミニウム、A2000系の銅及びマンガンを含むアルミニウム合金、A3000系のアルミニウム−マンガン合金、A4000系のアルミニウム−シリコン合金、A5000系のアルミニウム−マグネシウム合金、A6000系のアルミニウム−マグネシウム−シリコン合金、A7000系のアルミニウム−亜鉛−マグネシウム合金、A8000系のアルミニウム−リチウム系合金等を適用対象とすることができる。アルミニウム材の表面は、脱脂処理等の前処理が施されていてもよい。本発明が対象とするアルミニウム材は、好ましくは表面が脱脂処理済のアルミニウム材である。
【0071】
本発明のエッチング処理液でアルミニウム材を処理する工程(工程1)を含む方法(本発明の方法)により、アルミニウム材の撥水性を向上させること、撥水性が向上したアルミニウム材を製造すること等が可能である。
【0072】
工程1における処理の態様は、アルミニウム材の表面上に本発明のエッチング処理液が接触可能な態様である限り特に制限されない。該接触方法としては、例えば、塗布、スプレー、浸漬等の方法を採用することができる。より具体的には、例えばディップコート、スプレーコート、ロールコート、スピンコート、バーコート等の公知の方法を採用することができる。
【0073】
工程1における処理時の温度は、特に制限されず、例えば10〜70℃である。好ましくは20〜70℃、より好ましくは25〜50℃、さらに好ましくは30〜40℃である。
【0074】
工程1における処理時間は、処理温度に応じて異なるが、例えば10〜600秒間、好ましくは20〜300秒間、より好ましくは30〜150秒間である。
【0075】
工程1の後に、工程1で得られたアルミニウム材をスマット除去処理する工程(工程2)を行うことが好ましい。これにより、撥水性をより向上させることができる。
【0076】
スマット除去処理液としては、不溶解性金属を溶解させる処理液であればよく、本発明では酸が用いられる。酸性処理液としては、例えば塩酸、硝酸、硫酸などの酸が用いられ、好ましくは硝酸が用いられる。酸の濃度は、例えば50〜500g/L、好ましくは100〜300g/Lである。
【0077】
スマット除去処理条件としては、特に限定されないが、処理対象のアルミニウム材と酸性処理液とが充分に接触できる方法であればよい。通常は、該処理液中に金属材料を浸漬する方法によれば、効率のよい処理が可能となる。処理条件は、特に限定的ではないが、例えば、浸漬法で処理する場合には、処理液の液温を10〜90℃程度として、浸漬時間を5秒〜20分程度とすればよい。
【0078】
工程1と工程2とのサイクルは、好ましくは複数回(例えば2回)行われる。これにより、撥水性をより向上させることができる。
【0079】
工程1と工程2との終了後は、他の処理、例えば陽極酸化処理(工程3)を行うことができる。工程3を行っても、撥水性を維持することができる。工程3では、アルミニウム材を、陽極酸化処理装置のアノードに電気的に接触させて該アノードおよびカソードとともに電解液中に浸漬させ、前記アノードとカソードとの間で通電させることにより前記アルミニウム成形体に陽極酸化皮膜を形成する。
【0080】
このときに使用される電解液としては、硫酸、マレイン酸、マロン酸、シュウ酸、リン酸などからなる電解液が用いられるが、汎用性のある硫酸が特に好ましい。しかし、これらに限定されるものではない。
【0081】
陽極酸化は、その条件として、上記酸の濃度を1〜20重量%とした浴中にアルミニウム材を浸漬し、電流密度を一定に維持して処理を行う。このときの電流密度としては0.2〜3.0A/dm2の定電流とすることが好ましく、このような処理を15〜120分間程度行うことが好ましい。しかし、これらの条件も限定されるものではなく、皮膜生成が可能な条件であればよい。
【0082】
陽極酸化皮膜の膜厚は、特に限定されないが、アルミニウム表面から厚さ方向に向けて5〜50μmであり、好ましくは8〜20μmである。
【0083】
工程3の終了後は、他の処理、例えば封孔処理(工程4)を行うことができる。工程4を行っても、撥水性を維持することができる。工程4では、アルミニウム材を封孔液中に浸漬させることにより、陽極酸化被膜内の孔を閉じ、保護することができる。
【0084】
封孔方法としては、特に制限されず、公知の方法に従った又は準じた方法を採用することができる。封孔方法としては、例えば沸騰水による封孔処理、金属含有水溶液を用いた封孔処理、酢酸ニッケルやフッ化ニッケル等のニッケル金属塩を用いた封孔処理等が利用できる。なかでもフッ化ニッケル塩を用いた封孔処理が好ましい。しかし、これらに限定されるものではない。
【0085】
封孔処理の温度条件は特に制限されず、例えば5〜100℃で封孔処理を行うことができる。金属塩を添加する場合、その封孔液中の濃度は0.01〜3質量%であることが好ましい。処理時間は、通常、処理対象とする陽極酸化皮膜の膜厚により決定することができる。具体的には、膜厚を示す数値(単位:μm)に0.5〜3を乗じて得られる数値を封孔処理時間(分)とすることが好ましい。例えば、陽極酸化皮膜の膜厚が10μmであるならば、封孔時間は10に0.5〜3を乗じて5〜30分程度とすることが好ましい。しかし、これらの条件も限定されるものではなく、封孔が可能な条件であればよい。
【0086】
工程2、工程1と工程2とのサイクル、工程3、又は工程4の終了後は、他の処理、例えば防錆処理(工程5)を行うことができる。工程5を行うことで、処理直後の撥水性を一定以上に維持しつつ(或いは向上させ)、撥水性をより長期間維持することができる。工程5では、アルミニウム材を防錆液中に浸漬させることにより、アルミニウム材を汚れや腐食等から保護することができる。
【0087】
防錆方法としては、特に制限されず、公知の方法に従った又は準じた方法を採用することができる。防錆液としては、例えば無機系のクロム酸塩、モリブデン酸塩、タングステン酸塩、亜硝酸塩や、有機系のトリアゾール系化合物、イミダゾール系化合物、チオ尿素系化合物、アミンベンゾエート系化合物、アンモニウムベンゾエート系化合物、アンモニウムシクロヘキサンカルボキシレート系化合物、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、ベタイン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、エステル系化合物などが広く用いられるが、なかでもアニオン系界面活性剤が好ましく、汎用性のあるリン酸型アニオン系界面活性剤、パーフルオロアルキル基含有カルボン酸型アニオン系界面活性剤、コハク酸型アニオン系界面活性剤がより好ましい。しかし、これらに限定されるものではない。防錆成分は、1種単独で使用することもできるし、2種以上を組合わせて使用することもできる。
【0088】
防錆処理の温度条件は特に制限されず、例えば5〜100℃で防錆処理を行うことができる。防錆剤成分の液中の濃度は例えば0.001〜100g/L、好ましくは0.1〜10g/Lである。処理時間は、5秒〜30分程度とすればよい。しかし、これらの条件も限定されるものではなく、防錆が可能な条件であればよい。
【0089】
本発明の方法によれば、皮膜形成工程を経ずとも、撥水性を向上させる(好ましくは高撥水、超撥水を付与する)ことが可能である。この観点から、本発明の方法は、その一態様において、工程4以外の皮膜形成工程(例えば、トリフルオロメチル基等の撥水性官能基を有する化合物を含む皮膜を形成する工程)を含まないことが好ましい。
【0090】
本発明の別の一態様においては、上記の通り、処理直後の撥水性を一定以上に維持しつつ(或いは向上させ)、撥水性をより長期間維持するために、工程5を行うことが好ましい。
【0091】
工程1〜5の各処理後は、必要に応じて水洗することが好ましい。
【0092】
上記処理の終了後、撥水性を発現させ易くするために、乾燥処理を行うことが好ましい。乾燥処理の温度は、例えば20〜100℃程度、好ましくは40〜100℃程度、より好ましくは60〜100℃程度である。乾燥時間は、乾燥温度に応じて異なるが、例えば比較的低温(例えば20〜40℃)であれば、20〜50日間程度とすることができ、比較的高温(例えば60〜100℃)であれば、24〜72時間程度とすることができる。また、アルミニウム材をアセトン等の揮発性の有機溶媒に浸漬してから、乾燥処理を行うことにより、乾燥効率を一層向上させることができる。
【実施例】
【0093】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0094】
試験例1.アルミニウム材のエッチング処理
アセトンを染み込ませたペーパータオルを用いて、アルミニウム試験片(JIS A1050P材 10cm×5cm 両面)の両面をふき取り、脱脂を行った。次いで試験片を水洗し、表1〜4(比較例1〜4及び実施例1〜33)に示す組成及び温度のアルカリエッチング液に90秒浸漬した。更に、試験片を水洗し60℃の酸性エッチング液(デスマット液)(奥野製薬社製トップデスマットN−20:100ml/L、62%硝酸:200ml/L)に10分浸漬した。その後、再度水洗を実施した。表2〜4の実施例12〜33については、上記アルカリエッチング処理及びスマット除去処理のサイクルをさらに1回(計2回)行った。
【0095】
試験片を、室温のアセトンに1時間浸漬した後、取り出して、80℃に加温した真空乾燥器内で48時間放置し、乾燥させた。乾燥中の試験片は重ならない様に立て掛けて管理した。
【0096】
試験例2.陽極酸化処理
実施例21のエッチング処理(試験例1)後の試験片を、陽極酸化皮膜の膜厚が10μmとなるよう、表5に示す条件で各種陽極酸化処理を実施した。
【0097】
試験例3.封孔処理
実施例34の陽極酸化処理(試験例2)後の試験片について、陽極酸化皮膜を封孔できる表6に示す条件で各種封孔処理を実施した。
【0098】
試験例4.防錆処理
アルミニウム試験片(JIS A6063材 10cm×5cm 両面)について、試験例1〜3と同様に実施例21のエッチング処理、実施例34の陽極酸化処理、実施例41の封孔処理を行った。その後、試験片を表7に示す条件で防錆処理を実施した。
【0099】
撥水性評価
「協和界面科学株式会社製:自動接触角計DM−301」を用いて、試験片の接触角測定を実施した。測定針は「針32G」を用い、試験片に水滴を1μl滴下した際の接触角にて評価した。
【0100】
浴安定性評価
比較例2〜4及び実施例1〜33のエッチング液にてエッチング処理を行った後、液を25℃で24時間放置した。その際の沈殿の有無にて浴安定性を評価した。
【0101】
耐久性評価
作成した試験片をイオン交換水100mlが入った2Lビーカー内に吊り下げ、25℃の密閉湿潤条件下で放置した。1週間後及び2週間後に、上記のようにして接触角を測定した。
【0102】
結果
結果を表1〜7に示す。
【0103】
【表1】
【0104】
【表2】
【0105】
【表3】
【0106】
【表4】
【0107】
【表5】
【0108】
【表6】
【0109】
【表7】