【解決手段】多板クラッチ42では、第1クラッチプレート72または第2クラッチプレート74と、固定面78との間に配置され、周方向に複数片に分割された第1ワッシャ80と、第1クラッチプレート72または第2クラッチプレート74と、固定面78との間において、第1ワッシャ80の径方向外側に配置される第2ワッシャ82と、を備え、軸方向の他側におけるハブ70の外周縁部に、第1傾斜面146が形成されており、第1ワッシャ80の内周部に、第1傾斜面146と接する第2傾斜面150が形成されており、第1ワッシャ80の外周部に、軸方向の一側から他側に向けて下るように傾斜した第3傾斜面152が形成されており、第2ワッシャ82の内周部に、第3傾斜面152に接する第4傾斜面154が形成されている。
前記軸方向に垂直な面に対する前記第3傾斜面および前記第4傾斜面の傾斜角の絶対値は、前記軸方向に垂直な面に対する前記第1傾斜面および前記第2傾斜面の傾斜角の絶対値より小さい、請求項1から3のいずれか1項に記載の多板クラッチ。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、発明の理解を容易にするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0013】
図1は、本発明の一実施形態に係る車両1の構成を示す概略図である。車両1は、エンジン10を駆動源とするエンジン自動車である。なお、車両1は、駆動源としてモータを有する電気自動車であってもよい。また、車両1は、駆動源としてエンジン10とモータとが並設されたハイブリッド電気自動車であってもよい。以後、車両1がエンジン自動車である例を挙げて説明する。なお、以後、車両1を自車両と呼ぶ場合がある。
【0014】
車両1は、エンジン10、変速機12、センターディファレンシャルギヤ14、フロントディファレンシャルギヤ16、プロペラシャフト18、前輪20、リアディファレンシャルギヤ22、後輪24、車輪速センサ26、車両制御部30を含む。なお、センターディファレンシャルギヤ14をセンターデフと呼ぶ場合がある。
【0015】
エンジン10は、例えば、ガソリン等の燃料を燃焼させてピストンを往復運動させる。ピストンの往復運動は、コネクティングロッドを通じてクランクシャフトの回転運動に変換される。クランクシャフトは、エンジン10の出力軸に接続される。エンジン10の出力軸は、変速機12に接続される。
【0016】
変速機12は、例えば、無段変速機やギヤ機構などである。変速機12のプライマリ側は、エンジン10の出力軸に接続される。変速機12のセカンダリ側は、センターディファレンシャルギヤ14に接続される。変速機12は、プライマリ側の回転数からセカンダリ側の回転数に変換する。
【0017】
センターディファレンシャルギヤ14は、変速機12、フロントディファレンシャルギヤ16およびプロペラシャフト18にそれぞれ接続される。なお、センターディファレンシャルギヤ14は、ギヤ機構を介してプロペラシャフト18に接続されてもよい。
【0018】
フロントディファレンシャルギヤ16は、センターディファレンシャルギヤ14および左右の前輪20にそれぞれ接続される。具体的には、フロントディファレンシャルギヤ16のドライブピニオンシャフトがセンターディファレンシャルギヤ14に接続される。また、フロントディファレンシャルギヤ16の一方のサイドギヤが左右の一方の前輪20に接続され、他方のサイドギヤが左右の他方の前輪20に接続される。フロントディファレンシャルギヤ16は、左右の前輪20の回転数差を許容しつつ、センターディファレンシャルギヤ14から入力されるトルクを左右の前輪20に伝達する。
【0019】
リアディファレンシャルギヤ22は、プロペラシャフト18および左右の後輪24にそれぞれ接続される。具体的には、リアディファレンシャルギヤ22のドライブピニオンシャフトがプロペラシャフト18を通じてセンターディファレンシャルギヤ14に接続される。また、リアディファレンシャルギヤ22の一方のサイドギヤが左右の一方の後輪24に接続され、他方のサイドギヤが左右の他方の後輪24に接続される。リアディファレンシャルギヤ22は、左右の後輪24の回転数差を許容しつつ、センターディファレンシャルギヤ14からプロペラシャフト18を通じて入力されるトルクを左右の後輪24に伝達する。
【0020】
センターディファレンシャルギヤ14は、変速機12から入力されるトルクをフロントディファレンシャルギヤ16およびプロペラシャフト18に伝達する。また、センターディファレンシャルギヤ14は、フロントディファレンシャルギヤ16側(すなわち、前輪20側)の回転数とプロペラシャフト18側(すなわち、後輪24側)の回転数との回転数差(差回転)を許容する。
【0021】
また、センターディファレンシャルギヤ14は、後に詳述するが、多板クラッチを含む。センターディファレンシャルギヤ14では、多板クラッチの締結力を増加させると、前輪20側と後輪24側との差動を制限することができるようになっている。つまり、センターディファレンシャルギヤ14は、差動制限を行う、所謂、リミテッド・スリップ・デフ(LSD)機能を有する。
【0022】
例えば、前輪20または後輪24の一方が空転すると、空転している車輪(前輪20または後輪24)の回転数が、空転していない車輪の回転数と比べて大きくなる。そうすると、空転していない車輪に伝達されるトルクが低くなり、車両1の安定性が低下する。そこで、センターディファレンシャルギヤ14の多板クラッチで、空転している車輪の回転数と空転していない車輪の回転数との回転数差が大きくなり過ぎないように、前輪20と後輪24との差動を制限する。これにより、空転していない車輪に伝達されるトルクの低下を抑制し、車両1の安定性の低下を抑制することができる。
【0023】
車輪速センサ26は、左右の前輪20および左右の後輪24にそれぞれ設けられる。各車輪速センサ26は、各車輪の回転数を検出する。
【0024】
車両制御部30は、中央処理装置(CPU)、プログラム等が格納されたROM、ワークエリアとしてのRAM等を含む半導体集積回路から構成される。詳細な説明は省略するが、車両制御部30は、プログラムを実行することで、車両1の駆動、制動および旋回など車両1全体を制御する。例えば、車両制御部30は、不図示のアクセルペダルセンサで検出されたアクセル操作量に基づいて目標駆動力を導出する。そして、車両制御部30は、車両1の実際の駆動力が目標駆動力となるように、エンジン10を制御する。
【0025】
また、車両制御部30は、プログラムを実行することで、センターデフ制御部32として機能する。センターデフ制御部32は、センターディファレンシャルギヤ14の多板クラッチの締結力を制御する。その結果、前輪20および後輪24の回転数差が制限され、前輪20側および後輪24側のトルクの配分比が制御される。
【0026】
具体的には、センターデフ制御部32は、各車輪速センサ26から各車輪の回転数を取得する。センターデフ制御部32は、左の前輪20の回転数と右の前輪20の回転数とを平均して前輪平均回転数を導出する。センターデフ制御部32は、左の後輪24の回転数と右の後輪24の回転数とを平均して後輪平均回転数を導出する。センターデフ制御部32は、前輪平均回転数と後輪平均回転数との差分値の絶対値を前後回転数差として導出する。
【0027】
センターデフ制御部32は、前後回転数差が予め設定された所定回転数差以上となると、前後回転数差を所定回転数差未満に戻すようにセンターディファレンシャルギヤ14の多板クラッチの締結力を制御する。例えば、センターデフ制御部32は、多板クラッチの締結力を増加させることで、センターディファレンシャルギヤ14において前輪20側と後輪24側との間で伝達されるトルク(LSDトルク)を増加させ、前後回転数差を減少させる。
【0028】
図2は、本実施形態に係るセンターディファレンシャルギヤ14の構成を示す縦断面図である。センターディファレンシャルギヤ14は、一点鎖線で示す中心軸C1に対して軸対称となっている。
図2の左方向は、車両1の前方向に対応し、
図2の右方向は、車両1の後方向に対応している。センターディファレンシャルギヤ14は、遊星機構40および多板クラッチ42を含む。
【0029】
遊星機構40は、サンギヤ50、リングギヤ52、遊星ギヤ54、キャリア56およびアーム部58を含む。サンギヤ50は、大凡円筒状に形成される。サンギヤ50の内側には、
図2の破線で示すように、センターディファレンシャルギヤ14で差動される一方の軸である第1軸部C10が挿入されて、サンギヤ50に接続される。第1軸部C10は、例えば、フロントディファレンシャルギヤ16のドライブピニオンシャフトである。第1軸部C10の中心軸は、センターディファレンシャルギヤ14の中心軸C1およびサンギヤ50の中心軸に重なる。つまり、第1軸部C10の軸方向は、サンギヤ50の軸方向に一致する。
【0030】
サンギヤ50の前寄りの外周面は、後寄りの外周面に比べ、相対的に径方向外側に突出している。なお、径方向外側は、径方向における中心軸から外側に向かう方向を示す。サンギヤ50の前寄りの外周面には、周方向に歯が形成さている。また、サンギヤ50の後寄りの外周面には、軸方向に延びるスプライン60が形成されている。
【0031】
リングギヤ52は、円環状に形成され、サンギヤ50を内側に収容するように配置される。リングギヤ52の中心軸は、サンギヤ50の中心軸と重なる。リングギヤ52の内周面には、周方向に歯が形成されている。
【0032】
遊星ギヤ54は、サンギヤ50とリングギヤ52との間に複数個設けられる。遊星ギヤ54の外周面には、周方向に歯が形成されている。遊星ギヤ54の外周面の歯は、サンギヤ50の外周面の歯およびリングギヤ52の内周面の歯にそれぞれ噛み合わされる。
【0033】
キャリア56は、複数の遊星ギヤ54をサンギヤ50の中心軸(センターディファレンシャルギヤ14の中心軸C1)周りに公転可能に支持する。また、キャリア56は、各々の遊星ギヤ54を、各々の遊星ギヤ54の中心軸周りに自転可能に支持する。キャリア56は、例えば、サンギヤ50の前端よりも前方に延びている。キャリア56は、変速機12のセカンダリ側から延びるシャフトなどに接続される。
【0034】
リングギヤ52の外周側には、アーム部58が接続されている。アーム部58は、例えば、サンギヤ50の後端よりも後方に延びている。アーム部58は、サンギヤ50の後端よりも後方の位置において、アーム部58の後端側がリングギヤ52側に比べ、径方向内側に位置するように階段状に屈曲している。なお、径方向内側は、径方向における中心軸に向かう方向を示す。
【0035】
アーム部58の後端側には、
図2の破線で示すように、センターディファレンシャルギヤ14で差動される他方の軸である第2軸部C12が接続される。第2軸部C12は、例えば、プロペラシャフト18に連結されるシャフトである。第2軸部C12は、アーム部58を介してリングギヤ52に接続される。また、リングギヤ52から延びるアーム部58の内側には、軸方向に延びるスプライン62が形成される。
【0036】
図3は、遊星機構40の動作を説明する破断斜視図である。
図3では、サンギヤ50、リングギヤ52および遊星ギヤ54の歯を一部省略して示している。また、
図3の一点鎖線で示す中心軸C1は、センターディファレンシャルギヤ14の中心軸を示すとともに、サンギヤ50およびリングギヤ52の中心軸を示す。また、
図3の一点鎖線で示す中心軸C2は、遊星ギヤ54の中心軸を示している。
【0037】
エンジン10から出力されたトルクは、変速機12を介してキャリア56に入力される。キャリア56は、入力されたトルクに従って中心軸C1周りに回転する。キャリア56が回転すると、
図3の矢印A1で例示するように、遊星ギヤ54が中心軸C1周りに公転する。そうすると、遊星ギヤ54の公転に伴って、サンギヤ50およびリングギヤ52は、
図3の矢印A2および矢印A3で例示するように、中心軸C1周りを遊星ギヤ54の公転方向に回転する。
【0038】
ここで、サンギヤ50とリングギヤ52とに回転数差がない場合、遊星ギヤ54は自転しない。これに対し、サンギヤ50とリングギヤ52とに回転数差が現れると、遊星ギヤ54は、公転しつつ自転する。例えば、リングギヤ52の回転数に対してサンギヤ50の回転数が相対的に高くなると、遊星ギヤ54は、サンギヤ50の自転方向(例えば、反時計回り方向)とは反対方向(例えば、時計回り方向)に自転する。このように、センターディファレンシャルギヤ14では、遊星ギヤ54が自転することでサンギヤ50側(すなわち、前輪20側)とリングギヤ52側(すなわち、後輪24側)との回転数差を許容する。
【0039】
次に、センターディファレンシャルギヤ14に適用される多板クラッチ42について説明する。
図4は、
図2の実線B1で囲まれる領域を拡大して示す部分拡大図である。
【0040】
多板クラッチ42は、ハブ70、複数の第1クラッチプレート72、複数の第2クラッチプレート74、押圧機構76、固定面78、第1ワッシャ80および第2ワッシャ82を含む。
【0041】
ハブ70は、大凡、円筒状に形成される。ハブ70の内側には、サンギヤ50における遊星ギヤ54とは反対側端が挿入される。このため、ハブ70は、第1軸部C10およびサンギヤ50の外周側に位置する。ハブ70の中心軸は、サンギヤ50の中心軸に重なる。ハブ70の内面は、サンギヤ50の外周面のスプライン60に連結される。これにより、ハブ70は、サンギヤ50に支持され、スプライン60に沿って軸方向に摺動可能となっている。ハブ70の外周面には、軸方向に延びるスプライン90が形成される。
【0042】
第1クラッチプレート72は、円環板状に形成される。第1クラッチプレート72の内側には、ハブ70が挿入される。このため、第1クラッチプレート72は、ハブ70の外周側に位置する。第1クラッチプレート72の中心軸は、サンギヤ50の中心軸に重なる。第1クラッチプレート72の内周縁は、ハブ70の外周面のスプライン90に連結される。これにより、第1クラッチプレート72は、ハブ70に支持され、スプライン90に沿って軸方向に摺動可能となっている。第1クラッチプレート72の外周縁は、アーム部58から離隔している。
【0043】
第1クラッチプレート72の両面は、サンギヤ50の中心軸に対して垂直な面である。第1クラッチプレート72の両面には、法線方向(軸方向)に突出するフェーシング面92が周方向に亘って形成されている。フェーシング面92は、例えば、摩擦係数が比較的高い材料で形成される。
【0044】
第2クラッチプレート74は、円環板状に形成される。第2クラッチプレート74の内側には、ハブ70が挿入される。このため、第2クラッチプレート74は、ハブ70の外周側に位置する。第2クラッチプレート74の中心軸は、サンギヤ50の中心軸に重なる。第2クラッチプレート74の内周縁は、ハブ70から離隔している。第2クラッチプレート74の外周縁は、アーム部58の内側のスプライン62に連結される。これにより、第2クラッチプレート74は、アーム部58を介してリングギヤ52および第2軸部C12に支持されるとともに、スプライン62に沿って軸方向に摺動可能となっている。
【0045】
第2クラッチプレート74の両面は、サンギヤ50の中心軸に対して垂直な面である。第2クラッチプレート74の両面には、法線方向(軸方向)に突出するフェーシング面94が周方向に亘って形成されている。フェーシング面94は、例えば、摩擦係数が比較的高い材料で形成される。
【0046】
複数の第1クラッチプレート72は、軸方向に積層される。そして、複数の第2クラッチプレート74の各々が、第1クラッチプレート72を各々挟み込むように、第1クラッチプレート72と第2クラッチプレート74とが交互に積層配置される。そして、第1クラッチプレート72のフェーシング面92と第2クラッチプレート74のフェーシング面94とが接触される。多板クラッチ42では、第1クラッチプレート72のフェーシング面92と第2クラッチプレート74のフェーシング面94との摩擦によって、第1クラッチプレート72側と第2クラッチプレート74側の締結が実現される。
【0047】
以後、第1クラッチプレート72および第2クラッチプレート74を総称して、単にクラッチプレート72、74と呼ぶ場合がある。また、第1クラッチプレート72をドライブプレートと呼ぶ場合がある。また、第2クラッチプレート74をドリブンプレートと呼ぶ場合がある。なお、第1軸部C10は、多板クラッチ42における締結対象の一方の軸に相当し、第1軸部C10とは異なる第2軸部C12は、締結対象の他方の軸に相当する。
【0048】
また、第1軸部C10の軸方向(センターディファレンシャルギヤ14の中心軸C1の軸方向)のうち、クラッチプレート72、74に対して相対的に後方側(押圧機構76側)を、軸方向の一側と呼ぶ場合があり、クラッチプレート72、74に対して相対的に前方側(固定面78側)を、軸方向の他側と呼ぶ場合がある。
【0049】
また、
図4の例では、3枚の第1クラッチプレート72の各々と4枚の第2クラッチプレート74の各々とが交互に積層配置されている。しかし、第1クラッチプレート72の枚数は、3枚に限らず、1枚、2枚または4枚以上であってもよい。また、第2クラッチプレート74の枚数は、4枚に限らず、1枚、2枚、3枚または5枚以上であってもよい。また、
図4の例では、複数のクラッチプレート72、74の最前面および最後面が第2クラッチプレート74である例を挙げたが、複数のクラッチプレート72、74の最前面および最後面は、第1クラッチプレート72であってもよい。
【0050】
押圧機構76は、第1クラッチプレート72、第2クラッチプレート74およびハブ70に対して軸方向の一側(後方側)に配置される。押圧機構76は、第1クラッチプレート72および第2クラッチプレート74を軸方向の他側(前方側)に向けて押圧する。
【0051】
押圧機構76は、ボールカム100および電磁クラッチ102を含む。ボールカム100は、プレッシャープレート110、ボール112およびカム114を含む。
【0052】
ボールカム100のプレッシャープレート110は、大凡、円環板状に形成される。プレッシャープレート110の中心軸は、サンギヤ50の中心軸に重なる。プレッシャープレート110は、クラッチプレート72、74およびハブ70に対して軸方向の一側(後方側)に近接して配置される。
【0053】
プレッシャープレート110における径方向外側部分は、径方向におけるハブ70のスプライン90付近において、径方向内側部分に対してクラッチプレート側に階段状に突出している。プレッシャープレート110における階段状に変化する部分には、ハブ70のスプライン90に連結される連結部120が形成される。
【0054】
また、プレッシャープレート110の外周部分は、連結部120より径方向外側に位置する部分であり、この外周部分の前方側の面は、複数のクラッチプレート72、74の最後面に接触可能に設けられる。
図4の例では、プレッシャープレート110の外周部分は、第2クラッチプレート74のフェーシング面94に接触可能に設けられる。なお、第1クラッチプレート72のフェーシング面92がプレッシャープレート110の外周部分に接触されるように構成してもよい。
【0055】
プレッシャープレート110における後方側の面には、窪み部122が形成される。窪み部122は、例えば、プレッシャープレート110における連結部120よりも径方向内側に位置する。窪み部122には、ボール112の一部が収容される。
【0056】
カム114は、大凡、円環板状に形成される。カム114は、プレッシャープレート110の後方側に配置される。カム114の中心軸は、プレッシャープレート110の中心軸に重なる。カム114の前方側の面には、窪み部124が形成される。窪み部124には、プレッシャープレート110の窪み部122に収容されるボール112の一部が収容される。つまり、ボール112は、窪み部122と窪み部124との間に位置し、プレッシャープレート110とカム114とで挟まれる。
【0057】
カム114の外周には、軸方向に張り出すフランジ126が形成される。フランジ126の外周面には、軸方向に延びるスプライン128が形成される。
【0058】
電磁クラッチ102は、複数のカム側プレート130、複数のリングギヤ側プレート132、可動部134およびコイル136(
図2参照)を含む。
【0059】
カム側プレート130は、フランジ126のスプライン128に摺動可能に支持される。カム側プレート130の両面には、フェーシング面が形成される。複数のカム側プレート130は、軸方向に積層される。
【0060】
リングギヤ側プレート132は、アーム部58のスプライン62に摺動可能に支持される。リングギヤ側プレート132の両面には、フェーシング面が形成される。複数のリングギヤ側プレート132の各々は、カム側プレート130を各々挟み込むように、カム側プレート130とリングギヤ側プレート132とが交互に積層配置される。そして、カム側プレート130のフェーシング面とリングギヤ側プレート132のフェーシング面とが接触される。以後、カム側プレート130およびリングギヤ側プレート132を総称して、電磁クラッチプレートと呼ぶ場合がある。
【0061】
可動部134は、例えば、磁性体で形成される。可動部134は、電磁クラッチプレート、プレッシャープレート110、カム114およびアーム部58で囲まれる領域に配置される。可動部134は、アーム部58のスプライン62に軸方向に摺動可能に支持される。可動部134の後方側の面は、積層配置された電磁クラッチプレートの最前面に接触する。また、積層配置された電磁クラッチプレートの最後面は、アーム部58におけるスプライン62に垂直な内面に接触する。この内面は、電磁クラッチプレートの軸方向の移動を規制する。
【0062】
コイル136(
図2を参照)は、電磁クラッチプレートに対して可動部134とは反対側に配置される。また、コイル136は、電磁クラッチプレートの後方側に位置するアーム部58よりも後方側に配置される。コイル136には、センターデフ制御部32による制御に従った電流が流れる。
【0063】
例えば、コイル136に電流が流れていない場合、可動部134は、前方寄りに位置する。この場合、カム側プレート130とリングギヤ側プレート132との締結力(換言すると、摩擦力)が低くなっている。この場合、カム側プレート130に連結されるカム114は、リングギヤ側プレート132に連結されるアーム部58(すなわち、リングギヤ52)とは独立して回転することができる。
【0064】
コイル136に任意の電流が流れると、電流に従った磁力がコイル136の周囲に発生する。そうすると、発生した磁力によって、可動部134がコイル136に近づく方向に吸引され、可動部134によって電磁クラッチプレートが押圧される。この場合、カム側プレート130とリングギヤ側プレート132との締結力が、コイル136の電流に従って高くなる。この場合、カム側プレート130に連結されるカム114の回転は、リングギヤ側プレート132に連結されるアーム部58(すなわち、リングギヤ52)の回転によって制限されるようになる。
【0065】
図5は、ボールカム100の動作の一例を示す図である。
図5は、電磁クラッチプレートが締結されていない(コイル136に電流が流れていない)場合を示している。上述のように、電磁クラッチプレートが締結されていない場合、カム114は、リングギヤ52から独立して回転可能である。この場合、
図5の矢印D1および矢印D2の長さで示すように、カム114とプレッシャープレート110とは、ボール112を介して一体的に回転される。プレッシャープレート110は、ハブ70のスプライン90に連結されているため、ハブ70を介してサンギヤ50に従って回転する。
【0066】
また、ボール112は、プレッシャープレート110の窪み部122の最底部に位置するとともにカム114の窪み部124の最底部に位置する。このため、
図5の矢印D3および矢印D4で示すように、プレッシャープレート110におけるカム114に対向する対向面と、カム114におけるプレッシャープレート110に対向する対向面との間隔が狭くなっている。これは、プレッシャープレート110がカム114寄り(後方寄り)に位置することに相当する。つまり、この場合、プレッシャープレート110は、クラッチプレート72、74を押圧しない。クラッチプレート72、74が締結されないため、サンギヤ50およびリングギヤ52は、回転数差が生じても制限されることなく各々の回転数で回転可能である。
【0067】
図6は、ボールカム100の動作の他の例を示す図である。
図6は、電磁クラッチプレートが締結されている(コイル136に電流が流れている)場合を示している。上述のように、電磁クラッチプレートが締結されると、カム114の回転は、アーム部58に制限される。つまり、この場合、カム114は、アーム部58を介してリングギヤ52に従って回転するようになる。
【0068】
一方、プレッシャープレート110は、上述のように、ハブ70を介してサンギヤ50に従って回転する。ここで、サンギヤ50とリングギヤ52とに回転数差が生じていた場合、プレッシャープレート110がサンギヤ50に従って回転し、カム114がリングギヤ52に従って回転するため、プレッシャープレート110とカム114とに回転数差が生じる。
図6では、矢印D11および矢印D12の長さの違いによってプレッシャープレート110とカム114とに回転数差が生じていることを示している。
【0069】
プレッシャープレート110とカム114とに回転数差が生じると、ボール112は、
図6の矢印D10で示すように、プレッシャープレート110の窪み部122およびカム114の窪み部124の斜面を登るように回転する。そうすると、
図6の矢印D13および矢印D14で示すように、プレッシャープレート110の対向面とカム114の対向面との間隔が広くなっていく。
【0070】
これにより、
図6の白抜き矢印D15で示すように、プレッシャープレート110は、カム114から離れる方向(前方向)に移動する。つまり、この場合、プレッシャープレート110は、第1クラッチプレート72および第2クラッチプレート74を軸方向の他側に押圧する。この押圧によりクラッチプレート72、74間の締結力が高くなると、クラッチプレート72、74間を介してサンギヤ50およびリングギヤ52間でLSDトルクが伝達され、サンギヤ50およびリングギヤ52の回転数差が減少していく。
【0071】
図4に戻って、押圧機構76によってクラッチプレート72、74が押圧されていない場合、プレッシャープレート110におけるハブ70に対向する対向面140と、ハブ70の後端面142との間は、所定のクリアランスで空いている。また、プレッシャープレート110は、連結部120でハブ70のスプライン90と連結されているため、対向面140と後端面142とのクリアランス分だけ、ハブ70に対して軸方向に摺動可能となっている。
【0072】
固定面78は、第1クラッチプレート72、第2クラッチプレート74およびハブ70に対して軸方向の他側に位置する。固定面78は、具体的には、遊星ギヤ54におけるクラッチプレート72、74側の端面を含む面である。なお、固定面78は、遊星ギヤ54の端面に限らず、遊星ギヤ54を支持するキャリア56におけるクラッチプレート72、74側の端面を含んでもよい。
【0073】
固定面78は、サンギヤ50の中心軸に対して垂直な面であり、クラッチプレート72、74に対して平行である。固定面78は、サンギヤ50を基準として軸方向に移動しない。また、固定面78は、後に詳述するが、クラッチプレート72、74が軸方向の他側へ移動することを規制する。また、固定面78と、ハブ70の前端面144との間は、所定のクリアランスで空いている。ハブ70の前端面144は、固定面78に対向する。
【0074】
ここで、多板クラッチ42では、クラッチプレート72、74間の摩擦によってクラッチプレート72、74のフェーシング面92、94が次第に摩耗していく。フェーシング面92、94の摩耗が進行していくと、プレッシャープレート110がクラッチプレート72、74を押圧した際に、プレッシャープレート110の対向面140がハブ70の後端面142に接触するようになる。
【0075】
なお、プレッシャープレート110の対向面140とハブ70の後端面142との間隔を広くすると、ハブ70とプレッシャープレート110との連結が弱くなるおそれがある。このため、対向面140と後端面142との間隔については、必要以上に広くすることはできない。
【0076】
従来の多板クラッチでは、フェーシング面92、94の摩耗がさらに進行すると、プレッシャープレート110がハブ70も押圧するようになる。そうすると、ハブ70の前端面144が固定面78に当たり、ハブ70および固定面78によって、プレッシャープレート110によるクラッチプレート72、74の押圧機能が制限されていた。その結果、従来の多板クラッチでは、クラッチプレート72、74が適切な締結力で締結されず、前輪20側と後輪24側の回転数差を適切に減少させることが困難となっていた。
【0077】
そこで、本実施形態に係る多板クラッチ42では、第1ワッシャ80および第2ワッシャ82が設けられている。
図4では、第1ワッシャ80および第2ワッシャ82の断面をクロスハッチングで示している。
【0078】
図7は、第1ワッシャ80を後方から見た平面図である。第1ワッシャ80は、周方向に複数片81に分割されている。
図7の例では、第1ワッシャ80は、円環板が周方向に2分割された半円環板状の2個の片81から構成される。なお、第1ワッシャ80は、周方向に2分割されたものに限らず、3分割以上に分割されたものでもよい。つまり、第1ワッシャ80は、円環板が周方向に複数片81に分割されていればよい。
【0079】
図4に示すように、第1ワッシャ80は、固定面78と、最前面のクラッチプレート72、74(最前面に位置する第2クラッチプレート74)との間の空間(隙間)に配置される。第1ワッシャ80は、分割された複数片81を組み合わせて円環板を形成するように配置される。円環板状に組み合わされた第1ワッシャ80の中心軸は、サンギヤ50の中心軸に重なる。第1ワッシャ80の前面は、固定面78に接触する。第1ワッシャ80の後面は、最前面のクラッチプレート72、74と対向する。なお、第1ワッシャ80の後面は、最前面のクラッチプレート72、74に接触してもよい。第1ワッシャ80の内周縁は、サンギヤ50から離隔している。第1ワッシャ80の外周縁は、アーム部58から離隔している。
【0080】
ハブ70における軸方向の他側の外周縁部には、第1傾斜面146が形成されている。第1傾斜面146は、ハブ70の前端面144において、径方向内側から径方向外側に向かうに連れて軸方向の他側から一側に向けて下るように傾斜している。
【0081】
図4および
図7に示すように、第1ワッシャ80の内周部には、第2傾斜面150が形成されている。第2傾斜面150は、第1ワッシャ80における軸方向の一側の面(後面)を基準として、径方向外側から径方向内側に向かうに連れて軸方向の一側から他側に向けて下るように傾斜している。第1ワッシャ80の第2傾斜面150は、ハブ70の第1傾斜面146と平行であり、ハブ70の第1傾斜面146に隙間なく接する。
【0082】
また、第1ワッシャ80の外周部には、第3傾斜面152が形成されている。第3傾斜面152は、第1ワッシャ80における軸方向の一側の面(後面)を基準として、径方向内側から径方向外側に向かうに連れて軸方向の一側から他側に向けて下るように傾斜している。
【0083】
図8は、第2ワッシャ82を前方から見た平面図である。第2ワッシャ82は、円環板状に形成されている。第2ワッシャ82の内径は、第1ワッシャ80の内径(具体的には、第1ワッシャ80の複数片81を組み合わせた円環板の内径)より大きい。第2ワッシャ82の外径は、第1ワッシャ80の外径(具体的には、第1ワッシャ80の複数片81を組み合わせた円環板の外径)より大きい。
【0084】
図4に示すように、第2ワッシャ82は、固定面78と、最前面のクラッチプレート72、74(最前面に位置する第2クラッチプレート74)との間の空間(隙間)に配置される。また、第2ワッシャ82は、第1ワッシャ80の径方向外側に配置される。第2ワッシャ82の前面は、固定面78と対向する。なお、第2ワッシャ82の前面は、固定面78に接触してもよい。第2ワッシャ82の後面は、最前面のクラッチプレート72、74(例えば、第2クラッチプレート74)に接触する。第2ワッシャ82の内周縁は、ハブ70から離隔している。第2ワッシャ82の外周縁は、アーム部58から離隔している。第2ワッシャ82の厚さは、第1ワッシャ80の厚さと大凡等しい。
【0085】
図4および
図8に示すように、第2ワッシャ82の内周部には、第4傾斜面154が形成されている。第4傾斜面154は、第2ワッシャ82における軸方向の他側の面(前面)を基準として、径方向外側から径方向内側に向かうに連れて軸方向の他側から一側に向けて下るように傾斜している。第4傾斜面154は、第1ワッシャ80の第3傾斜面152と平行であり、第1ワッシャ80の第3傾斜面152に隙間なく接する。つまり、第1ワッシャ80と第2ワッシャ82とは、所謂、楔形に連結されている。
【0086】
また、
図4の一点鎖線で例示するように、軸方向に対して垂直な面C3を仮定する。なお、面C3は、固定面78に対して平行である。
図4の傾斜角θ1は、面C3に対する第1傾斜面146の傾斜角の絶対値を示す。
図4の傾斜角θ2は、面C3に対する第2傾斜面150の傾斜角の絶対値を示す。
図4の傾斜角θ3は、面C3に対する第3傾斜面152の傾斜角の絶対値を示す。
図4の傾斜角θ4は、面C3に対する第4傾斜面154の傾斜角の絶対値を示す。
【0087】
第1傾斜面146と第2傾斜面150とが隙間なく接しているため、第1傾斜面146の傾斜角θ1と第2傾斜面150の傾斜角θ2は等しい。また、第3傾斜面152と第4傾斜面154とが隙間なく接しているため、第3傾斜面152の傾斜角θ3と第4傾斜面154の傾斜角θ4は等しい。
【0088】
多板クラッチ42では、軸方向に垂直な面C3に対する第3傾斜面152および第4傾斜面154の傾斜角の絶対値(傾斜角θ3、θ4)は、軸方向に垂直な面C3に対する第1傾斜面146および第2傾斜面150の傾斜角の絶対値(傾斜角θ1、θ2)より小さくなっている。例えば、傾斜角θ1および傾斜角θ2は45°以上とし、傾斜角θ3および傾斜角θ4は45°未満としてもよい。
【0089】
次に、本実施形態に係る多板クラッチ42の動作を説明する。
図2、
図4は、クラッチプレート72、74のフェーシング面92、94が摩耗されていない場合を示していた。これに対し、
図9は、フェーシング面92、94の摩耗量が小の場合において、クラッチプレート72、74が押圧された状態の部分拡大図である。
図10は、フェーシング面92、94の摩耗量が中の場合において、クラッチプレート72、74が押圧された状態の部分拡大図である。
図11は、フェーシング面92、94の摩耗量が大の場合において、クラッチプレート72、74が押圧された状態の部分拡大図である。
【0090】
図9の領域E1で示すように、フェーシング面92、94が少し摩耗したとする。そして、
図9の矢印F1で示すように、プレッシャープレート110が固定面78に向かう方向に移動したとする。そうすると、
図9の領域E2で示すように、プレッシャープレート110の対向面140がハブ70の後端面142に接触する。この際、プレッシャープレート110は、複数のクラッチプレート72、74の最後面に接触し、クラッチプレート72、74を軸方向の一側から他側に押圧する。
【0091】
また、複数のクラッチプレート72、74の最前面は、第2ワッシャ82の後面に接触している。つまり、クラッチプレート72、74に与えられる押圧力は、第2ワッシャ82および第1ワッシャ80を介して固定面78によって支持される。したがって、プレッシャープレート110がハブ70に当たっても、クラッチプレート72、74を適切な締結力で締結することができる。
【0092】
図10の領域E11で示すように、フェーシング面92、94が
図9よりさらに摩耗したとする。そして、
図10の矢印F11で示すように、プレッシャープレート110が固定面78に向かう方向に移動したとする。そうすると、プレッシャープレート110は、クラッチプレート72、74を固定面78に向かう方向に押圧するとともに、プレッシャープレート110に接触したハブ70を、
図10の矢印F12で示すように、固定面78に向かう方向に摺動させる。
【0093】
ハブ70は、固定面78に向かう方向に摺動すると、第1ワッシャ80を固定面78に向かう方向に押し付ける。ここで、第1ワッシャ80は、複数片81に分割されており、前面で固定面78と接触しつつ、第2傾斜面150でハブ70の第1傾斜面146と接触している。このため、ハブ70の摺動に伴い、第1ワッシャ80の第2傾斜面150がハブ70の第1傾斜面146により、実質的に径方向外側に向けて押圧される。そうすると、第2傾斜面150が第1傾斜面146上を滑り、
図10の矢印F13で示すように、第1ワッシャ80は、固定面78に沿って径方向外側に移動する。換言すると、複数片81の第1ワッシャ80が組み合わされた円環の見かけ上の外径が径方向外側に拡張される。
【0094】
第1ワッシャ80は、径方向外側に移動すると、第2ワッシャ82を内側から径方向外側に押し付ける。ここで、第2ワッシャ82は、複数片に分割されておらず、第4傾斜面154で第1ワッシャ80の第3傾斜面152と接触している。このため、第1ワッシャ80の移動に伴い、第2ワッシャ82の第4傾斜面154が第1ワッシャ80の第3傾斜面152により、実質的に軸方向の一側(後方)に向けて押圧される。そうすると、第4傾斜面154が第3傾斜面152上を滑り、
図10の矢印F14で示すように、第2ワッシャ82は、軸方向の一側(後方)に移動する。
【0095】
その結果、第2ワッシャ82は、第1クラッチプレート72および第2クラッチプレート74を押圧機構76に向けて軸方向の一側(後方)に移動させる。つまり、第2ワッシャ82は、フェーシング面92、94の摩耗量と傾斜角θ1、θ2、θ3、θ4の設定値に応じて、クラッチプレート72、74全体をプレッシャープレート110側に詰めさせる。そして、第2ワッシャ82は、後方に詰めさせたクラッチプレート72、74を介して与えられるプレッシャープレート110の押圧力を、第1ワッシャ80および固定面78を介して支持する。
【0096】
このように、ハブ70は、第1クラッチプレート72または第2クラッチプレート74の摩耗(具体的には、フェーシング面92、94の摩耗)に応じて、押圧機構76によって軸方向の他側に向けて摺動される。ハブ70の摺動に伴い、第1ワッシャ80の第2傾斜面150がハブ70の第1傾斜面146により径方向外側に向けて押圧されることにより、第1ワッシャ80は、径方向外側に向けて移動する。第1ワッシャ80の移動に伴い、第2ワッシャ82の第4傾斜面154が第1ワッシャ80の第3傾斜面152により軸方向の一側に向けて押圧されることにより、第2ワッシャ82は、第1クラッチプレート72および第2クラッチプレート74を軸方向の一側に移動させる。
【0097】
これにより、クラッチプレート72、74の摩耗(具体的には、フェーシング面92、94の摩耗)が進行しても、最後面側から押圧されるクラッチプレート72、74の最前面の位置を適切な位置に調整することができる。したがって、摩耗が進行しても、クラッチプレート72、74を適切な締結力で締結することが可能となる。
【0098】
また、プレッシャープレート110によるハブ70の移動量は、クラッチプレート72、74の摩耗量より大きいと推定される。そこで、多板クラッチ42では、上述のように、軸方向に垂直な面C3に対して、第3傾斜面152および第4傾斜面154の傾斜角の絶対値(傾斜角θ3、θ4)が、第1傾斜面146および第2傾斜面150の傾斜角の絶対値(傾斜角θ1、θ2)より小さくなっている。これにより、ハブ70の移動量がクラッチプレート72、74の摩耗量より大きくても、第2ワッシャ82の移動量を適量とすることができ、摩耗量と傾斜角θ1、θ2、θ3、θ4の設定値に応じて、クラッチプレート72、74の最前面を移動させることが可能となる。
【0099】
図11の領域E21で示すように、フェーシング面92、94が
図10よりさらに摩耗したとする。そして、
図11の矢印F21で示すように、プレッシャープレート110が固定面78に向かう方向に移動したとする。そうすると、プレッシャープレート110がクラッチプレート72、74を固定面78に向かう方向に押圧するとともに、
図11の矢印F22で示すように、ハブ70が固定面78に向かう方向に摺動する摺動量が多くなる。
【0100】
ハブ70の摺動量が多くなると、第1傾斜面146に対する第2傾斜面150のずれ量が多くなり、
図11の矢印F23で示すように、第1ワッシャ80が径方向外側へ向けて移動する移動量が多くなる。そうすると、第3傾斜面152に対する第4傾斜面154のずれ量が多くなり、
図11の矢印F24で示すように、第2ワッシャ82が後方へ向けて移動する移動量が多くなる。
【0101】
これにより、クラッチプレート72、74の最前面をプレッシャープレート110側に詰めさせる量が多くなる。そして、第2ワッシャ82は、後方に詰めさせたクラッチプレート72、74を介して与えられるプレッシャープレート110の押圧力を、第1ワッシャ80および固定面78を介して支持する。
【0102】
つまり、摩耗がさらに進行しても、クラッチプレート72、74の最前面を適切な位置に調整することができ、クラッチプレート72、74を適切な締結力で締結することが可能となる。
【0103】
このように、本実施形態の多板クラッチ42では、クラッチプレート72、74の摩耗の程度に依らず、クラッチプレート72、74を適切な締結力で締結することができる。このため、本実施形態の多板クラッチ42では、使用寿命を向上させることができる。その結果、本実施形態の多板クラッチ42が適用されるセンターディファレンシャルギヤ14の使用寿命を向上させることができる。
【0104】
また、本実施形態の多板クラッチ42では、摩耗による締結力の低下を抑制できるため、クラッチプレート72、74の数を増加させることができる。また、クラッチプレート72、74の数を増加できるため、締結力の最大値を向上させることができる。つまり、センターディファレンシャルギヤ14のLSDトルクを向上させることができる。
【0105】
以上、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0106】
例えば、上記実施形態では、多板クラッチ42をセンターディファレンシャルギヤ14に設ける例を挙げていた。しかし、多板クラッチ42は、センターディファレンシャルギヤ14に適用される例に限らない。例えば、多板クラッチ42は、エンジン10のトルクを変速機12に伝達するクラッチなどに適用されてもよい。