(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-143758(P2021-143758A)
(43)【公開日】2021年9月24日
(54)【発明の名称】二重殻円筒形液体水素タンク
(51)【国際特許分類】
F17C 13/08 20060101AFI20210827BHJP
B65D 90/06 20060101ALI20210827BHJP
E04H 7/06 20060101ALI20210827BHJP
【FI】
F17C13/08 302E
B65D90/06 Z
E04H7/06 303
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2020-68432(P2020-68432)
(22)【出願日】2020年4月6日
(31)【優先権主張番号】特願2020-40711(P2020-40711)
(32)【優先日】2020年3月10日
(33)【優先権主張国】JP
(71)【出願人】
【識別番号】519440124
【氏名又は名称】伊藤 禎彦
(74)【代理人】
【識別番号】110001586
【氏名又は名称】特許業務法人アイミー国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 禎彦
【テーマコード(参考)】
3E070
3E170
3E172
【Fターム(参考)】
3E070AA03
3E070AA08
3E070AB31
3E070DA01
3E070DA03
3E070NA04
3E070NA10
3E170AA03
3E170AA08
3E170AB28
3E170DA01
3E170DA03
3E170NA03
3E170NA10
3E172AA03
3E172AA06
3E172AB01
3E172AB04
3E172BA06
3E172BB04
3E172BB12
3E172BB17
3E172BD05
3E172CA08
3E172CA10
3E172CA24
3E172DA04
(57)【要約】 (修正有)
【課題】内槽底部支持構造の断熱性能を大幅に改善した大型の二重殻円筒形液体水素タンクを提供する。
【解決手段】二重殻円筒形液体水素タンクは、内槽と、外槽と、外槽の底板と内槽の底板との間に設けられる内槽底部支持構造30とを備える。内槽と外槽との間の空間は真空に保たれる。内槽底部支持構造は、外槽の底板上に同じ高さの複数個の筒状体33aを行方向及び列方向に並べて載置した下部筒状体配列33と、下部筒状体配列上に載置した下部敷板34と、下部敷板上に同じ高さの複数個の筒状体35aを行方向及び列方向に並べて載置した上部筒状体配列35と、上部筒状体配列上に載置した上部敷板36とを備える。下部筒状体配列を構成する各筒状体33aの中心と、上部筒状体配列を構成する各筒状体35aの中心とは、行方向又は列方向にずれた位置関係となっている。内槽の底板は上部敷板上に載置される。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
底板、側板及び屋根板を有する内槽と、底板、側板及び屋根板を有する外槽と、前記外槽の底板と前記内槽の底板との間に設けられる内槽底部支持構造とを備え、前記内槽と前記外槽との間の空間を真空に保つ二重殻円筒形液体水素タンクであって、
前記内槽底部支持構造は、
前記外槽の底板上に設けられた断熱コンクリートからなる平盤状の底部支持部と、
前記底部支持部上に設けられ、その外縁部が前記外槽の側板に溶接された床板と、
前記床板上に同じ高さの複数個の筒状体を行方向及び列方向に並べて載置した下部筒状体配列と、
前記下部筒状体配列上に載置した下部敷板と、
前記下部敷板上に同じ高さの複数個の筒状体を行方向及び列方向に並べて載置した上部筒状体配列と、
前記上部筒状体配列上に載置した上部敷板とを備え、
前記下部筒状体配列を構成する各筒状体の中心と、前記上部筒状体配列を構成する各筒状体の中心とは、前記行方向又は前記列方向にずれた位置関係となっており、
前記内槽の底板が前記上部敷板上に載置される、二重殻円筒形液体水素タンク。
【請求項2】
前記内槽底部支持構造は、さらに、
前記床板上に設けられ、前記下部筒状体配列の最外縁部に接してこの下部筒状体配列を囲む下部堰板と、
前記下部敷板上に設けられ、前記上部筒状体配列の最外縁部に接してこの上部筒状体配列を囲む上部堰板とを備える、請求項1に記載の二重殻円筒形液体水素タンク。
【請求項3】
前記各筒状体は断面形状が同一直径の円である円形筒状体であり、
前記上部筒状体配列を構成する各筒状体の中心は、前記下部筒状体配列を構成する各筒状体の中心に対して、前記円の半径の長さだけ前記行方向又は前記列方向にずれて位置している、請求項1または2に記載の二重殻円筒形液体水素タンク。
【請求項4】
前記各筒状体の材質は、ガラス繊維強化プラスチックである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の二重殻円筒形液体水素タンク。
【請求項5】
前記外槽の底板は、複数のアンカーボルトを介して基礎に密着固定されている、請求項1〜4のいずれか1項に記載の二重殻円筒形液体水素タンク。
【請求項6】
前記床板は、複数のアンカーボルトを介して前記底部支持部に密着固定されている、請求項1〜5のいずれか1項に記載の二重殻円筒形液体水素タンク。
【請求項7】
底板、側板及び屋根板を有する内槽と、底板、側板及び屋根板を有する外槽と、前記外槽の底板と前記内槽の底板との間に設けられる内槽底部支持構造とを備え、前記内槽と前記外槽との間の空間を真空に保つ二重殻円筒形液体水素タンクであって、
前記内槽底部支持構造は、
前記外槽の底板上に同じ高さの複数個の筒状体を行方向及び列方向に並べて載置した下部筒状体配列と、
前記下部筒状体配列上に載置した下部敷板と、
前記下部敷板上に同じ高さの複数個の筒状体を行方向及び列方向に並べて載置した上部筒状体配列と、
前記上部筒状体配列上に載置した上部敷板とを備え、
前記下部筒状体配列を構成する各筒状体の中心と、前記上部筒状体配列を構成する各筒状体の中心とは、前記行方向又は前記列方向にずれた位置関係となっており、
前記内槽の底板が前記上部敷板上に載置される、二重殻円筒形液体水素タンク。
【請求項8】
前記外槽の底板は、複数のアンカーボルトを介して基礎に密着固定されている、請求項7に記載の二重殻円筒形液体水素タンク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、真空断熱方式の二重殻円筒形液体水素タンクに関し、特に内槽の底部断熱支持構造に焦点を当てたものである。
【背景技術】
【0002】
液化天然ガス(LNG)を低温にて大量に貯蔵するLNGタンクが知られている。現在、LNGは火力発電のエネルギー源となっており、LNGタンクは大型化が進み、20万m
3の容積のものも提供されている。
【0003】
LNGタンクは、設置場所に応じて地上用、地下用、タンカー用がある。また、その形状から、球形、円筒形、角形タンクがある。さらに、その断熱構造から、二重殻式、メンブレン式タンクがある。LNGタンクの構造は、概ね、LNGを貯蔵する内槽と、内槽を取り囲む外槽とを備え、内槽と外槽との間の空間に大気圧窒素雰囲気で粉状パーライト層、ポリウレタン層、泡ガラス層などの断熱層を設けている。
【0004】
本願発明が対象とするものは、LNGではなく、液体水素である。液体水素は水素ガスを液化したものであり、液体水素タンクは液体水素を貯蔵するものである。水素ガスは燃焼しても炭酸ガスを排出しないので、LNGに比べてより環境にやさしいクリーンなエネルギーである。このため、近い将来、本格的な水素燃料時代が到来すると思われる。この時には、貯蔵容量が数万m
3以上もの大型液体水素タンクが必要になってくる。
【0005】
水素ガスの沸点は−253℃であり、LNGの沸点である−162℃よりも91℃低い。液体水素はLNGに比べて蒸発し易く、液体水素貯蔵時における蒸発ロスが大きい。このため、液体水素タンクには、LNGタンクの断熱性能よりも高い断熱性能が求められる。具体的には、LNG船モス型球形タンクの断熱性能は14W/m
2程度であるが、液体水素タンクでは2W/m
2程度が要求される。
【0006】
例えばLNGタンクの断熱層の厚さが300mmである場合、液体水素タンクの断熱にLNGタンクと同じ断熱材を使用したとすると、液体水素タンクの液体水素蒸発率(BOR)をLNGタンクのLNG蒸発率と同じにするためには、液体水素タンクの断熱層の厚さを3000mmにする必要がある。このような極端に厚い断熱層を設けることを回避するために、液体水素タンクには断熱性能が高い真空断熱の利用が必要になってくる。
【0007】
将来建造される大型液体水素タンクは、従来の大型LNGタンクの延長線上でその構造を改良し、発展させたものと予想される。因みに、現存する液体水素タンクとして最大容量のものはロケット発射用設備であり、国内では種子島に540m
3の液体水素タンク、海外では米国NASAに3,218m
3の液体水素タンクがある。両タンクとも内槽吊り下げ方式の構造で、パーライト真空断熱方式の陸上二重殻球形タンクである。現在において、1万m
3を超えるような大型液体水素タンクは存在しない。
【0008】
特開2011−127624号公報(特許文献1)は、二重殻円筒形LNGタンクの構造を開示している。
図10は、この公報に開示された二重殻円筒形LNGタンクの構造を示している。この図を参照して、従来の二重殻円筒形LNGタンクの底部断熱支持構造を説明する。
【0009】
LNGタンクは、LNGを貯蔵している円筒形の内槽1と、内槽1を取り囲む円筒形の外槽2と、底部断熱支持構造3とを備える。内槽1は、底板1aと、側板1bと、ドーム状の屋根板1cとを有し、外槽2は、底板2aと、側板2bと、ドーム状の屋根板2cとを有する。外槽2の底板2aは、基礎上に支持される。
【0010】
内槽1の底板1aは、一般に、側板1bを下から支える板厚の大きいアニュラー板部と、アニュラー板部の内径側に位置する板厚の小さい内径側底板部とからなるが、ここでは両者を含めて底板と記す。以下において、両者の区別が必要なときには、アニュラー板部及び内径側底板部と記す。
【0011】
外槽2と内槽1との間の空間に断熱層が形成される。この断熱層は、外槽2の底板2aと内槽1の底板1aとの間に設けられる底部断熱支持構造3と、外槽2の側板2b及び屋根板2cと、内槽1の側板1b及び屋根板1cとの間に設けられる窒素ガス・粉状パーライト断熱層4とからなる。
【0012】
底部断熱支持構造3は、外槽2の底板2a上に設けられた平盤状のレベルコンクリートからなる底部支持部3aと、この底部支持部3a上であって内槽1の底板1aのアニュラー板部の下方に設けられたコンクリート製のリング状支持部3bと、リング状支持部3bの内径側であって底部支持部3a上に設けられた積層構造部3cとを有する。
【0013】
底部支持部3aは、断熱コンクリート、例えば現場打設のパーライトコンクリートからなる。リング状支持部3bには、内槽1の側板自重、内槽1の屋根板自重、LNG自重等の荷重がかかる。そのため、リング状支持部3bには断熱性及び高い支持強度が要求される。リング状支持部3bは、例えばパーライトコンクリートブロック、軽骨コンクリートブロックからなる。
【0014】
積層構造部3cは、多孔質断熱材3c1と不陸調整材(キャッピング材)3c2とを交互に積層し、この積層部の上に強度の高い硬質断熱材3c3を配置したものである。積層構造部3cには、LNG自重だけがかかる。多孔質断熱材3c1は、例えば泡ガラスブロックである。強度の高い硬質断熱材3c3は、例えば軽量気泡軽骨コンクリートである。
【0015】
内槽1の底板1aは、リング状支持部3b及び硬質断熱材3c3上に載っている。言い換えれば、内槽1は、底部断熱支持構造3を介して基礎に支持されている。
【0016】
低温工学Vol.38, No.5(2003)193頁〜203頁に掲載された神谷祥二氏執筆の論文「液体水素輸送・貯蔵技術の開発」(非特許文献1)には、固体真空断熱方式の二重殻円筒形液体水素タンクの底部断熱支持構造が記載されている。この論文に記載のタンクでは、内槽と外槽との間の空間を真空にし、内槽の底板のアニュラー板部の下に位置するリング状支持部を、単一のコンクリート製にするのではなく、高密度ポリウレタンフォームブロックと、その上に位置する軽骨コンクリートブロックとの2層構造としている。
【0017】
リング状支持部には、液体水素荷重、内槽側板自重、内槽屋根板自重がかかるため、高い圧縮強度が求められる。それと同時に、高い断熱性能も求められる。非特許文献1に記載の構造では、断熱性能をある程度犠牲にして圧縮強度を高めた軽骨コンクリートブロックでまず大きな荷重を受け止め、次に高密度ポリウレタンフォームブロック等で軽骨コンクリートブロックからの荷重を受け止めるようにしている。軽骨コンクリートの圧縮強度及び熱伝導率は高密度ポリウレタンフォームよりも高い。そのため、圧縮強度は主として軽骨コンクリートが担い、断熱性は主として高密度ポリウレタンフォームが担う。内槽の底板の内径側底板部下方の断熱構造は、
図10に示したタンクとほぼ同様に、泡ガラス(フォームグラス)およびポリウレタンフォームからなっている。
【0018】
特開2008−164066号公報(特許文献2)には、低温液化ガス貯蔵タンクの底部断熱支持構造として複数の筒状体を平面的に並設したものを使用している。
【0019】
国際公開WO2014/174819号公報(特許文献3)は、船舶に搭載されて液化ガスを貯蔵するタンクの支持構造を開示している。具体的には、真空断熱方式の二重殻横置き円筒形タンクにおいて、熱伝導率が低くて強度の高いガラス繊維強化プラスチック(GFRP)からなる筒状体を内槽と外槽との間に複数設けて、内槽が筒状体を介して外槽に支持される構造が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】特開2011−127624号公報
【特許文献2】特開2008−164066号公報
【特許文献3】国際公開WO2014/174819号公報
【非特許文献】
【0021】
【非特許文献1】低温工学Vol.38, No.5(2003)193頁〜203頁に掲載された神谷祥二氏執筆の論文「液体水素輸送・貯蔵技術の開発」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
非特許文献1に記載された固体真空断熱方式の二重殻円筒形液体水素タンクの底部断熱支持構造では、液体水素自重、内槽自重等の大きな荷重がかかるリング状支持部が、高密度ポリウレタンフォームブロックと、断熱性能をある程度犠牲にして圧縮強度を高めた軽骨コンクリートブロックとからなっている。すなわち、軽骨コンクリートブロックで大きな荷重を受け止め、次に軽骨コンクリートブロックを高密度ポリウレタンフォームブロックで受け止める構造になっている。
【0023】
軽骨コンクリートブロックの熱伝導率は、例えば常温で0.52(W/m・K)程度であり、真空部の熱伝導率(例えば常温で0.003(W/m・K)程度)の173倍にもなる。高密度ポリウレタンフォームの熱伝導率は常温で0.023(W/m・K)程度であり、真空部の熱伝導率に比べてはるかに大きい。そのため、リング状支持部で固体真空断熱方式を採用しても、液体水素タンクに要求される2W/m
2程度の断熱性能を実用的な断熱厚さ(例えば1.5m以内)で達成するのは難しい。
【0024】
高密度ポリウレタンフォームの熱伝導率は軽骨コンクリートブロックの熱伝導率よりもかなり小さいが、その圧縮強度が軽骨コンクリートブロックの圧縮強度(常温で40MPa程度)に比べて格段に小さすぎるので、リング状支持部全体を高密度ポリウレタンフォームで構成することはできない。さらに、軽骨コンクリートブロック中に含まれる水分などからのアウトガスがあり、内槽と外槽との間の空間を高度な真空(例えば、0.01Pa〜0.0001Pa)に保つのが難しくなる。
【0025】
リング状支持部の内側の断熱支持構造部には、比重が0.071の液体水素の自重しかかからない。この断熱支持構造部は、泡ガラスブロックやポリウレタンフォームブロックからなる。泡ガラスの熱伝導率は常温で0.047(W/m・K)程度であり、ポリウレタンフォームの熱伝導率は常温で0.023(W/m・K)程度である。泡ガラスブロックを用いる断熱支持構造の場合、固体真空断熱方式を採用しても、この断熱部で2W/m
2程度の断熱性能を実用的な断熱厚さで達成するのは困難である。また、ポリウレタンフォームブロックのみからなる断熱支持構造は採用し難い。なぜなら、ポリウレタンフォームの圧縮強度は常温で0.29MPa程度であり、泡ガラスの圧縮強度(常温で1.6MPa程度)に比べてかなり小さいので、内槽完成時での内槽の水張試験ができなくなるおそれがある。
【0026】
特許文献3に開示された断熱支持構造の場合でも、外槽から内槽への熱の侵入を効果的に抑制することができない。このことをより詳しく説明する。内槽の外周面には、周方向に延びる帯状の補強板が溶接によって固定され、さらにこの補強板には内側嵌合部を有する内側部材が溶接によって固定されている。外槽の内周面には一対の円弧状のバーが溶接によって固定されている。一対の円弧状バーの間の領域で外槽の内周面に、外側嵌合部を有する外側部材が配置される。外側部材は一対の円弧状バーに挟まれた領域内で外槽の内周面に沿ってスライド可能である。GFRPの筒状体の上方端部は内側嵌合部に嵌合し、下方端部は外側嵌合部に嵌合している。このような構造の場合、補強板と内側部材と筒状体の壁と外側部材とによって、内槽と外槽との間に熱橋ができている。
【0027】
GFRPの熱伝導率はステンレス鋼の熱伝導率の40分の1程度であるが、真空部の熱伝導率(例えば、0.003W/m・K)の133倍程度もあるので、外槽からこの熱橋を介して内槽に流入する伝熱量は少なくなく、高い断熱性能が要求される液体水素タンクにおいては好ましくない。複数個の筒状体が外槽の内周面全体および内槽の外周面全体を密に覆うようには配置されていないものの、断熱支持構造の断熱性能を改善する余地がある。
【0028】
二重殻円筒形液体水素タンクで真空断熱方式を採用する場合、大きな真空空間を確保しながら、かつ載荷力が大きい底部断熱支持構造をどのように作るかが大きな課題となる。熱伝導率があまりにも高いコンクリートブロックを含むリング状支持部を無くすような底部断熱支持構造が望まれる。
【0029】
そこで、本発明は、内槽を支持する内槽底部支持構造の断熱性能を大幅に改善した真空断熱方式の二重殻円筒形液体水素タンクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0030】
一つの局面において、本発明に係る二重殻円筒形液体水素タンクは、底板、側板及び屋根板を有する内槽と、底板、側板及び屋根板を有する外槽と、外槽の底板と内槽の底板との間に設けられる内槽底部支持構造とを備え、内槽と外槽との間の空間を真空に保つものである。
【0031】
内槽底部支持構造は、外槽の底板上に設けられた断熱コンクリートからなる平盤状の底部支持部と、底部支持部上に設けられ、その外縁部が外槽の側板に溶接された床板と、床板上に同じ高さの複数個の筒状体を行方向及び列方向に並べて載置した下部筒状体配列と、下部筒状体配列上に載置した下部敷板と、下部敷板上に同じ高さの複数個の筒状体を行方向及び列方向に並べて載置した上部筒状体配列と、上部筒状体配列上に載置した上部敷板とを備える。
【0032】
下部筒状体配列を構成する各筒状体の中心と、上部筒状体配列を構成する各筒状体の中心とは、行方向又は列方向にずれた位置関係となっている。内槽の底板は上部敷板上に載置される。
【0033】
一つの実施形態では、内槽底部支持構造は、さらに、床板上に設けられ、下部筒状体配列の最外縁部に接してこの下部筒状体配列を囲む下部堰板と、下部敷板上に設けられ、上部筒状体配列の最外縁部に接してこの上部筒状体配列を囲む上部堰板とを備える。
【0034】
好ましくは、各筒状体は断面形状が同一直径の円である円形筒状体であり、上部筒状体配列を構成する各筒状体の中心は、下部筒状体配列を構成する各筒状体の中心に対して、円の半径の長さだけ行方向又は列方向にずれて位置している。
【0035】
各筒状体の材質は、例えば、ガラス繊維強化プラスチックである。外槽の底板は、複数のアンカーボルトを介して基礎に密着固定されている。
【0036】
好ましくは、床板は、複数のアンカーボルトを介して断熱コンクリートからなる平盤状の底部支持部に密着固定されている。
【0037】
他の局面において、本発明に係る二重殻円筒形液体水素タンクの内槽底部支持構造は、コンクリートからなる平盤状の底部支持構造を備えない。具体的には、この局面に係る二重殻円筒形液体水素タンクは、以下の構成を備える。
【0038】
二重殻円筒形液体水素タンクは、底板、側板及び屋根板を有する内槽と、底板、側板及び屋根板を有する外槽と、外槽の底板と内槽の底板との間に設けられる内槽底部支持構造とを備え、内槽と外槽との間の空間を真空に保つものである。
【0039】
内槽底部支持構造は、外槽の底板上に同じ高さの複数個の筒状体を行方向及び列方向に並べて載置した下部筒状体配列と、下部筒状体配列上に載置した下部敷板と、下部敷板上に同じ高さの複数個の筒状体を行方向及び列方向に並べて載置した上部筒状体配列と、上部筒状体配列上に載置した上部敷板とを備える。
【0040】
下部筒状体配列を構成する各筒状体の中心と、上部筒状体配列を構成する各筒状体の中心とは、前記行方向又は前記列方向にずれた位置関係となっている。内槽の底板は上部敷板上に載置される。
【0041】
好ましくは、外槽の底板は、複数のアンカーボルトを介して基礎に密着固定されている。
【発明の効果】
【0042】
上記構成の本発明によれば、内槽底部支持構造の断熱性能を大幅に改善した真空断熱方式の大型二重殻円筒形液体水素タンクを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【
図1】本発明の一実施形態に係る二重殻円筒形液体水素タンクを示す図解図である。
【
図2】内槽底部支持構造を拡大して示す図解図である。
【
図3】床板上に載置された下部筒状体配列を示す図解的平面図である。
【
図4】下部筒状体配列と上部筒状体配列とがずれた位置関係にあることを示す図解図である。
【
図5】上部筒状体配列の円形筒状体と下部筒状体配列の円形筒状体とが列方向にずれて配置されている状態を示す図解図である。
【
図6】上部筒状体配列の円形筒状体と下部筒状体配列の円形筒状体とが行方向及び列方向にずれて配置されている状態を示す図解図である。
【
図7】上部筒状体配列の矩形筒状体と下部筒状体配列の矩形筒状体とが行方向及び列方向にずれて配置されている状態を示す図解図である。
【
図8】本発明の他の実施形態に係る内槽底部支持構造を拡大して示す図解図である。
【
図9】外槽の底板を基礎に固定するアンカーボルトに関連する構造を示す図解図である。
【
図10】従来の二重殻円筒形LNGタンクを示す図解図である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
図1〜
図5を参照して、本発明の一実施形態に係る二重殻円筒形液体水素タンクの構成を説明する。各図において、同一の参照番号は同一の要素を示す。
【0045】
二重殻円筒形液体水素タンクは、底板11、側板12及びドーム状の屋根板13を有する内槽10と、底板21、側板22及びドーム状の屋根板23を有する外槽20と、外槽20の底板21と内槽10の底板11との間に設けられる内槽底部支持構造30とを備える。内槽10と外槽20との間の空間は真空に保たれる。内槽10は例えばステンレス鋼板からなり、内槽10を取り囲む外槽20は例えば普通鋼板からなる。外層20の床板21は、アンカーボルト51を介して基礎50上に密着固定される。内槽10内に液体水素が貯蔵される。外槽20は外圧座屈に対抗するために、側板22及び屋根板23の外表面に補強構造が設けられる。
【0046】
内槽10の底板11は、側板12を下から支える板厚の大きいアニュラー板部と、アニュラー板部の内径側に位置する板厚の小さい内径側底板部とからなる。アニュラー板部の板厚は例えば35mm程度であり、内径側底板部の板厚は例えば20mm程度である。
【0047】
内槽底部支持構造30は、外槽20の底板21上に設けられた断熱コンクリートからなる平盤状の底部支持部31と、底部支持部31上に設けられ、その外縁部が外槽20の側板22に溶接された床板32と、床板32上に載置した下部筒状体配列33と、下部筒状体配列33の上に載置した下部敷板34と、下部敷板34上に載置した上部筒状体配列35と、上部筒状体配列35の上に載置した上部敷板36とを備える。内槽10の底板11は、上部敷板36上に載置される。
【0048】
底部支持部31は、レベルコンクリートであり、例えば現場打設のパーライトコンクリートからなる。底部支持部31上に載る床板32は、例えば普通鋼板からなる。床板32と、外槽20の側板22と、外槽20の屋根板23と、内槽10とで囲まれる空間は、真空に保たれる。そのため、床板32は気密性を有するものでなければならない。上記の空間を高い真空度にするには、床板32によって、レベルコンクリートからなる底部支持部31からのアウトガスを遮断する必要があるからである。
【0049】
床板32は、公知のタンク底板製作のように、多数の小板を並べて当接配置し、小板同士の継手を突合せ溶接して作られる。好ましくは、突合せ溶接は開先溶接であり、余盛はフラッシュイングされる。床板32の外縁部は外槽20の側板22の内面に隅肉溶接される。
【0050】
外槽20の底板21をアンカーボルト51を介して基礎50に密着固定するのは、上記空間が真空になることに伴って底板21が基礎50からめくれ上がらないようにするためである。
【0051】
下部筒状体配列33上に載る下部敷板34、および上部筒状体配列35上に載る上部敷板36は、例えばステンレス鋼板からなる。
【0052】
図2〜
図4に示すように、床板32上に設けられる下部筒状体配列33は、床板32上に同じ高さの多数の筒状体33aを行方向及び列方向に並べて載置したものである。
図3に示すように、碁盤目状に筒状体33aを並べた下部筒状体配列33を平面視で見るとほぼ円形になる。図示した実施形態では、下部筒状体配列33を構成する各筒状体33aは、同じ直径及び同じ高さで、その中心軸心が鉛直方向に向く円形筒状体であり、その材質は例えばガラス繊維強化プラスチック(GFRP)である。ガラス繊維強化プラスチックの熱伝導率は、例えば、0.4W/m・K程度であり、強度は400MPa程度である。
【0053】
下部筒状体配列33を下から支える床板32には、下部筒状体配列33の最外縁部に接してこの下部筒状体配列33を囲む下部堰板37が溶接固定されている。下部堰板37の材質は、例えばステンレス鋼板である。下部堰板37は、円形筒状体33aの配列をガイドするとともに、円形筒状体33aが行方向又は列方向に移動するのを抑制する。
【0054】
下部筒状体配列33の上に載る下部敷板34は、気密性を要しない。下部敷板34は、公知のタンク底板製作のように、多数の小板を並べて当接配置し、小板同士の継手を突合せ溶接して作られる。好ましくは、突合せ溶接は開先溶接であり、余盛はフラッシュイングされる。突合せ溶接は部分溶け込み溶接であっても良い。また、溶接は、継手全体に亘って行っても良いし、適宜部分的(飛び石的)に行っても良い。下部敷板34の板厚は、円形筒状体33aの中空部で下部敷板34が載荷荷重により凹まない程度の剛性を有するように選ばれる。
【0055】
下部敷板34上に設けられる上部筒状体配列35は、下部敷板34上に同じ高さの多数の筒状体35aを行方向及び列方向に並べて載置したものである。碁盤目状に筒状体35aを並べた上部筒状体配列35を平面視で見ると、下部筒状体配列33よりも小さいほぼ円形になる。上部筒状体配列35を構成する各筒状体35aは、同じ直径及び同じ高さで、その中心軸心が鉛直方向に向く円形筒状体であり、その材質は例えばガラス繊維強化プラスチック(GFRP)である。
【0056】
上部筒状体配列35を下から支える下部敷板34には、上部筒状体配列35の最外縁部に接してこの上部筒状体配列35を囲む上部堰板38が溶接固定されている。上部堰板38の材質は例えばステンレス鋼板である。上部堰板38は、円形筒状体35aの配列をガイドするとともに、円形筒状体35aが行方向又は列方向に移動するのを抑制する。
【0057】
上部筒状体配列35上に載る上部敷板36は、気密性を要しない。上部敷板36は、下部敷板34と同様に、多数の小板を並べて当接配置し、小板同士の継手を突合せ溶接して作られる。上部敷板36の板厚は、円形筒状体35aの中空部で上部敷板36が載荷荷重により凹まない程度の剛性を有するように選ばれる。
【0058】
図4及び
図5に示すように、下部筒状体配列33を構成する円形筒状体33aの中心と、上部筒状体配列35を構成する円形筒状体35aの中心とは、行方向又は列方向にずれた位置関係となっている。図示した実施形態では、下に位置する円形筒状体33aと上に位置する円形筒状体35aとは同じ直径であり、両者は列方向にずれた位置関係となっている。好ましくは、上部筒状体配列35を構成する各円形筒状体35aの中心は、下部筒状体配列33を構成する各円形筒状体33aの中心に対して、円の半径の長さだけ列方向にずれて位置している。このように上下に位置する円形筒状体35a,33aを列方向又は行方向にずらした位置関係で配置することにより、断熱支持構造の断熱性能を大幅に向上させることができ、液体水素タンクの断熱性能として必要な2W/m
2程度を達成することができる。このことについては、後に詳述する。
【0059】
内槽10は、内槽底部支持構造30及び外槽20の底板21を介して基礎50上に支持される。内槽10内に液体水素が貯蔵されると、内槽10は冷却されて収縮し、内槽10の底板11は上部敷板36上をタンク内側方向にスライドする。図示した内槽底部支持構造30であれば、内槽10の底板11のアニュラー板部下方の真空部にコンクリートブロックが存在しない。従来技術の問題点として指摘したように、コンクリートブロックは、熱伝導率が高く断熱性能を低下させるとともに、真空度を低下させるアウトガスを発生する。
【0060】
また、液体水素の比重は0.07と小さいが、内槽10に液体水素を貯蔵したとき、内槽10の側板12に側圧が作用するため、内槽側板−アニュラー板部T継手部にモーメントがかかり、アニュラー板部外端部の下側エッジ部が上部敷板36の上面に押し付けられ、側板直下ではアニュラー板部下面と上部敷板36との間にわずかな隙間が生じる。すなわち、アニュラー板部外端部の下側エッジ部が上部敷板36上面に突っ張る形となる。上部敷板36は、軽骨コンクリートよりも強度が高くて硬いステンレス鋼板からなるので、この突っ張りを支障なく受け止めることができる。
【0061】
アニュラー板部下部には上述したように大きな荷重がかかるが、その内側に位置する内径側底板部の下部には液体水素自重がかかるだけである。そこで、アニュラー板部下部では、上部敷板36、下部敷板34及び円形筒状体33a,35aの板厚を大きくし、内径側底板部の下部では、上部敷板36、下部敷板34及び円形筒状体33a,35aの板厚を小さくすることができる。この場合、
図2に示すように、上部敷板36は、板厚の大きい部分と板厚の小さい部分とで段差を生じる構造となるが、この段差を調整するために、板厚の小さい部分の上に高密度ポリウレタンフォーム39を配置する。高密度ポリウレタンフォーム39は、アウトガスの発生がなく、通常のポリウレタンフォームよりも圧縮強度が高い。図示していないが、下部敷板34についても、同様の構造を採用できる。
【0062】
床板32上及び下部敷板34上に多数の円形筒状体33a,35aを載置する場合、例えば直径500mm、高さ400mm、肉厚15mmの16個の円形筒状体を2m×2mの矩形板に載置したブロックを作り、これを利用したブロック施工法が好ましい。
【0063】
断熱支持部の断熱性能を以下に詳細に説明する。
【0064】
内槽10に液体水素を貯蔵している場合、内槽10の底板11に接触している上部敷板36は約−253℃になり、外槽20の底板21上の底部支持部31に接触している床板32はほぼ常温の約25℃になる。
【0065】
例えば、高さh(m)、幅w(m)、肉厚t(m)のGFRPの壁がある場合、このGFRPの壁の伝熱量を計算してみる。GFRPの熱伝導率を、例えば、0.4(W/m・K)とすると、温度差278℃(=253+25)でのこの壁の伝熱量は111wt/h(W)程度となる。これに対し、高さh/2(m)、幅w(m)、肉厚t(m)のGFRPの壁に連なって、高さh/2(m)、幅w(m)、肉厚t(m)の真空壁がある場合、真空部の熱伝導率を、例えば、0.003(W/m・K)とすると、温度差278℃でのGFRPの壁と真空壁とからなる複合壁の伝熱量は2wt/h(W)程度となる。後者の伝熱量は、前者の伝熱量の1.8%程度に過ぎない。
【0066】
図1〜
図5に示した本発明の実施形態では、高さHの筒状体35aからなる上部筒状体配列35を、下部敷板34を介して、高さHの筒状体33aからなる下部筒状体配列33上に重ね、上下の筒状体35a,33aを半径の長さだけ、例えば列方向にずらして配置し、合計高さをほぼ2Hの断熱支持構造にしている。このような断熱支持構造であれば、高さ2Hの筒状体を一段に並べた一段筒状体配列からなる断熱支持構造に比べて、床板32から上部敷板36へ流れる伝熱量を大幅に下げることができる。
【0067】
すなわち、
図5に示すように、上下の筒状体配列35,33の筒状体35a,33aの位置を行方向又は列方向にずらすと、鉛直方向に見て上下のGFRPからなる筒状体35a,33aが重なるのは上下の円筒壁が交差する領域である重なり部60だけとなる。そして、鉛直方向に見て上下の筒状体35a,33aの円筒壁が重ならない領域では、一方の筒状体の円筒壁が下部敷板34を介して真空部に連なる状態になる。このため、上下の筒状体配列を鉛直方向に流れる伝熱量を大幅に下げることができる。
【0068】
本発明の実施形態のように高さHの筒状体を半径の長さだけ行方向又は列方向にずらして上下2段に配置する断熱支持構造の伝熱量は、高さ2Hの筒状体を1段に配置する断熱支持構造の伝熱量の13%程度になる。例えば、高さが400mm、外径が500mm、肉厚が15mmのGFRP円形筒状体を用いた本発明実施形態の断熱支持構造の伝熱量は、温度差278℃で1.8W/m
2程度である。
【0069】
大型液体水素タンクの場合、真空にすべき空間が巨大となるため、この巨大空間を高度に真空化することは容易ではなく、真空化のために多大な時間とコストを必要とする。本発明に係る内槽底部の断熱支持構造は板と筒状体の骨組だけによって構成されているので、その大部分が気体空間である。他方、非特許文献1に記載された液体水素タンクの内槽底部断熱支持構造は、多数のポリウレタンフォームブロックや泡ガラスブロックの積層構造を含むものであり、ブロック間にはわずかな隙間が多数生じている。この真空化の排気においては、狭い隙間に気体が滞留しやすいため、非特許文献1の液体水素タンクでは積層構造部を高度に真空化するのは容易ではない。すなわち、真空化の対象となる空間が単なる気体空間であるのか、あるいは積層断熱層を含む空間であるのかは、空間の真空化の難易度に大きく影響する。
【0070】
例えば、タンクに比べてスケールが格段に小さい低温用真空パネル(VIP)でさえ、空間の高度な真空を容易に達成するために、コア部のポリウレタンフォームブロック自体に排気用通気孔を設けたりするからである。本発明に係る内槽底部の断熱支持構造であれば、従来技術のポリウレタンフォームブロックなどの積層断熱層を含む断熱支持構造に比べて、格段に空間の真空化が容易になる。
【0071】
下部敷板34と側板22との間には長さD
1の真空部が確保され、上部敷板36と側板22との間には長さD
2の真空部が確保されている。このため、側板22から下部敷板34、上部敷板36に向かう水平方向の伝熱量は小さくなる。例えば、D
2の長さが600mmの場合、側板22から上部敷板36への水平方向の伝熱量は、上部敷板36の温度を−253℃、真空部の熱伝導率を0.003W/m
2として、1.4W/m
2程度である。
【0072】
図6は、本発明の第2の実施形態に係る内槽底部支持構造を示す図解図である。この実施形態では、上部筒状体配列を構成する各円形筒状体35aの中心が、下部筒状体配列を構成する各円形筒状体33aの中心に対して、円の半径の長さだけ行方向及び列方向の両方向にずれて位置している。この場合は、先に記載した第1実施形態の内槽底部支持構造に比べ、上下の円形筒状体35a,33aの円筒壁の上下の重なり部70の面積が少し大きくなるため、伝熱量の低減効果がやや劣るようになる。
【0073】
筒状体配列を構成する各筒状体の形状は円筒形に限定されない。例えば矩形状の筒状体を用いることも可能である。
【0074】
図7は、本発明の第3の実施形態に係る内槽底部支持構造を示す図解図である。この実施形態では、上下の筒状体配列を構成する各筒状体81a,82aは、断面形状が正方形の正方形筒状体である。上部筒状体配列を構成する正方形筒状体81aの中心は、下部筒状体配列を構成する正方形筒状体82aの中心に対して、正方形の1辺の長さの半分の長さだけ行方向及び列方向の両方向にずれて位置している。この場合も、第1実施形態に比べて、上下の正方形筒状体81a,82aの筒状体壁の重なり部80の面積が少し大きくなるため、伝熱量の低減効果がやや劣るようになる。
【0075】
3つの実施形態のうち、断熱性能が最も優れるのは第1実施形態であり、第2実施形態と第3実施形態とは、断熱性能がほぼ同程度である。
【0076】
次に、ずれて位置する上部筒状体配列及び下部筒状体配列を備える内槽底部支持構造の載荷力について記載する。内槽底部支持構造は、内槽の重量と貯蔵された液体水素の重量の合計重量に耐えなければならない。そのため、下部敷板34及び上部敷板36の板厚を大きくして内槽10の底板11からの伝達荷重を均等に分散させるようにすることが必要である。この場合、内槽底部支持構造の載荷力は、上部筒状体配列と下部筒状体配列とがどれくらいずれているかに左右されずほぼ一定になる。言い換えれば、内槽底部支持構造の載荷力は、筒状体33a,35aの高さ、外径、肉厚のみによって決まる。
【0077】
例えば、直径40mの内槽の場合に、内槽底板のアニュラー部下部で内槽底部支持構造に係る荷重が大きく見積もって7kg/cm
2程度であるとする。GFRPは強度が高いので、GFRP製筒状体33a,35aの座屈荷重も大きい。したがって、内槽底部支持構造を上記の荷重に耐えるように設計することができる。
【0078】
本発明は、PC(プレストレスコンクリート)LNGタンクと同様なタイプのPC液体水素タンクにも適用できる。
【0079】
なお、内槽の材質として、ステンレスに代えてアルミニウムを使用することもできる。
【0080】
上述した実施形態に係る二重殻円筒形液体水素タンクの内槽底部支持構造において、好ましくは、床板32を、複数のアンカーボルトを介して、断熱コンクリートからなる平盤状の底部支持部31に密着固定する。外槽20と内槽10との間の空間を真空に保つため、床板32の特に外周縁に近い部分にめくれ上がらせようとする力が作用する。このめくれ上がらせる力に対抗するために、床板32の特に外周縁に近い部分をアンカーボルトを介して底部支持部31に密着固定しておくのが望ましい。
【0081】
上述した実施形態に係る二重殻円筒形液体水素タンクの内槽底部支持構造は、外槽の底板上に設けられたコンクリートからなる底部支持部31と、この底部支持部31上に設けられた床板32とを備えていた。
図8に示す他の実施形態に係る二重殻円筒形液体水素タンクの内槽底部支持構造は、底部支持部および床板を備えておらず、下部筒状体配列33が外槽20の底板21上に載置されている。
図8に示した他の実施形態において、前述の実施形態と同じ構成要素のものには同じ参照番号を付している。
【0082】
図8に示す二重殻円筒形液体水素タンクの内槽底部支持構造は、底板11、側板12及び屋根板13を有する内槽10と、底板21、側板22及び屋根板23を有する外槽20と、外槽20の底板21と内槽10の底板11との間に設けられる内槽底部支持構造30とを備え、内槽10と外槽20との間の空間を真空に保つ。
【0083】
内槽底部支持構造30は、外槽20の底板21上に同じ高さの複数個の筒状体33aを行方向及び列方向に並べて載置した下部筒状体配列33と、下部筒状体配列33上に載置した下部敷板34と、下部敷板34上に同じ高さの複数個の筒状体35aを行方向及び列方向に並べて載置した上部筒状体配列35と、上部筒状体配列35上に載置した上部敷板36とを備える。
【0084】
下部筒状体配列33を構成する各筒状体33aの中心と、上部筒状体配列35を構成する各筒状体35aの中心とは、行方向又は列方向にずれた位置関係となっている。内槽10の底板11が上部敷板36上に載置される。
【0085】
好ましくは、外槽20の底板21は、複数のアンカーボルト51を介して基礎50に密着固定されている。
【0086】
図9は、外槽20の底板21を基礎50に固定するアンカーボルト51に関連する構造を図解的に示している。図示するように、アンカーボルト51の頭部は底板51上に突出し、この突出部分にナット52が締結される。気密性を確保するために、アンカーボルト51の頭頂部とナット52との間、およびナット52と底板21の上面との間は溶接されている。
【0087】
図9に示す構造の場合、アンカーボルト51の頭頂部およびナット52が外槽20の底板21の上面に突起部分として現れる。この突起部分が底板21上に載置される下部筒状体配列33と干渉しないようにするために、例えば、突起部分を円形筒状体33a内の空間に位置させるようにする。あるいは、突起部分と円形筒状体33aの円筒壁とが干渉するような位置関係であれば、円筒壁に突起部分との干渉を避けるための切り欠きを設けておいてもよい。
【0088】
他の構造例として、外槽20の底板21の上面に凹部を設け、この凹部内にアンカーボルト51の頭頂部およびナット52を位置させて、底板21上に突起部分が現れないようにしてもよい。この場合であっても、凹部を埋める溶接を設けて、気密性を確保することが必要である。
【0089】
以上、図面を参照して本発明の実施形態を説明したが、図示した実施形態は例示的なものである。本発明は、図示した実施形態に限定されるものではなく、本発明と同一の範囲内においてまたは均等の範囲内において種々の修正や変形が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明は、断熱性能に優れた大型の二重殻円筒形液体水素タンクとして有利に利用され得る。
【符号の説明】
【0091】
1 内槽、1a 底板、1b 側板、1c 屋根板、2 外槽、2a 底板、2b 側板、2c 屋根板、3 底部断熱支持構造、3a 底部支持部、3b リング状支持部、3c 積層構造部、3c1 多孔質断熱材、3c2 不陸調整材(キャッピング材)、3c3 硬質断熱材、4 窒素ガス・粉状パーライト断熱層、10 内槽、11 底板、12 側板、13 屋根板、20 外槽、21 底板、22 側板、23 屋根板、30 内槽底部支持構造、31 底部支持部、32 床板、33 下部筒状体配列、33a 円形筒状体、34 下部敷板、35 上部筒状体配列、35a 円形筒状体、36 上部敷板、37 下部堰板、38 上部堰板、39 高密度ポリウレタンフォーム、50 基礎、51 アンカーボルト、52 ナット、53 溶接部、60 重なり部、70重なり部、80 重なり部、81a 正方形筒状体、82a 正方形筒状体。