【解決手段】故障検出システムは、モータに搭載された回転角度取得部53と、動力伝達装置に搭載された回転角度検出センサS1と、故障検出部60と、を備える。故障検出部は、回転角度取得部から、入力軸の回転角度を示す第1計測値を取得するとともに、回転角度検出センサから、入力軸の回転角度を示す第2計測値を取得する。そして、故障検出部は、第1計測値と第2計測値の関係が、所定の範囲内であるか否かに基づいて、前記回転角度取得部または回転角度検出センサの故障を検出する。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本願の例示的な実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、本願では、駆動装置の中心軸と平行な方向を「軸方向」、駆動装置の中心軸に直交する方向を「半径方向」、駆動装置の中心軸を中心とする円弧に沿う方向を「周方向」、とそれぞれ称する。ただし、上記の「平行な方向」は、略平行な方向も含む。また、上記の「直交する方向」は、略直交する方向も含む。
【0009】
<1.駆動装置の構成>
図1は、駆動装置100の構成を示した図である。この駆動装置100は、例えば、ロボットアームの関節に組み込まれて、ロボットアームを動作させるために使用される。ただし、駆動装置100は、アシストスーツ、無人搬送台車などの他の装置に用いられるものであってもよい。
図1に示すように、駆動装置100は、モータ1と、動力伝達装置2とを備えている。
図1では、モータ1および動力伝達装置2のうち、動力伝達装置2のみを断面で示している。
【0010】
モータ1は、駆動電流に応じて回転運動を発生させる駆動源である。
図1に示すように、モータ1は、モータケーシング51、入力軸52、およびエンコーダ53を有する。モータケーシング51の内部には、コイルを含むステータと、マグネットを含むロータとが、収容されている。入力軸52は、ロータに固定されている。コイルに駆動電流が供給されると、コイルとマグネットとの間の磁気的な吸引力および反発力によって、ロータおよび入力軸52が、中心軸9を中心として回転する。以下では、このロータおよび入力軸52の回転数を、「第1回転数」と称する。
【0011】
エンコーダ53は、入力軸52の回転角度を計測する計測器である。エンコーダ53は、多数のスリットが周方向に配列された円板と、光センサとにより構成される。入力軸52が回転すると、光センサは、スリットを通過する光を断続的に検出する。これにより、入力軸52の回転角度の計測値(第1計測値)が得られる。エンコーダ53は、得られた第1計測値を、後述する故障検出部60へ出力する。エンコーダ53は、本発明における「回転角度取得部」の一例である。
【0012】
動力伝達装置2は、モータ1から入力される第1回転数の回転運動を、第1回転数よりも低い第2回転数に減速して、出力する装置である。
図2は、
図1のA−A位置から見た動力伝達装置2の横断面図である。
図1および
図2に示すように、本実施形態の動力伝達装置2は、インタナルギア10、フレックスギア20、波動発生器30、およびセンサ基板40を備えている。
【0013】
インタナルギア10は、内周面に複数の内歯11を有する円環状のギアである。インタナルギア10は、駆動装置100が搭載される装置の枠体に、例えばねじ止めで固定される。インタナルギア10は、中心軸9と同軸に配置される。また、インタナルギア10は、フレックスギア20の後述する筒状部21の半径方向外側に位置する。インタナルギア10の剛性は、フレックスギア20の筒状部21の剛性よりも、はるかに高い。このため、インタナルギア10は、実質的に剛体とみなすことができる。インタナルギア10は、円筒状の内周面を有する。複数の内歯11は、当該内周面において、周方向に一定のピッチで配列されている。各内歯11は、半径方向内側へ向けて突出する。
【0014】
フレックスギア20は、可撓性を有する円環状のギアである。フレックスギア20は、中心軸9を中心として回転可能に支持される。フレックスギア20は、本発明における「ギア」の一例である。
【0015】
本実施形態のフレックスギア20は、筒状部21と平板部22とを有する。筒状部21は、中心軸9の周囲において、軸方向に筒状に延びる。筒状部21の軸方向の先端は、波動発生器30の半径方向外側、かつ、インタナルギア10の半径方向内側に位置する。筒状部21は、可撓性を有するため、半径方向に変形可能である。特に、インタナルギア10の半径方向内側に位置する筒状部21の先端部は、自由端であるため、他の部分よりも大きく半径方向に変位可能である。
【0016】
フレックスギア20は、複数の外歯23を有する。複数の外歯23は、筒状部21の軸方向の先端部付近の外周面において、周方向に一定のピッチで配列されている。各外歯23は、半径方向外側へ向けて突出する。上述したインタナルギア10が有する内歯11の数と、フレックスギア20が有する外歯23の数とは、僅かに相違する。
【0017】
平板部22は、ダイヤフラム部221と肉厚部222とを有する。ダイヤフラム部221は、筒状部21の軸方向の基端部から、半径方向外側へ向けて平板状に広がり、かつ、中心軸9を中心として円環状に広がる。ダイヤフラム部221は、軸方向に僅かに撓み変形可能である。肉厚部222は、ダイヤフラム部221の半径方向外側に位置する、円環状の部分である。肉厚部222の軸方向の厚みは、ダイヤフラム部221の軸方向の厚みよりも厚い。肉厚部222は、駆動装置100が搭載される装置の、駆動対象となる部品に、例えばねじ止めで固定される。
【0018】
波動発生器30は、フレックスギア20の筒状部21に、周期的な撓み変形を発生させる機構である。波動発生器30は、カム31と可撓性軸受32とを有する。カム31は、中心軸9を中心として回転可能に支持される。カム31は、軸方向に視たときに楕円形の外周面を有する。可撓性軸受32は、カム31の外周面と、フレックスギア20の筒状部21の内周面との間に介在する。したがって、カム31と筒状部21とは、異なる回転数で回転できる。
【0019】
可撓性軸受32の内輪は、カム31の外周面に接触する。可撓性軸受32の外輪は、フレックスギア20の内周面に接触する。このため、フレックスギア20の筒状部21は、カム31の外周面に沿った楕円形状に変形する。その結果、当該楕円の長軸の両端に相当する2箇所において、フレックスギア20の外歯23と、インタナルギア10の内歯11とが噛み合う。周方向の他の位置においては、外歯23と内歯11とが噛み合わない。
【0020】
カム31は、モータ1の入力軸52に固定される。モータ1を駆動させると、入力軸52とともに、カム31が、中心軸9を中心として第1回転数で回転する。これにより、フレックスギア20の上述した楕円の長軸も、第1回転数で回転する。そうすると、外歯23と内歯11との噛み合い位置も、周方向に第1回転数で変化する。また、上述の通り、インタナルギア10の内歯11の数と、フレックスギア20の外歯23の数とは、僅かに相違する。この歯数の差によって、カム31の1回転ごとに、外歯23と内歯11との噛み合い位置が、周方向に僅かに変化する。その結果、インタナルギア10に対してフレックスギア20が、中心軸9を中心として、第1回転数よりも低い第2回転数で回転する。したがって、フレックスギア20から、減速された第2回転数の回転運動を取り出すことができる。
【0021】
<2.センサ基板について>
<2−1.センサ基板の構成>
センサ基板40は、フレックスギア20にかかるトルクを検出するためのセンサが搭載された基板である。
図1に示すように、本実施形態では、円板状のダイヤフラム部221の円形の表面に、センサ基板40が固定されている。
【0022】
図3は、センサ基板40の表裏面のうち、ダイヤフラム部221に対向する裏面を示した図である。
図4は、センサ基板40の表裏面のうち、ダイヤフラム部221に対向しない表面を示した図である。
図5は、ダイヤフラム部221およびセンサ基板40の部分断面図である。
【0023】
本実施形態のセンサ基板40は、柔軟に変形可能なフレキシブルプリント基板(FPC)である。
図3および
図4に示すように、センサ基板40は、中心軸9を中心とする円環状の本体部41と、本体部41から半径方向外側へ向けて突出したフラップ部42とを有する。また、
図5に示すように、センサ基板40は、絶縁層43と、導体層44とを有する。絶縁層43は、絶縁体である樹脂からなる。導体層44は、導体である金属からなる。導体層44の材料には、例えば、銅または銅を含む合金が用いられる。本実施形態のセンサ基板40は、絶縁層43の表面と裏面との両方に、導体層44を有する。
【0024】
また、
図5に示すように、センサ基板40は、両面接着テープ45により、フレックスギア20のダイヤフラム部221に固定される。具体的には、ダイヤフラム部221の表面と、センサ基板40の裏面とが、両面接着テープ45を介して固定される。両面接着テープ45は、接着力を有する材料がテープ状に成形されて、形状を維持できる程度に硬化されたものである。このような両面接着テープ45を用いれば、流動性を有する接着剤を用いる場合よりも、ダイヤフラム部221に対するセンサ基板40の固定作業が容易となる。また、作業者による固定作業のばらつきを低減できる。
【0025】
センサ基板40には、回転角度検出センサS1、トルク検出センサS2、および温度センサS3と、信号処理回路46とが搭載されている。回転角度検出センサS1は、本体部41の表裏面のうち、ダイヤフラム部221に対向する裏面に形成された抵抗線パターンを有する。すなわち、裏面側の導体層44が、回転角度検出センサS1の抵抗線パターンを含む。トルク検出センサS2および温度センサS3は、本体部41の表裏面のうち、ダイヤフラム部221に対向しない表面に形成された抵抗線パターンを有する。すなわち、表面側の導体層44が、トルク検出センサS2の抵抗線パターンおよび温度センサS3の抵抗線パターンを含む。
【0026】
信号処理回路46は、フラップ部42に配置されている。
【0027】
<2−2.回転角度検出センサについて>
回転角度検出センサS1は、ダイヤフラム部221の歪みに基づいて、入力軸52の回転角度を検出するセンサである。
図3に示すように、回転角度検出センサS1は、4つの第1抵抗線パターンR1と、4つの第2抵抗線パターンR2とを含む。
【0028】
4つの第1抵抗線パターンR1は、中心軸9の周囲において、周方向に等間隔に配列されている。第1抵抗線パターンR1は、それぞれ、1本の導体がジグザグに曲折しながら周方向に延びる、全体として円弧状のパターンである。本実施形態では、中心軸9の周囲の約45°の角度範囲に、1つの第1抵抗線パターンR1が広がっている。また、第1抵抗線パターンR1は、複数の第1抵抗線r1を含む。複数の第1抵抗線r1は、周方向に微小な間隔をあけて配列される。各第1抵抗線r1は、フレックスギア20の半径方向に沿って、直線状に延びる。周方向に隣り合う第1抵抗線r1の端部同士は、半径方向の内側または外側で交互に接続される。これにより、複数の第1抵抗線r1が、全体として直列に接続される。
【0029】
4つの第2抵抗線パターンR2は、中心軸9の周囲において、周方向に等間隔に配列されている。第2抵抗線パターンR2は、それぞれ、1本の導体がジグザグに曲折しながら周方向に延びる、全体として円弧状のパターンである。本実施形態では、中心軸9の周囲の約45°の角度範囲に、1つの第2抵抗線パターンR2が広がっている。また、第2抵抗線パターンR2は、複数の第2抵抗線r2を含む。複数の第2抵抗線r2は、周方向に微小な間隔をあけて配列される。各第2抵抗線r2は、フレックスギア20の半径方向に沿って、直線状に延びる。周方向に隣り合う第2抵抗線r2の端部同士は、半径方向の内側または外側で交互に接続される。これにより、複数の第2抵抗線r2が、全体として直列に接続される。
【0030】
4つの第2抵抗線パターンR2は、4つの第1抵抗線パターンR1と同心円状に、かつ、周方向において第1抵抗線パターンR1が配置されない領域に、配置される。本実施形態では、第1抵抗線パターンR1と、第2抵抗線パターンR2とが、周方向に交互に配列される。そして、4つの第1抵抗線パターンR1と、4つの第2抵抗線パターンR2とが、全体として、中心軸9を中心とする円環状に広がっている。
【0031】
図6は、4つの第1抵抗線パターンR1を含む第1ブリッジ回路C1の回路図である。
図6の例では、4つの第1抵抗線パターンR1を、Ra,Rb,Rc,Rdとして区別して示している。第1抵抗線パターンRa,Rb,Rc,Rdは、
図3においてRaを1つ目として反時計回りにこの順に配列されている。
【0032】
図6に示すように、4つの第1抵抗線パターンRa,Rb,Rc,Rdは、第1ブリッジ回路C1に組み込まれている。第1抵抗線パターンRaと第1抵抗線パターンRbとは、この順に直列に接続される。第1抵抗線パターンRdと第1抵抗線パターンRcとは、この順に直列に接続される。そして、電源電圧の+極と−極との間において、2つの第1抵抗線パターンRa,Rbの列と、2つの第1抵抗線パターンRd,Rcの列とが、並列に接続される。また、第1抵抗線パターンRaおよび第1抵抗線パターンRbの中点M11と、第1抵抗線パターンRdおよび第1抵抗線パターンRcの中点M12とが、第1電圧計V1に接続される。
【0033】
図7は、4つの第2抵抗線パターンR2を含む第2ブリッジ回路C2の回路図である。
図7の例では、4つの第2抵抗線パターンR2を、Re,Rf,Rg,Rhとして区別して示している。第2抵抗線パターンReは、
図3において、第1抵抗線パターンRaと第1抵抗線パターンRdとの間に位置する。また、第2抵抗線パターンRe,Rf,Rg,Rhは、
図3においてReを1つ目として時計回りにこの順に配列されている。
【0034】
図7に示すように、4つの第2抵抗線パターンRe、Rf、Rg、Rhは、第2ブリッジ回路C2に組み込まれている。第2抵抗線パターンReと第2抵抗線パターンRfとは、この順に直列に接続される。第2抵抗線パターンRhと第2抵抗線パターンRgとは、この順に直列に接続される。そして、電源電圧の+極と−極との間において、2つの第2抵抗線パターンRe,Rfの列と、2つの第2抵抗線パターンRh,Rgの列とが、並列に接続される。また、第2抵抗線パターンReおよび第2抵抗線パターンRfの中点M21と、第2抵抗線パターンRhおよび第2抵抗線パターンRgの中点M22とが、第2電圧計V2に接続される。
【0035】
駆動装置100の駆動時には、ダイヤフラム部221に、半径方向に伸長する部分(以下「伸長部」と称する)と、半径方向に収縮する部分(以下「収縮部」と称する)とが、発生する。具体的には、2つの伸長部と2つの収縮部とが、周方向に交互に発生する。すなわち、伸長部と収縮部とは、周方向に90°間隔で交互に発生する。そして、これらの伸長部および収縮部の発生する箇所が、上述した第1回転数で回転する。
【0036】
センサ基板40の裏面に設けられた第1抵抗線パターンRa,Rb,Rc,Rdおよび第2抵抗線パターンRe、Rf、Rg、Rhの各抵抗値は、ダイヤフラム部221の半径方向の歪みに応じて変化する。例えば、上述した伸長部が、ある抵抗線パターンと重なるときには、その抵抗線パターンの抵抗値が増加する。また、上述した収縮部が、ある抵抗線パターンと重なるときには、その抵抗線パターンの抵抗値が低下する。
【0037】
図3の例では、収縮部が第1抵抗線パターンRa,Rcと重なるときには、伸長部が第1抵抗線パターンRb,Rdと重なる。また、伸長部が第1抵抗線パターンRa,Rcと重なるときには、収縮部が第1抵抗線パターンRb,Rdと重なる。したがって、第1ブリッジ回路C1では、第1抵抗線パターンRa,Rcと、第1抵抗線パターンRb,Rdとが、逆向きの抵抗値変化を示す。
【0038】
また、
図3の例では、収縮部が第2抵抗線パターンRe,Rgと重なるときには、伸長部が第2抵抗線パターンRf,Rhと重なる。また、伸長部が第2抵抗線パターンRe,Rgと重なるときには、収縮部が第2抵抗線パターンRf,Rhと重なる。したがって、第2ブリッジ回路C2では、第2抵抗線パターンRe,Rgと、第2抵抗線パターンRf,Rhとが、逆向きの抵抗値変化を示す。
【0039】
図8は、第1ブリッジ回路C1の第1電圧計V1の計測値v1と、第2ブリッジ回路C2の第2電圧計V2の計測値v2とを、示したグラフである。
図8のように、第1電圧計V1および第2電圧計V2からは、それぞれ、周期的に変化する正弦波状の計測値v1,v2が出力される。この計測値の周期Tは、上述した第1回転数の周期の1/2倍に相当する。また、第1電圧計V1の計測値の位相に対して、第2電圧計V2の計測値の位相が、第1回転数の1/8周期分(計測値v1,v2の1/4周期分)進んでいるか、それとも第1回転数の1/8周期分(計測値v1,v2の1/4周期分)遅れているかにより、入力される回転運動の向きを判断できる。
【0040】
したがって、これらの2つの電圧計V1,V2の計測値v1,v2に基づいて、フレックスギア20に入力される回転運動の回転角度を検出することができる。すなわち、これらの計測値v1,v2に基づいて、入力軸52の回転角度の計測値(第2計測値)が得られる。具体的には、例えば、第1電圧計V1および第2電圧計V2の各計測値v1,v2の組み合わせと、第2計測値とを対応づけた関数テーブルを予め用意し、その関数テーブルに計測値v1,v2を入力することにより、第2計測値を出力すればよい。
【0041】
<2−3.トルク検出センサについて>
トルク検出センサS2は、ダイヤフラム部221の歪みに基づいて、フレックスギア20にかかるトルクを検出するセンサである。
図4に示すように、トルク検出センサS2は、第3抵抗線パターンR3と、第4抵抗線パターンR4とを含む。
【0042】
第3抵抗線パターンR3は、1本の導体がジグザグに曲折しながら周方向に延びる、全体として円弧状または円環状のパターンである。本実施形態では、中心軸9の周囲の約360°の範囲に、第3抵抗線パターンR3が設けられている。また、第3抵抗線パターンR3は、複数の第3抵抗線r3を含む。複数の第3抵抗線r3は、互いに略平行な姿勢で、周方向に配列される。各第3抵抗線r3は、フレックスギア20の半径方向に対して、周方向一方側に傾斜している。半径方向に対する第3抵抗線r3の傾斜角度は、例えば45°とされる。周方向に隣り合う第3抵抗線r3の端部同士は、半径方向の内側または外側で交互に接続される。これにより、複数の第3抵抗線r3が、全体として直列に接続される。
【0043】
第4抵抗線パターンR4は、1本の導体がジグザグに曲折しながら周方向に延びる、全体として円弧状または円環状のパターンである。第4抵抗線パターンR4は、第3抵抗線パターンR3よりも、半径方向内側に位置する。本実施形態では、中心軸9の周囲の約360°の範囲に、第4抵抗線パターンR4が設けられている。また、第4抵抗線パターンR4は、複数の第4抵抗線r4を含む。複数の第4抵抗線r4は、互いに略平行な姿勢で、周方向に配列される。各第4抵抗線r4は、フレックスギア20の半径方向に対して、周方向他方側に傾斜している。半径方向に対する第4抵抗線r4の傾斜角度は、例えば45°とされる。周方向に隣り合う第4抵抗線r4の端部同士は、半径方向の内側または外側で交互に接続される。これにより、複数の第4抵抗線r4が、全体として直列に接続される。
【0044】
図9は、第3抵抗線パターンR3および第4抵抗線パターンR4を含む第3ブリッジ回路C3の回路図である。
図9に示すように、本実施形態の第3ブリッジ回路C3は、第3抵抗線パターンR3、第4抵抗線パターンR4、および2つの固定抵抗Rsを含む。第3抵抗線パターンR3と第4抵抗線パターンR4とは、直列に接続される。2つ固定抵抗Rsは、直列に接続される。そして、電源電圧の+極と−極との間において、2つ抵抗線パターンR3,R4の列と、2つの固定抵抗Rsの列とが、並列に接続される。また、第3抵抗線パターンR3および第4抵抗線パターンR4の中点M1と、2つの固定抵抗Rsの中点M2とが、第3電圧計V3に接続される。
【0045】
第3抵抗線パターンR3および第4抵抗線パターンR4の各抵抗値は、フレックスギア20にかかるトルクに応じて変化する。例えば、フレックスギア20に、中心軸9を中心として、周方向の一方側へ向かうトルクがかかると、第3抵抗線パターンR3の抵抗値が低下し、第4抵抗線パターンR4の抵抗値が増加する。一方、フレックスギア20に、中心軸9を中心として、周方向の他方側へ向かうトルクがかかると、第3抵抗線パターンR3の抵抗値が増加し、第4抵抗線パターンR4の抵抗値が低下する。このように、第3抵抗線パターンR3と第4抵抗線パターンR4とは、トルクに対して互いに逆向きの抵抗値変化を示す。
【0046】
そして、第3抵抗線パターンR3および第4抵抗線パターンR4の各抵抗値が変化すると、第3抵抗線パターンR3および第4抵抗線パターンR4の中点M1と、2つの固定抵抗Rsの中点M2との間の電位差が変化するので、第3電圧計V3の計測値v3が変化する。したがって、この第3電圧計V3の計測値v3に基づいて、フレックスギア20にかかるトルクの向きおよび大きさを検出することができる。すなわち、フレックスギア20にかかるトルクの計測値(第3計測値)を得ることができる。
【0047】
<2−4.リップル補正について>
駆動装置100の駆動時には、フレックスギア20に、周期的な撓み変形が生じる。したがって、上述したトルク検出センサS2の計測値には、本来計測したいトルクを反映した成分と、フレックスギア20の周期的な撓み変形に起因する誤差成分(リップル)とが含まれる。当該誤差成分は、フレックスギア20に入力される回転運動の回転角度に応じて変化する。
【0048】
そこで、信号処理回路46は、トルク検出センサS2の計測値から、上記の誤差成分をキャンセルするための補正処理を行う。
図10は、信号処理回路46の当該補正処理を、概念的に示した図である。
図10に示すように、本実施形態の信号処理回路46は、補正処理部461を有する。
【0049】
補正処理部461は、回転角度検出センサS1から、入力軸52の回転角度の計測値(第2計測値)を取得するとともに、トルク検出センサS2から、フレックスギア20にかかるトルクの計測値(第3計測値)を取得する。補正処理部461は、取得した第2計測値に応じて、上述した誤差成分を推定する。そして、推定された誤差成分を用いて、第3計測値を補正する。具体的には、第3計測値を、誤差成分をキャンセルする方向に増加または減少させる。これにより、フレックスギア20にかかるトルクをより精度よく反映した第3計測値を出力することができる。
【0050】
なお、補正処理部461は、上述した回転角度を演算することなく、第2計測値に所定の係数をかけて、第3計測値に合成してもよい。このようにすれば、回転角度の演算にかかる処理負担が削減されるため、補正処理部461の演算速度を向上させることができる。
【0051】
<2−5.温度補正について>
上述の通り、導体層44の材料に、銅または銅を含む合金を用いると、センサ基板40の材料費を抑えることができる。ただし、他の高価な材料と比べて、銅の抵抗値は、環境温度により変化しやすい。そこで、本実施形態のセンサ基板40は、温度の影響を補正するために、温度センサS3を備えている。
図4に示すように、温度センサS3は、フレックスギア20の周方向に沿って、円弧状または円環状に延びる第5抵抗線パターンR5を有する。
【0052】
図11は、第5抵抗線パターンR5を含む検出回路C4の回路図である。
図11に示すように、第5抵抗線パターンR5の一端は、定電流源47の+極に接続されている。また、第5抵抗線パターンR5の他端は、定電流源47の−極に接続されている。また、温度センサS3は、第4電圧計V4を有する。
図11に示すように、第4電圧計V4は、第5抵抗線パターンR5に対して並列に接続されている。したがって、第4電圧計V4は、第5抵抗線パターンR5の抵抗値に応じた電圧値を計測する。具体的には、定電流源47から供給される電流値をIoとすると、第4電圧計V4の計測値v4は、v4=Io×R5となる。
【0053】
第5抵抗線パターンR5は、円弧状または円環状であるため、第5抵抗線パターンR5の抵抗値は、フレックスギア20にかかるトルクの影響を受けにくく、温度による変化が支配的となる。したがって、第4電圧計V4の計測値v4は、動力伝達装置2の温度に応じて変動する。すなわち、第4電圧計V4の計測値v4に基づいて、動力伝達装置2の温度を示す計測値(第4計測値)を得ることができる。
【0054】
図10に示すように、信号処理回路46の補正処理部461は、トルク検出センサS2から得られるトルクの計測値(第3計測値)を、回転角度検出センサS1の計測値(第2計測値)だけではなく、温度センサS3の計測値(第4計測値)も考慮して、補正する。具体的には、第3計測値を、温度による変化をキャンセルする方向に増加または減少させる。このようにすれば、安価な銅または銅合金を使用しつつ、温度変化の影響を抑制して、フレックスギア20にかかるトルクを、より精度よく検出できる。
【0055】
<3.故障検出部について>
続いて、上述した回転角度検出センサS1において、抵抗線パターンの断線等の故障が発生したときに、その故障を検出する、故障検出システムの機能について、説明する。
図1、
図3、および
図4に示すように、本実施形態の駆動装置100は、故障検出部60を有する。センサ基板40の信号処理回路46は、故障検出部60と電気的に接続されている。故障検出部60は、CPU等のプロセッサや各種のメモリを備えたコンピュータ、または電気回路基板により構成される。
【0056】
図12は、故障検出部60の機能を概念的に示した図である。
図12に示すように、故障検出部60は、モータ1のエンコーダ53から、入力軸52の回転角度の計測値(第1計測値)を取得する。また、故障検出部60は、センサ基板40の回転角度検出センサS1から、信号処理回路46を通じて、入力軸52の回転角度の計測値(第2計測値)を取得する。そして、故障検出部60は、これらの第1計測値と第2計測値とを比較する。
【0057】
回転角度検出センサS1が故障していないときには、第1計測値と第2計測値は、入力軸52の回転角度に応じて、同様に変化する。ただし、モータ1のエンコーダ53は、光センサを利用しているため故障しにくいのに対し、回転角度検出センサS1の第1抵抗線パターンR1(Ra,Rb,Rc,Rd)および第2抵抗線パターンR2(Re,Rf,Rg,Rh)は、複雑な形状であるため、断線等の故障が発生する可能性が相対的に大きい。また、エンコーダ53の故障は、モータ1のドライバ回路により、単独で検出することができる。以下では、モータ1のドライバ回路により、エンコーダ53の故障が検出されていない場合について説明する。回転角度検出センサS1が故障すると、第1計測値と第2計測値との関係が、正常範囲から外れる。
【0058】
故障検出部60は、第1計測値と第2計測値の関係が、所定の正常範囲内である場合(
図12においてyesの場合)には、回転角度検出センサS1の第1抵抗線パターンR1(Ra,Rb,Rc,Rd)および第2抵抗線パターンR2(Re,Rf,Rg,Rh)に、断線等の故障は発生していないと判定する。一方、第1計測値と第2計測値の関係が、所定の正常範囲から外れた場合(
図12においてnoの場合)には、回転角度検出センサS1の第1抵抗線パターンR1(Ra,Rb,Rc,Rd)および第2抵抗線パターンR2(Re,Rf,Rg,Rh)のいずれかに、断線等の故障が発生したと判定する。
【0059】
なお、上述した判定処理に用いられる「第1計測値と第2計測値の関係」は、例えば、第1計測値と第2計測値の差分、または、第1計測値と第2計測値の比率とすればよい。すなわち、故障検出部60は、これらの差分または比率が、所定の正常範囲から外れた場合に、回転角度検出センサS1に故障が発生したと判定すればよい。
【0060】
その後、故障検出部60は、故障の有無に関する検出結果を出力する。具体的には、故障検出部60から外部のコントローラへ、検出結果を示す信号を出力する。検出結果は、故障検出部60またはコントローラが有する表示部に表示されてもよい。
【0061】
以上のように、この駆動装置100では、故障検出部60が、モータ1のエンコーダ53から、入力軸52の回転角度を示す第1計測値を取得するとともに、回転角度検出センサS1から、入力軸52の回転角度を示す第2計測値を取得する。そして、第1計測値と第2計測値の関係が、所定の正常範囲内であるか否かに基づいて、回転角度検出センサS1の故障を検出する。
【0062】
このようにすれば、回転角度検出センサS1の第2計測値が変化したときに、その変化が実際の入力軸52の回転によるものであるのか、それとも、回転角度検出センサS1の故障によるものであるのかを、切り分けることができる。また、回転角度検出センサS1の故障検出のために、同一のフレックスギア20に対して2つ以上の回転角度検出センサを設ける必要がない。
【0063】
また、回転角度検出センサS1が故障すると、回転角度検出センサS1から得られる第2計測値に基づいて補正される第3計測値も、不正確な値となる。しかしながら、本実施形態の駆動装置100は、故障検出部60により、回転角度検出センサS1が故障していないかどうかを、常時監視できる。したがって、補正後の第3計測値が信頼性のある出力値であるかどうかを、判断できる。
【0064】
<4.変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態には限定されない。
【0065】
上記の実施形態では、第1計測値を取得する「回転角度検出部」として、モータ1のエンコーダ53を利用していた。しかしながら、「回転角度検出部」は、エンコーダ53以外の計測器であってもよい。例えば、「回転角度検出部」は、入力軸52に固定されたロータの回転角度を、誘起電圧の変化や、磁力の変化により計測する計測器であってもよい。
【0066】
また、上記の実施形態の故障検出部60は、入力軸52の回転角度を示す第1計測値および第2計測値を比較することにより、回転角度検出センサS1の故障を検出していた。しかしながら、故障検出部60は、第1計測値および第2計測値をそれぞれ時間微分し、入力軸52の回転速度を示す値同士を比較することにより、回転角度検出センサS1の故障を検出してもよい。
【0067】
また、上記の実施形態では、信号処理回路46が、センサ基板40に搭載されていた。しかしながら、信号処理回路46は、センサ基板40の外部に設けられていてもよい。例えば、故障検出部60を構成するコンピュータまたは電気回路基板に、信号処理回路46が組み込まれていてもよい。また、モータ1のドライバ回路に、信号処理回路46や故障検出部60が、搭載されていてもよい。
【0068】
また、上記の実施形態では、各抵抗線パターンの材料に、銅または銅を含む合金が使用されていた。しかしながら、抵抗線パターンの材料に、SUS、アルミニウム等の他の金属を用いてもよい。また、抵抗線パターンの材料に、セラミックスや樹脂などの非金属材を用いてもよい。また、抵抗線パターンの材料に、導電性インクを用いてもよい。導電性インクを用いる場合には、センサ基板40の表面に、導電性インクで各抵抗線パターンをプリントすればよい。
【0069】
また、上記の実施形態のフレックスギア20では、ダイヤフラム部221が、筒状部21の基端部から半径方向外側へ向けて広がっていた。しかしながら、ダイヤフラム部221は、筒状部21の基端部から半径方向内側へ向けて広がるものであってもよい。
【0070】
また、上記の実施形態では、センサ基板40が、動力伝達装置2のフレックスギア20に固定されていた。しかしながら、センサ基板40は、フレックスギア20以外のギアに固定されるものであってもよい。
【0071】
また、上記の実施形態では、
図10のように、トルク検出センサS2の第3計測値を、回転角度検出センサS1の第2計測値に基づいて補正していた。しかしながら、第3計測値を、エンコーダ53の第1計測値に基づいて補正してもよい。例えば、回転角度検出センサS1が故障した場合に、第2計測値の代わりに第1計測値を使って、第3計測値を補正してもよい。
【0072】
また、上記の実施形態では、抵抗線パターンの抵抗値の変化により、ギア(可撓性外歯歯車)の歪みを検出していた。しかしながら、ギアに磁性を持たせ、ギアの弾性変形に応じた磁気歪特性の変化を磁気センサ等で検出することで、歪みを検出してもよい。この場合、上記の実施形態よりも、歪みの検出感度は劣るものの、歪みがある部分と非接触で歪みを検出できるため、上記の実施形態よりもセンサの耐久性を向上させることができる。
【0073】
また、上記の実施形態では、エンコーダ53の故障が、モータのドライバ回路により検出されていないことを前提として、故障検出部60により、回転角度検出センサS1の故障を検出していた。しかしながら、エンコーダ53が正常であることを前提にできない場合には、故障検出部60は、エンコーダ53(回転角度取得部)または回転角度検出センサS1の故障を検出するものとして、使用してもよい。
【0074】
また、上記の実施形態では、駆動装置100が、故障検出部60を備えていた。すなわち、駆動装置100自体が、故障検出システムとしての機能を有していた。しかしながら、故障検出部60は、駆動装置100とは別に設けられていてもよい。そして、駆動装置100と故障検出部60とで、故障検出システムが構成されていてもよい。
【0075】
その他、故障検出システムの細部の構成については、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜に変更してもよい。また、上記の各実施形態および各変形例に登場した要素を、矛盾が生じない範囲で、適宜に組み合わせてもよい。