特開2021-14559(P2021-14559A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 住化スタイロンポリカーボネート株式会社の特許一覧

特開2021-14559蓄光性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物、蓄光性樹脂成形品及びその製造方法
<>
  • 特開2021014559-蓄光性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物、蓄光性樹脂成形品及びその製造方法 図000011
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-14559(P2021-14559A)
(43)【公開日】2021年2月12日
(54)【発明の名称】蓄光性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物、蓄光性樹脂成形品及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 69/00 20060101AFI20210115BHJP
   C08K 3/24 20060101ALI20210115BHJP
【FI】
   C08L69/00
   C08K3/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2019-131429(P2019-131429)
(22)【出願日】2019年7月16日
(71)【出願人】
【識別番号】396001175
【氏名又は名称】住化ポリカーボネート株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001276
【氏名又は名称】特許業務法人 小笠原特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】河田 彰
(72)【発明者】
【氏名】太白 啓介
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002CG011
4J002DA117
4J002DE186
4J002DH048
4J002EE039
4J002EH059
4J002EP029
4J002EU179
4J002EU189
4J002EW069
4J002FA026
4J002FA027
4J002FA028
4J002FD059
4J002FD079
4J002FD169
4J002FD206
4J002FD207
4J002FD208
4J002GP00
4J002GQ00
4J002GT00
(57)【要約】
【課題】蓄光性に優れ、蓄光剤の性状に起因する芳香族ポリカーボネート樹脂の分子量低下を大幅に改良した蓄光性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物、並びに、当該樹脂組成物からなる蓄光性樹脂成形品及びその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る蓄光性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して、アルカリ土類金属酸化物にランタノイド系希土類元素をドープした蓄光性化合物にリン原子を含む微小突起が複数付着した蓄光剤(B)1〜35質量部を含有する。また、本発明に係る蓄光性樹脂成形品は、上記の蓄光性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物からなり、本発明に係る蓄光性樹脂成形品の製造方法は、上記の蓄光性芳香続ポリカーボネート樹脂組成物を成形することを含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して、アルカリ土類金属酸化物にランタノイド系希土類元素をドープした蓄光性化合物にリン原子を含む微小突起が複数付着した蓄光剤(B)1〜35質量部を含有することを特徴とする、蓄光性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項2】
前記アルカリ土類金属酸化物がアルミン酸ストロンチウム化合物である、請求項1記載の蓄光性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項3】
前記蓄光剤(B)の微小突起の長径が0.1μm〜1.5μmである、請求項1記載の蓄光性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項4】
前記蓄光剤(B)の平均粒径が、1〜60μmである、請求項1記載の蓄光性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項5】
前記芳香族ポリカーボネート樹脂(A)の粘度平均分子量をMW0、前記芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の粘度平均分子量をMW1としたとき、MW0からMW1を減じた値が1000以下である、蓄光性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項6】
熱安定剤、酸化防止剤、離型剤、紫外線吸収剤、着色剤、軟化剤、帯電防止剤、光拡散剤、蛍光増白剤、及び衝撃性改良剤を含有する群から選択される少なくとも1種を更に含有する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の蓄光性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の蓄光性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物からなる、蓄光性樹脂成形品。
【請求項8】
前記蓄光性樹脂成形品が、避難誘導標識、夜間表示標識、標示ボタン、時計文字盤、スイッチ、コネクター部品またはアクセサリである、請求項7記載の蓄光性樹脂成形品。
【請求項9】
請求項1〜6のいずれかに記載の蓄光性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を成形することを含む、蓄光性樹脂成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄光性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物、蓄光性樹脂成形品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
暗所において長時間(約10分〜数時間)にわたり残光が肉眼で認められる蛍光体を蓄光性蛍光体あるいは蓄光剤と呼ぶが、例えば、ZnS:Cu、ZnCdS:Cu、CaS:Bi、CaSrS:Bi等が知られている。これらの化合物は紫外線などで光学的励起が行われた後、照射を終えると長時間に渡り発光する。そして樹脂材料に蓄光性蛍光体を配合した成形品は、避難誘導標識、表示灯、夜光標示、蓄光標識及び装飾品等の用途で広く使用されている。
【0003】
一方、芳香族ポリカーボネート樹脂は、多くの優れた特性を有し広い分野で使用されており、蓄光性材料と組み合わせる樹脂材料としても検討され実用化が図られている。例えば、特許文献1には、蓄光性物質と蛍光性物質と芳香族ポリカーボネート樹脂等の透明樹脂とからなる発光部材が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−146125号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、芳香族ポリカーボネート樹脂に従来の蓄光性蛍光体(蓄光剤)を配合すると、当該蓄光剤の性状に起因して得られるポリカーボネート樹脂組成物の分解が生じて、芳香族ポリカーボネート樹脂材料としての要求特性(例えば、衝撃強度や透明性)を十分に満足しなくなる等の問題があった。また、従来の蓄光剤は、湿気が存在すると紫外線により光分解が生じ、輝度が低下する場合があり、屋外で直接太陽光(紫外線光)に長期に亘り暴露されるような用途での使用は難しく、避難誘導標識、夜間表示標識、標示ボタン、時計文字盤等の用途は限定されていた。近年では、屋外で直接太陽光(紫外線光)に長期に亘り暴露されるような用途に使用した場合でも、蓄光性にも優れるとともに、透明性や衝撃強度の低下が少ないポリカーボネート樹脂組成物材料が求められている。
【0006】
本発明は、蓄光性に優れ、蓄光剤の性状に起因する芳香族ポリカーボネート樹脂の分子量低下を大幅に改良した蓄光性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物、並びに、当該樹脂組成物からなる蓄光性樹脂成形品及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、アルカリ土類金属酸化物にランタノイド系希土類元素をドープした蓄光性化合物にリン原子を含む微小突起が複数付着した蓄光剤を特定割合配合することにより、蓄光性が損なわれることがなく、ポリカーボネート樹脂の分子量低下も充分に改善された芳香族ポリカーボネート樹脂組成物が得られることを知見し更に検討を重ねて本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明に係る蓄光性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して、アルカリ土類金属酸化物にランタノイド系希土類元素をドープした蓄光性化合物にリン原子を含む微小突起が複数付着した蓄光剤(B)1〜35質量部を含有する。また、本発明に係る蓄光性樹脂成形品は、上記の蓄光性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物からなるものである。本発明に係る蓄光性樹脂成形品の製造方法は、上記の蓄光性芳香続ポリカーボネート樹脂組成物を成形することを含む。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、蓄光性に優れ、蓄光剤の性状に起因する芳香族ポリカーボネート樹脂の分子量低下を大幅に改良した蓄光性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物、蓄光性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物からなる蓄光性樹脂成形品及びその製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】表面処理を施した蓄光性化合物のSEM写真
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、実施の形態を詳細に説明する。ただし、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明や実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。これは、以下の説明が不必要に冗長になるのを避け、当業者の理解を容易にするためである。
【0012】
なお、発明者らは当業者が本発明を充分に理解するために以下の説明を提供するのであって、これらによって請求の範囲に記載の主題を限定することを意図するものではない。
【0013】
本発明の実施形態の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して、アルカリ土類金属酸化物にランタノイド系希土類元素をドープした蓄光性化合物にリン原子を含む微小突起が複数付着した蓄光剤(B)1〜35質量部を含有するものである。
【0014】
本発明にて使用される芳香族ポリカーボネート樹脂(A)は、芳香族化合物に由来する構成単位を有するポリカーボネート樹脂であって、本発明が目的とする芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を得ることができる限り特に制限されることはない。そのような芳香族ポリカーボネート樹脂として、例えば、種々のジヒドロキシジアリール化合物とホスゲンとを反応させるホスゲン法、又はジヒドロキシジアリール化合物とジフェニルカーボネート等の炭酸エステルとを反応させるエステル交換法によって得られる重合体を例示できる。代表例は、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)から製造されたポリカーボネート樹脂を含有する。
【0015】
ジヒドロキシジアリール化合物として、ビスフェノールAの他に、例えば、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)オクタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル−3−メチルフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−第三ブチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−ブロモフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3、5−ジブロモフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジクロロフェニル)プロパン等のビス(ヒドロキシアリール)アルカン類;1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン等のビス(ヒドロキシアリール)シクロアルカン類;4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルエーテル等のジヒドロキシジアリールエーテル類;4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィド等のジヒドロキシジアリールスルフィド類;4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルホキシド等のジヒドロキシジアリールスルホキシド類;4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルホン等のジヒドロキシジアリールスルホン類を例示できる。これらは単独で又は組み合わせて使用できる。これらの他にも、ピペラジン、ジピペリジルハイドロキノン、レゾルシン、4,4’ジヒドロキシジフェニル等を組み合わせて使用することができる。
【0016】
さらに、ジヒドロキシジアリール化合物と、例えば以下に示す3価以上の芳香族化合物とを組み合わせて使用してもよい。
【0017】
3価以上のフェノール化合物として、例えば、フロログルシン、4,6−ジメチル−2,4,6−トリ−(4−ヒドロキシフェニル)−ヘプテン、2,4,6−ジメチル−2,4,6−トリ−(4−ヒドロキシフェニル)−ヘプタン、1,3,5−トリ−(4−ヒドロキシフェニル)−ベンゾール、1,1,1−トリ−(4−ヒドロキシフェニル)−エタン及び2,2−ビス−[4,4−(4,4´−ジヒドロキシジフェニル)−シクロヘキシル]−プロパン等を例示できる。
【0018】
芳香族ポリカーボネート樹脂(A)の粘度平均分子量は、10000〜100000であることが好ましく、12000〜30000であることがより好ましい。なお、このような芳香族ポリカーボネート樹脂(A)を製造する際には分子量調節剤、触媒等を必要に応じて使用することができる。
【0019】
本発明にて使用される蓄光剤(B)は、SrAlやSrAl1425等のアルミン酸ストロンチウム化合物等のアルカリ土類金属酸化物にEu、Dy等のランタノイド系希土類元素をドープした蓄光性化合物にリン原子を含む微小突起が複数付着(乃至固着)した蓄光剤である。
【0020】
一般的に、蓄光性化合物は、紫外線などの光を蓄え、光の照射を停止した後でも、放光という形で長時間に渡り発光し続けるものをいい、光励起終了後は、数分〜数十時間程度の残光持続性を持つものを意味する。蓄光性化合物の中でもとりわけ、アルミン酸塩系の蓄光性化合物を蓄光剤(B)の原料として使用するのが好ましい。アルミン酸塩系の蓄光性化合物は、例えば、SrAlやSrAl1425で表される化合物を母結晶とし、賦活剤としてのユウロピウムEuを特定範囲のモル%で添加し、共賦活剤としてのジスプロシウムDyをEuに対して特定のモル比で添加し、更にAlの割合をSrとEuとDyのモル数の合計に対して特定範囲としたものである。
【0021】
本発明では、このアルミン酸塩系等のアルカリ土類金属酸化物にランタノイド系希土類元素をドープした蓄光性化合物の原料粉末に表面処理を施した蓄光性化合物を蓄光剤(B)として使用する。この表面処理により、水(湿気)との接触により蓄光性化合物に変性(紫外線による光分解を含む)が生じたり、混合されるポリカーボネート樹脂材料に対して分子量低下などの悪影響を及ぼしたりするといった欠点が防止されるよう、蓄光性化合物が表面改質される。
【0022】
上記表面処理としては、例えば、次の工程を必要に応じて包含する方法が挙げられる。蓄光顔料原料粉末を、塩酸、硝酸及び硫酸から選ばれた少なくとも1種の無機酸とリン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素アンモニウム及びリン酸水素二アンモニウムから選ばれた少なくとも1種のリン酸塩を含む水溶液に加え20〜30℃の温度にて撹拌し、酸/リン酸塩処理を行う工程。このとき、上記水溶液中の蓄光顔料原料粉末:リン酸塩の質量比率を100:4〜14となるようにし、上記水溶液中の無機酸の量を、水溶液のpHが5.0以下となる量とする。必要に応じて、酸/リン酸塩処理により得られた蓄光顔料を水で洗浄、もしくは、アルカリ水溶液で中和処理(pHを6.8〜7.2の範囲に調整)を行った後、乾燥を行う工程を行っても良い。酸/リン酸塩処理に使用される水溶液に含まれる無機酸が硝酸であり、リン酸塩がリン酸二水素ナトリウムであることが好ましい。
【0023】
上記表面処理を施されたアルミン酸塩系等のアルカリ土類金属酸化物にランタノイド系希土類元素をドープした蓄光性化合物は、リン原子を含む微小突起が複数付着(乃至固着)した蓄光性化合物として得ることが出来る。表面処理後の蓄光性化合物は、水(湿気)との接触に対して安定性が高く、耐水性(防湿性)に優れた蓄光性化合物となり、優れた残光特性を有し、未処理の蓄光性化合物よりも初期残光輝度が高く、低照度であっても充分に励起され、効果的に発光し、屋外用途にも適する。蛍光X線(XRF)分析(リガク製NEX−CG)の結果、表面処理前の蓄光性化合物表面にはリン元素は検出されなかったが、表面処理後の蓄光性化合物表面にはリン元素が検出された。また、SEM/EDX(日本電子製JSM−IT500HR)で加速電圧を5kVとして、表面状態を観察した結果、表面処理前の蓄光性化合物表面には、リン元素を含む微小突起は観察されなかったが、表面処理後の蓄光性化合物表面には、図1に示すように、0.1〜1.5μm程度の大きさ(長径)のリン元素を含む微小突起が複数(多数)観察された。また、同装置で加速電圧を15kVとして、表面処理後の蓄光性化合物の表面を元素分析した結果は、以下の通りであった。尚、表1に記載の数値の単位は、質量%である。
【0024】
【表1】
【0025】
表1に示す通り、本願発明にて使用される、リン原子を含む微小突起が複数付着(乃至固着)した蓄光性化合物は、微小突起部分にリン原子を集中的に含んでいることが確認された。蓄光性化合物の微小突起部分には、ジスプロシウムも局在化していた。また、微小突起以外の部分に、リンが含まれる蓄光性化合物と含まれない蓄光性化合物とがあったが、前者の蓄光性化合物においては、リンは、微小突起部分に相対的に多く含まれていた。
【0026】
本発明者らは、表面処理後に多数のリン原子を含む微小突起が蓄光性化合物の原料粉末の表面に形成されることにより、これらの多数の微小突起が連携して水(湿気)の蓄光性化合物表面や内部への湿潤(吸収)をブロックする皮膜の如き作用をなすこととなり、原料粉末同士の凝集、水(湿気)との接触により変性が生じること等が効果的に防止され、これにより蓄光性化合物としての輝度特性を長期間消失せず、溶融混練されるポリカーボネート樹脂材料に対して樹脂の分子量低下などの悪影響も及ぼさないようになったと推測している。現に、後述する実施例では、本発明にて使用される蓄光剤(B)を芳香族ポリカーボネート樹脂と溶融混練しても、優れた蓄光性が継続的に維持され、ポリカーボネート樹脂に対する加水分解特性の低下(分子量低下)を生じる可能性も著しく低減されることを確認した。この結果から、本発明にて使用される蓄光剤(B)が、様々な環境下で発生する湿気(水蒸気)と接触しても湿気を吸い込むことが防止され、太陽光に暴露された場合でも変性が抑制されるということが理解される。また、本発明にて使用される蓄光剤(B)は、保管時において湿気を含むことも抑制されている。
【0027】
蓄光剤(B)は1〜500μmの平均粒径を有するものが好ましい。1μm未満のものや500μmより大きいものは製造上困難であるため、実用的でなく入手が困難なため好ましくない。10〜60μmの範囲のものが実用上より好ましい。さらに、平均粒径が異なる2種類以上の蓄光剤を併用して使用することもできる。
【0028】
蓄光剤(B)の配合量としては、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して、1〜35質量部であり、好ましくは、2〜25質量部である。蓄光剤(B)の配合量が1質量部未満であると、蓄光剤の蓄光効果が得られにくくなるため好ましくない。一方、35質量部を越えると、分子量低下が大きくなり透明性や耐衝撃性が低下するため好ましくない。
【0029】
表面処理後の蓄光性化合物の表面をSEM/EDXで元素分析した結果、リン原子については、微小突起部分で2.0%以上であればよく、微小突起以外の部分では、1.0%未満であればよい。微小突起以外の部分でリン原子が検出される場合、微小突起部分で検出されるリン原子の割合は、微小突起以外で検出されるリン原子の2倍以上であればよい。また、ジスプロシウム原子については、微小突起部分で、1.0%以上であればよく、微小突起以外ではジスプロシウム原子は、蓄光性化合物の0.5%未満であればよい。微小突起以外の部分でジスプロシウム原子が検出される場合、微小突起部分で検出されるジスプロシウム原子の割合は、微小突起以外で検出されるジスプロシウム原子の2倍以上であればよい。
【0030】
蓄光剤(B)としては、例えば、エルティーアイ社製のGDK11010WP(組成式:SrAl:Eu,Dy、平均粒径10μm、グリーン発光色),GDK11025WP(組成式:SrAl:Eu,Dy、平均粒径25μm、グリーン発光色)、GDK11060WP(組成式:SrAl:Eu,Dy、平均粒径60μm、グリーン発光色),GDK13010WP(組成式:SrAl:Eu,Dy、平均粒径10μm、グリーン発光色)、GDK13025WP(組成式:SrAl:Eu,Dy、平均粒径25μm、グリーン発光色),GDK13060WP(組成式:SrAl:Eu,Dy、平均粒径60μm、グリーン発光色)、またはGDK13100WP(組成式:SrAl:Eu,Dy、平均粒径100μm、グリーン発光色)、BDK11025WP(組成式:SrAl1425:Eu,Dy、平均粒径25μm、ブルー発光色)、BDK13015WP(組成式:SrAl1425:Eu,Dy、平均粒径15μm、ブルー発光色)、BDK13030WP(組成式:SrAl1425:Eu,Dy、平均粒径30μm、ブルー発光色)等が商業的に入手可能である。
【0031】
本発明の実施形態の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、さらに、リン系酸化防止剤を含むことができる。芳香族ポリカーボネート樹脂組成物が、蓄光剤(B)とリン系酸化防止剤とを同時に含む場合、蓄光性成形品に求められる優れた蓄光特性を維持向上させつつ、特に、得られる芳香族ポリカーボネート樹脂組成物からなる蓄光成形品の初期蓄光特性を劣化させず、加えて使用状況に起因する劣化やエージング劣化などの劣化を防止することが出来る。
【0032】
リン系酸化防止剤は、本発明が目的とする芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を得られる限り特に制限されることはないが、下記亜リン酸エステル構造を有する亜リン酸エステル化合物を含むことが好ましい。
【化1】
【0033】
本発明の実施形態の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、リン系酸化防止剤が、下記式(1)で表される亜リン酸エステル化合物、下記式(2)で表される亜リン酸エステル化合物、下記式(3)で表される亜リン酸エステル化合物及び下記式(4)で表される亜リン酸エステル化合物から選択される少なくとも1種以上の化合物を含むことが好ましい。
【0034】
式(1):
【化2】
(式中、Rは、炭素数1〜20のアルキル基を示し、aは、0〜3の整数を示す)
【0035】
式(1)において、Rは、炭素数1〜20のアルキル基であるが、さらには、炭素数1〜10のアルキル基であることが好ましい。
【0036】
式(1)で表される化合物としては、例えば、トリフェニルホスファイト、トリクレジルホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイト、トリスノニルフェニルホスファイト等が挙げられる。これらの中でも、特にトリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイトが好適であり、例えば、BASF社製のイルガフォス168(「イルガフォス」はビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピアの登録商標)として商業的に入手可能である。
【0037】
式(2):
【化3】
(式中、R、R、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数5〜8のシクロアルキル基、炭素数6〜12のアルキルシクロアルキル基、炭素数7〜12のアラルキル基又はフェニル基を示す。Rは、水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基を示す。Xは、単結合、硫黄原子又は式:−CHR−(ここで、Rは、水素原子、炭素数1〜8のアルキル基又は炭素数5〜8のシクロアルキル基を示す)で表される基を示す。Aは、炭素数1〜8のアルキレン基又は式:*−COR−(ここで、Rは、単結合又は炭素数1〜8のアルキレン基を示し、*は、酸素側の結合手であることを示す)で表される基を示す。Y及びZは、いずれか一方がヒドロキシル基、炭素数1〜8のアルコキシ基又は炭素数7〜12のアラルキルオキシ基を示し、もう一方が水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基を示す。)
【0038】
炭素数1〜8のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、t−ペンチル基、i−オクチル基、t−オクチル基、2−エチルヘキシル基等が挙げられる。炭素数5〜8のシクロアルキル基としては、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基等が挙げられる。炭素数6〜12のアルキルシクロアルキル基としては、例えば、1−メチルシクロペンチル基、1−メチルシクロヘキシル基、1−メチル−4−i−プロピルシクロヘキシル基等が挙げられる。炭素数7〜12のアラルキル基としては、例えば、ベンジル基、α−メチルベンジル基、α,α−ジメチルベンジル基等が挙げられる。
【0039】
、R及びRは、それぞれ独立して、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数5〜8のシクロアルキル基又は炭素数6〜12のアルキルシクロアルキル基であることが好ましい。特に、R及びRは、それぞれ独立して、t−ブチル基、t−ペンチル基、t−オクチル基等のt−アルキル基、シクロヘキシル基又は1−メチルシクロヘキシル基であることが好ましい。特に、Rは、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、t−ペンチル基等の炭素数1〜5のアルキル基であることが好ましく、メチル基、t−ブチル基又はt−ペンチル基であることがさらに好ましい。
【0040】
は、水素原子、炭素数1〜8のアルキル基又は炭素数5〜8のシクロアルキル基であることが好ましく、水素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、t−ペンチル基等の炭素数1〜5のアルキル基であることがさらに好ましい。
【0041】
式(2)において、Rは、水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基を示す。炭素数1〜8のアルキル基としては、例えば、R、R、R及びRの説明にて例示したアルキル基が挙げられる。特に、Rは、水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基であることが好ましく、水素原子又はメチル基であることがさらに好ましい。
【0042】
式(2)において、Xは、単結合、硫黄原子又は式:−CHR−で表される基を示す。ここで、式:−CHR−中のRは、水素原子、炭素数1〜8のアルキル基又は炭素数5〜8のシクロアルキル基を示す。炭素数1〜8のアルキル基及び炭素数5〜8のシクロアルキル基としては、例えば、それぞれR、R、R及びRの説明にて例示したアルキル基及びシクロアルキル基が挙げられる。特に、Xは、単結合、メチレン基、又はメチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、t−ブチル基等で置換されたメチレン基であることが好ましく、単結合であることがさらに好ましい。
【0043】
式(2)において、Aは、炭素数1〜8のアルキレン基又は式:*−COR−で表される基を示す。炭素数1〜8のアルキレン基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基、オクタメチレン基、2,2−ジメチル−1,3−プロピレン基等が挙げられ、好ましくはプロピレン基である。また、式:*−COR−におけるRは、単結合又は炭素数1〜8のアルキレン基を示す。Rを示す炭素数1〜8のアルキレン基としては、例えば、Aの説明にて例示したアルキレン基が挙げられる。Rは、単結合又はエチレン基であることが好ましい。また、式:*−COR−における*は、酸素側の結合手であり、カルボニル基がフォスファイト基の酸素原子と結合していることを示す。
【0044】
式(2)において、Y及びZは、いずれか一方がヒドロキシル基、炭素数1〜8のアルコキシ基又は炭素数7〜12のアラルキルオキシ基を示し、もう一方が水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基を示す。炭素数1〜8のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、t−ブトキシ基、ペンチルオキシ基等が挙げられる。炭素数7〜12のアラルキルオキシ基としては、例えば、ベンジルオキシ基、α−メチルベンジルオキシ基、α,α−ジメチルベンジルオキシ基等が挙げられる。炭素数1〜8のアルキル基としては、例えば、R、R、R及びRの説明にて例示したアルキル基が挙げられる。
【0045】
式(2)で表される化合物としては、例えば、2,4,8,10−テトラ−t−ブチル−6−〔3−(3−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)プロポキシ〕ジベンゾ〔d,f〕〔1,3,2〕ジオキサホスフェピン、6−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロポキシ]−2,4,8,10−テトラ−t−ブチルジベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキサホスフェピン、6−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロポキシ]−4,8−ジ−t−ブチル−2,10−ジメチル−12H−ジベンゾ[d,g][1,3,2]ジオキサホスホシン、6−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]−4,8−ジ−t−ブチル−2,10−ジメチル−12H−ジベンゾ[d,g][1,3,2]ジオキサホスホシン等が挙げられる。これらの中でも、特に光学特性が求められる分野に、得られる芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を用いる場合には、2,4,8,10−テトラ−t−ブチル−6−〔3−(3−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)プロポキシ〕ジベンゾ〔d,f〕〔1,3,2〕ジオキサホスフェピンが好適であり、例えば、住友化学(株)製のスミライザーGP(「スミライザー」は登録商標)として商業的に入手可能である。
【0046】
式(3):
【化4】
(式中、R及びR10は、それぞれ独立して、炭素数1〜20のアルキル基又はアルキル基で置換されていてもよいアリール基を示し、b及びcは、それぞれ独立して、0〜3の整数を示す。)
【0047】
式(3)で表される化合物としては、例えば、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイト、フェニルビスフェノールAペンタエリスリトールジフォスファイト等が挙げられる。ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイトは、ADEKA社製、商品名「アデカスタブPEP−24G」として商業的に入手可能である。(株)ADEKA製のアデカスタブPEP−36(「アデカスタブ」は登録商標)が商業的に入手可能である。
【0048】
式(4):
【化5】
【0049】
(式中、R11〜R18は、それぞれ独立に、炭素数1〜3のアルキル基またはアルケニル基を示す。R11とR12、R13とR14、R15とR16、R17とR18とは、互いに結合して環を形成していても良い。R19〜R22は、それぞれ独立に、水素原子または炭素数1〜20のアルキル基を示す。d〜gは、それぞれ独立して、0〜5の整数である。X〜Xは、それぞれ独立に、単結合または炭素原子を示す。X〜Xが単結合である場合、R11〜R22のうち、当該単結合に繋がった官能基は一般式(14)から除外される)
【0050】
式(4)で表される化合物の具体例としては、例えばビス(2,4−ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイトが挙げられる。これは、Dover Chemical社製、商品名「Doverphos(登録商標) S−9228」、ADEKA社製、商品名「アデカスタブPEP−45」(ビス(2,4−ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイト)として商業的に入手可能である。
【0051】
さらに、上記の他にもテトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレン−ジ−ホスホナイト等が挙げられる。このような、有機ホスホナイト化合物としては、具体的には、例えば、クラリアントジャパン社製Sandstab PEPQ等も挙げることができる。
【0052】
リン系酸化防止剤の量は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して、0.5質量部以下であることが好ましく、0.02〜0.2質量部であることがより好ましい。
【0053】
本発明の実施形態の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、さらに、離型剤を含むことができる。芳香族ポリカーボネート樹脂組成物が、蓄光剤(B)と離型剤とを同時に含む場合、蓄光性成形品に求められる優れた蓄光特性を維持向上させつつ、黄変を抑制し、色相を向上させる効果や、押出成形性を付与する効果を得ることが出来る。
【0054】
離型剤は、本発明が目的とする芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を得られる限り特に制限されることはないが、脂肪酸エステルが好ましい。
【0055】
脂肪酸エステルの具体例としては、例えば、ベヘニルベヘネート、オクチルドデシルベヘネート、ステアリルステアレート、グリセリンモノパルミテート、グリセリンモノステアレート、グリセリンモノオレート、グリセリンジステアレート、グリセリントリステアレート、ペンタエリスリトールモノパルミテート、ペンタエリスリトールモノステアレート、ペンタエリスリトールジステアレート、ペンタエリスリトールトリステアレート、ペンタエリスリトールテトラステアレート等が挙げられ、これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、グリセリンモノステアレート、ペンタエリスリトールジステアレート等のステアリン酸エステルが好適であり、例えば、理研ビタミン(株)製のリケマールS−100A(商品名)や日油(株)製のユニスターH476DP(「ユニスター」は登録商標)が商業的に入手可能である。
【0056】
離型剤の量は、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して0.03〜0.5質量部であり、0.05〜0.2質量部であることが好ましい。離型剤の量が0.03質量部未満の場合は、黄変を抑制し、色相を向上させる効果や、押出成形性を付与する効果が不充分である。離型剤の量が0.5質量部を超える場合も、色相を向上させる効果や、押出成形性を付与する効果が不充分となってしまう。
【0057】
さらに、以上の成分に加えて、実施の形態に係る芳香族ポリカーボネート樹脂組成物には、本発明における効果を損なわない範囲で、例えば、紫外線吸収剤、着色剤、軟化剤、帯電防止剤、熱安定剤、光拡散剤、蛍光増白剤、衝撃性改良剤等の各種添加剤、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)以外のポリマー等が適宜配合されていてもよい。例えば、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の耐候性をより向上させる成分である紫外線吸収剤を、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を成形して得られる成形品の用途に応じて適宜用いることができる。
【0058】
紫外線吸収剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系化合物、トリアジン系化合物、ベンゾフェノン系化合物、シュウ酸アニリド系化合物等の、ポリカーボネート樹脂に通常配合される紫外線吸収剤を、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0059】
ベンゾトリアゾール系化合物としては、例えば、2−(2−ヒドロキシ−5−t−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(3−tert−butyl−2−hydroxy−5−methylphenyl)−5−chloro−2H−benzotriazole、2−(3,5−di−tert−pentyl−2−hydroxyphenyl)−2H−benzotriazole、2−(2H−benzotriazole−2−yl)−4−methyl−6−(3,4,5,6−tetrahydrophthalimidylmethyl)phenol、2−(2−hydroxy−4−octyloxyphenyl)−2H−benzotriazole、2−(2−hydroxy−5−tert−octylphenyl)−2H−benzotriazole、2−[2’−hydroxy−3,5−di(1,1−dimethylbenzyl)phenyl]−2H−benzotriazole、2,2’−Methylenbis[6−(2H−benzotriazol−2−yl)4−(1,1,3,3−tetramethylbutyl)phenol]などが挙げられる。なかでも、特に、2−(2−ヒドロキシ−5−t−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール等が好適であり、例えば、BASF社製のTINUVIN 329(TINUVINは登録商標)、シプロ化成(株)製のシーソーブ709、ケミプロ化成(株)製のケミソーブ79等が商業的に入手可能である。
【0060】
トリアジン系化合物としては、例えば、2,4−ジフェニル−6−(2−ヒドロキシフェニル−4−ヘキシルオキシフェニル)1,3,5−トリアジン、2−[4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジン−2−イル]−5−(オクチルオキシ)フェノール、2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−[(ヘキシル)オキシ]フェノール等が挙げられ、例えば、BASF社製のTINUVIN 1577等が商業的に入手可能である。
【0061】
シュウ酸アニリド系化合物としては、例えば、クラリアントジャパン(株)製のSanduvor VSU等が商業的に入手可能である。ベンゾフェノン系化合物としては、例えば、2、4−dihydroxybenzophenone、2−hydroxy−4−n−octoxybenzophenoneなどが挙げられる。
【0062】
紫外線吸収剤の量は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して0〜1.0質量部であることが好ましく、0〜0.5質量部であることがより好ましい。紫外線吸収剤の量が1.0質量部を超える場合は、得られる芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の初期の色相が低下するおそれがある。紫外線吸収剤の量が0.1質量部以上であれば、特に、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の耐候性を向上させる効果がより奏される。
【0063】
本発明の実施形態の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)、蓄光剤(B)およびその他の各種添加剤等を混合することにより製造することができる。本発明が目的とする芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を得ることができる限り、その製造方法は特に制限されることはなく、各成分の種類及び量を適宜調整することができる。成分の混合方法も特に制限されることはなく、例えば、タンブラー、及びリボンブレンダー等の公知の混合機にて混合する方法や、押出機にて溶融混練する方法を例示できる。これらの方法により、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物のペレットを容易に得ることができる。
【0064】
芳香族ポリカーボネート樹脂(A)の粘度平均分子量をMW0、上記芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の粘度平均分子量をMW1としたとき、MW0からMW1を減じた値が1000以下であることが好ましい。MW0からMW1を減じた値が1000超となると、得られるポリカーボネート樹脂組成物の透明性や衝撃強度が低下する可能性がある。
【0065】
本発明の実施形態の蓄光性成形品は、上記の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を成形して得ることができる。本発明が目的とする蓄光性成形品を得ることができる限り、蓄光性成形品の製造方法は特に限定されることはなく、例えば、公知の射出成形法、圧縮成形法等により芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を成形する方法が挙げられる。
【0066】
本発明に係る蓄光性成形品は、例えば、避難誘導標識、夜間表示標識、標示ボタン、時計文字盤、スイッチ、コネクター部品またはアクセサリ等として好適である。
【0067】
以上のように、本発明の例示として、実施の形態を説明した。しかしながら、本発明における技術は、これに限定されず、適宜、変更、置き換え、付加、省略などを行った実施の形態にも適用可能である。
【実施例】
【0068】
以下に、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。なお、特に断りがない限り、「部」及び「%」はそれぞれ質量基準である。
【0069】
原料として以下のものを使用した。
1.芳香族ポリカーボネート樹脂(A):
ビスフェノールAと塩化カルボニルとから合成されたポリカーボネート樹脂
粘度平均分子量:18800、住化ポリカーボネート(株)製のSDポリカ 200−20(商品名)、以下「PC」又は(A1)ともいう。
【0070】
2.蓄光剤(B):
2−1)GDK13025WP(SrAl Eu,Dy)
(エルティーアイ(株)製、平均粒径25μm、リン原子を含む微小突起あり、以下、PP−1と略記)
2−2)GDK11010WP(SrAl Eu,Dy)
(エルティーアイ(株)製、平均粒径10μm、リン原子を含む微小突起物あり、以下、PP−2と略記)
2−3)BDK11025WP(SrAl1425 Eu,Dy)
(エルティーアイ(株)製、平均粒径25μm、リン原子を含む微小突起物あり、以下、PP−3と略記)
【0071】
3.酸化防止剤(リン系酸化防止剤:)
以下の式で表される、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイト
【化6】
(BASF社製のイルガフォス168(商品名)、以下、「P168」と表記)
【0072】
4.離型剤(脂肪酸エステル:)
グリセリンモノステアレート
(理研ビタミン(株)製リケマールS−100A (以下、S100Aと表記)
【0073】
5.その他(比較例に使用)
GDK13025(SrAl Eu,Dy)
(エルティーアイ(株)製、平均粒径25μm、リン原子を含む微小突起なし、以下、PP−4と略記)
【0074】
以下の表1および2に示す配合比率にて、ポリカーボネート樹脂、蓄光剤をハンドブレンドにより乾式混合後、二軸押出機((株)日本製鋼所製、TEX30α)を用いて、溶融温度250℃にて溶融混練し、実施例1〜6及び比較例1〜3の各々の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物のペレットを得た。得られたペレットを以下の各種評価に評した。
結果を表1および2に示す。
【0075】
本発明における各種評価項目の測定方法について説明する。
【0076】
(輝度の評価)
得られたペレットを120℃で4時間以上乾燥した後、射出成形機(ファナック(株)製、ROBOSHOT S2000i100B)を用い、成形温度280℃、金型温度80℃で、シリンダーの設定温度280℃にて平板試験片(80mm×50mm×2mmの厚み)を作製した。この試験片を48時間以上暗所で保管し完全に光を遮断した後、D65光源の光を200lxの照度で20分照射し、照射終了20分後の輝度を輝度計((株)トプコン製SR−3)により、測定距離30cm、視野角2°の条件で、試験片表面上の輝度を測定した。評価の基準としては輝度の測定値が100以上であるものを優良(◎)、5以上100未満であるものを良(○)、5未満であるものを不可(×)とした。
【0077】
(メルトボリュームレイト(MVR))
得られたペレットのそれぞれについて、(株)東洋精機製セミオートメルトインデクサー2Aを用い、ISO 1133に準じて1.2kg荷重下、300℃の条件にてメルトボリュームレイト(MVR)を測定した。原料として用いたPCのMVRも上記条件にて測定し、得られたペレットMVRからPCのMVRを減じた値(以下ΔMVRと記載)を算出した。ΔMVRの値が10未満であるものを優良(◎)、10以上15未満を良(○)、15以上であるものを不良(×)とした。
【0078】
(分子量低下量)
得られたペレットのそれぞれを塩化メチレンに溶解させ、ペレット濃度が0.38重量%の溶液を作成した。得られた溶液について、キャノンフェンスケ粘度管を用いて20℃の温度下で粘度を測定した。粘度平均分子量は次式に従い算出した。
[η]=1.23×10−40.83
ただし、
[η]:固有粘度
M:粘度平均分子量
ポリカーボネート樹脂(A)の粘度平均分子量をMW0、ポリカーボネート樹脂組成物の粘度平均分子量をMW1としたとき、MW0からMW1を減じた値(以下ΔMWと略記)が500未満を優良(◎)とし、500以上1000未満を良(○)、1000以上を不良(×)とした。
【0079】
【表2】
【0080】
【表3】
【0081】
表2に示すとおり、本発明の構成を満足する場合(実施例1〜6)には、全ての評価項目において十分な性能を有していた。
【0082】
一方、表3に示すとおり、本発明の構成を満足しない場合(比較例1〜3)には、いずれの場合も何らかの欠点を有していた。比較例1は、従来の蓄光性化合物(リン原子を含む微小突起なし)を使用する場合で、分子量低下(MVR,ΔMw)が生じていた。比較例2は、蓄光剤(B)の配合量が規定量よりも少ない場合で、輝度が劣っていた。比較例3は、蓄光剤(B)の配合量が規定量よりも多い場合で、分子量低下(ΔMw)が生じていた。
【0083】
以上のように本発明における技術の例示として実施の形態を説明した。そのために詳細な説明を提供した。
【0084】
したがって、詳細な説明に記載された構成要素の中には、課題解決のために必須な構成要素だけでなく、上記技術を例示するために、課題解決のためには必須でない構成要素も含まれ得る。そのため、それらの必須ではない構成要素が詳細な説明に記載されていることをもって、直ちに、それらの必須ではない構成要素が必須であるとの認定をするべきではない。
【0085】
また、上述の実施の形態は、本発明における技術を例示するためのものであるから、特許請求の範囲またはその均等の範囲において種々の変更、置き換え、付加、省略などを行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明の蓄光性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、屋外で直接太陽光(紫外線光)に長期に亘り暴露されるような用途に使用した場合でも、ポリカーボネート樹脂が本来有する透明性や衝撃強度の特性が損なわれることがなく、蓄光性に優れ工業的利用価値が極めて高い。
図1