【解決手段】キャビネット10は、前面開口を有するキャビネット本体20、前面開口を開閉する主扉30、及び、従扉を備えている。従扉は、上端53において主扉30に対して回転動作可能に繋がっている上側従扉50、及び、該上側従扉50に対してヒンジ部(例えばばね蝶番H2)を介して繋がっている下側従扉60を有している。さらに、従扉は、上側従扉50と下側従扉60とが主扉30の前面31に沿って配置される非使用位置P1と、ヒンジ部H2で折れ曲がり上側従扉50の前面51が載置面15となるように保持される使用位置P2と、に切り替え可能である。
前記非使用位置にある前記従扉と前記主扉との間に、前記従扉を解放可能に前記非使用位置に固定する係合手段をさらに備える、請求項1又は請求項2に記載のキャビネット。
前記上側従扉の上端と前記主扉とは、前記上側従扉を前記使用位置の方へ付勢するばね蝶番で連結されている、請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載のキャビネット。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態を説明する。むろん、以下の実施形態は本発明を例示するものに過ぎず、実施形態に示す特徴の全てが発明の解決手段に必須になるとは限らない。
【0010】
(1)本発明に含まれる技術の概要:
まず、
図1〜7に示される例を参照して本発明に含まれる技術の概要を説明する。尚、本願の図は模式的に例を示す図であり、これらの図に示される各方向の拡大率は異なることがあり、各図は整合していないことがある。むろん、本技術の各要素は、符号で示される具体例に限定されない。
また、本願において、数値範囲「Min〜Max」は、最小値Min以上、且つ、最大値Max以下を意味する。
【0011】
[態様1]
本技術の一態様に係るキャビネット10は、前面開口21を有するキャビネット本体20、前記前面開口21を開閉する主扉30、及び、従扉40を備えている。前記従扉40は、上端53において前記主扉30に対して回転動作可能に繋がっている上側従扉50、及び、該上側従扉50に対してヒンジ部(例えばばね蝶番H2)を介して繋がっている下側従扉60を有している。さらに、前記従扉40は、前記上側従扉50と前記下側従扉60とが前記主扉30の前面31に沿って配置される非使用位置P1と、前記ヒンジ部(H2)で折れ曲がり前記上側従扉50の前面51が載置面15となるように保持される使用位置P2と、に切り替え可能である。
【0012】
以上より、補助台非使用時には上側従扉50と下側従扉60とが主扉30の前面31に沿った非使用位置P1にあるので邪魔とならず、補助台使用時に従扉40をヒンジ部(H2)で折り曲げて使用位置P2にすることにより上側従扉50の前面51を補助台の載置面15として使用することができる。また、従扉40を非使用位置P1と使用位置P2とに切り替える時、キャビネット10の収納空間SP1を閉じたままにすることができ、キャビネット10の収納空間SP1に異物が入らない。従って、上記態様は、必要な時だけ作業スペースを増やすことができ、補助台の使用状態に関わらず収納空間を閉じたままにすることが可能なキャビネットを提供することができる。さらに、補助台使用時にキャビネット本体20の前面開口21を開けて収納空間SP1に物を出し入れすることも可能である。
【0013】
ここで、上側従扉の上端が主扉に対して回転動作可能に繋がっていることには、上側従扉の上端が昇降不能に主扉に繋がっていること、及び、上側従扉の上端が昇降可能に主扉に繋がっていることの両方が含まれる。
載置面は、物を載せることができる面を意味し、水平面に限定されず、曲面等でもよい。
尚、上述した付言は、以下の態様においても適用される。
【0014】
[態様2]
図3〜6に例示するように、前記主扉30は、前記下側従扉60の下端64を当該主扉30の前面31に沿って上下に案内するためのガイド35を有していてもよい。前記下側従扉60の下端64には、前記ガイド35に沿って上下に移動可能な摺動部70が設けられてもよい。前記ガイド35は、前記従扉40が前記使用位置P2にある時に前記摺動部70の下降を阻止する摺動部保持部38を有していてもよい。
以上より、ガイド35の摺動部保持部38が摺動部70の下降を阻止すると、載置面15を有する上側従扉50を支える筋交いとして下側従扉60が機能する。従って、上記態様は、従扉を補助台として使用する好適な例を提供することができる。
【0015】
[態様3]
図4に例示するように、本キャビネット10は、前記非使用位置P1にある前記従扉40と前記主扉30との間に、前記従扉40を解放可能に前記非使用位置P1に固定する係合手段(例えばプッシュラッチ80)をさらに備えていてもよい。非使用位置P1に固定されている従扉40が係合手段(80)により非使用位置P1から動かないようにされるので、本態様は、非使用位置にある従扉が不意にヒンジ部で折れ曲がることを防ぐことができる。
【0016】
ここで、従扉を非使用位置に固定することは、従扉が非使用位置から動かないようにすることを意味する。この場合の解放可能は、解放時に従扉が非使用位置から動くことが可能であることを意味する。
上述した付言は、以下の態様においても適用される。
【0017】
[態様4]
図4等に例示するように、前記上側従扉50の上端53と前記主扉30とは、前記上側従扉50を前記使用位置P2の方へ付勢するばね蝶番H1で連結されてもよい。この態様は、従扉40を非使用位置P1から使用位置P2に切り替える時にばね蝶番H1が上側従扉50を使用位置P2の方へ力(例えば付勢力F1)を加えるので、従扉を非使用位置から使用位置に切り替える操作を容易にすることができる。
【0018】
ここで、付勢は、力を加えることを意味する。
上記態様のばね蝶番は、従扉を非使用位置から使用位置まで動かす付勢力を有していてもよいし、使用位置まで至らない程度の付勢力を有していてもよい。ばね蝶番が従扉を使用位置まで動かすことできなくても、ばね蝶番の付勢力により非使用位置から使用位置への従扉の動きが補助され、従扉を非使用位置から使用位置に切り替える操作が容易となる。
【0019】
さらに、本技術は、上述したキャビネットを組み込んだシステムキッチンや洗面化粧台等に適用可能である。
【0020】
(2)キャビネットを有するシステムキッチンの具体例:
図1は、床上に設置された複数のベースキャビネット10を有するシステムキッチン100の正面を模式的に例示している。ここで、符号D1は、キャビネット10の並び方向を示している。
図2,3は、カウンター101の下にあるキャビネット10を模式的に例示している。
図2は、従扉40が非使用位置P1にある状態で引き出し11がキャビネット本体20から引き出されたキャビネット10を右側板の図示を省略した右側面図により例示している。
図3は、収納空間SP1が閉塞されている状態で従扉40が使用位置P2にあるキャビネット10を斜視図により模式的に例示している。
尚、以下の説明において、「上方」や「下方」や「前方」や「後方」や「側方」といった方向は、厳密に定義される方向に限定されず、誤差等により厳密な方向からずれる場合を含む。ここで、「側方」は、左方向と右方向を総称する概念である。「水平」や「鉛直」は、厳密な「水平」や「鉛直」に限定されず、形状や誤差等により厳密な「水平」や「鉛直」からずれる場合を含む。また、「面一」は、厳密な「面一」に限定されず、形状や誤差等により僅かな段差が生じる場合を含む。
【0021】
システムキッチン100には、水平に配置されたカウンター101に凹状のシンク102や調理器具(不図示)や複数のキャビネット10等が組み込まれている。複数のキャビネット10は、側方へ並べられている。複数のキャビネット10の上面開口10aは、カウンター101により閉塞している。
図1に示すように、各キャビネット10の正面には、カウンター101から床に向かうにつれて順に、把手45を有する上側従扉50、下側従扉60、及び、蹴込み板26が配置されている。補助台を創出可能な上側従扉50はコンロ前、調理スペースの手前、シンク前、等の様々な配置が可能であるので、場所を選ばず必要時に補助台を使用することができる。
【0022】
図2に示すように、キャビネット10は、キャビネット本体20、及び、扉(主扉30と従扉40)が設けられた引き出し11を備えている。引き出し11は、底部11b、及び、左右の側部11aを有し、底部11bに物を載せることが可能である。尚、
図2では左右の側部11aのうち右側の側部のみ現れている。引き出し11は、
図2,3に示す左側板23Lと右側板23Rそれぞれの内側面に設けられたスライドレール12により前後に移動可能である。ここで、左側板23Lと右側板23Rを側板23と総称する。各スライドレール12は、側板23の内側面に取り付けられた本体側部材12a、及び、引き出し11の側部11aに取り付けられた引き出し側部材12bを有し、固定された本体側部材12aに対して引き出し側部材12bが前後にスライドする。これにより、扉(30,40)は、
図2に二点鎖線で示すようにキャビネット本体20の前面開口21を閉塞する位置から前面開口21を開放する前方へ移動可能であり、前面開口21を開放する位置から前面開口21を閉塞する後方へ移動可能である。むろん、スライドレール12は、本体側部材12aと引き出し側部材12bとの間に両部材に対してスライド可能な中間スライドを有していてもよい。
【0023】
キャビネット本体20は、平板状の底板22、平板状である左右の側板23L,23R、平板状の背板24、平板状の前板25、及び、蹴込み板26を有している。底板22は、左右から見て左右の縁部が側板23に隠される状態で水平に配置されている。側板23L,23Rは、蹴込み板26が取り付けられる下部23aが若干、後方へ退避した形状であり、並び方向D1において底板22、背板24、及び、前板25を挟むように鉛直に配置されている。背板24は、左右から見て左右の縁部が側板23に隠される状態、且つ、背後から見て底板22の後縁部を隠す状態で鉛直に配置されている。前板25は、左右から見て左右の縁部が側板23に隠される状態で、キャビネット本体20の上部から途中まで鉛直に下がっている。キャビネット本体20の前面には、蹴込み板26よりも上において、側板23L,23Rと前板25とで囲まれた前面開口21が形成されている。蹴込み板26は、側板23の下部23aの前面に取り付けられ、背後を隠している。
【0024】
図2,3に示すように、キャビネット10の扉は、後側の主扉30と前側の従扉40とに分かれている特徴を有する。主扉30は、キャビネット本体20の前面開口21を開閉する機能を有する。主扉30の前にある従扉40は、上側従扉50と下側従扉60とに分かれており、前面開口21の開閉を補助する機能とともに、作業スペースを増やす時だけ
図3に示すように折れ曲がって補助台の姿勢(使用位置P2)になる機能を有する。上側従扉50の下端54と下側従扉60の上端63とは、ヒンジ部の例であるばね蝶番H2を介して折れ曲がり動作可能に繋がっている。補助台創出用の従扉40が主扉30の前にあることにより、補助台を創出するためにキャビネット10の収納空間SP1を低くする必要が無く、背の高い物をキャビネット10に収納することができる。
以下、
図4〜6も参照して、キャビネット10の詳細を説明する。
【0025】
図4は、従扉40が使用位置P2にある場合の主扉30及び従扉40を縦断面図により模式的に例示している。
図5は、摺動部保持部38を有するガイド35を右側面図により模式的に例示している。
図5は、傾斜部38aのみ有する摺動部保持部38Aの拡大図、及び、傾斜部38a及び水平部38bを有する摺動部保持部38Bの拡大図も示している。
図6は、
図5のA1の位置における主扉30の水平断面を模式的に例示している。
図6には、
図3に示す二本のガイド35のうち左側のガイドが示されている。図示していないが、右側のガイド及びその周辺は、
図6とは左右対称に表される。尚、下側従扉60の下端64に設けられた摺動部70を分かり易く示すため、摺動部70に網掛けを付している。
【0026】
図2に示すように、主扉30の背面32は、底部11b、及び、左右の側部11aの前部に取り付けられている。従って、主扉30は、引き出し11とともに前後に移動する。
図3,4に示すように、主扉30の上端33近傍において、主扉30の前面31には、左右にそれぞればね蝶番H1の基端片H1bが取り付けられている。
【0027】
図3〜6に示すように、主扉30の前面31には、主扉30の下端34から上方の途中位置30aに至る溝31aが左右にそれぞれ形成されている。途中位置30aは、
図4に示すように従扉40が使用位置P2にある時にばね蝶番H3の先端片H3aが主扉30と干渉しない位置にある。各溝31aには、下側従扉60の下端64を主扉30の前面31に沿って上下に案内するためのガイド35が長手方向を上下に向けて挿入されている。
図6に示すように、溝31aに挿入されたガイド35には、溝31aの中において側方(並び方向D1)へ凹んだガイド溝35aが形成されている。ガイド溝35aには、溝31aの中にある摺動部70の側部75が上下に移動可能に挿入されている。
図4,5に示すように、ガイド溝35aは、摺動部保持部38から上側の部分35bが摺動部保持部38から下側の部分35cよりも広くなっている。むろん、下側の部分35cの幅、すなわち、前後方向の間隔は、摺動部70の前後方向の長さである厚さよりも広くなっている。摺動部保持部38は、摺動部70の下端74を載せることができる形状を有している。摺動部保持部38の詳細は、後述する。
【0028】
主扉30には、基端片H1bの取付位置よりも下側、且つ、途中位置30aよりも上側において、プッシュラッチ80の受け部材81が取り付けられている。受け部材81において頭部材82が挿入される部分は、主扉30の前面31よりも前方へ出ている。受け部材81と頭部材82の組合せは、従扉40を解放可能に非使用位置P1に固定する係合手段の例である。
【0029】
図2〜4に示すように、上側従扉50は、前面51の上部に把手45を有し、上端53において主扉30に対して回転動作可能に繋がっている。把手45は、従扉40が主扉30の前面31に沿った非使用位置P1に保持されている時にキャビネット10の前面開口21を開閉する操作、及び、使用位置P2に保持されている時にキャビネット10の前面開口21を開閉する操作に使用可能である。上側従扉50の背面52には、上端53において左右にそれぞればね蝶番H1の先端片H1aが取り付けられ、下端54において左右にそれぞればね蝶番H2の基端片H2bが取り付けられ、下端54近傍においてプッシュラッチ80の頭部材82が取り付けられている。把手45が上側従扉50の上部に取り付けられていることにより、従扉40が非使用位置P1にある状態でユーザーが把手45を引いた時にプッシュラッチ80に過大な力がかからない。
また、ばね蝶番H1の基端片H1bが主扉30に固定され、ばね蝶番H1の先端片H1aが上側従扉50の上端53に固定されていることにより、上側従扉50が回転しても上端53は実質的に昇降しない。これにより、キャビネット10がベースキャビネットである場合に、上側従扉50の前面51を載置面15として調理台等の作業スペースに使用し易い高さの補助台が創出される。
【0030】
下側従扉60は、上端63において上側従扉50に対して回転動作可能に繋がっている。従扉40が非使用位置P1にある時、下側従扉60の前面61と上側従扉50の前面51とは、ほぼ面一で連続した面を創出する。従って、非使用位置P1の従扉40の外観が良好である。下側従扉60の背面62には、上端63において左右にそれぞればね蝶番H2の先端片H2aが取り付けられ、下端64において左右にそれぞればね蝶番H3の基端片H3bが取り付けられている。ばね蝶番H3の先端片H3aには、背面側において摺動部70が取り付けられている。下側従扉60の下端64は、摺動部70がガイド35に沿って上下に移動することにより、主扉30の前面31に沿って上下に移動する。
【0031】
ここで、
図2に示すように、従扉40が非使用位置P1にある状態を基準として、上側従扉50の高さをh1とし、下側従扉60の高さをh2とする。使用位置P2において上側従扉50の前面51を載置面15とするため、下側従扉60の高さh2は、上側従扉50の高さh1よりも高くしている。従扉40が使用位置P2にある時に下側従扉60を筋交いとして上側従扉50を十分に保持するため、下側従扉60の高さh2は、上側従扉50の高さh1の1.2〜3.0倍が好ましく、1.5〜2.5倍がより好ましい。
【0032】
各ばね蝶番H1は、主扉30の上端33に沿った水平な回転軸を中心として主扉30に上側従扉50の上端53を回転動作可能に繋いでいる。ばね蝶番H1は、先端片H1aと基端片H1bとのなす角度を広げる向きに付勢力F1を加えるばねH1cを有している。ばねH1cには、例えば、圧縮コイルばねを用いることができる。主扉30の前面31に取り付けられた基端片H1bの向きは鉛直のままであるので、ばねH1cは、先端片H1aを介して上側従扉50を使用位置P2に近づける向きに付勢力F1を加える。本具体例の付勢力F1は、上側従扉50を使用位置P2に移動させる力よりも弱く、ユーザーが上側従扉50を使用位置P2まで引き上げる操作を補助する。むろん、強い付勢力F1を有するばね蝶番H1を使用することにより、ユーザーが上側従扉50を使用位置P2まで引き上げる操作をしなくても従扉40が非使用位置P1から使用位置P2に切り替わるようにしてもよい。いずれにしても、上側従扉50を使用位置P2の方へ付勢する付勢力F1をばね蝶番H1が有していることにより、従扉40を非使用位置P1から使用位置P2に切り替える操作が容易となる。
【0033】
各ばね蝶番H2は、上側従扉50の下端54に沿った水平な回転軸を中心として上側従扉50の下端54に下側従扉60の上端63を回転動作可能に繋いでいる。ばね蝶番H2は、先端片H2aと基端片H2bとのなす角度を狭める向きに付勢力F2を加えるばねH2cを有している。ばねH2cには、例えば、圧縮コイルばねを用いることができる。ばねH2cは、従扉40がばね蝶番H2の位置で折れ曲がって使用位置P2に近づく向きに付勢力F2を加える。付勢力F2は、付勢力F1程ではないが、ユーザーが従扉40を使用位置P2まで引き上げる操作を補助する。ばね蝶番H2が付勢力F2を有していることにより、従扉40を非使用位置P1から使用位置P2に切り替える操作が容易となる。
尚、従扉40を使用位置P2まで引き上げることに主として寄与するのは上側のばね蝶番H1であるため、従扉40の折れ曲がり位置にはばね蝶番H2の代わりにばねの無い蝶番が取り付けられてもよい。
【0034】
各ばね蝶番H3は、下側従扉60の下端64に沿った水平な回転軸を中心として下側従扉60の下端64に摺動部70を回転動作可能に繋いでいる。摺動部70の前面71には、ばね蝶番H3の先端片H3aが取り付けられている。ばね蝶番H3は、先端片H3aと基端片H3bとのなす角度を広げる向きに付勢力F3を加えるばねH3cを有している。ばねH3cには、例えば、圧縮コイルばねを用いることができる。ばねH3cは、ガイド溝35aに一部挿入された摺動部70を下端74が前方へ動く向きに傾ける付勢力F3を加える。摺動部70の上端73はガイド溝35aの中でガイド35に当たっているため、付勢力F3は、上端73を傾動の中心として摺動部70を傾ける力となっている。付勢力F3が摺動部70に加わっていることにより、ガイド溝35aに沿って上昇した摺動部70がガイド溝35aの上側の部分35bで傾き、下端74が摺動部保持部38に乗り上げる。
【0035】
ガイド35に沿って上下に移動する摺動部70の下端74は、
図5に示すように、前側となるほど下側となる傾斜面となっている。摺動部70の下端74が乗り上がる摺動部保持部38は、使用位置P2にある下側従扉60をユーザーが後方へ押さない限り摺動部70の下端74を脱落させない形状を有している。摺動部保持部38が摺動部保持部38Aである場合、摺動部保持部38Aの傾斜部38aは、後側となるほど上側となる傾斜面となっている。摺動部70の下端74が摺動部保持部38Aに乗り上がっていることにより従扉40が使用位置P2にある時、摺動部70の下端74が後方へ移動することを傾斜部38aが抑止する。摺動部保持部38が摺動部保持部38Bである場合、前後方向において途中から前側は水平に設計された水平部38bであるものの、水平部38bから後側にある傾斜部38aは後側となるほど上側となる傾斜面となっている。摺動部70の下端74が摺動部保持部38Bに乗り上がっていることにより従扉40が使用位置P2にある時、摺動部70の下端74が後方へ移動することを傾斜部38aが抑止する。摺動部保持部38A,38Bのいずれも、従扉40が使用位置P2にある時に摺動部70の下降を阻止する。
【0036】
上側従扉50の背面52に取り付けられた頭部材82は、受け部材81に係止されていない状態から受け部材81に押し込まれると受け部材81に係止され、受け部材81に係止されている状態から受け部材81の方へ押されると受け部材81の係止から解除される。受け部材81と頭部材82とから構成されたプッシュラッチ80は、磁石を使用していない機構により頭部材82の係止及び解除を実現してもよいし、磁石を使用した機構により頭部材82の係止及び解除を実現してもよい。
【0037】
以上より、プッシュラッチ80は、非使用位置P1にある従扉40と主扉30との間にあり、従扉40を解放可能に非使用位置P1に固定する。キャビネット10にプッシュラッチ80があることにより、非使用位置P1に固定されている従扉40が後方へ押されない限り非使用位置P1から動かないようにされ、非使用位置P1にある従扉40が不意にばね蝶番H2の位置で折れ曲がることを防ぐことができる。また、非使用位置P1に固定されている従扉40をユーザーが後方へ押すと、従扉40の固定が解除され、ばね蝶番H1,H2の付勢力F1,F2により従扉40が非使用位置P1から使用位置P2の方へ移動する。ユーザーは、非使用位置P1の従扉40を手で押してもよいが、手を使用せずに身体で押してもよい。従って、ユーザーは、両手が塞がっていたり手が汚れていたりしても、従扉40の固定を解除する操作が可能である。
【0038】
尚、頭部材82の取付位置は、上側従扉50の背面52に限定されず、下側従扉60の背面62、特に上端63の近傍でもよい。
また、従扉40を解放可能に非使用位置P1に固定する係合手段は、プッシュラッチ80に限定されない。例えば、受け部材81の代わりに磁石が主扉30の前面31に取り付けられ、頭部材82の代わりに強磁性体が上側従扉50の背面52に取り付けられてもよい。
【0039】
尚、部材同士の取り付けには、ねじ等の公知の手段を使用することができる。キャビネット本体20、引き出し11、主扉30、及び、従扉40の本体部分の材料には、木材、熱可塑性樹脂といった合成樹脂、等を用いることができる。スライドレール12、ばね蝶番H1〜H3、及び、ねじの材料には、ステンレスといった金属等を用いることができる。
【0040】
図2に示すように従扉40が非使用位置P1に固定されている時、主扉30と従扉40とは一体となって引き出し11を操作する扉として機能する。ユーザーは、主扉30がキャビネット本体20の前面開口21を閉塞している状態において、把手45を持って引き出し11をキャビネット本体20から前方へ引き出すことができる。また、ユーザーは、主扉30がキャビネット本体20の前面開口21を開放している状態において、把手45を持って引き出し11を後方へスライドさせることができる。
【0041】
非使用位置P1に固定されている従扉40をユーザーが後方へ押すと、上側従扉50と主扉30との間にあるプッシュラッチ80の係合が解除され、ばね蝶番H1,H2の付勢力F1,F2により従扉40が非使用位置P1から使用位置P2の方へ移動する。この時、下側従扉60の下端64は主扉30の前面31に沿って上方へ移動し、ガイド35のガイド溝35aに一部挿入された摺動部70の下端74はガイド溝35aに案内されて上方へ移動する。摺動部70の下端74が摺動部保持部38よりも高くなると、ばね蝶番H3の付勢力F3により下端74が前方へ動く向きに摺動部70が傾き、下端74が摺動部保持部38に乗り上げる。この時、
図3に示すように、従扉40は、使用位置P2の折れ曲がり姿勢となっている。摺動部保持部38の傾斜部38aは、後側となるほど上側となる傾斜面であるので、摺動部70の下端74が後方へ移動することを抑止する。これにより、摺動部70の下降が阻止され、従扉40が使用位置P2に固定される。使用位置P2の従扉40は、上側従扉50の前面51が載置面15となるように保持されている。
図4に示す載置面15は水平面であるが、載置面15は、物を載せることができればよいため、曲面等でもよい。
【0042】
摺動部70の下端74が摺動部保持部38に乗り上がっている時、載置面15を有する上側従扉50を支える筋交いとして下側従扉60が機能する。従って、補助台の強度を確保するための金具を別途取り付けなくても、使用位置P2の上側従扉50を下側従扉60により強固に保持することが可能である。
【0043】
使用位置P2にある下側従扉60の下端64をユーザーが後方へ押すと、ガイド35の摺動部保持部38から摺動部70の下端74が外れる。これにより、摺動部70の下端74がガイド溝35aに沿って下方へ移動可能となるので、ユーザーは、下側従扉60の下端64を主扉30の前面31に沿って下げることができ、上側従扉50と下側従扉60とを主扉30の前面31に沿った非使用位置P1に切り替えることができる。上側従扉50が非使用位置P1になると、上側従扉50と主扉30との間でプッシュラッチ80が係合状態となり、従扉40が非使用位置P1に固定される。
【0044】
以上説明したように、従扉40を補助台として使用しない時には、上側従扉50と下側従扉60とを主扉30の前面31に沿った非使用位置P1に固定することができるので、従扉40が邪魔とならない。従扉40が非使用位置P1に固定されることにより、主扉30と従扉40とを一体の扉として引き出し11の操作に使用することができる。従扉40が主扉30の前面31に沿っていることにより、キャビネット10の外観が良好である。従扉40を補助台として使用する時には、従扉40をばね蝶番H2の位置で折り曲げて使用位置P2に固定することができるので、上側従扉50の前面51を載置面15として使用することができる。従扉40をベースキャビネットに使用する場合、載置面15の高さは補助台の高さとして好適である。
【0045】
従扉40を非使用位置P1と使用位置P2とに切り替える時には、主扉30によりキャビネット10の収納空間SP1の密閉性が確保され、キャビネット10の収納空間SP1に調理中の食材等の異物が入らない。従って、本具体例のキャビネット10は、必要な時だけ作業スペースを増やすことができ、補助台の使用状態に関わらず収納空間SP1を閉じたままにすることができる。また、従扉40と主扉30とは、互いの動きを阻害しない。これにより、キャビネット本体20の前面開口21が開放されている状態で従扉40を非使用位置P1と使用位置P2とに切り替えたり、従扉40が使用位置P2にある状態で主扉30を開閉する操作を行ったりすることも可能である。従って、例えば、補助台を使用している時に、キャビネット本体20の前面開口21を開けて収納空間SP1に物を出し入れすることも可能である。
以上より、本具体例のキャビネット10は、機構的な面白さもある。
【0046】
上側従扉50の前面51が載置面15として使用されることから、本具体例では、上側従扉50の前面51に耐傷性の優れた高硬度の鏡板が使用されている。また、上側従扉50と下側従扉60の外観を揃えるため、下側従扉60の前面61に高硬度の鏡板が使用されてもよい。
【0047】
図7は、上述した従扉40の断面構造を模式的に例示している。
図7に示す例では、上側従扉50と下側従扉60を同じ断面構造にしているため、両者の断面構造をまとめて示している。
図7の上部には、断面構造の要部の拡大図を示している。
上側従扉50及び下側従扉60は、背面52,62を有する基材96、及び、前面51,61を有する塗膜93を備えている。塗膜93は、基材96の表面96aに設けられている。
【0048】
基材96は、木部材を主体とした材料が好ましい。基材96の表面96aには、塗膜93の接着性を向上させるために合成樹脂層が設けられてもよい。むろん、合成樹脂を含む板の表面96aに塗膜93が形成された鏡板を裏層用の板の表面に取り付けることにより上側従扉50や下側従扉60を形成してもよい。合成樹脂を含む材料には、充填剤、着色剤、等の有色の添加剤が含まれてもよい。塗膜93は、硬化又は固化した合成樹脂94、及び、分散状態の中空無機粒子90を含んでいる。合成樹脂94は、傷を目立たなくする点から、透明性を有する合成樹脂が好ましい。
【0049】
塗膜93に含まれる合成樹脂94は、熱硬化性樹脂といった硬化性樹脂でもよいし、熱可塑性樹脂でもよい。熱硬化性樹脂には、不飽和ポリエステル樹脂、熱硬化性アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂、ウレア樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、これらの少なくとも一部の組合せ、等を用いることができる。熱可塑性樹脂には、熱可塑性アクリル樹脂等を用いることができる。塗膜用の透明性を有する熱硬化性樹脂には、アクリルウレタン樹脂やポリエステルウレタン樹脂等を含むウレタン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、熱硬化性アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂、ウレア樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、これらの少なくとも一部の組合せ、等の透明性を有する熱硬化性樹脂を用いることができる。塗膜用の透明性を有する熱可塑性樹脂には、熱可塑性アクリル樹脂等の透明性を有する熱可塑性樹脂を用いることができる。合成樹脂には、本技術の効果を損なわない範囲において、紫外線吸収剤、難燃剤、酸化防止剤、光安定剤、等の一種以上の添加剤が含まれてもよい。
【0050】
合成樹脂94を含む塗膜93には、無機材料の中に中空部91を有する中空無機粒子90が多数、分散して存在している。中空無機粒子90には、ガラス、シラスといった火山堆積物、等の無機材料の中空粒子を用いることができる。ここで、各中空無機粒子90についてJIS Z8825:2013に準拠した粒子径をdとし、粒子径dの体積基準の累積分布から求められる50vol%の中位径x
50をメジアン径aとする。中空無機粒子90のメジアン径aは、10〜50μmが好ましい。メジアン径aが10μm以上であることにより、塗膜93の表面93aの凹凸によって適度のつや消し感が生じ、適度の質感、及び、触感が生じる。また、メジアン径aが50μm以下であることにより、塗膜93の表面93aの凹凸が粗すぎず、前面51,61に良好な意匠、及び、触感が得られる。
【0051】
中空無機粒子90の真比重は、0.55〜1.20が好ましい。中空無機粒子90の真比重が0.55以上であることにより、液状樹脂組成物に中空無機粒子90が安定して分散し、均質な塗膜93が形成される。また、中空無機粒子90の真比重が1.20以下であることにより、液状樹脂組成物に中空無機粒子90が安定して分散し、均質な塗膜93が形成される。
【0052】
ここで、塗膜93において中空無機粒子90が無い部分95の厚さをtとする。厚さtは、8μm以上、且つ、0.3a〜1.2aが好ましい。厚さtが8μm以上であることにより、分散状態の中空無機粒子90を含む塗液を基材96の表面96aに均質に塗布することができ、均質な塗膜93が形成される。これにより、前面51,61を良好な強度及び意匠にすることができる。また、厚さtが0.3a以上であることにより、中空無機粒子90が塗膜93から脱落しないように合成樹脂94で保持される。これにより、ピンホール等といった外観の低下が防止され、前面51,61の耐摩耗性及び耐傷性が向上する。さらに、厚さtが1.2a以下であることにより、塗膜93の表面93aが研磨されることにより多くの中空無機粒子90が露出し、前面51,61の耐摩耗性及び耐傷性が向上する。
図7には、中空無機粒子90の露出部分92が示されている。研磨により、中空無機粒子90の外形の一部が出現し、分散状態の中空無機粒子90の光沢感が前面51,61に付与される。塗膜93の表面93aの凹凸によるつや消し感と、中空無機粒子90において研磨された凸状の外形による光沢感とが相俟って、前面51,61に良好な意匠と高い表面硬度が付与される。
【0053】
塗膜93における中空無機粒子90の存在比は、中空無機粒子90の粒子径や上述の厚さtによるが、例えば、0.5〜20重量%、より好ましくは1〜10重量%程度とすることができる。
【0054】
また、上述した塗膜93の代わりに、高圧メラミンシート等の高硬度シートを鏡板として前面51,61に使用してもよい。例えば、裏層用の板の表面に高圧メラミンシートといった高硬度シートを貼り付けると、前面51,61に優れた耐傷性が付与される。
上側従扉50の前面51に分散状態の中空無機粒子を含む塗膜93や高圧メラミンシート等の高硬度シートを使用することにより、補助台使用時に耐傷性の優れた作業スペースを確保することができる。
【0055】
(3)変形例:
本発明は、種々の変形例が考えられる。
例えば、主扉と従扉を備えるキャビネットは、システムキッチン以外にも、洗面化粧台等に使用可能である。
従扉40を非使用位置P1と使用位置P2とに切り替える機構が主扉30と従扉40との間で完結しているので、キャビネットに設けられる主扉は、従扉を補助台の使用位置に切り替えることができる限り、片開きの開き戸、両開きの開き戸、折り戸、引き戸、等でもよい。
また、蹴込み板26が側板23に固定されたキャビネットに限定されず、引き出し構造として収納空間SP1を拡大してもよい。
【0056】
従扉40に取り付けられる各ばね蝶番H1〜H3の数は、2個に限定されず、3個以上でもよいし、強度を確保することができる限り1個でもよい。例えば、主扉30に設けられるガイド35を1本にする場合、ガイド35に沿って移動する摺動部70を1個にし、摺動部70と下側従扉60とを繋ぐばね蝶番H3を1個にしてもよい。
上側従扉50の上端53は、上側従扉50の回転動作に応じて昇降してもよい。この場合も、従扉40がヒンジ部で折れ曲がり上側従扉50の前面51が載置面15となるように保持されることにより、必要な時だけ補助台を創出することができる。
【0057】
(4)結び:
以上説明したように、本発明によると、種々の態様により、必要な時だけ作業スペースを増やすことができ、補助台の使用状態に関わらず収納空間を閉じたままにすることが可能なキャビネット等の技術を提供することができる。むろん、独立請求項に係る構成要件のみからなる技術でも、上述した基本的な作用、効果が得られる。
また、上述した例の中で開示した各構成を相互に置換したり組み合わせを変更したりした構成、公知技術及び上述した例の中で開示した各構成を相互に置換したり組み合わせを変更したりした構成、等も実施可能である。本発明は、これらの構成等も含まれる。
【符号の説明】
【0058】
10…キャビネット、11…引き出し、12…スライドレール、
15…載置面、
20…キャビネット本体、21…前面開口、
22…底板、23…側板、24…背板、25…前板、26…蹴込み板、
30…主扉、31…前面、31a…溝、33…上端、34…下端、
35…ガイド、35a…ガイド溝、35b…上側の部分、35c…下側の部分、
38,38A,38B…摺動部保持部、38a…傾斜部、38b…水平部、
40…従扉、45…把手、
50…上側従扉、51…前面、52…背面、53…上端、54…下端、
60…下側従扉、61…前面、62…背面、63…上端、64…下端、
70…摺動部、71…前面、73…上端、74…下端、75…側部、
80…プッシュラッチ(係合手段の例)、81…受け部材、82…頭部材、
90…中空無機粒子、93…塗膜、94…合成樹脂、96…基材、
100…システムキッチン、
D1…並び方向、
F1,F2,F3…付勢力、
H1…ばね蝶番、H1a…先端片、H1b…基端片、H1c…ばね、
H2…ばね蝶番(ヒンジ部の例)、H2a…先端片、H2b…基端片、H2c…ばね、
H3…ばね蝶番、H3a…先端片、H3b…基端片、H3c…ばね、
SP1…収納空間、
P1…非使用位置、P2…使用位置。