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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-14615(P2021-14615A)
(43)【公開日】2021年2月12日
(54)【発明の名称】無電解めっきの前処理のための組成物
(51)【国際特許分類】
   C23C 18/18 20060101AFI20210115BHJP
   C23C 18/31 20060101ALI20210115BHJP
   C01G 49/06 20060101ALI20210115BHJP
   C01G 49/08 20060101ALI20210115BHJP
【FI】
   C23C18/18
   C23C18/31 A
   C01G49/06 A
   C01G49/06 B
   C01G49/08 Z
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2019-129825(P2019-129825)
(22)【出願日】2019年7月12日
(11)【特許番号】特許第6675626号(P6675626)
(45)【特許公報発行日】2020年4月1日
(71)【出願人】
【識別番号】591021028
【氏名又は名称】奥野製薬工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】河▲崎▼ 佳奈
(72)【発明者】
【氏名】長尾 敏光
(72)【発明者】
【氏名】大塚 邦顕
【テーマコード(参考)】
4G002
4K022
【Fターム(参考)】
4G002AA03
4G002AA04
4G002AB05
4G002AD04
4G002AE05
4K022AA02
4K022AA35
4K022BA01
4K022BA03
4K022BA06
4K022BA08
4K022BA14
4K022BA21
4K022BA32
4K022CA04
4K022CA16
4K022CA22
4K022DA01
4K022DB02
4K022DB03
4K022DB05
4K022DB06
4K022DB26
(57)【要約】
【課題】触媒付与処理を要さず、より簡便且つ効率的にめっき粉体を得ることができる技術を提供すること。
【解決手段】アルカリ金属水酸化物及びアルカリ土類金属水酸化物からなる群より選択される少なくとも1種のアルカリ、並びに水素化ホウ素化合物からなる群より選択される少なくとも1種の還元剤を含有する、酸化鉄粒子に対する無電解めっきの前処理のための組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ金属水酸化物及びアルカリ土類金属水酸化物からなる群より選択される少なくとも1種のアルカリ、並びに水素化ホウ素化合物からなる群より選択される少なくとも1種の還元剤を含有する、酸化鉄粒子に対する無電解めっきの前処理のための組成物。
【請求項2】
pHが10以上である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記アルカリが水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化カリウム、及び水酸化バリウムからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記水素化ホウ素化合物がボラン錯体、及び水素化ホウ素アルカリ金属塩からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1〜3のいずれかに記載の組成物。
【請求項5】
前記水素化ホウ素化合物がボラン錯体である、請求項1〜4のいずれかに記載の組成物。
【請求項6】
前記水素化ホウ素化合物がアミンボラン錯体である、請求項1〜5のいずれかに記載の組成物。
【請求項7】
液体であり、前記アルカリの濃度が0.1〜300g/Lであり、且つ前記還元剤の濃度が0.1〜50g/Lである、請求項1〜6のいずれかに記載の組成物。
【請求項8】
(工程1)酸化鉄粒子と請求項1〜7のいずれかに記載の組成物とを接触させる工程を含む、無電解めっきの前処理方法。
【請求項9】
前記酸化鉄粒子がアルコール処理された酸化鉄粒子である、請求項8に記載の前処理方法。
【請求項10】
(工程1)酸化鉄粒子と請求項1〜7のいずれかに記載の組成物とを接触させる工程、及び
(工程2)前記工程1後に、無電解めっき処理する工程
を含む、無電解めっき方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無電解めっきの前処理のための組成物等に関する。
【背景技術】
【0002】
めっき粉体が、各種分野で利用されている。例えば、導電性が良好な金属でめっきされた粉体は、導電性フィラーとして、導電材料、帯電防止材料、電磁波シールド等に利用することができる。また、ニッケルめっき粉末や金メッキ粉末等の色調に優れためっき粉体は、顔料として好適に利用することができる。
【0003】
めっき粉体を得る場合、通常は、対象金属粉体(酸化鉄粉体等)を、順に、脱脂処理、エッチング処理、酸活性処理、パラジウム触媒付与処理してから、無電解めっき液で処理する方法が採られる(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平01−021082号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者は研究を進める中で、めっき粉体を得る従来法は、触媒付与処理等の多段階処理が必要であり、煩雑である点に着目した。また、本発明者は、従来法は、触媒として、高価なパラジウムを使用することが通常であり、高コストである点にも着目した。
【0006】
そこで、本発明は、触媒付与処理を要さず、より簡便且つ効率的にめっき粉体を得ることができる技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は上記課題に鑑みて鋭意研究を進めた結果、アルカリ金属水酸化物及びアルカリ土類金属水酸化物からなる群より選択される少なくとも1種のアルカリ、並びに水素化ホウ素化合物からなる群より選択される少なくとも1種の還元剤を含有する、酸化鉄粒子に対する無電解めっきの前処理のための組成物、であれば、上記課題を解決できることを見出した。本発明者は、この知見に基づいてさらに研究を進めた結果、本発明を完成させた。
【0008】
即ち、本発明は、下記の態様を包含する。
【0009】
項1. アルカリ金属水酸化物及びアルカリ土類金属水酸化物からなる群より選択される少なくとも1種のアルカリ、並びに水素化ホウ素化合物からなる群より選択される少なくとも1種の還元剤を含有する、酸化鉄粒子に対する無電解めっきの前処理のための組成物。
【0010】
項2. pHが10以上である、項1に記載の組成物。
【0011】
項3. 前記アルカリが水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化カリウム、及び水酸化バリウムからなる群より選択される少なくとも1種である、項1又は2に記載の組成物。
【0012】
項4. 前記水素化ホウ素化合物がボラン錯体、及び水素化ホウ素アルカリ金属塩からなる群より選択される少なくとも1種である、項1〜3のいずれかに記載の組成物。
【0013】
項5. 前記水素化ホウ素化合物がボラン錯体である、項1〜4のいずれかに記載の組成物。
【0014】
項6. 前記水素化ホウ素化合物がアミンボラン錯体である、項1〜5のいずれかに記載の組成物。
【0015】
項7. 液体であり、前記アルカリの濃度が0.1〜300g/Lであり、且つ前記還元剤の濃度が0.1〜50g/Lである、項1〜6のいずれかに記載の組成物。
【0016】
項8. (工程1)酸化鉄粒子と項1〜7のいずれかに記載の組成物とを接触させる工程を含む、無電解めっきの前処理方法。
【0017】
項9. 前記酸化鉄粒子がアルコール処理された酸化鉄粒子である、項8に記載の前処理方法。
【0018】
項10. (工程1)酸化鉄粒子と項1〜7のいずれかに記載の組成物とを接触させる工程、及び
(工程2)前記工程1後に、無電解めっき処理する工程
を含む、無電解めっき方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、触媒付与処理を要さず、より簡便且つ効率的にめっき粉体を得ることができる技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】無電解めっき処理前の酸化鉄粉体のSEM観察像(左側)及びEDSスペクトル(右側)を示す。
図2】無電解めっき処理後の粉体(実施例21)のSEM観察像(上段左側)、EDSスペクトル(上段右側)、及びEDSマッピング像(下段)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本明細書中において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
【0022】
1.前処理用組成物
本発明は、その一態様において、アルカリ金属水酸化物及びアルカリ土類金属水酸化物からなる群より選択される少なくとも1種のアルカリ、並びに水素化ホウ素化合物からなる群より選択される少なくとも1種の還元剤を含有する、酸化鉄粒子に対する無電解めっきの前処理のための組成物(本明細書において、「本発明の前処理用組成物」と示すこともある。)に関する。以下に、これについて説明する。
【0023】
アルカリは、アルカリ金属水酸化物及びアルカリ土類金属水酸化物からなる群より選択される少なくとも1種であり、この限りにおいて特に制限されない。
【0024】
アルカリ金属水酸化物としては、特に制限されず、例えば水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム等が挙げられる。また、アルカリ土類金属水酸化物としては、特に制限されず、例えば、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウム等が挙げられる。
【0025】
アルカリの中でも、好ましくは水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム等が挙げられ、より好ましくは水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。
【0026】
本発明の前処理用組成物を使用する際、アルカリの濃度は、特に制限されないが、例えば0.1〜300g/Lである。該濃度は、好ましくは0.3〜150g/L、より好ましくは0.3〜100g/L、さらに好ましくは0.3〜30g/L、よりさらに好ましくは0.3〜10g/L、とりわけさらに好ましくは0.3〜5g/Lである。特に、該濃度が0.3g/L以上であることにより、めっき析出性をより向上させることができる。
【0027】
還元剤は、水素化ホウ素化合物からなる群より選択される少なくとも1種であり、この限りにおいて特に制限されない。
【0028】
水素化ホウ素化合物としては、特に制限されず、例えばボラン錯体、水素化ホウ素アルカリ金属塩等が挙げられる。
【0029】
ボラン錯体は、ボラン(例えばBH)と他の化合物との錯体である限り特に制限されない。ボラン錯体としては、好ましくはボランとアミンとの錯体であるアミンボラン錯体が挙げられる。
【0030】
ボラン錯体を構成するアミンとしては、鎖状アミン(非環状アミン)、環状アミンのいずれでもよいが、好ましくは鎖状アミンであり、より好ましくは鎖状アミンの中でも、一般式(1):
【0031】
【化1】
[式中、R、R及びRは同一又は異なって、水素原子又はアルキル基を示す。]
で表される鎖状アミンが挙げられる。
【0032】
アルキル基には、直鎖状、分枝鎖状、及び環状のいずれのものも包含される。アルキル基は、好ましくは直鎖状又は分岐鎖状であり、より好ましくは直鎖状である。該アルキル基の炭素数は、特に制限されないが、例えば1〜8、好ましくは1〜6、より好ましくは1〜4、さらに好ましくは1〜2、よりさらに好ましくは1である。該アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、sec−ブチル基、n−ペンチル基、ネオペンチル基、n−ヘキシル基、3−メチルペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
【0033】
本発明の好ましい一態様においては、R、R及びRの内、いずれか2つ又は全て(より好ましくは2つ)がアルキル基であり、残りは水素原子である。
【0034】
ボラン錯体を構成するアミンの具体例としては、ジメチルアミン、ジエチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、メトキシエチルアミン、ジシクロへキシルアミン、t−ブチルアミン、アミノピリジン、エチレンジアミン、モルホリン、ピリジン、ピペリジン、イミダゾール等が挙げられる。これらの中でも、好ましくはジメチルアミン、ジエチルアミン、トリメチルアミン、メトキシエチルアミン、ジシクロへキシルアミン等が挙げられ、より好ましくはジメチルアミン等が挙げられる。
【0035】
水素化ホウ素アルカリ金属塩としては、特に制限されず、例えば水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウム等が挙げられる。
【0036】
本発明の前処理用組成物を使用する際、還元剤の濃度は、特に制限されないが、例えば0.1〜50g/Lである。該濃度は、好ましくは0.5〜50g/L、より好ましくは0.5〜20g/L、さらに好ましくは0.5〜10g/L、よりさらに好ましくは0.5〜5g/L、とりわけさらに好ましくは0.5〜2g/Lである。特に、該濃度が0.5g/L以上であることにより、めっき析出性をより向上させることができる。
【0037】
本発明の前処理用組成物には、本発明の効果が著しく阻害されない限りにおいて、上記以外の他の成分が含まれていてもよい。他の成分としては、例えばホウ素化合物(例えばホウ酸、酸化ホウ素等)等が挙げられる。他の成分は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0038】
他の成分の含有量は、特に制限されず、例えばアルカリと還元剤の合計100質量部に対して、例えば0〜100質量部、0〜50質量部、0〜20質量部、0〜10質量部、0〜5質量部、0〜1質量部である。
【0039】
本発明の前処理用組成物の性状は特に制限されず、液体又は固体のいずれであってもよい。固体である場合は、適宜溶媒を添加してから、液体状態で使用する。また、各成分濃度が比較的高く設定された液体である場合も、適宜溶媒で希釈してから、使用する。溶媒としては特に限定されず、例えば水、アルコール(例えば、エタノール等)、水とアルコールとの混合溶媒(例えば、アルコール濃度が1〜30質量%程度の混合溶媒)等が挙げられる。溶媒は、安全性に優れる点で、水が好ましく、即ち、本発明の前処理用組成物は、水溶液であることが好ましい。
【0040】
本発明の前処理用組成物を使用する際、そのpHは、好ましくは10〜14である。これにより、めっき析出性をより向上させることができる。
【0041】
2.前処理方法
本発明は、その一態様において、(工程1)酸化鉄粒子と本発明の前処理用組成物とを接触させる工程を含む、無電解めっきの前処理方法(本明細書において、「本発明の前処理方法」と示すこともある。)に関する。以下に、これについて説明する。
【0042】
酸化鉄粒子(単に、「粒子」と示すこともある。)は、少なくとも表面が酸化鉄で構成されている粒子である限り特に制限されず、内部も酸化鉄で構成されている粒子のみならず、内部は樹脂又は他の金属で構成されており表面が酸化鉄で構成されている粒子、内部が空洞である粒子、多孔質粒子も包含される。
【0043】
酸化鉄としては、特に制限されず、例えば酸化第一鉄、α−酸化第二鉄、γ−酸化第二鉄、四酸化三鉄等が挙げられる。これらの中でも、好ましくは、酸化第一鉄が挙げられる。
【0044】
粒子の形状は、特に制限されず、たとえば球状、棒状、針状、中空状、維体状等が挙げられる。
【0045】
粒子のサイズは特に制限されない。粒子の平均粒径は、例えば0.1〜1000μm、好ましくは0.5〜500μm、より好ましくは1〜300μm、さらに好ましくは2〜200μm、よりさらに好ましくは5〜100μm、とりわけさらに好ましくは10〜50μmである。
【0046】
粒子と本発明の前処理用組成物とを接触させる方法としては特に限定されず、従来公知の方法により接触させればよい。当該方法としては、粒子を本発明の前処理用組成物に浸漬する方法、本発明の前処理用組成物を粒子に噴霧する方法等が挙げられる。これらの中でも、より一層接触効率に優れる点で、粒子を本発明の前処理用組成物に浸漬する方法が好ましい。浸漬する場合、粒子同士が接することにより、粒子の表面の一部又は全部への前処理用組成物の接触が不十分になってしまうことを防ぐために、液を攪拌させることが好ましい。攪拌方法としては、特に制限されず、例えばプロペラによる攪拌等の機械的攪拌が挙げられる。
【0047】
工程1における本発明の前処理用組成物の温度は特に限定されず、5〜100℃が好ましく、10〜90℃がより好ましく、20〜80℃が更に好ましい。前処理用組成物の温度の下限を上記範囲とすることにより、めっき析出性をより一層高めることができる。
【0048】
工程1における、本発明の前処理用組成物と粒子との接触時間は、30秒〜60分が好ましく、1分〜20分がより好ましく、1〜10分が更に好ましい。接触時間の下限を上記範囲とすることにより、めっき析出性がより一層十分となる。
【0049】
工程1の後は、粒子を水等の溶媒で洗浄することが好ましい。
【0050】
本発明の前処理方法においては、工程1の前に、粒子をアルコール処理することが好ましい。換言すると、工程1で使用する粒子は、アルコール処理された粒子であることが好ましい。アルコール処理により、粒子の分散性を高めることができ、前処理及び無電解めっきをより良好に行うことができる。
【0051】
アルコール処理は、粒子とアルコール水溶液とを接触させることにより行うことができる。
【0052】
アルコールとしては、特に制限されず、例えばメタノール、エタノール、プロピルアルコール(例えばイソプロピルアルコール等)、ブタノール等を使用することができる。これらの中でも、好ましくはメタノールが挙げられる。
【0053】
アルコール水溶液のアルコール濃度としては、特に制限されないが、例えば5〜100mL/Lである。粒子の分散性の観点から、該濃度は、好ましくは10〜70mL/L、より好ましくは20〜50mL/L、さらに好ましくは25〜40mL/Lである。
【0054】
粒子とアルコール水溶液とを接触させる方法としては特に限定されず、従来公知の方法により接触させればよい。当該方法としては、粒子をアルコール水溶液に浸漬する方法、アルコール水溶液を粒子に噴霧する方法等が挙げられる。これらの中でも、より一層接触効率に優れる点で、粒子をアルコール水溶液に浸漬する方法が好ましい。浸漬する場合、粒子同士が接することにより、粒子の表面の一部又は全部へのアルコール水溶液の接触が不十分になってしまうことを防ぐために、液を攪拌させることが好ましい。攪拌方法としては、特に制限されず、例えばプロペラによる攪拌等の機械的攪拌が挙げられる。
【0055】
アルコール水溶液の温度は特に限定されず、5〜60℃が好ましく、10〜40℃がより好ましく、20〜30℃が更に好ましい。アルコール水溶液と粒子との接触時間は、5秒〜10分が好ましく、30秒〜5分がより好ましく、1分〜3分が更に好ましい。
【0056】
アルコール処理の後は、粒子を水等の溶媒で洗浄することが好ましい。
【0057】
上述の通り処理することにより、本発明の前処理方法で処理されてなる、前処理済酸化鉄粒子が得られる。
【0058】
3.無電解めっき方法
本発明は、その一態様において、(工程1)酸化鉄粒子と本発明の前処理用組成物とを接触させる工程、及び(工程2)前記工程1後に、無電解めっき処理する工程を含む、無電解めっき方法(本明細書において、「本発明の無電解めっき方法」と示すこともある。)に関する。以下に、これについて説明する。
【0059】
工程1については、上記「2.前処理方法」の通りである。工程1を行うことにより、本発明の無電解めっき方法は、触媒付与処理を要さず、より簡便且つ効率的にめっき粉体を得ることができる。さらに、本発明の無電解めっき方法は、エッチング工程、酸活性処理工程等も行う必要が無い。
【0060】
工程2は、粒子と無電解めっき液とを接触させることにより行うことができる。
【0061】
粒子と無電解めっき液とを接触させる方法としては特に限定されず、従来公知の方法により接触させればよい。当該方法としては、より一層接触効率に優れる点で、粒子を無電解めっき液に浸漬する方法が好ましい。浸漬する場合、粒子同士が接することにより、粒子の表面の一部又は全部への無電解めっき液の接触が不十分になってしまうことを防ぐために、液を攪拌させることが好ましい。
【0062】
無電解めっき液としては特に限定されず、従来公知の自己触媒型無電解めっき液を用いることができる。当該無電解めっき液としては、無電解ニッケルめっき液、無電解銅めっき液、無電解コバルトめっき液、無電解ニッケル−コバルト合金めっき液、無電解金めっき液、無電解スズめっき液、無電解銀めっき液等が挙げられる。
【0063】
無電解めっき液は、還元剤を含有することが好ましい。当該還元剤としては、例えばホスフィン酸ナトリウム、ジメチルアミンボラン、ホルマリン、グリオキシル酸、テトラヒドロホウ酸、ヒドラジン、次亜リン酸ナトリウム等が挙げられる。無電解めっき液中の還元剤の含有量は特に限定的されず、0.1〜100g/L程度が好ましく、1〜30g/L程度がより好ましい。還元剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0064】
無電解めっき液は、錯化剤を含有することが好ましい。当該錯化剤としては、例えばクエン酸、酒石酸、リンゴ酸、乳酸、グルコン酸又はそのアルカリ金属塩(例えばロッシェル塩等)やアンモニウム塩等のカルボン酸(塩)、グリシン等のアミノ酸、エチレンジアミン、アルキルアミン等のアミン類、その他のアンモニウム、EDTA、ピロリン酸(塩)等が挙げられる。
【0065】
無電解めっき液中の錯化剤の含有量は特に限定的されず、1〜100g/L程度が好ましく、10〜100g/L程度がより好ましい。錯化剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0066】
本発明の無電解めっき方法では、必要に応じて、工程2を2回以上繰り返して行ってもよい。工程2を2回以上繰り返すことで、無電解めっき皮膜が二層以上形成される。
【0067】
上述の通り処理することにより、本発明の無電解めっき方法でめっき処理されてなる、めっき粒子が得られる。
【実施例】
【0068】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0069】
(実施例1)
以下の処理は、全て容量100mLのビーカー中で、液を50rpmで攪拌しながら行った。酸化鉄(II)粉体(平均粒径10〜50μm)1gを30mL/Lメタノール水溶液中、25℃で2分間処理した。粉体をろ過及び水洗し、水洗後の粉体を前処理用(プリディップ用)水溶液(0.3g/L水酸化ナトリウム(NaOH)(アルカリ)、0.5g/Lジメチルアミンボラン(DMAB))中、25℃で1分間処理した。粉体をろ過及び水洗し、水洗後の粉体を無電解Ni−Pめっき液(奥野製薬工業製のトップニコロンVS−LF)中、90℃で3分間処理して、無電解めっき処理粉体を得た。
【0070】
(実施例2〜13)
プリディップ処理において、アルカリの種類、アルカリの濃度、水素化ホウ素化合物の種類、水素化ホウ素化合物の濃度、処理温度、及び処理時間からなる群より選択される少なくとも1種の条件を変更して、表1に示される条件でプリディップ処理を行う以外は、実施例1と同様にして無電解めっき処理粉体を得た。表1中、TEABはトリエチルアミンボランの略称である。
【0071】
(実施例14〜16)
酸化鉄(II)粉体に代えてα−酸化鉄(III)粉体、γ−酸化鉄(III)粉体、又は四酸化三鉄粉体を使用する以外は、実施例5と同様にして無電解めっき処理粉体を得た。各実施例の条件を表2〜4に示す。
【0072】
(実施例17〜32)
無電解めっきを、無電解Ni−Bめっき液(奥野製薬工業製のトップケミアロイ66−LF)中、65℃で5分間処理して行う以外は、実施例1〜16と同様にして(実施例1〜16が順に実施例17〜32に対応)無電解めっき処理粉体を得た。各実施例の条件を表5〜8に示す。
【0073】
(比較例1)
プリディップ処理を行わない以外は、実施例1と同様にして無電解めっき処理粉体を得た。条件を表9に示す。
【0074】
(比較例2)
プリディップ処理を行わない以外は、実施例17と同様にして無電解めっき処理粉体を得た。条件を表9に示す。
【0075】
(比較例3〜4、7及び9)
プリディップ処理用水溶液の組成及び処理温度を変更して、表9に示される条件(処理時間は10分)でプリディップ処理を行う以外は、実施例1と同様にして無電解めっき処理粉体を得た。
【0076】
(比較例5〜6、8及び10)
プリディップ処理用水溶液の組成及び処理温度を変更して、表9に示される条件(処理時間は10分)でプリディップ処理を行う以外は、実施例17と同様にして無電解めっき処理粉体を得た。
【0077】
(評価)
無電解めっき処理粉体におけるニッケルめっき析出の有無を、粉体の色及びEDSスペクトルにおけるニッケルピークの有無で評価した。ニッケルめっき析出が無い場合は、粉体の色は酸化鉄の色(黒色)のままであり、析出が有る場合は、粉体の色はニッケルめっきの色(灰色)に変わる。また、EDSスペクトルにおけるピークは、無電解めっき処理前は全て鉄の存在を示すピークである(図1)のに対して、無電解めっき処理によりニッケルめっき析出がある場合は鉄の存在を示すピーク以外にニッケルの存在を示すピークもある(図2)。また、図1及び図2には、SEM観察結果も示し、図2にはEDSマッピング像も示す。
【0078】
粉体の色が灰色であり且つニッケルピークが有る場合をめっき析出「○」と評価し、粉体の色が黒色であり且つニッケルピークが無い場合をめっき析出「×」と評価した。
【0079】
結果を表1〜9に示す。
【0080】
【表1】
【0081】
【表2】
【0082】
【表3】
【0083】
【表4】
【0084】
【表5】
【0085】
【表6】
【0086】
【表7】
【0087】
【表8】
【0088】
【表9】
【0089】
表1〜9に示されるように、アルカリ金属水酸化物及びアルカリ土類金属水酸化物からなる群より選択される少なくとも1種のアルカリ、並びに水素化ホウ素化合物からなる群より選択される少なくとも1種の還元剤を含有する前処理液で処理することにより、各種酸化鉄粉体に対して、触媒処理工程が無くとも、良好に無電解めっきできることが分かった。
図1
図2
【手続補正書】
【提出日】2019年12月19日
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ金属水酸化物及びアルカリ土類金属水酸化物からなる群より選択される少なくとも1種のアルカリ、並びに水素化ホウ素化合物からなる群より選択される少なくとも1種の還元剤を含有且つ前記還元剤の濃度が0.1〜10g/Lである、酸化鉄粒子に対する無電解めっきの前処理のための液体組成物。
【請求項2】
pHが10以上である、請求項1に記載の液体組成物。
【請求項3】
前記アルカリが水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化カリウム、及び水酸化バリウムからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1又は2に記載の液体組成物。
【請求項4】
前記水素化ホウ素化合物がボラン錯体、及び水素化ホウ素アルカリ金属塩からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1〜3のいずれかに記載の液体組成物。
【請求項5】
前記水素化ホウ素化合物がボラン錯体である、請求項1〜4のいずれかに記載の液体組成物。
【請求項6】
前記水素化ホウ素化合物がアミンボラン錯体である、請求項1〜5のいずれかに記載の液体組成物。
【請求項7】
記アルカリの濃度が0.1〜300g/Lである、請求項1〜6のいずれかに記載の液体組成物。
【請求項8】
(工程1)酸化鉄粒子と請求項1〜7のいずれかに記載の液体組成物とを接触させる工程を含む、無電解めっきの前処理方法。
【請求項9】
前記酸化鉄粒子がアルコール処理された酸化鉄粒子である、請求項8に記載の前処理方法。
【請求項10】
(工程1)酸化鉄粒子と請求項1〜7のいずれかに記載の液体組成物とを接触させる工程、及び
(工程2)前記工程1後に、無電解めっき処理する工程を含む、無電解めっき方法。