【解決手段】 溶融性材料からなる第1鎖編糸21aと難溶融性材料からなる第2鎖編糸21bを同一の鎖編組織19に備えた複数の鎖編組織を編成するとともに、緯渡り糸として、溶融性材料とともに弾性を有する熱溶融性弾性緯渡り糸22aと、難溶融性材料からなる難溶融性緯渡り糸22bとを使用し、ポリウレタン材料からなる挿入糸23を、鎖編組織19に挿入してラッセル編地20を編成し、編成工程を経て得られたラッセル編地20を、溶融性材料の溶融温度以上の温度に加熱する熱処理を、第2鎖編糸21b、熱溶融性弾性緯渡り糸22a、難溶融性緯渡り糸22b及び挿入糸23が糸条として残る処理時間実行してラッセルレース編地を得る。
編成方向において、隣接する鎖編組織に編み込まれる前記熱溶融性弾性緯渡り糸の前記糸渡りパターン間で、前記隣接鎖編組織糸渡り部の編成方向に於けるコース位置が異ならせてある請求項6記載のラッセルレース編物の製造方法。
前記熱溶融性弾性緯渡り糸が、太さが22〜56Dtex、溶融温度が150〜180℃の熱溶着性ポリウレタン糸と、太さが33〜56Dtex、溶融温度が200℃のナイロン糸を合燃した糸である点請求項9記載のラッセルレース編地の製造方法。
前記熱溶融性弾性緯渡り糸が、太さが22〜56Dtex、溶融温度が150〜180℃の熱溶着性ポリウレタン糸を芯糸とし、当該芯糸の周りに太さが33〜56Dtex、溶融温度が200℃のナイロン糸を環巻したカバーリング糸である請求項9記載のラッセルレース編地の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献4に開示の技術にあっても、以下に示す改善の余地があることが判明した。
(1)上記技術では、ほつれ防止が、鎖編組織の編成方向に沿って挿入される挿入糸と鎖編組織を構成する糸との溶着で確保されることとなるが、例えば、編地の幅方向(編成方向に直交する方向)においてもほつれ防止がなされることが好ましく、改善の余地がある。
(2)上記技術では、編地は編成方向の伸縮性を有するが、この点、編地の幅方向にも伸縮性を有するほうが製品としては好ましい場合がある。
(3)一般にラッセルレース編地は、鎖編組織とこの鎖編組織の幅方向に編み込まれるネット糸(緯渡り糸の一種)とにより地組織(ネットと呼ばれる)が形成され、この地組織に多数の柄糸を編み込んで柄を形成するが、これら多数の柄糸に対してネット糸及び挿入糸とが共に編地の一面(例えば裏面)側に位置する組織では、鎖編組織、ネット糸及び挿入糸の溶着を利用してほつれ防止を図ろうとした場合、そのほつれ防止が当該一面側に片より改善の余地がある。
【0009】
上記実情に鑑み、本発明の主たる課題は、ほつれの問題を有効に解消することが可能でありながら、上記の課題に関して少なくとも(1)(2)に対応できるラッセルレース編地の製造方法を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1特徴構成は、
編成方向に延びる鎖編組織をそれぞれ形成する複数の鎖編糸と、
前記鎖編糸によって形成された複数の鎖編組織間に編地緯方向に渡って編み込まれる緯渡り糸と、加熱処理されて一部若しくは全部が溶融して溶着性を示す熱溶融糸とをラッセル編機に掛けてラッセル編地を編成する編成工程と、
前記編成工程を経て得られるラッセル編地を熱処理する熱処理工程とを実行し、ラッセルレース編地を得るラッセルレース編地の製造方法であって、
前記編成工程において、
加熱処理されて一部若しくは全部が溶融する溶融性材料からなる溶融性糸条部位を第1鎖編部位として、前記溶融性材料より溶融温度が高い難溶融性材料からなる難溶融性糸条部位を第2鎖編部位として、前記第1鎖編部位及び第2鎖編部位を同一の鎖編組織に備えた複数の鎖編組織を編成するとともに、
前記緯渡り糸として、溶融性材料からなるとともに弾性を有する熱溶融性弾性材料からなる熱溶融性弾性緯渡り糸と、前記溶融性材料より溶融温度が高い難溶融性材料からなる難溶融性緯渡り糸とを使用し、
前記熱溶融性弾性材料からなる挿入糸を、前記鎖編組織に挿入してラッセル編地を編成し、
前記熱処理工程において、
前記編成工程を経て得られたラッセル編地を、前記第1鎖編部位と前記熱溶融性弾性緯渡り糸及び前記挿入糸との何れか一方以上とが接触する接触部が形成される編地緊張状態で、前記溶融性材料の溶融温度以上の温度に加熱する熱処理を、前記難溶融性糸条部位、前記熱溶融性弾性緯渡り糸、前記難溶融性緯渡り糸及び前記挿入糸が糸条として残る処理時間、実行して、前記接触部を溶着させてラッセルレース編地を得る点にある。
【0011】
本特徴構成においては、編成工程とそれに続く熱処理工程を経てラッセルレース編地を得るが、編成工程で編成するラッセル編地は、鎖編組織に溶融性糸条部位及び難溶融性糸条部位を有し、この鎖編組織内に熱溶融性弾性緯渡り糸、難溶融性緯渡り糸及び挿入糸が挿入された構造とする。結果、溶融性糸条部位と、熱溶融性弾性緯渡り糸及び挿入糸との何れかの接触部位を増加させることが可能となり、熱処理工程を経て得られるラッセルレース編地はこれら接触部位で溶着することとなり、ほつれ防止の効果を各段に向上することができる。
【0012】
一方、この熱処理工程において、熱溶融性弾性緯渡り糸及び挿入糸が糸状として残る処理とするため、挿入糸により編地の編成方向に、熱溶融性弾性緯渡り糸により編地の幅方向に、それぞれ伸縮性を付与することができる。
【0013】
本発明の第2特徴構成は、
前記編成工程において、
前記溶融性材料からなりフィラメント糸である第1鎖編糸と、前記難溶融性材料からなる第2鎖編糸とを、異なるビームから個別の筬に給糸して、前記第1鎖編糸により前記第1鎖編部位を、前記第2鎖編糸により前記第2鎖編部位を、同一の鎖編組織に編成するとともに、
前記第1鎖編糸と前記第2鎖編糸とにより形成される鎖編組織に、前記熱溶融性弾性緯渡り糸、前記難溶融性緯渡り糸及び前記挿入糸を挿入してラッセル編地を編成し、
前記熱処理工程において、
前記編成工程を経て得られたラッセル編地を、前記第1鎖編糸の溶融温度以上の温度に加熱する熱処理を、前記第2鎖編糸、前記熱溶融性弾性緯渡り糸、前記難溶融性緯渡り糸及び前記挿入糸が糸条として残る処理時間、実行してラッセルレース編地を得る点にある。
【0014】
本特徴構成によれば、第1鎖編糸、第2鎖編糸で鎖編組織を形成して、この第1鎖編糸の溶融・他の糸との接触部での溶着により良好なほつれ防止機能を達成できる。
【0015】
本発明の第3特徴構成は、
ラッセル編機の前後方法において、
前記熱溶融性弾性緯渡り糸が給糸される筬が、前記難溶融性緯渡り糸が給糸される筬より機台前側に位置し、前記難溶融性緯渡り糸が給糸される筬が、前記挿入糸が給糸される筬より機台前側に位置するラッセル編機を使用する点にある。
【0016】
本特徴構成によれば、ラッセル編地は、難溶融性緯渡り糸(後述するようにこの糸は基本的には柄糸と呼ばれる多数の糸となる)から構成される柄部を挟んで、その前側(表側)に熱溶融性弾性緯渡り糸(後述するようにこの糸は基本的にはネット糸と呼ばれ、鎖編糸とともに地組織を形成する糸となる)が、これら糸の後側(裏側)に挿入糸が位置される構造となる。結果、鎖編組織、地組織が、共に柄糸群を挟んだ構成となることで、編地の表面側及び裏面側に多数の溶着部となる接触部を形成することで、例え地組織に部分的な断裂が発生しても、その伝搬を防ぐことが可能となる。
【0017】
本発明の第4特徴構成は、
前記熱溶融性弾性緯渡り糸と前記挿入糸とが編成方向において重なる重複編成部を形成する点ある。
【0018】
本特徴構成によれば、重複編成部を形成することで、熱溶融性弾性緯渡り糸と挿入糸との接触部(換言すると溶着部)の形成機会を増加させて、良好にほつれ防止を達成できる。
【0019】
本発明の第5特徴構成は、
前記鎖編組織に形成されるシンカーループに対する前記熱溶融性弾性緯渡り糸及び前記挿入糸の進入方向により決定される糸掛け形態に関して、
前記熱溶融性弾性緯渡り糸の糸掛け形態と前記挿入糸の糸掛け形態とが同一とされている点にある。
【0020】
本特徴構成によれば、熱溶融性弾性緯渡り糸と挿入糸との接触部(換言すると溶着部)の形成機会を増加させて、良好にほつれ防止を達成できる。
【0021】
本発明の第6特徴構成は、
隣接編成される前記鎖編組織に渡る前記熱溶融性弾性緯渡り糸の緯渡り形態に関して、
前記熱溶融性弾性緯渡り糸が同一の鎖編組織に挿入される同一鎖編組織挿入部を所定コース編成した後、当該同一鎖編組織挿入部に引き続いて、前記熱溶融性弾性緯渡り糸が隣接鎖編組織に移動される隣接鎖編組織糸渡り部を所定コース編成する糸渡りパターンを、編成方向に繰り返す点にある。
【0022】
本特徴構成によれば、熱溶融性弾性緯渡り糸の緯渡り形態を所定の緯渡りパターンを繰り返す形態として、均一性の高い地組織を形成できる。
【0023】
本発明の第7特徴構成は、
編成方向において、隣接する鎖編組織に編み込まれる前記熱溶融性弾性緯渡り糸の前記糸渡りパターン間で、前記隣接鎖編組織糸渡り部の編成方向に於けるコース位置が異ならせてある点にある。
【0024】
本特徴構成によれば、隣接する鎖編組織間で隣接鎖編組織糸渡り部のコース位置を変更することで、装飾性を有し、同時に均一性を有する地組織を形成できる。
コース位置が異なることで、切断される部位を最小限に抑えることができる。
【0025】
本発明の第8特徴構成は、
前記編成工程において、
前記ラッセル編地の全面に、前記第1鎖編部位、前記第2鎖編部位、前記熱溶融性弾性緯渡り糸及び前記挿入糸を有する鎖編組織を編成する点にある。
【0026】
本特徴構成によれば、編成方向及び幅方向の両方に伸縮性を有し、良好にほつれが防止されたラッセルレース編地を実現できる。
【0027】
本発明の第9特徴構成は、
前記第1鎖編糸が、太さが17〜156Dtex(ディテックス)、溶融温度が150〜180℃の熱溶着性ポリウレタン糸であり、
前記第2鎖編糸が、太さが33〜78Dtex、溶融温度が200℃のナイロン糸であり、
前記熱溶融性弾性緯渡り糸に、太さが22〜56Dtex、溶融温度が150〜180℃の熱溶着性ポリウレタン糸が含まれ、
前記挿入糸が、ポリウレタン糸であり、
前記熱処理工程において、前記編成工程を経て得られたラッセル編地を、190℃以上、200℃以下の加熱温度範囲内の温度で30〜90秒間加熱処理する点にある。
【0028】
本特徴構成によれば、適切な太さ及び糸種を選択することで、編成方向及び幅方向において伸縮性を有し、さらにほつれ難いラッセルレース編地を得ることができる。
【0029】
本発明の第10特徴構成は、
前記熱溶融性弾性緯渡り糸が、太さが22〜56Dtex、溶融温度が150〜180℃の熱溶着性ポリウレタン糸と、太さが33〜56Dtex、溶融温度が200℃のナイロン糸を合燃した糸である点にある。
【0030】
本特徴構成によれば、熱溶融性弾性緯渡り糸として、合燃糸を採用すると、熱処理工程において、熱溶融性及び弾性を有する糸を糸条のまま残して、編成方向及び幅方向において伸縮性を有し、さらにほつれ難いラッセルレース編地を容易に得ることができる。
【0031】
本発明の第11特徴構成は、
前記熱溶融性弾性緯渡り糸が、太さが22〜56Dtex、溶融温度が150〜180℃の熱溶着性ポリウレタン糸を芯糸とし、太さが33〜56Dtex、溶融温度が200℃のナイロン糸を鞘糸とするカバーリング糸である点にある。
【0032】
本特徴構成によれば、熱溶融性弾性緯渡り糸として、カバーリング糸を採用すること、
例えば、芯糸に熱溶融性及び弾性を有する糸を、鞘糸に難溶融性の糸を使用することで、編成方向及び幅方向において伸縮性を有し、さらにほつれ難いラッセルレース編地を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明はラッセルレース編地の製造方法に係り、その工程は、
図8に示すように、編成工程s1と、この編成工程s1を経て得られるラッセル編地20を熱処理する熱処理工程s2を主な工程としている。熱処理工程s2は熱セット工程とも呼ばれる工程で、これら両工程s1、s2を経た後に、ラッセルレース編地を染色する染色工程s3、樹脂処理する樹脂処理乾燥工程s4を実行し、裁断縫製工程s5において、所要の用途を満たすように裁断縫製して、製品を得ることができる。製品の一例は、女性用衣類となる。
【0035】
以下に示す実施形態の特徴は、編成工程s1において、今般、発明者らが改良を加えた独特のラッセル編機200を使用してラッセル編地20を編成し、このラッセル編地20を少なくとも熱処理する点にある。
【0036】
図1は、この実施形態におけるラッセル編地20を構成する多数の鎖編組織19の一つを示しており、この組織19を構成する主な糸(第1鎖編糸21a、第2鎖編糸21b、ネット糸22a(22a1、22a2)及び挿入糸23)の編成形態を示している。この
図1は、具体的には、
図2に示す本実施形態に係る編組織において、破線で囲ったAで示す領域の拡大図である。後にも示すように、実際のラッセル編地20には、緯渡り糸としては、当該ネット糸22a(22a1、22a2)の他、所謂、柄糸22b(
図3参照)である非常に多数の糸が編み込まれる。
図1には、ネット糸22a(22a1、22a2)の二本のみを示している。ここで、ネット糸22a1は、
図2において左側に示す鎖編組織19に糸渡りする糸であり、22a2は右側の鎖編組織19から糸渡りしてくる糸である。ラッセル編地20では、鎖編組織19とこれらネット糸22a(22a1、22a2)により、ネット(地組織)と呼ばれる基本組織が形成される。
【0037】
図2は、このような編地組織を構成する鎖編糸21と、本発明においてこの鎖編糸21(21a,21b)と対を成すネット糸22a(22a1、22a2)及び挿入糸23の関係を示した図である。
本発明のラッセル編地20の編成においては、第1鎖編糸21a、第2鎖編糸21bは同一動作で鎖編組織19を形成するため、この図において、その一方を省略している(
図7(a)において同じ)。
図2では、鎖編組織19を構成する鎖編糸21(21a,21b)と、これに挿入するネット糸22a(22a1、22a2)及び挿入糸23以外の他の糸も省略している。
【0038】
この組織のラッセル編地20を編成する場合の、編成動作における各糸(鎖編糸21(21a,21b)、ネット糸22a(22a1、22a2)及び挿入糸23)の編み針72に対する位置関係を示すのが、
図7である。同図において、横矢印は、各針72に対する筬((a)の場合は地筬64(64a,64b)、(b)の場合はネット糸用筬62及び(c)の場合は挿入糸用筬61)の動きに対応する。
【0039】
図2においては、各鎖編組織19は互いに独立する編み組織となるが、実際は、これら組織19間に、多数の柄糸22b(
図3参照)が編み込まれて、ラッセル編地20が成立する。
【0040】
図1を参照して説明すると、編成工程s1を経て編成されるラッセル編地20の特徴は、鎖編組織19とされる鎖編糸21が2種の糸21a.21bから構成され、さらに、このようにして形成される鎖編組織19に編成方向C(編地経方向)に沿って、複数の鎖編組織19に渡って(本実施形態では2鎖編組織)ネット糸22a(22a1、22a2)が編み込まれているととともに、同一の鎖編組織19に挿入糸23が挿入されている点にある。
【0041】
このラッセル編地20では、鎖編糸21の一方の糸21aを溶融性材料からなる熱溶融糸とする。この熱溶融糸21aは熱溶着糸とも呼ばれる。この糸21aは、熱可塑性を有し、所定の温度以上に加熱されることで溶融し、この熱溶融糸21aと同種材料からなるとともに接触しているネット糸22a(22a1、22a2)或いは挿入糸23に溶着する。
鎖編糸21の他方の糸21bは、溶融性材料より溶融温度が高い難溶融性材料からなる糸とする。
従って、この実施形態では、第1鎖編糸21aが溶融性材料からなる第1鎖編糸条部位となり、第2鎖編糸21bが難溶融性材料からなる第2鎖編糸条部位となる。
【0042】
図1には、
図2に示す領域Aに対応して、一の鎖編組織19のみを示しているが、本実施形態では、ラッセル編地20を形成する全ての鎖編組織19(全鎖編組織)を、上記構成とする。結果、熱処理工程s2において、鎖編組織19の一部を構成する熱溶融糸21aが少なくとも、ネット糸22a(22a1、22a2)及び挿入糸23の何れか一方以上にその接触部Yで溶着し、ラッセルレース編地を、どの部位でどのように裁断しても、ほつれの発生することがないラッセルレース製品を得ることができる。
【0043】
ここで、熱溶融糸21aは、前記熱処理によりほぼその全部が溶融する。発明者らの確認では、本発明のラッセルレース編地には、熱溶融糸21aがネット糸22a(22a1、22a2)及び挿入糸23に溶着した部位Yが、ほつれ止めにおいて有効であった。即ち、編地に対する伸縮操作を行っても、そのほつれ止め効果が失われることはなかった。発明の概要は以上のとおりである。
【0044】
以下、1.編地組織、2.糸使い、3.ラッセル編機、4.ラッセルレース編地の製造の順に説明する。
【0045】
1.編地組織
図1に示すように、本発明に係るラッセル編地20は、編成方向Cに延びる鎖編組織19をそれぞれ構成する複数の鎖編糸21a,21bと、これら鎖編糸21a,21bによって形成された鎖編組織19間に編地緯方向Wに渡って編み込まれる緯渡り糸であるネット糸22a(22a1、22a2)及び柄糸22bと、鎖編組織19に編成方向Cに沿って、各コース(実際は、鎖編組織19のループ状部分r3(シンカーループ)の中)に挿入される挿入糸23と備えて構成される。ここで、これらの図面における、ネット糸22a(22a1、22a2)及び挿入糸23のループへの挿入形態は、これらの糸22a(22a1、22a2)、23が鎖編の外方から内方に向かってシンカーループに挿入される、所謂、正掛けである。従って、ネット糸22a1、22a2と挿入糸23との編み込み形態は同一としている。
【0046】
同図及び
図3からも判明するように、鎖編糸21は、熱溶融糸である第1鎖編糸21aと、この熱溶融糸21aより溶融温度が高い第2鎖編糸21bとを、異なるビームB1,B2から個別の筬64a,64bに給糸して鎖編組織19が編成される。
さらに、これら第1鎖編糸21aと第2鎖編糸21bとにより形成される鎖編組織19に、ネット糸用ビームB3からネット糸22a(22a1、22a2)がネット糸用筬62,62を介して給糸され、ビームB4から挿入糸用の筬61に給糸して挿入糸23が挿入される。
【0047】
本発明では、ネット糸22a(22a1、22a2)は、所謂、熱溶融性弾性糸を含む糸としている。結果、ラッセル編地にその幅方向の伸縮性を与えることができる。
【0048】
一方、柄糸22bは、レース柄を決定するために編み込まれる多数の糸であり、その糸種、緯渡りの態様により、レース模様を決定する。
【0049】
即ち、各糸21a,21b、22a(22a1、22a2).22b、23によって多数の格子が形成され、各格子にそれぞれ囲まれて透孔が形成され、これら各格子の形状(透孔の形状)及び配置によってレース模様が決定する。
【0050】
以上が、本実施形態に係るラッセル編地の概要であるが、
図1、
図2に示す編地組織の具体的構成に即して、さらに詳細に説明する。
図2より明らかなように、隣接編成される鎖編組織19に渡るネット糸22aの緯渡り形態に関して、ネット糸22a(22a1,22a2)が同一の鎖編組織に挿入される同一鎖編組織挿入部SCを所定コース編成した後(
図2に示す例では3コース)、当該同一鎖編組織挿入部SCに引き続いて、ネット糸22a(22a1,22a2)が隣接鎖編組織に移動される隣接鎖編組織糸渡り部DCを所定コース編成する(
図2に示す例では2コース)糸渡りパターンPを、編成方向に繰り返す構成とされている。
【0051】
さらに、編地経方向である編成方向Cにおいて、隣接する鎖編組織19に編み込まれるネット糸22a(22a1,22a2)の糸渡りパターンP間で、隣接鎖編組織糸渡り部DCの編成方向Cに於けるコース位置が異ならせてある。
さらに詳細に説明すると、
図2の右端から三番目に示す鎖編組織19を左側鎖編組織と、その右に示す鎖編組織19を中央鎖編組織と、さらにその右の示す鎖編組織を右側鎖編組織と呼び、左側鎖編組織19と右側鎖編組織19に編み込まれているネット糸に符号22a1を付し、中央鎖編組織19に編み込まれているネット糸に符号22a2を付している。
【0052】
これらネット糸22a1,22a2に注目すると明らかなように、ネット糸22a1の隣接鎖編組織糸渡り部DC(この部位を構成する渡り糸をTで示た)は、図面最下段のコースから3段目及び4段目から4コース毎に形成されており、ネット糸22a2の隣接鎖編組織糸渡り部DC(この部位を構成する渡り糸をTで示た)は、図面最下段のコースから1段目及び2段目から4コース毎に形成されている。結果、先にも説明したように、隣接する鎖編組織19に編み込まれるネット糸22a(22a1,22a2)の糸渡りパターンP間で、隣接鎖編組織糸渡り部Tの編成方向に於けるコース位置を異ならせている。
【0053】
また、
図1からも判明するように、ネット糸22a(22a1,22a2)と挿入糸23の関係においては、両者がラッセル編地の編成方向Cにおいて重なる重複編成部(
図2に示すに同一鎖編組織挿入部SCがこの部位となる)を形成している。結果、この領域においては、第1鎖編糸21a、ネット糸22a(22a1,22a2)及び挿入糸23との接触部が形成されやすく、良好な溶着を実現できる。
【0054】
2.糸使い
鎖編糸
鎖編糸21としては、第1鎖編糸21aと第2鎖編糸21bを使用する。
本実施形態においては、このように複数本の鎖編糸21で同一の鎖編組織19を構成するが、従来、鎖編組織19を形成するために採用されてきた第2鎖編糸21bに加えて第1鎖編糸21aを追加し、さらにこの糸21aが熱溶融性である。
【0055】
第1鎖編糸21aとしては、例えばポリエステル系ポリウレタン(商品名:モビロン、日清紡社製)を使用する。ただし、本実施形態では、この糸21aは、その太さが17〜56Dtexと比較的細い。この糸は、熱処理により溶融して接触する糸に溶着する熱溶着性ポリウレタン糸であり、同時に、伸縮性を有する材料からなる単繊維糸(フィラメント糸)でもある。この糸は、この糸単独で鎖編組織19を保持することは事実上不可能であり、さらに、その鎖編編成も難しい。
図1においては、理解を容易とするため比較的細く描いている。この糸21aの溶融温度は150〜180℃である。
【0056】
第2鎖編糸21bとしは、合成樹脂からなる複数の長繊維によって構成される長繊維糸(フィラメントヤーン)を使用する。例えばポリアミド(商標名:ナイロン)、レーヨン、ポリエステルなどからなり、その太さは33から56Dtex程度である。この糸21bが、従来のストレッチラッセルレースにおいて、単独で鎖編組織19を形成していた糸である。この第2鎖編糸21bの溶融温度は200℃程度である。
【0057】
緯渡り糸22a,22bに関しては、ネット糸22a(22a1、22a2)、柄糸22bの順に説明する。
【0058】
ネット糸22a(22a1、22a2)としては、例えばポリエステル系ポリウレタンと、ポリアミド(商標名:ナイロン)、レーヨン、ポリエステル等の難溶融性繊維を合糸した糸を使用する。
例えば、22〜44Dtexのポリエステル系ポリウレタンと、33〜56Dtexのポリアミドとを、200〜300t(ターン)/mの撚りをかけた合燃糸を使用する。ここで、前者の糸は、材質上、熱溶融糸21aと同種の材料ではあるが、合燃されているため、熱処理工程を経てもその糸条は残る。そして、この糸は伸縮性を有することから、編成後、ラッセル編地20の幅方向にストレッチ性を付することができる。この糸22aの溶融温度は210℃程度である。この糸は溶融性材料からなるととも弾性を有する熱溶融性弾性材料からなる「熱溶融性弾性緯渡り糸」の一種である。
【0059】
柄糸22bとしては、例えば合成樹脂からなる複数の長繊維によって構成される長繊維糸(フィラメントヤーン)を使用する。例えばポリアミド(商標名:ナイロン)、レーヨン、ポリエステルなどからなり、その太さは33〜78Dtex程度である。この糸22bの溶融温度も200℃程度である。この糸は難溶融性材料からなる「難溶融性弾性緯渡り糸」の一種である。
【0060】
挿入糸23としては、例えばポリエステル系ポリウレタンを使用する。ただし、この糸23は、その太さが156〜310Dtexと、先に説明した第1鎖編糸21aより太い。材質上、この糸は、熱溶融糸21aと同種の材料ではあるが、高い溶融温度であるとともに、太いために、熱処理工程を経てもその糸条は残る。そして、この糸は強い伸縮性を有することから、編成後、ラッセル編地20の編成方向(経方向)にストレッチ性を付する。この糸22の溶融温度は210℃程度である。
【0061】
発明者らの検討では、後述する熱処理により、熱溶融糸21aがほぼ溶融するとともに、ネット糸22a及び挿入糸23の表面の少なくとも一部が溶融し、良好な溶着状態となることが明らかとなっていた。
【0062】
3.ラッセル編機
本発明で使用するラッセル編地20は、例えばジャガードラッセル編機によって編成することができる。ジャガードラッセル編機200(以下単に編機と称する)は、鎖編糸21(21a,21b)、緯渡り糸(22a、22b)、挿入糸23を編み針72近傍に設けられる編成部201に向けて導糸する導糸手段(具体的には筬61、62、63、64a、64b)を有する。
【0063】
本実施形態では、鎖編糸21を編成部201に向けて導糸する筬64a,64bは、他の筬61、62、63より機台前方(
図3の右側で、同図に「機台前側」と記載)に位置され、筬64aが筬64bより機台前方に位置される。
挿入糸23を編成部201に向けて導糸する筬61は、柄糸22bを編成部201に向けて導糸する筬63よりも、編機後方(
図3の左側で、同図に「機台後側」記載)に配置される。
さらに、ネット糸22a(22a1、22a2)を編成部201に向けて導糸する筬62は、柄糸22bを編成部201に向けて導糸する筬63よりも、編機前方に配置している。即ち、この筬62は、柄糸22b用の筬63と鎖編糸21用の筬64bとの間に配置している。
ここで編機後方とは、編み針72の背面からフック部へ向かう方向である。
【0064】
具体的には、
図3、
図4に示すように、編機200は、挿入糸用筬61、多数の柄筬63、ジャガード筬であり、本発明においてネット糸用筬として働くジャガードバー62、及び一対の地筬64a,64bによって実現される。鎖編糸21a,21bは地筬64a,64bにそれぞれ通糸し、緯渡り糸は、ネット糸に関してジャガードバー62に通糸し、柄糸に関して柄筬63に通糸する。挿入糸23は挿入糸用筬61に通糸する。
【0065】
このような各筬61〜64a,64bは、編み針72が鎖編糸21を捕捉する編成部201に向かって、放射状に並び、編み針72が鎖編糸21を捕捉する方向となる編機後方に向かうにつれて、機台前方から、地筬64a,64b、ジャガードバー62,複数の柄糸用筬63、挿入糸用筬61の順に配置される。従って各糸は、鎖編糸21(21a,21b)、複数の柄糸22b、ネット糸22a及び挿入糸23の順で、予め定める編成位置から編機前後方向に並ぶこととなる。
本実施形態では、第1鎖編糸21a用の地筬64aが、第2鎖編糸21bの地筬64bに対して前側に位置され、第1鎖編糸21aが編機200の最前列に並び、作業者による第1鎖編糸21aの取り扱いが容易となる。
【0066】
編み針72は、編機前後方向(
図3、
図4の左右方向)に直交する方向(
図3、
図4の紙面表裏方向)に多数並んでおり、各編み針72を保持する保持手段となるニードルバー69に固定されている。ニードルバー69は、各編み針72を昇降運動する。またニードルバー69が動作して、各筬61〜64a,64bに導糸される各糸が予め定める編成位置に導かれる。
【0067】
それぞれの筬61〜64a,64bは、対応する各糸23、22a(22a1,22a2),22b、21a,21bを、編み針72の昇降運動に同期して、編み針72に対して編機後方の空間で対応する各糸23、22a(22a1,22a2),22b,21a,21bを、編み針72が並ぶ方向に移動させるオーバーラップ(編目編成運動)と、編み針72に対して編機前方の空間で対応する各糸23、22a(22a1,22a2),22b、21a,21bを、編み針72が並ぶ方向に移動させるアンダーラップ(挿入運動)とを行う。またこれらのラップ運動に加えて編み針72が並ぶ方向に直交する方向に移動するいわゆるスイング(揺動運動)がなされる。具体的には、2つのスイング動作がある。
【0068】
第1のスイング動作であるスイングイン(バックスイング)動作では、編み針72の側方を通過して、編み針72に対して編機後方の空間から編機前方の空間に対応する各糸23、22a,22b、21a,21bを移動させる。また第2スイング動作であるスイングアウト(フロントスイング)動作では、編み針72の側方を通過して、編み針72に対して編機前方の空間から編機後方の空間に対応する各糸を移動させる。各筬61〜64a,64bに取付けられたガイドが動作することによって、対応する各糸が編み針72のまわりを予め定められる経路に従って通過し、対応する各糸23、22a,22b、21a,21bを含むラッセル編地20が形成される。鎖編糸21について
図7(a)に、ネット糸22a(22a1,22a2)について
図7(b)に、挿入糸23について
図7(c)に、各編み針72に対する動作位置関係を示した。
【0069】
さて、上記の筬61〜64a,64bに関して、本発明に係るラッセル編地20を編成するラッセル編機200には、第1鎖編糸21aを給糸するビームB1から地筬64a(第1の筬)までの第1鎖編糸給糸部位b1における給糸量を調整して給糸張力を調整する第1鎖編糸給糸量調整機構TC1が備えられている。
さらに、第2鎖編糸21bを給糸するビームB2から地筬64a(第2の筬)までの第2鎖編糸給糸部位b2における給糸量を調整して給糸張力を調整する第2鎖編糸給糸量調整機構TC2も備えられている。
同ように、ネット糸22aを給糸するビームB3からジャガードバー62(ネット糸用筬)までのネット糸給糸部位b3における給糸量を調整して給糸張力を調整するネット糸給糸量調整機構TC3も備えられている。
【0070】
また編成部201は、ステッチコームバー71、トリックプレートバー68及びトングバー70を備える。トングバー70は、先端部に各編み針72に対応した複数のトングが形成される。ラッセル編機200は、筬61〜64a,64b及びニードルバー69の動作によって、上述したラッセル編地20を編成する。そしてステッチコームバー71の編成補助作用によって編成されたラッセル編地20を補助編成し、トリックプレートバー68を通過させて、編成部201の近傍に設けられる巻き取り部によって、ラッセル編地20を巻き取る。
【0071】
図5は、鎖編部分の編み針72と地筬64a,64bとの動きを説明するために模式的に示す断面図であり、
図5(a)〜
図5(e)の順に鎖編糸21a,21bの鎖編部分の編成作業が進む。編み針72は、先端部に鎖編糸21a,21bを係止するフック部50が形成され、基端部に編み針幹51が形成される。また
図4に示すトングバー70の先端部には、フック部50によって形成される開口を開閉するためのトング52が形成される。編み針72及びトング52は、地筬64a,64bに対して個別に昇降可能に形成される。
図5を用いて、まず鎖編組織19の編成についてのみ説明し、鎖編組織19に編み込まれる緯渡り糸及び挿入糸23については後述する。
【0072】
図5(a)に示すように、地筬64a,64bが編み針72の前方に配置された状態で、フック部50が、鎖編糸21によって形成される新たな先行ループ状部分r1(ニードルループ)を引っ掛け、トング52がフック部50の開口を塞ぐ。次に
図5(b)に示すように、編み針72がトング52に対して地筬64a,64bに向かって上昇する。これによってフック部50の開口が開放されて、フック部50が引っ掛けた鎖編糸21の先行ループ状部分r1がフック部50から抜け出て、編み針幹51に移動する。
【0073】
次に
図5(c)に示すように、地筬64a,64bが編み針72に対してバックスイングする。次に、地筬64a,64bがオーバーラップし、さらに、
図5(d)に示すように、フロントスイングする。これによって地筬64a,64bに導糸される鎖編糸21a,21bが、編み針72を巻き込むように移動して、新しいループ状部分r2(ニードルループ)を形成する。この新しいループ状部分r2は、フック部50によって引っ掛けられる。次に
図5(d)に示すように、トング52がフック部50に向かって上昇し、フック部50の開口を塞ぐ。このとき編み針72には、編み針幹51に形成される先行ループ状部分r1とフック部50が係止する新しいループ状部分r2とが形成される。
【0074】
次に
図5(e)に示すように、編み針72とトング52とがともに降下することによって、先行ループ状部分r1が編み針72を抜出て、トリックプレート53側に移動する。そして地筬64a,64bが編み針72の前方に配置された状態で、フック部50が鎖編糸21a,21bによって形成される新たなループ状部分r2を引っ掛け、
図5(a)とほぼ同じ状態となる。そして
図5(a)〜
図5(e)を用いて示した動作サイクルを繰り返すことによって、ループ状部分r1、r2が順次形成されるとともに、各ループ状部分r1、r2を連結するループ状部分r3(シンカーループ)が順次形成される鎖編組織19が順次形成される。
【0075】
本実施例では、このような鎖編組織19の編成作業を行いながら、緯渡り糸22a,22b及び挿入糸23を鎖編組織19に編み込むことによって、本実施形態のラッセル編地20を編成することができる。
【0076】
図6は、ジャガードバー62及び挿入糸用筬61の動きを説明するために模式的に示す断面図であり、
図6(a)〜
図6(c)の順に動作が進む。
図6(a)は
図5(c)に、
図6(b)は
図5(d)に、
図6(c)は
図5(e)にそれぞれ対応し、それぞれジャガードバー62及び挿入糸用筬61を加えて示す図である。上述したようにラッセル編機200は、鎖編糸21を導糸する地筬64a,64bよりも、ジャガードバー62のほうが編機後方に配置される。さらにこのジャガードバー62よりも、柄糸用筬63、挿入糸用筬61のほうが編機後方に配置される。
【0077】
図6(a)及び
図6(b)に示すように、地筬64a,64bが編み針72に対して編機後方に配置される状態では、ジャガードバー62及び挿入糸用筬61もまた編み針72に対して編機後方に配置される。また
図6(b)に示すように、地筬64a,64bが編み針72に対して編機前方に配置される状態では、ジャガードバー62及び挿入糸用筬61もまた編み針72の前方に配置される。
【0078】
ジャガードバー62及び挿入糸用筬61は、
図6(b)に示すように、地筬64a,64bがバックスイングした状態で、アンダーラッピングすることで、導糸される挿入糸23及び緯渡り糸22a,22bが鎖編糸21を跨ぐ。
図6においては、ネット糸22aで,緯渡り糸を代表している。この状態で、鎖編糸21によって新たなコースを形成すると、そのコースに挿入糸23及び緯渡り糸22a,22bが編み込まれることになる。このように挿入糸用筬61及びジャガードバー62は、地筬64a,64bのスイング動作に同期して動作する。
【0079】
このラッセル編機200では、ジャガードバー62が挿入糸用筬61よりも編機前方に配置される。これによって、地筬64a,64bによって形成される鎖編部分に挿入糸23及び緯渡り糸22a,22bが編み込まれる場合、編成位置に導糸される挿入糸23のほうが、編成位置に導糸される緯渡り糸22a,22bよりも編機後方に位置され、緯渡り糸22a,22bのほうが挿入糸23よりもラッセル編地20の編地表面側に位置することになる。さらに、複数の柄糸22bは、ネット糸22aと挿入糸23との間に挟まれた位置関係を取る。
【0080】
以上が、本発明独特のラッセル編地20を編成するための設備構成及び編成の進行状態である。
以下、ラッセルレース編地を得るための製造工程に関して、
図8に基づいて説明する。
【0081】
4.ラッセルレース編地の製造
編成工程
まず編成工程s1の準備をする。即ち、ラッセル編地20の編成に用いる各糸21a,21b、22a,22b、23の選択、ラッセル編地20に形成すべき柄模様の決定及び所望の編成組織を形成するための編地の設計が完了するなどして編地編成の準備を完了する。そして、この設計に従って、ラッセル編機200に糸掛けする。
【0082】
この編成工程s1では、ラッセル編地20は、予め設計された編成手順に従って、鎖編糸21a,21b、緯渡り糸22a,22b,挿入糸23などの各糸21a,21b,22a,22b、23を編み込んで、
図1に示す鎖編組織19を編地緯方向Wに多数備えたラッセル編地20を編成する。
【0083】
ラッセル編地20は、鎖編組織19が、第1鎖編糸21a,第2鎖編糸21bの両方で形成され、これら鎖編組織19をネット糸22aで繋ぐことで地組織が完成する。この鎖編組織19に挿入糸23が挿入された構造となる。先に示したように、ネット糸22a、及び挿入糸23として、比較的太いポリウレタン糸が挿入されているため、編地20は経緯方向の両方向に伸縮性を有することとなる。ラッセル編機200は、ネット糸22a及び挿入糸23を伸長させた状態(ある程度テンションを掛けた状態)で、編成する。
【0084】
また、先にも示したように、第1鎖編糸21aを給糸するビームB1から地筬64a(第1の筬)までの第1鎖編糸給糸部位b1における給糸量を調整して給糸張力を調整する第1鎖編糸給糸量調整機構TC1を備え、第2鎖編糸21bを給糸するビームB2から地筬64a(第2の筬)までの第2鎖編糸給糸部位b2における給糸量を調整して給糸張力を調整する第2鎖編糸給糸量調整機構TC2も備えていることで、編成において、第1鎖編糸21a、第2鎖編糸21b間の良好な給糸バランスを取ることができる。
さらに、ネット糸22aを給糸するビームB3からジャガードバー62(ネット糸用筬)までのネット糸給糸部位b3における給糸量を調整して給糸張力を調整するネット糸給糸量調整機構TC3も備えていることで、編成において、ネット糸22aの良好な給糸コントロールを取ることができる。
【0085】
ラッセル編機200を1ラック=4800回転で、各糸の給糸量は以下のとおりとした。
第1鎖編糸21a 100〜140cm
第2鎖編糸21b 100〜140cm
ネット糸22a(22a1,22a2) 20〜80cm
柄糸22b 20〜80cm
挿入糸23 5〜55cm
【0086】
このようにして編成されるラッセル編地20は、三種のポリウレタン糸を含む糸21a,22a(21a1,21a2),23を備えて各鎖編組織19が編成されたものとなる。
【0087】
熱処理工程
熱処理工程s2では、編成工程s1で編成されたラッセル編地20を、第1鎖編糸21aの溶融温度以上の温度(例えば、190〜200℃)まで加熱する。即ち、第1鎖編糸21aの溶融温度(最高180℃)以上の温度で、例えば1分間熱セットする。この熱処理時間は、第1鎖編糸21aが溶融して溶着性を示し、第2鎖編糸21b、緯渡り糸22a,22b及び挿入糸23が、その糸条を保つ(糸として残る)時間である。このようにして、ラッセルレースとしての柄を保ったままで、第1鎖編糸21aが溶融して、接触する糸に溶着させることができる。特に第1鎖編糸21aと、ネット糸22a(22a1,22a2)及び挿入糸23との何れか一方以上との溶着が良好に起こる。
【0088】
結果、
図1に示す、少なくとも第1鎖編糸21a、ネット糸22a及び挿入糸23との何れか一方以上の接触部Yにおいて、第1鎖編糸21aが接触する糸22a、23に溶着する。第1鎖編糸21aは他の糸21b,22にも部分的に溶着するが、挿入糸23との接触部Yが最も強い。
【0089】
即ち、第1鎖編糸21a、ネット糸22a及び挿入糸23との間では、その溶融温度(ここでは完全に溶融する温度)は異なるが、共にポリエステル系ポリウレタンを含むため、強固に溶着される。これに対して、第2鎖編糸21bは、ポリアミドからなり、また柄糸22bは、ポリアミド、レーヨン等からなるため、第1鎖編糸21aとは溶着の程度は低い。
【0090】
このラッセル編地20を加熱するにあたっては、編地20を伸張させ、ネット糸22a及び挿入糸23が、ある程度伸長される状態(緊張状態)を維持する。これによって、先に説明したように、ポリウレタン糸相互間の溶着を良好に発生させるとともに、この工程を経たラッセルレース編地は、ネット糸22a及び挿入糸23の収縮により、ストレッチ性を保持する。
【0091】
このようにラッセル編地20を加熱して、第1鎖編糸21aとネット糸22a及び挿入糸23との接触部Yを接着させるとともに、鎖編糸21同士を緩く接着させて、ラッセルレース編地を形成し、染色工程s3に進む。
ここで本実施形態では、編地表側からネット糸22a、柄糸22b、挿入糸23が位置するため、第1鎖編糸21aと近接する位置関係にあるネット糸22aとの接触部が形成されやすく、さらに挿入糸23との接触部Yも形成でき、柄糸22bの編地内での位置は良好に保たれる。
【0092】
染色工程
染色工程s3では、形成したラッセルレース編地を精練若しくは染色する。
【0093】
樹脂処理乾燥工程
この樹脂処理乾燥工程s4は、柔軟材を塗布する工程であり、ラッセルレース編地に柔軟性を与えることができる。
樹脂処理を経た後、ラッセルレース編地は、160℃程度の温風で30秒乾燥する。
【0094】
裁断縫製工程
裁断縫製工程s5では、ラッセルレース編地の用途に従って、所定の形状に編地を裁断し、縫製する。
本発明のラッセルレース編地は、ほつれの問題をほぼ完全に解消できているため裁断・縫製時にほつれに伴うトラブルが発生することはない。
【0095】
このような本実施形態のラッセル編地20によれば、伸縮性を有するネット糸22a、挿入糸23が、鎖編組織19に編み込まれて鎖編組織19に経て緯方向両方向の伸縮性が与えられており、ストレッチ性を有するラッセルレース編地が実現する。
また第1鎖編糸21aとネット糸22a或いは挿入糸23との接触部Yの一部が接着されている。これによって鎖編組織19とネット糸22a或いは挿入糸23との位置ずれ、及び鎖編糸21a,21b同士の位置ずれが防がれ、格子の歪みが防がれる。例えばラッセルレース編地の縫製または裁断などの製造過程に起因する外力、着用または洗濯などの使用状態に起因する外力が作用しても、格子の歪みが防がれて格子の形状が維持され、美観の良好なレース編地が得られ、しかもその優れた美観を長期にわたって保つことができる。
【0096】
しかもラッセルレース編地全体に編み込まれる第1鎖編糸21aの接着性を利用して、ネット糸22a、挿入糸23を接着し、鎖編糸21同士も一部接着しているので、部分的に異なる糸が用いられる構成ではなく、視覚的及び触覚的に統一性が得られ、美観及び風合いが損なわれることはない。
【0097】
〔別実施形態〕
(1)上記の実施形態では、第1鎖編糸21aと第2鎖編糸21bとを、異なるビームから個別の筬64a,64bに給糸して、これらの糸21a,21bで、一の鎖編組織19を編成するとともに、その鎖編組織19に、挿入糸23を挿入する場合を示した。
このように、2本の糸21a,21bを使用する代わりに、鎖編糸に熱融着性コンジュゲート糸210を採用し、一の鎖編組織19を、溶融性材料からなる溶融性糸条部位210aとしての第1鎖編部位と、難溶融性材料からなる難溶融性糸条部位210bとしての第2鎖編部位とからなる鎖編組織19でラッセル編地を編成してもよい。
この別実施形態を、
図9に示した。
熱融着性コンジュゲート糸は、複数(
図9に示す場合は2)の異なる成分を同時に紡糸することにより得られ、これらの成分が長さ方向に連続して互いに貼り合わされた構造を有するものである。この種のコンジュゲート糸としては、その構成として芯鞘型のもの、貼り合わせ型(サイドバイサイド型)等が知られているが、
図9には、サイドバイサイド型のものを示した。
本発明の場合、溶融性材料であるポリエステル系ポリウレタン(溶融温度が150℃〜180℃のもの)と、難溶融性材料と看做せるナイロンを用いた熱融着性コンジュゲート糸を使用することができる。
【0098】
この別実施形態では、その熱処理工程において、
編成工程を経て得られたラッセル編地を、編地緊張状態で、溶融性材料の溶融温度以上の温度に加熱する熱処理を、難溶融性糸条部位210b、緯渡り糸22a,22b及び挿入糸23が糸条として残る処理時間、実行してラッセルレース編地を得ることとできる。
【0099】
一方、
図1に示した実施形態では、同図に示す一の鎖編組織19において、第1鎖編糸21aにより第1鎖編部位が、第2鎖編糸21bにより第2鎖編部位が形成される。
【0100】
(2)上記の実施形態では、ネット糸として、熱溶融性材料からなり弾性を有する糸と難溶融性材料からなる糸との合燃糸を使用する例を示したが、ラッセルレース編地に、その幅方向の弾性を付与し、さらに鎖編組織、挿入糸との接触部の溶着部の数を増加させるという意味からは、熱溶融性材料からなり弾性を有する糸単独でベアー糸のまま使用してもよい。この場合は、例えば、第1鎖編糸21aより太い糸を選択することにより、この糸を熱処理において糸条として残すことができる。逆に、前者の糸を芯糸とし、後者の糸を鞘糸とするカバーリング糸を使用してもよい。
ここで、上記の実施形態においてネット糸として合撚糸を使用する例において、熱溶融性材料からなり弾性を有する糸として、その太さが、22から44Dtexの糸を使用する例を示したが、発明者らの検討では、56Dtex程度まで使用可能であった。
【0101】
さて、このように、ネット糸(緯渡り糸の一部)として、弾性を有する糸を使用しようとすると、弾性を有する糸を編地幅方向に編み込むこととなるが、編成工程で得られるラッセル編地が編地幅方向に縮んだ状態となるため、熱処理工程を含む後工程において、得られる製品の幅の管理が難しくなる。
そこで、ネット糸として、
図10に示すような糸を採用することもできる。
【0102】
この糸は所謂カバーリング糸であるが、同図からも容易に理解されるように、その芯糸として、二種の糸を備えて構成する。
即ち、加熱処理されて溶融する溶融性材料からなるとともに弾性を有する第1芯糸220a1と、水と接触して溶解する水溶性材料からなる第2芯糸220a2とを芯糸として備え、前記溶融性材料より溶融温度が高い難溶融性材料からなるとともに前記芯糸に環巻された鞘糸220a3を備えたカバーリング糸を使用する。
【0103】
さらに具体的には、
前記第1芯糸220a1が、太さが22〜56Dtex、溶融温度が150〜180℃の熱溶着性ポリウレタン糸であり、
前記第2芯糸220a2が、太さが31〜62Dtexの水溶性ビニロン糸であり、
前記鞘糸220a3が、太さが33〜56Dtex、溶融温度が200℃のナイロン糸を使用する。
ここで、第2芯糸220a2とする水溶性ビニロン糸は、後述する熱処理工程において、乾式(雰囲気が気体での乾式加熱)200℃で極短時間、加熱されても溶融することはなく、糸条としてそのまま残留する。
【0104】
そして、熱処理工程s2において、得られるラッセル編地を、前記溶融性材料の溶融温度以上の温度に加熱する熱処理を、前記難溶融性材料及び前記水溶性材料が糸条として残る処理時間、実行し、その後、熱処理工程s2を経て得られる熱処理済ラッセル編地を水洗して、前記第2芯糸を前記地組織から除去する。この水洗は、具体的には熱処理工程s2の後に行う染色工程s3で行うこととなる。
【0105】
このようにすると、編成工程においては、水溶性材料により編地の幅をコントロールでき、その後、この糸を水洗除去することで、編地の幅が意図する幅とできる。
【0106】
(3)上記の実施形態では、第1鎖編糸21aとして、その太さが17〜56Dtexのものを使用したが、発明者らの検討では、その太さが挿入糸23の太さより細いもの、具体的には156Dtexのものまで採用可能であった。
さらに、第2鎖編糸21bとしては、ナイロンあるいはポリエステルとする場合、33、40、44、56、78Dtexの糸を採用できる。
熱処理工程s2の熱処理温度は、具体的に使用する第1鎖編糸21aの溶融温度以上とし、この熱処理において第2鎖編糸21b及び柄糸22bが糸条として残る時間だけ処理することとできる。
具体的には、第1鎖編糸21aの溶融温度が150〜180℃であり、180℃以上、200℃以下(好ましくは190℃以上200℃以下)とできる。その熱処理時間は30〜90秒程度とする。この処理時間は非常に短いため、第2鎖編糸21b、ネット糸22a、柄糸22b及び挿入糸23は、これらが糸条のまま残る。
【0107】
(4)上記の実施形態では、ラッセル編地20の全面に、第1鎖編糸21a、第2鎖編糸21b、緯渡り糸22a,22b及び挿入糸23を備えて編成する例示したが、本発明のキーが、熱溶融性材料からなる第1鎖編部位(例えば、第1鎖編糸21a)を,緯渡り糸22a,22b、挿入糸23に溶着させる点にあるため、その裁断を伴ったラッセルレース編地の使用目的に応じて(裁断箇所に応じて)、一部の鎖編組織19のみに第1鎖編部位、第2鎖編部位及び挿入糸23を編み込むものとしてもよい。
【0108】
(5)上記の実施形態においては、挿入糸23としては、ラッセルレース編地に伸縮性を付与する目的の糸としてポリウレタン糸を挿入するものとした。この糸23の他に、編成により得られる鎖編組織19に、この挿入糸23とは異なる糸を、ラッセル編地の裏面に一部を浮かす編成形態で、浮かし挿入糸として挿入してもよい。
このような浮かし挿入糸として、綿糸、レーヨン糸、マルチフィラメント糸等を選択すると、特に肌触りを良好とできる。
【0109】
(6)上記の実施形態においては、従来ほつれ止めのために、「経糸トラバース」と呼ばれる、所定の編地緯方向W位置で鎖編組織19を形成していた鎖編糸21を、隣接する鎖編組織に緯渡りさせ、その位置で鎖編組織19を数コース形成した後、元の鎖編組織に戻してさらに鎖編組織19を形成する編成に関しては、特に述べていない。
本発明のラッセルレース編地は、ほつれが有効に防止されるため、「経糸トラバース」を事実上必要としない。あるいは、設けるとしても、その編成方向Cの数を格段に減少させることができる。結果、ラッセルレース編地から従来比較的頻繁に設けられていた「経糸トラバース」箇所が格段に減少するため、ラッセル編地(特に、鎖編組織19とネット糸22aから構成されるネット)に頻繁に段が現れることなく、美しい美観を呈することができる。
【0110】
(7)上記の実施形態においては、挿入糸23の挿入に関しては、
図1、
図9に示すように、編成方向Cにおいて、挿入糸23が鎖編の外方から内方に向かってシンカーループに挿入される、所謂、正掛けの例を示したが、挿入糸23を鎖編の内方から外方に向かってシンカーループに挿入する、所謂、逆掛けとしてもよい。
(8)上記の実施形態においては、ネットとして
図2、
図7にその一実施形態を示した。ネットの形態に関しては、本発明の趣旨を逸脱することなく任意の形態を採用できる。ただし、先に説明した同一鎖編組織挿入部及び隣接鎖編組織糸渡り部から成る糸渡りパターンを有することが好ましい。各部のコース数は適宜設定できる。
さらに、上記の実施形態においては、特定の緯渡り糸は、隣接する鎖編組織間においてのみ緯渡りする組織を説明したが、さらに多くの鎖編組織(例えば横方向に並ぶ3つの鎖編組織)に渡って緯渡りする構成)に渡っていてもよい。