【実施例】
【0047】
(実施例1)
砥粒としてゼオライト粒子A(天然ゼオライト、国産)を30g準備した。本例で用いたゼオライト粒子Aは、1.2〜1.5のアスペクト比を有し、13.97質量%の酸化アルミニウムを含有し、D50が7μm及びD90が32.1μmを有し、2.35の比重を有し、3〜4の硬度を有していた。D50に対するD90の比率は4.6倍であった。
【0048】
アスペクト比は、ゼオライト粒子Aを倍率5000倍で14μm四方を観察した走査型電子顕微鏡(SEM)写真に基づいて観察視野範囲の全ての粒子について測定した。酸化アルミニウム含有量は、原子吸光測光法で測定した。D50及びD90は、湿式粒度分布測定機(レーザー回折式粒度分布測定装置、マスターサイザー3000E、Malvern Instruments製)で測定した。比重の測定はMicro Pycnometerで測定した。
【0049】
970gのイオン交換水を容器に投入し、次いで準備した30gのゼオライト粒子Aを容器に投入し、撹拌して、研磨組成物(研磨スラリー)を作製した。研磨組成物のpHは7.0であった。
【0050】
(実施例2)
硝酸マンガン(硝酸マンガン(II)六水和物、富士フィルム和光純薬株式会社製)を7.5g用意して、970gのイオン交換水を容器に投入し、次いで実施例1と同じゼオライト粒子A22.5gと用意した硝酸マンガン7.5gとを容器に投入し、撹拌して、研磨組成物(研磨スラリー)を作製した。攪拌後の研磨組成物中のゼオライト粒子Aにはマンガンイオンが吸着しており、2.54の比重を有していた。比重の測定は、Micro Pycnometerを用いて行った。研磨組成物のpHは7.0であった。
【0051】
(実施例3)
フッ化水素酸(富士フィルム和光純薬株式会社製)を7.5g用意して、970gのイオン交換水を容器に投入し、次いで実施例1と同じゼオライト粒子A22.5gと用意したフッ化水素酸7.5gを容器に投入し、撹拌して、研磨組成物(研磨スラリー)を作製した。
【0052】
(実施例4)
塩酸(36%溶液、富士フィルム和光純薬株式会社製)を7.5g用意して、970gのイオン交換水を容器に投入し、次いで実施例1と同じゼオライト粒子A22.5gと用意したフッ化カルシウム7.5gを容器に投入し、撹拌して、研磨組成物(研磨スラリー)を作製した。本例で作製した研磨組成物中のゼオライト粒子A’は、1.0〜1.4のアスペクト比を有し、13.97質量%の酸化アルミニウムを含有し、D50が7.0μm及びD90が32.1μmを有し、2.35の比重を有していた。D50に対するD90の比率は4.6倍であった。
【0053】
(実施例5)
実施例1のゼオライト粒子A30gに代えて、酸化アルミニウムの含有量が10.07質量%のゼオライト粒子C(天然ゼオライト、カナダ産)30gを用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で、研磨組成物(研磨スラリー)を作製した。本例で用いたゼオライト粒子Cは、1.3〜1.5のアスペクト比を有し、D50が5.6μm及びD90が15.3μmを有していた。D50に対するD90の比率は2.7倍であった。研磨組成物のpHは6.9であった。
【0054】
表1に、実施例1及び実施例5で用いたゼオライト粒子A及びゼオライト粒子Cの組成を示す。ゼオライト粒子の組成は、ゼオライト粒子の乾燥時の組成であり、財団法人日本肥糧検定協会で測定した。
【0055】
【表1】
【0056】
(実施例6)
実施例1のゼオライト粒子A30gに代えて、D50が4.6μm及びD90が7.6μmを有し、D50に対するD90の比率が1.7であるゼオライト粒子A"30gを用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で、研磨組成物(研磨スラリー)を作製した。
図6に、本例で用いたゼオライト粒子A"の粒度分布のグラフを示す。粒度分布は、湿式粒度分布測定機(レーザー回折式粒度分布測定装置、マスターサイザー3000E、Malvern Instruments製)で測定した。本例で用いたゼオライト粒子A"は、1.2〜1.5のアスペクト比を有し、13.97質量%の酸化アルミニウムを含有し、2.35の比重を有していた。研磨組成物のpHは7.0であった。
【0057】
(実施例7)
ゼオライト粒子B30gを準備し、これを砥粒として用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で、研磨組成物(研磨スラリー)を作製した。ゼオライト粒子Bは、1.0〜1.5のアスペクト比を有し、13.97質量%の酸化アルミニウムを含有し、D50が4.6μm及びD90が7.6μmを有し、2.53の比重を有し、4〜5の硬度を有していた。D50に対するD90の比率は1.7倍であった。研磨組成物のpHは7.0であった。
【0058】
(実施例8)
硝酸マンガン(硝酸マンガン(II)六水和物、富士フィルム和光純薬株式会社製)を7.5g用意し、フッ化水素酸(富士フィルム和光純薬株式会社製)を20.8g用意して、970gのイオン交換水を容器に投入し、次いでゼオライト粒子B22.5gと用意した硝酸マンガン7.5g及びフッ化水素酸20.8gを容器に投入し、撹拌して、研磨組成物(研磨スラリー)を作製した。攪拌後の研磨組成物中のゼオライト粒子Bにはマンガンイオンが吸着しており、2.54の比重を有しており、1.0〜1.5のアスペクト比を有していた。
【0059】
(比較例1)
ゼオライト粒子A30gに代えて、従来、研磨に用いられているD50が1.6μmの酸化セリウム(SHOROX(登録商標) A−10、昭和電工株式会社製)30gを用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で、研磨組成物(研磨スラリー)を作製した。研磨組成物のpHは9.5であった。
【0060】
(比較例2)
ゼオライト粒子A30gに代えて、従来、研磨に用いられているD50が0.6μmの酸化ジルコニウム(ZIROX K、ユニヴァーサルフォトニクス ファーイースト製)30gを用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で、研磨組成物(研磨スラリー)を作製した。研磨組成物のpHは6.8であった。
【0061】
(比較例3)
ゼオライト粒子A30gに代えて、従来、研磨に用いられているD50が0.9μmの酸化鉄(酸化鉄(III)、関東化学株式会社製)30gを用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で、研磨組成物(研磨スラリー)を作製した。研磨組成物のpHは6.4であった。
【0062】
(比較例4)
ゼオライト粒子D30gを準備し、これを砥粒として用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で、研磨組成物(研磨スラリー)を作製した。ゼオライト粒子Dは、1.5〜21のアスペクト比を有し、13.97質量%の酸化アルミニウムを含有し、D50が6.6μm及びD90が25.6μmを有し、2.35の比重を有し、3〜4の硬度を有していた。D50に対するD90の比率は3.9倍であった。研磨組成物のpHは7.0であった。
【0063】
表2に、各実施例及び比較例の構成を示す。
【0064】
【表2】
【0065】
(ゼオライト砥粒の研磨特性の評価)
実施例1〜3及び比較例1〜3で作製した研磨組成物のそれぞれについて、片面研磨機(日本エンギス社製、EJ−380IN)及び多孔質ウレタン樹脂研磨パッド(九重電気株式会社、NFP05)を用いて、定盤回転数60rpm、工作物回転数60rpm、研磨圧力20kPaで、及びスラリー供給量25mL/分で、工作物としてのソーダガラス基板の研磨を30分間行い、流水洗浄及びエアによる水分除去を行った。
【0066】
図1に、実施例1〜3及び比較例1〜3で作製した研磨組成物の研磨能率を示すグラフを示す。
【0067】
無処理のゼオライト粒子Aを砥粒として含む研磨組成物(実施例1)は、酸化ジルコニウムを砥粒として含む研磨組成物(比較例2)及び酸化鉄を砥粒として含む研磨組成物(比較例3)よりも優れた研磨能率を示した。
【0068】
マンガンイオン注入処理したゼオライト粒子Aを砥粒として含む研磨組成物(実施例2)は、比較例1〜3のいずれの研磨組成物よりも優れた研磨能率を示した。
【0069】
フッ化処理を行ったゼオライト粒子Aを砥粒として含む研磨組成物(実施例3)も、比較例1〜3のいずれの研磨組成物よりも優れた研磨能率を示した。
【0070】
(アスペクト比の効果)
図2に、アスペクト比が1.5以下のゼオライト粒子BのSEM写真を示す。
図3に、比較例4で用いたアスペクト比が1.5超のゼオライト粒子DのSEM写真を示す。
【0071】
ゼオライト粒子Bで作製した研磨組成物によって研磨したガラス基板にはキズがみられなかった。ゼオライト粒子A及びゼオライト粒子Cで作製した研磨組成物によって研磨したガラス基板にも、同様にキズがみられなかった。ゼオライト粒子Dで作製した研磨組成物によって研磨したガラス基板には大きなキズがみられた。
【0072】
(酸化アルミニウムの効果)
図4に、酸化アルミニウム含有量が13質量%以上のゼオライト粒子Bで作製した研磨組成物を用いて、研磨、流水洗浄、及びエアによる水分除去を行った後のガラス基板の表面写真を示す。
図5に、酸化アルミニウム含有量が13質量%未満のゼオライト粒子Cで作製した研磨組成物(実施例5)を用いて、研磨、流水洗浄、及びエアによる水分除去を行った後のガラス基板の表面写真を示す。
【0073】
ゼオライト粒子Bで作製した研磨組成物によって研磨したガラス基板にはゼオライト粒子の残留がみられなかった。ゼオライト粒子Aで作製した研磨組成物によって研磨したガラス基板にも、同様にゼオライト粒子の残留がみられなかった。実施例5で作製した研磨組成物によって研磨したガラス基板にはゼオライト粒子の残留が若干みられた。
【0074】
(D50に対するD90の比率の効果)
図7に、D50に対するD90の比率が2倍以下のゼオライト粒子Bで作製した研磨組成物(実施例7)を用いて、研磨、流水洗浄、及びエアによる水分除去を行った後のガラス基板の表面写真を示す。
図8に、D50に対するD90の比率が2倍超のゼオライト粒子Aで作製した研磨組成物で作製した研磨組成物(実施例1)を用いて、研磨、流水洗浄、及びエアによる水分除去を行った後のガラス基板の表面写真を示す。
【0075】
ゼオライト粒子Aで作製した研磨組成物によって研磨したガラス基板は、きれいな研磨面が得られているが、従来の砥粒を用いた場合と同等レベルの微細なキズがみられた。ゼオライト粒子Bで作製した研磨組成物によって研磨したガラス基板には、微細なキズもみられなかった。ゼオライト粒子A”で作製した研磨組成物によって研磨したガラス基板にも、同様に微細なキズはみられなかった。
【0076】
(酸処理の効果)
塩酸処理したゼオライト粒子A’で作製した研磨組成物によって研磨したガラス基板には、ゼオライト粒子Aで作製した研磨組成物によって研磨したガラス基板よりも、研磨面のキズの発生がさらに抑制されていた。
【0077】
(結晶性シリカの効果)
図9に、ゼオライト粒子Aとゼオライト粒子Bを、粉末X線回折(X線回折装置、Miniflex製)で測定したX線チャートを示す。
【0078】
ゼオライト粒子Aは、クリノプチロライトのメインピーク強度が結晶性シリカのメインピーク強度よりも大きいが、ゼオライト粒子Bは、結晶性シリカのメインピーク強度がクリノプチロライトのメインピーク強度よりも大きかった。
図9において、Cptはクリノプチロライト、Morはモルデナイト、Crsは結晶性シリカを意味する。
【0079】
図10に、実施例1及び実施例7で作製した研磨組成物でガラス基板を研磨したときの、研磨能率及びガラス基板の仕上げ面粗さを表すグラフを示す。ゼオライト粒子Aを用いた実施例1の研磨組成物に比べて、ゼオライト粒子Bを用いた実施例7の研磨組成物は、良好な研磨能率及び仕上げ面粗さを示した。
【0080】
(マンガンイオン注入処理及びフッ化処理の効果)
図11に、マンガンイオン注入処理及びフッ化処理を行ったゼオライト粒子Bを砥粒として含む研磨組成物(実施例8)及び酸化セリウムを砥粒として含む研磨組成物(比較例1)の、研磨能率と仕上げ面粗さ(nmRa)を示す。被研磨処理材は、ガラス基板(AGC株式会社製、AN100)であった。研磨後に、流水洗浄及びエアによる水分除去を行った。
【0081】
実施例8で作製した研磨組成物は、比較例1で作製した研磨組成物よりも高い研磨能率及び低い仕上げ面粗さを示した。