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特開2021-147444研磨後に用いられる洗浄材、洗浄組成物、及びそれを用いた研磨洗浄方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-147444(P2021-147444A)
(43)【公開日】2021年9月27日
(54)【発明の名称】研磨後に用いられる洗浄材、洗浄組成物、及びそれを用いた研磨洗浄方法
(51)【国際特許分類】
   C11D 7/20 20060101AFI20210830BHJP
   C11D 17/08 20060101ALI20210830BHJP
   C11D 17/04 20060101ALI20210830BHJP
【FI】
   C11D7/20
   C11D17/08
   C11D17/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2020-46763(P2020-46763)
(22)【出願日】2020年3月17日
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】592142991
【氏名又は名称】ジークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092864
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100098154
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 克彦
(74)【代理人】
【識別番号】100160543
【弁理士】
【氏名又は名称】河野上 正晴
(72)【発明者】
【氏名】正野 晶久
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 秀一
(72)【発明者】
【氏名】竹石 崇音
【テーマコード(参考)】
4H003
【Fターム(参考)】
4H003BA12
4H003DA05
4H003DA12
4H003DA16
4H003DB01
4H003EA03
4H003EA28
4H003FA28
(57)【要約】
【課題】
低コストで加工材の表面に残留する砥粒を従来よりも除去することができる洗浄材を提供する。
【解決手段】
研磨後に研磨面を洗浄するために用いられる洗浄材であって、ゼオライト以外の材料からなる砥粒を用いて被加工材の被研磨面を研磨して得られる研磨面に付着する前記砥粒を除去するために前記研磨後に用いられる、ゼオライト粒子を主成分とすることを特徴とする洗浄材。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
研磨後に研磨面を洗浄するために用いられる洗浄材であって、ゼオライト以外の材料からなる砥粒を用いて被加工材の被研磨面を研磨して得られる研磨面に付着する前記砥粒を除去するために前記研磨後に用いられる、ゼオライト粒子を主成分とすることを特徴とする洗浄材。
【請求項2】
前記ゼオライト粒子のアスペクト比は1.5以下であることを特徴とする、請求項1に記載の洗浄材。
【請求項3】
前記ゼオライト粒子は、前記ゼオライト粒子の全体を基準として、13質量%以上の酸化アルミニウムを含むことを特徴とする、請求項1または2に記載の洗浄材。
【請求項4】
前記ゼオライト粒子は、0.1μm〜2.0μmの粒径D50を有する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の洗浄材。
【請求項5】
前記ゼオライト粒子のD50が前記砥粒のD50以下であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の洗浄材。
【請求項6】
前記ゼオライト粒子のD90が前記砥粒のD90以下であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の洗浄材。
【請求項7】
前記ゼオライト粒子のD90が前記砥粒のD50以下であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の洗浄材。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の洗浄材と液体とを含む洗浄組成物。
【請求項9】
前記液体が酸性溶液またはアルカリ性溶液であることを特徴とする、請求項8に記載の洗浄組成物。
【請求項10】
前記ゼオライト粒子と前記砥粒とは、前記液体中で互いに異符号のゼータ電位を有することを特徴とする、請求項8または9に記載の洗浄組成物。
【請求項11】
前記砥粒を用いて前記被加工材の被研磨面を研磨して前記研磨面を有する加工材を得ること、及び
前記加工材の研磨面を、請求項8〜10のいずれか一項に記載の洗浄組成物を用いて洗浄することを特徴とする、研磨洗浄方法。
【請求項12】
前記洗浄することが、不織布パッドを用いて行われる、請求項11に記載の研磨洗浄方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゼオライトを主成分とする洗浄材、洗浄組成物、及びそれを用いた研磨洗浄方法に関し、より具体的には、ガラス質のプリズムやレンズ面を持つ光学部品、金属、セラミックス、結晶材料、プラスチック等の研磨後の研磨面への砥粒の残留を抑制するゼオライトを主成分とする洗浄材、洗浄組成物、及びそれを用いた研磨洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光学レンズ等の光学部品に使用されるガラスの研磨には、一般的に、粗ずり(粗加工)工程、精研削(砂かけまたはスムージング)工程、及び研磨工程、並びにその後の洗浄工程が含まれる。洗浄工程の後は、一般的に、検査及びコーティングが行われる。
【0003】
研磨工程で用いられる砥粒(研磨材)としては、従来、酸化ジルコニウム、酸化セリウム、酸化第二鉄、シリカ、酸化アルミニウム等の酸化物が用いられている。洗浄工程は、研磨後に加工材(研磨処理材)に残留する砥粒を除去するために行われる。
【0004】
洗浄手段には主に3種類あり、界面活性剤、超音波、ジェット、またはスプレーを用いる分離手段、アルカリ性、酸性、電解水、またはナノバブルを用いる溶解手段、及び紫外光、レーザー、またはプラズマを用いる分解手段が挙げられる(特許文献1)。
【0005】
光学部品に限らず、金属材料、セラミックス、結晶材料、プラスチック等の被研磨材においても、同様の洗浄工程が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−231350号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記洗浄手段は、洗浄時間が長くかかるためコストがかかり、且つ加工材(研磨処理材)から砥粒を除去しきれずに加工材の表面に砥粒が残留することがあり、加工材の信頼性も問題となっている。
【0008】
したがって、洗浄コストを低減でき、且つ加工材の表面に残留する砥粒を従来よりも除去することができる洗浄材が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の要旨は以下のとおりである。
(1)研磨後に研磨面を洗浄するために用いられる洗浄材であって、ゼオライト以外の材料からなる砥粒を用いて被加工材の被研磨面を研磨して得られる研磨面に付着する前記砥粒を除去するために前記研磨後に用いられる、ゼオライト粒子を主成分とすることを特徴とする洗浄材。
(2)前記ゼオライト粒子のアスペクト比は1.5以下であることを特徴とする、上記(1)に記載の洗浄材。
(3)前記ゼオライト粒子は、前記ゼオライト粒子の全体を基準として、13質量%以上の酸化アルミニウムを含むことを特徴とする、上記(1)または(2)に記載の洗浄材。
(4)前記ゼオライト粒子は、0.1μm〜2.0μmの粒径D50を有する、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の洗浄材。
(5)前記ゼオライト粒子のD50が前記砥粒のD50以下であることを特徴とする、上記(1)〜(4)のいずれかに記載の洗浄材。
(6)前記ゼオライト粒子のD90が前記砥粒のD90以下であることを特徴とする、上記(1)〜(5)のいずれかに記載の洗浄材。
(7)前記ゼオライト粒子のD90が前記砥粒のD50以下であることを特徴とする、上記(1)〜(4)のいずれかに記載の洗浄材。
(8)上記(1)〜(7)のいずれかに記載の洗浄材と液体とを含む洗浄組成物。
(9)前記液体が酸性溶液またはアルカリ性溶液であることを特徴とする、上記(8)に記載の洗浄組成物。
(10)前記ゼオライト粒子と前記砥粒とは、前記液体中で互いに異符号のゼータ電位を有することを特徴とする、上記(8)または(9)に記載の洗浄組成物。
(11)前記砥粒を用いて前記被加工材の被研磨面を研磨して前記研磨面を有する加工材を得ること、及び
前記加工材の研磨面を、上記(8)〜(10)のいずれかに記載の洗浄組成物を用いて洗浄することを特徴とする、研磨洗浄方法。
(12)前記洗浄することが、不織布パッドを用いて行われる、上記(11)に記載の研磨洗浄方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、低コストで加工材の表面に残留する砥粒を従来よりも除去することができる洗浄材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、酸化セリウム砥粒を含有する研磨組成物(研磨スラリー)で研磨を行い、次いで本発明のゼオライト粒子からなる洗浄材を含む洗浄組成物で洗浄、流水洗浄、及びエアによる水分除去後のガラス基板の表面写真である。
図2図2は、図1に示したガラス基板の光学顕微鏡写真である。
図3図3は、酸化セリウム砥粒を含有する研磨組成物で研磨し、次いで流水洗浄及びエアによる水分除去後のガラス基板の表面写真である。
図4図4は、図3に示したガラス基板の光学顕微鏡写真である。
図5図5は、酸化ジルコニウム砥粒を含有する研磨組成物で研磨し、次いで流水洗浄及びエアによる水分除去後のガラス基板の表面写真である。
図6図6は、図5に示したガラス基板の光学顕微鏡写真である。
図7図7は、アスペクト比が1.5超のゼオライトの走査型電子顕微鏡(SEM)画像である。
図8図8は、アスペクト比が1.5以下のゼオライトの走査型電子顕微鏡(SEM)画像である。
図9図9は、酸化セリウム砥粒を含有する研磨組成物で研磨を行い、次いでアスペクト比が1.5以下且つ酸化アルミニウム含有量が13質量%以上のゼオライト粒子からなる洗浄材を含む洗浄組成物で洗浄、流水洗浄、及びエアによる水分除去後のガラス基板の表面写真である。
図10図10は、酸化セリウム砥粒を含有する研磨組成物で研磨を行い、次いで酸化アルミニウム含有量が13質量%未満のゼオライト粒子からなる洗浄材を含む洗浄組成物で洗浄、流水洗浄、及びエアによる水分除去後のガラス基板の表面写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を、より具体的な例を挙げて詳細に説明するが、本発明はその趣旨に反しない限り、以下の記載に限定されない。
【0013】
本発明は、研磨後に研磨面を洗浄するために用いられる洗浄材であって、ゼオライト以外の材料からなる砥粒を用いて被加工材の被研磨面を研磨して得られる研磨面に付着する前記砥粒を除去するために前記研磨後に用いられる、ゼオライト粒子を主成分とすることを特徴とする洗浄材を対象とする。
【0014】
本洗浄材は、既存の砥粒(研磨材)を用いる研磨工程後の洗浄工程で、洗浄材として用いられ得る。本洗浄材を用いて研磨面を洗浄することにより、洗浄手段が簡易になり低コスト化を図れ、且つ砥粒の残留が少ないか残留がないきれいな研磨面を得ることができる。本洗浄材による洗浄後は、流水で洗い流すだけでよいというのも低コスト及び研磨面の高品質に寄与する。
【0015】
ゼオライト粒子は、天然ゼオライトまたは合成ゼオライトであることができ、好ましくは天然ゼオライトである。ゼオライト粒子は、好ましくは国産の天然ゼオライトである。ゼオライト粒子は、好ましくは、結晶性シリカを含むクリノプチロライト型の天然ゼオライトである。日本国内において天然ゼオライトは豊富に産出され、より安価で安定して供給できる国産の砥粒として使用できる。
【0016】
更に、ゼオライト粒子は、より好ましくは、山形県板谷産のイタヤ・ゼオライト(天然ゼオライト)である。イタヤ・ゼオライトは約7000万tの埋蔵量を有し、約3000年にわたり採掘が可能である。イタヤ・ゼオライトはアルミニウム複合酸化物の含有量が多く、砥粒やゼオライト粒子自身の残留がより少ない研磨処理面を得ることができる。本明細書において、アルミニウム複合酸化物の含有量は、原子吸光測光法で測定されるAlの定量値に基づく酸化アルミニウム含有量として示す。
【0017】
研磨に用いられる既存の砥粒は、研磨後に研磨面から洗浄除去されにくく、洗浄除去するために上記の特別な洗浄手段が必要となることがある。また、研磨に用いられる既存の砥粒は、研磨後から時間が経過することで研磨面への付着が強くなる。砥粒が研磨面に付着して残留すると、研磨処理材の信頼性低下の原因になり得る。
【0018】
これに対して、被加工材を研磨した後の洗浄工程において、研磨により得られた加工材の研磨面をゼオライト粒子を主成分とする洗浄材を用いて洗浄することにより、加工材の研磨面に付着した砥粒を、従来の洗浄手段に比べて低コストで大幅にまたは実質的に完全に取り除くことができる。本洗浄材は、主成分としてのゼオライト粒子に加えて、炭酸カルシウム、過炭酸ナトリウム、水酸化アルミニウムなどの従来洗浄材として用いられている物質を含んでもよい。ゼオライト粒子を主成分とする洗浄材とは、洗浄材の全体を基準としてゼオライト粒子を50質量%超含むことをいう。
【0019】
ゼオライト成分は、アルミノケイ酸塩化合物であり、結晶構造中に空隙を有する。ケイ素とアルミニウムの複合酸化物が結晶構造を作り、4価イオンのケイ素の位置に3価イオンのアルミニウムが入ると+1価分の電荷が不足するので、電荷補償のため、自由な陽イオンが結晶構造の中に取り込まれる。このイオンがまた別のイオンと代わり得るため、ゼオライトはイオン交換性を有する。
【0020】
ゼオライトはこのような高い陽イオン交換容量を有するため、例えば、土壌へ肥料と共にゼオライトを投入することで、土の保肥力が向上する機能を有する。
【0021】
また、ゼオライトは多孔質物質であり、溶液中のマンガンイオン、鉄イオン、クロムイオン、ニッケルイオン等の金属イオンを吸着し、脱臭する、あるいは水分を吸収したり、放出したりする機能を有することも知られている。このような機能を有するゼオライトは、吸着材料、イオン交換材料、有機溶媒の脱水、湿度調節材、土壌改良材、放射性汚染水の浄化、有害重金属イオンの除去等として用いられる。
【0022】
ゼオライト粒子は化学的な修飾が可能であり、且つ中性のため、作業環境の安全の担保が可能となる。
【0023】
本発明に用いられるゼオライト粒子のアスペクト比は、好ましくは1.5以下、より好ましくは1.4以下、さらに好ましくは1.3以下である。ゼオライト粒子が前記好ましいアスペクト比を有することにより、洗浄時に加工材の研磨面、特にガラス基板またはガラス質のプリズムやレンズ面を持つ光学部品へのキズをより抑制することができる。ゼオライト粒子が上記好ましいアスペクト比を有することにより、研磨面の仕上げ面粗さも向上することができる。
【0024】
本発明に用いられるゼオライト粒子は、ゼオライト砥粒の全体に対して、好ましくは13質量%以上、より好ましくは15質量%以上、さらに好ましくは17質量%以上の酸化アルミニウムを含む。ゼオライトに含まれる酸化アルミニウムの成分割合が前記好ましい範囲であることにより、陽イオン交換能が高まり、洗浄性をより高めることができ、また、研磨面への砥粒の再付着をより防止することができ、酸化セリウム等の既存の砥粒の残留がないか極めて少ない研磨処理面を得ることができる。ゼオライト粒子に含まれる酸化アルミニウム含有量は、原子吸光測光法で測定されるAlの定量値に基づいてAl23換算した値である。
【0025】
ゼオライト粒子の体積累積分布の中央値D50は、0.1μm〜2.0μmが好ましい。ゼオライト粒子のD50が前記好ましい範囲内であることにより、洗浄時間を短時間化することができる。
【0026】
ゼオライト粒子のD50は、より好ましくは、洗浄工程の前に行われる研磨工程で用いられる既存の砥粒のD50より小さく、さらに好ましくは、洗浄工程の前に行われる研磨工程で用いられる既存の砥粒のD50の80%以下である。研磨面の仕上がりには砥粒のD50が主に寄与する。ゼオライト粒子のD50と、洗浄工程の前に行われる研磨工程で用いられる既存の砥粒のD50とが上記好ましい関係にあることにより、加工材の研磨面、特にガラス基板またはガラス質のプリズムやレンズ面を持つ光学部品へのキズの発生をより安定して抑制することができ、洗浄後の研磨面の仕上げ面粗さの低下も抑制することができる。
【0027】
ゼオライト粒子のD90は、好ましくは、砥粒のD90以下である。ゼオライト粒子のD90が砥粒のD90以下であることにより、大きなキズの発生をより安定して防止することができ、洗浄後の研磨面の仕上げ面粗さの低下もより抑制することができる。
【0028】
ゼオライト粒子のD90は、好ましくは、砥粒のD50以下である。ゼオライト粒子のD90が、研磨面の仕上がりに主に寄与する砥粒のD50以下であることにより、キズの発生をさらに安定して防止することができ、洗浄後の研磨面の仕上げ面粗さの低下もさらに抑制することができる。
【0029】
ゼオライト粒子のD100は、好ましくは、砥粒のD100以下である。ゼオライト粒子のD100が砥粒のD100以下であることにより、大きなキズの発生をさらに安定して防止することができ、洗浄後の研磨面の仕上げ面粗さの低下もさらに抑制することができる。
【0030】
ゼオライト粒子のD100は、好ましくは、砥粒のD50以下である。ゼオライト粒子のD100が、研磨面の仕上がりに主に寄与する砥粒のD50以下であることにより、キズの発生をさらに安定して防止することができ、洗浄後の研磨面の仕上げ面粗さの低下もさらに抑制することができる。
【0031】
上記好ましいD50、D90、及びD100を有するゼオライト粒子は、例えば、天然ゼオライトを採掘後に粉砕・分級して得ることができる。粒度の小さい粉状のゼオライト粒子はそのままで使用してもよく、あるいは造粒して使用してもよい。
【0032】
本発明はまた、上記洗浄材と液体とを含む洗浄組成物(洗浄スラリー)を対象とする。ゼオライト粒子を主成分とする洗浄材を液体中に分散させ、洗浄組成物としてスラリー状で使用することができる。
【0033】
洗浄組成物に含まれる液体は、好ましくは水、酸性溶液、またはアルカリ性溶液であり、より好ましくは酸性溶液またはアルカリ性溶液である。水は好ましくは純水である。
【0034】
液体が酸性溶液またはアルカリ性溶液であることにより、研磨面から砥粒を除去する洗浄性をより向上することができる。研磨面に付着する砥粒が溶解するpH環境、すなわち酸性またはアルカリ性にすることで、砥粒の洗浄性を向上することができる。例えば、砥粒が酸化セリウムの場合は酸性、特に好ましくは強酸性で洗浄性が向上し、砥粒がシリカの場合はアルカリ性、特に強アルカリ性で洗浄性が向上する。強酸性とは、好ましくはpHが5以下である。強アルカリ性とは、好ましくはpHが10以上である。
【0035】
洗浄組成物に含まれる液体中で、研磨に用いられるゼオライト以外の材料からなる砥粒と洗浄材であるゼオライト粒子とが互いに異符号のゼータ電位を有することが好ましい。洗浄組成物を研磨面に適用する際に、研磨に用いられるゼオライト以外の材料からなる砥粒と洗浄材であるゼオライト粒子とが液体中で異符号のゼータ電位を有することにより、ゼオライト粒子が、加工材の研磨面に付着した既存の砥粒を吸着除去することができ、洗浄性をより向上することができる。
【0036】
例えば、酸化セリウムのゼータ電位の等電点は中性付近であり、ゼオライトの等電点はpH3.5付近であるため、洗浄組成物に含まれる液体のpHが3.5〜6の間である場合は、研磨に用いられるゼオライト以外の材料からなる砥粒と洗浄材であるゼオライト粒子とが互いに異符号のゼータ電位を示し、研磨面に付着した酸化セリウム砥粒を吸着除去することができる。洗浄組成物はpH調整剤を含んでもよい。pH調整剤は、好ましくは塩酸または水酸化カリウムである。
【0037】
洗浄組成物は、ゼオライト粒子と液体とを所定の割合で混合して得ることができる。洗浄組成物は、ガラス基板、ガラス質のプリズムやレンズ面を持つ光学部品、金属、セラミックス、結晶材料、プラスチック等の研磨後の洗浄に適用することができる。洗浄組成物は、特に、ガラス基板、ガラス質のプリズムやレンズ面を持つ光学部品の研磨後の洗浄に好適に適用することができる。
【0038】
洗浄組成物中に含まれるゼオライト粒子の含有量は、好ましくは0.1〜20質量%、より好ましくは0.5〜15質量%、さらに好ましくは1〜10質量%である。
【0039】
研磨で用いられる既存の砥粒の研磨面への残留が低減され、従来行われていた洗浄手段が不要となり、コストを低減することができる。
【0040】
洗浄組成物は、上記の構成以外に、洗浄性を実質的に阻害しない成分を含んでもよい。
【0041】
本発明はまた、既存の砥粒を用いて被加工材の被研磨面を研磨して研磨面を有する加工材を得ること、及び加工材の研磨面を、上記洗浄組成物を用いて洗浄することを特徴とする、研磨洗浄方法を対象とする。
【0042】
本研磨洗浄方法により、洗浄コストを低減しつつ、洗浄性を高めて、砥粒の残存が少ないか実質的に無い研磨面を有する加工材を得ることができる。
【0043】
洗浄は、好ましくは、研磨パッドを用いて行われ、より好ましくは、不織布パッドを用いて行われる。不織布パッドを用いて洗浄することにより、洗浄性が向上し、洗浄時間の短縮を図ることができる。一般に洗浄工程で使用されているブラシ状工具を用いることもできる。
【0044】
洗浄は、好ましくは、酸を付加して行われる。酸を付加することによって、上記洗浄組成物による洗浄性が向上し、洗浄時間の短縮を図ることができる。
【0045】
ゼオライト粒子を主成分とする洗浄材は、キレート効果によって、金属イオンの再付着を抑制することから、金属研磨後の洗浄にも優れる。
【0046】
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら制約されるものではない。
【実施例】
【0047】
(実施例1)
970gのイオン交換水を容器に投入し、次いで30gの酸化セリウム(SHOROX(登録商標) A−10、昭和電工株式会社製)を容器に投入し、撹拌して、研磨組成物(研磨スラリー)を作製した。酸化セリウムのD50は1.7μmであり、D90は3.6μmであった。
【0048】
洗浄材としてゼオライト粒子A(天然ゼオライト、国産)を30g準備した。本例で用いたゼオライト粒子Aは、1.2〜2.2のアスペクト比を有し、13.97質量%の酸化アルミニウムを含有し、D50は0.8μm、D90は1.6μmであった。
【0049】
アスペクト比は、ゼオライト粒子Aを倍率10000倍で観察した走査型電子顕微鏡(SEM)写真に基づいて7μm四方の観察視野範囲の全ての粒子について測定した。図7に、ゼオライト粒子AのSEM写真を示す。酸化アルミニウムの含有量は、原子吸光測光法で測定した。D50及びD90は、湿式粒度分布測定機(レーザー回折式粒度分布測定装置、マスターサイザー3000E、Malvern Instruments製)で測定した。
【0050】
970gのイオン交換水を容器に投入し、次いで準備した30gのゼオライト粒子Aを容器に投入し、撹拌して、洗浄組成物(洗浄スラリー)を作製した。洗浄組成物のpHは7.0であった。
【0051】
片面研磨機(日本エンギス社製、EJ−380IN)及び多孔質ウレタン樹脂研磨パッド(九重電気株式会社、NFP05)を用いて、定盤回転数60rpm、工作物回転数60rpm、研磨圧力20kPaで、及びスラリー供給量25mL/分で、作製した研磨組成物を用いて、工作物としてのソーダガラス基板の研磨を30分間行い、次いで作成した洗浄組成物及び不織布パッド(SUBA800、ニッタ・ハース株式会社製)を用いて研磨面の洗浄を行い、次いで流水洗浄及びエアによる水分除去を行った。
【0052】
図1に、エアによる水分除去後のガラス基板の研磨面の写真を示し、図2に前記図1に示したガラス基板の研磨面の光学顕微鏡写真を示す。ややキズがみられたものの砥粒の残留が少なく、きれいな研磨面が得られていた。
【0053】
(実施例2)
ゼオライト粒子A30gに代えて、洗浄材としてアスペクト比が1.2〜1.5のゼオライト粒子B(天然ゼオライト、国産)30gを用いたこと以外は、実施例1と同じ方法で洗浄組成物(洗浄スラリー)を作製し、実施例1と同じ方法で、研磨、洗浄、流水洗浄及びエアによる水分除去を行った。本例で用いたゼオライト粒子Bは、13.97質量%の酸化アルミニウムを含有し、D50は0.9μm、D90は1.5μmであった。洗浄組成物のpHは7.0であった。
【0054】
図8に、ゼオライト粒子BのSEM写真を示す。図9に、エアによる水分除去後のガラス基板の研磨面の光学顕微鏡写真を示す。酸化セリウム砥粒の残留が少なく且つキズもないきれいな研磨面が得られていた。
【0055】
(実施例3)
ゼオライト粒子A30gに代えて、酸化アルミニウムの含有量が10.07質量%のゼオライト粒子C(天然ゼオライト、カナダ産)30gを用いたこと以外は、実施例1と同じ方法で洗浄組成物(洗浄スラリー)を作製し、実施例1と同じ方法で、研磨、洗浄、流水洗浄及びエアによる水分除去を行った。本例で用いたゼオライト粒子Cは、1.2〜2.5のアスペクト比を有し、D50は0.7μm、D90は3.8μmであった。洗浄組成物のpHは7.0であった。
【0056】
図10に、エアによる水分除去後のガラス基板の研磨面の光学顕微鏡写真を示す。研磨面には、ゼオライト粒子からなる洗浄材による洗浄をしなかった場合の図4に示すような砥粒の残留がみられなかったものの、若干の残留がみられた。
【0057】
表1に、実施例1及び実施例3で用いたゼオライト粒子A及びゼオライト粒子Cの組成を示す。ゼオライト粒子の組成は、ゼオライト粒子の乾燥時の組成であり、財団法人日本肥糧検定協会で測定した。
【0058】
【表1】
【0059】
(実施例4)
イオン交換水970gの代わりに、イオン交換水と塩酸との混合溶液970gを用いて、洗浄組成物のpHを6.0に調整したこと以外は、実施例1と同じ方法で洗浄組成物(洗浄スラリー)を作製し、実施例1と同じ方法で、研磨、洗浄、流水洗浄及びエアによる水分除去を行った。
【0060】
ゼオライト粒子と砥粒である酸化セリウムとは、洗浄組成物のイオン交換水と塩酸との混合溶液中で互いに異符号のゼータ電位を有する関係にあり、砥粒の残留がない非常にきれいな研磨面が得られていた。
【0061】
(比較例1)
実施例1と同じ研磨スラリーを用いてガラス基板の研磨を行い、洗浄スラリーによる洗浄を行わずに、流水洗浄及びエアによる水分除去を行った。
【0062】
図3に、エアによる水分除去後のガラス基板の研磨面の写真を示し、図4に前記図3に示したガラス基板の研磨面の光学顕微鏡写真を示す。研磨面上に酸化セリウム砥粒の残留がみられた。
【0063】
(比較例2)
30gの酸化セリウムに代えて30gの酸化ジルコニウムを用いたこと以外は比較例1と同じ方法で、研磨、流水洗浄、及びエアによる水分除去を行った。酸化ジルコニウムのD50は0.6μmであり、D90は1.9μmであった。
【0064】
図5に、エアによる水分除去後のガラス基板の研磨面の写真を示し、図6に前記図5に示したガラス基板の研磨面の光学顕微鏡写真を示す。研磨面上に酸化ジルコニウム砥粒の残留がみられた。
【0065】
表2に、各実施例及び比較例の構成を示す。
【0066】
【表2】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10