打設コンクリートに当接する表層10aと排水層としての裏層10bとが熱圧着により積層されたコンクリート型枠用積層シート10であって、表層は、その繊維の隙間に親水剤を保有した芯鞘型繊維のみで構成された不織布シートである。
また、前記コンクリート型枠用積層シートを、型枠30に取り付けたコンクリート打設用型枠であって、表層は、その繊維の隙間に親水剤を保有した芯鞘型繊維のみで構成された不織布シートであり、表層が、打設するコンクリートの表面に当接するように型枠に取り付けられたものである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<コンクリート型枠用積層シート>
図面を用いて、本発明の実施形態に係るコンクリート型枠用積層シートについて説明する。
<実施形態1>
図1(a)は実施形態1に係るコンクリート型枠用積層シートの構成を示す断面図である。
実施形態1のコンクリート型枠用積層シート10は、コンクリート混合物に当接されコンクリート混合物から排出される余剰水を吸水する表層10aと、表層を通過した余剰水を排出する裏層10bとが積層されている。
【0014】
<表層>
コンクリート型枠用積層シート10の表層10aは、親水剤を保有した芯鞘型繊維のみで構成され、加熱によって、鞘を構成する低融点樹脂が溶融して芯鞘型繊維同士が熱融着した不織布シートである。
熱融着後の芯鞘型不織布のみからなるシートは、打設コンクリートの仕上がり面を平滑面にする機能を有し、細い繊維径同士でそれぞれが熱融着されていて毛羽立ちしにくいという性質も有する。
芯鞘型繊維とは、芯が高融点の樹脂で、芯の周りに、鞘が芯よりも低融点の樹脂が配された芯鞘構造の繊維である。
芯となる高融点の樹脂としては、引っ張りや衝撃などの機械的強度に優れ、高融点ポリエステル、結晶性ポリプロピレンなどが挙げられる。
鞘となる低融点の樹脂としては、不織布繊維を結合する熱接着剤としての役割を有し、低融点ポリエステル、ポリエチレン、エチレン−プロピレン共重合体などが挙げられる。
表層10aの状態は、
図2(a)の表面繊維が溶融した状態を示す拡大平面図から分かるように、その表面繊維の鞘同士が熱融着して繊維間の目(隙間)が狭くはなっているが、コンクリート混合物からの余剰水を吸水できるように適正な隙間を有している。
【0015】
表層10aが親水剤を保有しているとは、加熱ロールで熱圧着の際の熱溶融等により、芯鞘繊維の鞘どうしが融着して、不織布繊維間に存在し表面に露出していた繊維隙間が閉じられ、表層の不織布繊維の繊維隙間に存在する親水剤がその隙間内に閉じ込められた構造をいう。
また、加熱ロールの熱によって親水剤に熱架橋反応を生じさせて、水に溶けやすい低分子を高分子化させることによって繊維に絡みつき、隙間からの離脱をさらに困難にさせる。
なお、前記熱圧着は、130〜160℃程度に加熱したロールに接触させることで、
表面の鞘どうしを溶融接合するとともに、加圧により表層10aと裏層10bとを密着積層させる。
市販されている芯鞘型繊維としては、例えば、シンワ(株)製のハイボン9540FOFや9732−5FF、9520FOFなどが挙げられる。
これらは芯が結晶性ポリプロピレン(PP)で鞘がポリエチレン(PE)である。
なお、表層を構成する芯鞘型繊維としては、水を吸って膨潤するタイプのものはシートの目が狭くなり透水性が悪くなるので好ましくない。
また、膨潤性を有する綿やレーヨンなどはOH基を有するため、これらの繊維が混紡されていると透水性が時間経過とともに悪くなるので、これも好ましくない。
よって、表層は、吸水して膨潤しない繊維で構成されている必要性がある。
このため、芯鞘型繊維の外側(鞘部分)には、低融点でかつOH基を有さないPEなどの樹脂で構成されているものを配設したのである。
表層10aの芯鞘型繊維の原料としては、1.8デニール〜6デニールの太さのものを用いることが好ましい。1デニールとは、長さ450メートルで0.05gのものをいう。
長さが同じで重さが2倍なら2デニール、3倍なら3デニールとする。
【0016】
<親水剤>
上記した芯鞘型繊維は疎水性を有するので、コンクリート混合物からの余剰水を通過させにくい。そこで、表層10aを親水処理加工をする。
親水処理加工は、親水剤を水で希釈した親水処理液にディッピングして含浸する方法、スプレー塗布などの手段により、芯鞘繊維の表面に親水処理液をコーティングする。
親水剤としては、例えば、カチオン系第4級アンモニウム塩類、アニオン系アルキルスルホン酸塩類、リン酸エステル塩類、非イオン系ポリエチレングリコール型、非イオン系シリコーンポリマー、ポリプロピレングリコール型等が挙げられる。
これらは1種単独または2種以上を組み合わせて用いられる。
これらの中でも、特に熱架橋型の親水剤を用いることが好ましい。
熱架橋型の親水剤は、熱による架橋反応により高分子化して水に溶けない網状の分子構造になるため繊維と絡み、流出しにくくなり、型枠用シートとして繰り替えし使用することが可能になるのである。
市販されている熱架橋型の親水剤としては、コタニ化学工業(株)製のクインセットPSO−7000、クインセットPSO−5500、クインスタットNW−Econc、クインスタットNW−380や、北広ケミカル(株)製のプチナース3000などが挙げられる。
なお、市販されている非熱架橋型の親水剤としては、花王(株)製のネオペレックスG−15などが挙げられるが、熱架橋型ではないため積層シート加工時の加熱ロールによっても高分子化しないので、繊維と絡まることがなく、流出しやすく、型枠用シートとして繰り返しの使用が困難となるのである。
【0017】
表層10aに保有させる親水剤は、表層シートの乾燥後に残留させる親水剤(固形分としての残留親水剤)の量として、1m
2当たり、0.9g〜5gとすることが望ましい。
0.5g未満では、親水剤保有による余剰水の吸水効果が少ない。
0.5g以上であれば、親水剤保有による余剰水の吸水効果がありコンクリート混合物からの排水効果があり、かつ、繰り返し使用(例えば5回使用)した場合でも吸水効果が残る。
なお、残留親水剤が多いほど吸水効果が高まるが、5gを超えると効果が飽和してコストアップにつながるので好ましくない。
表層シートの乾燥後に残留させる親水剤の調整は、例えば、表層シートの親水処理加工における処理浴の希釈濃度を変えることによって行うことができる。
【0018】
<表層の目付量>
表層10aの目付量としては、30g/m
2〜100g/m
2とすることが好ましい。
目付量が大きくなると余剰水を吸水しにくい。
目付量が小さくなると余剰水を吸水しやすくはなるが、コンクリート粒子の浸入が起きやすい。よって、上記範囲とすることが好ましい。
【0019】
<表層が複数層>
なお、表層は、芯鞘型繊維からなるシートを2層以上とすることも可能である。
例えば、表層1(表面に露出する層)を機械的強度に優れた層とし、表層2(裏面に当接する層)を裏層との密着性に優れた層とするような場合である。
このような複数層とすることによって、例えば以下のような効果がある。
エンボス模様を有する型枠用積層シートを製造する場合などにおいて、エンボスロールの鋭角デザインで表層の一部に強い圧力がかかることがある。
このような場合において、不織布の一部に破れや部分的な溶融等で表層の損傷や破壊が生ずることがある。
そこで、芯鞘繊維の芯をより強度のある素材(表層1)を用いて損傷を防止し、その一方で、その裏側(表層2)には、表層1よりも低融点の芯鞘繊維を積層することができる。
これにより、エンボスデザインに起因する低圧力で密着不良になる箇所(加工製品における凹凸の凸部分)においても、表層と裏層との積層密着度を向上させることができ、裏層に含まれる混紡繊維の表層への吐出を防止することができる。
例えば、表層1としては、芯繊維がポリプロピレンで鞘繊維がポリエチレンからなる層が挙げられ、表層2としては、芯繊維がポリプロピレンテレフタレートで鞘繊維がポリエチレンからなる層が挙げられる。
【0020】
<表層デザイン加工>
平らな加熱ロールに代えて、任意のエンボス模様を有するエンボスロール(柄ロール)を用いてカレンダー加工して、表層の表面にエンボス模様を付与することにより、エンボス模様が転写された積層シートに当接させてコンクリートを打設することにより、コンクリート面をデザイン化(凹凸模様を付与)することもできる。
例えば、木目調(本実仕上げ)、石調(例えば、洗出し石調、大磯石調)、タイル調、カキ落し調などの模様がコンクリート面に形成される。
これらの仕上げは、今までの一般的な単純な平滑仕上げから一転して、全く新しい付加価値をコンクリート面に導入することができる。
このような、エンボス模様をシートの表層に形成させる場合には、エンボスロールの加圧突起加工で表層に穴あきが生じ易く、裏層からの毛羽抜け防止が重要な課題になる。
このため、上記したように表層を2層とすることも好ましい。
【0021】
<裏層>
裏層10bは、表層から移行する余剰水を外部に排出する機能を備えるとともに、表層の強度をバックアップする機能も備える。
裏層としては、排水性がよく保水性がない繊維を用いることが好ましい。
このような繊維としては、PP、PEなどが挙げられる。
また、PPやPEに芯鞘型繊維を混紡して、PPやPEの繊維接着性を向上させたものなどが挙げられる。
なお、裏層に芯鞘型繊維を混紡したものは強度があり、型枠から剥離する際に破断しにくく、繰り返し使用することができるので好ましい。
裏層に用いられる市販品の繊維としては、例えば、シンワ(株)製のGH−200が挙げられる。
このGH−200は、芯がPP、鞘がPP/PEからなる芯鞘構造の繊維である。
【0022】
<裏層の厚み、目付量>
裏層10bを構成する不織布シートとしては、その厚みや目付量を特に規定するものではないが、製造上の観点から、0.1mm〜5mm程度のものが好ましい。それ以上厚くなると作業性が著しく悪くなる。
なお、裏層の厚みは打設コンクリートの仕様に応じて決定される。
また、目付量は、作業性やコスト面から、100g/m
2 〜300g/m
2 程度のものが好ましい。
【0023】
<積層シートとしての厚み>
コンクリート型枠用積層シート10の厚みとしては特に規定するものではないが、型枠の形状やサイズが固定されており、厚いシートは、仕上がり製品の厚みに著しく影響(断面欠損)するので、0.1mm〜2mmの範囲とすることが好ましい。
一例としては、型枠が、幅60cm、高さ180cmの大きさ(2×6板)や幅90cm、高さ180cmの大きさ(3×6板)に、積層シート10を型枠の端部まで折り込んで、コンクリート混合物が浸入しないように留める使用形態の場合は、厚みは約0.1mm〜1.0mmとすることが好ましい。
【0024】
<積層シート全体としての透水性>
また、コンクリート型枠用積層シート10は積層シート全体としての透水性も確保している。
透水性は、多孔体中で流れの方向に直角な単位断面積を、単位の動水勾配の下で単位時間内に通過する水の量と定義され、積層シートの繊維で構成される多孔体(隙間)をぬって移動する水の移動しやすさをいう。
本発明の積層シートは、その程度(透水性)を透水係数として表し、コンクリート型枠用積層シート10の余剰水の排出機能を判断する指標とした。
本発明の型枠用積層シート10における透水係数(JIS−A−1218の測定法に基づく)は、1.00×10
−2〜1.00×10
−4であることが好ましい。
透水係数が1.00×10
−2を超える場合はコンクリート混合物からの余剰水の排水性は高まるが、コンクリート粒子の侵入が多くなる。
一方、透水係数が1.00×10
−4未満の場合は、積層シートに隙間が少なすぎ余剰水の排水性が悪くなる。
【0025】
実施形態2
<中間層あり>
本発明のコンクリート型枠用積層シート10は、
図1(b)の断面図に示すように、中間層10cを介在させて、表層10aと裏層10bとを積層することもできる。
ホットメルト性のある樹脂からなる中間層10cを介在させることにより、表層10a、裏層10bをより強く密着させることができる。
このホットメルト性のある樹脂には、ポリオレフィン系やポリアミド系などの一般の高分子素材を、ドット状やスポット状に、表層シートの裏側(裏層シートと接する側)、又は裏層シートの表側(表層シートと接する側)に付着させたり、スプレー塗布などをしたりして、中間層となるようにあらかじめ形成させておくことができる。
なお、表層10aと裏層10bを加熱及び加圧積層すると、その積層境界面において繊維が融着されて不織布繊維の隙間が小さくなり、コンクリート混合物からの排水の通り道が塞がれ、透水性が悪くなるおそれがある。
そこで、その中間層の素材としてクモの巣状シートを用いることとによって、上記問題点を解決することができる。
すなわち、中間層10cとしては、いわゆるクモの巣状の繊維隙間(目)の大きいシートを用いることで、コンクリート混合物からの余剰水を容易に通過させることができる。
【0026】
上記のクモの巣状シートとしては、メッシュ状のホットメルト接着用シートを用いることが好ましい。市販品では、例えば、Polyamide製品を用いた、呉羽テック(株)製の商品名「ダイナックLNS0030」や、Spunfab社(米国)製の商品名「スパンファブ」などが挙げられる。
この「ダイナックLNS0030」は、ホットメルトレジンを使用するスパンボンド製法で製造されたクモの巣状の接着シートである。
【0027】
<離型部材付きシート>
また、本発明のコンクリート型枠用積層シート10は、その裏層10bに離型部材を積層することもできる。
図3(a)は、粘着層15を介して離型部材16を積層シート10の裏層10bに設けた(離型部材付きシート11)状態を示す断面図であり、この離型部材付きシート11を用いることにより、積層シート10を型枠に簡易に接合することができる。
すなわち、積層シート10の裏層10bの離型部材16を剥がして型枠に接合する。
離型部材16としては、紙、樹脂フィルム、金属箔などが挙げられる。
なお、離型部材16は、全面穴無しでも、部分的に貫通孔が形成されていてもよい(例えばメッシュ部材など)。
本実施形態では、離型部材16として住化加工(株)製のクレープ紙(型番:SL−72R)を用いることができる。
【0028】
図3(b)は、離型部材付きシート11の離型部材16を剥がした状態(離型部材なしシート11aという)で、型枠30の表面に粘着層15が接着されている状態を示す断面図である。
図示するように、流動状のコンクリート混合物が離型部材なしシート11aの表層10a面に接するように流し込まれる。
流動状のコンクリート混合物31の余剰水は、まずは表層10aに吸水される。
打設されるコンクリート面が垂直面の場合は、表層10aに吸水された余剰水は、
裏層10bに移行して、裏層10bの隙間を縫って重力で下端から外部へ排出される。
コンクリート混合物31が固化した後、離型部材なしシート11aを接着させたまま型枠30が外され、固化したコンクリート(打設コンクリート)を露出させる。
離型部材なしシート11aを接着させたままの型枠30は、シートにコンクリート粒子が目詰まりしていないので、その状態で繰り返し使用される。
【0029】
粘着層15としては、有機溶剤系、水系などその種類を特定するものではないが、裏層10bとの粘着性を高めるためには有機溶剤系を用いるのが好ましい。
本実施形態では、綜研化学(株)製のSKダイン(登録商標)1604Nを用いた。
これは、固形分が40〜50質量%の酢酸エチルとトルエンとを含んでいるアクリル酸エステル共重合物である。
離型部材16上に塗工する塗工量としては、100〜500g/m
2、好ましくは250〜300g/m
2 とすることが好ましい。
100g/m
2 未満では粘着層15が少なすぎて、離型部材16を裏層10bの表面に十分な接合強度で粘着できない。
500g/m
2 を超える場合は粘着層15が厚過ぎて無駄になる。
【0030】
<カットファイバ添加>
また、粘着層15には、さらに、カットファイバを添加することもできる。
粘着層15には、無機系繊維(ガラス繊維や天然鉱物繊維など)、有機系繊維(各種高分子ポリマー繊維)の中から、径サイズや繊維長などが用途に応じて任意に選択されたフレキシブルなカットファイバが添加されていることが好ましい。
積層シート10の繊維にカットファイバが機械的に絡まり粘着層15を強く固定する効果がある。
すなわち、粘着層15が裏層10bの繊維との絡み合いにより強い接合性を発現するので、粘着層15を確実に積層シート10の裏面10bに接合させることができる。
粘着層15に有機溶剤系を用いる場合は、例えばポリプロピレン製は溶剤による膨潤や溶解が起きるおそれがあるので、添加するカットファイバは無機系繊維が望ましい。
一方、粘着層15に水系エマルジョンを用いる場合は、添加するカットファイバはポリプロピレン等の高分子ポリマー繊維が望ましく使用できる。
【0031】
カットファイバの添加量は、粘着層の乾燥後の固形分に対して1〜10質量%程度、好ましくは2〜3質量%とする。
1質量%未満では少なすぎて機械的な絡み合いの効果が少なく、10質量%を超えた添加はカットファイバが多すぎて粘着層15の効果が薄れるからである。
本実施形態では、カットファイバとして、径13μm、長さ3mmのユージー基材(株)製のガラス繊維EO3Aを使用した。
このようなカットファイバを添加した粘着層15を、離型部材16上に塗工する。
【0032】
このように、コンクリート型枠用積層シート10を用いて製造された打設コンクリートは、光沢性のある表層10aに当接して凝固するので、極めて平滑で光沢のある平坦面となる。
また、本発明の積層シート10は、十分な透水性を備えているので余剰水の排出ができ、打設コンクリートの表面にピンホールやアバタ(気泡)がなく、しかも毛羽立ちがない。
なお、型枠としては、ベニア型枠、合板型枠、プラスチック型枠、ゴム型枠、PC工場用の鋼板型枠やアルミ型枠、基礎立ち上がり鋼板型枠などであれば、いずれも使用可能である。
【0033】
<積層シートの製造方法>
次に、実施形態の
図1(b)に示すコンクリート型枠用積層シート10を例にとって、その製造方法を説明する。
<表層の親水処理加工>
まず、表層シートに親水処理加工を施す。
親水処理加工は、親水剤を水で希釈した親水処理液にディッピングして含浸する方法、スプレー塗布などの手段により、芯鞘繊維の表面に親水処理液をコーティングする方法などあるが、親水剤としてコタニ化学工業(株)製のPSO−7000を用い、ディッピングして含浸させ乾燥する方法について説明する。
表層10aに保有させる親水剤は水で希釈してディッピング処理浴に貯留する。
固形分としての残留させる親水剤の量の調整は、ディッピング処理浴の希釈濃度を変えることによって行う。
ディッピング処理浴を通過させる際のラインスピードは、表層に親水剤を十分保有させるため、10〜20m/分とすることが好ましい。
その後、絞り工程を経て、接触式ドラム乾燥機で表層シートの表面と裏面を乾燥させて巻き取りリールに巻き取る。
【0034】
次に、
図4に説明するように、裏層10bとなる不織布シートを巻き取りリールから繰り出すとともに、表層10aとなる不織布シートを積層して2層とし、加熱ロール21(カレンダーロール)と受けロール22の間に挿入して、表層10a、裏層10bからなる積層シート10に加工する。
この積層加工時において、表層10aは、加熱ロール21に接触させることによって、熱及び加圧加工(本明細書においてカレンダー加工という)し、表層10aの鞘同士を熱融着させ繊維間の隙間を小さくする(目詰まりさせる)とともに、親水剤に熱架橋反応を生じさせる。
すなわち、加熱ロール21と接触する表層10aの鞘同士を熱融着させることにより繊維の隙間を埋め表層10aの内部に親水剤を閉じ込めるのである。
このようにカレンダー加工は、表層10aを加熱して熱可塑性繊維同士を熱融着させるとともに厚み方向に加圧する加工方法である。
加熱と加圧により、表層10a及び裏層10bが一体化され、積層シートとされる。
なお、積層シートとするための加工方法は以下の条件とすることが望ましい。
加熱ロール21の加工温度としては130〜160℃、
ロール間圧力としては3〜10Mpa、
加工スピードとしては1〜5m/分、
加工回数としては1〜3回の範囲内で、使用目的に合うように、適宜、加工温度、ロール間圧力、加工スピード、加工回数などを制御する。
目標仕上がり製品寸法としては厚み0.5〜2mm、
目標透水係数としては1.0×10
−2 〜2.5×10
−4 の範囲に収まるようにする。
なお、加熱ロール21の表面は表層10aに転写されるので、加熱ロール21の表面は光沢面とすることが好ましい。
また、この加工時においては、加熱ロール21と受けロール22との間にはクリアランスを設けず両ロール間を加圧状態にしてもよいし、所定のクリアランスを設けてもよい。
なお、カレンダー加工は、加熱ロール21と受けロール22間を、通常1回通すことで所定の特性を有する積層シートを得ることができるが、表層の目を細かくしたり、不織繊維の結合強度を増すために、複数回通すこともできる。
要求される積層シートとの仕様によって適宜の加工回数とする。
【0035】
上記した加熱ロール21及び受けロール22を備えた加工装置は、図示しないが、これらの両ロール間に不織布シートを供給するためのテンションロールや巻き取りロールを有しており、不織布シートに付加される張力を制御することができる。
加熱ロール21は、内部に設けられたヒータを介してその温度を所定範囲に設定することができる。
また、加熱ロール21及び受けロール22間の加圧力の制御機構を設け、挿入され挟圧される不織布シートを加圧圧力の調整をすることができる。
これによって、加熱ロール21の表面を表層10aに接触させ、表層10aの繊維同士を熱融着させ、表層10aの内部に親水剤を閉じ込めることができる。
また、加熱ロール21及び受けロール22の回転スピード(加工速度)等を調整するための制御機構も設けることができる。
【0036】
なお、加熱ロール21とその受けロール22間を通過した積層シート10の表層10aの光沢度の値を測定して、表層10aの繊維の熱融着の程度や繊維間隙間の大きさを検出することもできる。
すなわち、加熱ロール21、受けロール22の出側に光沢計25を設け、加工後の表層の光沢度を測定することによって、積層加工条件(加工温度、加工圧力、加工スピードなど)を制御することができる。
これにより、表層10aの繊維間隙間の程度を制御して、表層内部に閉じ込める親水剤の量の調整もすることができるのである。
なお、ここで、光沢度の測定は、JIS−Z−8741(60度鏡面光沢)に準じた光沢計よることが好ましい。
この測定法は、規定の角度で入射し被測定面で反射した光束の受光強度を測ることにより取得する。 以下の実施例では、この測定値が10〜35の範囲となるように製造条件を制御した。
ちなみに、原反の光沢度は3〜4であった。
【0037】
<実施形態2の積層シートの製造方法>
次に、
図5に示す実施形態2の3層のコンクリート型枠用積層シート100を例にとって、その製造方法を説明する。
裏層10bとなる不織布シートを巻き取りリールから繰り出し、その表面に、中間層10cを積層する。
さらに、その中間層10c上に、表層10aとなる不織布シートを積層して3層とし、加熱ロール21(カレンダーロール)と受けロール22の間に挿入して、表層10a、中間層10c、裏層10bからなる3層積層シートに加工する。
それ以外は、実施形態1の2層の積層シート10の製造方法と同様である。
【0038】
<加工設備>
上記した加熱ロール21及び受けロール22を備えた加工装置は、図示しないが、これらの両ロール間に不織布シートを供給するためのテンションロールや巻き取りロールを有しており、不織布シートに付加される張力を制御することができる。
加熱ロール21は、内部に設けられたヒータを介してその温度を所定範囲に設定することができる。
また、加熱ロール21及び受けロール22間の加圧力の制御機構を設け、挿入され挟圧される不織布シートを加圧圧力の調整をすることができる。
これによって、加熱ロール21の表面を表層10aに接触させ、表層10aの繊維同士を熱融着させ、繊維間の隙間を埋めることができる。
また、加熱ロール21及び受けロール22の回転スピード(加工速度)等を調整するための制御機構も設けることができる。
【0039】
<加熱ロールヒータ>
加熱ロール21は、鋳鉄製などの金属製ロールであり内蔵されたヒータなどによって温度制御される。
受けロール22は、樹脂製のロールとすることが望ましく、例えば、そのロール面がシリコンゴムで被覆されるか又はシリコンゴムからなる円筒体であり、加熱ロール21に対向して配置される。
【0040】
<離型部材付きシートの製造方法>
次に、
図6に示すように、積層シート10に離型部材16を積層した離型部材付きシート11の製造方法を説明する。
離型部材16の片面に粘着層用粘着材を塗工して離型部材16上に粘着層15を形成する。
その後、乾燥炉23を通過させて粘着層15を乾燥する。
そして、別途製造した積層シート10の裏層10bの表面に接合して、離型部材付きシート11を完成させる。
【実施例】
【0041】
次に、実施例及び比較例の積層シート及びその加工方法を示す。
実施例1〜5は、カレンダー加工により表層の繊維の目を小さくし、親水剤を表層の内部に閉じ込めた積層シートの例である。
【0042】
実施例1では、表層として、PP/PEの芯鞘型繊維を用いた不織布シート(シンワ(株)製、ハイボン9540FOF、目付量40g/m
2)を用いた。
親水剤として非イオン系シリコーンポリマー(コタニ化学工業(株)製クインセットPSO−7000)を水で希釈した、10%の親水処理液を表層にディッピング処理した。
乾燥後の残留親水剤の質量(固形成分残留量)は0.9g/m
2 であった。
裏層シートとして、PP/PEの芯鞘型繊維にPP繊維を30%混紡した不織布シート(シンワ(株)製、GH−200、目付量200g/m
2)を用いた。
上記の表層及び裏層を、以下の条件で積層加工した。
加工温度:160℃
加工圧力:7.4Mpa
加工スピード:1m/分
得られた積層シートは、厚みが0.9mmであり、光沢度は35、透水係数が1.79×10
−3であった。
なお、本評価では、(株)堀場製作所製の光沢計(ハンディ光沢計グロスチェッカIG−320)を用いた。この光沢計は、入射角−受光角が60度−60度に設定されている。 得られた積層シートを型枠に取り付けコンクリートを打設した。
この打設したコンクリートには目視ではピンホールの発生が見られなかった。
また、打設コンクリート繰り返し使用回数として、5回繰り返し用いることができた。
【0043】
<実施例2>
実施例2では、表層シートとして、PET/PEの芯鞘型繊維を用いたシート(シンワ(株)製、ハイボン9732−5FF、目付量32g/m
2)を用いた。
親水剤として非イオン系シリコーンポリマー(コタニ化学工業(株)製、クインセットPSO−7000)を水で希釈した、28%の親水処理液を表層にディッピング処理した。
乾燥後の残留親水剤の質量(固形成分残留量)は2.5g/m
2 であった。
裏層シートとして、PP/PEの芯鞘型繊維にPP繊維を30%混紡したシート(シンワ(株)製、GH−200、目付量200g/m
2)を用いた。
上記の表層及び裏層を、以下の条件で積層加工した。
加工温度:160℃
加工圧力:7.4Mpa
加工スピード:2m/分
得られた積層シートは、厚みが1.0mmであり、光沢度は23、透水係数が2.41×10
−3であった。
得られた積層シートを型枠に取り付けコンクリートを打設した。
この打設したコンクリートには目視ではピンホールの発生が見られなかった。
また、打設コンクリート繰り返し使用回数として、5回繰り返し用いることができた。
【0044】
<実施例3>
実施例3は、表層シートとして、PP/PEの芯鞘型繊維を用いたシート(シンワ(株)製、ハイボン9520FOF、目付量20g/m
2)を用いた。
親水剤として非イオン系シリコーンポリマー(コタニ化学工業(株)製、クインセットPSO−7000)を水で希釈した、28%の親水処理液を表層にディッピング処理した。
乾燥後の残留親水剤の質量(固形成分残留量)は2.5g/m
2 であった。
裏層シートとして、PP/PEの芯鞘型繊維にPP繊維を30%混紡したシート(シンワ(株)製、GH−200、目付量200g/m
2)を用いた。
上記の表層及び裏層を、以下の条件で積層加工した。
加工温度:160℃
加工圧力:7.4Mpa
加工スピード:2m/分
得られた積層シートは、厚みが1.0mmであり、光沢度は25、透水係数が2.89×10
−3であった。
得られた積層シートを型枠に取り付けコンクリートを打設した。
この打設したコンクリートには目視ではピンホールの発生が見られなかった。
また、打設コンクリート繰り返し使用回数として、5回繰り返し用いることができた。
【0045】
<実施例4>
実施例4では、表層として、PP/PEの芯鞘型繊維を用いた不織布シート(シンワ(株)製、ハイボン9540FOF、目付量40g/m
2)を用いた。
親水剤として非イオン系シリコーンポリマー(コタニ化学工業(株)製クインセットPSO−7000)を水で希釈した、10%の親水処理液を表層にディッピング処理した。
乾燥後の残留親水剤の質量(固形成分残留量)は0.9g/m
2 であった。
裏層シートとして、PP/PEの芯鞘型繊維にPP繊維を30%混紡した不織布シート(シンワ(株)製、GH−200、目付量200g/m
2)を用いた。
上記の表層及び裏層を、以下の条件で積層加工した。
加工温度:130℃
加工圧力:10Mpa
加工スピード:1m/分
得られた積層シートは、厚みが0.9mmであり、光沢度は20、透水係数が3.10×10
−3であった。
得られた積層シートを型枠に取り付けコンクリートを打設した。
この打設したコンクリートには目視ではピンホールの発生が見られなかった。
また、打設コンクリート繰り返し使用回数として、5回繰り返し用いることができた。
【0046】
<実施例5>
実施例5では、表層として、PP/PEの芯鞘型繊維を用いた不織布シート(シンワ(株)製、ハイボン9540FOF、目付量40g/m
2)を用いた。
親水剤として非イオン系シリコーンポリマー(コタニ化学工業(株)製クインセットPSO−7000)を水で希釈した、10%の親水処理液を表層にディッピング処理した。
乾燥後の残留親水剤の質量(固形成分残留量)は0.9g/m
2 であった。
裏層シートとして、PP/PEの芯鞘型繊維にPP繊維を30%混紡した不織布シート(シンワ(株)製、GH−200、目付量200g/m
2)を用いた。
上記の表層及び裏層を、以下の条件で積層加工した。
加工温度:160℃
加工圧力:7.4Mpa
加工スピード:5m/分
得られた積層シートは、厚みが1.3mmであり、光沢度は10、透水係数が3.22×10
−3であった。
得られた積層シートを型枠に取り付けコンクリートを打設した。
この打設したコンクリートには目視ではピンホールの発生が見られなかった。
また、打設コンクリート繰り返し使用回数として、5回繰り返し用いることができた。
【0047】
<評価>
実施例1〜5の積層シートは、親水剤によってコンクリートからの水分をよく吸収して打設コックリートにピンホールが発生しなかった。
さらに、カレンダー加工によって表層の繊維の目を小さくしたことにより、コンクリート粒子をシート内部に侵入させることなく繰り返し使用できた。
なお、実施例1は、表層中の残留親水剤の量が小さい場合である。
実施例2は、加熱ロールによって閉じた繊維の目が粗い例であるが、コンクリート粒子の侵入はなかった。
実施例3は、加熱ロールによって閉じた繊維の目が細かな例であるが、コンクリート余剰水の排水は良好であった。
実施例4は、加工温度を130℃、加工圧力を10Mpaとした。 それ以外は実施例1と同様とし積層シートを製造した。 光沢度は20であったが、コンクリートピンホールの発生はなかった。
実施例5は、加工スピードを5m/分とした。それ以外は実施例1と同様とし積層シートを製造した。 光沢度は10であったが、コンクリートピンホールの発生はなかった。
【0048】
なお、実施例1〜5において、親水剤処理溶液は希釈して、28%溶液と10%溶液の2種類を準備した。
28%溶液の場合は、水100質量部に対し、親水剤原液40質量部を加えたものを準備した。
40/(100+40)=0.286(表には28%溶液と記載(固形分2.5g/m
2))となる。
また、10%溶液の場合は、水100質量部に対し、親水剤原液11質量部を加えたものを準備した。
11/(100+11)=0.099(表には10%溶液と記載(固形分0.9g/m
2))となる。
本発明では、親水処理剤の溶液濃度は10%未満の溶液は、乾燥後の残留親水剤の量(固形成分残留量)が少なく親水処理効果が薄く、10%以上の濃度とすることが望ましいことがわかった。
なお、これらの実施例1〜5の積層シートを型枠に取り付けて用いた結果、打設コンクリートからの剥離性は良好であり、コンクリートの仕上がり面はピンホールの存在は無かった。
【0049】
<比較例1>
比較例1は、表層として親水処理をした不織布を用いなかった。
裏層は実施例1と同様とした。
積層シート加工条件は実施例2と同様とした。
得られた積層シートは厚みが1.1mmであった。
比較例1の積層シートは、加熱ロールで表層の目を小さくしたので、コンクリート粒子の侵入はなかったが、表層に親水加工をしていないので、コンクリート余剰水の吸水が悪く、打設コンクリートにピンホールが多数発生したので、繰り返しの使用をやめた。
【0050】
<比較例2>
比較例2は、表層として親水処理をした不織布を用いなかった。
裏層は、実施例1と同様とした。
積層シート加工条件は以下のとおりとした。
加工温度:120℃
加工圧力:7.4Mpa
加工スピード:3m/分
得られた積層シートは厚みが1.2mmであった。
比較例2の積層シートは、加熱ロールの温度不足のため表層の繊維目を小さくできなかったので、透水係数が2.56×10
−3でありコンクリート余剰水の排水性はよいものの、コンクリート粒子の侵入が多数であった発生したため、打設コンクリートからの剥離性が悪く(脱型困難)、繰り返し使用はできなかった。
【0051】
<参考例1>
参考例1は、熱架橋型ではない親水剤を表層に親水処理をした不織布を用いた。
裏層は実施例1と同様とした。
積層シート加工条件は実施例2と同様とした。
得られた積層シートは厚みが1.1mmであった。
参考例1の積層シートは、熱架橋型ではない親水剤を用いたので、コンクリート余剰水の排水性はよく、打設コンクリートにピンホールは発生しなかった。
しかし、余剰水の排水時に親水剤が流れ出たため2回目使用時の吸水性が悪く、打設コンクリートにピンホールが発生した。そのため繰り返し使用をやめた。
【0052】
【表1】