【実施例】
【0066】
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。先ず、金属酸化物粒子の分散液を調製する合成例1〜9及び比較合成例1〜3を説明し、次いでこれらの合成例及び比較合成例を用いた撥水撥油性膜形成用液組成物の製造に関する実施例1〜9及び比較例1〜7を説明する。
【0067】
〔金属酸化物粒子分散液を調製するための合成例1〜9、比較合成例1〜3〕
<合成例1>
平均粒子径が12nmの二酸化ケイ素のIPA分散液(IPA−ST、日産化学社製、SiO
2濃度30%)が50.0g入ったビーカーに、上述した式(19)で表されるフッ素系化合物を9.75g添加し混合した。次に、水を3.51g添加し混合した。更に、硝酸を0.031g添加し、40℃で2時間混合し、フッ素系化合物が二酸化ケイ素粒子に結合した二酸化ケイ素(シリカ)粒子の分散液を得た。金属酸化物粒子(B)である二酸化ケイ素に対するフッ素系官能基成分(A)の質量比(A/B)は0.61であった。
【0068】
<合成例2>
平均粒子径が45nmの二酸化ケイ素のIPA分散液(IPA−ST−L、日産化学社製、SiO
2濃度30%)が50.0g入ったビーカーに、上述した式(20)で表されるフッ素系化合物を1.50g添加し混合した。次に、水を0.54g添加し混合した。更に、硝酸を0.005g添加し、以下、合成例1と同様にして二酸化ケイ素(シリカ)粒子の分散液を得た。質量比(A/B)は0.09であった。
【0069】
<合成例3>
平均粒子径が80nmの二酸化ケイ素のIPA分散液(IPA−ST−ZL、日産化学社製、SiO
2濃度30%)が50.0g入ったビーカーに、上述した式(21)で表されるフッ素系化合物を0.75g添加し混合した。次に、水を0.27g添加し混合した。更に、硝酸を0.005g添加し、以下、合成例1と同様にして二酸化ケイ素(シリカ)粒子の分散液を得た。質量比(A/B)は0.05であった。
【0070】
<合成例4>
合成例1と同じ二酸化ケイ素のIPA分散液が50.0g入ったビーカーに、上述した式(22)で表されるフッ素系化合物を2.25g添加し混合した。次に、水を0.81g添加し混合した。更に、硝酸を0.010g添加し、以下、合成例1と同様にして二酸化ケイ素(シリカ)粒子の分散液を得た。質量比(A/B)は0.14であった。
【0071】
<合成例5>
合成例4で用いたフッ素系化合物を上述した式(27)で表されるフッ素系化合物に代えた以外は、合成例4と同様にして二酸化ケイ素(シリカ)粒子の分散液を得た。質量比(A/B)は0.14であった。
【0072】
<合成例6>
平均粒子径が3nmの二酸化ジルコニウムのメタノール分散液(SZR−M、堺化学社製、ZrO
2濃度30%)が50.0g入ったビーカーに、上述した式(27)で表されるフッ素系化合物を11.25g添加し混合した。次に、水を4.05g添加し混合した。更に、硝酸が0.035g添加し、以下、合成例1と同様にして二酸化ジルコニウム粒子の分散液を得た。金属酸化物粒子(B)である二酸化ジルコニウムに対するフッ素系官能基成分(A)の質量比(A/B)は0.71であった。
【0073】
<合成例7>
平均粒子径が6nmの二酸化チタンのIPA分散液(TKD−701、テイカ社製、TiO
2濃度18%)が50.0g入ったビーカーに、上述した式(27)で表されるフッ素系化合物を2.70g添加し混合した。次に、水を0.97g添加し混合した。更に、硝酸が0.010g添加し、以下、合成例1と同様にして二酸化チタン粒子の分散液を得た。金属酸化物粒子(B)である二酸化チタンに対するフッ素系官能基成分(A)の質量比(A/B)は0.28であった。
【0074】
<合成例8>
平均粒子径が60nmのアルミナと二酸化ケイ素のIPA分散液(バイラールAS−L10、多木化学社製、3Al
2O
3・2SiO
2濃度10%)が50.0g入ったビーカーに、上述した式(27)で表されるフッ素系化合物を0.25g添加し混合した。次に、水0.09gを添加混合した。更に、硝酸0.005g添加し、以下、合成例1と同様にしてアルミナと二酸化ケイ素の粒子の分散液を得た。金属酸化物粒子(B)であるアルミナと二酸化ケイ素に対するフッ素系官能基成分(A)の質量比(A/B)は0.05であった。
【0075】
<合成例9>
平均粒子径が25nmの酸化亜鉛のIPA分散液(MZ−500、テイカ社製、ZnO濃度30%)が50.0g入ったビーカーに、上述した式(27)で表されるフッ素系化合物を1.50g添加し混合した。次に、水を0.54g添加し混合した。更に、硝酸を0.005g添加し、以下、合成例1と同様にして酸化亜鉛粒子の分散液を得た。金属酸化物粒子(B)である酸化亜鉛に対するフッ素系官能基成分(A)の質量比(A/B)は0.09であった。
【0076】
<比較合成例1>
平均粒子径が230nmの二酸化チタンのIPA分散液(R32、堺化学社製、TiO
2濃度30%)が50.0g入ったビーカーに、上述した式(27)で表されるフッ素系化合物を1.50g添加し混合した。次に、水を0.54g添加し混合した。更に、硝酸を0.005g添加し、以下、合成例1と同様にして二酸化チタン粒子の分散液を得た。金属酸化物粒子(B)である二酸化チタンに対するフッ素系官能基成分(A)の質量比(A/B)は0.09であった。
【0077】
<比較合成例2>
合成例1と同じ二酸化ケイ素のIPA分散液が50.0g入ったビーカーに、上述した式(27)で表されるフッ素系化合物を0.45g添加し混合した。次に、水を0.16g添加し混合した。更に、硝酸を0.005g添加し、以下、合成例1と同様にして二酸化ケイ素(シリカ)粒子の分散液を得た。質量比(A/B)は0.03であった。
【0078】
<比較合成例3>
合成例1と同じ二酸化ケイ素のIPA分散液が50.0g入ったビーカーに、上述した式(27)で表されるフッ素系化合物を15.00g添加し混合した。次に、水を5.40g添加し混合した。更に、硝酸を0.047g添加し、以下、合成例1と同様にして二酸化ケイ素(シリカ)粒子の分散液を得た。質量比(A/B)は0.95であった。
【0079】
以下の表1に、合成例1〜9及び比較合成例1〜3のフッ素含有金属酸化物粒子の分散液の内容を示す。なお、表1において、フッ素系化合物として式(19)〜式(22)及び式(27)で表わされるフッ素含有シランの式中のRはすべてエチル基である。
【0080】
【表1】
【0081】
〔撥水撥油性膜形成用液組成物の製造のための実施例1〜9、比較例1〜4〕
<実施例1>
正ケイ酸エチル30gとエタノール60gと水10gを混合した後、硝酸を1g添加し、30℃で3時間混合し、シリカゾルゲル液を得た。得られたシリカゾルゲル液10.00gに工業アルコール(AP−7、日本アルコール産業社製)を72.18g、ジアセトンアルコール1.70g、イソプロピルグリコール11.04gをそれぞれ添加し混合した後、合成例1の金属酸化物粒子の分散液11.51gを添加し混合し、撥水撥油性膜形成用液組成物を調製した。この内容を以下の表2に示す。表2には、『溶媒を除く液組成物中のフッ素系官能基成分(A)』の含有割合及び『溶媒を除く液組成物中のフッ素系官能基成分(A)と金属酸化物粒子(B)を合計した含有割合』も示す。なお、溶媒を除く液組成物中のフッ素系官能基成分(A)の含有割合(%)は、金属酸化物粒子(C)の含有割合を考慮して表現をすれば、[(A)/[(A)+(B)+(C)]]の百分率であり、溶媒を除く液組成物中のフッ素系官能基成分(A)と金属酸化物粒子(B)を合計した含有割合(%)は、金属酸化物粒子(C)の含有割合を考慮して表現をすれば、[[(A)+(B)]/[(A)+(B)+(C)]]の百分率である。
【0082】
【表2】
【0083】
<実施例2〜9及び比較例1〜3>
実施例2〜9及び比較例1〜3について、表2に示すように、フッ素含有金属酸化物粒子の分散液の種類と秤量、シリカゾルゲル液の秤量、及び実施例1と同一の工業アルコール、ジアセトンアルコール及びイソプロピルグリコールの秤量をそれぞれ決定して、実施例2〜9及び比較例1〜3の各撥水撥油性膜形成用液組成物を調製した。
シリカゾルゲル液に関して、実施例2〜9及び比較例1〜3では、実施例1で用いた正ケイ酸エチルの代わりに、テトラメトキシシラン(TMOS)の3量体〜5量体(三菱化学社製、商品名:MKCシリケートMS51)28.50gと、アルキレン基成分となるエポキシ基含有シランとして3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(GPTMS:信越化学工業社製、商品名:KBM−403)1.50gを用いた。それ以外は、実施例1と同様の操作を行った。
【0084】
<比較例4>
比較例4では、撥水撥油性膜形成用液組成物を上記実施例1〜9及び比較例1〜3とは異なる方法で調製した。即ち、ケイ素アルコキシドとしてテトラメトキシシラン(TMOS)の3量体〜5量体(三菱化学社製、商品名:MKCシリケートMS51)8.52gと、アルキレン基成分となるエポキシ基含有シランとして3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(GPTMS:信越化学工業社製、商品名:KBM−403)0.48gと、フッ素系化合物として式(27)で表わされるフッ素含有シラン(R:エチル基)0.24gと、有機溶媒としてエタノール(EtOH)(沸点78.3℃)17.34gとを混合し、更にイオン交換水3.37gを添加して、セパラブルフラスコ内で25℃の温度で5分間撹拌することにより混合液を調製した。またこの混合液に、触媒として濃度35質量%の塩酸0.05gを添加し、40℃で2時間撹拌してフッ素含有シリカゾルゲル液を得た。このシリカゾルゲル液10gに、実施例1と同一の工業アルコール90g、ジアセトンアルコール2g及びイソプロピルグリコール13gをそれぞれ混合し、金属酸化物粒子の分散液として、合成例1と同一の平均粒子径が12nmの二酸化ケイ素のIPA分散液を10g添加し混合して、撥水撥油性膜形成用液組成物を調製した。
【0085】
<比較例5>
比較例4において、比較例4で得られたシリカゾルゲル液10gに、実施例1と同一の工業アルコール90g、ジアセトンアルコール2g及びイソプロピルグリコール13gをそれぞれ混合した後で、金属酸化物粒子の分散液である合成例1と同一の平均粒子径が12nmの二酸化ケイ素のIPA分散液を添加せずに、撥水撥油性膜形成用液組成物を調製した。
【0086】
<比較例6>
実施例1で用いた合成例1の金属酸化物粒子の分散液を調製するためのフッ素系化合物の代わりに、下記の式(30)のペルフルオロアミン構造のフッ素系官能基成分を含むフッ素系化合物を用いた。それ以外は、実施例1と同様にして、撥水撥油性膜形成用液組成物を調製した。
【0087】
【化10】
【0088】
<比較例7>
実施例1で調製したシリカゾルゲル液の代わりに、メチルトリエトキシシランのシランカップリング剤を用いた。それ以外は、実施例1と同様にして、撥水撥油性膜形成用液組成物を調製した。
【0089】
<比較試験及び評価>
実施例1〜9及び比較例1〜7で得られた16種類の液組成物を、刷毛(末松刷子製ナイロン刷毛マイスター)を用いて、厚さ2mm、たて150mm、よこ75mmのSUS304基材上にそれぞれ乾燥後の厚さが1〜3μmとなるように塗布し、16種類の塗膜を形成した。すべての塗膜を室温の大気雰囲気中にて3時間静置し、塗膜を乾燥させて上記SUS304基材上に16種類の膜を得た。これらの膜について、膜表面の水濡れ性(撥水性)、撥油性及び膜の外観を評価し、膜の強度試験、膜のセロテープ(登録商標)剥離試験及び耐指紋性試験を行った。これらの結果を表3に示す。なお、膜の耐指紋性とは、膜に指紋付着後に指紋が膜表面に目立ちにくく、また付着した場合の指紋の拭き取りが容易であることに加えて、指紋が膜に付着しにくい特性である。
【0090】
(1) 膜表面の撥水性(接触角)
協和界面科学製ドロップマスターDM-700を用いて、シリンジに22℃±1℃のイオン交換水を準備し、シリンジの針の先端から2μLの液滴を飛び出した状態にする。次いで評価するSUS304基材上の膜をこの液滴に近づけて膜に液滴を付着させる。この付着した水の接触角を測定した。静止状態で水が膜表面に触れた1秒後の接触角をθ/2法により解析した値を水の接触角とし、膜表面の水濡れ性(撥水性)を評価した。
【0091】
(2) 膜表面の撥油性(接触角)
協和界面科学製ドロップマスターDM-700を用いて、シリンジに22℃±1℃のn−ヘキサデカン(以下、油という。)を準備し、シリンジの針の先端から2μLの液滴を飛び出した状態にする。次いで評価するSUS304基材上の膜をこの液滴に近づけて膜に液滴を付着させる。この付着した油の接触角を測定した。静止状態で油が膜表面に触れた1秒後の接触角をθ/2法により解析した値を油の接触角とし、膜表面の撥油性を評価した。
【0092】
(3) 膜の外観
評価するSUS304基材上の膜を目視で観察して、膜が透明であるか否か、また膜が白濁しているか否かを調べた。膜が透明であるものを『良好』とし、膜が白濁しているものは、その程度に応じて『白濁不良』又は『やや白濁不良』とした。
【0093】
(4) 膜の強度試験
評価するSUS304基材上の膜に下記の接触子を所定の荷重をかけながら、次の条件で10往復移動した後で、基材上の膜が基材から剥離しないか否かを目視で調べた。膜が剥離しない場合を『合格』とし、剥離した場合を『不合格』とした。
(a) 測定器:静・動摩擦測定機TL201Tt(株式会社トリニティーラボ)
(b) 測定条件:
・移動距離:30mm
・垂直荷重:500g重
・移動速度:50mm/秒
・接触子:5mm×15mm角のネオプレーンゴム
【0094】
(5) 膜のセロテープ(登録商標)剥離試験
評価するSUS304基材上の膜に碁盤目状に1mm幅のクロスカットを施し、その碁盤目状にクロスカットされた膜に粘着テープ(ニチバン社製、商品名「セロテープ(登録商標)」)を貼り、JISK5600−5−6(クロスカット法)の碁盤目テープ法に準拠してセロテープ(登録商標)剥離試験を行った。クロスカットを施したマス目100個を分母で表し、セロテープ(登録商標)剥離試験後に基材上に残存するマス目の数を分子で表した。
【0095】
(6) 膜の耐指紋性試験
セルロース連続長繊維不織布(旭化成社製、製品名:ベンコットM−3II)を評価するSUS304基材上の膜の上に載せ、この不織布に人工指紋液(JIS K 2246に準じる)を100マイクロリットル滴下した。この不織布に黒ゴム24号(質量300g)を載せ、更に1kgの重りを載せて、30秒間静置することにより、膜に指紋液を付着させた。その後、不織布を剥がして、膜の耐指紋性を目視にて観察した。膜表面に指紋液が付着していなかったものを『良好』とし、付着しているものを『不良』とした。
【0096】
【表3】
【0097】
表3から明らかなように、比較例1では、平均粒子径が230nmである金属酸化物(二酸化チタン)粒子を含む比較合成例1の二酸化チタン粒子の分散液から撥水撥油性膜形成用液組成物を調製し、この液組成物により膜を形成したため、膜中の金属酸化物粒子の平均粒子径が大き過ぎ、バインダ成分であるシリカゾルゲルで金属酸化物粒子が基材表面に結着しにくかった。この結果、水及びn−ヘキサデカンの接触角は悪く、膜が白濁していて、膜の外観が不良であった。また膜の強度試験では膜が基材から剥離し、セロテープ(登録商標)剥離試験では基材上に残存するマス目の数は20個しかなく、大部分が剥離した。更に膜の耐指紋性は不良であった。
【0098】
比較例2では、フッ素含有金属酸化物粒子の分散液における『(A)/(B)』が0.03であり、溶媒(D)を除く液組成物中の『フッ素系官能基成分(A)』の含有割合が0.1質量%であり、溶媒(D)を除く液組成物中の『(A)+(B)』の含有割合が3質量%であり、膜中のフッ素系官能基成分の含有量が少な過ぎた。このため、膜の外観は良好で、膜の強度試験及びセロテープ(登録商標)剥離試験はともに合格したけれども、水及びn−ヘキサデカンの接触角は悪く、膜の耐指紋性が不良であった。
【0099】
比較例3では、フッ素含有金属酸化物粒子の分散液における『(A)/(B)』が0.95であり、溶媒(D)を除く液組成物中の『フッ素系官能基成分(A)』の含有割合が41.0質量%であり、溶媒(D)を除く液組成物中の『(A)+(B)』の含有割合が82質量%であり、膜中のフッ素系官能基成分の含有量が多過ぎた 。このため、水及びn−ヘキサデカンの接触角は良好であり、セロテープ(登録商標)剥離試験は合格したけれども、膜の耐指紋性が不良であり、膜がやや白濁していて、膜表面が荒れ、膜の外観がやや不良であった。また膜の強度試験では膜が基材から剥離し不合格であった。
【0100】
比較例4では、フッ素含有シリカゾルゲル液に金属酸化物粒子の分散液を添加し混合して撥水撥油性膜形成用液組成物を調製したため、粒子表面が親油性である金属酸化物粒子が膜中に多数存在することにより、撥油性能が大きく劣化していた。この結果、膜の外観は良好で、膜の強度試験及びセロテープ(登録商標)剥離試験はともに合格したけれども、水及びn−ヘキサデカンの接触角は悪く、膜の耐指紋性が不良であった。
【0101】
比較例5では、フッ素含有シリカゾルゲル液に金属酸化物粒子の分散液を添加することなく、撥水撥油性膜形成用液組成物を調製したため、膜中に親水親油性の金属酸化物粒子が存在せず、撥油性能が良好であった。この結果、水及びn−ヘキサデカンの接触角及び膜の外観は、いずれも良好であり、セロテープ(登録商標)剥離試験は合格したけれども、膜の耐指紋性が不良であり、膜の強度試験では金属酸化物粒子が存在しないことにより、膜が基材から剥離し不合格であった。
【0102】
比較例6では、前述した式(30)のペルフルオロアミン構造のフッ素系化合物を用いたことにより、水及びn−ヘキサデカンの接触角は、ペルフルオロエーテル構造のフッ素系化合物と比較すると、それぞれやや低めであった。塗膜の外観、密着性試験、膜強度試験においては合格レベルであったが、水及びn−ヘキサデカンの接触角が低めであることから、膜の耐指紋性が不良であった。
【0103】
比較例7では、バインダ成分であるシリカゾルゲルの代わりに、シランカップリング剤としてメチルトリエトキシシランを用いたことにより、水及びn−ヘキサデカンの接触角も優れておらず、膜の耐指紋性が不良であった。また膜の外観もやや白濁しており、膜のセロテープ(登録商標)剥離試験ではすべて剥離して密着性が悪かった。更に、膜の強度試験においても、1往復目より、膜が簡単に剥離しており、不合格であった。
【0104】
それに対して、実施例1〜9では、フッ素系官能基成分が式(1)又は式(2)であり、金属酸化物粒子の平均粒子径が2nm〜90nmの範囲にあり、溶媒(D)を除く液組成物中のフッ素系官能基成分(A)の含有割合が1質量%〜30質量%であり、溶媒(D)を除く液組成物中のフッ素系官能基成分(A)と金属酸化物粒子(B)とを合計した含有割合が5質量%〜80質量%であり、『(A)/(B)』が0.05〜0.80の範囲にあって、第1の観点の発明の範囲を満たしていることから、水及びn−ヘキサデカンの接触角及び膜の外観は、いずれも良好であり、膜の強度試験、セロテープ(登録商標)剥離試験及び耐指紋性試験はいずれも合格していた。