【解決手段】X線発生器21と、X線検出器24と、被検査物Wの品質状態を判定する判定部33とを備えた装置であり、X線検出器24からのX線画像データを記憶するX線画像記憶部31と、学習対象品種に関する所定のエネルギ帯を含む異なる複数のエネルギ帯のX線画像データの学習結果を基に他のエネルギ帯のX線画像データを疑似生成する疑似画像生成モデル41を有し、被検査物WのX線画像データを基に疑似画像生成モデル41により他のエネルギ帯での疑似透過画像を作成する画像作成部42と、を備え、判定部33は、被検査物Wの所定エネルギ帯のX線画像データと画像作成部42で作成された他のエネルギ帯での疑似透過画像とに基づき、判定を実行する。
搬送される被検査物を透過する所定エネルギ帯のX線を発生するX線発生器と、前記被検査物を透過したX線を検出し電気信号に変換して透過領域ごとのX線検出信号を出力するX線検出器と、前記X線検出信号に基づいて前記被検査物の品質状態を判定する判定部と、を備えるX線検査装置において、
前記X線検出器からの前記被検査物の前記透過領域ごとのX線検出信号に対応するX線画像データを記憶するX線画像記憶部と、
学習対象品種に関する前記所定のエネルギ帯を含む異なる複数のエネルギ帯のX線画像データの学習結果を基に、前記所定のエネルギ帯のX線画像データに対応する他のエネルギ帯のX線画像データを疑似生成する疑似画像生成モデルを有し、前記被検査物の前記X線画像データを基に、前記疑似画像生成モデルにより前記被検査物の前記他のエネルギ帯での疑似透過画像を作成する画像作成部と、を備え、
前記判定部は、前記X線画像記憶部に記憶された前記被検査物の前記X線画像データと、前記画像作成部で作成された前記他のエネルギ帯での疑似透過画像とに基づき、前記判定を実行することを特徴とするX線検査装置。
前記画像作成部は、前記被検査物の前記他のエネルギ帯での疑似透過画像を、前記所定のエネルギ帯のX線画像データに対してX線透過率の異なる画像として生成することを特徴とする請求項1に記載のX線検査装置。
前記画像作成部は、前記搬送される被検査物が所定の検査区間を通過する度に、前記X線画像記憶部に記憶された前記X線画像データを基に、前記所定エネルギ帯でのX線画像を作成するとともに、前記他のエネルギ帯での前記疑似透過画像を作成することを特徴とする請求項1または2に記載のX線検査装置。
前記判定部は、前記被検査物の前記所定エネルギ帯でのX線画像および前記他のエネルギ帯での疑似透過画像に対して、前記判定部での前記判定のための所定の画像処理を実行する画像処理手段を有していることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一項に記載のX線検査装置。
前記疑似画像生成モデルは、前記学習対象品種に関する前記複数のエネルギ帯のX線画像データから、該複数のエネルギ帯のX線に対する前記被検査物のX線減衰特性の相違を学習したものであることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか一項に記載のX線検査装置。
前記画像作成段階では、前記被検査物が所定の検査区間を通過する間に記憶された前記X線画像データを基に、前記所定エネルギ帯でのX線画像を作成するとともに、該X線画像とはX線透過率の異なる前記他のエネルギ帯での前記疑似透過画像を作成し、
前記判定段階では、前記判定に先立ち、前記被検査物の前記所定エネルギ帯でのX線画像および前記他のエネルギ帯での疑似透過画像に対して、前記判定のための所定の画像処理を実行することを特徴とする請求項6に記載のX線検査方法。
【背景技術】
【0002】
X線により被検査物に要求される品質状態を検査するX線検査装置、特に搬送中の被検査物に照射したX線の所定期間ごとの累積透過量をX線検出器により検出し、透過画像を作成するようにしたX線検査装置が、従前より知られている。
【0003】
また、このようなX線検査装置における検査方法として、X線エネルギが異なる2つの透過画像データを取得し、両透過画像データのサブトラクション(差分処理)を行なうことで、異物検出精度を高めるものが知られている。
【0004】
従来のこの種のX線検査装置およびX線検査方法としては、例えば被検査物を透過したX線を検出する2つのX線検出器のうち片方にX線硬化フィルタを装着し、X線エネルギが異なる2つの透過画像データを取得して、サブトラクション(差分処理)を行なうようにしたものがある(特許文献1参照)。
【0005】
また、2つのX線管の管電流を相違させて両X線管から被検査物に照射するX線の強度を相違させたり2つのX線管の管電圧を変化させてX線の波長に応じた透過力を相違させたりしつつ、2つの検出器で被検査物の透過画像データをそれぞれ検出し、両透過画像データを一画像に合成した上で、その合成画像を縮小することで、合成画像中に残る2つの透過画像の位置ずれを低減するようにしたものがある(特許文献2参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のような従来のX線検査装置およびX線検査方法にあっては、高精度なX線検査を実現しようとすると、複数のエネルギ帯や線質のX線画像を用いてX線検査を行うことが必要になる。
【0008】
しかしながら、そのような高精度なX線検査を実現するために、従来、エネルギ帯(線質)の異なる複数のX線画像を生成する複数のX線センサや、複数のエネルギ帯のX線を発生させるX線源またはX線質変換手段等が必要なことから、検査コストが高くなるばかりか、X線検査装置が大型化してしまうという問題があった。
【0009】
本発明は、上述のような従来の課題を解決すべくなされたものであり、コスト低減が可能で、複数のエネルギ帯のX線画像を用いて高精度なX線検査を実現可能なX線検査装置およびX線検査方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)本発明に係るX線検査装置は、上記目的達成のため、搬送される被検査物を透過する所定エネルギ帯のX線を発生するX線発生器と、前記被検査物を透過したX線を検出し電気信号に変換して透過領域ごとのX線検出信号を出力するX線検出器と、前記X線検出信号に基づいて前記被検査物の品質状態を判定する判定部と、を備えるX線検査装置において、前記X線検出器からの前記被検査物の前記透過領域ごとのX線検出信号に対応するX線画像データを記憶するX線画像記憶部と、学習対象品種に関する前記所定のエネルギ帯を含む異なる複数のエネルギ帯のX線画像データの学習結果を基に、前記所定のエネルギ帯のX線画像データに対応する他のエネルギ帯のX線画像データを疑似生成する疑似画像生成モデルを有し、前記被検査物の前記X線画像データを基に、前記疑似画像生成モデルにより前記被検査物の前記他のエネルギ帯での疑似透過画像を作成する画像作成部と、を備え、前記判定部は、前記X線画像記憶部に記憶された前記被検査物の前記X線画像データと、前記画像作成部で作成された前記他のエネルギ帯での疑似透過画像とに基づき、前記判定を実行することを特徴とする。
【0011】
この構成により、本発明では、エネルギ帯の異なる複数のX線画像を生成するために高価なX線センサやX線源を複数設けたり、X線源を共通化するために高価なX線質変換手段を設けたりする必要がなくなる。したがって、低コストで小型化が図れるX線検査装置となる。しかも、複数のエネルギ帯のX線画像データの学習結果を基に所定のエネルギ帯のX線画像データに対応する他のエネルギ帯のX線画像データを疑似生成するので、各透過領域のX線検出信号に基づくX線画像からエネルギ帯の異なるX線の透過画像を的確に生成でき、それら複数のエネルギ帯のX線画像を用いて高精度なX線検査を実現することが可能となる。
【0012】
(2)本発明において、前記画像作成部は、前記被検査物の前記他のエネルギ帯での疑似透過画像を、前記所定のエネルギ帯のX線画像データに対してX線透過率の異なる画像として生成する構成とすることができる。
【0013】
このような形態で実施すると、被検査物の品種ごとのX線吸収特性に応じてX線透過率が変化するときのその変化の態様を、予め学習しておくことにより的確に把握でき、X線透過率の異なる画像を精度良く疑似生成可能となる。
【0014】
(3)前記画像作成部は、前記搬送される被検査物が所定の検査区間を通過する度に、前記X線画像記憶部に記憶された前記X線画像データを基に、前記所定エネルギ帯でのX線画像を作成するとともに、前記他のエネルギ帯での前記疑似透過画像を作成する構成としてもよい。
【0015】
この場合、搬送中の被検査物が所定の検査区間を通過する間にX線画像記憶部に記憶格納されたX線画像データを基に、その被検査物の所定エネルギ帯でのX線画像と他のエネルギ帯での疑似透過画像とが作成されることになり、所定品種の被検査物を学習対象とした深層学習等の結果を好適にかつ有効に活用しつつ、被検査物ごとに複数のエネルギ帯のX線画像を用いて高精度なX線検査を実現することが可能となる。
【0016】
(4)本発明において、前記判定部は、前記被検査物の前記所定エネルギ帯でのX線画像および前記他のエネルギ帯での疑似透過画像に対して、前記判定部での前記判定のための所定の画像処理を実行する画像処理手段を有しているものであってもよい。
【0017】
このような形態で実施すると、所定の画像処理として、所定エネルギ帯と他のエネルギ帯の画像を差分処理等することで、異物を強調させた画像を得ることができる。
【0018】
(5)本発明において、前記疑似画像生成モデルは、前記学習対象品種に関する前記複数のエネルギ帯のX線画像データから、該複数のエネルギ帯のX線に対する前記被検査物のX線減衰特性の相違を学習したもので構成することができる。
【0019】
このような形態で実施すると、高低に異なる複数のエネルギ帯のX線に対する被検査物の吸収特性の違い等に起因するX線減衰特性の相違を、疑似画像生成モデルに予め学習させておき、X線画像記憶部に記憶されたX線画像データを基に有効な疑似透過画像を迅速に作成できることになる。
【0020】
(6)本発明に係るX線検査方法は、搬送される被検査物を透過する所定エネルギ帯のX線を発生するX線発生段階と、前記被検査物を透過したX線を検出し電気信号に変換して透過領域ごとのX線検出信号を出力するX線検出段階と、前記X線検出信号に基づいて前記被検査物の品質状態を判定する判定段階と、を含むX線検査方法であって、学習対象品種に関する前記所定のエネルギ帯を含む異なる複数のエネルギ帯のX線画像データの学習結果を基に、前記所定のエネルギ帯のX線画像データに対応する他のエネルギ帯のX線画像データを疑似生成可能な疑似画像生成モデルを作成するモデル作成段階と、前記被検査物の前記透過領域ごとのX線検出信号に対応するX線画像データを記憶するX線画像記憶段階と、前記X線画像記憶段階で記憶した前記被検査物の前記X線画像データを基に、前記疑似画像生成モデルにより前記被検査物の前記他のエネルギ帯での疑似透過画像を作成する画像作成段階と、を含み、前記判定段階では、前記X線画像記憶段階で記憶した前記被検査物の前記X線画像データと、前記画像作成段階で作成された前記他のエネルギ帯での疑似透過画像とに基づき、前記判定を実行することを特徴とする。
【0021】
この構成により、本発明方法では、エネルギ帯の異なる複数のX線画像を生成するために高価なX線センサやX線源を使用したり、X線源を共通化するために高価なX線質変換手段を使用したりする必要がなくなり、低コストでのX線検査が可能となる。しかも、複数のエネルギ帯のX線画像データの学習結果を基に所定のエネルギ帯のX線画像データに対応する他のエネルギ帯のX線画像データを疑似生成するので、各透過領域のX線検出信号に基づくX線画像からエネルギ帯の異なるX線の透過画像を的確に生成でき、それら複数のエネルギ帯のX線画像を用いて高精度なX線検査を実現可能となる。
【0022】
(7)本発明方法において、前記画像作成段階では、前記被検査物が所定の検査区間を通過する間に前記X線画像記憶部に記憶された前記X線画像データを基に、前記所定エネルギ帯でのX線画像を作成するとともに、該X線画像とはX線透過率の異なる前記他のエネルギ帯での前記疑似透過画像を作成し、前記判定段階では、前記判定に先立ち、前記被検査物の前記所定エネルギ帯でのX線画像および前記他のエネルギ帯での疑似透過画像に対して、前記判定のための所定の画像処理を実行する構成とすることができる。
【0023】
このような形態で実施すると、所定エネルギ帯と他のエネルギ帯の画像を差分処理または合成して異物を強調させた画像を得ることができるとともに、高低に異なる複数のエネルギ帯のX線に対する被検査物のX線減衰特性の相違を疑似画像生成モデルに予め学習させておき、X線画像記憶部に記憶されたX線画像データを基に、有効な疑似透過画像を迅速に作成可能となる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、コスト低減が可能で、複数のエネルギ帯のX線画像を用いて高精度なX線検査を実現可能なX線検査装置およびX線検査方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0027】
図1および
図2に示すように、本発明の一実施形態に係るX線検査装置は、搬送される被検査物(物品)中に混入した異物を検出するX線異物検出装置として構成されている。また、本装置では、本発明の一実施形態に係るX線検査方法として、X線エネルギが異なる2つのX線画像データを取得することで精度良く異物検出することができるX線検査方法を採用している。
【0028】
まず、本実施形態のX線検査装置の構成について説明する。
【0029】
図1および
図2に示すように、X線検査装置1は、搬送部10、X線検査部20およびそれらの制御部30を具備しており、搬送部10によりコンベア搬送される被検査物Wに対しX線検査部20でX線を照射し、そのX線画像データを基に被検査物Wの品質状態を検査、例えば包装された食品等の被検査物W中への異物C(
図2参照)の混入を検出するようになっている。なお、ここにいう品質状態とは、被検査物Wに製品として要求される品質や物理量の適否等、例えば混入異物の有無、欠品の有無、内容物の形状・サイズ・収納状態等の合否、密度・厚さ・体積もしくは質量の分布等である。
【0030】
搬送部10は、ループ状の搬送ベルト11を複数の搬送ローラ12、13に巻回させ、搬送ベルト11の上走区間11aにより被検査物Wを
図1中の右方向に順次搬送することができるコンベアであり、図示しない筐体に支持されている。
【0031】
X線検査部20は、搬送部10により搬送される被検査物Wを透過する所定エネルギ帯のX線を発生するX線発生器21を有しており、X線発生器21は、公知のX線管22でその管電流および管電圧に応じた波長および強度のX線を発生させるとともに、外囲器23のX線窓部23aを通し、搬送部10の搬送方向に対し直交するファンビーム状のX線を搬送ベルト11上の被検査物Wに照射できようになっている。
【0032】
X線検査部20は、さらに、搬送ベルト11の上走区間11aの直下に配置されたX線検出器24を有している。
【0033】
このX線検出器24は、詳細を図示しないが、例えば蛍光体であるシンチレータとフォトダイオードもしくは電荷結合素子とからなる検出素子を、搬送部10の搬送路の幅員方向にアレイ状に所定ピッチで配設し、所定解像度でのX線検出を行なうようにしたX線ラインセンサカメラで構成されており、X線発生器21からのX線照射位置に対応する搬送方向所定位置に配置されている。
【0034】
すなわち、X線検出器24は、X線発生器21から照射されて被検査物Wを透過したX線を前記検出素子に対応する所定透過領域ごとに検出し、そのX線の透過量に応じた電気信号に変換して、透過領域ごとのX線検出信号を出力できるようになっている。
【0035】
制御部30は、搬送部10での搬送ベルト11による被検査物Wの搬送速度や搬送間隔等を制御する搬送制御手段と、X線検査部20におけるX線照射強度や照射期間を制御したり被検査物Wの搬送速度に応じたX線検出器24のX線ラインセンサでのX線検出周期および各被検査物Wの検出期間等を制御する検査制御手段とを含んでいるが、図示を省略している。
【0036】
制御部30は、また、各被検査物Wの検査期間中にX線検出器24からの所定周期ごとのX線検出信号を取り込んでX線画像を記憶するX線画像記憶部31と、X線画像記憶部31に取り込まれた画像データを基に所定の判定処理のための画像処理を実行する画像処理部32と、その画像処理部32による処理後の画像データを基に所定の判定処理、例えば異物の有無を判定する処理を実行する判定部33と、判定部33での判定結果を表示出力可能な表示部34と、を有している。
【0037】
X線画像記憶部31は、画像入力ユニットであり、例えばX線検出器24の複数の検出素子からのX線検出信号をそれぞれA/D変換し、X線検出器24における検出素子サイズに対応する所定の単位搬送時間ごとに、その検出素子の数n(nは1より大きい整数で、例えば640)個すべての検出素子領域について、その単位時間内の累積の透過量のデータを、例えば0から1023までの階調を表す濃度レベルのデジタルデータとしてメモリに書き込む動作(以下、ライン走査という)を実行するようになっている。
【0038】
また、X線画像記憶部31は、ライン走査が各被検査物Wの検査期間に応じた所定走査回数だけ繰り返されるとき、順次メモリに書き込まれた透過濃度データをX線画像データとして生成し、画像処理部32に出力する機能を発揮するデータ処理プログラムおよび作業メモリ(図示していない)を有している。
【0039】
画像処理部32および判定部33は、例えば図示しないCPU、ROM、RAMおよびI/Oインターフェースを有するマイクロコンピュータと、後述する複数の処理部の各機能を発揮するための制御プログラムをROMと協働して読み出し可能に記憶した補助記憶装置と、タイマー回路等を含んで構成されており、ROM等に格納された制御プログラムに従って、CPUがRAM等との間でデータを授受しながら所定の演算処理を実行するとともに前記制御プログラムを実行するようになっている。
【0040】
図2に示すように、画像処理部32は、X線画像記憶部31から取り込まれる被検査物WごとのX線画像に所定のフィルタ処理を施すフィルタ処理手段32aを有している。このフィルタ処理手段32aは、被検査物WごとのX線画像に異物の輪郭(エッジ)の強調処理を施す特徴抽出フィルタ、例えばSobelフィルタのような微分フィルタで、注目画素の近傍領域に所定の演算式に基づく微分処理等を施して異物のエッジを強調するようになっている。
【0041】
画像処理部32は、さらに被測定物WのデュアルエネルギX線画像を差分処理して混入異物の有無検出を行う異物検出プログラムを有している。この異物検出プログラムは、例えば特開2010−91483号公報に記載のように、デュアルエネルギX線画像としてローエネルギ等価厚画像L(
図2参照)とハイエネルギ等価厚画像Hの等価厚画像ペアを生成する第1の処理と、等価厚画像ペアに対し混入異物の成分と被測定物の成分とに分離するように独立成分分析を適用して分離行列を求める第2の処理と、分離行列の要素である2つの分離ベクトルに基いて差分処理の重みパラメータを求める第3の処理と、重みパラメータを用いた差分処理によって等価厚画像ペアから混入異物の成分画像を分離する第4の処理と、混入異物の成分画像を閾値処理して異物検出する第5の処理と、を実行するものとすることができる。
【0042】
判定部33は、例えば差分処理されたX線画像を2値化することにより被検査物Wの内部に含まれる物体の2値画像を得て、この2値画像から、物体の面積、輪郭長および濃度和等の特微量を算出し、その特微量を所定の判定基準値と比較することで、判定条件を満たす異物が被検査物W内に含まれるか否かを判定するようになっている。
【0043】
図2に示すように、制御部30は、さらに、学習対象品種について予め取得された高低に異なる複数のエネルギ帯の多数のX線画像の画像データを用いて、それら多数の画像間における多数の特徴に共通する複数のエネルギ帯の間での特徴量の違いを学習する学習器で構成され、エネルギ帯と関連付けたモデル化情報を出力可能な生成モデル41と、X線画像記憶部31からの所定画像サイズの画像データに対し、生成モデル41から供給されるエネルギ帯と関連付けたモデル化情報を基に、所定のエネルギ帯のX線画像データを基準に他のエネルギ帯のX線画像データを疑似作成する疑似画像生成部42(画像作成部)と、を有している。
【0044】
生成モデル41には、予め所定の学習対象品種の被検査物Wに対しX線検査部20で照射される所定のエネルギ帯のX線を照射した場合のX線画像と、X線検査部20のX線照射条件を変更したりX線フィルタを使用したりすることで所定のエネルギ帯とは高低に異ならせた他のエネルギ帯のX線を照射した場合のX線画像とを、学習した結果を基に、X線画像記憶部31に記憶された所定のエネルギ帯での被検査物WのX線画像を基準に他のエネルギ帯のX線画像を疑似生成可能なモデル化情報が予め生成されている。
【0045】
具体的には、生成モデル41は、複数のエネルギ帯のエネルギ帯ごとに、同品種の被検査物Wの予めラベル付けされた多数の学習対象のX線画像について、各学習対象のX線画像中にフィルタ(特徴抽出)処理可能な小領域を設定し、その小領域の画像データを1つの特徴量(例えば多階調の画像濃度値)に圧縮する畳み込みの処理を、そのX線画像中で小領域を順次スライドさせながら繰り返してフィルタ内情報が畳み込まれた1層の畳込み層のレイヤ画像を作成し、これを更に圧縮した1層のプーリング層のレイヤ画像を作成する特徴抽出と、隣接するレイヤ画像間のノード(前述の特徴量の値)のランダムな重み付け結合からの組合せの特徴抽出とを、フィルタや移動範囲等を変化させて多層に実行して、領域ベースでなければ抽出し難い特徴量変化を対象画像中の被検査物の位置ずれ等にかかわらず自動抽出可能な多層(n層)のニューラルネットワークを構成している。
【0046】
また、生成モデル41は、被検査物Wの所定の品種ごとにサンプル作成された多数の学習対象画像を基に、ニューラルネットワークの各層の特徴量や隣接層のノード間の特徴量の関係を複数のエネルギ帯の間で比較し、被検査物Wに照射されるX線のエネルギ帯が相違する複数のエネルギ帯間の特徴量の差異、例えばX線の透過量比や透過率比を検出したり、多層のレイヤ画像間の特定のノードの結合の組合せにおける特徴量の重み付け係数あるいは活性化関数等の演算式を特定したりして、所定のエネルギ帯から他のエネルギ帯に変更した場合に得られるX線画像の疑似画像(疑似透過画像)を作成するための前述のモデル化情報として出力できるようになっている。
【0047】
疑似画像生成部42は、生成モデル41における多層のニューラルネットワークに対応する画像生成用のニューラルネットワーク、例えば学習済みの各層の透過率比等のパラメータを用いる敵対的生成ネットワークを有しており、X線画像記憶部31から所定のエネルギ帯の画像データが入力されるとき、その所定エネルギ帯の入力画像と、生成モデル41からの前述のモデル化情報とに基づいて、他のエネルギ帯のX線画像データを疑似生成するとともに、他のエネルギ帯のX線画像について学習済みの活性化関数等の演算式を用いて各層の疑似度をチェックする作業を、その疑似の程度を向上させるように繰り返し実行するようになっている。
【0048】
この疑似画像生成部42は、多層のニューラルネットワークモデルの特徴データを基に所定のエネルギ帯のX線画像データに対してX線透過率の異なる画像として作成した他のエネルギ帯の画像データを、X線画像記憶部31からのX線画像が他のエネルギ帯のX画像であった場合に得られたであろうと推定される疑似画像(多層の各層の画像でも1つの合成画像でも良い)として出力するようになっている。
【0049】
制御部30は、このように高低に異なる複数のエネルギ帯に変化させたときの被検査物Wの複数種のX線画像データ(例えばn行k列のデータ)を基に、被検査物Wに対するそれら複数のエネルギ帯のX線の透過率の違い、すなわち、X線のエネルギ帯の違いによる被検査物Wの吸収特性およびそれに対応するX線減衰特性の違いを、多層式の2次元の畳込みニューラルネットワーク構成の生成モデル41で学習しておき、その学習結果を用いる疑似画像生成部42により、X線画像記憶部31からの所定のX線エネルギ帯の画像データを基に他のX線エネルギ帯の疑似透過画像を作成することができるように構成されている。
【0050】
この疑似画像生成部42からの他のX線エネルギ帯の疑似透過画像は、X線画像記憶部31からの所定のエネルギ帯のX線画像と共に、画像処理部32に取り込まれ、そこで、前述のデュアルエネルギX線画像の差分処理に使用されて等価厚画像ペアから混入異物の成分画像が分離され、混入異物の成分画像を閾値処理して異物検出処理が実行されるようになっている。
【0051】
そして、判定部33は、X線画像記憶部31からのX線画像データと疑似画像生成部42からの疑似透過画像との差分処理画像を2値化することにより、被検査物Wの内部に含まれる異物等の物体の2値画像を取得し、その2値画像から、例えばその物体の面積、輪郭長および濃度和の3種類の特微量を算出し、その特微量を所定の判定基準値と比較することで、異物が被検査物W内に含まれるか否かを判定することができる。
【0052】
このように、本実施形態では、被検査物Wが所定の検査区間を通過する度に、X線画像記憶部31に記憶されるX線画像データを基に所定エネルギ帯でのX線画像が作成されるとともに、他のエネルギ帯での疑似透過画像が併せて作成され、被検査物Wの所定エネルギ帯でのX線画像および他のエネルギ帯での疑似透過画像が差分処理されて、判定部33での判定のための所定の画像処理が実行される。
【0053】
次に、本実施形態のX線検査装置1を用いて実行される本発明の一実施形態に係るX線検査方法について説明するとともに、その作用について説明する。
【0054】
図3は、本実施形態のX線検査装置1の制御部30で実行される本発明の一実施形態に係るX線検査方法における画像処理の概略の処理手順を示している。
【0055】
まず、搬送部10により被検査物W(
図2中では、例えばパック詰めされたソーセージ)が所定の速度および搬送間隔で搬送されるとともに、所定の検査区間を通過する被検査物Wに対して、予め設定された照射強度でX線検査部20からX線が照射される。
【0056】
このとき、検査区間内への被検査物Wの進入が図示しない物品検知センサで検知されると、X線検査部20のX線発生器21から被検査物WにX線が照射され、透過したX線がX線検出器24のライン走査によって所定透過領域ごとに検出されて、そのX線の透過量に応じたX線検出信号が、X線検出器24からX線画像記憶部31に順次取り込まれる(ステップS11)。
【0057】
そして、X線検出器24のライン走査が所定走査回数だけ繰り返される間に、X線画像記憶部31に順次書き込まれた透過量をその各画素の濃度値とする元の画像(以下、元画像という)のX線画像データが生成され、画像処理部32に出力されるとともに、疑似画像生成部42にも出力される。
【0058】
次いで、疑似画像生成部42により、X線画像記憶部31からの所定エネルギ帯の入力画像と生成モデル41からの前述のモデル化情報とに基づいて、他のエネルギ帯のX線画像データが疑似生成される(ステップS12)。
【0059】
次いで、画像処理部32により、X線画像記憶部31からの所定のエネルギ帯のX線画像である第1エネルギ画像Lと、疑似画像生成部42からの他のX線エネルギ帯の疑似透過画像である第2エネルギ画像Hとを用いて、前述のデュアルエネルギX線画像の差分処理が実行されて、混入異物があるときにはその成分画像が分離される(ステップS13)。
【0060】
画像処理部32で差分処理されたX線画像が2値化されて、所定の特微量が算出され、その特微量を所定の判定基準値と比較することで、異物の有無による良否判定が実行される(ステップS14)。
【0061】
このように、本実施形態においては、所定エネルギ帯の元画像を取得するべく、搬送される被検査物Wを透過する所定エネルギ帯のX線を発生させるX線発生段階と、被検査物Wを透過したX線を検出し電気信号に変換して透過領域ごとのX線検出信号を出力するX線検出段階と、X線検出信号に基づいて被検査物Wの品質状態を判定する判定段階と、を含むX線検査方法が実施される。
【0062】
さらに、本実施形態では、被検査物Wの透過領域ごとのX線検出信号に対応するX線画像データを記憶するX線画像記憶段階(前述のステップS11)と、学習対象品種に関する異なる複数のエネルギ帯のX線画像データから、それら複数のエネルギ帯のX線に対する被検査物WのX線減衰特性の相違を学習し、所定のエネルギ帯のX線画像データに対応する他のエネルギ帯のX線画像データを疑似生成可能な疑似画像生成モデル41を作成するモデル作成段階と、X線画像記憶段階で記憶した被検査物WのX線画像データを基に、疑似画像生成モデルにより被検査物Wの他のエネルギ帯での疑似透過画像を作成する画像作成段階(前述のステップS12)と、を含み、判定段階(前述のステップS13、S14)では、X線画像記憶段階で記憶した被検査物WのX線画像データと、画像作成段階で作成された他のエネルギ帯での疑似透過画像とに基づき、異物有無の判定を実行する。
【0063】
このように構成された本実施形態においては、エネルギ帯の異なる複数のX線画像を生成するために高価なX線センサやX線源を使用したり、X線源を共通化するために高価なX線質変換手段を使用したりする必要がなく、低コストでのX線検査が可能となる。しかも、複数のエネルギ帯のX線画像データの学習結果を基に所定のエネルギ帯のX線画像データに対応する他のエネルギ帯のX線画像データを疑似生成できるので、各透過領域のX線検出信号に基づくX線画像からエネルギ帯の異なるX線の透過画像を的確に生成でき、それら複数のエネルギ帯のX線画像を用いてサブトラクション法等による高精度な異物検出が可能なX線検査を実現できることになる。
【0064】
特に、本実施形態では、画像作成段階で、被検査物Wが所定の検査区間を通過する間にX線画像記憶段階で記憶されたX線画像データを基に、所定エネルギ帯でのX線画像を作成するとともに、該X線画像とはX線透過率の異なる他のエネルギ帯での疑似透過画像を作成し、判定段階では、判定に先立ち、被検査物の所定エネルギ帯でのX線画像および他のエネルギ帯での疑似透過画像に対して、判定のための所定の画像処理を実行することができる。
【0065】
したがって、所定エネルギ帯と他のエネルギ帯の画像を差分処理または合成して異物を強調させた画像を得ることができるとともに、高低に異なる複数のエネルギ帯のX線に対する被検査物WのX線減衰特性の相違を疑似画像生成モデルに予め学習させておき、X線画像記憶段階で記憶済みのX線画像データを基に、有効な疑似透過画像を迅速に作成可能となる。
【0066】
以上のように、本実施形態においては、コスト低減が可能で、複数のエネルギ帯のX線画像を用いて高精度なX線検査を実現可能なX線検査装置およびX線検査方法を提供することができる。
【0067】
なお、上述の一実施形態においては、X線検査装置1をX線異物検出装置とし、判定部33での判定のための画像処理部32での画像処理をエネルギサブトラクション法による2つのエネルギ帯のX線画像の差分処理としたが、本発明は、X線異物検出装置以外のX線検出装置にも適用可能であるし、デュアルエネルギ検出方式でなくマルチエナジーX線検出方式の装置にも適用可能である。検査の内容に応じて画像処理部32での画像処理を従来知られた他の画像処理に置換し得ることは、いうまでもない。
【0068】
また、本発明にいう疑似透過画像を作成する画像作成部は、AI(人工知能)を用いた多層式のニューラルネットワーク構成の学習器や画像生成モデルを使用するものとしたが、被検査物の品種や搬送形態、検査項目等に応じて、学習内容を追加・変更したり画像処理に用いる画像の種別を増減変更したりしてもよいことは勿論である。
【0069】
以上説明したように、本発明は、コスト低減が可能で、複数のエネルギ帯のX線画像を用いて高精度なX線検査を実現可能なX線検査装置およびX線検査方法を提供できるものである。かかる本発明は、デュアルもしくはマルチエナジーのX線検出方式を採用するX線検査装置およびX線検査方法全般に有用である。