特開2021-148556(P2021-148556A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特開2021-148556磁歪式トルクセンサー用シャフトおよびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-148556(P2021-148556A)
(43)【公開日】2021年9月27日
(54)【発明の名称】磁歪式トルクセンサー用シャフトおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   G01L 3/10 20060101AFI20210830BHJP
【FI】
   G01L3/10 301D
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2020-47748(P2020-47748)
(22)【出願日】2020年3月18日
(71)【出願人】
【識別番号】000120249
【氏名又は名称】臼井国際産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123869
【弁理士】
【氏名又は名称】押田 良隆
(72)【発明者】
【氏名】近藤 啓明
(72)【発明者】
【氏名】福留 尚寿
(57)【要約】
【課題】 加工精度および品質の安定性に優れた磁歪式トルクセンサー用シャフトおよびその好ましい製造方法の提供。
【解決手段】 レーザ照射により粗面加工処理された金属製部材からなる基材表面に、溶射により形成した磁歪特性を有するアモルファス溶射被膜を有する磁歪式トルクセンサー用シャフトであって、アモルファス溶射前の粗面加工処理と溶射後のパターン成形処理をレーザ照射により行うことを特徴とする。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シャフトの表面にトルク検出用の磁歪部を有する磁歪式トルクセンサー用シャフトであって、レーザ照射により粗面加工処理された金属製部材からなる基材表面に、溶射により形成した磁歪特性を有するアモルファス溶射被膜を有することを特徴とする磁歪式トルクセンサー用シャフト。
【請求項2】
シャフトの表面にトルク検出用の磁歪部を有する磁歪式トルクセンサー用シャフトの製造方法であって、アモルファス溶射前の粗面加工処理をレーザ照射により行い、前記レーザ照射により粗面加工処理された金属製部材からなる基材表面にアモルファス溶射を施し、前記アモルファス溶射後のパターン成形処理を前記と同様のレーザ照射により行うことを特徴とする磁歪式トルクセンサー用シャフトの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シャフト(回転軸)の表面にトルク検出用の磁歪部を有する磁歪式トルクセンサー用シャフトおよびその磁歪式トルクセンサー用シャフトの製造方法に係り、より詳しくは基材(アルミニウム、銅、炭素鋼およびステンレス鋼等の金属材)の表面に磁歪特性の優れたアモルファス溶射被膜を有する高品質の磁歪式トルクセンサー用シャフトを得ることができる技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
磁歪部を有するシャフトを用いてトルクを検出するトルクセンサーは、一般的な構造を図4に示すように、トルクを受けるシャフト(トルクセンサーシャフト)11が軸受16を介してハウジング17に支持されており、そのシャフト11の一部表面において全周(360度)に磁歪部11V・11Wが形成されている。又、ハウジング17の内側で、磁歪部11V・11Wの各外周に近い位置にコイルX・Yが配置されている。磁歪部11V・11Wとしては、シャフト11の周面に磁性材料が、図示の通り軸方向に対して逆向きに傾斜した螺旋状(いわゆるシェブロン状)の縞模様に形成される(つまり、磁性体の皮膜や突出部を螺旋状の複数の線として形成される)のが一般的である。ハウジング17には、図示のようにアンプ基板18や信号線用のコネクタ19なども付設される。
即ち、図4に示す一般的なトルクセンサーは、シャフト11にトルクが作用すると、磁歪部11V・11Wに引張応力と圧縮応力とがそれぞれ発生し、その結果、相反する磁歪効果によって各磁歪部11V・11Wの透磁率がそれぞれ増加・減少することにより、この透磁率の変化に基づいてコイルX・Yに誘導起電力が発生し、直流変換や両者の差動増幅を行うことにより、トルクの大きさに比例した電圧出力が得られる構造となっている(特許文献1、特許文献2参照)。
【0003】
上記構成のトルクセンサーの上記シャフトの表面に形成される磁歪部11V・11Wが金属ガラス(アモルファス合金)の皮膜の場合、当該皮膜は、火炎を急速冷却する方式の溶射によってシャフトの表面に形成される。火炎を急速冷却する溶射とは、金属粉末を含む火炎を噴射して金属粉末を溶融させるとともに、当該火炎を冷却ガスによって冷却する方式の溶射である。そのアモルファス溶射皮膜成形の主な工程は、溶射前の粗面加工処理(ショットブラスト)、アモルファス溶射、マスキング(シート貼り付け)、パターン成形(ショットブラスト)、マスキングシート剥がし工程からなり、各工程の処理を経て前記縞模様の磁歪部が得られる。
【0004】
しかしながら、上記した特許文献1、2に開示されているトルクセンサーおよびその製造技術には、以下に記載する問題がある。
【0005】
前記した従来の磁歪式トルクセンサー用シャフトの製造方法における溶射前の粗面加工処理は、アルミ粉末によるショットブラストで行われるが一般的である。このアルミ粉末を用いたショットブラスト装置は、支持フレーム上に取り付けられた昇降用モータによって昇降させる昇降ロッドの先端部にブラストガンが取付けられ、そのブラストガンによって軸状ワーク(シャフト)の磁歪部形成部分にアルミ粉末によるショットブラストをかける方式であり、アモルファス溶射に先立って軸状ワークの磁歪部形成部分に微細な凹凸を形成する目的で使用される。
しかし、このアルミ粉末によるショットブラストには、以下に記載する(1)〜(3)の問題点がある。
(1).溶射前の粗面加工処理(前処理)の場合、基材表面(シャフトの表面)を粗面にするのに相当の時間を要する。
(2).ショットブラストによる粗面加工処理の場合、ショットブラストガンによるショットブラストの照射状態で基材表面の仕上がりにバラツキが生じ、精度よく安定した表面性状が得られにくい。
(3).アルミ粉末は繰り返しの使用により摩耗して所定の粒径より小さくなると、ショットブラスト機能が失われて廃棄処理されることとなり、不経済である。
【0006】
さらに、特許文献1、2に開示されている技術は、溶射前の粗面加工処理(前処理)のみならず溶射後のパターン成形処理(後処理)においてもショットブラストを行うこととしており、その際マスキングシート貼付があることから、マスキングシートの剥離作業および剥離後の廃棄シートの処理等に相当の時間を必要とすることになる。それにともないショットブラスト装置やマスキングシートの貼り付け装置および剥離装置も必要となり、さらに消耗品であるアルミ粉末および廃棄物処理費用なども高くつくことになる。このように磁歪式トルクセンサー用シャフトの製造コストは高くつくのみならず、加工精度および品質の安定性に優れた磁歪式トルクセンサー用シャフトを低コストで製造することは容易ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2016−217898号公報
【特許文献2】特開2019−86554号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前記した従来技術の問題点に鑑みてなされたもので、加工精度および品質の安定性に優れた磁歪式トルクセンサー用シャフトおよび該磁歪式トルクセンサー用シャフトを低コストで製造することができる方法を提案しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、加工精度および品質の安定性に優れた磁歪式トルクセンサー用シャフトおよび該磁歪式トルクセンサー用シャフトを低コストで製造し得る手段ついて種々研究を重ねた結果、アモルファス溶射前の粗面加工処理(前処理)およびアモルファス溶射後のパターン成形処理(後処理)として、従来のショットブラスト方式に替えて、レーザ照射方式を採用することにより、加工精度および品質の安定性に優れた磁歪式トルクセンサー用シャフトを低コストで製造できることを見出した。
即ち、本発明に係る磁歪式トルクセンサー用シャフトは、シャフト(回転軸)の表面にトルク検出用の磁歪部を有する磁歪式トルクセンサー用シャフトであって、レーザ照射により粗面加工処理された金属製部材からなる基材表面に、溶射により形成した磁歪特性を有するアモルファス溶射被膜を有することを特徴とするものである。
又、本発明に係る磁歪式トルクセンサー用シャフトの製造方法は、シャフト(回転軸)の表面にトルク検出用の磁歪部を有する磁歪式トルクセンサー用シャフトの製造方法であって、アモルファス溶射前の粗面加工処理をレーザ照射により行い、前記レーザ照射により粗面加工処理された金属製部材からなる基材表面にアモルファス溶射を施し、前記アモルファス溶射後のパターン成形処理を前記と同様のレーザ照射により行うことを特徴とするものである。
【0010】
なお、本発明における基材としては、例えばアルミニウム、銅、炭素鋼およびステンレス鋼等の金属材を用いることができる。
【0011】
本発明において、アモルファス溶射前の粗面加工処理(前処理)およびアモルファス溶射後のパターン成形処理(後処理)として、従来のアルミ粉末によるショットブラスト方式に替えて、レーザ照射方式を採用したのは、以下に記載する理由による。
即ち、従来のアルミ粉末によるショットブラストでは溶射前の粗面加工処理(前処理)、即ち、基材表面に対するアモルファス溶射被膜の形成に必要な密着性(アンカー効果)を向上させるための表面処理に相当の時間を要するのみならず、ショットブラストガンによるショットブラストの照射状態で基材表面の仕上がりにバラツキが生じ、精度よく安定した表面性状が得られにくいのに対し、レーザ照射方式の場合は、レーザ出力や移動速度等を調節するだけで基材表面に適度な粗面を短時間で形成することができる上、基材表面の仕上がりが良好で精度よく安定した表面性状が得られるという利点があること、又、アルミ粉末によるショットブラストでは、アモルファス溶射後のパターン成形処理(後処理)において、マスキングシートの貼り付け、剥離作業および剥離後の廃棄シートの処理に多くの手間と時間を要すること、アルミ粉末は繰り返しの使用により摩耗して所定の粒径より小さくなるとショットブラスト機能が失われて廃棄処理されることとなり、前記シートと合わせ、廃棄物が発生し不経済であること、ショットブラスト装置やマスキングシート貼り付け装置および剥離装置が必要で、設備費が高くつく等の問題点があるのに対し、レーザ照射方式はマスキングシートが不要となることにより、マスキングシート費の削減、ショットブラスト装置やマスキングシート貼り付け装置および剥離装置の不要による設備の簡便化、マスキングシートの貼り付けおよび剥離作業の省略、後処理時間の短縮と廃棄物削減等がはかられ、加工精度および品質の安定性に優れた磁歪式トルクセンサー用シャフトを低コストで製造することができるためである。また、上記の多くの効果を奏する本発明は、国連が主導する持続可能な開発目標(SDGs)の目標12「持続可能な生産消費形態を確保する」にも貢献することが可能となる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の磁歪式トルクセンサー用シャフトは、溶射前のレーザ照射方式による粗面加工処理により精度よく安定した表面性状を有する基材の表面に磁歪特性の優れたアモルファス溶射被膜を有するので、ショットブラストにより粗面加工処理された従来の磁歪式トルクセンサー用シャフトに比べ品質の安定性に優れた特徴を有する。又、本発明の磁歪式トルクセンサー用シャフトの製造方法によれば、溶射前の粗面加工処理にレーザ照射方式を採用したことによりマスキングシート費の削減、ショットブラスト装置やマスキングシート貼り付け装置および剥離装置の不要による設備の簡便化、マスキングシートの貼り付けおよび剥離作業の省略、後処理時間の短縮等がはかられることにより、加工精度および品質の安定性に優れた磁歪式トルクセンサー用シャフトを低コストで製造することができるという優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明に係る磁歪式トルクセンサー用シャフト製造方法の一実施例の主たる処理工程を示すフローチャートである。
図2】本発明と従来の磁歪式トルクセンサー用シャフトの製造方法における基材表面の粗面加工処理(前処理工程)後の表面の状態を示す加工サンプルの写真で、(A)は本発明のレーザ照射による基材表面の粗面加工処理後の表面状態を、(B)は従来のショットブラストによる粗面加工処理後の表面状態をそれぞれ示す。
図3】本発明のレーザ照射による被膜除去実施後(後処理工程後)の磁歪式トルクセンサー用シャフトの外観の一部を拡大して示す概略図である。
図4】本発明の一実施例である磁歪式トルクセンサー用シャフトの一般的な構造を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の磁歪式トルクセンサー用シャフトの製造方法は、図1に本発明の好適な実施の形態に係る磁歪式トルクセンサー用シャフトの製造方法のフローチャートで示すように、基材(アルミニウム、銅、炭素鋼およびステンレス鋼等の金属材)の表面に施すアモルファス溶射前の粗面加工処理(前処理工程)を従来のアルミ粉末によるショットブラスト方式に替えて、レーザ照射方式を採用して基材表面に対するアモルファス溶射被膜の形成に必要な密着性(アンカー効果)を向上させる溶射前の粗面加工処理と、前記粗面加工処理を終えた基材の表面に磁性材料であるアモルファスを溶射して磁歪部を形成するアモルファス溶射工程と、前記アモルファス溶射工程で形成したアモルファス溶射被膜をレーザ照射により基材より除去し、所望の被膜パターンを形成するパターン成形処理工程(後処理工程)とからなっている。
【0015】
即ち、本発明の磁歪式トルクセンサー用シャフトの製造方法は、加工精度および品質の安定性に優れた磁歪式トルクセンサー用シャフトと、該磁歪式トルクセンサー用シャフトを低コストで製造するため、アモルファス溶射前の粗面加工処理(前処理)およびアモルファス溶射後のパターン成形処理(後処理)として、従来のアルミ粉末によるショットブラスト方式に替えて、レーザ照射方式を採用したものである。このレーザ照射方式によれば、アモルファス溶射前の粗面加工処理(前処理)では、基材表面に対するアモルファス溶射被膜の形成に必要な密着性(アンカー効果)を向上させることが可能であるのみならず、レーザ出力や移動速度等を調節するだけで基材表面に適度な粗面を短時間で形成することができる上、基材表面の仕上がりが良好で精度よく安定した表面性状を得ることができる。特に、基材表面の仕上がり状態(粗さ)は図2に示す加工サンプル写真(A)(B)で明らかなように、本発明のレーザ照射による粗面加工処理後の表面状態(写真A)は、従来のショットブラストによる粗面加工処理後の表面状態(写真B)に比べ、基材表面の仕上がりが良好で極めて再現性および均一性の高い表面性状であることがわかる。
なお、図2に示す表面状態を示す加工サンプル写真(A)(B)のそれぞれの表面粗さ(規定の粗さ測定方法による)は、以下に示す通りである。

(1)レーザ照射処理による加工サンプル写真(A)
Ra(幅方向の粗さ) :9.611μm
Ra(長さ方向の粗さ):9.426μm
(2)ショットブラストによる加工サンプル写真(B)
Ra(幅方向の粗さ) :2.467μm
Ra(長さ方向の粗さ):2.683μm
【0016】
又、本発明の磁歪式トルクセンサー用シャフトの製造方法の後処理工程では、パターン成形処理工程において前記アモルファス溶射被膜をレーザ照射により基材より除去し、所望の被膜パターン(模様)を形成する。その際は、レーザ照射によるパターン形成の進行に応じて、当該基材の周角度の相当量をコントロールしながらパターン形成を進めていく。この処理により所望の被膜パターン(模様)が形成された磁歪式トルクセンサー用シャフトが得られる。図3はその所望の被膜パターン(模様)が形成された磁歪式トルクセンサー用シャフトの外観の一部を例示したもので、1は磁歪式トルクセンサー用シャフト、2はスリット、3は磁歪部をそれぞれ示す。
【0017】
前記したように、本発明の磁歪式トルクセンサー用シャフトの製造方法によれば、溶射前の粗面加工処理(前処理)およびアモルファス溶射後のパターン成形処理(後処理)にレーザ照射方式を採用したことにより、レーザ出力や移動速度等を調節するだけで基材表面に適度な粗面を短時間で形成することができる上、基材表面の仕上がりが良好で精度よく安定した表面性状が得られること、又、パターン成形処理(後処理)においても、マスキングシートが不要となることによりマスキングシート費の削減、マスキングシート貼り付け装置および剥離装置の不要による設備の簡便化、マスキングシートの貼り付けおよび剥離作業の省略、後処理時間の短縮等がはかられ、加工精度および品質の安定性に優れた磁歪式トルクセンサー用シャフトを低コストで製造することができるなどの優れた効果を奏する。
なお、本発明の前処理レーザ加工は溶射により磁歪部を基材表面に形成する場合に限らず、溶射以外の他の磁歪部形成方法による場合にも適合可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0018】
1 磁歪式トルクセンサー用シャフト
2 スリット
3 磁歪部
図1
図2
図3
図4