(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-148761(P2021-148761A)
(43)【公開日】2021年9月27日
(54)【発明の名称】電離層じょう乱の観測装置
(51)【国際特許分類】
G01W 1/12 20060101AFI20210830BHJP
【FI】
G01W1/12 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】書面
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2020-69351(P2020-69351)
(22)【出願日】2020年3月19日
(71)【出願人】
【識別番号】520123630
【氏名又は名称】平山 良彦
(72)【発明者】
【氏名】平山 良彦
(57)【要約】 (修正有)
【課題】電離層じょう乱の観測方法を提供する。
【解決手段】電子式カメラと太陽の位置を投影する手段を備える測定部とコンピューター301及び解析用ソフトウエアを備える観測装置で、太陽の軌跡を撮影し、軌道を分析する。電離層じょう乱が起きている範囲を太陽光が通過することで屈折量が変化し、太陽の見える方角がわずかに変化する。この変化の時刻と変化が起きている時間の長さと変化量から幾何学的方法により、電離層じょう乱の中心位置と範囲を計算する。この計算値を用いて震源地の位置と地震の規模を推定し、地震の短期的な発生予測を行う。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも電子式カメラと太陽の位置を投影する手段を備える測定部と
コンピューター及び解析用ソフトウエアを備え、
太陽の軌跡を撮影し、軌道を分析することで
電離層じょう乱の中心位置と範囲を測定する事を特徴とする
電離層じょう乱の観測装置
【請求項2】
特許請求の範囲の請求項1に示す電離層じょう乱の観測装置を
離れた地点で複数セットを運用し、
複数の電離層じょう乱の観測装置の分析データをインターネット上のサーバー上に集めて分析するシステムを備え、
測定範囲外の地域の観測データを他の観測地点のデータで補い、天候条件による欠測値を他の観測地点のデータで補完し、
更に、複数地点の情報を比較分析する処理を行う事を特徴とする
電離層じょう乱の観測装置
【請求項3】
特許請求の範囲の請求項1に示す電離層じょう乱の観測装置の測定部が少なくとも暗箱とスクリーンを備える写真機の構造である事を特徴とする
電離層じょう乱の観測装置
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は地震前兆現象として地震の一週間程前から起きる電離層じょう乱を観測・分析するシステムを極めて低価格で簡単に実現する観測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
地震前兆現象を観測する方法として主に3つの方法がある。
(1)電離層じょう乱を観測する方法:近年発見された現象で大きな地震の一週間程前から地震後に局地的に震源地周辺の電離層の状態に変化が起こる。電離層の変化を電波や光の変化で地震発生を予測する。特徴は発生日を絞れる、広範囲をカバーするがピンポイントの予報はできない。
【0003】
(2)地電流を測定する方法(VAN法):地震の前兆現象として、地面に生ずる応力で岩石等に圧電効果による電圧が生じ、流れる地電流の増加を観測して地震前兆を検知する。特徴は発生日を絞れる、ピンポイントの測定が可能で直下型地震の予測に適する。しかし、海洋が震源地の場合および広範囲は測れない。
【0004】
(3)マイクロクラック電界変動観測:地面の応力で岩石のひび割れ等により地震発生1週間程前に現れる特殊な波形を持つ微小パルスを検出する。特徴は発生日を絞れるが、広範囲は測れない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
電離層じょう乱の観測の実現方法は
▲1▼放送局の電波の電離層反射による遅延時間を検出する方法
▲2▼各GPS衛星からの電波の位相のずれを分析する方法
などがあるが、大がかりな設備が必要で費用が掛かり、大学や一部の企業でしか実施できなかった。特に上記▲1▼は複数の放送局と受信設備に囲まれた地域以外(例えば海洋)では電離層じょう乱の位置等の観測が難しく、更にナノ秒単位の遅延を検出する必要があり高価な原子時計などの設備が必要であった。上記▲2▼は軍事衛星のため故意に精度を下げることがあり、時々、過大な誤差や欠測値が生ずる課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
少なくとも電子式カメラと太陽の位置を投影する手段を備える測定部と
コンピューター及び解析用ソフトウエアを備え、太陽の軌跡を撮影し、軌道を分析する。電離層じょう乱が起きている範囲を太陽光が通過することで屈折量が変化し、太陽の見える方角がわずかに変化する。この変化した方向および時刻、変化が起きている時間の長さ、変化量から幾何学的方法により、電離層じょう乱の中心位置と範囲を計算する。
【0007】
更に観測装置を離れた地点で複数セットを運用し、各々の分析データをサーバー上に集めて分析するシステムを備え、測定範囲外の地域の観測データを他の観測地点のデータで補い、天候条件による欠測値を他の観測地点のデータで補完する。更に、複数地点の情報を比較分析する処理を行う事で測定精度を向上しノイズによる誤検出を排除する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の観測装置は低価格で簡単に実現できるので、個人でも容易に観測を行うことが出来る。例えば、雑誌の付録として段ボール製の暗箱、およびソフトウエアのダウンロード先や使い方を記載した書籍として配布し、利用者側でパソコンとwebカメラを用意して組み立てれば観測を始めることが出来る。
【0009】
更に観測装置を離れた地点で複数セットを運用し、各々の分析データをサーバー上に集めることで電離層じょう乱が起きていない地域でも、電離層じょう乱が起きている他の地域のデータを解析することで世界規模の電離層じょう乱の観測が可能になる。また本方式の弱点である雨天や曇天時における欠測値を他の観測地点のデータで補完できる。また、雲の移動などにより生ずるノイズを複数観測点のデータを比較分析することでノイズによる誤検出を排除できる。
これらの処理によって高い測定精度を実現できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[
図1]は電離層じょう乱による光の屈折の説明図であり、10は地球、11は電離層D層、12は電離層じょう乱を示し電離層D層以下の高度に形成され、中央部(震源地付近)の電子密度が高くなっている様子を表す。13は電離層じょう乱を通過しない太陽光、14は電離層じょう乱を通過した太陽光を示す。
電離媒質中に光や電磁波が入射すると、その電界により電子が動かされ、見かけの屈折率nは式の様になる。
【0013】
電子密度Nの変化が大きいほど屈折率が大きく変化し、電離層の厚みの変化が大きい程、光は曲がる。電離層じょう乱は中央部(震源地付近)の電子密度が高く、周辺部は徐々に電子密度が低くレンズ状になっている。この結果、電離層じょう乱を通過した太陽光14の方向が実際の方向と変わり、太陽の見かけの高さや位置に変位が生ずる。この様に、太陽の見かけの位置を観測することで観測地点に及ぶ電離層じょう乱の状態を観測することが出来る。なお、太陽フレア、コロナ・ホール、フィラメント消失などにより地球規模で生ずる電離層じょう乱は、震源地付近で局所的に起きる電離層じょう乱の観測には殆ど影響が無い。
【0014】
[
図2]は観測データと幾何学的な分析方法の説明図である。
100は変位がないときの太陽の軌跡の中心線、101は変位最大時刻t2の太陽の軌跡、102は約10秒ごとに記録した太陽の軌跡である。
電離層じょう乱の中心から離れて電子密度が下がり屈折率が周辺と同じになるまでの範囲を電離層じょう乱の範囲と仮定する。この電離層じょう乱の範囲について中心から周辺までの距離を電離層じょう乱の半径rとする。
【0015】
[
図2]において
t2:変位量の最大となる時刻
L:変位が継続した時間の長さに相応する経度差による地表の距離(これは、変位の開始時刻t1と終了時刻t3の間に地球の自転により生ずる観測地点と同じ緯度での地表の移動距離であり
図2の図形の弦の長さに相当する。)
s:変位の最大距離(カメラが捕らえた最大変位時の画素数を元に計算した最大変位距離)
とすると
C1:電離層じょう乱の中心点(震源地付近)
r:電離層じょう乱の半径(地震規模を計算する関数の変数となる)
d:電離層じょう乱の中心から赤道に下ろした垂線が測定点の緯度線に交わる線分の距離(震源地の緯度を計算する関数の変数となる)
については三平方の定理より
【0016】
【数2】
【数3】
となる。この様にしてr:電離層じょう乱の半径、およびd:電離層じょう乱の中心C1から観測点までの緯度差に相当する距離を計算することが出来る。
【0017】
簡易的な推定方法であるが、これらの計算値から予想される地震について次の様に推定することが可能である。
▲1▼震源地の経度(東経):変位量の最大となる時刻t2に南中する経度
▲2▼震源地の緯度(北緯):(観測地点の北緯)+(距離dから求めた観測点から震源地までの緯度の差)
▲3▼地震の規模:電離層じょう乱の半径rを変数とする対数の関数
この様にして近日中に想定される地震の震源地と地震の規模を推定することが出来る。
【実施例】
【0018】
[
図3]は実施例1であり地震前兆現象の観測装置の構成図である。300は測定部内のハイビジョン対応のwebカメラ、301は自動解析コンピューター、302は針穴写真機の測定部を構成する暗箱、303は太陽の高度に合わせた複数の針穴であり、高度に合う一つを除いて塞いで遮光している。304は、針穴写真機が投影した太陽の倒立像を映し出すスクリーンであり、webカメラ300が撮影をおこなう。測定時間範囲内に於いて倒立像がwebカメラ300の画角内に収まるように暗箱302の向きと針穴303を調整している。自動解析コンピューター301は約10秒ごとに太陽の倒立像の中心位置を計算して太陽の軌跡として記録する。
【0019】
[
図4]は実施例2であり地震前兆現象の観測装置の構成図である。400は測定部のハイビジョン対応のwebカメラ、401は自動解析コンピューター、402は測定部の指標、403は測定部のスクリーン、404は投影された指標の影であり、webカメラ400が撮影をおこなう。自動解析コンピューター401は約10秒ごとに指標の影を認識して、その位置を太陽の軌跡として記録する。
【0020】
[
図5]は地震前兆観測システム試作機のシステム図であり、自動解析コンピューターのソフトウエアの機能を示す。計算した太陽の軌跡と観測時刻を軌跡データとしてファイルに保存し、太陽の軌跡の推移を分析して変位を検出すると震源地の経度(東経)、震源地の緯度(北緯)、地震の規模を計算し、予報データとしてファイルに保存する。これらのデータを定期的にインターネット上のサーバーのデータベースにアップロードする。
【0021】
自動解析コンピューターは、観測時間外に離れた地点の複数の観測装置からサーバー上に登録された軌跡データと予報データを保存したデータベースにアクセスし、分析する。
【0022】
比較的近距離の観測地点のデータから雨天や曇天時など天候条件による欠測値を他の観測地点のデータで補完する。また、雲の移動や航空機など太陽の光を遮る物の通過等によるノイズや、温度(密度)の異なる風や気団の流入による屈折が生ずると太陽の中心位置の変位として誤検出する場合がある。この対策として複数地点の情報を比較分析する処理(異常値除外後の論理積)を行う事でノイズによる誤検出を排除し、測定精度を向上する。観測地点が多いほど観測精度は高くなる。
【0023】
本発明のシステムは電離層じょう乱が起きている範囲を太陽光が通過することで屈折量が変化し、太陽の見える方角がわずかに変化する事を利用して観測している。このため、震源地が遠い場合や地震規模が小さい場合は観測地点に電離層じょう乱が及ばす地震前兆現象の観測が出来ない。これを補うため、電離層じょう乱が起きている比較的遠距離の観測地点のデータを解析し処理(論理和)することで観測範囲を広げることが出来る。世界中に観測地点があれば世界規模の電離層じょう乱の観測が可能になる。
【0024】
これらの処理によって高い測定精度を実現したデータを広域予報データとしてとしてインターネット上のサーバーに登録する。これを他の観測地点のオペレータ等が閲覧することで地震前兆現象観測データを世界中で共有することが出来る。
【産業上の利用可能性】
【0025】
地震の発生予測として普及している過去の地震の発生周期から次回の発生時期を推定する方法等では発生日は特定できなかった。このため、リスクマネジメント上は長期的な対策だけとなり短期的な損害の拡大防止対策が十分に取れなかった。本件の発明により1週間程度前から注意報を出すことで鉄道・高速道路等の減速運転や原発の計画運休等、リスクマネジメントの幅を広げる事が出来る。また災害による社会的な損失を軽減することが出来る。