【課題】橋梁に使用されている被覆付きの密閉式ワイヤロープの点検方法であって、作業の効率化が図られ、交通規制の必要性を低減することが可能な密閉式ワイヤロープの点検方法の提供。
【解決手段】橋梁に使用されている被覆付きの密閉式ワイヤロープ10の点検方法であって、密閉式ワイヤロープ10の被覆に点検用の貫通穴H1を形成するステップと、点検用の貫通穴H1から、密閉式ワイヤロープ10の被覆の内側に対する加圧若しくは減圧を行うステップと、当該加圧若しくは減圧の状態が維持されるか否かによって、密閉式ワイヤロープ10の被覆に貫通傷があるか否かを判別するステップと、を有することを特徴とする密閉式ワイヤロープの点検方法。
前記点検用の貫通穴を、前記橋梁に設置された前記密閉式ワイヤロープの低部側に形成することを特徴とする請求項1から4の何れかに記載の密閉式ワイヤロープの点検方法。
前記点検用の貫通穴を、前記橋梁に設置された前記密閉式ワイヤロープの低部側に形成し、当該点検用の貫通穴から、吸気を行うことによって、前記密閉式ワイヤロープの被覆の内側に対する減圧を行うことを特徴とする請求項1から3の何れかに記載の密閉式ワイヤロープの点検方法。
前記密閉式ワイヤロープの低部側に形成した前記点検用の貫通穴から、前記密閉式ワイヤロープの被覆の内側に溜まった水の水抜きを行うことを特徴とする請求項5又は6に記載の密閉式ワイヤロープの点検方法。
前記密閉式ワイヤロープの低部側に形成した前記点検用の貫通穴から、水より比重の重い流体を注入することによって、前記点検用の貫通穴より低い位置に溜まっている水の水位を上昇させて前記水抜きを行うことを特徴とする請求項7に記載の密閉式ワイヤロープの点検方法。
前記点検用の貫通穴を、前記密閉式ワイヤロープの断面視において、その上端部を0°、下端部を180°とした場合に、90°から170°の範囲となる箇所に形成することを特徴とする請求項1から8の何れかに記載の密閉式ワイヤロープの点検方法。
前記密閉式ワイヤロープの被覆に貫通傷が見つかった場合に、当該貫通傷の位置を探索するステップを有することを特徴とする請求項1から9の何れかに記載の密閉式ワイヤロープの点検方法。
前記点検用の貫通穴及び前記給排気用の貫通穴を塞ぐステップを、前記点検用の貫通穴及び前記給排気用の貫通穴に、貫通穴を開閉可能な開閉部材を取り付けることにより行うことを特徴とする請求項13又は14に記載の密閉式ワイヤロープの補修方法。
前記給排気用の貫通穴を、前記橋梁に設置された前記密閉式ワイヤロープの高部側に形成することを特徴とする請求項13から15の何れかに記載の密閉式ワイヤロープの補修方法。
前記給排気用の貫通穴を、前記密閉式ワイヤロープの断面視において、その上端部を0°、下端部を180°とした場合に、90°から170°の範囲となる箇所に形成することを特徴とする請求項13から16の何れかに記載の密閉式ワイヤロープの補修方法。
請求項1から12の何れかに記載の密閉式ワイヤロープの点検方法が使用される密閉式ワイヤロープであって、当該密閉式ワイヤロープの被覆に、前記点検用の貫通穴が予め形成されており、当該点検用の貫通穴を開閉可能な開閉部材を備えることを特徴とする密閉式ワイヤロープ。
請求項13から17の何れかに記載の密閉式ワイヤロープの補修方法が使用される密閉式ワイヤロープであって、当該密閉式ワイヤロープの被覆に、前記給排気用の貫通穴が予め形成されており、当該給排気用の貫通穴を開閉可能な開閉部材を備えることを特徴とする密閉式ワイヤロープ。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
橋梁に使用するワイヤロープとして、腐食防止等の観点から、鋼線やワイヤロープに被覆がされて密閉されている密閉式ワイヤロープが用いられている。このような密閉式ワイヤロープは、基本的にはメンテナンスフリーなものであるが、例えば落雷時の熱によって被覆が傷つく(小さい穴が空く)ような場合もあり得、一定の期間の経過後などにおいて、被膜の状態(密閉状態)や、内部の鋼線やワイヤロープの状態(水分の浸入の有無等)を点検したいという要請がある。特に外観検査では発見が困難な小さな穴(貫通傷)の有無をなるべく簡易に検知することができる技術が求められている。
特許文献1に記載の技術は、予めリークが予見させる箇所がわかっていることを前提とする技術である。即ち、ケーブルバンド3が設けられる箇所において、該当部分を機密的に被覆するシートを用いて密閉空間部を形成し、当該密閉空間部内を加圧してリークの有無を検出するものである。従って、被覆の貫通傷がどこにあるかわからない密閉式ワイヤロープの点検に特許文献1の技術を用いることを考えた場合、ワイヤロープの全ての箇所に対して順番に“機密的に被覆するシートを用いて密閉空間部を形成し、当該密閉空間部内を加圧してリークの有無を検出する”という作業を繰り返す必要があり、非常に煩雑で非効率な作業を要することとなる。
また、例えば斜張橋で主塔と橋桁の間に張られたワイヤロープの全長に亘って上記のような作業を行う場合、当該橋の交通を規制する必要があり、経済活動や生活への影響が生じるとともに、これらの影響を最小限にするため、点検作業を行うことができる時間にも制限が生じるものである。
【0005】
本発明は、上記の点に鑑み、橋梁に使用されている被覆付きの密閉式ワイヤロープの点検方法であって、作業の効率化が図られ、交通規制の必要性を低減することが可能な密閉式ワイヤロープの点検方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(構成1)
橋梁に使用されている被覆付きの密閉式ワイヤロープの点検方法であって、前記密閉式ワイヤロープの被覆に点検用の貫通穴を形成するステップと、前記点検用の貫通穴から、前記密閉式ワイヤロープの被覆の内側に対する加圧若しくは減圧を行うステップと、前記加圧若しくは減圧の状態が維持されるか否かによって、前記密閉式ワイヤロープの被覆に貫通傷があるか否かを判別するステップと、を有することを特徴とする密閉式ワイヤロープの点検方法。
構成1の点検方法によれば、密閉式ワイヤロープの被覆に貫通傷があるか否かの点検を、橋の交通を規制せずに行うことが可能である。
【0007】
(構成2)
橋梁に使用されている被覆付きの密閉式ワイヤロープの点検方法であって、前記密閉式ワイヤロープの被覆に点検用の貫通穴を形成するステップと、前記点検用の貫通穴から、前記密閉式ワイヤロープの被覆の内側に対して加圧若しくは減圧を行うステップと、漏洩音の有無によって、前記密閉式ワイヤロープの被覆に貫通傷があるか否かを判別するステップと、を有することを特徴とする密閉式ワイヤロープの点検方法。
【0008】
(構成3)
前記加圧若しくは減圧による大気圧との差圧が8×10
3Pa以上となるようにすることを特徴とする構成2に記載の密閉式ワイヤロープの点検方法。
【0009】
(構成4)
橋梁に使用されている被覆付きの密閉式ワイヤロープの点検方法であって、前記密閉式ワイヤロープの被覆に点検用の貫通穴を形成するステップと、前記点検用の貫通穴から、撮像装置によって撮像可能な検知用ガスを注入するステップと、前記撮像装置によって、前記密閉式ワイヤロープの被覆の外部への前記検知用ガスの漏出が撮像されたか否かによって、前記密閉式ワイヤロープの被覆に貫通傷があるか否かを判別するステップと、を有することを特徴とする密閉式ワイヤロープの点検方法。
【0010】
(構成5)
前記点検用の貫通穴を、前記橋梁に設置された前記密閉式ワイヤロープの低部側に形成することを特徴とする構成1から4の何れかに記載の密閉式ワイヤロープの点検方法。
【0011】
(構成6)
前記点検用の貫通穴を、前記橋梁に設置された前記密閉式ワイヤロープの低部側に形成し、当該点検用の貫通穴から、吸気を行うことによって、前記密閉式ワイヤロープの被覆の内側に対する減圧を行うことを特徴とする構成1から3の何れかに記載の密閉式ワイヤロープの点検方法。
【0012】
(構成7)
前記密閉式ワイヤロープの低部側に形成した前記点検用の貫通穴から、前記密閉式ワイヤロープの被覆の内側に溜まった水の水抜きを行うことを特徴とする構成5又は6に記載の密閉式ワイヤロープの点検方法。
【0013】
(構成8)
前記密閉式ワイヤロープの低部側に形成した前記点検用の貫通穴から、水より比重の重い流体を注入することによって、前記点検用の貫通穴より低い位置に溜まっている水の水位を上昇させて前記水抜きを行うことを特徴とする構成7に記載の密閉式ワイヤロープの点検方法。
【0014】
(構成9)
前記点検用の貫通穴を、前記密閉式ワイヤロープの断面視において、その上端部を0°、下端部を180°とした場合に、90°から170°の範囲となる箇所に形成することを特徴とする構成1から8の何れかに記載の密閉式ワイヤロープの点検方法。
【0015】
(構成10)
前記密閉式ワイヤロープの被覆に貫通傷が見つかった場合に、当該貫通傷の位置を探索するステップを有することを特徴とする構成1から9の何れかに記載の密閉式ワイヤロープの点検方法。
【0016】
(構成11)
前記漏洩音の発生位置を探索することにより、前記貫通傷の位置を探索することを特徴とする構成2に記載の密閉式ワイヤロープの点検方法。
【0017】
(構成12)
前記検知用ガスの漏出位置を探索することにより、前記貫通傷の位置を探索することを特徴とする構成4に記載の密閉式ワイヤロープの点検方法。
【0018】
(構成13)
構成10から12の何れかに記載の密閉式ワイヤロープの点検方法の後に行う密閉式ワイヤロープの補修方法であって、前記貫通傷を補修するステップと、前記点検用の貫通穴とは別に、前記密閉式ワイヤロープの被覆に給排気用の貫通穴を形成するステップと、前記点検用の貫通穴と前記給排気用の貫通穴の間において、通風を行うステップと、前記点検用の貫通穴及び前記給排気用の貫通穴を塞ぐステップと、を有することを特徴とする密閉式ワイヤロープの補修方法。
【0019】
(構成14)
前記通風を、不活性ガスによって行うことを特徴とする構成13に記載の密閉式ワイヤロープの補修方法。
【0020】
(構成15)
前記点検用の貫通穴及び前記給排気用の貫通穴を塞ぐステップを、前記点検用の貫通穴及び前記給排気用の貫通穴に、貫通穴を開閉可能な開閉部材を取り付けることにより行うことを特徴とする構成13又は14に記載の密閉式ワイヤロープの補修方法。
【0021】
(構成16)
前記給排気用の貫通穴を、前記橋梁に設置された前記密閉式ワイヤロープの高部側に形成することを特徴とする構成13から15の何れかに記載の密閉式ワイヤロープの補修方法。
【0022】
(構成17)
前記給排気用の貫通穴を、前記密閉式ワイヤロープの断面視において、その上端部を0°、下端部を180°とした場合に、90°から170°の範囲となる箇所に形成することを特徴とする構成13から16の何れかに記載の密閉式ワイヤロープの補修方法。
【0023】
(構成18)
構成1から12の何れかに記載の密閉式ワイヤロープの点検方法が使用される密閉式ワイヤロープであって、当該密閉式ワイヤロープの被覆に、前記点検用の貫通穴が予め形成されており、当該点検用の貫通穴を開閉可能な開閉部材を備えることを特徴とする密閉式ワイヤロープ。
【0024】
(構成19)
構成13から17の何れかに記載の密閉式ワイヤロープの補修方法が使用される密閉式ワイヤロープであって、当該密閉式ワイヤロープの被覆に、前記給排気用の貫通穴が予め形成されており、当該給排気用の貫通穴を開閉可能な開閉部材を備えることを特徴とする密閉式ワイヤロープ。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、橋梁に使用されている被覆付きの密閉式ワイヤロープの点検方法の作業の効率化が図られ、また、点検作業時の交通規制の必要性を低減することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。なお、以下の実施形態は、本発明を具体化する際の一形態であって、本発明をその範囲内に限定するものではない。
【0028】
<実施形態1>
図1は、本実施形態の密閉式ワイヤロープの点検方法を行う対象である橋梁(斜張橋)の一例を示す概略図であり、
図1(a)は斜張橋100の構成の概略を示す図、
図1(b)は密閉式ワイヤロープ10の1本のみを示した概略図である。
斜張橋100は、主塔101と主桁102の間に複数の斜材(密閉式ワイヤロープ10)が張られている。
密閉式ワイヤロープ10は、鋼線やワイヤロープに高密度ポリエチレン等の被覆がされ、両端部においてソケット加工(ソケット11、12)されることにより、内部にワイヤロープが密閉された構造となっている。
図3には密閉式ワイヤロープ10の一例の断面図を示した。ここの例として示される密閉式ワイヤロープ10は、亜鉛メッキ鋼線13を平行に集束しながら、強度と弾性係数を低下させない程度のピッチで撚りを加え、これをフィラメントテープ15で巻いた上に高密度ポリエチレンの被覆14を行ったものである。なお、ここでは被覆平行線ストランドを例としているため、フィラメントテープ15を有するものであるが、例えばワイヤロープや単線の鋼線に被覆をしているような場合には、フィラメントテープ15は不要である。
【0029】
本実施形態の密閉式ワイヤロープの点検方法は、密閉式ワイヤロープ10の被覆に貫通傷があるか否かの点検を、主桁102内において行うものである。
先ず、密閉式ワイヤロープ10の被覆に点検用の貫通穴H1を形成する。点検用の貫通穴H1は、主桁102内の密閉式ワイヤロープ10の被覆に対して開けられる。即ち、斜張橋100に設置されている密閉式ワイヤロープ10の低部側(もっとも低くなる場所付近)に形成される。
また、点検用の貫通穴H1は、密閉式ワイヤロープ10の断面視において、その上端部を0°、下端部を180°とした場合に、90°から170°の範囲となる箇所に形成する(
図3参照)。密閉式ワイヤロープ10の上面側は、雨等が浸入しやすく、また、密閉式ワイヤロープ10の底面側は表面張力によって密閉式ワイヤロープ10の表面を伝う雨水が、重力によって底面側に集まるため、こちらも雨水が浸入しやすくなる。本実施形態においては主桁102内において点検用の貫通穴H1を形成するため、雨水の浸入の問題はあまり大きくないが、橋梁の構造の都合等により、露天の箇所に点検用の貫通穴H1を形成する場合には、
図3に示されるように、点検用の貫通穴H1の形成位置を90°から170°の範囲とすることにより、点検用の貫通穴H1からの雨水の浸入を低減できるものである。
【0030】
次に、点検用の貫通穴H1から吸気を行うための真空ポンプを接続する。
図2は、点検用の機材を設置した状態を示す概略図である。
点検用の貫通穴H1に対して気密的に送吸気路(パイプ等)1を接続し、送吸気路1に真空ポンプ2を接続するとともに、送吸気路1上に圧力計3を設置する。なお、本実施形態では、点検用の貫通穴H1の他に、貫通穴H2を密閉式ワイヤロープ10の被覆に形成し、当該貫通穴H2に密閉式ワイヤロープ10の被覆内の圧力を直接的に測定する圧力計4を設置するようにしているが、貫通穴H2と圧力計4は必須のものではない。
【0031】
図2のように点検用の機材の設置ができたら、真空ポンプ2を駆動して、密閉式ワイヤロープ10の被覆の内側を減圧する。
圧力計3(若しくは圧力計4)を確認し、大気圧より1.5×10
4Pa以上低い圧力まで減圧されたら、送吸気路1上(圧力計3と真空ポンプ2の間)に設置したエアバルブを閉めることで、真空ポンプ2側からの漏洩を防止した状態で、真空ポンプ2を停止する。
この状態で、減圧状態が所定値内で一定時間(例えば10分間以上)維持されるか否かを圧力計3(若しくは圧力計4)で確認する。
減圧状態が一定時間維持されるようであれば、密閉式ワイヤロープ10の被覆に貫通傷は無いと判断され、減圧状態が維持されない場合は、密閉式ワイヤロープ10の被覆に貫通傷があると判断される。
【0032】
点検用の貫通穴H1を利用した点検事項として、貫通傷の有無の点検の他に、点検用の貫通穴H1から見える内部のワイヤロープの目視による状態チェックや、内部に水が溜まっているか否かのチェック、及び水が溜まっていた場合の水抜き作業がある。
密閉式ワイヤロープ10の被覆に貫通傷があること等によって、内部に水が浸入した場合、
図5に示されるように、この水Wは密閉式ワイヤロープ10の低部側に溜まる。
この水Wが溜まる箇所である密閉式ワイヤロープ10の低部側に点検用の貫通穴H1を形成することにより、水抜き作業が容易に行える。
点検用の貫通穴H1を、密閉式ワイヤロープ10の最も低い位置に形成できれば、上記の観点においては好ましいが、実際にはロープ端部に形成されているソケットの存在や、当該ソケットの主桁側の構造物との係合状況などにより、最も低い位置に形成することは難しい。
例えば、
図5に例示される位置に点検用の貫通穴H1を空けた場合、水位がWLとなるまでは点検用の貫通穴H1から自動的に水が抜けるが、水位WL以下の水については別途水抜き作業が必要になる。
【0033】
当該水抜き作業は、鋼線13と被覆14(フィラメントテープ15)の間の隙間(
図3参照)に、密閉式ワイヤロープ10の可能な限り低い位置に至るまで、点検用の貫通穴H1からチューブTbを挿入して、シリンジSyを使って水Wを吸引除去することによって行うことができる(
図6(a))。
また、別の方法として、点検用の貫通穴H1から、水Wより比重の重い流体を注入することによって、水Wの水位WLを上昇させて、点検用の貫通穴H1から水Wを排出させる方法がある。“水Wより比重の重い流体”である置換液体としては、ふっ素系不活性液体等の、鋼線13を腐食させない不活性なものを使用する。置換液体の注入は、
図6(a)と同様に、チューブTbやシリンジSy等を使用して行う。
なお、点検用の貫通穴H1を形成した際に、水が出てくれば、内部に水が溜まっていることが明らかであるが、点検用の貫通穴H1から水が出てこない場合においては、点検用の貫通穴H1よりも低い位置に水が溜まっていないかを確認(滞水確認)する必要がある。また、上記した水抜き作業によって滞水が除去されたか否かを確認する必要がある。
当該滞水確認は、鋼線13と被覆14(フィラメントテープ15)の間の隙間に、密閉式ワイヤロープ10の可能な限り低い位置に至るまで、水分検知剤を塗布した細径ワイヤーWrを挿入し(
図6(b))、これを抜き取って水分検知剤の変色の有無を確認することで行う。
滞水が確認された場合には、上記した水抜き作業を行う。
【0034】
密閉式ワイヤロープ10の内部に溜まっていた水を採取し、これの水分調査をするようにしてもよい。
採取した滞水の特定成分量を調査することで、鋼線13の腐食状況や腐食環境の程度を推定するものである。鉄や亜鉛の含有量により素線や防錆皮膜(めっき)の状態を、pH値や塩化物イオンの含有量により腐食環境を評価する。滞水とともに現地の環境水(雨水、大気中水分の2種類)の分析を行うことで、水の浸入状態や浸入箇所の推定に利用することができる。
【0035】
以上のごとく、本実施形態の密閉式ワイヤロープの点検方法によれば、橋梁に使用されている被覆付きの密閉式ワイヤロープの貫通傷の有無の点検作業の効率化が図られる。また、上記説明のごとく、主桁102内等の、橋の交通に影響のない場所において作業を行うことができるため、当該作業を行うために橋の交通を規制する必要がなく、経済活動や生活への影響を低減できると共に、点検作業を行うことができる時間も自由度が高い。
例えば外観検査等の点検方法の場合、ロープの全長にわたって検査をする必要があるため、当該作業を行うために橋の交通を規制しなければならない。また、外観検査では、外傷等を見つけることはできるが、これが貫通した穴であるか否かを判別することが非常に難しい場合がある。特に小さな貫通傷である場合、外観検査によって外傷として見つけることは可能であっても、これが貫通した穴であるか否かを判別することは非常に難しい。
これに対し、本実施形態の点検方法によれば、主桁内における作業のみで、非常に小さな貫通傷であっても、これがあるか否かを検査することができ、点検作業が効率的であると共に、橋の交通を規制する必要がなく、非常に好適である。
また、本実施形態では、密閉式ワイヤロープ10の低部側に点検用の貫通穴H1を形成し、ここから吸気をするため、密閉式ワイヤロープ10内の水分をロープの低部側に集約させる効果が得られ、点検用の貫通穴H1からの水抜きがより効率的になるため好適である。
【0036】
なお、本実施形態では、密閉式ワイヤロープ10の被覆の内側を減圧するものを例として説明したが、加圧するものであってもよい。
密閉式ワイヤロープ10の被覆の内側を加圧する場合の機材の設置例を
図4に示した。
図4の例では、真空ポンプ2の替わりに、送吸気路1にガスボンベ5(例えばCO
2ボンベ)を接続している。その他は基本的に
図2の構成と同様である(エアバルブ7や減圧弁6を記載しているが、概念として相違するものではない)。
図4のように点検用の機材の設置ができたら、ガスボンベ5のバルブ(及びエアバルブ7)を開き、密閉式ワイヤロープ10の被覆の内側を加圧する。
圧力計3(若しくは圧力計4)を確認し、大気圧より1.5×10
4Pa以上高い圧力まで加圧し(減圧弁6によって調整)、エアバルブ7を閉める。
この状態で、加圧状態が所定値内で一定時間(例えば10分間以上)維持されるか否かを圧力計3(若しくは圧力計4)で確認する。
加圧状態が一定時間維持されるようであれば、密閉式ワイヤロープ10の被覆に貫通傷は無いと判断され、加圧状態が維持されない場合は、密閉式ワイヤロープ10の被覆に貫通傷があると判断される。
なお、密閉式ワイヤロープ10内に送気する気体としてCO
2を例としているが、これに限るものではない。ワイヤロープの素線と被覆に影響がなく、かつ桁内や主塔内に排気されることを想定して引火性や中毒性が低いものであれば、任意の気体を用いることができる。コンプレッサ等を用いて空気を送気するものであってもよい。
【0037】
また、本実施形態では、加圧若しくは減圧の状態が維持されるか否かによって、前記密閉式ワイヤロープの被覆に貫通傷があるか否かを判別するものと例としたが、加圧若しくは減圧によって、貫通傷から気体が漏洩する漏洩音の有無によって、前記密閉式ワイヤロープの被覆に貫通傷があるか否かを判別するようにしてもよい。また、撮像装置(カメラ等)によって撮像可能な検知用ガスを密閉式ワイヤロープ10内に送気し、撮像装置によって、密閉式ワイヤロープの被覆の外部への検知用ガスの漏出が撮像されたか否かによって、密閉式ワイヤロープの被覆に貫通傷があるか否かを判別するようにしてもよい。
【0038】
漏洩音検知法の場合、漏洩音の検知のため、密閉式ワイヤロープに対する加圧若しくは減圧において、漏洩箇所付近における大気圧との差圧が8×10
3Pa以上となるように加圧若しくは減圧をすることが好ましい。実験により、漏洩箇所付近における大気圧との差圧が8×10
3Paである場合には、漏洩音を検知できることが確認できた。当該実験は、被覆14の厚さが10mmであり、直径が139mm(被膜を除いたケーブルの直径は119mm)である密閉式ワイヤロープ10に対して行った。
漏洩箇所、即ち貫通傷がどこにあるかはわからないため、“漏洩箇所付近における大気圧との差圧が8×10
3Pa以上”とするためには、密閉式ワイヤロープの任意の場所において、“漏洩箇所付近における大気圧との差圧が8×10
3Pa以上”であることが好ましい。
本実施形態のごとく、密閉式ワイヤロープ10の低部側から加圧若しくは減圧をする場合、密閉式ワイヤロープ10の高部側において大気圧との差圧が8×10
3Pa以上となるようにするとよい。即ち、漏洩音を検知可能とするための大気圧との差圧が、加圧又は減圧を行う点検用の貫通穴H1から最も離れた場所付近で満たされるようにするとよい。このために、
図4に示されるように、密閉式ワイヤロープ10の高部側(もっとも高くなる場所付近)に貫通穴H3を形成し、当該貫通穴H3に圧力計4−2を設置し、ここでの測定値における大気圧との差圧が8×10
3Pa以上となるようにする。斜張橋100の密閉式ワイヤロープ10の1本に対して、圧力計4−2を設置した上での、“差圧を8×10
3Pa以上とするための条件出し”を一度行えば、斜張橋100の他の密閉式ワイヤロープ10の検査を行う際には、高所側の圧力計4−2をいちいち設置しなくても、ほぼ同条件で低部側から加圧若しくは減圧をすれば問題ない。特に、最初に長い密閉式ワイヤロープ10に基づいて条件出しを行うことで、これより短い密閉式ワイヤロープ10に対する検査においては、同条件で加圧若しくは減圧をすれば問題ない。
なお、貫通穴H3は、実施形態2で説明する給排気用の貫通穴H3として使用できる。貫通穴H3は、点検用の貫通穴H1と同様に、密閉式ワイヤロープ10の断面視において、その上端部を0°、下端部を180°とした場合に、90°から170°の範囲となる箇所に形成する(
図3参照)。雨水の浸入を低減するためである。
漏洩音は密閉式ワイヤロープ10を伝って伝搬するため、主桁102内において検知することができる。即ち、主桁102内の密閉式ワイヤロープ10に振動センサを取付けること等によって、漏洩音の有無を検知することができる。また、指向性マイクを用いて離れた場所(例えば主桁102上)から漏洩音の有無を検知することもできる。上述したように、密閉式ワイヤロープ10は、基本的にはメンテナンスフリーなものであり、大きな貫通傷が生じることは基本的にはない。即ち、基本的には、小さな貫通傷の発見が主な目的であり、このような小さな貫通傷において生じる気体の漏洩音を検知するものである。小さな穴であって、その深さは均一(被膜の厚さ)であり、ロープはその全長にわたって基本的に同一構造であるため、漏洩音を生じさせる条件が比較的均一なものとなる。よって、所定の加圧条件下における漏洩音の検知によって精度よく貫通傷の有無を検知できるものである。
従って、上記と同様に、主桁内若しくは主桁上等の、交通に影響のない場所における作業のみで、非常に小さな貫通傷であっても、これがあるか否かを検査することができ、点検作業が効率的であると共に、橋の交通を規制する必要がなく、非常に好適である。
【0039】
検知用ガスを用いる方法は、ある波長帯の電磁波を吸収する特性を有するガスや、ある波長帯の電磁波を反射若しくは発する特性を有するガスを使用し、それぞれの波長帯に対する撮像感度を有する撮像装置(カメラ等)を用いて撮像することで、貫通傷から漏れ出るガスを検知する。
例えば、検知用ガスとして、有色のガスを使用し、通常の光学式カメラ若しくは目視にてガスの漏洩の有無を検知するものや、CO
2ガスを使用し、二酸化炭素検知用赤外線カメラを用いてガスの漏洩の有無を検知するもの、加熱した任意の気体を使用し、赤外線サーモグラフィーによってガスの漏洩の有無を検知するもの等である。
適宜望遠レンズを使用すること等によって、交通に影響のない場所における作業のみで、非常に小さな貫通傷であっても、これがあるか否かを検査することができ、点検作業が効率的であると共に、橋の交通を規制する必要がなく、非常に好適である。なお、検知用ガスを用いる方法の場合には、貫通傷の有無に加えて、その位置も判別可能である。
【0040】
<実施形態2>
次に、実施形態2として、密閉式ワイヤロープの補修方法について説明する。
本実施形態の密閉式ワイヤロープの補修方法は、実施形態1の密閉式ワイヤロープの点検方法によって、貫通傷があると判断された場合に実施されるものである。
本実施形態の密閉式ワイヤロープの補修方法は、大まかには、貫通傷を補修するステップと、点検用の貫通穴H1とは別に、密閉式ワイヤロープ10の被覆に給排気用の貫通穴H3を形成するステップと、点検用の貫通穴H1と給排気用の貫通穴H3の間において、通風を行うステップと、点検用の貫通穴H1及び給排気用の貫通穴H3を塞ぐステップと、を有する。
以下、順に説明する。
【0041】
実施形態1の点検方法によって貫通傷があると判断された密閉式ワイヤロープ10について、貫通傷を補修する(塞ぐ)ために、先ず、貫通傷の場所を特定する。
貫通傷の場所の特定としては、例えば以下の方法が挙げられる。
1.検知用流体(基本的には気体)を点検用の貫通穴H1から供給し、貫通傷から漏洩する検知用流体を検知する。
基本的に実施形態1で触れた“検知用ガスを用いる方法”と同様である。実施形態1の点検方法において“検知用ガスを用いる方法”を使用する等して、既に貫通傷の位置が特定されている場合には、再度の作業は特に必要ないが、貫通傷の場所をより正確に特定するために、例えば、撮像装置を搭載した、ロープに沿って移動する自走機器や、ドローン等を用いて、検知用ガスが漏洩している箇所を特定するようにしてもよい。また、撮像装置に替えて、検知用のガスを検知するガスセンサをロープに沿って移動する自走機器や、ドローン等に搭載して、検知用ガスが漏洩している箇所を特定してもよい。
2.漏洩音や風圧により貫通傷の場所を特定する。
例えば、任意の流体(基本的には気体)を供給、若しくは吸引することによって生じる漏洩音を、聴音確認若しくはマイクを搭載した装置(ロープに沿って移動する自走機器や、ドローン等)を用いて、検知し、音の大小でその位置を特定する。又は、任意の気体を供給、若しくは吸引することによって生じる風圧を、圧力センサを搭載した装置(ロープに沿って移動する自走機器や、ドローン等)を用いて検知し、貫通傷の場所を特定する。
3.リークチェック液により貫通傷の場所を特定する。
点検用の貫通穴H1に対する送気をしつつ、発泡液などのリークチェック液を使用して貫通傷の場所を特定する。
【0042】
上記の方法等によって、貫通傷の場所を特定したら、貫通傷の補修を行う。
貫通傷の補修は、被覆を溶融して同材質の溶着材料で密封することを基本とし、ロープ高所作業等で行うためにこれが困難な箇所は、ブチルゴムパテの充填、あるいは被覆表層の溶融密封によって密封する。ただし、ブチルゴムパテを充填する際は、フィラメントテープを巻いて抜け出しを防ぎ、自己融着テープを巻き重ねて耐候性を確保する。被覆貫通孔が小さくて上記の補修が困難な場合は、孔の周囲を切除して拡大する。なお、ブチルゴムパテの充填等の、穴に補修材や接着剤等を充填する際には、
図2で説明した方法によって密閉式ワイヤロープ10内を減圧しながら作業を行うことで、充填をより確実なものとすることができる。
貫通傷の補修後、実施形態1の点検方法によって貫通傷があるか否かを確認し、貫通傷がある場合には上記の貫通傷の場所特定・補修の作業を再度行い、貫通傷がなくなったら、密閉式ワイヤロープ10内の通風・乾燥のための準備を行う。
【0043】
図7は、密閉式ワイヤロープ10内の送気乾燥用の機材を設置した状態を示す概略図である。
実施形態1の点検方法において使用した点検用の貫通穴H1や送吸気路(パイプ等)1をそのまま使用して、送吸気路1に、コンプレッサ8、減圧弁6、エアバルブ7、除湿器9、フィルタFを接続する。また、圧力計4を設けていた貫通穴H2に湿度計Hm1を接続する。
また、密閉式ワイヤロープ10の高部側に、給排気用の貫通穴H3を形成し、ここからの排気の湿度を測定できるように湿度計Hm2を設置する。
給排気用の貫通穴H3は、点検用の貫通穴H1と同様に、密閉式ワイヤロープ10の断面視において、その上端部を0°、下端部を180°とした場合に、90°から170°の範囲となる箇所に形成する(
図3参照)。雨水の浸入を低減するためである。
【0044】
図7のように送気乾燥用の機材の設置ができたら、コンプレッサ8を作動させ、除湿器9によって乾燥させた空気を、密閉式ワイヤロープ10内に送気する。即ち、点検用の貫通穴H1と給排気用の貫通穴H3の間において通風を行う。
湿度計Hm1、2によってロープ内の湿度を所定間隔で計測し、湿度低下が収束したら(若しくは湿度が所定値以下となったら)、送気乾燥処理を終了する。
なお、ここではコンプレッサ8によって空気を送気するものを例としたが、不活性ガスを送気するようにするとより好適である。
【0045】
送気乾燥が終了したら、点検用の貫通穴H1と給排気用の貫通穴H3(及び貫通穴H2)を塞ぐ。これらの貫通穴を塞ぐ方法としては、上記した貫通傷の補修と同様に、被覆を溶融して同材質の溶着材料で密封するものであっても良いが、貫通穴を開閉可能な開閉部材(密閉可能な開閉部材)を取り付けるようにすると、再度の点検や補修の際により迅速な作業をすることが可能となり、好適である。
【0046】
図8、9には、貫通穴を開閉可能な開閉部材の一例を示した。
図8(a)で示した例は、貫通穴H1を形成した箇所に対して、密閉式ワイヤロープ10を全周的に覆うゴム板16を設け、バンド17を取付けてボルト18で締めることで、ゴム板16を貫通穴H1の周囲にゴム板16を密着させ、貫通穴H1を密閉するものである。ボルト18を外し、バンド17及びゴム板16を外すことで、貫通穴H1を再度の点検や補修に使用することができる。なお、貫通穴H1にブチルゴムパテ等を充填した上で、密閉するものであってもよい。
図8(b)で示した例は、
図8(a)で示した例とゴム板16やバンド17は同様の構成であり、さらに、バンド17に開閉弁19を設けるようにしたものである。このようにすることで、より容易に貫通穴を開閉操作することができる。
図9で示した例は、貫通穴H1にブチルゴムパテ等の充填材を充填した上で、貫通穴H1を形成した箇所に対して、密閉式ワイヤロープ10を全周的に覆う熱収縮チューブ20を設けた例である。熱収縮チューブ20の熱収縮により、充填材を充填した貫通穴H1を密閉するものである。
【0047】
以上のごとく、本実施形態の密閉式ワイヤロープの補修方法によれば、効率的かつ効果的に、密閉式ワイヤロープの補修を行うことができる。
【0048】
なお、実施形態2では、送気乾燥として、点検用の貫通穴H1から送気して給排気用の貫通穴H3から排気させるものを例としているが、点検用の貫通穴H1と給排気用の貫通穴H3の間において通風を行うものであればよく、どちら側から、送気若しくは吸気の何れを行うか等は任意であってよい。
密閉式ワイヤロープ内を、上から下へ向かう方向で通風すると、密閉式ワイヤロープ10内の水分をロープの低部側に集約させる効果が得られ、点検用の貫通穴H1からの水抜きができるためより好適である。
【0049】
各実施形態では、密閉式ワイヤロープに事後的に点検等のための貫通穴を形成するものを例としているが、橋梁の建造の際に、点検用の貫通穴や給排気用の貫通穴が予め形成されているワイヤロープを用いることで、点検や補修をより迅速にすることができる。予め形成している点検用の貫通穴や給排気用の貫通穴に対しては、上記例示したような開閉部材(その他、貫通穴を開閉できる任意の部材であってよい)が設けられる。
当該ワイヤロープは、「被覆に、点検用の貫通穴や給排気用の貫通穴が予め形成されており、当該点検用の貫通穴や給排気用の貫通穴を開閉可能な開閉部材を備えている、密閉式ワイヤロープ」である。
【0050】
なお、実施形態においては、斜張橋を例としているが、本発明の適用をこれに限るものではなく、吊り橋等の各種の橋梁に使用されている密閉式ワイヤロープに適用することができる。