【解決手段】吸収パッド20と、腹側領域13と股下領域14と背側領域15に区分される外装体30と、外装体30の所定領域を接合するサイドシール部304と、胴周り開口部11及び脚周り開口部12とを備え、サイドシール部304は、腹側領域13の幅方向両縁と、背側領域15の幅方向両縁とを超音波溶着することにより同じ形状の接合部320が1列に並んで形成されており、所定幅に切り出したサイドシール部304の、T型剥離試験における最大荷重が6N/cm以上9N/cm以下であり、かつ最大荷重までの1cm幅あたりのエネルギー吸収量が50mJ/cm以下である、パンツ型吸収性物品1。
体液を吸収及び保持する吸収パッドと、前記吸収パッドを肌側面で支持し、着用者の腹部に主に当接する腹側領域と、前記着用者の背部に主に当接する背側領域と、これらの間に介在し、前記着用者の股間部に主に当接する股下領域とに区分される外装体と、前記腹側領域及び前記背側領域の幅方向の各両縁をそれぞれ接合するサイドシール部とを備え、前記サイドシール部により形成された胴周り開口部及び左右一対の脚周り開口部を有するパンツ型吸収性物品であって、
前記サイドシール部は、前記腹側領域における前記パンツ型吸収性物品の幅方向両縁の前記外装体と、前記背側領域における前記幅方向両縁の前記外装体とを超音波溶着することにより同じ形状の接合部が1列に並んで形成されており、
所定幅に切り出した前記サイドシール部の、
T型剥離試験における最大荷重が6N/cm以上9N/cm以下であり、かつ
最大荷重までのエネルギー吸収量が50mJ/cm以下である、
ことを特徴とするパンツ型吸収性物品。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書において、パンツ型吸収性物品1の着用とは、体液吸収の前後を問わず、着用者の身体に装着した状態をいう。パンツ型吸収性物品1の、長手方向とはパンツ型吸収性物品1を着用したときに着用者の股間部を介して前後に亘る方向であり、幅方向とは長手方向に対して略直交する方向であり、厚み方向とは外装体30や吸収パッド20等の各構成部材を積層する方向である。パンツ型吸収性物品1及びその各構成部材の肌側面とは着用者の肌に当接する表面又は該肌を臨む表面であり、非肌側面とは着用者の衣類に当接する表面又は衣類を臨む表面である。体液とは、尿、血液や軟便中の水分等の体内から体外に排出された液体をいう。
【0014】
<パンツ型吸収性物品>
以下、図面を参照しつつ、第1実施形態のパンツ型吸収性物品1について説明する。
図1は、第1実施形態に係るパンツ型吸収性物品1の外観構成を示す。
図2は、パンツ型吸収性物品1のサイドシール部304を分離した状態での展開図である。
図3は、サイドシール部304形成前の背側領域15の幅方向一縁を示す。
図4は、接合部320(以下「超音波接合部320」ともいう)の一例を示す。
図5は、接合部320の断面である。(a)は模式図であり、(b)は断面写真である。各図は、パンツ型吸収性物品1及び各構成部材の形状や、寸法の大小関係等を規定するものではない。
【0015】
パンツ型吸収性物品1は、着用者の股間部を前後から覆う前後方向に略帯状の形状を有する吸収パッド20と、吸収パッド20の外側に重なりつつ吸収パッド20の周囲に延びてパンツ型吸収性物品1の外形形状を構成する外装体30と、を備える。パンツ型吸収性物品1の
図2に示す展開時の長手方向寸法は例えば600mm以上1000mm以下の範囲であり、幅方向寸法は例えば450mm以上900mm以下の範囲である。この展開時寸法を有するパンツ型吸収性物品1は、必要に応じて所定領域に弾性伸縮部材を配設した後、Sサイズ、Mサイズ、Lサイズ等の各種サイズの成人用のパンツ型吸収性物品1とすることができる。パンツ型吸収性物品1は、例えば、紙おむつ、生理用ナプキン、失禁用使い捨ておむつ等として利用できる。
本実施形態のパンツ型吸収性物品1の外装体30及び吸収パッド20は、例えば、以下の構成を有する。
【0016】
<外装体>
図1〜
図3に示す外装体30は、着用者の腹部に主に当接する腹側領域13と、着用者の背部に主に当接する背側領域15と、腹側領域13と背側領域15との間に介在し、着用者の股間部に主に当接する股下領域14と、に区分される。股下領域14はその肌側面で吸収パッド20のバックシート25側の一部又は全部を支持する。また、後述するサイドシール部304を設ける領域(脚周り開口部12を形成しない領域)を腹側領域13又は背側領域15とし、サイドシール部304を設けない領域(脚周り開口部12を形成する領域)を股下領域14と区分してもよい。
【0017】
図1及び
図2に示す外装体30は、股下領域14の長手方向中央で幅方向に延びる仮想中心線を中心として略対称な腹側領域13と背側領域15とを有し、吸収パッド20も仮想中心線に対して略対称に配置されている。そして、吸収パッド20が内側となるように仮想中心線で二つ折りにされ、腹側領域13及び背側領域15の幅方向両側縁が一対のサイドシール部304で接合されている。
【0018】
サイドシール部304は、後述する超音波溶着を利用した接合により、伸縮性を有する胴周り開口部11と、左右一対の脚周り開口部12とを外装体30に形成し、パンツ型吸収性物品1を全体として着脱可能なパンツ状に構成する。サイドシール部304は、着用時の破れ難さと使用後の切り離し易さとの強度バランスを両立させつつ、さらに肌触りを良好に保つことができるものである。
【0019】
外装体30は、2枚以上の不織布により構成されている。本実施形態の外装体30は、
図1〜
図3のように、外装不織布シート301と、外装不織布シート301の肌側に配置される内装不織布シート302と、必要に応じて配置される補助シート303とを含む。補助シート303は、例えば、吸収パッド20の端部を覆い、吸収パッド20の肌へのあたりを和らげる。腹側領域13の長手方向端部の幅方向一縁では、
図3に示すように、長手方向に沿って、外装不織布シート301と内装不織布シート302とを2層に積層した領域と、補助不織布シート303を含んで3層に積層した領域と、が存在する。このような不織布積層構造は、図示しないが、腹側領域13の幅方向他縁、及び背側領域15の幅方向両縁でも同様である。外装体30の不織布積層構造は本実施形態に限定されず、従来から公知の種々の実施形態を特に限定なく採用できる。
【0020】
外装不織布シート301及び内装不織布シート302には、サーマルボンド不織布、エアースルー不織布、スパンボンド不織布等の不織布、好ましくはエアースルー不織布又はスパンボンド不織布であって、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂からなる不織布を使用できる。これらの不織布を用いる場合、その坪量は、例えば、10g/m
2以上40g/m
2以下の範囲である。
【0021】
外装体30の所定の領域には、
図1及び
図2に示すように必要に応じて、1又は複数の弾性伸縮部材311、312、313、314、315等を配設してもよい。例えば、腹側胴周り領域13Aと背側胴周り領域15Aには幅方向に沿って複数の胴周り領域弾性伸縮部材311、312を配設し、腹側胴周り領域13Bと背側胴周り領域15Bには幅方向に沿って複数の胴周り領域弾性伸縮部材313、314を配設し、脚周り開口部12の縁辺に沿って脚周り弾性伸縮部材315を配設している。弾性伸縮部材の配設により、外装体30の表面に複数のギャザーが形成される。弾性伸縮部材311、312、313、314、315としては公知のものをいずれも使用でき、例えば、天然ゴム、合成ゴム、ポリウレタン等からなる、糸状、紐状、帯状のものが挙げられ、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0022】
<サイドシール部>
本実施形態のサイドシール部304は、構造及び物性の各面で従来のものとは異なる。構造的には、本実施形態の左右一対のサイドシール部304は、
図4及び
図5に示すように、腹側領域13の幅方向一縁又は他縁の外装体30と、背側領域15の幅方向一縁又は他縁の外装体30と、の超音波接合体である。この超音波接合体は、腹側領域13の両縁の外装体30と背側領域15の両縁の外装体30とを接合する、複数の超音波接合部320を含む。
【0023】
超音波接合部320(以下単に「接合部320」ともいう)は、腹側領域13の両縁の外装体30と背側領域15の両縁の外装体30とを超音波溶着することにより形成されるものである。複数の接合部320は、
図4に示すように、略同じ平面視形状を有し、一方向(本実施形態ではパンツ型吸収性物品1の長手方向)に所定の間隔を空けて略平行に配列されている。接合部320の平面視形状は、パンツ型吸収性物品1の着脱時における接合性と切り離し性との高水準での両立等の観点から、好ましくは、接合部320の配列方向に対して略直交する方向に長く延びる形状である。本実施形態の接合部320の平面視形状は長円形状であるが、これに限定されず、例えば、楕円形、ひし形、長方形、4つの角を丸めた角丸長方形等でもよい。
【0024】
本実施形態の接合部320は、
図4に示すように、平面視形状が略長円形状であるアンビル凸部痕Aと、アンビル凸部痕Aの周囲を囲むように形成された樹脂塊Bと、を含む。アンビル凸部痕Aとは、超音波溶着で使用するアンビルロール5(
図6)の周面に設けられたアンビル凸部501の痕であり、厚み方向に凹んでいる。樹脂塊Bは、腹側領域13の両縁の外装体30及び背側領域15の両縁の外装体30に対して加圧下に超音波を印可することにより、これらの外装体30中の不織布を構成する樹脂製繊維が溶融及び固化したものであり、これらの外装体30を接合し、サイドシール部304を形成する。樹脂塊Bの立体形状は特に限定されない。
【0025】
図5(a)に示す本実施形態の接合部320の厚み方向断面(
図4のX−X’切断線による断面)によれぱ、アンビル凸部痕Aは厚み方向に凹む凹部として形成される。アンビル凸部痕Aの底面及び内壁面の表層は、溶融せずに残存した不織布繊維が多く存在し、不織布繊維が溶融及び固化した樹脂層は少ない。
図5(b)の断面写真でも明確な樹脂層は認められない。アンビル凸部痕Aの底面及び内壁面の表層は、接合部320の強度には殆ど寄与していないと考えられる。
【0026】
不織布が繊維の集合体であるため
図5(b)の断面写真では分かりにくいが、樹脂塊Bには、
図5(a)で模式的に示したように、層の境目がない一体化した樹脂の塊に6枚の不織布S1〜S6がつながっている。これにより接合部として機能している。これらの実施形態の樹脂塊Bの詳しい発生原因は現状では十分明らかではないが、6枚の不織布S1〜S6が
図6に示すアンビル凸部501と超音波溶着機のホーン6との間で溶融し、樹脂がアンビル凸部501の周りに流れだし、さらにアンビル凸部501と接触するアンビル凸部501の周囲の不織布中の繊維も溶融して混ざり固化した樹脂層(未溶融繊維の少ない樹脂層)と考えられる。また、腹側領域13の外装体30と背側領域15の外装体30との超音波溶着において、外装体30中の不織布の枚数が多いほど、また超音波のエネルギーが高いほど、樹脂塊Bの寸法は大きくなる。そして樹脂塊Bが大きいほどサイドシール部304の剥離強度は高くなる。サイドシール部304の剥離強度は、例えば、樹脂塊Bの大きさや形状で調整できる。
【0027】
図9は、サイドシール部304の形成に用いられるアンビルロール5周面のアンビル凸部501の配置パターンの一実施形態を示している。
図9によれば、アンビルロール501の配置パターンは、例えば、アンビル凸部501の、アンビルロール5の周方向の長さ(アンビル凸部501の幅)X1、アンビル凸部501の、アンビルロール5軸方向の間隔(凸部間隔)Y1、及びアンビル凸部501の、アンビルロール5の軸方向の長さY2という3つの寸法により規定される。アンビル凸部501の各寸法X1、Y1及びY2は、サイドシール部304に収まり得るものであれば特に限定されるものではないが、各寸法の一例を示せば、次の通りである。
【0028】
アンビル凸部501の幅X1は例えば2mm以上6mm以下の範囲である。アンビル凸部501の間隔Y1は例えば1.5mm以上4.5mm以下の範囲である。アンビル凸部501の軸方向の長さY2は例えば0.25mm以上0.75mm以下の範囲である。
【0029】
(サイドシール部の形成方法)
サイドシール部304の形成方法としては、例えば、
図6に示す一対のアンビルロール5とホーン6とを用いる方法が挙げられる。本実施形態のアンビルロール5は、回転軸(不図示)により回転可能に軸支され、その周面に4個の凸部取付けブロック502が周方向に等間隔で設けられ、凸部取付けブロック502にはアンビル凸部501がそれぞれ取り付けられている。アンビル凸部501の頂面には、該頂面の長手方向に延びる2列の超音波被印可面が該頂面の幅方向に所定の間隔を空けて設けられている。ホーン6は、アンビルロール5と対向する側の先端に平坦な超音波印可面を有し、アンビルロール5に対して進退可能に設けられ、該超音波印可面がアンビルロール5のアンビル凸部501の頂面に当接する。当接圧は適宜選択できる。以下、ホーン6の超音波印可面の、アンビルロール5のアンビル凸部501の頂面に対する当接圧を「溶着圧力」とも呼ぶ(表1及び表2)。
【0030】
より具体的には、サイドシール部304は、アンビルロール5(凸部501の頂面)とホーン6(アンビルロール5と対向する側の先端の超音波印可面)との当接部に、連設体を通過させ、超音波溶着を実施することにより形成される。連設体とは、
図2に示す展開状態のパンツ型吸収性物品1(サイドシール部304が未形成のもの)を長手方向に2つ折りして腹側領域13の外装体30と背側領域15の外装体30とを重ね合わせたものを一単位とし、複数の単位が幅方向に連設されたものである。1の単位と幅方向に隣り合う他の単位とは、1の単位の一方のサイドシール部304が形成される第1の接合領域と、他の単位の他方のサイドシール部304が形成される第2の接合領域とで繋がっている。アンビルロール5のアンビル凸部501の頂面と、ホーン6の超音波印可面との当接部に連設体の第1の接合領域及び第2の接合領域を同時に搬送し、ホーン6を当接させて超音波を印可すると、不織布同士の溶着が起こり、一方の単位の幅方向右縁のサイドシール部304と、他方の単位の幅方向左縁のヒートシール部304とが同時に形成される。
【0031】
超音波溶着後には、
図7に示すような、幅方向両縁にサイドシール部304が形成されたパンツ型吸収性物品1の連設体が得られる。この連設体を右縁のサイドシール部304と左縁のサイドシール部304との幅方向中間であるY−Y’切断線に沿って切断することにより、個々のパンツ型吸収性物品1が得られる。こうして、本実施形態のパンツ型吸収性物品1を工業的に量産できる。
【0032】
(アンビル凸部痕の面積率)
アンビル凸部痕Aの面積(底面面積)は、アンビル凸部501(
図6)の頂面の面積と略同じである。そのため、面積率は、アンビルロール5におけるアンビル凸部501の頂面形状、各種寸法等のデザインを選択することで調整できる。本明細書では、面積率(%)は、10mm×10mmの単位面積中に存在するアンビル凸部501の個数nと、1個のアンビル凸部501の頂面面積A1(mm
2)との積を、単位面積100mm
2で除した値を百分率で表したものである。面積率は特に制限されないが、例えば6.5%未満の範囲である。面積率が低いほど、ホーン6のアンビルロール5への当接圧(
図6)を低くして超音波溶着することが可能であり、最適な溶着条件に調整しやすい。
【0033】
(サイドシール部の最大荷重)
物性的には、サイドシール部304のJIS P8113に基づくT型剥離試験における最大荷重が6N/cm以上9N/cm以下の範囲である。最大荷重が5N/cm以上あれば、ふつうの着用状態であればサイドシール部304が自然に破れる恐れはない。しかしながら、5N/cm以上6N/cm未満の範囲では、不織布の地合が悪い場合には製造条件のコントロールが困難になる傾向がある。一方、通常は11N/cm以下であれば切り離しは容易であるが、近年介護者自身の高齢化が進む中で、9N/cm以上11N/cm以下では高齢化した介護者が破るのが困難になる傾向がある。サイドシール部304のT型剥離試験における最大荷重(N/cm)とは、試験片を所定の条件で引っ張り、つかみ具の移動距離と荷重の曲線が持続的に下降し始めるときの荷重(最大引張荷重、N)を試験片の幅1cm当たりに換算した値である。
【0034】
(サイドシール部の最大荷重までのエネルギー吸収量)
本実施形態では、エネルギー吸収量を抑えることで、サイドシール部304を破るときの負担を抑えることができる。その結果、破れに対しより安全な設定をすることができる。本実施形態のサイドシール部304は、後述の試験方法により測定した最大荷重までのエネルギー吸収量を、測定サンプル1cm幅あたりに換算した値が50mJ以下である。これにより、着用時に自然に破れることがなく、介護者が破るときの負担が小さく、快適な破り心地になる。サイドシール部304のT型剥離試験における最大荷重までのエネルギー吸収量とは、試験片を材破するのに要する単位面積(試験長さ×試験幅)当たりのエネルギー量(mJ)を試験片の幅1cm当たりに換算した値である。
【0035】
図8は、サイドシール部304に対して、後述の方法で剥離試験を行ったときにみられる、つかみ具移動距離(横軸)と荷重(縦軸)との関係を示すグラフである。サイドシール部304の剥離を詳細に観察すると、最大荷重までは複数存在する樹脂塊Bを徐々に材破していく過程である。アンビル凸部痕Aはほとんど接合強度に影響しない。最大荷重までの曲線は、試験幅中にn箇所の接合点(接合部320)がある場合、その両端の樹脂塊Bの部分、2n箇所を起点に不織布の延伸を伴いながら引っ張っていく工程である。そのため最大荷重までのつかみ具間の移動距離は剥離方向の接合部の長さから予想される位置(X1の2倍の距離)よりも大きくなる。最大荷重は多くの樹脂塊Bが材破する点であり、最大荷重以降の下降する曲線は、材破しなかった残りの樹脂塊Bの材破と、材破した部分の周りに切れずに残った数本の繊維を引きちぎる工程である。この工程は、ピークの最大荷重を過ぎ、抵抗が減少していく工程であるため、介護者がサイドシール部304を破るときに負担となることはない。
【0036】
最大荷重はサイドシール部304を破るときに介護者が加える瞬間的な力であるのに対し、
図8の最大荷重までの曲線とX軸で囲まれた斜線の部分は引張エネルギーである。同じ最大荷重であっても引張エネルギーが小さいほうが快適に破ることができるのに対し、引張エネルギーが大きいほど強い力を長い時間かけることになるため、介護者がサイドシール部304を破るのに必要な労力が増す。そのため、所望の切り離し易さを得る上では、最大荷重だけでなく、最大荷重までの引張エネルギーを考察することが重要である。
【0037】
(T型剥離試験)
以下、本実施形態におけるT型剥離試験の方法について説明する。まず、試験片の調製方法は、製品状態でギャザーを含む場合と、不織布のみを溶着した場合を想定した2種類の方法を示す。
【0038】
(製品状態の試験片の調製)
製品のサイドシール部304から、パンツ型吸収性物品1の長手方向に50mm、幅方向に35mm程度の寸法で試験片を切り出す。この試験片は、一方向に配列された複数の接合部320を含み、さらに弾性伸縮部材311、313の配設によりその表面に形成されたギャザーを含んでいる(
図2)。次に、幅約60mm、つかみ具長さより5mm程度長い長さの坪量450g/m
2以上の厚紙に50mm幅の両面テープを貼ったものを2枚用意する。切り出した試験片の腹側領域13側のギャザーを延伸しながら、厚紙の端部と、試験片における複数の接合部320の最端部(根本)とが、厚み方向にできるだけ一致するように両面テープを介して厚紙を貼る。同様に背側領域15側にも厚紙を貼る。
【0039】
製品から切り出した試験片をそのまま使用してT型剥離試験を行った場合、まずギャザーの延伸が起こり、そのあとに樹脂塊Bの引張りが起こる。また、つかみ具に挟まれたギャザーである不織布の折り畳み部分が急激に外れ荷重が急激に低下することもある。ギャザーが最大荷重にほとんど影響を与えないことを確認しているが、引張エネルギーには大きな影響を与える。そのため引張試験の前にギャザーを延伸しておくことが重要である。厚紙の坪量と両面テープの接着強度は延伸して貼り付けたギャザーが再度縮まない抵抗があれば制限はない。またギャザーが延伸した状態を保てるのであれば他の手段でも問題ない。
【0040】
(不織布を接合した試験片)
前述の試験法ではギャザーの影響がないため、接合部320のパターンの検討には、実際のパンツ型おむつでなくても、不織布をベンチトップ型の超音波溶着機を使用し溶着したもので代替することができる。すなわち、任意の複数枚の不織布を重ね合わせ、所定の間隔を空けて超音波接合部320を一方向に配列し、表面にギャザーを有しない試料を作製する。この試料から、接合部320の配列方向に長さ50mm、接合部320の配列方向に垂直方向につかみ具より5mm程度長い長さで、試験片を切り出す。不織布の溶着は偶数枚で行うのが好ましく、剥離試験は中間の層間、たとえば6枚の不織布を溶着した場合には3枚目と4枚目の間の剥離を行う。
【0041】
前述の2種の試験片をT型剥離試験(客観的評価)及び剥離し易さについての官能試験(主観的評価)に供した場合、各試験片について、T型剥離試験と官能試験とが相互に他者の結果を追認するものになる。また、不織布のみの溶着体から切り出した試験片においても、単に最大荷重のみを考慮した場合に比べて、最大荷重及び該最大荷重までの引張エネルギーの吸収量を考慮することにより、接合性と切り離し性とのバランスをより正確に評価できることが確認されている。したがって、材破時の引張強度の最大荷重だけでなく、最大荷重までの引張エネルギーの吸収量を評価する本実施形態によれば、着用時の良好な接合性と脱着時の好適な切断性(切り離し性)とを高水準で両立したサイドシール部304を形成できる。
【0042】
(T型剥離試験)
T型剥離試験には、JIS P8113に規定された紙の引張試験で使用する装置と同様のものが使用できる。1例として、製品名:ORIENTEC RTC−1250A、エー・アンド・デー(株)製、等が挙げられる。つかみ具もJIS P8113に規定されている。T型剥離試験は、初期のつかみ具間距離10mm、移動速度50mm/分で行い、最大荷重と最大荷重でのエネルギーを測定する。本明細書では最大荷重の測定値を試験片の幅(cm)で除し、N/cmで表わす。エネルギー吸収量の測定値を試験片の幅で除し、mJ/cmで表わす。
【0043】
本明細書では、サンプル量又は試験機の仕様に応じて、T型剥離試験での試験片の幅は変更してもかまわないが、初期のつかみ具間距離は10mmでなければならない。試験条件の検証結果から、初期のつかみ具間距離を広げた場合、不織布面積が増えることにより、不織布が引張エネルギーを吸収し、接合点(接合部320)の剥離に要するエネルギーよりも大きくなることがあるためである。また、実際にサイドシール部304を破るときの指の間隔も5mm〜10mm程度であることや、狭すぎると試験片のセットが困難になることを合わせると10mmが最適な間隔である。
【0044】
<吸収パッド>
図2に示すように、吸収パッド20は、液透過性のトップシート24と、液不透過性のバックシート25と、トップシート24及びバックシート25の間に配置される吸収体29と、漏れ防止を目的に設けられた立体ギャザー40と、を含む。
【0045】
各種サイズの成人用のパンツ型吸収性物品1を提供する観点から、例えば、吸収パッド20の長手方向の寸法は300mm以上550mm以下の範囲、幅方向の寸法は100mm以上200mm以下の範囲である。
【0046】
(トップシート)
トップシート24は、体液が吸収体29へと移動するような液透過性を備えた基材から形成すればよく、例えば、サーマルボンド不織布、スパンボンド不織布等の不織布、サーマルボンド/スパンボンドを積層した複合不織布等の親水性の不織布材料等、感触が柔らかで肌に刺激を与えない材料から構成される。また、トップシート24には、液透過性を向上させるために、表面にエンボス加工や穿孔加工を施してもよい。これらのエンボス加工や穿孔加工を施すための方法としては、公知の方法を制限なく実施することができる。また、肌への刺激を低減させるため、トップシート24には、ローション、酸化防止剤、抗炎症成分、pH調整剤、抗菌剤、保湿剤等を含有させてもよい。さらに、強度及び加工性の点から、トップシート24の坪量は、例えば、18g/m
2以上40g/m
2以下の範囲である。トップシート24の形状としては特に制限はないが、漏れがないように体液を吸収体29へと誘導するために必要とされる、吸収体29を覆う形状であればよい。
【0047】
(バックシート)
バックシート25には、吸収体29が保持する体液が衣類を濡らさないように液不透過性の基材、例えば通気性又は非通気性の樹脂フィルムを使用できる。樹脂フィルムとしては、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン等からなる樹脂フィルム、ポリエチレンとポリプロピレンとの複合フィルム等が挙げられる。強度及び加工性の観点から、バックシート25の坪量は、例えば15g/m
2以上40g/m
2以下の範囲である。着用時の蒸れを防止するため、通気性の樹脂フィルムをバックシート25として使用することが好ましい。樹脂フィルムに通気性を付与するには、樹脂フィルムへのフィラーの配合、樹脂フィルムのエンボス加工等を実施すればよい。炭酸カルシウム等のフィラーを、公知の方法に従って樹脂フィルムに配合できる。
【0048】
(吸収体)
吸収パッド20は、トップシート24及びバックシート25の間に配置される吸収体29を有している。吸収体29は、基材としての吸収性繊維と、高吸水性ポリマー(SAP)と、を含有する。吸収性繊維は、一般に生理用ナプキンやおむつ、尿取りパッド等の吸収性物品に使用されるものであれば特に制限はなく、例えば、フラッフパルプ、コットン、レーヨン、アセテート、ティシュ、吸収紙、親水性不織布等を挙げることができる。これらの中でも、吸収性の観点からフラッフパルプが好ましい。フラッフパルプとしては、木材パルプ、合成繊維、ポリマー繊維、非木材パルプ等を綿状に解繊したものが挙げられる。吸収体29の吸収性繊維は、吸収性能及び肌触りの観点から、その坪量は例えば50g/m
2以上800g/m
2以下の範囲である。吸収体29の長手方向の寸法は270mm以上500mm以下の範囲、幅方向の寸法は90mm以上190mm以下の範囲である。また、吸収体29の形状は
図2に示したように長方形でもかまわないが、幅が150mm以上になる場合には、砂時計型のように股間の部分の幅を狭くすることで、着用者が足を動かしやすくすることがより望ましい。その場合、一番が幅が狭い部分の寸法は例えば80mm以上120mm以下の範囲である。
【0049】
吸収体29に使用される高吸水性ポリマー(以下「SAP」ともいう)としては、体液を吸収しかつ逆流を防止できるものであれば特に制限はなく、ポリアクリル酸塩、ポリアスパラギン酸塩、(デンプン−アクリル酸)グラフト共重合体、(アクリル酸−ビニルアルコール)共重合体、(イソブチレン−無水マレイン酸)共重合体及びそのケン化物等が挙げられる。これらの中でも、重量あたりの吸収量の観点から、ポリアクリル酸塩が好ましく、ポリアクリル酸ナトリウムがより好ましい。SAPは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。吸収体29におけるSAPの坪量は、吸収性能及び肌触りの観点から、例えば10g/m
2以上500g/m
2以下の範囲であり、吸収体29中のSAP含有量は例えば吸収体29全量の15質量%以上50質量%以下の範囲である。
【0050】
吸収体29における吸収性繊維及びSAPの形態は、吸収性繊維中にSAP粒子を混合して形成した積層マットの形態であることが好ましい。また、SAP粒子の漏洩防止や吸収体29の形状の安定化の目的から、吸収体29をキャリアシートに包むことが好ましい。キャリアシートの基材としては親水性を有するものであればよく、ティシュ、吸収紙、エアレイド不織布等の親水性不織布を挙げることができる。キャリアシートを複数備える場合は、キャリアシートの基材は同一のものであっても異なるものであってもよい。
【0051】
(立体ギャザー)
立体ギャザー40としては、疎水性繊維にて形成された撥水性又は液不透過性のシート、例えば、スパンボンド不織布、メルトブロー不織布、ポリエチレンフィルムを用いることができる。これらの基材から適宜選択し、二重に接合したものを用いることもできる。また、立体ギャザー40の坪量は、加工性及び強度の観点から、15g/m
2以上100g/m
2以下の範囲である。
【0052】
また、立体ギャザー40には、自由端側に少なくとも1本の弾性伸縮部材401を長手方向に沿って配設してもよい。これにより、自由端に起立性が付与され、着用者の体型に合わせて変形可能になり、フィット性が向上することで、尿等の体液の漏れを効果的に防止することができる。弾性伸縮部材としては、例えば、ポリウレタン糸、帯状のポリウレタンフィルム、糸状又は帯状の天然ゴム等が使用される。なお、吸収パッド20の長手方向両端部においては、立体ギャザー40は、トップシート24上に固定されていることが好ましい。これにより、立体ギャザー40は、長手方向両端部を除く部位のみにおいて起立することとなる。
【0053】
以上、本発明を、実施形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記の実施形態に記載の発明の範囲には限定されないことは言うまでもなく、上記実施形態に、多様な変更又は改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。また、そのような変更又は改良を加えた実施形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【実施例】
【0054】
以下に実施例及び比較例を挙げ、本発明をより具体的に説明する。
【0055】
(実施例1〜4、及び比較例1〜3)
ベンチトップ型超音波溶着機を用いて、坪量18g/m
2のスパンボンド不織布(縦150mm×横100mm)を6枚又は8枚重ねた状態で、
図9に示すアンビル凸部501の配置パターンに基づいて、表1に示すように各寸法を変更した5つの配置パターンa〜eで溶着した。溶着条件は処理時間0.1秒、振幅100%で、荷重はアンビルロール(配置パターンに応じてアンビルロールは変更される)により条件を変更し、剥離時に瞬間的にかかる力のピークとしては最適な、最大荷重が6N/cm以上10N/cm以下の範囲に調整した。表1において、ここで凸部とは、アンビル凸部501であり、面積比とは10mm×10mmの単位面積中に存在するアンビル凸部501の個数nと、1個のアンビル凸部501の頂面面積A1(mm
2)との積を、単位面積100mm
2で除した値を百分率で表したものである。
【0056】
【表1】
【0057】
実施例1〜4、及び比較例1〜3の各接合体について、これらをサイドシール部と想定した上で、T型剥離試験(客観的評価)及び下記に示す官能評価(主観的評価)を実施し、結果を表2に示す。
(T型剥離試験)
前述の方法に従ってT型剥離試験を実施し、最大荷重(N/cm)とそのときのエネルギー吸収量(mJ/cm)を測定した。なお、T型剥離試験には、エー・アンド・デー(株)製の材料試験機、製品名:ORIENTEC RTC−1250A、データの処理には同社の汎用試験機データ処理システムTACTを用いた。
(官能評価)
25mm幅に切り出した試験片を、溶着部分を中心にして約10mm幅で指でつかみ、接合部が並ぶ方向と垂直方向に引っ張り、試験片を剥離させ、以下の基準で評価した。
× 力をかけると抵抗がしばらくあった後、ピークに達し接合部が材破する。
〇 力をかけると瞬間的に抵抗があるが、あとは軽やかに接合部が材破する。
【0058】
【表2】
【0059】
官能試験によれば、実施例1〜4は適度な剥離性(切り離し性)であり、力をかけピークを越えると軽やかに接合部で剥離したのに対し、比較例1〜3は実施例と同じ程度の力をかけても剥離が起こらず、力を掛けた状態で接合部を伸長させている(変形させている)間にやっと剥離するような感じであった。使用したアンビルロールの凸部の各寸法、特に面積率は本実施形態の接合部の切り離し易さに大きな影響を及ぼすものであった。実施例の面積率約6%以下の接合部の作製では、比較例の面積率約8%以上の接合部の作製に比べて、ホーンからアンビルロールへの溶着圧力を低くすることができる。そのためか、引張強度の最大荷重、及び該最大荷重までのエネルギー吸収量が所定の範囲内になるような溶着条件の調整が容易であった。