【課題】パルスアーク溶接期間と短絡移行アーク溶接期間とを1周期として繰り返して溶接する場合において、溶接条件の細かい設定をすることなく、溶接が進行して母材の温度が上昇しても、裏波の不安定な発生及び溶け落ちの発生を抑制すること。
【解決手段】パルスアーク溶接期間Tarと短絡移行アーク溶接期間Tcrとを1周期Tacrとして溶接するアーク溶接装置において、アーク溶接装置は、溶接電圧Vwの平均値Vadに基づいて周期Tacr及び/又は短絡移行アーク溶接期間の時間比率Dtrを修正制御し、修正制御は、溶接電圧Vwの平均値Vadが基準電圧値Vt以上になると、周期Tacrを短くする制御及び/又は時間比率Dtrを大きくする制御である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0014】
[実施の形態1]
図1は、本発明の実施の形態1に係るアーク溶接装置のブロック図である。以下、同図を参照して各ブロックについて説明する。
【0015】
電源主回路PMは、3相200V等の商用電源(図示は省略)を入力として、後述する誤差増幅信号Eaに従ってインバータ制御等による出力制御を行い、出力電圧Eを出力する。この電源主回路PMは、図示は省略するが、商用電源を整流する1次整流器、整流された直流を平滑する平滑コンデンサ、平滑された直流を高周波交流に変換する上記の誤差増幅信号Eaによって駆動されるインバータ回路、高周波交流を溶接に適した電圧値に降圧する高周波変圧器、降圧された高周波交流を直流に整流する2次整流器を備えている。
【0016】
リアクトルWLは、上記の溶接電流Iwを平滑して安定したアーク3を持続させる。
【0017】
送給モータWMは、後述する送給制御信号Fcを入力として、パルスアーク溶接期間中は主に正送給し、短絡移行アーク溶接期間中は正逆送給して溶接ワイヤ1を送給速度Fwで送給する。送給モータWMには、過渡応答性の速いモータが使用される。溶接ワイヤ1の送給速度Fwの変化率及び送給方向の反転を速くするために、送給モータWMは溶接トーチ4の先端の近くに設置される場合がある。また、送給モータWMを2個使用して、プッシュプル方式の送給系とする場合もある。
【0018】
溶接ワイヤ1は、上記の送給モータWMに結合された送給ロール5の回転によって溶接トーチ4内を送給されて、母材2との間にアーク3が発生する。溶接トーチ4内の給電チップ(図示は省略)と母材2との間には溶接電圧Vwが印加され、溶接電流Iwが通電する。溶接トーチ4の先端からはシールドガス(図示は省略)が噴出して、アーク3を大気から遮蔽する。シールドガスとしては、溶接ワイヤ1の材質が鉄鋼の場合にはアルゴンガスと炭酸ガスとの混合ガスが使用され、溶接ワイヤ1の材質がアルミニウムの場合にはアルゴンガスが使用される。
【0019】
出力電圧設定回路ERは、予め定めた出力電圧設定信号Erを出力する。出力電圧検出回路EDは、上記の出力電圧Eを検出し平滑して、出力電圧検出信号Edを出力する。
【0020】
電圧誤差増幅回路EVは、上記の出力電圧設定信号Er及び上記の出力電圧検出信号Edを入力として、出力電圧設定信号Er(+)と出力電圧検出信号Ed(−)との誤差を増幅して、電圧誤差増幅信号Evを出力する。
【0021】
電流検出回路IDは、上記の溶接電流Iwを検出して、電流検出信号Idを出力する。電圧検出回路VDは、上記の溶接電圧Vwを検出して、電圧検出信号Vdを出力する。短絡判別回路SDは、上記の電圧検出信号Vdを入力として、この値が予め定めた短絡判別値(10V程度)未満のときは短絡期間にあると判別してHighレベルになり、以上のときはアーク期間にあると判別してLowレベルになる短絡判別信号Sdを出力する。
【0022】
正送加速期間設定回路TSURは、予め定めた正送加速期間設定信号Tsurを出力する。
【0023】
正送減速期間設定回路TSDRは、予め定めた正送減速期間設定信号Tsdrを出力する。
【0024】
逆送加速期間設定回路TRURは、予め定めた逆送加速期間設定信号Trurを出力する。
【0025】
逆送減速期間設定回路TRDRは、予め定めた逆送減速期間設定信号Trdrを出力する。
【0026】
正送ピーク値設定回路WSRは、後述するタイマ信号Tm及び上記の短絡判別信号Sdを入力として、タイマ信号TmがLowレベル(短絡移行アーク溶接期間Tc)に変化してから最初に短絡判別信号SdがHighレベル(短絡期間)に変化するまでの期間中は予め定めた初期値となり、それ以外の期間中は予め定めた定常値となる正送ピーク値設定信号Wsrを出力する。
【0027】
逆送ピーク値設定回路WRRは、予め定めた逆送ピーク値設定信号Wrrを出力する。
【0028】
短絡アーク送給速度設定回路FCRは、上記の正送加速期間設定信号Tsur、上記の正送減速期間設定信号Tsdr、上記の逆送加速期間設定信号Trur、上記の逆送減速期間設定信号Trdr、上記の正送ピーク値設定信号Wsr、上記の逆送ピーク値設定信号Wrr及び上記の短絡判別信号Sdを入力として、以下の処理によって生成された送給速度パターンを短絡アーク送給速度設定信号Fcrとして出力する。この短絡アーク送給速度設定信号Fcrが正の値のときは正送期間となり、負の値のときは逆送期間となる。
1)正送加速期間設定信号Tsurによって定まる正送加速期間Tsu中は0(但し、短絡移行アーク溶接期間Tcに切り替わった直後はパルス送給速度設定信号Far)から正送ピーク値設定信号Wsrによって定まる正の値の正送ピーク値Wspまで直線状に加速する短絡アーク送給速度設定信号Fcrを出力する。
2)続いて、正送ピーク期間Tsp中は、上記の正送ピーク値Wspを維持する短絡アーク送給速度設定信号Fcrを出力する。
3)短絡判別信号SdがLowレベル(アーク期間)からHighレベル(短絡期間)に変化すると、正送減速期間設定信号Tsdrによって定まる正送減速期間Tsdに移行し、上記の正送ピーク値Wspから0まで直線状に減速する短絡アーク送給速度設定信号Fcrを出力する。
4)続いて、逆送加速期間設定信号Trurによって定まる逆送加速期間Tru中は0から逆送ピーク値設定信号Wrrによって定まる負の値の逆送ピーク値Wrpまで直線状に加速する短絡アーク送給速度設定信号Fcrを出力する。
5)続いて、逆送ピーク期間Trp中は、上記の逆送ピーク値Wrpを維持する短絡アーク送給速度設定信号Fcrを出力する。
6)短絡判別信号SdがHighレベル(短絡期間)からLowレベル(アーク期間)に変化すると、逆送減速期間設定信号Trdrによって定まる逆送減速期間Trdに移行し、上記の逆送ピーク値Wrpから0まで直線状に減速する短絡アーク送給速度設定信号Fcrを出力する。
7)上記の1)〜6)を繰り返すことによって正負の台形波状に変化する送給パターンの短絡アーク送給速度設定信号Fcrが生成される。
【0029】
減流抵抗器Rは、上記のリアクトルWLと溶接トーチ4との間に挿入される。この減流抵抗器Rの値は、短絡期間中の溶接電流Iwの通電路の抵抗値(0.01〜0.03Ω程度)の50倍以上大きな値(0.5〜3Ω程度)に設定される。この減流抵抗器Rが溶接電流Iwの通電路に挿入されると、リアクトルWL及び溶接ケーブルのリアクトルに蓄積されたエネルギーが急速に消費される。
【0030】
トランジスタTRは、上記の減流抵抗器Rと並列に接続されて、後述する駆動信号Drに従ってオン又はオフ制御される。
【0031】
くびれ検出回路NDは、上記の短絡判別信号Sd、上記の電圧検出信号Vd及び上記の電流検出信号Idを入力として、短絡判別信号SdがHighレベル(短絡期間)であるときの電圧検出信号Vdの電圧上昇値が基準値に達した時点でくびれの形成状態が基準状態になったと判別してHighレベルとなり、短絡判別信号SdがLowレベル(アーク期間)に変化した時点でLowレベルになるくびれ検出信号Ndを出力する。また、短絡期間中の電圧検出信号Vdの微分値がそれに対応した基準値に達した時点でくびれ検出信号NdをHighレベルに変化させるようにしても良い。さらに、電圧検出信号Vdの値を電流検出信号Idの値で除算して溶滴の抵抗値を算出し、この抵抗値の微分値がそれに対応する基準値に達した時点でくびれ検出信号NdをHighレベルに変化させるようにしても良い。
【0032】
低レベル電流設定回路ILRは、予め定めた低レベル電流設定信号Ilrを出力する。電流比較回路CMは、この低レベル電流設定信号Ilr及び上記の電流検出信号Idを入力として、Id<IlrのときはHighレベルになり、Id≧IlrのときはLowレベルになる電流比較信号Cmを出力する。
【0033】
駆動回路DRは、上記の電流比較信号Cm及び上記のくびれ検出信号Ndを入力として、くびれ検出信号NdがHighレベルに変化するとLowレベルに変化し、その後に電流比較信号CmがHighレベルに変化するとHighレベルに変化する駆動信号Drを上記のトランジスタTRのベース端子に出力する。したがって、この駆動信号Drはくびれが検出されるとLowレベルになり、トランジスタTRがオフ状態になり通電路に減流抵抗器Rが挿入されるので、溶接電流Iwは急減する。そして、急減した溶接電流Iwの値が低レベル電流設定信号Ilrの値まで減少すると、駆動信号DrはHighレベルになり、トランジスタTRがオン状態になるので、減流抵抗器Rは短絡されて通常の状態に戻る。
【0034】
短絡アーク電流設定回路ICRは、上記の短絡判別信号Sd、上記の低レベル電流設定信号Ilr及び上記のくびれ検出信号Ndを入力として、以下の処理を行い、短絡アーク電流設定信号Icrを出力する。
1)短絡判別信号SdがLowレベル(アーク期間)のときは、低レベル電流設定信号Ilrとなる短絡アーク電流設定信号Icrを出力する。
2)短絡判別信号SdがHighレベル(短絡期間)に変化すると、予め定めた初期期間中は予め定めた初期電流設定値となり、その後は予め定めた短絡時傾斜で予め定めた短絡時ピーク設定値まで上昇してその値を維持する短絡アーク電流設定信号Icrを出力する。
3)その後に、くびれ検出信号NdがHighレベルに変化すると、低レベル電流設定信号Ilrの値となる短絡アーク電流設定信号Icrを出力する。
【0035】
電流降下時間設定回路TDRは、予め定めた電流降下時間設定信号Tdrを出力する。
【0036】
小電流期間回路STDは、上記の短絡判別信号Sd及び上記の電流降下時間設定信号Tdrを入力として、短絡判別信号SdがLowレベル(アーク期間)に変化した時点から電流降下時間設定信号Tdrによって定まる時間が経過した時点でHighレベルになり、その後に短絡判別信号SdがHighレベル(短絡期間)になるとLowレベルになる小電流期間信号Stdを出力する。
【0037】
ピーク期間設定回路TPRは、後述する最終パルス周期信号Stfを入力として、最終パルス周期信号StfがLowレベルのときは予め定めた定常ピーク期間となり、最終パルス周期信号StfがHighレベルのときは予め定めた最終ピーク期間となるピーク期間設定信号Tprを出力する。
【0038】
ピーク立上り期間設定回路TURは、後述する最終パルス周期信号Stfを入力として、最終パルス周期信号StfがLowレベルのときは予め定めた定常ピーク立上り期間となり、最終パルス周期信号StfがHighレベルのときは予め定めた最終ピーク立上り期間となるピーク立上り期間設定信号Turを出力する。
【0039】
ピーク立下り期間設定回路TPDRは、後述する最終パルス周期信号Stfを入力として、最終パルス周期信号StfがLowレベルのときは予め定めた定常ピーク立下り期間となり、最終パルス周期信号StfがHighレベルのときは予め定めた最終ピーク立下り期間となるピーク立下り期間設定信号Tpdrを出力する。
【0040】
ベース期間設定回路TBRは、予め定めたベース期間設定信号Tbrを出力する。
【0041】
ピーク電流設定回路IPRは、上記の電圧誤差増幅信号Evを入力として、変調制御を行い、ピーク電流設定信号Iprを出力する。変調制御は、Ipr=Ip0−∫Kp・Ev・dtのように電圧誤差増幅信号Evを積分することによって行う。Ip0はピーク電流値の初期値であり、Kpはピーク電流変調制御のゲインを適正値に調整するための定数である。
【0042】
ベース電流設定回路IBRは、上記の電圧誤差増幅信号Evを入力として、変調制御を行い、ベース電流設定信号Ibrを出力する。変調制御は、Ibr=Ib0−∫Kb・Ev・dtのように電圧誤差増幅信号Evを積分することによって行う。Ib0はベース電流値の初期値であり、Kbはベース電流変調制御のゲインを適正値に調整するための定数である。
【0043】
パルス初期逆送給期間設定回路TARRは、予め定めたパルス初期逆送給期間設定信号Tarrを出力する。
【0044】
パルス初期電流期間設定回路TASRは、予め定めたパルス初期電流期間設定信号Tasrを出力する。パルス初期電流設定回路IASRは、予め定めたパルス初期電流設定信号Iasrを出力する。
【0045】
パルス電流設定回路IARは、後述するタイマ信号Tm、上記のピーク期間設定信号Tpr、上記のピーク立上り期間設定信号Tur、上記のピーク立下り期間設定信号Tpdr、上記のベース期間設定信号Tbr、上記のピーク電流設定信号Ipr、上記のベース電流設定信号Ibr、上記のパルス初期電流期間設定信号Tasr及び上記のパルス初期電流設定信号Iasrを入力として、以下の処理を行い、パルス電流設定信号Iarを出力する。
1)タイマ信号TmがLowレベル(短絡移行アーク溶接期間)のときは、パルス初期電流設定信号Iasrの値をパルス電流設定信号Iarとして出力する。
2)タイマ信号TmがLowレベルからHighレベル(パルスアーク溶接期間)に変化した時点からパルス初期電流期間設定信号Tasrによって定まるパルス初期電流期間Tas中は、パルス初期電流設定信号Iasrの値をパルス電流設定信号Iarとして出力する。
3)続けて、ピーク立上り期間設定信号Turによって定まるピーク立上り期間Tu中は、パルス初期電流設定信号Iasr(第2回目のパルス周期からはベース電流設定信号Ibr)の値からピーク電流設定信号Iprの値へと上昇するパルス電流設定信号Iarを出力する。
4)続けて、ピーク期間設定信号Tprによって定まるピーク期間Tp中は、ピーク電流設定信号Iprの値を維持するパルス電流設定信号Iarを出力する。
5)続けて、ピーク立下り期間設定信号Tpdrによって定まるピーク立下り期間Tpd中は、ピーク電流設定信号Iprの値からベース電流設定信号Ibrの値へと下降するパルス電流設定信号Iarを出力する。
6)続けて、ベース期間設定信号Tbrによって定まるベース期間Tb中は、ベース電流設定信号Ibrの値を維持するパルス電流設定信号Iarを出力する。
7)上記の3)〜6)を1パルス周期として、タイマ信号TmがLowレベルに変化するまで繰り返す。
【0046】
平均電圧検出回路VADは、上記の電圧検出信号Vd及びタイマ信号Tmを入力として、タイマ信号Tmの1周期ごとの電圧検出信号Vdの平均値、又は、タイマ信号TmがHighレベル(パルスアーク溶接期間)のときの電圧検出信号Vdの平均値を検出して、平均電圧検出信号Vadを出力する。タイマ信号Tmの1周期は、パルスアーク溶接期間Taと短絡移行アーク溶接期間Tcとの1周期となる。
【0047】
電圧上昇判別回路HDは、上記の平均電圧検出信号Vadを入力として、平均電圧検出信号Vadの値が予め定めた基準電圧値Vt以上のときはHighレベルとなる電圧上昇判別信号Hdを出力する。
【0048】
周期設定回路TACRは、上記の電圧上昇判別信号Hdを入力として電圧上昇判別信号HdがLowレベルのときは予め定めた周期設定値を周期設定信号Tacrとして出力し、電圧上昇判別信号HdがHighレベルのときは予め定めた修正周期設定値を周期設定信号Tacrとして出力する。周期設定値>修正周期設定値である。
【0049】
時間比率設定回路DTRは、上記の電圧上昇判別信号Hdを入力として電圧上昇判別信号HdがLowレベルのときは予め定めた時間比率設定値を時間比率設定信号Dtrとして出力し、電圧上昇判別信号HdがHighレベルのときは予め定めた修正時間比率設定値を時間比率設定信号Dtrとして出力する。時間比率設定信号Dtrは百分率である。時間比率設定値<修正時間比率設定値である。時間比率は、短絡移行アーク溶接期間が周期に占める時間比率である。
【0050】
パルスアーク溶接期間設定回路TARは、上記の周期設定信号Tacr及び上記の時間比率設定信号Dtrを入力として、Tar=Tacr・(1−(Dtr/100))を算出して、パルスアーク溶接期間設定信号Tarを出力する。
【0051】
短絡移行アーク溶接期間設定回路TCRは、上記の周期設定信号Tacr及び上記の時間比率設定信号Dtrを入力として、Tcr=Tacr・(Dtr/100)を算出して、短絡移行アーク溶接期間設定信号Tcrを出力する。
【0052】
タイマ回路TMは、上記のパルスアーク溶接期間設定信号Tar、上記の短絡移行アーク溶接期間設定信号Tcr、上記の短絡判別信号Sd、上記のパルス電流設定信号Iar及び上記のベース電流設定信号Ibrを入力として、
タイマ信号TmがLowレベル(短絡移行アーク溶接期間Tc)に変化した時点から短絡移行アーク溶接期間設定信号Tcrによって定まる期間が経過した後に、短絡判別信号Sdが最初にLowレベル(アーク期間)に変化した時点でタイマ信号TmはHighレベルに変化し、
タイマ信号TmがHighレベル(パルスアーク溶接期間Ta)に変化した時点からパルスアーク溶接期間設定信号Tarによって定まる期間が経過した後に新たにパルス周期が開始されると最終パルス周期Tsfに入り、最終パルス周期Tsf中にパルス電流設定信号Iarがベース電流設定信号Ibrの値と等しなった時点で最終パルス周期Tsfを終了してタイマ信号TmはLowレベルに変化し、
上記の最終パルス周期Tsf中のみHighレベルとなる最終パルス周期信号Stfを出力する。
したがって、パルスアーク溶接期間Taは、パルスアーク溶接期間設定信号Tarの期間+最終パルス周期Tsfが開始するまでの期間+最終パルス周期Tsfの期間となる。短絡移行アーク溶接期間Tcは、短絡移行アーク溶接期間設定信号Tcrの期間+その後に最初の短絡期間が終了するまでの期間となる。
【0053】
パルス初期逆送給速度設定信号FARRは、負の値の予め定めたパルス初期逆送給速度設定信号Farrを出力する。パルス正送給速度設定回路FASRは、正の値の予め定めたパルス正送給速度設定信号Fasrを出力する。
【0054】
パルス送給速度設定回路FARは、上記のタイマ信号Tm、上記のパルス初期逆送給期間設定信号Tarr、上記のパルス初期逆送給速度設定信号Farr及び上記のパルス正送給速度設定信号Fasrを入力として、以下の処理を行い、パルス送給速度設定信号Farを出力する。
1)タイマ信号TmがLowレベル(短絡移行アーク溶接期間)のときは、パルス初期逆送給速度設定信号Farrの値をパルス送給速度設定信号Farとして出力する。
2)タイマ信号TmがLowレベルからHighレベル(パルスアーク溶接期間)に変化した時点からパルス初期逆送給期間設定信号Tarrによって定まるパルス初期逆送給期間Tair中は、パルス初期逆送給速度設定信号Farrの値をパルス送給速度設定信号Farとして出力する。
3)続けて、タイマ信号TmがLowレベルに変化するまでの期間中は、パルス正送給速度設定信号Fasrの値をパルス送給速度設定信号Farとして出力する。
【0055】
送給速度設定回路FRは、上記のタイマ信号Tm、上記の短絡アーク送給速度設定信号Fcr及び上記のパルス送給速度設定信号Farを入力として、タイマ信号TmがHighレベル(パルスアーク溶接期間Ta)のときはパルス送給速度設定信号Farを送給速度設定信号Frとして出力し、Lowレベル(短絡移行アーク溶接期間Tc)のときは短絡アーク送給速度設定信号Fcrを送給速度設定信号Frとして出力する。
【0056】
送給制御回路FCは、上記の送給速度設定信号Frを入力として、送給速度設定信号Frの値に相当する送給速度Fwで溶接ワイヤ1を送給するための送給制御信号Fcを上記の送給モータWMに出力する。
【0057】
電流設定回路IRは、上記のタイマ信号Tm、上記の短絡アーク電流設定信号Icr及び上記のパルス電流設定信号Iarを入力として、タイマ信号TmがHighレベル(パルスアーク溶接期間Ta)のときはパルス電流設定信号Iarを電流設定信号Irとして出力し、Lowレベル(短絡移行アーク溶接期間Tc)のときは短絡アーク電流設定信号Icrを電流設定信号Irとして出力する。
【0058】
電流誤差増幅回路EIは、上記の電流設定信号Ir及び上記の電流検出信号Idを入力として、電流設定信号Ir(+)と電流検出信号Id(−)との誤差を増幅して、電流誤差増幅信号Eiを出力する。
【0059】
電源特性切換回路SWは、上記のタイマ信号Tm、上記の電流誤差増幅信号Ei、上記の電圧誤差増幅信号Ev、上記の短絡判別信号Sd及び上記の小電流期間信号Stdを入力として、以下の処理を行い、誤差増幅信号Eaを出力する。
1)タイマ信号TmがLowレベルであり、かつ、短絡判別信号SdがHighレベル(短絡期間)に変化した時点から、短絡判別信号SdがLowレベル(アーク期間)に変化して上記の遅延期間が経過した時点までの期間中は、電流誤差増幅信号Eiを誤差増幅信号Eaとして出力する。
2)その後の大電流アーク期間中は、電圧誤差増幅信号Evを誤差増幅信号Eaとして出力する。
3)その後のアーク期間中に小電流期間信号StdがHighレベルとなる小電流アーク期間中は、電流誤差増幅信号Eiを誤差増幅信号Eaとして出力する。
4)タイマ信号TmがLowレベルに変化した時点から短絡判別信号Sdが最初にHighレベルとなるまでの期間及びタイマ信号TmがHighレベルのときは、電流誤差増幅信号Eiを誤差増幅信号Eaとして出力する。
この回路によって、短絡移行アーク溶接期間Tc中の溶接電源の特性は、短絡移行アーク溶接期間Tcが開始してから最初に短絡が発生するまでの期間、短絡期間、遅延期間及び小電流アーク期間中は定電流特性となり、それ以外の大電流アーク期間(タイマ信号TmがLowの期間において、短絡判別信号SdがHighからLowに変化してから上記の遅延時間が経過した時点から、小電流期間信号StdがLowからHighの変化する時点までの期間)中は定電圧特性となる。また、パルスアーク溶接期間Ta中の溶接電源の特性は、定電流特性となる。
【0060】
図2は、
図1のアーク溶接装置におけるパルススアーク溶接期間Taから短絡移行アーク溶接期間Tcへの切換時の各信号のタイミングチャートである。同図(A)は送給速度Fwの時間変化を示し、同図(B)は溶接電流Iwの時間変化を示し、同図(C)は溶接電圧Vwの時間変化を示し、同図(D)は短絡判別信号Sdの時間変化を示し、同図(E)は小電流期間信号Stdの時間変化を示し、同図(F)はタイマ信号Tmの時間変化を示し、同図(G)は最終パルス周期信号Stfの時間変化を示す。以下、同図を参照して各信号の動作について説明する。
【0061】
時刻t0は、同図(F)に示すタイマ信号TmがHighレベルに変化した時点(パルスアーク溶接期間Taの開始時点)からの経過時間が
図1のパルスアーク溶接期間設定信号Tarによって定まる期間に達した後に、新たにパルス周期が開始される時刻となる。時刻t0において、同図(G)に示すように、最終パルス周期信号StfがHighレベルに変化して最終パルス周期Tsfに入る。時刻t0〜t1の最終パルス周期Tsf中は、同図(B)に示すように、予め定めた最終ピーク立上り期間Tu中は、
図1のピーク電流設定信号Iprによって定まるピーク電流値Ipへと上昇する遷移電流が通電する。その後の予め定めた最終ピーク期間Tp中は、上記のピーク電流値Ipが通電する。その後の予め定めた最終ピーク立下り期間Tpd中は、上記のピーク電流値Ipから
図1のベース電流設定信号Ibrによって定まるベース電流値Ibへと下降する遷移電流が通電する。時刻t1において、最終ピーク立下り期間Tpdが終了して、溶接電流Iwが上記のベース電流Ibになると、同図(G)に示すように、最終パルス周期信号StfはLowレベルに戻り、最終パルス周期Tsfが終了する。最終パルス周期Tsf中の最終ピーク立上り期間Tu、最終ピーク期間Tp及び最終ピーク立下り期間Tpdの値は、最終パルス周期Tsf中に形成された溶滴が移行しない値に設定される。
【0062】
時刻t1は、同図(F)に示すタイマ信号TmがHighレベル(パルスアーク溶接期間Ta)に変化した時点から
図1のパルスアーク溶接期間設定信号Tarによって定まる期間が経過した後に、新たにパルス周期になり最終パルス周期Tsfに入り、最終パルス周期Tsf中に
図1のパルス電流設定信号Iarが
図1のベース電流設定信号Ibrの値と等しくなるタイミングとなる。そして、時刻t1において、同図(F)に示すように、タイマ信号TmはHighレベルからLowレベルに変化する。したがって、時刻t1において、パルスアーク溶接期間Taから短絡移行アーク溶接期間Tcに切り換わる。同図において、時刻t1以前の期間中は、同図(A)に示すように、送給速度Fwは、
図1のパルス正送給速度設定信号Fasrによって定まる一定の速度で正送されている。同図(C)に示すように、溶接電圧Vwは、溶接電流Iwと相似した波形となる。同図(D)に示すように、短絡判別信号Sdは、アーク期間が継続しているのでLowレベルのままである。同図(E)に示すように、小電流期間信号Stdは、Lowレベルのままである。
【0063】
時刻t1において、同図(F)に示すように、タイマ信号TmがLowレベルに変化して短絡移行アーク溶接期間Tcに入る。これに応動して、同図(A)に示すように、送給速度Fwは、
図1の正送ピーク値設定信号Wsrによって定まる正送ピーク値Wspへと加速され、時刻t3に短絡が発生するまでその値を維持する。この期間中の正送ピーク値Wspは、タイマ信号TmがLowレベルに変化してから最初に短絡判別信号SdがHighレベル(短絡期間)に変化するまでの期間中であるので、予め定めた初期値となる。これ以降の正送ピーク値Wspは、予め定めた定常値となる。初期値は、この期間中の溶接状態が安定になるように、定常値とは独立して設定される。初期値=定常値としても良い。
【0064】
時刻t1に短絡移行アーク溶接期間Tcが開始してから時刻t3に最初の短絡が発生するまでの期間中は、同図(B)に示すように、溶接電流Iwは、溶接電源が定電流特性となっているので、
図1の低レベル電流設定信号Ilrによって定まる低レベル電流値となる。
【0065】
同図(A)に示す送給速度Fwは、
図1の短絡アーク送給速度設定回路FCRから出力される短絡アーク送給速度設定信号Fcrの値に制御される。送給速度Fwは、
図1の正送加速期間設定信号Tsurによって定まる正送加速期間Tsu、短絡が発生するまで継続する正送ピーク期間Tsp、
図1の正送減速期間設定信号Tsdrによって定まる正送減速期間Tsd、
図1の逆送加速期間設定信号Trurによって定まる逆送加速期間Tru、アークが発生するまで継続する逆送ピーク期間Trp及び
図1の逆送減速期間設定信号Trdrによって定まる逆送減速期間Trdから形成される。さらに、正送ピーク値Wspは
図1の正送ピーク値設定信号Wsrによって定まり、逆送ピーク値Wrpは
図1の逆送ピーク値設定信号Wrrによって定まる。この結果、短絡アーク送給速度設定信号Fcrは、正負の略台形波波状に変化する送給パターンとなる。
【0066】
[時刻t3〜t6の短絡期間の動作]
正送ピーク期間Tsp中の時刻t3において短絡が発生すると、同図(C)に示すように、溶接電圧Vwは数Vの短絡電圧値に急減するので、同図(D)に示すように、短絡判別信号SdがHighレベル(短絡期間)に変化する。これに応動して、時刻t3〜t4の予め定めた正送減速期間Tsdに移行し、同図(A)に示すように、送給速度Fwは上記の正送ピーク値Wspから0まで減速する。例えば、正送減速期間Tsd=1msに設定される。
【0067】
同図(A)に示すように、送給速度Fwは時刻t4〜t5の予め定めた逆送加速期間Truに入り、0から上記の逆送ピーク値Wrpまで加速する。この期間中は短絡期間が継続している。例えば、逆送加速期間Tru=1msに設定される。
【0068】
時刻t5において逆送加速期間Truが終了すると、同図(A)に示すように、送給速度Fwは逆送ピーク期間Trpに入り、上記の逆送ピーク値Wrpになる。逆送ピーク期間Trpは、時刻t6にアークが発生するまで継続する。したがって、時刻t3〜t6の期間が短絡期間となる。逆送ピーク期間Trpは所定値ではないが、4ms程度となる。例えば、逆送ピーク値Wrp=−60m/minに設定される。
【0069】
同図(B)に示すように、時刻t3〜t6の短絡期間中の溶接電流Iwは、予め定めた初期期間中は予め定めた初期電流値となる。その後、溶接電流Iwは、予め定めた短絡時傾斜で上昇し、予め定めた短絡時ピーク値に達するとその値を維持する。
【0070】
同図(C)に示すように、溶接電圧Vwは、溶接電流Iwが短絡時ピーク値となるあたりから上昇する。これは、溶接ワイヤ1の逆送及び溶接電流Iwによるピンチ力の作用により、溶接ワイヤ1の先端の溶滴にくびれが次第に形成されるためである。
【0071】
その後に溶接電圧Vwの電圧上昇値が基準値に達すると、くびれの形成状態が基準状態になったと判別して、
図1のくびれ検出信号NdはHighレベルに変化する。
【0072】
くびれ検出信号NdがHighレベルになったことに応動して、
図1の駆動信号DrはLowレベルになるので、
図1のトランジスタTRはオフ状態となり
図1の減流抵抗器Rが通電路に挿入される。同時に、
図1の短絡アーク電流設定信号Icrが低レベル電流設定信号Ilrの値に小さくなる。このために、同図(B)に示すように、溶接電流Iwは短絡時ピーク値から低レベル電流値へと急減する。そして、溶接電流Iwが低レベル電流値まで減少すると、駆動信号DrはHighレベルに戻るので、トランジスタTRはオン状態となり減流抵抗器Rは短絡される。同図(B)に示すように、溶接電流Iwは、短絡アーク電流設定信号Icrが低レベル電流設定信号Ilrのままであるので、アーク再発生から予め定めた遅延期間が経過するまでは低レベル電流値を維持する。したがって、トランジスタTRは、くびれ検出信号NdがHighレベルに変化した時点から溶接電流Iwが低レベル電流値に減少するまでの期間のみオフ状態となる。同図(C)に示すように、溶接電圧Vwは、溶接電流Iwが小さくなるので一旦減少した後に急上昇する。上述した各パラメータは、例えば以下の値に設定される。初期電流=40A、初期期間=0.5ms、短絡時傾斜=180A/ms、短絡時ピーク値=400A、低レベル電流値=50A、遅延期間=0.5ms。
【0073】
[時刻t6〜t9のアーク期間の動作]
時刻t6において、溶接ワイヤの逆送及び溶接電流Iwの通電によるピンチ力によってくびれが進行してアークが発生すると、同図(C)に示すように、溶接電圧Vwは数十Vのアーク電圧値に急増するので、同図(D)に示すように、短絡判別信号SdがLowレベル(アーク期間)に変化する。これに応動して、時刻t6〜t7の予め定めた逆送減速期間Trdに移行し、同図(A)に示すように、送給速度Fwは上記の逆送ピーク値Wrpから0まで減速する。
【0074】
時刻t7において逆送減速期間Trdが終了すると、時刻t7〜t8の予め定めた正送加速期間Tsuに移行する。この正送加速期間Tsu中は、同図(A)に示すように、送給速度Fwは0から上記の正送ピーク値Wspまで加速する。この期間中はアーク期間が継続している。例えば、正送加速期間Tsu=1msに設定される。
【0075】
時刻t8において正送加速期間Tsuが終了すると、同図(A)に示すように、送給速度Fwは正送ピーク期間Tspに入り、上記の正送ピーク値Wspになる。この期間中もアーク期間が継続している。正送ピーク期間Tspは、時刻t9に短絡が発生するまで継続する。したがって、時刻t6〜t9の期間がアーク期間となる。そして、短絡が発生すると、時刻t3の動作に戻る。正送ピーク期間Tspは所定値ではないが、4ms程度となる。例えば、正送ピーク値Wsp=70m/minに設定される。
【0076】
時刻t6においてアークが発生すると、同図(C)に示すように、溶接電圧Vwは数十Vのアーク電圧値に急増する。他方、同図(B)に示すように、溶接電流Iwは、時刻t6〜t61の遅延期間の間は低レベル電流値を継続する。その後、時刻t61から溶接電流Iwは急速に増加してピーク値となり、その後は徐々に減少する大電流値となる。この時刻t61〜t81の大電流アーク期間中は、
図1の電圧誤差増幅信号Evによって溶接電源のフィードバック制御が行われるので、定電圧特性となる。したがって、大電流アーク期間中の溶接電流Iwの値はアーク負荷によって変化する。
【0077】
時刻t6にアークが発生してから
図1の電流降下時間設定信号Tdrによって定まる電流降下時間が経過する時刻t81において、同図(E)に示すように、小電流期間信号StdがHighレベルに変化する。これに応動して、溶接電源は定電圧特性から定電流特性に切り換えられる。このために、同図(B)に示すように、溶接電流Iwは低レベル電流値に低下し、短絡が発生する時刻t9までその値を維持する。同様に、同図(C)に示すように、溶接電圧Vwも低下する。小電流期間信号Stdは、時刻t9に短絡が発生するとLowレベルに戻る。
【0078】
短絡移行アーク溶接期間Tcは、短絡期間とアーク期間との繰り返しの複数の周期を含んでいる。短絡/アークの1周期は、例えば10ms程度である。
図2においては、溶滴が移行しない状態のベース期間の開始時点で短絡移行アーク溶接期間Tcに切り換わる場合である。これ以外にも、ベース期間Tbの途中の期間で切り換わるようにしても良い。
【0079】
図3は、
図1のアーク溶接装置における短絡移行アーク溶接期間Tcからパルスアーク溶接期間Taへの切換時の各信号のタイミングチャートである。同図(A)は送給速度Fwの時間変化を示し、同図(B)は溶接電流Iwの時間変化を示し、同図(C)は溶接電圧Vwの時間変化を示し、同図(D)は短絡判別信号Sdの時間変化を示し、同図(E)は小電流期間信号Stdの時間変化を示し、同図(F)はタイマ信号Tmの時間変化を示す。以下、同図を参照して各信号の動作について説明する。
【0080】
時刻t1において、同図(B)に示すように、溶接電流Iwは、短絡が解除されてアークが再発生した時点であるので、低レベル電流値となっている。そして、時刻t1において、同図(F)に示すタイマ信号TmがLowレベル(短絡移行アーク溶接期間Tc)に変化した時点から
図1の短絡移行アーク溶接期間設定信号Tcrによって定まる期間が経過した後に、短絡判別信号Sdが最初にLowレベル(アーク期間)に変化した時点であるので、同図(F)に示すように、タイマ信号TmはLowレベルからHighレベルに変化する。したがって、時刻t1において、短絡移行アーク溶接期間Tcからパルスアーク溶接期間Taに切り換わる。同図において、時刻t1以前の期間中は、同図(A)に示すように、送給速度Fwは、逆送ピーク値Wrpの状態にある。同図(C)に示すように、溶接電圧Vwは短絡電圧値となっている。同図(D)に示すように、短絡判別信号Sdは、時刻t1においてHighレベル(短絡期間)からLowレベル(アーク期間)へと変化する。同図(E)に示すように、小電流期間信号Stdは、Lowレベルのままである。
【0081】
時刻t1において、同図(F)に示すように、タイマ信号TmがHighレベルに変化してパルスアーク溶接期間Taに入る。これに応動して、同図(A)に示すように、送給速度Fwは、
図1のパルス初期逆送給期間設定信号Tarrによって定まるパルス初期逆送給期間Tairに入る。この時刻t1〜t2のパルス初期逆送給期間Tair中の送給速度Fwは、
図1のパルス初期逆送給速度設定信号Farrによって定まるパルス初期逆送給速度Faとなる。時刻t2において、パルス初期逆送給期間Tairが終了すると、同図(A)に示すように、送給速度Fwは、
図1のパルス正送給速度設定信号Fasrによって定まるパルス正送給速度Fasとなり、一定の送給速度で正送給される。
【0082】
同時に、時刻t1において、パルスアーク溶接期間Taに入ると、同図(B)に示すように、溶接電流Iwは、
図1のパルス初期電流期間設定信号Tasrによって定まるパルス初期電流期間Tasに入る。この時刻t1〜t3のパルス初期電流期間Tas中の溶接電流Iwは、
図1のパルス初期電流設定信号Iasrによって定まるパルス初期電流Iasとなる。
【0083】
時刻t3以降は、、定常期間となる。同図(B)に示すように、時刻t3〜t4の予め定めた定常ピーク立上り期間Tu中は、
図1のピーク電流設定信号Iprによって定まるピーク電流値Ipへと上昇する遷移電流が通電する。時刻t4〜t5の予め定めた定常ピーク期間Tp中は、上記のピーク電流値Ipが通電する。時刻t5〜t6の予め定めた定常ピーク立下り期間Tpd中は、上記のピーク電流値Ipから
図1のベース電流設定信号Ibrによって定まるベース電流値Ibへと下降する遷移電流が通電する。時刻t6〜t7の予め定めたベース期間Tb中は、上記のベース電流値Ibが通電する。パルスアーク溶接期間Ta中は、溶接電源は定電流特性となっている。このために、溶接電流Iwは、
図1のパルス電流設定信号Iarによって設定される。同図(C)に示すように、溶接電圧Vwは、電流波形と相似した波形となる。時刻t3〜t7の期間が1パルス周期Tfとなる。アーク長を適正値に維持するために、溶接電圧Vwの平均値が目標値と等しくなるように、ピーク電流Ip及びベース電流Ibが変調制御される(電流変調制御)。これ以外の変調制御の方式としては、パルス周期Tfを変調する周波数変調制御、ピーク期間Tpを変調するピーク期間変調制御等がある。どの変調制御においても、1パルス周期Tf中に1つの溶滴が移行する、いわゆる1パルス周期1溶滴移行状態にすることで、溶接状態を良好にすることができる。各パラメータの数値例は、Tu=1.5ns、Tp=0.2ms、Tpd=1.5ms、Tb=7ms、Ip=350〜450A及びIb=30〜80Aである。
【0084】
パルスアーク溶接期間Taは、複数のパルス周期Tfを含んでいる。パルス周期Tfは、例えば10ms程度である。
【0085】
時刻t1において、パルスアーク溶接期間Taが開始された時点では、短絡が解除された直後であるのでアーク長は非常に短い状態になっている。時刻t1からのパルス初期逆送給期間Tairは、アーク長が所望値まで長くなるように設けている。アーク長を所望値まで長くした後の時刻t3から最初のピーク電流Ipを通電することによって、溶滴形成状態を最初の周期から安定にすることができる。これにより、短絡移行アーク溶接期間Tcからパルスアーク溶接期間Taへの切り換えを円滑にすることができる。。したがって、パルス初期逆送給期間Tair及びパルス初期逆送給速度Faは、アーク長が所望値まで長くなる値に設定される。このためには、パルス初期逆送給期間Tairは、少なくとも
図2の逆送減速期間Trdよりも長い期間に設定される。また、パルス初期逆送給速度Faは、
図2の逆送ピーク値Wrpよりも小さな値である。例えば、Tar=3ms、Fa=−6m/minである。
【0086】
さらに、パルス初期逆送給期間Tairを、溶接電圧Vwが基準電圧値まで上昇する期間とする。溶接電圧Vwは、アーク長と比例関係にある。したがって、基準電圧値を所望のアーク長に対応した値とすることで、パルス初期逆送給期間Tairを自動的に設定することができ、パラメータの設定作業が容易になる。
【0087】
さらに、パルス初期逆送給期間Tair中は、溶接電流Iwをベース電流Ibよりも大きな値であり、かつ、ピーク電流Ipよりも小さな値となるパルス初期電流Iasに維持する。パルス初期電流Iasは、予め定めたパルス初期電流期間Tas中通電する。Tar<Tasとなるように設定される。パルス初期電流Iasをベース電流Ibよりも大きな値にすることによって、溶接ワイヤの溶融を促進して、アーク長の短い期間における溶接ワイヤと母材との再短絡を防止することができる。このために、パルスアーク溶接期間Taへの切り換え時のスパッタを少なくすることができ、切り換えをさらに円滑にすることができる。パルス初期電流Iasをピーク電流Ipよりも小さな値にすることによって、アーク長が急激に燃え上がり、アーク長が所望値よりも長くなり過ぎることを抑制することができる。例えば、Tas=5ms、Ias=100Aである。
【0088】
さらに、パルス初期逆送給期間Tairが経過した後に、最初のピーク電流Ipを通電する。すなわち、Tar<Tasとなるように設定することを意味している。パルス初期逆送給期間Tairが終了した後に、最初のパルス周期を開始することによって、最初のパルス周期における溶滴移行状態を確実に安定にすることができる。
【0089】
以下、本実施の形態の作用効果について説明する。
(1)溶接が開始されると、
図2及び
図3で上述したように、パルスアーク溶接期間Ta及び短絡移行アーク溶接期間Tcを1周期として溶接が行われる。両期間Ta及びTcの時間長さは、
図1の周期設定信号Tacrの周期設定値及び時間比率設定信号Dtrの時間比率設定値からパルスアーク溶接期間設定信号Tar及び短絡移行アーク溶接期間設定信号Tcrが算出されて設定される。
図1の周期設定信号Tacrの設定範囲は0.1〜1秒程度であり、
図1の時間比率設定信号Dtrの設定範囲は30〜70%程度である。したがって、パルスアーク溶接期間Ta及び短絡移行アーク溶接期間Tcは、30〜700ms程度である。
【0090】
(2)溶接が進行して母材の温度が上昇したために、ビードの裏波が発生する状態又は溶け落ちの発生の前兆状態になると、溶融池が凹んだ状態となり、給電チップ・母材間距離が長くなる、この結果、溶接電圧の平均値(平均電圧検出信号Vad)が通常値から上昇して基準電圧値Vt以上となる。この状態になると、
図1の電圧上昇判別信号HdがHighレベルに変化する。これに応動して、周期設定信号Tacrの値は(1)項の周期設定値から修正周期設定値へと切り換わり、時間比率設定信号Dtrの値は(1)項の時間比率設定値から修正時間比率設定値へと切り換わる。ここで、周期設定値>修正周期設定値であり、時間比率設定値<修正時間比率設定値であるので、周期は短くなり、短絡移行アーク溶接期間Tcの時間比率は大きくなる。この結果、アークの集中性が高まり、母材への入熱量も小さくなるので、ビードの裏波の不安定な発生及び溶け落ちの発生を抑制して、良好な溶接品質を得ることができる。これらの周期及び時間比率の修正は自動的に行われるので、溶接進行に伴い溶接条件を細かく設定する必要もない。上記の基準電圧値Vtは、(1)項の通常溶接時の溶接電圧の平均値から2V程度上昇した値に設定される。修正周期設定値は周期設定値の0.3〜0.7倍程度に設定され、修正時間比率設定値は時間比率設定値に10〜20%を加算した値に設定される。例えば、周期設定値=200ms、修正周期設定値=100ms、時間比率設定値=50%、修正時間比率設定値=60%に設定される。
【0091】
上記の溶接電圧の平均値として、パルスアーク溶接期間と短絡移行アーク溶接期間との1周期ごとの平均値を使用すれば、溶融池が凹んだ状態となり給電チップ・母材間距離が長くなったことを迅速かつ正確に検出することができる。このために、ビードの裏波の不安定な発生及び溶け落ちの発生をより確実に抑制することができる。さらに、上記の溶接電圧の平均値として、パルスアーク溶接期間中の平均値を使用すれば、溶融池が凹んだ状態となり給電チップ・母材間距離が長くなったことをさらに迅速かつ正確に検出することができる。これは、パルスアーク溶接期間中の入熱が短絡移行アーク溶接期間中の入熱よりも大きいので、溶融池の凹みが大きくなり、給電チップ・母材間距離も長くなるために、検出精度が向上するためである。
【0092】
上記においては、溶接電圧の平均値が基準電圧値以上になると、周期及び時間比率をともに修正する場合について説明したが、どちらか一方だけを修正するようにしても良い。