【実施例】
【0064】
[噴射材の砥粒サイズ]
最初にブラスト加工工程(S12)を実行する前のアルミ部材2の酸化被膜の膜厚を計測した。「オージェ電子分光法(AES:Auger electron spectroscopy)」を用いてアルミ酸化皮膜の深さ方向分析を行った。酸化物/金属の界面付近では酸化物と金属成分が同時に検出されるためにこれらをスペクトル合成法によって分離して、酸化被膜の膜厚を求めた。酸化被膜の膜厚は72nmであった。次に、
図3〜
図5に示されるブラスト加工装置を用いてブラスト加工工程(S12)を実行後、アルミ部材2の酸化被膜の膜厚を計測した。砥粒の中心粒径が600μm〜710 μmの噴射材を用いた場合、酸化被膜の膜厚は13 nmであった。砥粒の中心粒径が41 μm〜50 μmの噴射材(最大粒子径127 μm以下、平均粒子径57μm ± 3 μm)を用いた場合、酸化被膜の膜厚は9 nmであった。このため、少なくとも710 μm以下の噴射材を用いることで、アルミ部材2の表面2aの酸化被膜を除去できることが確認された。
【0065】
[加熱温度を変化させた場合のアルミ部材の表面状態及び表面粗さの確認]
アルミ部材は、アルミニウム板(JIS:A5052)を用いた。アルミ部材に対し、表面水酸化工程(S14)を実行した。表面水酸化工程(S14)として、オートクレーブ内に純水を10ml投入し、アルミニウム板を配置して、処理時間を24時間とした水蒸気処理をおこなった。以下、水蒸気処理の処理時間を単に「処理時間」と記載する場合がある。水蒸気処理の加熱温度は、それぞれ140℃、180 ℃、及び220 ℃である。なお、加熱温度が140 ℃の場合におけるオートクレーブ内の圧力は0.5 MPaとなり、加熱温度が180 ℃の場合におけるオートクレーブ内の圧力は1.0MPaとなり、加熱温度が220 ℃の場合におけるオートクレーブ内の圧力は2.3 MPaとなった。そして、電界放出形走査電子顕微鏡(FE−SEM:Field Emission Scanning Electron Microscope)を用いて表面観察し、表面粗さを確認した。
【0066】
図12は、アルミ部材の表面観察結果である。
図12の(A),(B),(C)は、それぞれ140℃、180 ℃、220 ℃の表面水酸化工程(S14)後のアルミニウム板の表面観察結果である。
図12の(A),(B),(C)に示されるように、表面水酸化工程(S14)における加熱温度が高くなるにしたがって、アルミ部材上の突起が大きく成長していることが確認された。
【0067】
図13は、アルミ部材の表面の結晶構造解析結果(X線回折測定)である。
図13において、縦軸は回折X線強度を示し、横軸は回折角度を示している。
図13に示されるように、アルミ部材に対してX線回折測定により結晶構造を解析した結果、アルミニウム(Al)、水酸化酸化アルミニウム(AlO(OH))、及びシリカマグネシウム(Mg
2Si)の回折ピークが出現した。これにより、アルミ部材の表面は、アルミニウム、水酸化酸化アルミニウム及びシリカマグネシウムを含むことが明らかとなった。また、水酸化酸化アルミニウムの回折ピークは、加熱温度が高くなるほど明瞭に現れた。これにより、加熱温度が高くなるほど水酸化酸化アルミニウムが成長していることが確認された。
【0068】
また、上記のアルミ部材の表面粗さについてはJIS B 0601(1994)に規定される算術平均粗さRaを測定した。加熱温度が140℃の場合におけるアルミ部材の算術平均粗さRaは0.42 μmとなり、加熱温度が180 ℃の場合におけるアルミ部材の算術平均粗さRaは0.56 μmとなり、加熱温度が220℃の場合におけるアルミ部材の算術平均粗さRaは0.78 μmとなった。表面水酸化工程(S14)を実行していないアルミ部材の算術平均粗さRaは0.39μmであった。これにより、水蒸気処理の加熱温度が高くなるにしたがって、アルミ部材の表面粗さ(算術平均粗さRa)が大きくなることが確認された。また、水蒸気処理の加熱温度が140℃以上のとき、アルミ部材の表面粗さを増大させることが確認された。
【0069】
[処理時間を変化させた場合のアルミ部材の表面状態の確認]
図3〜
図5に示されるブラスト加工装置を用いてブラスト加工工程(S12)を実行した。アルミ部材は、アルミニウム板(JIS:A5052)を用いた。ブラスト加工には、材料がアルミナ、砥粒中心粒径が106μm〜125μmの噴射材を用いた。ブラスト圧は1.0 MPaとした。ブラスト加工工程後に、電界放出形走査電子顕微鏡(FE−SEM)を用いて表面観察した。
【0070】
続いて、表面水酸化工程(S14)を実行した。オートクレーブ内に純水を10ml投入し、ブラスト加工されたアルミニウム板を配置して、加熱温度を180℃とした水蒸気処理をおこなった。処理時間は、3時間、6時間、及び24時間である。なお、オートクレーブ内の圧力は1.0MPaとなった。そして、電界放出形走査電子顕微鏡(FE−SEM)を用いて表面観察した。
【0071】
図14は、アルミ部材の表面観察結果である。
図14の(A)はブラスト加工工程(S12)後のアルミニウム板の表面観察結果であり、
図14の(B)は、
図14の(A)を拡大したアルミニウム板の表面観察結果である。
図14の(C)は表面水酸化工程(S14)を3時間実行した後のアルミニウム板の表面観察結果である。
図14の(D)は、
図14の(C)を拡大したアルミニウム板の表面観察結果である。
図14の(E)は表面水酸化工程(S14)を6時間実行した後のアルミニウム板の表面観察結果である。
図14の(F)は、
図14の(E)を拡大したアルミニウム板の表面観察結果である。
図14の(G)は表面水酸化工程(S14)を24時間実行した後のアルミニウム板の表面観察結果である。
図14の(H)は、
図14の(G)を拡大したアルミニウム板の表面観察結果である。
【0072】
図14の(A),(B)に示されるように、ブラスト加工工程(S12)後のアルミ部材2の表面2aは、凹凸が形成されていること、鋭角の突起があることが確認された。これに対して、
図14の(C)〜(H)に示されるように、表面水酸化工程(S14)後のアルミ部材2の表面2aは、全体的に丸みを帯びていることが確認された。また、
図14の(C),(E),(G)と(D),(F),(H)とを比較してわかるように、表面水酸化工程(S14)後のアルミニウム板の表面には、50nm〜1000 nmの微細な突起が存在することが確認された。
【0073】
図15は、アルミ部材の表面の結晶構造解析結果(X線回折測定)である。
図15において、縦軸は回折X線強度を示し、横軸は回折角度を示している。
図15に示されるように、アルミ部材に対してX線回折測定により結晶構造を解析した結果、アルミニウム(Al)、水酸化酸化アルミニウム(AlO(OH))、及びシリカマグネシウム(Mg
2Si)の回折ピークが出現した。これにより、アルミ部材の表面は、アルミニウム、水酸化酸化アルミニウム及びシリカマグネシウムを含むことが明らかとなった。また、水酸化酸化アルミニウムの回折ピークは、処理時間が長くなるほど明瞭に現れた。これにより、処理時間が長くなるほど水酸化酸化アルミニウムが成長していることが確認された。
【0074】
[処理時間を変化させた場合のアルミ部材の表面粗さの確認]
アルミ部材は、アルミニウム板(JIS:A5052)を用いた。アルミ部材に対し、表面水酸化工程(S14)を実行した。表面水酸化工程(S14)として、オートクレーブ内に純水を10ml投入し、ブラスト加工されたアルミニウム板を配置して、加熱温度を180℃とした水蒸気処理をおこなった。水蒸気処理の処理時間は、それぞれ2時間、24時間、及び36時間である。なお、オートクレーブ内の圧力は1.0MPaとなった。
【0075】
この結果、処理時間が2時間の場合におけるアルミ部材の算術平均粗さRaは0.40μmとなり、処理時間が24時間の場合におけるアルミ部材の算術平均粗さRaは0.56 μmとなり、処理時間が36時間の場合におけるアルミ部材の算術平均粗さRaは0.59μmとなった。表面水酸化工程(S14)を実行していないアルミ部材の算術平均粗さRaは0.39μmであった。
【0076】
これにより、水蒸気処理の処理時間が長くなるにしたがって、アルミ部材の表面粗さ(算術平均粗さRa)が大きくなることが確認された。また、水蒸気処理の処理時間が2時間以上のとき、アルミ部材の表面粗さを増大させることが確認された。また、処理時間が24時間であった場合の結果と処理時間が36時間であった場合の結果とを比較することで、処理時間が24時間を超えるとアルミ部材の表面粗さ(算術平均粗さRa)の増大割合が鈍化することが確認された。このため、水蒸気処理の処理時間が24時間以下のとき、アルミ部材の表面粗さを効率良く増大させることが確認された。
【0077】
[せん断強度の確認]
実施例1〜7及び比較例1〜6を用意してせん断強度を確認した。
【0078】
[実施例1〜7]
実施例1は、
図3〜
図5に示されるブラスト加工装置を用いてブラスト加工工程(S12)を実行した。アルミ部材は、アルミニウム板(JIS:A5052)を用いた。表面水酸化工程(S14)を実行した。オートクレーブ内に純水を10ml投入し、ブラスト加工されたアルミニウム板を配置して、加熱温度を180 ℃とし、処理時間を2時間とした水蒸気処理をおこなった。続いて、接合工程(S16)を実行した。
図6及び
図7に示される金型20を用いて、アルミ部材2に樹脂部材3を接合させた。樹脂部材3は、PPS(Polyphenylenesulfide)樹脂を用いた。樹脂部材3は、縦、横、厚さが10 mm×45 mm×3.0 mmとなるように設定した。射出成形の保持時(型閉じ時)において、金型温度は220℃、保持圧力は5MPa、保持時間は300 sとした。アルミ部材2と樹脂部材3との重なりは5 mmとした。
【0079】
実施例2は、ブラスト加工工程(S12)及び接合工程(S16)は実施例1と同一とした。実施例3の表面水酸化工程(S14)では、処理時間を3時間とし、他の条件を実施例1と同一とした水蒸気処理をおこなった。
【0080】
実施例3は、ブラスト加工工程(S12)及び接合工程(S16)は実施例1と同一とした。実施例3の表面水酸化工程(S14)では、処理時間を6時間とし、他の条件を実施例1と同一とした水蒸気処理をおこなった。
【0081】
実施例4は、ブラスト加工工程(S12)及び接合工程(S16)は実施例1と同一とした。実施例4の表面水酸化工程(S14)では、処理時間を24時間とし、他の条件を実施例1と同一とした水蒸気処理をおこなった。
【0082】
実施例5は、アルミ部材として、ブラスト加工工程(S12)を実行し、実施例3と同一の表面水酸化工程(S14)を実行したアルミニウム板(JIS:A5052)を用いた。ブラスト加工には、材料がアルミナ、砥粒中心粒径が106μm〜125μmの噴射材を用いた。ブラスト圧は0.4 MPaとした。このとき、アルミ部材の表面の算術平均傾斜は、0.17未満となった。接合工程(S16)は実施例1と同一とした。
【0083】
実施例6は、ブラスト加工工程(S12)及び接合工程(S16)は実施例1と同一とした。実施例6の表面水酸化工程(S14)では、加熱温度を140℃とし、他の条件を実施例3と同一とした水蒸気処理をおこなった。
【0084】
実施例7は、ブラスト加工工程(S12)及び接合工程(S16)は実施例1と同一とした。実施例7の表面水酸化工程(S14)では、加熱温度を220℃とし、他の条件を実施例3と同一とした水蒸気処理をおこなった。
【0085】
[比較例1〜6]
比較例1は、アルミ部材として、ブラスト加工工程(S12)、表面水酸化工程(S14)を実行していないアルミニウム板(JIS:A5052)を用いた。このアルミ部材とPPS樹脂とを接合させた部材を比較例1とした。
【0086】
比較例2は、アルミ部材として、実施例1と同一のブラスト加工工程(S12)を実行し、表面水酸化工程(S14)を実行していないアルミニウム板(JIS:A5052)を用いた。接合工程(S16)は実施例1と同一とした。
【0087】
比較例3は、アルミ部材として、実施例5と同一のブラスト加工工程(S12)を実行し、表面水酸化工程(S14)を実行していないアルミニウム板(JIS:A5052)を用いた。接合工程(S16)は実施例1と同一とした。
【0088】
比較例4は、アルミ部材として、ブラスト加工工程(S12)を実行せず、表面水酸化工程(S14)を実行したアルミニウム板(JIS:A5052)を用いた。表面水酸化工程(S14)では、加熱温度を140℃とし、他の条件を実施例4と同一とした水蒸気処理をおこなった。接合工程(S16)は実施例1と同一とした。
【0089】
比較例5は、アルミ部材として、ブラスト加工工程(S12)を実行せず、実施例4と同一の表面水酸化工程(S14)を実行したアルミニウム板(JIS:A5052)を用いた。接合工程(S16)は実施例1と同一とした。
【0090】
比較例6は、アルミ部材として、ブラスト加工工程(S12)を実行せず、表面水酸化工程(S14)を実行したアルミニウム板(JIS:A5052)を用いた。表面水酸化工程(S14)では、加熱温度を220℃とし、他の条件を実施例4と同一とした水蒸気処理をおこなった。接合工程(S16)は実施例1と同一とした。
【0091】
[接合強度評価]
上記条件で作成された実施例1〜7及び比較例1〜6のせん断強度を測定した。評価装置は、ISO 19095に準拠する試験方法で測定した。
図16は、実施例に係る加工条件及びせん断強度の結果である。
図16に示されるように、実施例1のせん断強度は、21MPaであり、実施例2のせん断強度は、30 MPaであり、実施例3のせん断強度は、38 MPaであり、実施例4のせん断強度は、26 MPaであり、実施例5のせん断強度は、13MPaであり、実施例6のせん断強度は、30 MPaであり、実施例7のせん断強度は、35 MPaであった。比較例1のせん断強度は、1 MPaであり、比較例2のせん断強度は、15MPaであり、比較例3のせん断強度は、11 MPaであり、比較例4のせん断強度は、7.2 MPaであり、比較例5のせん断強度は、9.9 MPaであり、比較例6のせん断強度は、3.9MPaであった。
【0092】
実施例1〜4と比較例2,3とを比較すると、ブラスト加工工程(S12)及び表面水酸化工程(S14)を実行することによって、ブラスト加工工程(S12)のみを実行する場合と比べてせん断強度が大きく向上することが確認された。また、実施例4と比較例4〜6とを比較すると、ブラスト加工工程(S12)及び表面水酸化工程(S14)を実行することによって、表面水酸化工程(S14)のみを実行する場合とに比べてせん断強度が大きく向上することが確認された。
【0093】
なお、比較例1と比較例2,3とを比較すると、ブラスト加工工程(S12)のみを実行することによって、ブラスト加工工程(S12)及び表面水酸化工程(S14)の双方を実行していない場合と比べてせん断強度が多少は向上することが確認された。また、比較例1と比較例4〜6とを比較すると、表面水酸化工程(S14)のみを実行することによって、ブラスト加工工程(S12)及び表面水酸化工程(S14)の双方を実行していない場合と比べてせん断強度が多少は向上することが確認された。
【0094】
これらにより、ブラスト加工工程(S12)及び表面水酸化工程(S14)を組み合わせて実行することで、ブラスト加工工程(S12)のみを実行した場合及び表面水酸化工程(S14)のみを実行した場合の双方におけるせん断強度の向上という効果を活かすことができることが確認された。また、ブラスト加工工程(S12)及び表面水酸化工程(S14)を組み合わせて実行すること(実施例4)による相乗効果として、単にブラスト加工工程(S12)のみを実行した場合(比較例2)のせん断強度と表面水酸化工程(S14)のみを実行した場合(比較例5)のせん断強度とを足し合わせた値より大きなせん断強度が得られることが確認された。
【0095】
また、実施例3と実施例5とを比較、又は比較例2と比較例3とを比較すると、ブラスト加工工程(S12)においてアルミ部材の表面の算術平均傾斜が0.17以上0.50以下の範囲になるようにブラスト加工することによって、せん断強度は大きく向上することが確認された。
【0096】
実施例3と実施例6,7とを比較、又は比較例5と比較例4,6とを比較すると、表面水酸化工程(S14)における加熱温度を140℃以上220 ℃以下の範囲に設定することによってせん断強度が向上することが確認された。さらに、表面水酸化工程(S14)における加熱温度を180 ℃前後に設定することによってせん断強度が大きく向上することが確認された。
【0097】
実施例3と実施例1,2,4とを比較すると、表面水酸化工程(S14)における処理時間を2時間以上24時間以下の範囲に設定することにより、せん断強度が向上することが確認された。さらに表面水酸化工程(S14)における処理時間を6時間前後に設定することにより、せん断強度が大きく向上することが確認された。
【0098】
上述の通り、表面水酸化工程(S14)の加熱温度が140℃以上220 ℃以下となる範囲において、表面水酸化工程(S14)の加熱温度が180 ℃のときに、せん断強度は最も大きい値となり、ピーク値となった。さらに、表面水酸化工程(S14)の処理時間が2時間以上24時間以下となる範囲において、表面水酸化工程(S14)の処理時間が6時間のときに、せん断強度は最も大きい値となり、ピーク値となった。
【0099】
表面水酸化工程(S14)における加熱温度が140℃以上180 ℃以下の場合、表面粗さが増大する傾向であることと同様、せん断強度も増大する。これは、一定の処理時間が経過したときに、アルミ部材の表面(接触層)にアルミニウム水酸化物が多く形成されているため、アルミ部材の表面における凹凸の数が増加していると考えられる。アルミ部材の表面に形成された凹凸の数が増加することでアルミ部材と樹脂部材との間で生じるアンカー効果への寄与が増大するため、加熱温度が140℃以上180 ℃以下の範囲において上昇するにしたがってせん断強度が増大すると考えられる。
【0100】
表面水酸化工程(S14)における加熱温度が180℃以上220 ℃以下の場合、表面粗さが増大する傾向であることに対して、せん断強度は減少する。これは、一定の処理時間が経過したときに、アルミ部材の表面に形成されたアルミニウム水酸化物同士が重なり合って大きくなっているため、アルミ部材の表面における凹凸の数が減少していると考えられる。アルミ部材の表面に形成された凹凸の数が減少することでアルミ部材と樹脂部材との間で生じるアンカー効果への寄与が減少するため、加熱温度が180℃以上220 ℃以下の範囲において上昇するにしたがってせん断強度が減少すると考えられる。このため、140 ℃以上220 ℃以下の加熱温度の範囲において180 ℃前後でせん断強度のピークが現れると考えられる。
【0101】
表面水酸化工程(S14)における処理時間が2時間以上6時間以下の場合、表面粗さが増大する傾向であることと同様、せん断強度も増大する。これは、処理時間の経過に伴い、アルミ部材の表面(接触層)にアルミニウム水酸化物が多く形成されるため、アルミ部材の表面における凹凸の数が増加すると考えられる。アルミ部材の表面に形成された凹凸の数が増加することでアルミ部材と樹脂部材との間で生じるアンカー効果への寄与が増大するため、処理時間が2時間以上6時間以下の範囲において長くなるにしたがってせん断強度が増大すると考えられる。
【0102】
表面水酸化工程(S14)における処理時間が6時間以上24時間以下の場合、表面粗さが増大する傾向であることに対して、せん断強度は減少する。これは、一定の処理時間(ここでは6時間)経過後、アルミ部材の表面に形成されたアルミニウム水酸化物同士が重なり合って大きくなるため、アルミ部材の表面における凹凸の数が減少すると考えられる。アルミ部材の表面に形成された凹凸の数が減少することでアルミ部材と樹脂部材との間で生じるアンカー効果への寄与が減少するため、処理時間が6時間以上24時間以下の範囲において長くなるにしたがってせん断強度が減少すると考えられる。このため、6時間以上24時間以下の処理時間の範囲において6時間前後でせん断強度のピークが現れると考えられる。
【0103】
[耐食性の確認]
実施例8及び比較例7を用意して耐食性を確認した。
【0104】
[実施例8]
実施例8は、実施例4と同一のブラスト加工工程(S12)、表面水酸化工程(S14)、及び接合工程(S16)を実行し、複合部材を形成した。
【0105】
[比較例7]
比較例7は、アルミ部材として、ブラスト加工工程(S12)、表面水酸化工程(S14)を実行していないアルミニウム板(JIS:A5052)を用いた。このアルミ部材とPPS樹脂とを接合させた複合部材を比較例7とした。
【0106】
[耐食性評価]
上記条件で作成された実施例8及び比較例7の耐食性として、NaCl水溶液中を用いて電流密度を測定した。実施例8の複合部材及び比較例7の複合部材を、室温中の5wt%(重量パーセント)濃度のNaCl水溶液に浸漬させ、分極抵抗法により腐食電流密度を算出する。この結果、実施例8の複合部材の腐食電流密度は、比較例7の複合部材の腐食電流密度と比較して約1/100になった。表面水酸化工程(S14)における水蒸気処理において、アルミ部材の表面に不動態の機能を有するアモルファス層が形成されたことで、アルミ部材の表面における電流密度の低下につながったと考えられる。
【0107】
[硬さの確認]
実施例9,10及び比較例8を用意して硬さを確認した。
【0108】
[実施例9,10]
実施例9は、
図3〜
図5に示されるブラスト加工装置を用いてブラスト加工工程(S12)を実行した。アルミ部材は、アルミニウム板(JIS:A5052)を用いた。ブラスト加工には、材料がアルミナ、砥粒中心粒径が106μm〜125μmの噴射材を用いた。ブラスト圧は1.0 MPaとした。このとき、アルミ部材の表面の算術平均傾斜は、0.17以上0.50以下となった。続いて、表面水酸化工程(S14)を実行した。オートクレーブ内に純水を10ml投入し、ブラスト加工されたアルミニウム板を配置して、加熱温度を180℃とし、処理時間を30分とした水蒸気処理をおこなった。続いて、接合工程(S16)を実行した。
図6及び
図7に示される金型20を用いて、アルミ部材2に樹脂部材3を接合させ、複合部材を形成した。樹脂部材3は、PPS(Polyphenylenesulfide)樹脂を用いた。樹脂部材3は、縦、横、厚さが10 mm×45 mm×3.0 mmとなるように設定した。射出成形の保持時(型閉じ時)において、金型温度は220℃、保持圧力は5MPa、保持時間は300 sとした。アルミ部材2と樹脂部材3との重なりは5 mmとした。
【0109】
実施例10は、ブラスト加工工程(S12)及び接合工程(S16)は実施例9と同一とした。実施例10の表面水酸化工程(S14)では、処理時間を60分とし、他の条件を実施例9と同一とした水蒸気処理をおこなった。
【0110】
[比較例8]
比較例8は、アルミ部材として、ブラスト加工工程(S12)、表面水酸化工程(S14)を実行していないアルミニウム板(JIS:A5052)を用いた。このアルミ部材とPPS樹脂とを接合させた複合部材を比較例8とした。
【0111】
[硬さ評価]
上記条件で作成された実施例9,10の複合部材及び比較例8の複合部材の硬さとして、ビッカース硬さ試験(JIS Z 2244/ISO 6507−1)に準拠した硬さ試験を実行してビッカース硬さを測定した。このとき、試験力は0.05kgf/mm
2である。
図17は、アルミ部材のビッカース硬さの測定結果である。
図17に示されるように、実施例9のビッカース硬さは165HV0.05となり、実施例10のビッカース硬さは178HV0.05となり、比較例8のビッカース硬さは80HV0.05となった。この結果から、実施例9,10の各複合部材のビッカース硬さは、比較例8の複合部材のビッカース硬さと比較して約2倍以上になることが確認された。表面水酸化工程(S14)における水蒸気処理において、アルミ部材の表面に析出層が形成されたことで、アルミ部材の表面におけるビッカース硬さの向上につながったと考えられる。