【課題】従来の方法よりも産業廃棄物の埋立処分を大幅に低減させることができる環境配慮型の製造方法であって、有害物質が低減された無機系産業廃棄物再生品の新規な製造方法を提供する。
【解決手段】無機系産業廃棄物再生品の製造方法は、アニオン系有害物質を含む無機系産業廃棄物、カルシウム含有廃棄物、及びセメントを混合して混合体を得ること、並びに前記混合体を固化することを含む。好ましくは、混合体を得る工程において、さらにシリカ系粒子を混合し、シリカ系粒子は、砕石粉であってもよい。好ましくは、混合体を得る工程において、さらに六価クロム還元剤を混合する。好ましくは、混合体を得る工程において、さらにクロム酸塩形成化合物を混合する。好ましくは、混合体を得る工程において、さらにマグネシウム化合物を混合する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本開示は、アニオン系有害物質を含む無機系産業廃棄物、カルシウム含有廃棄物、及びセメントを混合して混合体を得ること、並びに混合体を固化することを含む、無機系産業廃棄物再生品の製造方法に関する。
【0012】
本発明者らは、廃棄物として埋立処理されている石膏ボード、軽量気泡コンクリート等のカルシウム含有廃棄物を、有害な無機系産業廃棄物に対して混合することによって、廃棄物として無害化することができ、生成品として安全に利用できることを見出した。理論に拘束されるものではないが、これは、アニオン系有害物質を含む無機系産業廃棄物とカルシウム含有廃棄物とを混合することによって、アニオン系有害物質とカルシウムとが水に難溶性の化合物を形成するためと考えられる。本開示の方法によれば、共に埋立処理をされていたカルシウム含有廃棄物と無機系産業廃棄物とを再生品として利用できるため、環境負荷を大幅に低減させることができ非常に有利である。
【0013】
本開示の再生品の用途に応じて、本開示の方法は、混合体を得る工程の後に、混合体を成形する工程を含むことができる。また、本開示の再生品が再生砕石、再生砂、再生骨材等の再生石系資材である場合には、混合体を固化する工程の後に、さらに固化した混合体を破砕する工程を含むことができる。固化する工程は、いわゆる養生工程であってもよい。固化する工程において、混合体に水を適用することができる。
【0014】
〈無機系産業廃棄物〉
本開示の方法で使用できる無機系産業廃棄物とは、工場、処理場、発電所等の様々な施設から排出される、主成分を無機物とした産業廃棄物を意味している。
【0015】
無機系産業廃棄物としては、例えば、汚泥、燃焼灰、鉱さい、煤塵等を挙げることができるが、これらに限定されない。これらの中でも特に汚泥又は燃焼灰を挙げることができる。燃焼灰としては、石油・石炭系火力発電所由来の燃焼灰;バイオマス燃料由来の燃焼灰;並びに、石炭、木、木質ぺレット、ヤシ殻(PKS)、古紙及び廃プラスチック類を主原料とした固形燃料(RPF)等由来の燃焼灰を挙げることができる。これらの中でも特に、高い塩基性を有する燃焼灰、例えばバイオマス燃料由来の燃焼灰は、ステンレス製燃焼炉等のクロム含有耐火物燃焼炉から、六価クロムを溶出させることがあり、六価クロム濃度が高くなることがある。また、火力発電所由来の燃焼灰を再利用することは、環境負荷低減のために非常に有用である。
【0016】
無機系産業廃棄物は、水中に溶出し得るアニオン系有害物質を含む。アニオン系有害物質には、例えばフッ素(F
−)、ホウ素(B(OH)
4−)、ヒ素(AsO
42−)、及び六価クロム(CrO
42−)のうちの少なくとも1種が含有される。フッ素(F
−)、ホウ素(B(OH)
4−)、ヒ素(AsO
42−)、及び六価クロムは、それぞれカルシウムと、CaF
2、Ca[B(OH)
4]
2、Ca
3(AsO
4)
2、及びCaCrO
4を形成することができ、これらは水に難溶性の無機塩であるため、再生品から実質的に溶出しない。
【0017】
カルシウム含有廃棄物と混合する前の無機系産業廃棄物は、アニオン系有害物質を土壌溶出量基準値以上で含んでいる場合があり、すなわち無機系産業廃棄物は、フッ素(F
−)を0.80ppm以上含んでいてもよく、ホウ素(B(OH)
4−)を1.0ppm以上含んでいてもよく、ヒ素(AsO
42−)を0.01ppm以上含んでいてもよく、かつ/又は六価クロム(CrO
42−)を0.05ppm以上含んでいてもよい。無機系産業廃棄物は、アニオン系有害物質を土壌溶出量基準値未満で含んでいてもよく、アニオン系有害物質を極めて微量、例えば分析による検出下限値の前後で含んでいてもよい。
【0018】
〈カルシウム含有廃棄物〉
本開示の方法では、カルシウム源としてカルシウム含有廃棄物を使用することができる。カルシウム含有廃棄物とは、上記無機系産業廃棄物とは異なる種類の廃棄物であり、カルシウムを元素比で10質量%以上、15質量%以上、20質量%以上、25質量%以上、30質量%以上又は40質量%以上含む。
【0019】
カルシウム含有廃棄物としては、カルシウムを含む燃え殻、又は建築廃材を挙げることができ、建築廃材としては、石膏(二水石膏)又はコンクリートの廃材を挙げることができ、具体的には石膏ボード又は高温高圧蒸気養生された軽量気泡コンクリート(ALC)の廃材を挙げることができる。燃え殻は、清掃工場等から発生する焼却灰、石炭火力発電所から発生する石炭殻等の灰及び/又は燃えかすであり、土木資材等としての再利用が求められているものである。二水石膏(CaSO
4・H
2O)は、住宅の壁等の建築材料として大量に使用されており、また火力発電所からも副生成物として大量に排出されており、再利用が求められている。ALCは、珪石、セメント、消石灰、アルミニウム粉末等で製造されており、主成分はケイ素及びカルシウムである。ALCは、建築物の外壁等に使用されており、再利用が求められている。
【0020】
カルシウム含有廃棄物は、アニオン系有害物質を土壌溶出量基準値以上で含んでいてもよく、又はアニオン系有害物質を実質的に含有していなくてもよい。例えば、カルシウム含有廃棄物のアニオン系有害物質含有量は、例えば、フッ素(F
−)が0.80ppm未満であってもよく、ホウ素(B(OH)
4−)が1.0ppm未満であってもよく、ヒ素(AsO
42−)が0.01ppm未満であってもよく、かつ/又は六価クロム(CrO
42−)が0.05ppm未満であってもよい。
【0021】
本開示の方法で使用できるカルシウム含有廃棄物の量は、カルシウム含有廃棄物中のカルシウム量及び無機系産業廃棄物中の有害物質の量にもよるが、例えば無機系産業廃棄物100質量部に対して、1質量部以上、3質量部以上、5質量部以上、10質量部以上、又は20質量部以上であってもよく、100質量部以下、70質量部以下、50質量部以下、30質量部以下、又は20質量部以下であってもよい。例えば、カルシウム含有廃棄物の量は、無機系産業廃棄物100質量部に対して、1質量部以上100質量部以下、3質量部以上50質量部以下、又は5質量部以上30質量部以下であってもよい。
【0022】
〈セメント〉
本開示の方法で使用できるセメントは、無機系産業廃棄物とカルシウム含有廃棄物とを固化して再生品として用いることができれば、特にその種類は限定されない。
【0023】
セメントは、有害物質の少なくとも1種を固定化することができる。
図1に、セメントによる、有害物質の固定化のイメージを示す。理論に拘束されるものではないが、セメントは、水と反応することでCaOの内部及び/又は外部に、セメント水和物及びエトリンガイト(3CaO・Al
2O
3・3CaSO
4・32H
2O)を形成し、生成した水和物がその凝集性によって有害物質を取り込み、またのエトリンガイトがイオン交換効果によってアニオン系有害物質を固定し、溶出を抑制するものと考えられる。
【0024】
例えば、本開示に使用できるセメントとしては、ポルトランドセメント(例えば、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメント)、混合セメント(例えば、高炉セメント、フライアッシュセメント、シリカセメント)、アルミナセメント、エコセメント等を挙げることができる。
【0025】
本開示の方法で使用できるセメントの量は、再生品の用途にもよるが、例えば無機系産業廃棄物とカルシウム含有廃棄物の合計100質量部に対して、5質量部以上、10質量部以上、15質量部以上、20質量部以上、又は30質量部以上であってもよく、100質量部以下、70質量部以下、50質量部以下、40質量部以下、又は30質量部以下であってもよい。例えば、セメントの量は、無機系産業廃棄物とカルシウム含有廃棄物の合計100質量部に対して、5質量部以上100質量部以下、10質量部以上50質量部以下、又は15質量部以上40質量部以下であってもよい。
【0026】
〈間隙充填材〉
本開示の方法では、混合体を得る工程において、さらに無機酸化物粒子である間隙充填材を混合することができる。
【0027】
本発明者らの検討によれば、間隙充填材を用いることによって、再生品の強度を高められることが分かった。
図1に、間隙充填材である砕石粉による、再生品の強化イメージを示す。理論に拘束されるものではないが、再生品がセメントによって固化する際に、セメント水和物の隙間に間隙充填材が入り込むことによって、再生品の密度が高まり、再生品が強固になるためと考えられる。また、間隙充填材は、無機酸化物がアニオン系有害物質に対して吸着効果を通常は有するため、アニオン系有害物質の溶出量を低減させることができるため有用である。さらに、間隙充填材は、無機酸化物がセメントの水和反応を通常は促進させ、セメントの構造を緻密化させることができるため、アニオン系有害物質の溶出量を低減させることができるため有用である。
【0028】
間隙充填材は、無機酸化物粒子であり、その種類としては特に限定されないが、例えば、シリカ系粒子、アルミナ系粒子、チタニア系粒子、フェライト系粒子、ジルコニア系粒子、又はそれらの無機酸化物の組み合わせの粒子を挙げることができる。ここで、「系粒子」とは、その物質をモル比で50%以上、70%以上、80%以上、90%以上、又は95%以上含む粒子をいう。
【0029】
間隙充填材の平均粒子径D50は、レーザー回折式粒度分布測定装置(SALD−7000、島津製作所株式会社)で測定した場合に、3000μm以下、1000μm以下、500μm以下、300μm以下、200μm以下、100μm以下、50μm以下、30μm以下、又は20μm以下であってもよく、1μm以上、5μm以上、10μm以上、15μm以上、30μm以上、50μm以上、100μm以上、又は150μm以上であってもよい。例えば、間隙充填材の平均粒子径D50は、1μm以上3000μm以下、5μm以上500μm以下、10μm以上300μm以下であってもよい。
【0030】
本開示の方法で使用できる間隙充填材の量は、再生品の用途にもよるが、例えばセメント100質量部に対して、50質量部以上、100質量部以上、150質量部以上、200質量部以上、又は300質量部以上であってもよく、1000質量部以下、700質量部以下、500質量部以下、400質量部以下、又は300質量部以下であってもよい。例えば、間隙充填材の量は、セメント100質量部に対して、50質量部以上1000質量部以下、100質量部以上500質量部以下、又は150質量部以上400質量部以下であってもよい。
【0031】
シリカ系粒子は、シリカを含む粒子であり、アルミナ等をさらに含むことができる。例えば、シリカ系粒子は、モル比で50%以上の酸化ケイ素を含むことができ、さらに10%以上の酸化アルミニウムを含むことができる。シリカ系粒子は、例えば、SiO
2、NaAlSi
3O
8、またはそれらの組み合わせであることができる。再生品が再生砕石等の再生石系資材である場合には、シリカ系粒子を用いることによって、十分な強度を得られやすくなるため、非常に有用である。また、このようなシリカ系粒子は、アニオン系有害物質に対して吸着効果を通常有しており、シリカ系粒子を含む混合体を固化させることで、その再生品からのアニオン系有害物質の溶出量を低減できる場合があるため有用である。
【0032】
シリカ系粒子としては、好ましくは砕石粉を用いることができる。砕石粉とは、岩石から砕石又は砕砂を製造する際に副産物として発生する非常に細かい石の粉であり、上記のような平均粒子径を有する。砕石粉も、産業廃棄物として多量に処分されており、その経済的負荷及び環境負荷が大きいため、建築資材等として再利用が求められている。
【0033】
特に砕石粉を用いる場合には、シリカ系粒子の平均粒子径D50は、レーザー回折式粒度分布測定装置(SALD−7000、島津製作所株式会社)で測定した場合に、100μm以下、50μm以下、30μm以下、又は20μm以下であってもよく、1μm以上、5μm以上、10μm以上、又は15μm以上であってもよい。例えば、その平均粒子径D50は、1μm以上100μm以下、5μm以上50μm以下、又は10μm以上30μm以下であってもよい。
【0034】
また、シリカ系粒子として、ガラス粒子を用いることができる。また、ガラス粒子として、廃ガラス、例えば太陽光パネル用ガラス由来の粒子を用いることができる。廃ガラスも、産業廃棄物として多量に処分されており、その経済的負荷及び環境負荷が大きいため、建築資材等として再利用が求められている。特に、太陽光パネル用ガラスは、今後、大量に廃棄されることが見込まれており、これを有用な再生品に再生することは産業上非常に有利である。一方で、廃ガラスには、ナトリウムが多く含まれる場合があるため、ナトリウムが問題となる場合には、廃ガラス粒子の使用量を限定的にすることができる。
【0035】
太陽光パネル用ガラスを用いる場合、太陽光パネルからアルミフレーム、発電に必要な太陽電池部分等を取り除いたカバーガラスを用いることができる。このカバーガラスを使用して、ボールミル等の粉砕手段によって粉砕し、それをふるい分け等で分級することによって、所望の粒径の廃ガラス粒子を得ることができる。ボールミルのためのボールは、高い硬度を有することが好ましく、例えばジルコニアボール、アルミナボール等を挙げることができる。
【0036】
特にガラス粒子を用いる場合には、ガラス粒子の平均粒子径D50は、レーザー回折式粒度分布測定装置(SALD−7000、島津製作所株式会社)で測定した場合に、3000μm以下、2000μm以下、1000μm以下、500μm以下、300μm以下、又は200μm以下であってもよく、10μm以上、50μm以上、100μm以上、150μm以上、又は200μm以上であってもよい。例えば、その平均粒子径D50は、10μm以上3000μm以下、50μm以上2000μm以下、100μm以上1000μm以下であってもよい。ガラス粒子には、ケイ酸塩成分を多く含み、これがカルシウムと反応することがあるが、ガラス粒子の粒径がこのような範囲であれば、カルシウムとの反応は最終の再生品に影響を与えないため好適である。また、ガラス粒子の粒径がこのような範囲であれば、再生品の強度を非常に高くすることができる。
【0037】
アルミナ系粒子も間隙充填材として好適に使用することができる。アルミナ系粒子を添加することで、セメントの早期水和反応を起こし、モノカーボネートの生成を促すことができると考えられる。また、粒径が小さいアルミナ系粒子であるほど、反応が早く進行してセメントの構造が緻密化し、それによりアニオン系有害物質の溶出が抑制されると考えられる。特に、アニオン系有害物質として特にフッ素を除去したい場合には、アルミナ系粒子を用いることが有用である事が分かった。
【0038】
アルミナ系粒子の平均粒子径D50は、レーザー回折式粒度分布測定装置(SALD−7000、島津製作所株式会社)で測定した場合に、500μm以下、300μm以下、100μm以下、50μm以下、30μm以下、又は20μm以下であってもよく、0.1μm以上、0.5μm以上、1μm以上、5μm以上、10μm以上、又は15μm以上であってもよい。例えば、その平均粒子径D50は、0.1μm以上500μm以下、0.5μm以上300μm以下、又は1μm以上30μm以下であってもよい。
【0039】
〈六価クロム還元剤〉
本開示の方法では、混合体を得る工程において、さらに六価クロムを三価クロムに還元する六価クロム還元剤を混合することができる。六価クロムを三価クロムに還元すれば、三価クロムは基本的に無害であり、またセメント中及び/又は他の材料(例えば二水石膏)中に含まれる硫酸イオンと、水に難溶性の硫酸塩を形成するため、非常に有利である。
【0040】
六価クロム還元剤としては、二価鉄化合物を挙げることとができ、例えば水酸化鉄(II)、塩化鉄(II)、フッ化鉄(II)、臭化鉄(II)、硫酸鉄(II)、硝酸鉄(II)、乳酸鉄(II)、クエン酸第一鉄ナトリウム、グルコン酸第一鉄、ピロリン酸第一鉄、フマル酸第一鉄等を挙げることができる。このような還元剤を用いた場合、六価クロムを三価クロムに還元でき、及び/又は無機系産業廃棄物の塩基性が特に高い場合であっても、カルシウムの炭酸化を抑制し、六価クロムをクロム酸カルシウムにしての再生品への固定が容易となる。
【0041】
本開示の方法で使用できる六価クロム還元剤の量は、無機系産業廃棄物等に含まれる六価クロムの量にもよるが、例えば無機系産業廃棄物とカルシウム含有廃棄物の合計100質量部に対して、0.1質量部以上、0.3質量部以上、0.5質量部以上、1質量部以上、3質量部以上、又は5質量部以上であってもよく、30質量部以下、20質量部以下、10質量部以下、5質量部以下、又は3質量部以下であってもよい。例えば、六価クロム還元剤の量は、無機系産業廃棄物とカルシウム含有廃棄物の合計100質量部に対して、0.1質量部以上30質量部以下、0.3質量部以上10質量部以下、又は0.5質量部以上5質量部以下であってもよい。
【0042】
〈クロム酸塩形成化合物〉
本開示の方法では、混合体を得る工程において、さらに六価クロムと反応して水に不溶性のクロム酸塩を形成する、クロム酸塩形成化合物を混合することができる。このような化合物は、得られた再生品から六価クロムを溶出させないようにするため、非常に有用である。なお、本明細書において、水に不溶性であるとは、20℃の水100グラムに、3.0グラム以下、1.0グラム以下、又は0.1グラム以下で溶解することをいう。
【0043】
本発明者らの検討によれば、無機系産業廃棄物等に多量の六価クロムを含む場合、及び/又は無機系産業廃棄物等の塩基性が特に高い場合であっても、クロム酸塩形成化合物を用いれば、その溶出量を大幅に低減できることを見出した。例えば、無機系産業廃棄物が、バイオマス燃料由来の燃焼灰である場合には、塩基性が高く、かつ/又は多量の六価クロムを含む場合があるため、クロム酸塩形成化合物を用いることが非常に有利である。
【0044】
そのようなクロム酸塩形成化合物としては、クロム酸バリウム(BaCrO
4)を形成するバリウム化合物、例えば水酸化バリウム、塩化バリウム、フッ化バリウム、臭化バリウム、硫酸バリウム、硝酸バリウム等;クロム酸亜鉛(ZnCrO
4)を形成する亜鉛化合物、例えば水酸化亜鉛、塩化亜鉛、フッ化亜鉛、臭化亜鉛、硫酸亜鉛、硝酸亜鉛等;クロム酸銅(CuCrO
4)を形成する銅化合物、例えば水酸化銅、塩化銅、フッ化銅、臭化銅、硫酸銅、硝酸銅等;クロム酸鉛(PbCrO
4)を形成する鉛化合物、例えば水酸化鉛、塩化鉛、硝酸鉛等を挙げることができる。
【0045】
クロム酸塩形成化合物の量は、無機系産業廃棄物等に含まれる六価クロムの量及び混合体に含まれる硫酸イオンの量にもよるが、例えば無機系産業廃棄物とカルシウム含有廃棄物の合計100質量部に対して、0.1質量部以上、0.3質量部以上、0.5質量部以上、1質量部以上、又は3質量部以上であってもよく、20質量部以下、15質量部以下、10質量部以下、5質量部以下、又は3質量部以下であってもよい。例えば、クロム酸塩形成化合物の量は、無機系産業廃棄物とカルシウム含有廃棄物の合計100質量部に対して、0.1質量部以上20質量部以下、0.3質量部以上15質量部以下、又は0.5質量部以上10質量部以下であってもよい。クロム酸塩形成化合物は、クロム酸塩だけではなく、硫酸塩も生成することがあり、その場合、クロム酸塩よりも硫酸塩の方が優先して生成する場合があるため、その点も考慮して、添加量を決めることができる。
【0046】
〈マグネシウム化合物〉
本開示の方法では、混合体を得る工程において、さらにマグネシウム化合物を混合することができる。カルシウムが、アニオン系有害物質と、水に難溶性の無機塩を形成した後でも、水及び/又は空気に長期間暴露されると、炭酸カルシウムが生成して、アニオン系有害物質が溶出してくるおそれがあるが、マグネシウムは、カルシウムより炭酸化しやすく、自らが炭酸マグネシウムとなることによってカルシウムが炭酸カルシウムとなることを防止することができる。したがって、マグネシウム化合物を用いることによって、カルシウムによるアニオン系有害物質の無害化効果を長期間維持させることができる。
【0047】
そのようなマグネシウム化合物としては、酸化マグネシウム、硫化マグネシウム、過酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、塩化マグネシウム、臭化マグネシウム、硫酸マグネシウム、硝酸マグネシウム等をあげることができる。
【0048】
マグネシウム化合物の量は、無機系産業廃棄物等に含まれる六価クロムの量にもよるが、例えば無機系産業廃棄物とカルシウム含有廃棄物の合計100質量部に対して、0.1質量部以上、0.3質量部以上、0.5質量部以上、1質量部以上、又は3質量部以上であってもよく、20質量部以下、15質量部以下、10質量部以下、5質量部以下、又は3質量部以下であってもよい。例えば、マグネシウム化合物の量は、無機系産業廃棄物とカルシウム含有廃棄物の合計100質量部に対して、0.1質量部以上20質量部以下、0.3質量部以上15質量部以下、又は0.5質量部以上10質量部以下であってもよい。
【0049】
〈用途〉
本開示の方法によって得られる再生品としては、例えば、再生砕石、再生砂、再生骨材等の再生石系資材を挙げることができる。その他にも、本開示の方法によって得られる再生品としては、インターロッキングブロックを挙げることができる。この中でも特に、本開示の再生品が、再生砕石等の再生石系資材であり、空気及び/又は雨水に接触しにくい箇所に用いる場合に有効である。本開示の再生品を、例えば土木工事の盛土材、道路下層路盤等の空気及び/又は雨水に接触しにくい箇所に用いる場合には、強度を高くすることができ、かつアニオン系有害物質を長期間にわたって溶出しない状態を維持できるため、特に有用である。
【実施例】
【0050】
実験1:バイオマス燃焼灰中のアニオン系有害物質の溶出抑制検討
100mlのポリエチレンボトルに、バイオマス燃料由来の燃焼灰と、平均粒子径D50が19.7μmの砕石粉と、ポルトランドセメントと、軽量気泡コンクリート(ALC)と、二水石膏とを表1に記載の量で混合した。また、この混合体に、アニオン系有害物質(すなわち、フッ素(F)、ホウ素(B)、ヒ素(As)、及びクロム(Cr)の塩)を、各例において同量添加して混合した。この混合体を、30分撹拌した後、混合体をシャーレに移して、48時間自然乾燥させた。
【0051】
その乾燥した混合体8グラムと水80グラムとを、100mlのポリエチレンボトルに入れて6時間振盪し、その後、3000rpmで20分間遠心分離をして、上澄み液を採取した。この上澄み液を、5Cろ紙でろ過した後、さらに0.20μmメンブレンフィルターでろ過した。そのろ液について、フッ素(F)については、イオンクロマトグラフィーで測定し、ホウ素(B)及びクロム(Cr)については、ICP―MSで測定し、ヒ素(As)については原子吸光光度計で測定することで、溶出量を定量した。測定は、JIS K 0102に準じて行った。また、水のpHも測定した。
【0052】
結果を、以下の表1に示す。また、
図2〜
図5に各有害物質の溶出量についての参考例1及び実施例1〜3による比較を示す。なお、
図2〜
図5中の点線は、各有害物質の環境基準値を示している。
【0053】
【表1】
【0054】
図2及び
図3から分かるように、フッ素(F)及びホウ素(B)については、燃焼灰、砕石粉、セメント、ALC及び/又は二水石膏を添加するだけで十分な溶出抑制効果が得られ、これらの溶出量を環境基準値以下にまで抑制できた。
【0055】
図4から分かるように、ヒ素(As)については、燃焼灰、砕石粉、セメント、ALC及び/又は二水石膏を添加するだけで溶出抑制効果が得られたが、その溶出量を環境基準値以下にまでは抑制できなかった。
【0056】
図5から分かるように、クロム(Cr)については、これらを用いても溶出量は低減できなかった。
【0057】
実験2:六価クロム還元剤を用いた燃焼灰中のクロムの溶出抑制検討
六価クロム還元剤として塩化第一鉄・4水和物(FeCl
2)を加え、かつ各成分を表2の量で混合したこと以外は、実験1と同様にして、三価クロム(Cr(III))の溶出量、六価クロム(Cr(VI))の溶出量、及び全クロム(Cr)の溶出量がどのように変化するかを検討した。なお、全クロムの溶出量は、ICP−MSによって測定し、六価クロムの溶出量は、分光光度計(パックテスト・マルチSP)を用いて測定した。三価クロムの溶出量は、全クロムの溶出量と六価クロムの溶出量との差分とした。
【0058】
結果を、以下の表2に示す。また、
図6及び
図7に、クロム溶出量の参考例2〜3及び実施例4〜9の比較を示す。
【表2】
【0059】
図6及び
図7から分かるように、六価クロム還元剤の塩化第一鉄を用いることによって、セメント及びカルシウム含有廃棄物のみでは溶出量を低減できなかった六価クロムについて、その溶出量を大幅に低減することができた。これは、Fe
2+は自身がFe
3+に酸化されるとともに六価クロムが三価クロムに還元されて、三価クロムがSO
42−と、水に難溶性の塩を形成し、溶出が抑えられたと考えられる。三価クロムの溶出濃度に変化は無いのは、六価クロムが還元された分だけSO
42−と反応しているためであると考えられる。
【0060】
実験3:クロム酸塩形成化合物として塩化バリウムを用いた燃焼灰中のアニオン系有害物質の溶出抑制検討
マグネシウム化合物として酸化マグネシウム(MgO)と、クロム酸塩形成化合物として塩化バリウム・2水和物(BaCl
2)を加え、かつ各成分を表3の量で混合したこと以外は、実験1と同様にして、アニオン系有害物質の溶出量がどのように変化するかを検討した。
【0061】
結果を、以下の表3に示す。また、
図8〜11に各有害物質の溶出量についての実施例10〜15による比較を示す。
【0062】
【表3】
【0063】
図8及び
図9から分かるように、フッ素(F)及びホウ素(B)については、燃焼灰、砕石粉、セメント、ALC、及び二水石膏に加えて、酸化マグネシウム及び塩化バリウムを添加しても、十分な溶出抑制効果が得られ、これらの溶出量を環境基準値以下にまで抑制できた。
【0064】
図10から分かるように、ヒ素(As)については、燃焼灰、砕石粉、セメント、ALC、及び二水石膏に加えて、酸化マグネシウム及び塩化バリウムを添加することによって、十分な溶出抑制効果が得られた。特に、塩化バリウムの量を増やすことによって、その溶出量を環境基準値以下にまで抑制できた。これは、バリウムとヒ素が、水に難溶性の塩であるBa
3(AsO
4)
2を生成するため、塩化バリウムの量が多いほうが、溶出抑制に効いたためと考えられる。
【0065】
図11から分かるように、クロム(Cr)については、クロム酸塩形成化合物である塩化バリウムを用いることによって、クロムの溶出量を大幅に低減することができた。また、塩化バリウムの量を増やすことによって、クロムの溶出は、ほぼ検出されなくなった。これは、水に難溶性の塩であるBaCrO
4を生成したためであると考えられる。
【0066】
実験4:様々なクロム酸塩形成化合物を用いた燃焼灰中のクロムの溶出抑制検討
クロム酸塩形成化合物として様々な物質を表4に記載の量で混合したこと、及びアニオン系有害物質を添加しなかったこと以外は、実験1と同様にして、クロム(Cr)の総溶出量がどのように変化するかを検討した。
【0067】
結果を、以下の表4に示す。また、
図12に、クロム溶出量についての実施例16〜20の比較を示す。
【表4】
【0068】
図12から分かるように、様々なクロム酸塩形成化合物を用いてクロム溶出量を低減させることができた。これらの中では、バリウムの効果が最も高かった。亜鉛(Zn)、銅(Cu)、及び鉛(Pb)の中では、亜鉛(Zn)の効果が最も高かった。これは、水に難溶性の塩であるZnCrO
4を生成するためであると考えられる。塩化バリウムと塩化亜鉛とでは、塩化亜鉛の方がコスト的には有利であるため、塩化亜鉛も非常に有利である。
【0069】
実験5:間隙充填材としてアルミナ粒子を用いたアニオン系有害物質の溶出抑制検討
間隙充填材である砕石粉の代わりに、平均粒子径D50が粒径2μm、20μm及び200μmの3種類のアルミナ粒子を準備した。これらは、実質的に単一の粒度分布及び組成を有していた。
【0070】
100mlのポリエチレンボトルに、各アルミナ粒子7グラムを入れ、アニオン系有害物質としてフッ素(F)塩を、溶出試験後に最大10ppm溶出するように滴下した。そこに、ポルトランドセメント3グラムと、カルシウム源(Ca(OH)
2)と、マグネシウム化合物(MgCl
2)と、六価クロム還元剤(FeSO
4)とを混合した。この混合体を、30分撹拌した後、混合体をシャーレに移して、48時間自然乾燥させた。
【0071】
その後、溶出試験を、工場排水試験法JIS K 0102に従って行い、フッ素(F)濃度をイオンクロマトグラフィーで測定した。
【0072】
その結果、用いたアルミナ粒子の粒径が小さいものの方が、高い溶出抑制効果を示した。アルミナ粒子の添加は、セメント内で早期水和反応を起こし、モノカーボネートの生成を促す。アルミナ粒子の粒径が小さく反応性の高いものほど、その反応が進行し、セメントの構造が緻密化することで溶出が抑制されたと考えられる。また、粒径が与える影響以外に、アニオン系有害物質及びマグネシウム化合物、六価クロム還元剤等の試薬との反応性も関係することが明らかとなった。アルミナ粒子の場合、フッ素と反応性を示し、吸着によると思われる溶出低減効果が認められた。
【0073】
実験6:間隙充填材として廃ガラス粒子を用いたアニオン系有害物質の溶出抑制検討
間隙充填材として、太陽光パネルガラスなどの廃ガラスについても検討を行った。ここでは、結晶系太陽電池の表面にあるカバーガラス(白板強化ガラス)を用いた。この太陽電池のガラス面については、JIS規格が決められており、227グラム、直径38mmの鋼球を1mの高さから落下させても、対角100mm当たり2mmのねじりを加えても著しい異常が無いこと及び電気的性能を満足することが規定されている。また、このガラスは、割れた場合に3〜5mm角のクモの巣状に割れるが、粉々にはならない性質を有している。このガラスは、板ガラスを約650〜700℃まで加熱した後、ガラス表面に空気を吹きつけ、急激に冷やすことにより表面に圧縮応力層ができ、内部との密度差により応力場が形成されており、粉砕には工夫が必要となる。
【0074】
そこで、太陽光パネルからアルミフレーム、発電に必要な太陽電池部分等を取り除いたカバーガラスを大まかに割った3mm角程度のパネルガラスを、ボールミルによって粉砕した。粉砕の際には、廃ガラス90グラムに対してジルコニアボール1800グラムを加え、60分間粉砕した。その後、ふるいで0.2〜1mmの粒径の廃ガラス粒子と0.2mm以下の廃ガラス粒子に分けた。なお、ジルコニアボールを、鉄球に変えた場合には、鉄球表面が削れてしまい、得られた粉体が灰色となり不適であった。なお、ジルコニアボールを、アルミナボールに変えた場合には、ジルコニアボールよりも長時間掛ける必要があるものの、粉砕は可能であった。
【0075】
100mlのポリエチレンボトルに、砕石粉又は廃ガラス粒子と、ポルトランドセメントと、カルシウム源(Ca(OH)
2)と、マグネシウム化合物(MgCl
2)と、六価クロム還元剤(FeSO
4)又はクロム酸塩形成化合物(BaCl
2)とを表5に記載の量で混合した。また、この混合体に、アニオン系有害物質(すなわち、フッ素(F)、ホウ素(B)、ヒ素(As)、及びクロム(Cr)の塩)を、各例において同量添加して混合した。この混合体を、30分撹拌した後、混合体をシャーレに移して、48時間自然乾燥させた。
【0076】
その乾燥した混合体5グラムと水50グラムとを、100mlのポリエチレンボトルに入れて6時間振盪し、その後、3000rpmで20分間遠心分離をして、上澄み液を採取した。この上澄み液を、5Cろ紙でろ過した後、さらに0.20μmメンブレンフィルターでろ過した。そのろ液について、フッ素(F)については、イオンクロマトグラフィーで測定し、ホウ素(B)及びクロム(Cr)については、ICP―MSで測定し、ヒ素(As)については原子吸光光度計で測定することで、溶出量を定量した。測定は、工業排水試験法についてのJIS K 0102に準じて行った。また、水のpHも測定した。
【0077】
結果を、以下の表5に示す。また、
図13に各有害物質の溶出量についての参考例4〜9による比較を示す。
【0078】
【表5】
【0079】
表5及び
図13から分かるように、廃ガラス粒子は、砕石粉と同様の効果を有している。一方で、砕石粉の平均粒径は20μm程度であり、廃ガラス粒子の粒径はそれよりも大きい粒子も含まれているため、全く同等であるとまではいえない。
【0080】
廃ガラス粒子を用いた例において、ヒ素及びホウ素の溶出濃度がやや高くなっている理由としては、砕石粉には溶出抑制効果を示すカルシウムも比較的多く含まれているの対して、廃ガラスは、そのケイ酸成分がカルシウムと反応するためと考えられる。この前提に基づけば、廃ガラス粒子は粒径が小さいほどカルシウムとの反応性が高くなるため、大きめのサイズ(例えば、粒径0.2〜1mm)の廃ガラス粒子が望ましいと考えられる。