【解決手段】検出対象物質と結合する識別物質と、前記識別物質の電荷を帯電する電極と、を備え、検出対象物質がグルコースであり、識別物質がフェニルボロン酸誘導体であり、非検出対象物質が識別物質又は電極の少なくとも一方に付着することを抑制する阻害物質を有し、検出対象物質が識別物質に結合することにより生じる電極の電荷密度の変化を検出するバイオセンサであり、当該バイオセンサを備えた非侵襲的に体液を採取する複合センサである。
前記電極が、前記電界効果トランジスタから離れて配置されており、前記ゲート絶縁膜上に設けた金属電極と配線を介して電気的に接続されていることを特徴とする請求項9記載のバイオセンサ。
【発明を実施するための形態】
【0012】
1.第1実施形態
(1−1)全体構成
図1に示すバイオセンサ10は、識別部12Aと、検出部としての電界効果トランジスタ(FET:Field Effect Transistor)14とを備える。バイオセンサ10は、識別部12Aにおいて試料中に含まれる検出対象物質としてのグルコースを識別し、識別された情報をFET14において電気的な信号に変換することにより、試料中のグルコース濃度を検出する。ここで試料とは、非侵襲的に採取した試料、すなわち血液以外の生体液として、汗、涙、唾液、間質液を挙げることができる。これら試料には、検出対象物質としてのグルコースのほか、非検出対象物質としてのアルブミン等のタンパク質が含まれている。
【0013】
識別部12Aは、電極16と、電極16上に設けられた受容体20Aとを備える。実施形態の場合、識別部12Aは、電極16の一側表面上に円筒状の壁部を設けて容器18が形成されており、当該容器18内に識別物質及び阻害物質が収容されている。電極16は、Auにより形成される。また、電極16は、Auに代えてAgまたはCuにより形成される。受容体20Aは、識別物質と、阻害物質とを含む自己組織化単分子膜(Self-Assembled Monolayers:SAM)で形成されている。SAMとは、通常、固体と液体の界面又は固体と気体の界面で、有機分子同士が自発的に集合して、自発的に単分子膜を形作っていく有機薄膜をいう。
【0014】
識別物質は、試料中に含まれるグルコースと結合する機能を有する。識別物質は、フェニルボロン酸を用いることができ、特にフェニルボロン酸誘導体が好ましい。このフェニルボロン酸誘導体は、同フェニルボロン酸の芳香環部分に、F(フッ素)、Cl(塩素)等のハロゲン基を有する。または、同フェニルボロン酸の芳香環部分に、NO
2(ニトロ基)を有する。これらの修飾基は
図2等において「−X」として示される。
【0015】
フェニルボロン酸誘導体の芳香環部分にハロゲン基またはニトロ基が存在すると、当該官能基の陰性に起因して、フェニルボロン酸の電子の安定性が変化する。そこで、−B(OH)
2部分と、グルコースとの結合の親和性が高まると想定される。後述するように、ニトロ基を有するフェニルボロン酸誘導体(3−ニトロフェニルボロン酸)のグルコースとの反応性は顕著である。
【0016】
阻害物質は、非検出対象物質であるアルブミン等のタンパク質が、フェニルボロン酸誘導体と結合したり、電極16表面に付着したりすることを抑制する。本実施形態の場合、阻害物質は、高分子化合物で形成される。高分子化合物は、分子鎖が識別物質より長いオリゴエチレングリコールを用いることができるほか、例えばポリエチレングリコールなども用いることができる。
【0017】
図2に示すように、識別物質38と阻害物質39とは、一方の末端が電極16の一側表面に吸着してSAMsを形成している。識別物質38と阻害物質39は、チオール基(−SH)、ジスルフィド基(−S−S−)を導入し、チオール、ジスルフィドの誘導体とする。このようなチオールやジスルフィドの誘導体は、Au、Ag、Cu等の金属表面に高密度な薄膜を形成することができる。例えば、チオール基が導入されたフェニルボロン酸誘導体は、Au−Sのような強い結合を形成する。識別物質38は、他方の末端において、グルコースと結合する。阻害物質39は他方の末端において非検出対象物質と特異的に結合する。
【0018】
FET14は、半導体基板22の表面に形成されたソース24及びドレイン26と、半導体基板22、ソース24及びドレイン26上に形成されたゲート絶縁膜28とを備える(
図1参照)。FET14は、n−MOS、p−MOSのいずれも使用することができる。ゲート絶縁膜28上には、金属電極30が形成されている。金属電極30は、配線31を介して、電極16と電気的に接続されている。金属電極30は、Au、Ag、Cu等により形成される。
【0019】
半導体基板22は、Si、Ga、As、ITO、IGZO、IZO等により形成され、あるいは、有機半導体、炭素半導体(例えば、カーボンナノチューブ、グラフェン半導体、ダイヤモンド半導体等)等により形成される。ゲート絶縁膜28は、SiO
2、Si
3N
4(SiN
x)、Ta
2O
5、Al
2O
3等の酸化物または窒化物により形成される。
【0020】
ソース24とドレイン26は、電源34及び電流計36が電気的に接続されており、ソース24からドレイン26へ流れるドレイン電流を計測するように形成されている。ゲート絶縁膜28上の電荷密度が変化すると、ドレイン電流の大きさが変化する。すなわちドレイン電流を一定に保つためには、ゲート絶縁膜28上の電荷密度の変化に伴いゲート電圧を変化させる必要がある。FET14は、このゲート電圧の変化を計測することにより、ゲート絶縁膜28上の電荷密度の変化を電気的に計測する。
【0021】
図1の開示においては、必要により参照電極32が用いられる。参照電極32は、FET14における基準電位となる電極16であり、識別部12Aにおいて識別物質38と電気的に接続される。
【0022】
(1−2)製造方法
図2に示す識別部12Aは、一例として、以下の手順により製造することができる。まず、スパッタリング装置を用いてガラス基板上にCr、Auの順に堆積され、電極16が形成される。次いでガラス等で形成された円筒状の壁部は電極16上にエポキシ樹脂により固定される。その後、内部は硫酸と過酸化水素の混合溶液により洗浄処理され、純水、エタノールの順に洗浄される。
【0023】
次に、1mMのオリゴエチレングリコール(Hydroxy - EG6 - undecanethiol)を含むエタノール溶媒と、1mMの4−メルカプトフェニルボロン酸誘導体を含むエタノール溶媒とを9:1の比率で混合した混合液は容器18に収容される。この状態で所定時間保持することにより、オリゴエチレングリコールとフェニルボロン酸誘導体が電極16表面に化学吸着して自己組織化単分子膜が形成される。最後に混合液は除去され、エタノール、純水の順に容器18内は洗浄される。このようにして識別部12Aは製造される。
【0024】
(1−3)作用及び効果
上記のように構成されたバイオセンサ10において、まず、識別部12Aに試料が加えられる(
図2参照)。試料に含まれるグルコース40は、受容体20Aの下方へ到達し、識別物質38(フェニルボロン酸誘導体)と結合する。これにより識別物質38は、負電荷を生じる。当該負電荷は、電極16表面に帯電する。一方、試料に含まれるアルブミン等のタンパク質42は、阻害物質39と結合し、受容体20Aの下方、すなわち識別物質38、電極16表面まで到達することが抑制される。
【0025】
電極16はFET14の金属電極30と電気的に接続されており、電極16表面に負電荷が帯電することにより、ゲート絶縁膜28上の電荷密度が変化する。FET14は、ゲート絶縁膜28上の電荷密度の変化に伴うゲート電圧の変化を計測する。これによりバイオセンサ10は、試料に含まれるグルコース濃度を検出することができる。
【0026】
なお、タンパク質42は、負電荷を有しているので、識別物質38と結合したり、電極16表面に付着したりすることにより、電極16表面に帯電する負電荷を増加させてしまう。これにより従来のバイオセンサでは、測定感度が著しく低下するという問題があった。
【0027】
本実施形態の場合、バイオセンサ10は、受容体20Aに含まれる阻害物質39によって、タンパク質42が識別物質38や電極16表面に到達することを抑制することとした。これによりバイオセンサ10は、タンパク質42が識別物質38と結合したり、電極16表面に付着したりすることを抑制できるので、電極16に不要な負電荷が帯電することを抑制することができる。したがってバイオセンサ10は、より測定感度を向上することができるので、非侵襲的に人体から採取した試料に基づきグルコース濃度をより確実に測定することができる。
【0028】
(1−4)フェニルボロン酸誘導体ごとのグルコースとの反応性の関係
図2に示した識別部を備えたバイオセンサを、上記「(1−2)製造方法」に示した手順で製造した。識別部は、識別物質としてフェニルボロン酸のみと、3種類のフェニルボロン酸誘導体を用いた。フェニルボロン酸誘導体は、3−フルオロフェニルボロン酸、3−クロロフェニルボロン酸、3−ニトロフェニルボロン酸とした。阻害物質としてオリゴエチレングリコールを用いた。そして、識別部にアルブミンを含む試料を入れ、さらにグルコース濃度を徐々に変えた時の結合の強度を測定した。
【0029】
試料は、pH7.4とし、4g/Lのアルブミンを含むリン酸緩衝生理食塩水(PBS:Phosphate buffered saline)を用意し、これにグルコースを0mMないし20mMの範囲でグルコース濃度を段階的に高くした。その結果は
図3のグラフである。
図3において横軸はグルコース濃度(μM)を示し、縦軸は結合の強度(ΔV
out(mV))を示す。ΔV
outについては、次の式(1)により算出した。また、各識別物質の性質も以下に示す。項目は、K
a(μM)、V
max(mV)、相関係数R2、グルコース濃度[Glu]である。
【0030】
ΔV
out=〔ΔV
max[Glu]〕/〔(1/K
a)+[Glu]〕…式(1)
【0031】
・フェニルボロン酸(
図3の(i))
K
a:193, V
max:202, R2:0.865
・3−フルオロフェニルボロン酸(
図3の(ii))
K
a:685, V
max:163, R2:0.950
・3−クロロフェニルボロン酸(
図3の(iii))
K
a:758, V
max:197, R2:0.945
・3−ニトロフェニルボロン酸(
図3の(iv))
K
a:1517, V
max:314, R2:0.986
【0032】
図3の結果から、フェニルボロン酸よりも、ハロゲン基を有するフェニルボロン酸誘導体の方がグルコースとの結合力が高い。さらに、ニトロ基を有するフェニルボロン酸誘導体が最も強力な結合力を示した。従って、識別物質として、ニトロ基を有するフェニルボロン酸誘導体が最良であることが確認できる。
【0033】
図3の結果より、3−ニトロフェニルボロン酸がグルコースとの結合に最良であることを踏まえ、アミノ基−オキシエチレングリコール−SAM(NH
2/OEG−SAM)と、3−ニトロフェニルボロン酸−オキシエチレングリコール−SAM(NO
2PBA/OEG−SAM)を調製し、Au電極の表面に形成した(
図2参照)。そこで、グルコースの濃度を0mMから20mMへ、20mMから0mMへと変化させた際の電位変化を計測した。
【0034】
図4は双方の結果のグラフであり、図中、NH
2/OEG−SAMは(v)、NO
2PBA/OEG−SAMは(vi)である。横軸は時間(秒)、縦軸は電圧(mV)である。
図4のグラフから、NO
2PBA/OEG−SAMのみがグルコース濃度に依存して電圧変化を生じさせている。従って、3−ニトロフェニルボロン酸がグルコースとの結合に最良であり、実際に電極に形成した際にも良好な結果を示すことが確認された。
【0035】
2.第2実施形態
図2との対応部分に同様の符号を付した
図5を参照して、第2実施形態に係る識別部12Bについて説明する。本実施形態に係る識別部12Bは、識別物質38が電極16の一側表面に固定されていない点が第1実施形態と異なる。
【0036】
(2−1)識別部の構成
識別部12Bに収容された受容体20Bは、識別物質38が阻害物質41と結合した共重合体として形成されている。本実施形態の場合、受容体20Bには、さらに分解促進剤、架橋剤が含まれる。
【0037】
阻害物質41は、親水性ポリマーで形成されている。親水性ポリマーとは親水性の官能基(水酸基、カルボキシル基)を有するポリマーであり、ハイドロゲル、紙、高吸水性ポリマー(SAP:Superabsorbent Polymer)等である。本実施形態の場合、阻害物質41には、ハイドロゲルが用いられる。
【0038】
ハイドロゲルは、親水性高分子鎖間が架橋されて多量の水を保持し、吸水性に優れるゲル状材料であり、例えば、ポリヒドロキシエチルメタクリレート(Poly−HEMA、ポリメタクリル酸2−ヒドロキシエチルとも称する。)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリビニルアルコール(PVA)等が挙げられる。Poly−HEMAは、ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)のホモポリマーであってもよく、他のモノマー(例えば、2,3−ジヒドロキシプロピルメタクリレート、グリセロールメタクリレート(GMA)等)とのコポリマーであってもよい。なお、Poly−HEMAは、コポリマーとした方がより含水率が高くなる傾向にある。また、PVPとしては、N−ビニル−2−ピロリドン(NVP)のホモポリマーであってもよく、NVPを主成分として、HEMA、メチルメタクリレート(MMA)等と架橋剤を加えて重合したコポリマーであってもよい。
【0039】
紙は、植物繊維その他の繊維を膠着させて製造される。植物繊維は、セルロース、ヘミセルロース、リグニンから構成される。セルロースは、多数有する水酸基同士が水素結合により結合する性質を有しており、これにより紙を構成する植物繊維同士がくっつき合う。また、その他の繊維としては、鉱物、金属、合成樹脂等を繊維状にしたもの等が挙げられるが、識別物質38をより強固に固定するという観点から、植物繊維(セルロース)で形成された紙が好ましい。
【0040】
SAPは、自重の数百倍から数千倍までの水を吸収及び保持することができる高分子である。SAPには、アクリル酸の重合体が用いられる。アクリル酸の重合体は、カルボキシル基を多数有するため、親水性が高い。さらにアクリル酸の重合体は、細目構造に架橋させ、ナトリウム塩の形態とすると高い吸水性のゲルとなる。
【0041】
その他の親水性ポリマーとしては、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC−Na)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)などのセルロース誘導体;アルギン酸、ヒアルロン酸、アガロース、デンプン、デキストラン、プルラン等の多糖類及びその誘導体;カルボキシビニルポリマー、ポリエチレンオキサイド、ポリ(メタ)アクリルアミド、ポリ(メタ)アクリル酸等のホモポリマー、当該ホモポリマーと多糖類等との共重合体、及び当該ホモポリマーを構成するモノマーと他のモノマーとの共重合体;コラーゲン、ゼラチン等のタンパク質及びその誘導体;ヘパリン、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、デキストラン硫酸、ケラタン硫酸、ヘパラン硫酸等のグリコサミノグリカン、キチン、キトサン等の多糖類、ムコ多糖類を挙げることができる。
【0042】
さらには、1−ビニル−2−ピロリジノン、プロペノン酸2−メチルエステル、モノメタクリロイルオキシエチルフタレート、アンモニウムスルファトエチルメタクリレート、N−ビニルピロリドン、N,N−ジメチルアクリルアミド、2−(メタクリロイルオキシエチル)−2−(トリメチルアンモニオエチル)ホスフェート等の親水性ポリマーを用いてもよい。上記例示した親水性ポリマーは、単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0043】
重合開始剤として、公知のラジカル重合促進剤が適時選択して用いられる。好ましくは水溶性または水分散性を有し、系全体に均一に含まれるものが好ましく用いられる。具体的には、重合開始剤として、水溶性の過酸化物、例えばペルオキソ二硫酸カリウム、ペルオキソ二硫酸アンモニウム、水溶性のアゾ化合物、例えばVA−044、V−50、V−501(いずれも富士フイルム和光純薬株式会社製)の他、Fe
2+と過酸化水素との混合物等を用いることができる。
【0044】
架橋剤として、N,N’−メチレンビスアクリルアミド、エチレングリコールジメタクリレート、メタクリル酸ビニル等が用いられる。
【0045】
(2−2)製造方法
図5に示す識別部12Bは、以下の手順により製造することができる。まず、4−ビニルフェニルボロン酸誘導体0.15g、ヒドロキシエチルメタクリレート1.0g、N−(3−ジメチルアミノプロピル)メタクリルアミド0.5g、架橋剤としてN,N’−メチレンビスアクリルアミドを0.05g用意し、6.7重量%アクリル酸ナトリウム水溶液(pH7.3)6.0gを超純水にて全量10gとし容器18内において混合し、溶解する。その後、重合開始剤としてテトラメチルエチレンジアミンを25μL、ペルオキソ二硫酸カリウム7.5mgを加え、重合を開始する。この状態で、窒素雰囲気下、室温にて2時間保持する。重合反応終了後、生成された共重合体を含む溶液を超純水に浸漬し、未反応成分を除去することにより、識別物質38と阻害物質41を共重合体させた受容体20Bを得ることができる。このようにして識別部12Bを製造することができる。
【0046】
(2−3)作用及び効果
識別部12Bでは、阻害物質である親水性ポリマーがその周囲に水分子を吸着させており溶媒親和性が高い。そのため、グルコースは水分子を介して親水性ポリマーと接触するため吸着されることなく溶媒中に溶け込む。これにより、試料に含まれるグルコースは受容体20B中のフェニルボロン酸誘導体と結合することにより、負電荷が生じ、電極16に帯電する。したがって識別部12Bは、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0047】
また、本実施形態の受容体20Bは、識別物質38が親水性ポリマーで形成された阻害物質41と結合し、共重合体を形成している。親水性ポリマーはその周囲に水分子を吸着させており溶媒親和性が高い。そのため、タンパク質は水分子を介して親水性ポリマーと接触するため吸着されることなく溶媒中に溶け込む。これにより識別部12Bは、阻害物質41によって試料に含まれるタンパク質が識別物質38と結合したり、電極16表面に付着したりすることを遮るので、より測定感度は向上する。従って、バイオセンサは、非侵襲的に人体から採取した試料に基づきグルコース濃度をより確実に測定することができる。
【0048】
(2−4)変形例
図5との対応部分に同様の符号を付した
図6を参照して、第2実施形態の変形例に係る識別部12Cについて説明する。本実施形態に係る識別部12Cは、識別物質38が担体44に担持されている点において第2実施形態と異なる。
【0049】
受容体20Cは、担体44と、担体44に担持された識別物質38と、阻害物質41とを備え、識別物質38が阻害物質41と結合した共重合体で形成されている。
【0050】
担体44は、導電性粒子、非導電性粒子を用いることができる。導電性粒子は、金属粒子、例えばAu,Pt,Ag,Cu等の粒子、非金属粒子、例えば酸化インジウムスズ(ITO:Indium Tin Oxide)、導電性ポリマー等の粒子を用いることができる。また、非導電性粒子は、例えばSiO
2等の粒子を用いることができる。例えば、識別物質としてのフェニルボロン酸誘導体にチオール基(−SH)、ジスルフィド基(−S−S−)を導入し、チオール、ジスルフィドの誘導体とすることにより、Au粒子の表面にフェニルボロン酸を担持することができる。
【0051】
受容体20Cを製造する手順について説明する。具体的には、まず金ナノコロイド溶液(5nm径)9mLと10mMの4−メルカプトフェニルボロン酸誘導体(シグマアルドリッチ社製)/エタノール溶液を1mL混合させ、24時間、25℃にて静置させることでフェニルボロン酸誘導体−金ナノ粒子溶液を調製する。次にヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)1.0gと、上記フェニルボロン酸誘導体−金ナノ粒子溶液5gと、N−3−(ジメチルアミノ)プロピルメタクリルアミド0.5gと、6.7重量%アクリル酸ナトリウム水溶液(pH7.3)3gと、N,N’−メチレンビスアクリルアミド0.05gとを混合し超純水で全量が10gになるように調製する。その後、重合開始剤としてペルオキソ二硫酸カリウム5mg、テトラメチレンジアミン5μL加えることで重合は開始する。この状態で、窒素雰囲気下、室温にて2時間保持する。重合反応終了後、生成された共重合体を含む溶液を超純水に浸漬し、未反応成分を除去することにより、識別物質38と阻害物質41を共重合体させた受容体20Cを得ることができる。このようにして識別部12Cは製造される。
【0052】
担体44に担持された識別物質38の一部は、
図7に示すように、阻害物質41と結合し(図中、符号45)、共重合体を形成している。そして担体44に担持された残りの識別物質38は、試料に含まれるグルコース40と結合する。試料に含まれるグルコース40は識別物質38と結合することにより、負電荷が生じ、電極16に帯電するので、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0053】
本変形例に係る識別部12Cでは、識別物質38は親水性ポリマーで形成された阻害物質41と結合し、共重合体を形成している。このため、試料に含まれるタンパク質が識別物質38と結合したり、電極16表面に付着したりすることは遮られる。従って、本変形例の識別部12Cでも、第2実施形態と同様の効果を得ることができる。さらに、本変形例の識別部12Cは、識別物質38を担体44に担持することとしたから、特に紙にも容易に識別物質38を固定することができる。
【0054】
3.第3実施形態
図2との対応部分に同様の符号を付した
図8を参照して、第3実施形態の識別部12Dについて説明する。識別部12Dは、識別物質38上に阻害物質が層状に形成されている点が、第1実施形態と異なる。
【0055】
受容体20Dは、識別物質38で形成された薄膜46と、当該薄膜46上に形成され阻害物質で形成された阻害物質層47とを備える。
【0056】
薄膜46は、識別物質38の一方の末端が電極16の一側表面に吸着して形成されたSAMsである。阻害物質層47は、ハイドロゲル、SAP等からなる親水性ポリマーで形成されている。本実施形態の場合、阻害物質層47は、ヒドロキシエチルメタクリレートにより形成されている。
【0057】
薄膜46は、第1実施形態の「(1−2)製造方法」に示した手順と同様に自己組織化単分子膜を形成することにより作製することができる。具体的には、1mMの4−メルカプトフェニルボロン酸の誘導体/エタノール溶液に金基板を24時間、25℃下にて浸漬させることで自己組織化単分子膜は作製される。
【0058】
阻害物質層47は、以下の手順で作製する。ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)1.0gと、N−3−(ジメチルアミノ)プロピルメタクリルアミド0.5gと、6.7重量%アクリル酸ナトリウム水溶液(pH7.3)6gと、N,N’−メチレンビスアクリルアミド0.05gとを混合し超純水で全量が10gになるように調整する。その後、重合開始剤としてペルオキソ二硫酸カリウム5mg、テトラメチレンジアミン5μL加えることで重合は開始する。この状態は、窒素雰囲気下、室温にて2時間保持される。重合反応終了後、生成された共重合体を含む溶液は超純水に浸漬され、未反応成分は除去されて阻害物質層47は製造される。
【0059】
最後に識別物質38で形成された薄膜46上に、ヒドロキシエチルメタクリレートで形成された阻害物質層47は重ねられ、識別部12Dは製造される。
【0060】
識別部12Dでは、阻害物質である親水性ポリマーがその周囲に水分子を吸着させ溶媒親和性が高い。そのため、グルコース40は、水分子を介して親水性ポリマーと接触するため吸着されることなく溶媒中に溶け込む。これによりグルコース40が識別物質38と結合することにより、負電荷が生じ、電極16に帯電する。したがって識別部12Dは、上記第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0061】
本実施形態に係る受容体20Dでは、電極16上に形成された識別物質38の薄膜46が阻害物質層47により覆われている。阻害物質層47を形成する親水性ポリマーはその周囲に水分子を吸着させ溶媒親和性が高い。そのため、タンパク質は水分子を介して親水性ポリマーと接触するため吸着されることなく溶媒中に溶け込む。これにより識別部12Dは、阻害物質層47によって試料に含まれるタンパク質42が識別物質38と結合したり、電極16表面に付着したりすることを遮る。そこで、より測定感度を向上することができる。従って、バイオセンサは非侵襲的に人体から採取した試料に基づきグルコース濃度をより確実に測定することができる。
【0062】
(変形例)
開示の第3実施形態では、阻害物質層が1層である場合について説明したが、本発明はこれにかぎらず、分子量が異なる親水性ポリマーで形成した阻害物質層を2層以上形成してもよい。
【0063】
4.変形例
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨の範囲内で適宜変更することが可能である。例えば各実施形態の場合、検出部は、FETである場合について説明したが、本発明はこれに限らず、フォトダイオード、光電子倍増間等の受光素子、サーミスタ、水晶振動子マイクロバランス(QCM:Quartz Crystal Microbalance)、表面プラズモン共鳴を利用した素子等を使用することもできる。
【0064】
また、識別部と検出部は配線で電気的に接続されている場合について説明したが、本発明はこれに限らず、識別部と検出部を一体に形成することとしてもよい。すなわち、検出部としてのFETのゲート絶縁膜上に直接電極を形成することとしてもよい。
【0065】
5.複合センサへの展開
これまでに図示し詳述した第1、第2、第3実施形態のバイオセンサにおける識別部12A,12B,12C,12Dは、主にグルコースを検出対象物質とする血糖値等の糖(グルコース)の量を検出するためのバイオセンサである。そこで、生体試料(汗等)に溶解しているグルコースを基準に血中のアドレナリン量(濃度)を推定することが可能である。すなわち、グルコース量を測定するバイオセンサであるとともに、測定により得られたグルコース量から、アドレナリン等の生体内分泌成分を推定する複合センサとして構成することが可能である。
【0066】
グルコースが結合したグリコーゲンは肝臓にて合成、蓄積される。副腎髄質から分泌されるホルモンの一種の「アドレナリン」の作用により、肝臓においてグリコーゲンはグルコースに分解される。そこで、筋肉等の活動に際してグリコーゲンから分解されたグルコースが供給されて血糖値が上昇、維持される。このことから、血液、汗に含まれる糖(グルコース)の量を利用してアドレナリンの量が推定できれば、生体活動、筋肉の動きの良否も間接的に把握可能と考えられる。
【0067】
具体的に、次の第1応用形態(
図9)、第2応用形態(
図10)、第3応用形態(
図11)として複合センサは構成される。なお、
図9、10、11において、これまでに述べた検出対象物質(グルコース)と識別物質(フェニルボロン酸誘導体)との結合態様の構成について重複するため省略している。
【0068】
(第1応用形態)
図9は第1応用形態の複合センサ100(他項目生体分子計測器)の主要部構成の概略図である。複合センサ100は所定の容器形状の検出素子101を備え、同検出素子101は計測素子110と配線接続される。検出素子101には体液採取部109が形成される。体液採取部109は公知のニードル形状であり、表面張力により皮膚表面の汗、唾液等の生体液102は採取され検出素子101内に誘導される。
【0069】
検出素子101内には、酸化還元電位測定電極106、参照電極107(
図1の参照電極32に相当)が装着されている。酸化還元電位測定電極106には、検出対象物質としてグルコース103を捕捉するためのグルコース捕捉分子108(フェニルボロン酸誘導体)が固定される。生体液102は汗、唾液等であることから、検出対象物質としてのグルコース103の他に、酸化還元電位変動因子104、夾雑物105も存在する。酸化還元電位変動因子104、夾雑物105は、タンパク質、ごみ等である。なお、複合センサ100においても、グルコース以外の物質も酸化還元電位測定電極106を通じて検出するようにしても良い。これには、検出対象物質を捕捉する抗体、アプタマーが捕捉分子108として用いられる。
【0070】
第1応用形態の複合センサ100(他項目生体分子計測器)にあっては、計測素子110を第1、第2、第3実施形態のバイオセンサに開示の電気化学デバイスが用いられる。さらに、電気化学デバイスに代えて光学デバイスを用いることができる。光学デバイスの場合、酸化還元電位測定電極106における変位量を光量の変化として検出できる。
【0071】
第1応用形態の複合センサ100の計測素子110には、マイクロコンピュータ等の演算機器(図示せず)が実装されていてもよい。グルコースの濃度とアドレナリンの濃度の間には相関性が見られる。このため、生体内のアドレナリン濃度は、複合センサ100において検出されたグルコース濃度からマイクロコンピュータ等による演算を通じて推定される。
【0072】
(第2応用形態)
図10は第2応用形態の複合センサ200(他項目生体分子計測器)の主要部構成の概略図である。複合センサ200は所定の容器形状の検出素子201を備え、同検出素子201は計測素子210と配線接続される。検出素子201には体液採取部209が形成される。体液採取部209は公知のニードル形状であり、表面張力により皮膚表面の汗、唾液等の生体液202は採取され検出素子201内に誘導される。
【0073】
検出素子201内には、酸化還元電位測定電極206、参照電極207(
図1の参照電極32に相当)が装着されている。酸化還元電位測定電極206には、検出対象物質としてグルコース203を捕捉するためのグルコース捕捉分子208(フェニルボロン酸誘導体)が固定される。生体液202は汗、唾液等であることから、検出対象物質としてのグルコース203の他に、タンパク質、ごみ等の酸化還元電位変動因子204、夾雑物205も存在する。なお、複合センサ200においても、グルコース以外の物質も酸化還元電位測定電極206を通じて検出するようにしても良い。これには、検出対象物質を捕捉する抗体、アプタマーが捕捉分子208として用いられる。
【0074】
第2応用形態の複合センサ200(他項目生体分子計測器)にあっては、計測素子210は、グルコース203の酸化還元電位測定電極206と、参照電極207との電位差を測定する構成である。そこで、電圧の変化からグルコースの量が推定される。
【0075】
第2応用形態の複合センサ200の計測素子210にも、マイクロコンピュータ等の演算機器(図示せず)が実装されていてもよい。生体内のアドレナリン濃度は、複合センサ200において検出されたグルコース濃度からマイクロコンピュータ等による演算を通じて推定される。
【0076】
(第3応用形態)
図11は第3応用形態の複合センサ300(他項目生体分子計測器)の主要部構成の概略図である。複合センサ300は所定の容器形状の検出素子301を備え、同検出素子301は計測素子311と配線接続される。検出素子301には体液採取部310が形成される。体液採取部310は公知のニードル形状であり、表面張力により皮膚表面の汗、唾液等の生体液302は採取され検出素子301内に誘導される。
【0077】
検出素子301内には、酸化還元電位測定電極306、参照電極307(
図1の参照電極32に相当)、対電極308が装着されている。酸化還元電位測定電極306には、検出対象物質としてグルコース303を捕捉するためのグルコース捕捉分子309(フェニルボロン酸誘導体)が固定される。生体液302は汗、唾液等であることから、検出対象物質としてのグルコース303の他に、タンパク質、ごみ等の酸化還元電位変動因子304、夾雑物305も存在する。なお、複合センサ300においても、グルコース以外の物質も酸化還元電位測定電極309を通じて検出するようにしても良い。これには、検出対象物質を捕捉する抗体、アプタマーが捕捉分子309として用いられる。
【0078】
第3応用形態の複合センサ300(他項目生体分子計測器)にあっては、計測素子211は、グルコース303の酸化還元電位測定電極306について、参照電極307と対電極308を通じて電流量の変化が計測される構成である。そこで、電流の変化からグルコースの量が推定される。
【0079】
第3応用形態の複合センサ300の計測素子311にも、マイクロコンピュータ等の演算機器(図示せず)が実装されていてもよい。生体内のアドレナリン濃度は、複合センサ300において検出されたグルコース濃度からマイクロコンピュータ等による演算を通じて推定される。
【0080】
第1ないし第3応用形態の複合センサ100,200,300は、1回の皮膚接触等を通じて生体液を分取してグルコースの量を計測し体調を予測することができる。特に、採血を必要とせずに非侵襲による採取のため、頻繁な生体液の採取に都合が良い。そのため、日常生活、運動中を問わず、一定時間毎の採取も可能である。従って、計測頻度は高められ、複合センサは体調の正確な予測に大きく貢献する。